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特開2024-141557電池性能予測装置、電池性能予測システム、電池性能予測方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141557
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電池性能予測装置、電池性能予測システム、電池性能予測方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/50 20060101AFI20241003BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20241003BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20241003BHJP
   G01R 31/378 20190101ALI20241003BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M6/50
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/378
H02J7/00 Y
H02J7/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053283
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 哲
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】山城 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】ヴェロヴェン ニコラ
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H025
【Fターム(参考)】
2G216BA51
2G216BA54
2G216CB05
2G216CB11
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA08
5G503CA11
5G503CB11
5G503DA04
5G503DA07
5G503EA05
5G503GD03
5G503GD06
5H025AA00
5H025BB17
5H025CC21
5H025MM02
5H025MM06
(57)【要約】
【課題】リチウム一次電池の性能を精度よく予測することができる電池性能予測装置、電池性能予測システム、電池性能予測方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】リチウム一次電池の電池性能を予測する電池性能予測装置は、リチウム一次電池における正極および負極の界面に発生する過電圧と、リチウム一次電池の内部抵抗とに基づき、リチウム一次電池の予測電圧を算出する演算部を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム一次電池の電池性能を予測する電池性能予測装置であって、
前記リチウム一次電池における正極および負極の界面に発生する過電圧と、前記リチウム一次電池の内部抵抗とに基づき、前記リチウム一次電池の予測電圧を算出する演算部を備える
電池性能予測装置。
【請求項2】
前記演算部は、
式(1)に基づき算出される電解液のイオン伝導抵抗Rsolを用いて、前記内部抵抗を算出する
請求項1に記載の電池性能予測装置。
【数1】
【請求項3】
前記演算部は、
式(2)に基づき算出される電極材料の直流抵抗Rcolを用いて、前記内部抵抗を算出する
請求項1に記載の電池性能予測装置。
【数2】
【請求項4】
前記演算部は、
式(3)に基づき算出される前記負極に析出するMnによる抵抗RMnを用いて、前記内部抵抗を算出する
請求項1に記載の電池性能予測装置。
【数3】
【請求項5】
前記演算部は、
式(4)、式(5)および式(6)に基づき、前記負極に析出するMnの厚みLMnを算出する
請求項4に記載の電池性能予測装置。
【数4】
【数5】
【数6】
【請求項6】
前記演算部は、
式(7)に基づき、前記内部抵抗Rintを算出する
請求項1に記載の電池性能予測装置。
【数7】
【請求項7】
前記演算部は、
前記正極および前記負極の界面に発生する過電圧を、バトラーフォルマー方程式を用いて算出する
請求項1に記載の電池性能予測装置。
【請求項8】
リチウム一次電池の電池性能を予測する電池性能予測システムであって、
前記リチウム一次電池の放電条件に関する設定情報が入力される入力装置と、
前記設定情報に基づき得られる前記リチウム一次電池における正極および負極の界面に発生する過電圧と、前記リチウム一次電池の内部抵抗とに基づき、前記リチウム一次電池の予測電圧を算出する演算部を有する電池性能予測装置と、
前記リチウム一次電池の性能に関する情報を表示する表示装置と
を備える
電池性能予測システム。
【請求項9】
リチウム一次電池の電池性能を予測する電池性能予測方法であって、
前記リチウム一次電池における正極および負極の界面に発生する過電圧と、前記リチウム一次電池の内部抵抗とに基づき、前記リチウム一次電池の予測電圧を算出する
