(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141555
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】熱交換用二重管
(51)【国際特許分類】
F28D 7/10 20060101AFI20241003BHJP
F28F 1/36 20060101ALI20241003BHJP
F28F 13/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F28D7/10 A
F28F1/36 A
F28F13/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053280
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】ホルヘ ダビッド ゴメス エレラ
(72)【発明者】
【氏名】寺山 尚志
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA17
3L103AA37
(57)【要約】
【課題】内側流路と外側流路をそれぞれ流れる流体の圧力損失を抑えながら、それら流体間での熱交換効率の更なる向上を実現することができる、新規な構造の熱交換用二重管を提供する。
【解決手段】内管12が外管14に内挿されて内管12内の内側流路16と内管12と外管14との間の外側流路46とをそれぞれ流れる流体間で熱交換可能にした熱交換用二重管10であって、管長手方向へ直線状に延びて熱交換部を構成する直管部分において、内管12の管壁20aが周方向で複数の凸状部24が設けられた凹凸断面形状を有していると共に、内管12の管壁20aには、凸状部24が管長手方向へ螺旋状に延びる傾斜状管壁部26と、凸状部24のリード角を傾斜状管壁部26と異ならせた乱流発生管壁部28とが、管長手方向で直列的に形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内管が外管に内挿されて該内管内の内側流路と該内管と該外管との間の外側流路とをそれぞれ流れる熱媒体間で熱交換可能にした熱交換用二重管であって、
管長手方向へ直線状に延びて熱交換部を構成する直管部分において、
前記内管の管壁が周方向で複数の凸状部が設けられた凹凸断面形状を有していると共に、
該内管の該管壁には、該凸状部が管長手方向へ螺旋状に延びる傾斜状管壁部と、該凸状部のリード角を該傾斜状管壁部と異ならせた乱流発生管壁部とが、管長手方向で直列的に形成されている熱交換用二重管。
【請求項2】
前記乱流発生管壁部の管長手方向の長さは、前記傾斜状管壁部の管長手方向の長さより短くされている請求項1に記載の熱交換用二重管。
【請求項3】
前記乱流発生管壁部は、前記凸状部が管長手方向で直線状に延びるストレート状管壁部とされている請求項1又は2に記載の熱交換用二重管。
【請求項4】
前記内管の前記管壁における前記傾斜状管壁部及び前記乱流発生管壁部が、全長に亘って一定の断面形状とされている請求項1又は2に記載の熱交換用二重管。
【請求項5】
前記傾斜状管壁部における前記凸状部が一定のリード角で管長手方向へ螺旋状に延びている請求項1又は2に記載の熱交換用二重管。
【請求項6】
前記乱流発生管壁部に対する管長手方向の両側に前記傾斜状管壁部がそれぞれ設けられている請求項1又は2に記載の熱交換用二重管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の空調装置や冷蔵庫等の熱交換器に用いられる熱交換用二重管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の空調装置(エアーコンディショナ)や車載式冷蔵庫等の熱交換器の配管の一部には、内管が外管に内挿された熱交換用二重管が採用される場合がある。熱交換用二重管は、例えば特許第6823906号公報(特許文献1)に示されているように、内管の内側を流れる熱媒体と、内管と外管の間を流れる熱媒体との間で、熱交換を可能とするものである。このような熱交換用二重管を採用すれば、熱交換用二重管における熱媒体間での熱交換によって、冷凍サイクルにおける熱媒体の冷却/加温の効率化が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、内管内の内側流路と内管と外管との間の外側流路とをそれぞれ流れる熱媒体間での熱交換効率を高めるために、特許文献1では、内管の管壁に周方向で複数の凸部が設けられており、それら凸部が螺旋状に延びた構造が採用されている。これにより、内管の管壁の表面積が、一定の円形断面でストレートに延びる場合よりも大きくなって、熱交換効率の向上が図られる。また、内管の管壁が螺旋形状とされていることで、熱媒体の流動抵抗の増大が抑えられて、圧力損失の低減が図られており、高いポンプ性能等が要求されることもない。
