(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141469
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】アスベスト検査装置、およびアスベスト判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20241003BHJP
G01N 21/94 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G01N21/94
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053145
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】592131906
【氏名又は名称】みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520271023
【氏名又は名称】株式会社アサヒテクノリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】井筒 雄介
(72)【発明者】
【氏名】松下 裕也
(72)【発明者】
【氏名】高野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】三谷 勇義
(72)【発明者】
【氏名】伴丈 修
(72)【発明者】
【氏名】三島 洋平
【テーマコード(参考)】
2G051
2G059
【Fターム(参考)】
2G051AC01
2G051AC02
2G051CA04
2G051EA14
2G051EB01
2G051EB09
2G051ED04
2G059AA05
2G059BB09
2G059DD13
2G059FF03
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】試料にアスベストが存在するか否かの判断にかかる工数を削減できるようにしたアスベスト検査装置を提供する。
【解決手段】アスベスト検査装置40のPU42は、試料12の光学顕微鏡による拡大画像を写像データ44bによって規定される写像に入力する。写像は、画像データ34を入力として且つ、画像中のアスベストが存在する位置を示す変数の値を出力する学習済みモデルである。写像の出力が指定する位置に限って、第2分析者70は、試料12を光学顕微鏡80を用いて確認する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実行装置、および記憶装置を備え、
前記記憶装置には、写像データが記憶されており、
前記実行装置は、取得処理、およびアスベスト変数算出処理を実行するように構成され、
取得処理は、試料の光学顕微鏡による拡大画像の画像データを取得する処理であり、
前記写像データは、前記画像データを入力として且つ、アスベスト変数の値を出力する写像を規定するデータであり、
前記アスベスト変数は、位置変数を含み、
前記位置変数は、前記拡大画像におけるアスベストの位置情報を示す変数であり、
前記アスベスト変数算出処理は、前記画像データを前記写像に入力することによって、前記アスベスト変数の値を算出する処理であるアスベスト検査装置。
【請求項2】
前記アスベスト変数は、確率変数を含み、
前記確率変数は、前記位置情報によって示される位置に前記アスベストが存在する確率を示す変数である請求項1記載のアスベスト検査装置。
【請求項3】
請求項2記載のアスベスト検査装置を利用しつつ前記試料中のアスベストの有無を判定するアスベスト判定方法において、
撮影工程、および判定工程を有し、
前記撮影工程は、前記光学顕微鏡によって拡大された前記試料の画像を撮影する工程であり、
前記判定工程は、前記撮影工程によって撮影された画像に応じた前記画像データを入力とする前記アスベスト変数算出処理によって算出された前記アスベスト変数の値に基づき前記試料中にアスベストが存在するか否かを判定する工程であるアスベスト判定方法。
【請求項4】
前記撮影工程は、アスベスト検査装置における前記試料を分割した複数の領域のそれぞれについて、前記光学顕微鏡によって画像を撮影する工程であり、
前記判定工程は、前記試料の互いに異なる領域に対応する複数の画像に応じた前記画像データを入力とする前記アスベスト変数算出処理によって算出された前記アスベスト変数の値に基づき前記試料中にアスベストが存在するか否かを判定する工程である請求項3記載のアスベスト判定方法。
【請求項5】
