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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141592
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】半導体素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20241003BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L29/80 F
H01L29/80 H
H01L21/28 A
H01L21/28 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053329
(22)【出願日】2023-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、環境省、革新的な省CO2実現のための部材(GaN)や素材(CNF)の社会実装・普及展開加速化事業(高効率ユニバーサルパワーコンディショナーを用いた直流グリッドシステムの開発・検証)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井手 公康
【テーマコード(参考)】
4M104
5F102
【Fターム(参考)】
4M104AA04
4M104AA07
4M104BB05
4M104BB13
4M104BB14
4M104CC01
4M104DD08
4M104DD09
4M104DD12
4M104DD34
4M104DD37
4M104DD79
4M104FF09
4M104FF11
4M104HH13
4M104HH15
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GL04
5F102GL07
5F102GM04
5F102GM07
5F102GM08
5F102GQ01
5F102GR04
5F102HC01
5F102HC15
(57)【要約】
【課題】2DEG層への良好なコンタクトが可能な半導体素子を実現する。
【解決手段】基板10と、基板10上に設けられ、III族窒化物半導体からなるチャネル層12と、チャネル層12上に接して設けられ、チャネル層12よりもAl組成が高いIII族窒化物半導体からなる障壁層13と、を有する半導体素子において、障壁層13表面の一部領域に設けられ、チャネル層12に達する深さのリセス20と、リセス20に沿って被覆するように設けられた電極と、を有し、リセスは、障壁層13が露出した面であって、基板10の主面に対して角度を有した面である第1側面と、第1側面に接続し、チャネル層12の表面が露出した面であるテラスと、テラスに接続し、チャネル層12が露出した面であって、基板の主面に対して傾斜し、その傾斜角度が第1側面よりも小さな面である第2側面と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなるチャネル層と、前記チャネル層上に接して設けられ、前記チャネル層よりもAl組成が高いIII族窒化物半導体からなる障壁層と、を有する半導体素子において、
前記障壁層表面の一部領域に設けられ、前記チャネル層に達する深さのリセスと、
前記リセスに沿って被覆するように設けられた電極と、を有し、
前記リセスは、
前記障壁層が露出した面であって、前記基板の主面に対して角度を有した面である第1側面と、
前記第1側面に接続し、前記チャネル層の表面が露出した面であるテラスと、
前記テラスに接続し、前記チャネル層が露出した面であって、前記基板の主面に対して傾斜し、その傾斜角度が前記第1側面よりも小さな面である第2側面と、を有する、半導体素子。
【請求項2】
前記テラスの幅は、100nm以上である、請求項1に記載の半導体素子。
【請求項3】
前記第1側面は、前記基板の主面に対して80度以上90度以下の角度を有した面である、請求項1または請求項2に記載の半導体素子。
【請求項4】
前記第1側面は前記障壁層のm面である、請求項1または請求項2に記載の半導体素子。
【請求項5】
基板と、前記基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなるチャネル層と、前記チャネル層上に接して設けられ、前記チャネル層よりもAl組成が高いIII族窒化物半導体からなる障壁層と、を有する半導体素子の製造方法において、
