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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141524
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】人工血管の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/06 20130101AFI20241003BHJP
【FI】
A61F2/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053231
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】小林 遼平
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097CC01
4C097CC02
4C097CC12
4C097DD04
4C097DD12
4C097DD13
4C097EE08
4C097MM02
4C097MM03
4C097MM04
(57)【要約】
【課題】所望の耐キンク性を備えることのできる人工血管の製造方法を提供する。
【解決手段】人工血管1の製造方法は、筒状基材21の軸方向に第1のピッチP1にて連続するひだを筒状基材に形成しかつ筒状基材の軸方向の両端を固定した第1の固定状態で、筒状基材に対して熱を加えることで形状付けを行う第1の形状付け工程と、筒状基材に形成したひだを、第1のピッチよりも間隔が広い第2のピッチP2となるように調整する調整工程と、第2の固定状態で、筒状基材を構成する材料のガラス転移点温度以上、かつ第1の形状付け工程の温度以上で、筒状基材に対して形状付けを行う第2の形状付け工程と、を有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状基材を有する人工血管の製造方法であって、
前記筒状基材の軸方向に第1のピッチにて連続するひだを前記筒状基材に形成しかつ前記筒状基材の前記軸方向の両端を固定した第1の固定状態で、前記筒状基材に対して熱を加えることで形状付けを行う第1の形状付け工程と、
前記筒状基材に形成した前記ひだを、前記第1のピッチよりも間隔が広い第2のピッチとなるように調整するとともに、前記ひだを前記第2のピッチに調整した前記筒状基材の前記両端を固定した第2の固定状態とする調整工程と、
前記第2の固定状態で、前記筒状基材を構成する材料のガラス転移点温度以上、かつ前記第1の形状付け工程の温度以上で、前記筒状基材に対して形状付けを行う第2の形状付け工程と、を有する、人工血管の製造方法。
【請求項2】
前記第1の形状付け工程において、前記筒状基材に第1の心棒を挿入した状態で前記筒状基材の外周に糸を巻き付けるとともに、前記筒状基材の前記両端のそれぞれを前記第1の心棒との間で挟持するための一対の第1の固定部材を前記両端に取り付け、前記一対の第1の固定部材同士を近づけて前記筒状基材を前記軸方向に圧縮し、圧縮した前記筒状基材に前記第1の心棒を挿入したまま前記糸を取り外すことにより、前記筒状基材の前記両端を前記第1の固定部材で固定した前記第1の固定状態とし、前記第1の心棒を挿入したまま前記第1の固定状態にある前記筒状基材に対して熱を加え、
前記調整工程において、前記一対の第1の固定部材を取り外すとともに前記第1の心棒を前記筒状基材から引き抜き、前記第1の心棒よりも外径の小さい第2の心棒を前記筒状基材に挿入するとともに、前記筒状基材の前記両端のそれぞれを前記第2の心棒との間で挟持するための一対の第2の固定部材を前記両端に取り付け、前記筒状基材に形成した前記ひだのピッチを前記第2のピッチとなるように調整することにより、前記第2の固定状態とし、
前記第2の形状付け工程において、前記第2の心棒を挿入したまま前記第2の固定状態にある前記筒状基材に対して形状付けを行う、請求項1に記載の人工血管の製造方法。
【請求項3】
前記筒状基材は、
繊維を主材料とした第1層と、
熱可塑性エラストマーを含み前記第1層よりも外側に配置された第2層と、
繊維を主材料とし、前記第2層よりも外側に配置された第3層と、を有する、請求項1または2に記載の人工血管の製造方法。
