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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141484
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】バイオフィルム除去剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20241003BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 31/721 20060101ALI20241003BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20241003BHJP
   A23G 9/34 20060101ALN20241003BHJP
   A23G 4/10 20060101ALN20241003BHJP
   A23G 3/42 20060101ALN20241003BHJP
   A23G 1/40 20060101ALN20241003BHJP
   A21D 2/18 20060101ALN20241003BHJP
   A21D 13/80 20170101ALN20241003BHJP
   A23L 7/109 20160101ALN20241003BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q11/00
A61K31/721
A61P1/02
A23L33/125
A23G9/34
A23G4/10
A23G3/42
A23G1/40
A21D2/18
A21D13/80
A23L7/109 A
A23L2/52
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053169
(22)【出願日】2023-03-29
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】323003023
【氏名又は名称】日新製糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲野 道代
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】山本 美桜
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B032
4B046
4B117
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GB06
4B014GB08
4B014GB11
4B014GB13
4B014GB18
4B014GL11
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB05
4B018LB07
4B018LB08
4B018MD20
4B018MD33
4B018ME09
4B032DB01
4B032DB08
4B032DB21
4B032DK14
4B032DK21
4B032DL20
4B046LA02
4B046LA04
4B046LC20
4B046LG15
4B046LG20
4B117LC05
4B117LK13
4B117LK15
4B117LL09
4C083AB172
4C083AB242
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC692
4C083AC782
4C083AC862
4C083AD211
4C083AD212
4C083AD302
4C083AD352
4C083BB55
4C083CC41
4C083DD27
4C083EE32
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA35
4C086MA52
4C086MA57
4C086NA14
4C086ZA67
(57)【要約】
【課題】CIはGTFの活性を阻害するためバイオフィルムの形成を阻害できることは当業者に予測できるものの、すでに形成されているバイオフィルムについてはCIがどのような作用を示すかは当業者に全く予測できないため、それを明らかにすること。
【解決手段】サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上を含有することを特徴とするバイオフィルム除去剤。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上を含有することを特徴とするバイオフィルム除去剤。
【請求項2】
バイオフィルムが歯の表面に形成されたものである請求項1記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項3】
更に、う蝕の原因菌が資化可能な糖類を含有するものである請求項1または2記載のバイオフィルム除去剤。
【請求項4】
サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上を含有することを特徴とするグルカン結合タンパク質の活性阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム除去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)は、グラム陽性通性嫌気性細菌であり、ヒト口腔内に存在する齲蝕の原因菌であり、その表層にはグルコシルトランスフェラーゼ(Glucosyltransferase;GTF)、高分子タンパク抗原c、グルカン結合タンパク(Glucan-binding proteins;Gbp)等の病原性に関与するタンパクが多数存在する。これらのタンパクが機能することにより、強固なバイオフィルムが形成され、齲蝕が発症する。
