(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141607
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/54 20120101AFI20241003BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20241003BHJP
【FI】
D04H1/54
D04H1/541
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053347
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀行
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 吉彦
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA14
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB02
4L047BA08
4L047BA09
4L047BB01
4L047BB06
4L047BB09
4L047CA02
4L047CA12
4L047CB02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】嵩高で厚みがある構造でありながら、適度な圧縮エネルギーを有し、風合いに優れる不織布の製造方法を提供する。
【解決手段】繊維を含む集合体からなる未融着ウエブを、凸状部又は凹状部を有する支持体と支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第一押込み部材との噛み合わせによって賦形する第一賦形工程と、賦形された未融着ウエブを、支持体と支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第二押込み部材との噛み合わせによって賦形する第二賦形工程と、第二賦形工程において又は第二賦形工程の後、加熱流体による繊維融着、又はエンボス圧着若しくはエンボス融着させる熱処理工程と、を有し、支持体の機械流れ方向に対する、第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度と、支持体の機械流れ方向に対する、第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度、との差が、60度以上90度以下である、不織布の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を含む集合体からなる未融着ウエブを、凸状部又は凹状部を有する支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第一押込み部材との噛み合わせによって賦形する第一賦形工程と、
賦形された前記未融着ウエブを、前記支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第二押込み部材との噛み合わせによって賦形する第二賦形工程と、
前記第二賦形工程において又は該第二賦形工程の後、加熱流体による繊維融着、又はエンボス圧着若しくはエンボス融着させる熱処理工程と、を有し、
前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度と、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度、との差が、60度以上90度以下である、
不織布の製造方法。
【請求項2】
繊維を含む集合体からなる第一未融着ウエブを、凸状部又は凹状部を有する支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第一押込み部材との噛み合わせによって賦形する第一賦形工程と、
前記支持体上において、賦形された前記第一未融着ウエブ上に第二未融着ウエブを積層し、前記第二未融着ウエブ側から、前記支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第二押込み部材との噛み合わせによって賦形する第二賦形工程と、
前記第二賦形工程において又は該第二賦形工程の後、加熱流体による繊維融着、又はエンボス圧着若しくはエンボス融着させる熱処理工程と、を有し、
前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度と、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度、との差が、60度以上90度以下である、
不織布の製造方法。
【請求項3】
前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度よりも、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度の方が大きい、請求項1又は2記載の不織布の製造方法。
【請求項4】
前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度が0度以上30度以下であり、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度が60度以上90度以下である、請求項3記載の不織布の製造方法。
【請求項5】
前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度よりも、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度の方が小さい、請求項1又は2記載の不織布の製造方法。
【請求項6】
前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度が60度以上90度以下であり、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度が0度以上30度以下である、請求項5記載の不織布の製造方法。
【請求項7】
前記支持体に対する前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い量の、前記支持体に対する前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い量に対する比(前者/後者)を1.2倍以上とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
【請求項8】
前記支持体の機械流れ方向に対する噛合い方向を60度以上90度以下とする前記第一押込み部材又は前記第二押込み部材において、噛合い時に前記凸状部と前記押し込み部とでできる機械流れ方向の均等隙間を0.5mm以上1.5mm以下とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、不織布には様々な態様の凹凸形状を付与したものがあり、その凹凸形状を付与する製造方法が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、凹凸を有するロール同士の噛合いによって凹凸賦形された未融着ウエブに、不織布を積層し更に凹凸賦形する技術が記載されている。これにより得られる立体賦形不織布として、表面繊維層の凸部の内部が中空で、かつ、表面繊維層の裏面側に裏面繊維層が積層された二層構造かつ閉鎖中空構造のものが記載されている。
特許文献2には、凹凸の支持体上で未融着の繊維ウエブに対して押し込み部を押し込んで賦形し、更に未融着の繊維ウエブを積層してなる不織布の製造方法が記載されている。これにより得られる不織布は、高低差のある凹凸構造を有するものとなる。
【0004】
特許文献3には、凹凸ロール同士の加熱を伴う噛み合わせにより、樹脂材料を含む不織布からなる第1のシート及び第2のシートを賦形しながら接合して複合シートを形成する技術が記載されている。この技術で得られる複合シートでは、第2のシートは、第1のシートの湾曲部に対応する領域の中央部にだけ突起部を有し、その周りを平坦部で取り囲んだ形状を備える。
【0005】
特許文献4及び5では、熱風の吹き付けによって未融着のウエブを凹凸賦形する技術が記載されている。これにより得られる不織布では、未融着ウエブに対する凹凸賦形部分で厚み方向の繊維配向性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-037057号公報
【特許文献2】特開2019-112747号公報
【特許文献3】特開2019-063581号公報
【特許文献4】特開2016-089289号公報
【特許文献5】特開2014-012913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の様々な不織布の製造方法において、凹凸賦形することにより不織布の厚みを出して、嵩高で柔らかな風合いと、凸部での良好なクッション性とを付与することが可能となる。一方で、前記凸部は、クッション性の向上の観点から、横からや斜めからの押圧を受けた場合でも、より倒れ難くすることが求められるようになってきた。この点、凸部の倒れ難さを繊維量の増加で実現しようとすると繊維量によっては剛性に繋がってしまい、かえって嵩高で柔らかな風合いを損ねかねない。そのため、凹凸賦形による柔らかな風合いを損なうことなく、凸部の倒れ難さを更に向上できる製造方法が検討されるようになってきた。
しかし、特許文献4及び5記載の不織布の製造方法では、熱風によって各凸部同士が連結されずに独立したものとして形成され、該凸部の更なる自立性は高め難い。また、特許文献1記載の不織布の製造方法はロール同士の噛合いで、上記と同様に互に独立した凸部を千鳥格子状に形成するものでしかない。特許文献3記載の不織布の製造方法では、不織布化後に凸部周辺の底部となるエンボス部のみの融着処理を行っている。エンボス周辺での層間融着処理はされておらず、凸部の倒れ難さを更に高めるような技術に関する記載はない。
