(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141480
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】撤去電柱を用いた地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/26 20060101AFI20241003BHJP
E02D 27/14 20060101ALI20241003BHJP
E02D 3/08 20060101ALI20241003BHJP
E02D 7/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E02D27/26
E02D27/14
E02D3/08
E02D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053163
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399051700
【氏名又は名称】東電物流株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】深代 健司
(72)【発明者】
【氏名】小松 周平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 晃二
(72)【発明者】
【氏名】平田 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 勲
【テーマコード(参考)】
2D043
2D046
2D050
【Fターム(参考)】
2D043CA12
2D043EA06
2D043EB02
2D046CA06
2D050CB21
(57)【要約】
【課題】撤去された電柱を利用した地盤改良工法の対象範囲を拡大すること。
【解決手段】撤去電柱杭(1)を用いた地盤改良工法は、対象地盤(2)の地耐力を求める工程と、求められた対象地盤の地耐力から、目的とする地耐力にするために埋設する少なくとも一種類の撤去電柱杭を選択する工程と、選択した撤去電柱杭を対象地盤に圧入する工程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
対象地盤の地耐力を求める工程と、
求められた前記対象地盤の地耐力から、目的とする地耐力にするために埋設する少なくとも一種類の前記撤去電柱杭を選択する工程と、
選択した前記撤去電柱杭を前記対象地盤に圧入する工程と、
を有することを特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項2】
請求項1に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記撤去電柱杭は、
第1の電柱杭と、
前記第1の電柱杭とは径の異なる第2の電柱杭と、
前記第1の電柱杭を延在方向に沿って1/2に切断した第1の割杭と、
前記第1の電柱杭を延在方向に沿って1/4に切断した第2の割杭と、
前記第2の電柱杭を延在方向に沿って1/2に切断した第3の割杭と、
前記第2の電柱杭を延在方向に沿って1/4に切断した第4の割杭と、
を有することを特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項3】
請求項2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記撤去電柱杭を選択する工程は、
求められた対象地盤のN値が0~2の粘土地盤である場合、
前記第1の電柱杭と、
前記第2の電柱杭と、
を選択することを特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項4】
請求項2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記撤去電柱杭を選択する工程は、
求められた対象地盤のN値が2~4の粘土地盤である場合、
前記第2の電柱杭と、
前記第2の割杭と、
を選択することを特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項5】
請求項2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記撤去電柱杭を選択する工程は、
求められた対象地盤のN値が0~4の砂地盤である場合、
前記第2の電柱杭と、
前記第2の割杭と、
を選択することを特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項6】
請求項2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記撤去電柱杭を選択する工程は、
