(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141518
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光測定装置及び光測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053218
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000147350
【氏名又は名称】株式会社精工技研
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
(72)【発明者】
【氏名】桐谷 健
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043EA01
2G043HA05
2G043JA01
2G043JA03
2G043JA04
2G043KA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小型で、微小な測定対象範囲に対応した測定することができる光測定装置及び光測定方法を提供する。
【解決手段】本発明の一観点に係る光測定装置1は、一つのクラッド211中に複数のコアを有するマルチコアファイバ21を備えたマルチコアプローブ2と、光源3から出力される入射光を、コアのうちの一部である第一コアに導くための第一導光ファイバ4と、コアのうちの第一コア以外の第二コア2122に入射される蛍光を検出する測定器5と、第二コアから測定器に蛍光を導くための第二導光ファイバ6を備える。また、本発明の他の一観点に係る光測定方法は、一つのクラッド211中に複数のコアを有するマルチコアファイバ21を備えたマルチコアプローブ2における第一コアに入射光を入射させ、マルチコアファイバ21から測定対象Mに入射光を照射し、測定対象Mからの蛍光を第二コアに入射させ、蛍光を測定するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのクラッド中に複数のコアを有するマルチコアファイバを備えたマルチコアプローブと、
入射光を出力する光源と、
前記光源から出力される前記入射光を、前記マルチコアファイバにおける複数の前記コアのうちの一部である第一コアに導くための第一導光ファイバと、
前記マルチコアファイバにおける複数の前記コアのうちの前記第一コア以外の第二コアに入射される蛍光を検出する測定器と、
前記第二コアから前記測定器に前記蛍光を導くための第二導光ファイバと、を備える光測定装置。
【請求項2】
前記マルチコアプローブは、
前記マルチコアファイバの先端近傍において前記マルチコアファイバ周囲を覆うフェルールと、
前記フェルールと前記マルチコアファイバを固定する無機ハンダと、を備える請求項1記載の光測定装置。
【請求項3】
前記第一コアは、前記第二コアの同径又は内径に位置している請求項1記載の光測定装置。
【請求項4】
前記マルチコアファイバと、前記第一導光ファイバ及び前記第二導光ファイバは、光コネクタによって接続されている請求項1記載の光測定装置。
【請求項5】
前記第一導光ファイバに光アイソレータが設けられている請求項1記載の光測定装置。
【請求項6】
前記第二導光ファイバは、複数の光ファイバに分かれて前記測定器に前記蛍光を導く請求項1記載の光測定装置。
【請求項7】
前記第二導光ファイバ及び前記測定器内の少なくともいずれかに光学分割手段が設けられている請求項1記載の光測定装置。
【請求項8】
前記マルチコアプローブは、
前記第二コアの数が前記第一コアの数よりも多く備える請求項1記載の光測定装置。
【請求項9】
一つのクラッド中に複数のコアを有するマルチコアファイバを備えたマルチコアプローブにおける複数の前記コアのうちの一部である第一コアに入射光を入射させ、前記マルチコアファイバから測定対象に前記入射光を照射し、
前記測定対象からの蛍光を、前記マルチコアファイバにおける複数の前記コアのうちの前記第一コア以外の第二コアに入射させ、前記蛍光を測定する光測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光測定装置及び光測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象に対し光を照射し、この照射した光に基づく蛍光を発生させて測定し、測定対象の成分や特性を分析する光測定装置及び光測定方法(以下「光測定装置」等という。)が広く用いられている。
