(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141550
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】取付ゴム部材
(51)【国際特許分類】
B60R 13/08 20060101AFI20241003BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241003BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20241003BHJP
F16B 5/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60R13/08
F16F15/02 B
F16F15/04 A
F16B5/06 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053273
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】水川 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】古町 直基
【テーマコード(参考)】
3D023
3J001
3J048
【Fターム(参考)】
3D023BA05
3D023BB29
3D023BD21
3D023BE36
3J001FA02
3J001GC02
3J001HA02
3J001JC03
3J001KB01
3J048AA01
3J048BA03
3J048BA18
3J048EA01
(57)【要約】
【課題】取付用軸部を取付対象部材の装着孔に対して押込みによって挿通させて、取付対象部材へ容易に装着することができる、新規な構造の車両用の取付ゴム部材を提供する。
【解決手段】車両の取付対象部材46の表面に取り付けられる車両用の取付ゴム部材10であって、取付対象部材46への取付面18から取付方向に向かって突出して取付対象部材46の装着孔66に挿通される取付用軸部14を備えており、取付用軸部14は、取付対象部材46の装着孔66の内部に位置せしめられる首部22を備えており、取付用軸部14は、取付対象部材46の装着孔66から裏面への突出部分において外周面上に突出して裏面に係止される係止部32を周方向で複数備えており、首部22には、係止部32の基端側を周方向に延びる溝状凹所30が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の取付対象部材の表面に取り付けられる車両用の取付ゴム部材であって、
前記取付対象部材の前記表面に重ね合わされる取付面から取付方向に向かって突出して該取付対象部材の装着孔に挿通される取付用軸部を備えており、
該取付用軸部は、該取付対象部材の該装着孔の内部に位置せしめられる首部を備えており、
該取付用軸部は、該取付対象部材の該装着孔から裏面側への突出部分において外周面上に突出して該裏面に係止される係止部を周方向で複数備えており、
該首部には、該係止部の基端側を周方向に延びる溝状凹所が形成されている車両用の取付ゴム部材。
【請求項2】
前記溝状凹所が全周にわたって連続して設けられている請求項1に記載の車両用の取付ゴム部材。
【請求項3】
前記取付用軸部は、前記首部の前記溝状凹所を外れた部分が、前記係止部よりも先端側に位置する挿通先端部よりも大径とされている請求項1又は2に記載の車両用の取付ゴム部材。
【請求項4】
前記係止部が設けられた位置での縦断面において、前記装着孔よりも内周へ凹んだ前記溝状凹所の面積が、該係止部の該装着孔よりも外周へ突出する部分の面積の60%以上とされている請求項1又は2に記載の車両用の取付ゴム部材。
【請求項5】
前記溝状凹所の溝幅寸法は、前記係止部の前記取付用軸部の外周面からの突出高さ寸法に対して、60~150%の範囲内に設定されている請求項1又は2に記載の車両用の取付ゴム部材。
【請求項6】