【0005】
しかし、本発明者が特許文献1の如き螺旋状の内管の管壁を備えた熱交換用二重管について更に検討したところ、未だ改良の余地のあることが明らかになった。即ち、特許文献1の構造では、内側流路内における管壁付近を流れる熱媒体が、外側流路を流れる熱媒体との間での熱交換によって十分な温度変化を生じる一方、内側流路内における管壁から離れた中央部分を流れる熱媒体は、外側流路との間での熱交換に十分に寄与しておらず、温度変化が小さいことが分かった。
【0006】
特に、管路が湾曲や屈曲した部分に比して、管長手方向へ直線状に延びる部分では、螺旋状の内管の管壁に近い領域と、内管の管壁から離れた中心に近い領域との間における熱媒体の温度差が大きいことが明らかになった。
【0007】
一方、近年では環境保全等の観点から熱媒体の変更等も検討されていることから、熱交換用二重管全体の熱交換効率の更なる向上が強く求められている。
【0008】
本発明は、かくの如き状況下において前述の如き新たに得られた知見に基づいて為されたものであって、その解決課題は、内側流路と外側流路をそれぞれ流れる熱媒体の圧力損失を抑えながら、それら熱媒体間での熱交換効率の更なる向上を実現することができる、新規な構造の熱交換用二重管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0010】
第一の態様は、
内管が外管に内挿されて該内管内の内側流路と該内管と該外管との間の外側流路とをそれぞれ流れる熱媒体間で熱交換可能にした熱交換用二重管であって、
管長手方向へ 直線状に延びて熱交換部を構成する直管部分において、
前記内管の管壁が周方向で複数の凸状部が設けられた凹凸断面形状を有していると共に、
該内管の該管壁には、該凸状部が管長手方向へ螺旋状に延びる傾斜状管壁部と、該凸状部のリード角を該傾斜状管壁部と異ならせた乱流発生管壁部とが、管長手方向で直列的 に形成されている
ものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた熱交換用二重管によれば、内側流路と外側流路とを隔てる内管の管壁が、周方向で複数の凸状部を備える凹凸断面形状とされて、表面積が大きくされていることから、内側流路と外側流路とをそれぞれ流れる熱媒体間において熱交換効率の向上が図られる。しかも、内管の管壁が所定の凹凸断面形状で管長手方向へ螺旋状に連続して延びていることから、内側流路内と外側流路内とにおいて熱媒体が何れもスムーズに流動して、内管の管壁が凹凸形状とされることによる圧力損失が低減されている。従って、高性能なポンプ等を要することなく、優れた熱交換効率を実現することができる。
【0012】
さらに、内管の管壁には、凸状部のリード角を傾斜状管壁部と異ならせた乱流発生管壁部が設けられており、傾斜状管壁部と乱流発生管壁部が管長手方向で直列的に配されている。これにより、傾斜状管壁部と乱流発生管壁部との接続部分において、内側流路内及び外側流路内で熱媒体の流れに乱れが生じて、各流路内の熱媒体が撹拌される。その結果、熱の授受を行った熱媒体が内管の管壁付近に留まりやすくなることを軽減乃至は解消し得て、内側流路内及び外側流路内において温度分布の均等化が図られる。従って、内側流路及び外側流路における内管の管壁付近を流れる各熱媒体において、熱交換による温度差の減少が抑えられて、熱交換効率の向上が実現される。
【0013】
第二の態様は、第一の態様に記載された熱交換用二重管において、
前記乱流発生管壁部の管長手方向の長さは、前記傾斜状管壁部の管長手方向の長さより短くされている
ものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた熱交換用二重管によれば、管長手方向のより長い領域において傾斜状管壁部による熱媒体のスムーズな流れが実現されることから、圧力損失の低減が図られる。また、乱流発生管壁部は、傾斜状管壁部との接続部分で乱流による熱媒体の撹拌作用を発揮することから、乱流発生管壁部が傾斜状管壁部より短くされていても、熱交換効率の向上は有効に実現される。
