(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141485
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20241003BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20241003BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241003BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/23
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053172
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】河野 匠
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 朋浩
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021CA11
4K021CA15
4K021DB53
4K021DC03
(57)【要約】
【解決手段】本開示における電解システム(10)の制御装置(22)は、圧力制御弁(24)と水電解スタック(12A)との間の酸素供給路(44)に設けられる第1圧力センサ(62A)によって検出される圧力に応じて、第1電源装置(16A)に指定する電流値を変える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、前記電解質膜を挟持する一対の電極とを含む膜・電極構造体が備えられ、前記一対の電極の一方に供給される水を電解する水電解スタックと、
前記電解により得られた酸素ガスが流れる流路に設けられ、前記流路のガス圧を所定圧力に調整する圧力制御弁と、
指定される電流値の電流が前記一対の電極間に流れるように、前記一対の電極に電圧を印加する第1電源装置と、
を有する電解システムの制御装置であって、
コンピュータが実行可能な指令を実行する一以上のプロセッサを備え、
前記水電解スタックを起動する前記指令を受けると、前記制御装置は、前記圧力制御弁と前記水電解スタックとの間の前記流路に設けられる第1圧力センサによって検出される圧力に応じて、前記第1電源装置に指定する前記電流値を変える、制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記制御装置は、前記水電解スタックを起動する前記指令を受けた初期の前記電流値から、漸次的に前記電流値を下げる、制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置であって、
所定の電圧調整範囲内に前記電圧が納まるように、複数の前記圧力に対応する前記電流値を規定するデータが記憶される記憶部を備え、
前記制御装置は、前記データに基づいて、前記第1圧力センサが検出する前記圧力に対応する前記電流値を前記第1電源装置に指定する、制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記電解システムは、
前記水電解スタックから供給される水素含有水を、水素ガスと、前記水電解スタックに供給される前記水とに分離する気液分離器と、
前記気液分離器から供給される前記水素ガスを昇圧する水素昇圧スタックと、
指定される前記電流値の前記電流が流れるように、前記水素昇圧スタックに前記電圧を印加する第2電源装置と、
をさらに備えており、
前記制御装置は、前記水電解スタックの前記電流と、前記気液分離器に設けられる第2圧力センサが検出した前記圧力とに基づいて、前記第2電源装置に指定する前記電流値を変える、制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の制御装置であって、
前記所定圧力は、前記酸素ガス中の許容水分量から決定される目標圧力よりも低く設定されている、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解システムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する水電解スタックを含む電解システムの研究開発が行われている。
【0003】
