(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141490
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20241003BHJP
H01M 8/04029 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/04298 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/065 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20241003BHJP
E02F 9/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/04029
H01M8/04298
H01M8/0432
H01M8/04746
H01M8/065
H01M8/00 Z
E02F9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053178
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】福士 幸治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 肇
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA23
5H127BA46
5H127BA59
5H127CC07
5H127CC10
5H127DB74
5H127DC08
5H127EE13
5H127EE15
5H127EE19
5H127EE22
5H127EE27
5H127EE30
(57)【要約】
【課題】水素吸蔵合金が未活性の状況で、水素タンクからの水素を燃料電池に供給していち早く作業開始できると共に、水素吸蔵合金を迅速に暖機して水素タンクを小型化できる建設機械を提供する。
【解決手段】第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bにより水素吸蔵合金18を構成し、吸蔵合金出口温度Tが活性判定温度T0未満のときには、切換弁30を水素タンク19側に切り換えて、水素タンク19からの水素を燃料電池17aに供給すると共に、開閉弁27を閉弁して燃料電池17aから受熱した冷却水を第1水素吸蔵合金18aのみに流通させて早期に暖機する。温度Tが活性判定温度T0以上になると、切換弁30を水素吸蔵合金18側に切り換えて、水素吸蔵合金18からの水素を燃料電池17aに供給し、開閉弁27を開弁して燃料電池17aからの冷却水を第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bに流通させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵合金に吸蔵された水素を燃料電池に供給し、前記燃料電池から出力される電力により動力源を作動させる一方、前記水素吸蔵合金の冷態時には、前記燃料電池からの排熱により前記水素吸蔵合金を暖機する燃料電池システムを搭載した建設機械において、
前記水素吸蔵合金は、第1の吸蔵領域と第2の吸蔵領域とを有し、
水素を貯蔵する水素タンクと、
前記水素タンクからの水素を前記燃料電池に供給する第1の供給源切換位置と前記第1の吸蔵領域からの水素を前記燃料電池に供給する第2の供給源切換位置との間で切換可能な水素供給源切換部と、
前記燃料電池からの排熱を前記第1の吸蔵領域に供給する第1の排熱切換位置と前記排熱を前記第1の吸蔵領域及び前記第2の吸蔵領域にそれぞれ供給する第2の排熱切換位置との間で切換可能な排熱切換部と、
を備えたことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記水素供給源切換部及び前記排熱切換部を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記第1の吸蔵領域の暖機が完了したか否かを判定し、
前記第1の吸蔵領域の暖機完了が判定されていないときには、前記水素供給源切換部を前記第1の供給源切換位置に切り換えると共に、前記排熱切換部を前記第1の排熱切換位置に切り換え、
前記第1の吸蔵領域の暖機完了が判定されたときには、前記水素供給源切換部を前記第2の供給源切換位置に切り換えると共に、前記排熱切換部を前記第2の排熱切換位置に切り換えることを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記燃料電池から前記水素吸蔵合金に供給される排熱は、前記水素吸蔵合金と前記水素吸蔵合金との間で循環する冷却水により供給されるものであることを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項4】
