(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014148
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】電磁式ガス燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20240125BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F02M51/06 K
F02M21/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116771
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貴裕
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AB05
3G066BA19
3G066BA46
3G066BA61
3G066CC06U
3G066CC18
3G066CE23
(57)【要約】
【課題】電磁式ガス燃料噴射弁において、弁体及び弁ハウジング相互の摺動部を特別にコーティングする必要をなくし、その摺動部の摺動性や耐久性を確保可能しながら、コーティングに伴う従来技術の不都合を回避可能としてコスト低減を図る。
【解決手段】弁ハウジング2に設けた摺動案内面2iに摺動可能に嵌合される弁体7と、弁ハウジング2及び固定コア8を囲繞するよう配置されて固定コア8に固定されるコイル10cと、コイル10cの励磁時には固定コア8が弁体7を吸引することで弁部6を弁座7sから離間させるガス燃料噴射弁において、弁体Vは、環状溝部71g,72gを外周面に有して円筒状に形成される磁性体よりなる弁体主部7と、摺動案内面2iに摺動可能に直接接触する摺動面4sを有して環状溝部71g,72gに保持される摺動面形成体4A,4Bとを備え、摺動面形成体4A,4Bは、自己潤滑性を有する合成樹脂の射出成形により形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体よりなる筒状の弁ハウジング(2)と、弁座(5s)及び該弁座(5s)の中心部を貫通するノズル孔(5n)を有して前記弁ハウジング(2)の一端部に固設されるノズル部材(5)と、前記弁ハウジング(2)の内周部に設けた摺動案内面(2i)に摺動可能に嵌合される弁体(V)と、前記弁体(V)の、前記ノズル部材(5)と対向する一端面に固定され且つ前記弁座(5s)と協働して前記ノズル孔(5n)を開閉可能なゴム製弁部(6)と、前記弁ハウジング(2)に連結されると共に前記弁体(V)の他端面に対向する固定コア(8)と、前記弁ハウジング(2)の他端部及び前記固定コア(8)を囲繞するよう配置されて該固定コア(8)に固定されるコイル(10c)と、前記弁体(V)を前記弁座(5s)側に付勢して前記コイル(10c)の非励磁時には前記弁部(8)を該弁座(5s)に対する着座位置に保持する戻しばね(14)とを備え、前記コイル(10c)の励磁時には前記固定コア(8)が前記弁体(V)を磁気吸引することで前記弁部(6)を前記戻しばね(14)に抗して前記弁座(5s)から離間させるようにした電磁式ガス燃料噴射弁において、
前記弁体(V)は、少なくとも1つの環状溝部(71g,72g)を外周面に有して円筒状に形成される磁性体よりなる弁体主部(7)と、前記摺動案内面(2i)に摺動可能に直接接触する摺動面(4s)を有して前記環状溝部(71g,72g)に保持される摺動面形成体(4A,4B)とを備え、
前記摺動面形成体(4A,4B)は、自己潤滑性を有する合成樹脂の射出成形により形成されることを特徴とする電磁式ガス燃料噴射弁。
【請求項2】
前記環状溝(71g,72g)の内面には、少なくとも一箇所に凹部(71gh,72gh)が設けられ、前記摺動面形成体(4A,4B)は、前記凹部(71gh,72gh)に係合する凸部(4At,4Bt)を一体に有することを特徴とする、請求項1に記載の電磁式ガス燃料噴射弁。
【請求項3】
前記摺動面形成体(4A,4B)は、非磁性の合成樹脂製であり、
