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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014146
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】モータ駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/04 20060101AFI20240125BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
H02P23/04
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116769
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 敬介
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 賢哉
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB02
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE49
5H505HA03
5H505HA05
5H505HA10
5H505HB02
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ29
5H505KK06
5H505LL05
5H505LL22
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】基本波となる正弦波を信号波とする場合に比べて、損失が低減するモータ駆動システムを提供する。
【解決手段】このモータ駆動システム1は、永久磁石同期モータ5を駆動する三相のPWM駆動電圧を出力する三相インバータ部2と、この三相インバータ部2を制御するモータ制御部4とを備える。このモータ制御部4は、基本正弦波g(t)に5次高調波を重畳した信号波h(t)(=m・sin(2πft)+n・sin(2π・5ft+φ))と、キャリア波との交点でパルス幅を切り替えてPWMドライブ信号を生成して、三相インバータ部2に供給しPWM駆動電圧を出力させる。このモータ駆動システム1は、信号波h(t)の重畳率n/mの上限は、磁気特性の変化で基本波電流If1の低減し始めるn/mの値であり、重畳率n/mの下限は、基本波電流If1の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値で動作する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータでモータを駆動するモータ駆動システムであって、
基本正弦波g(t)に高調波を重畳した信号波h(t)とキャリア波の交点で前記インバータ内の半導体のスイッチング動作において、
前記基本正弦波g(t)がg(t)=m・sin(2πft)であり、
前記信号波h(t)がh(t)=m・sin(2πft)+n・sin(2π・5ft+φ)であり、
n/mの上限が、磁気特性の変化で基本波電流の低減し始めるn/mの値、
n/mの下限が、前記基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値、
で動作することを特徴とするモータ駆動システム。
【請求項2】
n/mが-0.3より大きくかつ0未満で動作することを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動システム。
【請求項3】
前記基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの前記基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、前記信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ)の数値以上となる前記高調波の初期位相φで動作することを特徴とする請求項1または2に記載のモータ駆動システム。
【請求項4】
前記高調波の初期位相φの最大位相角が、前記磁気特性の変化で前記基本波電流の低減し始める前記初期位相φの値、
前記初期位相φの最小位相角が、前記基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる前記初期位相φの値、
で動作することを特徴とする請求項1または2に記載のモータ駆動システム。
【請求項5】
インバータでモータを駆動するモータ駆動システムであって、
基本正弦波g(t)に高調波を重畳した信号波h(t)とキャリア波の交点で前記インバータ内の半導体のスイッチング動作において、
前記基本正弦波g(t)がg(t)=m・sin(2πft)であり、
前記信号波h(t)がh(t)=m・sin(2πft)+n・sin(2π・aft+φ)であり、
aは、5以上の整数であり、
n/mの上限が、磁気特性の変化で基本波電流の低減し始めるn/mの値、
n/mの下限が、前記基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値、
で動作することを特徴とするモータ駆動システム。
【請求項6】
n/mが-0.3より大きくかつ0未満で動作することを特徴とする請求項5に記載のモータ駆動システム。
【請求項7】
前記基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの前記基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、前記信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(a・π/2+φ)の数値以上となる前記高調波の初期位相φで動作することを特徴とする請求項5または6に記載のモータ駆動システム。
【請求項8】
前記高調波の初期位相φの最大位相角が、前記磁気特性の変化で前記基本波電流の低減し始める前記初期位相φの値、
前記初期位相φの最小位相角が、前記基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる前記初期位相φの値、
で動作することを特徴とする請求項5または6に記載のモータ駆動システム。
【請求項9】
同期モータを駆動するパルス幅変調駆動電圧を出力するインバータ部と、前記パルス幅変調駆動電圧を形成するように前記インバータ部を制御するモータ制御部とを備えるモータ駆動システムであって、
モータ制御部は、
前記パルス幅変調駆動電圧の基本周波数を規定する基本正弦波に該基本正弦波の5次高調波を重畳した信号波と、キャリア波との交点でパルス幅を切り替えて前記パルス幅変調駆動電圧を形成するPWMドライブ信号を生成して、該PWMドライブ信号を前記インバータ部のスイッチング素子入力部に供給する構成になっており、
前記基本正弦波の周波数を基本正弦波周波数fとするとき、前記信号波h(t)をh(t)=m・sin(2πft)+n・sin(2π・5ft+φ)として、前記基本正弦波の変調率mに対する初期位相φの前記5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値が、前記同期モータの鉄心材料で形成されたリング試料に巻回された一次コイルに前記信号波h(t)を用いたパルス幅変調電圧を前記重畳率n/mを変化させて印加して、前記一次コイルに流れる一次電流と前記リング試料に巻回された二次コイルに発生する二次電圧とを測定するリング試験により決定されるようになっており、
前記重畳率n/mの上限値が、
前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記一次電流の前記基本正弦波周波数fの成分である基本波電流が下回る範囲の上限となる前記重畳率n/m、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて、前記一次電流と前記二次電圧とに基づいて算出される所定の損失が下回る範囲の上限となる前記重畳率n/mとして決定され、
前記重畳率n/mの下限値が、
前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記基本波電流の低減量に比べて、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする、前記一次電流の前記基本正弦波周波数fの高調波成分である高調波電流の増加量が下回る範囲の下限となる前記重畳率n/m、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の下限となる前記重畳率n/mとして決定されることを特徴とするモータ駆動システム。
【請求項10】
前記5次高調波の前記初期位相φの最大位相角と最小位相角が、前記初期位相φを変化させて前記パルス幅変調電圧を前記一次コイルに印加する前記リング試験によって決定されるようになっており、
前記最大位相角は、
前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記基本波電流が下回る範囲の最大値となる前記初期位相φ、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の最大値となる前記初期位相φとして決定され、
前記最小位相角は、
前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記基本波電流の低減量に比べて、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記高調波電流の増加量が下回る範囲の最小値となる前記初期位相φ、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の最小値となる前記初期位相φとして決定されることを特徴とする請求項9に記載のモータ駆動システム。
【請求項11】
同期モータを駆動するパルス幅変調駆動電圧を出力するインバータ部と、前記パルス幅変調駆動電圧を形成するように前記インバータ部を制御するモータ制御部とを備えるモータ駆動システムであって、
モータ制御部は、
前記パルス幅変調駆動電圧の基本周波数を規定する基本正弦波に該基本正弦波の5次高調波を重畳した信号波と、キャリア波との交点でパルス幅を切り替えて前記パルス幅変調駆動電圧を形成するPWMドライブ信号を生成して、該PWMドライブ信号を前記インバータ部のスイッチング素子入力部に供給する構成になっており、
前記基本正弦波の周波数を基本正弦波周波数fとするとき、前記信号波h(t)をh(t)=m・sin(2πft)+n・sin(2π・5ft+φ)として、前記基本正弦波の変調率mに対する初期位相φの前記5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値が、前記信号波h(t)を用いた前記パルス幅変調駆動電圧により前記重畳率n/mを変化させて前記同期モータを回転駆動させ、前記インバータ部への入力電力、前記同期モータ各相の入力電力若しくは前記同期モータ各相の入力電流の内の少なくとも何れかを測定するモータ試験により決定されるようになっており、
前記重畳率n/mの上限値は、
前記入力電流から算出される前記基本正弦波周波数fの成分である基本波電流が、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも下回る範囲の上限となる前記重畳率n/m、または、前記インバータ部への入力電力、前記同期モータ各相の入力電力若しくは前記同期モータ各相の入力電流の内の少なくとも何れかに基づいて算出される所定の損失が前記5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて下回る範囲の上限となる前記重畳率n/mとして決定され、
前記重畳率n/mの下限値は、
前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記基本波電流の低減量に比べて、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする、前記入力電流の前記基本正弦波周波数fの高調波成分である高調波電流の増加量が下回る範囲の下限となる前記重畳率n/m、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の下限となる前記重畳率n/mとして決定されることを特徴とするモータ駆動システム。
【請求項12】
前記5次高調波の前記初期位相φの最大位相角と最小位相角が、前記初期位相φを変化させて前記パルス幅変調駆動電圧により前記同期モータを回転駆動させる前記モータ試験により決定されるようになっており、
前記最大位相角は、
前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記基本波電流が下回る範囲の最大値となる前記初期位相φ、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の最大値となる前記初期位相φとして決定され、
前記最小位相角は、
前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記基本波電流の低減量に比べて、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記高調波電流の増加量が下回る範囲の最小値となる前記初期位相φ、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の最小値となる前記初期位相φとして決定されることを特徴とする請求項11に記載のモータ駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、同期モータをパルス幅変調制御方式で駆動するモータ駆動システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高効率を示す同期モータは、広く用いられており、特に、永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)は、電気自動車、エアコン、冷蔵庫などの省エネ・高性能モータとして実用化が進み、技術が進展している。同期モータの駆動には、インバータ回路から供給されるパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)電圧が入力され制御されるPWM制御方式が採用されることが多い。PWM電圧を出力するインバータ回路には、PWM電圧を形成するためのPWMドライブ信号が入力される。このPWMドライブ信号は、信号波(変調波)を正弦波信号、キャリア波(搬送波)を三角波信号として、信号波とキャリア波との交点がエッジとなるようにパルス幅を決定することが行われる。このPWMドライブ信号の生成の方法にも様々な提案がなされており、例えば、下記特許文献1には、基本波となる正弦波信号にその高調波成分を加算して重畳した波形を信号波として用い、その信号波とキャリア波との交点に基づいてパルス幅を決定する方法が開示されている。このPWM信号の生成方法によれば、モータ出力容量が大きく、かつ低振動、低騒音で同期モータを駆動できる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-135100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法のように、信号波に高調波成分を付加すると、その高調波成分による実効値の増加が起こり、一般的には損失の増加が想定される。線形特性の範囲内であればその想定通りであるが、モータコアに使用される磁性材料のように磁気的非線形性を持つ場合、高調波を重畳することによって損失が低減する可能性も期待される。
【0005】
そこで、本発明の課題は、基本波となる正弦波を信号波とする場合に比べて、損失が低減するモータ駆動システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、インバータでモータを駆動するモータ駆動システムであって、基本正弦波g(t)に高調波を重畳した信号波h(t)とキャリア波の交点で前記インバータ内の半導体のスイッチング動作において、前記基本正弦波g(t)がg(t)=m・sin(2πft)であり、前記信号波h(t)がh(t)=m・sin(2πft)+n・sin(2π・5ft+φ)であり、n/mの上限が、磁気特性の変化で基本波電流の低減し始めるn/mの値、n/mの下限が、前記基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値、で動作することを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構成に加えて、n/mが-0.3より大きくかつ0未満で動作することを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の構成に加えて、前記基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの前記基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、前記信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ)の数値以上となる前記高調波の初期位相φで動作することを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載の構成に加えて、前記高調波の初期位相φの最大位相角が、前記磁気特性の変化で前記基本波電流の低減し始める前記初期位相φの値、前記初期位相φの最小位相角が、前記基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる前記初期位相φの値、で動作することを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、インバータでモータを駆動するモータ駆動システムであって、基本正弦波g(t)に高調波を重畳した信号波h(t)とキャリア波の交点で前記インバータ内の半導体のスイッチング動作において、前記基本正弦波g(t)がg(t)=m・sin(2πft)であり、前記信号波h(t)がh(t)=m・sin(2πft)+n・sin(2π・aft+φ)であり、aは、5以上の整数であり、n/mの上限が、磁気特性の変化で基本波電流の低減し始めるn/mの値、n/mの下限が、前記基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値、で動作することを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の構成に加えて、n/mが-0.3より大きくかつ0未満で動作することを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項5または6に記載の構成に加えて、前記基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの前記基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、前記信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(a・π/2+φ)の数値以上となる前記高調波の初期位相φで動作することを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項5または6に記載の構成に加えて、前記高調波の初期位相φの最大位相角が、前記磁気特性の変化で前記基本波電流の低減し始める前記初期位相φの値、前記初期位相φの最小位相角が、前記基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる前記初期位相φの値、で動作することを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、同期モータを駆動するパルス幅変調駆動電圧を出力するインバータ部と、前記パルス幅変調駆動電圧を形成するように前記インバータ部を制御するモータ制御部とを備えるモータ駆動システムであって、モータ制御部は、前記パルス幅変調駆動電圧の基本周波数を規定する基本正弦波に該基本正弦波の5次高調波を重畳した信号波と、キャリア波との交点でパルス幅を切り替えて前記パルス幅変調駆動電圧を形成するPWMドライブ信号を生成して、該PWMドライブ信号を前記インバータ部のスイッチング素子入力部に供給する構成になっており、前記基本正弦波の周波数を基本正弦波周波数fとするとき、前記信号波h(t)をh(t)=m・sin(2πft)+n・sin(2π・5ft+φ)として、前記基本正弦波の変調率mに対する初期位相φの前記5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値が、前記同期モータの鉄心材料で形成されたリング試料に巻回された一次コイルに前記信号波h(t)を用いたパルス幅変調電圧を前記重畳率n/mを変化させて印加して、前記一次コイルに流れる一次電流と前記リング試料に巻回された二次コイルに発生する二次電圧とを測定するリング試験により決定されるようになっており、前記重畳率n/mの上限値が、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記一次電流の前記基本正弦波周波数fの成分である基本波電流が下回る範囲の上限となる前記重畳率n/m、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて、前記一次電流と前記二次電圧とに基づいて算出される所定の損失が下回る範囲の上限となる前記重畳率n/mとして決定され、前記重畳率n/mの下限値が、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記基本波電流の低減量に比べて、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする、前記一次電流の前記基本正弦波周波数fの高調波成分である高調波電流の増加量が下回る範囲の下限となる前記重畳率n/m、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の下限となる前記重畳率n/mとして決定されることを特徴とする。
【0015】
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の構成に加えて、前記5次高調波の前記初期位相φの最大位相角と最小位相角が、前記初期位相φを変化させて前記パルス幅変調電圧を前記一次コイルに印加する前記リング試験によって決定されるようになっており、前記最大位相角は、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記基本波電流が下回る範囲の最大値となる前記初期位相φ、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の最大値となる前記初期位相φとして決定され、前記最小位相角は、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記基本波電流の低減量に比べて、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記高調波電流の増加量が下回る範囲の最小値となる前記初期位相φ、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の最小値となる前記初期位相φとして決定されることを特徴とする。
【0016】
請求項11に記載の発明は、同期モータを駆動するパルス幅変調駆動電圧を出力するインバータ部と、前記パルス幅変調駆動電圧を形成するように前記インバータ部を制御するモータ制御部とを備えるモータ駆動システムであって、モータ制御部は、前記パルス幅変調駆動電圧の基本周波数を規定する基本正弦波に該基本正弦波の5次高調波を重畳した信号波と、キャリア波との交点でパルス幅を切り替えて前記パルス幅変調駆動電圧を形成するPWMドライブ信号を生成して、該PWMドライブ信号を前記インバータ部のスイッチング素子入力部に供給する構成になっており、前記基本正弦波の周波数を基本正弦波周波数fとするとき、前記信号波h(t)をh(t)=m・sin(2πft)+n・sin(2π・5ft+φ)として、前記基本正弦波の変調率mに対する初期位相φの前記5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値が、前記信号波h(t)を用いた前記パルス幅変調駆動電圧により前記重畳率n/mを変化させて前記同期モータを回転駆動させ、前記インバータ部への入力電力、前記同期モータ各相の入力電力若しくは前記同期モータ各相の入力電流の内の少なくとも何れかを測定するモータ試験により決定されるようになっており、前記重畳率n/mの上限値は、前記入力電流から算出される前記基本正弦波周波数fの成分である基本波電流が、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも下回る範囲の上限となる前記重畳率n/m、または、前記インバータ部への入力電力、前記同期モータ各相の入力電力若しくは前記同期モータ各相の入力電流の内の少なくとも何れかに基づいて算出される所定の損失が前記5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて下回る範囲の上限となる前記重畳率n/mとして決定され、前記重畳率n/mの下限値は、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記基本波電流の低減量に比べて、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする、前記入力電流の前記基本正弦波周波数fの高調波成分である高調波電流の増加量が下回る範囲の下限となる前記重畳率n/m、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の下限となる前記重畳率n/mとして決定されることを特徴とする。