前記撮影工程は、前記光学顕微鏡によって拡大された前記試料の画像を撮影した後、該試料の周囲に対して前記試料を相対回転させた状態で前記光学顕微鏡によって拡大された前記試料の画像を撮影する工程を有し、
前記判定工程は、前記相対回転させる前後のそれぞれの画像に応じた前記画像データを入力とする前記アスベスト変数算出処理によって算出された前記アスベスト変数の値に基づき前記試料中にアスベストが存在するか否かを判定する工程である請求項3記載のアスベスト判定方法。
【請求項6】
前記撮影工程は、前記光学顕微鏡によって複数種類の拡大率に拡大された前記試料の画像を撮影する工程を有し、
前記判定工程は、複数種類に拡大された画像のそれぞれに応じた前記画像データを入力とする前記アスベスト変数算出処理によって算出された前記アスベスト変数の値に基づき前記試料中にアスベストが存在するか否かを判定する工程である請求項3記載のアスベスト判定方法。
【請求項7】
前記判定工程は、
前記確率変数の値が閾値以上の場合、対応する前記位置変数の値に応じた前記画像の領域に前記アスベストが含まれるか否かを人が確認する確認工程と、
前記確認工程によって前記アスベストの存在が確認される場合、前記試料にアスベストがあると判定する工程と、を有する請求項3記載のアスベスト判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベスト検査装置、およびアスベスト判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、アスベストの含有が認められた建物の解体工事において、アスベストの粉塵濃度を検出する装置が記載されている。
一方、建材にアスベストが含まれるか否かは、従来、建材をすりつぶした試料を人が光学顕微鏡で拡大して目視にて判断していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記光学顕微鏡を用いた人による目視の判断では、人に過大な負荷がかかる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
実行装置、および記憶装置を備え、前記記憶装置には、写像データが記憶されており、前記実行装置は、取得処理、およびアスベスト変数算出処理を実行するように構成され、取得処理は、試料の光学顕微鏡による拡大画像の画像データを取得する処理であり、前記写像データは、前記画像データを入力として且つ、アスベスト変数の値を出力する写像を規定するデータであり、前記アスベスト変数は、位置変数を含み、前記位置変数は、前記拡大画像におけるアスベストの位置情報を示す変数であり、前記アスベスト変数算出処理は、前記画像データを前記写像に入力することによって、前記アスベスト変数の値を算出する処理であるアスベスト検査装置である。
【0006】
上記構成では、アスベスト変数算出処理によって、アスベストの位置情報を示す変数の値が算出される。これにより、人が光学顕微鏡による試料の拡大画像を目視で全て確認する場合と比較して、試料にアスベストが存在するか否かの判断にかかる工数を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態にかかるアスベスト検出システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】同実施形態にかかるアスベスト検出の手順を示す流れ図である。
【
図3】同実施形態にかかるアスベスト検出の手順を示す流れ図である。
【
図4】第2の実施形態にかかるアスベスト検出の手順を示す流れ図である。
【
図5】第3の実施形態にかかるアスベスト検出の手順を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
「システム構成」
図1に、アスベストの検出を行うシステムの構成を示す。
【0009】
図1に示すスライドガラス10には、試料12が載せられている。試料12は、一例として、解体前の建材から採取される。スライドガラス10における試料12が占める領域は、たとえば、数百平方ミリメートル程度である。詳しくは、一例として、縦が数ミリから十数ミリメートルであって且つ横が数十ミリメートルである。
【0010】
スライドスキャナー20は、試料12の拡大画像を撮影する装置である。詳しくは、スライドスキャナー20は、スライドガラス10における撮影対象の位置を少しずつずらしつつ、試料12の拡大画像を撮影する機能を有する。スライドスキャナー20は、試料12の拡大画像を示すデータを所定のファイル30に保存して出力する装置である。
【0011】
