IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

特開2024-141561組成物およびその製造方法ならびにセメントの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141561
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】組成物およびその製造方法ならびにセメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20241003BHJP
   C04B 7/14 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20241003BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B7/14
C04B22/14 B
C04B22/10
C04B14/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053289
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】林 建佑
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 彦次
(72)【発明者】
【氏名】久田 真
(72)【発明者】
【氏名】皆川 浩
(72)【発明者】
【氏名】宮本 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112MB23
4G112PA10
4G112PB08
4G112PB11
(57)【要約】
【課題】安全性および施工性に優れる組成物を提供すること。
【解決手段】セメントクリンカ細骨材および微粉末を含み、上記微粉末は少なくとも高炉スラグ微粉末を含み、かつ式1:Y≦0.225X+2.09、を満たす組成物。式1中、Xは、上記セメントクリンカ細骨材の粗粒率を示し、Yは、上記微粉末の含有量に対する上記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカ細骨材および微粉末を含み、
前記微粉末は少なくとも高炉スラグ微粉末を含み、かつ
下記式1:
Y≦0.225X+2.09
(式1中、Xは、前記セメントクリンカ細骨材の粗粒率を示し、Yは、前記微粉末の含有量に対する前記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比を示す。)
を満たす組成物。
【請求項2】
前記微粉末は石灰石微粉末を更に含み、かつ
前記微粉末の合計量を100質量%として、前記石灰石微粉末の含有率は10質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記微粉末は石灰石微粉末および石膏微粉末を更に含み、かつ
前記微粉末の合計量を100質量%として、前記石灰石微粉末および前記石膏微粉末の合計含有率は10質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記セメントクリンカ細骨材の粗粒率Xは、3.50以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記微粉末の含有量に対する前記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比Yは、1.50以上3.50以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記微粉末は石灰石微粉末を更に含み、かつ
前記微粉末の合計量を100質量%として、前記石灰石微粉末の含有率は10質量%以下であり、
前記セメントクリンカ細骨材の粗粒率Xは、3.50以下であり、かつ
前記微粉末の含有量に対する前記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比Yは、1.50以上3.50以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記微粉末は石灰石微粉末および石膏微粉末を更に含み、
前記微粉末の合計量を100質量%として、前記石灰石微粉末および前記石膏微粉末の合計含有率は10質量%以下であり、
前記セメントクリンカ細骨材の粗粒率Xは、3.50以下であり、かつ
前記微粉末の含有量に対する前記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比Xは、1.50以上3.50以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
更に水を含み硬化した硬化体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物の製造方法であって、
