(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141527
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】仮設部材の撤去方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/06 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
E04G23/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053236
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】松居 健人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 起司
(72)【発明者】
【氏名】犬伏 昭
(72)【発明者】
【氏名】杉本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】鶴 勇治
(72)【発明者】
【氏名】石井 大吾
(72)【発明者】
【氏名】仁田脇 雅史
(72)【発明者】
【氏名】飯岡 哲也
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA07
2E176BB36
2E176DD61
(57)【要約】
【課題】引張軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去する際に軸力を緩やかに開放できて、衝撃音の発生を抑制できる仮設部材の撤去方法を提供する。
【解決手段】スプライスプレート4の摩擦面45には有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれかで形成された被膜層6が設けられ、仮設部材撤去工程では、高さ方向の一方側かつ幅方向の一方側の端部位置に配置された1本のハイテンションボルト5を緩めて除荷する第1ボルト除荷工程と、高さ方向の他方側かつ幅方向の他方側の端部位置に配置された1本のハイテンションボルト5を緩めて除荷する第2ボルト除荷工程と、高さ方向の一方側かつ幅方向の他方側の端部位置に配置された1本のハイテンションボルト5を緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、高さ方向の他方側かつ幅方向の一方側の端部位置に配置された1本のハイテンションボルト5を緩めて除荷する第4ボルト除荷工程と、をこの順に繰り返し行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の構造部材に接合されて引張軸力を負担している鋼製の仮設部材を前記構造部材から撤去する仮設部材の撤去方法において、
前記仮設部材は、スプライスプレート、前記スプライスプレートを前記構造部材に固定する構造部材ボルト、および前記スプライスプレートを前記仮設部材に固定する仮設部材ボルトによって前記構造部材に接合されていて、
前記仮設部材ボルトは、前記仮設部材と前記構造部材が並ぶ第1方向と直交する第2方向に間隔をあけて複数設けられるとともに、前記第1方向および前記第2方向のいずれにも直交する第3方向に間隔をあけて複数設けられ、
前記スプライスプレートにおける前記仮設部材と接触する面には、有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれか一方を用いて形成された被膜層が設けられており、
前記構造部材に接合されている前記スプライスプレートから前記仮設部材を外す仮設部材撤去工程と、
前記仮設部材撤去工程の後に前記スプライスプレートを前記構造部材から外すスプライスプレート撤去工程と、を有し、
前記仮設部材撤去工程では、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第2方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第3方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第1ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第2方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第3方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第2ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第2方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第3方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第2方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第3方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第4ボルト除荷工程と、を有し、
前記第1ボルト除荷工程、前記第2ボルト除荷工程、前記第3ボルト除荷工程および前記第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行う仮設部材の撤去方法。
【請求項2】
鋼製の構造部材に接合されて引張軸力を負担している鋼製の仮設部材を前記構造部材から撤去する仮設部材の撤去方法において、
前記仮設部材は、スプライスプレート、前記スプライスプレートを前記構造部材に固定する構造部材ボルト、および前記スプライスプレートを前記仮設部材に固定する仮設部材ボルトによって前記構造部材に接合されていて、
前記仮設部材ボルトは、前記仮設部材と前記構造部材が並ぶ第1方向に間隔をあけて複数配列されるとともに、前記第1方向に直交する第2方向に間隔をあけて複数配列され、
前記スプライスプレートにおける前記仮設部材と接触する面には、有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれか一方を用いて形成された被膜層が設けられており、
前記構造部材に接合されている前記スプライスプレートから前記仮設部材を外す仮設部材撤去工程と、
