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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141475
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】皮膜形成型外用剤基剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/107 20060101AFI20241003BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 17/12 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K47/32
A61K47/44
A61K47/12
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/14
A61K47/06
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/02
A61K47/04
A61K45/00
A61P17/00
A61P17/00 101
A61P17/04
A61P31/10
A61P17/16
A61P17/12
A61P29/00
A61P23/02
A61P3/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053154
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】594176958
【氏名又は名称】福地製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(74)【代理人】
【識別番号】100186772
【弁理士】
【氏名又は名称】入佐 大心
(72)【発明者】
【氏名】金箱 眞
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB31
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC18
4C076CC20
4C076CC22
4C076CC32
4C076DD22
4C076DD29
4C076DD34
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD46
4C076DD68
4C076EE10
4C076EE12
4C076EE27
4C076EE30P
4C076FF21
4C084AA17
4C084MA05
4C084MA21
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA21
4C084ZA89
4C084ZA90
4C084ZB11
4C084ZB35
4C084ZC22
(57)【要約】
【課題】皮膜製剤の基剤として使用することが容易でない、ガラス転移温度が-15℃以下の共重合体を含む水系ポリマーエマルションを用いて、高い保形性を有する一方で粘着性が抑えられた皮膜を形成することができる、皮膜形成型外用剤用の新たな基剤を提供すること。
【解決手段】本発明として、例えば、次の成分A~成分Cを含む皮膜形成型外用剤基剤を挙げることができる。
A)例、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルへキシル共重合体エマルション
B)油分(例、流動パラフィン)
C)油分ゲル化剤(例、パルミチン酸デキストリン)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分A~成分Cを含む皮膜形成型外用剤基剤:
A)(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体であって、ガラス転移温度が-15℃以下の共重合体から選択される1種または2種以上のポリマーからなるポリマー粒子が、水媒体中に分散している水系ポリマーエマルション、
B)油分、
C)油分ゲル化剤。
【請求項2】
上記水系ポリマーエマルションが、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体エマルション、アクリル酸アルキル共重合体エマルション(2)、またはアクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルションである、請求項1に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項3】
動的光散乱法で測定した場合の上記ポリマー粒子の平均粒子径が、10~600nmの範囲内である、請求項1または2に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項4】
上記水系ポリマーエマルション中におけるポリマー固形分量が、20~80質量%の範囲内である、請求項1または2に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項5】
さらに、充填剤を含む、請求項1または2に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項6】
上記油分が、脂肪酸、高級アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、パラフィン類、トリ脂肪酸グリセリル類、ネオペンチルグリコール類、シリコーン油類、およびエステル類からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項7】
上記脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、もしくはオレイン酸であるか;上記高級アルコールが、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、もしくはデシルテトラデカノールであるか;上記ソルビタン脂肪酸エステル類もしくはポリグリセリン脂肪酸エステル類が、セスキオレイン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、イソステアリン酸ソルビタン、もしくはジイソステアリン酸ポリグリセリルであるか;上記パラフィン類が、イソパラフィン、流動パラフィン、もしくはスクワランであるか;上記トリ脂肪酸グリセリル類が、トリ(2-エチルヘキサン酸)グリセリル、もしくはトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルであるか;上記ネオペンチルグリコール類が、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、もしくはジカプリン酸ネオペンチルグリコールであるか;上記シリコーン油類が、メチルフェニルポリシロキサンであるか;または上記エステル類が、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、パルミチン酸イソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、アジピン酸ジ(2-ヘプチルウンデシル)、もしくはホホバ油である、請求項6に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項8】