【請求項4】
前記第1の形状付け工程では、温度が68~73℃、時間が55分~65分で前記筒状基材に対する形状付けが行われ、
前記第2の形状付け工程では、温度が80~85℃、時間が150~300分で前記筒状基材に対する形状付けが行われる、請求項3に記載の人工血管の製造方法。
【請求項5】
前記人工血管は、
側面に開口を有する本管と、
前記本管の前記開口に接続される分枝管と、を有し、
前記分枝管の筒状基材は、前記第1の形状付け工程、前記調整工程、および前記第2の形状付け工程が行われることによって製造される、請求項1または2に記載の人工血管の製造方法。
【請求項6】
前記人工血管は、
側面に開口を有する本管と、
前記本管の前記開口に接続される分枝管と、を有し、
前記分枝管の筒状基材は、前記第1の形状付け工程、前記調整工程、および前記第2の形状付け工程が行われることによって製造される、請求項3に記載の人工血管の製造方法。
【請求項7】
前記人工血管は、
側面に開口を有する本管と、
前記本管の前記開口に接続される分枝管と、を有し、
前記分枝管の筒状基材は、前記第1の形状付け工程、前記調整工程、および前記第2の形状付け工程が行われることによって製造される、請求項4に記載の人工血管の製造方法。
【請求項8】
前記分枝管は、前記本管の中心軸に対して略垂直な方向に延びるように、前記本管の前記開口に接続されている、請求項5に記載の人工血管の製造方法。
【請求項9】
前記第2の形状付け工程において、前記筒状基材を構成する材料の融点未満の温度で前記筒状基材に対して形状付けを行う、請求項1に記載の人工血管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工血管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の疾病などにより、生体の血管、特に大動脈のような太い血管を人工血管に置き換える必要がある場合がある。このような人工血管としては、本管と、本管に接続された分枝管と、を有するものが知られている(例えば下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、弓部大動脈置換術においてトランスロケート法が増えている。この方法は、オープンステントやエレファントトランクを併用した低侵襲な治療の際に、末梢側吻合をより近位側で行うことができ、また十分なランディングゾーンを確保することができるというメリットがある。一方で、トランスロケート法を用いることで、分枝管が長くなるとともにその根本が吻合先の血管に向けて急峻な角度で曲がる構成となり、分枝管の根元においてキンクが発生する可能性がある。また、分枝管に限らず、本管のキンクを抑制することも求められている。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、所望の耐キンク性を備える人工血管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0007】
(1)
筒状基材を有する人工血管の製造方法であって、
前記筒状基材の軸方向に第1のピッチにて連続するひだを前記筒状基材に形成しかつ前記筒状基材の前記軸方向の両端を固定した第1の固定状態で、前記筒状基材に対して熱を加えることで形状付けを行う第1の形状付け工程と、
前記筒状基材に形成した前記ひだを、前記第1のピッチよりも間隔が広い第2のピッチとなるように調整するとともに、前記ひだを前記第2のピッチに調整した前記筒状基材の前記両端を固定した第2の固定状態とする調整工程と、
前記第2の固定状態で、前記筒状基材を構成する材料のガラス転移点温度以上、かつ前記第1の形状付け工程の温度以上で、前記筒状基材に対して形状付けを行う第2の形状付け工程と、を有する、人工血管の製造方法。
【0008】
(2)
前記第1の形状付け工程において、前記筒状基材に第1の心棒を挿入した状態で前記筒状基材の外周に糸を巻き付けるとともに、前記筒状基材の前記両端のそれぞれを前記第1の心棒との間で挟持するための一対の第1の固定部材を前記両端に取り付け、前記一対の第1の固定部材同士を近づけて前記筒状基材を前記軸方向に圧縮し、圧縮した前記筒状基材に前記第1の心棒を挿入したまま前記糸を取り外すことにより、前記筒状基材の前記両端を前記第1の固定部材で固定した前記第1の固定状態とし、前記第1の心棒を挿入したまま前記第1の固定状態にある前記筒状基材に対して熱を加え、