【0017】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載の構成に加えて、前記5次高調波の前記初期位相φの最大位相角と最小位相角が、前記初期位相φを変化させて前記パルス幅変調駆動電圧により前記同期モータを回転駆動させる前記モータ試験により決定されるようになっており、前記最大位相角は、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記基本波電流が下回る範囲の最大値となる前記初期位相φ、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の最大値となる前記初期位相φとして決定され、前記最小位相角は、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記基本波電流の低減量に比べて、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする前記高調波電流の増加量が下回る範囲の最小値となる前記初期位相φ、または、前記5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも前記所定の損失が下回る範囲の最小値となる前記初期位相φとして決定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、信号波に5次高調波が重畳され、重畳率n/mの上限が磁気特性の変化で基本波電流の低減し始めるn/mの値であり、n/mの下限が基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値であるように動作する。このようになっているため、基本正弦波を信号波として用いる場合に比べて、モータ駆動システムの損失を低減できる。
【0019】
請求項2の発明によれば、重畳率n/mが-0.3より大きくかつ0未満の範囲で動作するため、安定してモータ駆動システムの損失を低減できる。
【0020】
請求項3の発明によれば、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアン(rad)のときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ)の数値以上となる高調波の初期位相φで動作する。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システムの損失を低減できる。
【0021】
請求項4の発明によれば、高調波の初期位相φの最大位相角が、磁気特性の変化で基本波電流の低減し始める初期位相φの値、初期位相φの最小位相角が、基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる初期位相φの値、で動作する。このようになっているため、基本正弦波を信号波として用いる場合に比べて、モータ駆動システムの損失を低減できる。
【0022】
請求項5の発明によれば、信号波に5次以上のa次高調波が重畳され、重畳率n/mの上限が磁気特性の変化で基本波電流の低減し始めるn/mの値であり、n/mの下限が基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値であるように動作する。このようになっているため、基本正弦波を信号波として用いる場合に比べて、モータ駆動システムの損失を低減できる。
【0023】
請求項6の発明によれば、重畳率n/mが-0.3より大きくかつ0未満の範囲で動作するため、安定して損失を低減できる。
【0024】
請求項7の発明によれば、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(a・π/2+φ)の数値以上となる高調波の初期位相φで動作する。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0025】
請求項8の発明によれば、高調波の初期位相φの最大位相角が、磁気特性の変化で基本波電流の低減し始める初期位相φの値、初期位相φの最小位相角が、基本波電流の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる初期位相φの値、で動作する。このようになっているため、基本正弦波を信号波として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0026】
請求項9の発明によれば、信号波を構成する基本正弦波の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値がリング試験により決定されるようになっており、重畳率n/mの上限値が、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流が下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて所定の損失が下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして決定され、重畳率n/mの下限値が、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流の増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも所定の損失が下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして決定される。このようになっているため、基本正弦波を信号波として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0027】
請求項10の発明によれば、5次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角が、初期位相φを変化させて行うリング試験によって決定されるようになっており、最大位相角は、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流が下回る範囲の最大値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも所定の損失が下回る範囲の最大値となる初期位相φとして決定され、最小位相角は、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流の増加量が下回る範囲の最小値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも所定の損失が下回る範囲の最小値となる初期位相φとしてされる。このようになっているため、基本正弦波を信号波として用いる場合に比べて、損失が低減できる。
【0028】
請求項11の発明によれば、信号波を構成する基本正弦波の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値がモータ試験により決定されるようになっており、重畳率n/mの上限値は、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流が下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも所定の損失が下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして決定され、重畳率n/mの下限値は、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流の増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも所定の損失が下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして決定される。このようになっているため、基本正弦波を信号波として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0029】
請求項12の発明によれば、5次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角が、初期位相φを変化させて行うモータ試験により決定されるようになっており、最大位相角は、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流が下回る範囲の最大値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも所定の損失が下回る範囲の最大値となる初期位相φとして決定され、最小位相角は、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流の増加量が下回る範囲の最小値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも所定の損失が下回る範囲の最小値となる初期位相φとしてされる。このようになっているため、基本正弦波を信号波として用いる場合に比べて、損失が低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】この発明の実施の形態に係るモータ駆動システムの概略構成図である。
図2】同実施の形態に係るモータ駆動システムのモータ制御部の概略ブロック図である。
図3】同実施の形態に係るモータ駆動システムのPWMドライブ信号のパルス幅変調を説明する図であり、(a)は信号波とキャリア波を示す図、(b)はPWMドライブ信号を示す図、(c)はPWM駆動電圧を示す図である。
図4】同実施の形態に係るモータ駆動システムの三相の基本正弦波を示す図である。
図5】同実施の形態に係るモータ駆動システムのモータ制御部の動作の流れを示す図である。
図6】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験装置の概略構成図である。
図7】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験の設定条件の例を示す図であり、(a)はリング試料の仕様を示す図、(b)は測定条件(重畳率)を示す図である。
図8】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験による磁界の強さと磁束密度の時間波形の例を示す図であり、(a)は重畳率n/mが0のときの測定波形を示す図、(b)は重畳率n/mが0のときのメジャーループ成分を示す図、(c)は重畳率n/mが-0.2のときの測定波形を示す図、(d)は重畳率n/mが-0.2のときのメジャーループ成分を示す図である。
図9】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験による磁界の強さと磁束密度のBHカーブの例を示す図であり、(a)は重畳率n/mが0のときの測定結果とメジャーループ成分を示す図、(b)は重畳率n/mが-0.2のときの測定結果とメジャーループ成分を示す図、(c)は重畳率n/mが0と-0.2のメジャーループ成分を示す図である。
図10】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験による基本波電流と基本正弦波変調率の例を示す図である。
図11】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験による鉄損、メジャーループ鉄損、キャリア高調波鉄損(マイナーループ鉄損)の例を示す図であり、(a)は鉄損を示す図、(b)は重畳率n/mが0の場合を基準としたときの鉄損の変化率を示す図である。
図12】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験による鉄損と基本波電流の例を示す図である。
図13】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験の測定条件(位相角)の例を示す図である。
図14】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験による測定結果の例を示す図であり、(a)は基本波電流を示す図、(b)は鉄損を示す図である。
図15】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験で重畳率n/mを設定する概略的な流れを示す図である。
図16】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるリング試験で5次高調波の初期位相φを設定する概略的な流れを示す図である。
図17】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験装置の概略構成図である。
図18】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験の試験モータの例を示す図であり、(a)はモータの概略断面図、(b)はモータの仕様を示す図である。
図19】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験の測定条件(重畳率)の例を示す図である。
図20】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験による基本波電流と基本正弦波変調率の例を示す図である。
図21】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験による全体損失の例を示す図である。
図22】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験の測定条件(位相角)の例を示す図である。
図23】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験による基本正弦波変調率と基本波電流の例を示す図である。
図24】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験による全体損失の例を示す図である。
図25】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験で重畳率n/mを設定する概略的な流れを示す図である。
図26】同実施の形態に係るモータ駆動システムの設定、設計及び製造に用いるモータ試験で5次高調波の初期位相φを設定する概略的な流れを示す図である。
図27】この発明の構成を決定するために行った特性評価試験1(リング試験)に係る試験装置の概略構成図である。
図28】同特性評価試験1に係る試験装置のリング試料の仕様を示す図である。
図29】同特性評価試験1に係る試験装置の測定条件(重畳率特性)を示す図である。
図30】同特性評価試験1に係る試験装置の信号波の波形を示す図であり、(a)は基本正弦波を示す図、(b)は基本正弦波に5次高調波を重畳した5次調波重畳信号を示す図である。
図31】同特性評価試験1に係る試験装置による磁界の強さと磁束密度の時間波形の測定結果を示す図であり、(a)は重畳率n/mが-0.2のときの測定波形を示す図、(b)は重畳率n/mが-0.2のときのメジャーループ成分を示す図、(c)は重畳率n/mが-0.1のときの測定波形を示す図、(d)は重畳率n/mが-0.1のときのメジャーループ成分を示す図である。
図32】同特性評価試験1に係る試験装置による磁界の強さと磁束密度の時間波形の測定結果を示す図であり、(a)は重畳率n/mが0のときの測定波形を示す図、(b)は重畳率n/mが0のときのメジャーループ成分を示す図、(c)は重畳率n/mが0.2のときの測定波形を示す図、(d)は重畳率n/mが0.2のときのメジャーループ成分を示す図である。
図33】同特性評価試験1に係る試験装置による磁界の強さと磁束密度のBHカーブの測定結果を示す図であり、(a)は重畳率n/mが-0.2のときの測定結果とメジャーループ成分を示す図、(b)は重畳率n/mが-0.1のときの測定結果とメジャーループ成分を示す図、(c)は重畳率n/mが0のときの測定結果とメジャーループ成分を示す図、(d)は重畳率n/mが0.2のときの測定結果とメジャーループ成分を示す図である。
図34】同特性評価試験1に係る試験装置による基本波電流と基本正弦波変調率の測定結果を示す図である。
図35】同特性評価試験1に係る試験装置による鉄損、メジャーループ鉄損、キャリア高調波鉄損(マイナーループ鉄損)の測定結果を示す図であり、(a)は鉄損を示す図、(b)は重畳率n/mが0の場合を基準としたときの鉄損の変化率を示す図である。
図36】同特性評価試験1に係る試験装置の測定条件(5次高調波の位相角特性)を示す図である。
図37】同特性評価試験1に係る試験装置の信号波の波形を示す図であり、(a)は基本正弦波を示す図、(b)は基本正弦波に初期位相π/4[rad]の5次高調波を重畳した5次調波重畳信号を示す図である。
図38】同特性評価試験1に係る試験装置による5次高調波の初期位相を変化させたときの測定結果を示す図であり、(a)は基本波電流を示す図、(b)は鉄損を示す図である。
図39】同特性評価試験1に係る試験装置の測定条件(キャリア周波数特性)を示す図であり、(a)は基礎測定条件、(b)は5次高調波の重畳条件を示す図である。
図40】同特性評価試験1に係る試験装置によるキャリア周波数を変化させたときの測定結果を示す図であり、(a)は基本波電流を示す図、(b)は鉄損を示す図である。
図41】この発明の構成を決定するために行った特性評価試験2(モータ試験)に係る試験装置の概略構成図である。
図42】同特性評価試験2に係る試験装置の試験モータを示す図であり、(a)はモータの概略断面図、(b)はモータの仕様を示す図である。
図43】同特性評価試験2に係る試験装置の測定条件(重畳率特性)を示す図である。
図44】同特性評価試験2に係る試験装置の三相の信号波の波形を示す図であり、(a)は基本正弦波を示す図、(b)は基本正弦波に5次高調波を重畳した5次調波重畳信号を示す図である。
図45】同特性評価試験2に係る試験装置による基本波電流と基本正弦波変調率の測定結果を示す図である。
図46】同特性評価試験2に係る試験装置による全体損失の測定結果を示す図である。
図47】同特性評価試験2に係る試験装置によるモータコア損・機械損の測定結果を示す図である。
図48】同特性評価試験2に係る試験装置による銅損と基本波電流銅損の測定結果を示す図である。
図49】同特性評価試験2に係る試験装置によるインバータ損の測定結果を示す図である。
図50】同特性評価試験2に係る試験装置の測定条件(5次高調波の位相角特性)を示す図である。
図51】同特性評価試験2に係る試験装置の三相の信号波の波形を示す図であり、(a)は基本正弦波を示す図、(b)は基本正弦波に初期位相π/4[rad]の5次高調波を重畳した5次調波重畳信号を示す図である。
図52】同特性評価試験2に係る試験装置による基本正弦波変調率と基本波電流の測定結果を示す図である。
図53】同特性評価試験2に係る試験装置による全体損失の測定結果を示す図である。
図54】同特性評価試験2に係る試験装置によるモータコア損・機械損の測定結果を示す図である。
図55】同特性評価試験2に係る試験装置による銅損と基本波電流銅損の測定結果を示す図である。
図56】同特性評価試験2に係る試験装置によるインバータ損の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明の実施の形態に係るモータ駆動システム1について、図1図26を用いて説明する。また、この発明の構成を決定するために行った特性評価試験の結果について図27図56を用いて説明する。
【0032】
図1は、この発明の実施の形態に係るモータ駆動システム1の概略構成図である。このモータ駆動システム1は、同期モータをパルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM、以下、パルス幅変調をPWMという)制御方式で駆動するシステムであり、三相インバータ部2(三相インバータ回路)、昇圧チョッパ部3(昇圧チョッパ回路)、モータ制御部4、永久磁石同期モータ5、電流センサ9、位置センサ10を含むように構成されている。
【0033】
三相インバータ部2は、昇圧チョッパ部3から供給される直流電圧をスイッチングして、永久磁石同期モータ5の三相(U相、V相、W相)のモータ駆動電圧となるパルス幅変調駆動電圧(以下、PWM駆動電圧という)を出力する。三相インバータ部2から出力される三相のPWM駆動電圧がモータ5の三相のステータコイル6に供給され、永久磁石のロータ7が回転駆動される。
【0034】
この三相インバータ部2には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)からなるスイッチング素子S、S、S、S、S、Sと、還流ダイオードD、D、D、D、D、Dが、上側と下側にペアとして直列に接続した構成が、3組備えられており、それぞれの上下のスイッチング素子(SとS、SとS、SとS)と還流ダイオード(DとD、DとD、DとD)のペアの接続点からモータ5の1つの相の電源を出力する。上下のスイッチング素子(SとS、SとS、SとS)は、一方がオンであれば、他方がオフになるように駆動される。また、短絡防止のため、上下のスイッチング素子が同時にオンにならないように、オンとオフの切り替わりで上下が共にオフとなるデッドタイムを含むように駆動される。
【0035】
このスイッチング素子S~Sのオンオフ駆動は、スイッチング素子S~Sのゲート端子であるスイッチング素子入力部8、8、8、8、8、8にモータ制御部4から供給されるPWMドライブ信号が入力されることにより行われる。
【0036】
なお、スイッチング素子S~Sには、IGBT以外にも、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)やパワー・トランジスタ等を使用できる。
【0037】
昇圧チョッパ部3は、三相インバータ部2への直流電圧を供給する。この昇圧チョッパ部3は、バッテリ11、インダクタ12、コンデンサ13、IGBTからなるチョッパ部用スイッチング素子Sc、ダイオード15などで構成される。モータ制御部4から供給される昇圧チョッパ制御信号が、チョッパ部用スイッチング素子Scのゲート端子に入力されて、このスイッチング素子Scがオンオフ駆動されると、インダクタ12、コンデンサ13、ダイオード15の作用により、コンデンサ13の両端子間にバッテリ11の電圧よりも高い直流電圧が出力される。この出力電圧が、三相インバータ部2の上側スイッチング素子S、S、Sのコレクタ端子に入力され、三相インバータ部2への入力直流電圧となる。昇圧チョッパ部3から出力される直流電圧の高低に応じて、三相インバータ部2への入力直流電圧が変化し、これにより永久磁石同期モータ5のステータコイル6に流れるモータ駆動電流の大きさも変化する。
【0038】
なお、昇圧チョッパ部3は必須でなく、この昇圧チョッパ部3を設けず、直流電源であるバッテリ11の電圧を直接、三相インバータ部2への入力直流電圧として供給し、後述する基本正弦波の振幅である変調率mを変化させて、永久磁石同期モータ5へのモータ駆動電流を制御するようにしてもよい。
【0039】
電流センサ9は、永久磁石同期モータ5のステータコイル6に流れるモータ駆動電流を検出する。このセンサ9で検出された電流値は、モータ制御部4に出力されてモータ5の制御に利用される。電流センサ9としては、シャント抵抗とアンプ方式のセンサ、コア付き電流センサ、コアレス電流センサを使用できる。
【0040】
永久磁石同期モータ5には、埋込構造永久磁石同期電動機(IPMSM:Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)が用いられている。このモータ5は、磁性体で形成されるステータコアにステータコイル6が巻回されたステータと、このステータの内側に回転可能に支持される永久磁石からなるロータ7により構成される。ステータコイル6に三相のモータ駆動電流を流して、回転磁界を形成することによりロータ7が回転駆動される。三相インバータ部2から出力される三相のPWM駆動電圧が三相のステータコイル6に印加されると、ステータコイル6にはモータ駆動電流が流れロータ7が回転する。
【0041】
永久磁石同期モータ5としては、表面構造永久磁石同期電動機(SPMSM:Surface Permanent Magnet Synchronous Motor)を用いることもできる。また、このモータ以外のその他の同期モータを用いることができる。
【0042】
位置センサ10は、ロータ7を構成する永久磁石の磁極の位置を検出するものであり、U相、V相、W相に対応するセンサ検出信号がモータ制御部4に出力されモータ5の制御に利用される。位置センサ10には、ホールICやホール素子を用いることができる。