上記油分ゲル化剤が、ミリスチン酸デキストリン、パルミチン酸デキストリン、(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン、および(パルミチン酸/ヘキシルデカン酸)デキストリンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1または2に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項9】
上記充填剤が、無機粉体である、請求項5に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項10】
上記無機粉体が、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、および酸化チタンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項9に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【請求項11】
請求項1または2に記載の皮膜形成型外用剤基剤を含む、非医薬用外用剤。
【請求項12】
請求項1または2に記載の皮膜形成型外用剤基剤と薬効成分とを含む、医薬用外用剤。
【請求項13】
上記薬効成分が、うおの目・たこ・いぼ用薬、にきび治療剤、殺菌剤、水虫薬(抗真菌薬)、鎮痒剤、保湿剤、鎮痛消炎剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、局所麻酔剤、角質軟化剤、組織修復剤、皮膚保護剤、またはビタミン剤である、請求項12に記載の医薬用外用剤。
【請求項14】
ピンプッシュ型容器、ミニロールオン容器もしくはミニロールオン容器、噴霧容器、またはハケ付き容器に封入された、請求項11に記載の非医薬用外用剤。
【請求項15】
ピンプッシュ型容器、ロールオン容器もしくはミニロールオン容器、噴霧容器、またはハケ付き容器に封入された、請求項12に記載の医薬用外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外用剤の技術分野に属する。本発明は、使用前においては液状ないしゲル状であるが、皮膚に塗布すると担体成分の溶媒が揮発して皮膚上に皮膜が形成される皮膜形成型外用剤のための基剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚に適用する外用剤の一つとして、使用前においては液状ないしゲル状であるが、皮膚に塗布すると担体成分の溶媒が蒸発して皮膚上に皮膜が形成される皮膜形成型外用剤(例えば、液体絆創膏)が知られている。かかる皮膜形成型外用剤は、剥離時の物理的刺激が少なく、損傷部位の大きさや形状に応じて皮膜を形成させることができるので、便利である。また、容器で直接塗布することもできる。
【0003】
皮膜形成型外用剤の皮膜形成剤としては、従来から、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドン等の水溶性高分子(特許文献1~3)、(メタ)アクリル酸系ポリマー(特許文献4)、ピロキシリン(特許文献5)が知られている。
【0004】
水系ポリマーエマルションは、水等の水系溶媒中にポリマー粒子が分散しているものであって、当該水系溶媒が揮発すると、ポリマー粒子同士が一緒になって融着および変形することにより、皮膜を形成するものである。当該水系ポリマーエマルションは、例えば、化粧品分野で用いられており、特許文献6には、水系ポリマーエマルションを用いた人工爪被覆用組成物に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭59-139325号公報
【特許文献2】特開平03-275619号公報
【特許文献3】特開平06-157327号公報
【特許文献4】特開平09-2943号公報
【特許文献5】特開平05-58914号公報
【特許文献6】特開2015-199702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水系ポリマーエマルションは、上記の通り、皮膜形成型外用剤の基剤として用いられているが、ガラス転移温度が-15℃以下のアクリル酸系共重合体から選択されるポリマー粒子が水媒体中に分散している水系ポリマーエマルションは、媒体を蒸発させて皮膜にすると、保形性が低く、粘着性が著しい皮膜しか形成しがたいため、当該水系ポリマーエマルションを皮膜製剤として使用することは容易なことではない。
【0007】
本発明は、このような皮膜製剤の基剤として使用することが容易でない、ガラス転移温度が-15℃以下のアクリル酸系共重合体を含む水系ポリマーエマルションを用いて、高い保形性を有する一方で粘着性が抑えられた皮膜を形成することができる、皮膜形成型外用剤用の新たな基剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体であって、ガラス転移温度が-15℃以下の共重合体から選択されるポリマー粒子が水媒体中に分散している水系ポリマーエマルションに、油分および油分ゲル化剤を配合し、また必要に応じて、無機粉体のような充填剤を更に配合することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明として、例えば、下記の態様のものを挙げることができる。
[1]次の成分A~成分Cを含む皮膜形成型外用剤基剤:
A)(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体であって、ガラス転移温度が-15℃以下の共重合体から選択される1種または2種以上のポリマーからなるポリマー粒子が、水媒体中に分散している水系ポリマーエマルション、
B)油分、
C)油分ゲル化剤。
