IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141600
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】研磨用組成物および研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241003BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20241003BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053339
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】芹川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】平子 佐知子
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA01
3C158EB01
3C158ED03
3C158ED10
3C158ED23
3C158ED26
5F057AA01
5F057BA12
5F057BB06
5F057BB18
5F057DA05
5F057EA01
5F057EA07
5F057EA08
5F057EA09
5F057EA22
5F057EA26
5F057EA29
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】窒化ガリウム系半導体基板の研磨に用いられて、高い面品質を得つつ、研磨除去速度を向上し得る研磨用組成物を提供する。
【解決手段】窒化ガリウム系半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物が提供される。上記研磨用組成物は、コロイダルシリカと、pH調整剤と、過ハロゲン酸系酸化剤と、水とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム系半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
コロイダルシリカと、pH調整剤と、過ハロゲン酸系酸化剤と、水とを含む研磨用組成物。
【請求項2】
前記コロイダルシリカは、動的光散乱法による体積基準の粒度分布における累積頻度10%粒子径(D10)に対する累積頻度90%粒子径(D90)の比(D90/D10)が2.0以上である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記過ハロゲン酸系酸化剤の含有量は0.015モル/L以上である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記過ハロゲン酸系酸化剤は、過ヨウ素酸、過塩素酸およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHは0.5よりも高く2.0未満である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の研磨用組成物を用いて窒化ガリウム系半導体基板を研磨する工程を含む、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関し、詳しくは窒化ガリウム系半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物、および該研磨用組成物を用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイスや発光ダイオード(LED)等に用いられる化合物半導体基板として、窒化ガリウム系半導体の重要性が増している。窒化ガリウム系半導体基板を用いてパワーデバイス等を製造する場合、一般的に、加工ダメージがなくかつ平滑な表面を得るため、該半導体基板表面に対して研磨が実施される。窒化ガリウム系半導体基板の研磨では、研磨定盤にダイヤモンド砥粒を供給して行うラッピングを行った後、研磨パッドと研磨対象物との間に砥粒を含むスラリーを供給して行うポリシングや、砥粒を含まない溶液による化学エッチングを行って仕上げられる。窒化ガリウム系半導体基板の研磨に関する技術文献として、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-535146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化ガリウム系半導体は化学的に非常に安定であり反応性が低く、硬度も非常に高いため、研磨による加工は容易ではない。一方、上記窒化ガリウム系半導体基板を研磨、特にポリシングする態様においては、高い研磨除去速度が求められており、上記研磨に用いられる研磨用組成物には、要求される研磨後の表面品質を実現しつつ、研磨除去速度を向上することが求められている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、窒化ガリウム系半導体基板の研磨に用いられて、高い面品質を得つつ、研磨除去速度を向上し得る研磨用組成物を提供することである。関連する他の目的は、上記研磨用組成物を用いて窒化ガリウム系半導体基板を研磨する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によると、窒化ガリウム系半導体基板の研磨に用いられる研磨用組成物が提供される。上記研磨用組成物は、コロイダルシリカと、pH調整剤と、過ハロゲン酸系酸化剤と、水とを含む。かかる研磨用組成物によると、窒化ガリウム系半導体基板の研磨において、高い面品質を実現しつつ、研磨除去速度を向上させることができる。