前記仮設部材撤去工程の後に前記スプライスプレートを前記構造部材から外すスプライスプレート撤去工程と、を有し、
前記仮設部材撤去工程では、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第1ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第2ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第4ボルト除荷工程と、を有し、
前記第1ボルト除荷工程、前記第2ボルト除荷工程、前記第3ボルト除荷工程および前記第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行う仮設部材の撤去方法。
【請求項3】
鋼製の構造部材に接合されて引張軸力を負担している鋼製の仮設部材を前記構造部材から撤去する仮設部材の撤去方法において、
前記仮設部材は、仮設部材ボルトによって前記構造部材に接合されていて、
前記仮設部材ボルトは、前記仮設部材に対して、前記仮設部材と前記構造部材が並ぶ第1方向に間隔をあけて複数配列されるとともに、前記第1方向に直交する第2方向に間隔をあけて複数配列され、
前記仮設部材における前記構造部材と接触する面には、有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれか一方を用いて形成された被膜層が設けられており、
前記構造部材から前記仮設部材を外す仮設部材撤去工程を有し、
前記仮設部材撤去工程では、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第1ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第2ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、
複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第4ボルト除荷工程と、を有し、
前記第1ボルト除荷工程、前記第2ボルト除荷工程、前記第3ボルト除荷工程および前記第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行う仮設部材の撤去方法。
【請求項4】
遠隔操作可能な電動トルクレンチを用いて前記仮設部材ボルトを緩める請求項1から3のいずれか一項に記載の仮設部材の撤去方法。
【請求項5】
前記仮設部材ボルトは、ハイテンションボルトである請求項1から3のいずれか一項に記載の仮設部材の撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮設部材の撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存構造物の周囲および上方を覆うように新たに構造物を鉄骨などの鋼材によって構築する場合、既存構造物の上方に構築される梁に引張軸力を負担する仮設部材を接合することがある(例えば、特許文献1参照)。仮設部材は、新たな構造物が構築された後に必要に応じて撤去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引張軸力を負担する仮設部材が柱や梁などの構造部材にスプライスプレートを介してボルト接合される場合、仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めると、仮設部材が負担する軸力が急激に解放される。この際、スプライスプレートと構造部材との間、およびスプライスプレートと仮設部材との間に滑りが生じ、ボルトとボルト孔の内周面とが急激に衝突し、衝撃音(金属音)が発生することが懸念される。
【0005】
そこで本発明は、引張軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去する際に軸力を緩やかに開放できて、衝撃音の発生を抑制できる仮設部材の撤去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る仮設部材の撤去方法は、鋼製の構造部材に接合されて引張軸力を負担している鋼製の仮設部材を前記構造部材から撤去する仮設部材の撤去方法において、前記仮設部材は、スプライスプレート、前記スプライスプレートを前記構造部材に固定する構造部材ボルト、および前記スプライスプレートを前記仮設部材に固定する仮設部材ボルトによって前記構造部材に接合されていて、前記仮設部材ボルトは、前記仮設部材と前記構造部材が並ぶ第1方向と直交する第2方向に間隔をあけて複数設けられるとともに、前記第1方向および前記第2方向のいずれにも直交する第3方向に間隔をあけて複数設けられ、前記スプライスプレートにおける前記仮設部材と接触する面には、有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれか一方を用いて形成された被膜層が設けられており、前記構造部材に接合されている前記スプライスプレートから前記仮設部材を外す仮設部材撤去工程と、前記仮設部材撤去工程の後に前記スプライスプレートを前記構造部材から外すスプライスプレート撤去工程と、を有し、前記仮設部材撤去工程では、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第2方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第3方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第1ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第2方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第3方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第2ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第2方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第3方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第2方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第3方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第4ボルト除荷工程と、を有し、前記第1ボルト除荷工程、前記第2ボルト除荷工程、前記第3ボルト除荷工程および前記第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行う。