【0043】
モータ制御部4は、電流センサ9や位置センサ10の検出信号を受け付けて永久磁石同期モータ5の駆動状態を取得し、モータ5の制御指令である回転速度指令やトルク指令などの指令値と比較して、モータ5が指令値に一致して動作するように三相インバータ部2と昇圧チョッパ部3を制御する。三相インバータ部2の制御は、スイッチング素子入力部8~8に三相のPWMドライブ信号を出力することにより行われる。このPWMドライブ信号は、信号波(変調波)とキャリア波(搬送波)とを比較して、信号波とキャリア波の交点でスイッチングして生成される。
【0044】
次に、モータ制御部4について詳細に説明する。
【0045】
図2は、モータ駆動システム1のモータ制御部4の概略ブロック図である。このモータ制御部4は、CPU40、ROM41、RAM42、信号波生成部43、キャリア波生成部44、PWMドライブ信号生成部45、PWMドライブ信号出力部46、昇圧チョッパ制御信号出力部47、ロータ検出位置受付部48、モータ入力電流値受付部49、指令値受付部50を含む構成になっている。
【0046】
CPU40は、このモータ駆動システム1を制御するプログラムの実行や演算処理を行う。不揮発性メモリであるROM41には、CPU40が実行するプログラムやそのプログラムの処理に用いられるデータが記憶される。揮発性メモリであるRAM42は、CPU40によるプログラムの実行や演算処理のワークエリアとして動作する。
【0047】
指令値受付部50は、永久磁石同期モータ5の制御指令である回転速度指令やトルク指令などの指令値を外部から受け付ける。モータ制御部4は、受け付けた指令値に一致するように三相インバータ部2と昇圧チョッパ部3を制御してモータ5を駆動させる。
【0048】
モータ入力電流値受付部49は、電流センサ9から出力される三相のモータ駆動電流の検出値を受け付ける。また、ロータ検出位置受付部48は、位置センサ10から出力されるロータ7の磁極位置の検出値を受け付ける。ロータ7位置を時系列的に検出することでロータ7の回転速度や回転の位相などが算出される。モータ制御部4では、受け付けたモータ駆動電流とロータ7の磁極位置から永久磁石同期モータ5の駆動状態を取得する。
【0049】
昇圧チョッパ制御信号出力部47は、三相インバータ部2への入力直流電圧を設定するため、昇圧チョッパ部3のチョッパ部用スイッチング素子Scに昇圧チョッパ制御信号を供給して、このスイッチング素子Scをオンオフ駆動させる。
【0050】
信号波生成部43は、スイッチング素子入力部8~8に入力されるPWMドライブ信号の形成に際し、その基の波形として用いられる信号波を生成する。電流センサ9や位置センサ10の信号から取得した永久磁石同期モータ5の駆動状態と、指令値受付部50で受け付けた指令値とを比較して、モータ5の動作が指令値に追従するようにCPU40で演算を行い、信号波の振幅である変調率や位相が設定される。この信号波は、U相、V相、W相に対応する三相の波形として生成される。信号波は、CPU40の演算により、数値データとして生成される。
【0051】
キャリア波生成部44は、PWMドライブ信号の形成に際し、その基の波形として用いられるキャリア波を生成する。このキャリア波は、CPU40の演算により、数値データとして生成される。
【0052】
PWMドライブ信号生成部45は、信号波生成部43で生成された信号波と、キャリア波生成部44で生成されたキャリア波との交点でエッジ位置が切り替わるようにPWMドライブ信号を生成する。このPWMドライブ信号は、U相、V相、W相に対応する三相の信号として生成される。PWMドライブ信号は、CPU40の演算により生成される。
【0053】
PWMドライブ信号出力部46は、PWMドライブ信号生成部45で生成された三相のPWMドライブ信号をスイッチング素子入力部8~8に供給する。このPWMドライブ信号の入力により、三相インバータ部2から三相のPWM駆動電圧が永久磁石同期モータ5に出力される。
【0054】
上側と下側のスイッチング素子(SとS、SとS、SとS)に供給されるPWMドライブ信号は、上下の素子(SとS、SとS、SとS)の一方がオンであれば、他方がオフになるように駆動されるため、上側と下側で反転したような波形となる。ただし、上下のスイッチング素子が同時にオンにならないように、デッドタイムが設けられる。
【0055】
信号波、キャリア波、PWMドライブ信号の生成は、ROM41に記憶されたプログラムに基づいてCPU40で演算を行い数値的に算出するようになっている。このようにソフトウェアの構成とすることで、信号波やキャリア波を形成するパラメータ等の変更が柔軟かつ容易に行える。ただし、ソフトウェアの構成に限らず、信号波、キャリア波、PWMドライブ信号の生成をハードウェアの構成として電子回路で実現するようにしてもよい。
【0056】
図3は、モータ駆動システム1のPWMドライブ信号のパルス幅変調を説明する図であり、(a)は信号波とキャリア波を示す図、(b)はPWMドライブ信号を示す図、(c)はPWM駆動電圧を示す図である。
【0057】
図3(a)には、信号波生成部43で生成される信号波h(t)とキャリア波生成部44で生成されるキャリア波c(t)が示されている。
【0058】
信号波h(t)は、基本正弦波g(t)にその5次高調波を加算し重畳して生成される。この基本正弦波g(t)の周波数を基本正弦波周波数fとすると、5次高調波の周波数は、5倍の5・fである。また、基本正弦波g(t)の振幅として示される変調率をmとし、5次高調波の振幅として示される変調率をnとするとき、基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率を重畳率n/mと定義する。
【0059】
キャリア波c(t)は、キャリア周波数fの三角波であり、三角波の振幅は1である。基本正弦波g(t)の変調率mは、キャリア波c(t)の振幅よりも小さい数値をとる。
【0060】
この図の横軸は時間tから変換した位相、縦軸は信号の大きさを示す。
【0061】
PWMドライブ信号生成部45では、信号波h(t)とキャリア波c(t)との交点でスイッチングを行い、パルス幅を変調してPWMドライブ信号を生成する。すなわち、信号波h(t)と、キャリア波c(t)との交点でパルス幅を切り替えてPWMドライブ信号を生成する。
【0062】
図3(b)には、PWMドライブ信号生成部45で生成されるPWMドライブ信号が示されている。この図の横軸は時間tから変換した位相、縦軸はPWMドライブ信号の大きさである。PWMドライブ信号は矩形波形により構成され、図3(a)での信号波h(t)とキャリア波c(t)との比較において、信号波h(t)の大きさがキャリア波c(t)よりも大きい場合、ハイレベルとなり、信号波h(t)の大きさがキャリア波c(t)よりも小さい場合、ローレベルとなる。そして、信号波h(t)とキャリア波c(t)との交点で立ち上がりエッジ、または、立ち下がりエッジが形成される。
【0063】
信号波h(t)の1周期の中で信号波h(t)の信号の大きさが大きくなるとハイレベル幅として示されるパルス幅が広くなり、信号波h(t)の信号の大きさが小さくなるとハイレベル幅であるパルス幅が狭くなる。このように信号波h(t)の1周期の中で、PWMドライブ信号のパルス幅のハイレベルの時間が周期的に変化する。
【0064】
PWMドライブ信号のパルス幅の周期的な変動について、信号波h(t)に含まれる基本正弦波周波数fがPWMドライブ信号のパルス幅の変動の基本周波数となり、これに信号波h(t)に含まれる5次高調波の周波数成分が付加されたものになる。
【0065】
図3(b)に示すPWMドライブ信号が、PWMドライブ信号出力部46から出力されて、三相インバータ部2のスイッチング素子入力部8~8に供給されると、上側と下側のスイッチング素子(SとS、SとS、SとS)と還流ダイオード(DとD、DとD、DとD)のペアの接続点から永久磁石同期モータ5の駆動電圧としてPWM駆動電圧が出力される。
【0066】
このように、信号波h(t)とキャリア波c(t)の交点で三相インバータ部2内の半導体のスイッチング動作を行わせて、永久磁石同期モータ5の駆動電圧としてPWM駆動電圧を出力させる。
【0067】
図3(c)には、三相インバータ部2から出力されるPWM駆動電圧が示されている。この図の横軸は時間tから変換した位相、縦軸はPWM駆動電圧の大きさである。PWM駆動電圧の波形は、時間(位相)軸についてPWMドライブ信号の波形と同様の形状を示す。
【0068】
このように、PWM駆動電圧のハイレベル幅として示されるパルス幅も、PWMドライブ信号と同様に、周期的な変動を繰り返す。このPWM駆動電圧のパルス幅の周期的な変動について、信号波h(t)に含まれる基本正弦波周波数fがPWM駆動電圧のパルス幅の変動の基本周波数となり、これに信号波h(t)に含まれる5次高調波の周波数成分が付加されたものになる。
【0069】
信号波h(t)に含まれる基本正弦波周波数fがPWM駆動電圧のパルス幅の基本周波数を規定している。また、5次高調波を重畳した信号波h(t)を用いることで、5次高調波成分によってキャリア波c(t)との交点が変化し、三相インバータ部2から出力されるPWM駆動電圧に5次高調波が重畳される。
【0070】
PWM駆動電圧は、永久磁石同期モータ5のU相、V相、W相に対応する三相の波形として三相インバータ部2から出力されるが、この三相を構成するため、初期位相がそれぞれ2π/3[rad]ずれた3個の信号波を用いて、三相のPWMドライブ信号を生成する。
【0071】
図4に、三相の信号波に含まれるそれぞれの基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を示す。この図の横軸は時間tから変換した位相、縦軸は信号の大きさを示す。PWMドライブ信号の生成には、この三相の基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)のそれぞれに5次高調波を重畳した波形を信号波h(t)、h(t)、h(t)として用い、上述のようにこれらの信号波h(t)、h(t)、h(t)と三角波のキャリア波c(t)との交点でパルス幅を切り替えるように形成する。
【0072】
この三相の基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)と、三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)は、式(1)~式(6)のように示される。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
(t)は、三相の基本正弦波の内のU相基本正弦波、g(t)はV相基本正弦波、g(t)はW相基本正弦波である。
【0073】
(t)は三相の信号波の内のU相信号波、h(t)はV相信号波、h(t)はW相信号波である。
【0074】
ここで、fは、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)の基本正弦波周波数であり、mは基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)の振幅として示される変調率である。また、nは重畳される5次高調波の振幅として示される変調率であり、φはこの5次高調波の初期位相である。そして、tは時間である。
【0075】
後述するように重畳率n/mの上限が、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始めるn/mの値に設定され、また、重畳率n/mの下限が、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値に設定され、重畳率n/mがこの下限と上限の範囲で動作する。
【0076】
重畳率n/mは、-0.3以上かつ0未満の範囲に設定し動作することが好ましい。
【0077】
また、図3(a)に示す基本正弦波g(t)の位相角がπ/2ラジアン(rad)のときの基本正弦波g(t)の数値が、そのときの信号波h(t)の数値以上となる5次高調波の初期位相φに設定され、動作することが好ましい。
【0078】
例えば、式(1)に示す基本正弦波g(t)と式(2)に示す信号波h(t)を用いて説明すると、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ)の数値以上となる初期位相φに設定されて動作することになる。すなわち、g(t)(=m・sin(π/2)) >= h(t)(=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ))となる条件を満たすように5次高調波の初期位相φを設定し、動作することになる。
【0079】
また、初期位相φの最大位相角が、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始める初期位相φの値に設定され、また、初期位相φの最小位相角が、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる初期位相φの値に設定され、この最小位相角と最大位相角の範囲で動作するようにしてもよい。
【0080】
後述する特性評価試験では、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を信号波として用いた場合と、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)に5次高調波を重畳した信号波h(t)、h(t)、h(t)を用いた場合の損失の比較を行っている。
【0081】
この特性評価試験の結果、重畳率n/mが、-0.25以上かつ-0.05以下であり、5次高調波の初期位相φが、-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下の条件のとき、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を信号波に用いた場合に比べて、損失が低減し、この条件に設定し、動作させても好ましいことが示された。
【0082】
また、この条件から重畳率n/mのとり得る範囲を、-0.15以上かつ-0.1以下に設定したり、初期位相φのとり得る範囲を、π/8[rad]以上かつ5π/16[rad]以下に設定したりすると、さらに損失が低減しさらに好ましいことが示された。
【0083】
また、重畳率n/mを、-0.15以上かつ-0.1以下の範囲に設定し、5次高調波の初期位相φをπ/4[rad]に設定とすると、損失低減の効果がさらに高く、さらに好ましいことが示された。
【0084】
また、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)に重畳する高調波は、5次以上でも可能であり、基本正弦波周波数fのa倍のa次高調波を重畳する場合の三相の信号波hua(t)、hva(t)、hwa(t)は、式(7)~式(9)のように示される。
【数7】
【数8】
【数9】
ここで、nは重畳される5次高調波の振幅として示される変調率であり、φはこのa次高調波の初期位相である。
【0085】
重畳率n/mの上限が、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始めるn/mの値に設定され、また、重畳率n/mの下限が、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値に設定され、重畳率n/mがこの下限と上限の範囲で動作する。
【0086】
重畳率n/mは、-0.3以上かつ0未満の範囲に設定し動作することが好ましい。
【0087】
また、図3(a)に示す基本正弦波g(t)の位相角がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値が、そのときの信号波h(t)の数値以上となるa次高調波の初期位相φに設定され、動作することが好ましい。
【0088】
例えば、式(1)に示す基本正弦波g(t)と式(7)に示す信号波hua(t)を用いて説明すると、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波hua(t)=m・sin(π/2)+n・sin(a・π/2+φ)の数値以上となる初期位相φに設定されて動作することになる。すなわち、g(t)(=m・sin(π/2)) >= hua(t)(=m・sin(π/2)+n・sin(a・π/2+φ))となる条件を満たすようにa次高調波の初期位相φを設定し、動作することになる。
【0089】
また、a次高調波の初期位相φの最大位相角が、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始める初期位相φの値に設定され、また、初期位相φの最小位相角が、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる初期位相φの値に設定され、この最小位相角と最大位相角の範囲で動作するようにしてもよい。
【0090】
5次高調波を重畳した信号波h(t)、h(t)、h(t)を用いた後述する特性評価試験の結果の類推から、重畳率n/mが、-0.25以上かつ-0.05以下であり、a次高調波の初期位相φが、-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下の条件のとき、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を信号波に用いる場合に比べて、損失が低減することが推測されるため、この条件に設定、動作することが好ましい。
【0091】
また、この条件から重畳率n/mのとり得る範囲を、-0.15以上かつ-0.1以下に設定したり、初期位相φのとり得る範囲を、π/8[rad]以上かつ5π/16[rad]以下に設定したりすると、特性評価試験の結果の類推から、さらに損失が低減することが推測され好ましい。
【0092】
また、重畳率n/mを、-0.15以上かつ-0.1以下の範囲に設定し、a次高調波の初期位相φをπ/4[rad]に設定して動作すると、特性評価試験の結果の類推から、損失低減の効果がさらに高くなることが推測され好ましい。
【0093】
なお、三相モータの場合には、重畳する5次以上のa次高調波について、偶数次と3の倍数次を重畳しても効果が生じないと考えられるため、それ以外の例えば、7次、11次、13次などの高調波を重畳することが有効である。
【0094】
次に、この発明の実施の形態に係るモータ駆動システム1の動作について説明する。
【0095】
図5は、このモータ駆動システム1のモータ制御部4の動作の流れを示す図である。
【0096】
モータ制御部4は、指令値受付部50で、永久磁石同期モータ5の制御指令である回転速度指令やトルク指令などの指令値を外部から受け付け(S1ステップ)、受け付けた指令値をRAM42に記憶する(S2ステップ)。その後、外部からモータ回転開始指示が入力されると、モータ制御部4は、この回転開始指示を受け付けて(S3ステップ)、モータ5を回転駆動させる動作を開始する。
【0097】
モータ制御部4は、位置センサ10から出力されるロータ7の磁極位置と、電流センサ9から出力される三相のモータ駆動電流の検出値とを受け付ける(S4ステップ)。このロータ7の磁極位置やモータ駆動電流の検出値に基づいて、永久磁石同期モータ5の駆動状態が取得される。モータ制御部4は、モータ5の駆動が指令値に一致するように制御を行う。
【0098】
まず、三相インバータ部2への入力直流電圧が適正値になるように、昇圧チョッパ制御信号を生成して(S5ステップ)、生成した昇圧チョッパ制御信号を、昇圧チョッパ部3のチョッパ部用スイッチング素子Scに出力する(S6ステップ)。
【0099】
次に、モータ5の駆動状態が指令値に追従するように、上記式(2)、式(4)、式(6)の信号波h(t)、h(t)、h(t)を生成する(信号波生成処理)(S7ステップ)。具体的には、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)の基本正弦波周波数f、位相、変調率mを設定して、この基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)に変調率nで初期位相φの5次高調波を重畳する。
【0100】
続いて、三角波として構成されるキャリア波を生成する(キャリア波生成処理)(S8ステップ)。
【0101】
その後、図3に示したように、信号波h(t)、h(t)、h(t)とキャリア波との交点でパルス幅が切り替わるようにPWMドライブ信号を生成する(PWMドライブ信号処理)(S9ステップ)。
【0102】
そして、生成されたPWMドライブ信号を、三相インバータ部2のスイッチング素子入力部8~8に出力する(PWMドライブ供給処理)(S10ステップ)。これにより、三相インバータ部2の上側と下側のスイッチング素子(SとS、SとS、SとS)と還流ダイオード(DとD、DとD、DとD)のペアの接続点から永久磁石同期モータ5の駆動電圧としてPWM駆動電圧が出力される。
【0103】
モータ制御部4は、外部から新たな指令値の入力があり、前回記憶した指令値に対して、指令値の変更があるか判断する(S11ステップ)。指令値の変更がある場合(S11ステップのYesの場合)、変更された指令値をRAMに記憶して更新する(S12ステップ)。指令値の変更がない場合(S11ステップのNoの場合)には、何もせずそのままの動作を継続する。
【0104】
以降、上記S4ステップからS12ステップを繰り返し、指令値に一致するように永久磁石同期モータ5を駆動させる。
【0105】
次に、この発明の実施の形態に係るモータ駆動システム1の設定方法、設計方法及び製造方法について説明する。
【0106】
この設定方法、設計方法及び製造方法では、式(10)に示す基本正弦波g(t)にその5次高調波を重畳した式(11)に示す信号波h(t)について、その重畳率n/mの上限値と下限値、重畳率n/mの設定値、5次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角、初期位相φの設定値を決定する。
【数10】
【数11】
モータ駆動システム1の設定方法、設計方法及び製造方法について、はじめに、リング試験による方法を説明し、続いて、モータ試験による方法を説明する。リング試験による方法、モータ試験による方法ともに、重畳率n/mを変化させて測定が行われる。
【0107】
<リング試験による設定方法、設計方法及び製造方法>
まず、リング試験によるモータ駆動システム1の設定方法、設計方法及び製造方法について説明する。
【0108】
図6は、このモータ駆動システム1の設定、設計及び製造に用いるリング試験装置109の概略構成図である。このリング試験装置109は、後述する特性評価試験1(リング試験)で用いたリング試験装置69と同じ構成である(このため、詳細は後述する特性評価試験1(リング試験)を参照)。
【0109】
図7は、リング試験の設定条件の例を示す図であり、(a)はリング試料101の仕様を示す図、(b)は測定条件(重畳率)を示す図である。このリング試験のリング試料101である鉄心材料(コア材料)には、モータ駆動システム1に用いられる永久磁石同期モータ5のロータとステータの鉄心材料(コア材料)と同一の材料が使用される。すなわち、リング試料101は、モータ駆動システム1に用いられる永久磁石同期モータ5の鉄心材料(コア材料)と同一の材料で形成される。
【0110】
図6に示すIGBTインバータ102は、単相Si-IGBTインバータである。このIGBTインバータ102は、スイッチング素子S101、S102、S103、S104としてSi-IGBT、還流ダイオードD101、D102、D103、D104としてSiダイオードを搭載している。リング試験装置69のIGBTインバータ102に用いられているスイッチング素子S101~S104と還流ダイオードD101~D104は、モータ駆動システム1の三相インバータ部2に用いられているスイッチング素子S~Sと還流ダイオードD~Dと同じものである。
【0111】
測定条件は、例として、基本正弦波周波数fを50[Hz]、キャリア周波数fを1[kHz]、直流電源103から供給されるIGBTインバータ102への入力電圧Vdcを15[V]とし、基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となるように基本正弦波変調率mを調節する。リング試験における基本正弦波磁束密度Bf1一定は、モータ試験における平均トルク一定に相当すると考えられる。
【0112】
IGBTインバータ102の制御には、5次調波重畳PWM方式が採用される。すなわち、上記式(11)に示す5次高調波を重畳した信号波h(t)と、三角波として構成されるキャリア波との交点でパルス幅を切り替えてPWM信号を生成して、このPWM信号をIGBTインバータ102の上下のスイッチング素子のペア(S101とS102)のゲート端子であるスイッチング素子入力部108、108に入力する。また、上下反転した信号波h(t)とキャリア波との交点でパルス幅を切り替えてPWM信号を生成して、このPWM信号をIGBTインバータ102の上下のスイッチング素子のペア(S103とS104)のゲート端子であるスイッチング素子入力部108、108に入力する。このとき、上下のスイッチング素子(上下のS101とS102、上下のS103とS104)は、一方がオンであれば、他方がオフになるように駆動される。また、短絡防止のため、上下のスイッチング素子(上下のS101とS102、上下のS103とS104)が同時にオンにならないように、オンとオフの切り替わりで上下が共にオフとなるデッドタイムを含むように駆動される。