求められた対象地盤のN値が4~10の砂地盤である場合、
前記第2の割杭
を選択することを特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記撤去電柱杭を対象地盤に圧入する工程は、
前記撤去電柱杭の静的圧入を行う工程と、
前記撤去電柱杭の揺動圧入を行う工程のうち、
少なくとも一方を有することを特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記撤去電柱杭を対象地盤に圧入する工程は、
複数の前記撤去電柱杭の連結を行う工程
を有することを特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記撤去電柱杭は、
外周面から内周面にわたって貫通する貫通孔を有すること
を特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項10】
請求項9に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記貫通孔は、前記撤去電柱杭の足場取付孔を穿孔して形成すること
を特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項11】
請求項2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記第1の電柱杭は、
10mを超える長さの電柱から製造されること
を特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項12】
請求項2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記第2の電柱杭は、
10m以下の長さの電柱から製造されること
を特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【請求項13】
請求項2に記載の撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって、
前記第2の割杭は、前記第1の割杭を延在方向に沿って1/2に切断して製造し、
前記第4の割杭は、前記第3の割杭を延在方向に沿って1/2に切断して製造すること
を特徴とする撤去電柱杭を用いた地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撤去電柱を用いた地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば都市部の再開発や道路の拡幅工事等に伴って、多くの電柱が撤去され、産業廃棄物等として処理されている一方で、撤去された電柱をリサイクル品として有効利用できるようにする方法が種々開発されている。例えば、N値が3以下の地盤を含む基礎地盤の当該N値が3以下の地盤に対して、倒立状態としたリサイクル電柱を、ガイド孔を予め掘削形成することなく圧入用重機を用いて圧入するリサイクル電柱による基礎杭の施工方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術では、撤去した電柱をそのままの状態あるいは所定の長さに切断した状態で圧入するものとなっており、適用範囲が狭く、特定の条件以外での適用が困難であった。
特に、特許文献1の適用箇所は、主にN値が3以下の非常に柔らかい粘土地盤のみとなっており、N値がおよそ3~4程度となる粘土地盤や、N値がおよそ10以下となる砂礫地盤への適用が困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、撤去された電柱を利用した地盤改良工法の対象範囲を拡大することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、撤去電柱杭を用いた地盤改良工法であって対象地盤の地耐力を求める工程と、求められた前記対象地盤の地耐力から、目的とする地耐力にするために埋設する少なくとも一種類の前記撤去電柱杭を選択する工程と、選択した前記撤去電柱杭を前記対象地盤に圧入する工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、前記撤去電柱杭は、第1の電柱杭と、前記第1の電柱杭とは径の異なる第2の電柱杭と、前記第1の電柱杭を延在方向に沿って1/2に切断した第1の割杭と、前記第1の電柱杭を延在方向に沿って1/4に切断した第2の割杭と、前記第2の電柱杭を延在方向に沿って1/2に切断した第3の割杭と、前記第2の電柱杭を延在方向に沿って1/4に切断した第4の割杭と、を有することが好ましい。
【0008】
また、前記撤去電柱杭を選択する工程は、求められた対象地盤のN値が0~2の粘土地盤である場合、前記第1の電柱杭と、前記第2の電柱杭と、を選択することが好ましい。