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る仮設部材の撤去方法は、鋼製の構造部材に接合されて引張軸力を負担している鋼製の仮設部材を前記構造部材から撤去する仮設部材の撤去方法において、前記仮設部材は、スプライスプレート、前記スプライスプレートを前記構造部材に固定する構造部材ボルト、および前記スプライスプレートを前記仮設部材に固定する仮設部材ボルトによって前記構造部材に接合されていて、前記仮設部材ボルトは、前記仮設部材と前記構造部材が並ぶ第1方向に間隔をあけて複数配列されるとともに、前記第1方向に直交する第2方向に間隔をあけて複数配列され、前記スプライスプレートにおける前記仮設部材と接触する面には、有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれか一方を用いて形成された被膜層が設けられており、前記構造部材に接合されている前記スプライスプレートから前記仮設部材を外す仮設部材撤去工程と、前記仮設部材撤去工程の後に前記スプライスプレートを前記構造部材から外すスプライスプレート撤去工程と、を有し、前記仮設部材撤去工程では、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第1ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第2ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、を有し、前記第1ボルト除荷工程、前記第2ボルト除荷工程、前記第4ボルト除荷工程および前記第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行う。
【0008】
本発明では、互いに直交する2つの方向に配列された複数の仮設部材ボルトを、第1ボルト除荷工程、第2ボルト除荷工程、第3ボルト除荷工程および第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行って1本ずつ緩めて除荷している。これにより緩められた仮設部材ボルトの次に緩められる仮設部材ボルトは、2つの方向の少なくとも1つの方向に離れた位置にある仮設部材ボルトとなるため、隣接する仮設部材ボルトを連続して緩める場合と比べて、仮設部材の引張軸力を緩やかに開放できる。その結果、スプライスプレートと仮設部材とを徐々に滑らせることができ、スプライスプレートと仮設部材との急激な滑りを抑制でき、衝撃音の発生を抑制できる。
スプライスプレートにおける仮設部材と接触する面に有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層が設けられている場合には、軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めた時にスプライスプレートと構造部材とが滑る際に生じる衝撃音、およびスプライスプレートと仮設部材とが滑る際に生じる衝撃音の発生を抑制できる。スプライスプレートにおける仮設部材と接触する面に軟金属によって形成された被膜層が設けられている場合には、滑りが発生する際に軟金属によって形成された被膜層のせん断降伏挙動が卓越する。このため、明瞭な滑りが発生せずに、滑り変位が緩やかに進行し、衝撃音の発生を抑制できる。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る仮設部材の撤去方法は、鋼製の構造部材に接合されて引張軸力を負担している鋼製の仮設部材を前記構造部材から撤去する仮設部材の撤去方法において、前記仮設部材は、仮設部材ボルトによって前記構造部材に接合されていて、前記仮設部材ボルトは、前記仮設部材に対して、前記仮設部材と前記構造部材が並ぶ第1方向に間隔をあけて複数配列されるとともに、前記第1方向に直交する第2方向に間隔をあけて複数配列され、前記仮設部材における前記構造部材と接触する面には、有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれか一方を用いて形成された被膜層が設けられており、前記構造部材から前記仮設部材を外す仮設部材撤去工程を有し、前記仮設部材撤去工程では、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第1ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第2ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の一方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の他方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、複数設けられた前記仮設部材ボルトのうちの前記第1方向の他方側の端部位置に配置され、かつ前記第2方向の一方側の端部位置に配置された1本の前記仮設部材ボルトを緩めて除荷する第3ボルト除荷工程と、を有し、前記第1ボルト除荷工程、前記第2ボルト除荷工程、前記第4ボルト除荷工程および前記第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行う。
【0010】
本発明では、互いに直交する2つの方向に配列された仮設部材ボルトを、第1ボルト除荷工程、第2ボルト除荷工程、第3ボルト除荷工程および第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行って1本ずつ緩めて除荷している。これにより、緩められた仮設部材ボルトの次に緩められる仮設部材ボルトは、2つの方向の少なくとも1つの方向に離れた位置にある仮設部材ボルトとなるため、隣接する仮設部材ボルトを連続して緩める場合と比べて、仮設部材の引張軸力を緩やかに開放できる。その結果、構造部材と仮設部材とを徐々に滑らせることができ、構造部材と仮設部材との急激な滑りを抑制でき、衝撃音の発生を抑制できる。