【0007】
いくつかの好ましい態様において、上記コロイダルシリカは、動的光散乱法による体積基準の粒度分布における累積頻度10%粒子径(D10)に対する累積頻度90%粒子径(D90)の比(D90/D10)が2.0以上である。かかる粒度分布を有するコロイダルシリカによると、より高い研磨除去速度が得られやすい。
【0008】
いくつかの好ましい態様において、上記過ハロゲン酸系酸化剤の含有量は0.015モル/L以上である。過ハロゲン酸系酸化剤の濃度を0.015モル/L以上とすることで、研磨除去速度を好ましく向上させることができる。
【0009】
いくつかの態様において、上記過ハロゲン酸系酸化剤は、過ヨウ素酸、過塩素酸およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種である。上記の過ハロゲン酸系酸化剤種によると、ここに開示される技術による効果が好ましく発揮される。
【0010】
いくつかの態様において、上記研磨用組成物のpHは0.5よりも高く2.0未満であることが好ましい。上記のように低pH範囲にある研磨用組成物によると、より高い研磨除去速度が得られやすく、研磨用組成物の安定性もよい。
【0011】
また、本明細書によると、窒化ガリウム系半導体基板の研磨方法が提供される。上記研磨方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を用いて窒化ガリウム系半導体基板を研磨する工程を含む。かかる研磨方法によると、窒化ガリウム系半導体基板に対する研磨除去速度を向上することができ、かつ、研磨後の基板表面を高い面品質に仕上げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0013】
<研磨対象物>
ここに開示される研磨用組成物は、窒化ガリウム系半導体基板を研磨するために用いられる。本明細書における窒化ガリウム系半導体の概念には、窒化ガリウム(GaN)の他、Gaの一部が他の周期表13族元素(B、Al、In)で置換された組成を有する半導体、例えばAlGaN、GaInN、AlGaInN等が包含される。ここに開示される研磨用組成物は、このような窒化ガリウム系半導体材料からなる表面を有する基板の研磨に好ましく用いられ得る。上記表面、すなわち研磨対象面は、典型的には、窒化ガリウム系半導体材料のガリウム面である。上記窒化ガリウム系半導体基板は、自立型の窒化ガリウム系半導体ウェーハであってもよく、適宜の下地層の上に窒化ガリウム系半導体の結晶を有するものであってもよい。そのような下地層の例としては、サファイア基板、シリコン基板、SiC基板等が挙げられる。窒化ガリウム系半導体は、導電性の付与等を目的としてドープされていてもよく、ノンドープであってもよい。
【0014】
<研磨用組成物>
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は砥粒としてコロイダルシリカを含有する。コロイダルシリカを含む研磨用組成物を用いた研磨によると、例えばラッピング等の前工程において研磨対象物に生じた傷をより効率よく除去し得る。コロイダルシリカを含む研磨用組成物によると、高い面品質が得られやすく、高い研磨除去速度と良好な面品質とが好適に達成され得る。面品質の指標の一例としては、後述の表面粗さRaが用いられ得る。上記コロイダルシリカの例には、Na、K等のアルカリ金属とSiOとを含有するケイ酸アルカリ含有液(例えばケイ酸ナトリウム含有液)を原料に用いて製造されるシリカや、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のアルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されるシリカ(アルコキシド法シリカ)が含まれる。コロイダルシリカの形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。また、コロイダルシリカは、表面改質されていてもよい。コロイダルシリカの表面改質は、具体的には、コロイダルシリカ表面にコロイダルシリカ表面とは異なる電位を有する物質を付着または結合させ、コロイダルシリカ表面の電位を変えることにより行われる。コロイダルシリカ表面の電位を変えるために使用される物質には制限はないが、例えば、界面活性剤や、無機酸、有機酸等を使用することができる。コロイダルシリカは、1種を単独で使用してもよく、製造条件や物性、形状、表面特性等の異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
ここに開示される技術は、研磨後の面品質向上の観点から、研磨用組成物に含まれる砥粒の全重量のうちコロイダルシリカの割合が70重量%よりも大きい態様で好ましく実施され得る。上記コロイダルシリカの割合は、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。なかでも、研磨用組成物に含まれる砥粒の100重量%がコロイダルシリカである研磨用組成物が好ましい。
【0016】