前記調整工程において、前記一対の第1の固定部材を取り外すとともに前記第1の心棒を前記筒状基材から引き抜き、前記第1の心棒よりも外径の小さい第2の心棒を前記筒状基材に挿入するとともに前記筒状基材の前記両端のそれぞれを前記第2の心棒との間で挟持するための一対の第2の固定部材を前記両端に取り付け、前記筒状基材に形成した前記ひだのピッチを前記第2のピッチとなるように調整することにより、前記第2の固定状態とし、
前記第2の形状付け工程において、前記第2の心棒を挿入したまま前記第2の固定状態にある前記筒状基材に対して形状付けを行う、(1)に記載の人工血管の製造方法。
【0009】
(3)
前記筒状基材は、
繊維を主材料とした第1層と、
熱可塑性エラストマーを含み前記第1層よりも外側に配置された第2層と、
繊維を主材料とし、前記第2層よりも外側に配置された第3層と、を有する、(1)または(2)に記載の人工血管の製造方法。
【0010】
(4)
前記第1の形状付け工程では、温度が68~73℃、時間が55分~65分で前記筒状基材に対する形状付けが行われ、
前記第2の形状付け工程では、温度が80~85℃、時間が150~300分で前記筒状基材に対する形状付けが行われる、(1)~(3)のいずれか1つに記載の人工血管の製造方法。
【0011】
(5)
前記人工血管は、
側面に開口を有する本管と、
前記本管の前記開口に接続される分枝管と、を有し、
前記分枝管の筒状基材は、前記第1の形状付け工程、前記調整工程、および前記第2の形状付け工程が行われることによって製造される、(1)~(4)のいずれか1つに記載の人工血管の製造方法。
【0012】
(6)
前記分枝管は、前記本管の中心軸に対して略垂直な方向に延びるように、前記本管の前記開口に接続されている、(3)~(5)のいずれか1つに記載の人工血管の製造方法。
【0013】
(7)
前記第2の形状付け工程において、前記筒状基材を構成する材料の融点未満の温度で前記筒状基材に対して形状付けを行う、(1)~(6)のいずれか1つに記載の人工血管の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
上記の製造方法によって製造された人工血管によれば、第2の形状付け工程において、両端を挟んだ第2の固定状態で形状付けが行われるため、製造された人工血管のひだのピッチを所望の長さ(第2のピッチ)にすることができ、所望の耐キンク性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る人工血管を示す図である。
図2】本実施形態に係る人工血管の分枝管を示す図である。
図3】比較例に係る分枝管の根元において、キンクが生じる様子を示す図である。
図4】本実施形態に係る人工血管の分枝管の製造方法を説明するための図であって、分枝管の筒状基材に第1の心棒が挿入された状態を示す図である。
図5図4に次いで、筒状基材の外周に糸が巻回された様子を示す図である。
図6図5に次いで、一対の第1の固定部材を互いに近づけて、筒状基材を軸方向に圧縮した様子を示す図である。
図7図6に次いで、一対の第2の固定部材を両端に取り付け、ひだのピッチを第2のピッチとなるように調整した状態を示す図である。
図8】比較例に係る人工血管の分枝管の製造方法を説明するための図であって、分枝管の筒状基材に第1の心棒が挿入された状態を示す図である。
図9図8に次いで、第1の心棒および一対の第1の固定部材が取り外された状態を示す図である。
図10図9に次いで、残留ひずみを除去するための加熱を行った後の様子を示す図である。
図11】変形例に係る人工血管を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
以下、図1図2を参照して、本実施形態に係る人工血管1を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る人工血管1を示す図である。図2は、本実施形態に係る人工血管1の分枝管20を示す図である。