前記障壁層表面の所定領域をドライエッチングして、側面が前記基板の主面に対して傾斜し、底面が前記チャネル層表面よりも深い第1リセスを形成する第1リセス形成工程と、
前記第1リセスの側面をアルカリ溶液によってウェットエッチングし、第2リセスを形成する第2リセス形成工程と、
前記障壁層上に、前記第2リセスを被覆するようにして電極を形成する電極形成工程と、を有し、
前記第2リセス形成工程は、前記障壁層をウェットエッチングして前記基板の主面に対して角度を有した面である第1側面を形成するとともに、前記チャネル層の表面を露出させてテラスを形成し、前記チャネル層をウェットエッチングして前記基板の主面に対して傾斜し、その傾斜角度が前記第1側面よりも小さな面である第2側面を形成する工程である、半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2リセス形成工程は、前記テラスの幅が100nm以上となるように前記テラスを形成する、請求項5に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記第2リセス形成工程は、前記第1側面が前記基板の主面に対して80度以上90度以下となるように形成する、請求項5または請求項6に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記第2リセス形成工程は、前記第1側面がm面となるように形成する、請求項5または請求項6に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ溶液は、TMAH水溶液である、請求項5または請求項6に記載の半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNからなるチャネル層、AlGaNからなる障壁層を順に積層したヘテロ接合構造を有し、ヘテロ接合界面に形成される二次元電子ガス(2DEG)層をチャネルとして動作する半導体素子が知られている。
【0003】
そのような半導体素子では、2DEG層に対して電極が良好なコンタクトを取れるようにリセス構造が設けられることがある(たとえば特許文献1)。リセス構造は、障壁層表面の一部領域にチャネル層に達する深さの溝(リセス)を設け、溝の側面にヘテロ接合界面を露出させ、リセスの上面、側面、底面に沿って電極を設けた構造である。このような構造によれば電極と2DEG層が接触するため、コンタクト抵抗を低減することができる。
【0004】
特許文献2、3には、リセスの側面に2段の傾斜を設けたHFETが記載されており、リセス側面は障壁層が露出する位置で傾斜角度が変わり、上段の側面の傾斜を下段の側面の傾斜よりも緩やかにした構成が示されている。特許文献4にもリセス側面の傾斜角度を変えた構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5329606号公報
【特許文献2】特開2012-99542号公報
【特許文献3】特許第5625314号公報
【特許文献4】特許第7057473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、リセスはドライエッチングで形成されるため、リセスのエッチングダメージが発生してしまい、そのエッチングダメージは除去できない。
【0007】
また、リセスの側面には傾斜が付くため、AlGaN層の実質的な厚さが薄くなり、リセス近傍で2DEG濃度が低下してしまう。
【0008】
また、リセスに電極を形成するとき、電極が段切れしたり、2DEG層に接触しなかったりすることがないようにリセスの段差に精度よく電極を這わせる必要がある。そのため、電極の形成方法として段差被覆性に優れたスパッタを選択する必要がある。しかし、スパッタは半導体にダメージを与えてしまう可能性があった。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、2DEG層への良好なコンタクトが可能な半導体素子およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、
基板と、前記基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなるチャネル層と、前記チャネル層上に接して設けられ、前記チャネル層よりもAl組成が高いIII族窒化物半導体からなる障壁層と、を有する半導体素子において、