電池性能予測方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電池性能予測方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池性能予測装置、電池性能予測システム、電池性能予測方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小型の電子機器および警報器等の長期間交換せずに使用することが望まれる機器では、高電圧かつ長寿命であるリチウム一次電池が電源として用いられている。そのため、リチウム一次電池を用いる際には、温度および放電量等の様々な使用環境において、経時劣化による電池性能の低下を精度よく予測できることが重要である。
【0003】
近年では、リチウム一次電池を含む各種電池の性能を予測する種々の手法が提案されている。電池性能の予測は、大別して、経験的モデルを用いた手法と、物理的モデルを用いた手法とに分類される。
【0004】
経験的モデルを用いた手法は、各種の実測データに基づき、それらが共通して従う法則を数式等のモデルとして表し、このモデルを用いて電池性能を予測する手法である。一般には、経験的モデルは、等価回路または方程式等の比較的簡易なモデルで表される。そのため、電池性能を比較的容易に予測することができるが、実測データが十分でない領域では、予測の精度が大きく低下する可能性がある。
【0005】
一方、物理的モデルにおいて、代表的な物理的モデルの一例として、Newmanモデルが挙げられる(例えば、非特許文献1参照)。Newmanモデルは、多孔性電極材料における表面での化学反応、電極内部の固相イオン拡散、ならびに、電解液内部のイオン拡散および電気泳動の効果等を、それぞれ数式で表し、連立して計算することで電池性能を算出する手法である。
【0006】
例えば、Newmanモデルにおいて、電極材料の表面における化学反応には、バトラーフォルマー方程式が用いられている。また、電解液内部のイオン拡散には、拡散方程式が用いられている。このように、Newmanモデルは、電池の電気化学的な反応挙動に則っている。そのため、環境温度および印加電流等の放電条件の影響を広く再現することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Doyle, T. F. Fuller, J. Newman, J. Electrochem. Soc., 140(6), 1526(1993).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、Newmanモデルでは、考慮していない反応現象が起きた場合に、電池の電圧の予測精度が大きく低下してしまうという問題点があった。そのため、予測精度を向上させるためには、電池特性に影響する現象をすべて数式化して取り込む必要があり、実用が非常に困難である。
【0009】
また、経験的モデルおよび物理的モデルのいずれのモデルにおいても、実験を行って実測データを得るのに長期の時間が必要になる。そのため、長期間が経過した際の実測データが少ない。したがって、長期間が経過した際の電池の挙動は、明らかになっていないことが多い。特に、長期にわたる経時変化を予測することは、さらに難度が高く、また、リチウム一次電池等の研究データの少ない電池において、長期の電圧変化を計算する技術が実用化された例は、極めて少ない。
【0010】
本開示は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、リチウム一次電池の性能を精度よく予測することができる電池性能予測装置、電池性能予測システム、電池性能予測方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る電池性能予測装置は、
リチウム一次電池の電池性能を予測する電池性能予測装置であって、
前記リチウム一次電池における正極および負極の界面に発生する過電圧と、前記リチウム一次電池の内部抵抗とに基づき、前記リチウム一次電池の予測電圧を算出する演算部を備える。
【0012】
また、本開示に係る電池性能予測システムは、
リチウム一次電池の電池性能を予測する電池性能予測システムであって、
前記リチウム一次電池の放電条件に関する設定情報が入力される入力装置と、
前記設定情報に基づき得られる前記リチウム一次電池における正極および負極の界面に発生する過電圧と、前記リチウム一次電池の内部抵抗とに基づき、前記リチウム一次電池の予測電圧を算出する演算部を有する電池性能予測装置と、
前記リチウム一次電池の性能に関する情報を表示する表示装置と
を備える。
【0013】
さらに、本開示に係る電池性能予測方法は、
リチウム一次電池の電池性能を予測する電池性能予測方法であって、
前記リチウム一次電池における正極および負極の界面に発生する過電圧と、前記リチウム一次電池の内部抵抗とに基づき、前記リチウム一次電池の予測電圧を算出する。
【0014】
さらにまた、本開示に係るプログラムは、
上記の電池性能予測方法を、コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、リチウム一次電池の性能を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態に係る電池性能予測システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】予測対象となるリチウム一次電池の構成の一例を示す断面図である。