水電解スタックは、水を電解し、水素ガスおよび酸素ガスを生成する。特許文献1には、水電解スタックの起動方法が開示されている。この起動方法は、スタック電圧の上限値を設定し、スタック電圧と水電解スタックに流れる電流とを監視しながら、当該電流を定格値まで段階的に上昇させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近時、スタックの起動時において、当該スタックで発生するガスの量(生成速度)を高めることが待望されている。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、電解質膜と、前記電解質膜を挟持する一対の電極とを含む膜・電極構造体が備えられ、前記一対の電極の一方に供給される水を電解する水電解スタックと、前記電解により得られた酸素ガスが流れる流路に設けられ、前記流路のガス圧を所定圧力に調整する圧力制御弁と、指定される電流値の電流が前記一対の電極間に流れるように、前記一対の電極に電圧を印加する第1電源装置と、を有する電解システムの制御装置であって、コンピュータが実行可能な指令を実行する一以上のプロセッサを備え、前記水電解スタックを起動する前記指令を受けると、前記制御装置は、前記圧力制御弁と前記水電解スタックとの間の前記流路に設けられる第1圧力センサによって検出される圧力に応じて、前記第1電源装置に指定する前記電流値を変える。
【発明の効果】
【0008】
上記の態様によれば、電極面積の大きさ、或いは、膜・電極構造体の数(セル数)を多くすることなく、スタックで発生するガスの量(生成速度)を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態による電解システムの構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、制御装置の起動処理に関するタイムチャートを示す図である。
【
図3】
図3は、圧力と電流との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、変形例による電解システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施形態による電解システム10の構成を示す模式図である。電解システム10は、2つのスタック12と、気液分離器14と、2つの電源装置16と、2つの流体供給器18と、2つのタンク20と、制御装置22とを有する。
【0011】
2つのスタック12の一方は、水を電解する水電解スタック12Aである。2つのスタック12の他方は、水素ガスを昇圧する水素昇圧スタック12Bである。
【0012】
2つの電源装置16の一方は、水電解スタック12Aに接続される第1電源装置16Aである。2つの電源装置16の他方は、水素昇圧スタック12Bに接続される第2電源装置16Bである。
【0013】
2つの流体供給器18の一方は、水電解スタック12Aに水を供給する水供給器18Aである。2つの流体供給器18の他方は、水素昇圧スタック12Bに水素ガスを供給する水素供給器18Bである。
【0014】
2つのタンク20の一方は、水電解スタック12Aで発生する酸素ガスを貯留する酸素タンク20Aである。2つのタンク20の他方は、水素昇圧スタック12Bで発生する水素ガスを貯留する水素タンク20Bである。
【0015】
水電解スタック12Aは、水を電解する複数の単位セル30を有する。各単位セル30は同じ構成を有する。
図1は、1つの単位セル30のみを示している。単位セル30は、膜・電極構造体32を有する。膜・電極構造体32は、電解質膜34と、アノード電極36と、カソード電極38とを含む。電解質膜34は、例えば、水酸化物イオンOH
-を輸送可能なアニオン交換膜である。電解質膜34は、アノード電極36とカソード電極38とに挟持される。
【0016】
単位セル30では、膜・電極構造体32に供給される電流に基づいて水が電解される。水は、水供給路40を通じて、各単位セル30のカソード電極38に供給される。カソード電極38は、電気化学反応により、水の一部を水素イオンH+と水酸化物イオンOH-とに分解する。
【0017】
水素イオンH+は、カソード電極38に電子を受け取って、水素ガスとなる。各単位セル30で得られる水素ガスは、電解されなかった水とともに水排出路42に流出する。
【0018】
水酸化物イオンOH-は、電解質膜34を介してアノード電極36に移動する。アノード電極36に移動した水酸化物イオンOH-は、アノード電極36から電子を放出する。水酸化物イオンOH-が電子を放出すると、酸素ガスと水とが発生する。各単位セル30のアノード電極36で発生した酸素ガスは、アノード電極36に連通する流路を介して、酸素タンク20Aに流れる。アノード電極36に連通する流路は、水電解スタック12Aと酸素タンク20Aとを接続する酸素供給路44が含まれる。
【0019】
単位セル30で水が電解されると、電解質膜34の両側に差圧が生じる。この差圧により、アノード電極36で発生した水の大部分は、電解質膜34を通じてカソード電極38に戻される。また、電解質膜34の両側に生じる差圧によって、カソード電極38で発生した水素ガスが電解質膜34を通過してアノード電極36に移動するクロストークが低減される。