【0113】
このようにすると、スイッチング素子入力部108、108、108、108に入力されたPWM信号に基づいて、上側と下側のスイッチング素子(S101とS102、S103とS104)と還流ダイオード(D101とD102、D103とD104)のペアの接続点から一次コイルに入力されるパルス幅変調電圧が出力される。このパルス幅変調電圧の印加によって一次コイルに一次電流Iが流れる。
【0114】
そして、このリング試料101に巻回された一次コイルに流れる一次電流Iと、リング試料101に巻回された二次コイルに発生する二次電圧Vが測定される。
【0115】
次に、リング試験の鉄損算出方法について説明する。図6に示す一次電流Iと二次電圧Vを測定し、磁界の強さH、磁束密度Bを式(12)、式(13)のように求める。
【数12】
【数13】
この磁界の強さHと磁束密度Bを用いて、式(14)のように鉄損Pfeを求める。
【数14】
ここで、上記式(12)、式(13)で求められる磁界の強さHと磁束密度Bにはキャリア高調波成分を含むので、磁化現象が複雑化する。そこで5次高調波重畳の影響を明確にするため、低次の周波数成分(f、f、f成分:fは基本正弦波周波数fの3次高調波の周波数、fは基本正弦波周波数fの5次高調波の周波数)を抽出することを考える。得られた磁界の強さHと磁束密度Bに対し、数値計算ソフトウェアMATLAB(登録商標)R2019b(The MathWorks,Inc.)によるcftool(近似曲線ツール)を用いたフィッティングを行い、磁界の強さのメジャーループ成分Hmajor、磁束密度のメジャーループ成分Bmajorを算出する。これらより、メジャーループ鉄損Pmajorを式(15)のように算出する。また、式(16)のように、鉄損Pfeとメジャーループ鉄損Pmajorの差をキャリア高調波鉄損(マイナーループ鉄損)Pcarrierと定義する。
【数15】
【数16】
以下に、重畳率n/mを変化させて測定したリング試験における測定結果の例を示す。
【0116】
図8は、リング試験による磁界の強さHと磁束密度Bの時間波形の例を示す図であり、(a)は重畳率n/mが0のときの測定波形を示す図、(b)は重畳率n/mが0のときのメジャーループ成分(Hmajor、Bmajor)を示す図、(c)は重畳率n/mが-0.2のときの測定波形を示す図、(d)は重畳率n/mが-0.2のときのメジャーループ成分(Hmajor、Bmajor)を示す図である。
【0117】
重畳率n/mが0の場合は、5次高調波を付加せず基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に該当する。重畳率n/mが0と-0.2の場合を比べると、磁界の強さHと磁束密度Bの時間波形の形状が異なっており、5次高調波重畳により、磁化現象に変化が現れることがわかる。
【0118】
図9は、リング試験による磁界の強さHと磁束密度BのBHカーブの例を示す図であり、(a)は重畳率n/mが0のときの測定結果(実線)とメジャーループ成分(破線)を示す図、(b)は重畳率n/mが-0.2のときの測定結果(実線)とメジャーループ成分(破線)を示す図、(c)は重畳率n/mが0(破線)と-0.2(実線)のメジャーループ成分を示す図である。
【0119】
この図は、図8に示した測定データについて、横軸を磁界の強さH、縦軸を磁束密度Bとして表示したものである。図9(c)に示すように、重畳率n/mが0と-0.2の場合を比べると、磁界の強さのメジャーループ成分Hmajorと磁束密度のメジャーループ成分BmajorのBHカーブの形状が異なっており、5次高調波重畳により、磁化現象に変化が現れることがわかる。言い換えると、5次高調波重畳により、「磁気特性の変化」が生じている。図9(c)に示すメジャーループ成分のBHカーブには、基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となった点を、重畳率n/mが0と-0.2の場合のそれぞれについて×印、*印でプロットしている。5次高調波の重畳によりメジャーループ成分が大きく変化し、それに伴い重畳率n/mが-0.2の条件である*印の位置は透磁率が大きくなる点に変化している。すなわち、5次高調波重畳により磁化現象が変化し、透磁率が大きくなる点で基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]に達することになる。
【0120】
図10は、リング試験による基本波電流If1と基本正弦波変調率mの例を示す図である。
【0121】
リング試験における基本波電流If1は、一次コイルに流れる一次電流Iの基本正弦波周波数fの成分の実効値である。
【0122】
この基本波電流If1は、基本波磁束密度Bf1を得るための励磁電流成分であり、重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが0より大きいとき僅かに増加、重畳率n/mが0より小さいとき大きく減少する傾向がある。
【0123】
重畳率n/mが0より小さくなると、「磁気特性の変化で基本波電流If1の低減し始める」。この重畳率n/mの値を上限に設定するようにしてもよい。また、重畳率n/mが-0.1以下の範囲では、急激に基本波電流If1が減少しており、この重畳率n/mが-0.1のときを、「磁気特性の変化で基本波電流If1の低減し始める」重畳率n/mの値ということもできる。この重畳率n/mの値を上限に設定するようにしてもよい。
【0124】
また、IGBTインバータ102への直流電圧Vdc一定下で、基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となるように基本正弦波変調率mが調節されており、重畳率n/mが0より大きくなると基本正弦波変調率mが増加し、重畳率n/mが0より小さくなると基本正弦波変調率mが減少している。
【0125】
5次高調波の重畳により、基本正弦波磁束密度Bf1が一定の下で基本波電流If1の減少が生じることがいえる。
【0126】
図11は、リング試験による鉄損Pfe、メジャーループ鉄損Pmajor、キャリア高調波鉄損(マイナーループ鉄損)Pcarrierの例を示す図であり、(a)は鉄損を示す図、(b)は重畳率n/mが0の場合を基準としたときの鉄損の変化率を示す図である。
【0127】
図11(a)に示すように重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが0より大きい範囲では鉄損Pfeが増加し、重畳率n/mが0より小さい範囲では鉄損Pfeが減少している。また、メジャーループ鉄損Pmajorは、重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが-0.15、-0.1、-0.05のとき減少している。キャリア高調波鉄損Pcarrierは重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが0より大きいとき増加し、重畳率n/mが0より小さいとき減少している。
【0128】
図11(b)は、重畳率n/mが0の場合の鉄損Pfe、メジャーループ鉄損Pmajor、キャリア高調波鉄損Pcarrierを基準として、重畳率n/mを変化させたときの鉄損Pfe、メジャーループ鉄損Pmajor、キャリア高調波鉄損Pcarrierの変化率を示している。
【0129】
重畳率n/mが0より大きい範囲では、鉄損Pfeが増加し、重畳率n/mが0より小さい範囲では、鉄損Pfeが減少している。また、重畳率n/mが-0.2のとき、鉄損Pfeが最小値を示し、鉄損低減率は3.3%であった。また、重畳率n/mが-0.25のときの鉄損Pfeは、重畳率n/mが-0.2のときよりも僅かに増加している。
【0130】
メジャーループ鉄損Pmajorは、重畳率n/mが-0.15、-0.1、-0.05のとき減少している。重畳率n/mが-0.1のとき、メジャーループ鉄損Pmajorは最小をとり、低減率は2.3%である。キャリア高調波鉄損Pcarrierは重畳率n/mが0より大きいとき増加し、重畳率n/mが0より小さいとき減少している。重畳率n/mが-0.25のとき最小を示し、キャリア高調波鉄損Pcarrierの鉄損低減率は17.8%である。
【0131】
このように重畳率n/mを大きい側(例えば重畳率n/m=0.25)から小さくしていくと鉄損Pfeが減少し、重畳率n/mが0より小さくなると、重畳率n/mが0のときよりも鉄損Pfeが低減する。そして、重畳率n/mをさらに小さくしていくと、重畳率n/mが-0.2のときに鉄損Pfeが最小となり、その後、鉄損Pfeが増加する傾向がある。図11(b)に示す鉄損Pfeの変化率のグラフについて重畳率n/mが-0.25よりも小さい範囲に外挿すると、重畳率n/mが-0.3以上の範囲で、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、鉄損Pfeが低減しているといえる。そうすると、重畳率n/mが0の場合に比べて、鉄損Pfeが低減する範囲は、重畳率n/mが-0.3以上かつ0未満の範囲となる。重畳率n/mが-0.3のとき、「基本波電流If1の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる」重畳率n/mの値といえる。この値を重畳率n/mの下限に設定するようにしてもよい。
【0132】
図12は、リング試験による鉄損Pfeと基本波電流If1の例を示す図である。この図12は、図10図11とは異なる測定結果をまとめたものである。
【0133】
重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが0より大きい範囲では鉄損Pfeが増加し、重畳率n/mが0より小さい範囲では鉄損Pfeが減少している。また、重畳率n/mが-0.15のとき鉄損Pfeが最小となっている。
【0134】
重畳率n/mを大きい側から小さくしていくと鉄損Pfeが減少し、重畳率n/mが0より小さくなると、重畳率n/mが0のときよりも鉄損Pfeが低減する。そして、重畳率n/mをさらに小さくしていくと、重畳率n/mが-0.15のときに鉄損Pfeが最小となり、その後、鉄損Pfeが増加する傾向がある。図12に示す鉄損Pfeのグラフについて重畳率n/mが-0.2よりも小さい範囲に外挿すると、重畳率n/mが-0.3以上の範囲で、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、鉄損Pfeが低減しているといえる。そうすると、重畳率n/mが0の場合に比べて、鉄損Pfeが低減する範囲は、重畳率n/mが-0.3以上かつ0より小さい範囲となる。
【0135】
基本波電流If1は、重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが0より大きいとき僅かに増加、重畳率n/mが0より小さいとき大きく減少する傾向がある。
【0136】
以下に、5次高調波の初期位相φを変化させて測定したリング試験における測定結果の例を示す。
【0137】
図13は、5次高調波の初期位相φを変化させて測定を行うリング試験の測定条件(位相角)の例を示す図である。
【0138】
図14は、リング試験による測定結果の例を示す図であり、(a)は基本波電流If1を示す図、(b)は鉄損Pfeを示す図である。図中の水平の破線は、5次高調波の変調率nが0の場合、すなわち、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合の基本波電流If1、鉄損Pfeの測定値を示している。
【0139】
基本波電流If1は、水平の破線に比べて、初期位相φが0[rad]以下で減少し、初期位相φがπ/4[rad]以上で増加している。
【0140】
初期位相φがπ/4[rad]より小さくなると、「磁気特性の変化で基本波電流If1の低減し始める」といえる。この初期位相φの値(π/4)を最大位相角に設定するようにしてもよい。
【0141】
鉄損Pfeは、水平の破線に比べて、初期位相φが-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下の範囲で低減しており、初期位相φがπ/4[rad]で最小値となっている。
【0142】
このように5次高調波の初期位相φを大きい側(例えば初期位相φ=3π/4[rad])から小さくしていくと鉄損Pfeが減少し、初期位相φがπ/2[rad]より小さくなると、重畳率n/mが0のときよりも鉄損Pfeが低減する。初期位相φをさらに小さくしていくと、初期位相φがπ/4[rad]のときに鉄損Pfeが最小となり、その後、鉄損Pfeが増加する。そして、初期位相φが-π/4[rad]になると、重畳率n/mが0のときの鉄損Pfeとほぼ同じ値を示し、さらに初期位相φを小さくすると、重畳率n/mが0のときよりも鉄損Pfeが大きくなる。初期位相φが-π/4[rad]のとき、「基本波電流If1の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる」初期位相φの値といえる。この値を初期位相φの最小位相角に設定するようにしてもよい。
【0143】
図14(a)(b)に基づいて検討すると、基本正弦波g(t)の位相角がπ/2ラジアン(rad)のときの基本正弦波g(t)の数値が、そのときの信号波h(t)の数値以上となる5次高調波の初期位相φに設定され、動作すると基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、基本波電流If1が低減することが考えられる。また、鉄損Pfeも低減することが考えられる。
【0144】
上記式(10)に示す基本正弦波g(t)と式(11)に示す信号波h(t)を用いて説明すると、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ)の数値以上となる初期位相φに設定されることになる。すなわち、g(t)(=m・sin(π/2)) >= h(t)(=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ))となる条件を満たすように5次高調波の初期位相φが設定されることになる。
【0145】
図15は、リング試験で重畳率n/mを設定する概略的な流れを示す図である。
【0146】
このリング試験では、5次高調波の初期位相φを0[rad]として、重畳率n/mを大きい側から小さい側に変化させて測定を行う。
【0147】
まず、重畳率n/mを最大値に設定する(S100ステップ)。例えば、図7(b)に示す測定条件であれば、重畳率n/mを最大値となる0.25に設定する。
【0148】
次に、リング試験装置109を測定条件に調整する(S101ステップ)。例えば、図7(b)に示す測定条件であれば、リング試験装置109を、IGBTインバータ62への入力電圧Vdcを15[V]とし、基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となるように基本正弦波変調率mを調整する。そして、設定された重畳率n/mになるように上記式(11)に示す信号波h(t)を構成してPWM信号を生成し、このPWM信号をIGBTインバータ102に入力して動作させる。IGBTインバータ102からは、PWM信号に基づいてパルス幅変調電圧が出力され、このパルス幅変調電圧が一次コイルに印加される。これにより、一次コイルに一次電流Iが流れる。
【0149】
次に、リング試験装置109のリング試料101に巻回された一次コイルに流れる一次電流Iと、リング試料101に巻回された二次コイルに発生する二次電圧Vを測定する(S102ステップ)。
【0150】
一次電流Iと二次電圧Vの測定後、重畳率n/mを所定量低下させて設定する(S103ステップ)。例えば、図7(b)に示す測定条件であれば、重畳率n/mを0.05低下させて設定する。
【0151】
このように設定された重畳率n/mが最小値以上であるか検査され、最小値以上の場合(S104ステップのYesの場合)、S101ステップに戻って測定が繰り返される。ここで、検査に用いられる重畳率n/mの最小値とは、例えば、図7(b)に示す測定条件であれば、重畳率n/mが-0.25となる値である。
【0152】
設定された重畳率n/mが最小値以上でない場合(S104ステップのNoの場合)、各重畳率n/mの測定データについて、基本波電流If1、鉄損Pfe、高調波電流Iharmonicを算出する(S105ステップ)。
【0153】
リング試験における高調波電流Iharmonicは、一次コイルに流れる一次電流Iの基本正弦波周波数fの高調波成分(一次電流Iの高調波成分)の実効値である。
【0154】
次に、重畳率n/mの上限値を決定する(上限値決定ステップ、上限値決定工程)(S106ステップ)。
【0155】
この上限値を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも基本波電流If1が下回る範囲の上限となる重畳率n/mを重畳率n/mの上限値としてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の基本波電流If1に比べて、基本波電流If1が減少する重畳率n/mの範囲の上限となる重畳率n/mを上限値に決定するようにしてもよい。例えば、図10であれば、基本波電流If1は、重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが0より小さい範囲で減少しているため、この範囲の上限は重畳率n/mが0未満となる。この場合には、重畳率n/mの上限値を0未満と決定してもよい。また、重畳率n/mが-0.1以下の範囲では、基本波電流If1が急激に減少しており、この範囲を用いれば上限が-0.1となる。この場合には、重畳率n/mの上限値が-0.1に決定される。図12であれば、基本波電流If1は、重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが0より小さい範囲で減少しており、重畳率n/mの上限値が0未満に決定される。これは、重畳率n/mの上限値を「磁気特性の変化で基本波電流If1の低減し始める」重畳率n/mの値に決定することに相当する。
【0156】
また、重畳率n/mの上限値を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合に比べて、「一次電流Iと二次電圧Vとに基づいて算出される所定の損失」としての鉄損Pfeが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして上限値を決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0の場合の鉄損Pfeに比べて、鉄損Pfeが低減する重畳率n/mの範囲の上限となる重畳率n/mを上限値に決定してもよい。例えば、図11図12では重畳率n/mが0のときの鉄損Pfeに比べて、鉄損Pfeが低減する重畳率n/mの範囲は-0.3以上かつ0未満の範囲であるので、この範囲の重畳率n/mの上限が0未満となる。この場合、重畳率n/mの上限値が0未満に決定される。なお、所定の損失として、鉄損Pfe以外の損失を用いてもよい。
【0157】
次に、重畳率n/mの下限値を決定する(下限値決定ステップ、下限値決定工程)(S107ステップ)。
【0158】
この下限値を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合を基準とする基本波電流If1の低減量に比べて、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/mを下限値に決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とするときの基本波電流If1の低減量と高調波電流Iharmonicの増加量との比較を用いて決定するようにしてもよい。まず、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の基本波電流If1を基準として、重畳率n/mが変化したときのその基準からの基本波電流If1の低減量を算出する。また、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の高調波電流Iharmonicを基準として、重畳率n/mが変化したときのその基準からの高調波電流Iharmonicの増加量を算出する。そして、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とする基本波電流If1の低減量と、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量とを比較して、基本波電流If1の低減量が高調波電流Iharmonicの増加量よりも下回る重畳率n/mの範囲を求め、この範囲の下限となる重畳率n/mを重畳率n/mの下限値に決定するようにしてもよい。基本波電流If1の低減量が高調波電流Iharmonicの増加量よりも下回る状態では、基本波電流If1の低減量の絶対値が高調波電流Iharmonicの増加量の絶対値よりも大きくなる。
【0159】
また、重畳率n/mの下限値を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも「所定の損失」としての鉄損Pfeが下回る範囲の下限となる重畳率n/mを下限値に決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の鉄損Pfeに比べて、鉄損Pfeが低減する重畳率n/mの範囲の下限として下限値を決定するようにしてもよい。例えば、図11図12では重畳率n/mが0のときの鉄損Pfeに比べて、鉄損Pfeが低減する重畳率n/mの範囲は-0.3以上かつ0未満の範囲であるので、この範囲の重畳率n/mの下限が-0.3となる。この場合、重畳率n/mの下限値が-0.3に決定される。
【0160】
なお、測定データの存在する範囲で下限値を決定するようにしてもよい。この場合、図11では下限値が-0.25に決定され、図12では下限値が-0.2に決定されることになる。
【0161】
以上の重畳率n/mの下限値を決定する2つの方法は、下限値を「基本波電流If1の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる」重畳率n/mの値に決定することに相当する。
【0162】
次に、重畳率n/mの設定値を設定する(重畳率設定ステップ、重畳率設定工程)(S108ステップ)。S106ステップで決定された重畳率n/mの上限値とS107ステップで決定された重畳率n/mの下限値との間の範囲で、上記式(11)に示す信号波h(t)の重畳率n/mの設定値を設定する。この重畳率n/mの設定値として、モータ駆動システム1を設計したり、製造したりする。すなわち、この重畳率n/mの設定値として、上記式(2)、式(4)、式(6)に示すモータ駆動システム1の三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)が設定される。
【0163】
なお、図15では、重畳率n/mを大きい側から小さい側に変化させて測定を行う流れを示したが、重畳率n/mを小さい側から大きい側に変化させるようにしてもよい。また、5次高調波の初期位相φを0[rad]として重畳率n/mを変化させる流れを示したが、初期位相を0[rad]以外に設定して行うようにしてもよい。
【0164】
5次高調波の初期位相φが0[rad]などとしてあらかじめ固定されている場合には、図15に示した流れで重畳率n/mを設定して上記式(11)に示す信号波h(t)を決定すればよい。5次高調波の初期位相φが固定されておらず変化させて設定する場合には、続けて、以下に示すように初期位相φの設定値を決定する。
【0165】
図16は、リング試験で5次高調波の初期位相φを設定する概略的な流れを示す図である。
【0166】
このリング試験では、重畳率n/mを一定として、5次高調波の初期位相φを大きい側から小さい側に変化させて測定を行う。
【0167】
まず、重畳率n/mの上限値と下限値の範囲内で重畳率n/mを設定する(S110ステップ)。例えば、図15に示した重畳率n/mを設定する流れにより設定された重畳率n/mに設定する。図13に示す測定条件であれば、重畳率n/mを-0.2に設定する。設定したこの重畳率n/mに固定した状態で5次高調波の初期位相φを変化させる。
【0168】
次に、5次高調波の初期位相φを最大値に設定する(S111ステップ)。例えば、図13に示す測定条件であれば、初期位相φを最大値となる3π/4[rad](=135°)に設定する。
【0169】
次に、リング試験装置109を測定条件に調整する(S112ステップ)。例えば、図13に示す測定条件であれば、リング試験装置109を、IGBTインバータ62への入力電圧Vdcを15[V]とし、基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となるように基本正弦波変調率mを調整する。そして、設定された重畳率n/mと初期位相φになるように上記式(11)に示す信号波h(t)を構成してPWM信号を生成し、このPWM信号をIGBTインバータ102に入力して動作させる。IGBTインバータ102からは、パルス幅変調電圧が出力され、このパルス幅変調電圧の印加により一次コイルに一次電流Iが流れる。
【0170】
次に、リング試験装置109のリング試料101に巻回された一次コイルに流れる一次電流Iと、リング試料101に巻回された二次コイルに発生する二次電圧Vを測定する(S113ステップ)。
【0171】