特許文献2記載の不織布の製造方法では、支持体と押し込み部材とによる噛合い賦形処理によって、一方向に延在する縦畝部と該畝部に対して交差する方向に支える横畝部とを形成する。しかし、前記噛合い賦形処理において、縦畝部と横畝部との支え合いの強度を更に高めるような加工制御に関する記載はない。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑み、嵩高で厚みがある構造でありながら、適度な圧縮エネルギーを有し、風合いに優れる不織布の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、繊維を含む集合体からなる未融着ウエブを、凸状部又は凹状部を有する支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第一押込み部材との噛み合わせによって賦形する第一賦形工程と、賦形された前記未融着ウエブを、前記支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第二押込み部材との噛み合わせによって賦形する第二賦形工程と、前記第二賦形工程において又は該第二賦形工程の後、加熱流体による繊維融着、又はエンボス圧着若しくはエンボス融着させる熱処理工程と、を有し、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度と、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度、との差が、60度以上90度以下である、不織布の製造方法を提供する。得られる不織布の一例として、表裏の凸部と凹部の位置がそれぞれ一致した凹凸不織布が得られる。
【0010】
また、本発明は、繊維を含む集合体からなる第一未融着ウエブを、凸状部又は凹状部を有する支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第一押込み部材との噛み合わせによって賦形する第一賦形工程と、前記支持体上において、賦形された前記第一未融着ウエブ上に第二未融着ウエブを積層し、前記第二未融着ウエブ側から、前記支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第二押込み部材との噛み合わせによって賦形する第二賦形工程と、前記第二賦形工程において又は該第二賦形工程の後、加熱流体による繊維融着、又はエンボス圧着若しくはエンボス融着させる熱処理工程と、を有し、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度と、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度、との差が、60度以上90度以下である、不織布の製造方法を提供する。得られる不織布の一例として、凸部の中に中空を有する凹凸不織布や凸部の中が中実構造をした凹凸不織布が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の不織布の製造方法によれば、嵩高で厚みがある構造でありながら、適度な圧縮エネルギーを有し、風合いに優れる不織布を好適に製造することができる。なお、ここで言う「嵩高さ」は嵩密度ともいい、不織布全体の繊維密度で示される。不織布中の繊維間における空隙が増すことで該繊維密度が低下し、該繊維密度が低い程嵩高くなる。前記「圧縮エネルギー」とは、不織布を厚み方向に圧縮する際の変形量とそれに要する力との積を意味する。適度な圧縮エネルギーを有すると風合いに優れたものとなる。
この点、従来の不織布においては、繊維密度が低いほど(嵩高いほど)、圧縮エネルギーが低下する傾向にある。圧縮エネルギーが低すぎると頼りないと感じ、高すぎると硬いと感じる傾向にある。これに対し、本発明の不織布の製造方法によれば、嵩高で厚みのある構造でありながら、適度な圧縮エネルギーを有して圧縮時にちょうどよい反発力が生じやすく風合いに優れた不織布を好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】(A)及び(B)は、本発明の不織布の製造方法において行われる2段の賦形工程における噛合い方向の角度の一例を模式的に示す平面図である。
【
図2】押込み部材が連続体でない場合の噛合い方向の一例を示す平面図である。
【
図3】(A)及び(B)は、噛合い方向が機械流れ方向と幅方向との2方向である場合を示す平面図である。
【
図4】支持体と押込み部材との噛合い状態における均等隙間及び噛合い量を模式的に示す説明図である。
【
図5】(A)~(D)は、2段の賦形工程の一例を模式的に示す説明図である。
【
図6】本発明の不織布の製造方法により得られる不織布が備える凸部及び底部の配置の一例を表面側から模式的に示す平面図である。
【
図7】
図6に示す不織布が第1実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、I-I線に沿う断面を模式的に示すMD投影断面図である。
【
図8】
図6に示す不織布が第1実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、II-II線に沿う断面を模式的に示すCD投影断面図である。
【
図9】
図6に示す不織布が第1実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、III-III線に沿う断面を模式的に示すMD投影断面図である。
【
図10】
図6に示す不織布が第1実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、IV-IV線に沿う断面を模式的に示す投影断面図である。
【
図11】不織布が備える凸部及び底部の配置の別の例を表面側から模式的に示す平面図である。
【
図12】
図6に示す不織布が第2実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、I-I線に沿う断面を模式的に示すMD投影断面図である。
【
図13】
図6に示す不織布が第2実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、II-II線に沿う断面を模式的に示すCD投影断面図である。
【
図14】
図6に示す不織布が第2実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、III-III線に沿う断面を模式的に示すMD投影断面図である。
【
図15】
図6に示す不織布が第2実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、IV-IV線に沿う断面を模式的に示す投影断面図である。
【
図16】最上凸部における壁部を測定する際に用いる断面図である。
【
図17】本発明の不織布の製造方法に用いられる好ましい製造装置の1例(具体例1)を示す概略図である。
【
図18】本発明の不織布の製造方法に用いられる好ましい製造装置の別の例(具体例2)を示す概略図である。
【
図19】実施例の不織布の製造方法により作製された不織布試料の模式平面図と断面における繊維層の状態を示す図面代用写真である。
【
図20】壁部繊維配向度の測定位置を示す説明図である。
【
図21】本発明の不織布における各種の面積割合を模式的に示す断面図である。
【
図22】実施例及び比較例1~3の不織布の製造方法により作製された不織布試料の断面における繊維状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の不織布の製造方法の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
本発明の不織布の製造方法において各種の用語は次のように定義される。
「支持体」とは、凹凸形状を有し、押込み部材と噛合い可能であり、不織布や未融着ウエブを一時的に保持するものである。前述の凸状部及び凹状部は基材に対して相対的な高低差を有する関係にある部分を意味し、例えば支持体を構成する基材よりも高く突出している部分が凸状部である。この場合、凸状部に挟まれた基材部分が凹状部であるとも言える。また、支持体を構成する基材に部分的に窪んだ部分がある場合は、その部分が凹状部となる。この場合、凹状部に挟まれた基材部分が凸状部であるとも言える。支持体は、コンベアやネットの形態など可撓性のものや、ドラムロールやプレートの形態などの非可撓性のものでもよい。支持体の材質は種々のものを用いることができる。例えば樹脂、金属、カーボン、セラミックが挙げられる。非可撓性のエンボスロールであると、支持体上でエンボス熱融着又はエンボス圧着することができる点で好ましい。
「押込み部材」とは、凹凸形状を有し、支持体に押し込み可能(噛合い可能)なものである。押込み部材は、可撓性のものや非可撓性のものでもよく、例えばリング状ロール、凹凸ロール、ネット、ベルト、チェーン、板バネ(弾性板状体)、可動式の荷重プレート、可撓性のあるブレードが支持部に組み込まれたものが挙げられる。押込み部材の材質は種々のものを用いることができ、例えば樹脂、金属、カーボン、セラミックが挙げられる。
【0015】
「噛み合わせ」とは、支持体の凹状部と押込み部材の押し込み部とを対応させた配置にて、支持体の凸状部と押込み部材の押し込み部との間にウエブが入り込む程度の隙間を有しながら前記凹状部に対して前記押し込み部が入り込むことを意味する。言い換えると、支持体の凹凸形状と押込み部材の凹凸形状とが、噛み合うように合わせられることを意味する。この時、支持体と押込み部材の摩耗や変形を低減するため、支持体と押込み部材は未融着ウエブを介することで互いに直接接触しないことが好ましい。
【0016】
「機械流れ方向」とは、製造工程が順に進められる方向であり、加工対象のウエブの搬送方向である。前述の支持体が例えばロール体である場合、そのロール回転方向である。MD(Machine Direction)ともいう。
「幅方向」とは、前記機械流れ方向に直交する方向であり、未融着ウエブの幅に沿う方向である。前述の支持体が例えばロール体である場合、そのロール軸方向である。CD(Cross Direction)ともいう。
【0017】
「ウエブ」とは、不織布や未融着ウエブを含むシート状の繊維集合体である。このウエブには、構成繊維として熱可塑性繊維を含むことが好ましい。
「不織布」とは、熱的融着、機械的交絡、化学的結合(接着剤、ケミカルボンドなど)によって繊維集合体を形成したシートを意味する。
「未融着ウエブ」とは、熱(熱風、水蒸気、熱エンボス、超音波エンボスなど)により融着可能な未融着繊維の集合体を意味し、融着処理工程前に水流交絡やニードルパンチなどの機械交絡をされた不織布は除外する。より具体的には、不織布としての強度を有しないものであり、MD方向及びCD方向に沿った引張最大強度が100cN/50mm以下のものは未融着ウエブとする。例えばカードウエブが含まれる。
【0018】