コロイダルシリカの比表面積換算粒子径(Dsa)は、特に限定されず、いくつかの態様において、通常は、150nm以下が好ましく、より好ましくは100nm以下、より一層好ましくは70nm以下、さらに好ましくは60nm以下であり、さらに一層好ましくは50nm以下であり、特に好ましくは40nm以下である。小径のコロイダルシリカを使用することにより、より高い面品質を得ることができる。また、いくつかの態様において、上記比表面積換算粒子径(Dsa)は、例えば5nm以上が好ましく、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは20nm以上であり、特に好ましくは30nm以上である。コロイダルシリカの粒子径が大きくなるにつれて、研磨除去速度は向上する傾向にある。
【0017】
なお、本明細書において比表面積換算粒子径(Dsa)とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径をいう。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0018】
研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの平均二次粒子径は、特に限定されず、いくつかの態様において、通常は、10nm以上が好ましく、より好ましくは20nm以上、より一層好ましくは30nm以上、さらに好ましくは40nm以上、さらに一層好ましくは50nm以上、特に好ましくは60nm以上である。コロイダルシリカの平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨除去速度は向上する傾向にある。また、より高い面品質を得るという観点から、いくつかの態様において、コロイダルシリカの平均二次粒子径は、300nm以下が好ましく、より好ましくは200nm以下、より一層好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下、さらに一層好ましくは80nm以下である。なお、本明細書において、コロイダルシリカの平均二次粒子径とは、動的光散乱法に基づく体積平均粒子径(体積平均径D50)をいう。
【0019】
いくつかの態様において、コロイダルシリカは、動的光散乱法による体積基準の粒度分布における累積頻度10%粒子径(D10)に対する累積頻度90%粒子径(D90)の比(D90/D10)が1.5よりも大きいことが好ましく、1.8以上がより好ましい。上記比(D90/D10)が所定値以上のブロードな粒度分布を有するコロイダルシリカを用いることで、高い面品質を得つつ、窒化ガリウム系半導体基板の研磨において研磨除去速度向上効果が得られやすい。いくつかの好ましい態様において、上記比(D90/D10)は2.0以上であり、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、特に好ましくは2.5以上である。かかる粒度分布を有するコロイダルシリカによると、より高い研磨除去速度が得られやすい。
【0020】
コロイダルシリカの平均二次粒子径(体積平均径D50)および比(D90/D10)は、市販の動的光散乱法式粒度分析計を用いて測定することができ、例えば、Microtrac社製の型式「UPA-UT151」またはその相当品を用いて測定することができる。なお、測定条件については、適宜調整されるが、一例として、実施例に記載の条件で測定することができる。
【0021】
研磨用組成物におけるコロイダルシリカの濃度は、特に限定されない。いくつかの態様において、上記コロイダルシリカの濃度は、例えば5重量%以上が好ましく、より好ましくは12重量%以上、さらに好ましくは17重量%以上、特に好ましくは22重量%以上である。コロイダルシリカ濃度が高くなるにつれて、研磨除去速度は向上する傾向にある。また、研磨除去速度と研磨後の面品質とを高いレベルで両立する等の観点から、いくつかの態様において、コロイダルシリカの濃度は、通常、概ね50重量%以下とすることが好ましく、40重量%以下とすることがより好ましい。いくつかの好ましい態様において、コロイダルシリカ濃度は35重量%以下である。
【0022】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、砥粒として、上記コロイダルシリカ以外のシリカ粒子(例えば乾式法シリカ、ヒュームドシリカ、沈降シリカ等)を含有してもよく、該コロイダルシリカ以外のシリカ粒子を実質的に含有しなくてもよい。また、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、シリカ以外の材質からなる砥粒(以下、非シリカ粒子ともいう。)を含有してもよく、非シリカ粒子を実質的に含有しなくてもよい。そのような非シリカ粒子の構成材料の例として、酸化アルミニウム、酸化セリウム、酸化クロム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化鉄粒子等の酸化物;窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素粒子等の炭化物;ダイヤモンド;等が挙げられる。
【0023】