一次電流Iと二次電圧Vの測定後、5次高調波の初期位相φを所定量低下させて設定する(S114ステップ)。例えば、図13に示す測定条件であれば、初期位相φをπ/4[rad](=45°)低下させて設定する。
【0172】
このように設定された初期位相φが最小値以上であるか検査され、最小値以上の場合(S115ステップのYesの場合)、S112ステップに戻って測定が繰り返される。ここで、検査に用いられる5次高調波の初期位相φの最小値とは、例えば、図13に示す測定条件であれば、初期位相φが-3π/4[rad](=-135°)となる値である。
【0173】
設定された初期位相φが最小値以上でない場合(S115ステップのNoの場合)、各初期位相φの測定データについて、基本波電流If1、鉄損Pfe、高調波電流Iharmonicを算出する(S116ステップ)。
【0174】
次に、5次高調波の初期位相φの最大位相角を決定する(最大位相角決定ステップ、最大位相角決定工程)(S117ステップ)。
【0175】
この初期位相φの最大位相角を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも基本波電流If1が下回る範囲の最大値となる初期位相φを初期位相φの最大位相角としてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の基本波電流If1に比べて、基本波電流If1が減少する初期位相φの範囲の最大値となる初期位相φを最大位相角に決定するようにしてもよい。例えば、図14(a)であれば、基本波電流If1は、水平の破線として示される重畳率n/mが0の場合に比べて、初期位相φが0[rad]以下の範囲で減少しているため、この範囲の最大値は初期位相φが0[rad]のときとなる。この場合には、初期位相φの最大位相角が0[rad]と決定される。また、基本波電流If1を示すプロットが、水平の破線を上下に挟む初期位相φがπ/4[rad]と0[rad]のプロット間を内挿して、水平の破線の基本波電流If1となる初期位相φを算出し、この算出された初期位相φを最大位相角に決定するようにしてもよい。これらは、5次高調波の初期位相φの最大位相角を「磁気特性の変化で基本波電流If1の低減し始める」初期位相φの値に決定することに相当する。
【0176】
また、初期位相φの最大位相角を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも、「所定の損失」としての鉄損Pfeが下回る範囲の最大値となる初期位相φとして最大位相角を決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の鉄損Pfeに比べて、鉄損Pfeが低減する初期位相φの範囲の最大値となる初期位相φを最大位相角に決定してもよい。例えば、図14(b)では水平の破線として示される重畳率n/mが0のときの鉄損Pfeに比べて、鉄損Pfeが低減する初期位相φの範囲は-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下の範囲であるので、この範囲の初期位相φの最大値がπ/2[rad]となる。この場合、初期位相φの最大位相角がπ/2[rad]に決定される。
【0177】
次に、5次高調波の初期位相φの最小位相角を決定する(最小位相角決定ステップ、最小位相角決定工程)(S118ステップ)。
【0178】
この初期位相φの最小位相角を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合を基準とする基本波電流If1の低減量に比べて、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量が下回る範囲の最小値となる初期位相φを最小位相角に決定するようにしてもよい。まず、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の基本波電流If1を基準として、初期位相φが変化したときのその基準からの基本波電流If1の低減量を算出する。また、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の高調波電流Iharmonicを基準として、初期位相φが変化したときのその基準からの高調波電流Iharmonicの増加量を算出する。そして、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とする基本波電流If1の低減量と、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量とを比較して、基本波電流If1の低減量が高調波電流Iharmonicの増加量よりも下回る初期位相φの範囲を求め、この範囲の最小値となる初期位相φを初期位相φの最小位相角に決定するようにしてもよい。基本波電流If1の低減量が高調波電流Iharmonicの増加量よりも下回る状態では、基本波電流If1の低減量の絶対値の方が高調波電流Iharmonicの増加量の絶対値に比べて大きくなる。
【0179】
また、初期位相φの最小位相角を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも「所定の損失」としての鉄損Pfeが下回る範囲の最小値となる初期位相φを最小値に決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の鉄損Pfeに比べて、鉄損Pfeが低減する初期位相φの範囲の最小値として最小位相角を決定するようにしてもよい。例えば、図14(b)では水平の破線として示される重畳率n/mが0のときの鉄損Pfeに比べて、鉄損Pfeが低減する初期位相φの範囲は-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下の範囲であるので、この範囲の初期位相φの最小値が-π/4[rad]となる。この場合、初期位相φの最小位相角が-π/4[rad]に決定される。
【0180】
以上の初期位相φの最小位相角を決定する2つの方法は、最小位相角を「基本波電流If1の低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる」初期位相φの値に決定することに相当する。
【0181】
次に、初期位相φの設定値を設定する(初期位相設定ステップ、初期位相設定工程)(S119ステップ)。S117ステップで決定された初期位相φの最大位相角とS118ステップで決定された初期位相φの最小位相角との間の範囲で、上記式(11)に示す信号波h(t)の5次高調波の初期位相φの設定値を設定する。この初期位相φの設定値として、モータ駆動システム1を設計したり、製造したりする。すなわち、この初期位相φの設定値として、上記式(2)、式(4)、式(6)に示すモータ駆動システム1の三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)が設定される。
【0182】
なお、図16では、初期位相φを大きい側から小さい側に変化させて測定を行う流れを示したが、初期位相φを小さい側から大きい側に変化させるようにしてもよい。
【0183】
また、上記式(11)に示す信号波h(t)の5次高調波の初期位相φの設定値として、上記式(10)に示す基本正弦波g(t)の位相角がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値が、そのときの信号波h(t)の数値以上となる5次高調波の初期位相φに設定するようにしてもよい。すなわち、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ)の数値以上となる初期位相φに設定してもよい。
【0184】
<モータ試験による設定方法、設計方法及び製造方法>
次に、モータ試験によるモータ駆動システム1の設定方法、設計方法及び製造方法について説明する。
【0185】
図17は、このモータ駆動システム1の設定、設計及び製造に用いるモータ試験装置289の概略構成図である。このモータ試験装置289は、後述する特性評価試験2(モータ試験)で用いたモータ試験装置89と同じ構成である(このため、詳細は後述する特性評価試験2(モータ試験)を参照)。
【0186】
図18は、モータ試験の試験モータ(埋込構造永久磁石同期電動機273)の例を示す図であり、(a)はモータの概略断面図、(b)はモータの仕様を示す図である。このモータ試験の埋込構造永久磁石同期電動機273には、モータ駆動システム1に用いられる永久磁石同期モータ5と同一のモータが使用される。また、この試験モータ(埋込構造永久磁石同期電動機273)は、ロータとステータで構成され、ロータとステータの鉄心材料は上記のリング試験による方法に用いたリング試験装置109のリング試料101と同一の材料である。
【0187】
図17に示すIGBTインバータ271は、スイッチング素子としてSi-IGBT、還流ダイオードとしてSiダイオードを搭載した三相Si-IGBTインバータである。このIGBTインバータ271は、モータ駆動システム1の三相インバータ部2と同一の構成であり、このIGBTインバータ271に用いられているスイッチング素子と還流ダイオードは、モータ駆動システム1の三相インバータ部2に用いられているスイッチング素子S~Sと還流ダイオードD~Dと同じものである。
【0188】
このIGBTインバータ271の制御には、5次調波重畳PWM方式が採用される。すなわち、上記式(11)に示す5次高調波を重畳した信号波h(t)と、三角波として構成されるキャリア波との交点でパルス幅を切り替えてPWM信号を生成し、このPWM信号がIGBTインバータ271に入力される。PWM信号が入力されたIGBTインバータ271からは、埋込構造永久磁石同期電動機273を回転駆動させるPWM駆動電圧が出力され、この同期電動機273が回転する。
【0189】
電力の測定と波形の観測は、電力計測器272を用いて行われる。
【0190】
図19は、モータ試験の測定条件(重畳率)の例を示す図である。測定条件は、例として、回転速度ωを750[rpm]、平均トルクTを0.611[Nm]、キャリア周波数fを1[kHz]、IGBTインバータ271への入力電圧Vdcを50[V]とし、回転速度ωおよびトルクTが一定となるようにフィードバック制御することで、基本正弦波変調率mを調節する。また、図19に示す測定条件の例では、重畳率n/mを変化させて測定する範囲が、-0.25以上0以下の範囲となっているが、重畳率n/mがプラスになる範囲を含めて、プラス側とマイナス側にさらに広い重畳率n/mの範囲で変化させて測定してもよい。なお、図19では、5次高調波の初期位相φが0[rad]となっている。
【0191】
次に、モータ試験装置289の損失算出方法について説明する。IGBTインバータ271への入力電力Pinとモータ各相の入力電力P、P、P、モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rms、モータ各相の入力電流I、I、Iを測定し、損失の算出に用いる。
【0192】
モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rmsは、モータ各相の入力電流I、I、Iの実効値として測定、算出される。
【0193】
このモータ試験装置289の全体損失Ptotalは式(17)に示すように、インバータ損Pinv、銅損PCu、モータコア損・機械損Pcore&mechで構成される。インバータ損Pinvは、IGBTインバータ271への入力電力Pin、モータ各相の入力電力P、P、P、電力計測器272の損失Pw.mにより式(18)のように算出する。電力計測器272の損失Pw.mは、シャント抵抗Rshunt(=0.1[Ω])、接続ケーブルの抵抗Rcable(=0.012[Ω])、モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rmsにより式(19)のように算出する。銅損PCuは巻線抵抗R(=0.5[Ω])、モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rmsにより式(20)のように算出する。モータコア損・機械損Pcore&mechは、モータ各相の入力電力P、P、P、銅損PCu、機械出力ωTにより式(21)のように算出する。なお、モータコア損Pcoreと機械損Pmechは、いずれも直接測定することが困難であるため、機械損Pmechとモータコア損Pcoreを分類せず、モータコア損・機械損Pcore&mechとして損失を算出した。
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
以下に、重畳率n/mを変化させて測定したモータ試験における測定結果の例を示す。
【0194】
図20は、モータ試験による基本波電流If1_rmsと基本正弦波変調率mの例を示す図である。
【0195】
モータ試験における基本波電流If1_rmsは、モータ各相の入力電流I、I、Iから算出される基本正弦波周波数fの成分の実効値の相平均である。
【0196】
この図は、回転速度ω(=750[rpm])および平均トルクT(=0.611[Nm])が一定となるようにフィードバック制御することにより得られた基本正弦波変調率mの5次高調波の重畳率特性を示している。基本正弦波変調率mは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.25、-0.15、-0.1で減少している。また、基本波電流If1_rmsも、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.25、-0.15、-0.1で減少している。これは上記のリング試験の測定結果と同じ現象である(図10参照)。重畳率n/mが0未満のときが、「磁気特性の変化で基本波電流If1_rmsの低減し始める」重畳率n/mの値になるといえる。この値を重畳率n/mの上限に設定するようにしてもよい。
【0197】
図21は、モータ試験による全体損失Ptotalの例を示す図である。図中の水平の破線は、5次高調波の変調率nが0の場合、すなわち、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合の全体損失Ptotalの測定値を示している。
【0198】
全体損失Ptotalは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.25、-0.15、-0.1で減少している。また、重畳率n/mが-0.15のとき最小値を示し、5次高調波を重畳しない場合との比較で、損失低減率は1.5%である。また、重畳率n/mが-0.10のときも損失低減率が1.4%であり、損失が大きく低減されている。この図から、重畳率n/mが-0.25より小さくなると5次高調波を重畳しない場合に比べて、全体損失Ptotalが大きくなることが想定される。このように想定されるため、重畳率n/mが-0.25のとき、「基本波電流If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる」重畳率n/mの値になるといえる。この値を重畳率n/mの下限に設定するようにしてもよい。
【0199】
以下に、5次高調波の初期位相φを変化させて測定したモータ試験における測定結果の例を示す。
【0200】
図22は、5次高調波の初期位相φを変化させて測定を行うモータ試験の測定条件(位相角)の例を示す図である。この測定条件の例では、初期位相φを変化させて測定する範囲が、0[rad]とπ/4[rad]だけになっているが、初期位相φがマイナスになる範囲を含めて、プラス側とマイナス側にさらに広い初期位相φの範囲で変化させて測定してもよい。なお、図22では、重畳率n/mが-0.1と0となっている。
【0201】
図23は、モータ試験による基本正弦波変調率mと基本波電流If1_rmsの例を示す図である。横軸は左側が重畳率n/mが0の場合、中央が重畳率n/mが-0.1で5次高調波の初期位相φが0[rad]の場合、右側が重畳率n/mが-0.1で初期位相φがπ/4[rad]の場合を示す。
【0202】
この図は、回転速度ω(=750[rpm])および平均トルクT(=0.611[Nm])が一定となるようにフィードバック制御したときの基本正弦波変調率mである。基本正弦波変調率mと基本波電流If1_rmsは共に、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.1のとき減少している。また、重畳率n/mが-0.1の条件では、5次高調波の初期位相φが0[rad]よりもπ/4[rad]で基本正弦波変調率mと基本波電流If1_rmsが減少している。
【0203】
仮に初期位相φのデータが0[rad]とπ/4[rad]の2点だけであり、この範囲で考えれば、初期位相φがπ/4[rad]より小さくなると、「磁気特性の変化で基本波電流If1_rmsの低減し始める」といえる。この初期位相φの値(π/4)を最大位相角に設定するようにしてもよい。
【0204】
図24は、モータ試験による全体損失Ptotalの例を示す図である。図中の水平の破線は、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合(5次高調波の変調率nが0の場合)の全体損失Ptotalの測定値を示している。
【0205】
全体損失Ptotalは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.1のとき低減している。また、重畳率n/mが-0.1の条件では、5次高調波の初期位相φがπ/4[rad]よりも0[rad]で全体損失Ptotalが低減している。
【0206】
初期位相φをπ/4[rad]から小さくしていくと、全体損失Ptotalは初期位相φが0のときに減少している。しかし、初期位相φをさらに小さくしていくと全体損失Ptotalは増加していくことが予想される。そして、初期位相φをさらに小さくしていき、全体損失Ptotalが重畳率n/mが0のときの全体損失Ptotalとほぼ同じ値を示す初期位相φのとき、「基本波電流If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる」初期位相φの値といえる。この値を初期位相φの最小位相角に設定するようにしてもよい。
【0207】
図23図24に基づいて検討すると、図3(a)に示したように基本正弦波g(t)の位相角がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値が、そのときの信号波h(t)の数値以上となる5次高調波の初期位相φに設定され、動作すると、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、基本波電流If1_rmsが減少することが考えられる。また、全体損失Ptotalも低減することが考えられる。
【0208】
例えば、上記式(1)に示す基本正弦波g(t)と上記式(2)に示す信号波h(t)を用いて説明すると、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ)の数値以上となる初期位相φに設定されることになる。すなわち、g(t)(=m・sin(π/2)) >= h(t)(=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ))となる条件を満たすように5次高調波の初期位相φが設定されることになる。
【0209】
図25は、モータ試験で重畳率n/mを設定する概略的な流れを示す図である。
【0210】
このモータ試験では、5次高調波の初期位相φを0[rad]として、重畳率n/mを大きい側から小さい側に変化させて測定を行う。
【0211】
まず、重畳率n/mを最大値に設定する(S200ステップ)。例えば、重畳率n/mを-0.3以上かつ0.3以下の範囲で変化させる場合には、重畳率n/mを最大値となる0.3に設定する。
【0212】
次に、モータ試験装置289を測定条件に調整する(S201ステップ)。例えば、図19に示す測定条件であれば、モータ試験装置289を、回転速度ωを750[rpm]、平均トルクTを0.611[Nm]、キャリア周波数fを1[kHz]、IGBTインバータ271への入力電圧Vdcを50[V]とし、回転速度ωおよびトルクTが一定となるようにフィードバック制御することで、基本正弦波変調率mを調節する。そして、設定された重畳率n/mになるように上記式(11)に示す信号波h(t)を構成してPWM信号を生成し、このPWM信号をIGBTインバータ271に入力する。IGBTインバータ271からは、PWM信号に基づいてPWM駆動電圧が出力され、埋込構造永久磁石同期電動機273が回転駆動する。
【0213】
次に、モータ試験装置289のIGBTインバータ271への入力電力Pinとモータ各相の入力電力P、P、P、モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rms、モータ各相の入力電流I、I、Iを測定する(S202ステップ)。
【0214】
入力電力Pin等を測定後、重畳率n/mを所定量低下させて設定する(S203ステップ)。例えば、所定量を0.05とした場合、重畳率n/mを0.05低下させて設定する。
【0215】
このように設定された重畳率n/mが最小値以上であるか検査され、最小値以上の場合(S204ステップのYesの場合)、S201ステップに戻って測定が繰り返される。ここで、検査に用いられる重畳率n/mの最小値とは、例えば、重畳率n/mを-0.3以上かつ0.3以下の範囲で変化させる場合には、重畳率n/mが-0.3となる値である。
【0216】
設定された重畳率n/mが最小値以上でない場合(S204ステップのNoの場合)、各重畳率n/mの測定データについて、相平均の基本波電流If1_rms、モータコア損・機械損Pcore&mechなどの各損失P及び全体損失Ptotal、相平均の高調波電流Iharmonic_rmsを算出する(S205ステップ)。
【0217】
モータ試験における高調波電流Iharmonic_rmsは、モータ各相の入力電流I、I、Iから算出される基本正弦波周波数fの高調波成分(入力電流I、I、Iの高調波成分)の実効値の相平均である。
【0218】
次に、重畳率n/mの上限値を決定する(上限値決定ステップ、上限値決定工程)(S206ステップ)。
【0219】
この上限値を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも基本波電流If1_rmsが下回る範囲の上限となる重畳率n/mを重畳率n/mの上限値としてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の基本波電流If1_rmsに比べて、基本波電流If1_rmsが減少する重畳率n/mの範囲の上限となる重畳率n/mを上限値に決定するようにしてもよい。例えば、図20であれば、基本波電流If1_rmsは、重畳率n/mが0の場合に比べて、重畳率n/mが0より小さい範囲で減少しているため、この範囲の上限は重畳率n/mが0未満となる。この場合には、重畳率n/mの上限値を0未満と決定してもよい。これは、重畳率n/mの上限値を「磁気特性の変化で基本波電流If1_rmsの低減し始める」重畳率n/mの値に決定することに相当する。
【0220】
また、重畳率n/mの上限値を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合に比べて、「IGBTインバータ271への入力電力Pin、同期モータ各相の入力電力P、P、P、または、同期モータ各相の入力電流I、I、Iの内の少なくとも何れかに基づいて算出される所定の損失」としての全体損失Ptotalが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして上限値を決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0の場合の全体損失Ptotalに比べて、全体損失Ptotalが低減する重畳率n/mの範囲の上限となる重畳率n/mを上限値に決定してもよい。例えば、図21では重畳率n/mが0のときの全体損失Ptotalに比べて、全体損失Ptotalが低減する重畳率n/mの範囲は-0.25以上かつ0未満の範囲であるので、この範囲の重畳率n/mの上限が0未満となる。この場合、重畳率n/mの上限値が0未満に決定される。なお、所定の損失として、全体損失Ptotal以外のモータコア損・機械損Pcore&mech、インバータ損Pinv、銅損PCuなどその他の損失を用いてもよい。
【0221】
次に、重畳率n/mの下限値を決定する(下限値決定ステップ、下限値決定工程)(S207ステップ)。
【0222】
この下限値を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量に比べて、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/mを下限値に決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とするときの基本波電流If1_rmsの低減量と高調波電流Iharmonic_rmsの増加量との比較を用いて決定するようにしてもよい。まず、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の基本波電流If1_rmsを基準として、重畳率n/mが変化したときのその基準からの基本波電流If1_rmsの低減量を算出する。また、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の高調波電流Iharmonic_rmsを基準として、重畳率n/mが変化したときのその基準からの高調波電流Iharmonic_rmsの増加量を算出する。そして、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量と、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量とを比較して、基本波電流If1_rmsの低減量が高調波電流Iharmonic_rmsの増加量よりも下回る重畳率n/mの範囲を求め、この範囲の下限となる重畳率n/mを重畳率n/mの下限値に決定するようにしてもよい。基本波電流If1_rmsの低減量が高調波電流Iharmonic_rmsの増加量よりも下回る状態では、基本波電流If1_rmsの低減量の絶対値が高調波電流Iharmonic_rmsの増加量の絶対値より大きくなる。