【0020】
酸素供給路44には、圧力制御弁24が設けられている。圧力制御弁24は、酸素供給路44におけるガス圧を所定圧力RPに調整する制御弁である。圧力制御弁24として、開度を調整可能なソレノイド弁、或いは、背圧弁等が挙げられる。圧力制御弁24には、目標圧力よりも低く設定される。目標圧力は、水電解スタック12Aで発生する酸素ガス中の許容水分量を基準に決定される。例えば、目標圧力が30MPaである場合、圧力制御弁24に設定される圧力(所定圧力RP)は20MPaである。圧力制御弁24が酸素供給路44に設けられることによって、酸素供給路44における酸素ガスの生成速度を高めることができる。
【0021】
水素昇圧スタック12Bは、水素ガスを電解する複数の単位セル50を有する。各単位セル50は同じ構成を有する。
図1は、1つの単位セル50のみを示している。単位セル50は、膜・電極構造体52を有する。膜・電極構造体52は、電解質膜54と、アノード電極56と、カソード電極58とを含む。電解質膜54は、例えば、プロトンH
+を輸送可能なプロトン交換膜である。電解質膜54は、アノード電極56とカソード電極58とに挟持される。
【0022】
単位セル50では、膜・電極構造体52に供給される電流に基づいて水素ガスが電解される。水素ガスは、水素供給路46を通じて、各単位セル50のアノード電極56に供給される。
【0023】
アノード電極56では、水素ガスの一部がプロトンH+に変換される。プロトンH+に変換されなかった水素ガスは、水素排出路47に流出する。水素排出路47に流出した水素ガスは、気液分離器14に戻されてもよい。
【0024】
アノード電極56で発生するプロトンH+は、アノード電極56とカソード電極58との電位差によりカソード電極58に向けて移動する。プロトンH+の移動は、電解質膜54の両側の圧力差に抗して進む。プロトンH+は、カソード電極58で電子を受け取って、水素ガスとなる。各単位セル50のカソード電極58で発生した水素ガスは、カソード電極58に連通する流路を介して、水素タンク20Bに流れる。カソード電極58に連通する流路は、水素昇圧スタック12Bと水素タンク20Bとを接続する水素供給路48が含まれる。
【0025】
なお、水素供給路48には、上述の圧力制御弁24が設けられてもよい。この場合、圧力制御弁24の圧力は、水素昇圧スタック12Bで昇圧された水素ガス中の許容水分量を基準に決定される目標圧力よりも低く設定される。圧力制御弁24が水素供給路48に設けられている場合、水素供給路48における水素ガスの昇圧速度を高めることができる。
【0026】
気液分離器14は、水排出路42を通じて水電解スタック12Aから供給される水素含有水を、液水と水素ガスとに分離して貯留する。気液分離器14に貯留される液水は、水供給路40を通じて、水電解スタック12Aに供給される。つまり、気液分離器14は、水電解スタック12Aに供給される水の供給源である。気液分離器14によって貯留される水素ガスは、水素供給路46を通じて、水素昇圧スタック12Bに供給される。つまり、気液分離器14は、水素昇圧スタック12Bに供給される水素ガスの供給源である。
【0027】
第1電源装置16Aは、アノード電極36とカソード電極38とに接続される。第1電源装置16Aは、アノード電極36とカソード電極38との間に流れる電流を調整可能である。第1電源装置16Aは、制御装置22により指定される電流値の電流がアノード電極36とカソード電極38との間に流れるように、アノード電極36とカソード電極38とに電圧を印加する。
【0028】
第2電源装置16Bは、アノード電極56とカソード電極58とに接続される。第2電源装置16Bは、アノード電極56とカソード電極58との間に流れる電流を調整可能である。第2電源装置16Bは、制御装置22により指定される電流値の電流がアノード電極56とカソード電極58との間に流れるように、アノード電極56とカソード電極58とに電圧を印加する。
【0029】
水供給器18Aは、水電解スタック12Aに水を供給する装置である。水供給器18Aは、水供給路40に設けられる。水供給器18Aは、制御装置22の制御にしたがって動作する。水供給器18Aは、気液分離器14に貯留する水を、水供給路40を介して、水電解スタック12Aに供給する。水供給器18Aは、ポンプであってもよいし、弁であってもよい。
図1は、水供給器18Aがポンプである場合の例を示している。
【0030】
水素供給器18Bは、水素昇圧スタック12Bに水素ガスを供給する装置である。水素供給器18Bは、水素供給路46に設けられる。水素供給器18Bは、制御装置22の制御にしたがって動作する。水素供給器18Bは、気液分離器14に貯留する水素ガスを、水素供給路46を介して、水素昇圧スタック12Bに供給する。水素供給器18Bは、ポンプであってもよいし、弁であってもよい。