前記弁体主部(7)の、前記摺動案内面(2i)に直接対向する外周面と、該摺動案内面(2i)とは、前記摺動面(4s)と前記摺動案内面(2i)との摺動間隙(50)よりも大きい環状空隙(60)を挟んで近接対向していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電磁式ガス燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式ガス燃料噴射弁、特に磁性体よりなる筒状の弁ハウジングと、弁座及び弁座の中心部を貫通するノズル孔を有して弁ハウジングの一端部に固設されるノズル部材と、弁ハウジングの内周部に設けた摺動案内面に摺動可能に嵌合される弁体と、弁体の、ノズル部材と対向する一端面に固定され且つ弁座と協働してノズル孔を開閉可能なゴム製弁部と、弁ハウジングに連結されると共に弁体の他端面に対向する固定コアと、弁ハウジングの他端部及び固定コアを囲繞するよう配置されて固定コアに固定されるコイルと、弁体を弁座側に付勢してコイルの非励磁時には弁部を弁座に対する着座位置に保持する戻しばねとを備え、コイルの励磁時には固定コアが弁体を磁気吸引することで弁部を戻しばねに抗して弁座から離間させるようにしたガス燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電磁式ガス燃料噴射弁は、特許文献1に記載されるように従来公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで従来の電磁式ガス燃料噴射弁では、ドライガス環境下での弁体の作動耐久性を向上させるために、固体潤滑材を使用した摩耗対策がなされており、例えば特許文献1のガス燃料噴射弁においても、弁体の、上記摺動案内面と摺接する外周面に対して、DCL(即ちダイヤモンドライクカーボン)、フッ素樹脂等のコーティング処理がなされるが、この場合には、次のような不利点がある。
【0005】
即ち、上記コーティング処理は、コーティング膜が微小厚さである関係で、コーティング膜の強度(即ち摺動耐久性)を維持できる膜厚管理が難しいという問題があり、それに伴い、コーティング後の膜厚を確保するためにコーティング前に被コーティング面を高精度で研磨する工程が特別に必要となり、またコーティングのための塗布サイクルタイムも多く必要となる等の理由から、製造コストが嵩むといった課題がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、簡単な構造で従来装置の上記課題を解決可能な電磁式ガス燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、磁性体よりなる筒状の弁ハウジングと、弁座及び該弁座の中心部を貫通するノズル孔を有して前記弁ハウジングの一端部に固設されるノズル部材と、前記弁ハウジングの内周部に設けた摺動案内面に摺動可能に嵌合される弁体と、前記弁体の、前記ノズル部材と対向する一端面に固定され且つ前記弁座と協働して前記ノズル孔を開閉可能なゴム製弁部と、前記弁ハウジングに連結されると共に前記弁体の他端面に対向する固定コアと、前記弁ハウジングの他端部及び前記固定コアを囲繞するよう配置されて該固定コアに固定されるコイルと、前記弁体を前記弁座側に付勢して前記コイルの非励磁時には前記弁部を該弁座に対する着座位置に保持する戻しばねとを備え、前記コイルの励磁時には前記固定コアが前記弁体を磁気吸引することで前記弁部を前記戻しばねに抗して前記弁座から離間させるようにした電磁式ガス燃料噴射弁において、前記弁体は、少なくとも1つの環状溝部を外周面に有して円筒状に形成される磁性体よりなる弁体主部と、前記摺動案内面に摺動可能に直接接触する摺動面を有して前記環状溝部に保持される摺動面形成体とを備え、前記摺動面形成体は、自己潤滑性を有する合成樹脂の射出成形により形成されることを第1の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記環状溝の内面には、少なくとも一箇所に凹部が設けられ、前記摺動面形成体は、前記凹部に係合する凸部を一体に有することを第2の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記摺動面形成体は、非磁性の合成樹脂製であり、前記弁体主部の、前記摺動案内面に直接対向する外周面と、該摺動案内面とは、前記摺動面と前記摺動案内面との摺動間隙よりも大きい環状空隙を挟んで近接対向していることを第3の特徴とする。