前記取付用軸部の基端側には、該取付用軸部を前記装着孔に挿入するための外力が及ぼされる押込用操作部が、該取付用軸部の軸方向延長上に一体形成されている請求項1又は2に記載の車両用の取付ゴム部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両において取付対象部材の表面に取り付けられて使用されるヒートインシュレータやストッパゴム等の取付ゴム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両では、部材表面に対して別体の取付ゴム部材を取り付けて用いられることが多い。具体的には、例えばパワーユニット等の振動部材やサスペンションアーム等の揺動部材において部材間の相対的な変位量を緩衝的に制限するためのストッパゴムや、エンジンの熱から防振装置等を保護するためのヒートインシュレータなどが用いられている。特開2005-249062号公報(特許文献1)には、かかる取付ゴム部材の一例として、バウンドストッパ(ストッパゴム)が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動車等の車両では、走行時の振動などによる脱落を回避するために取付ゴム部材を取付対象部材へ確実に取り付ける必要があり、また、接着等の面倒な処理も採用し難い。そこで、上記特許文献1に記載されているように、取付対象部材に形成された嵌込孔へ挿通されるゴム突起を取付ゴム部材に一体形成し、当該ゴム突起に設けた傘状の抜け防止部を取付対象部材の裏面における嵌込孔の開口周縁部へ係止させる構造が提案されている。このような係止構造では、取付作業者が取付対象部材の裏面側へ手を回して嵌込孔へ挿通されたゴム突起の先端を裏面側へ引っ張ることで、傘状の抜け防止部を取付対象部材の嵌込孔から裏面へ抜け出させて係止させることができる。
【0005】
ところが、車両の構造上の理由や製造上の理由などから、取付ゴム部材を取付対象部材に対して事前に取り付けることが困難な場合もあり、また、車両では各種部材の取付スペースが限られていることから、特に取付対象部材がユニットや車両本体へ組み付けられた状態では、取付対象部材の裏面側へ手を回して作業することが難しい場合がある。
【0006】
なお、かかるゴム突起を、取付対象部材の嵌込孔に対して表面側から押圧して押し込むことも検討した。しかし、傘状に広がった抜け防止部を表面側から押圧して嵌込孔へ入れ込むことさえ難しく、たとえ嵌込孔へ表面側から抜け防止部を入れ込み得たとしても、抜け防止部が嵌込孔の内周面へ強く押し当たって大きな摩擦抵抗が発生することから、嵌込孔内を移動させて裏面側に抜け防止部を係止させることは極めて困難であった。
【0007】
そのために、自動車等の車両において、特許文献1に記載の如き従来構造のゴム突起による係止構造では、取付ゴム部材を取付対象部材へ取り付けることが困難な場合があったのである。
【0008】
本発明の解決課題は、取付用軸部を取付対象部材の装着孔に対して押し込んで挿通することが可能とされることにより、たとえ取付対象部材の裏面側から取付用軸部を引っ張るような作業を行うことが困難な状況においても、取付対象部材へ容易に装着することができる、新規な構造のゴム部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0010】
第一の態様は、車両の取付対象部材の表面に取り付けられる車両用の取付ゴム部材であって、前記取付対象部材の前記表面に重ね合わされる取付面から取付方向に向かって突出して該取付対象部材の装着孔に挿通される取付用軸部を備えており、該取付用軸部は、該取付対象部材の該装着孔の内部に位置せしめられる首部を備えており、該取付用軸部は、該取付対象部材の該装着孔から裏面側への突出部分において外周面上に突出して該裏面に係止される係止部を周方向で複数備えており、該首部には、該係止部の基端側を周方向に延びる溝状凹所が形成されているものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた車両用の取付ゴム部材によれば、取付用軸部の係止部が装着孔内を通過する際に、溝状凹所へ入り込むような係止部の変形が許容されることによって、係止部の圧縮によるばね定数の増大が抑えられて、取付用軸部を装着孔に挿通する際の抵抗が低減される。それゆえ、例えば、取付用軸部を装着孔に対して押し込んで挿通させる場合であっても、取付用軸部を比較的容易に装着孔に挿通することができて、取付ゴム部材の取付対象部材への取付け作業が容易になる。
【0012】