【0003】
光測定装置等においては、例えば、下記特許文献1には、光源からの光を測定対象となる試料まで導く入射側の光ファイバと、試料から反射された光を受光装置まで導く受光側の光ファイバと、これら光ファイバの間に配置され検出面が測定試料に接触するクリスタルと、を備えたATR分光用の多芯光ファイバプローブが開示されている。特に、下記特許文献1に記載の技術では、入射側の光ファイバ、受光側の光ファイバそれぞれが複数の光ファイバを備えて構成されており、これらがクリスタルに対して長手方向に沿って配置されている構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、測定対象に接触させるクリスタルを設けなければならず、しかも入射側の光ファイバ及び受光側の光ファイバをそれぞれ長手方向に沿って配置しなければならないため、測定対象が広範囲にならざるを得ず、微小領域を精度よく測定することは困難であり、装置自体も大型化せざるを得ない、といった課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、小型化が可能であり、微小な測定対象範囲に対しても精度よく測定することができる光測定装置及び光測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の一観点に係る光測定装置は、一つのクラッド中に複数のコアを有するマルチコアファイバを備えたマルチコアプローブと、入射光を出力する光源と、光源から出力される入射光を、マルチコアファイバにおける複数のコアのうちの一部である第一コアに導くための第一導光ファイバと、マルチコアファイバにおける複数のコアのうちの前記第一コア以外の第二コアに入射される蛍光を検出する測定器と、第二コアから測定器に蛍光を導くための第二導光ファイバと、を備えるものである。
【0008】
また、本観点において、限定されるわけではないが、マルチコアプローブは、マルチコアファイバの先端近傍においてマルチコアファイバ周囲を覆うフェルールと、フェルールとマルチコアファイバを固定する無機ハンダと、を備えることが好ましい。
【0009】
また、本観点において、限定されるわけではないが、第一コアは、第二コアの同径又は内径に位置していることが好ましい。
【0010】
また、本観点において、限定されるわけではないが、マルチコアファイバと、第一導光ファイバ及び第二導光ファイバは、光コネクタによって接続されていることが好ましい。
【0011】
また、本観点において、限定されるわけではないが、第一導光ファイバに光アイソレータが設けられていることが好ましい。
【0012】
また、本観点において、限定されるわけではないが、第二導光ファイバは、複数の光ファイバに分かれて測定器に蛍光を導くことが好ましい。
【0013】
また、本観点において、限定されるわけではないが、第二導光ファイバ及び測定器内の少なくともいずれかに光学分割手段が設けられていることが好ましい。
【0014】
また、本観点において、限定されるわけではないが、測定対象からの蛍光は反射を繰返すたびに散乱し強度が弱くなるため、吸収スペクトルのピークが小さくなり、検出精度が悪くなることが予想される。そのため、マルチコアプローブは、第二コアの数が第一コアの数よりも多く備えることが好ましい。
【0015】
また、本発明の他の一観点に係る光測定方法は、一つのクラッド中に複数のコアを有するマルチコアファイバを備えたマルチコアプローブにおける複数のコアのうちの一部である第一コアに入射光を入射させ、マルチコアファイバから測定対象に入射光を照射し、測定対象からの蛍光を、マルチコアファイバにおける複数のコアのうちの第一コア以外の第二コアに入射させ、蛍光を測定するものである。
【発明の効果】
【0016】
以上、本発明によって、小型化が可能であり、微小な測定対象範囲に対しても精度よく測定することができる光測定装置及び光測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】実施形態に係る光測定装置のマルチコアプローブの先端近傍の概略図である。
【
図3】実施形態に係る光測定装置のマルチコアプローブの先端近傍の断面の概略図である。
【
図4】実施形態に係る光測定装置のマルチコアファイバのコアの数のイメージ図である。
【
図5】実施形態に係る光測定装置のマルチコアプローブの先端近傍における光照射のイメージ図である。
【
図6】実施形態に係る第一導光ファイバの断面のイメージ図である。
【