【0223】
また、重畳率n/mの下限値を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも「所定の損失」としての全体損失Ptotalが下回る範囲の下限となる重畳率n/mを下限値に決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の全体損失Ptotalに比べて、全体損失Ptotalが低減する重畳率n/mの範囲の下限として下限値を決定するようにしてもよい。例えば、図21では重畳率n/mが0のときの全体損失Ptotalに比べて、全体損失Ptotalが低減する重畳率n/mの範囲は-0.25以上かつ0未満の範囲であるので、この範囲の重畳率n/mの下限が-0.25となる。この場合、重畳率n/mの下限値が-0.25に決定される。
【0224】
以上の重畳率n/mの下限値を決定する2つの方法は、下限値を「基本波電流If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる」重畳率n/mの値に決定することに相当する。
【0225】
次に、重畳率n/mの設定値を設定する(重畳率設定ステップ、重畳率設定工程)(S208ステップ)。S206ステップで決定された重畳率n/mの上限値とS207ステップで決定された重畳率n/mの下限値との間の範囲で、上記式(11)に示す信号波h(t)の重畳率n/mの設定値を設定する。この重畳率n/mの設定値として、モータ駆動システム1を設計したり、製造したりする。すなわち、この重畳率n/mの設定値として、上記式(2)、式(4)、式(6)に示すモータ駆動システム1の三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)が設定される。
【0226】
なお、図25では、重畳率n/mを大きい側から小さい側に変化させて測定を行う流れを示したが、重畳率n/mを小さい側から大きい側に変化させるようにしてもよい。また、5次高調波の初期位相φを0[rad]として重畳率n/mを変化させる流れを示したが、初期位相を0[rad]以外に設定して行うようにしてもよい。
【0227】
5次高調波の初期位相φが0[rad]などとしてあらかじめ固定されている場合には、図25に示した流れで重畳率n/mを設定して上記式(11)に示す信号波h(t)を決定すればよい。5次高調波の初期位相φが固定されておらず変化させて設定する場合には、続けて、以下に示すように初期位相φの設定値を決定する。
【0228】
図26は、モータ試験で5次高調波の初期位相φを設定する概略的な流れを示す図である。
【0229】
このモータ試験では、重畳率n/mを一定として、5次高調波の初期位相φを大きい側から小さい側に変化させて測定を行う。
【0230】
まず、重畳率n/mの上限値と下限値の範囲内で重畳率n/mを設定する(S210ステップ)。例えば、図25に示した重畳率n/mを設定する流れにより設定された重畳率n/mに設定する。図22に示す測定条件であれば、重畳率n/mを-0.1に設定する。設定したこの重畳率n/mに固定した状態で5次高調波の初期位相φを変化させる。
【0231】
次に、5次高調波の初期位相φを最大値に設定する(S211ステップ)。例えば、初期位相φを-3π/4[rad](=-135°)以上かつ3π/4[rad](=135°)以下の範囲で変化させる場合には、最大値となる3π/4[rad](=135°)に設定する。
【0232】
次に、モータ試験装置289を測定条件に調整する(S212ステップ)。例えば、図22に示す測定条件であれば、モータ試験装置289を、回転速度ωを750[rpm]、平均トルクTを0.611[Nm]、キャリア周波数fを1[kHz]、IGBTインバータ271への入力電圧Vdcを50[V]とし、回転速度ωおよびトルクTが一定となるようにフィードバック制御することで、基本正弦波変調率mを調節する。そして、設定された重畳率n/mになるように上記式(11)に示す信号波h(t)を構成してPWM信号を生成し、このPWM信号をIGBTインバータ271に入力する。IGBTインバータ271からは、PWM信号に基づいてPWM駆動電圧が出力され、埋込構造永久磁石同期電動機273が回転駆動する。
【0233】
次に、モータ試験装置289のIGBTインバータ271への入力電力Pinとモータ各相の入力電力P、P、P、モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rms、モータ各相の入力電流I、I、Iを測定する(S213ステップ)。
【0234】
入力電力Pin等を測定後、5次高調波の初期位相φを所定量低下させて設定する(S214ステップ)。例えば、所定量がπ/4[rad](=45°)であれば、初期位相φをπ/4[rad](=45°)低下させて設定する。
【0235】
このように設定された初期位相φが最小値以上であるか検査され、最小値以上の場合(S215ステップのYesの場合)、S212ステップに戻って測定が繰り返される。ここで、検査に用いられる5次高調波の初期位相φの最小値とは、例えば、初期位相φを-3π/4[rad](=-135°)以上かつ3π/4[rad](=135°)以下の範囲で変化させる場合には、初期位相φが-3π/4(=-135°)となる値である。
【0236】
設定された初期位相φが最小値以上でない場合(S215ステップのNoの場合)、各初期位相φの測定データについて、相平均の基本波電流If1_rms、モータコア損・機械損Pcore&mechなどの各損失P及び全体損失Ptotal、相平均の高調波電流Iharmonic_rmsを算出する(S216ステップ)。
【0237】
次に、5次高調波の初期位相φの最大位相角を決定する(最大位相角決定ステップ、最大位相角決定工程)(S217ステップ)。
【0238】
この初期位相φの最大位相角を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも基本波電流If1_rmsが下回る範囲の最大値となる初期位相φを初期位相φの最大位相角としてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の基本波電流If1_rmsに比べて、基本波電流If1が減少する初期位相φの範囲の最大値となる初期位相φを最大位相角に決定するようにしてもよい。これは、初期位相φの最大位相角を「磁気特性の変化で基本波電流If1_rmsの低減し始める」初期位相φの値に決定することに相当する。
【0239】
また、初期位相φの最大位相角を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも、「所定の損失」としての全体損失Ptotalが下回る範囲の最大値となる初期位相φとして最大位相角を決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の全体損失Ptotalに比べて、全体損失Ptotalが低減する初期位相φの範囲の最大値となる初期位相φを最大位相角に決定してもよい。
【0240】
次に、5次高調波の初期位相φの最小位相角を決定する(最小位相角決定ステップ、最小位相角決定工程)(S218ステップ)。
【0241】
この初期位相φの最小位相角を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量に比べて、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量が下回る範囲の最小値となる初期位相φを最小位相角に決定するようにしてもよい。まず、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の基本波電流If1_rmsを基準として、初期位相φが変化したときのその基準からの基本波電流If1_rmsの低減量を算出する。また、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の高調波電流Iharmonic_rmsを基準として、初期位相φが変化したときのその基準からの高調波電流Iharmonic_rmsの増加量を算出する。そして、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量と、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量とを比較して、基本波電流If1_rmsの低減量が高調波電流Iharmonic_rmsの増加量よりも下回る初期位相φの範囲を求め、この範囲の最小値となる初期位相φを初期位相φの最小位相角に決定するようにしてもよい。基本波電流If1_rmsの低減量が高調波電流Iharmonic_rmsの増加量よりも下回る状態では、基本波電流If1_rmsの低減量の絶対値の方が高調波電流Iharmonic_rmsの増加量の絶対値に比べて大きくなる。
【0242】
また、初期位相φの最小位相角を決定する方法として、5次高調波の変調率nが0(ゼロ)の場合よりも「所定の損失」としての全体損失Ptotalが下回る範囲の最小値となる初期位相φを最小位相角に決定するようにしてもよい。すなわち、重畳率n/mが0(ゼロ)の場合の全体損失Ptotalに比べて、全体損失Ptotalが低減する初期位相φの範囲の最小値として最小位相角を決定するようにしてもよい。
【0243】
以上の初期位相φの最小位相角を決定する2つの方法は、最小位相角を「基本波電流If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる」初期位相φの値に決定することに相当する。
【0244】
次に、初期位相φの設定値を設定する(初期位相設定ステップ、初期位相設定工程)(S219ステップ)。S217ステップで決定された初期位相φの最大位相角とS218ステップで決定された初期位相φの最小位相角との間の範囲で、上記式(11)に示す信号波h(t)の5次高調波の初期位相φの設定値を設定する。この初期位相φの設定値として、モータ駆動システム1を設計したり、製造したりする。すなわち、この初期位相φの設定値として、上記式(2)、式(4)、式(6)に示すモータ駆動システム1の三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)が設定される。
【0245】
なお、図26では、初期位相φを大きい側から小さい側に変化させて測定を行う流れを示したが、初期位相φを小さい側から大きい側に変化させるようにしてもよい。
【0246】
また、上記式(11)に示す信号波h(t)の5次高調波の初期位相φの設定値として、上記式(10)に示す基本正弦波g(t)の位相角がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値が、そのときの信号波h(t)の数値以上となる5次高調波の初期位相φに設定するようにしてもよい。
【0247】
以上は、このモータ駆動システム1の設定方法、設計方法及び製造方法として、上記式(10)に示す基本正弦波g(t)にその5次高調波を重畳した上記式(11)に示す信号波h(t)の重畳率n/mの上限値と下限値、重畳率n/mの設定値、5次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角、初期位相φの設定値を決定する方法について説明した。
【0248】
上記式(10)に示す基本正弦波g(t)に重畳する高調波は、5次高調波に限らず、5次以上の整数をaとして、a次高調波を重畳するようにしてもよい。この場合には、信号波h(t)は、式(22)として示される。
【数22】
上記のリング試験による方法や、上記のモータ試験による方法により、a次高調波を重畳した上記式(22)に示す信号波h(t)の重畳率n/mの上限値と下限値、重畳率n/mの設定値、a次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角、初期位相φの設定値を決定する。
【0249】
このように決定された信号波h(t)の重畳率n/mの上限値と下限値、重畳率n/mの設定値、a次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角、初期位相φの設定値により、モータ駆動システム1を設計したり、製造したりする。すなわち、上記式(7)~式(9)に示すモータ駆動システム1のa次高調波を重畳する場合の三相の信号波hua(t)、hva(t)、hwa(t)が設定される。
【0250】
次に、この発明の実施の形態に係るモータ駆動システム1の効果について説明する。
【0251】
本実施形態によれば、信号波h(t)に5次高調波が重畳され、重畳率n/mの上限が磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始めるn/mの値であり、n/mの下限が基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値であるように動作する。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システム1の損失を低減できる。
【0252】
また、本実施形態によれば、重畳率n/mが-0.3より大きくかつ0未満の範囲で動作するため、安定してモータ駆動システム1の損失を低減できる。
また、本実施形態によれば、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(5・π/2+φ)の数値以上となる5次高調波の初期位相φで動作する。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システム1の損失を低減できる。
また、本実施形態によれば、5次高調波の初期位相φの最大位相角が、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始める初期位相φの値、初期位相φの最小位相角が、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる初期位相φの値、で動作する。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システム1の損失を低減できる。
【0253】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)に5次以上のa次高調波が重畳され、重畳率n/mの上限が磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始めるn/mの値であり、n/mの下限が基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値であるように動作する。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システム1の損失を低減できる。
【0254】
また、本実施形態によれば、基本正弦波g(t)の位相角(2πft)がπ/2ラジアンのときの基本正弦波g(t)の数値m・sin(π/2)が、信号波h(t)=m・sin(π/2)+n・sin(a・π/2+φ)の数値以上となる5次以上のa次高調波の初期位相φで動作する。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システム1の損失を低減できる。
【0255】
また、本実施形態によれば、5次以上のa次高調波の初期位相φの最大位相角が、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始める初期位相φの値、初期位相φの最小位相角が、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなる初期位相φの値、で動作する。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システム1の損失を低減できる。
【0256】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)に5次高調波が重畳され、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始める重畳率n/mの値をn/mの上限とする上限値決定工程と、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値をn/mの下限とする下限値決定工程を有し、n/mの下限以上かつn/mの上限以下の範囲に重畳率n/mを設定するようにモータ駆動システム1が製造される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減するモータ駆動システム1が製造できる。
【0257】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)に5次以上のa次高調波が重畳され、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始める重畳率n/mの値をn/mの上限とする上限値決定工程と、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値をn/mの下限とする下限値決定工程を有し、n/mの下限以上かつn/mの上限以下の範囲に重畳率n/mを設定するようにモータ駆動システム1が製造される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減するモータ駆動システム1が製造できる。
【0258】
また、本実施形態によれば、重畳率n/mが-0.3より大きくかつ0未満の範囲に設定されてモータ駆動システム1が製造される。このようになっているため、安定して損失が低減するモータ駆動システム1を製造できる。
【0259】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)に5次高調波が重畳され、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始める重畳率n/mの値をn/mの上限とする上限値決定ステップと、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値をn/mの下限とする下限値決定ステップを有し、n/mの下限以上かつn/mの上限以下の範囲に重畳率n/mを設定するようにモータ駆動システム1が設計される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減するモータ駆動システム1が設計できる。
【0260】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)に5次以上のa次高調波が重畳され、磁気特性の変化で基本波電流If1、If1_rmsの低減し始める重畳率n/mの値をn/mの上限とする上限値決定ステップと、基本波電流If1、If1_rmsの低減効果より高調波成分による増加のほうが大きくなるn/mの値をn/mの下限とする下限値決定ステップを有し、n/mの下限以上かつn/mの上限以下の範囲に重畳率n/mを設定するようにモータ駆動システム1が設計される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減するモータ駆動システム1が設計できる。
【0261】
また、本実施形態によれば、重畳率n/mが-0.3より大きくかつ0未満の範囲に設定されてモータ駆動システム1が設計される。このようになっているため、安定して損失が低減するモータ駆動システム1を設計できる。
【0262】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)を構成する基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値がリング試験により決定されるようになっており、重畳率n/mの上限値が、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1が下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて鉄損Pfeが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして決定され、重畳率n/mの下限値が、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも鉄損Pfeが下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして決定される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0263】
また、本実施形態によれば、5次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角が、初期位相φを変化させて行うリング試験によって決定されるようになっており、最大位相角は、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1が下回る範囲の最大値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも鉄損Pfeが下回る範囲の最大値となる初期位相φとして決定され、最小位相角は、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量が下回る範囲の最小値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも鉄損Pfeが下回る範囲の最小値となる初期位相φとして最小位相角が決定される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システム1の損失が低減できる。
【0264】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)を構成する基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値がモータ試験により決定されるようになっており、重畳率n/mの上限値は、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1_rmsが下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして決定され、重畳率n/mの下限値は、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして決定される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0265】
また、本実施形態によれば、5次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角が、初期位相φを変化させて行うモータ試験により決定されるようになっており、最大位相角は、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1_rmsが下回る範囲の最大値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の最大値となる初期位相φとして決定され、最小位相角は、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量が下回る範囲の最小値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の最小値となる初期位相φとして決定される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、モータ駆動システム1の損失が低減できる。