「熱融着」した状態とは、未融着ウエブが溶融することで、熱融着した部分においてウエブの構成繊維が融着処理前の繊維形態を有しなくなることを意味する。繊維形態を有するとは、繊維の長さと繊維の断面積から求めた直径(真円として計算)との比(前者/後者)が300倍以上となっているものとする。例えば、「熱融着」した状態ではウエブの構成繊維の外周面の少なくとも一部分が溶融し、他の繊維の外周面との境界が判別できなくなり、融着処理前の繊維形態を有しなくなる。複合繊維等の構成繊維が2種以上の樹脂からなる場合は、特定の樹脂が溶融せずに繊維形態を保っていても、他の樹脂が溶融し、構成繊維の外周面同士の境界が判別できなくなり、融着処理前の繊維形態を有しなくなる。これらは繊維融着部の断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により観察することで可能である。
【0019】
「エンボス融着」とは、エンボスなどの凹凸部材によって繊維同士が外圧と熱により熱融着されることを意味する。より詳細には、繊維同士の接合界面における少なくとも一方の繊維の樹脂が圧力と熱(分子間摩擦や圧縮による自己発熱や外部加熱による)によって溶融し、他方の繊維に接合することを意味する。
「エンボス圧着」とは、エンボスなどの凹凸部材によって繊維同士が外圧または熱により圧着されることを意味する。より詳細には、樹脂が熱や圧力によって溶融されずに繊維が他方の繊維に密着することを意味する。
【0020】
ウエブを構成する繊維材料は、任意の一般繊維及び熱伸長繊維を用いることができる。繊維材料は、毛羽立ち及び強度の観点から連続繊維や長繊維であっても良いが、短繊維を用いると繊維油剤によって繊維表面の表面張力を各層で変えることが可能となる点で好ましい。
連続繊維は、製品部材の端面での繊維切断箇所や毛羽立ち部の一部の繊維の切断を除き、実質的に繊維が連続しているものであり、スパンボンド法に見られるものである。
長繊維は、有効長(80mm以上)の繊維長を有するものであり、メルトブローン法に見られるものである。
短繊維は、77mm長以下の繊維であり、エアースルー不織布やスパンレース不織布、エアレイド不織布に用いられる。
【0021】
未融着ウエブの供給方法としては、スパンボンド法(エンボス前のもの、連続繊維)、エレクトロスピニング法(連続繊維)、スパンメルト法(熱風伸長と冷風延伸を組み合わせた方法、長繊維)、メルトブローン法(長繊維)、カード法(短繊維)、エアレイド法(短繊維)が挙げられる。特にスパンボンド法、カード法によるものが嵩高な立体賦形不織布が得られるため好ましい。また、これらの供給方法を組み合わせることも可能である。
【0022】
繊維材料は、熱可塑性繊維を含むことが好ましく、例えば、ポリエチレン(以下、PEともいう)繊維、ポリプロピレン(以下、PPともいう)繊維等のポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETともいう)、ポリアミド等の熱可塑性樹脂を単独で用いてなる繊維が挙げられる。また、芯鞘型、サイドバイサイド型等の構造の複合繊維を用いることも可能である。本発明では複合繊維を用いることが好ましい。ここでいう複合繊維としては、高融点成分が芯部分で低融点成分が鞘部分とする芯鞘繊維、高融点成分と低融点成分とが並列するサイドバイサイド繊維が挙げられる。その好ましい例として、鞘成分がポリエチレンまたは低融点ポリプロピレンである芯鞘構造の繊維が挙げられ、該芯鞘構造の繊維の代表例としては、PET(芯)とPE(鞘)、PP(芯)とPE(鞘)、PP(芯)と低融点PP(鞘)等の繊維が挙げられる。さらに具体的には、上記構成繊維は、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレン複合繊維、ポリプロピレン複合繊維を含むことが好ましい。ここで、該ポリエチレン複合繊維の複合組成は、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンであり、該ポリプロピレン複合繊維の複合組成が、ポリエチレンテレフタレートと低融点ポリプロピレンであることが好ましく、より具体的には、PET(芯)とPE(鞘)、PET(芯)と低融点PP(鞘)が挙げられる。用いられる樹脂の融点は断りのない限り大気圧下(N2ガス雰囲気中)で測定された融点を意味する。
【0023】
これらの繊維は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてウエブを構成することができる。また、ウエブには、コットン、パルプ等の天然繊維やレーヨン、キュプラ等の再生繊維等の熱可塑性繊維以外の繊維が含まれていてもよい。したがって、本発明の製造方法によって製造される不織布には、上記の繊維を含むことが好ましい。
【0024】
本発明の不織布の製造方法は、前述の支持体に対して、噛合い方向の異なる2種の押し込み部材を用いて2段の噛合いによる賦形工程を行う。1段目の賦形方向と2段目の賦形方向とを変えることで、それぞれの方向で賦形形状の異なる凸部を形成できる。また、別々の賦形工程を行うことで、各工程において噛合い量(深さ)をそれぞれ独立に制御できる。その結果、賦形形状の異なる凸部について、所望の高さの組み合わせを形成できるよう加工処理を好適に制御できる。
【0025】
本発明の不織布の製造方法は2種類の実施形態を含む。1つは、1種類の未融着ウエブに対して2段の賦形工程を行って不織布化する形態(第1実施形態)である。もう一つは、上記の未融着ウエブ(第一未融着ウエブともいう)に対して2段の賦形工程を実施するに当たり、1段目の賦形工程の後に更に別の未融着ウエブ(第二未融着ウエブともいう)を積層し、その積層体に対して2段目の賦形工程を行って不織布化する形態(第2実施形態)である。これにより第一未融着ウエブは2段の賦形工程を受け、第二未融着ウエブは1段の賦形工程を受ける。これらの各未融着ウエブは、単層であってもよく、複数層であってもよい。
【0026】
具体的には、第1実施形態の不織布の製造方法は、下記の工程を有する(以下、工程(1-1)、工程(1-2)及び工程(1-3)ともいう)。
(1-1)繊維を含む集合体からなる未融着ウエブを、凸状部又は凹状部を有する支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第一押込み部材との噛み合わせによって賦形する第一賦形工程。
(1-2)賦形された前記未融着ウエブを、前記支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第二押込み部材との噛み合わせによって賦形する第二賦形工程。
(1-3)前記第二賦形工程において又は該第二賦形工程の後、加熱流体による繊維融着、又はエンボス圧着若しくはエンボス融着させる熱処理工程。
【0027】
第2実施形態の不織布の製造方法は、下記の工程を有する(以下、工程(2-1)、(2-2)及び(2-3)ともいう)。
(2-1)繊維を含む集合体からなる第一未融着ウエブを、凸状部又は凹状部を有する支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第一押込み部材との噛み合わせによって賦形する第一賦形工程。
(2-2)前記支持体上において、賦形された前記第一未融着ウエブ上に第二未融着ウエブを積層し、前記第二未融着ウエブ側から、前記支持体と該支持体に噛合い可能な押し込み部を有する第二押込み部材との噛み合わせによって賦形する第二賦形工程。
(2-3)前記第二賦形工程において又は該第二賦形工程の後、加熱流体による繊維融着、又はエンボス圧着若しくはエンボス融着させる熱処理工程。
【0028】
第1実施形態の工程(1-1)及び工程(1-2)、並びに第2実施形態工程(2-1)及び(2-2)のいずれにおいても、次の要件を満たすように噛合い賦形処理を行う。
すなわち、前記支持体の機械流れ方向(以下、MD方向ともいう)に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度と、前記支持体の機械流れ方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度、との差を、60度以上90度以下とする。
【0029】
前述の噛合い方向とは、支持体と押込み部材との噛合いでなされる未融着ウエブの押し込み部分が、未融着ウエブの平面方向において延在する方向を意味する。言い換えると、押込み部材の有する押し込み部の延びる方向である。また、未融着ウエブの厚み方向への噛合い賦形の後、前記未融着ウエブを平面視して把握される凸部(畝部)の延在方向である。
【0030】
前述の、前記支持体のMD方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度(第一賦形工程)、及び、前記支持体のMD方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度(第二賦形工程)は、それぞれMD方向を基準にして決められる。第一賦形工程において、第一押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度は、MD方向に対する傾斜角度θ1とする。第二賦形工程において、第二押込み部材の有する押し込み部の噛合い方向の角度は、MD方向に対する傾斜角度θ2とする。両者の角度の差の絶対値|θ1-θ2|を60度以上90度以下とする。
【0031】
この噛合い方向の角度の差|θ1-θ2|を上記範囲とすることで、2段の独立した賦形方向が実質的に直交すると認められるものとなる。この観点から、前記噛合い方向の角度の差|θ1-θ2|は、70度以上が好ましく、80度以上がより好ましい。
これにより、支持体と押し込み部材との噛み合わせで厚み方向に賦形される未融着ウエブ及びその後得られる不織布は、その平面方向において実質的に直交すると認められる筋状の凸部(畝部)を形成することができる。その際、第一賦形工程と第二賦形工程とを別々に行うので、噛合い量をそれぞれで独立して制御することができる。これにより、2段の噛合い賦形処理で、不織布を嵩高く厚みのあるものとしながら、形成される凸部(縦畝部と横畝部)同士の支え合いの強度を高めて適度な圧縮エネルギーとなるよう、該凸部の高さ及び該凸部の繊維構造を好適に制御できる。
【0032】
また、支持体の凸状部の配置において支持体の凸状部のMD方向に並ぶ方向を特定し、該方向とMD方向とのなす角度を、支持体凸状部の角度θMとする。同様に、支持体の凸状部のCD方向に並ぶ方向を特定し、該方向とMD方向とのなす角度を、支持体凸状部の角度θCとする。支持体の凸状部は離散していても連続していてもよい。例えば、支持体凸状部がリング状にMD方向に連続する場合は、支持体凸状部の角度θMのみとなる。
