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特開2024-141462ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141462
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CET
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053136
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大嗣
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA32
4F074AA33
4F074AC02
4F074AC32
4F074AD10
4F074AD16
4F074AG03
4F074AG10
4F074AG11
4F074AG20
4F074BA34
4F074BA37
4F074BA38
4F074BA53
4F074BA75
4F074BA95
4F074BC12
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA07
4F074DA12
4F074DA23
4F074DA32
(57)【要約】
【課題】発泡剤として塩化アルキルおよび水を用いてポリスチレン系樹脂押出発泡体を製造する際の、腐食性ガスによる設備の腐食を抑制する
【解決手段】ポリスチレン系樹脂および発泡剤を含む組成物を溶融混練し、低圧域に押出して発泡成形することにより、ポリスチレン系樹脂押出発泡体を製造する。発泡剤は、少なくとも、塩化アルキルおよび水を含む。組成物は、ポリスチレン系樹脂および発泡剤に加えて、酸中和剤を含む。組成物において、塩化アルキルに対する酸中和剤の量は、モル比で0.003倍以上が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂および発泡剤を含む組成物を溶融混練し、低圧域に押出して発泡成形する、ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法であって、
前記発泡剤は、少なくとも、塩化アルキルおよび水を含み、
前記組成物は、さらに酸中和剤を含み、
前記組成物において、塩化アルキルに対する前記酸中和剤の量が、モル比で、0.003倍以上である、
ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記酸中和剤がアルカリ金属塩である、請求項1に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記中和剤がアルカリ金属の炭酸塩または炭酸水素塩である、請求項2に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項4】
前記酸中和剤が水溶性である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記酸中和剤を、前記発泡剤の水に溶解させた状態で、前記ポリスチレン系樹脂と混合して溶融混練する、請求項4に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記組成物における酸中和剤の量が、前記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.02重量部以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項7】
前記組成物における塩化アルキルの量が、前記ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、1~8重量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項8】
前記発泡体の熱伝導率が0.0284W/mK以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【請求項9】
前記発泡体の厚みが10mm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、高い断熱性を有することから、住宅および建築物、ならびに保冷庫等の断熱材として用いられている。ポリスチレン系樹脂押出発泡体は、ポリスチレン系樹脂および発泡剤を含む組成物を押出機で溶融混練した後、ダイのスリット等を通じて低圧域に押出することにより製造される。
【0003】
ポリスチレン系樹脂押出発泡体の断熱性を高める手法として、塩化メチル、塩化エチル等の塩化アルキルを発泡剤として使用することが提案されている(例えば、特許文献1~3)。発泡剤として塩化アルキル等の低熱伝導率の(断熱性の高い)気体を用いることにより、発泡体の気泡内に低熱伝導率の気体が封入されるため、発泡体の断熱性が高められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-330351号公報
【特許文献2】特開2019-108416号公報
【特許文献3】特開2019-189811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発泡剤として塩化アルキルを用いることにより、断熱性の高い発泡体が得られる。また、発泡剤として水を用いることにより、厚みの大きい発泡体が容易に得られる。しかし、発泡剤として塩化アルキルと水を併用すると、設備の腐食が進行しやすい。かかる課題に鑑み、本発明は、設備の腐食を抑制しつつ、断熱性に優れかつ大きな厚みを有するポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、ポリスチレン系樹脂および発泡剤を含む組成物を溶融混練し、低圧域に押出して発泡成形する、ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法である。発泡剤は、少なくとも塩化アルキルおよび水を含む。組成物中のポリスチレン系樹脂100重量部に対する塩化アルキルの量は、1~8重量部であってもよい。
【0007】