[2]前記共重合体が、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体、アクリル酸アルキル共重合体エマルション(2)、またはアクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルションである、上記[1]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[3]動的光散乱法で測定した場合の上記ポリマー粒子の平均粒子径が、10~600nmの範囲内である、上記[1]または[2]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[4]前記水系ポリマーエマルション中におけるポリマー固形分量が、20~80質量%の範囲内である、上記[1]または[2]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[5]さらに、充填剤を含む、上記[1]または[2]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[6]前記油分が、脂肪酸、高級アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、パラフィン類、トリ脂肪酸グリセリル類、ネオペンチルグリコール類、シリコーン油類、およびエステル類からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]または[2]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[7]前記脂肪酸が、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、もしくはオレイン酸であるか;上記高級アルコールが、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、もしくはデシルテトラデカノールであるか;上記ソルビタン脂肪酸エステル類もしくはポリグリセリン脂肪酸エステル類が、セスキオレイン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、イソステアリン酸ソルビタン、もしくはジイソステアリン酸ポリグリセリルであるか;上記パラフィン類が、イソパラフィン、流動パラフィン、もしくはスクワランであるか;上記トリ脂肪酸グリセリル類が、トリ(2-エチルヘキサン酸)グリセリル、もしくはトリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルであるか;上記ネオペンチルグリコール類が、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、もしくはジカプリン酸ネオペンチルグリコールであるか;上記シリコーン油類が、メチルフェニルポリシロキサンであるか;または上記エステル類が、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、パルミチン酸イソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、アジピン酸ジ(2-ヘプチルウンデシル)、もしくはホホバ油である、上記[6]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[8]前記油分ゲル化剤が、ミリスチン酸デキストリン、パルミチン酸デキストリン、(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン、および(パルミチン酸/ヘキシルデカン酸)デキストリンからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]または[2]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[9]前記充填剤が、無機粉体である、上記[5]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
[10]前記無機粉体が、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、および酸化チタンからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[9]に記載の皮膜形成型外用剤基剤。
【0010】
[11]上記[1]または[2]に記載の皮膜形成型外用剤基剤を含む、非医薬用外用剤。
[12]上記[1]または[2]に記載の皮膜形成型外用剤基剤と薬効成分とを含む、医薬用外用剤。
[13]前記薬効成分が、うおの目・たこ・いぼ用薬、にきび治療剤、殺菌剤、水虫薬(抗真菌薬)、鎮痒剤、保湿剤、鎮痛消炎剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、局所麻酔剤、角質軟化剤、組織修復剤、皮膚保護剤、またはビタミン剤である、上記[12]に記載の医薬用外用剤。
[14]ピンプッシュ型容器、ミニロールオン容器もしくはミニロールオン容器、噴霧容器、またはハケ付き容器に封入された、上記[11]に記載の非医薬用外用剤。
[15]ピンプッシュ型容器、ロールオン容器もしくはミニロールオン容器、噴霧容器、またはハケ付き容器に封入された、上記[12]に記載の医薬用外用剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る皮膜形成型外用剤基剤を用いれば、基剤中に、ガラス転移温度が-15℃以下のアクリル酸系共重合体から選択されるポリマー粒子が水媒体中に分散している水系ポリマーエマルションを含むが、粘着性が抑えられた、保形成に問題のない皮膜を形成することができる皮膜形成型外用剤を調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1 本発明に係る皮膜形成型外用剤基剤
本発明に係る皮膜形成型外用剤基剤(以下、「本発明基剤」という。)は、次の成分A~成分Cを含むことを特徴とする:
A)(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体であって、ガラス転移温度が-15℃以下の共重合体から選択される1種または2種以上のポリマーからなるポリマー粒子が、水媒体中に分散している水系ポリマーエマルション、
B)油分、
C)油分ゲル化剤。
【0013】
1.1 成分Aについて
本発明基剤は、成分Aを含む。成分Aは、(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体から選択されるポリマー粒子が水媒体中に分散している水系ポリマーエマルションからなる皮膜形成剤であって、当該ポリマーのガラス転移温度(Tg)が-15℃以下である。好ましくは、-80℃~-15℃の範囲内のガラス転移温度であり、より好ましくは、-60℃~-20℃の範囲内のガラス転移温度である。
