(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141591
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】水槽試験における解析区間選定の自動化方法、自動化プログラム、及び自動化システム
(51)【国際特許分類】
G01M 10/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01M10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053328
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】濱田 達也
(72)【発明者】
【氏名】辻本 勝
【テーマコード(参考)】
2G023
【Fターム(参考)】
2G023BA01
2G023BB35
2G023BB46
2G023BD01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水槽試験における解析区間の選定を自動化することができる解析区間選定の自動化方法、水槽試験自動化プログラム、及び水槽試験の自動化システムを提供する。
【解決手段】解析区間選定の自動化方法においては、模型船の水槽試験における解析区間の選定を自動的に行う方法であって、模型船の水槽試験で取得する試験データを統計解析して標準偏差を求め、標準偏差の小さい区間を試験データの解析区間とし、解析区間であることの判断のための閾値として標準偏差の最大値を標準偏差閾値として予め試験開始前に設定しておき、標準偏差閾値以下の区間を解析区間として選定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
模型船の水槽試験における解析区間の選定を自動的に行う方法であって、
前記模型船の前記水槽試験で取得する試験データを統計解析して標準偏差を求め、
前記標準偏差の小さい区間を前記試験データの前記解析区間とし、
前記解析区間であることの判断のための閾値として標準偏差の最大値を標準偏差閾値として予め試験開始前に設定しておき、前記標準偏差閾値以下の区間を前記解析区間として選定することを特徴とする解析区間選定の自動化方法。
【請求項2】
前記模型船の前記水槽試験は平水中試験と波浪中試験の2種類の試験であり、前記平水中試験は平水中抵抗試験、平水中自航試験、又はプロペラ単独試験のいずれか一つであり、前記波浪中試験は波浪中抵抗試験又は波浪中自航試験のいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項3】
前記解析区間は試験設備としての曳引電車の対地速度の標準偏差が予め設定した前記対地速度の対地速度変動閾値を超えない区間から選定し、
さらに、模型クランプ装置が開き前記模型船を拘束していない区間の中から選定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項4】
前記平水中試験及び前記波浪中試験において、プロペラ回転数の変更を伴う前記平水中自航試験、前記プロペラ単独試験、又は前記波浪中自航試験のいずれかの場合には前記プロペラ回転数の変動が予め設定した閾値以下の区間を前記解析区間として選定することを特徴とする請求項2に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項5】
前記模型船に作用する水の速度を対水速度とし、前記曳引電車に取りつけた対水速度計で前記対水速度を計測し、前記対水速度と前記対地速度の偏差が±1%以上の区間を前記解析区間から除くこと特徴とする請求項3に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項6】
前記平水中試験において前記模型クランプ装置が開き前記模型船を拘束していない状態において、前記曳引電車の停止時からの模型船沈下量の過渡応答の波形が十分に減衰し変動が整定した後の区間を前記解析区間として選定することを特徴とする請求項2を引用する請求項3に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項7】
前記平水中試験において前記解析区間の選定を行った結果として前記解析区間が残らなかった場合は再試験を行うことを特徴とする請求項2に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項8】
前記波浪中試験では、前記試験データの出会波高の振幅変動の標準偏差の最大値を波高変動閾値として前記出会波高の前記振幅変動が前記波高変動閾値以下の区間を前記解析区間として選定することを特徴とする請求項2に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項9】