【0009】
また、前記撤去電柱杭を選択する工程は、求められた対象地盤のN値が2~4の粘土地盤である場合、前記第2の電柱杭と、前記第2の割杭と、を選択することが好ましい。
【0010】
また、前記撤去電柱杭を選択する工程は、求められた対象地盤のN値が0~4の砂地盤である場合、前記第2の電柱杭と、前記第2の割杭と、を選択することが好ましい。
【0011】
また、前記撤去電柱杭を選択する工程は、求められた対象地盤のN値が4~10の砂地盤である場合、前記第2の割杭を選択することが好ましい。
【0012】
また、前記撤去電柱杭を対象地盤に圧入する工程は、前記撤去電柱杭の静的圧入を行う工程と、前記撤去電柱杭の揺動圧入を行う工程のうち、少なくとも一方を有することが好ましい。
【0013】
また、前記撤去電柱杭を対象地盤に圧入する工程は、複数の前記撤去電柱杭の連結を行う工程を有することが好ましい。
【0014】
また、前記撤去電柱杭は、外周面から内周面にわたって貫通する貫通孔を有することが好ましい。
【0015】
また、前記貫通孔は、前記撤去電柱杭の足場取付孔を穿孔して形成することが好ましい。
【0016】
また、前記第1の電柱杭は、10mを超える長さの電柱から製造されることが好ましい。
【0017】
また、前記第2の電柱杭は、10m以下の長さの電柱から製造されることが好ましい。
【0018】
また、前記第2の割杭は、前記第1の割杭を延在方向に沿って1/2に切断して製造し、前記第4の割杭は、前記第3の割杭を延在方向に沿って1/2に切断して製造することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る一態様によれば、撤去された電柱を利用した地盤改良工法の対象範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】撤去電柱杭の地盤への圧入状況を示す概略図である。
【
図3】第1の電柱杭と第2の電柱杭の圧入実施後における施工位置の断面図である。
【
図4】第2の電柱杭と第2の割杭の圧入実施後における施工位置の断面図である。
【
図5】第2の電柱杭と第2の割杭の圧入実施後における施工位置の断面図である。
【
図6】第2の割杭の圧入実施後における施工位置の断面図である。
【
図7】撤去電柱杭の貫通孔の作用効果を示す図である。
【
図8】撤去電柱杭の圧入方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施の形態は一例であり、本発明の範囲において、種々の実施の形態をとりうる。
【0022】
図1に示すように、本発明に係る撤去電柱を用いた地盤改良工法は、電気事業者や電気通信事業者等が道路線形の変更等により撤去した電柱(電力柱、電信柱、共架柱を含む)を加工して製造された杭(以下「撤去電柱杭」という。) を用いて対象地盤の地盤改良を行うものである。具体的には、撤去電柱杭1は、例えば鋼管杭やPCコンクリート杭を打設する重機として公知の、圧入機構を備える杭打機3を用いて対象地盤2に圧入設置することにより、建物の基礎杭として有効利用する際に採用されるものである。
【0023】
図2に示すように、撤去電柱杭1は、例えば、第1の電柱杭1a、第2の電柱杭1b、第1の割杭1c、第2の割杭1d、第3の割杭1e、第4の割杭1fの6種類が用いられる。
第1の電柱杭1aは、約10mを超える長さの電柱を延在方向と交差する方向に、輸送に適する程度の長さになるように切断し、足場用突起と碍子支持用横梁を取り外し、足場用突起を取り外した足場取付穴孔をドリル等の工具を用いてさらに穿孔して外周面から内周面にわたって貫通する貫通孔hを形成することにより、製造される。本実施の形態においては、例えば、電線を取り付けるために建てられた電柱(本柱)を2等分(輸送に適する程度の長さ)となるように切断した後、頭部を切断した上で、足場用突起と碍子支持用横梁を取り外し、足場用突起を取り外した足場取付孔をドリル等の工具を用いてさらに穿孔して貫通孔hを形成することにより、製造されている。
第2の電柱杭1bは、第1の電柱杭1aと径の異なる電柱である。第2の電柱杭1bは、第1の電柱杭1aよりも径の小さな約10m以下の長さの電柱から、足場用突起と碍子支持用横梁を取り外し、足場用突起を取り外した足場取付孔をドリル等の工具を用いてさらに穿孔して外周面から内周面にわたって貫通する貫通孔hを形成することにより、製造される。また、必要に応じて、延在方向の長さ調整を行うために、延在方向と交差する方向に切断してもよい。本実施の形態においては、主に狭隘箇所に電線を通すために建てられた電柱(小柱)を延在方向と交差する方向に切断することなく、足場用突起と碍子支持用横梁を取り外し、足場用突起を取り外した足場取付孔をドリル等の工具を用いてさらに穿孔して貫通孔hを形成することにより、製造されている。