支持体凸状部の角度θMは、押し込み部材がリングを回転軸方向に複数組み合わせたドラム形状のもので、リングの部分が、回転方向に延出した押し込み部をなしているもの(リング状ロール)である場合、支持体と押し込み部材を同期させ位置合わせして噛み合わせる必要がなくなる観点から0度とすることが好ましい。支持体凸状部の角度θCはエンボス圧着若しくはエンボス融着させる際に、振動を防止する点から85度以上89.5度以下にすることが好ましい。
さらには、支持体の凸状部と押込み部材の押し込み部との直接的な接触を防止する観点から、支持体の凸状部の角度θMは第一押込み部材の押し込み部の傾斜角度θ1と同じ角度を有し、支持体の凸状部の角度θCは第二押込み部材の押し込み部の傾斜角度θ2と同じ角度であることが好ましい。別のパターンとして、支持体の凸状部の角度θMは第二押込み部材の押し込み部の傾斜角度θ2と同じ角度を有し、支持体の凸状部の角度θCは第一押込み部材の押し込み部の傾斜角度θ1と同じ角度であることが好ましい。
【0033】
支持体凸状部の角度θMは好ましくは0度以上30度以下であり、支持体凸状部の角度θCは60度以上90度以下であることが、上記の支持体の凸状部と押込み部材の押し込み部との直接的な接触を防止する観点から好ましい。
【0034】
上記の噛合い方向の角度θ1、θ2はいずれも、
図1(A)及び(B)に示すように、MD方向に対する傾斜角度のうち小さい方の角度(0度以上90度以下)とする。なお、押込み部材の有する押し込み部が平面方向に連続体でない場合(ドット状など)は、
図2に示すように、押込み部材の有する押し込み部のピッチが短い方向を特定し、該方向とMD方向とのなす角度を、噛合い方向の角度とする。なお、
図1(A)及び(B)並びに
図2において、符号θは噛合い方向の角度θ1又はθ2のいずれかを示す。符号111は支持体の凸状部を示し、符号112Aは支持体においてMD方向に延在する凹状部を示し、符号112Bは支持体においてCD方向に延在する凹状部を示す。符号121は第一押込み部材の押し込み部を示し、符号122は第二押込み部材の押し込み部を示す。
図1(A)及び(B)並びに
図2においては、支持体の平面方向における第一押込み部材の押し込み部121の延びる方向、第二押込み部材の押し込み部122の延びる方向の理解のため、介在する未融着ウエブは省略して示す。
【0035】
図1(A)及び(B)に示す2つの噛合い方向の角度は、いずれを第一賦形工程の噛合い方向の角度θ1としてもよい。
図1(A)及び(B)の噛合い方向の角度の形態のうち、角度θ1となる方が第1賦形工程として先に行い、角度θ2となる方が第2賦形工程として後に行う。
図1(A)及び(B)のいずれの賦形工程を先に行っても、前述の噛合い方向の角度差|θ1-θ2|の範囲において、実質的に直交すると認められる筋状の凸部を形成でき、噛合い量を好適に制御して互いに交差する凸部(縦畝部と横畝部)同士の支え合いの強度を高めて倒れ難くできる。
【0036】
例えば、前記支持体のMD方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部121の噛合い方向の角度θ1(第一賦形工程)よりも、前記支持体のMD方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部122の噛合い方向の角度θ2(第二賦形工程)を大きくする形態が挙げられる。
この場合、前記支持体のMD方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部121の噛合い方向の角度θ1が0度以上30度以下、前記支持体のMD方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部122の噛合い方向の角度θ2が60度以上90度以下、とすることが好ましい。前記噛合い方向の角度θ1「0度以上30度以下」は、支持体のMD方向に対する角度がほとんどなく、実質的にMD方向と認められる方向を示していると言える。また、前記噛合い方向の角度θ2「60度以上90度以下」は、支持体のCD方向に対する角度がほとんどなく、支持体のMD方向に対して実質的に直交するCD方向と認められる方向を示していると言える。
例えば
図1(A)に示す傾斜角度θを噛合い方向の角度θ1とし、この角度θ1でのMD方向に沿う第一賦形工程を先に行い、
図1(B)に示す傾斜角度θを噛合い方向の角度θ2とし、この角度θ2でのCD方向に沿う第二賦形工程を後に行う。
【0037】
また、前記支持体のMD方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部121の噛合い方向の角度θ1(第一賦形工程)よりも、前記支持体のMD方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部122の噛合い方向の角度θ2(第二賦形工程)を小さくする形態でもよい。
この場合、前記支持体のMD方向に対する、前記第一押込み部材の有する押し込み部121の噛合い方向が60度以上90度以下、前記支持体のMD方向に対する、前記第二押込み部材の有する押し込み部122の噛合い方向が0度以上30度以下、とすることが好ましい。この場合、前記噛合い方向の角度θ1が実質的にCD方向と認められる方向を示し、前記噛合い方向の角度θ2が実質的にMD方向と認められる方向を示していると言える。
例えば
図1(B)に示す傾斜角度θを噛合い方向の角度θ1とし、この角度θ1でのCD方向に沿う第一賦形工程を先に行い、
図1(A)に示す傾斜角度θを噛合い方向の角度θ2とし、この角度θ2でのMD方向に沿う第二賦形工程を後に行う。
【0038】
上記の噛合い方向の角度θ1又はθ2を「0度以上30度以下」とする場合、その上限は、支持体の凸状部111の角度θMへより近付ける観点から15度以下がより好ましく、5度以下が更に好ましい。
上記の噛合い方向の角度θ1又はθ2を「60度以上90度以下」とする場合、その下限は、支持体の凸状部111の角度θCへより近付ける観点から80度以上がより好ましく、87度以上が更に好ましく、上限は89.5度以下がより好ましい。
【0039】
角度θ1=0度又は90度、角度θ2=90度又は0度とする場合、両者の角度差は90度となる。この場合、一方の噛合い方向の角度をMD方向とし、他方の噛合い方向の角度をCD方向とすることが好ましい。例えば、
図3(A)に示すように、第一押込み部材の有する押し込み部121をMD方向に延在するものとし、第一賦形工程における噛合い方向をMD方向(θ1=0度)にしてもよい。この場合、
図3(B)に示すように、第二押込み部材の有する押し込み部122をCD方向に延在するものとし、第二賦形工程における噛合い方向をCD方向(θ2=90度)にしてもよい。または、第一賦形工程における噛合い方向をCD方向(θ1=90度)とし、第二賦形工程における噛合い方向をMD方向(θ2=0度)としてもよい。
【0040】
第1実施形態の工程(1-1)及び工程(1-2)、並びに第2実施形態工程(2-1)及び(2-2)のいずれにおいても、機械的な圧力で直接的に未融着ウエブ100を押し込む。これにより、風などの、機械的でない圧力で押し込んだ場合に比べ、繊維が強配向し、不織布平面に対して垂直な配向成分が多い不織布を得ることができる。また、未融着ウエブに対して賦形する凹凸高低差を大きくするのに、さほど押し込む力を強くする必要がなく、未融着ウエブを柔らかく賦形することができる。また、繊維の乱れを抑えて賦形性を高めることができる。
各賦形工程ぞれぞれで独立して噛合い量を適宜設定し好適に制御することができるので、得られる不織布の凸部の高さを好適に制御するばかりでなく、凸部が有する壁部の繊維の厚み方向に沿う配向性を高めることができる。このようにして不織布の凸部が圧縮時に倒れ難く、厚み方向にちょうどよく反発する適度な圧縮エネルギーを付与するよう、前記噛合い量を好適に制御することができる。
加えて、2段の噛合い賦形を行うことで、未融着ウエブ内の繊維間を広げ、繊維で満たされる領域を大きく保持して嵩高な構造を形成することができる。この点、未融着ウエブ100が噛合い賦形によって伸長されるほど繊維配向が増す一方で、繊維間距離が長くなり、繊維密度が低くなることによって繊維の嵩密度は低下する傾向にある。未融着ウエブを用いることで、繊維間の結合が低いため噛合い時に高伸長としても繊維自体を破断することなしに未融着ウエブを伸長することができる。このことを踏まえて、2段の噛合い量を制御することにより、好適な繊維配向と嵩密度(嵩高さ)と凸部高さ(厚み)を同時に好適に形成することができる。
その結果、嵩高で厚みがある繊維構造からなり、適度な圧縮エネルギーを有し、風合いに優れる不織布を好適に製造することができる。
【0041】
第1実施形態の工程(1-1)及び工程(1-2)、並びに第2実施形態工程(2-1)及び(2-2)のいずれにおいても、噛合い量の制御に関し、次のようにすることが好ましい。
すなわち、前記支持体に対する前記第一押込み部材の有する押し込み部121の噛合い量の、前記支持体に対する前記第二押込み部材の有する押し込み部122の噛合い量に対する比(前者/後者)を1.2倍以上とすることが好ましい。これにより、第一押込み部材の有する押し込み部121により支持体の凸状部111、111間に未融着ウエブが押し込まれる際に、未融着ウエブの張力によって、押し込み部121の延在する方向以外の第二押込み部材の有する押し込み部122の延在する方向にも未融着ウエブが支持体の凸状部間に挿入されうる。後述する縦畝部1の第1中間凸部1Aにおける高さH2の、最上凸部15の高さH1に対する割合({H2/H1}×100)と横畝部5の第2中間凸部5Aにおける高さH3の、最上凸部15の高さH1に対する割合({H3/H1}×100)を好適に制御することが可能となる。これにより、不織布に後述する縦畝部1と横畝部5が明確に形成され、該縦畝部1及び横畝部5が倒れにくくなるとともに良好な風合いのものが得られ、2段の賦形工程を安定化することができる。すなわち、所望の凸部高さの組合せになるよう、加工を好適に制御することができる。また、これにより縦畝部1の高さと横畝部5の高さを独立して制御することが可能になる。
この観点から、前記比(前者/後者)は、1.4倍以上がより好ましく、1.6倍以上が更に好ましい。
また、前記比(前者/後者)は、後述する第1中間凸部1A、第2中間凸部5Aを適切な高さに設定でき、縦畝部1及び横畝部5を縦方向、横方向にともに倒れにくくする観点から、3倍以下が好ましく、2.2倍以下がより好ましく、1.8倍以下が更に好ましい。
【0042】