前記波浪中試験において計測時間の長さを出会波周期の整数倍とすることを特徴とする請求項2又は請求項8に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項10】
前記波浪中試験において前記解析区間の選定を行った結果として前記解析区間が残らなかった場合は再試験を行うことを特徴とする請求項2又は請求項8に記載の解析区間選定の自動化方法。
【請求項11】
コンピュータに、
解析区間選定の自動化に必要な標準偏差閾値として、対地速度変動閾値と、プロペラ回転数変動閾値と、波高変動閾値とを入力する閾値入力ステップと、
試験データの統計解析により標準偏差を求める統計解析ステップと、
前記閾値入力ステップで入力した各閾値と前記標準偏差とを比較する比較ステップを実行させ、水槽試験の解析区間選定を自動化することを特徴とする水槽試験自動化プログラム。
【請求項12】
模型船と、曳引電車を備えた試験水槽と、試験手段を備え、請求項2に記載の模型船の水槽試験における解析区間の選定を自動化することを特徴とする水槽試験の自動化システム。
【請求項13】
模型船と、曳引電車を備えた試験水槽と、試験手段を備え、請求項11に記載の水槽試験自動化プログラムにより水槽試験を自動化することを特徴とする水槽試験の自動化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、模型船の水槽試験における解析区間の選定を自動的に行う解析区間選定の自動化方法、水槽試験自動化プログラム、及び水槽試験の自動化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水槽試験にて計測した時系列の解析区間は、水槽の位置又は時系列データを見て波形がばらついていない区間を探して決めている。
ここで、特許文献1には、模型船本体と、模型船本体の喫水を設定する喫水設定手段と、模型船本体の喫水を調整する喫水調整手段と、模型船本体の喫水を検出する喫水検出手段と、喫水設定手段で設定した喫水を得るように喫水検出手段で喫水を検出して喫水調整手段を制御する制御手段とを備え、喫水の調整を自動で行う模型船試験の自動化システムが開示されている。
また、特許文献2には、試験対象装置の試験に用いる試験信号を発生させる信号発生器と、試験信号を測定する測定器と、信号発生器と試験対象装置との間で試験信号の出力先を切り替える信号切替器と、信号発生器、測定器、および信号切替器を制御する試験制御装置と、を備え、試験制御装置は、試験信号に応じて試験対象装置から出力された出力値と、測定器の測定値とに基づいて工学値を出力する工学値出力部と、工学値が許容範囲内であるか否か判断し、許容範囲外の場合に工学値を分析して修正情報を生成し、生成した修正情報を試験対象装置へ送信する自動修正部と、を含む自動入出力試験装置が開示されている。
また、非特許文献1には、ミニコンピュータを用いてシステムを構成し、曳引車運転制御装置や計測装置と有機的に結合するように計画した自動水槽試験システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-162479号公報
【特許文献2】特開2018-77676号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】池畑光尚,外4名,“明石船型研究所における自動水槽試験システムについて”,関西造船協会誌,昭和49年12月,第155号,p.133-149
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解析区間選定を自動化できれば水槽試験の自動化が促進されるが、特許文献1、2及び非特許文献1には、解析区間の選定を自動化する方法は記載されていない。
そこで本発明は、水槽試験における解析区間の選定を自動化することができる解析区間選定の自動化方法、水槽試験自動化プログラム、及び水槽試験の自動化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載に対応した解析区間選定の自動化方法においては、模型船の水槽試験における解析区間の選定を自動的に行う方法であって、模型船の水槽試験で取得する試験データを統計解析して標準偏差を求め、標準偏差の小さい区間を試験データの解析区間とし、解析区間であることの判断のための閾値として標準偏差の最大値を標準偏差閾値として予め試験開始前に設定しておき、標準偏差閾値以下の区間を解析区間として選定することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、水槽試験における解析区間の選定を自動化することができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、模型船の水槽試験は平水中試験と波浪中試験の2種類の試験であり、平水中試験は平水中抵抗試験、平水中自航試験、又はプロペラ単独試験のいずれか一つであり、波浪中試験は波浪中抵抗試験又は波浪中自航試験のいずれか一つであることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、平水中試験又は波浪中試験において解析区間の選定を自動化することができる。