図3】本実施の形態に係る電池性能予測システム1による電池性能予測処理の際の判定基準について説明するための概略図である。
図4】連続放電時における電池性能予測処理の結果について説明するための概略図である。
図5】本実施の形態に係る電池性能予測処理による連続放電時の放電特性の結果の一例を示すグラフである。
図6】内部抵抗を考慮せずに電池性能を予測した場合の、連続放電時の放電特性の結果の一例を示すグラフである。
図7】パルス放電時における電池性能予測処理の結果の第1の例について説明するための概略図である。
図8】パルス放電時における電池性能予測処理の結果の第2の例について説明するための概略図である。
図9】パルス放電時における電池性能予測処理の結果の第3の例について説明するための概略図である。
図10】本実施の形態に係る電池性能予測処理によるパルス放電時の放電特性の結果の一例を示すグラフである。
図11】内部抵抗を考慮せずに電池性能を予測した場合の、パルス放電時の放電特性の結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各図において、同一の符号を付したものは、同一のまたはこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。
【0018】
本実施の形態に係る電池性能予測システムは、入力された各種の電池条件に基づき、リチウム一次電池の性能を予測するものである。
【0019】
[電池性能予測システム1の構成]
図1は、本実施の形態に係る電池性能予測システム1の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、電池性能予測システム1は、電池性能予測装置10、入力装置20および表示装置30を含んで構成されている。
【0020】
入力装置20は、電池性能予測装置10に対する入力操作を受け付け、電池性能予測装置10に対して操作内容を示す操作情報を送信する。入力装置20は、例えば、キーボード、マウス、トラックボール、またはタッチパネル等の操作入力デバイスである。本実施の形態において、入力装置20には、所定のリチウム一次電池の放電条件に関する設定情報が入力される。
【0021】
表示装置30は、電池性能予測装置10が生成した表示情報に基づく表示を行う。表示情報は、電池性能予測装置10で生成される所定の画面を表示装置30に表示させるための情報である。表示装置30は、例えば、液晶ディスプレイ、または有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示デバイスである。本実施の形態において、表示装置30は、例えば、リチウム一次電池の放電曲線等の電池性能に関する情報を表示する。
【0022】
なお、入力装置20がタッチパネルである場合、表示装置30上に入力装置20が重畳されて、1つのタッチパネルが構成されてもよい。
【0023】
電池性能予測装置10は、入力装置20を介して入力された各種の情報に基づき、リチウム一次電池における性能を予測する電池性能予測処理を行う。電池性能予測処理の詳細については、後述する。電池性能予測装置10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等を備えている(いずれも図示せず)。CPUは、ROMから処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムと協働して電池性能予測装置10の各ブロックを動作させる。
【0024】
電池性能予測装置10は、入力情報取得部11、演算部12、表示情報生成部13および記憶部14を備えている。なお、ここでは、電池性能予測装置10が備える構成のうち、電池性能予測処理に関連する機能についての処理部のみについて説明する。
【0025】
入力情報取得部11は、入力装置20に入力された、電池性能予測の対象となるリチウム一次電池の放電条件に関する情報を取得する。例えば、入力情報取得部11は、リチウム一次電池の放電条件に関する設定情報として、リチウム一次電池の放電時間、温度、電流値または電圧値、および負荷の抵抗値等を取得する。
【0026】
演算部12は、入力情報取得部11で取得された放電条件に関する情報に基づき、リチウム一次電池の性能を予測するための各種の情報を演算する。例えば、演算部12は、リチウム一次電池における電圧の予測値である予測電圧等を演算する。
【0027】
表示情報生成部13は、演算部12での演算結果に基づき、表示装置30に表示させるためのリチウム一次電池の性能に関する表示情報を生成する。
【0028】
記憶部14は、電池性能予測装置10で用いられる各種の情報を記憶する。例えば、記憶部14は、演算部12で電池性能を予測する際に用いられる演算式等を予め記憶している。
【0029】
[リチウム一次電池100]
次に、本実施の形態に係る電池性能予測システム1における電池性能予測の対象となるリチウム一次電池100について、概略的に説明する。リチウム一次電池100は、例えばスパイラル型であり、リチウム金属(Li)を負極活物質とし、二酸化マンガン(MnO)を正極活物質とするものである。
【0030】
図2は、予測対象となるリチウム一次電池100の構成の一例を示す断面図である。図2に示すように、リチウム一次電池100は、有底円筒状の電池缶である負極缶101、正極102、負極103、セパレータ104および電解液130を発電要素として含む。負極缶101の缶口は封口体120によって封止される。