スライドスキャナー20は、PU22、記憶装置24、光学顕微鏡付きのカメラ26およびアクチュエータ28を備えている。カメラ26は、試料12の拡大画像を撮影する撮影機器である。カメラ26は、一例としてR,G,Bの画素からなるカラー画像を生成する機器である。アクチュエータ28は、スライドガラス10とカメラ26との相対的な位置を変更する装置である。PU22は、CPU、GPU、およびTPU等の少なくとも1つを備えるソフトウェア処理装置である。スライドスキャナー20は、記憶装置24に記憶されたプログラムをPU22が実行することによって、試料12の拡大画像を撮影する。
【0012】
ファイル30は、バーコード32および画像データ34を含む。バーコード32は、試料12の識別記号を表現する。画像データ34は、1枚のスライドガラス10に載せられた試料12に関する全画像のデータを含む。
【0013】
アスベスト検査装置40は、画像データ34を入力することによって、試料12にアスベストが含まれるか否かを判定する装置である。アスベスト検査装置40は、PU42、および記憶装置44を備える。PU42は、CPU、GPU、およびTPU等の少なくとも1つを備えるソフトウェア処理装置である。記憶装置44には、検査プログラム44a、写像データ44bおよび一覧データ44cが記憶されている。
【0014】
写像データ44bは、試料12の画像データを入力として且つ、アスベストの有無に関する変数の値を出力する写像を規定するデータである。詳しくは、この写像は、回帰モデル兼識別モデルである。すなわち、写像の出力は、入力された画像データのうちのアスベストが含まれる位置を示す変数を含む。このため、写像は、回帰モデルである。また、写像の出力は、同位置においてアスベストが存在する確率を示す変数(確率変数)を含む。このため、写像は、識別モデルである。
【0015】
なお、写像の一度の入力に対する一度の出力には、アスベストが含まれる位置を示す変数と、同位置においてアスベストが存在する確率を示す変数との複数の組が含まれてもよい。
【0016】
同写像を構成するアーキテクチャは、一例としてニューラルネットワークである。なお、ニューラルネットワークの出力活性化関数は、位置を示す変数を出力する部分については、たとえばReluを用いることができる。また、ニューラルネットワークの出力活性化関数は、確率変数を出力する部分については、たとえばロジスティックシグモイド関数を用いることができる。
【0017】
上記写像データは、画像データが所定の表示装置に表示された状態において人がアスベストの有無を目視によって確認した結果と、画像データとからなる訓練データを用いて学習された学習済みモデルである。ここで、確認した結果には、アスベストの有無と、アスベストの位置を示す変数と、を含む。なお、アスベストがない場合、アスベストの位置を示す変数は、画像領域のいずれをも示さない値とすればよい。
【0018】
アスベスト検査装置40は、写像によるアスベストの有無の判定結果を一覧データ44cとして記憶装置44に保存する。アスベスト検査装置40は、第1分析者60の求めに応じて、表示装置50を操作することによって、一覧データ44cが示す視覚情報を表示装置50に表示させる。
【0019】
本システムにおいて、1つの試料12の検査に関与する人は、第1分析者60と第2分析者70である。第2分析者70は、光学顕微鏡80を用いて試料12を検査する。
「試料の検査」
図2および
図3に、本実施形態にかかるアスベストの検査工程に関する手順を示す。なお、
図2に示すS10~S16の処理は、記憶装置24に記憶されたプログラムをPU22がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。また、
図2に示すS18~S28の処理は、検査プログラム44aをPU42がたとえば所定周期で繰り返し実行することによって実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって各処理のステップ番号を表現する。
【0020】
図2に示す一連の工程において、まずスライドガラス10がスライドスキャナー20にセットされることによって、スライドスキャナー20において試料12の拡大画像が撮影される(S10)。すなわち、PU22がカメラ26を操作することによって、カメラ26により試料12の拡大画像を撮影する。次にPU22は、試料12の全領域の画像が撮影されたか否かを判定する(S12)。これは、カメラ26による一度の撮影によっては、試料12の全領域の拡大画像を撮影できないことが前提となっている。
【0021】
PU22は、未だ全領域の撮影が完了していないと判定する場合(S12:NO)、アクチュエータ28を操作することによってスライドガラス10のうちの撮影領域をシフトさせる(S14)。ここで、PU22は、カメラ26の撮影領域に、前回撮影した領域の境界部分が含まれるように撮影領域をシフトさせることが望ましい。PU22は、スライドガラス10をシフトさせると、S10の処理に戻る。