また、取付用軸部に突設された係止部は、複数がそれぞれ周方向で部分的に設けられていることから、全周にわたって連続している場合よりも挿入基端側の溝状凹所内へ入り込む変形が生じ易く、装着孔への挿通時の抵抗がより低減される。しかも、複数の係止部は、圧縮によるばねの増大が周方向間への膨出変形によっても抑制されることから、挿通時の抵抗がより一層低減される。
【0013】
第二の態様は、第一の態様に記載された車両用の取付ゴム部材において、前記溝状凹所が全周にわたって連続して設けられているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた取付ゴム部材によれば、装着孔の通過時に溝状凹所内へ入り込むように変形した係止部が、溝状凹所内で周方向への変形も許容されることから、挿通時の抵抗がより低減されて、挿通作業が容易になる。
【0015】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された車両用の取付ゴム部材において、前記取付用軸部は、前記首部の前記溝状凹所を外れた部分が、前記係止部よりも先端側に位置する挿通先端部よりも大径とされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた取付ゴム部材によれば、取付用軸部における首部の溝状凹所を外れた部分の外周面と、装着孔の内周面との隙間が小さくされて、取付対象部材に対するゴム部材のがたつき等を防ぐことができる。また、取付用軸部の挿通先端部が首部の溝状凹所を外れた部分よりも小径とされていることにより、挿通先端部を装着孔へ挿入し易く、ゴム部材を取付対象部材に対する組付け位置へ位置決めし易くなる。
【0017】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された車両用の取付ゴム部材において、前記係止部が設けられた位置での縦断面において、前記装着孔よりも内周へ凹んだ前記溝状凹所の面積が、該係止部の該装着孔よりも外周へ突出する部分の面積の60%以上とされているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた取付ゴム部材によれば、係止部が装着孔を通過する際に、係止部の溝状凹所内への入り込みが十分に許容されて、挿通抵抗の低減が有効に図られる。
【0019】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された車両用の取付ゴム部材において、前記溝状凹所の溝幅寸法は、前記係止部の前記取付用軸部の外周面からの突出高さ寸法に対して、60~150%の範囲内に設定されているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた取付ゴム部材によれば、係止部が装着孔を通過する際に、係止部が倒れ込んで溝状凹所内へ入り込むように変形するのを、十分に許容することができる。
【0021】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された車両用の取付ゴム部材において、前記取付用軸部の基端側には、該取付用軸部を前記装着孔に挿入するための外力が及ぼされる押込用操作部が、該取付用軸部の軸方向延長上に一体形成されているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた取付ゴム部材によれば、取付用軸部を装着孔へ押し込むための外力が、押込用操作部から取付用軸部へ効率的に及ぼされて、ゴム部材の傾動等の意図しない変位が生じ難く、ゴム部材を取付対象部材に対して安定して取り付けることが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、取付用軸部を取付対象部材の装着孔に対して押し込んで挿通させて、取付対象部材へ容易に装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのヒートインシュレータの斜視図
【
図2】
図1に示すヒートインシュレータを別角度で示す斜視図
【
図6】
図1に示すヒートインシュレータを備えたエンジンマウントの斜視図
【
図9】
図6に示すエンジンマウントにおけるヒートインシュレータの取付部分を拡大して示す断面図であって、
図10のIX-IX断面に相当する図
【
図11A】
図1に示すヒートインシュレータの
図8に示すマウント本体への組付け工程を説明する要部の断面図であって、取付用軸部の挿通先端部が装着孔へ挿入された状態を示す図
【
図11B】