【0003】
齲蝕の予防法の一つとして、代用糖の利用が挙げられ、その一つである環状イソマルトオリゴ糖であるサイクロデキストラン(Cycloisomaltooligosaccharide;CI)は、7~12個のグルコースがa-1,6結合で環状に連結した構造を示すものである。CIの一例として7個のグルコースがa-1,6結合で環状に連結した構造のものを図1に示した。
【0004】
これまで本出願人らは、CIがスクロースの存在下でGTFの活性を阻害することにより、齲蝕の発生を抑制することを明らかにしている(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5770845号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】FUNANE Kazumi, et al., Finding of cyclodextrans and attempts of their industrialization for cariostatic oligosaccharides, J. Appl. Glycosci., 54, 103-107 (2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、CIはGTFの活性を阻害するためバイオフィルムの形成を阻害できることは当業者に予測できるものの、すでに形成されているバイオフィルムについてはCIがどのような作用を示すかは当業者に全く予測できないため、それを明らかにすることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、意外にもCIはすでに形成されているバイオフィルムまでも除去できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
また、上記バイオフィルムの除去はこれまで知られているCIのGTFの活性の阻害だけでなく、新たにグルカン結合タンパク質の活性阻害が関連することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上を含有することを特徴とするバイオフィルム除去剤である。
【0011】
また、本発明は、サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上を含有することを特徴とするグルカン結合タンパク質の活性阻害剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバイオフィルム除去剤は、すでに形成されているバイオフィルムを除去することができる。
【0013】
また、本発明のグルカン結合タンパク質の活性阻害剤はグルカン結合タンパク質の分解等をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は7個のグルコースがa-1,6結合で環状に連結したサイクロデキストランの構造式を示す。
図2図2はCIがストレプトコッカス・ミュータンス8148株のバイオフィルム形成量に与える影響を示す図である。
図3図3はCIがストレプトコッカス・ミュータンス8148株のバイオフィルム構造に与える影響を示す図である。
図4図4はCIがストレプトコッカス・ミュータンス8148株のバイオフィルムの密度に与える影響を示す図である。
図5図5はCIがストレプトコッカス・ミュータンス8148株のバイオフィルムの菌体間結合力に与える影響を示す図である。
図6図6はCIがストレプトコッカス・ミュータンス8148株の形成されたバイオフィルム形成量に与える影響を示す図である。
図7図7はCIがストレプトコッカス・ミュータンス8148株の形成されたバイオフィルム構造に与える影響を示す図である。
図8図8はCIがストレプトコッカス・ミュータンス8148株の形成されたバイオフィルムの密度に与える影響を示す図である。
図9】CIがバイオフィルムにどのように影響を与えるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のバイオフィルム除去剤は、サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上を含有するものである。
【0016】
上記したサイクロデキストランは、例えば、4~33個のグルコースがα-1,6グルコシド結合で環状に連結した公知の環状イソマルトオリゴ糖であり、例えば、特許第3075873号および特許第3117328号に記載のバチルス属の微生物の培養液や環状イソマルト糖合成酵素の反応液から得たものや、市販のものを使用することができる。また、通常、微生物や酵素を利用してサイクロデキストランを得た場合、分枝していないサイクロデキストラン(通常のサイクロデキストラン)と、分枝したサイクロデキストランの混合物として得られる。分枝していないサイクロデキストランと、分枝したサイクロデキストランは、ODS等のカラム等で分離することができる(特開2012-140521号公報参照)。
【0017】
また、サイクロデキストランの誘導体としては、上記したサイクロデキストラン混合物からODS等のカラム等で分離して得られる分岐したサイクロデキストランや、サイクロデキストリンで公知の誘導体において、それをサイクロデキストランや分岐したサイクロデキストランに置換したもの等が挙げられる。
【0018】
サイクロデキストランの誘導体の中でも1~数個のグルコースがα-1,3-結合でサイクロデキストランに結合したα-1,3-分枝サイクロデキストランが好ましい。この分枝サイクロデキストランにおいて、分枝するグルコースの重合度は9までであり、その中でも、特に1分子のグルコースがシクロデキストランにα-1,3-結合で枝分かれしたα-1,3-分枝シクロデキストランが好ましく用いられる。また、環状分枝イソマルトオリゴ糖の環状部分を構成するグルコース分子の数は4~33であり、好ましくは4~17、望ましくは4~12であって、好ましい環状分枝イソマルトオリゴ糖を構成するグルコースの分子数は分子内総数で5~20、望ましくは5~13である。