組成物は、ポリスチレン系樹脂および発泡剤に加えて、さらに酸中和剤を含む。組成物中の塩化アルキルに対する酸中和剤の量は、モル比で、0.003倍以上が好ましい。組成物中のポリスチレン系樹脂100重量部に対する酸中和剤の量は、0.02重量部以上であってもよい。
【0008】
酸中和剤としては、アルカリ金属塩が挙げられる。酸中和剤は、アルカリ金属の炭酸塩または炭酸水素塩であってもよい。
【0009】
酸中和剤は、水溶性であってもよい。水溶性の酸中和剤を発泡剤としての水に溶解させて水溶液とし、この水溶液をポリスチレン系樹脂と混合して組成物を調製してもよい。
【0010】
発泡体の厚みは10mm以上であってもよい。発泡体の熱伝導率は0.0284W/mK未満であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
発泡剤として塩化アルキルおよび水を用いることにより、断熱性が高くかつ大きな厚みを有し、美麗な表面を有するポリスチレン系樹脂押出発泡体を提供できる。また、発泡体の作製に用いられる組成物が所定量の酸中和剤を含むことにより、塩化アルキルと水の反応による腐食性ガスの生成・拡散を抑制可能であり、設備の劣化を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ポリスチレン系樹脂および発泡剤を含む組成物を溶融混練して、低圧域に押出して発泡成形する、ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【0013】
[組成物]
ポリスチレン系樹脂を含む樹脂組成物に発泡剤を配合して溶融混練することにより、発泡性溶融組成物を調製する。すなわち、発泡性溶融組成物は、少なくとも、ポリスチレン系樹脂および発泡剤を含む。以下では、発泡性溶融組成物を、単に「組成物」と記載し、発泡剤を含まない組成物を「樹脂組成物」と記載する。
【0014】
以下では、組成物に含まれる各成分について、順に詳述する。なお、以下に記載する各成分は、特に断りがない限り、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
<ポリスチレン系樹脂>
ポリスチレン系樹脂は、スチレン系ポリマーを含む。スチレン系ポリマーとしては、スチレン系モノマーの単独重合体(ポリスチレン);2種以上のスチレン系モノマーの共重合体;スチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。スチレン系ポリマーが共重合体である場合、モノマー全体におけるスチレン系モノマーの量は、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。共重合体のポリマーシーケンスは特に限定されず、ランダム共重合体およびブロック共重合体のいずれでもよい。共重合体は、グラフト共重合体であってもよい。スチレン系ポリマーは、分岐構造を有するポリマーであってもよい。
【0016】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等が挙げられる。他のモノマーとしては、ジビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物;アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;ブタジエン等のジエン系化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2)-クロロフェニルマレイミド、N-(4)-ブロモフェニルマレイミド、N-(1)-ナフチルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物等が挙げられる。
【0017】
スチレン系ポリマーとしては、比較的安価であり、押出発泡成形に適している等の観点から、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ジエン系化合物共重合体(耐衝撃性ポリスチレン、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体)等が好ましい。
【0018】
ポリスチレン系樹脂は、本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、スチレン系ポリマー以外のポリマーを含むブレンド物であってもよい。例えば、ポリスチレン系樹脂は、ゴム強化ポリスチレン(ジエン系ゴム強化ポリスチレン、アクリル系ゴム強化ポリスチレン等)であってもよい。ポリスチレン系樹脂は、スチレン系ポリマーと他のポリマーとの混合物であってもよい。スチレン系ポリマー以外のポリマーとしては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、アクリル系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【0019】
ポリスチレン系樹脂がスチレン系ポリマー以外のポリマーを含む場合、その含有量は、スチレン系ポリマー100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましく、3重量部以下または1重量部以下であってもよい。ポリスチレン系樹脂におけるスチレン系ポリマーの含有量は、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましく、97重量%以上、99重量%以上または100重量%であってもよい。
【0020】
ポリスチレン系樹脂は、成形加工時の溶融粘度、メルトフローレート、溶融張力等を調整する目的で、共重合成分、分子量、分子量分布、分岐構造、メルトフローレート等の異なる2種以上のポリマーを混合したものでもよい。ポリスチレン系樹脂は、市販されているポリスチレン系樹脂(いわゆる、バージン樹脂)であってもよく、再生ポリスチレン系樹脂(例えば、発泡体の製造等に使用された後に再生押出機等を用いてリサイクルされた再生ポリスチレン系樹脂、および、市場で回収された食品トレーや魚箱からリサイクルされた再生ポリスチレン系樹脂等)でもよい。バージン樹脂と再生ポリスチレン系樹脂を混合してもよい。
【0021】