前記障壁層表面の一部領域に設けられ、前記チャネル層に達する深さのリセスと、
前記リセスに沿って被覆するように設けられた電極と、を有し、
前記リセスは、
前記障壁層が露出した面であって、前記基板の主面に対して角度を有した面である第1側面と、
前記第1側面に接続し、前記チャネル層の表面が露出した面であるテラスと、
前記テラスに接続し、前記チャネル層が露出した面であって、前記基板の主面に対して傾斜し、その傾斜角度が前記第1側面よりも小さな面である第2側面と、を有する、半導体素子にある。
【0011】
また本発明の他の態様は、
基板と、前記基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなるチャネル層と、前記チャネル層上に接して設けられ、前記チャネル層よりもAl組成が高いIII族窒化物半導体からなる障壁層と、を有する半導体素子の製造方法において、
前記障壁層表面の所定領域をドライエッチングして、側面が前記基板の主面に対して傾斜し、底面が前記チャネル層表面よりも深い第1リセスを形成する第1リセス形成工程と、
前記第1リセスの側面をアルカリ溶液によってウェットエッチングし、第2リセスを形成する第2リセス形成工程と、
前記障壁層上に、前記第2リセスを被覆するようにして電極を形成する電極形成工程と、を有し、
前記第2リセス形成工程は、前記障壁層をウェットエッチングして前記基板の主面に対して角度を有した面である第1側面を形成するとともに、前記チャネル層の表面を露出させてテラスを形成し、前記チャネル層をウェットエッチングして前記基板の主面に対して傾斜し、その傾斜角度が前記第1側面よりも小さな面である第2側面を形成する工程である、半導体素子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極のリセスに対する被覆性が高く、電極の段切れを防止することができる。その結果、電極のコンタクト抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1における半導体素子の構成を示した断面図であって基板主面に垂直な断面を示した図。
図2】実施形態1における半導体素子のリセス部分を拡大して示した断面図。
図3】電極の平面パターンを示した図。
図4】実施形態1における半導体素子の製造工程を示した図。
図5】実施形態1における半導体素子の製造工程を示した図。
図6】実施形態1における半導体素子のリセス部分の製造工程を示した図。
図7】コンタクト抵抗率を比較したグラフ。
図8】各半導体素子のオン抵抗の分布を示したグラフ。
図9】リセスの断面SEM像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
半導体素子は、基板と、前基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなるチャネル層と、チャネル層上に接して設けられ、チャネル層よりもAl組成が高いIII族窒化物半導体からなる障壁層と、を有する半導体素子において、障壁層表面の一部領域に設けられ、チャネル層に達する深さのリセスと、リセスに沿って被覆するように設けられた電極と、を有し、リセスは、障壁層が露出した面であって、基板の主面に対して角度を有した面である第1側面と、第1側面に接続し、チャネル層の表面が露出した面であるテラスと、テラスに接続し、チャネル層が露出した面であって、基板の主面に対して傾斜し、その傾斜角度が第1側面よりも小さな面である第2側面と、を有する。
【0015】
テラスの幅は、100nm以上であってもよい。電極の被覆性を向上させることができ、電極の段切れをよりよく防止できる。
【0016】
第1側面は、基板の主面に対して80度以上90度以下の角度を有した面であってもよい。また、第1側面は前記障壁層のm面であってもよい。2DEG層の2DEG濃度がリセス側面近傍で減少してしまうことを防止できる。
【0017】