また、ここに開示される研磨用組成物は、アルミナ粒子を実質的に含有しない態様で好ましく実施され得る。アルミナ粒子としては、α-アルミナ、α-アルミナ以外の中間アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。中間アルミナとは、α-アルミナ以外のアルミナ粒子の総称であり、具体例としてはγ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、κ-アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。かかるアルミナ粒子を実質的に含有しない研磨用組成物によると、研磨後の面品質低下が防止される。
【0024】
なお、本明細書において、コロイダルシリカ以外のシリカ粒子、非シリカ粒子、例えばアルミナ粒子を実質的に含有しないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち当該粒子の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下であることをいう。例えば、アルミナ粒子の割合が0重量%である研磨用組成物、すなわちアルミナ粒子を含まない研磨用組成物が特に好ましい。
【0025】
(pH調整剤)
ここに開示される研磨用組成物はpH調整剤を含む。研磨用組成物に適当なpH調整剤を適当量含ませることにより、研磨用組成物のpHを所望の範囲に調整することができる。pH調整剤の濃度は特に限定されず、研磨用組成物のpHが所望の範囲となる適当量が用いられる。
【0026】
いくつかの好ましい態様において、研磨用組成物は、pH調整剤として、1種または2種以上の酸を含む。酸の具体例としては、硫酸、硝酸、塩酸、塩素酸、臭素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホウ酸等の無機酸;酢酸、イタコン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アラニン、グリシン、乳酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。上記酸の塩は、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩等であり得る。いくつかの態様において、pH調整剤としての酸は、酸の塩(特に金属塩)でない化合物の形態で研磨用組成物中に添加されて用いられる。他のいくつかの態様において、研磨用組成物は、pH調整剤として、1種または2種以上のアルカリを含んでいてもよい。アルカリの具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属由来の無機アルカリ化合物、またはアンモニア、アミン等の有機アルカリ化合物を用いることができる。酸とアルカリは併用してもよい。pH調整剤としては、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸が好ましく用いられる。
【0027】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤として過ハロゲン酸系化合物(すなわち、過ハロゲン酸系酸化剤)を含む。過ハロゲン酸系酸化剤を含む研磨用組成物によると、窒化ガリウム系半導体基板の研磨において、高い面品質を実現しつつ、研磨除去速度を向上させることができる。過ハロゲン酸系化合物は、他の酸化剤と比べて窒化ガリウム系半導体基板表面に対して優れた酸化作用を発揮し、研磨除去速度を向上するものと考えられる。したがって、特に限定するものではないが、過ハロゲン酸系酸化剤によると、他の過酸等の酸化剤や研磨助剤に頼ることなく、所望の研磨除去速度向上効果を得ることが可能である。過ハロゲン酸系酸化剤としては、過ヨウ素酸、過塩素酸、それらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等)が好ましく用いられる。なかでも、過ヨウ素酸またはその塩がさらに好ましく、過ヨウ素酸が特に好ましい。過ハロゲン酸系酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、過ハロゲン酸系酸化剤が塩(例えば、過ヨウ素酸塩)である場合、該塩は、研磨用組成物中においてイオンの状態で存在していてもよい。
【0028】
研磨用組成物における過ハロゲン酸系酸化剤の濃度は特に限定されない。いくつかの態様において、上記過ハロゲン酸系酸化剤の濃度は、通常、0.0001モル/L以上とすることが好ましく、より好ましくは0.001モル/L以上、より一層好ましくは0.005モル/L以上、さらに好ましくは0.008モル/L以上、さらに一層好ましくは0.01モル/L以上である。いくつかの好ましい態様において、上記過ハロゲン酸系酸化剤の濃度は、0.015モル/L以上であり、より好ましくは0.02モル/L以上、さらに好ましくは0.03モル/L以上である。過ハロゲン酸系酸化剤の濃度を高めることにより、窒化ガリウム系半導体基板の研磨において研磨除去速度を好ましく向上させることができる。また、いくつかの態様において、上記過ハロゲン酸系酸化剤の濃度は、通常、10モル/L以下とすることが好ましく、高い面品質を維持する観点から、好ましくは1モル/L以下、より好ましくは0.5モル/L以下、より一層好ましくは0.1モル/L以下、さらに好ましくは0.08モル/L以下、特に好ましくは0.05モル/L以下である。