ポリスチレン系樹脂のJIS K7210に基づいて測定されるメルトフローレート(MFR)は、50g/10分以下が好ましい。MFRが50g/10分以下であれば、溶融混練時にポリスチレン系樹脂中に発泡剤が均一に分散しやすく、安定して押出および発泡成形を行うことができるため、生産安定性が向上する。ポリスチレン系樹脂のMFRは、0.5~40g/10分、または1~30g/10分であってもよい。
【0022】
<発泡剤>
本発明の製造方法では、発泡剤として、塩化アルキルおよび水を用いる。
【0023】
塩化アルキルとしては、気体状態の熱伝導率が小さく断熱性向上への寄与が大きいことから、塩化メチルまたは塩化エチルが好ましい。
【0024】
塩化アルキルの使用量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、1~8重量部が好ましく、2重量部~7重量部がより好ましく、2.5~5重量部がさらに好ましい。発泡体における塩化アルキルの量は、発泡体1kgあたり、0.1~1molが好ましく、0.2~8molまたは0.25~7molであってもよい。塩化アルキルの量が少ない場合は、塩化アルキルによる断熱性の向上効果を十分に発揮できない場合がある。一方、塩化アルキルの量が過度に多い場合は、ポリスチレン系樹脂に対する可塑化作用が大きく、発泡体の耐熱性低下や強度低下の原因となる場合がある。
【0025】
発泡剤として水を使用することにより、表面張力が高められ、相対的に大きな気泡径を有する気泡が形成されやすいため、厚みの大きい発泡体を形成できる。水の使用量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.1~3重量部が好ましく、0.3~2重量部がより好ましく、0.4~1.5重量部がさらに好ましい。水の量が少ない場合は、厚みの大きい発泡体を得ることが困難となる場合がある。一方、水の量が過度に多い場合は、粗大な気泡が形成されやすく、気孔が発生する等により、発泡体の外観不良や断熱性の低下を生じる場合がある。
【0026】
発泡剤として、塩化アルキルおよび水に加えて、発泡剤として機能し得る他の発泡剤を使用してもよい。例えば、発泡剤として、ハイドロフルオロオレフィン、および/またはハイドロクロロフルオロオレフィンを用いることにより、押出発泡体の断熱性がさらに向上する傾向がある。
【0027】
ハイドロフルオロオレフィンとしては、気体の熱伝導率が小さくかつ安全性が高いことから、テトラフルオロプロペンが好ましい。テトラフルオロプロペンの具体例としては、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)等が挙げられる。ハイドロクロロフルオロオレフィンとしては、気体の熱伝導率が小さくかつ安全性が高いことから、ハイドロクロロトリフルオロプロペンが好ましい。ハイドロクロロトリフルオロプロペンの具体例として、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)が挙げられる。
【0028】
発泡剤としてハイドロフルオロオレフィンおよび/またはハイドロクロロフルオロオレフィンを用いる場合、発泡体の断熱性向上の観点から、その使用量(ハイドロフルオロオレフィンとハイドロクロロフルオロオレフィンの合計)は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.5~7重量部または1~5重量部であってもよい。ハイドロフルオロオレフィンおよびハイドロクロロフルオロオレフィンの使用量が多いほど、発泡体の断熱性が向上する傾向がある。一方、ハイドロフルオロオレフィンおよびハイドロクロロフルオロオレフィンの使用量を過度に多くしても、断熱性の大幅な向上は期待できない。また、ハイドロフルオロオレフィンおよびハイドロクロロフルオロオレフィンの使用量が過度に多いと、樹脂溶融物から発泡剤が分離して、発泡体の表面にスポット孔が発生したり、独立気泡率が低下して断熱性を損なう場合がある。
【0029】
上記以外の発泡剤の例として、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、オペンタン等の炭素数3~5の飽和炭化水素類;エタノール、メタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール等の炭素数1~4のアルコール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2-メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-i-ブチルケトン、メチル-n-アミルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、エチル-n-プロピルケトン、エチル-n-ブチルケトン等のケトン類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のカルボン酸エステル類に代表される有機発泡剤;二酸化炭素等の無機発泡剤、アゾ化合物、テトラゾール等の化学発泡剤等が挙げられる。
【0030】
これらの例示の発泡剤の中でも、炭素数3~5の飽和炭化水素は、ポリスチレン系樹脂の可塑化作用を有し、溶融組成物の流動性が高める作用を有するため、押出機の負荷の軽減に寄与し得る。発泡性の観点からは、炭素数3~5の飽和炭化水素の中で、プロパン、ノルマルブタン、イソブタンが好ましく、発泡体の断熱性の観点から、ノルマルブタンおよびイソブタンが特に好ましい。
【0031】
発泡剤として炭素数3~5の飽和炭化水素を使用する場合、発泡体の断熱性向上の観点から、炭素数3~5の飽和炭化水素の使用量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.3重量部以上が好ましく、0.5重量部以上がより好ましく、0.7重量部以上がさらに好ましく、0.9重量部以上または1重量部以上であってもよい。一方、気泡の破裂等の成形不良を抑制する観点から、炭素数3~5の飽和炭化水素の使用量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、5重量部以下が好ましく、4.5重量部以下がより好ましく、4重量部以下または3.5重量部以下であってもよい。