第1の割杭1cは、第1の電柱杭1aを、軸心を通るように延在方向に沿って1/2に切断することにより、製造されたものである。
第2の割杭1dは、第1の電柱杭1aを、軸心を通るように延在方向に沿って1/4に切断することにより、製造されたものである。具体的には、第2の割杭1dは、第1の割杭1cを延在方向に沿ってさらに1/2に切断することにより、製造されたものである。
なお、第1の割杭1c及び第2の割杭1dは、強度を考慮して第1の電柱杭1aを分割して製造されているが、これらの割杭1c,1dに加えて、第2の電柱杭1bを、軸心を通るように延在方向に沿って1/2に切断した第3の割杭1eや、第2の電柱杭1bを、軸心を通るように延在方向に沿って1/4に切断した第4の割杭1fを用いてもよい。ここで、第4の割杭1fは、第3の割杭1eを延在方向に沿ってさらに1/2に切断することにより、製造されたものである。
各電柱杭1a,1b及び各割杭1c~1fの組み合わせ、本数については、地盤改良が施される地盤の地耐力を測定後、目的とする地耐力にするために増加させるべき地耐力をできるだけ少ない本数で実現することが好ましい。
【0024】
図3~6に示すように、撤去電柱杭1は、自身の長さに1m程度加えた程度の深さまで圧入する。なお、圧入する撤去電柱杭1の中から複数の種類を選択する場合、
図3~5に示すように、水平方向に交互に異なる種類の撤去電柱杭1を圧入することが好ましい。撤去電柱杭1の圧入本数は、一般的な杭による地盤改良と同様に、50坪あたりおよそ30~40本の撤去電柱杭1を圧入することが好ましい。
【0025】
対象地盤(基礎地盤)2に圧入する電柱杭の選択においては、例えば、測定された対象地盤2のN値が0~2の粘土地盤である場合、
図3に示すように、第1の電柱杭1aと、第2の電柱杭1bとを水平方向に交互に並ぶように対象地盤2に圧入する。
測定された対象地盤2のN値が2~4の粘土地盤である場合、
図4に示すように、第2の電柱杭1bと、第2の割杭1dとを水平方向に交互に並ぶように対象地盤2に圧入する。
測定された対象地盤2のN値が0~4の砂地盤である場合、
図5に示すように、第2の電柱杭1bと、第2の割杭1dとを水平方向に交互に並ぶように対象地盤2に圧入する。
測定された対象地盤2のN値が4~10の砂地盤である場合、
図6に示すように、第2の割杭1dを水平方向に並ぶように対象地盤2に圧入する。
【0026】
図7に示すように、撤去電柱杭1(本実施の形態においては、第1の電柱杭1a)を地中に圧入すると、撤去電柱杭1の周辺地盤内の間隙水圧の上昇が生じる。間隙水圧の上昇により、土壌成分内の間隙水の透水が生じ、土粒子間の間隙から過剰間隙水圧分の水が排出される。土粒子間の間隙から排出された水は、撤去電柱杭1に貫通孔hが形成されていない場合、撤去電柱杭1の中心点から法線方向の外側に向かって移動することとなるが、撤去電柱杭1に貫通孔hを設けることで、
図7(a)に示す通り、土粒子間の間隙から排出された水が撤去電柱杭1の貫通孔hから撤去電柱杭1の内部に侵入することで、撤去電柱杭1の周辺地盤の間隙比(含水比)が低下することとなり、結果として、撤去電柱杭1の周辺地盤における土壌成分の密度が上昇する。土壌成分の密度上昇により、撤去電柱杭1の周辺地盤の圧密を促進することとなる。
なお、撤去電柱杭1の内部に侵入した水は、
図7(b)に示す通り、底面の開口部を経由して、撤去電柱杭1の内側面から撤去電柱杭1の外部へ排出される。また、圧入に伴って撤去電柱杭1の内側面に侵入した土についても、間隙水圧の上昇により、土壌成分内の間隙水の透水が生じることで、土粒子間の間隙から排出される過剰間隙水圧分の水が撤去電柱杭1の底面の開口部を経由して、撤去電柱杭1の内側面から撤去電柱杭1の外部へ排出されることから、撤去電柱杭1の内側面においても、土壌成分の密度上昇により、圧密を促進することとなる。
圧密が促進された結果、撤去電柱杭1の周面支持力(摩擦力)の増大につながることで、同等の径、長さを有する一般的な杭では得られない支持力を得られることとなる。
【0027】
図8に撤去電柱杭1を圧入する工程についてのフローチャートを示す。本フローチャートは、撤去電柱杭1を圧入する工程において、地耐力調査の結果から最初に圧入すべき撤去電柱杭1を選択し、撤去電柱杭1を施工位置に圧入し始めてから必要な撤去電柱杭1の全てを圧入し終えるまでの好ましい判断処理を示したものである。
【0028】
本実施の形態に係る地盤改良工法においては、まず、地盤改良の対象となる対象地盤2について、事前に地耐力調査を実施する。地耐力調査としては、例えば、標準貫入試験やスクリューウエイト貫入試験を実施するとよい。地耐力調査によって対象地盤のN値を把握できる。
【0029】
次に、地耐力調査によって把握できたN値を基に、対象地盤の地盤改良に最も適する撤去電柱杭の種類を選択する。