【0022】
一方、PU22は、全領域の撮影を完了したと判定する場合(S12:YES)、複数回のS10の処理によって得られた画像データを合成する(S16)。この処理は、試料12の全領域を表現する1つの画像データを生成する処理である。そして、PU22は、生成したデータを
図1に示した画像データ34として且つ、これに識別記号を付与することによって、
図1に示したファイル30を生成する。
【0023】
一方、アスベスト検査装置40のPU42は、ファイル30を受け取ると、ファイル30の画像データ34を上記写像に一度に入力可能なデータ量に分割する(S18)。ここで、写像に一度に入力可能な画像データは、一例として、試料12の0.1平方ミリメートルから数平方ミリメートル程度である。詳しくは、一例として、縦0.1~2mmであって且つ横0.1~2mmである。なお、S18の処理によって、画像データ34は、一例として、200~1000個の画像データに分割される。
【0024】
次に、PU42は、S18の処理によって分割した画像データの1つを取得する(S20)。そしてPU42は、S20の処理において取得した画像データを上記写像に入力することによって、画像データ中の所定の位置座標とその位置座標に関する確率変数の値とを算出する(S22)。
【0025】
次にPU42は、S18の処理によって生成された全てのデータについて、S22の処理を完了したか否かを判定する(S24)。PU42は、未だS22の処理を実行していないデータがあると判定する場合(S24:NO)、S20の処理に戻る。一方、PU42は、全てのデータについてS22の処理を完了したと判定する場合(S24:YES)、一覧表を作成して、
図1に示す一覧データ44cとして記憶装置44に記憶する(S26)。
【0026】
一覧表は、S22の処理の全ての結果を示す表である。すなわち、一覧表には、試料12のうちの位置毎に、アスベストが存在する確率を示す情報が含まれている。
次にPU42は、
図1に示す表示装置50を操作することによって一覧表を表示装置50に表示させる(S28)。なお、この処理は、実際には、第1分析者60による指示に応じて実行されることとしてもよい。
【0027】
図3に移行し、第1分析者60は、一覧表を目視で確認することによって、S22の処理により確率変数の値が閾値以上となったことがあるか否かを判定する(S30)。この処理は、試料12に、アスベストである確率が高いと学習済みモデルによって判定された箇所があるか否かを判定する処理である。
【0028】
第1分析者60は、閾値以上となったことがあると判断する場合(S30:YES)、第2分析者70に通知する(S32)。第2分析者70は、通知を受けると、光学顕微鏡80にスライドガラス10を載せることによって、試料12のうちの上記確率変数の値が閾値以上となっている位置のみを確認する(S34)。第2分析者70は、アスベストの存在を確認すると(S36:YES)、アスベストがある旨の判定を確定させる(S38)。これにより、
図1に示したシステムによる試料12にアスベストがある旨の判定が確定される。
【0029】
一方、第1分析者60が閾値以上となったことがないと判断する場合(S30:NO)、第1分析者60は、一覧データ44cが示す全画像を確認する(S42)。これは、たとえば、PU42が表示装置50に一覧データ44cが示す画像の一部を表示して且つ、表示対象となる領域を少しずつシフトすることによって実現できる。
【0030】
第1分析者60は、アスベストの存在を確認する場合(S44:YES)、その旨と確認した位置情報とを第2分析者70に通知する(S32)。これにより、第2分析者70は、S34~S38等の処理を実行する。
【0031】
一方、第1分析者60は、アスベストの存在を確認できない場合(S44:NO)、第2分析者70にその旨を通知する(S46)。
一方、S46の工程の通知がなされた場合と、S36の工程においてアスベストの存在を確認できない場合には、第2分析者70は、不含有検査を実行する。(S48)。不含有検査は、試料12にアスベストが含まれていない旨の判定を確定させるための検査である。不含有検査は、光学顕微鏡80を用いて行われる。ただし、ここで用いる試料12は、S10~S30,S42の処理において扱った試料12と同一の建材から新たに採取した試料とする。そして第2分析者70がアスベストの存在を確認できない場合(S50:YES)、試料12にアスベストがない旨の判定を確定させる(S52)。これにより、