【0014】
水系ポリマーエマルションは、前記の通り、水等の水系溶媒中にポリマー粒子が分散しているものであって、当該水系溶媒が揮発すると、ポリマー粒子同士が一緒になって融着および変形することにより、皮膜が形成されるものである。よって、基本的に成分Aにより、皮膚上にポリマー等からなる皮膜が形成される。また、ポリマー粒子が分散している水が基本的に本発明基剤の担体溶媒となる。従って、本発明基剤は、水を含む。
【0015】
ガラス転移温度(Tg)は、当業者に周知の物性であって、常法により求めることができる。具体的には、例えば、ポリマー試料の温度を徐々に上昇または下降させながら力学的物性の変化や吸熱・発熱を測定する方法(例、示差走査熱量測定(DSC)、示差熱分析(DTA))、メカニカルスペクトロスコピー(動的粘弾性測定)法を挙げることができる。また、いわゆるFoxの式によりTgを計算することができる。
【0016】
成分Aに係る水系ポリマーエマルションのポリマーは、(メタ)アクリル酸系重合体および(メタ)アクリル酸系モノマーを分子内に含む共重合体から選択される。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸とを合わせた用語を意味する。
本発明においては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主構成モノマーとする重合体または共重合体((メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体)が好ましい。これに、例えば、(メタ)アクリル酸や、疎水性モノマー、親水性モノマーの1種以上を構成モノマーとして分子内に含んでいてもよい。
【0017】
上記重合性モノマーである(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレートを挙げることができる。この中、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは1種であっても、任意の2種以上であってもよい。
【0018】
上記疎水性モノマーとしては、例えば、スチレン、2-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系モノマー、アクリル酸アリル等のアリル系モノマー、塩化ビニル等の塩化ビニル系モノマー、ブチルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ系モノマー、ジメチルシロキサン等のシリコーン系モノマー、ウレタン等のウレタン系モノマーを挙げることができる。
【0019】
上記親水性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等の側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アクリルアミド、マレイン酸アミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー、無水マレイン酸等のマレイン酸系モノマー、酢酸ビニル等のビニル系モノマーを挙げることができる。
【0020】
成分Aに係る水系ポリマーエマルションの製造方法は、特に制限されないが、例えば、アクリル系モノマー、乳化剤などの原料を水中に均一に分散させ、当該モノマーを乳化剤でミセル化し、これに重合開始剤(例、過酸化水素、過酢酸、t-ブチルヒドロペロキシド、過安息香酸)を加えて加熱し乳化重合することより、当該水系ポリマーエマルションを製造することができる。また、反応性乳化剤を使用したソープフリー重合法や、乳化剤を含まない水媒体不均一重合法等の手法により製造することもできる。
【0021】
上記乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のノニオン系乳化剤;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルナトリウム、2-エチルへキシル硫酸エステルナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアニオン系乳化剤を挙げることができる。
【0022】
成分Aに係る水系ポリマーエマルション中におけるポリマー粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、動的光散乱法(DLS)で測定した場合、重量平均粒子径として、例えば、10~600nmの範囲内が適当であり、100~500nmの範囲内が好ましく、200~400nmの範囲内がより好ましい。かかる平均粒子径は、例えば、ナノ粒子径測定装置Nanotrac WaveII(MICROTRAC社製)、ゼータサイザーPRO(スペクトリス社製)を用いて測定することができる。
【0023】
成分Aに係る水系ポリマーエマルション中におけるポリマー固形分量は、特に制限されないが、20~80質量%の範囲内が適当であり、50~70質量%の範囲内が好ましい。
【0024】
好ましい成分Aに係る共重合体としては、例えば、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体、アクリル酸アルキル共重合体エマルション(2)、アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体エマルションを挙げることができる。
成分Aに係る水系ポリマーエマルションの一部は市販されており、本発明においては市販品を用いることができる。その具体例としては、ニカゾールTS-620(日本カーバイド工業社製)、ニカゾールTS-620G(日本カーバイド工業社製)、ビニゾール1087FT(大同化成工業社製)、ビニゾール2140L(大同化成工業社製)を挙げることができる。
【0025】
本発明基剤中における成分Aの含有量は、所望に応じて適宜設定することができ、特に制限されない。
【0026】
1.2 成分Bについて
成分Bは油分であって、本発明基剤は当該成分Bを含む。基本的に成分Bと後述の成分C(油分ゲル化剤)とにより、形成された皮膜の保形成向上と粘着性低下を図ることができる。