【0032】
発泡剤の使用量(全ての発泡剤の量の合計)は、ポリスチレン系樹脂の重量100重量部に対して、2~20重量部が好ましく、3~15重量部がより好ましく、4~12重量部がさらに好ましく、5~10重量部であってもよい。発泡剤の使用量が上記範囲であれば、組成物の発泡力が確保され、所望の厚みを有するポリスチレン系樹脂発泡体が安定的に得られやすい。
【0033】
<酸中和剤>
本発明においては、組成物が、ポリスチレン系樹脂ならびに発泡剤としての塩化アルキルおよび水に加えて、酸中和剤を含む。
【0034】
酸中和剤としては、酸を中和可能な化合物であれば、有機物でも無機物でもよく、有機物の例としてアミン類が挙げられる。無機物としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、ケイ酸塩等が挙げられる。中でも、発泡性や発泡体の物性への影響が小さいことから、無機物が好ましい。
【0035】
後述のように、酸中和剤は、発泡剤としての水に溶解して組成物に添加することが好ましい。そのため、酸中和剤は水溶性であることが好ましく、常温で水に対して1重量%以上溶解するものが好ましい。水溶性が高く、酸中和性に優れることから、酸中和剤としてはアルカリ金属塩が好ましい。中でも、塩が残存し難く、発泡性や発泡体の物性への影響が小さいことから、炭酸塩または炭酸水素塩が好ましい。アルカリ金属の炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、および炭酸カリウムが挙げられる。アルカリ金属の炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、および炭酸水素カリウムが挙げられる。中でも、取り扱いが容易であり、かつ酸の中和作用が高いことから、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩が特に好ましい。
【0036】
発泡剤として塩化アルキルと水を併用する場合において、発泡剤の圧入時、または圧入後の押出機の内部で、塩化アルキルと水が接触し、混合されると、塩化水素等の酸性のガスが発生する。この酸性のガスが、押出機や配管等の金属を腐食する原因となり得る。酸中和剤を組成物に添加することにより、酸性のガスを中和する作用を有するため、設備の腐食が抑制される。
【0037】
酸中和剤の量は、発泡剤として用いられる塩化アルキルに対して、モル比で0.003倍以上が好ましく、0.005倍以上がより好ましく、0.008倍以上がさらに好ましく、0.01倍以上が特に好ましい。酸中和剤の量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.02重量部以上が好ましく、0.04重量部以上がより好ましく、0.05重量部以上がさらに好ましく、0.06重量部以上であってもよい。酸中和剤の量が多いほど腐食性ガスの発生が抑制される傾向があり、これによる設備の腐食防止作用が高められる傾向がある。
【0038】
一方で、酸中和剤の量が過度に多い場合は、酸中和剤の残留物が発泡性や発泡体の物性に影響を与える可能性がある。そのため、酸中和剤の量は、塩化アルキルに対して、モル比で1倍以下が好ましく、0.5倍以下がより好ましく、0.1倍以下がさらに好ましく、0.07倍以下、0.05倍以下または0.03倍以下であってもよい。酸中和剤の量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、2重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましく、0.5重量部以下がさらに好ましく、0.3重量部以下、0.2重量部以下または0.15重量部以下でああってもよい。
【0039】
<添加剤>
上記の通り、組成物は、ポリスチレン系樹脂および発泡剤に加えて、酸中和剤を含む。組成物はさらに他の添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
添加剤としては、吸水剤、熱線輻射抑制剤、難燃剤、難燃助剤、難燃調整剤(酸化鉄、鉄錯体、ジフェニルアルカン、ジケトン等)、滑剤(ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム等)、気泡径調整剤(タルク等)、安定剤(エポキシ化合物、多価アルコールエステル化合物、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤等)、加工助剤(脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、流動パラフィン、オレフィン系ワックス等)、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、充填剤、等が挙げられる。
【0041】
(吸水剤)
発泡剤として水を用いる場合、組成物は吸水剤を含むことが好ましい。水はポリスチレン系樹脂への溶解性が低く、組成物中に溶解していない水が存在すると、粗大な気泡が形成されやすく、気泡の破裂の原因となり得る。組成物が吸水剤を含むことにより、組成物への水の溶解性が高められ、水が均一に分散するため、粗大な気泡の発生や気泡の破裂等の成形不良が抑制され、安定して押出発泡成形を行うことができる。
【0042】
吸水剤としては、吸水性鉱物(スメクタイト、ゼオライト等)、シリカ、および親水性有機物質等が挙げられる。スメクタイトとしては、天然ベントナイト、精製ベントナイト、有機化ベントナイト、ヘクトライト等が挙げられる。ゼオライトとしては、天然ゼオライト、人工ゼオライト、合成ゼオライト等が挙げられる。シリカとしては、無水シリカ、表面に水酸基を有する修飾シリカ、多孔質シリカ等が挙げられる。親水性有機物質としては、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉-アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール-アクリル酸塩系共重合体、エチレン-ビニルアルコール系共重合体、ポリアクリロニトリル-メタクリル酸メチル-ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、多価アルコール類、メラミン等が挙げられる。