前記水素吸蔵合金から流出する冷却水の温度を検出する吸蔵合金出口温度センサと、
前記水素供給源切換部及び前記排熱切換部を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記吸蔵合金出口温度センサにより検出された前記冷却水の温度が所定の温度未満のときには、前記水素供給源切換部を前記第1の供給源切換位置に切り換えると共に、前記排熱切換部を前記第1の排熱切換位置に切り換え、
前記吸蔵合金出口温度センサにより検出された前記冷却水の温度が所定の温度以上のときには、前記水素供給源切換部を前記第2の供給源切換位置に切り換えると共に、前記排熱切換部を前記第2の排熱切換位置に切り換えることを特徴とする請求項3に記載の建設機械。
【請求項5】
前記コントローラは、前記排熱切換部の前記第2の排熱切換位置への切換を徐々に実行する
ことを特徴とする請求項2に記載の建設機械。
【請求項6】
前記第1の吸蔵領域は、前記第2の吸蔵領域よりも高い断熱性を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項7】
前記水素タンクは、前記燃料電池システムの稼動中において、前記燃料電池から要求される水素量を超えて前記水素吸蔵合金から放出される余剰水素が貯蔵される
ことを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項8】
前記水素タンクは、車体に対して脱着可能に搭載されている
ことを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項9】
前記第1の吸蔵領域及び前記第2の吸蔵領域は、互いに独立した水素吸蔵合金からなる
ことを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項10】
前記第1の吸蔵領域及び前記第2の吸蔵領域は、単一の水素吸蔵合金を区画して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムを搭載した建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル等の建設機械には燃料電池システムを搭載したものがあり、水素吸蔵合金に吸蔵した水素を燃料電池に供給し、発電された電力により動力源を作動させて稼動している。水素吸蔵合金は暖機が完了して活性化するまで十分な水素を放出できないため、例えば低温環境下でシステム起動した場合等には、暖機完了までの期間中に燃料電池に供給される水素に不足が生じる。このような状況では、オペレータの操作に応じた要求電力が燃料電池から出力されず、所望の建設機械の動作を実行できないことから作業効率の点で改善の余地があった。
【0003】
例えば特許文献1には、水素を貯蔵する水素高圧バッファタンクを備えた燃料電池システムが開示されている。この燃料電池システムは、燃料電池に対して水素吸蔵合金と水素高圧バッファタンクとを選択的に接続可能に構成されている。低温環境下でのシステム起動時等には、燃料電池に水素高圧バッファタンクを接続し、貯蔵されている水素を燃料電池に供給している。そして、これと並行して燃料電池からの排熱を利用して水素吸蔵合金を暖機し、暖機が完了すると水素吸蔵合金側に切り換えて、吸蔵されている水素を燃料電池に供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した低温環境下でのシステム起動時等では、水素吸蔵合金の暖機が完了するまでにかなりの時間を要し、その間の作業中に燃料電池は要求電力を出力するために多くの水素を消費する。このような多量の水素を貯蔵するために水素高圧バッファタンクに大きな容量が求められ、必然的に水素高圧バッファタンクが大型化して車体への搭載に支障が生じてしまうという問題がある。
【0006】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、水素吸蔵合金が活性化していない状況で、水素タンクからの水素を燃料電池に供給していち早く作業を開始できると共に、水素吸蔵合金を迅速に暖機して活性化することで水素タンクの容量を縮小して小型化することができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の建設機械は、水素吸蔵合金に吸蔵された水素を燃料電池に供給し、前記燃料電池から出力される電力により動力源を作動させる一方、前記水素吸蔵合金の冷態時には、前記燃料電池からの排熱により前記水素吸蔵合金を暖機する燃料電池システムを搭載した建設機械において、前記水素吸蔵合金が、第1の吸蔵領域と第2の吸蔵領域とを有し、水素を貯蔵する水素タンクと、前記水素タンクからの水素を前記燃料電池に供給する第1の供給源切換位置と前記第1の吸蔵領域からの水素を前記燃料電池に供給する第2の供給源切換位置との間で切換可能な水素供給源切換部と、前記燃料電池からの排熱を前記第1の吸蔵領域に供給する第1の排熱切換位置と前記排熱を前記第1の吸蔵領域及び前記第2の吸蔵領域にそれぞれ供給する第2の排熱切換位置との間で切換可能な排熱切換部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の建設機械によれば、水素吸蔵合金が未だ活性化していない状況で、水素タンクからの水素を燃料電池に供給していち早く作業を開始できると共に、水素吸蔵合金を迅速に暖機して活性化することで水素タンクの容量を縮小して小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の油圧ショベルを示す側面図である。