また、前記支持体の機械流れ方向に対する噛合い方向を60度以上90度以下とする前記第一押込み部材又は前記第二押込み部材において、噛合い時に凸状部111と前記押し込み部121又は122とでできるMD方向の均等隙間を0.5mm以上1.5mm以下とすることが好ましい。前記「均等隙間」とは、支持体が有する凸状部間空間に前記押し込み部が挿入された状態で、該押し込み部のMD方向の前後の凸状部間空間の長さが均等になる状態での隙間を言う。均等隙間は、支持体及び押込み部材がロール体である場合、支持体と押込み部材の軸中心間を結ぶ線上において、噛合い量P1の1/2高さ位置で、押込み部材の有する押し込み部が支持体の凸状部間が形成する空間の中央に位置する状態での、押し込み部のMD方向の前後の隙間R1を言う(
図4参照)。また、前記押し込み部が、その長手方向の断面形状が大径であるなど、太さが均等でない場合、噛合い部分における平均隙間を言う。噛合い量P1は
図4で示されるように、支持体の凸状部111の先端と押込み部材の押し込み部121又は122の先端との高さの差を意味する。ロール形状をした場合については、噛合い量P1は支持体の凸状部111の先端における外径半径と押込み部材の押し込み部121又は122の先端における外径半径とを足した値から、各ロールの軸中心間距離を差し引いた値として求められる。
前記均等隙間は、未融着ウエブが過度に圧縮されずに嵩高となり、また、支持体と押込み部材の出口側にて未融着ウエブと押込み部材の剥離を容易とすることができる観点から、0.5mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましい。
また、前記均等隙間は、適度に圧縮して毛羽を抑える観点から、1.5mm以下が好ましく、1.2mm以下がより好ましい。
【0043】
更に、前記支持体の機械流れ方向に対する噛合い方向を60度以上90度以下とする前記第一押込み部材又は前記第二押込み部材において、前述の均等隙間R1の噛合い量P1に対する比(R1/P1)を0.1以上1以下とすることが好ましい(
図4参照)。前記下限以上とすることにより、熱膨張による支持体と押込み部材との干渉が起き難くなり、前記上限以下とすることにより、噛合いによる未融着ウエブの繊維をより厚み方向に配向させやすく、賦形による厚みをより大きくすることができる。
上記の観点から、前記比(R1/P1)は、0.15以上がより好ましく、0.20以上が更に好ましい。
また、同様の観点から、前記比(R1/P1)は、0.8以下がより好ましく、0.5以下が更に好ましい。
【0044】
次に、第1実施形態の不織布の製造方法における工程(1-1)及び工程(1-2)の一例を、
図5(A)~(D)を参照しながら示す。
図5(A)~(D)は、工程(1-1)第一賦形工程の第一押し込み部材の噛合い方向をMD方向とし、工程(1-2)第二賦形工程の第二押し込み部材の噛合い方向をCD方向とする態様の例を示している。
図5(A)は、第一賦形工程の噛合い状態の一例を示している。この工程では、未融着ウエブ100が支持体110の凸状部111に支持され、凸状部111、111間の凹状部112Aにある第一未融着ウエブ100に対して第一押込み部材120Aの押し込み部121を押し込む。この噛合い状態を、
図5(B)に示すように第一押し込み部材120Aの側から平面視すると、押し込み部121の噛合い方向をMD方向としている。この例では、支持体110は、凸状部111をMD方向及びCD方向に互いに等間隔にて配置して、MD方向に延在する凹状部112AとCD方向に延在する凹状部112Bとを互い交差させながら格子状に配置させている。第一賦形工程では、支持体110のMD方向に延在する凹状部112Aに対して、第一押込み部材120Aの押し込み部121を噛み合わせている。噛合い方向をMD方向にしている。これにより、未融着ウエブ100の押し込まれた部分が伸長されて、支持体側にMD方向に沿って凸状に賦形される。MD方向に沿って凸状に賦形された部分が、後述の不織布10(例えば
図6参照)における縦畝部1となる。
第一押込み部材120Aを未融着ウエブ100から剥離し、その後、未融着ウエブ100が支持体110側に保持されるようにする。保持する方法としては支持体110の凸状部111のない裏面側から吸引する、支持体110の凸状部111の側面の表面粗さを大きくする、押込み部材120Aの押し込み部121の側面の表面粗さを小さくする、といった方法があげられる。
図5(C)は、第二賦形工程の噛合い状態の一例を示している。この工程では、第一賦形工程のあと支持体110に保持された未融着ウエブ100に対して、第二押込み部材120Bの押し込み部122を押し込む。具体的には、支持体110の凸部111、111間の凹状部112Bにある、未融着ウエブ100に対して第二押込み部材120Bの押し込み部122を押し込む。この噛合い状態を、
図5(D)に示すように第二押込み部材120Bの側から平面視すると、押し込み部122の噛合い方向をCD方向としている。すなわち、第二賦形工程では、支持体110のCD方向に延在する凹状部112Bに対して、第二押込み部材120Bの押し込み部122を噛み合わせている。噛合い方向をCD方向にしている。未融着ウエブ100は、前述のMD方向に沿って凸状に賦形された部分と部分的に重なるようにして、これと直交するCD方向に沿って押し込まれる。これにより、未融着ウエブ100の押し込まれた部分が伸長されて、支持体側にCD方向に沿って凸状に賦形される。CD方向に沿って凸状に賦形された部分が、後述の不織布10(例えば
図6参照)における横畝部5となる。また、支持体110の凸状部111にて保持された繊維層は、後述の不織布10(例えば
図6参照)において凹状に窪んだ底部2となる。また、第一未融着ウエブ100においては支持体110の凸状部111、111間により入り込んだ部分が不織布の凸状部分(最上凸部15)となる。
【0045】
このように2段の賦形工程が行われた未融着ウエブ100は、前述の工程(1-3)の熱処理工程を経て不織布10(例えば
図6参照)となる。前述の工程(1-3)では、前記第二賦形工程において又は該第二賦形工程の後、加熱流体による繊維融着、又はエンボス圧着若しくはエンボス融着させる。これにより、層間繊維交点熱融着部P、又はエンボス圧着部若しくはエンボス融着部が形成され、本発明の不織布が製造される。工程(1-3)の熱処理工程は、1回に限らず複数回行ってもよい。例えば、加熱流体による繊維融着を複数回行ってもよく、該加熱流体による繊維熱融着とエンボス圧着又はエンボス融着とを組み合わせて行ってもよい。
なお、上記加熱流体による繊維熱融着の場合、支持体110の凹部112には、工程(1-3)の加熱流体を通過させる開孔113があることが好ましい。
【0046】
得られた不織布10は、前述のとおり、MD方向に沿って凸状にされた縦畝部1と、CD方向に沿って凸状にされた横畝部5とを有する。一例として縦畝部1は主に第一押込み部材120Aによる第一賦形工程にて形成され(例えば
図6の縦畝部1の列)、横畝部5は主に第二押込み部材120Bによる第二賦形工程にて形成される(例えば
図6の横畝部5の列)。最上凸部15は第一賦形工程と第二賦形工程の交点となる。最上凸部15はそれぞれの押込み量によって押込み量の多い方の影響を主に受けて形成される。一例として、
図6の底部2は支持体110の凸状部111の位置で形成される。また、第二賦形工程の後、賦形された未融着ウエブ100を支持体110上にて支持体110の凸状部111と他のロールやホーンにより加圧することによってエンボス圧着若しくはエンボス融着させた場合は、底部2がエンボス圧着部若しくはエンボス融着部となる。縦畝部1及び横畝部5は不織布の表裏面のうち同じ面側に突出している。その突出した面側を表面側10Tとし、その反対面側を裏面側10Bとする。不織布10の表面側10Tからの平面視、縦畝部1及び横畝部5は互いに直交して複数配置されている。縦畝部1及び横畝部5に囲まれた領域に、裏面側10Bに凹状に窪んだ底部2となっている。
【0047】
縦畝部1のうち前述の第二賦形工程が及ばなかった部分1A(例:第一賦形工程で噛み合っているが、第二賦形工程で噛み合っていない)、横畝部5のうち前述の第一賦形工程が及ばなかった部分5A(例:第一賦形工程で噛み合っていないが、第二賦形工程で噛み合っている)は、それぞれ1段の噛合い賦形だけがなされる。加えて、これらの部分1A及び5Aはそれぞれ、前述の第一賦形工程及び第二賦形工程において支持体110の凸状部111、111に挟まれた部分で、賦形後に繊維の押し込み状態からの戻りも生じ、その状態で熱処理工程により不織布化されている。一方、縦畝部1と横畝部5とが交差する部分15は、裏面側10Bとなる面側から押込み部材により第一賦形工程及び第二賦形工程の両方の賦形処理を受け、最も強く押し込まれて不織布化されている。
そのため不織布10において、
図7~
図10に示すように、縦畝部1と横畝部5とが交差する部分15が厚み方向Zで最も高い、最上凸15となる。最上凸部15に対し、前述の縦畝部1の部分1A及び横畝部5の部分5Aは、1段の賦形処理がなされて厚み方向Zの高さが相対的に低くなり、第1中間凸部1A、第2中間凸部5Aとなる。すなわち、「最上凸部15の高さH1>第1中間凸部1Aの高さH2、第2中間凸部5Aの高さH3」となる。
第1中間凸部1Aの高さH2と第2中間凸部5Aの高さH3とは、第一賦形工程と第二賦形工程それぞれの押込み部材の噛合い量によって適宜設定できる。すなわち、第一押込み部材120Aの噛合い量によって第1中間凸部1Aの高さH2が、第二押込み部材120Bの噛合い量によって第2中間凸部5Aの高さH3がそれぞれ別個に形成される。すなわち、噛合い量の別個の制御により、1つの不織布の中で前記高さH2とH3とを別々に設定し付与することができる。例えば、
図5に示す配置の凸状部111を有する支持体110を用い、押込み部材の噛合い量が第二賦形工程よりも第一賦形工程の方が大きい場合、「第1中間凸部1Aの高さH2>第2中間凸部5Aの高さH3」となる。
【0048】
以上のようにして、得られた不織布10において、厚み方向の高さが高い順に、最上凸部15、第1中間凸部1A、第2中間凸部5Aとなることが好ましい。そして、最上凸部15及び第1中間凸部1AでMD方向に連なる縦畝部1を形成し、最上凸部15及び第2中間凸部5AでCD方向に連なる横畝部5を形成することが好ましい。縦畝部1及び横畝部5に囲まれた部分が凹状に窪んだ底部2となる。不織布10の上記の凹凸形状において、最上凸15の高さを畝高さとする。第2中間凸部5Aを上記3種の凸部の中で最も厚み方向Zの高さが低いものとする場合、縦畝部1、1同士を連結する鞍部ともいう。
以下では、不織布10を「第1中間凸部1Aの高さH2>第2中間凸部5Aの高さH3」の関係を有するものとして説明する。ただし、不織布10は、この関係を有するものに限定されるものでなく、下記の説明と矛盾しない限り上記と異なる高さ関係を有するものとしてもよい。
【0049】
