(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141578
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】スパークプラグ用絶縁体およびスパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/38 20060101AFI20241003BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20241003BHJP
H01T 21/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01T13/38
H01T13/20 B
H01T13/20 E
H01T21/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053309
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治樹
(72)【発明者】
【氏名】藤村 研悟
(72)【発明者】
【氏名】木場 琢人
【テーマコード(参考)】
5G059
【Fターム(参考)】
5G059AA03
5G059AA10
5G059CC02
5G059DD04
5G059FF01
5G059FF02
5G059FF14
(57)【要約】
【課題】曲げ強さと熱衝撃性とを向上できるスパークプラグ用絶縁体およびスパークプラグを提供する。
【課題手段】スパークプラグ用絶縁体を曲げる力をスパークプラグ用絶縁体に加えて破壊したときに、破壊によってできた破面を、力の方向に垂直な平面であって軸線を含む平面で2分割した範囲のうち破壊の起点を含む範囲は、範囲の平面画像に現れる粒子の面積の平均が4.4μm
2以上8.0μm
2以下である。粒子の面積の最大が600μm
2以下であり、粒子は、面積が60μm
2以上600μm
2以下である大粒子を含み、大粒子は平面画像の単位面積あたり0.1個/mm
2以上存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延びる軸孔が設けられたアルミナ基焼結体からなるスパークプラグ用絶縁体であって、
前記スパークプラグ用絶縁体を曲げる力を前記スパークプラグ用絶縁体に加えて破壊したときに、
破壊によってできた破面を、前記力の方向に垂直な平面であって前記軸線を含む平面で2分割した範囲のうち破壊の起点を含む範囲は、
前記範囲の平面画像に現れる粒子の面積の平均が4.4μm2以上8.0μm2以下であり、前記粒子の面積の最大が600μm2以下であり、
前記粒子は、面積が60μm2以上600μm2以下である大粒子を含み、
前記大粒子は、前記平面画像の単位面積あたり0.1個/mm2以上存在するスパークプラグ用絶縁体。
【請求項2】
前記大粒子は、前記平面画像の単位面積あたり6.2個/mm2以下存在する請求項1記載のスパークプラグ用絶縁体。
【請求項3】
前記粒子は、面積が20μm2以上59μm2以下である小粒子を含み、
前記小粒子は、前記平面画像の単位面積あたり613個/mm2以上2270個/mm2以下存在する請求項1又は2に記載のスパークプラグ用絶縁体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のスパークプラグ用絶縁体を備えるスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパークプラグ用絶縁体およびスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ基焼結体からなる絶縁体を備えるスパークプラグにおいて、絶縁体の機械的強度を高めるため、絶縁体の結晶粒の平均粒径を1.5μm以下、かつ、結晶粒の粒子径分布の標準偏差を1.2μm以下にする先行技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術において絶縁体の曲げ強さと熱衝撃性の向上の要求がある。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、曲げ強さと熱衝撃性とを向上できるスパークプラグ用絶縁体およびスパークプラグの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の第1の態様は、軸線に沿って延びる軸孔が設けられたアルミナ基焼結体からなるスパークプラグ用絶縁体であって、スパークプラグ用絶縁体を曲げる力をスパークプラグ用絶縁体に加えて破壊したときに、破壊によってできた破面を、力の方向に垂直な平面であって軸線を含む平面で2分割した範囲のうち破壊の起点を含む範囲は、範囲の平面画像に現れる粒子の面積の平均が4.4μm2以上8.0μm2以下であり、粒子の面積の最大が600μm2以下である。