【0008】
請求項3記載の本発明は、解析区間は試験設備としての曳引電車の対地速度の標準偏差が予め設定した対地速度の対地速度変動閾値を超えない区間から選定し、さらに、模型クランプ装置が開き模型船を拘束していない区間の中から選定することを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、曳引電車の対地速度の変動が所定以下の区間、又は模型船が模型クランプ装置に拘束されていない区間を解析区間として選定可能となる。
【0009】
請求項4記載の本発明は、平水中試験及び波浪中試験において、プロペラ回転数の変更を伴う平水中自航試験、プロペラ単独試験、又は波浪中自航試験のいずれかの場合にはプロペラ回転数の変動が予め設定した閾値以下の区間を解析区間として選定することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、プロペラ回転数の変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0010】
請求項5記載の本発明は、模型船に作用する水の速度を対水速度とし、曳引電車に取りつけた対水速度計で対水速度を計測し、対水速度と対地速度の偏差が±1%以上の区間を解析区間から除くこと特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、対水速度と対地速度との差が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0011】
請求項6記載の本発明は、平水中試験において模型クランプ装置が開き模型船を拘束していない状態において、曳引電車の停止時からの模型船沈下量の過渡応答の波形が十分に減衰し変動が整定した後の区間を解析区間として選定することを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、沈下量の変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0012】
請求項7記載の本発明は、平水中試験において解析区間の選定を行った結果として解析区間が残らなかった場合は再試験を行うことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、新たな試験データに基づき改めて解析区間の選定を自動で行うことができる。
【0013】
請求項8記載の本発明は、波浪中試験では、試験データの出会波高の振幅変動の標準偏差の最大値を波高変動閾値として出会波高の振幅変動が波高変動閾値以下の区間を解析区間として選定することを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、出会波高の振幅変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0014】
請求項9記載の本発明は、波浪中試験において計測時間の長さを出会波周期の整数倍とすることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、解析区間をより適切に選定可能となる。
【0015】
請求項10記載の本発明は、波浪中試験において解析区間の選定を行った結果として解析区間が残らなかった場合は再試験を行うことを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、新たな試験データに基づき改めて解析区間の選定を自動で行うことができる。
【0016】
請求項11記載に対応した水槽試験自動化プログラムにおいては、コンピュータに、解析区間選定の自動化に必要な標準偏差閾値と、対地速度変動閾値と、プロペラ回転数変動閾値と、波高変動閾値とを入力する閾値入力ステップと、試験データの統計解析により標準偏差を求める統計解析ステップと、閾値入力ステップで入力した各閾値と標準偏差とを比較する比較ステップを備え、水槽試験の解析区間選定を自動化することを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、コンピュータに水槽試験自動化プログラムを実行させて水槽試験の解析区間を迅速かつ精度よく自動的に選定することができる。
【0017】
請求項12記載に対応した水槽試験の自動化システムにおいては、模型船と、曳引電車を備えた試験水槽と、試験手段を備え、請求項2に記載の模型船の水槽試験における解析区間の選定を自動化することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、解析区間選定の自動化方法を実行するシステムによって水槽試験の解析区間を迅速かつ精度よく自動的に選定することができる。