最上凸部15、第1中間凸部1A及び第2中間凸部5Aそれぞれの高さH1、H2、H3は、倒れ難さと表面側から見たときの凹凸感との相関性示すものとして、底部2の表面を基準に定める。なお、不織布の表裏面において、各凸部の突出する面側を表面側といい、その反対側の底部2のある面側を裏面側という。
すなわち、最上凸部15の高さは、不織布の厚み方向において、底部2の表面から最上凸部15の表面までの厚み方向の高さとする。第1中間凸部1Aは、不織布の厚み方向において、底部2の表面から第1中間凸部1Aの表面までの厚み方向の高さとする。第2中間凸部5Aは、不織布の厚み方向において、底部2の表面から第2中間凸部5Aの表面までの厚み方向の高さとする。
具体的には、次の方法により最上凸部15、第1中間凸部1A及び第2中間凸部5A(以下、これらを総称して単に凸部ともいう)それぞれの高さH1、H2、H3を測定することができる。
【0050】
(最上凸部15、第1中間凸部1A及び第2中間凸部5Aそれぞれの高さH1、H2、H3の測定方法)
(1)測定対象の不織布をハサミ等でカットしてサンプリングする。不織布が他の部材と接合している場合(例えば吸収性物品の構成部材として組み込まれている場合)は、他の部材と接合したままサンプリングする。この不織布を非荷重状態にて凸部が上になるように置き、温度23±2℃、湿度65±5%RHにて48時間以上72時間以下保存する。
(2)上記のサンプリングしたものを長方形状に最上凸部15ピッチの5倍×最上凸部15ピッチの5倍の長さの大きさに調製する。このとき、不織布の平面視において、一辺は観察対象とする最上凸部15の中心(最上凸部15の頂部)と該最上凸部15に隣接する底部2の中心を含む線上で、鋭利なハサミなどで最上凸部15を中央として厚み方向にカット(カット線1、
図6のIV断面)する(例えば
図10)。カット線1の方向は、MD方向、CD方向、あるいは斜め方向を取り得る。カット線1の断面をマジック等で着色させる。
同様に、一辺は観察対象とする第1中間凸部1Aの中心(第1中間凸部1Aの頂部の中心)と該第1中間凸部1Aに隣接する底部2の中心を含む線上で、鋭利なハサミなどで第1中間凸部1Aを中央として厚み方向にカット(カット線2、
図6のII断面)する(例えば
図8)。また、一辺は観察対象とする第2中間凸部5Aの中心(第2中間凸部5Aの頂部の中心)と該第2中間凸部5Aに隣接する底部2の中心を含む線上で、鋭利なハサミなどで第2中間凸部5Aを中央として厚み方向にカット(カット線3、
図6のIII断面)する(例えば
図9)。
(3)カット線1、カット線2及びカット線3における断面サンプルから凹凸の断面の観察を行う。平坦な平板上に、凸部側を上にして断面サンプルを置き、その上に荷重0.5gf/cm
2となるように平板の重りを載せる。このとき、サンプル断面と各平板の端面の位置を一致させる。
(4)マイクロスコープ(例えば株式会社キーエンス製VHX-6000(商品名))により、サンプル断面を横から観察する。サンプルのうち各カット線に沿って並ぶ中央側に位置する3つの凸部と4つの底部2を対象とし、10倍以上300倍以下にて観察する。
(5)
図8、9、10のようにして、各カット線の断面観察より各凸部の高さを求める。
(6)各値は、異なるサンプル辺を用い、5カ所の平均値とする。
(7)なお、後述の第2実施形態の不織布の製造方法によって得られる不織布20など、複数の繊維層が積層されている場合、観察画像を用いて、前記着色部を目安にして各繊維層の境界を描く。各繊維層の判別が困難な場合は、前記境界は、層構造の違い、例えば繊維径の違い、繊維配向度の違い、繊維断面形状の違い、層と層との間に介在する空隙、繊維密度の違い、単位面積当たりの繊維本数の違い、目付の違いなどによって把握することができる。例えば繊維本数による場合では繊維層と繊維層の界面における各繊維層の繊維本数が該繊維層の中央部に対して、1/2になる境界を輪郭として描く。この時の分解能として1ピッチが不織布の全厚みを1/50した値となる正方形の格子を描き、その正方形内の繊維本数を数える。繊維本数が各繊維層の中央部の平均本数の1/2以上と1/2未満となる正方形の間をスムージングして繋いだ輪郭を境界とする。尚、繊維層内に繊維本数が1/2未満となる箇所が生じた場合は、境界線から除外する。後述の不織布20においては
図13、14、15のようにして、第一繊維層11及び第二繊維層22それぞれについて、各カット線の断面観察より各凸部の高さを求める。
【0051】
不織布10において、縦畝部1では最上凸部15と第1中間凸部1Aとがなだらかな高低差で山脈状に連なり、横畝部5では最上凸部15と第2中間凸部5Aとが縦畝部1よりも大きな高低差で連なっていることが好ましい。
この高低差について、縦畝部1及び横畝部5の倒れ難さを適度に高めるよう、本発明の不織布の製造方法の第一賦形工程と第二賦形工程にてそれぞれ独立した噛合い量の制御を行って、好適に設定することができる。また、同様の観点から、第1中間凸部1Aと第2中間凸部5Aとの高低差についても、第1実施形態の不織布の製造方法において好適に制御することができる。このように第1実施形態の不織布の製造方法により、不織布10は、嵩高で厚みがある構造でありながら、適度な圧縮エネルギーを有し、風合いに優れるものとして好適に製造され得る。
【0052】
不織布10において、第1中間凸部1におけるA高さH2と第2中間凸部5Aにおける高さH3との関係の好ましい態様について、
図9(第1実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、
図6のIII-III線に沿う断面)を例として以下に示す。なお、下記の態様は、後述する
図14(第2実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、
図6のIII-III線に沿う断面)の例においても適用され得る。
縦畝部1中に位置する第1中間凸部1Aにおける高さH2の、最上凸部15の高さH1に対する割合({H2/H1}×100)は、縦畝部1と横畝部5との支え合いの強度をより高めて横畝部5を縦方向へ倒れにくくする観点から、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましく、55%以上が更により好ましい。
上記割合は、柔らかく良好な風合いをより高める観点と、外観上、明瞭な独立した突起として認識されやすくする観点から、75%以下がより好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下が更に好ましい。
【0053】
また、不織布10において、最上凸部15におけるA高さH1と第2中間凸部5Aにおける高さH3との関係の好ましい態様について、
図8(第1実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、
図6のII-II線に沿う断面)を例として以下に示す。なお、下記の態様は、後述する
図13(第2実施形態の不織布の製造方法にて得られるものである場合における、
図6のII-II線に沿う断面)の例においても適用され得る。
横畝部5中に位置する第2中間凸部5Aにおける高さH3の、最上凸部15における高さH1に対する割合({H3/H1}×100)は、横畝部5と縦畝部1との支え合いの強度をより高めて縦畝部1が横方向へ倒れにくくする観点から、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。
上記割合は、柔らかく良好な風合いをより高める観点と、外観上、明瞭な独立した突起として認識されやすくする観点から、75%以下がより好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、55%未満がより更に好ましい。
【0054】
不織布10において、縦畝部1及び横畝部5の倒れ難さを良好な風合いとともにより高める観点から、上記割合({H2/H1}×100、{H3/H1}×100)の範囲内において、第1中間凸部1Aの高さH2と第2中間凸部5Aの高さH3との差分の絶対値の最上凸部15の高さH1に対する割合{|H2-H3|/H1}×100は、0%超25%以下が好ましい。
上記割合は、縦畝部1において横畝部5に比べて、最上凸部15から起伏の少ない連続した畝を形成する観点から、3%以上がより好ましく、5%以上が更に好ましい。
また、上記割合は、最上凸部15をMD方向とCD方向の両方向へ倒れにくくする観点から、20%以下がより好ましく、15%以下が更に好ましい。
これらは、MD方向とCD方向における第一押込み部材120Aによる噛合い量、第二押込み部材120Bによる噛合い量によって制御可能である。
【0055】
なお、
図5(A)~(D)に示す例では、第一賦形工程の噛合い方向をMD方向とし、第二賦形工程の噛合い方向をCD方向として示したが、これに限定されない。第一賦形工程の噛合い方向をCD方向とし、第二賦形工程の噛合い方向をMD方向としてもよい。この場合、
図6~
図10に示す不織布10において、第1中間凸部1Aと第2中間凸部5Aとの配置が入れ替わり、縦畝部1(最上凸部15+第1中間凸部1A)がCD方向に延在し、横畝部5(最上凸部15+第2中間凸部5A)がMD方向に延在することになる。この点は、
図12~15に示す不織布20においても同様に当てはまる。
【0056】
以上のように不織布10が有する3種の高さの凸部は、前述の2段の噛合い賦形工程をそれぞれ別々に独立して行うことで初めて得られるものである。例えば、前述の特許文献2に記載の
図2の支持体ロールに対して、
図8のリング状ロールを噛合わせる1段の賦形工程では、縦畝部はリング状ロールの噛合い量によって制御可能であるが、横畝部は成り行きになってしまう。同文献に記載の
図3の格子ロールを押込み部材として用いて、支持体ロールに対してMD方向及びCD方向に沿って同時に厚み方向に噛合いを行う場合、CD方向の噛合い量には、MD方向に回転する支持体ロールとの干渉を回避する観点から限度がある。この場合、格子ロールの構造上、CD方向の噛合い量とMD方向の噛合い量とは別々に制御することが難しく、MD方向の噛合い量をCD方向の噛合い量に合わせざるをえない。また、支持体ロールは運転中の熱でMD方向よりもCD方向に大きく膨張しやすい。この熱膨張の違いに応じて、噛合わせる格子ロールが干渉しないようCD方向とMD方向とで別個に補正し、噛合い量をそれぞれの方向で制御することが難しくなる。
これに対し、本発明の不織布の製造方法では、前述の第一賦形工程と第二賦形工程とを別個にして2段に行うので、それぞれで噛合い量(厚み方向の押し込み量)を独立して制御することができる。これにより、前述のように、3種の高さの凸部を備えた特有の不織布を好適に形成することができる。
この2段の賦形工程として、例えば