【0043】
吸水剤の使用量は、水の使用量等に応じて適宜調整すればよい。組成物における吸水剤の量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.01~5重量部程度であり、0.1~3重量部が好ましく、0.2~2.5重量部がより好ましく、0.3~2重量部、または0.5~1.5重量部であってもよい。組成物における水に対する吸水剤の比率(重量比)は、0.05~5程度であり、0.1~4.5が好ましく、0.2~4または0.3~3であってもよい。
【0044】
(熱線輻射抑制剤)
発泡体の断熱性向上を目的として、組成物に熱線輻射抑制剤を添加してもよい。熱線輻射抑制剤とは、近赤外または赤外領域の電磁波を反射、散乱および吸収する特性を有する物質をいう。熱線輻射抑制剤を含有することにより、発泡体の断熱性がさらに向上する傾向がある。
【0045】
熱線輻射抑制剤としては、グラファイト;酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化アンチモン等の白色系粒子が挙げられる。これらの中でも、線輻射抑制効果が大きいことから、グラファイトが特に好ましい。白色系粒子の中では、酸化チタンが特に好ましい。
【0046】
グラファイトの具体例として、鱗(片)状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。これらの中でも、熱線輻射抑制効果が高いことから、主成分が鱗(片)状黒鉛のものが好ましい。グラファイトの固定炭素分は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。
【0047】
グラファイトの平均粒径は15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均粒径が小さいほど比表面積が大きくなり、熱線輻射との衝突確率が高くなるため、熱線輻射抑制効果が高くなる。グラファイトの平均粒径は、ISO13320:2009,JIS Z8825:2013に準拠したMie理論に基づくレーザー回折散乱法により粒度分布を測定・解析し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になる時の粒子径(体積平均粒径)である。
【0048】
グラファイト等の熱線輻射抑制剤を使用する場合、組成物における熱線輻射抑制剤の量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.1~6重量部が好ましく、0.5~5重量部がより好ましく、0.8~4重量部または1~3.5重量部であってもよい。熱線輻射抑制剤の量が少ない場合は、十分な熱線輻射抑制効果が得られない。一方、熱線輻射抑制剤の量が過度に多いと、組成物中での分散性に劣り、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られ難い。また、熱線輻射抑制剤のような固体添加剤の含有量が増加すると、造核点が増えるために、発泡体の気泡の微細化するために、発泡体に美麗な表面を付与することや、大きな厚みの発泡体を得ることが困難となる傾向がある。なお、熱線輻射抑制剤等の固体添加剤は、予めポリスチレン系樹脂中に分散させたマスターバッチとして組成物に添加してもよい。
【0049】
(難燃剤および難燃助剤)
難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく用いられる。臭素系難燃剤の具体的例としては、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル等の臭素化ビスフェノール系化合物;臭素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体、臭素化スチレン-ブタジエンランダム共重合体、臭素化スチレン-ブタジエングラフト共重合体等の脂肪族臭素含有ポリマー;テトラブロモシクロオクタン;ヘキサブロモシクロドデカン;トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート、等が挙げられる。難燃剤の使用量は、ポリスチレン系樹脂100重量部に対して、0.1~10重量部程度であり、0.5~8重量部または1~5重量部であってもよい。
【0050】
難燃助剤としては、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン等のラジカル発生剤;リン酸エステル類;およびホスフィンオキシド類等が挙げられる。
【0051】
[発泡体の製造方法]
ポリスチレン系樹脂押出発泡体の製造には、溶融混練部と、ダイを有する発泡成形部とが、組成物の押出方向の上流側から下流側に向かって順に配置されている押出発泡装置を用いる。溶融混練部と発泡成形部とは連結している。溶融混練部と発泡成形部との間に、組成物の温度を低下させる冷却部が配設されていてもよい。ポリスチレン系樹脂を含む樹脂組成物と発泡剤を溶融混練し(溶融混練工程)、発泡性溶融組成物を低圧域に押出して発泡成形することにより(発泡工程)、ポリスチレン系樹脂押出発泡体を製造する。
【0052】
溶融混練工程では、ポリスチレン系樹脂および添加剤を含む樹脂組成物を、溶融混練部に供給し、混練する。ポリスチレン系樹脂に各種添加剤を配合する方法としては、例えば、ポリスチレン系樹脂に対して各種添加剤を添加してドライブレンドにより混合する方法;溶融したポリスチレン系樹脂に、溶融混練部に設けた供給部から各種添加剤を添加する方法;予め押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いてポリスチレン系樹脂へ高濃度の各種添加剤を含有させたマスターバッチを作製し、当該マスターバッチとポリスチレン系樹脂とをドライブレンドにより混合する方法等が挙げられる。
【0053】