【0019】
上記したサイクロデキストランおよびその誘導体の好ましいものとしては以下のものが挙げられる。
(a)サイクロデキストラン
(b)1~数分子のグルコースがα-1,3-結合でサイクロデキストランに結合したα-1,3-分枝サイクロデキストラン
(c)分枝していないサイクロデキストランと、1~数分子のグルコースがα-1,3-結合でサイクロデキストランに結合したα-1,3-分枝サイクロデキストランの混合物
(d)7~12個のグルコースがα-1,6グルコシド結合で環状に連結したサイクロデキストランを含むもの
【0020】
上記の中でも(b)の1~数個のグルコースがα-1,3-結合でサイクロデキストランに結合したα-1,3-分枝サイクロデキストランまたは(d)7~12個のグルコースがα-1,6グルコシド結合で環状に連結したサイクロデキストランを含むものが好ましく、7~12個のグルコースがα-1,6グルコシド結合で環状に連結したサイクロデキストランを含むものがより好ましい。この(d)は、例えば、日新製糖株式会社からCI-Dextran mix(7~12個のグルコースがα-1.6グルコシド結合で環状に連結したサイクロデキストランを13質量%以上含む)の商品名で市販されているのでこれを利用してもよい。
【0021】
本発明のバイオフィルム除去剤における、サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上の含有量は特に限定されないが、例えば、7~12個のグルコースがα-1.6グルコシド結合で環状に連結したサイクロデキストランを10~25質量%(以下、単に「%」という)を含むものの含有量として、0.01%~50%、好ましくは0.01~10%さらに好ましくは0.25%~3%である。
【0022】
本発明のバイオフィルム除去剤には、サイクロデキストランおよびその誘導体の効果を損なわないため、更に、後記するう蝕の原因菌が資化可能な糖類を含有させることができる。このような糖類としては、例えば、フルクトース、グルコース、スクロース等が挙げられる、これら糖類は1種以上を用いることができる。
【0023】
更に、本発明のバイオフィルム除去剤には、サイクロデキストランおよびその誘導体の効果を損なわない限り、例えば、ホップ抽出物等のポリフェノール類、後記するオーラルケア食品、菓子、一般食品、飲料、ペットフード、オーラルケア用品、洗剤等に用いられる成分を含有させることができる。
【0024】
本発明のバイオフィルム除去剤の形態は、特に限定されず、例えば、ガム、タブレット等のオーラルケア食品、アメ、グミ、ゼリー、チョコレート、アイスクリーム、ビスケット、パウンドケーキ等の菓子、パン、うどん、そば、ヨーグルト、飲料、魚介練り製品等の一般食品、歯磨き粉、洗口剤、うがい薬、入れ歯洗浄剤、入れ歯安定剤等のオーラルケア用品、ペットフード、風呂用、トイレ用等の洗剤等が挙げられる。これらの形態の中でもオーラルケア食品およびオーラルケア用品が好ましい。本発明のバイオフィルム除去剤は、糖類の一部または全部に代えてサイクロデキストランおよびその誘導体を用いる以外は上記形態において従来公知の製造方法で製造することができる。
【0025】
以上説明した本発明のバイオフィルム除去剤は、バイオフィルムを除去することができる。本発明のバイオフィルム除去剤を用いてバイオフィルムを除去する際には、例えば、オーラルケア食品、菓子、一般食品、ペットフードであれば、1日1~3回程度摂取すればよい。また、オーラルケア用品であれば、例えば、飲食前後、就寝前後等に適宜使用すればよい。更に、洗剤であれば、例えば、掃除の前に適宜使用すればよい。
【0026】
また、本発明のバイオフィルム除去剤が除去できるバイオフィルムは特に限定されないが、例えば、ストレプトコッカス・ミュータンス、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ・インテルメディア(Prevotella intermedia)、アグレガチバクター・アクチノマイセテムコイタンス(Aggregatibacter actinomycetemcoitans)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)等のう蝕の原因菌により歯の表面に形成されるバイオフィルム、ロドトルラ属(Rhodotorula)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium)、レジオネラ属(Legionella)等に属する細菌により浴槽等に形成されるバイオフィルム、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)等が形成するバイオフィルム等挙げられる。これらのバイオフィルムの中でもすでに形成されているバイオフィルムが好ましく、歯の表面に形成されるバイオフィルムがより好ましく、特にストレプトコッカス・ミュータンスにより歯の表面に形成されるバイオフィルムが好ましい。
【0027】
本発明のバイオフィルム除去剤は、従来サイクロデキストランに知られていたGTFの活性の阻害だけでなく、新たにグルカン結合タンパク質の活性を阻害することにより見出されたものである。そのため、本発明のバイオフィルム除去剤は、グルカン結合タンパク質を有するバイオフィルムであれば幅広く除去することができる。ここでグルカン結合タンパク質の活性を阻害するとはグルカン結合タンパク質を分解すること、何かしらの相互作用でグルカン結合タンパク質の働きを弱めること等を含む。
【0028】