【
図2】油圧ショベルに搭載された燃料電池システムを示す構成図である。
【
図3】コントローラが実行する水素供給源切換ルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】低温環境下でのシステム起動した場合の制御状況を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を油圧ショベルに具体化した一実施形態を説明する。
図1は、本実施形態の油圧ショベルを示す側面図であり、まず、同図に基づき油圧ショベルの概略構成を説明する。なお、以下の説明では、油圧ショベルに搭乗したオペレータを主体として前後、左右、上下方向を表現する。
【0011】
油圧ショベル1の下部走行体2には左右一対のクローラ3が備えられ、図示しない走行用油圧モータにより駆動されて油圧ショベル1を走行させる。下部走行体2上には上部旋回体4が設けられ、図示しない旋回用油圧モータにより駆動されて旋回する。上部旋回体4の前部右側には多関節型の作業フロント5が設けられ、作業フロント5はブーム6、アーム7、及びバケット8から構成されている。ブーム6はブームシリンダ6aにより角度変更され、アーム7はアームシリンダ7aにより角度変更され、バケット8はバケットシリンダ8aにより角度変更される。
【0012】
上部旋回体4上の前部左側には運転室10が設けられ、運転室10内に設けられた図示しない各種操作装置がオペレータにより操作される。上部旋回体4上の運転室10の後側には燃料タンク11、機械室12及びカウンタウエイト13等が設けられ、機械室12内には油圧ユニット14が搭載されている。図示はしないが油圧ユニット14は、モータ(本発明の「動力源」に相当)、このモータにより駆動される油圧ポンプ、油圧ポンプから吐出された作動油を切り換える油圧回路等から構成されている。油圧ポンプからの作動油は、操作装置の操作に応じて油圧回路により切り換えられ、上記した走行用及び旋回用油圧モータや作業フロント5の各シリンダ6c~8cに供給される。これにより、油圧ショベル1の走行、上部旋回体4の旋回、作業フロント5の作動等が行われる。
【0013】
図2は、油圧ショベル1の上部旋回体4に搭載された燃料電池システムを示す構成図である。
油圧ユニット14のモータを駆動するために、機械室12内には燃料電池システム16が搭載されている。燃料電池システム16は、燃料電池モジュール17、水素吸蔵合金18、水素タンク19及びラジエータ20等から構成されている。燃料電池モジュール17は、燃料電池17a及び冷却水ポンプ17b、さらには図示しない加湿装置や排圧弁等の補機類からなり、燃料電池17aとラジエータ20との間には、第1及び第2水路21,22が環状をなすように接続されている。冷却水ポンプ17bは第1水路21に介装され、冷却水ポンプ17bから吐出された冷却水が第1及び第2水路21,22を経て燃料電池17aとラジエータ20との間で還流する。
【0014】
第1水路21の中間位置には3方弁23を介して第3水路24の一端が接続され、他端は水素吸蔵合金18に接続されている。3方弁23は、連続的に開度を調整可能に構成されている。従って、燃料電池17aを流通した冷却水は、3方弁23の開度に応じた割合でラジエータ20側と水素吸蔵合金18側とに案内される。
【0015】
水素吸蔵合金18は、互いに独立した第1水素吸蔵合金18a(本発明の「第1の吸蔵領域」に相当)及び第2水素吸蔵合金18b(本発明の「第2の吸蔵領域」に相当)を直列接続してなり、互いの間に開閉弁27(本発明の「排熱切換部」に相当)が介装されている。第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bは、異なる断熱性を有する。詳しくは、上流側の第1水素吸蔵合金18aは十分に厚い断熱材で被覆されて高い断熱性が付与され、これにより自己の熱を外部に放熱し難い特性を有する。これに対し下流側の第2水素吸蔵合金18bは断熱材で被覆されないか、或いは薄い断熱材で被覆されているだけのため、相対的に断熱性が低くて自己の熱を外部に放熱し易い特性を有する。
【0016】
第1水素吸蔵合金18aの最上流に第3水路24の他端が接続され、第2水素吸蔵合金18bの最下流に第4水路25の一端が接続されている。第4水路25の他端はラジエータ20に接続され、第4水路25の中間位置は第5水路26を介して第1水素吸蔵合金18aに接続されている。