前記式1を満たす粗粒率のセメントクリンカ細骨材を、前記式1のYの質量比を満たす割合で微粉末と混合することを含む、前記製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の組成物を粉砕することを含む、セメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物およびその製造方法ならびにセメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、普通ポルトランドセメントクリンカおよび高炉スラグ微粉末を含むドライモルタルを作製し、このドライモルタルからモルタルを製造することが開示されている(特許文献1の実施例2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-51398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジオポリマーコンクリートやアルカリ活性コンクリート等の硬化体は、汎用的なセメントコンクリートと比較して耐酸性、耐熱性等に優れるとされている一方で、高アルカリ性材料の使用による安全性確保面での課題および高い粘性による充填性の悪化といった施工上の課題が指摘されている。
【0005】
また、近年、セメントの代替粉体として、産業副産物である高炉スラグ微粉末や石炭灰フライアッシュを使用したジオポリマーコンクリートやアルカリ活性コンクリートの研究が行われており、その耐酸性や耐熱性といった特徴を活かし、一部では実用化も行われている。しかしながら、これらの材料は、強度発現性を高めるために高アルカリ濃度のアルカリ刺激材を必要とするため、安全上の課題がある。
【0006】
以上に鑑み、本発明の一態様は、安全性および施工性に優れる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは検討を重ねる中で、高炉スラグ微粉末とともにセメントクリンカ細骨材を含む組成物は、高アルカリ性材料や高アルカリ濃度のアルカリ刺激材の使用を要さないため安全性に優れることに着目した。そして更に鋭意検討を重ねた結果、高炉スラグ微粉末とともにセメントクリンカ細骨材を含み、かつ下記式1を満たす組成物は、流動性が高く施工性に優れることを新たに見出した。
【0008】
本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]セメントクリンカ細骨材および微粉末を含み、
上記微粉末は少なくとも高炉スラグ微粉末を含み、かつ
下記式1:
Y≦0.225X+2.09
(式1中、Xは、上記セメントクリンカ細骨材の粗粒率を示し、Yは、上記微粉末の含有量に対する上記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比を示す。)
を満たす組成物。
[2]上記微粉末は石灰石微粉末を更に含み、かつ
上記微粉末の合計量を100質量%として、上記石灰石微粉末の含有率は10質量%以下である、[1]に記載の組成物。
[3]上記微粉末は石灰石微粉末および石膏微粉末を更に含み、かつ
上記微粉末の合計量を100質量%として、上記石灰石微粉末および上記石膏微粉末の合計含有率は10質量%以下である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]上記セメントクリンカ細骨材の粗粒率Xは、3.50以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]上記微粉末の含有量に対する上記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比Yは、1.50以上3.50以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]上記微粉末は石灰石微粉末を更に含み、かつ
上記微粉末の合計量を100質量%として、上記石灰石微粉末の含有率は10質量%以下であり、
上記セメントクリンカ細骨材の粗粒率Xは、3.50以下であり、かつ
上記微粉末の含有量に対する上記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比Yは、1.50以上3.50以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]上記微粉末は石灰石微粉末および石膏微粉末を更に含み、
上記微粉末の合計量を100質量%として、上記石灰石微粉末および上記石膏微粉末の合計含有率は10質量%以下であり、
上記セメントクリンカ細骨材の粗粒率Xは、3.50以下であり、かつ
上記微粉末の含有量に対する上記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比Xは、1.50以上3.50以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[8]更に水を含み硬化した硬化体である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9][1]~[7]のいずれかに記載の組成物の製造方法であって、