【0010】
本発明において、「自己潤滑性」とは、摺動面形成体を構成する合成樹脂の摩擦係数が極めて小さいため、摺動面において潤滑油を補給せずとも必要な潤滑性を確保可能な材質をいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば、弁体は、少なくとも1つの環状溝部を外周面に有して円筒状に形成される磁性体よりなる弁体主部と、弁ハウジング内周部の摺動案内面に摺動可能に直接接触する摺動面を有して環状溝部に保持される摺動面形成体とを備え、摺動面形成体は、自己潤滑性を有する合成樹脂の射出成形により形成されるので、弁体及び弁ハウジング相互の摺動部の摺動性や耐久性を確保するために該摺動部を特別にコーティングする必要はなくなる。従って、そのコーティングに伴う従来技術の前記課題を解決できるから、製造コストの低減に大いに寄与することができる。
【0012】
また特に第2の特徴によれば、前記環状溝の内面には、少なくとも一箇所に凹部が設けられ、その凹部に係合する凸部を摺動面形成体が一体に有するので、摺動面形成体を環状溝に配設しても、摺動面形成体の回り止めを簡単な構造で確実に行うことができる。
【0013】
また特に第3の特徴によれば、摺動面形成体は、非磁性の合成樹脂製であり、弁体主部の、摺動案内面に直接対向する外周面と、摺動案内面とは、摺動面と摺動案内面との摺動間隙よりも大きい環状空隙を挟んで近接対向している。これにより、弁体主部と摺動案内面とは、特に摺動面形成体を径方向に挟む部位では摺動面形成体の肉厚(非磁性部)にてエアギャップを大きく確保できるため、摺動部に発生するサイドフォースを低減できて摺動部の摩耗抑制を図ることができ、一方、弁体主部外周と摺動案内面とが直接対向する上記環状空隙(従ってエアギャップ)を小さく設定することが容易となるため、弁体に付与する開弁方向推力を高める上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るガス燃料噴射弁の実施形態(閉弁状態)を示す全体縦断面図
【
図2】前記ガス燃料噴射弁の実施形態(開弁状態)を示す要部縦断面図
【
図3】前記ガス燃料噴射弁に用いる弁体を単体で示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を、添付図面により以下に具体的に説明する。
【0016】
図1において、本発明に係る電磁式ガス燃料噴射弁Iは、これの前端部が、ガス燃料を燃焼させて動力を発生するエンジンの吸気管Eに設けた取付孔Eaに装着され、エンジンの吸気行程で開弁してガス燃料(例えば水素ガス、ブタンガス、メタンガス等)を吸気管E内に噴射する。尚、実施形態では、ガス燃料噴射弁Iが複数の吸気管E毎に設けられ、それらガス燃料噴射弁Iの後述する燃料導入筒12に燃料分配管Dが接続される。
【0017】
各々のガス燃料噴射弁Iの弁ボディ1は、磁性体より段付き円筒状に形成される弁ハウジング2と、弁ハウジング2の後端部に連設、固定されるボディ基部3と、弁ハウジング2の前端開口部を閉じるノズル部材5とを備える。
【0018】
尚、本明細書において、ガス燃料噴射弁Iは、これの縦軸線Lに沿う方向で吸気管E内に向かう側(即ち燃料噴射側)を前側、その反対側を後側という。
【0019】
ノズル部材5は、円盤状に形成されていて、弁ハウジング2の小径前部2fの前端寄り内周面にシールリング13を挟んで気密に嵌合、固定(例えば圧入、溶接等)される。このノズル部材5は、前記縦軸線Lと直交する平面よりなる後向きの弁座5sと、弁座5sの中心部に開口し且つノズル部材5を前後に貫通するノズル孔5nとを有する。
【0020】