【0018】
請求項13記載に対応した水槽試験の自動化システムにおいては、模型船と、曳引電車を備えた試験水槽と、試験手段を備え、請求項11に記載の水槽試験自動化プログラムにより水槽試験を自動化することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、水槽試験自動化プログラムを実行するシステムによって水槽試験の解析区間を迅速かつ精度よく自動的に選定することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の解析区間選定の自動化方法によれば、水槽試験における解析区間の選定を自動化することができる。
【0020】
また、模型船の水槽試験は平水中試験と波浪中試験の2種類の試験であり、平水中試験は平水中抵抗試験、平水中自航試験、又はプロペラ単独試験のいずれか一つであり、波浪中試験は波浪中抵抗試験又は波浪中自航試験のいずれか一つである場合には、平水中試験又は波浪中試験において解析区間の選定を自動化することができる。
【0021】
また、解析区間は試験設備としての曳引電車の対地速度の標準偏差が予め設定した対地速度の対地速度変動閾値を超えない区間から選定し、さらに、模型クランプ装置が開き模型船を拘束していない区間の中から選定する場合には、曳引電車の対地速度の変動が所定以下の区間、又は模型船が模型クランプ装置に拘束されていない区間を解析区間として選定可能となる。
【0022】
また、平水中試験及び波浪中試験において、プロペラ回転数の変更を伴う平水中自航試験、プロペラ単独試験、又は波浪中自航試験のいずれかの場合にはプロペラ回転数の変動が予め設定した閾値以下の区間を解析区間として選定する場合には、プロペラ回転数の変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0023】
また、模型船に作用する水の速度を対水速度とし、曳引電車に取りつけた対水速度計で対水速度を計測し、対水速度と対地速度の偏差が±1%以上の区間を解析区間から除く場合には、対水速度と対地速度との差が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0024】
また、平水中試験において模型クランプ装置が開き模型船を拘束していない状態において、曳引電車の停止時からの模型船沈下量の過渡応答の波形が十分に減衰し変動が整定した後の区間を解析区間として選定する場合には、沈下量の変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0025】
また、平水中試験において解析区間の選定を行った結果として解析区間が残らなかったときに再試験を行う場合には、新たな試験データに基づき改めて解析区間の選定を自動で行うことができる。
【0026】
また、波浪中試験では、試験データの出会波高の振幅変動の標準偏差の最大値を波高変動閾値として出会波高の振幅変動が波高変動閾値以下の区間を解析区間として選定する場合には、出会波高の振幅変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0027】
また、波浪中試験において計測時間の長さを出会波周期の整数倍とする場合には、解析区間をより適切に選定可能となる。
【0028】
また、波浪中試験において解析区間の選定を行った結果として解析区間が残らなかったときに再試験を行う場合には、新たな試験データに基づき改めて解析区間の選定を自動で行うことができる。
【0029】
また、本発明の水槽試験自動化プログラムによれば、コンピュータに水槽試験自動化プログラムを実行させて水槽試験の解析区間を迅速かつ精度よく自動的に選定することができる。
【0030】
また、本発明の水槽試験の自動化システムによれば、解析区間選定の自動化方法を実行するシステムによって水槽試験の解析区間を迅速かつ精度よく自動的に選定することができる。
【0031】
また、本発明の水槽試験の自動化システムによれば、水槽試験自動化プログラムを実行するシステムによって水槽試験の解析区間を迅速かつ精度よく自動的に選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態による水槽試験の自動化システムの機能構成図
【
図2】同平水中試験における解析区間の選定フロー図
【
図4】同波浪中試験における解析区間の選定フロー図
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の実施形態による解析区間選定の自動化方法、水槽試験自動化プログラム、及び水槽試験の自動化システムについて説明する。
図1は水槽試験の自動化システムの機能構成図である。
水槽試験の自動化システムは、模型船10と、曳引電車(曳引車)20を有した試験水槽30と、水槽試験を行うための試験手段40と、計測装置50と、コンピュータ61を有した制御装置60を備え、曳引電車自動運転と自動計測を行うと共に、解析区間の自動選定を行う。