粒子は、面積が60μm2以上600μm2以下である大粒子を含み、大粒子は、平面画像の単位面積あたり0.1個/mm2以上存在する。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、大粒子は、平面画像の単位面積あたり6.2個/mm2以下存在する。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、粒子は、面積が20μm2以上59μm2以下である小粒子を含み、小粒子は、平面画像の単位面積あたり613個/mm2以上2270個/mm2以下存在する。
【0009】
第4の態様はスパークプラグであって、第1から第3の態様のいずれかのスパークプラグ用絶縁体を備える。
【発明の効果】
【0010】
スパークプラグ用絶縁体の平面画像に現れる粒子の面積の平均が4.4μm2以上8.0μm2以下であり、粒子の面積の最大が600μm2以下であり、面積が60μm2以上600μm2以下である大粒子が、平面画像の単位面積あたり0.1個/mm2以上存在するため、曲げ強さと熱衝撃性とを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は一実施の形態におけるスパークプラグ10の軸孔12の軸線Cを境にして外形図と全断面図とを組み合わせた片側断面図である。
図1の紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という。スパークプラグ10は絶縁体11(スパークプラグ用絶縁体)を備えている。絶縁体11は、軸線Cに沿って延びる軸孔12が設けられた円筒状の部材であり、高温下の絶縁性や機械的特性に優れるアルミナ基焼結体である。
【0013】
絶縁体11の軸孔12に棒状の金属製の中心電極13が配置されている。中心電極13は、熱伝導性に優れる芯材が母材に埋設されている。母材は、Niを主体とする合金またはNiからなる金属材料で形成されている。芯材は銅または銅を主成分とする合金で形成されている。芯材は省略できる。
【0014】
端子金具14は点火装置(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具14は先端側が絶縁体11の軸孔12の中に配置され、端子金具14の後端側は絶縁体11から突出している。端子金具14は軸孔12の中で中心電極13に電気的に接続されている。
【0015】
主体金具15は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具15は絶縁体11の外周に配置されている。主体金具15の先端側におねじ16が設けられている。
【0016】
接地電極17は、主体金具15に接続された棒状の金属製(例えばニッケル基合金製)の部材である。接地電極17と中心電極13との間に火花ギャップが形成されている。
【0017】
スパークプラグ10は例えば以下のような方法によって製造される。絶縁体11の軸孔12に中心電極13を挿入した後、ガラス成分を含む導電性の粉末を軸孔12に充填する。軸孔12の後端側から端子金具14を挿入した後、例えば粉末に含まれるガラス成分の軟化点より高い温度まで加熱しつつ端子金具14を圧入して、端子金具14によって粉末に軸方向の荷重を加える。粉末を圧縮・焼結し、軸孔12の中で中心電極13と端子金具14とを電気的に接続する。次いで接地電極17が接続された主体金具15を絶縁体11の外周に組み付けた後、接地電極17を屈曲し、接地電極17と中心電極13との間に火花ギャップを設定してスパークプラグ10を得る。
【0018】
絶縁体11の製造方法の一例を説明する。絶縁体11は、スラリー作製、脱泡、造粒、成形、研削、焼成の各工程を経て製造される。以下、順に説明する。
【0019】
スラリー作製工程は、原料粉末、バインダー及び溶媒を混合してスラリーを作製する工程である。原料粉末は、主成分として、焼成によりアルミナに転化する化合物の粉末(以下「Al化合物粉末」と称す)が使用される。Al化合物粉末としては、例えばアルミナ粉末が使用される。
【0020】
スラリー作製工程では、原料粉末の混合および粉砕を目的とした粉砕工程が行われる。粉砕工程は、ボールミル等を使用した湿式粉砕機を用いて行われる。湿式粉砕機で使用する玉石の直径は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、好ましくは2mm以上20mm以下であり、より好ましくは2mm以上10mm以下であり、更に好ましくは2mm以上6mm以下である。玉石は直径が互いに異なる2種以上のものを組み合わせてもよい。このような粉砕工程により、原料粉末は、粒度(粒径)のばらつきが小さく、シャープな粒度分布を備えたものとなる。このような原料粉末を用いると、焼結後に得られるアルミナ基焼結体において、粒子の大きさを制御できると共に焼結密度を高くできる。