【0015】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された熱交換用二重管において、
前記乱流発生管壁部は、前記凸状部が管長手方向で直線状に延びるストレート状管壁部とされている
ものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた熱交換用二重管によれば、乱流発生管壁部がストレート状管壁部とされていることにより、傾斜状管壁部との接続部分における熱媒体の流動方向の変化が大きくなって、乱流の発生による熱交換効率の向上がより効果的に実現され得る。
【0017】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された熱交換用二重管において、
前記内管の前記管壁における前記傾斜状管壁部及び前記乱流発生管壁部が、全長に亘って一定の断面形状とされている
ものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた熱交換用二重管によれば、内管の管壁における断面形状の変化による圧力損失が回避されて、内側流路及び外側流路において熱媒体をより効率的に流動させることができる。
【0019】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された熱交換用二重管において、
前記傾斜状管壁部における前記凸状部が一定のリード角で管長手方向へ螺旋状に延びている
ものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた熱交換用二重管によれば、傾斜状管壁部と対応する位置で内側流路内及び外側流路内での一層スムーズな熱媒体の流動が実現されて、圧力損失の更なる低減が図られる。
【0021】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された熱交換用二重管において、
前記乱流発生管壁部に対する管長手方向の両側に前記傾斜状管壁部がそれぞれ設けられている
ものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた熱交換用二重管によれば、乱流発生管壁部の両端において傾斜状管壁部との接続部分がそれぞれ形成されることから、1つの乱流発生管壁部によって内側流路及び外側流路内の熱媒体が2度撹拌されて、熱媒体間の熱交換効率を少ない乱流発生管壁部の形成数で効率的に高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、内側流路と外側流路をそれぞれ流れる熱媒体の圧力損失を抑えながら、それら熱媒体間での熱交換効率の更なる向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての熱交換用二重管を示す正面図
【
図6】
図1に示す熱交換用二重管を構成する内管の斜視図
【
図8】熱交換用二重管の内側流路における熱媒体の流れのシミュレーション結果を示す図
【
図9】熱交換用二重管の内側流路における熱媒体の温度分布のシミュレーション結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1~
図5には、本発明の第一の実施形態としての熱交換用二重管10が示されている。熱交換用二重管10は、直線状に延びる直管とされており、
図3~
図5に示すように、内管12が外管14に内挿された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、左右方向とは管長手方向である
図1中の左右方向を、前後方向とは
図2中の上下方向を、それぞれ言う。
【0027】
内管12は、左右方向に直線的に延びており、管長手方向に貫通する内側流路16を備えている。内管12の形成材料は、後述する熱媒体間の熱交換効率を高めるために熱伝導率が高いことが望ましく、後述する熱媒体に対する耐食性に優れていることが望ましい。具体的には、例えば、アルミニウム合金、鉄(ステンレス鋼)、銅合金等が、内管12の形成材料として好適に採用され得る。内管12は、後述する外管14と協働して熱交換部を構成する直管部分である中間領域18の管壁20aと、かかる熱交換部の両端において熱媒体の流入部及び流出部を構成する端部領域22,22の管壁20b,20bとによって構成されている。
【0028】
中間領域18の管壁20aは、