【0030】
N値がおよそ0~2程度の、非常に柔らかい粘土地盤である場合、地盤改良に最も適する撤去電柱杭1の種類として、第1の電柱杭1aおよび第2の電柱杭1bを選択する。この場合、圧入を実施する工程においては、第1の電柱杭1aおよび第2の電柱杭1bのいずれも静的圧入を実施することが好ましい。これは、N値がおよそ0~2程度の、非常に柔らかい粘土地盤は、間隙比が大きく、飽和度も1に近い状態であることから、撤去電柱杭1の圧入によって生じる土の全応力上昇によって、剪断抵抗の小さい間隙水圧の上昇を誘起することとなる。一方で、剪断抵抗の大きい有効応力の上昇は誘起しにくいことから、圧入に伴う地盤の圧入抵抗の上昇は抑えられることとなり、他の地盤と比較して圧入が容易である。そのため、圧入体積が大きな撤去電柱杭1である、第1の電柱杭1aおよび第2の電柱杭1bを採用することで、周辺地盤をより大きな荷重で圧密させ、より大きな周面支持力が得られることを狙いとするからである。
【0031】
N値がおよそ2~4程度の、柔らかい粘土地盤である場合、地盤改良に最も適する撤去電柱杭1の種類として、第2の電柱杭1bおよび第2の割杭1dを選択する。この場合、圧入を実施する工程においては、第2の電柱杭1bは静的圧入を実施すること、第2の割杭1dは静的圧入を実施しながら、入れ込みが止まった際に揺動圧入に切り替えることが好ましい。これは、N値がおよそ2~4程度の、柔らかい粘土地盤は、飽和度は1に近い状態であるものの、間隙比はN値がおよそ0~2程度の、非常に柔らかい粘土地盤よりは小さく、撤去電柱杭1の圧入によってN値が増加すると剪断抵抗の大きい土の有効応力が増大するため、圧入に伴い地盤の圧入抵抗が上昇することとなる。そして、圧入を進めるにつれて圧入体積が大きな撤去電柱杭1の圧入が難しくなることから、圧入体積が小さな撤去電柱杭1である、第2の割杭1dを併用し、第1の電柱杭1aおよび第2の電柱杭1bの圧入が難しい地盤であっても確実に撤去電柱杭1の圧入を実施できるようにすることを狙いとするからである。一方で、圧入に伴う地盤の圧入抵抗の上昇により、N値がおよそ0~2程度の、非常に柔らかい粘土地盤である場合とは異なり、周面支持力も同時に増加することから、圧入する撤去電柱杭1の圧入体積(周面積)が小さくても周面支持力は十分確保できるため、第2の割杭1dを用いても必要とする地盤改良効果は十分に得られるのである。
【0032】
N値がおよそ0~4程度の、非常に緩い砂地盤である場合、地盤改良に最も適する撤去電柱杭1の種類として、第2の電柱杭1bおよび第2の割杭1dを選択する。この場合、圧入を実施する工程においては、第2の電柱杭1bは静的圧入を実施すること、第2の割杭1dは静的圧入を実施しながら、入れ込みが止まった際に揺動圧入に切り替えることが好ましい。これは、N値がおよそ0~4程度の、非常に緩い砂地盤は、間隙比はN値がおよそ2~4程度の、柔らかい粘土地盤よりは大きく、飽和度も1に近い状態であることから、圧入初期段階においては、撤去電柱杭1の圧入によって生じる土の全応力上昇によって、剪断抵抗の小さい間隙水圧の上昇を誘起することとなる。一方で、剪断抵抗の大きい有効応力の上昇は誘起しにくいことから、圧入に伴う地盤の圧入抵抗の上昇は抑えられることとなり、圧入が容易となるが、透水係数が大きいことから、圧入途中段階において間隙水圧は上昇後、速やかに消散してしまうことにより、土の全応力上昇が有効応力の上昇を誘起することとなる。これにより、圧入抵抗が増加し、圧入体積が大きな撤去電柱杭1の圧入が難しくなることから、圧入体積が小さな撤去電柱杭1である、第2の割杭1dを併用し、第1の電柱杭1aおよび第2の電柱杭1bの圧入が難しい地盤状態であっても確実に撤去電柱杭1の圧入を実施できるようにすることを狙いとするからである。一方で、圧入に伴う地盤の圧入抵抗の上昇により、N値がおよそ0~2程度の、非常に柔らかい粘土地盤である場合とは異なり、周面支持力も同時に増加することから、圧入する撤去電柱杭1の圧入体積(周面積)が小さくても周面支持力は十分確保できるため、第2の割杭1dを用いても必要とする地盤改良効果は十分に得られるのである。
【0033】
N値がおよそ4~10程度の、緩い砂地盤である場合、地盤改良に最も適する撤去電柱杭1の種類として、第2の割杭1dを選択する。この場合、圧入を実施する工程においては、第2の割杭1dは静的圧入を実施しながら、入れ込みが止まった際に揺動圧入に切り替えることが好ましい。これは、N値がおよそ4~10程度の、緩い砂地盤は、間隙比は小さく、飽和度も1に近い状態であり、かつ透水係数が大きいことから、撤去電柱杭1の圧入によって生じる土の全応力上昇によって、剪断抵抗の小さい間隙水圧は上昇後、瞬時に消散してしまい、剪断抵抗の大きい有効応力の上昇を誘起する。そのため、圧入開始後、瞬時に圧入抵抗が増加し、圧入体積が大きな撤去電柱杭1の圧入が難しくなることから、圧入体積が小さな撤去電柱杭1である、第2の割杭1dでないと、圧入が困難となるからである。一方で、圧入に伴う地盤の圧入抵抗の上昇により、周面支持力も瞬時に増加することから、圧入する撤去電柱杭1の圧入体積(周面積)が小さくても周面支持力は十分確保できるため、第2の割杭1dを用いても必要とする地盤改良効果は十分に得られるのである。