【0018】
人工血管1は、図1に示すように、側面に開口12を有する本管10と、本管10の開口12に接続される4つの分枝管20と、を有する。
【0019】
<本管10>
図1に示すように、本管10は、本管10の延在方向に延びる内腔14を有する管状の部材である。本管10の延在方向の両端には開口部16、17が形成されている。本管10は、本管10の表面に形成された凹凸状のひだ13を有する。ひだ13は、本管10の延在方向に沿って凹凸が繰り返された波状の断面形状を有する。
【0020】
本管10は、例えば、第1層(内層)、第2層(中層)、および第3層(外層)を少なくとも備える多層構造の管状部材で構成することができる。
【0021】
第1層は、例えば、編み管状体で構成することができる。第1層は、繊維(例えば、ポリエステル)を主材料として構成することができる。
【0022】
第2層は、例えば、無孔質の管状体で構成することができる。第2層は、熱可塑性エラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)で構成することができる。
【0023】
第3層は、例えば、織り管状体で構成することができる。第3層は、繊維(例えば、ポリエステル)を主材料として構成することができる。
【0024】
本管10を構成する層の数、各層の厚み、構造等については、特に制限されない。
【0025】
図1に示すように、本管10の開口12には分枝管20が接続されている。本管10の側面には4つの開口12が形成されている。
【0026】
本管10に接続される分枝管20の個数は特に限定されない。本管10に形成される開口12の個数および位置等は、本管10に接続する分枝管20の個数および位置等に合わせて適宜変更することができる。
【0027】
<分枝管20>
本実施形態では、4つの分枝管20は略同一の構成を有する。分枝管20は、本管10に固定されている。分枝管20の本管10に対する固定方法は、特に限定されないが、例えば、WO2021065039に記載された方法など、公知の方法が用いられる。
【0028】
分枝管20は、図1に示すように、分枝管20の延在方向に延びる内腔24を有する管状の部材である。分枝管20の延在方向の両端には開口部26、27が形成されている。
【0029】
分枝管20は、開口部27が形成された側が本管10と接続されている。分枝管20は、図1図2に示すように、分枝管20の表面全体に、分枝管20の軸方向に沿って複数のクリンプが連続することで凹凸を繰り返すように形成されたひだ23を有する。ひだ23の軸方向に沿う長さをピッチPと称する。
【0030】
また、本実施形態において、自然状態での分枝管20のひだ23のピッチPは、分枝管20の全体に亘って、略均一である。この構成によれば、分枝管20に作用する応力が、分枝管20の全体に均一に分散しやすくなるため、キンクの発生をより好適に抑制することができる。
【0031】
分枝管20は、本管10よりも小さな内径及び外径を有する。
【0032】
分枝管20は、例えば、第1層(内層)、第2層(中層)、および第3層(外層)を少なくとも備える多層構造の管状部材で構成することができる。
【0033】
第1層は、例えば、編み管状体で構成することができる。第1層は、繊維(例えば、合成繊維であるポリエステルや天然繊維であるシルク)を主材料として構成することができる。
【0034】
第2層は、例えば、無孔質の管状体で構成することができる。第2層は、熱可塑性エラストマー(例えば、スチレン系エラストマー)で構成することができる。
【0035】
第3層は、例えば、織り管状体で構成することができる。第3層は、繊維(例えば、合成繊維であるポリエステルや天然繊維であるシルク)を主材料として構成することができる。
【0036】
分枝管20は、図1に示すように、本管10に対して、傾斜する方向に接続されている。分枝管20の本管10に対する傾斜角度は、40~50度であることが好ましい。このように、分枝管20が本管10に対して傾斜するように接続されることによって、トランスロケート法において、分枝管20の根元におけるキンクの発生をより好適に抑制することができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る人工血管1の製造方法について説明する。