溶融混練部としては、例えばスクリュを用いた押出機が挙げられる。スクリュを用いた押出機としては、単軸押出機や二軸押出機を採用可能である。二軸押出機のスクリュ回転方向は、同方向であっても異方向でもよい。溶融混練部における加熱温度は、ポリスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよく、樹脂の劣化を抑制する観点から、150℃~260℃程度が好ましい。溶融混練時間は、ポリスチレン系樹脂の種類や単位時間あたりの押出量に応じて適宜設定すればよい。
【0054】
溶融混練工程において、高圧条件下で発泡剤を樹脂組成物に配合(圧入)することにより、発泡性溶融組成物を調製する。発泡剤を配合するタイミングは特に限定されず、樹脂組成物を加熱融解する前、樹脂組成物を加熱融解している途中、または樹脂組成物を加熱融解した後等、溶融混練工程の任意の段階で発泡剤を配合すればよい。発泡剤を圧入する際の圧力は、溶融混練部の内圧よりも高い圧力であればよい。
【0055】
溶融混練工程において、ポリスチレン系樹脂、添加剤および発泡剤に加えて、上記の酸中和剤を樹脂組成物に配合する。酸中和剤の配合方法および配合のタイミングは特に限定されず、樹脂組成物を加熱融解する前に酸中和剤をドライブレンドしてもよく、樹脂組成物を加熱融解している途中または樹脂組成物を加熱融解した後に、溶融物に酸中和剤を混合してもよい。酸中和剤を混合するタイミングは、発泡剤を圧入する前、発泡剤の圧入と同時、発泡剤を圧入後のいずれでもよい。
【0056】
好ましい実施形態においては、発泡剤としての水に酸中和剤を溶解して予め水溶液としておき、酸中和剤の水溶液を発泡剤として樹脂組成物に圧入する。この方法では、発泡剤としての塩化アルキルと水を同時に圧入する場合、および塩化アルキルと水を別の段階で個別に圧入する場合のいずれにおいても、塩化アルキルと水を混合する段階では、既に水に酸中和剤が溶解しているため、塩化アルキルと水との反応による腐食性ガスの発生を効率的に抑制できる。
【0057】
酸中和剤を水溶液として使用する場合、水溶液の酸中和剤の濃度は、組成物に発泡剤として添加する水の量および酸中和剤の添加量を考慮して適宜調整すればよい。水溶液の酸中和剤の濃度は、例えば0.1~30重量%程度であり、0.5~20重量%、1~15重量%または2~10重量%であってもよい。
【0058】
溶融混練工程では、樹脂組成物と発泡剤を溶融混練した後、組成物が固化しない温度範囲内で、発泡工程に供給される発泡性溶融組成物を冷却してもよい。例えば、溶融混練部と発泡成形部との間に配設された冷却部内で組成物を冷却してもよい。組成物を冷却する場合、冷却部の出口部における組成物の温度は、105℃~140℃が好ましく、110℃~130℃であってもよい。
【0059】
発泡工程では、発泡性溶融組成物を発泡成形部のダイから低圧域(例えば、大気圧の領域)に押出することにより、発泡剤の体積が急激に増大し、ポリスチレン系樹脂押出発泡体が形成される。
【0060】
発泡成形部は、ダイから押出された発泡性溶融組成物を、圧力開放直後に発泡成形するために、ダイの下流側に接続された成形板を備えていてもよい。成形板は上下2枚の板状物から構成されており、ダイに設けられた直線状の開口であるダイスリットから低圧域に押し出された組成物が2枚の成形板の間の空間で発泡することにより、一定の厚みを有する板状の発泡体が得られる。上下2枚の板状物は、押出方向と平行に設置されていてもよく、入口(上流側)から出口(下流側)に向かって緩やかにギャップが拡大するよう設置されていてもよい。
【0061】
押出発泡の発泡圧力(ダイスリットから押し出される直前の発泡性溶融物に加えられる圧力)は、例えば、2.5~15MPa程度であり、3~10MPa、または3.5~8MPaであってもよい。発泡圧力が2.5MPa以上であれば、組成物に発泡剤を充分に溶解可能であるため、発泡剤がダイスリットから気体として噴出する等の不具合を抑制できる。また、発泡圧力が15MPa以下であれば、組成物の吐出量を大きくできるため、生産性を確保できる。組成物の供給速度(単位時間あたりの吐出量)、ダイスリットの開度、ダイスリット部の温度等を調節することにより、発泡圧力を所望の範囲に調整できる。
【0062】
[発泡体の物性]
発泡体は、例えば板状に形成される。板状の発泡体の厚みは、特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。例えば、上記の方法により得られる発泡体は、住宅および建築物ならびに保冷庫等の断熱材として使用できる。これらの断熱材として使用される発泡体は、高断熱性および高圧縮強度を付与するために、10mm以上の厚みを有することが好ましい。発泡体の厚みは、20mm以上、30mm以上、40mm以上、50mm以上または60mm以上であってもよい。発泡体の厚みは、150mm以下、130mm以下または120mm以下であってもよい。
【0063】
なお、ポリスチレン系樹脂押出発泡体では、押出発泡成形して形状を付与した後に、金型と接触していた表層(スキン層)を、厚み方向に5mm程度除去して製品とする場合があるが、上記の厚みは、スキン層を除去する前の発泡体の厚みである。
【0064】
建築用断熱材や保冷庫の断熱材としての用途を考慮した場合、発泡体の熱伝導率は、0.0284W/mK以下が好ましく、0.0244W/mK以下がより好ましく、0.0240W/mK以下または0.0235W/mK以下であってもよい。前述の様に、組成物が、発泡剤として塩化アルキルを含むことにより、断熱性が向上する(熱伝導率が小さくなる)傾向がある。断熱性の観点からは、熱伝導率は小さいほどよいが、ポリスチレン系樹脂押出発泡体の熱伝導率は、一般に0.020W/mK以上である。
【0065】
軽量性と強度を両立する観点から、発泡体のみかけ密度は、20~60kg/mが好ましく、25~40kg/mがより好ましい。発泡体のみかけ密度は、直方体に切り出した発泡体の体積と質量から算出される。
【0066】
発泡体の独立気泡率は、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。独立気泡率が大きいほど断熱性に優れる傾向がある。発泡体の独立気泡径は、発泡体の真の体積V(みかけ体積から独立気泡でない部分の容積を除いたもの)、発泡体のみかけ体積V、発泡体の質量Wおよび真密度ρ(ポリスチレン系樹脂の場合は約1.05g/cm)から、下記式に基づいて算出される。
独立気泡率(%)=100×(V-W/ρ)/(V-W/ρ)
【0067】