図7】実施形態に係る光コネクタによる接続の外観のイメージ図である。
【
図8】実施形態に係る光コネクタによる接続の断面のイメージ図である。
【
図9】実施形態に係る光測定装置の他の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に説明する実施形態における具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0019】
(光測定装置)
図1は、本実施形態に係る光測定装置(以下「本装置」という。)1の概略を示す図である。本図で示すように、本装置1は、一つのクラッド211中に複数のコア212が配置されているマルチコアファイバ21を備えたマルチコアプローブ2と、入射光を出力する光源3と、光源から出力される入射光を、マルチコアプローブ2における複数のコア212のうちの一部である第一コア2121に導くための第一導光ファイバ4と、マルチコアプローブ2における複数のコア212のうちの第一コア2121以外の第二コア2122に入射される蛍光を検出する測定器5と、第二コア2122から測定器5に蛍光を導くための第二導光ファイバ6と、を備えるものである。
【0020】
本装置1は、上記の通りの構成であり、このような構成を採用することで、一つのクラッド211中に複数のコア212が配置されているマルチコアファイバ21の一部のコアにコンパクトに測定対象Mに光を照射し、測定対象Mが発する蛍光をマルチコアファイバ21内の他のコアによって受光することが可能となっており、クリスタル等の部品が不要となるため小型化が可能であり、微小な測定対象範囲に対しても精度よく測定することができるといった利点がある。この詳細については後述の記載から明らかとなる。
【0021】
本装置1は、上記の通り、一つのクラッド211中に複数のコア212が配置されているマルチコアファイバ21を備えたマルチコアプローブ2を備える。本装置1において「マルチコアファイバ」とは、上記の通り、一つのクラッド211中に複数のコア212が配置されている光ファイバであって、それぞれのコアの屈折率とクラッドの屈折率差によってコア内において光を全反射させることによって光を閉じ込めて遠方まで伝搬させることができるものである。また、「マルチコアプローブ」とは、測定対象Mに対して光を照射する一方、測定対象Mから発せられる蛍光を受光するための部材である。詳細については後述する。なお
図2に、本装置1のマルチコアプローブ2の先端近傍の概略を示し、
図3に、マルチコアプローブ2の先端部分における断面の概略を示しておく。
【0022】
本装置1におけるマルチコアファイバ21は、上記の通り、一つのクラッド211中に複数のコア212が配置されている光ファイバである。クラッド211は線状に延伸しているとともにその断面が略円形状であり、その内部に複数のコアを有する。なおコア212もクラッド211内を線状に延伸している。
【0023】
また、本装置1におけるマルチコアファイバ21の長さは、第一導光ファイバ4及び第二導光ファイバ6と相まって、光源3と測定対象Mの間において光を伝搬させることができる長さがあればよく、第一導光ファイバ4及び第二導光ファイバ6の長さにも依存し、特に限定されるわけではないが、長さとして10m以下であることが装置の大型化を避ける観点から好ましい。
【0024】
マルチコアファイバ21におけるクラッド211の断面の直径としては、本装置1の機能を実現することができる限りにおいて限定されるわけではないが、その内部に複数のコア212を配置するためにある程度の太さが必要であり、例えば100μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0025】
また、マルチコアファイバ21におけるクラッド211の材質としては、本装置1の機能を実現することができる限りにおいて限定されるわけではないが、石英ガラス、フッ素添加ガラス物等のガラスを例示することができる。
【0026】
また、マルチコアファイバ21におけるクラッド211の屈折率としては、内部に設けられるコア212の屈折率よりも低く全反射により光を導くことができる限りにおいて限定されるわけではないが、用いる光を紫外領域から可視領域と想定した場合、1.46以下、より具体的には波長632nmにおける屈折率が1.46以下となっていることが好ましい。
【0027】
また、マルチコアファイバ21のコア212とは、上記の通り一つのクラッド211内に複数設けられ、個々のコア212は線状であってその断面は略円形状であり、クラッド211内において延伸して配置されるものである。