半導体素子の製造方法は、基板と、基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなるチャネル層と、チャネル層上に接して設けられ、チャネル層よりもAl組成が高いIII族窒化物半導体からなる障壁層と、を有する半導体素子の製造方法において、障壁層表面の所定領域をドライエッチングして、側面が基板の主面に対して傾斜し、底面がチャネル層表面よりも深い第1リセスを形成する第1リセス形成工程と、第1リセスの側面をアルカリ溶液によってウェットエッチングし、第2リセスを形成する第2リセス形成工程と、障壁層上に、第2リセスを被覆するようにして電極を形成する電極形成工程と、を有し、第2リセス形成工程は、障壁層をウェットエッチングして基板の主面に対して角度を有した面である第1側面を形成するとともに、チャネル層の表面を露出させてテラスを形成し、チャネル層をウェットエッチングして基板の主面に対して傾斜し、その傾斜角度が第1側面よりも小さな面である第2側面を形成する工程である。
【0018】
第2リセス形成工程は、テラスの幅が100nm以上となるようにテラスを形成する工程であってもよい。電極の被覆性を向上させることができ、電極の段切れをよりよく防止できる。
【0019】
第2リセス形成工程は、第1側面が基板の主面に対して80度以上90度以下となるように形成してもよい。また、第2リセス形成工程は、第1側面がm面となるように形成する工程であってもよい。2DEG層の2DEG濃度がリセス側面近傍で減少してしまうことを防止できる。アルカリ溶液は、TMAH水溶液であってもよい。
【0020】
(実施形態1)
1.半導体素子の構成
図1は、実施形態1における半導体素子の構成を示した断面図であって、基板主面に垂直な断面を示した図である。実施形態1における半導体素子は、分極超接合(PSJ)FETであり、図1に示すように、基板10と、バッファ層11と、チャネル層12と、障壁層13と、アンドープ層14と、p層15と、ゲート電極16と、ソース電極17と、ドレイン電極18と、を有している。また、図2は、実施形態1における半導体素子のリセス部分を拡大して示した断面図である。また、図3は、電極パターンを示した上面図である。図3におけるA-A断面が図1である。
【0021】
基板10は、c面またはa面を主面とするサファイアからなる。基板10の厚さは、たとえば50~500μmである。
【0022】
チャネル層12は、基板10上にバッファ層11を介して位置する。チャネル層12は、アンドープのGaNからなる。バッファ層11は、たとえば低温成長のAlNやGaNである。チャネル層12の厚さは、たとえば300~5000nmである。
【0023】
障壁層13は、チャネル層12上に位置する。障壁層13は、アンドープのAlGaNからなる。Al組成は10~50%である。チャネル層12と障壁層13はヘテロ接合しており、その界面近傍であってチャネル層12中に、二次元電子ガス(2DEG)層19が発生する。実施形態1における半導体素子は、この2DEG層19をチャネルとして動作する。障壁層13の厚さは、たとえば20~150nmである。
【0024】
アンドープ層14は、障壁層13上の一部領域(ソース電極17とドレイン電極18の形成領域を除いた領域)に位置する。アンドープ層14は、アンドープのGaNである。障壁層13とアンドープ層14はヘテロ接合しており、その界面近傍であってアンドープ層14中に、二次元ホールガス(2DHG)層22が発生する。この2DHG層22は、チャネルとして機能するものではなく、電界分布を平坦にし、耐圧を向上させるものである。アンドープ層14の厚さは、たとえば10~1000nmである。
【0025】
p層15は、アンドープ層14上の一部領域であってソース電極17寄りの領域に位置する。p層15は、p-GaNからなる。Mg濃度は、たとえば、1×1017cm-3以上3×1020cm-3である。p層15の厚さは、たとえば20~150nmである。p層15は、低濃度p型の層と、高濃度p型の層の2層としてもよい。
【0026】
ゲート電極16は、p層15上に位置している。ゲート電極16の材料は、たとえばNi/Auである。
【0027】
リセス20は、障壁層13表面のうち、ソース電極17およびドレイン電極18を設ける領域に設けられた溝であり、チャネル層12に達する深さの溝である。リセス20は、側面が2段の階段状となっており、障壁層13が露出する側面20a、側面20aの下端に連続し、チャネル層12の表面が露出するテラス20b、テラス20bの一端に連続し、チャネル層12が露出する側面20c、側面20cの下端に連続し、チャネル層12が露出する面であってチャネル層12表面よりも深い位置の面である底面20dを有した形状である。
【0028】