図1に示したシステムによる試料12にアスベストがない旨の判定が確定される。
【0032】
一方、第2分析者70がアスベストの存在を確認する場合(S50:NO)、S38の処理に移行する。
なお、S38,S52の処理を完了する場合、
図2および
図3に示す一連の処理が終了する。
【0033】
「本実施形態の作用および効果」
試料12にアスベストが存在するかの検査工程において、まず、学習済みモデルを用いた試料12の位置毎の確率変数の算出処理がなされる。そして、学習済みモデルによって、試料12に確率変数の値が閾値以上となる部分があると判定される場合、第2分析者70によって、その部分に実際にアスベストが存在するか否かが、光学顕微鏡80を用いて確認される。そして、第2分析者70がアスベストの存在を確認する場合、試料12にアスベストが存在する旨の判定が確定される。
【0034】
この場合、人によるアスベストの有無の確認は、試料12のうちの学習済みモデルが示した位置に限った光学顕微鏡80による拡大画像の目視確認となる。したがって、人が試料12の全領域について光学顕微鏡80による拡大画像を目視で確認する場合と比較して、アスベストの検出精度を高く維持しつつもアスベストの検査にかかる工数を大きく削減できる。
【0035】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する作用および効果が得られる。
(1-1)学習済みモデルの出力変数に、学習済みモデルに入力されたデータが示す画像領域におけるアスベストが存在する位置を示す変数を含めた。これにより、人が、学習済みモデルによるアスベストありの判定の妥当性を容易に確認することができる。
【0036】
(1-2)学習済みモデルの出力変数に、アスベストの存在に関する確率変数を含めた。これにより、学習済みモデルによるアスベスト有の判定の精度を人が把握することができる。
【0037】
(1-3)試料12を分割した複数の領域のそれぞれについて、学習済みモデルによるアスベストの有無の判定を行った。これにより、学習済みモデルにとって判定しやすい画像データが学習済みモデルに入力される確率を高めることができる。そのため、試料12にアスベストが存在する場合に、学習済みモデルがアスベストがある旨の判定をする確実性を高めることができる。換言すれば、S30の処理において肯定判断される可能性を高めることができる。
【0038】
すなわち、学習済みモデルに入力されたデータが示す画像にアスベストの画像が含まれていても、次の要因によって、アスベストがある旨の判定が難しい場合がある。
要因1.学習済みモデルに入力されるデータが示す画像の全領域を、アスベストの画像がほぼ覆うか、アスベストの画像が同全領域からはみ出すか、同全領域に占めるアスベストの画像領域が過度に小さいかする場合。こうしたケースは、アスベストのサイズが大きなばらつきを有することから、学習済みモデルに入力されるデータが示す画像領域の寸法を固定する限り、生じうる。
【0039】
要因2.学習済みモデルに入力されるデータが示す画像が撮影されたときのアスベストに対する光の照射角度によって、アスベストが存在する旨の判定が難しい場合。こうしたケースは、スライドガラス10に載置された試料12の中にアスベストがどのような状態で存在するかがまちまちであることから、一定の確率で生じうる。
【0040】
上記の要因によって、学習済みモデルに入力されるデータが示す画像がアスベストの画像を含んでいても、学習済みモデルがアスベストを検知することが困難となるケースがある。しかし、学習済みモデルによって、上記複数の領域のそれぞれの画像にアスベストがあるか否かを判定することにより、アスベストが含まれる画像のうちの上記要因1,2に該当しない画像が学習済みモデルに入力される可能性を高めることができる。
【0041】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0042】
図4に、本実施形態にかかるアスベストの検査に関する手順を示す。なお、
図4において、
図2に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与する。
【0043】
図4に示す一連の処理において、PU22は、S12の処理において肯定判定する場合、スライドガラス10の回転角を予め定められた複数種類の回転角のそれぞれとした撮影を完了したか否かを判定する(S60)。ここで、回転角は、スライドスキャナー20におけるスライドガラス10の相対的な回転角である。PU22は、未だ完了していないと判定する場合(S60:NO)、アクチュエータ28を操作することによりスライドガラス10を回転させることによって、未だ撮影がなされていない新たな回転角とする(S62)。この処理は、スライドガラス10に載せられた試料12に対する光の照射状態を変えることを狙っている。