図1に示すヒートインシュレータの
図8に示すマウント本体への組付け工程を説明する要部の断面図であって、取付用軸部の係止部の案内面が装着孔の開口縁部に当接した状態を示す図
【
図11C】
図1に示すヒートインシュレータの
図8に示すマウント本体への取付け工程を説明する要部の断面図であって、取付用軸部の係止部の先端部分が装着孔へ挿入された状態を示す図
【
図11D】
図1に示すヒートインシュレータの
図8に示すマウント本体への組付け工程を説明する要部の断面図であって、取付用軸部の係止部の基端部分が装着孔へ挿入された状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1~
図3には、本発明に従う構造とされた車両用の取付ゴム部材の第一の実施形態として、自動車における防振装置用のヒートインシュレータ10が示されている。ヒートインシュレータ10は、全体がゴム状弾性体(ゴムと樹脂エラストマとを含む)で形成されており、板状の本体部12と、本体部12から左方へ向けて突出する2つの取付用軸部14,14とを、備えている。以下の説明では、原則として、上下方向とは
図3中の上下方向を、前後方向とは
図3中の左右方向を、左右方向とは
図3中の紙面直交方向を、それぞれ言う。
【0027】
本体部12は、左右方向視において角部が丸められた略角丸四角形とされており、全体が略一定の厚さ寸法の平板状とされている。本体部12は、上部の左側面が略左右直交方向に広がる取付面18とされている。
【0028】
取付用軸部14は、
図4,
図5にも示すように、全体として小径の円形ロッド状とされており、本体部12の取付面18から左方へ突出して基端部を構成する首部22と、先端部を構成する挿通先端部24と、それら首部22と挿通先端部24を相互に連結する中間部26とを、一体で備えている。
【0029】
首部22の基端部分は、後述する第一の取付部材46の竪壁部62に形成された装着孔66と対応する位置決め部28とされている。首部22の先端部分は、外周に向けて開口して全周に亘って連続して延びる溝状凹所30によって、位置決め部28よりも小径とされている。位置決め部28の外径寸法は、後述する装着孔66の内径寸法と略同じであることが望ましく、好適には装着孔66の内径寸法の80~120%の範囲内に設定される。
【0030】
中間部26は、溝状凹所30が設けられた首部22の先端部分と略同じ外径寸法とされた小径の円柱状であって、基端が首部22と連続していると共に、先端が挿通先端部24と連続している。挿通先端部24は、先端側へ向けて小径となる先細形状であることが望ましく、本実施形態では半球状とされており、基端の外径寸法が中間部26の外径寸法と略同じとされている。
【0031】
取付用軸部14の中間部26には、一対の係止部32,32が一体形成されている。係止部32,32は、中間部26から前後方向の両側において外周側へ突出して設けられている。係止部32の突出高さ寸法は、先端(左端)から基端(右端)へ向けて徐々に大きくなっており、基端において最大となっている。係止部32の先端側の端面(左端面)は、基端へ向けて外周へ傾斜する案内面34とされている。係止部32の基端側の端面(右端面)は、略左右直交方向に広がる係止面36とされている。従って、係止部32は、
図5に示す係止部32の縦断面形状が略直角三角形とされている。本実施形態の係止部32は、外周面における案内面34と係止面36との間に、軸方向へストレートに延びる筒状面37が設定されている。
【0032】
係止部32の基端側には、首部22の溝状凹所30が隣接して位置している。
図5に示す係止部32の形成位置での縦断面において、係止部32の最大突出高さ寸法Hは、溝状凹所30の溝幅寸法Wに対して、好適には60~150%の範囲内とされており、より好適には80~120%の範囲内に設定される。また、当該縦断面において、溝状凹所30における位置決め部28の外周面よりも内周へ凹んだ領域の面積S1は、
図5中に二点鎖線で仮想的に示した装着孔66(後述)の内面よりも外周へ突出する係止部32の突出先端部の面積S2に対して、60%以上とされていることが望ましく、好適には60~150%の範囲内、より好適には80~120%の範囲内に設定される。また、好適には、溝状凹所30の面積(S1)は、溝状凹所30の先端側において位置決め部28の外周面よりも外周へ突出する係止部32の面積(S2´)よりも大きく設定される。なお、