側面20aは、障壁層13の主面に垂直な面であり、たとえばAlGaNのm面である。a面などのm面以外の面であってもよい。なお、垂直な面である必要はなく、基板10主面に対する傾斜角度が側面20cよりも大きければよい。ただし、なるべく垂直に近いことが好ましく、たとえば、基板10の主面に対して80度以上90度以下の角度を有していることが好ましく、最も好ましいのは垂直である。側面20aはウェットエッチングによって露出した面であり、エッチングダメージがない面である。
【0029】
テラス20bは、チャネル層12の表面であり、GaNのc面である。テラス20bはウェットエッチングにより露出した面であり、エッチングダメージがない面である。テラス20bは、側面20aと垂直を成して連続している。
【0030】
テラス20bの幅は、100nm以上が好ましい。ここでテラス20bの幅は、平面視においてソース電極17とドレイン電極18とを結ぶ最短の直線をとったときに、その直線方向に置けるテラス20bの幅を言うものとする。電極パターンが後述の図2である場合には、ストライプに直交する方向の幅である。テラス20bの幅を100nm以上としてテラス20bの幅を十分に広く取ることで、ソース電極17、ドレイン電極18のリセス20への被覆性をより向上させることができ、ソース電極17、ドレイン電極18がリセス20の段差で段切れしてしまうことを防止することができる。より好ましくは140nm以上である。
【0031】
また、テラス20bの幅は1000nm以下が好ましい。テラス20bの幅の拡大により、2DEG層19エリアが減少してしまうためである。
【0032】
側面20cは、チャネル層12の主面に対して角度を有している。その角度は、側面20aの角度よりも小さく、たとえば基板10主面に対して40~80度である。側面20cが傾斜しているため、ソース電極17、ドレイン電極18のリセス20への被覆性をより向上させることができる。側面20cは、ウェットエッチングによって露出した面であり、エッチングダメージがない面である。側面20cは、テラス20bと角度を成して接続している。側面20cは、たとえばm面を傾斜させた面である。
【0033】
底面20dは、チャネル層12の主面に平行な面であり、GaNのc面である。底面20dは、チャネル層12の表面よりも深い位置(基板10側の位置)の面であり、チャネル層12のドライエッチングによって露出した面である。底面20dは、側面20cと角度を成して接続している。底面20dからチャネル層12表面までの高さは、0より大きければ任意であるが、たとえば10nm以上である。
【0034】
ソース電極17およびドレイン電極18は、障壁層13上の所定の領域に離間して設けられている。また、ソース電極17およびドレイン電極18は、リセス20を被覆するように設けられている。つまり、リセス20の側面20a、テラス20b、側面20c、底面20dに接するように設けられている。そのため、ソース電極17およびドレイン電極18は、リセス20の側面20aとテラス20bが成す角部付近において2DEG層19に接触している。これによりソース電極17およびドレイン電極18のコンタクト抵抗の低減を図っている。ソース電極17およびドレイン電極の材料は、たとえば、Ti/Al/Ti、V/Al/Tiである。
【0035】
次に、リセス20と電極の平面パターンについて説明する。ソース電極17およびドレイン電極18は、平面視において所定の間隔を開けて設けられ、ソース電極17とドレイン電極18の間にゲート電極16を挟むような平面パターンである。
【0036】
図2のように、ソース電極17とドレイン電極18は櫛歯状の平面パターンである。つまり、細長い線状のパターンが所定間隔で平行に並べられたストライプ状の部分と、線状のパターンそれぞれと接続する部分とを有している。ソース電極17のストライプ部分とドレイン電極18のストライプ部分は、交互にかみ合うように配置されている。
【0037】
また、ゲート電極16は、ソース電極17の細長い線状のパターンそれぞれに、その線状のパターンを囲うリング状のパターンに設けられている。
【0038】
また図2のように、ソース電極17、ドレイン電極18の各線状のパターンの内側に、その線に沿って所定間隔で複数のリセス20が配置されている。リセス20の平面形状は、たとえば正六角形である。これは、リセス20の側面20aがm面であるためである。もちろん、リセスの平面形状は正六角形に限らない。たとえば、正三角形、正方形、長方形、円などであってもよい。