仮設部材における構造部材と接触する面に有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層が設けられている場合には、軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めた時に仮設部材と構造部材とが滑る際に生じる衝撃音の発生を抑制できる。仮設部材における構造部材と接触する面に軟金属によって形成された被膜層が設けられている場合には、滑りが発生する際に軟金属によって形成された被膜層のせん断降伏挙動が卓越する。このため、明瞭な滑りが発生せずに、滑り変位が緩やかに進行し、衝撃音の発生を抑制できる。
【0011】
また、本発明に係る仮設部材の撤去方法では、遠隔操作可能な電動トルクレンチを用いて前記ボルトを緩めてもよい。
【0012】
このような構成とすることにより、ボルトから離れた位置からボルトを緩めて除荷することができる。このため、滑りによってボルトがボルト孔の内周面と接してせん断破壊し飛散した場合でも、飛散したボルトが作業員に接触することを防止できる。
【0013】
また、本発明に係る仮設部材の撤去方法では、前記ボルトは、ハイテンションボルトであってもよい。
【0014】
本発明では、スプライスプレートが構造部材および仮設部材それぞれとハイテンションボルトで高強度に接合されている場合であっても、軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去するためにボルトを緩めた際の衝撃音の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、引張軸力を負担する仮設部材を構造部材から撤去する際に軸力を緩やかに開放できて、衝撃音の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の構造部材と仮設部材との接合部を厚さ方向から見た図である。
【
図2】構造部材と仮設部材との接合部を
図1の矢印Aの方向(高さ方向の一方側)から見た図である。
【
図3】構造部材と仮設部材との接合部を
図1の矢印Bの方向(高さ方向の他方側)から見た図である。
【
図5】第2実施形態の構造部材と仮設部材との接合部を厚さ方向から見た図である。
【
図6】摩擦面がブラスト処理されたスプライスプレートを用いて構造部材に接合された仮設部材を撤去する際の荷重変位および音圧レベルの測定結果を示すグラフである。
【
図7】摩擦面に有機ジンクリッチペイントによって被膜層が形成されたスプライスプレートを用いて構造部材に接合された仮設部材を撤去する際の荷重変位および音圧レベルの測定結果を示すグラフである。
【
図8】摩擦面にアルミニウムの溶射によって被膜層が形成されたスプライスプレートを用いて構造部材に接合された仮設部材を撤去する際の荷重変位および音圧レベルの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態による仮設部材の撤去方法について、
図1から
図8に基づいて説明する。
第1実施形態による仮設部材の撤去方法は、
図1から
図3に示すように、構造物1の構造部材2に接合された仮設部材3を撤去する方法である。仮設部材3は、構造物の構築や改修などを行う際に構造物1を安定した構造にするために仮設される。仮設部材3は、引張軸力を負担する。仮設部材3は、構造物の構築や改修などが完了したら構造部材2から取り外されて撤去される。構造部材2および仮設部材3は、いずれも鋼製である。構造部材2および仮設部材3は、いずれも同じ断面形状のH形鋼である。以下では、構造部材2および仮設部材3のH形鋼が延びる方向を長さ方向、一対のフランジが対向する方向を高さ方向、長さ方向および高さ方向に直交する方向を幅方向と表記する。図面では、長さ方向を矢印Lで示し、高さ方向を矢印Hで示し、幅方向を矢印Bで示す。長さ方向は、特許請求の範囲に記載の「第1方向」に相当する。高さ方向は、特許請求の範囲に記載の「第2方向」に相当する。幅方向は、特許請求の範囲に記載の「第3方向」に相当する。
【0018】
接合されている構造部材2と仮設部材3とは、同一線上に配列され、互いの長さ方向の端部どうしを突き合わせた状態に配置されている。長さ方向の一方側に仮設部材3が設けられ、長さ方向の他方側に構造部材2が設けられている。
構造部材2のウェブ22と、仮設部材3のウェブ32とが、スプライスプレート4およびハイテンションボルト5によって接合されている。構造部材2の一対のフランジのうちの一方の第1フランジ23と、仮設部材3一対のフランジのうちの一方のフランジ33とが、スプライスプレート4およびハイテンションボルト5によって接合されている。構造部材2の他方のフランジの第2フランジ24と、仮設部材3の他方のフランジの第2フランジ34とが、スプライスプレート4およびハイテンションボルト5によって接合されている。
【0019】
構造部材2の第1フランジ23と仮設部材3の第1フランジ33とは、ウェブ22,32の両側、すなわち幅方向の両側それぞれがスプライスプレート4およびハイテンションボルト5によって接合されている。構造部材2の第2フランジ24と仮設部材3の第2フランジ34とは、ウェブ22,32の両側、すなわち幅方向の両側それぞれがスプライスプレート4およびハイテンションボルト5によって接合されている。
【0020】
以下では、
図2に示すように、構造部材2の第1フランジ23と仮設部材3の第1フランジ33とを接合するスプライスプレート4で、幅方向の一方側(
図2の上下方向の下側)に設けられるスプライスプレート4を第1スプライスプレート41と表記し、幅方向の他方側(
図2の上下方向の上側)に設けられるスプライスプレート4を第2スプライスプレート42と表記することがある。
図3に示すように、構造部材2の第2フランジ24と仮設部材3の第2フランジ34とを接合するスプライスプレート4で、幅方向の一方側(
図3の上下方向の上側)に設けられるスプライスプレート4を第3スプライスプレート43と表記し、幅方向の他方側(
図3の上下方向の下側)に設けられるスプライスプレート4を第4スプライスプレート44と表記することがある。
【0021】
スプライスプレート4は、鋼板である。スプライスプレート4は、構造部材2および仮設部材3と重なり、構造部材2および仮設部材3を挟むように設けられている。スプライスプレート4は、一方の面が構造部材2および仮設部材3それぞれと接触している。スプライスプレート4における構造部材2および仮設部材3それぞれと接触する面を摩擦面45と表記する。スプライスプレート4の摩擦面45には、被膜層6が形成されている。被膜層6は、有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれかによって形成されている。