【0021】
Al化合物粉末(アルミナ粉末等)の粒径(粉砕後の粒径)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、1.5μm以上が好ましく、1.7μm以上がより好ましく、2.5μm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましい。Al化合物粉末の粒径がこのような範囲であると、絶縁体の欠陥数が抑制されると共に、適度な焼結密度が得られる。粒径はレーザ回折法(日機装株式会社製、マイクロトラック粒度分布測定装置、製品名「MT-3000」)により測定される体積基準のメジアン径(D50)である。
【0022】
Al化合物粉末は、焼成後のアルミナ基焼結体の質量(酸化物換算)を100質量%としたときに、酸化物換算で90質量%以上となるように調製されることが好ましい。より好ましくは90質量%以上98質量%以下、更に好ましくは90質量%以上97質量%以下である。本発明の目的を損なわない限り、原料粉末には、Al化合物粉末以外の粉末が含まれてもよい。
【0023】
バインダーは、原料粉末の成形性の向上等を目的として、スラリー中に添加される。このようなバインダーとしては、ポリビニルアルコール、水性アクリル樹脂、アラビアゴム、デキストリン等の親水性結合剤が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。バインダーの配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、原料粉末100質量部に対して、1-10質量部の割合で配合され、好ましくは3-7質量部の割合で配合される。
【0024】
溶媒は、原料粉末等を分散させる等の目的で使用される。溶媒としては、例えば水、アルコール等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶媒の配合量は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば原料粉末100質量部に対して、23-40質量部の割合で配合され、好ましくは25-35質量部の割合で配合される。スラリーには必要に応じて原料粉末、バインダー及び溶媒以外の他の成分が配合されてもよい。スラリーの混合には、公知の撹拌・混合装置等を利用することができる。
【0025】
作製したスラリーを必要に応じて脱泡してもよい。脱泡工程では、例えば混合(混錬)後のスラリーの入った容器を、真空脱泡装置内に配置し、減圧して低気圧環境下に置くことで、スラリー内に含まれる気泡が取り除かれる。脱泡前後のスラリーの密度を比較することで、スラリー中の気泡量を把握することができる。
【0026】
造粒工程は、原料粉末等を含むスラリーから、球状の造粒粉を作製する工程である。スラリーから造粒粉を作製する方法としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えばスプレードライ法が挙げられる。スプレードライ法では、所定のスプレードライヤー装置を利用して、スラリーを噴霧乾燥することにより、所定の粒径を備えた造粒粉が得られる。造粒粉の粒径は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば212μm pass≧95%以下が好ましく、180μm pass≧95%以下がより好ましい。
【0027】
成形工程は、成形型を利用して造粒粉を所定形状に成形して成形体を得る工程である。成形工程は、ラバープレス成形や金型プレス成形等によって行われる。本実施形態の場合、成形型(例えばラバープレス成形機の内ゴム型及び外ゴム型)を外周側から印加する圧力(プレス昇圧速度)は、段階的に上昇するように調整される。また、従来よりも高い圧力の範囲(例えば100MPa以上)に調整されることが好ましい。なお、圧力の上限値は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば200MPa以下に調整されてもよい。
【0028】
研削工程は、成形工程後に得られた成形体の加工取り代の除去や成形体の表面を研磨等する工程である。研削工程では、レジノイド砥石等を研削することにより、加工取り代の除去や成形体の表面の研磨等が行われる。このような研削工程により、成形体の形状が整えられる。
【0029】
焼成工程は、研削工程により形状が整えられた成形体を焼成して、絶縁体を得る工程である。焼成工程では、例えば大気雰囲気下、1450℃以上1650℃以下で1-8時間焼成する。焼成後、成形体を冷却することにより、アルミナ基焼結体からなる絶縁体11が得られる。