【0039】
リセス20の直径は、平面視でソース電極17およびドレイン電極18のパターンに内包されるような大きさであればよい。図2の場合、ソース電極17およびドレイン電極18の線状のパターンの幅よりも小さければよい。たとえば、線状のパターンの幅が20μm、リセス20の直径は5μmである。
【0040】
なお、ゲート電極16、ソース電極17、ドレイン電極18の平面パターンは一例であり、図3に示したパターンに限るものではない。
【0041】
2.半導体素子の動作
実施形態1における半導体素子は、ゲート電極16に電圧を印加しない状態で、ドレイン電極18からソース電極17に2DEG層19を介して電流が流れるノーマリオン型の素子である。ゲート電極16にしきい値電圧以下の電圧(負の電圧)を印加するとドレイン電極18からソース電極17への電流がオフとなる。
【0042】
ゲート電極16にしきい値電圧以下の電圧(負の電圧)を印加すると、2DHG層22からホールが引き抜かれて消滅し、これに伴ってアンドープ層14下の2DEG層19から電子が消滅する。そのため、アンドープ層14の下部領域は全体が空乏化し、電界強度が一定となる。これにより、ドレイン電極18からゲート電極16にかかる電界を均等に分散することができ、電界集中する領域はない。その結果、非常に高い耐圧を実現することができる。
【0043】
また、ゲート電極16にしきい値電圧よりも大きな電圧を印加すると、ドレイン電極18からソース電極17へと電流が流れてオン動作となる。このとき、ドレイン電極18から障壁層13表面およびリセス20の側面20aを介して2DEG層19へと電流が流れる。そして、2DEG層19から障壁層13表面およびリセス20の側面20aを介してソース電極17へと電流が流れる。
【0044】
ここで、リセス20が図2のような構造であるため、ソース電極17およびドレイン電極18は2DEG層19に対して良好にコンタクトを取ることができる。詳細には次の通りである。
【0045】
リセス20の側面20aは基板10主面に対して垂直であるため、障壁層13の実質的な厚みの減少がない。側面20aが傾斜を有していると歪みが緩和して障壁層13の実質的な厚みが減少する。障壁層13の実質的な厚みの減少がないため、リセス20側面近傍における2DEG層19の2DEG濃度の減少を防止することができる。その結果、ソース電極17およびドレイン電極18は2DEG層19に対して良好にコンタクトを取ることができる。
【0046】
リセス20の側面は、基板10主面に対して垂直な側面20aと、チャネル層12表面であるテラス20bと、基板10主面に対して傾斜した側面20cを有し、2段の段差を有している。このような段差構造とすることで、ソース電極17およびドレイン電極18のリセス20に対する被覆性を向上させることができ、ソース電極17およびドレイン電極18の段切れを防止することができる。この結果、ソース電極17およびドレイン電極18は、テラス20bと側面20cの成す角部に対して確実に密着し、その角部近傍の2DEG層19に対して良好にコンタクトを取ることができる。
【0047】
また、リセス20の側面20a、テラス20b、側面20cは、詳しくは製造方法の段で説明するが、ドライエッチング後にウェットエッチングすることで露出した面である。そのため、これらの面はエッチングダメージのない面である。ソース電極17およびドレイン電極18はこのエッチングダメージのない面に接触しているため、コンタクト抵抗を低減することができる。
【0048】
以上、実施形態1における半導体素子では、リセス20が図2に示すように側面20a、テラス20b、側面20c、底面20dを有した形状であるため、ソース電極17およびドレイン電極18の被覆性が高く、ソース電極17およびドレイン電極18の段切れを防止することができ、ソース電極17およびドレイン電極18のコンタクト抵抗の低減することができる。
【0049】
3.半導体素子の製造方法
次に、実施形態1における半導体素子の製造方法について、図を参照に説明する。
【0050】
まず、基板10上にバッファ層11を介してチャネル層12、障壁層13、アンドープ層14、p層15をMOCVD法によって順に積層する(図4参照)。原料ガスには、たとえば、Ga原料ガスとしてTMG(トリメチルガリウム)、Al原料ガスとしてTMA(トリメチル)、窒素原料ガスとしてアンモニアを用いる。また、キャリアガスには水素や窒素を用いる。