【0022】
有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層6は、スプライスプレート4の摩擦面45に有機ジンクリッチペイントを塗布することによって形成されている。被膜層6は、例えば、スプライスプレート4の摩擦面45にスプレータイプの有機ジンクを吹き付けて形成されている。一般的には、有機ジンクリッチペイントは、防食処理として鋼材に塗布される。有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層6は、鋼材どうしの滑りにより発生する衝撃音を吸収することが可能である。有機ジンクリッチペイントによる被膜層6の厚さは、例えば、80μm以上とし、より望ましくは80μm以上120μm以下とする。本実施形態では、スプライスプレート4における構造部材2および仮設部材3それぞれと接触する側の面の全面に被膜層6が形成されている。
【0023】
被膜層6を形成する軟金属には、アルミニウム・マグネシウム合金、亜鉛・アルミニウム合金、亜鉛・アルミニウム擬合金等を採用することができる。上記のような軟金属によって形成された被膜層6は、スプライスプレート4の摩擦面45に軟金属を溶射することによって形成されている。軟金属によって形成された被膜層6は、滑りが発生する際にせん断降伏挙動が卓越する。このため、明瞭な滑りが発生せずに、滑り変位が緩やかに進行し、衝撃音の発生を抑制できる。軟金属による被膜層6の厚さは、例えば、200μm以上が望ましい。
なお、被膜層6は、少なくともスプライスプレート4における仮設部材3と接触する領域に形成されていればよい。また、被膜層6は、スプライスプレート4における仮設部材3および構造部材2と接触する領域のみに形成されていてもよい。
【0024】
図1に示すように、構造部材2のウェブ22と仮設部材3のウェブ32とを接合するスプライスプレート4は、6本のハイテンションボルト5によって構造部材2に接合され、6本のハイテンションボルト5によって仮設部材3に接合されている。構造部材2のウェブ22とスプライスプレート4とを接合する6本のハイテンションボルト5、および仮設部材3のウェブ32とスプライスプレート4とを接合する6本のハイテンションボルト5は、いずれも高さ方向に3つずつ、長さ方向に2つずつ配列されている。構造部材2のウェブ22とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5は、特許請求の範囲の「構造部材ボルト」に相当する。仮設部材3のウェブ32とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5は、特許請求の範囲の「仮設部材ボルト」に相当する。
【0025】
仮設部材3のウェブ32とスプライスプレート4とを接合する6本のハイテンションボルト5のうち構造部材2と離れる側の3本を高さ方向の一方側から他方側に向かって、第1-第3ハイテンションボルト501-503と表記し、構造部材2側の3本を高さ方向の一方側から他方側に向かって、第4-第6ハイテンションボルト504-506と表記する。
図1では、上下方向の下側が上記の「高さ方向の一方側」に相当し、上下方向の上側が上記の「高さ方向の他方側」に相当する。
【0026】
図2から
図4に示すように、第1-第4スプライスプレート41-44は、それぞれ5本のハイテンションボルト5によって構造部材2のフランジ23,24に接合され、5本のハイテンションボルト5によって仮設部材3のフランジ33,34に接合されている。5本のハイテンションボルト5は、フランジ23,24,33,34の幅方向の外縁側に長さ方向に3つずつ、フランジ23,23,33,34の幅方向の中央側、すなわちウェブ22,32側に長さ方向に2つずつ配置されている。
構造部材2のフランジ23,24とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5は、特許請求の範囲の「構造部材ボルト」に相当する。仮設部材3のフランジ33,34とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5は、特許請求の範囲の「仮設部材ボルト」に相当する。
【0027】
仮設部材3の第1フランジ33と第1スプライスプレート41とを接合する5本のハイテンションボルト5のうち、幅方向の外縁側の3本を構造部材2と離れる側から近づく側に向かって第1-第3ハイテンションボルト511-513と表記し、幅方向の中央側の2本を構造部材2と離れる側から近づく側に向かって第4-第5ハイテンションボルト514-515と表記する。第4ハイテンションボルト514は、第1ハイテンションボルト511よりも構造部材2側で第2ハイテンションボルト512よりも構造部材2と離れる側に配置されている。
【0028】
仮設部材3の第1フランジ33と第2スプライスプレート42とを接合する5本のハイテンションボルト5を、第1-第5ハイテンションボルト521-525と表記する。第1-第5ハイテンションボルト521-525は、仮設部材3の第1フランジ33と第1スプライスプレート41とを接合する第1-第5ハイテンションボルト511-515と幅方向に対称に配置されている。
【0029】
仮設部材3の第2フランジ34と第3スプライスプレート43とを接合する5本のハイテンションボルト5を、第1-第5ハイテンションボルト531-535と表記する。第1-第5ハイテンションボルト531-535は、仮設部材3の一方の第1フランジ33と第1スプライスプレート41とを接合する第1-第5ハイテンションボルト511-515と高さ方向に対称に配置されている。
【0030】
仮設部材3の第2フランジ34と第4スプライスプレート44とを接合する5本のハイテンションボルト5を、第1-第5ハイテンションボルト541-545と表記する。第1-第5ハイテンションボルト541-545は、仮設部材3の第2フランジ34と第3スプライスプレート43とを接合する第1-第5ハイテンションボルト531-535と幅方向に対称に配置されている。
【0031】
構造部材2から仮設部材3を撤去する方法について説明する。
まず、構造部材2に接合されているスプライスプレート4から仮設部材3を外す仮設部材撤去工程を行う。