【0029】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、過ハロゲン酸系酸化剤以外の酸化剤を含有してもよく、該過ハロゲン酸系酸化剤以外の酸化剤を実質的に含有しなくてもよい。過ハロゲン酸系酸化剤以外の酸化剤の例として、過酸化水素;硝酸化合物類、例えば硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウム等の硝酸塩や、硝酸セリウムアンモニウム等の硝酸錯体;過硫酸類、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸金属塩や過硫酸アンモニウムのような過硫酸塩;塩素酸類、例えば塩素酸塩;臭素酸類、例えば臭素酸カリウム等の臭素酸塩;ヨウ素酸類、例えばヨウ素酸アンモニウム等のヨウ素酸塩;ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸カリウム等のジクロロイソシアヌル酸塩;鉄酸類、例えば鉄酸カリウム等の鉄酸塩;過マンガン酸類、例えば過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸塩;クロム酸類、例えばクロム酸カリウム、二クロム酸カリウム等のクロム酸塩;バナジン酸類、例えばメタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸カリウム等のメタバナジン酸塩;過ルテニウム酸塩等の過ルテニウム酸類;モリブデン酸類、例えばモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸塩;過レニウム酸塩等の過レニウム酸類;タングステン酸類、例えばタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸塩;が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0030】
特に限定するものではないが、ここに開示される技術は、過ハロゲン酸系酸化剤による効果(研磨除去速度向上)を効果的に発揮させる観点から、研磨用組成物に含まれる酸化剤のうち過ハロゲン酸系酸化剤の割合が50重量%よりも大きい態様で好ましく実施され得る。いくつかの態様において、上記過ハロゲン酸系酸化剤の割合は、より好ましくは70重量%よりも大きく、より一層好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、さらに一層好ましくは95重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。なかでも、研磨用組成物に含まれる酸化剤の100重量%が過ハロゲン酸系酸化剤である研磨用組成物が好ましい。
【0031】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、研磨用組成物は、酸化剤として、アルカリ金属イオンから選択されるカチオンと、遷移金属オキソ酸イオンから選択されるアニオンと、の塩である複合金属酸化物を実質的に含有しない態様で好ましく実施され得る。ここに開示される技術によると、酸化剤として上記複合金属酸化物を使用しない組成で、高い研磨除去速度を実現することができる。かかる組成は、研磨除去速度とコロイダルシリカの分散安定性との両立の観点からも好ましい。上記複合金属酸化物における遷移金属オキソ酸イオンの具体例としては、過マンガン酸イオン、鉄酸イオン、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、バナジン酸イオン、ルテニウム酸イオン、モリブデン酸イオン、レニウム酸イオン、タングステン酸イオン等が挙げられる。上記複合遷移金属酸化物におけるアルカリ金属イオンは、Naであってもよく、Kであってもよい。
【0032】
いくつかの態様において、研磨用組成物は、酸化剤として、過マンガン酸類を実質的に含有しないことが好ましい。酸化剤として過マンガン酸類を実質的に含有しない研磨用組成物によると、基板の保持材や研磨パッドの腐食のリスクを低減することができる。
【0033】
また、いくつかの態様において、研磨用組成物は、酸化剤として、モリブデン酸類、バナジン酸類およびタングステン酸類を実質的に含有しないことが好ましい。ここに開示される技術によると、酸化剤としてモリブデン酸類、バナジン酸類およびタングステン酸類を使用しない組成で、高い研磨除去速度を実現することができる。かかる組成は、研磨除去速度とコロイダルシリカの分散安定性との両立の観点からも好ましい。
【0034】
特に限定するものではないが、過ハロゲン酸系酸化剤以外の酸化剤が用いられる態様において、該過ハロゲン酸系酸化剤以外の酸化剤は、金属塩(具体的には、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩)を実質的に含有しないものであり得る。ここに開示される技術によると、該酸化剤に由来する金属(具体的には、アルカリ金属およびアルカリ土類金属)を含むことなく、研磨除去速度向上を実現することができる。このことは、コロイダルシリカの分散安定性が得られやすい等の点で有利である。
【0035】
また、いくつかの態様において、研磨用組成物は、酸化剤として過酸化水素を実質的に含有しない。ここに開示される技術によると、酸化剤として過酸化水素を使用しない組成で、高い研磨除去速度を実現することができる。
【0036】