図5(A)~(D)において、第一賦形工程はリング状ロールを用いてMD方向に沿って厚み方向に噛合わせる賦形を行い、第二賦形工程はギアロールを用いてCD方向に沿って厚み方向に噛合わせる賦形を行ってもよい。あるいは、
図5(A)~(D)とは逆に、第一賦形工程はギアロールを用いてCD方向に沿って厚み方向に噛合わす賦形を行い、第二賦形工程はリング状ロールを用いてMD方向に沿って厚み方向に噛合わす賦形を行ってもよい。先にリング状ロールによって未融着ウエブを支持体に押し込んだ方が、第一賦形工程の後に未融着ウエブが支持体から浮きにくく安定して保持されやすい観点から好ましい。
【0057】
前述のCD方向に沿って厚み方向に噛合わせる賦形工程において、支持体ロールとの干渉を回避して噛合い量をより大きくする観点から、前述のギアロールよりも可撓性のあるものを押込み部材として用いることが好ましい。
この押込み部材として、例えば、可撓性のあるブレードが支持部に組み込まれたロール体が挙げられる(図示せず)。前記ブレードが前記押込み部材における押し込み部となる。このブレードとは、板状の形をした金属や樹脂でできたプレートからなる。例えば、該ブレードの厚みは0.5mm以上1mm以下の薄型のものが挙げられる。このようなブレードをCD方向の噛合い賦形に用いても、支持体ロールと干渉しても撓むため破損し難い。そのため、ブレードを用いたCD方向の噛合い賦形では、MD方向の上記賦形とは別個に独立して、より深い噛合いとなるよう、より好適に制御することができる。
上記の噛合い賦形の好適な制御の観点から、前記押込み部材は、ブレードが支持部と一体形成されたものでなく、ブレードが支持部の挿入溝部に組み込まれたものであることが好ましい。これによりブレードの可撓性がより高められる。ブレードの自由度が増すことで、噛合い量が増しても、支持体の凸状部と押込み部材の押し込み部が直接干渉(強圧接触)することなしに噛合い可能となる。更に、押込み部材を構成する支持部とブレードとの間に0.01mm以上0.1mmの平均隙間があることが好ましい。適度な可撓域を有することで、より大きな噛合い量とすることができる。なお、前記隙間は、組み込み部のブレードの平均厚みと、支持部の挿入溝部の幅の平均値との差を言う。
【0058】
以上、
図5(A)~(D)、
図6~
図10は、第1実施形態の不織布の製造方法によって、1種の未融着ウエブを用いて形成された不織布10を示している。この不織布10において、
図6は、最上凸部15、第1中間凸部1A及び第2中間凸部5Aの配置の一例を示しているが、これに限定されない。
例えば、
図11に示す配置であってもよい。
図11に示す配置は、第1実施形態の不織布の製造方法において、工程(1-1)の第一賦形工程、工程(1-2)の第二賦形工程を次のように行って形成することができる。
具体的には支持体には凸状部が千鳥配置されたもの(凸状部が
図11の底部2に相当する位置に配置される。図示せず。)を用いて形成される。第一賦形工程は支持体凸状部間(
図11の縦畝部1の列となる領域)に第一押込み部材(例えばリング状のロール)が噛合うようにしてMD方向に沿って厚み方向に噛合わせる賦形を行う。第二賦形工程は支持体凸状部間(
図11の横畝部5の列となる領域)に第二押込み部材(例えばギアロール)を用いてCD方向に沿って厚み方向に噛合わせる賦形を行う。最上凸部15は第一押込み部材と第二押込み部材とによる押し込み領域の交点に位置し、それぞれの噛合い量の多い方によって主に形成される。第一賦形工程と第二賦形工程とは順番を逆にしてもよい。ただし、先に第一押込み部材(リング状ロール等)によって未融着ウエブを支持体に押し込んだ方が、第一賦形工程の後に未融着ウエブが支持体から浮きにくく安定して保持されやすい観点から好ましい。これにより得られる不織布10においては、中間凸部Aが1種配される。そのため、縦畝部1は、最上凸部15及び中間凸部Aで形成され、横畝部5は、最上凸部15及び中間凸部Aで形成される。
【0059】
次に、第2実施形態の不織布の製造方法における工程(2-1)及び工程(2-2)の一例について説明する。
第2実施形態の不織布の製造方法では、第1実施形態で用いた未融着ウエブ100を第一未融着ウエブ100とする。工程(2-1)で第一未融着ウエブ100に第一賦形工程を行う。その後、工程(2-2)で第二未融着ウエブ200を賦形された第一未融着ウエブ100上に積層して第二未融着ウエブ200の側から第二賦形工程を行う(
図17、
図18参照)。工程(2-2)で第二未融着ウエブ200を積層して第二未融着ウエブ200の側から第二賦形工程を行う点が、第1実施形態と異なる。
第二賦形工程において、第二未融着ウエブ200は、第一未融着ウエブ100と共に、支持体110のCD方向に延在する凹状部112Bの部分で、第二押込み部材120Bの押し込み部122によって噛合い賦形される。これにより、第二未融着ウエブ200に対し、MD方向に直交する方向に沿って押し込まれた部分が伸長されて、第一未融着ウエブ100と共に、支持体側にCD方向に沿って凸状に賦形される。
例えば、支持体110の凸状部111が
図5に示すような配置である場合、上記の凸状の賦形部分が、後述の第一繊維層11(前述の不織布10と同様)の最上凸部15及び第2中間凸部5Aに対応する、後述の第二繊維層22の最上凸部215及び第2中間凸部25Aとなる(
図12~
図15参照)。また、第二繊維層22の第1中間凸部21A(後述する第一繊維層11の第1中間凸部1Aに対向する)は次のようにして形成される。すなわち、第二未融着ウエブ200の第1中間凸部21Aとなる部分は、直接第二押込み部材120Bよって支持体110に押し込まれないものの、隣り合う横畝部5の列に添って支持体110に押し込まれる第二押し込み部材120Bの影響を受ける。これによって、MD方向へ第二未融着ウエブ200の繊維が引っ張られて、第1中間凸部21Aとなる部分が支持体110の凸状部11、111間に入り込むことで中間高さが形成される(
図12~
図15参照)。支持体110の凸状部111にて保持された繊維層は、後述の第二繊維層22において凹状に窪んだ底部2Bとなる。
このようにして賦形された後、前述の工程(2-3)の熱処理工程を経て、不織布20となる。なお、工程(2-3)は、第1実施形態における工程(1-3)と同様にして行う。
このような第2実施形態の不織布の製造方法によって得られる不織布20について、
図5に示す配置の凸状部111を有する支持体110を用いて形成されたものとして以下に説明する。ただし、不織布20についてもこれに限定されるものでなく、前述のとおり
図11に示すものと同様の最上凸部及び中間凸部が形成されていてもよい。
【0060】
不織布20は、第一未融着ウエブ100より得られる第一繊維層11と第二未融着ウエブ200より得られる第二繊維層22とを有する。不織布20では、第一繊維層11と第二繊維層22との重なりによって、前述の不織布10に示した縦畝部1及び横畝部5が形成されている。すなわち、縦畝部1では、第一繊維層11の最上凸部15と第1中間凸部1Aに対して第二繊維層22の最上凸部215と第1中間凸部21Aが積層されている。横畝部5では、第一繊維層11の最上凸部15と第2中間凸部5Aに対して第二繊維層22の最上凸部215と第2中間凸部25Aが積層されている。
【0061】
第二繊維層22では、底部2B及び第2中間凸部25Aが、第一繊維層11の底部2及び第2中間凸部5Aと当接し、一体化していることが好ましい。一方、第二繊維層22における最上凸部215及び第1中間凸部21Aは、第一繊維層11の最上凸部15及び第1中間凸部1A側に隆起しているものの当接しない部分を含み、両層間に空隙部8が配されていることが好ましい。これは第二未融着ウエブ200に対して、第一未融着ウエブ100とは異なって第一賦形工程が施されず、第二賦形工程のみが施されることによる。
空隙部8は、縦畝部1の延在方向に沿って連続していることが好ましい。これは、例えば次のようにして形成され得る。すなわち、最上凸部215上に位置する空隙部8については、第一押込み部材120Aの方が第二押込み部材120Bよりも支持体110との噛合い量を大きくすることで、第二未融着ウエブ200が第一未融着ウエブ100に接するほどに押し込まれないようになって形成される。また、第1中間凸部21A上に位置する空隙部8については、第二未融着ウエブ200が第二押込み部材120Bによって押し込まれないことにより形成される。
このように第2実施形態の不織布の製造方法によれば、厚み方向のより複雑な凹凸構造を好適に形成することができる。これにより不織布20は、嵩高で厚みがある構造でありながら、適度な圧縮エネルギーを有し、風合いに優れるのとして好適に製造され得る。
【0062】
第二繊維層22における最上凸部215、第1中間凸部21A及び第2中間凸部25Aの厚み方向の高さH21、H22、H23は、第一繊維層11における最上凸部15、第1中間凸部1A及び第2中間凸部5Aの厚み方向の高さH1、H2、H3に対応する。第二繊維層22における最上凸部215、第1中間凸部21A及び第2中間凸部25Aの厚み方向の高さH21、H22、H23の大小関係は、第一押込み部材120Aの方が第二押込み部材120Bよりも支持体110との噛合い量を大きくすることによって、H23、H22、H21の順に高くすることができる。このような高さ関係があることで、最上凸部15が倒れにくくなり、後述する空隙割合が適度となるため好ましい。なお、第二繊維層22における厚み方向の高さH21、H22、H23も、前述の通り、底部2の表面を基準に定める。
【0063】
第二繊維層22に関して、
図13、
図15に示す第1中間凸部21Aにおける高さH22の最上凸部215における高さH21に対する割合({H22/H21}×100)は、縦畝部1の支え合いの強度をより高めて不織布20が圧縮されて潰されたときなどに縦畝部1をMD方向へ倒れにくくする観点から、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましい。
上記割合は、柔らかく良好な風合いをより高める観点と、外観上、明瞭な独立した突起として認識されやすくする観点から、75%以下がより好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下が更に好ましく、60%以下がより更に好ましい。
【0064】
また、
図14、
図15に示す第2中間凸部25Aにおける高さH23の最上凸部215における高さH21に対する割合({H23/H21}×100)は、横畝部5の支え合いの強度をより高めて縦畝部1がCD方向へ倒れにくくする観点から、45%以上が好ましい。
上記割合は、柔らかく良好な風合いをより高める観点から、55%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。