仮設部材撤去工程では、まず、仮設部材3のフランジ33,34とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5を一本ずつ緩めて除荷するフランジボルト除荷工程を行う。フランジボルト除荷工程の後に、仮設部材3のウェブ32とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5を一本ずつ緩めて除去するウェブボルト除荷工程を行う。フランジボルト除荷工程およびウェブボルト除荷工程を行った後に、仮設部材3を構造部材2から撤去する。ハイテンションボルト5を緩める際には、遠隔操作可能な電動トルクレンチを使用する。
【0032】
フランジボルト除荷工程では、ハイテンションボルト5を緩める順番は、以下の順番となる。
図1から
図4では、フランジボルト除荷工程においてハイテンションボルト5を緩める順番をハイテンションボルト5の符号の後に記載した円の中に示している。
1番目から4番目は、仮設部材3の第1フランジ33と第1スプライスプレート41とを接合する第1ハイテンションボルト511、仮設部材3の第2フランジ34と第4スプライスプレート44とを接合する第1ハイテンションボルト541、仮設部材3の第1フランジ33と第2スプライスプレート42とを接合する第1ハイテンションボルト521、仮設部材3の第2フランジ34と第3スプライスプレート43とを接合する第1ハイテンションボルト531である。
【0033】
仮設部材3の第1フランジ33と第1スプライスプレート41とを接合する第1ハイテンションボルト511は、仮設部材3とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5のうちの高さ方向の一方側の端部位置、かつ幅方向の一方側の端部位置に配置されている。仮設部材3の第2フランジ34と第4スプライスプレート44とを接合する第1ハイテンションボルト541は、仮設部材3とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5のうちの高さ方向の他方側の端部位置、かつ幅方向の他方側の端部位置に配置されている。仮設部材3の第1フランジ33と第2スプライスプレート42とを接合する第1ハイテンションボルト521は、仮設部材3とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5のうちの高さ方向の一方側の端部位置、かつ幅方向の他方側の端部位置に配置されている。仮設部材3の第2フランジ34と第3スプライスプレート43とを接合する第1ハイテンションボルト531は、仮設部材3とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5のうちの高さ方向の他方側の端部位置、かつ幅方向の一方側の端部位置に配置されている。
【0034】
続いて、仮設部材3の第1フランジ33と第1スプライスプレート41とを接合するハイテンションボルト5、仮設部材3の第2フランジ34と第4スプライスプレート44とを接合するハイテンションボルト5、仮設部材3の第1フランジ33と第2スプライスプレート42とを接合するハイテンションボルト5、仮設部材3の第2フランジ34と第3スプライスプレート43とを接合するハイテンションボルト5の順に1本ずつハイテンションボルト5を緩め、この作業を繰り返す。
【0035】
仮設部材3の第1フランジ33と第1スプライスプレート41とを接合するハイテンションボルト5を除去して緩める工程は、特許請求の範囲に記載の「第1ボルト除荷工程」に相当する。仮設部材3の第2フランジ34と第4スプライスプレート44とを接合するハイテンションボルト5を除去して緩める工程は、特許請求の範囲に記載の「第2ボルト除荷工程」に相当する。仮設部材3の第2フランジ34と第3スプライスプレート43とを接合するハイテンションボルト5の順に1本ずつハイテンションボルト5を除去して緩める工程は、特許請求の範囲に記載の「第3ボルト除荷工程」に相当する。仮設部材3の第1フランジ33と第2スプライスプレート42とを接合するハイテンションボルト5を除去して緩める工程は、特許請求の範囲に記載の「第4ボルト除荷工程」に相当する。
【0036】
フランジボルト除荷工程では、除荷されておらず仮設部材3とスプライスプレート4とを接合しているハイテンションボルト5のうちの長さ方向の一方側の最端位置に配置されている4本のハイテンションボルト5を1本ずつ緩めて除荷した後に、長さ方向の他方側の最端位置に配置されている4本のハイテンションボルト5を1本ずつ緩めて除荷する。除荷されておらず仮設部材3とスプライスプレート4とを接合しているハイテンションボルト5のうちの長さ方向の一方側の最端位置に配置されている4本のハイテンションボルト5と、長さ方向の他方側の最端位置に配置されている4本のハイテンションボルト5とを交互に緩めて除荷する。
【0037】
各フランジ33,34とスプライスプレート41-44とを接合するハイテンションボルト5を緩める順番は、第1ハイテンションボルト511,541,531,521、第3ハイテンションボルト513,543,533,523、第2ハイテンションボルト512,542,532,522、第4ハイテンションボルト514,544,534,524、第5ハイテンションボルト515,545,535,525での順番である。
【0038】
フランジボルト除荷工程が完了したら、ウェブボルト除荷工程を行う。
図1に示すように、ウェブボルト除荷工程では、第1ハイテンションボルト501、第6ハイテンションボルト506、第4ハイテンションボルト504、第3ハイテンションボルト503、第2ハイテンションボルト502、第5ハイテンションボルト505の順に1本ずつハイテンションボルト5を緩めて除去する。
図1では、ウェブボルト除荷工程においてハイテンションボルト5を緩める順番をハイテンションボルト5の符号の後に記載した円の中に示している。
【0039】
第1ハイテンションボルト501は、仮設部材3とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5のうちの長さ方向の一方側の端部位置、かつ高さ方向の一方側の端部位置に配置されている。第6ハイテンションボルト506は、仮設部材3とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5のうちの長さ方向の他方側の端部位置、かつ高さ方向の他方側の端部位置に配置されている。第4ハイテンションボルト504は、仮設部材3とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5のうちの長さ方向の一方側の端部位置、かつ高さ方向の他方側の端部位置に配置されている。第3ハイテンションボルト503は、仮設部材3とスプライスプレート4とを接合するハイテンションボルト5のうちの長さ方向の他方側の端部位置、かつ高さ方向の一方側の端部位置に配置されている。