【0028】
マルチコアファイバ21におけるコア212の断面の直径としては、本装置1の機能を実現することができる限りにおいて限定されるわけではないが、その内部に複数のコアを配置するためにある程度の太さが必要であり、例えばシングルモードの場合はコア1個当たりの径が3μm以上10μm以下であることが好ましく、マルチモードの場合はコア1個当たりの径が50μm又は62.5μmであることが好ましい。
【0029】
マルチコアファイバ21におけるコア212の材質としては、上記の通り、光を透過することができてクラッド211の屈折率差により全反射ができる材料である限りにおいて限定されず、例えば二酸化ゲルマニウム(GeO2)添加石英ガラス、石英ガラス等のガラスを例示することができる。
【0030】
また、マルチコアファイバ21におけるコア212の屈折率としては、この周囲にあるクラッド211の屈折率よりも高く、コア212内において全反射により光を導くことができる限りにおいて限定されるわけではないが、用いる光を紫外領域から可視領域と想定した場合、1.46より大きいこと、より具体的には波長632nmにおける屈折率が1.46より大きいことが好ましい。
【0031】
また、マルチコアファイバ21におけるコア212は、上記の通り複数設けられる。複数のコアは、同じ材料のコアを組み合わせても、異なる材料のコアを組み合わせてもよい。同じ材料のコアを組み合わせることで、製造が簡便になり光を均一に伝搬させることができるといった利点がある。一方、異なる材料のコアを用いる(例えば第一コア2121と第二コア2122の材料を異ならせておく)ことで、例えば照射と受光において異なる波長となるため、それぞれに好ましく対応させることができるといった利点がある。また、このことはコア212の直径においても同様であり、コアごとにその直径を変えることとしてもよい。
【0032】
また、マルチコアファイバ21においては、第一コア2121、第二コア2122と表現しているが、その本質は同じであり、機能を異ならせているために説明の便宜上この序数を用いているに過ぎない。具体的に、マルチコアファイバ21における第一コア2121は、光源3から入射される光を伝搬させるために用いられるコアをいい、第二コア2122は、測定対象Mから発せられる蛍光を測定器5まで伝搬させるために用いられるコアをいう。すなわち、第一コア2121と第二コア2122とは、それぞれが接続される先が光源3であるのか測定器5であるのかによって呼び方が異なるだけとも言える。
【0033】
またコア212の数としては、第一コア2121、第二コア2122の最低限1つずつ、すなわち2以上あればよく、限定されるわけではないが、コア212(第一のコア2121と第二のコア2122の合計)数としては4以上、好ましくは7以上、さらに好ましくは19以上となっていることが好ましい。この場合のイメージ図を
図4に示しておく。
【0034】
これらの図から明らかなように、第一コア2121、第二コア2122は、それぞれ複数設けることが好ましい。第一コア2121を複数設けると、光源3からの光であれば均一化な光照射を実現することが容易となる。一方、第二コア2122を複数設けると、測定対象Mから発せられた光を複数の経路で取り入れることが可能となり、そのそれぞれにおいて必要な波長範囲の光を適宜選択しながら取り入れることができるようになる。これは、一つのクラッドに一つのコアしか持たないいわゆるシングルコアの光ファイバには容易に実現できない効果である。具体的に説明すると、シングルコアの光ファイバを束ねた場合、二つの光ファイバを束ねる必要からコア間の距離を長くせざるを得ず、コアの延伸方向を略平行に束ねた場合、光ファイバの端面が測定対象Mから近いと一方の光ファイバから照射した光によって発生する蛍光を他方の光ファイバで受光することは容易ではなく、受光するためには光ファイバの端面と測定対象Mとの距離を取らねばならず分解能が悪くなる。また実際には、測定対象Mの表面が平滑であることは少なく、距離を取った場合乱反射が起こり、他方の光ファイバでこの蛍光を効率的に受光することは容易ではない。そもそも二つの光ファイバを束ねた場合に、測定精度を十分高く維持して平行に束ねること自体が容易でない。そのため、上記特許文献1に記載の技術のように、二つの光ファイバを設ける場合、一方の光ファイバと他方の光ファイバを測定対象Mの表面に対して対称に傾けて離して配置することが効率的となる。すなわち、本装置1によると、一つの光ファイバ内のコアを入射光用のコアと受光用のコアに役割を分けて使用することで、測定対象Mに近づけたとしても効率的に受光することが可能となり、コア同士を略平行にてコンパクトにしつつも効率的に蛍光を受けることができるといった利点がある。