そのため、サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上は、これを含有させることによりグルカン結合タンパク質の活性阻害剤となる。
【0029】
グルカン結合タンパク質は、糖結合タンパク質で細胞壁などの構成成分であるため、本発明のグルカン結合タンパク質の活性阻害剤は、例えば、抗生物質等の有用物質の開発(細菌や真菌の細胞壁を壊して、有用物質を採取する等)、食品加工(繊維を柔らかくする等)、バイオエネルギー生産(バイオマスから糖を生成する等)、土壌の環境保全(土壌中の有機物の分解をする等)等に利用可能である。また、グルカン結合タンパク質は様々な疾患に関連しているため、本発明のグルカン結合タンパク質の活性阻害剤は炎症性疾患の治療(グルカン結合タンパク質は炎症性疾患の発生に関与するため)、がん治療(グルカン結合タンパク質はがん細胞の増殖や転移に関与するため)、感染症の治療(グルカン結合タンパク質は細菌や真菌の細胞壁に存在するため)、糖尿病治療(グルカン結合タンパク質はインスリンの作用を妨げることがあるため)等にも利用可能である。
【0030】
本発明のグルカン結合タンパク質の活性阻害剤は、サイクロデキストランおよびその誘導体から選ばれる1種以上を有効成分とする以外は、上記したバイオフィルム除去剤と同様の組成、形態、製造方法あるいは上記用途に用いられる公知の技術と同様の組成、形態、製造方法でよい。
【実施例0031】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
実 施 例 1
バイオフィルムの除去試験:
(1)バイオフィルム形成量への影響
Todd Hewitt液体培地 (Becton Dickinson and Company,Franklin Lakes,NJ,USA:以下、「TH培地」という)にストレプトコッカス・ミュータンスMT8148株(大阪大学で所有する日本人小児より分離された株:基準株)を接種した後、37℃で18時間、静置培養して菌液を調製した。1%スクロース含有化学合成培地〔Chemically defined medium(CDM);58mM KHPO;ナカライテスク、京都,15mM KHPO,10mM(NHSO,35mM NaCl,0.2%Casamino acids,100μM MnCl・4HO(pH7.4),20mM Nicotinic acid,50mM Pyridoxine HCl,5mM Pantothenic acid,0.5mM Riboflavin,0.15mM Thiamin HCl,0.015mM D-biotin,50mM L-glutamic acid,12.5mM L-arginine HCl,16.25mM L-cysteine HCl,1.25mM L-tryptophan,1M MgSO・7HO;和光純薬、大阪〕に前記菌液の100μlを接種し、これを分けてそれぞれに0~10%でCIとしてサイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix:7~12個のグルコースがα-1.6グルコシド結合で環状に連結したサイクロデキストランを13%以上含む)を添加した試験液を調製した。これらの試験液をプレートの各ウエルに100μlずつ分注し、37℃で48時間、嫌気下で培養した。培養後、クリスタルバイオレッドで試験液を染色し、OD570の吸光度を測定した。その結果を図2に示した。
【0033】
バイオフィルム形成量はCI濃度依存的に減少しており、CIを添加しない場合と比較して、10%添加した場合では約70%減少していた。これらのことは、スクロースの存在はCIによるバイフォイルム形成阻害効果にはなんら影響しないことが示唆される。
【0034】
(2)バイオフィルムの構造への影響
(1)と同様にしてストレプトコッカス・ミュータンス8148株の菌液を調製した後、3,000×g、15分で遠心分離して菌体を分離した。その後、菌体をHexidium Iodideにて染色した。次に、この染色した菌体を1%スクロース含有化学合成培地にOD570の吸光度が0.1になるように調整して接種した。これを分けてそれぞれに0~10%でCIとしてサイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix)を添加した試験液を調製した。これらの試験液をチャンバースライドウエルの各ウエルに200μlずつ分注し、37℃で24時間、嫌気下で培養した。培養後、共焦点走査型レーザー顕微鏡LSM780(Version 4.2,Carl Zeiss MicroImaging Co.,Oberkochen,Germany)にてバイオフィルムの構造と断面(厚み)を観察した。その結果を図3に示した。また、この観察からバイオフィルムの密度も求めた。その結果を図4に示した。
【0035】
バイオフィルムの構造は、CIの濃度が上昇するにつれて密度は28%の低下が認められ、厚みは55%減少していた。CIを添加していない場合に比較してCIを10%添加した場合では,厚みは55%減少していた。密度はCIの濃度が上昇するにつれて疎になり、CIを添加しない場合と10%添加した場合とを比較すると、10%添加した場合には約65%の密度の低下が認められた。
【0036】
(3)バイオフィルムの破砕への影響
CIとしてサイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix)を最終濃度が0~1%になるよう添加した1%スクロース含有TH培地に、ストレプトコッカス・ミュータンス8148株を接種した。これらを6穴細胞培養用マイクロテストプレートのウェルに10mlずつ分注し、37℃で24時間、嫌気下で培養した。培養後、2分間ウェル内の菌液に超音波を当てバイオフィルムを破砕した。その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、残存したバイオフィルムをセルスクレーパーにて剥がし、生理食塩水にて段階希釈した。これらをTrypticase Soy 寒天培地(Becton Dickinson and company)に接種し、37℃で48時間、嫌気下で培養した。超音波処理前と超音波処理後のコロニー数を計測し、以下の式で残存菌数の割合を求めた。その結果を図5に示した。