【0051】
次に、p層15表面の所定領域をドライエッチングしアンドープ層14を露出させる。さらに露出したアンドープ層14のうち、ソース電極17およびドレイン電極18を形成する領域をドライエッチングして障壁層13を露出させる(図5参照)。
【0052】
次に、障壁層13の所定領域をドライエッチングし、リセス21を形成する(図6(a)参照)。ここで、リセス21の側面は傾斜するようにエッチング条件を設定する。リセス21の側面の傾斜角度は、たとえば、基板10主面に対して30~70度である。また、リセス21はチャネル層12表面よりも深く形成する。このドライエッチングによって、リセス21の側面や底面にはエッチングダメージが生じる。
【0053】
次に、リセス21の側面をTMAH水溶液によってウェットエッチングする。TMAH水溶液の濃度はたとえば15~25wt%である。また、TMAH水溶液の温度はたとえば60~90℃である。濃度や温度がこの範囲であれば障壁層13とチャネル層12のエッチング速度の差が適切となり、リセス20の形成が容易となる。
【0054】
また、エッチング時間は、たとえば10~30分間である。エッチング時間が10分より短いとテラス20bの幅が十分に拡大せず、ソース電極17およびドレイン電極18の被覆性低下や段切れが生じる可能性がある。また、エッチング時間が30分よりも長いと、チャネル層12のエッチングが進行してm面が露出し、側面20cが垂直となり、ソース電極17およびドレイン電極18の被覆性低下や段切れが生じる可能性がある。
【0055】
TMAH水溶液によるIII族窒化物半導体のウェットエッチングでは、リセス20の側面はc面以外の面であるためエッチングされるが、障壁層13の表面やチャネル層12の表面、リセス20の底面はc面であるためエッチングされない。また、Al組成が高いほどエッチング速度が速くなる。また、エッチングが進行するにつれてm面が露出し、そのm面を保ったままエッチングが進行する。
【0056】
そのため、リセス21のウェットエッチングによって、側面20a、テラス20b、側面20c、底面20dを有したリセス20が形成される(図6(b)参照)。より詳細には次の通りである。
【0057】
リセス21側面のうち障壁層13が露出する領域は横方向に速くエッチングされ、リセス21側面のうち障壁層13が露出する領域はこれよりもエッチング速度が遅い。障壁層13はチャネル層12よりもAl組成が高いためである。このエッチングによりチャネル層12の表面が露出する。この露出したチャネル層12の表面はc面であるためエッチングされない。これによりリセス20のテラス20bが形成される。テラス20bはリセス21の形成時には露出していなかった面であるから、エッチングダメージのない面である。
【0058】
また、この障壁層13のエッチングの進行によって障壁層13のm面が露出し、障壁層13の主面に垂直なリセス20の側面20aが形成される。また、障壁層13のエッチングによって側面20aのエッチングダメージは除去される。
【0059】
また、リセス21側面のうちチャネル層12が露出する領域は、障壁層13よりもAl組成の低い(Al組成が0)GaNであるため、障壁層13よりもエッチング速度が遅い。その結果、側面が垂直となるまでにはエッチングが進行せず、傾斜を有する。この傾斜を有したチャネル層12の側面がリセス20の側面20cとなる。なお、側面20cの傾斜角度は、リセス21の側面の傾斜角度と等しいか、それよりも大きくなる。このチャネル層12のエッチングによって側面20cのエッチングダメージは除去される。
【0060】
そして、リセス21の底面はc面であるためエッチングされず、そのままリセス20の底面20dとなる。このようにして、側面20a、テラス20b、側面20c、底面20dを有したリセス20が形成される。
【0061】
なお、ウェットエッチング溶液にはTMAH以外にもKOH、NaOHなどのアルカリ溶液を用いることができる。また、溶媒も水に限らない。
【0062】
次に、障壁層13上の所定領域に、ソース電極17およびドレイン電極18を形成する。また、ソース電極17およびドレイン電極18は、リセス20を被覆するように形成する。ソース電極17とドレイン電極18の材料を同一とする場合には同時に形成することができる。
【0063】