【0035】
また、マルチコアファイバ21のコア212の配置は適宜調整可能であるが、第一コア2121は、第二コア2122により囲まれた領域内に配置されていること、中心近傍に集めて配置されていることが好ましい。第一コア2121は、光源3からの光を測定対象Mに照射するものであるが、第一コア2121を出た光は広がりながら反射される。すなわち、測定対象Mから発せられる光は、より広がる可能性があるため、第一コア2121の外側に第二コア2122を多く配置させることでその測定精度を向上させることができる。この場合のイメージを
図5に示しておく。
【0036】
また、本装置1のマルチコアプローブ2においては、上記の通り、その先端近傍に、マルチコアファイバ21の周囲を覆うフェルール22が配置されていることが好ましい。フェルール22を配置することで、マルチコアプローブ2、特にその先端を測定対象Mに対して固定することが可能となるといった利点がある。より具体的には、フェルール22を測定対象Mに対して固定するための測定治具(図示省略)に嵌め合わせることで位置固定が可能となる。ただし、フェルール22の先端位置よりも、マルチコアファイバ21の先端位置が突出していることが好ましい。この構成とすることで、微小領域を精度よく測定する際にマルチコアファイバ21の先端位置を把握しやすくし、また測定対象Mにマルチコアファイバ21の先端を正確に近づけやすくなるといった効果がある。またこのマルチコアファイバ21の先端位置の突出長さとしては、限定されるわけではないが0.5mm以上2mm以下であることが好ましく、より好ましくは1.5mm以下の範囲である。
【0037】
フェルール22とマルチコアファイバ21は、無機ハンダ23により固定されていることが好ましい。本装置1では、測定対象Mが有機物であることを想定しており、ここで有機物を接合層として用いる場合、その有機物に光源3からの光が当たってしまうとこの有機物の蛍光を測定してしまう恐れがある。そのため、無機ハンダ23を用いることで不要なノイズを発生させないといった効果がある。
【0038】
フェルール22とマルチコアファイバ21に接合層として無機ハンダ23を採用する場合、その材質は限定されるわけではないが、例えば、金、錫、ニッケル、ゲルマニウム、銀、鉛等を用いることが好ましく、具体的には、金-錫、ニッケル-クロム、金-ゲルマニウム、銀蝋、鈴-鉛等の組み合わせを例示することができる。
【0039】
また、フェルール22はマルチコアファイバ21の周囲を覆うものであるが、上記のように、マルチコアファイバ21の先端がフェルール22の先端位置から突出している場合において、マルチコアファイバ21の突出した部分の周囲に接合層が形成されていることが好ましい。この部分に接合層を形成することで、無機ハンダ23がマルチコアファイバ21の側面部分からフェルール22の先端面にフィレット状に広がることとなり、これによりマルチコアファイバ21をフェルール22に固定することができるようになるとともに、この無機ハンダ23に測定対象Mから反射した光が当たった場合、マルチコアファイバ21から遠ざかる方向(外側)に反射させることができ、多重反射によって生じうるノイズ等を抑えることができるようになるといった利点がある。
【0040】
さらに、マルチコアファイバ21の周囲に接合層が形成される場合において、接合層は、マルチコアファイバ21の突出した部分すべてに形成されているのではなく、その先端近傍においては接合層によって覆われていない部分が形成されていることが好ましい。このようにすることで、無機ハンダ23がマルチコアファイバ21の先端表面にまで付着してしまうことを防止できるといった利点がある。なお、この覆われていない部分(マスキング処理された部分)は、マルチコアファイバ21の先端から0.3mm以上0.5mm以下の範囲であることが好ましい。マルチコアファイバ21の先端側端面は、マルチコアファイバ21の側面に対し、基本的には直角に処理されていれば良く、その精度としては、90°±1°の範囲が好ましく、その処理方法としては、マルチコアファイバ21の端面を研磨しても良いが、専用の工具を使用してクリーブカット処理していれば良いと考える。
【0041】