当該油分としては、脂溶性で水に不溶な有機物であれば特に制限されないが、20℃における中性水への溶解度が100μg/mL以下の油性の有機物を挙げることができる。このような油分として、例えば、脂肪酸、高級アルコール、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、パラフィン類(炭化水素類)、トリ脂肪酸グリセリル類、ネオペンチルグリコール類、シリコーン油類、エステル類、動植物油を挙げることができる。具体的には、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等の脂肪酸;セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、デシルテトラデカノール等の高級アルコール;セスキオレイン酸ソルビタン、セスキイソステアリン酸ソルビタン、イソステアリン酸ソルビタン、ジイソステアリン酸ポリグリセリル等のソルビタン脂肪酸エステル類やポリグリセリン脂肪酸エステル類(界面活性剤);イソパラフィン、流動パラフィン、スクワラン、ワセリン等のパラフィン類(炭化水素類);トリ(2-エチルヘキサン酸)グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等のトリ脂肪酸グリセリル類;ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール等のネオペンチルグリコール類;メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン(ポリジメチルシロキサン)、高重合メチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロペンタシロキサン、デカメチルシクロヘキサシロキサン、ステアロキシシリコーン等の高級アルコキシ変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、高級脂肪酸エステル変性シリコーン等のシリコーン油類;イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル、パルミチン酸イソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、アジピン酸ジ(2-ヘプチルウンデシル)、ホホバ油、セチルイソオクタネート、トリオクタン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリベヘン酸グリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、コレステロール脂肪酸エステル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル・ベヘニル・オクチルドデシル)、酢酸トコフェロール等のエステル類;アボガド油、アマニ油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ油、牛脂、キリ油、小麦胚芽油、ゴマ油、米胚芽油、米糠油、サフラワー油、大豆油、月見草油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、馬脂、パーシック油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、ヒマワリ油、豚脂、ブドウ油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、ミンク油、綿実油、モクロウ、ミツロウ、サラシミツロウ、ヤシ油、硬化ヤシ油、落花生油、ラノリン、卵黄油、ローズヒップ油等の動植物油を挙げることができる。この中、イソパラフィン、流動パラフィン、スクワラン等のパラフィン類や、ミリスチン酸オクチルドデシルなどのエステル類、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油類が好ましく、流動パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシルがより好ましい。
成分Bは、上記いずれか1種であっても任意の2種以上の併用であってもよい。
【0027】
本発明基剤中における成分Bの含有量は、所望に応じて適宜設定され特に制限されないが、5~40質量%の範囲内が適当であり、10~30質量%の範囲内が好ましく、10~20質量%の範囲内がより好ましい。5質量%より少なくても、40質量%より多くても、油染みが生じたり、十分な保形成と粘着性の低下が得られないおそれがある。
【0028】
1.3 成分Cについて
本発明基剤は、油分ゲル化剤を含む。かかる油分ゲル化剤は、基本的に成分Bに係る油分によるべたつきを抑制するものである。当該油分ゲル化剤は、油分によるべたつきを抑制するため、形成された皮膜の保形成や粘着性の低下も図ることができる。
当該油分ゲル化剤は、成分Bに係る油分をゲル化することができる有機物であれば特に制限されないが、具体的には、例えば、ミリスチン酸デキストリン、パルミチン酸デキストリン、(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン、(パルミチン酸/ヘキシルデカン酸)デキストリンを挙げることができる。この中、パルミチン酸デキストリンが好ましい。
成分Cは、上記いずれか1種であっても任意の2種以上の併用であってもよい。
【0029】
本発明基剤中における成分Cの含有量は、例えば、成分Cの種類や成分Bの油分の種類や配合量などによって異なるが、0.1~20質量%の範囲内が適当であり、0.5~10質量%の範囲内が好ましく、1~10質量%の範囲内がより好ましい。0.1質量%より少なくても、20質量%より多くても、油染みが生じたり、十分な保形成と粘着性の低下が得られないおそれがある。
【0030】
1.4 その他の成分
1.4.1 担体溶媒
本発明基剤の担体溶媒は、基本的に水であるが、薬効成分の溶解ないし分散を容易にするためなどのために、本発明基剤全量中20質量%未満の割合で揮発性有機溶媒を含むことができる。かかる揮発性有機溶媒は本発明基剤中含まなくてもよいが(0質量%)、含む場合には、15質量%以下ないし10質量%以下が好ましく、5質量%以下ないし1質量%以下がより好ましい。ここで「担体溶媒」とは、本発明基剤を用いた製剤を皮膚に適用するまで、皮膜形成剤の成分Aや油分の成分B、油分ゲル化剤の成分Cなどを基剤中に保持するための媒体であり、皮膚適用後、最終的には蒸発して消失するものである。
【0031】
本発明基剤に含みうる揮発性有機溶媒は、通常、低沸点有機溶媒であり、具体的には、例えば、低級(炭素数1~4程度)一価アルコール(例、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール)、アセトン、酢酸エチル、メチルエーテル、エチルエーテルを挙げることができる。一般的には、低級一価アルコールであり、エチルアルコールである。
【0032】
担体溶媒は、上記の通り、基本的には水であるから、エチルアルコール等の低級一価アルコールを含む揮発性有機溶媒は、本発明基剤に含まれていなくてもよいし、刺激性の観点からは、含まれていないことが好ましい。
【0033】
1.4.2 多価アルコールと界面活性剤