【0030】
絶縁体11は脆性材料であり引張応力に弱く、絶縁体11を曲げる力が加わると、絶縁体11に内在する気孔や欠陥から亀裂が進展する。絶縁体11を破壊してできた破面の組織を観察することにより、絶縁体11に内在する欠陥等を明らかにできる。JIS R1601:2008に規定された3点曲げ試験や4点曲げ試験、JIS B8031:2006に規定された絶縁体曲げ強度試験など、種々の手段を用いて絶縁体11に引張力を加えて破壊し、絶縁体11に破面を作ることができる。
【0031】
図1を参照してJIS B8031:2006に規定された絶縁体曲げ強度試験を説明する。スパークプラグ10のおねじ16を、規定の最大トルクで鉄製のジグ18に締め付け、スパークプラグ10をジグ18に固定した後、絶縁体11の後端から5mm以内の位置に、軸線Cに垂直な力Fを加える。絶縁体11に衝撃を加えずに力Fで絶縁体11を10mm/分以下の速度で押し、絶縁体11を破壊して破面を作る。
【0032】
図2は絶縁体11の破面の模式図である。絶縁体11に加えた力F(
図1参照)の方向に垂直な平面であって軸線Cを含む平面20で破面(軸孔12の周囲の円環)を2分割した範囲21,22のうち、破壊の起点を含む範囲21は、主に引張力が加わってできた面である。範囲22は、範囲21にできた亀裂が進展してできた面である。焼成時に異常に成長した粒子は、絶縁体11に内在する欠陥の一つである。走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、破壊の起点を含む範囲21(本実施形態では力Fを加えた側を含む面)の組織を観察し、範囲21の粒子の大きさや分布を調べる。
【0033】
範囲21の全体を1枚のSEM画像に収めても粒子の大きさを確認できないため、範囲21の全体を複数の部分に分けて、部分ごとにSEM画像(平面画像)を取得する。SEM画像は、範囲21を縦985μm横1231μmの大きさの長方形の部分に分けて低倍率(例えば100倍)に拡大したものが例示される。範囲21は円環を半分に切断した形であるため、SEM画像の中には範囲21の内側の軸孔12や範囲21の外側の空間が長方形の画像の一部に写っているものがあるが、画像の一部に範囲21以外の空白が存在する画像も含めて、範囲21の全体のSEM画像を取得する。
【0034】
範囲21の全体の低倍率のSEM画像を取得した後、公知の画像解析ソフト(例えばWinROOF(登録商標)、三谷商事株式会社製)を利用して画像解析を行う。画像解析ではSEM画像に付記されているスケールバーを基にSEM画像の大きさをそれぞれ較正した後、画像のエッジを抽出するために、SEM画像の2値化処理を行う。2値化処理では、SEM画像の各画素の輝度(明度)が、所定の閾値(例えば閾値0-25)を用いて二階調化される。画素を二階調化して中間階調を無くすことにより、粒界が強調された2値化画像が得られる。
【0035】
範囲21の2値化画像を用い、公知の画像解析の手法により粒子の面積を求め、範囲21に含まれる全ての粒子のうち、面積が60μm2以上600μm2以下である粒子(以下「大粒子」と称す)の数を数える。焼成時に異常成長した粒子は、破壊の起点となる可能性が高い欠陥の一つである。絶縁体11は欠陥が集中したところが破壊の起点となるため、焼成時に異常成長した粒子が存在すれば範囲21に現出している。
【0036】
異常成長した粒子による欠陥を低減し、絶縁体11の曲げ強さを確保するため、範囲21の平面画像に存在する粒子は、面積の最大が600μm2以下である。範囲21の平面画像に存在する粒子は、面積の最大が60μm2以上であることが望ましい。絶縁体11の靭性を確保し熱衝撃性を確保するためである。
【0037】
絶縁体11は範囲21の平面画像に単位面積あたり0.1個/mm2以上の大粒子が存在している。大粒子の存在により絶縁体11の靭性を確保できる。大粒子の存在は、範囲21の平面画像に単位面積あたり6.2個/mm2以下であることが好ましい。絶縁体11の曲げ強度を確保するためである。
【0038】
大粒子の数を調べた低倍率のSEM画像とは別に、範囲21の縦100μm横163μmの大きさの長方形の部分を拡大した高倍率のSEM画像を無作為に10個取得する。高倍率のSEM画像は全体に範囲21が写っているように、画像の一部に範囲21以外の空白ができないように、画像を取得する位置を設定する。高倍率のSEM画像を取得した後は、低倍率のSEM画像にした処理と同様の画像解析を行い、粒界が強調された2値化画像を得る。
【0039】
範囲21の2値化画像を用い、公知の画像解析の手法により、10個の画像に現れている全ての粒子の面積を求め、粒子1個あたりの面積(平均)を求める。10個の画像の中に大粒子が含まれていても、大粒子も1つの粒子として面積に加える。画像の縁で粒子が切れている場合は、画像に現れている部分を1つの粒子として面積に加える。絶縁体11は粒子の面積の平均が4.4μm2以上8.0μm2以下である。絶縁体11の曲げ強さと熱衝撃性とを向上するためである。