また、フェルール22とマルチコアファイバ21に接合層として無機ハンダ23を採用する場合、無機ハンダ23とフェルール22、マルチコアファイバ21のそれぞれの間に、さらに、接合層24を設けることが好ましい。接合層24を設けることでフェルール22、マルチコアファイバ21と無機ハンダの接合強度をより高くすることができるといった効果がある。この接合層24の材質としては、限定されるわけではないが、ニッケル、クロム、金等であることが好ましく、最外層は金であることが重要である。すなわち、上記無機ハンダ23とフェルール22、マルチコアファイバ21のそれぞれの間に接合層24をはさむことでより信頼性を高くすることができるといった利点がある。
【0042】
また、本装置1のマルチコアプローブ2において、マルチコアファイバ21の先端近傍及び光コネクタ7の近傍以外の部分においては、マルチコアファイバ21は被覆材によって覆われている。これにより、クラッド211を保護することができる。被覆材の材料としては限定されるわけではないが、例えばUV樹脂、ポリイミド樹脂、ETFE樹脂等を例示することができるがこれに限定されない。また、UV樹脂の被覆は、破損の可能性が生じるため、保護チューブを最外層につけてもよい。
【0043】
なお、本装置1のマルチコアファイバ21は、シングルモードの光ファイバであっても、マルチモードの光ファイバであってもよく、その光ファイバの長さや伝送損失等によって適宜選択可能である。
【0044】
また、本装置1は、上記の通り、入射光を出力する光源3を備える。光源3の構成としては、測定において必要な波長の光を放出することができるものである限りにおいて限定されない。具体的に、本装置1は、有機物に光を照射してその蛍光を測定することでその有機物内に存在する物質の分析を行うことを主眼としており、この観点から、本装置1の光源3の発する光の波長としては、限定されるわけではないが、紫外領域から可視領域の光であることが好ましく、具体的には100nm以上850nm以下の範囲であることが好ましい。
【0045】
また、本装置1は、上記の通り、光源3から出力される入射光を、マルチコアプローブ2のマルチコアファイバ21における複数のコア212のうちの一部である第一コア2121に導くための第一導光ファイバ4を備える。すなわち、光源3から出力された光は、第一導光ファイバ4を介して第一コア2121を伝搬し、更にマルチコアファイバ21の先端から測定対象Mに照射されることになる。ここで、「導光ファイバ」とは、光源3からの光をマルチコアファイバ21まで導く光ファイバをいい、マルチコアプローブ2のマルチコアファイバ21とは異なる構成要素であるため別の用語を用いたものである。また、「第一」とあるのは、第二導光ファイバ6とは異なる用途で用いられるものであるためこの序数を用いているにすぎず、これ以上の技術的な意味は持たない。
【0046】
第一導光ファイバ4の構成としては、光ファイバである限りその構成は限定されるわけではないが、一つのクラッド43に一つのコア42が設けられるいわゆるシングルコアの光ファイバであることが好ましい。シングルコアの光ファイバを用いることでマルチコアファイバの複数のコアそれぞれにシングルコアの光ファイバを設定することにはなるが、そのそれぞれに対し個別の処理を行うことができるようになるといった利点がある。
図6に、第一導光ファイバ4の延伸方向に沿った断面のイメージ図を示しておく。なお、第一導光ファイバ4にシングルコアの光ファイバを用いる場合、第一導光ファイバ4は、マルチコアファイバ21における第一コア2121の数だけ設けておくことが好ましい。
【0047】
第一導光ファイバ4のクラッド43については、上記の機能を有する限りにおいて限定されず、上記のマルチコアファイバ21におけるクラッド211と同じ材質、屈折率等のものを採用することが可能である。
【0048】
第一導光ファイバ4のコア42についても、上記の機能を有する限りにおいて限定されず、上記のマルチコアファイバ21におけるコア212と同じ材質、コア径、屈折率等のものを採用することが可能である。
【0049】
また、本装置1における第一導光ファイバ4は、シングルモードの光ファイバであっても、マルチモードの光ファイバであってもよく、その光ファイバの長さや伝送損失等によって適宜選択可能である。
【0050】
また、本装置1においては、第一導光ファイバ4に光アイソレータ41が設けられていることが好ましい。「光アイソレータ」とは、一方に進んでくる光は透過し、逆方向に進んでくる光は遮断する光学部品である。光アイソレータを設けることで、測定対象Mに照射した光のうちの反射光等がそのままマルチコアファイバ21の第一コア2121に戻り、更に第一導光ファイバ4まで戻ってくることで光源3に損傷を与えてしまうのを防ぐことが可能となる。なお、第一導光ファイバ4を複数設けている場合は、そのそれぞれに光アイソレータを設けておくことが好ましい。