ここで、リセス20は、チャネル層12表面の露出するテラス20bを有し、側面20cは傾斜を有している。そのため、リセス20の段差に沿って被覆性よくソース電極17およびドレイン電極18を形成することができ、段切れを防止することができる。特に、テラス20bと側面20cの成す角部近傍において露出する2DEG層19に対し、ソース電極17およびドレイン電極18を確実に密着させることができる。
【0064】
ソース電極17およびドレイン電極18の形成には、蒸着やスパッタなどを用いることができる。特にEB蒸着などの蒸着を用いることが好ましい。従来、ソース電極17およびドレイン電極18が段切れすることなくリセスを被覆するために、被覆性のよい形成方法であるスパッタを用いていたが、スパッタでは半導体層にダメージが生じる場合があった。これに対し実施形態1におけるリセス20は、その形状によりソース電極17およびドレイン電極18の被覆性がよいため、蒸着によってソース電極17およびドレイン電極18を形成しても段切れを防止できる。
【0065】
また、ソース電極17およびドレイン電極18は、エッチングダメージのないリセス20の側面20a、テラス20b、側面20cに接するため、コンタクト抵抗を低減することができる。
【0066】
次に熱処理を行ってソース電極17およびドレイン電極18の低コンタクト抵抗化を図る。熱処理条件は、たとえば、窒素雰囲気、500~700℃、60~600秒である。
【0067】
次に、p層15上にゲート電極16を蒸着などによって形成する。先にゲート電極16を形成してから、リセス20、ソース電極17およびドレイン電極18を形成してもよい。以上によって、実施形態1における半導体素子が製造される。
【0068】
4.実験結果
試料Aとして、次のようにしてリセス20を形成した実施形態1における半導体素子を作製した。まず、ドライエッチングによってチャネル層12に達する深さのリセス21を形成し、その後に濃度2.3wt%のTMAH水溶液を用いて50℃、20分間のウェットエッチングを行った。これにより、テラス20bの幅が40nmのリセス20を形成した。そして、リセス20の上面、側面、底面にわたって電極を形成した。電極はTi/Al/Tiとし、アロイ温度は600℃とした。
【0069】
一方、試料Bとして、リセス21形成後のウェットエッチングを以下のように変更してリセス20を形成した。それ以外は試料Aと同様である。ウェットエッチングは濃度22wt%のTMAH水溶液を用いて85℃、20分間行った。これによりテラス20bの幅が140nmのリセス20を形成した。
【0070】
図7は、試料A、BについてTLMパターンによりコンタクト抵抗を測定し比較した結果を示したグラフである。図7のように、コンタクト抵抗率の平均値、中央値のいずれも試料Aに比べて試料Bの方が低かった。
【0071】
また、試料A、Bのリセス20を有した実施形態1に係る半導体素子を複数作製し、各素子のオン抵抗を測定した。図8は、各素子のオン抵抗の分布を示したグラフである。図8のように、試料Bは試料Aに比べてオン抵抗の中央値が1桁低いことが分かった。
【0072】
図9は、試料A、Bについてリセスの断面を撮影した断面SEM像である。図9(a)のように、試料Aでは段切れしていることが分かった。一方、図9(b)のように、試料Bでは電極の段切れは生じていなかった。
【0073】
図7~9から、リセス20におけるテラス20bの幅を十分に広げることで、電極のリセス20に対する被覆性がよくなり、段切れを防止できることが分かった。また、被覆性向上と段切れ防止により、電極のコンタクト抵抗率を低減することができ、オン抵抗の低減を図ることができることが分かった。
【0074】
4.各種変形形態
本発明は実施形態1に示した半導体素子に限定されず、III族窒化物半導体からなるチャネル層と、チャネル層よりもAl組成の高いIII族窒化物半導体からなる障壁層と、を有し、リセスによって2DEG層に接する電極を設けた構造であれば任意の半導体素子に適用することができる。たとえば、HFETなどにも本発明は適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
10:基板
11:バッファ層
12:チャネル層
13:障壁層
14:アンドープ層
15:p層
16:ゲート電極
17:ソース電極
18:ドレイン電極
19:2DEG層
20:リセス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9