本発明基剤には、必要に応じて、例えば、薬効成分の溶解を補助する目的などのために、本発明基剤全量中50質量%以下の割合で、好ましくは30質量%以下ないし20質量%以下、より好ましくは10質量%以下ないし5質量%以下の割合で、多価アルコールや界面活性剤を含むことができる。
【0034】
本発明基剤に含みうる多価アルコールは、通常、分子内に水酸基を2個以上有するアルコールであり、具体的には、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、マクロゴール400を挙げることができる。本発明基剤に含みうる界面活性剤としては、具体的には、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0035】
1.4.3 その他の添加剤
本発明基剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、所望により他の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、例えば、安定(化)剤、可溶化剤、抗酸化剤、湿潤剤、清涼化剤、着色剤、着香剤(香料)、乳化剤、粘着剤、粘着増強剤、粘稠(化)剤、pH調整剤、防腐剤、溶剤、収斂剤、キレート剤、増粘剤、刺激低減剤を挙げることができる。
【0036】
上記安定(化)剤としては、例えば、アスコルビン酸、エデト酸ナトリウム水和物、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムが挙げられる。
【0037】
上記可溶化剤としては、例えば、トリアセチン、D-マンニトール、D-ソルビトール、安息香酸ベンジル、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムが挙げられる。
【0038】
上記抗酸化剤としては、例えば、ブチルヒドロキシアニソール、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸およびその塩、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ベンゾトリアゾール、塩酸システイン、クエン酸が挙げられる。
【0039】
湿潤剤としては、例えば、メチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0040】
清涼化剤としては、例えば、メントール(l-メントール、dl-メントールなど)、カンフル(d-カンフル、dl-カンフルなど)、クロロブタノール、ゲラニオール、シネオール、アネトール、リモネン、ボルネオールなどのテルペノイド、テルペノイドを含有する精油(ハッカ油)が挙げられる。
【0041】
上記着色剤としては、例えば、タール色素(褐色201号、青色201号、黄色4号、黄色403号等)、カラメル、銅クロロフィンナトリウム、メチレンブルー、クチナシ色素、マリーゴールド色素、カロテン色素、アントシアニン色素、果汁色素、野菜色素、三二酸化鉄などの合成または天然由来の色素が挙げられる。
【0042】
上記着香剤(香料)としては、例えば、チョウジ油、ヒペロナール、d-ボルネオールを挙げることができる。
【0043】
上記乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、水素添加大豆リン脂質を挙げることができる。
【0044】
上記粘着剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウムを挙げることができる。
上記粘着増強剤としては、例えば、キサンタンガム、ポリエチレングリコール(マクロゴール)6000を挙げることができる。
上記粘稠(化)剤としては、例えば、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0045】
上記pH調整剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、無水クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸カルシウム、乳酸ナトリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、氷酢酸等の有機酸又はその塩;塩酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸又はその塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ホウ砂等の水酸化アルカリ;モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアミン類が挙げられる。
【0046】
上記防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸ベンジル、安息香酸、安息香酸ナトリウム、安息香酸、安息香酸ベンジル、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、アミノエチルスルホン酸、フェノキシエタノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、チモール、ソルビン酸およびその塩が挙げられる。
上記溶剤としては、例えば、濃グリセリン、プロピレングリコール、ベンジルアルコールを挙げることができる。
【0047】
上記収斂剤としては、例えば、ミョウバン、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウムカリウム、塩基性乳酸アルミニウム亜鉛等の金属塩、タンニン酸、クエン酸、乳酸、コハク酸などの有機酸、植物(例えば海藻、タイム、紅茶、ウーロン茶、緑茶、オトギリソウ、ハマメリス、ビワ、ボタンピ、ユキノシタ、ルイボス、レンゲソウ、アーティチョーク、カミツレ、ユーカリ、レモン、ローズマリー、ワレモコウ、サルビアなど)に由来する成分が挙げられる。
【0048】
上記キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸)、エチレンジアミン四酢酸塩(ナトリウム塩(エデト酸ナトリウム:日本薬局方、EDTA-2Naなど)、カリウム塩など)、フィチン酸、グルコン酸、ポリリン酸、メタリン酸が挙げられる。
【0049】
上記増粘剤としては、例えば、グアーガム、ペクチン、プルラン、ゼラチン、ローカストビーンガム、カラギーナン、寒天、グルコマンナン、カードラン、ジェランガム、キサンタンガム、ポリエチレングリコール、ベントナイト、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコール、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウムが挙げられる。