【0044】
PU22は、S62の処理を完了する場合、S10の処理に戻る。一方、PU22は、S60の処理において肯定判定する場合、S16の処理に移行する。
「本実施形態の作用および効果」
PU22は、スライドスキャナー20におけるスライドガラス10の相対的な回転角を複数通りに設定したそれぞれについて、試料12の全領域の拡大画像を撮影する。上述したように、学習済みモデルに入力されるデータが示す画像がアスベストの画像を含んでいるにもかかわらず、アスベストに対する光の照射状態が学習済みモデルの判定精度を低下させるものとなる場合がある。その場合であっても、回転角が異なる画像については、アスベストに対する光の照射状態が学習済みモデルの判定精度を低下させるものとはならない。そのため、学習済みモデルに入力されるデータが示す画像がアスベストの画像を含んでいるにもかかわらず、学習済みモデルによってアスベストが存在しない旨の判定がなされない事態が生じることを抑制できる。そのため、学習済みモデルによるアスベストの認識率を高めることができる。これにより、たとえば、S12の処理における全領域を極力小さい領域とすることも可能となる。
【0045】
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0046】
図5に、本実施形態にかかるアスベストの検査に関する手順を示す。なお、
図5において、
図2に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与する。
【0047】
図5に示す一連の処理において、PU22は、S12の処理において肯定判定する場合、予め定められた複数種類の倍率の全てについて、撮影が完了したか否か判定する(S70)。ここで、複数種類の倍率は、写像に一度に入力される画像データが示す画像の領域内に特定のアスベストの全体が収まって且つ、特定のアスベストの長さが画像の対角線の長さの所定割合となると想定される倍率に設定されている。ここで所定割合は、たとえば30~70%であってもよい。また、特定のアスベストは、試料12に含まれるアスベストに想定される様々なサイズのアスベストのうちの任意のサイズのアスベストのことである。PU22は、未だ完了してない倍率があると判定する場合(S70:NO)、S10の処理を実行する倍率を変更する(S72)。
【0048】
PU22は、S72の処理を完了する場合、S10の処理に戻る。一方、PU22は、S70の処理において肯定判定する場合、S16の処理に移行する。
「本実施形態の作用および効果」
PU22は、試料12の拡大画像の拡大率を複数通りに設定したそれぞれについて、試料12の全領域の拡大画像を撮影する。上述したように、学習済みモデルに入力されるデータが示す画像領域に対して、アスベストを示す画像領域が占める割合が過度に大きいか過度に小さい場合には、学習済みモデルの判定精度を低下させるおそれがある。その場合であっても、拡大率が異なる画像の中には、学習済みモデルに入力されるデータが示す画像領域に占めるアスベストの画像領域の割合が適切なものとなるものがある。そのため、学習済みモデルに入力されるデータが示す画像がアスベストの画像を含んでいるにもかかわらず、学習済みモデルによってアスベストが存在する旨の判定がなされない事態が生じることを抑制できる。そのため、学習済みモデルによるアスベストの認識率を高めることができる。これにより、たとえば、S12の処理における全領域を極力小さい領域とすることも可能となる。
【0049】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。ちなみに、上記実施形態において、取得処理は、S20の処理に対応する。アスベスト変数算出処理は、S22の処理に対応する。また、アスベスト検査装置における前記試料を分割した複数の領域のそれぞれについて、前記光学顕微鏡によって画像を撮影する工程は、S10~S14の処理を実行する工程に対応する。また、「光学顕微鏡によって拡大された前記試料の画像を撮影した後、該試料の周囲に対して試料を相対回転させた状態で光学顕微鏡によって拡大された前記試料の画像を撮影する工程」は、
図4に対応する。また、「前記光学顕微鏡によって複数種類の拡大率に拡大された前記試料の画像を撮影する工程」は、
図5に対応する。確認工程は、S34の処理を実行する工程に対応する。「試料にアスベストがあると判定する工程」は、S36,S38の処理を実行する工程に対応する。
【0050】
「写像データについて」