なお、本明細書において、過ハロゲン酸系酸化剤以外の酸化剤(例えば、複合金属酸化物、過マンガン酸類、モリブデン酸類、バナジン酸類およびタングステン酸類、さらには金属塩、あるいは過酸化水素)を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には該酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。例えば、研磨用組成物中の過ハロゲン酸系酸化剤以外の酸化剤(例えば、複合金属酸化物、過マンガン酸類、モリブデン酸類、バナジン酸類およびタングステン酸類の各々であってもよく、あるいは全部でもよい。いくつかの態様において、金属塩の形態である過ハロゲン酸系酸化剤以外の酸化剤であり得る。あるいは過酸化水素。)の濃度は、0.003モル/L未満が好ましく、より好ましくは0.001モル/L未満、より一層好ましくは0.0005モル/L未満、さらに好ましくは0.0001モル/L未満、さらに一層好ましくは0.00001モル/L未満、特に好ましくは0.000001モル/L未満である。該酸化剤の濃度はゼロまたは検出限界以下であってもよい。
【0037】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、必須成分として水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99~100体積%)が水であることがより好ましい。
【0038】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、上記酸化剤とは異なる任意成分として、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を含んでもよく、あるいは、分散安定性等の観点から、該金属塩を実質的に含有しないものであってもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、研磨用組成物中の上記アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩の濃度は、0.001モル/L未満であることが好ましく、より好ましくは0.0005モル/L未満、より一層好ましくは0.0001モル/L未満、さらに好ましくは0.00001モル/L未満、特に好ましくは0.000001モル/L未満である。
【0039】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、キレート剤、増粘剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えば窒化ガリウム基板研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよい。
【0040】
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHとしては、所望の研磨除去速度を実現し得る適当な範囲が設定され得る。いくつかの態様において、研磨用組成物のpHは、例えば、7.0未満であることが好ましく、より好ましくは6.0未満、より一層好ましくは5.0未満、さらに好ましくは4.0未満である。より低いpHの研磨用組成物を使用することにより、研磨除去速度は向上する傾向にある。いくつかの好ましい態様において、研磨用組成物のpHは、例えば3.0未満であり、より好ましくは2.5未満、より一層好ましくは2.0未満、さらに好ましくは1.5未満、特に好ましくは1.3未満である。過ハロゲン酸系酸化剤を含み、かつ上記のような低pH領域にある研磨用組成物によると、特に優れた研磨除去速度が実現され得る。研磨用組成物のpHの下限は特に制限されないが、コロイダルシリカの分散安定性や設備の腐蝕抑制、環境衛生等の観点から、通常は0.5よりも大きいことが適当であり、0.7以上であってもよく、0.9以上でもよい。
なお、本明細書において、pHは、pHメーターを使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。pHメーターとしては、例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23)またはその相当品を使用する。
【0041】
<研磨用組成物の製造>
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0042】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(典型的には、溶媒以外の成分)のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。
【0043】
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で1.2倍~5倍程度とすることができる。
【0044】
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記溶媒が混合溶媒である場合、該溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
【0045】
<研磨方法>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(スラリー)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に、濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