図4,
図5に示すように、周方向で3つの凸状部24,24,24を備えた凹凸断面形状を有している。内管12の管壁20は、3つの凸状部24,24,24を周方向で等間隔に備えていることにより、全体として角部が丸められた略三角形とされている。凸状部24は、外管14の内周面よりも曲率半径の小さい円弧状の湾曲断面とされている。周方向で隣り合う凸状部24,24の間は、外管14の内周面よりも曲率半径が大きくされている。
【0029】
内管12の管長手方向の中間領域18における管壁20aは、
図6,
図7にも示すように、傾斜状管壁部26と乱流発生管壁部としてのストレート状管壁部28とが、管長手方向で連続して形成されている。本実施形態では、複数の傾斜状管壁部26と複数のストレート状管壁部28とが、管長手方向で直列的に位置するように交互に連続して設けられている。
【0030】
傾斜状管壁部26は、凸状部24が周方向に傾斜しながら管長手方向に延びる螺旋状とされている。各傾斜状管壁部26の凸状部24は、それぞれ一定のリード角で管長手方向へ螺旋状に延びていることが望ましい。複数の傾斜状管壁部26間において、螺旋状に延びる凸状部24のリード角は、相互に異なっていてもよいが、本実施形態では相互に同じとされている。傾斜状管壁部26における凸状部24のリード角θは、0°<θ<90°の範囲内で設定されている。
【0031】
ストレート状管壁部28は、凸状部24が周方向に傾斜することなく管長手方向に直線状に延びている。ストレート状管壁部28は、リード角が90°とされており、傾斜状管壁部26とはリード角が異なっている。ストレート状管壁部28は、傾斜状管壁部26に比して、管長手方向の長さが短くされている。
【0032】
傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28は、
図4,
図5に示すように、相互に略同じ断面形状とされている。傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28は、何れも、管長手方向の全体に亘って略一定断面形状とされている。従って、内管12は、中間領域18の管壁20aが全長に亘って一定の断面形状とされている。
【0033】
内管12の中間領域18の管壁20aは、両端部が傾斜状管壁部26,26で構成されており、複数のストレート状管壁部28は、何れも、管壁20aの管長手方向の両端を外れた中間に位置している。従って、各ストレート状管壁部28に対する管長手方向の両側には、それぞれ傾斜状管壁部26が位置している。
【0034】
内管12における中間領域18を管長手方向に外れた端部領域22,22の各管壁20bは、それぞれ円筒状管壁部30とされている。円筒状管壁部30は、略一定の円形断面で管長手方向に延びている。円筒状管壁部30は、傾斜状管壁部26及びストレート状管壁部28とは断面形状が異なっている。端部領域22,22の円筒状管壁部30,30は、中間領域18の両端部を構成する傾斜状管壁部26,26と一体で連続して設けられており、中間領域18と端部領域22,22の各内孔が相互に連通して軸方向に貫通する内側流路16を構成している。なお、本実施形態では、直管状に延びる円筒状管壁部30を例示したが、円筒状管壁部30は中間において適宜に屈曲していてもよい。
【0035】
なお、内管12の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ハイドロフォーミングによって所定形状の内管12を容易に得ることができる。即ち、円筒形状の素管を金型のキャビティに挿入した状態で素管の内周面に大きな液圧を加えることにより、液圧によって拡径した素管を金型のキャビティ内面に押し当てて、キャビティ内面の凹凸を素管に転写することで、所定形状の内管12を形成することができる。このように、ハイドロフォーミングによって内管12を形成すれば、複数の傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28とが交互に設けられた複雑な形状の内管12を容易に得ることができる。しかも、内管12を大きな形状自由度で形成することも可能になる。
【0036】
外管14は、左右方向に直線的に延びており、内管12を挿通可能な内径寸法を有している。外管14は、後述する熱媒体に対する耐食性に優れた材料で形成されていることが望ましく、例えばアルミニウム合金、鉄(ステンレス鋼)、銅合金等によって形成されている。外管14は、中間領域18の管壁32aが、略一定の円形断面で直管状に延びる円筒状の中間管壁部34とされている。外管14の管壁32aは、内径寸法が内管12の最大外径寸法と略同じか僅かに大きくされて、内管12に対して外挿可能とされている。