図1は、水素供給器18Bがポンプである場合の例を示している。
【0031】
制御装置22は、電解システム10を統括するコンピュータである。制御装置22には、指令入力機器60が接続される。指令入力機器60は、少なくとも、システムの起動指令またはシステムの停止指令を入力可能な機器である。指令入力機器60は、レバー式オンオフスイッチであってもよい。
【0032】
また、制御装置22には、複数のセンサが接続される。制御装置22に接続される複数のセンサには、第1電圧センサおよび第1電流センサが含まれる。第1電圧センサおよび第1電流センサは、第1電源装置16Aに設けられる。第1電圧センサは、アノード電極36とカソード電極38との間に印加される電圧の電圧値を検出する。第1電流センサは、アノード電極36とカソード電極38との間に流れる電流の電流値を検出する。
【0033】
制御装置22に接続される複数のセンサには、第2電圧センサおよび第2電流センサが含まれる。第2電圧センサおよび第2電流センサは、第2電源装置16Bに設けられる。第2電圧センサは、アノード電極56とカソード電極58との間に印加される電圧の電圧値を検出する。第2電流センサは、アノード電極56とカソード電極58との間に流れる電流の電流値を検出する。
【0034】
制御装置22に接続される複数のセンサには、複数の圧力センサが含まれる。複数の圧力センサのうちの1つは、酸素供給路44に設けられる第1圧力センサ62Aである。酸素供給路44は、電解質膜34を介さずに、水電解スタック12Aのアノード電極36に連通する水電解スタック12Aの外部の流路である。第1圧力センサ62Aは、圧力制御弁24と水電解スタック12Aとの間の酸素供給路44に設けられる。第1圧力センサ62Aは、酸素供給路44におけるガス(酸素含有ガス)の圧力を検出する。第1圧力センサ62Aにより検出された圧力は、制御装置22に供給される。
【0035】
複数の圧力センサのうちの1つは、気液分離器14に設けられる第2圧力センサ62Bである。第2圧力センサ62Bは、気液分離器14に貯留されるガス(水素含有ガス)の圧力を検出する。第2圧力センサ62Bにより検出された圧力は、制御装置22に供給される。
【0036】
制御装置22は、1以上のプロセッサと、記憶媒体とを含む。記憶媒体は、揮発性メモリと不揮発性メモリとによって構成され得る。プロセッサとしては、CPU、MCU等が挙げられる。揮発性メモリとしては、例えばRAM等が挙げられる。不揮発性メモリとしては、例えばROM、フラッシュメモリ等が挙げられる。コンピュータが実行可能な指令をプロセッサが実行することによって、制御装置22は、複数の機器を制御する。複数の機器には、第1電源装置16Aと、第2電源装置16Bと、水供給器18Aと、水素供給器18Bとが含まれる。
【0037】
次に、水電解スタック12Aと、水素昇圧スタック12Bとを起動させる制御装置22の起動処理に関して説明する。
図2は、制御装置22の起動処理に関するタイムチャートを示す図である。
図2の「EC STK」は、水電解スタック12Aに相当する。また、
図2の「EHC STK」は、水素昇圧スタック12Bに相当する。また、
図2の「スタック圧力」は、第1圧力センサ62Aにより検出される圧力に相当する。また、
図2の「水素セパレータ圧力」は、第2圧力センサ62Bにより検出される圧力に相当する。
【0038】
スタック12を起動する起動指令を受けると、制御装置22は、水供給器18Aを制御して、水供給路40を介して気液分離器14の水を水電解スタック12Aに供給する。水電解スタック12Aから排出された水は水排出路42を介して気液分離器14に戻る。
【0039】
その後、制御装置22は、第1電源装置16Aを制御する。すなわち、制御装置22は、単位時間が経過する度に第1圧力センサ62Aから圧力を取得し、当該圧力に対応する電流値を取得する。この場合、制御装置22は、第1圧力センサ62Aによって検出される圧力が大きいほど小さい電流値を取得する。電流値は、記憶媒体に記憶されたデータに基づいて取得されてもよい。記憶媒体に記憶されたデータは、例えば
図3に示すように、複数の圧力に対応する電流値を規定するデータベースである。電源装置16において印加される電圧が所定の電圧調整範囲内に納まるように、複数の圧力に対応する電流値が規定される。また、圧力が大きいほど、電流値が小さくなるように、複数の圧力に対応する電流値が規定される。
【0040】
制御装置22は、電流値を取得すると、当該電流値を第1電源装置16Aに指定する。第1電源装置16Aは、アノード電極36とカソード電極38とに印加する電圧を制御して、制御装置22によって指定された電流値の電流を、アノード電極36とカソード電極38との間に流す。
【0041】
水電解スタック12Aが停止中、第1電源装置16Aによって水電解スタック12Aに電圧が印加されない。この場合、水電解スタック12Aで水の電解が実施されないため、酸素供給路44の圧力は、当該酸素供給路44の外部圧力と同程度である。