試験手段(試験設備)40は、模型クランプ装置41の他、自航モータ、プロペラ単独試験(POT:Propeller Open water Test)モータ、造波機、復原力付加装置(定常力及びバネ定数変更等)等を有する。
計測装置50は、対水速度(対水流速)計51の他、対地速度(曳引車速度)計、抵抗動力計、自航動力計、運動計測装置、模型船ガイド装置、波高計等を有する。
コンピュータ61は、解析区間の分析機能として、平均値、標準偏差(又は分散)、最大値、最小値、振幅(フーリエ解析)、ヒストグラム等の一般的な統計解析ツールを有する。
【0034】
水槽試験の内容と計測項目は以下の通りである。
平水中抵抗試験:曳引電車速度(対地速度)、対水速度、抵抗、船首沈下量、船尾沈下量等。
平水中自航試験:曳引電車速度(対地速度)、対水速度、抵抗、船首沈下量、船尾沈下量、スラスト、トルク、プロペラ回転数等。
プロペラ単独試験:曳引電車速度(対地速度)、対水速度、スラスト、トルク、プロペラ回転数等。
波浪中抵抗試験(波浪中抵抗増加試験):曳引電車速度(対地速度)、力、船体運動、波高、定常力、ばね定数等。
波浪中自航試験:曳引電車速度(対地速度)、力、船体運動、波高、定常力、ばね定数、スラスト、トルク、プロペラ回転数等。
【0035】
解析区間選定の自動化方法について、平水中試験の場合と波浪中試験の場合に分けて説明する。
まずは平水中試験の場合について説明する。平水中試験は、平水中抵抗試験、平水中自航試験、又はプロペラ単独試験である。
試験開始前に、解析区間を判断するための各計測項目の閾値として、標準偏差閾値(標準偏差の許容値)を予め設定しておく。標準偏差閾値は、標準偏差の最大値であり、曳引電車20の対地速度に関する対地速度変動閾値と、プロペラ回転数に関するプロペラ回転数変動閾値と、船首沈下量に関する船首沈下量変動閾値と、模型船10の対水速度に関する対水速度変動閾値と、抵抗に関する抵抗変動閾値を設定する。また、スラスト、トルク、及び船尾沈下量等といったその他の計測項目についても、それぞれ標準偏差閾値を設定する。
標準偏差閾値は、例えば、平均値からの変動が標準偏差の何倍又は何割以上の変動が現れない区間が解析区間の候補となるように設定する。
【0036】
模型船10の平水中試験を開始すると、コンピュータ61は、水槽試験で取得する試験データを統計解析して標準偏差を求め、標準偏差の小さい区間を試験データの解析区間とする。ここでは、標準偏差閾値以下の区間を解析区間として選定する。これにより、水槽試験における解析区間の選定を自動化することができる。
【0037】
図2は平水中試験における解析区間の選定フロー図である。平水中試験では、取得した試験データから標準偏差を求めた後の解析区間の選定を、例えば以下のように行う。
まず、コンピュータ61は、対地速度計により計測された曳引電車20の対地速度の標準偏差が予め設定した対地速度変動閾値を超えない区間、又は模型クランプ装置41が開き模型船10を拘束していない区間を解析区間の候補に選定する(ステップS1-1)。なお、曳引電車20の対地速度の標準偏差が対地速度変動閾値以下であって、かつ模型クランプ装置41が開いている区間を解析区間の候補に選定することも可能である。これにより、曳引電車20の対地速度の変動が所定以下の区間、又は模型船10が模型クランプ装置41に拘束されていない区間を解析区間として選定可能となる。
また、プロペラ回転数の変更を伴う平水中自航試験、又はプロペラ単独試験を実施する場合には、プロペラ回転数の変動が予め設定したプロペラ回転数変動閾値以下の区間を解析区間の候補に選定する(ステップS1-2)。例えば、曳引電車20の対地速度が一定でプロペラ回転数が変更される場合は、回転数が一定の区間を選定する。これにより、プロペラ回転数の変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0038】
次に、模型クランプ装置41が開き模型船10を拘束していない状態において、曳引電車20の停止時からの模型船沈下量の過渡応答の波形が十分に減衰し変動が整定した後の区間を解析区間の候補に選定する(ステップS2)。例えば、船首沈下量の波形について、過渡応答の波形が十分減衰するところを選定した後、予め設定した船首沈下量変動閾値以下の区間を選定する。これにより、沈下量の変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
なお、過渡応答の波形が十分に減衰したか否かは、例えば、トレンド分析より変動の差が小さくなれば過度応答が減衰したと判定する。
【0039】
次に、曳引電車20に取りつけた対水速度計51により計測された模型船10に作用する水の速度である対水速度が予め設定した対水速度変動閾値以下の区間を解析区間の候補に選定する(ステップS3)。