【0031】
正極102、負極103およびセパレータ104は、それぞれシート状に形成されており、正極102と負極103とがセパレータ104を介して対向配置されるように積層されてシート状の電極体110を構成している。電極体110は、負極缶101の円筒軸150を巻軸としてスパイラル状に巻回された状態で負極缶101に収納されている。
【0032】
正極102は、正極活物質であるMnOを含有する正極材料が、金属箔で構成されたシート状の正極集電体の両面上に形成されたものである。負極103は、負極活物質であるLiを含有する負極材料が、金属箔で構成されたシート状の負極集電体の両面上に形成されたものである。セパレータ104は、例えば、シート状のポリオレフィン製フィルム(ポリエチレン製フィルム等)の微孔性フィルム層と、シート状の樹脂製不織布(ポリプロピレン製不織布等)の不織布層とを重ね合わせた2層構造のシートである。
【0033】
封口体120は、封口板121、正極端子122および封口ガスケット123を含んで構成されている。封口板121は、中央に開口を有する円盤状部を有し、当該円盤状部の縁は上方に向かって屈曲している。封口板121の中央開口には、樹脂製の封口ガスケット123を介して金属製の正極端子122がかしめられている。封口板121の縁端と負極缶101の上部縁端とは、例えばレーザ溶接等により溶接され、これにより負極缶101の缶口が封口されて負極缶101内が封止されている。
【0034】
正極102と正極端子122の下面とは、正極タブ105を介して電気的に接続されている。また、負極103と負極缶101の内面とは、負極タブ106を介して電気的に接続されている。さらに、負極缶101内には、例えば、非水系溶媒に電解質塩を溶解させた非水系有機系の電解液130が充填されている。
【0035】
このようなリチウム一次電池が放電する場合、負極では、式(1)に示す反応が生じる。また、正極では、式(2)に示す反応が生じる。
【0036】
【数1】
【0037】
【数2】
【0038】
ここで、正極では、式(3)に示す不均化反応により、二価のMnイオン(Mn2+)が生成され、式(4)に示すように、生成されたMn2+が電解液に溶出する。式(3)および式(4)において、「Mn2+ (p)」は、正極に発生したMn2+のうち、電解液に溶出せずに正極に残っているMn2+を示すものとする。また、「Mn2+ (d)」は、正極に発生したMn2+のうち、電解液に溶出するMn2+を示すものとする。
【0039】
【数3】
【0040】
【数4】
【0041】
そして、負極では、式(5)に示す反応により、電解液に溶出したMn2+がMnとして析出する。
【0042】
【数5】
【0043】
[リチウム一次電池の性能予測]
次に、リチウム一次電池の性能予測について説明する。リチウム一次電池の性能を予測する際には、リチウム一次電池の内部電流Iおよび端子間電圧を予測する必要がある。
【0044】
リチウム一次電池の内部電流Iは、正極および負極における電流密度Jの和に、正極および負極における活物質の表面積Aeffを乗じることで算出することができる。すなわち、リチウム一次電池の内部電流Iは、式(6)に基づき算出される。式(6)において、「Aeff」は、正極および負極の活物質の実際の表面積を示す。
【0045】
【数6】
【0046】
また、リチウム一次電池の端子間電圧Vは、一般に、正極の過電圧Δφposと、負極の過電圧Δφnegとに基づき算出することができる。ところで、リチウム一次電池は、放電および保存状態の際に、内部抵抗Rintが増加することが知られている。そのため、リチウム一次電池の端子間電圧Vを予測する場合には、内部抵抗Rintの増加による影響を考慮する必要がある。
【0047】
しかしながら、従来の端子間電圧Vの予測方法では、内部抵抗Rintの増加による影響を考慮していない。そのため、従来は、リチウム一次電池の性能を正確に予測することが困難であった。
【0048】
そこで、本実施の形態では、リチウム一次電池の内部抵抗Rintを考慮して、電池性能を予測する。すなわち、本実施の形態において、リチウム一次電池の端子間電圧(予測電圧)Vは、正極の過電圧Δφposおよび負極の過電圧Δφnegと、電解液の内部抵抗Rintとに基づき算出される。
【0049】
具体的には、端子間電圧Vは、式(7)に基づき算出される。式(7)において、「Δφpos」は、正極界面に発生する電位差である過電圧を示す。「Δφneg」は、負極界面に発生する電位差である過電圧を示す。「Rint」は、電池の内部抵抗を示す。「I」は、電池全体を流れる内部電流を示す。なお、以下の説明では、正極の過電圧Δφposおよび負極の過電圧Δφnegを「過電圧Δφ」と総称することがある。
【0050】
【数7】
【0051】
ここで、リチウム一次電池における電極界面に発生する電位差である過電圧Δφは、過電圧Δφと電流密度Jとの関係を示すバトラーフォルマー方程式に基づき算出することができる。
【0052】
(正極における過電圧Δφposの算出)
正極界面に発生する過電圧Δφposは、式(8)に基づき算出される。式(8)は、正極についてのバトラーフォルマー方程式であり、リチウム一次電池の正極界面に発生する過電圧Δφposと、正極における電流密度Jとの関係を示す。
【0053】