上記式1を満たす粗粒率のセメントクリンカ細骨材を、上記式1のYの質量比を満たす割合で微粉末と混合することを含む、上記製造方法。
[10][8]に記載の組成物を粉砕することを含む、セメントの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、安全性および施工性に優れる組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[組成物]
本発明の一態様は、セメントクリンカ細骨材および微粉末を含み、上記微粉末は少なくとも高炉スラグ微粉末を含み、かつ下記式1を満たす組成物に関する。
【0011】
式1:Y≦0.225X+2.09
(式1中、Xは、上記セメントクリンカ細骨材の粗粒率を示し、Yは、上記微粉末の含有量に対する上記セメントクリンカ細骨材の含有量の質量比を示す。)
【0012】
本発明および本明細書において、「組成物」には、水が添加されていない乾式組成物と水が添加された湿式組成物とが包含される。組成物は、例えばモルタル組成物またはセメント組成物であることができる。また、「組成物」には、未硬化の形態の組成物と硬化した形態の組成物(即ち硬化体)とが包含される。
【0013】
以下、上記組成物について、更に詳細に説明する。
【0014】
<セメントクリンカ細骨材>
上記組成物は、セメントクリンカ細骨材を含む。本発明および本明細書において、「セメントクリンカ」とは、CaO原料、Al原料、Fe原料およびSiO原料を粉砕して混合し、ロータリーキルン等で焼成して得られるものである。「細骨材」とは、JIS A 0203:2019に定義されている細骨材をいう。
【0015】
セメントクリンカとしては、普通ポルトランドセメントクリンカ、早強ポルトランドセメントクリンカ、低熱ポルトランドセメントクリンカ、中庸熱ポルトランドセメントクリンカ、エコセメントクリンカ等が挙げられる。
【0016】
セメントクリンカは、鉱物として、3CaO・SiO(以下、エーライト(CS)または単にエーライトと表記する。)または2CaO・SiO(以下、ビーライト(CS)または単にビーライトと表記する。)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al・Fe(以下、フェライト(CAF)または単にフェライトと表記する。)で表されるカルシウムアルミノフェライト、3CaO・Al(以下、アルミネート(CA)または単にアルミネートと表記する。)で表されるカルシウムアルミネート等を含有することができる。各鉱物の含有率は、JIS R 5202:2015またはJIS R 5204:2019による化学分析の結果からボーグ式で計算して求めたり、粉末X線回折(XRD)リートベルト解析によって求めることができる。
【0017】
中でも、セメントクリンカとしては、ボーグ式で求めた場合に、エーライト(CS)を50~70質量%、ビーライト(CS)を5~30質量%、アルミネート(CA)を3~15質量%、フェライト(CAF)を5~20質量%含有するものが好ましく、エーライト(CS)を55~65質量%、ビーライト(CS)を10~20質量%、アルミネート(CA)を5~12質量%、フェライト(CAF)を7~15質量%含有するものがより好ましい。このような鉱物組成のセメントクリンカ細骨材を用いることは、硬化体の強度向上の観点から好ましい。
【0018】
セメントクリンカ細骨材の絶乾密度は、例えば2.40g/cm以上3.00g/cm以下であることができる。セメントクリンカ細骨材の絶乾密度は、JIS A 1109:2020に従い求められる値とする。
【0019】
上記組成物に含まれる細骨材は、上記セメントクリンカ細骨材のみであってもよい。または、上記組成物は上記セメントクリンカ細骨材に加えて1種以上の他の細骨材を含んでもよい。他の細骨材が含まれる場合、細骨材の合計量100質量%に対する上記セメントクリンカ細骨材の含有率は、75質量%以上であることが好ましい。
【0020】
<微粉末>
(高炉スラグ微粉末)
上記組成物は、1種以上の微粉末を含む。上記組成物には、微粉末として少なくとも高炉スラグ微粉末が含まれる。本発明および本明細書において、「微粉末」とは、JIS A 0203:2019に定義されている混和材料のうち無機質の骨材より細粒である粉末をいう。「高炉スラグ微粉末」とは、JIS A 6206:2013に定義されている高炉スラグ微粉末をいう。
【0021】