【0042】
スタック12の起動指令を受けてから最初の電流値(初期電流値ICV)が制御装置22によって第1電源装置16Aに指定されると、電圧および電流の上昇が始まる。電圧および電流の上昇が始まると、水電解スタック12Aにおいて水の電解が始まり、アノード電極36で酸素ガスが発生する。そのため、時間の経過に応じて、酸素供給路44の圧力は、外気圧と同程度の状態から徐々に大きくなる。したがって、第1圧力センサ62Aによって検出される圧力(スタック圧力)は徐々に上昇する。なお、
図2では、第1圧力センサ62Aの初期の圧力は「0」として例示している。酸素供給路44の圧力が圧力制御弁24に設定される所定圧力RPに達すると、第1圧力センサ62Aによって検出される圧力の上昇は概ね停止する。
【0043】
本実施形態では、制御装置22は、第1圧力センサ62Aが検出した圧力に応じて、第1電源装置16Aに指定する電流値を変える。したがって、限界電流密度が大きい状態にある水電解スタック12Aの起動初期に、アノード電極36とカソード電極38との間に電流を多く流すことができる。その結果、電極面積の大きさ、或いは、膜・電極構造体32の数(セル数)を多くすることなく、水電解スタック12Aで発生するガスの量(生成速度)を高めることができる。
【0044】
また、本実施形態では、制御装置22は、第1圧力センサ62Aが検出した圧力に応じて、スタック12の起動指令を受けた初期の電流値(初期電流値ICV)から、漸次的に電流値を下げている。したがって、酸素供給路44のガス圧に応じて変化する限界電流密度に近似する電流値を第1電源装置16Aに指定することができる。
【0045】
また、本実施形態では、制御装置22の記憶媒体(記憶部)には、所定の電圧調整範囲内に電圧が納まるように、複数の圧力に対応する電流値を規定するデータが記憶されている。制御装置22は、当該データに基づいて、第1圧力センサ62Aが検出する圧力に対応する電流値を第1電源装置16Aに指定している。これにより、アノード電極36とカソード電極38との間に印加される電圧を概ね一定にしながら、水電解スタック12Aで発生するガスの量(生成速度)を調整することができる。
【0046】
また、本実施形態では、第1電源装置16Aに最初の電流値を指定してから所定時間が経過すると、制御装置22は、水素供給器18Bを制御して、水素昇圧スタック12Bに水素ガスを供給する。その後、制御装置22は、第1電源装置16Aを制御しながら、第2電源装置16Bも制御する。
【0047】
すなわち、制御装置22は、単位時間が経過する度に、水電解スタック12Aの一対の電極間に流れる電流と、気液分離器14に設けられる第2圧力センサ62Bが検出した圧力とに基づいて、第2電源装置16Bに指定する電流値を取得する。例えば、水電解スタック12Aの電流センサが検出する電流は「A」とする。また、水素昇圧スタック12Bのセル数は「B」とし、水電解スタック12Aのセル数は「C」とする。さらに、第2圧力センサ62Bが検出した圧力が目標圧力に追従するようにフィードバック制御する操作量は「D」とする。この場合、制御装置22は、「(A×B/C)+D」を演算して、第2電源装置16Bに指定する電流値を取得し得る。
【0048】
制御装置22は、電流値を取得すると、当該電流値を第2電源装置16Bに指定する。第2電源装置16Bは、アノード電極56とカソード電極58とに印加する電圧を制御して、制御装置22によって指定された電流値の電流を、アノード電極56と、カソード電極58との間に流す。
【0049】
このように、制御装置22は、水電解スタック12Aの一対の電極間に流れる電流と、気液分離器14に設けられる第2圧力センサ62Bが検出した圧力とに基づいて、第2電源装置16Bに指定する電流値を変える。したがって、水電解スタック12Aで発生するガスの量(生成速度)と、気液分離器14に含まれるガスの量とを考慮しながら、水素昇圧スタック12Bで発生するガスの量(生成速度)を規定することができる。
【0050】
上記の実施形態は、下記のように変形されてもよい。下記の変形例で用いる図は、実施形態において説明した構成と同等の構成に同一の符号を付す。なお、下記の変形例では、実施形態と重複する説明は割愛する。
【0051】
(変形例1)
図4は、変形例による電解システム10の構成を示す模式図である。本変形例の電解システム10には、水素昇圧スタック12Bと、気液分離器14と、第2電源装置16Bと、水素供給器18Bと、水素タンク20Bとが備えられていない。一方、本変形例の電解システム10には、水供給源70が新たに備えられる。水供給源70は、水供給路40を介して、スタック12(水電解スタック12A)に水を供給する。水供給源70は、水排出路42を介して、スタック12から排出される水を回収する。