【0037】
外管14の端部領域22,22の各管壁32bは、それぞれ接続管壁部36とされている。接続管壁部36は、中間管壁部34に比して大径の拡径部38を備えており、拡径部38よりも管長手方向の両外側が、中間管壁部34に比して小径の嵌合部40とされている。
【0038】
外管14の拡径部38には、周方向の一部を貫通する接続孔42が形成されており、接続孔42に対して外管14とは別体の接続管路44が挿入されて取り付けられている。接続管路44は、
図3に示すように、一方の端部が外管14の内孔に対して連通されており、外管14に対して直列的に接続されている。本実施形態の接続管路44は、外管14の拡径部38から径方向外方へ延び出した先で屈曲して左右外方へ延伸する形状とされているが、接続管路44の形状(配管経路)は、他部材との干渉や、他方の端部が接続される機器(例えば後述する凝縮器54や膨張弁56)の位置等を考慮して、適宜に設定される。
【0039】
内管12は、外管14に挿通されている。そして、外管14の両端部を構成する接続管壁部36,36の嵌合部40,40が、内管12の円筒状管壁部30,30の外周面に嵌着されることによって、内管12と外管14が相互に位置決めされている。内管12の端部領域22,22の管壁20b,20bを構成する円筒状管壁部30,30は、外管14の両端よりも管長手方向の両外方へ延び出している。なお、嵌合部40は、内管12が外管14に挿通された後で、外管14の両端部に縮径加工を施すことで形成されてもよく、予め外管14に形成されている必要はない。この場合には、例えば、嵌合部40の縮径形成時に、嵌合部40が円筒状管壁部30に嵌着される。なお、外管14の両端部と内管12との間は、後述する熱媒体の漏れを防止するために、接着や蝋付け、或いは、Oリングを介在させる等の手段によって、流体密に封止されている。
【0040】
中間領域18では、内管12の管壁20aが外管14の管壁32aに内挿されることにより、二重管構造とされている。
図4,
図5に示すように、内管12の管壁20aにおける凸状部24,24,24が外管14の管壁32a(中間管壁部34)に近接又は接触していると共に、管壁20aの凸状部24,24,24を外れた部分が曲率の違いによって管壁32aから離隔している。これにより、内管12の管壁20aと外管14の管壁32aとの間には、管長手方向に延びる外側流路46が形成されている。従って、中間領域18には、内管12の内孔で構成された内側流路16と、内側流路16の周囲において内管12と外管14との間に形成された外側流路46とが、内管12の管壁20aに対する内周側と外周側にそれぞれ形成されている。なお、外側流路46は、周方向で連続する1つの流路とされていてもよいし、内管12(凸状部24)の外周面と外管14の内周面とが周方向で部分的に当接することで、実質的に独立した複数の流路とされていてもよい。
【0041】
内側流路16は、
図3に示すように、内管12の円筒状管壁部30,30の内孔を通じて、例えば、熱交換器(冷凍機又はヒートポンプ)の冷凍サイクル48を構成する蒸発器50と圧縮機52に接続されている。また、外側流路46は、内管12の円筒状管壁部30と外管14の拡径部38との径方向間を通じて、接続管路44の内孔に連通されており、接続管路44の両端部が凝縮器54と膨張弁56に接続されている。そして、内側流路16は、膨張弁56で冷却されて蒸発器50を通過した低圧・低温の熱媒体が圧縮機52へ向けて流動し、外側流路46は、圧縮機52及び凝縮器54によって加温された高圧・高温の熱媒体が蒸発器50へ向けて流動する。
【0042】
圧縮機52、凝縮器54、膨張弁56、蒸発器50は、何れも熱交換用二重管10の構成部品ではないが、熱交換用二重管10を備えた冷凍サイクル(熱交換サイクル)48を構成することから、簡単に説明する。
【0043】
圧縮機52は、冷凍サイクル48を流れる熱媒体を圧縮によって加圧・加温する装置である。圧縮機52は、熱交換用二重管10における内管12の下流側に接続されており、内側流路16から流出した熱交換済みの熱媒体が流入して加圧・加温される。
【0044】