粒子サイズの指標の1つとしては、ブレーン比表面積を挙げることができる。「ブレーン比表面積」とは、ブレーン法によって測定される比表面積であり、JIS R 5201の8.1に従い求められる。高炉スラグ微粉末としては、例えばブレーン比表面積が3000cm/g以上8000cm/g以下の高炉スラグ微粉末を用いることができ、4000cm/g以上6000cm/g以下の高炉スラグ微粉末を用いること好ましい。また、高炉スラグ微粉末としては、材齢28日の活性度指数が75以上または85以上の高炉スラグ微粉末を用いることができる。このような高炉スラグ微粉末を用いることは、施工性および硬化体の強度向上の観点から好ましい。活性度指数は、JIS A 6206:2013に従い求められる。
【0022】
(その他の微粉末)
上記組成物は、一形態では、この組成物に含まれる微粉末が高炉スラグ微粉末のみであることができる。他の一形態では、上記組成物は、高炉スラグ微粉末に加えて1種以上の他の微粉末を含むことができる。そのような微粉末としては、石灰石微粉末、石膏微粉末等を挙げることができる。
【0023】
石灰石微粉末は、廃コンクリート微粉末、生コンクリートスラッジの炭酸化物等でもよい。石灰石微粉末のブレーン比表面積は、例えば3000cm/g以上8000cm/g以下であることができ、4000cm/g以上6000cm/g以下であることが好ましい。
【0024】
石膏微粉末としては、例えば、二水石膏、α型半水石膏、β型半水石膏、無水石膏等の微粉末を挙げることができる。石膏微粉末のブレーン比表面積は、例えば3000cm/g以上15000cm/g以下であることができる。
【0025】
セメントクリンカ細骨材と各種微粉末との混合比については後述する。
【0026】
<式1>
本発明者らは、セメントクリンカ細骨材と高炉スラグ微粉末との混合比について、施工性、具体的にはJIS R 5201:2015に記載のフロー試験によって測定されるフロー値によって評価される流動性を高めるべく鋭意検討を重ねた結果、セメントクリンカ細骨材と高炉スラグ微粉末との混合比とセメントクリンカ細骨材の粗粒率との間に相関が見られ、式1を満たす場合に流動性が向上することを新たに見出した。本発明および本明細書において、「粗粒率」は、JIS A 1102:2014に記載の方法によって求められる。粗粒率は、80mm、40mm、20mm、10mm、5mm、2.5mm、1.2mmおよび0.6mm、0.3mm、0.15mmの各ふるいに留まる質量分率(%)の和を100で除した値として求められる。
【0027】
式1は、「Y≦0.225X+2.09」である。式1中、Xは、セメントクリンカ細骨材の粗粒率を示す。Yは、微粉末の含有量(複数種の微粉末が含まれる場合はそれらの合計含有量)に対するセメントクリンカ細骨材の含有量の質量比を示す。
【0028】
流動性の更なる向上の観点からは、上記組成物は、下記式1-1を満たすことが好ましく、下記式1-2を満たすことがより好ましい。
式1-1:Y≦0.175X+2.02
式1-2:Y≦0.2X+1.83
【0029】
式1、式1-1および式1-2の各式について、四捨五入して小数点以下2桁に丸める端数処理を施した右辺の値を左辺のYと対比することによって、式を満たすか否かを判定するものとする。
【0030】
上記組成物のXおよびYは、式1を満たせばよい。
セメントクリンカ細骨材の粗粒率Xは、一形態では、3.50以下であることが好ましく、3.00以下であることがより好ましく、2.80以下であることが更に好ましい。また、一形態では、Yは、1.90以上であることが好ましく、1.95以上であることがより好ましい。
微粉末の含有量に対するセメントクリンカ細骨材の含有量の質量比Yは、一形態では、3.50以下であることが好ましく、2.70以下であることがより好ましく、2.30以下であることが更に好ましい。また、一形態では、Xは1.50以上であることが好ましく、1.75以上であることがより好ましく、1.95以上であることが更に好ましい。
【0031】
<微粉末の混合比>
上記組成物は、微粉末として少なくとも高炉スラグ微粉末を含む。一形態では、上記組成物に含まれる微粉末は、高炉スラグ微粉末のみ(即ち、微粉末の全量が高炉スラグ微粉末)であることができる。他の一形態では、上記組成物は、高炉スラグ微粉末と1種以上の他の微粉末を含むことができる。他の微粉末の具体例については、先に記載した通りである。
【0032】
硬化体の乾燥収縮抑制の観点からは、上記組成物は、微粉末として、高炉スラグ微粉末に加えて、石灰石微粉末および/または石膏微粉末を含むことが好ましい。
【0033】
上記組成物が石灰石微粉末を含む場合、微粉末の合計量を100質量%として、石灰石微粉末の含有率は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが更に好ましい。また、上記の場合、微粉末の合計量を100質量%として、石灰石微粉末の含有率は、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。上記の場合、高炉スラグ微粉末以外の他の微粉末は、一形態では石灰石微粉末のみであることができ、他の一形態では石灰石微粉末と石膏微粉末の2種の微粉末であることができる。
【0034】