開閉弁27は、連続的に開度を調整可能に構成されている。従って、第3水路24を経て第1水素吸蔵合金18a内を流通した冷却水は、例えば開閉弁27の全閉時には、第5水路26を経てラジエータ20側に案内され、全開時には、開閉弁27を経て第2水素吸蔵合金18b内を流通した後、第4水路を経てラジエータ20に案内される。
【0017】
ラジエータ20には、モータ28aにより駆動される冷却ファン28が付設され、ラジエータ20を流通する冷却水が空気との熱交換により冷却されると共に、ラジエータ20の冷却能力が冷却ファン28及び冷却水ポンプ17bの回転速度に応じて任意に調整可能となっている。
【0018】
一方、燃料電池17aは、水素供給路29を介して第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bと水素タンク19とにそれぞれ接続され、水素供給路29には切換弁30(本発明の「水素供給源切換部」に相当)が介装されている。切換弁30は、水素吸蔵合金18側と水素タンク19側との2位置間で切換可能に構成され、それに応じて水素吸蔵合金18からの水素または水素タンク19からの水素が選択的に燃料電池17aに供給される。水素タンク19は、油圧ショベル1の上部旋回体4(本発明の「建設機械の車体」に相当)に対して脱着可能に取り付けられている。
【0019】
以上の3方弁23、開閉弁27及び切換弁30は、燃料電池システム16を制御するコントローラ31の入力側に接続され、冷却水ポンプ17b及び冷却ファン28のモータ28aは、コントローラ31の出力側に接続されている。さらにコントローラ31の入力側には、燃料電池17aに流入する冷却水の温度を検出する電池入口温度センサ32、燃料電池17aから流出する冷却水の温度を検出する電池出口温度センサ33、水素吸蔵合金18から流出する冷却水の温度である吸蔵合金出口温度Tを検出する吸蔵合金出口温度センサ34、及び燃料電池システム16が設置された機械室12内の温度を検出する室温センサ35等の各種センサ類が接続されている。
【0020】
コントローラ31は、油圧ショベル1のオペレータの操作に基づき燃料電池17aに対する要求電力を逐次算出し、これを達成すべく燃料電池システム16の制御、例えば燃料電池17aへの水素及び空気の供給量や湿度の制御等を実行し、これにより燃料電池17aに要求電力を出力させる。このような制御の内容は周知のため詳細な説明は省略するが、これに加えて本実施形態のコントローラ31は、水素吸蔵合金18が活性化していない冷態時においてシステム起動したときの水素不足を解消する制御を実行しており、その詳細を以下に述べる。
【0021】
図3は、コントローラ31が実行する水素供給源切換ルーチンを示すフローチャート、
図4は、低温環境下でシステム起動した場合の制御状況を示すタイムチャートである。
以下、説明の便宜上、低温環境下において水素吸蔵合金18が暖機完了せずに未だ活性化していない状況で油圧ショベル1が始動され、このとき水素タンク19には上限まで水素が貯蔵されているものとする。油圧ショベル1の始動に伴って燃料電池システム16が起動すると、コントローラ31により
図4のルーチンが所定の制御インターバルで実行される。
【0022】
まず、
図3のステップS1で、吸蔵合金出口温度Tが活性判定温度T0以上であるか否かを判定する。活性判定温度T0は、水素吸蔵合金18が活性化しているときに水素吸蔵合金18から流出する冷却水の下限の温度として予め設定されている。吸蔵合金出口温度Tが活性判定温度T0未満の時には、第1水素吸蔵合金18aの暖機が未完と判定し、No(否定)の判定を下してステップS2に移行する。ステップS2では、切換弁30を水素タンク19側(本発明の「第1の供給源切換位置」に相当)に切り換え、続くステップS3で、3方弁23を水素吸蔵合金18側に切り換えると共に、開閉弁27を閉弁(本発明の「第1の排熱切換位置置」に相当)する。その後にステップS4で、再び吸蔵合金出口温度Tが活性判定温度T0以上であるか否かを判定し、NoのときにはステップS2,3の処理を繰り返す。
【0023】
水素タンク19から水素を供給されて燃料電池17aが発電を開始するため、いち早く油圧ショベル1の作業を開始することができる。そして、発電に伴って燃料電池17aは次第に温度上昇し、燃料電池17aから受熱した冷却水が第1水素吸蔵合金18aの内部に流される。従って、冷却水が有する熱量、即ち燃料電池17aの排熱により第1水素吸蔵合金18aが暖機されて次第に温度上昇し、吸蔵合金出口温度Tも上昇し、一方で、水素タンク19の水素の貯蔵量は次第に減少する。
【0024】
燃料電池17aの温度等の諸条件に応じて異なるものの、水素吸蔵合金18を暖機する冷却水が有する熱量には限りがある。本実施形態では、水素吸蔵合金18に第1水素吸蔵合金18aを設けて集中的に加温するため、冷却水の熱量の全てが第1水素吸蔵合金18aの昇温に利用される。従って、例えば水素吸蔵合金18全体(即ち、第1及び第2水素吸蔵合金18a,18b)を同時に昇温する場合に比較して、より迅速に第1水素吸蔵合金18aが暖機することができる。