次いで、その研磨液を研磨対象物表面に供給し、常法(当業者によってなされる通常の方法)により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に上記研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかるポリシング工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0046】
本明細書によると、研磨対象材料を研磨する研磨方法および該研磨方法を用いた研磨物の製造方法が提供される。上記研磨方法は、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含むことによって特徴づけられる。いくつかの好ましい態様に係る研磨方法は、予備ポリシングを行う工程(予備ポリシング工程)と、仕上げポリシングを行う工程(仕上げポリシング工程)と、を含んでいる。典型的な一態様では、予備ポリシング工程は、仕上げポリシング工程の直前に配置されるポリシング工程である。また、ここでいう仕上げポリシング工程は、予備ポリシングが行われた研磨対象物に対して仕上げポリシングを行う工程であって、砥粒を含むポリシング用スラリーを用いて行われる研磨工程のうち最後に(すなわち、最も下流側に)配置される研磨工程のことをいう。このように予備ポリシング工程と仕上げポリシング工程とを含む研磨方法において、ここに開示される研磨用組成物は、予備ポリシング工程で用いられてもよく、仕上げポリシング工程で用いられてもよく、予備ポリシング工程および仕上げポリシング工程の両方で用いられてもよい。
【0047】
いくつかの好ましい態様において、上記研磨用組成物を用いる研磨工程は、仕上げポリシング工程である。ここに開示される研磨用組成物、および該研磨用組成物を用いた研磨方法は、研磨後において表面粗さRaが小さく、高品質な表面を実現し得ることから、窒化ガリウム系半導体基板表面の仕上げポリシング工程に特に好ましく使用され得る。特に限定するものではないが、ここに開示される研磨用組成物および該研磨用組成物を用いた研磨方法によると、例えば、窒化ガリウム系半導体基板の仕上げポリシングにおいて、170nm/hour以上(好ましくは200nm/hour以上、より好ましくは220nm/hour以上、さらに好ましくは240nm/hour以上)の研磨除去速度で、研磨後の表面が0.1nm未満となる表面粗さRaを実現することができる。なお、上記研磨除去速度および表面粗さRaは、例えば、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0048】
予備ポリシングおよび仕上げポリシングは、片面研磨装置による研磨、両面研磨装置による研磨のいずれにも適用可能である。片面研磨装置では、セラミックプレートにワックスで研磨対象物を貼りつけたり、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、ポリシング用組成物を供給しながら研磨対象物の片面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させることにより研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方よりポリシング用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨パッドを押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を同時に研磨する。
【0049】
各ポリシング工程で使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、硬質発泡ポリウレタンタイプのいずれを用いてもよい。なお、研磨パッドは、砥粒を含まない研磨パッドであることが好ましい。
【0050】
ここに開示される方法により研磨された研磨物は、典型的には研磨後に洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、公知、慣用のものを適宜選択して用いることができる。
【0051】
なお、ここに開示される研磨方法は、上記予備ポリシング工程および仕上げポリシング工程に加えて任意の他の工程を含み得る。そのような工程としては、予備ポリシング工程の前に行われるラッピング工程が挙げられる。上記ラッピング工程は、研磨定盤(例えば鋳鉄定盤)の表面を研磨対象物に押し当てることにより研磨対象物の研磨を行う工程である。したがって、ラッピング工程では研磨パッドは使用しない。ラッピング工程は、典型的には、研磨定盤と研磨対象物との間に砥粒(典型的にはダイヤモンド砥粒)を供給して行われる。また、ここに開示される研磨方法は、予備ポリシング工程の前や、予備ポリシング工程と仕上げポリシング工程との間に追加の工程(洗浄工程やポリシング工程)を含んでもよい。
【0052】
<研磨物の製造方法>