【0034】
続いて、撤去電柱杭1の圧入を実施する工程に入る。なお、圧入を実施する工程の前に必要に応じて対象地盤2の整地を行うとよい。
まず、対象地盤2に撤去電柱杭1を圧入できる面積はあるかを確認する(ステップS101においてYES)。
次に、地耐力調査の結果から、地盤改良に最も適する撤去電柱杭1の種類を選択する工程において選択した撤去電柱杭1のうち、最初に圧入すべき撤去電柱杭1として、第1の電柱杭1a、第2の電柱杭1b、第2の割杭1dの順に撤去電柱杭1を選択する(ステップS102~S104)。これは、より断面積の大きい撤去電柱杭1である第1の電柱杭1aから優先的に使用する方が撤去電柱杭1の使用本数を減らせることから、コスト面で有利だからである。ただし、断面積が小さい第2の割杭1dを優先的に使用しても、施工位置に必要な断面積分の撤去電柱杭1の総数を確保し、その本数を圧入すれば、所望の地盤改良効果は十分に得られることに留意する。
次に、圧入機構を備える杭打機3を用いて、ステップS102~S104にて選択した、撤去電柱杭1にて静的圧入を実施する(ステップS105~S107)。静的圧入は、圧入抵抗により撤去電柱杭1をそれ以上の深さまで圧入できなくなるまで(ステップS108においてYES)、かつ、圧入中の撤去電柱杭1の圧入を継続するための十分な長さが無くなるまで(ステップS111においてYES)継続する。
次に、圧入抵抗により撤去電柱杭1をそれ以上の深さまで圧入できなくなった際には(ステップS108においてNO)、第2の割杭1dを静的圧入している場合のみ(ステップS109においてYES)、揺動圧入へ変更した上で(ステップS110)、圧入を継続する。第2の割杭1dを静的圧入している場合以外の場合には(S109においてNO)、圧入中の撤去電柱杭1の圧入を停止する(ステップS116)。
次に、撤去電柱杭1の圧入が進行し、圧入を継続するための十分な長さが無くなった場合(ステップS111においてNO)、圧入深さが20mを超えていなければ(ステップS112においてNO)、撤去電柱杭1の圧入を一時停止し(ステップS113)、金具を用いて同種類の撤去電柱杭1を圧入中の撤去電柱杭1へ継ぎ足す(ステップS114)。撤去電柱杭1を連結後、圧入中の撤去電柱杭1の圧入を継続する(ステップS115)。圧入深さが20mを超えていれば(ステップS112においてYES)、圧入中の撤去電柱杭1の圧入を停止する(ステップS116)。
次に、圧入中の撤去電柱杭1の圧入を停止した(ステップS116)後は、別の撤去電柱杭1を準備して、杭を圧入できる面積が無くなるまで(ステップS101においてNO)撤去電柱杭1の圧入を継続する。
【0035】
以上のような地盤改良工法によれば、撤去された径の異なる複数種類の電柱杭と、これらの電柱杭を延在方向(軸線方向)に沿って分割した複数種類の割杭を組み合わせ、対象地盤2の地耐力(N値)に合わせて選択して圧入することにより、撤去電柱杭1をあらゆる地盤の地盤改良に用いることができる。
これにより、従来の撤去電柱を利用した地盤改良工法の適用範囲である、主にN値が3以下の非常に柔らかい粘土地盤のみならず、N値がおよそ3~4程度となる粘土地盤やN値がおよそ10以下となる砂地盤においても撤去電柱を利用した地盤改良工法を適用することが可能である。
上記の実施の形態においては、第1の割杭1c、第3の割杭1e、第4の割杭1fを用いなかったが、第2の割杭1dと同等の効果を奏することができる。第2の割杭1dを更に半分に分割して第1の電柱杭1aを1/8に分割した割杭を製造することももちろん可能である。
また、撤去電柱杭1として用いる電柱杭は、径の異なる二種類の電柱に限らず、あらゆる種類の電柱を電柱杭として用いることができる。また、あらゆる電柱杭を延在方向(軸線方向)に沿って分割することにより、複数種類の割杭を用いることもできる。割杭は、上記のように、1/2や1/4に分割したものに限らず、1/3、1/5、1/6、1/10等、電柱杭をいくつに分割したものであってもよい。
また、撤去電柱杭1を対象地盤2に圧入する際には、少なくとも静的圧入と揺動圧入の一方で圧入すればよい。
【0036】
なお、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 撤去電柱杭
1a 第1の電柱杭
1b 第2の電柱杭
1c 第1の割杭
1d 第2の割杭
1e 第3の割杭
1f 第4の割杭
2 対象地盤
3 杭打機
h 貫通孔