【0050】
上記刺激低減剤としては、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、アルファー化デンプン、カンテン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、甘草エキス、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが挙げられる
上記添加剤は、所望に応じて、いずれか1種であっても任意の2種以上の併用であってもよい。
【0051】
本発明基剤は、通常、pH2~9の液性を有するが、皮膚に対する刺激性および皮膚使用感という観点から、pH3~8であることが好ましく、pH4~8であることが特に好ましい。なお、このpHは上記pH調整剤の使用により適宜調整することができる。
【0052】
本発明基剤は、1~10,000mPa・sの範囲内の粘度を備えていればよいが、指取り性や塗布しやすさなどの観点から、3~5,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、5~3,000mPa・sの範囲内であることがより好ましい。
【0053】
本発明基剤の製造方法は、特に制限されず、本発明基剤の調製に必要な各種成分を適宜選択、配合して、適当な撹拌機を用いて常法により撹拌など行うことにより本発明基剤を製造することができる。
【0054】
2 本発明基剤の用途など
本発明基剤は、非医薬品としての皮膜形成型外用剤、または医薬品に係る薬効成分を配合した皮膜形成型外用剤のための基剤として用いることができる。本発明には、本発明基剤を含み薬効成分を含まない雑貨、化粧品等といった非医薬用外用剤、および本発明基剤と薬効成分とを含む医薬用外用剤を含めることができる。以下、これら非医薬用外用剤と医薬用外用剤とを合わせて、単に「本発明外用剤」という。
【0055】
医薬用の本発明外用剤においては、親水性薬物から疎水性薬物まで広い範囲の薬効成分を配合することができる。当該薬物(薬効成分)としては、例えば、うおの目・たこ・いぼ用薬、にきび治療剤、殺菌剤、水虫薬(抗真菌薬)、鎮痒剤、保湿剤、鎮痛消炎剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、局所麻酔剤、角質軟化剤、組織修復剤、皮膚保護剤、ビタミン剤を挙げることができる。これらを1種または任意の2種以上を併用することができる。
【0056】
医薬用の本発明外用剤の製造方法は、特に制限されないが、例えば、本発明基剤および所望の薬効成分、ならびに必要に応じて添加物を常法により撹拌機などで撹拌混合するなどの操作を施すことによって製造することができる。より詳しくは、例えば、下記の工程を含む方法により、医薬用の本発明外用剤を製造することができる。非医薬用の本発明外用剤の場合は、下記の工程1を除いて同様にして製造することができる。
【0057】
工程1:薬物(薬効成分)を溶解または分散する(薬物相)。
工程2:本発明に係る水系エマルションに各種添加物を配合し、撹拌機で撹拌して本発明基剤を調製する(基剤相)。
工程3:基剤相に薬物相を添加し、撹拌機で撹拌する(製剤バルク)。
工程4:製剤バルクを、充填機を用いて任意の容器に充填する。
【0058】
本発明外用剤は、密封状の任意の容器、例えば、発泡ラバー中栓塗布容器、(ミニ)ロールオン容器、噴霧(スプレー)容器、滴下容器、乳液容器、アルミチューブ、ピンプッシュ型容器に封入することができる。当該容器から皮膚に直接塗布することができる。塗布部の乾燥を抑制する観点などから、ピンプッシュ型容器、ロールオン容器、ミニロールオン容器、噴霧容器、ハケ付き容器に封入するのが好ましい。
当該容器の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等プラスチック全般を挙げることができる。
【0059】
医薬用の本発明外用剤の適用方法は、疾患、薬効成分、患部、性別、年齢などにより異なり、特に制限されないが、通常、1日あたり1回~数回、適量を皮膚等の外皮上の、患部を含む領域に塗布して用いることができる。塗布後、本発明外用剤は速やかに乾燥し、本発明外用剤が塗布された皮膚上に皮膜が形成される。かかる皮膜は水に曝されても膨潤しがたく、何ら力を加えなければ比較的長期間、皮膚上に留まることができる。
【実施例0060】
以下、実施例ないし試験例を示して本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0061】
[参考例1~18]成膜化を向上させる添加物のスクリーニング
アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルへキシル共重合体エマルション(ニカゾールTS-620、日本カーバイド工業社製、ガラス転移温度-50℃;以下同じ。)9.5gに、表1に示す各添加物(参考例1は無配合)0.5gを添加し、よく撹拌した。撹拌後、各々の液0.5gを直径3cm(面積約7cm)のポリプロピレン製容器に入れ、50℃で6時間乾燥させた。
乾燥後、形成した膜の成膜化状態を下記基準で評価した。その結果を表1の右端に示す。
【0062】
<評価基準>
〇:成膜性、保形性ともに良好
△:成膜性、または保形性やや良好
×:保形性不良
【0063】
【表1】
【0064】
添加物を配合しない場合(参考例1)は、非常に粘着性が高く、保形性が低いため、皮膜が得られなかった。流動パラフィンまたはジメチルシロキサンを配合することで、水不溶性の皮膜が得られたが、べたつきがかなり大きかった。
【0065】
[実施例1~4]
パルミチン酸デキストリン(レオパールKL2またはTL2、千葉製粉社製;以下同じ。)0.025gを流動パラフィン(ハイコールM172(粘度:165SUS)またはM352(粘度:360SUS)、カネダ社製;以下同じ。)0.475gに添加し、80℃で溶解させた。この液をアクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルへキシル共重合エマルジョン(ニカゾールTS-620)9.5gに添加し、よく撹拌した。撹拌後、各々の液0.5gを直径3cm(面積約7cm)のポリプロピレン製容器に入れ、50℃で6時間乾燥させた。
【0066】
【表2】
【0067】
その結果、表2の処方内容で製造した基剤からは、いずれも成膜性および保形性ともに良好で、かつべたつきが殆どない皮膜が得られた。
【0068】
[実施例5~13]
表3に示す処方に従い、パルミチン酸デキストリン(レオパールTL2)を流動パラフィン(ハイコールM352)に添加し、80℃で溶解させた。この液をアクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルへキシル共重合エマルジョン(ニカゾールTS-620)に添加し、よく撹拌した。撹拌後、各々の液0.5gを直径3cm(面積約7cm)のポリプロピレン製容器に入れ、50℃で6時間乾燥させた。