【0037】
【数1】
【0038】
CIの濃度が上昇するにつれバイオフィルム中の菌数は減少した。CIを添加しない場合と1%添加した場合を比較すると、1%添加した場合ではバイオフィルム中の菌数は約65%減少していた。
【0039】
実 施 例 2
形成されたバイオフィルムの除去試験:
(1)形成されたバイオフィルム形成量への影響
TH液体培地にストレプトコッカス・ミュータンスMT8148株を接種した後、37℃で18時間、嫌気下で培養して菌液を調製した。1%スクロース含有化学合成培地に前記菌液の100μlを接種し、これをプレートの各ウエルに100μlずつ分注し、37℃で48時間、嫌気下で培養してバイオフィルムを形成した。各ウエルのそれぞれに最終濃度が0~1%でCIとしてサイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix)を添加した後、37℃で3、6または12時間、嫌気下で培養した。培養後、クリスタルバイオレッドで試験液を染色し、OD570の吸光度を測定した。その結果を図6に示した。
【0040】
すでに形成されたバイオフィルムに対するCIの影響を観察したところ、バイオフィルムの形成量はCIを添加しない場合と比較して濃度依存的に減少しており、CIを1% 添加した場合では3時間後は約40%、6時間後は約30%、12時間後は約40%のバイオフィルム形成量の減少が認められた。
【0041】
(2)形成されたバイオフィルムの構造への影響
(1)と同様にしてストレプトコッカス・ミュータンス8148株の菌液を調製した後、3,000×g、15分で遠心分離して菌体を分離した。その後、菌体をHexidium Iodideにて染色した。次に、この染色した菌体を1%スクロース含有化学合成培地にOD570の吸光度が0.1になるように調整して接種した。これをチャンバースライドウエルの各ウエルに200μlずつ分注し、37℃で24時間、嫌気下で培養してバイオフィルムを形成した。各ウエルのそれぞれに0~1%でCIとしてサイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix)を添加した後、37℃で24時間培養した。培養後、共焦点走査型レーザー顕微鏡にてバイオフィルムの構造と断面(厚み)を観察した。その結果を図7に示した。また、この観察からバイオフィルムの密度も求めた。その結果を図8に示した。
【0042】
CIを3時間反応させた場合のバイオフィルムの構造は、厚みが減少しており、密度は疎であった。さらにCIを添加しない場合と10%添加した場合とを比較して、厚みは約50%減少しており、密度は約55%減少していた。
【0043】
(3)CIの形成されたバイオフィルムへの影響についての検討
実施例1および2の結果を基にCIが形成されたバイオフィルムにどのように影響を与えるかは図9のように考えられる。すなわち、CIは不溶性グルカンを生成する酵素であるGTFの働きを阻害すると共にグルカン結合タンパク質の活性を阻害し、形成されたバイオフィルムの結合を脆弱化してバイオフィルムを破壊する。
【0044】
実 施 例 3
バイオフィルム除去剤(歯磨き粉):
以下の成分を混合してバイオフィルム除去剤を製造した。
CI 0.2%
プロピレングリコール 3.0%
アルギン酸ナトリウム 0.6%
キサンタンガム 0.7%
ソルビット液(70%) 45.0%
無水ケイ酸 20.0%
酸化チタン 0.4%
フッ化ナトリウム 0.21%
サッカリンナトリウム 0.15%
ラウリル硫酸ナトリウム 0.8%
香料 適量
水 残部
*:サイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix)
【0045】
実 施 例 4
バイオフィルム除去剤(マウスウオッシュ):
以下の成分を混合してバイオフィルム除去剤を製造した。
CI 3.0%
塩化ベンザルコニウム 0.2%
水 残部
*:サイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix)
【0046】
実 施 例 5
バイオフィルム除去剤(飲料):
以下の成分を混合してバイオフィルム除去剤を製造した。
CI 0.12%
ビタミンミックス 0.25%
クエン酸 0.125%
L-アスコルビン酸ナトリウム 0.05%
レモン果汁 0.50%
水 残部
*:サイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix)
【0047】
実 施 例 6
バイオフィルム除去剤(タブレット):
以下の成分を混合してバイオフィルム除去剤を製造した。
CI 2.00%
ソルビトール 92.05%
ペパーミントフレーバー 4.95%
ショ糖脂肪酸エステル 1.00%
*:サイクロデキストラン(日新製糖製:CI-Dextran mix)
【0048】
実 施 例 7
グルカン結合タンパク質の活性阻害剤:
実施例3~6のバイオフィルム除去剤と同様にしてグルカン結合タンパク質の活性阻害剤を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のバイオフィルム除去剤は、バイオフィルムの除去に利用可能である。
【0050】
また、本発明のグルカン結合タンパク質の活性阻害剤は、グルカン結合タンパク質の分解等に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9