【0038】
本管10は公知の方法で製造される。具体的には、軸方向に等間隔にひだ13が形成されるように、上述した3層から構成される直線状の基材を軸方向に圧縮し、圧縮した状態で基材に熱を加えてひだ13を定着させて、本管10を製造する。
【0039】
次に、図4図7を参照して、分枝管20の製造方法について説明する。図4図7は、分枝管20の製造方法の説明に供する図である。
【0040】
分枝管20の製造方法は、概説すると、ひだが第1のピッチP1で形成された筒状基材21に仮の形状付けを行う第1の形状付け工程と、ひだを第1のピッチP1から第2のピッチP2となるように調整する調整工程と、ひだが第2のピッチP2で形成された筒状基材21に形状付けを行う第2の形状付け工程と、を有する。
【0041】
以下、各工程について詳述する。
【0042】
<第1の形状付け工程>
第1の形状付け工程は、調整工程の際に、容易にピッチを変更できるように、筒状基材21に対して、軽く形状付けをすることを目的に行われる。第1の形状付け工程では、まず、図4に示すように、準備した筒状基材21に対して、第1の心棒22を挿入する。このときの筒状基材21の軸方向に沿う長さは、例えば300~700mmである。
【0043】
次に、図5に示すように、筒状基材21の外周に、1本ずつ、複数本(図5では11本)の糸Tを周方向に沿って括り付ける。このときの糸TのピッチP0は、後述する第1のピッチP1よりも大きい。ピッチP0は、例えば3.0~4.5mmである。
【0044】
次に、筒状基材21の両端に、第1の心棒22との間で挟持するための一対の第1の固定部材31、32を取り付け、図6に示すように、一対の第1の固定部材31、32を互いに近づけて、筒状基材21を第1のピッチP1となるまで軸方向に圧縮する。第1のピッチP1は、例えば0.8~1.2mmである。このときの圧縮は手動で行われても、自動で行われてもよい。
【0045】
次に、図6に示すように、第1のピッチP1となるように圧縮された筒状基材21に第1の心棒22を挿入したまま、筒状基材21から糸Tを取り外す。この状態を第1の固定状態と称する。すなわち、第1の固定状態は、第1の心棒22が挿入されており、第1のピッチP1となるように圧縮された筒状基材21の両端を第1の固定部材31、32で固定した状態である。
【0046】
次に、第1の固定状態にある筒状基材21に対して、熱を加えて仮の形状付けを行う。このときの温度は、68~73℃であることが好ましい。また時間は、55分~65分であることが好ましい。
【0047】
ここで、例えば、第1の形状付け工程における加熱温度が73℃より高い場合、第2層が所望より溶融しすぎて、第1層の内周へ多数、浸み出てしまう可能性があって好ましくない。これに対して、第1の形状付け工程における温度が73℃以下の場合、第2層が第1層の内周へ浸み出る量を低減することができる。なお、第1の形状付け工程における温度が73℃よりも高い場合も、本発明に含まれるものとする。
【0048】
また、例えば、第1の形状付け工程における温度が68℃より低い場合、第2層の溶融が少なく流動が弱くなって、第1層への浸み込みが所望より少なくなってしまい、分枝管から漏水する可能性がある。これに対して、第1の形状付け工程における温度が68℃以上の場合、第2層の溶融が多く流動が強くなって、第1層への浸み込みが所望のものになり、漏水する可能性が低減する。なお、第1の形状付け工程における温度が68℃よりも低い場合も、本発明に含まれるものとする。
【0049】
以上から、第1の形状付け工程における温度を68~73℃とすることによって、第2層が第1層へ所望の量だけ浸み込むとともに、第1層の内周へ多数、浸み出ることを抑制できる。
【0050】
第1の形状付け工程における温度は、後述する第2の形状付け工程における温度よりも低くする必要がある。ここで例えば、第1の形状付け工程における温度が、第2の形状付け工程における温度よりも高い場合、第1の形状付け工程の段階で形状が記憶されて、調整工程において、ピッチを調整して第2の形状付け工程を行った後、経時的に第1の形状付け工程のときの形状に戻ろうとしてしまい、好ましくない。
【0051】
以上で、第1の形状付け工程が終了する。次に、調整工程について説明する。