【0025】
図3のフローチャートに戻って説明を続けると、吸蔵合金出口温度Tが活性判定温度T0以上の時には、第1水素吸蔵合金18aの暖機が完了したと判定してステップS4からステップS5に移行する。ステップS5では、切換弁30を水素吸蔵合金18側(本発明の「第2の供給源切換位置」に相当)に切り換え、その後にステップS6に移行する。水素タンク19からの水素に代えて、活性化した第1水素吸蔵合金18aから放出された水素が燃料電池17aに供給されるため、燃料電池17aから発電された電力により油圧ショベル1の作業を継続できる。
【0026】
この時点まで燃料電池17aに供給する水素が水素タンク19により賄われるが、上記のように第1水素吸蔵合金18aの暖機が早期の段階で完了するため、その分だけ水素タンク19の容量を縮小して小型化できる。結果として、油圧ショベル1への水素タンク19の搭載性を向上することができる。
【0027】
一方、ステップS6では、活性化した第1水素吸蔵合金18aの温度を保ちつつ、第2水素吸蔵合金18bの温度を上昇させて活性化させるべく、3方弁23及び開閉弁27の開度をそれぞれ調整する。
【0028】
燃料電池17aからの冷却水は第1水素吸蔵合金18aを流通する際に温度低下し、さらに第2水素吸蔵合金18bを流通する際に温度低下して第4水路25へと流れ、このときの温度が吸蔵合金出口温度Tとして検出される。従って、吸蔵合金出口温度Tが活性判定温度T0以上に保たれていれば、一旦活性判定温度T0以上に昇温した第1水素吸蔵合金18aが温度低下していないという確証が得られる。これと共に、当初は活性判定温度T0以下と推測される第2水素吸蔵合金18bが次第に昇温しているという確証も得られる。そこで、ステップS6の処理は吸蔵合金出口温度Tを指標として実行され、吸蔵合金出口温度Tを活性判定温度T0以上に保ちつつ、例えば
図4に実線で示すように、3方弁23を徐々にラジエータ20側に切り換えると共に、開閉弁27を徐々に開弁(本発明の「第2の排熱切換位置」に相当)させる。
【0029】
3方弁23及び開閉弁27の開度を連続的に切り換えているのは、水素吸蔵合金18を流通する冷却水量が急変することにより、水素吸蔵合金18が活性判定温度T0未満まで温度低下する事態を確実に防止するためである。但し、これに限ることはなく、例えば
図4中に二点鎖線で示すように、3方弁23を水素吸蔵合金18側に保持したままでもよいし、開閉弁27をステップ状に全開させてもよい。
【0030】
なお、このとき
図4に示す例では、冷却ファン28が作動を開始して回転速度を上昇させ、冷却水ポンプ17bは以前からの回転速度の上昇を継続しているが、これらの制御に関しては任意に変更可能である。
【0031】
以上のステップS6の処理を実行した後に再びステップS1に移行すると、Yesの判定を下してステップS5に移行し、以降はステップS5,6の処理を繰り返す。
図4に示すように、開閉弁27は次第に開弁して何れかの時点で全開状態に達し、このとき、第2水素吸蔵合金18bの暖機完了、ひいては燃料電池システム16の暖機完了の判定が下される。全開状態の開閉弁27を経た多量の冷却水が流れても、吸蔵合金出口温度Tが活性判定温度T0以上に保たれていることから、第2水素吸蔵合金18bを流通する過程での冷却水の温度低下が少なく、第2水素吸蔵合金18bの暖機が完了していると推測できるためである。
【0032】
そして、この燃料電池システム16の暖機完了の判定が下された後には、
図4に示すように切換弁30が水素吸蔵合金18側に保たれ、3方弁23がラジエータ20側と水素吸蔵合金18側との間の所定の切換位置に保たれ、開閉弁27が全開状態に保たれる。第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bの何れからも水素が供給されるため、オペレータの操作に応じて燃料電池17aに最大電力が要求された場合であっても問題なく対応可能となる。
【0033】
また、暖機完了の判定後には、第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bを活性状態に保ちつつ燃料電池17aを適温に保持する。そのために、コントローラ31は吸蔵合金出口温度Tに加えて、電池入口温度センサ32、電池出口温度センサ33及び室温センサ35により検出された温度情報に基づき、冷却ファン28及び冷却水ポンプ17bの回転速度を制御する。この制御内容は、例えば特許文献1の燃料電池システム16と同様の周知内容であるため、詳細な説明は省略する。
【0034】
また、油圧ショベル1の稼動中においてオペレータの操作に応じた要求電力が減少すると、燃料電池17aから要求される水素量も減少し、それを超えた量の水素が水素吸蔵合金18から放出されて余剰分が生じる。このような場合、コントローラは、切換弁30を介して水素吸蔵合金18と水素タンク19とを接続して余剰水素を水素タンク19に貯蔵する。従って、空になった水素タンク19に水素を補充する機会が減少して保守性を向上させることができる。