式(8)において、「J」は、正極の放電反応による電流密度を示す。「J0_1」は、正極の放電反応による交換電流密度を示す。「CMnO2」は、放電前の正極材料であるMnOの表面濃度を示す。「CMnO2,ref」は、CMnO2に対する参照濃度であり、放電前の正極全体の平均値での濃度を示す。「CLi+」は、電解液に溶融したLiイオンの濃度を示す。「CLi+,ref」は、CLi+に対する参照濃度であり、放電前の電解液中のLiイオンの濃度を示す。「CMnO2(Li+)」は、正極において放電の際に生成されたLiMnO(Mnは三価)の濃度を示す。「CMnO2(Li+),ref」は、CMnO2(Li+)に対する参照濃度であり、放電が完了したときのLiMnO(Mnは三価)の濃度を示す。「T」は、リチウム一次電池の内部温度を示す。「α」は、正極の放電反応の移行係数を示す。「K」は、ボルツマン定数を示す。「Eeq1」は、正極の放電反応の平衡電位を示す。「R」は、気体定数を示す。「Q」は、正極の放電反応の活性化エネルギーを示す。
【0054】
【数8】
【0055】
(負極における過電圧Δφnegの算出)
また、負極界面に発生する過電圧Δφnegは、式(9)に基づき算出される。式(9)は、負極についてのバトラーフォルマー方程式であり、リチウム一次電池の負極界面に発生する過電圧Δφnegと、負極における電流密度Jとの関係を示す。
【0056】
式(9)において、「J」は、負極の放電反応による電流密度を示す。「J0_2」は、負極の放電反応による交換電流密度を示す。「CLi」は、放電前の負極材料(リチウム金属)の表面濃度を示す。「CLi,ref」は、CLiに対する参照濃度であり、放電前の負極全体の平均値での濃度を示す。「α」は、負極の放電反応の移行係数を示す。「Eeq2」は、負極の放電反応の平衡電位を示す。「Q」は、負極の放電反応の活性化エネルギーを示す。
【0057】
【数9】
【0058】
(内部抵抗Rintの算出)
リチウム一次電池の内部抵抗Rintは、放電の際に増加する抵抗成分と、保存状態の際に増加する抵抗成分とに基づき算出することができる。例えば、放電の際には、放電が進行して容量が減少した際に、内部抵抗Rintが増加する。また、保存状態の際には、正極のMnが分解されて電解液に溶出し、溶出したMnが負極に析出することにより、内部抵抗Rintが増加する。
【0059】
したがって、内部抵抗Rintは、放電が進行して容量が減少した際に増加する抵抗成分と、保存状態であるときの正極のMnの分解、溶出および負極へのMnの析出が生じた際に増加する抵抗成分とに基づき算出することができる。
【0060】
具体的には、内部抵抗Rintは、式(10)に基づき算出される。式(10)において、「Rsol」は、電解液の減少によって伝導性が低下することによる電解液のイオン伝導抵抗を示す。「Rcol」は、集電体および電極の電子抵抗であり、集電体および電極の電極材料の直流抵抗を示す。「RMn」は、負極に対するMnの析出による抵抗を示す。
【0061】
【数10】
【0062】
ここで、イオン伝導抵抗Rsolおよび直流抵抗Rcolは、放電進行時に増加する抵抗成分である。また、負極へのMnの析出による抵抗RMnは、保存状態であるときに増加する抵抗成分である。すなわち、内部抵抗Rintは、放電進行時に増加する抵抗成分である電解液のイオン伝導抵抗Rsolおよび電極材料の直流抵抗Rcolと、保存時に増加する抵抗成分である抵抗RMnとに基づく抵抗である。
【0063】
(イオン伝導抵抗Rsol
電解液のイオン伝導抵抗Rsolは、式(11)に基づき算出される。式(11)において、「Q」は、電解液の活性化エネルギーを示す。「DOD(Depth Of Discharge)」は、リチウム一次電池の放電状態を示す。「DODS1」は、DODに対する閾値であり、放電時の抵抗劣化が始まるときのDODを示す。「fend1」は、イオン伝導抵抗Rsolにおける放電時の抵抗劣化の大きさを示す。
【0064】
【数11】
【0065】
(直流抵抗Rcol
電極材料の直流抵抗Rcolは、式(12)に基づき算出される。式(12)において、「Rcol_0」は、放電時の抵抗劣化が始まる前の直流抵抗Rcolの基本値を示す。「DODS2」は、DODに対する閾値であり、放電時の抵抗劣化が始まるときのDODを示す。「fend2」は、直流抵抗Rcolにおける放電時の抵抗劣化の大きさを示す。
【0066】
【数12】
【0067】
(抵抗RMn
負極にMnが析出することによって生じる抵抗RMnは、正極による不均化反応、電解液へのMnの溶出、および、負極へのMnの析出についてのそれぞれの反応式に基づき算出することができる。
【0068】
まず、式(3)に示す不均化反応によって正極に発生する二価のMnイオン(Mn2+)の濃度が算出される。この場合のMn2+ (p)の濃度は、式(13)に基づき算出される。式(13)において、「CMn2+(p)」は、不均化反応により正極に発生するMn2+の濃度を示す。「CMn2+(p),ref」は、Mn2+に対する参照濃度であり、正極のMnOがすべてMn2+に変化したと想定した場合のMn2+の濃度を示す。「CLi2O」は、不均化反応によって生成されるLiOの濃度を示す。「CLi2O,ref」は、LiOに対する参照濃度であり、放電が完了したときのLiOの濃度を示す。
【0069】
【数13】
【0070】
なお、式(13)は、式(14)に示すように簡略化することができる。