曳引電車20の対地速度が整定している区間には対水速度が速い区間や遅い区間が存在するが、対水速度変動閾値以下か否かを判断することで、安定した対水速度が最長となる区間を解析区間として選定可能となる。
【0040】
次に、ステップS1、ステップS2、及びステップS3で重複して選定された区間を解析区間の候補に選定する(ステップS4)。このとき、重複して選定された区間が複数ある場合は解析区間の候補としてすべて残す。
【0041】
次に、ステップS4で選定した解析区間の候補について、抵抗動力計により計測された抵抗が抵抗変動閾値以下であるか否かを確認する(ステップS5-1)。そして、ステップS4で選定した解析区間の候補のすべてについて抵抗が抵抗変動閾値を超えている場合は、ステップS3迄で解析区間の候補に選定した区間のうち、抵抗が抵抗変動閾値以下の区間を解析区間の候補に再選定する(ステップS5-2)。
ステップS5-1又はステップS5-2の後は、さらに、抵抗の平均値に対してクロスアップからクロスアップの区間、又はクロスダウンからクロスダウンの区間を解析区間の候補に選定する(ステップS5-3)。
「クロスアップ」又は「クロスダウン」とは、抵抗の時系列が抵抗の平均値に対して上昇または下降する現象であり、「クロスアップからクロスアップの区間」又は「クロスダウンからクロスダウンの区間」とは、平均値とクロス(アップ、ダウン)するクロスポイントの間である。
【0042】
次に、その他の計測項目(スラスト、トルク、プロペラ回転数、船尾沈下量等)を含めたすべての計測項目が標準偏差閾値以下の区間を解析区間の候補として残す(ステップS6)。区間が複数ある場合は、解析区間の候補としてすべて残す。
【0043】
次に、対水速度と対地速度の偏差が±1%以上の区間は、解析区間の候補から除く(ステップS7)。これにより、対水速度と対地速度との差が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
また、プロペラ回転数の変更を伴う平水中自航試験、又はプロペラ単独試験を実施する場合には、プロペラ回転数について、設定との差が±1%以上、又は0.1rps以上の区間を解析区間の候補から除く。
【0044】
このようにして最後まで残った解析区間が、最終的な解析区間となる。
また、解析区間の選定を行った結果として解析区間が残らなかった場合は平水中試験の再試験を行う。これにより、新たな試験データに基づき改めて解析区間の選定を自動で行うことができる。
【0045】
図3は解析区間の例を示す図であり、
図3(a)は模型船の対水速度と曳引電車の対地速度を示し、
図3(b)は船首沈下量を示し、
図3(c)は抵抗を示し、
図3(d)はクランプ開閉状態を示している。
図3(a)では、解析区間の候補として第1候補と第2候補の二つが挙げられているが、船首沈下量、抵抗、及びクランプ開閉状態を考慮して、最終的には第2候補が解析区間として選定される。
【0046】
続いて波浪中試験の場合について説明する。波浪中試験は、波浪中抵抗試験、又は波浪中自航試験である。
試験開始前に、解析区間を判断するための各計測項目の閾値として、標準偏差閾値(標準偏差の許容値)を予め設定しておくことは平水中試験と同様であるが、波浪中試験の場合は、各計測項目の第一の標準偏差閾値として、1周期ごとの振幅の平均値の標準偏差の許容値を決定し、各計測項目の第二の標準偏差閾値として、波浪による変動成分を除去した定常成分の変動許容値(標準偏差)を決定する。
波浪中試験での標準偏差閾値は、曳引電車20の対地速度に関する対地速度変動閾値と、プロペラ回転数に関するプロペラ回転数変動閾値と、波高に関する波高変動閾値と、抵抗に関する抵抗変動閾値を設定する。波高変動閾値は、試験データの出会波高の振幅変動の標準偏差の最大値である。また、スラストやトルクといったその他の計測項目についても、それぞれ標準偏差閾値を設定する。
【0047】
模型船10の波浪中試験を開始すると、コンピュータ61は、水槽試験で取得する試験データを統計解析して標準偏差を求め、標準偏差の小さい区間を試験データの解析区間とする。ここでは、標準偏差閾値以下の区間を解析区間として選定する。これにより、水槽試験における解析区間の選定を自動化することができる。
【0048】
図4は波浪中試験における解析区間の選定フロー図である。波浪中試験では、取得した試験データから標準偏差を求めた後の解析区間の選定を、例えば以下のように行う。
まず、コンピュータ61は、対地速度計により計測された曳引電車20の対地速度の標準偏差が予め設定した対地速度変動閾値を超えない区間、又は模型クランプ装置41が開き模型船10を拘束していない区間を解析区間の候補に選定する(ステップS10-1)。なお、曳引電車20の対地速度の標準偏差が対地速度変動閾値以下であって、かつ模型クランプ装置41が開いている区間を解析区間に選定することも可能である。これにより、曳引電車20の対地速度の変動が所定以下の区間、又は模型船10が模型クランプ装置41に拘束されていない区間を解析区間として選定可能となる。