【0052】
<調整工程>
調整工程では、筒状基材21のひだを第1のピッチP1よりも間隔が広い第2のピッチP2となるように調整する。以下詳述する。
【0053】
調整工程では、まず、一対の第1の固定部材31、32を取り外すとともに、第1の心棒22を筒状基材21から引き抜く。そして、図7に示すように、第1の心棒22よりも外径の小さい第2の心棒25を筒状基材21に挿入するとともに、筒状基材21の両端のそれぞれに、第2の心棒25との間で挟持するための一対の第2の固定部材33、34を、筒状基材21の両端に取り付ける。
【0054】
そして、筒状基材21に形成されたひだのピッチが、第1のピッチP1から第2のピッチP2となるように調整する。このときの調整は、手動で行われても、自動で行われてもよい。第2のピッチP2は、例えば19~21mmである。この状態を第2の固定状態と称する。すなわち、第2の固定状態は、第2の心棒25が挿入されており、第2のピッチP2となるように圧縮された筒状基材21の両端を第2の固定部材33、34で固定した状態である。
【0055】
以上で、調整工程が終了する。次に、第2の形状付け工程について説明する。
【0056】
<第2の形状付け工程>
第2の形状付け工程では、第2の心棒25を筒状基材21に挿入したまま第2の固定状態にある筒状基材21に対して、残留ひずみを除去するために、加熱して形状付けを行う。加熱温度としては、分枝管20を構成する材料(例えばPET)のガラス転移点温度以上、かつ第1の形状付け工程の温度以上で筒状基材21に対して形状付けを行う。
【0057】
第2の形状付け工程における加熱温度は80~85℃が好ましく、加熱時間は150~300分であることが好ましい。
【0058】
例えば85℃より高い温度で、第2の形状付け工程が行われた場合、第2層が第1層の内周へ、多数浸み出てしまう虞がある。これに対して、第2の形状付け工程における温度が85℃以下の場合、第2層が第1層の内周へ浸み出る量が低減する。ここで、第2の形状付け工程における加温温度の上限である85℃は、筒状基材を構成する材料の融点未満である。このように、第2の形状付け工程における加温温度の上限を、筒状基材を構成する材料の融点未満とすることで、第2の形状付け工程において筒状基材が溶け崩れることを防止できる。なお、第2の形状付け工程における温度が85℃よりも高い場合も、本発明に含まれるものとする。以上の工程によって分枝管20が製造される。
【0059】
次に、公知の方法で、分枝管20を本管10に固定する。以上の工程によって、本実施形態に係る人工血管1を製造することができる。
【0060】
次に、図8図10を参照して、比較例に係る分枝管920の製造方法について説明する。図8図10は、比較例に係る分枝管920の製造方法の説明に供する図である。
【0061】
比較例に係る分枝管920の製造方法は、上述した実施形態に係る分枝管20の製造方法と比較して、第1の固定状態を形成するまでは同一の工程であるため、それ以降の説明を行う。
【0062】
第1の固定状態にある筒状基材921に対して、熱を加えて形状付けを行う。このときの温度は、例えば75~80℃であって、時間は55~65分である。
【0063】
次に、図9に示すように、一対の第1の固定部材31、32を取り外すとともに、第1の心棒22を筒状基材921から引き抜く。
【0064】
次に、第1のピッチP1のひだを備える筒状基材921に対して、第2の固定部材等によって両端を固定しない状態で、残留ひずみを除去するために、加熱する。このときの加熱温度は例えば70~75℃、加熱時間は例えば330~390分である。この結果、図10に示すように、筒状基材921は、制御されない状態で軸方向に伸長する。
【0065】
比較例に係る分枝管920の製造方法では、残留ひずみを除去するために熱を加える際に、固定部材によって両端が固定されないため、残留ひずみを除去するために熱を加えた後の10個分のひだ長がばらつく。したがって、所望の耐キンク性を得ることが困難である。この場合、図3に示すように、分枝管の根元においてキンクが生じる可能性がある。
【0066】