また弁ハウジング2の小径前部2fの外周面には、相互間に環状シール溝30を画成する前後一対の合成樹脂製リング部材31,32が嵌着(例えば圧入)される。このシール溝30に装着したシールリング33は、弁ハウジング2の小径前部2fを吸気管Eの前記取付孔Eaに嵌装した時にその取付孔Eaの内周面に密接して弁ハウジング2と取付孔Eaとの間を気密にシールする。
【0021】
また弁ハウジング2は、これの内周部に円筒面状に形成した摺動案内面2iを有しており、この弁ハウジング2内には、摺動案内面2iに前後摺動可能に嵌合されるプランジャ形の弁体Vが、ノズル部材5の後方側に収容される。
【0022】
この弁体Vは、少なくとも1つ(図示例は前後一対)の環状溝部71g,72gを外周面に有して磁性体で構成される弁体主部7と、その環状溝部71g,72gに各々保持される合成樹脂製の摺動面形成体4A,4Bとを備える。そして、摺動面形成体4A,4Bは、それらの外周において、上記摺動案内面2iに摺動可能に直接接触する摺動面4sを有している。
【0023】
弁体主部7は、前端部が閉塞した有底円筒状に形成され、その弁体主部7内には、弁体主部7の中心部を縦通する縦孔7aと、その縦孔7aの前端部より放射方向に延びて弁体主部7の小径前端部70の外周面に開口する複数の横孔7bとを有する。縦孔7aの後端開口は、後述する固定コア8の中心部を縦通する燃料供給路8aの下流端に近接、対向する。
【0024】
また弁体主部7の、上記小径前端部70より後側の外周面には、軸方向幅が比較的狭い前側の第1大径部71と、第1大径部71の後端に環状溝部73を挟んで隣接し且つ軸方向幅が広い後側の第2大径部72とが設けられる。そして、第1大径部71の外周面には小幅の環状溝部71gが凹設され、また第2大径部72には、幅広の環状溝部72gが前寄り(即ち固定コア8から離れる側)にオフセットして凹設される。そして、それら第1,第2大径部71,72において弁体主部7が前記摺動面形成体4A,4Bを介して前記摺動案内面2iに摺接する。
【0025】
また特に弁体主部7(より具体的には第1,第2大径部71,72)の、摺動案内面2iに直接対向する外周面と、弁ハウジング2の摺動案内面2iとは、前述の摺動面4sと摺動案内面2iとの摺動間隙50よりも大きい環状空隙60を挟んで、相互が近接、対向している。
【0026】
さらに弁体主部7の、ノズル部材5と対向する前端面には、弁座5sと協働してノズル孔5nを開閉可能な弁部6が接合、固定(例えば焼付け、接着等)されており、その弁部6は、耐熱性及び耐圧性を有するゴム材で構成される。一方、弁体主部7の、固定コア8と対向する後端面には、周方向に延びる複数の円弧状のストッパ突起7eが接合され、このストッパ突起7eは、残留磁気による固定コア8への弁体主部7の吸着を抑制する素材で構成される。
【0027】
また実施形態の摺動面形成体4A,4Bは、自己潤滑性を有し且つ非磁性の合成樹脂材(例えばナイロン等のポリアミド系合成樹脂)の射出成形により形成される。尚、ナイロンとしては、例えば6ナイロンや、特に摺動性に優れ高品質のMCナイロン(登録商標)が選定可能である。
【0028】
しかも実施形態の第1,第2大径部71,72に設けた前記環状溝71g,72gの内底面には、少なくとも一箇所(図示例では周方向に間隔をおいて複数箇所)に凹部71gh,72ghが設けられる。一方、摺動面形成体4A,4Bの内周面には、上記凹部71gh,72ghに各々係合する凸部4At,4Btが一体に突設される。これら凹部71gh,72gh及び凸部4At,4Bt相互の係合により、摺動面形成体4A,4Bの環状溝71g,72gに対する回り止めを簡単な構造で確実に行うことができる。
【0029】
ところで実施形態では、弁体主部7に設けた前記環状溝71g,72gに摺動面形成体4A,4Bを装入、保持させて弁体Vを得るに当たり、予め製作した弁体主部7をインサート部品として摺動面形成体4A,4Bをインサート成形することで、摺動面形成体4A,4Bを弁体主部7に結合一体化している。
【0030】
この場合、上記インサート成形では、摺動面形成体4A,4Bを最終製品の外径よりも僅かに大径サイズに成形しておき、その成形後に、摺動面形成体4A,4Bの外周面に部分的に残る射出ゲート跡や金型のパーテーションラインの削除も兼ねて外径研磨工程を行うことで、外径精度の維持を図るようにしている。