また、プロペラ回転数の変更を伴う波浪中自航試験を実施する場合には、プロペラ回転数の変動が予め設定したプロペラ回転数変動閾値以下の区間を解析区間の候補に選定する(ステップS10-2)。例えば、曳引電車20の対地速度が一定でプロペラ回転数が変更される場合は、回転数が一定の区間を選定する。これにより、プロペラ回転数の変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0049】
次に、波高計により計測された出会波高の振幅変動が第一の標準偏差閾値としての波高変動閾値以下の区間を解析区間の候補に選定する(ステップS11)。これにより、出会波高の振幅変動が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0050】
次に、抵抗動力計により計測された抵抗が第一の標準偏差閾値及び第二の標準偏差閾値としての抵抗変動閾値以下の区間を解析区間の候補に選定する(ステップS12)。これにより、抵抗が所定以下の区間を解析区間として選定可能となる。
【0051】
次に、計測時間の長さが、入射波及び波向と曳航速度から計算される出会波周期の整数倍となるように解析区間の候補を選定する(ステップS13)。計測時間の長さを出会波周期の整数倍とすることにより、解析区間をより適切に選定可能となる。
【0052】
次に、ステップS13までに選定した解析区間の候補について、スラストやトルクといったその他の計測項目が第一の標準偏差閾値及び第二の標準偏差閾値以下であることを確認する(ステップS14)。第一の標準偏差閾値又は第二の標準偏差閾値を超えることが確認された区間は候補から外し、それ以外の区間を候補に残す。
【0053】
このようにして最後まで残った解析区間が、最終的な解析区間となる。
また、波高の振幅の平均値と設定値の差が10%以上であるか、又はステップS14において第一の標準偏差閾値又は第二の標準偏差閾値を超えている計測項目がある場合は、それらを水槽試験における再計測の候補とする(ステップS15)。
なお、解析区間の選定を行った結果として解析区間が残らなかった場合は波浪中試験の再試験を行う。これにより、新たな試験データに基づき改めて解析区間の選定を自動で行うことができる。
【0054】
以上のように、解析区間選定の自動化方法によれば、水槽試験における解析区間の選定を自動化することができる。
また、模型船の水槽試験は平水中試験と波浪中試験の2種類の試験であり、平水中試験は平水中抵抗試験、平水中自航試験、又はプロペラ単独試験のいずれか一つであり、波浪中試験は波浪中抵抗試験又は波浪中自航試験のどちらかであることにより、平水中試験又は波浪中試験において解析区間の選定を自動化することができる。
【0055】
また、コンピュータ61に、解析区間選定の自動化に必要な標準偏差閾値として、対地速度変動閾値と、プロペラ回転数変動閾値と、波高変動閾値とを入力する(読み込ませる)閾値入力ステップ(閾値読込ステップ)と、試験データの統計解析により標準偏差を求める統計解析ステップと、閾値入力ステップで入力した(読み込んだ)標準偏差閾値と標準偏差とを比較する比較ステップ(上述した平水中試験におけるステップS1~S7、又は波浪中試験におけるステップS10~S15等)を実行させる水槽試験自動化プログラムとすることも可能である。これにより、コンピュータ61に水槽試験自動化プログラムを実行させて水槽試験の解析区間を迅速かつ精度よく自動的に選定することができる。
【0056】
また、模型船10と、曳引電車20を備えた試験水槽30と、試験手段40を備え、上述した平水中試験におけるステップS1~S7、又は波浪中試験におけるステップS10~S15等を実行することにより水槽試験における解析区間の選定を自動化する水槽試験の自動化システムとすることも可能である。これにより、解析区間選定の自動化方法を実行して水槽試験の解析区間選定を自動的に行うシステムを提供することができる。
また、模型船10と、曳引電車20を備えた試験水槽30と、試験手段40を備え、上述した水槽試験自動化プログラムにより水槽試験における解析区間の選定を自動化する水槽試験の自動化システムとすることも可能である。これにより、水槽試験自動化プログラムを実行するシステムによって水槽試験の解析区間を迅速かつ精度よく自動的に選定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、模型船を用いた水槽試験における解析区間の選定に適用することができる。試験データの解析区間の自動選定により、水槽試験の自動化を効率的に実施し、更に計測精度を高品質に管理することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
10 模型船
20 曳引電車
30 試験水槽
40 試験手段
41 模型クランプ装置
51 対水速度計
61 コンピュータ