凝縮器54は、空調空気を加温する暖房用の熱交換器であって、圧縮機52による加熱によって気相にある熱媒体を、外気との熱交換によって凝縮して液化する装置である。凝縮器54は、圧縮機52の下流側に直接に或いは配管を介して接続されていると共に、外側流路46の上流側に接続されており、凝縮された熱媒体が外側流路46へ流入する。
【0045】
膨張弁56は、凝縮器54から流出した液相の熱媒体を減圧して膨張させることにより、所定の温度まで冷却する装置である。膨張弁56は、熱交換用二重管10における外側流路46の下流側に接続されており、外側流路46から流出した熱交換済みの熱媒体が流入して減圧・冷却される。
【0046】
蒸発器50は、空調空気を冷却する冷房用の熱交換器であって、膨張弁56によって減圧・冷却された液相の熱媒体を蒸発させて、蒸発時の潜熱によって空調空気を冷却する装置である。蒸発器50は、膨張弁56の下流側に設けられて、膨張弁56によって減圧・冷却された熱媒体が流入すると共に、熱交換用二重管10の内側流路16の上流側に設けられて、空調空気の冷却によって加温された熱媒体が内側流路16へ流入する。
【0047】
なお、冷凍サイクル48を循環する熱媒体は、流体(気体又は液体)であって、例えばフロン、二酸化炭素、アンモニア等、空調装置や冷蔵庫(冷凍庫)の冷凍サイクル48で一般的に用いられる各種公知の流体(冷媒)とされる。
【0048】
このような各種装置を備えた冷凍サイクル48において、熱交換用二重管10では、内側流路16を流れる低温の熱媒体と、外側流路46を流れる高温の熱媒体との間で、熱媒体間の温度差に基づく熱の授受(熱交換)が発生する。これにより、熱交換用二重管10の内側流路16を通じて圧縮機52へ流れる熱媒体は、圧縮機52による加圧・加温の前に、外側流路46を流れる熱媒体から受け取る熱によって加温される。また、熱交換用二重管10の外側流路46を通じて膨張弁56へ流れる熱媒体は、膨張弁56による減圧・冷却の前に、内側流路16を流れる熱媒体への放熱によって冷却される。なお、熱媒体間での熱交換効率を高めるためには、内側流路16における熱媒体の流動方向と、外側流路46における熱媒体の流動方向とが、相互に逆向きであることが望ましい。なお、
図3には、内側流路16内での熱媒体の流動方向を実線の矢印で示し、外側流路46内での熱媒体の流動方向を破線の矢印で示した。
【0049】
内側流路16を流れる熱媒体は、傾斜状管壁部26において、外周の熱媒体と内周の熱媒体が撹拌されることなく、略層流として流れている。このように、傾斜状管壁部26では、流動する熱媒体の流れが乱されることなく安定することで、圧力損失が抑えられており、冷凍サイクル48において熱媒体を効率的に流動させることができる。
【0050】
傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28は、管長手方向と直交する横断面の形状が同じとされており、中間領域18の管壁20aは、管長手方向の全体に亘って略一定の断面形状とされている。それゆえ、内側流路16及び外側流路46の断面形状の変化に起因する圧力損失が回避されている。
【0051】
また、本実施形態では、内管12の中間領域18における管壁20aにおいて、傾斜状管壁部26の長さの合計が、ストレート状管壁部28の長さの合計よりも長くされている。これにより、後述するように、傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28との接続部分で乱流が発生しても、内側流路16と外側流路46の広い領域に亘って、熱媒体が安定して流動して、圧力損失が抑えられる。
【0052】
内側流路16を流れる熱媒体は、傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28との接続部分において、リード角の急激な変化によって、流れに乱れが生じる。これにより、傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28との接続部分において、内側流路16の内周を流れる熱媒体と、内側流路16の外周を流れる熱媒体とが撹拌される。その結果、内側流路16内の熱媒体において温度の均一化が図られて、外周を流れる熱媒体だけが熱交換によって高温となって、内周を流れる熱媒体が熱交換に殆ど寄与せずに低温のままとされるのを防ぐことができる。その結果、内側流路16内で管壁20a付近を流れる熱媒体が比較的に低温に維持されて、外側流路46を流れる熱媒体との間で熱交換効率の向上が図られる。
【0053】