【0071】
【数14】
【0072】
次に、式(4)に示す反応によって正極から電解液に溶出するMn2+の濃度が算出される。この場合の電解液に溶出するMn2+の濃度は、式(15)に基づき算出される。式(15)および式(16)において、「CMn2+(d)」は、電解液に溶出したMn2+の濃度を示す。
【0073】
【数15】
【0074】
なお、式(15)は、式(16)に示すように簡略化することができる。
【0075】
【数16】
【0076】
そして、式(5)に示す析出反応によって負極に析出するMnの濃度が算出される。この場合の負極に析出するMnの濃度は、式(17)に基づき算出される。式(17)において、「CMn2+(d),ref」は、Mn2+に対する参照濃度であり、電解液にMn2+が最大まで溶出したときの濃度を示す。
【0077】
【数17】
【0078】
最後に、負極に析出したMnの濃度に基づき、負極にMnが析出することによって生じる抵抗RMnを算出する。この場合の負極へのMnの析出による抵抗RMnは、式(18)に基づき算出される。式(18)において、「M」は、負極に析出するMnの分子量を示す。「V」は、リチウム一次電池全体の体積を示す。「a」は、Mnが析出する負極の表面積を示す。「ρ」は、負極に析出するMnの抵抗率を示す。
【0079】
【数18】
【0080】
なお、式(5)に示す析出反応については、電解液に溶出したMn2+の濃度に基づいて負極に析出するMnの厚みが算出され、算出されたMnの厚みに基づいて抵抗RMnが算出されてもよい。
【0081】
この場合の負極に析出するMnの厚みは、式(19)に基づき算出される。そして、負極にMnが析出することによって生じる抵抗RMnは、式(20)に基づき算出される。式(19)および式(20)において、「LMn」は、負極に析出するMnの厚みを示す。
【0082】
【数19】
【0083】
【数20】
【0084】
このようにして算出された電解液のイオン伝導抵抗Rsolと、電極材料の直流抵抗Rcolと、負極へのMnの析出によって生じる抵抗RMnとが式(10)に基づいて加算されることにより、リチウム一次電池の内部抵抗Rintが算出される。
【0085】
上述したようにして、正極の過電圧Δφpos、負極の過電圧Δφneg、および内部抵抗Rintが算出されることにより、式(7)に基づいてリチウム一次電池の予測電圧である端子間電圧Vが算出される。そして、このようにして算出された端子間電圧Vを用いることにより、本実施の形態では、放電曲線等のリチウム一次電池の性能を算出して予測することができる。
【0086】
[実施例]
上述した方法を用いてリチウム一次電池の性能を予測した結果について説明する。図3は、本実施の形態に係る電池性能予測システム1による電池性能予測処理の際の判定基準について説明するための概略図である。本実施の形態では、リチウム一次電池の性能を予測する際に、各種の条件を図3に示すように設定し、予測結果が適切であるか否かが判断される。なお、ここでは、「CR17450E-R」と称するリチウム一次電池について、各種条件を設定した場合における電池性能の実測値に対する予測値の判定基準について説明する。
【0087】
図3において、「項目」は、リチウム一次電池の放電条件を示す。この例では、リチウム一次電池の放電条件として、「連続」および「パルス」が設定されている。「項目」欄における「連続」は、リチウム一次電池に対して所定の電流を連続的に流す連続放電を行った場合の条件を示す。「パルス」は、所定のパルス状の電流を断続的に流すパルス放電を行った場合の条件を示す。この例において、パルス放電は、所定のパルス状の電流を1秒間だけ流すものである。
【0088】
「保存状態」は、リチウム一次電池の保存状態の条件を示す。「保存状態」欄における「保存なし」は、リチウム一次電池を保存していない状態を示す。「70℃/114日」は、リチウム一次電池を70℃の状態で114日間保存した状態を示す。「23℃/8年間」は、リチウム一次電池を23℃の状態で8年間保存した状態を示す。
【0089】
「深度」は、リチウム一次電池の放電深度の条件を示す。放電深度は、リチウム一次電池の容量に対する放電の度合いを示し、例えば、「0%」は未放電を示し、「100%」は放電完了(完放電)を示す。この例では、連続放電時におけるリチウム一次電池の放電深度を「0%」~「放電完了」まで変化させて設定した場合を示す。また、パルス放電時においては、リチウム一次電池の放電深度を「0%」~「80%」まで段階的に変化させて設定した場合を示す。
【0090】
「負荷」は、リチウム一次電池に接続される負荷の条件を示す。この例において、連続放電時における「負荷」の項目は、リチウム一次電池に接続される負荷の「負荷抵抗」を示す。具体的には、「負荷」の項目は、負荷抵抗を「5.6kΩ」、「560Ω」、または「50Ω」に設定した場合を示す。
【0091】
また、パルス放電時における「負荷」の項目は、リチウム一次電池に所定の負荷を接続した状態で流れるパルス状の「負荷電流」を示す。この例では、リチウム一次電池の保存状態に応じて、当該電池に対して流す電流を、それぞれ「10mA/1sec」、「50mA/1sec」、「200mA/1sec」、または「500mA/1sec」に設定した場合を示す。
【0092】