【0266】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)を構成する基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次以上のa次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値がリング試験により決定されるようになっており、重畳率n/mの上限値が、a次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1が下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、a次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて鉄損Pfeが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして決定され、重畳率n/mの下限値が、a次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1の低減量に比べて、a次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、a次高調波の変調率nがゼロの場合よりも鉄損Pfeが下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして決定される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0267】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)を構成する基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次以上のa次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値がモータ試験により決定されるようになっており、重畳率n/mの上限値は、a次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1_rmsが下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、a次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして決定され、重畳率n/mの下限値は、a次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量に比べて、a次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、a次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして決定される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0268】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)を構成する基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値が、リング試験により決定されるようになっており、上限値決定工程では、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1が下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて鉄損Pfeが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして上限値が決定され、下限値決定工程では、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも鉄損Pfeが下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして下限値が決定され、重畳率設定工程では、下限値以上かつ上限値以下の範囲内で、信号波h(t)の重畳率n/mの設定値が設定されるようにモータ駆動システム1が製造される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失が低減するモータ駆動システム1を製造できる。
【0269】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)を構成する基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値が、モータ試験により決定されるようになっており、上限値決定工程では、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1_rmsが下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて全体損失Ptotalが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして上限値が決定され、下限値決定工程では、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして下限値が決定され、重畳率設定工程では、下限値以上かつ上限値以下の範囲内で、信号波h(t)の重畳率n/mの設定値が設定されるようにモータ駆動システム1が製造される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失が低減するモータ駆動システム1を製造できる。
【0270】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)を構成する基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値が、リング試験により決定されるようになっており、上限値決定ステップでは、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1が下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて鉄損Pfeが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして上限値が決定され、下限値決定ステップでは、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも鉄損Pfeが下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして下限値が決定され、重畳率設定ステップでは、下限値以上かつ上限値以下の範囲内で、信号波h(t)の重畳率n/mの設定値が設定されるようにモータ駆動システム1が設計される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失が低減するモータ駆動システム1を設計できる。
【0271】
また、本実施形態によれば、5次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角が、初期位相φを変化させて行うリング試験によって決定されるようになっており、最大位相角決定ステップでは、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1が下回る範囲の最大値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも鉄損Pfeが下回る範囲の最大値となる初期位相φとして最大位相角が決定され、最小位相角決定ステップでは、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1の低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonicの増加量が下回る範囲の最小値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも鉄損Pfeが下回る範囲の最小値となる初期位相φとして最小位相角が決定され、初期位相設定ステップでは、最小位相角以上かつ最大位相角以下の範囲内で、信号波h(t)の初期位相φの設定値が設定されるようにモータ駆動システム1が設計される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失が低減するモータ駆動システムを設定、設計できる。
【0272】
また、本実施形態によれば、信号波h(t)を構成する基本正弦波g(t)の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mの上限値と下限値が、モータ試験により決定されるようになっており、上限値決定ステップでは、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1_rmsが下回る範囲の上限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合に比べて全体損失Ptotalが下回る範囲の上限となる重畳率n/mとして上限値が決定され、下限値決定ステップでは、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量が下回る範囲の下限となる重畳率n/m、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の下限となる重畳率n/mとして下限値が決定され、重畳率設定ステップでは、下限値以上かつ上限値以下の範囲内で、信号波h(t)の重畳率n/mの設定値が設定されるようにモータ駆動システム1が設計される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失が低減するモータ駆動システム1を設計できる。
【0273】
また、本実施形態によれば、5次高調波の初期位相φの最大位相角と最小位相角が、初期位相φを変化させて行うモータ試験により決定されるようになっており、最大位相角決定ステップでは、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも基本波電流If1_rmsが下回る範囲の最大値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の最大値となる初期位相φとして最大位相角が決定され、最小位相角決定ステップでは、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする基本波電流If1_rmsの低減量に比べて、5次高調波の変調率nがゼロの場合を基準とする高調波電流Iharmonic_rmsの増加量が下回る範囲の最小値となる初期位相φ、または、5次高調波の変調率nがゼロの場合よりも全体損失Ptotalが下回る範囲の最小値となる初期位相φとして最小位相角が決定され、初期位相設定ステップでは、最小位相角以上かつ最大位相角以下の範囲内で、信号波h(t)の初期位相φの設定値が設定されるようにモータ駆動システム1が設計される。このようになっているため、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に比べて、損失が低減するモータ駆動システム1を設定、設計できる。
【0274】
また、本実施形態によれば、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)にその5次高調波を重畳した波形を信号波h(t)、h(t)、h(t)として用い、その信号波h(t)、h(t)、h(t)とキャリア波との交点でパルス幅を切り替えて三相のパルス幅変調駆動電圧を形成する三相のPWMドライブ信号を生成し、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)の変調率mに対する5次高調波の変調率nの比率である重畳率n/mが-0.25以上かつ-0.05以下、そして、5次高調波の初期位相φが-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下になっている。このようになっているため、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を信号波として用いる場合に比べて、損失を低減できる。
【0275】
また、本実施形態によれば、重畳率n/mが、-0.15以上かつ-0.1以下であるため、さらに損失が低減する。
【0276】
また、本実施形態によれば、5次高調波の初期位相φが、π/8[rad]以上かつ5π/16[rad]以下であるため、損失の低減の効果が向上する。また、初期位相φが0の場合に比べても、損失が低減する。
【0277】
また、本実施形態によれば、重畳率n/mが、-0.15以上かつ-0.1以下であり、5次高調波の初期位相φが、π/4[rad]であるため、安定して損失の低減の効果を得られる。また、初期位相φが0[rad]の場合に比べても、損失が低減する。
【0278】
また、本実施形態によれば、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)にその基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)の5次以上の高調波を重畳した波形を信号波hua(t)、hva(t)、hwa(t)として用い、その信号波hua(t)、hva(t)、hwa(t)とキャリア波との交点でパルス幅を切り替えて三相のパルス幅変調駆動電圧を形成する三相のPWMドライブ信号を生成し、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)の変調率mに対する5次以上の高調波の変調率nの比率である重畳率n/mが-0.25以上かつ-0.05以下、そして、5次以上の高調波の初期位相φが-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下である。このようになっているため、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を信号波として用いる場合に比べて、損失の低減が期待できる。
【0279】
また、本実施形態によれば、モータ制御部4のプログラムにより実現できるため、短期間での開発が可能となり、開発コストを低く抑えられ、また、柔軟な変更にも対応可能となる。
【0280】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限定されるものでなく、発明概念に含まれる範囲で要素の付加、削除、変更を行える。
【0281】
また、本発明は、三相モータだけでなく、六相モータや十二相モータなどの多相モータにも適用できる。
【0282】
[特性評価試験]
次に、本発明の構成を決定するために行った特性評価試験の結果を示す。
【0283】
一般的に高調波が増加するとそれに伴い損失も増加すると考えられる。しかし、モータコア材である磁性体の材料特性は非線形性を持つため、高調波を利用した損失低減が不可能とは断定できない。そこで、特性評価試験として、リング試験とモータ駆動試験を行い、5次調波重畳PWMの損失低減性について評価した。
【0284】
この特性評価試験では、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を信号波として用いた場合(重畳率n/mが0の場合)と、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)に5次高調波を重畳した信号波h(t)、h(t)、h(t)を用いた場合について試験を行っている。
【0285】
[特性評価試験1(リング試験)]
モータでの損失評価では、回転体であり磁束密度も分布しているため、非線形といった基礎的な磁気特性の把握が難しい。そこで、モータと同材料の軟磁性体で構成されたリング試験を行い、基礎的な磁気特性を評価した。
【0286】
図27は、特性評価試験1(リング試験)に係るリング試験装置69の概略構成図である。また、図28には、このリング試験に用いたリング試料61の仕様を示す。
【0287】
リング試料61である鉄心材料(コア材料)には、無方向性電磁鋼板35H300(日本製鉄(株)製)を使用した。IGBTインバータ62は、三菱電機(株)製のパワーモジュール(PM75RSD060)を用いた単相Si-IGBTインバータである。このIGBTインバータ62は、スイッチング素子としてSi-IGBT(三菱電機(株)製、PM75RSD060)、還流ダイオードとしてSiダイオード(三菱電機(株)製、RM30TB-H)を搭載している。
【0288】
測定条件は、基本正弦波周波数fを50[Hz]、キャリア周波数fを1[kHz]、直流電源63から供給されるIGBTインバータ62への入力電圧Vdcを15[V]とし、基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となるように基本正弦波変調率mを調節した。リング試験における基本正弦波磁束密度Bf1一定は、モータ試験における平均トルク一定に相当すると考えられる。
【0289】
一次電流I・二次電圧Vの測定には岩崎通信機(株)製の電流プローブ(SS-250)と電圧プローブ(SS-320)およびNational Instruments製のA/D変換器64(NI PXI-1031)を使用した。
【0290】
IGBTインバータ62の制御には、5次調波重畳PWM方式を採用する。すなわち、基本正弦波g(t)にその5次高調波を重畳した波形を信号波h(t)として用い、キャリア波との交点でパルス幅を切り替えてPWM信号によってIGBTインバータ62を制御する。
【0291】
次に、リング試験の鉄損算出方法について説明する。図27に示す一次電流Iと二次電圧Vを測定し、磁界の強さH、磁束密度Bを上記式(12)、式(13)のように求める。また、この磁界の強さHと磁束密度Bを用いて、上記式(14)のように鉄損Pfeを求める。ここで、上記式(12)、式(13)で求められる磁界の強さHと磁束密度Bにはキャリア高調波成分を含むので、磁化現象が複雑化する。そこで5次高調波重畳の影響を明確にするため、低次の周波数成分(f、f、f成分:fは基本正弦波周波数fの3次高調波の周波数、fは基本正弦波周波数fの5次高調波の周波数)を抽出することを考える。得られた磁界の強さHと磁束密度Bに対し、数値計算ソフトウェアMATLAB(登録商標)R2019b(The MathWorks,Inc.)によるcftool(近似曲線ツール)を用いたフィッティングを行い、メジャーループ成分Hmajor、Bmajorを算出する。これらより、メジャーループ鉄損Pmajorを上記式(15)のように算出する。また、上記式(16)のように、鉄損Pfeとメジャーループ鉄損Pmajorの差がキャリア高調波鉄損(マイナーループ鉄損)Pcarrierである。
【0292】
<リング試験(重畳率特性)>
5次高調波重畳の特性を評価するため、リング試験にて重畳率n/mを-0.25~0.25の範囲で変化させ、電磁気特性を測定した。
【0293】
図29に、リング試験の測定条件(重畳率特性)を示す。なお、5次高調波の初期位相φは0とした。
【0294】
図30は、信号波h(t)の波形を示す図であり、(a)は基本正弦波g(t)を示す図、(b)は基本正弦波g(t)に5次高調波を重畳した5次調波重畳信号を示す図である。横軸が時間、縦軸が信号の大きさを示す。図30(a)は、基本正弦波g(t)に5次高調波が重畳されていない信号を信号波とする場合に該当する。すなわち、5次高調波の変調率nが0の場合である。図30(b)は、重畳率n/mを-0.2としたときの信号波h(t)の波形である。
【0295】
図31は、リング試験による磁界の強さHと磁束密度Bの時間波形の測定結果を示す図であり、(a)は重畳率n/mが-0.2のときの測定波形を示す図、(b)は重畳率n/mが-0.2のときのメジャーループ成分を示す図、(c)は重畳率n/mが-0.1のときの測定波形を示す図、(d)は重畳率n/mが-0.1のときのメジャーループ成分を示す図である。また、図32は、リング試験による磁界の強さHと磁束密度Bの時間波形の測定結果を示す図であり、(a)は重畳率n/mが0のときの測定波形を示す図、(b)は重畳率n/mが0のときのメジャーループ成分を示す図、(c)は重畳率n/mが0.2のときの測定波形を示す図、(d)は重畳率n/mが0.2のときのメジャーループ成分を示す図である。
【0296】
横軸が時間、右側の縦軸が磁界の強さH、左側の縦軸が磁束密度Bを示す。
【0297】
重畳率n/mが0の場合は、5次高調波を付加せず基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いる場合に該当する。重畳率n/mが-0.2、-0.1、0.2の場合と、重畳率n/mが0の場合とを比べると、磁界の強さHと磁束密度Bの時間波形の形状が異なっており、5次高調波重畳により、磁化現象に変化が現れることがわかる。
【0298】
図33は、リング試験による磁界の強さHと磁束密度BのBHカーブの測定結果を示す図であり、(a)は重畳率n/mが-0.2のときの測定結果(実線)とメジャーループ成分(破線)を示す図、(b)は重畳率n/mが-0.1のときの測定結果(実線)とメジャーループ成分(破線)を示す図、(c)は重畳率n/mが0のときの測定結果(実線)とメジャーループ成分(破線)を示す図、(d)は重畳率n/mが0.2のときの測定結果(実線)とメジャーループ成分(破線)を示す図である。この図は、図31図32に示した測定データについて、横軸を磁界の強さH、縦軸を磁束密度Bとして表示したものである。なお、破線で示すグラフは、上述の方法で算出したメジャーループ成分Hmajor、Bmajorを示す。
【0299】
図34は、リング試験による基本波電流If1と基本正弦波変調率mの測定結果を示す図である。横軸は重畳率n/m、左側の縦軸は基本波電流If1、右側の縦軸は基本正弦波変調率mである。
【0300】
基本波電流If1は、基本波磁束密度Bf1を得るための励磁電流成分であり、重畳率n/mが0より大きいとき僅かに増加、重畳率n/mが0より小さいとき大きく減少する傾向がみられた。IGBTインバータ62への直流電圧Vdc一定下で、基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となるように基本正弦波変調率mが調節されており、重畳率n/mが0より大きくなると基本正弦波変調率mが増加し、重畳率n/mが0より小さくなると基本正弦波変調率mが減少している。つまり5次高調波の重畳により、基本正弦波磁束密度Bf1が一定の下で基本波電流If1の減少が生じることがいえる。
【0301】
図35は、リング試験による鉄損Pfe、メジャーループ鉄損Pmajor、キャリア高調波鉄損(マイナーループ鉄損)Pcarrierの測定結果を示す図であり、(a)は鉄損を示す図、(b)は重畳率n/mが0の場合を基準としたときの鉄損の変化率を示す図である。
【0302】
図35(b)は、重畳率n/mが0の場合の鉄損Pfe、メジャーループ鉄損Pmajor、キャリア高調波鉄損Pcarrierを基準として、重畳率n/mを変化させたときの鉄損Pfe、メジャーループ鉄損Pmajor、キャリア高調波鉄損Pcarrierの変化率を示している。
【0303】
重畳率n/mが0より大きい範囲では、鉄損Pfeが増加し、重畳率n/mが0より小さい範囲では、鉄損Pfeが減少している。また、重畳率n/mが-0.2のとき、鉄損Pfeが最小値を示し、鉄損低減率は3.3%であった。メジャーループ鉄損Pmajorは、重畳率n/mが-0.15、-0.1、-0.05のとき減少している。重畳率n/mが-0.1のとき、メジャーループ鉄損Pmajorは最小をとり、低減率は2.3%である。キャリア高調波鉄損Pcarrierは重畳率n/mが0より大きいとき増加し、重畳率n/mが0より小さいとき減少している。重畳率n/mが-0.25のとき最小を示し、キャリア高調波鉄損Pcarrierの鉄損低減率は17.8%である。
【0304】
5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.25以上かつ-0.05以下の範囲で、鉄損Pfeが低減している。
【0305】
図35(b)に示す鉄損Pfeの変化率のグラフについて重畳率n/mが-0.25よりも小さい範囲に外挿すると、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.3以上の範囲でも、鉄損Pfeが低減しているといえる。また、図35(b)に示す鉄損Pfeの変化率のグラフでは、重畳率n/mが0と-0.05の範囲でも鉄損Pfeが低減している。
【0306】
<リング試験(5次高調波の位相角特性)>
5次高調波の初期位相φの特性を評価するため、リング試験にて初期位相φを-3π/4[rad]~3π/4[rad]の範囲で変化させ、電磁気特性を測定した。
【0307】
図36は、リング試験の測定条件(5次高調波の位相角特性)を示す図である。なお、重畳率n/mは、-0.2で固定とした。また、この測定では、リング試料61の基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となるように、IGBTインバータ62への直流電圧Vdcを調節した。
【0308】
図37は、信号波h(t)の波形を示す図であり、(a)は基本正弦波g(t)を示す図、(b)は基本正弦波g(t)に初期位相φがπ/4[rad]の5次高調波を重畳した5次調波重畳信号を示す図である。横軸が時間、縦軸が信号の大きさを示す。図37(a)は、5次高調波の変調率nが0であり、基本正弦波g(t)に5次高調波が重畳されていない信号を信号波とする場合に該当する。図37(b)は、重畳率n/mを-0.2としたときの信号波h(t)の波形である。
【0309】
図38は、リング試験による5次高調波の初期位相φを変化させたときの測定結果を示す図であり、(a)は基本波電流If1を示す図、(b)は鉄損Pfeを示す図である。横軸が初期位相φ、縦軸が図38(a)では基本波電流If1図38(b)では鉄損Pfeである。また、図中の水平の破線は、5次高調波の変調率nが0の場合、すなわち、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合の基本波電流If1、鉄損Pfeの測定値を示している。