【0031】
次に前記したボディ基部3の具体例を説明する。ボディ基部3は、弁体主部7の後端部に作動間隙s(弁体主部7の開閉ストロークに相当)を挟んで前端面が対向配置される円筒状の固定コア8と、固定コア8の外周部及び弁体主部7の後端部外周を囲繞するコイル組立体10と、コイル組立体10の外周部及び後端部を被覆するようにして固定コア8の外周に一体に連設される有底円筒状のコイルカバー筒9と、固定コア8の後端部に一体に連設されて後方に同軸状に延びる燃料導入筒12とを備えており、コイル組立体10を除くボディ基部3の全体が磁性体で構成される。
【0032】
コイル組立体10は、コイル10cとコイル10cを巻装させ且つ被覆する絶縁性合成樹脂製のボビン10bとを有して全体として円筒状に形成される。コイル組立体10(より具体的にはボビン10b)の前端面は、弁ハウジング2の後端フランジ部2rの後端面にシールリング15を挟んで当接しており、その当接状態は、コイルカバー筒9の前端部が弁ハウジング2の後端フランジ部2r外周を一体的に結合(例えばカシメ加工9k)されることで、強固に保持される。
【0033】
また弁ボディ1のボディ基部3の後部には、コイルカバー筒9の後端部及び燃料導入筒12の前部外周を連続的に被覆する樹脂モールド層20が結合一体化される。この樹脂モールド層20には、コイル10sに連なる通電用端子21を保持するカプラ部22が、樹脂モールド層20の一側方に張り出すようにして一体成形される。このカプラ部22内で通電用端子21が不図示の外部配線を介して電子制御装置に接続され、この電子制御装置によりエンジンの運転状態に応じてコイル10cへの通電制御がなされ、これにより弁体Vが開閉制御される。
【0034】
ところで固定コア8の中空部内周面、即ち燃料供給路8aの周面には、中空円筒状のリテーナ16が固定(例えば圧入)され、このリテーナ16と弁体Vとの間には、弁体Vを前方即ち弁座5s側に弾発付勢する戻しばね14が縮設される。そして、この戻しばね14の付勢力は、コイル10sが非通電即ち非励磁状態(
図1参照)にある場合に弁部6を弁座5sに対する着座位置に保持し、これにより、ガス燃料噴射弁Iは閉弁状態を維持される。
【0035】
一方、コイル10sが通電により励磁状態(
図2参照)にある場合には、可動コアとして機能する弁体Vを固定コア8が磁気吸引することで、弁部6を戻しばね14の付勢力に抗して弁座5sから離間させる。これにより、ガス燃料噴射弁Iは開弁状態となる。
【0036】
また前記した燃料導入筒12の中空部12iは、固定コア8を縦通する燃料供給路8a(従ってリテーナ16内部)に連通しており、また燃料導入筒12の後端開口、即ち入口に燃料フィルタ17が装着される。更に燃料導入筒12の後端部外周には環状シール溝12gが凹設され、このシール溝12gに装着した後部シールリング18は、燃料導入筒12の外周に燃料分配管Dを嵌装した時にその燃料分配管Dの内周面に密接して燃料導入筒12及び燃料分配管D間を気密にシールする。
【0037】
尚、燃料分配管Dの上流側は、図示はしないがガス燃料タンク内に減圧装置(例えば減圧弁等)を介して接続され、その減圧装置で圧力調整された高圧ガス燃料が燃料分配管Dから複数のガス燃料噴射弁Iに分配供給されるようになっている。
【0038】
次に前記実施形態の作用を説明する。
図1に示すコイル10cの非励磁状態では、弁体Vが戻しばね14により前方に付勢されて弁部6を弁座5sに着座させ、これにより、ガス燃料噴射弁Iを閉弁状態に保つ。この状態では、図示しないガス燃料タンクから燃料分配管Dに送られたガス燃料は、燃料導入筒12内に流入した後、中空のリテーナ16、固定コア8内の燃料供給路8a、弁体Vの縦孔7a,横孔7bを経由して弁ハウジング2の内部(具体的にはノズル部材5手前側の空間)で待機するが、このとき弁体Vには、戻しばね14の付勢力とガス燃料の圧力とが閉弁力として作用して、弁部6を弁座5sとの着座位置に押圧、保持する。
【0039】