これに対して、本実施形態に係る分枝管20の製造方法によれば、第2の形状付け工程において、一対の第2の固定部材33、34で両端を挟んだ状態で、形状付けが行われるため、ひだのピッチを所望の長さ(第2のピッチP2)にすることができる。したがって、所望の(狙った)耐キンク性を得ることができる。
【0067】
<実施例>
以下、実施例により本発明および本発明の効果をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0068】
第1の形状付け工程において、仮の形状付けの熱を加える条件として、温度70℃、時間60分で行った。
【0069】
第2の形状付け工程において、残留ひずみを除去するための熱を加える条件として、温度83℃、時間240分で行った。
【0070】
<比較例>
比較例として、第1の固定状態にある筒状基材921に対して、熱を加えて形状付けを行った。このときの温度は80℃であって、時間は60分であった。
【0071】
次に、第1のピッチP1のひだを備える筒状基材921に対して、第2の固定部材等によって両端を固定しない状態で、残留ひずみを除去するために、熱を加えた。このときの温度は70℃、時間360分であった。
【0072】
<10個分のひだ長の測定>
実施例に係る製造方法によって製造された、5つの分枝管20の10個分のひだ長は、それぞれ、20.0mm、19.5mm、19.5mm、20.0mm、20.0mmであった。すなわち、ばらつきは0.5mmであった。
【0073】
一方、比較例に係る製造方法によって製造された、5つの分枝管920の10個分のひだ長は、それぞれ、25.0mm、26.0mm、25.0mm、26.5mm、25.0mmであった。すなわち、ばらつきは、1.5mmであった。
【0074】
以上の結果から分かるように、本実施形態に係る分枝管20の製造方法によれば、第2の形状付け工程において、一対の第2の固定部材33、34で両端を挟んだ第2の固定状態で形状付けが行われるため、製造された分枝管20のひだのピッチを所望の長さ(第2のピッチP2)にすることができる。したがって、所望の耐キンク性を得ることができる。
【0075】
以上、実施形態を通じて本発明に係る分枝管20の製造方法を説明したが、本発明は実施形態において説明した構成に限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0076】
例えば、上述した実施形態では、本発明に係る人工血管1の製造方法は、分枝管20の製造方法に適用されたが、本管10の製造方法に適用されてもよい。
【0077】
また、上述した実施形態では、分枝管20は、第1層、第2層、および第3層から構成されたが、分枝管は単層から構成されてもよい。このときは、上述した第2層の第1層の内周への浸み出しの懸念がないため、第1の形状付け工程における温度は、例えば50~190℃、第2の形状付け工程における温度は、例えば80~190℃と高温で行うことができる。この場合も、第2の形状付け工程における温度が第1の形状付け工程における温度よりも高い必要がある。また、第2の形状付け工程における温度の上限は、筒状基材を構成する材料の融点未満である。例えば、ポリエチレンテレフタレートから筒状基材を構成する場合、ポリエチレンテレフタレートの溶融温度未満である190℃であれば、第2の形状付け工程において筒状基材が溶け崩れることを防止できる。
【0078】
また、上述した実施形態では、第1の形状付け工程において、筒状基材21の外周に1本ずつ、複数本の糸Tを周方向に沿って括り付けたが、1本の糸Tを螺旋状に括り付けてもよい。この場合、出来上がるひだは螺旋状を備える。
【0079】
また、人工血管2は、図11に示すように、本管10の中心軸に対して略垂直な方向に延びるように、本管10の開口12に接続される構成であってもよい。この構成によれば、トランスロケート以外の従来の人工血管置換術にも対応できる。
【符号の説明】
【0080】
1 人工血管、
10 本管、
20 分枝管、
21 筒状基材、
22 第1の心棒、
23 ひだ、
25 第2の心棒、
31 第1の固定部材、
32 第1の固定部材、
33 第2の固定部材、
34 第2の固定部材、
P1 第1のピッチ、
P2 第2のピッチ、
T 糸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11