上記組成物が石灰石微粉末および石膏微粉末を含む場合、微粉末の合計量を100質量%として、石灰石微粉末および石膏微粉末の合計含有率は、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることが更に好ましい。また、上記の場合、微粉末の合計量を100質量%として、石灰石微粉末および石膏微粉末の合計含有率は、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。上記の場合、高炉スラグ微粉末以外の他の微粉末は、一形態では石灰石微粉末と石膏微粉末の2種の微粉末であることができ、他の一形態では更に1種以上の微粉末を含むことができる。
【0035】
上記組成物が石灰石微粉末と石膏微粉末とを含む場合、それらの質量基準の混合比は、石灰石微粉末:石膏微粉末=1:9~9:1であることができ、2:8~8:2であることが好ましい。
【0036】
上記組成物は、上記の各種成分のみからなるものでもよく、更に他の成分の1種以上を含んでもよい。他の成分としては、例えば混和剤を挙げることができる。混和剤としては、例えば、AE剤、減水剤、膨張剤、発泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、凝結遅延剤、促進剤、急結剤、分離低減剤、起泡剤、発泡剤、防凍剤、耐寒促進剤、撥水剤、白華防止剤、繊維等が挙げられる。
【0037】
また、上記組成物は、一形態では、上記以外の微粉末として、セメント、フライアッシュ、シリカ粉末、シリカフューム等の鉱物質微粉末の1種以上含むこともできる。この場合、鉱物質微粉末の含有率は、微粉末の合計量100質量%に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0038】
上記組成物は、通常用いられる混合器具および/または混練器具により各種成分を混合することによって調製することができる。器具は特に限定されず、例えば、ハンドミキサ、傾胴ミキサ、パン型ミキサ、二軸ミキサ等を使用することができる。混合は、あらかじめ水を含まない状態で行ってもよいし、後述する水や粗骨材を混合するときに行ってもよい。
【0039】
また、上記組成物は、水を含むことができ、公知の方法で養生することで硬化させ、硬化体としてもよい。こうして得られる硬化体のJIS R 5201:2015に規定される材齢28日圧縮強度は、50N/mm以上であることが好ましく、55N/mm以上であることがより好ましく、60N/mm以上であることが更に好ましい。各種成分を水と混合してペーストとして調製することもできる。水としては、例えば、JIS A 5308:2019付属書Cに規定される上水道水、上水道水以外の水(例えば、河川水、湖沼水、井戸水、地下水、工業用水)、回収水を挙げることができる。微粉末100質量部に対する水の含有量は、30質量部以上70質量部以下であることが好ましく、30質量部以上65質量部以下であることがより好ましく、40質量部以上60質量部以下であることが更に好ましい。
【0040】
また、上記組成物は、粗骨材を含むことができる。粗骨材としては、特に限定されず、例えば、川砂利、山砂利、陸砂利、海砂利、砕石、石灰石粗骨材、スラグ粗骨材、軽量粗骨材、クリンカ粗骨材、ガラス骨材、及び再生骨材等が挙げられる。なかでも、クリンカ粗骨材、石灰石粗骨材、スラグ粗骨材は、後述のセメント、またはセメントクリンカの製造方法において、多くの粗骨材を分離することなく多くの使用済み組成物をリサイクルできる点から好ましい。
【0041】
上記組成物は、各種構造体の製造に使用することができる。また、上記組成物は、例えば、生コンクリート、プレキャストコンクリート製品、プレミックス製品等に使用できる。
【0042】
[組成物の製造方法]
本発明の一態様は、上記組成物の製造方法に関する。上記製造方法では、式1を満たす粗粒率のセメントクリンカ細骨材を、式1のYの質量比を満たす割合で微粉末と混合する。
【0043】
上記製造方法の詳細については、上記組成物に関する先の記載を参照できる。ところで、先に示した特開2004-51398号公報(特許文献1)には、水硬性クリンカ、石膏および混合材を混合し、かつ同時粉砕することを含むドライモルタルの製造方法が開示されている(特開2004-51398号公報の請求項7等参照)。これに対し、上記製造方法では、式1を満たす粗粒率のセメントクリンカ細骨材を準備し、このセメントクリンカ細骨材を式1のYの質量比を満たす割合で微粉末と混合するため、混合後のセメントクリンカ細骨材と微粉末との混合物には、粉砕処理を施さないことが好ましい。
【0044】
[リサイクル原料の製造方法]