【0035】
一方、第1水素吸蔵合金18aは断熱性が高く、第2水素吸蔵合金18bは断熱性が低い。開閉弁27を全閉にして燃料電池17aからの冷却水を第1水素吸蔵合金18aだけに流通させている状態では、可能な限り早期の第1水素吸蔵合金18aの活性化が望まれる。断熱性が高い第1水素吸蔵合金18aは自己の熱を外部に放熱し難いため、冷却水の熱量が効率的に第1水素吸蔵合金18aの昇温に利用され、断熱性が低い場合に比較してより早期に暖機が完了する。従って、水素タンク19の容量を一層縮小して小型化することができる。
【0036】
また、第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bが共に活性化した燃料電池システム16の暖機完了後には、燃料電池17aからの冷却水の大半が3方弁23を介してラジエータ20側に案内されて放熱される。正常作動のための燃料電池17aの適温は、例えばエンジン等に比べて低い上に許容範囲が狭いため、ラジエータ20には高い放熱能力が要求される。燃料電池17aからの冷却水の一部は3方弁23を介して第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bに案内され、断熱性が低い第2水素吸蔵合金18bを流通する際に冷却水が外部に放熱され、これによりラジエータ20の放熱能力が補われる。従って、燃料電池17aを確実に適温に保って良好な発電能力を維持できると共に、第2水素吸蔵合金18bでの放熱分だけラジエータ20の容量を縮小して小型化することも可能となる。
【0037】
一方、水素タンク19は上部旋回体4に対して脱着可能に取り付けられると共に、小型化により重量が軽減されているため人力で搬送可能である。従って、例えば、作業中に水素タンク19及び水素吸蔵合金18の水素を全て消費してしまい、油圧ショベル1が走行不能に陥った場合等には、上部旋回体4から水素タンク19を取り外し、人力で水素の充填地点まで搬送して補充可能となる。また、予め水素を補充済の水素タンク19を用意しておけば、空の水素タンク19と交換することも容易に実施でき、その利便性を向上することができる。
【0038】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では油圧ショベル1に具体化したが、これに限るものではなく、燃料電池17aを搭載した建設機械であれば適用可能である。従って、例えばアスファルト等の路面を締め固める転圧車両、或いは土砂等をトラックに積み込むホイールローダー等に適用してもよい。
【0039】
また上記実施形態では、吸蔵合金出口温度センサ34により検出された吸蔵合金出口温度Tに基づき、コントローラ31により切換弁30、3方弁23及び開閉弁27を切り換えたが、これに限るものではない。例えば、吸蔵合金出口温度センサ34に代えて第4水路25にサーモスタットを設け、第4水路25を流れる冷却水の温度に応じたサーモスタットの作動に連動して、切換弁30、3方弁23及び開閉弁27を切り換えてもよい。詳しくは、活性判定温度T0を境界としてサーモスタットを作動させ、活性判定温度T0未満の場合には、切換弁30を水素タンク19側に切り換え、3方弁23を水素吸蔵合金18側に切り換えると共に、開閉弁27を閉弁する。そして、活性判定温度T0以上になると、切換弁30を水素吸蔵合金18側に切り換え、3方弁23を徐々にラジエータ20側に切り換えると共に、開閉弁27を徐々に開弁させてもよい。
【0040】
また上記実施形態では、互いに独立した第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bを直列接続して水素吸蔵合金18を構成し、互いの間に介装した開閉弁27の開閉に応じて冷却水を第1水素吸蔵合金18aのみ、或いは第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bに流通させたが、これに限るものではない。例えば、単一の水素吸蔵合金を上流側と下流側とに区画し、上流側の領域を第1水素吸蔵合金18aとして機能させ、下流側の領域を第2水素吸蔵合金18bとして機能させてもよい。また、開閉弁27に対して互いに並列関係となるように第1及び第2水素吸蔵合金18a,18bを接続し、開閉弁27の開度に応じて双方の水素吸蔵合金18a,18bに流れる冷却水量を調整するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 油圧ショベル(建設機械)
16 燃料電池システム
17a 燃料電池
18 水素吸蔵合金
18a 第1水素吸蔵合金(第1の吸蔵領域)
18b 第2水素吸蔵合金(第2の吸蔵領域)
19 水素タンク
27 開閉弁(排熱切換部)
30 切換弁(水素供給源切換部)
31 コントローラ