【0040】
なお、粒子の面積の平均が4.4μm2未満であると、絶縁体11の靭性が低下し熱衝撃性が低下する傾向がみられる。粒子の面積の平均が8.0μm2を超えると、粒子間の気孔が大きくなり曲げ強さが低下する傾向がみられる。曲げ強さの確保のために、絶縁体11の気孔率は5%以下であると好ましい。
【0041】
公知の画像解析の手法により、10個の画像に含まれる全ての粒子のうち、面積が20μm2以上59μm2以下である粒子(以下「小粒子」と称す)の数を数える。絶縁体11は10個の画像の単位面積あたり613個/mm2以上2270個/mm2以下の小粒子が存在していると好ましい。小粒子の存在により絶縁体11の熱衝撃性と曲げ強度とを向上させるためである。
【実施例0042】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(絶縁体の作製)
実施形態で例示したスパークプラグ10の絶縁体11と基本的な構成が同じである絶縁体を、サンプルNo.1から12まで、実施形態と同様の方法で2本ずつ作製した。サンプルNo.4の絶縁体は、スラリー作製工程において原料粉末を湿式粉砕機で粉砕する際、直径2mmの玉石と直径6mmの玉石とをそれぞれ50質量%、50質量%の割合で混ぜて使用した。サンプルNo.3,5-8の絶縁体は、スラリー作製工程において原料粉末を粉砕するときに用いる玉石の割合を適宜変更した以外は、サンプルNo.4と同様にして作製した。
【0044】
サンプルNo.1の絶縁体は、スラリー作製工程において原料粉末を湿式粉砕機で粉砕する際、直径8mmの玉石と直径12mmの玉石をそれぞれ50質量%、50質量%の割合で混ぜて使用した。サンプルNo.2,9-12の絶縁体は、スラリー作製工程において原料粉末を粉砕するときに用いる玉石の割合を適宜変更した以外は、サンプルNo.1と同様にして作製した。
【0045】
(絶縁体曲げ強度試験)
2本ずつ作製したサンプルNo.1-12の絶縁体の1本ずつを使って、実施形態で説明したスパークプラグ10のサンプルを1本ずつ作製した。サンプルは、JIS B8031:2006に規定された絶縁体曲げ強度試験に準じ、スパークプラグ10を規定の最大トルクでジグ18に締め付けた後、絶縁体11の後端から5mm以内の位置に、軸線Cに垂直な力Fを加え、絶縁体11が破壊するまで、絶縁体11に衝撃を加えずに絶縁体11を10mm/分以下の速度で押した。絶縁体11が破壊したときの力Fの大きさ(曲げ強度)が7.5kN以上のサンプルはAと判定し、曲げ強度が7.5kN未満のサンプルはCと判定した。
【0046】
【0047】
(絶縁体の破面観察)
絶縁体曲げ強度試験で破壊した絶縁体11の破面を、絶縁体11に加えた力Fの方向に垂直な平面であって軸線Cを含む平面20で2分割して2つの範囲21,22を設定した後、範囲21,22のうち破壊の起点を含む範囲21の組織をSEM(JEM-IT300LA、日本電子株式会社製)で観察した。
【0048】
範囲21の全体を複数の部分に分けて、縦985μm横1231μmの大きさの長方形の部分を低倍率(100倍)に拡大したSEM画像を複数取得した。画像処理ソフトWinROOF2013(WinROOFは登録商標)による処理を実行して2値化画像を得た後、画像解析により、最も大きい粒子の面積、及び、面積が60μm2以上600μm2以下である大粒子の単位面積あたりの数(小数第2位を四捨五入した数)を求めた。最も大きい粒子の面積は表1の「最大」の欄に記し、大粒子の単位面積あたりの数は表1の「大粒子の数」の欄に記した。
【0049】
範囲21の中の10か所を無作為に選択し、縦100μm横163μmの大きさの長方形の部分を拡大した高倍率のSEM画像を10個取得し、画像処理によって2値化画像を得た後、画像解析により、粒子1個あたりの面積(小数第2位を四捨五入した平均)、及び、面積が20μm2以上59μm2以下である小粒子の単位面積あたりの数(小数第1位を四捨五入した数)を求めた。粒子1個あたりの面積(平均)は表1の「平均」の欄に記し、小粒子の単位面積あたりの数は表1の「小粒子の数」の欄に記した。
【0050】
(熱衝撃試験)
サンプルNo.1-12の絶縁体11を、所定の温度に保った恒温槽の中でそれぞれ30分間保管した後、直ちに20℃の水中に投入し急冷した。水中に投入するときの絶縁体11の姿勢は、絶縁体11の軸線Cと水面とが平行になるようにした。水中から取り出した絶縁体11の割れの有無は、浸透探傷液を塗布して目視で確認した。絶縁体11を保管した恒温槽の温度は、絶縁体11に割れが見つかるまで150℃から10℃刻みで上昇させ、絶縁体11に割れが見つかったときの恒温槽の温度と水温(20℃)との温度差(臨界温度差)が240℃以上のサンプルは熱衝撃性をAと判定し、230℃以上240℃未満のサンプルはBと判定し、220℃未満のサンプルはCと判定した。