【0069】
【表3】
【0070】
各実施例の基剤から形成された皮膜について、成膜性、油染み、および保形性を目視および触感で評価したところ表3に示す結果が得られた。なお、各評価は、下記の基準で行った。
【0071】
<成膜性>
○:良好な膜を形成
△:やや良好な膜を形成
×:成膜化しないか、または凝集
【0072】
<表面の油染み>
○:殆どない
△:ややある
×:ある
【0073】
<保形性>
○:良好
△:やや良好
×:弱いか、または脆い
【0074】
その結果、表3の処方内容で製造した基剤からは、いずれも成膜性および保形性ともに良好かまたはやや良好で、かつ表面に油染みがほぼないか、またはややある程度の皮膜が得られた。
【0075】
[実施例14~16]無機粉末の配合
表4に示す処方に従い、パルミチン酸デキストリン(レオパールTL2)を流動パラフィン(ハイコールM352)に添加し、80℃で溶解させた。この液またはこの液および軽質無水ケイ酸(アドソリダ-101、フロイント産業社製)をアクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルへキシル共重合エマルジョン(ニカゾールTS-620)に添加し、よく撹拌した。撹拌後、各々の液0.5gを直径3cm(面積約7cm)のポリプロピレン製容器に入れ、50℃で6時間乾燥させた。
【0076】
【表4】
【0077】
各実施例の基剤から形成された皮膜について、成膜性、油染み、および保形性を目視および触感で評価したところ表4に示す結果が得られた。なお、各評価は、下記の基準で行った。
【0078】
<成膜性>
◎:強靭な膜を形成
○:良好な膜を形成
△:やや良好な膜を形成
×:成膜化しないか、または凝集
【0079】
<表面の油染み>
◎:全くない
○:殆どない
△:ややある
×:ある
【0080】
<保形性>
◎:堅牢
○:良好
△:やや良好
×:弱いか、または脆い
【0081】
その結果、表4の処方内容で製造した基剤からは、強靱かつ堅牢で、表面に油染みの全くない皮膜が得られた。
【0082】
[実施例17~19]無機粉末の配合
表5に示す処方に従い、軽質無水ケイ酸の代わりに含水二酸化ケイ素(アドソリダ-102、フロイント産業社製)を用いて、実施例14~16と同様に実施した。
【0083】
【表5】
【0084】
各実施例の基剤から形成された皮膜について、成膜性、油染み、および保形性を目視および触感で評価したところ表5に示す結果が得られた。なお、各評価は、前記と同様である。
その結果、表5の処方内容で製造した基剤からも、強靱かつ堅牢で、表面に油染みの全くない皮膜が得られた。
【0085】
[実施例20~22]
表6に示す処方に従い、軽質無水ケイ酸の代わりに酸化チタンを用いて、実施例14~16と同様に実施した。
【0086】
【表6】
【0087】
各実施例の基剤から形成された皮膜について、成膜性、油染み、および保形性を目視および触感で評価したところ表6に示す結果が得られた。なお、各評価は、前記と同様である。
その結果、表6の処方内容で製造した基剤からも、強靱かつ堅牢で、表面に油染みの全くない皮膜が得られた。
【0088】
[実施例23~33]
表7または表8に示す処方に従い、パルミチン酸デキストリン(レオパールKL2)をミリスチン酸オクチルドデシル(ニッコールODM-100、日光ケミカルズ社製;以下同じ。)に添加し、80℃で溶解させた。この液をアクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルへキシル共重合エマルジョン(ニカゾールTS-620G、日本カーバイド工業社製、ガラス転移温度:-20℃;以下同じ。)に添加し、よく撹拌した。撹拌後、各々の液0.5gを直径3cm(面積約7cm)のポリプロピレン製容器に入れ、50℃で6時間乾燥させた。
【0089】
【表7】
【0090】
【表8】
【0091】
各実施例の基剤から形成された皮膜について、油染み、気泡、透明性、柔軟性、伸縮性、強度、および膜間付着性を評価したところ表7および表8に示す結果が得られた。なお、各評価は、下記の基準で行った。なお、膜間付着性は、2つの同じ皮膜を30秒間貼り合わせて、剥離した時の皮膜同士の付着性であって、かかる付着性が少ないほど皮膜製剤としては優れている。
【0092】
<表面の油染み>
◎:全くない
○:殆どない
△:ややある
×:ある
【0093】
<気泡>
◎:全くない
○:殆どない
△:若干ある
×:ある
【0094】
<透明性>
◎:極めて透明
○:透明
△:半透明
×:白濁
【0095】
<柔軟性>
◎:極めて高い
○:高い
△:若干高い
×:ない
【0096】
<伸縮性>
◎:極めて高い
○:高い
△:若干高い
×:ない
【0097】
<強度>
◎:極めて高い
○:高い
△:若干高い
×:ない
【0098】
<膜間付着性>
◎:ない
○:若干ある
△:ある
×:十分にある
【0099】
その結果、表7および表8の処方内容で製造した基剤からは、表面の油染みおよび気泡が殆どなく、透明であり、柔軟性、伸縮性、および強度が極めて優れ、膜間付着性の殆どない皮膜が得られた。
【0100】
[実施例34~37]医薬用の本発明外用剤
にきび治療薬であるイソプロフェンピコノールおよび殺菌剤であるイソプロピルメチルフェノールを配合した本発明外用剤を調製した。
【0101】
表9に示す処方に従い、イソプロフェンピコノールを、ミリスチン酸オクチルドデシルに溶解させた。この混合液およびイソプロピルメチルフェノールを、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルへキシル共重合エマルジョン(ニカゾールTS-620G)中に入れ、よく撹拌した。撹拌後、この液0.5gを直径3cm(面積約7cm)のポリプロピレン製容器に入れ、50℃で6時間乾燥させた。
【0102】
【表9】
【0103】
各実施例の基剤から形成された皮膜について、油染み、気泡、透明性、柔軟性、伸縮性、強度、および膜間付着性を評価したところ表9に示す結果が得られた。なお、各評価は、前記の基準で行った。
【0104】
その結果、表9の処方内容で製造した外用剤からは、表面の油染みが殆どなく、気泡が全くなく、透明であり、柔軟性および伸縮性が極めて高く、強度もあり、膜間付着性が抑制された皮膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明基剤は、非医薬用外用剤または医薬用外用剤の基剤として有用である。従って、本発明基剤は、日常の生活分野や医薬品分野に係る産業において利用することができる。