斯かる状態より、コイル10cが通電により励磁状態となると、磁束がコイル10c周囲のコイルカバー筒9、弁ハウジング2、弁体主部7及び固定コア8を順次走り、これにより、弁体主部7が戻しばね14及び待機ガス燃料の圧力に抗して固定コア8に磁気吸引され、即ち、弁体主部7には開弁方向推力が作用する。
【0040】
かくして、弁体Vと一体の弁部6が弁座5cから離れることでガス燃料噴射弁Iが開弁し、これに伴い、弁ハウジング2内で待機状態にあったガス燃料がノズル孔5nから吸気管E内に噴射される。
【0041】
以上説明した実施形態において、弁体Vは、環状溝部71g,72gを外周面に有して磁性体で構成される弁体主部7と、弁ハウジング2の摺動案内面2iに摺動可能に直接接触する摺動面4sを外周面に有して環状溝部71g,72gに保持される合成樹脂製の摺動面形成体4A,4Bとを備え、摺動面形成体4A,4Bは、自己潤滑性を有する合成樹脂(例えばナイロン)の射出成形により形成されている。これにより、弁体V及び弁ハウジング2相互の摺動部の摺動性や耐久性を確保するために該摺動部を従来技術の如く固体潤滑剤(DCL、フッ素樹脂等)でコーティングする必要はなくなるから、コーティングに伴う従来技術の課題(例えば、コーティング後の膜厚を確保するためにコーティング前に被コーティング面を高精度で研磨する工程を必要とし、またコーティングのための塗布サイクルタイムを多く必要とする等)を解消可能となって、製造コストの低減に寄与することができる。
【0042】
しかも実施形態では、摺動面形成体4A,4Bが非磁性の合成樹脂製である上、弁体主部7の、摺動案内面2iに直接対向する外周面と、摺動案内面2iとは、摺動面形成体4A,4B外周の摺動面4sと摺動案内面2iとの摺動間隙50よりも大きい環状空隙60を挟んで、相互が近接、対向している。これにより、弁体主部7と摺動案内面2iとは、特に摺動面形成体4A,4Bを径方向に挟む部位では摺動面形成体4A,4Bの肉厚(非磁性部)にてエアギャップを大きく確保できるため、摺動部に生じるサイドフォースの低減、延いては摺動部の摩耗抑制を図ることができ、一方、弁体主部7と摺動案内面2iとが直接対面する上記環状空隙60(従ってエアギャップ)を小さく設定することが容易となるため、弁体Vに付与すべき開弁方向推力を高める上で有利となる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はその実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施形態を実施可能である。
【0044】
例えば、前記実施形態では、摺動面形成体4A,4Bの構成材としてポリアミド系合成樹脂(ナイロン)を用いたものが示されるが、摺動面形成体4A,4Bの構成材は実施形態に限定されず、少なくとも自己潤滑性を有し且つ非磁性の合成樹脂であればよく、例えば結晶性の高いポリアセタール樹脂を用いてもよい。
【0045】
また前記実施形態では、弁体主部7をインサート部品として摺動面形成体4A,4Bをインサート成形することで、摺動面形成体4A,4Bを弁体主部7に結合一体化したものを示したが、各々の摺動面形成体4A,4Bを周方向に配列した複数個の摺動面形成体要素に分割構成して、弁体主部7の環状溝71g,72gに組付け、固定するようにしてもよい。或いはまた、弁体主部7を、環状溝71g,72gに対応する位置で軸方向に配列した複数個の弁体主部要素に分割構成して、環状溝71g,72gに環状の摺動面形成体4A,4Bを組付け、固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
I・・・・・ガス燃料噴射弁
V・・・・・弁体
2・・・・・弁ハウジング
2i・・・・摺動案内面
4A,4B・・摺動面形成体
4At,4Bt・・凸部
4s・・・・摺動面
5・・・・・ノズル部材
5n・・・・ノズル孔
5s・・・・弁座
6・・・・・弁部
7・・・・・弁体主部
8・・・・・固定コア
10c・・・コイル
14・・・・戻しばね
50・・・・摺動間隙
60・・・・環状空隙
71g,72g・・環状溝
71gh,72gh・・凹部