先に記載したように、一形態では、上記組成物は硬化体であることができる。本発明の一態様は、上記硬化体を粉砕して回収物を得ることを含む、セメントの製造方法に関する。上記回収物は、通常、水と未反応のクリンカ骨材部分を多く含む。水と反応したクリンカ骨材やスラグ微粉末はポゾランとなるので、粉砕することにより全体として水硬性を有するため、セメントとして用いることができる。また、上記回収物はセメントクリンカ原料として使用することができ、回収物を必要に応じて焼成することによってセメントクリンカを得ることができ、これを粉砕することによって、セメントまたはセメントクリンカ細骨材を得ることができる。こうして得られたセメントクリンカ細骨材を、高炉スラグ微粉末等と混合することによって、式1を満たす組成物を再び調製することもできる。上記硬化体にカルシウム含有量が少ない粗骨材が用いられている場合は、粗骨材を分離して、より多くの使用済み硬化体をリサイクルしてもよい。
【実施例0045】
以下に、実施例に基づき本発明を更に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0046】
表1に、実施例および比較例において使用した試料の詳細を示す。
表1に示す強熱減量は、JIS A 5202:2010の項目5に記載の方法によって求められた値である。
表1に示す化学組成は、JIS R 5204:2019に従い蛍光X線分析装置(リガク社製ZSX PrimusII)による定量分析によって求めた。
表1に示す微粉末の密度は、JIS R 5201:2015に従い求め、セメントクリンカ細骨材の絶乾密度は、JIS A 1109:2020に従い求めた。
【0047】
表2に、セメントクリンカの鉱物組成を示す。鉱物組成は、X線回折装置(ブルカージャパン社製D8 ADVANCE)および解析ソフトウェア(ブルカージャパン社製DIFFRAC plus TOPAS(Ver5.0))を用いてリードベルト法によって解析した。具体的には、各種鉱物の理論プロファイルを、粉末X線回折の結果から得られた実測プロファイルにフィッティングして各晶質相の含有率を求めた。表2に示す鉱物組成の単位は質量%である。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
実施例および比較例では、表3に示すセメントクリンカ細骨材を使用した。表3に示すセメントクリンカ細骨材は、表1および表2に示すセメントクリンカを表3に示す粗粒率になるように粉砕と分級および混合とを組み合わせて得たセメントクリンカ細骨材である。
【0051】
[実施例1~実施例26、比較例1、2]
表3に示す骨材と微粉末とを表3中のYを満たす混合比でミキサに投入した点以外、JIS R 5201:2015に準拠してモルタル組成物を調製した。
調製したモルタル組成物について、表3に示す各種項目の評価を行った。
【0052】
表3中、「流動性」の欄に示されている値は、JIS R 5201:2015に記載のフロー試験によって測定されたフロー値である。
【0053】
表3中、「凝結」の「始発」の欄に示されている値は、JIS A 1147:2019に記載の方法によって測定されたコンクリートの始発時間(貫入抵抗値が3.5N/mmになるまでの時間)であり、「終結」の欄に示されている値は、同JIS記載の方法によって測定された終結時間(貫入抵抗値が28.0N/mmになるまでの時間)である。
【0054】
表3中、「強度」の欄に示されている値は、JIS R 5201:2015に記載の方法によって測定された材齢28日(28日以上±8時間)の圧縮強度である。
【0055】
表3中、「収縮」の欄に示されている値は、JIS A 1129-1:2010の付属書A(参考)に記載の「モルタル及びコンクリートの乾燥による自由収縮ひずみ試験方法」によって求められた値である。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に示すように、式1を満たすようにセメントクリンカ細骨材と高炉スラグ微粉末とを混合した実施例1~20のモルタル組成物は、式1を満たさない比較例1、2のモルタル組成物と比べて、優れた流動性の評価結果を示した。
また、表3に示す「強度」の評価結果から、式1を満たすようにセメントクリンカ細骨材と高炉スラグ微粉末とを混合することによって、使用上の安全確保が困難な高アルカリ性材料および高アルカリ濃度のアルカリ刺激材を使用することなく、普通ポルトランドセメントおよびセメント協会製標準砂を用いた場合(参考例)と同等以上の強度の硬化体が得られたことを確認できる。
表3に示す「凝結」の評価結果から、式1を満たすようにセメントクリンカ細骨材と高炉スラグ微粉末とを混合することによって、実用上十分使用可能なモルタル組成物が得られたことを確認できる。
【0058】
表3に示す実施例15、26と実施例21~25との対比から、微粉末として高炉スラグ微粉末に加えて石灰石微粉末(実施例21)または石灰石微粉末と石膏微粉末(実施例22~25)とを所定の割合で高炉スラグ微粉末と併用することによって、硬化体の乾燥収縮の抑制および膨張の抑制が可能であることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の一態様は、セメント、コンクリート等の製造分野において有用である。