発泡体の平均気泡径は、0.05~0.5mmが好ましく、0.07~0.4mmまたは0.1~0.3mmであってもよい。平均気泡径が過度に小さい場合は、発泡体の気泡壁間距離が小さいために、発泡成形時の気泡の可動域が狭く、変形が困難であり、押出発泡体に美麗な表面を付与することや発泡体の厚みを大きくすることが困難となる傾向にある。一方、平均気泡径が大きくなると断熱性が低下する傾向がある。
【0068】
発泡倍率が大きく(例えば20倍以上)上記の様に独立気泡率が大きい場合は、気泡壁の厚みは気泡径に対して無視できるほど小さいため、単位長さあたりの気泡数から平均気泡径を概算可能である。発泡体の平均気泡径は、発泡体の断面拡大像の任意の箇所に厚み方向に2mmの長さの直線を3本ひき、当該直線と交差するまたは接する気泡の数aから、下記式に基づいて算出される値である。
平均気泡径=2×3/a
【0069】
上記のように、本発明においては、発泡剤として塩化アルキルおよび水を用いることにより、断熱性が高くかつ大きな厚みを有し、美麗な表面を有するポリスチレン系樹脂押出発泡体を提供できる。また、発泡体の作製に用いられる組成物が所定量の酸中和剤を含むことにより、塩化アルキルと水の反応による腐食性ガスの生成・拡散を抑制可能であり、設備の劣化を防止できる。下記の実施例に示す様に、酸中和剤を添加した場合でも、上記の特長が保持されるため、本発明により得られる発泡体は、住宅および建築物ならびに保冷庫等の断熱材として好適に使用可能である。
【実施例0070】
以下に実施例を示して本発明の実施形態についてより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[グラファイトマスターバッチの作製]
ポリスチレン樹脂A(PSジャパン製「PSJ-ポリスチレン GPPS 680」、MFR:7.0g/10min)48重量部、グラファイト(丸豊鋳材製作所製「M-885」;鱗片状黒鉛、平均粒径5.5μm、固定炭素分89%)50重量部、およびステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン製「リケマール S-100P」2重量部を、バンバリーミキサーに投入し、0.49MPaの圧力を負荷した状態で、加熱冷却を行わずに20分間溶融混練した。混練時の樹脂温度は190℃であった。混練物をルーダーに供給し、ルーダーの先端に取り付けられたダイスを通して吐出量250kg/hrで押し出されたストランド状の樹脂を、30℃の水槽で冷却固化させた後、切断してグラファイトマスターバッチを得た。
【0072】
[樹脂混合物の調製]
表1に示す配合で、ポリスチレン系樹脂、上記のグラファイトマスターバッチ、難燃剤、難燃助剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤、気泡径調整剤、安定剤、滑剤および吸収剤をドライブレンドして、樹脂混合物1~4(以下、「GP1」「GP2」「GP3」「GP4」と記載)を調製した。グラファイトマスターバッチの配合量は、ポリスチレン樹脂B(PSジャパン製「PSJ-ポリスチレン GPPS G9401」、MFR:2.1g/10min)とスチレン-メタクリル酸共重合体(PSジャパン製「PSJ-ポリスチレン G9001」、メタクリル酸含有量:8重量%、MFR:1.5g/10min)の合計97.6重量部に対して5重量部とした。
【0073】
表1におけるポリスチレン樹脂A、グラファイトおよびステアリン酸モノグリセリドは、グラファイトマスターバッチ由来の成分である。表1における各成分の量は、ポリスチレン系樹脂の合計100重量部に対する配合量(重量部)である。
【0074】
【表1】
【0075】
[実施例1]
第一押出機(単軸押出機、口径150mm)、第二押出機(単軸押出機、口径200mm)、冷却機、およびスリットダイ(口金の間隙5mm)がこの順に直列に連結された押出成形機、押出成形機のスリットダイの下流に接続された上下2枚の成形板、ならびに成形板の下流に位置する成形ロールを備える製造装置を使用して、押出発泡成形を行った。
【0076】
GP1を、800kg/hrにて原料供給装置から第一押出機に投入し、温度250℃にて、第一押出機で溶融混練を行い、第一押出機の下流端付近で表2に示す量の発泡剤を圧入した。その後、第一押出機に連結された第二押出機で組成物を混練しながら冷却し、さらに第二押出機に連渇された冷却機で組成物を表2に示す発泡温度に冷却した。冷却後の組成物をダイスリットに進入させ、発泡圧力4MPaでダイスリットから大気中に押出して発泡させ、成形板および成形ロールを順に通過させることにより板状に成形して、厚み60mm、幅1000mmの断面を有する板状の押出発泡体を得た。
【0077】
[実施例2~7、比較例1~4]
樹脂混合物の種類、発泡剤の種類および配合量、ならびに発泡温度を表2に示す様に変更した。それ以外は実施例1と同様にして押出発泡成形を行い、押出発泡体を得た。
【0078】
表2に示す発泡剤の詳細は下記の通りである。実施例1~7および比較例2では、水に炭酸ナトリウムを溶解させて所定濃度に調製した炭酸水素ナトリウム水溶液を用いた。
塩化エチル:日本特殊化学工業製
水:大阪府摂津市水道水
HFO-1234ze:1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ハネウェルジャパン製
HCFO-1233zd:1-クロロ-3,3,3―トリフルオロプロペン、ハネウェルジャパン製
ジメチルエーテル:岩谷産業製
イソブタン:三井化学製
ノルマルブタン:岩谷産業製
【0079】
[発泡剤による腐食性テスト]
実施例1~7および比較例1~4で用いた発泡剤と同一の組成の混合物を、予め秤量した2cm角、厚み0.1mmの鉄片(約320mg)とともに、ステンレス製の耐圧容器に封入した。耐圧容器を140℃で5時間加熱した後、鉄片を取り出し、外観の観察および重量測定を実施し、下記の基準で腐食性を評価した。
A:鉄片の重量減少が1mg未満であり、かつ鉄片の外観に変化がない
B:鉄片の重量の減少が1mg以上10mg未満であり、鉄片の外観に変化がない
C:鉄片の重量の減少が10mg以上、または鉄片の変色がみられる
【0080】
[発泡体の評価]
<発泡剤の残存量>