【0051】
光アイソレータ41の構成としては、上記の機能を有するものである限り限定されるわけではなく、偏光依存型であっても偏光無依存型であってもよいが、例えば偏光依存型である場合、一対の複屈折結晶と、この一対の複屈折結晶の間に配置される位相板及びファラデー回転子とを備えたものであることが好ましい。これにより、光源3から発せられた光はそのまま第一導光ファイバ4を介してマルチコアファイバ21まで伝達され、マルチコアファイバ21から第一導光ファイバ4に戻ってきた光はこれらにより遮断され、光源3まで届かないようにすることができる。
【0052】
また、本装置1は、上記の通り、マルチコアプローブ2における複数のコア212のうちの他の一部である第二コア2122に入射される蛍光を検出する測定器5を備える。測定器5によって、その蛍光の強度やスペクトル等必要なパラメータを分析し、測定対象M内に存在する物質を分析することが可能である。
【0053】
また、本装置1では、測定器5が測定する光は、測定対象Mに照射する入射光すなわち励起光に基づき発する蛍光である。「蛍光」は、測定対象Mに照射された光が吸収され励起状態となり、異なる波長として測定対象Mから放出された光をいう。ただし、本装置1では、蛍光だけでなく、入射光に基づき燐光も生ずる場合があるため、燐光も測定の対象となりうる。なお、蛍光は、励起一重項状態から基底一重項状態への許容遷移において発せられるものである一方、燐光は、励起三重項状態から基底一重項状態への許容遷移において発せられるものである点において違いがある。一般に燐光の方が時間的に長く発せられる。繰り返しとなるが、本装置1は、この蛍光を測定することにより、測定対象Mにそのような物質が存在しているのかを分析することができる。
【0054】
また、本装置1は、上記の通り、第二コア2122から測定器5に蛍光を導くための第二導光ファイバ6と、を備える。第二導光ファイバ6は、上記の通り、第一導光ファイバ4と同一の構成とすることができるものであるが、第二導光ファイバ6は、測定対象Mからマルチコアファイバ21の第二コア2122に入射される蛍光を測定器5まで伝搬させるために用いられるものであり、その用途の違いにより「第二」をつけて表現されているに過ぎない。
【0055】
また、本装置1において、第二導光ファイバ6は複数設けられる、すなわち複数の光ファイバ61に分かれて測定器5に蛍光を導かれていることが好ましい。複数の光ファイバ61に分かれていることで、測定に必要な光の強度を確保することができるだけでなく、それぞれの光ファイバ61において設けられる光学分割手段62(後述)によって必要な波長範囲を選択させることが可能となる。
【0056】
また、本装置1において、第二導光ファイバ6(第二導光ファイバ6が複数の光ファイバ61によって構成されている場合は複数の光ファイバ61の各々)には、光学分割手段62が設けられていることが好ましい。本装置1では、光源3から測定対象Mに対して照射される光に基づき蛍光が放出される。しかしながら、この蛍光には、様々な波長の光が含まれており、更には、測定対象Mに照射された入射光そのものも含まれる場合がある。そのため、必要な波長範囲を分割して取得するための光学分割手段62を設けることが重要である。なお、この光学分割手段については、第二導光ファイバ6ではなく、測定器5内に設ける構成としてもよい。
【0057】
光学分割手段62としては、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、バンドパスフィルタ(BPF)やファイバーブラッグ回折格子(FBG)を例示することができるがこれに限定されない。
【0058】
また、本装置1の光学分割手段62に関し、取り出す波長範囲については適宜調整可能であり限定されるわけではないが、第二導光ファイバ6が複数の光ファイバ61によって構成されている場合は、そのそれぞれの光学分割手段62を異ならせる構成としてもよい。このようにすることで、広い範囲にわたって詳細な分析を行うことが可能となるといった利点がある。
【0059】
また、本装置1では、マルチコアファイバ21と、第一導光ファイバ4及び第二導光ファイバ6は、光コネクタ7によって接続されていることが好ましい。
図7、8に、光コネクタ7のイメージを示す。
図7は、光コネクタ7によって接続される場合のイメージを示し、