【0040】
ウェブ32とスプライスプレート4とを接合する第1ハイテンションボルト501を緩めて除去する工程は、特許請求の範囲の「第1ボルト除荷工程」に相当する。ウェブ32とスプライスプレート4とを接合する第6ハイテンションボルト506を緩めて除去する工程は、特許請求の範囲の「第2ボルト除荷工程」に相当する。ウェブ32とスプライスプレート4とを接合する第4ハイテンションボルト504、を緩める工程は、特許請求の範囲の「第3ボルト除荷工程」に相当する。ウェブ32とスプライスプレート4とを接合する第3ハイテンションボルト503、を緩める工程は、特許請求の範囲の「第4ボルト除荷工程」に相当する。
【0041】
仮設部材3とスプライスプレート4とを接合する全てのハイテンションボルト5の許容せん断力の合計は、仮設部材3が負担する引張軸力よりも大きく設定されている、ハイテンションボルト5が1本ずつ緩めて除荷されるたびに、ハイテンションボルト5の許容せん断力の合計がハイテンションボルト5の1本当たりの許容せん断力の値ずつ小さくなる。ハイテンションボルト5の許容せん断力の合計が、仮設部材3が負担する引張軸力を下回る際に、滑りが生じると想定されている。このため、何番目のハイテンションボルト5を緩めて除荷した際に滑りが生じるか明確にできる。ハイテンションボルト5の1本当たりの許容せん断力は、「摩擦係数×導入軸力×接合面数」によって算定できる。ハイテンションボルト5の1本当たりの許容せん断力は、使用するハイテンションボルトの径によって求まる。
例えば、M22のハイテンションボルト5を上記のように26本使用している場合、13本目のハイテンションボルト5を緩めて除荷した際に滑りが生じることがわかる。
【0042】
仮設部材撤去工程が完了したら、スプライスプレート4を構造部材2から外すスプライスプレート撤去工程を行う。
【0043】
次に、本実施形態による仮設部材の撤去方法の作用・効果について説明する。
仮設部材3のフランジ23,24とスプライスプレート4とを接合する複数のハイテンションボルト5は、長さ方向から見て、高さ方向および幅方向に配列されている。本実施形態による仮設部材の撤去方法では、仮設部材3のフランジ23,24とスプライスプレート4とを接合する複数のハイテンションボルト5を、第1ボルト除荷工程、第2ボルト除荷工程、第3ボルト除荷工程および第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返いながら1本ずつ緩めて除荷している。
仮設部材3のウェブ22とスプライスプレート4とを接合する複数のハイテンションボルト5は、長さ方向および高さ方向に配列されている。本実施形態による仮設部材の撤去方法では、仮設部材3のウェブ22とスプライスプレート4とを接合する複数のハイテンションボルト5を、第1ボルト除荷工程、第2ボルト除荷工程、第3ボルト除荷工程および第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返いながら1本ずつ緩めて除荷している。
これにより、緩められたハイテンションボルト5の次に緩められるハイテンションボルト5は、2つの方向の少なくとも1つの方向に離れた位置にあるハイテンションボルト5となるため、隣接するハイテンションボルト5を連続して緩める場合と比べて、仮設部材3の引張軸力を緩やかに開放できる。その結果、構造部材2と仮設部材3とを徐々に滑らせることができ、構造部材2と仮設部材3との急激な滑りを抑制でき、衝撃音の発生を抑制できる。
【0044】
スプライスプレート4における構造部材2と接触する面および仮設部材3と接触する面に有機ジンクリッチペイントを用いて形成された被膜層6が設けられている。これにより、引張軸力を負担する仮設部材3を構造部材2から撤去するためにハイテンションボルト5を緩めた時にスプライスプレート4と構造部材2とが滑る際に生じる衝撃音、およびスプライスプレート4と仮設部材3とが滑る際に生じる衝撃音の発生を抑制できる。被膜層6を形成する際の有機ジンクリッチペイントの付塗は、現場で容易に行うことができるため、仮設部材3を構造部材2に接合する際に、有機ジンクリッチペイントによる被膜層6の形成を採用しやすい。
スプライスプレート4における構造部材2と接触する面および仮設部材3と接触する面に軟金属によって形成された被膜層6が設けられている。これにより、滑りが発生する際に軟金属による被膜層6のせん断降伏挙動が卓越する。このため、明瞭な滑りが発生せずに、滑り変位が緩やかに進行し、衝撃音の発生を抑制できる。
【0045】
また、第1実施形態による仮設部材の撤去方法では、複数のハイテンションボルト5の許容せん断力の合計は、仮設部材3が負担する引張軸力よりも大きく設定され、ハイテンションボルト5を1本ずつ緩めて除荷した際に、何番目のハイテンションボルト5を緩めて除荷すると緩められていないハイテンションボルト5の許容せん断力の合計が引張軸力を下回るかを算定している。
このような構成とすることにより、どのハイテンションボルト5を緩めて除荷した場合に比較的急激な滑りが生じるかを明確にできる。
【0046】
また、第1実施形態による仮設部材の撤去方法では、遠隔操作可能な電動トルクレンチを用いてハイテンションボルト5を緩めている。このような構成とすることにより、ハイテンションボルト5から離れた位置からハイテンションボルト5を緩めて除荷することができる。このため、滑りによってハイテンションボルト5がボルト孔の内周面と接してせん断破壊し飛散した場合でも、飛散したハイテンションボルト5が作業員に接触することを防止できる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、説明する。上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
図5に示すように、第2実施形態による仮設部材3Bは、断面形状がC字形状の溝形鋼である。仮設部材3Bと構造部材2Bとは、スプライスプレートを介さずボルト5Bで接合されている。仮設部材3Bにおける構造部材2Bと接触する面には、第1実施形態におけるスプライスプレート4の摩擦面45に設けられている被膜層6と同様の有機ジンクリッチペイントおよび軟金属のいずれかによって形成された被膜層(不図示)が設けられている。ボルト5Bが特許請求の範囲の「仮設部材ボルト」に相当する。