【0310】
基本波電流If1は、水平の破線に比べて、初期位相φが0[rad]以下で減少し、初期位相φがπ/4[rad]以上で増加している。
【0311】
鉄損Pfeは、水平の破線に比べて、初期位相φが-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下の範囲で低減しており、初期位相φがπ/4[rad]で最小値となっている。また、この測定データを整理して、初期位相φがπ/4[rad]とπ/2[rad]のプロットを直線で結び、初期位相φが0のプロットよりも鉄損Pfeが小さくなる範囲は、初期位相φがπ/4[rad]以上かつ5π/16[rad]以下の範囲であることが分かる。そして、この図から、初期位相φが3π/8[rad]以上かつπ/4[rad]以下の範囲でも、初期位相φが0のときより鉄損Pfeが小さくなっていることが確認できる。すなわち、5次高調波の初期位相φを3π/8[rad]以上かつ5π/16[rad]以下の範囲に設定すると、初期位相φが0のときよりも鉄損Pfeが小さくなっている。
【0312】
以上より、鉄損Pfeの低減効果を活かしたい場合、初期位相φを、-π/4[rad]以上かつπ/2[rad]以下の範囲に設定したり、3π/8[rad]以上かつ5π/16[rad]以下の範囲に設定したり、π/4[rad]に設定したりすることが有効であることが確認されたといえる。
【0313】
<リング試験(キャリア周波数特性)>
5次高調波のキャリア周波数fの特性を評価するため、リング試験にてキャリア周波数fを1[kHz]~20[kHz]の範囲で変化させ、電磁気特性を測定した。
【0314】
図39は、リング試験の測定条件(キャリア周波数特性)を示す図であり、(a)は基礎測定条件、(b)は5次高調波の重畳条件を示す図である。図39(b)に示すように重畳率n/mは、-0.2で固定とし、ケースXでは5次高調波の初期位相φを0、ケースYでは初期位相φをπ/4[rad]とした。また、この測定では、リング試料61の基本正弦波磁束密度Bf1が1[T]となるように、IGBTインバータ62への直流電圧Vdcを調節した。
【0315】
図40は、リング試験によるキャリア周波数fを変化させたときの測定結果を示す図であり、(a)は基本波電流If1を示す図、(b)鉄損Pfeを示す図である。横軸がキャリア周波数f、縦軸が図40(a)では基本波電流If1図40(b)では鉄損Pfeである。ひし形のプロットはケースXの測定結果を示し、三角形のプロットはケースYの測定結果を示す。また、丸プロットは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)の測定結果を示す。
【0316】
図40(a)に示すように、ケースX(重畳率n/mが-0.2、初期位相φが0[rad]の設定)の基本波電流If1は、全てのキャリア周波数fの範囲で最も小さくなっている。ケースY(重畳率n/mが-0.2、初期位相φがπ/4[rad]の設定)の基本波電流If1は、キャリア周波数fが10[kHz]以上の範囲で、5次高調波を重畳しない場合よりも、小さくなっている。
【0317】
図40(b)に示すように、ケースY(重畳率n/mが-0.2、初期位相φがπ/4[rad]の設定)の鉄損Pfeは、全てのキャリア周波数fの範囲で最も小さくなっている。ケースX(重畳率n/mが-0.2、初期位相φが0[rad]の設定)の鉄損Pfeは、キャリア周波数fが10[kHz]以下の範囲で、5次高調波を重畳しない場合よりも、小さくなっている。
【0318】
[特性評価試験2(モータ試験)]
次に、モータ試験の測定結果を示す。重畳率n/mが0以下の範囲の条件で、モータ駆動試験を行い、モータ駆動試験装置89の損失特性を評価した。
【0319】
図41は、特性評価試験2(モータ試験)に係るモータ試験装置89の概略構成図である。このモータ試験では、IGBTインバータ71を用いて、埋込構造永久磁石同期電動機(IPMSM)73を駆動する。
【0320】
図42は、モータ試験の試験モータ(埋込構造永久磁石同期電動機73)を示す図であり、(a)はモータの概略断面図、(b)はモータの仕様を示す図である。
【0321】
この埋込構造永久磁石同期電動機73は、ロータとステータで構成され、ロータとステータの鉄心材料はリング試験のリング試料61と同様に、無方向性電磁鋼板35H300(日本製鉄(株)製)である。また、永久磁石はボンド磁石(愛知製鋼(株)製、S5P-12ME)である。IGBTインバータ71は、スイッチング素子として三菱電機(株)製のパワーモジュール(PM75RSD060)を用いた三相Si-IGBTインバータ、還流ダイオードとしてSiダイオード(三菱電機(株)製、RM30TB-H)を搭載している。YOKOGAWA製PX-8000(電力計測器72)を用いて、電力の測定と波形の観測を行う。
【0322】
測定条件は、回転速度ωが750[rpm]、平均トルクTが0.611[Nm]、キャリア周波数fが1[kHz]、IGBTインバータ71への入力電圧Vdcが50[V]とした。回転速度ωおよびトルクTが一定となるようにフィードバック制御することで、基本正弦波変調率mを調節した。
【0323】
次に、モータ試験装置89の損失算出方法について説明する。IGBTインバータ71への入力電力Pinとモータ各相の入力電力P、P、P、モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rms、モータ各相の入力電流I、I、Iを測定し、損失の算出に用いる。試験装置89の全体損失Ptotalは上記式(17)に示すように、インバータ損Pinv、銅損PCu、モータコア損・機械損Pcore&mechで構成される。インバータ損Pinvは、IGBTインバータ71への入力電力Pin、モータ各相の入力電力P、P、P、電力計測器72の損失Pw.mにより上記式(18)のように算出する。電力計測器72の損失Pw.mは、シャント抵抗Rshunt(=0.1[Ω])、接続ケーブルの抵抗Rcable(=0.012[Ω])、モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rmsにより上記式(19)のように算出する。銅損PCuは巻線抵抗R(=0.5[Ω])、モータ各相の入力電流実効値Iu_rms、Iv_rms、Iw_rmsにより上記式(20)のように算出する。モータコア損・機械損Pcore&mechは、モータ各相の入力電力P、P、P、銅損PCu、機械出力ωTにより上記式(21)のように算出する。結果は7回の測定による平均値とし、誤差を標準偏差で表す。なお、モータコア損Pcoreと機械損Pmechは、いずれも直接測定することが困難であるため、本測定では、機械損Pmechとモータコア損Pcoreを分類せず、モータコア損・機械損Pcore&mechとして測定結果を得た。
【0324】
<モータ試験(重畳率特性)>
5次高調波重畳の特性を評価するため、モータ試験にて重畳率n/mを-0.25~0の範囲で変化させ損失特性を測定した。
【0325】
図43に、モータ試験の測定条件(重畳率特性)を示す。なお、5次高調波の初期位相φは0とした。
【0326】
図44は、三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)の波形を示す図であり、(a)は基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を示す図、(b)は基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)に5次高調波を重畳した5次調波重畳信号を示す図である。横軸が時間、縦軸が信号の大きさを示す。図44(a)は、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)に5次高調波が重畳されていない信号を信号波とする場合に該当する。すなわち、5次高調波の変調率nが0の場合である。図44(b)は、重畳率n/mを-0.1としたときの三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)の波形である。
【0327】
図45は、モータ試験による基本波電流If1_rmsと基本正弦波変調率mの測定結果を示す図である。
【0328】
この図は、回転速度ω(=750[rpm])および平均トルクT(=0.611[Nm])が一定となるようにフィードバック制御することにより得られた基本正弦波変調率mの5次高調波の重畳率特性を示している。基本正弦波変調率mは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.25、-0.15、-0.1で減少している。また、観測波形より得られた相平均の基本波電流If1_rmsも、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.25、-0.15、-0.1で減少している。これはリング試験の測定結果と同じ現象である(図34参照)。
【0329】
図46に、モータ試験による全体損失Ptotalの測定結果を示す。横軸が重畳率n/m、縦軸が全体損失Ptotalである。また、図中の水平の破線は、5次高調波の変調率nが0の場合、すなわち、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合の全体損失Ptotalの測定値を示している。
【0330】
全体損失Ptotalは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.25、-0.15、-0.1で減少している。また、重畳率n/mが-0.15のとき最小値を示し、5次高調波を重畳しない場合との比較で、損失低減率は1.5%である。また、重畳率n/mが-0.10のときも損失低減率が1.4%であり、損失が大きく低減されている。
【0331】
このように、重畳率n/mが-0.15、-0.10のとき、損失低減の効果が高いことが確認された。また、この測定結果から、重畳率n/mが0と-0.10の中間の-0.05でも、損失が低減することが容易に推測される。
【0332】
以上より、損失低減ため、重畳率n/mを、-0.25以上かつ-0.05以下の範囲に設定したり、-0.15以上かつ-0.10以下の範囲に設定したりすることが有効である。
【0333】
また、以下に示すようにこのモータ試験(重畳率特性)において、重畳率n/mが-0.15、-0.10のとき、全体損失Ptotalを構成するインバータ損Pinv、銅損PCu、モータコア損・機械損Pcore&mechのすべての損失が、5次高調波を重畳しない場合に比べて低減した。すなわち「銅損PCu、インバータ損Pinvが大きくなると想定される低速・高トルク条件」と「モータコア損・機械損Pcore&mechが大きくなると想定される高速・低トルク条件」の両者において、重畳率n/mが-0.15、-0.10の5次高調波重畳が有効である可能性がある。
【0334】
図47に、モータ試験によるモータコア損・機械損Pcore&mechの測定結果を示す。図中の水平の破線は、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合(5次高調波の変調率nが0の場合)のモータコア損・機械損Pcore&mechの測定値を示している。
【0335】
モータコア損・機械損Pcore&mechは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.15、-0.1のとき減少している。また、重畳率n/mが-0.10のとき最小値を示し、5次高調波を重畳しない場合との比較で、損失低減率は2.5%である。ここで、回転速度一定より、機械損Pmechが一定であると仮定する。この場合、モータコア損Pcoreの減少理由は、メジャーループ鉄損Pmajorとキャリア高調波鉄損Pcarrierの減少にあると上記のリング試験より考察される。特に重畳率n/mが-0.25の場合を含め、リング試験におけるメジャーループ鉄損Pmajorの傾向と酷似している(図35参照)。
【0336】
図48に、モータ試験による銅損PCuと基本波電流銅損PCu_If1の測定結果を示す。図中の水平の破線は、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合(5次高調波の変調率nが0の場合)の測定値を示している。
【0337】
基本波電流銅損PCu_If1は、図45の基本波電流If1_rmsを用いて、上記式(20)同様に算出する。銅損PCuは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.15、-0.1のとき減少している。また、重畳率n/mが-0.10のとき最小値を示し、5次高調波を重畳しない場合との比較で、損失低減率は0.4%である。重畳率n/mの絶対値が大きくなるにつれて、高調波銅損(=PCu-PCu_If1)が大きくなる一方、基本波電流銅損PCu_If1は小さくなる。これより、銅損PCuは、基本波電流If1_rmsの減少によることがわかる。
【0338】
図49に、モータ試験によるインバータ損Pinvの測定結果を示す。
【0339】
インバータ損Pinvは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.25、-0.15、-0.1で減少している。また、重畳率n/mが-0.25のとき最小値を示し、5次高調波を重畳しない場合との比較で、損失低減率は5.1%である。
【0340】
<モータ試験(5次高調波の位相角特性)>
5次高調波の初期位相φの特性を評価するため、モータ試験にて初期位相φを0[rad]とπ/4[rad]に設定して損失特性を測定した。
【0341】
図50に、モータ試験の測定条件(5次高調波の位相角特性)を示す。なお、重畳率n/mは-0.1とした。
【0342】
図51は、三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)の波形を示す図であり、(a)は基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)を示す図、(b)は基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)に初期位相φがπ/4[rad]の5次高調波を重畳した5次調波重畳信号を示す図である。横軸が時間、縦軸が信号の大きさを示す。図51(a)は、基本正弦波g(t)、g(t)、g(t)に5次高調波が重畳されていない信号を信号波とする場合に該当する(5次高調波の変調率nが0の場合)。図51(b)は、重畳率n/mが-0.1、初期位相φがπ/4[rad]の5次高調波を重畳したときの三相の信号波h(t)、h(t)、h(t)の波形である。
【0343】
図52に、モータ試験による基本正弦波変調率mと基本波電流If1_rmsの測定結果を示す。横軸は左側が重畳率n/mが0の場合、中央が重畳率n/mが-0.1で5次高調波の初期位相φが0[rad]の場合、右側が重畳率n/mが-0.1で初期位相φがπ/4[rad]の場合を示す。
【0344】
この図は、回転速度ω(=750[rpm])および平均トルクT(=0.611[Nm])が一定となるようにフィードバック制御したときの基本正弦波変調率mである。基本正弦波変調率mと基本波電流If1_rmsは共に、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.1のとき減少している。また、重畳率n/mが-0.1の条件では、5次高調波の初期位相φが0[rad]よりもπ/4[rad]で基本正弦波変調率mと基本波電流If1_rmsが減少している。
【0345】
図53は、モータ試験による全体損失Ptotalの測定結果を示す図である。横軸は左側が重畳率n/mが0の場合、中央が重畳率n/mが-0.1で5次高調波の初期位相φが0[rad]の場合、右側が重畳率n/mが-0.1で初期位相φがπ/4[rad]の場合を示し、縦軸は全体損失Ptotalである。また、図中の水平の破線は、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合(5次高調波の変調率nが0の場合)の全体損失Ptotalの測定値を示している。
【0346】
全体損失Ptotalは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.1のとき低減している。また、重畳率n/mが-0.1の条件では、5次高調波の初期位相φがπ/4[rad]よりも0[rad]で全体損失Ptotalが低減している。
【0347】
後述するように、重畳率n/mが-0.1の条件で、5次高調波の初期位相φが0[rad]とπ/4[rad]の場合の試験結果を比較すると、以下のようになった。
【0348】
5次高調波を重畳しない場合に対するモータコア損・機械損Pcore&mechの低減率は、初期位相φがπ/4[rad]の方が、0[rad]に比べて大きい数値を示した。銅損PCuの低減率は、初期位相φが0[rad]の方が、π/4[rad]に比べて僅かに大きい数値を示した。インバータ損Pinvの低減率は、初期位相φが0[rad]の方が、π/4[rad]に比べて大きい数値を示した。
【0349】
この結果に基づいて、次のような発明の構成も考えられる。低速・高トルク条件では、銅損PCu、インバータ損Pinvが大きくなると想定され、高速・低トルク条件では、モータコア損・機械損Pcore&mechが大きくなると想定される。
【0350】
そうすると、所定の回転速度閾値などの所定閾値をあらかじめ設定しておき、外部から入力されるモータの制御指令である回転速度指令などの指令値が、この所定閾値よりも小さい場合には5次高調波の初期位相φを0[rad]とし、指令値が所定閾値以上の場合には初期位相φをπ/4[rad]に切り替えて基本正弦波g(t)に重畳し信号波h(t)を生成するようにしてもよい。
【0351】
また、所定のトルク閾値などの所定閾値をあらかじめ設定しておき、外部から入力されるモータの制御指令であるトルク指令などの指令値が、この所定閾値以上の場合には5次高調波の初期位相φを0[rad]とし、指令値が所定閾値より小さい場合には初期位相φをπ/4[rad]に切り替えて基本正弦波g(t)に重畳し信号波h(t)を生成するようにしてもよい。
【0352】
また、入力される指令値に代えて、作動中のモータの回転速度やトルクを検出し、この検出した回転速度やトルクが所定閾値に達したときに5次高調波の初期位相φを切り替えるようにしてもよい。
【0353】
また、所定閾値に達したときの初期位相φの切り替えは、不連続に切り替えるのでなく、直線的または曲線的に滑らかに切り替えるようにしてもよい。また、所定閾値として小さい側の所定閾値と大きい側の所定閾値の2個を用意しておき、検出された回転速度やトルクが小さい側の所定閾値に達し5次高調波の初期位相φが切り替わると、その後は大きい側の所定閾値に設定され、検出された回転速度やトルクが大きい側の所定閾値に達して初期位相φが切り替わると、その後は小さい側の所定閾値に設定されるように、所定閾値の設定にヒステリシスを持たせるようにしてもよい。
【0354】
このように、モータへの指令値や作動中のモータの検出値などの入力値に基づいて、基本正弦波g(t)に重畳する5次高調波の初期位相φを切り替えるようにしてもよい。
【0355】
また、所定の回転速度閾値などの所定閾値をあらかじめ設定しておき、外部から入力される回転速度指令などの指令値が、この所定閾値よりも小さい場合には初期位相φを0[rad]からπ/4[rad]に向けて連続的に変化させ、指令値が所定閾値以上の場合には初期位相φがπ/4[rad]となるように基本正弦波g(t)に重畳し信号波h(t)を生成するようにしてもよい。この場合、π/4[rad]が5次高調波に加えられる最大の初期位相φとなる。初期位相φを連続的に変化させる方法は、直線的に変化させてもよいし、曲線的に変化させるようにしてもよい。
【0356】
また、所定のトルク閾値などの所定閾値をあらかじめ設定しておき、外部から入力されるトルク指令などの指令値が、この所定閾値以上の場合には初期位相φをπ/4[rad]から0[rad]に向けて連続的に変化させ、指令値が所定閾値より小さい場合には初期位相φがπ/4[rad]となるように基本正弦波g(t)に重畳し信号波h(t)を生成するようにしてもよい。
【0357】
また、入力される指令値に代えて、作動中のモータの回転速度やトルクを検出し、この検出した回転速度やトルクに基づいて、5次高調波の初期位相φを変化させるようにしてもよい。
【0358】
このように、モータへの指令値や作動中のモータの検出値などの入力値に基づいて、基本正弦波g(t)に重畳する5次高調波の初期位相φを連続的に変化させるようにしてもよい。
【0359】
すなわち、重畳する5次高調波の初期位相φが固定値でなく、変化するようにしてもよい。また、5次高調波の初期位相φの変化の状態が、所定閾値に基づいて切り替わるようにしてもよい。
【0360】
図54に、モータ試験によるモータコア損・機械損Pcore&mechの測定結果を示す。図中の水平の破線は、基本正弦波g(t)を信号波h(t)として用いた場合(5次高調波の変調率nが0の場合)のモータコア損・機械損Pcore&mechの測定値を示している。
【0361】
モータコア損・機械損Pcore&mechは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.1のとき低減している。また、重畳率n/mが-0.1の条件では、5次高調波の初期位相φが0[rad]よりもπ/4[rad]でモータコア損・機械損Pcore&mechが低減している。初期位相φをπ/4[rad]としたときの損失低減率は、5次高調波を重畳しない場合と比較して3.4%である。
【0362】
「モータコア損・機械損Pcore&mechが大きくなると想定される高速・低トルク条件」では、5次高調波の初期位相φをπ/4[rad]に設定する方が有効であると考えられる。
【0363】
図55に、モータ試験による銅損PCuと基本波電流銅損PCu_If1の測定結果を示す。図中の水平の破線は、5次高調波の変調率nが0の場合の銅損PCuの測定値を示している。
【0364】
銅損PCuは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.1のとき低減している。また、重畳率n/mが-0.1の条件では、5次高調波の初期位相φがπ/4[rad]の場合に比べ、0[rad]の銅損PCuが低減している。初期位相φを0[rad]としたときの損失低減率は、5次高調波を重畳しない場合と比較して0.4%である。
【0365】
基本波電流銅損PCu_If1は、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.1のとき低減している。また、重畳率n/mが-0.1の条件では、5次高調波の初期位相φが0[rad]の場合に比べ、π/4[rad]の基本波電流銅損PCu_If1が低減している。
【0366】
図56に、モータ試験によるインバータ損Pinvの測定結果を示す。図中の水平の破線は、5次高調波の変調率nが0の場合のインバータ損Pinvの測定値を示している。
【0367】
インバータ損Pinvは、5次高調波を重畳しない場合(重畳率n/mが0の場合)に比べて、重畳率n/mが-0.1のとき低減している。また、重畳率n/mが-0.1の条件では、5次高調波の初期位相φがπ/4[rad]の場合に比べ、0[rad]のインバータ損Pinvが低減している。初期位相φを0[rad]としたときの損失低減率は、5次高調波を重畳しない場合と比較して2.2%である。
【符号の説明】
【0368】
1…モータ駆動システム、2…三相インバータ部、3…昇圧チョッパ部、4…モータ制御部、5…永久磁石同期モータ、6…ステータコイル、7…ロータ、S,S,S,S,S,S…スイッチング素子、D,D,D,D,D,D…還流ダイオード、8,8,8,8,8,8…スイッチング素子入力部、9…電流センサ、10…位置センサ、11…バッテリ、12…インダクタ、13…コンデンサ、Sc…チョッパ部用スイッチング素子、15…ダイオード、40…CPU、41…ROM、42…RAM、43…信号波生成部、44…キャリア波生成部、45…PWMドライブ信号生成部、46…PWMドライブ信号出力部、47…昇圧チョッパ制御信号出力部、48…ロータ検出位置受付部、49…モータ入力電流値受付部、50…指令値受付部、60…5次調波重畳PWMコントローラ、61…リング試料、62…IGBTインバータ、63…直流電源、64…A/D変換器、69…リング試験装置、70…5次調波重畳PWMコントローラ、71…IGBTインバータ、72…電力計測器、73…埋込構造永久磁石同期電動機(IPMSM)、74…エンコーダ、75,76…トルク計、77…パワーアナライザ、78…負荷、79…BLDCモータ、80…整流器、81…MCU&MOSFET、89…モータ試験装置、109…リング試験装置、100…5次調波重畳PWMコントローラ、101…リング試料、102…IGBTインバータ、103…直流電源、104…A/D変換器、108,108、108,108…スイッチング素子入力部、289…モータ試験装置、270…5次調波重畳PWMコントローラ、271…IGBTインバータ、272…電力計測器、273…埋込構造永久磁石同期電動機、274…エンコーダ、275…トルク計、276…トルク計、277…パワーアナライザ、278…負荷、279…BLDCモータ、280…整流器、281…MCU&MOSFET
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