外側流路46を流れる熱媒体についても、同様に、傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28との接続部分において、リード角の急激な変化による流れの乱れが生じることから、外側流路46内の熱媒体が撹拌されて、温度の均一化が図られる。その結果、外側流路46の内周部分を流れる熱媒体だけが低温となるのを防ぐことができて、内側流路16内の熱媒体との温度差が大きくされることで、熱交換効率の向上が図られる。なお、熱媒体の温度の均一化が図られるとは、厳密に熱媒体全体の温度が一定になることを意味せず、熱媒体内での温度差が低減されることを言う。
【0054】
上述のように本実施形態では、熱交換部を構成する直管部分において内管12は周方向に形成された複数の凸状部24が管長手方向へ螺旋状に延びる傾斜状管壁部26を備えており、管長手方向の中間部分には凸状部24のリード角を異ならせた乱流発生管壁部28が設けられている。そして、複数の傾斜状管壁部26と複数のストレート状管壁部28とが管長手方向で交互に設けられていることから、傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28の接続部分での乱流が管長手方向の複数箇所で発生する。その結果、内側流路16内の熱媒体及び外側流路46内の熱媒体において、内外周の温度差がより効果的に低減されて、熱交換効率の更なる向上が実現される。
【0055】
各ストレート状管壁部28の管長手方向の両側には、それぞれ傾斜状管壁部26が設けられていることから、各ストレート状管壁部28の両端部においてそれぞれ乱流の発生による熱媒体の撹拌作用が発揮される。その結果、比較的に少ないストレート状管壁部28によって、熱交換効率の向上を有利に実現することができる。特に本実施形態では、内管12において、中間領域18の管壁20aと連続する端部領域22,22の管壁20b,20bが、直管状の円筒状管壁部30,30とされていることから、管壁20aの両端部が傾斜状管壁部26で構成されていれば、傾斜状管壁部26と円筒状管壁部30のリード角の違いによる熱媒体の撹拌作用も期待できる。
【0056】
図8には、内側流路16内における熱媒体の流れのシミュレーション結果が示されている。
図8において上段に示した比較例は、ストレート状管壁部(乱流発生管壁部)がなく、管壁20aの全体に亘って凸状部24が略一定のリード角で螺旋状に延びた傾斜状管壁部26とされている従来構造の熱交換用二重管についてのシミュレーション結果である。
図8において下段に示した実施例は、ストレート状管壁部28を備えた前記第一の実施形態に係る熱交換用二重管10についてのシミュレーション結果である。なお、
図8では、所定時間における熱媒体の流動が、複数の点とその移動軌跡によって表示してあり、特に滞留が懸念される内管12の傾斜状管壁部26における各凸状部24内の熱媒体について観察したものである。
【0057】
図8の比較例において、内管の管壁に近い位置を流れる熱媒体は、当該管壁に沿って螺旋状に流れており、管壁の各凸状部内を螺旋状に流れる熱媒体が内管の中心側へ向けて外周から内周へ流れ込んだり、反対に内周から外周へ流れ込む流れは殆どない。一方、
図8の実施例では、管壁20aに近い位置を流れる熱媒体は、傾斜状管壁部26では管壁20aに沿って各凸状部24内を螺旋状に流れているが、ストレート状管壁部28において流れが乱れており、内管12の中心側へ向けて外周から内周へ流れ込んだり反対に内周から外周へ流れ込む熱媒体の流れが発生している。詳細に見ると、各凸状部24内を螺旋状に流れてきた熱媒体において、傾斜状管壁部26からストレート状管壁部28に至った境界付近で、小さな渦状の流れが複数発生しており、これらの渦状の流れによって乱流状態が促進されることで、各凸状部24内を螺旋状に流れてきた熱媒体と、それら凸状部24の影響を殆ど受けずに内管12の中央部分を直線的に流れてきた熱媒体とが、相互に攪拌されている状況を確認し得た。このように、乱流発生管壁部(ストレート状管壁部28)を備えた本発明に係る熱交換用二重管10では、内側流路16内で熱媒体の撹拌による温度の均等化が生じることが、シミュレーション結果によっても確認されている。
【0058】
なお、
図9には、内側流路内を流れる熱媒体の温度分布のシミュレーション結果を示す。