図5において、S1,S2の領域を実線で囲んで斜線のハッチングを付して示すと共に、S2´の領域を一点鎖線で囲んで示した。
【0033】
一対の係止部32,32の周方向間における中間部26の外周面は、
図4に示すように、溝状凹所30の底面を先端側へ延長した形状及び径寸法とされている。また、一対の係止部32,32よりも先端側における中間部26の外周面は、
図5に示すように、溝状凹所30の底面を先端側へ延長した形状及び径寸法とされている。従って、中間部26は、一対の係止部32,32を外れた部分が首部22の位置決め部28よりも小径とされている。
【0034】
取付用軸部14における係止部32よりも先端側は、中間部26の一部と挿通先端部24とによって構成されており、首部22における溝状凹所30を外れた部分である位置決め部28よりも小径とされている。換言すれば、首部22の位置決め部28は、取付用軸部14における係止部32よりも先端側に比して大径とされている。
【0035】
本体部12において取付用軸部14の基端側への延長上に位置する部分は、押込用操作部38とされている。押込用操作部38は、本体部12の上端部に設けられている。押込用操作部38は、左右方向に対して直交して広がる入力面40を備えており、入力面40が右側面視において略円形とされている(
図1参照)。入力面40の中心は、取付用軸部14の中心軸の延長上に位置していることが望ましい。本実施形態の入力面40は、取付用軸部14よりも大径とされている。尤も、入力面40は、取付用軸部14に対して同径又は小径であってもよい。本実施形態では、2つの取付用軸部14,14の基端側への軸方向延長上に押込用操作部38がそれぞれ設けられている。
【0036】
なお、押込用操作部38は、取付用軸部14からの押込み反力の伝達態様を考慮すると取付用軸部14の中心軸の延長上で且つ取付用軸部14の断面よりも一回り大きいことが望ましく、且つ、押圧操作性を併せて考慮すると目視困難な取付用軸部14の位置を作業者が精度良く認識できるように大きすぎないことが好ましい。それ故、押込用操作部38は、ヒートインシュレータ10の本体部12の表面側に突出することで目視及び/又は触感で認識可能な形態をもって、取付用軸部14の断面積の100~300%の大きさの押圧用先端面(入力面40)をもって形成されることが望ましい。
【0037】
ヒートインシュレータ10は、
図6~
図8に示すように、エンジンマウント42の構成部品とされている。エンジンマウント42は、マウント本体44にヒートインシュレータ10が取り付けられた構造とされている。マウント本体44は、第一の取付部材46と第二の取付部材48が一対の連結ゴム50,50で相互に連結された構造とされている。
【0038】
第一の取付部材46は、鉄等の金属や繊維補強樹脂などの硬質材料で形成された板状の部材であって、左右方向が前後方向よりも長尺とされている。第一の取付部材46は、左右方向の中間部分が上下方向に対して交差する方向に広がる連結部52とされており、左右方向の両端部分が上方へ向けて延び出す取付部54,54とされている。
【0039】
連結部52は、左右方向の中央部分が略上下直交方向に広がるストッパ構成部56とされており、ストッパ構成部56の左右両外側部分が、ストッパ構成部56よりも上方に位置して、左右外方へ向けて上傾するゴム固着部58,58とされている。ストッパ構成部56の下面にはストッパゴム60が固着されており、第一の取付部材46と第二の取付部材48との上下方向での接近変位量が、ストッパゴム60を介した当接によって制限されるようになっている。
【0040】
取付部54は、連結部52のゴム固着部58から上方へ向けて延び出す竪壁部62が設けられており、竪壁部62の上端には、屈曲して左右外方へ広がる第一の締結部64が設けられている。右側の竪壁部62には、
図9,
図10に示すように、厚さ方向である左右方向に貫通する装着孔66が形成されている。装着孔66は、本実施形態において小径の円形孔であって、前後方向で相互に離れた位置に2つが設けられている。また、各第一の締結部64には、
図6に示すように、上下方向に貫通する2つの第一のボルト孔68,68が前後方向で相互に離れた位置に形成されている。そして、第一の取付部材46は、第一の締結部64が第一のボルト孔68を利用して図示しないパワーユニットにボルト固定される。
【0041】