「温度」は、リチウム一次電池の温度の条件を示す。この例では、負荷の大きさに応じて、連続放電時のリチウム一次電池の温度を、それぞれ「85℃」、「23℃」、または「-20℃」に設定した場合を示す。なお、負荷が「560Ω」の場合には、さらに、「-40℃」に設定した場合も示す。一方、パルス放電時においては、リチウム一次電池に流す電流に応じて、それぞれ60℃~-40℃まで段階的に設定した場合を示す。
【0093】
「第1判定基準」は、電池性能の予測を判断するための第1の判定基準を示す。この例において、連続放電時の第1判定基準は、リチウム一次電池の電圧が2Vに低下するまでの持続時間である。また、パルス放電時の第1判定基準は、パルス電流を流している時間(この例では、1sec)内の最低閉回路電圧値である。
【0094】
「第1判定値」は、第1判定基準による判定の際の第1の合格判定値を示す。この例において、連続放電時の第1判定値は、「平均値±5%」である。また、パルス放電時の第1判定値は、「平均値±0.03%」である。
【0095】
「第2判定基準」は、電池性能の予測を判断するための第2の判定基準を示す。この例において、連続放電時の第2判定基準は、リチウム一次電池の電圧が2Vに低下するまでの平均作動電圧である。また、パルス放電時の第2判定基準は、パルス電流を流している時間(この例では、1sec)内のドロップ幅である。
【0096】
「第2判定値」は、第2判定基準による判定の際の第2の合格判定値を示す。この例において、連続放電時の第2判定値は、負荷が5.6kΩである場合には「平均値±0.03V」であり、負荷が560Ωである場合には「平均値±0.05V」であり、負荷が50Ωである場合には「平均値±0.07V」である。また、パルス放電時の第2判定値は、「平均ドロップ幅±10%」である。
【0097】
なお、判定基準について、連続放電時においては、予測値が第1判定基準と第2判定基準との両方を満たす場合に、当該予測値が適切であると判断されるものとする。また、パルス放電時においては、予測値が第1判定基準と第2判定基準とのいずれか一方を満たす場合に、当該予測値が適切であると判断されるものとする。
【0098】
(連続放電時の判定結果)
図4は、連続放電時における電池性能予測処理の結果について説明するための概略図である。図4において、「第1判定結果」は、予測によって得られる値が第1判定値を満たすか否かを示す。また、「第2判定結果」は、予測によって得られる値が第2判定値を満たすか否かを示す。
【0099】
この例では、予測値に対する第1判定結果および第2判定結果が、それぞれ「A」、「B」または「C」で表されている。判定結果「A」は、予測値が判定値の範囲に含まれていることを示す。判定結果「B」は、予測値が判定値の範囲からわずかに外れているが、電池の生産ばらつき、または測定誤差を考慮すると、予測値が判定値の範囲に含まれると判断してもよいことを示す。判定結果「C」は、予測値が判定値の範囲から外れていることを示す。
【0100】
図4の例では、負荷を560Ωとした場合の第1判定基準に対する第1判定結果が「B」となっているが、それ以外の条件では、第1判定結果および第2判定結果は「A」となっている。この結果から、連続放電時における予測値は、適切であることが確認できた。
【0101】
図5は、本実施の形態に係る電池性能予測処理による連続放電時の放電特性の結果の一例を示すグラフである。図5に示す例は、リチウム一次電池に560Ωの負荷を接続し、電池温度を85℃、23℃および-20℃として連続放電した場合の、経過時間に対する端子間電圧Vの変化についての実測値と予測値とを比較した結果である。
【0102】
図5に示すように、予測値は、すべての温度条件において、実測値と同等の結果を得ることができた。具体的には、予測値は、図3に示す、電圧が2Vに低下するまでの時間を示す第1判定基準と、電圧が2Vに低下するまでの平均作動電圧を示す第2判定基準の両方を満たすことが確認できた。
【0103】
一方、図6は、内部抵抗Rintを考慮せずに電池性能を予測した場合の、連続放電時の放電特性の結果の一例を示すグラフである。図6に示す例は、図5の例と同様に、リチウム一次電池に560Ωの負荷を接続し、電池温度を85℃、23℃および-20℃として連続放電した場合の、経過時間に対する端子間電圧Vの変化についての実測値と予測値とを比較した結果である。
【0104】
図6に示すように、内部抵抗Rintを考慮しない場合の予測値は、すべての温度条件において、実測値とは異なる値を示しており、図3に示す第1判定基準および第2判定基準の両方を満たさない場合が多い。特に、放電開始から300時間程度経過した後の放電後半において、実測値と予測値とでは、グラフの形状が大きく異なっている。
【0105】
ここで、内部抵抗Rintを考慮しない場合の予測値は、温度が低下するほど放電時間が延びる傾向がある。これは、放電時の内部抵抗(R=V/I)が一定であるものとして、放電電圧が低下するほど放電電流も低下し、リチウム一次電池の容量が減少しにくくなるためである。このように、内部抵抗Rintを考慮しない場合には、リチウム一次電池の性能が正確に予測されていないことが確認できた。
【0106】
(パルス放電時の判定結果)
図7は、パルス放電時における電池性能予測処理の結果の第1の例について説明するための概略図である。図7に示す第1の例は、保存状態が「保存なし」である場合の予測結果を示す。また、この例は、リチウム一次電池の温度が「60℃」、「23℃」、「0℃」、「-20℃」および「-40℃」である場合のそれぞれにおいて、放電深度が「0%」、「30%」、「60%」および「80%」であるときの予測結果を示す。