図8はその断面におけるイメージを示しておく。これらの図で示すように、光コネクタ7は、第一導光ファイバ4と第二導光ファイバ6を束ね、そのそれぞれのコアを、マルチコアファイバ21のコア212と接続させるためのコネクタである。より具体的には、光コネクタ用のアダプタ71内に、マルチコアファイバ21が接着層73を介して固定されたフェルール74と、複数の第一導光ファイバ4、第二導光ファイバ6を束ねて接着層73を介して固定されたフェルール74、そのそれぞれのフェルール74をアダプタ71内の接続スリーブ72を介して接続し、収容する光コネクタ7に設けられたキー75を、アダプタ71に形成されたキー溝76に勘合させながら挿入して接続することにより実現することができる。これにより、光源3からの入射光を測定対象Mに、測定対象Mからの蛍光を測定器5に、確実に伝搬させることが可能となる。
【0060】
なお、本装置1の光コネクタ7において、第一導光ファイバ4及び第二導光ファイバ6のそれぞれにおいては、エッチング等により細線化処理を行っておくことが好ましい。一般にシングルコアの光ファイバにおいてコアの周りのクラッド211は厚く形成されていることが多い。一方で、本装置1で用いるマルチコアファイバ21では一つのクラッド211内でコア212が複数設けられているため、クラッド211の厚さすなわちコアとコアの間の距離は比較的短い。そのため、本装置1では、第一導光ファイバ4及び第二導光ファイバ6のそれぞれにおいてエッチングなどの細線化処理を行っておくことで、マルチコアファイバ21内のコア間の距離に調節することが有用である。
【0061】
以上、本装置1は、小型化が可能であり、微小な測定対象範囲に対しても精度よく測定することができる光測定装置となるが、具体的な動作については、下記で示す光測定方法によって明らかとなる。
【0062】
また、本装置1の上記の例では、測定対象Mから発せられる蛍光は、光コネクタ7によってマルチコアファイバ21から第一導光ファイバ4、第二導光ファイバ6に伝搬されており、第二導光ファイバ6は第二コア2122の数に応じて複数に分岐されてそのそれぞれが測定器5に入力されている。しかし、上記の例のように、光コネクタ7から複数分岐されて延びる第二導光ファイバ6をビームスプリッタ63によって光を一つに合波してから光学分割手段62及び測定器5に入力させることとしてもよい。この場合のイメージを
図9に示しておく。なお、ビームスプリッタ63は、一つの光を複数に分割するために用いられる光学部材であるが、逆方向とすると複数の光を合波する素子として用いることができる。この例では、このように複数の光を合波するために使用しており、これによってマルチコアファイバ21の複数設けられる第二コア2122からの光を合波し、光強度を確保することができるといった利点がある。
【0063】
(光測定方法)
本装置1を用いることで達成される本実施形態に係る光測定方法(以下「本方法」という。)は、(S1)一つのクラッド中に複数のコアを有するマルチコアファイバを備えたマルチコアプローブにおける複数のコアのうちの一部である第一コアに入射光を入射させ、マルチコアファイバから測定対象に入射光を照射し、(S2)測定対象からの蛍光を、マルチコアプローブにおける複数のコアのうちの他の一部である第二コアに入射させ、蛍光を測定するものである。
【0064】
上記の通り本方法では、まず、(S1)一つのクラッド中に複数のコアを有するマルチコアファイバを備えたマルチコアプローブにおける複数のコアのうちの一部である第一コアに入射光を入射させ、マルチコアファイバから測定対象に入射光を照射する。
【0065】
(S2)測定対象からの蛍光を、マルチコアプローブにおける複数のコアのうちの他の一部である第二コアに入射させ、蛍光を測定するものである。
【0066】
以上、本発明によって、小型化が可能であり、微小な測定対象範囲に対しても精度よく測定することができる光測定装置及び光測定方法が提供される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、光測定装置及び光測定方法として産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0068】
1…光測定装置
2…マルチコアプローブ
21…マルチコアファイバ
211…クラッド
212…コア
2121…第一コア
2122…第二コア
22…フェルール
23…無機ハンダ
24…接合層
3…光源
4…第一導光ファイバ
41…光アイソレータ
5…測定器
6…第二導光ファイバ
M…測定対象