図9によれば、乱流発生管壁部のない比較例では、内管の管壁に沿って流れる外周の高温熱媒体と、内管の中心領域を流れる内周の低温熱媒体とが、殆ど混じり合うことなく、略分離状態で流れていることが分かる。一方、乱流発生管壁部としてのストレート状管壁部28を設けた実施例では、傾斜状管壁部26で内管12の管壁20aに沿って流れる外周の高温熱媒体と、傾斜状管壁部26で内管12の中心領域を流れる内周の低温熱媒体とにおいて、傾斜状管壁部26とストレート状管壁部28の接続部分で相互に混じり合うような流れの変化が生じていることが、
図9から分かる。即ち、外周の高温熱媒体が内管12の中心側へ向けて内周へ流れ込んだり、反対に内周の低温熱媒体が外周へ流れ込む流れが、ストレート状管壁部28によって発生していることが、
図9の温度分布のシミュレーション結果からも確認されている。
【0059】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、熱交換用二重管は、全体が直線状に延びる直管部分である必要はなく、傾斜状管壁部と乱流発生管壁部との形成部分が直管状であればよい。従って、熱交換用二重管は、傾斜状管壁部と乱流発生管壁部との形成部分を外れた領域において、適宜に屈曲して延びる形状とされ得る。
【0060】
乱流発生管壁部は、傾斜状管壁部とは凸状部のリード角が異なっていればよく、凸状部が直線的に延びるストレート状管壁部に限定されない。例えば、凸状部が傾斜状管壁部における凸状部のリード角よりも大きな又は小さなリード角で螺旋状に延びる部分を、乱流発生管壁部とすることもできる。尤も、圧力損失増大の抑制等の観点からは、乱流発生管壁部における凸状部のリード角は90度に近くされて管中心軸に向かう流れ方向に向けられることが望ましく、また、傾斜状管壁部における凸状部の傾斜方向と同じ傾斜方向とされて反対向きに傾斜しないように設定されることが望ましい。また、圧力損失の増大を抑制する観点等から、傾斜状管壁部と乱流発生管壁部とをつなぐ境界部分において、凸状部のリード角を次第に又は段階的に変化させることで傾斜状管壁部から乱流発生管壁部へ移行させる接続管壁部を設けることも可能である。
【0061】
複数の傾斜状管壁部が設けられている場合には、それら複数の傾斜状管壁部における凸状部のリード角は、相互に同じであってもよいし、相互に異なっていてもよい。また、1つの傾斜状管壁部におけるリード角は、略一定の大きさであることが望ましいが、部分的に又は全体に亘って変化していてもよい。また、複数の傾斜状管壁部は、管長手方向の長さを相互に異ならせることもできる。
【0062】
複数の乱流発生管壁部が設けられている場合には、それら複数の乱流発生管壁部における凸状部のリード角は、相互に同じであってもよいし、相互に異なっていてもよい。従って、複数の乱流発生管壁部における1つ又は幾つかがリード角90°のストレート状管壁部とされると共に、他の乱流発生管壁部がリード角90°未満の螺旋状とされ得る。また、1つの乱流発生管壁部におけるリード角は、略一定の大きさであることが望ましいが、部分的に又は全体に亘って変化していてもよい。また、複数の乱流発生管壁部は、管長手方向の長さを相互に異ならせることもできる。
【0063】
傾斜状管壁部及び乱流発生管壁部の数、管長手方向での長さ、管長手方向での配置等は、何れも特に限定されない。また、傾斜状管壁部及び乱流発生管壁部における凸状部の数、形状、周方向での配置は、何れも特に限定されない。また、傾斜状管壁部及び乱流発生管壁部における凸状部を周方向で外れた部分に、外周へ向けて凹形状となる溝状部を設けることで、内管と外管との間に形成される外側流路の流路断面積をより大きく確保することもできる。乱流発生管壁部の長さは、傾斜状管壁部よりも短いことが望ましいが、傾斜状管壁部の長さ以上とされていてもよい。
【0064】
前記実施形態では、熱交換用二重管10を備える冷凍サイクル48が空調空気の冷却/加温に用いられて自動車用の空調装置を構成する場合について例示したが、本発明に係る熱交換用二重管は、熱交換用であればよく、例えば、車載式冷蔵庫の冷凍サイクル等にも好適に採用され得る。
【符号の説明】
【0065】
10 熱交換用二重管(第一の実施形態)
12 内管
14 外管
16 内側流路
18 中間領域
20a 管壁
20b 管壁
22 端部領域
24 凸状部
26 傾斜状管壁部
28 ストレート状管壁部(乱流発生管壁部)
30 円筒状管壁部
32a 管壁
32b 管壁
34 中間管壁部
36 接続管壁部
38 拡径部
40 嵌合部
42 接続孔
44 接続管路
46 外側流路
48 冷凍サイクル
50 蒸発器
52 圧縮機
54 凝縮器
56 膨張弁