・写像データ44bが規定する写像の出力が、位置毎の確率変数であることは必須ではない。たとえば、写像の出力は、入力された画像中のアスベストが存在する位置の座標のみであってもよい。ここで、画像中にアスベストがない場合、写像の出力が画像の位置を表現しない数値を出力するようにすればよい。その場合、
図3のS30の処理に代えて、写像がアスベストの存在する位置を出力したか否かを判定する処理を採用すればよい。
【0051】
・写像データ44bが規定する写像を構成するアーキテクチャがニューラルネットワークであることは必須ではない。たとえば、入力された画像中のアスベストが存在する位置の座標を出力するサポートベクトル回帰であってもよい。
【0052】
・第3の実施形態においては、倍率が異なる複数種類の画像データを同一の写像に入力したが、これに限らない。たとえば、倍率毎に、互いに異なる写像に画像データを入力してもよい。その場合、各写像は、対応する倍率の画像データを訓練データとして用いて学習された学習済みモデルとする。
【0053】
「撮影工程について」
撮影工程は、
図2のS10~S14の処理を実行する工程に対応する。また、撮影工程は、
図4のS10~S14,S60,S62の処理を実行する工程に対応する。また、撮影工程は、
図5のS10~S14,S70,S72の処理を実行する工程に対応する。
【0054】
・たとえば撮影工程を、S10~S14,S60,S62,S70,S72の処理を全て含む工程としてもよい。
・撮影工程を、S10,S60,S62の処理のみによって構成してもよい。すなわち、撮影工程を、1つの領域についての互いに異なる回転角度による撮影をする工程としてもよい。また、撮影工程を、S10,S70,S72の処理のみによって構成してもよい。すなわち、撮影工程を、試料12の少なくとも一部の領域を共有する互いに異なる倍率の画像を撮影する工程としてもよい。また、撮影工程を、S10,S60,S62,S70,S72の処理のみによって構成してもよい。すなわち、撮影工程を、試料12の少なくとも一部の領域を共有する互いに異なる倍率の画像を複数種類の回転角度にて撮影する工程としてもよい。
【0055】
「判定工程について」
判定工程は、S22~S52の処理を実行する工程に対応する。
・第2分析者70が用いる光学顕微鏡80が、スライドスキャナー20が備える光学顕微鏡と異なることは必須ではない。たとえばスライドスキャナー20に光学顕微鏡がとらえた画像を表示する表示装置を備えることによって、第2分析者70が表示装置に表示された拡大画像を確認することとしてもよい。
【0056】
・S50の処理において否定判定される場合、第2分析者70がアスベストを確認した部分について、第1分析者60が光学顕微鏡80を用いてアスベストの有無を確認する再検査を実行してもよい。
【0057】
・上記実施形態では、S30の処理を第1分析者60が実行したが、これに限らない。たとえば、PU42が実行してもよい。その場合、PU42は、閾値以上となる部分がないと判定する場合に第1分析者60がS42の処理を実行するように促せばよい。
【0058】
・S30の処理において否定判定する場合、第1分析者60が光学顕微鏡80を用いて試料12の全領域についてアスベストの有無を確認することとしてもよい。
・判定工程において、第1分析者60と第2分析者70とがアスベストの有無を適宜確認することは必須ではない。たとえば、判定工程に関与する人が1人であってもよい。その場合、たとえば、
図3の処理において、S42~S46の処理を省略し、S30の処理において否定判定する場合にS48の処理に移行することとしてもよい。
【0059】
・判定工程に関与する人の数は、1人または2人に限らない。たとえば、3人以上であってもよい。その場合であっても、学習済みモデルを利用することにより、人がかけた工数の割に検出精度の高い判定結果をうることができる。
【0060】
「実行装置について」
・実行装置としては、PU42と記憶装置44とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶する記憶装置等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【0061】
「アスベスト検査装置について」
・アスベスト検査装置が、スライドスキャナー20の構成の一部または全部を備えてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…スライドガラス、12…試料、20…スライドスキャナー、30…ファイル、32…バーコード、34…画像データ、40…アスベスト検査装置、60…第1分析者、70…第2分析者、80…光学顕微鏡