【0048】
仮設部材3Bと構造部材2Bを接合するボルト5Bは、仮設部材3Bの長さ方向および幅方向に複数配列されている。仮設部材3Bと構造部材2Bを接合するボルト5Bは、高さ方向に3つずつ、長さ方向に6つずつ配列されている。
【0049】
第2実施形態による仮設部材の撤去方法では、仮設部材3Bを構造部材2Bから撤去する仮設部材撤去工程を行う。仮設部材撤去工程では、仮設部材3Bと構造部材2Bを接合するボルト5Bを一本ずつ緩めて除荷する。仮設部材撤去工程では、下記の第1ボルト除荷工程、第2ボルト除荷工程、第3ボルト除荷工程および第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返し行う。
第1ボルト除荷工程は、複数設けられたボルト5Bのうちの長さ方向の一方側の端部位置に配置され、かつ高さ方向の一方側の端部位置に配置された1本を緩めて除荷する。第1ボルト除荷工程は、複数設けられたボルト5Bのうちの長さ方向の他方側の端部位置に配置され、かつ高さ方向の他方側の端部位置に配置された1本を緩めて除荷する。第1ボルト除荷工程は、複数設けられたボルト5Bのうちの長さ方向の他方側の端部位置に配置され、かつ高さ方向の一方側の端部位置に配置された1本を緩めて除荷する。第1ボルト除荷工程は、複数設けられたボルト5Bのうちの長さ方向の他方側の端部位置に配置され、かつ高さ方向の一方側の端部位置に配置された1本を緩めて除荷する。
図5には、ボルト5Bを緩めて除荷する順番を1から18の数字で示している。
【0050】
第2実施形態による仮設部材の撤去方法では、仮設部材3Bと構造部材2Bを接合する複数のボルト5Bを、第1ボルト除荷工程、第2ボルト除荷工程、第3ボルト除荷工程および第4ボルト除荷工程をこの順に繰り返いながら1本ずつ緩めて除荷している。
これにより、緩められたボルト5Bの次に緩められるボルト5Bは、2つの方向の少なくとも1つの方向に離れた位置にあるボルト5Bとなるため、隣接するボルト5Bを連続して緩める場合と比べて、仮設部材3の引張軸力を緩やかに開放できる。その結果、構造部材2Bと仮設部材3Bとを徐々に滑らせることができ、構造部材2Bと仮設部材3Bとの急激な滑りを抑制でき、衝撃音の発生を抑制できる。
【0051】
第1実施形態による仮設部材の撤去方法の効果を検証する実大実験を実施した。試験体は、
図1から
図4示す実施形態の構造部材2と仮設部材3との接合体と同様であり、構造部材と仮設部材とがスプライスプレートおよび複数のハイテンションボルトによって接合されている。構造部材および仮設部材には、呼称がH300×300×10×15のH形鋼が使用されている。ハイテンションボルトには、呼称がM22のハイテンションボルトが使用されている。ハイテンションボルトの数および配置は、上記と同様である。
【0052】
試験体は、スプライスプレートの摩擦面に被膜層を設けずにブラスト処理した試験体A、スプライスプレートの摩擦面に有機ジンクリッチペイントで形成した被膜層を設けた試験体B、スプライスプレートの摩擦面にアルミニウムを溶射して形成した被膜層を設けた試験体Cの3種類である。試験体Bおよび試験体Cが上記の実施形態による構造部材と仮設部材3の接合体に相当する。試験体Aは、従来の構造部材と仮設部材3の接合体に相当する。
【0053】
実験では、仮設部材を2000kNで引張り、ハイテンションボルトを上記の第1実施形態による仮設部材の撤去方法と同様の順番に1本ずつ緩めて除荷し、仮設部材とスプライスプレートとが滑った際の音圧を測定した。
図6に試験体Aの時刻歴荷重波形と音圧波形を示す。
図7に試験体Bの時刻歴荷重波形と音圧波形を示す。
図8に試験体Cの時刻歴荷重波形と音圧波形を示す。
図9に各試験体の音圧レベルの測定結果を示す。
図10では、
図9をグラフ化している。
図6から
図10より、ハイテンションボルトを上記の第1実施形態による仮設部材の撤去方法と同様の順番に1本ずつ緩めて除荷することにより、徐々に荷重が除荷できていることが分かる。さらに、有機ジンクリッチペイントで形成した被膜層を設けた試験体Bと、アルミニウムを溶射して形成した被膜層を設けた試験体Cでは、被膜層を設けていない試験体Aと比較し、滑り音が飛躍的に低減できることがわかる。電動トルクレンチの油圧ポンプの音が80dB程度であるため、80dBよりも小さい試験体Bおよび試験体Cの滑り音は、暗騒音に紛れて聞こえない程度である。
【0054】
以上、本発明による仮設部材の撤去方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、ハイテンションボルト5で接合された構造部材2に接合された仮設部材3を撤去する際に仮設部材の撤去方法を採用しているが、ハイテンションボルト5に代わって普通ボルトによって接合された仮設部材3を撤去する際に上記の実施形態による仮設部材の撤去方法を採用してもよい。
【0055】
上記の第1実施形態では、構造部材2および仮設部材3は、いずれもH形鋼であるが、H形鋼以外の鋼材であってもよい。上記の第2実施形態では、仮設部材3Bは、断面形状がC字形状の溝形鋼であるが、溝形鋼以外であってもよい。例えば、仮設部材3は、帯状の鋼板などであってもよい。構造部材2の形状についても限定されない。
【0056】
上記の実施形態では、構造部材2と仮設部材3とは、それぞれの長さ方向の端部どうしがスプライスプレート4を介して接合されているが、それぞれの長さ方向の端部以外が接合されていてもよい。構造部材2および仮設部材3のいずれか一方の長さ方向の端部と、他方の長さ方向の端部以外とが接合されていてもよい。
上記の実施形態では、ハイテンションボルト5を1本ずつ緩めて除荷した際に、何番目の複数のハイテンションボルト5を緩めた際に緩められていないハイテンションボルト5の許容せん断力の合計が引張軸力を下回るかを算定しているが、このような算定を行わなくてもよい。
上記の実施形態では、遠隔操作可能な電動トルクレンチを用いてハイテンションボルト5を緩めているが、複数のハイテンションボルト5を緩める治具は適宜選択されてよい。
【符号の説明】
【0057】
2,2B 構造部材
3,3B 仮設部材
4 スプライスプレート
5 ハイテンションボルト(仮設部材ボルト、構造部材ボルト)
5B ボルト(仮設部材ボルト)
6 被膜層
45 摩擦面