【0051】
表1に示すように粒子の面積の平均が4.4μm2以上8.0μm2以下であり、面積の最大が600μm2以下であり、大粒子の数が0.1個/mm2以上であるサンプルNo.3-8は曲げ強度の判定がAであり、熱衝撃性の判定がA又はBであった。
【0052】
一方、粒子の面積の平均が4.4μm2以上8.0μm2以下であり、面積の最大が600μm2以下であっても、大粒子の数が0.1個/mm2未満であるサンプルNo.2は、曲げ強度の判定はAであったが、熱衝撃性の判定がCであった。熱衝撃性を確保するために適度な数の大粒子の存在が有効であることが確認された。大粒子が適度に存在すると絶縁体の靭性が向上すると推定される。
【0053】
サンプルNo.2は粒子の面積の最大が60μm2未満であったため、大粒子の数は0個/mm2であった。サンプルNo.2は粒子の面積の最大が60μm2未満であったため、熱衝撃性の判定がCであったとも考えられる。面積の最大が60μm2以上であることは、絶縁体の靭性の向上に有効であると推定される。
【0054】
粒子の面積の最大が600μm2以下であり、大粒子の数が0.1個/mm2以上であっても、面積の平均が4.4μm2未満のサンプルNo.1は、曲げ強度の判定はAであったが、熱衝撃性の判定がCであった。面積の平均が4.4μm2未満であると、熱衝撃性が低下することが確認された。
【0055】
粒子の面積の平均が4.4μm2以上8.0μm2以下であり、大粒子の数が0.1個/mm2以上であっても、面積の最大が600μm2を超えるサンプルNo.9,10は、熱衝撃性の判定はAであったが、曲げ強度の判定がCであった。面積の最大が600μm2を超えると、曲げ強度が低下する傾向がみられることが確認された。
【0056】
粒子の面積の最大が600μm2以下であり、大粒子の数が0.1個/mm2以上であっても、面積の平均が8.0μm2を超えるサンプルNo.11,12は、熱衝撃性の判定はAであったが、曲げ強度の判定がCであった。面積の平均が8.0μm2を超えると、曲げ強度が低下する傾向がみられることが確認された。
【0057】
サンプルNo.12は大粒子の数が7.8個/mm2であり、大粒子の数が多かったため、大粒子を含む粒子の面積の平均が10.1μm2であった。粒子の面積の平均を4.4μm2以上8.0μm2以下の範囲にするために、大粒子の数はサンプルNo.8のように6.2個/mm2以下が好適であった。
【0058】
粒子の面積の平均が4.4μm2以上8.0μm2以下であり、面積の最大が600μm2以下であり、大粒子の数が0.1個/mm2以上であり、さらに小粒子の数が613個/mm2以上2270個/mm2以下のサンプルNo.4-8は曲げ強度の判定も熱衝撃性の判定もAであった。小粒子の存在が613個/mm2以上2270個/mm2以下であることは熱衝撃性の向上に有効であることがわかった。
【0059】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば絶縁体11の形状は一例であり適宜設定できる。
【0060】
実施形態ではJIS B8031:2006に規定されたスパークプラグの絶縁体曲げ強度試験に準じ、絶縁体11を破壊して破面を作る場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。中心電極13や主体金具15等を組み付けてスパークプラグの姿にする前の絶縁体11は、JIS R1601:2008に規定された3点曲げ試験や4点曲げ試験に準じ、破壊して破面を作ることは当然可能である。
【0061】
JIS R1601:2008に規定された3点曲げ試験や4点曲げ試験では、2つの支点で支えた絶縁体11の支点間に力を加え、絶縁体11を破壊する。支点が接する側が破壊の起点を含む範囲21となる。
【0062】
実施形態ではエンジン(図示せず)にスパークプラグ10を取り付けたときに燃焼室に接地電極17が露出するスパークプラグ10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。貫通孔が設けられたキャップで接地電極17が覆われたスパークプラグ(燃焼室に副室を設けるスパークプラグ)に実施形態の構成を適用することは当然可能である。
【0063】
実施形態では中心電極13と接地電極17との間に火花放電が生じるスパークプラグ10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。中心電極13の周囲に発生する非平衡プラズマを利用するスパークプラグに実施形態の構成を適用することは当然可能である。