発泡体(金型と接触していた表層(スキン層)を削り落としていないもの)を、JIS K 7100:1999の標準雰囲気3級(温度23±5℃、相対湿度40~70%)で1週間静置して状態調整を行った後、幅方向および厚み方向の中央部から、約1.2gの試料を切り出し、容量約130ccの密閉可能なガラス容器に入れ、真空ポンプにより容器内の空気抜きを行った。その後、容器を170℃で10分間加熱し、発泡体中の発泡剤を容器内に取り出した。室温まで放冷した後、容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻し、マイクロシリンジにより40μLの気体を採取し、下記の条件でガスクロマトグラフィー分析を行い、予め作成した検量線に基づいて発泡体内の発泡剤(塩化エチル、HFO-1234ze、HCFO-1234zd、イソブタンおよびノルマルブタン)の残存量を求めた。
【0081】
使用機器:島津製作所製「ガスクロマトグラフ GC-2014」
カラム:化学物質評価研究機構製「G-Column G-950 25UM」
注入口温度:65℃
カラム温度:80℃
検出器温度:100℃
キャリーガス:高純度ヘリウム
キャリーガス流量:30mL/分
検出器:TCD
電流:120mA
【0082】
<みかけ密度>
発泡体(スキン層を削り落としていないもの)の幅方向の中央部から、幅100mm×長さ100mmの直方体の試験片を切り出した。ノギス(ミツトヨ製、M型標準ノギスN30)を用いて測定した試験片の外側寸法から算出したみかけ体積と、試験片の質量から、みかけ密度(質量/体積)を算出した。
【0083】
<独立気泡径>
発泡体の幅方向の中央部A、および幅方向の両端それぞれから150mmの箇所B,Cの計3箇所から、厚み40mm×長さ25mm×幅25mmの試験片を切り出し、各試料の独立気泡率を求め、3つの試験片の独立気泡率の平均値を算出した。独立気泡率は、ASTM-D2856-70の手順Cに従い、空気比較式比重計(東京サイエンス製1000型)を用いて測定した試験片の真の体積V(みかけ体積から独立気泡でない部分の容積を除いたもの)、ノギスを用いて測定した試験片の外側寸法から算出したみかけ体積V、試験片の質量W、および試験片の真密度ρ(ポリスチレン系樹脂の密度であり、1.05g/cmとした)から、下記式に基づいて算出した。
独立気泡率(%)=100×(V-W/ρ)/(V-W/ρ)
【0084】
<平均気泡径>
上記の独立気泡径の評価と同様に、幅方向の3箇所A,B,Cから試験片を切り出し、マイクロスコープ(キーエンス製「DIGITAL MICROSCOPE VHX-900」)により、それぞれの試験片の幅方向の断面および長さ方向の断面の100倍の拡大写真を撮影した。それぞれの拡大写真の任意の箇所に、厚み方向に2mmの長さの直線を3本ひき、3本の直線と交差するまたは接する気泡の数の合計aを求め、当該断面における厚み方向の平均気泡径(=2×3/a)を算出した。計6つの断面拡大写真(3つの試験片のそれぞれについて2つの断面拡大写真を撮影)のそれぞれから求めた厚み方向の平均気泡径の平均値を、発泡体の平均気泡径とした。
【0085】
<熱伝導率>
JIS A 9521:2017に準じて、製造直後の発泡体の幅方向の中央部から、厚み50mm×長さ(押出方向)300mm×幅300mmの試験片を切り出し、JIS K 7100:1999の標準雰囲気3級に1週間静置して状態調整を行った。平均温度23℃の環境下で、熱伝導率測定装置(英弘精機製「HC-074」)を用いて状態調整後の試験片の熱伝導率を測定した。
【0086】
<JIS燃焼性>
JIS A 9521:2017に準じて、製造直後の発泡体の幅方向の中央部から、厚み10mm×長さ(押出方向)200mm×幅25mmの試験片を切り出し、JIS K 7100:1999の標準雰囲気3級に1週間静置して状態調整を行った。状態調整後の試料の燃焼性を評価したところ、実施例1~7および比較例1~4の試料は、いずれも、「3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を超えて燃焼しない」との基準を満たしていた。
【0087】
<外観>
スキン層を削り落していない発泡体(カット前)、および上下両面のスキン層を厚み方向に5mm除去した発泡体(カット後)の外観を目視にて評価した。実施例1~7および比較例1~4の試料は、いずれも、カット前の発泡体は波打ちがなく板状であり、かつカット前後いずれにおいても、フローマーク、ムシれ等の表面異常はみられず、良好な外観を有していた。
【0088】
各実施例および比較例で使用した樹脂混合物の種類、発泡剤の圧入量(ポリスチレン系樹脂100重量部に対する重量、および発泡体1kgあたりのモル量)、発泡剤による腐食性の評価結果、発泡温度、ならびに発泡体の評価結果を表2に示す。なお、炭酸ナトリウムは発泡剤として作用するものではないが、表2では、炭酸ナトリウム水溶液に含まれる炭酸ナトリウムの量を示している。また、塩化エチルに対する炭酸ナトリウムのモル比もあわせて示している。
【0089】
【表2】
【0090】
樹脂混合物としてGP1を用いた実施例1~3および比較例1,2の発泡体は、発泡剤としての水に溶解させた炭酸ナトリウムの濃度や炭酸ナトリウム水溶液の圧入量に関係なく、略同等の特性を有しており、優れた外観と断熱性を両立していた。発泡剤が中和剤としての炭酸ナトリウムを含む実施例1~3では、発泡剤による金属の腐食性が低いのに対して、発泡剤が炭酸ナトリウムを含まない比較例1では、発泡剤による金属の腐食がみられた。炭酸ナトリウムの量が少ない比較例2も、比較例1と同様、発泡剤による金属の腐食がみられた。実施例1~3と比較例1,2との対比から、発泡剤における塩化アルキルに対する酸中和剤のモル比が大きいほど、発泡剤による金属の腐食が抑制される傾向があることが分かる。
【0091】
樹脂混合物としてGP2を用いた実施例4と比較例3の対比、および樹脂混合物としてGP3を用いた実施例5,6と比較例4の対比からも、発泡剤に酸中和剤として炭酸ナトリウムを含めることにより、発泡剤による金属の腐食を抑制しつつ、酸中和剤を用いない場合と同様に、優れた外観と断熱性を兼ね備えた発泡体が得られることが分かる。樹脂混合物としてGP4を用いた実施例7においても、得られた発泡体は、優れた外観と断熱性を有していた。