第二の取付部材48は、第一の取付部材46と同様に金属材料等で形成された板状の部材であって、
図6~
図8に示すように、左右方向が前後方向よりも長尺とされた略平板形状とされている。第二の取付部材48の左右中間部分には、上下方向に貫通する複数の第二のボルト孔74が形成されている。そして、第二の取付部材48は、第二のボルト孔74を利用して図示しない車両ボデーにボルト固定される。
【0042】
そして、第一の取付部材46が第二の取付部材48に対して上方に離隔して対向配置されており、それら第一の取付部材46と第二の取付部材48が一対の連結ゴム50,50によって相互に連結されている。連結ゴム50は、全体として略矩形ブロック状とされて、上下方向に延びており、上端面が第一の取付部材46のゴム固着部58の下面に固着されていると共に、下端面が第二の取付部材48の左右端部の上面に固着されている。
【0043】
ヒートインシュレータ10は、マウント本体44の第一の取付部材46に取り付けられている。即ち、ヒートインシュレータ10は、本体部12の取付面18が第一の取付部材46の右側の竪壁部62の表面である右側面に重ね合わされている。そして、
図9,
図10に示すように、ヒートインシュレータ10の各取付用軸部14が、マウント本体44の第一の取付部材46の竪壁部62に設けられた各装着孔66に挿通されることによって、ヒートインシュレータ10がマウント本体44に取り付けられている。取付用軸部14は、本体部12の取付面18からヒートインシュレータ10の竪壁部62への取付方向である左側へ向けて突出している。本実施形態では、ヒートインシュレータ10の装着対象である取付対象部材が、第一の取付部材46によって構成されている。
【0044】
ヒートインシュレータ10が第一の取付部材46の竪壁部62に取り付けられた状態において、取付用軸部14,14は、装着孔66,66に対して、表側である右側から裏側である左側へ貫通して挿通されており、竪壁部62の左側へ突出している。取付用軸部14の首部22は、ヒートインシュレータ10の竪壁部62への装着状態において、装着孔66の内部に位置している。また、取付用軸部14の係止部32,32は、装着孔66を通過して、竪壁部62よりも左側に位置しており、係止部32,32の係止面36,36が右側の竪壁部62の裏面である左側面に対して当接状態又は隙間を持った対向状態で重ね合わされている。これにより、取付用軸部14の装着孔66からの抜けが、係止部32と竪壁部62の係止によって防止されており、ヒートインシュレータ10の第一の取付部材46からの脱落が防止されている。
【0045】
ヒートインシュレータ10の取付用軸部14,14は、マウント本体44における竪壁部62の装着孔66,66に対して、基端側から先端側へ向けた押し込みによって、表側の開口部から差し入れられて裏側の開口部から突出するようにして挿通される。本実施形態では、各取付用軸部14の基端側への延長上に押込用操作部38がそれぞれ設けられていることから、各押込用操作部38の入力面40に対して面直交方向の押圧力を及ぼすことにより、取付用軸部14,14に押込方向の外力を効率的に作用させて、比較的に小さな入力で取付用軸部14,14を装着孔66,66へ挿通することができる。
【0046】
このような押込みによる取付用軸部14の装着孔66への挿通では、係止部32が装着孔66を通過する際の抵抗力が問題になり易いが、係止部32の基端側に溝状凹所30が設けられており、
図11に示すように、係止部32が溝状凹所30に入り込むような変形を許容されていることから、係止部32が装着孔66を通過する際の抵抗力が低減されている。
【0047】
すなわち、先ず、
図11Aに示すように、取付用軸部14の挿通先端部24が装着孔66に挿入される。挿通先端部24は、装着孔66よりも小径とされていることから、装着孔66に対して容易に挿入することができる。このように挿通先端部24を装着孔66に挿入することによって、取付用軸部14を装着孔66に対して簡易に位置決めして、後述する押込み操作による挿通を容易にすることができる。
【0048】
取付用軸部14を装着孔66に対して挿入していくと、
図11Bに示すように、係止部32,32の先端側に位置する各案内面34が、装着孔66の開口縁部に当接する。係止部32,32が装着孔66に当接するまでは、取付用軸部14と装着孔66との間に隙間があり、簡単に挿入することができる。