【0052】
本変形例では、スタック12は、AEM水電解スタックであってもよいし、PEM水電解スタックであってもよい。スタック12がAEM水電解スタックである場合、アニオン交換膜である電解質膜34を含む膜・電極構造体32がスタック12に備えられる。一方、スタック12がPEM水電解スタックである場合、プロトン交換膜である電解質膜34を含む膜・電極構造体32がスタック12に備えられる。
【0053】
変形例1による電解システム10の制御装置22は、実施形態と同様にして、電源装置16(第1電源装置16A)を制御し得る。
【0054】
すなわち、制御装置22は、単位時間が経過する度に第1圧力センサ62Aから圧力を取得し、当該圧力に対応する電流値を取得する。また、制御装置22は、単位時間が経過する度に電流値を第1電源装置16Aに指定する。
【0055】
上述した開示に関し、更に以下の付記を開示する。
【0056】
(付記1)
本開示は、電解質膜(34)と、前記電解質膜を挟持する一対の電極(36、38)とを含む膜・電極構造体(32)が備えられ、前記一対の電極の一方に供給される水を電解する水電解スタック(12A)と、前記電解により得られた酸素ガスが流れる流路(44)に設けられ、前記流路のガス圧を所定圧力(RP)に調整する圧力制御弁(24)と、指定される電流値の電流が前記一対の電極間に流れるように、前記一対の電極に電圧を印加する第1電源装置(16A)と、を有する電解システム(10)の制御装置(22)であって、コンピュータが実行可能な指令を実行する一以上のプロセッサを備え、前記スタックを起動する前記指令を受けると、前記制御装置は、前記圧力制御弁と前記水電解スタックとの間の前記流路に設けられる圧力センサ(62A)によって検出される圧力に応じて、前記第1電源装置に指定する前記電流値を変える。
【0057】
これにより、限界電流密度が大きい状態にある水電解スタックの起動初期に、一対の電極間に電流を多く流すことができる。その結果、電極面積の大きさ、或いは、膜・電極構造体の数(セル数)を多くすることなく、水電解スタックで発生するガスの量(生成速度)を高めることができる。
【0058】
(付記2)
本開示は、付記1に記載の制御装置であって、前記制御装置は、前記水電解スタックを起動する前記指令を受けた初期の前記電流値から、漸次的に前記電流値を下げてもよい。これにより、酸素ガスが流れる流路のガス圧に応じて変化する限界電流密度に近似する電流値を第1電源装置に指定することができる。
【0059】
(付記3)
本開示は、付記1に記載の制御装置であって、所定の電圧調整範囲内に前記電圧が納まるように、複数の前記圧力に対応する前記電流値を規定するデータが記憶される記憶部を備え、前記制御装置は、前記データに基づいて、前記第1圧力センサが検出する前記圧力に対応する前記電流値を前記第1電源装置に指定してもよい。これにより、一対の電極に印加される電圧を概ね一定にしながら、水電解スタックで発生するガスの量(生成速度)を調整することができる。
【0060】
(付記4)
本開示は、付記1に記載の制御装置であって、前記電解システムは、前記水電解スタックから供給される水素含有水を、水素ガスと、前記水電解スタックに供給される前記水とに分離する気液分離器(14)と、前記気液分離器から供給される前記水素ガスを昇圧する水素昇圧スタック(12B)と、指定される前記電流値の電流が流れるように、前記水素昇圧スタックに電圧を印加する第2電源装置(16B)と、をさらに備えており、前記制御装置は、前記水電解スタックの前記電流と、前記気液分離器に設けられる第2圧力センサ(62B)が検出した圧力とに基づいて、前記第2電源装置に指定する前記電流値を変える。したがって、水電解スタックで発生するガスの量(生成速度)と、気液分離器に含まれるガスの量とを考慮しながら、水素昇圧スタックで発生するガスの量(生成速度)を規定することができる。
【0061】
(付記5)
本開示は、付記4に記載の制御装置であって、前記所定圧力は、前記ガス中の許容水分量から決定される目標圧力よりも低く設定されてもよい。これにより、流路におけるガスの昇圧速度を高めることができる。
【0062】
なお、本発明は、上述した開示に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0063】
10…電解システム 12…スタック
12A…水電解スタック 12B…水素昇圧スタック
14…気液分離器 16…電源装置
16A…第1電源装置 16B…第2電源装置
18…流体供給器 18A…水供給器
18B…水素供給器 20…タンク
20A…酸素タンク 20B…水素タンク
22…制御装置 24…圧力制御弁
30、50…単位セル 34、54…電解質膜
36、56…アノード電極 38、58…カソード電極
62A…第1圧力センサ 62B…第2圧力センサ