【0107】
図7の例では、電池温度が「-40℃」であり、放電深度が「80%」であり、負荷電流が「10mA」である場合に、判定結果が「C」となっている以外は、判定結果がすべて「A」または「B」となっている。この結果から、パルス放電時において、リチウム一次電池の保存状態が「保存なし」である場合の予測値は、概ね適切であることが確認できた。
【0108】
図8は、パルス放電時における電池性能予測処理の結果の第2の例について説明するための概略図である。図8に示す第2の例は、保存状態が「70℃/114日」である場合の予測結果を示す。第2の例におけるリチウム一次電池の温度および放電深度の条件は、第1の例と同様である。
【0109】
図8の例では、電池温度および放電深度のすべての条件における判定結果は、すべて「A」または「B」となっている。この結果から、パルス放電時において、リチウム一次電池の保存状態が「70℃/114日」である場合の予測値は、適切であることが確認できた。
【0110】
なお、電池温度が「-40℃」であり、負荷電流が「500mA」である場合等の、判定結果が記載されていない条件は、実際のリチウム一次電池で良好な放電が困難であり、実測できない条件であるため、予測を省略している。このことは、後述する第3の例においても同様である。
【0111】
図9は、パルス放電時における電池性能予測処理の結果の第3の例について説明するための概略図である。図9に示す第3の例は、保存状態が「23℃/8年間」である場合の予測結果を示す。第3の例におけるリチウム一次電池の温度および放電深度の条件は、第1の例および第2の例と同様である。
【0112】
図9の例では、電池温度が「-40℃」であり、放電深度が「80%」であり、負荷電流が「10mA」である場合に、判定結果が「C」となっている以外は、判定結果がすべて「A」または「B」となっている。この結果から、パルス放電時において、リチウム一次電池の保存状態が「23℃/8年間」である場合の予測値は、概ね適切であることが確認できた。
【0113】
図10は、本実施の形態に係る電池性能予測処理によるパルス放電時の放電特性の結果の一例を示すグラフである。図10に示す例は、保存状態が「保存なし」であり、電池温度を60℃、23℃、0℃および-20℃として、200mA/1secの電流をパルス放電した場合の、放電容量に対する端子間電圧Vの変化についての実測値と予測値とを比較した結果である。
【0114】
図10に示すように、予測値は、略すべての温度条件において、実測値と同等の結果を得ることができた。具体的には、予測値は、図3に示す、パルス電流を流している時間内のドロップ幅を示す第2判定基準を満たすことが確認できた。
【0115】
一方、図11は、内部抵抗Rintを考慮せずに電池性能を予測した場合の、パルス放電時の放電特性の結果の一例を示すグラフである。図11に示す例は、図10の例と同様に、保存状態が「保存なし」であり、電池温度を60℃、23℃、0℃および-20℃として、200mA/1secの電流をパルス放電した場合の、放電容量に対する端子間電圧Vの変化についての実測値と予測値とを比較した結果である。
【0116】
図11に示すように、内部抵抗Rintを考慮しない場合の予測値は、すべての温度条件において、実測値とは異なる値を示しており、図3に示す第1判定基準または第2判定基準を満たさない場合が多い。特に、予測値の放電後半においては、抵抗上昇が再現できないため、放電が進行することによる電圧の低下が全体的に小さくなり、実測値との差異が大きくなる。
【0117】
また、この場合には、温度が低下するほど抵抗上昇も小さくなるため、温度が低下するほど、電池電圧の実測値との誤差が大きくなる。このように、内部抵抗Rintを考慮しない場合には、リチウム一次電池の性能が正確に予測されていないことが確認できた。
【0118】
以上のように、本実施の形態では、電池性能予測装置10は、電極の界面に発生する過電圧Δφと、リチウム一次電池の内部抵抗Rintとに基づき、リチウム一次電池の予測電圧である端子間電圧Vを算出する。このように、本実施の形態では、リチウム一次電池の電池性能を予測する際に、内部抵抗Rintを考慮する。これにより、リチウム一次電池の端子間電圧Vが従来よりも正確に予測される。そのため、リチウム一次電池の性能を精度よく予測することができる。
【0119】
以上、実施の形態について説明したが、本開示は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。内部抵抗Rintは、式(10)に基づき算出されるように説明したが、これはこの例に限られない。例えば、内部抵抗Rintは、電解液のイオン伝導抵抗Rsolと、電極材料の直流抵抗Rcolと、負極へのMnの析出によって生じる抵抗RMnとのうち、少なくともいずれか1つの抵抗が算出されることによって決定されてもよい。ただし、内部抵抗Rintは、上述したように3つの抵抗を加算して得られる方が、より正確に算出されて好ましい。
【符号の説明】
【0120】
1 電池性能予測システム
10 電池性能予測装置
11 入力情報取得部
12 演算部
13 表示情報生成部
14 記憶部
20 入力装置
30 表示装置
100 リチウム一次電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11