【0049】
次に、取付用軸部14を装着孔66に対して更に挿入すると、各係止部32の案内面34に装着孔66への当接反力が作用することから、
図11C,
図11Dに示すように、係止部32,32が基端側へ倒れ込むように変形しながら、装着孔66内へ押し込まれていく。
【0050】
係止部32,32は、装着孔66の内周面に対して弾性によって押し当てられることから、
図11C,
図11Dの状態では、取付用軸部14の装着孔66への挿入に対する抵抗力が作用する。この抵抗力に抗して取付用軸部14を装着孔66へ押し込むための外力は、押込用操作部38の入力面40に及ぼされる。押込用操作部38の入力面40は、取付用軸部14の装着孔66への挿入方向と反対側の延長上に設けられていることから、入力面40に対して挿入方向の外力を及ぼすことで、取付用軸部14を装着孔66へ効率的に押し込むことができる。
【0051】
図11C,
図11Dにおいて、係止部32,32の各係止面36は、外周へ向けて挿入基端側である右側へ傾斜しており、係止部32,32の外周への突出高さが小さくなっている。係止部32,32は、溝状凹所30側へ倒れるように変形することで、溝状凹所30内に入り込んでいる。このように、係止部32,32の基端側に溝状凹所30が隣接して設けられていることにより、係止部32,32の倒れ変形が許容されており、係止部32,32の圧縮による急激なばねの増大によって、取付用軸部14の装着孔66への押込みに対する抵抗力が著しく大きくなるのを防ぐことができる。それゆえ、装着孔66よりも外周まで突出する係止部32,32が設けられた取付用軸部14を、装着孔66に対して比較的に小さな力で押し込んで挿通させることができる。
【0052】
本実施形態の溝状凹所30は、全周に亘って連続する環状に設けられていることから、係止部32,32は、倒れ込んで溝状凹所30内に入り込んだ状態において更に周方向両側への変形を許容される。それゆえ、装着孔66を通過中の係止部32,32が強く圧縮され難く、係止部32,32の過度な圧縮による挿通抵抗の増大がより有利に抑制されている。
【0053】
さらに、係止部32,32が周方向で部分的に設けられており、それら係止部32,32の周方向間が溝状凹所30と同様に装着孔66よりも小径とされていることから、各係止部32は、装着孔66を通過する際に、基端側への変形だけでなく、周方向両側への変形も許容されている。それゆえ、装着孔66の通過中に係止部32,32の圧縮によるばねの増大が一層抑制されて、取付用軸部14の装着孔66への挿通時の抵抗がより一層低減される。
【0054】
次に、取付用軸部14を更に押し込むことにより、係止部32,32が装着孔66を通過する。これにより、装着孔66の内面への当接による係止部32,32の変形が解除されて、係止部32,32の弾性によって形状が復元する。その結果、係止部32,32の突出先端部(外周端部)は、
図10に示すように、装着孔66よりも外周に位置して、竪壁部62と左右方向の投影において重なり合う。これにより、装着孔66から右方への取付用軸部14の抜けが、係止部32,32と竪壁部62との係止によって防止されて、ヒートインシュレータ10が竪壁部62に対して離脱することなく装着状態に保持される。本体部12の取付面18と係止部32の基端面との対向面間の距離は、装着孔66の開口周縁部における竪壁部62の厚さ寸法よりも大きくてもよいし、同じでもよいし、小さくてもよいが、本実施形態では竪壁部62の厚さ寸法よりも大きくされている。また、ヒートインシュレータ10の竪壁部62への装着状態下において、ヒートインシュレータ10の裏面と竪壁部62の表面とが重なり合うようになるが、互いに当接して略密着状態で重なっていてもよいし、隙間をもって重なり合ってもよく、また、スペーサーや二次緩衝材,位置決め補助材などの他の部材を介在させて重なり合っていてもよい。
【0055】
係止部32は、突出先端面に軸方向へストレートに延びる筒状面37が設けられていることにより、竪壁部62に係止される突出先端部分の変形剛性が調節されている。従って、筒状面37の長さを調節することにより、係止部32の装着孔66に対する通過の容易さと、取付用軸部14の装着孔66からの抜け防止性能とのバランスを調節することもできる。
【0056】