ここに開示される技術には、上記研磨用組成物を用いたポリシング工程を含む研磨物の製造方法(具体的には、窒化ガリウム系半導体基板の製造方法)および該方法により製造された研磨物の提供が含まれ得る。すなわち、ここに開示される技術によると、研磨対象材料から構成された研磨対象物に、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を供給して該研磨対象物を研磨することを含む、研磨物の製造方法および該方法により製造された研磨物が提供される。上記製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨方法の内容を好ましく適用することにより実施され得る。上記製造方法によると、高品質な表面を有する研磨物(具体的には、窒化ガリウム系半導体基板)が効率的に提供され得る。
【実施例0053】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0054】
<研磨用組成物の調製>
各例につき、表1に示す組成を有する研磨用組成物を調製した。表1には、各例に係る研磨用組成物のpHを併せて示している。使用したコロイダルシリカの比表面積換算平均粒子径(Dsa)は33nmであり、動的光散乱法による体積基準の粒度分布における累積頻度10%粒子径(D10)に対する累積頻度90%粒子径(D90)の比(D90/D10)は2.6であった。pH調整剤は、表1に示すpHとなる所定量を用いた。各例に係る研磨用組成物の残部は水からなる。
粒度分布の比(D90/D10)は、Microtrac社製の型式「UPA-UT151」を用いて、測定回数3回、測定時間120秒で測定した。測定用サンプル中のコロイダルシリカ濃度は、当該装置で検出される散乱光総量を示すローディングインデックスが0.03~0.05となるように調整した。
【0055】
<研磨除去速度>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用し、市販のノンドープ(n型)自立型GaNウェーハのガリウム面を、下記のポリシング条件で研磨した。使用したGaNウェーハはいずれも、直径2インチの円形である。
[ポリシング条件]
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」
研磨パッド:ニッタ・デュポン社製、不織布タイプ、製品名「SUBA400(XA250)」
研磨荷重:500gf/cm
定盤の回転速度:80rpm
平均線速度:55m/分
研磨液供給レート:10mL/分
研磨時間:60分
【0056】
上記ポリシングの前後におけるウェーハの重量に基づいて、以下の計算式(1)~(3)に従って研磨除去速度を算出した。結果を表1に示す。
(1) ΔV=(W0-W1)/ρ
(2) Δx=ΔV/S
(3) R=Δx/t
ここで、
W0:研磨前におけるウェーハの重量、
W1:研磨後におけるウェーハの重量、
ρ:GaNの比重(6.15g/cm)、
ΔV:研磨によるウェーハの体積変化量、
S:ウェーハの表面積、
Δx:研磨によるウェーハの厚さ変化量、
t:研磨時間、
R:研磨除去速度、である。
【0057】
<表面粗さRa>
各例に係る研磨用組成物を用いて上記ポリシングを行った後のウェーハ表面について、以下の条件で表面粗さRaを測定した。
[Ra測定条件]
評価装置:bruker社製 原子間力顕微鏡(AFM)
装置型式:nanoscope V
視野角:10μm角
走査速度:1Hz(20μm/秒)
走査あたりの測定点数:256(点)
走査本数:256(本)
測定部位:5(ウェーハ中心部の1か所と、該ウェーハの1/2半径部の周上における90°間隔の4か所について測定を行い、上記5か所における測定結果の平均をRaとして記録した。)
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示されるように、コロイダルシリカと、pH調整剤としてのリン酸と、添加剤としてのオルト過ヨウ素酸、過ヨウ素酸ナトリウムまたは過塩素酸とを含む研磨用組成物を使用した実施例1~3では、研磨除去速度は177nm/hour以上であった。添加剤としてオルト過ヨウ素酸または過ヨウ素酸ナトリウムを使用した実施例1,2の研磨除去速度は特に優れていた。また、実施例1~3では、研磨後の表面粗さRaが0.1nmよりも小さかった。一方、過ハロゲン酸に該当しない添加剤を使用した比較例1~5では、添加剤不使用の参考例との対比から、研磨除去速度向上効果は認められなかった。添加剤として過マンガン酸カリウムを使用した比較例3では、基板の保持材や研磨パッドが腐食により損傷し、研磨除去速度の測定に至らなかった。過マンガン酸類は、低pH領域においては使用が難しいことが判明した。また、上記実施例1~2と比較例4との対比、実施例3と比較例5との対比から、添加剤として、ハロゲン(ヨウ素、塩素)を有することではなく、過ハロゲン酸の構造を有することが研磨除去速度向上に寄与していると考えられる。また、上記実施例の結果からみて、上記研磨除去速度向上効果が、金属(ナトリウム)による凝集効果ではないと考えられる。なお、か焼アルミナ10%、リン酸および水からなるpH1.0の研磨用組成物を用いて、上記実施例と同じ評価を実施したところ、表面粗さRaが0.3nmと高く、良好な面品質を得ることができなかった。
上記の結果から、コロイダルシリカと、pH調整剤と、過ハロゲン酸系酸化剤と、水とを含む研磨用組成物によると、窒化ガリウム系半導体基板の研磨において、高い面品質を実現しつつ、研磨除去速度を向上させ得ることがわかる。
【0060】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。