なお、ヒートインシュレータ10は、マウント本体44に取り付けられた状態において、本体部12が右側の連結ゴム50の右外側を覆うように配置されている。これにより、ヒートインシュレータ10は、マウント本体44の右側に位置するエンジン等の熱源から発せられる熱が連結ゴム50に伝達されるのを抑制して、連結ゴム50の耐久性の向上等に寄与する。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、取付用軸部14の数は、2つに限定されず、1つだけでもよいし、3つ以上の複数であってもよい。また、取付用軸部14の配置は特に限定されず、本体部12からの延出方向も特に限定されない。
【0058】
係止部は、外周へ向けて突出していれば、突出方向が限定されるものではなく、例えば第一の実施形態における上下方向に突出していてもよい。また、一対の係止部は、相互に反対向きに突出していることが望ましいが、例えば、周方向で120度の異なる向き等、厳密に反対向きではない方向へ突出していてもよい。係止部の数は、複数であればよく、3つ以上であってもよい。複数の係止部は、相互に同じ形状であってもよいし、例えば周方向の長さが異なる等、相互に異なる形状であってもよい。
【0059】
ゴム部材は、全体がゴム状弾性体で形成されていなくてもよく、例えば、金属や樹脂で形成された硬質の補強プレートを本体部12に埋設固着してもよいし、取付用軸部14に対して装着孔66へ押し込む際の形状の安定化を図るために硬質の芯材を埋設固着してもよい。
【0060】
また、本体部12と取付用軸部14とを異なる材料で2色成形することも可能であり、それによって、例えば、本体部12には耐熱性に優れた材料を採用しながら、取付用軸部14には装着孔66への挿通作業性と抜け防止性能とを実現できるゴム硬度を設定する等、各部に要求される相互に異なる性能をそれぞれ高度に実現することも可能となる。
【0061】
溝状凹所30は、必ずしも全周に亘って連続する環状の凹所に限定されず、複数の係止部32,32の基端側において周方向で部分的に設けられていてもよい。
【0062】
本発明に係る車両用の取付ゴム部材は、第一の実施形態に示したヒートインシュレータ10に限定されず、例えば、特開2005-249062号公報に示された緩衝ゴム(バウンドストッパ)や泥水等の降り掛かりを防止するカバーゴム、遮音ゴムカバー等であってもよいし、金属等の別部材を備えた複合ゴムからなる制振ゴム等であってもよい。また、取付ゴム部材は、取付対象部材に対して取付用軸部だけで取り付けられている必要はなく、例えばフック構造などの係止機構を並設したり、補助的に接着や粘着による固着を併せて採用することも可能であり、また、万一の取付用軸部の破断を考慮してヒートインシュレータをエンジンマウントに連結するフェイルセーフ機構を併せて採用することも可能である。
【0063】
取付ゴム部材が取り付けられる取付対象部材は、必ずしもエンジンマウントの構成部材に限定されず、例えば、デフマウント、ボデーマウント、サブフレームマウント、サスペンションブッシュ等の防振装置の構成部材であってもよいし、防振装置以外の車両用の補機類や構造材などの各種構成部材であってもよい。特に、作業者が裏面側へ手を入れることが困難な状況に置かれる取付対象部材に装着される車両用の取付ゴム部材に対して、本発明は有利に適用され得る。また、第一の実施形態に示したマウント本体44の具体的な構造は、あくまでも例示であって、何ら限定されない。具体的には、例えば、マウント本体は、特開2005-249062号公報に示されているような筒型防振装置であってもよいし、特開平6-129479号公報に示されているようなお椀型の防振装置であってもよいし、同公報に示されているような流体封入式防振装置であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 ヒートインシュレータ(ゴム部材 第一の実施形態)
12 本体部
14 取付用軸部
18 取付面
22 首部
24 挿通先端部
26 中間部
28 位置決め部
30 溝状凹所
32 係止部
34 案内面
36 係止面
37 筒状面
38 押込用操作部
40 入力面
42 エンジンマウント
44 マウント本体
46 第一の取付部材(取付対象部材)
48 第二の取付部材
50 連結ゴム
52 連結部
54 取付部
56 ストッパ構成部
58 ゴム固着部
60 ストッパゴム
62 竪壁部
64 第一の締結部
66 装着孔
68 第一のボルト孔
74 第二のボルト孔