【0065】
不織布20において、縦畝部1及び横畝部5の倒れ難さを良好な風合いとともにより高める観点から、上記割合({H22/H1}×100、{H23/H1}×100)の範囲内において、第1中間凸部21Aの高さH22と第2中間凸部25Aの高さH23との差分の絶対値の凸部215の高さH21に対する割合{|H22-H23|/H21}×100は、0%超25%以下が好ましい。
上記割合は、縦畝部1において横畝部5に比べて、第二繊維層22の最上凸部215から起伏の少ない連続した畝を形成する観点から、3%以上がより好ましく、5%以上が更に好ましい。
また、上記割合は、第二繊維層の最上凸部215をMD方向とCD方向の両方向に倒れにくくする観点から、20%以下がより好ましく、15%以下が更に好ましい。
【0066】
不織布20においては、第一繊維層11の最上凸部15と第二繊維層22の最上凸部215との厚み方向の重なりにおいて、少なくとも、次の構成を含むことが好ましい。すなわち、前記重なりにおいて、第一繊維層11の最上凸部15における壁部11Bと第二繊維層22の最上凸部215における壁部22Bとの界面に、各層間の繊維同士が接合する層間繊維交点熱融着部Pが含まれていることが好ましい。「層間繊維交点熱融着部P」とは、流体(熱風、水蒸気など)により繊維の交点において熱融着された部分を言う。このような層間繊維交点熱融着部Pは、第一繊維層11及び第二繊維層22が熱可塑性繊維を有し、各層間の界面に存在する該熱可塑性繊維が前記流体により溶融し結合することで形成される。
【0067】
前記「壁部」とは、0.5gf/cm
2荷重下における不織布20について前述の平板間を結ぶ垂直方向(厚み方向Z)に沿って見たとき(前述の(最上凸部15、第1中間凸部1A及び第2中間凸部5Aそれぞれの高さH1、H2、H3の測定方法)参照)、次のようにして特定される繊維層部分である。
すなわち、
図16に示すように、各底部2、2Bの表面側20Tの最も低い地点E3、E4と各最上凸部15、215の裏面側20Bの最も高い地点E1、E2との間の厚み方向Zの長さHB1、HB2の範囲にある繊維層部分を「壁部」と言う。上記の基準に則り、第一繊維層11の最上凸部15における壁部11B、第二繊維層22の最上凸部215における壁部22Bが特定される。
この定義において、厚み方向Zの長さHB1とHB2とが厚み方向に重なる部分Iに、第一繊維層11の最上凸部15における壁部11Bと第二繊維層22の最上凸部215における壁部22Bとの重なりが存在することが好ましい。該重なりにおいて、壁部11Bと壁部22Bとの界面に、各層間の繊維同士が接合する層間繊維交点熱融着部Pの少なくとも一部または全部が含まれていることが好ましい。
【0068】
図16に示すように、上記の基準で区分される壁部11Bより表面側20Tの第一繊維層11を頂部11Aといい、壁部11Bより裏面側20Bの第一繊維層1を底部11Cという。底部11Cは、第一繊維層1の底部2に位置する繊維層を含む。同様に、上記の基準で区分される壁部22Bより表面側20Tの第二繊維層22を頂部22Aといい、壁部22Bより裏面側20Bの第二繊維層22を底部22Cという。底部22Cは、第二繊維層2の底部2Bに位置する繊維層を含む。
【0069】
この層間繊維交点熱融着部Pが第一繊維層11の最上凸部15における壁部11Bと第二繊維層22の最上凸部215における壁部22Bとの界面部分に含まれていることが好ましい。これにより壁部11B及び22B同士が強固に接合固定され、不織布20の積層最上凸部4(最上凸部15+最上凸部215)が加圧によって変形した際に相互に干渉して支え合い、潰れ難くされている。すなわち、不織布20の積層最上凸部4は層間交点熱融着部Pによって耐加圧性が高くされている。上記理由により、繊維同士が接合する層間繊維交点熱融着部Pの存在する各層間の界面の厚み方向Zの長さGの、第一繊維層11の最上凸部15の裏面側20Bの最も高い地点E1と第二繊維層22の底部2Bの表面側20Tの最も低い地点E4との間の厚み方向Zの長さFに対する比(前者/後者)が、0.2以上、0.9以下であることが好ましく、0.4以上、0.8以下であることがより好ましい。
更に、第一繊維層11の底部2と第二繊維層22の底部2Bとの界面にも層間繊維交点熱融着部Pが含まれていると、前述の耐加圧性が更に高められて好ましい。
【0070】
加えて、第一繊維層11の最上凸部15の壁部11Bにおいて、壁部繊維配向度が0.70以上0.99以下であることが好ましい。この壁部繊維配向度は、最上凸部15の厚み方向Zの断面において後述する方法に基づき測定される値である。この測定方法で得られる壁部繊維配向度が大きい程、壁部11Bの頂部11Aに向かう延出方向Vに沿う繊維が多いことを示す(
図20参照)。壁部繊維配向度が0.7以上であることにより、最上凸部15の頂部11Aと底部11Cとを繋いでいる壁部11Bでは、頂部11Aからの加圧に対して耐加圧性が高くされる。これにより、不織布20の積層最上凸部4(最上凸部15+最上凸部215)の厚み形状保持性が高められる。一方で、壁部繊維配向度が1である場合は、繊維が一方向に配列するため、層内の繊維同士の交差する確率が減ることになる。つまり、繊維融着点の密度が減ることになる。一般的には壁部繊維配向度が高いと繊維が延出方向Vに揃うことで延出方向Vへの繊維自体による剛性成分は増す。しかし、逆に繊維の交差確率が減ることとなり、各層の繊維交点熱融着部の密度が低下してしまう。これに対し、本実施形態においては、トータルの不織布剛性を高めるため、壁部11Bにおける壁部繊維配向度を0.99以下とすることにより、繊維の延出方向Vへの配向性とともに、繊維同士の交差する確率を高め、各層の繊維交点熱融着部の単位体積当たりの密度を好適に増加させる。これにより壁部11Bは、最上凸部15が圧縮された際に高い変形性と高い剛性とを有する。壁部11Bに支えられた第一繊維層11の最上凸部15は硬くなり過ぎない柔らかい肌触りと厚み形状保持性とを兼ね備えるものとなる。すなわち、第一繊維層11の最上凸部15は、繊維の網目構造よりなるアーチ形状がもたらす柔らかさの中に、しっかりとした存在感で安定した厚みを感じことができる。
この観点から、第一繊維層11の最上凸部15の壁部11Bにおける壁部繊維配向度は、0.73以上が好ましく、0.75以上がより好ましく、0.78以上が更に好ましい。また、第一繊維層11の最上凸部15の壁部11Bにおける壁部繊維配向度は、0.95以下が好ましく、0.90以下がより好ましく、0.81以下が更に好ましい。
【0071】
加えて、第一繊維層11の最上凸部15における壁部繊維配向度の、第二繊維層22の最上凸部215における壁部繊維配向度に対する比(前者/後者)が、1.1以上1.5以下である。これは、第一繊維層11の最上凸部15における壁部11Bの方が、第二繊維層22の最上凸部215における壁部22Bよりも、繊維が壁部の延出方向Vに揃っていることを意味する。前記壁部繊維配向度の比が1.1以上と高いことで加圧された際に初期の変形において第一繊維層11が低荷重でソフトに変形する。さらに前記壁部繊維配向度の比が1.5以下とすることで押し込まれた際に第二繊維層22が高い剛性で反発しながら圧縮される。言い換えると、第一繊維層11の最上凸部15の柔らかい肌触りと厚み形状保持性とが高められる一方で、第二繊維層22の最上凸部215は、相対的に繊維の配向方向の多様性を有して厚み回復力を具備する。第二繊維層22の最上凸部215は、第一繊維層11の最上凸部15の形状に添って内側から支えつつ弾性を付与し、積層最上凸部4(最上凸部15+最上凸部215)におけるクッションの役割を果たす。特に、前記壁部繊維配向度の比が1.1以上であることで、不織布20の硬さを抑えて柔らかなクッション性を高めることができる。また、前記壁部繊維配向度の比が1.5以下であることで、不織布20の厚みが保持されやすく潰れ難くなる。
この観点から、前述の壁部繊維配向度の比は、1.2以上が好ましい。また、前述の壁部繊維配向度の比は、1.4以下が好ましい。
【0072】
不織布20は、上記の繊維構造を有することにより、繊維層の柔らかな変形性を有しながら、加圧下において厚み形状を保持しやすくなるという特徴を有する。また、不織布20の製造時において、第一繊維層11が前述の噛合いによって賦形されている。この賦形(独立した2段の噛合い賦形)により、過剰な圧縮力が未融着ウエブに掛からず、各層内の繊維密度が過度に高められることなく、繊維間が適度に離れた網目構造が好適に形成されえる。不織布20は、そのような網目構造を表面側20Tに有することにより、嵩高で厚みのあるものとなる。すなわち、不織布20は、柔らかで良好なクッション性を有しつつ、嵩高で厚みがある繊維構造からなり、該厚みが加圧使用下で保持でき、潰れ難いものとなる。
加えて、不織布20は、前述のとおり第一繊維層11が弱い力での変形を起こしやすい。このことから、不織布20の凹凸を第二繊維層2が維持しつつ、第一繊維層1が凹凸をその変形によって吸収することにより、不織布20の表面側20Tに触れたときのデコボコした感じが軽減され、最上凸部15の表面を撫でたときの平滑さも同時に高められる。これにより、不織布20は、従来両立し難い凹凸構造における厚み形状保持性と平滑性とが兼ね備わったものとなる。同時に適度な圧縮エネルギーを有して風合いに優れたものとなる。
【0073】
本実施形態の不織布20は、前記壁部繊維配向度に係る特有の構造を備える積層最上凸部4内において、第一繊維層11と第二繊維層22との間に適度な空隙部8が介在することが好ましい。ここで言う空隙部8とは、第一繊維層11及び第二繊維層22に比して極端に繊維量が少ない部分であって、各繊維層の最上凸部(さらに厚み方向の中央部)における繊維密度のうち、より低い方の繊維密度を100%としたとき、空隙部8の繊維密度が10%以下となる領域と定義でき、繊維が無い空間であることが好ましい。
これにより、積層最上凸部4内において、体液などの一次ストック空間が形成される。例えば、不織布20を吸収性物品における肌に触れる表面シートとして用いた場合に、吸収性物品の吸収性を高め、肌面のドライ性を向上させることができる。また、空隙部8が適度な大きさで介在していると、不織布20は変形初期の低荷重(例えば0.5gf/cm2荷重から10gf/cm2荷重までの範囲)では柔らかく、高荷重下(例えば10gf/cm2荷重から50gf/cm2荷重までの範囲)では下層である第二繊維層22が寄与して潰れ難くなる。
上記の観点から、後述の(空隙割合の測定方法)により得られる最上凸部15の中心(最上凸部15の頂部11Aの中心)と該最上凸部15に隣接する底部2の中心を含む線上の厚み方向の断面において、第一繊維層11及び第二繊維層22間の空隙割合(空隙部8の面積割合)は、加圧による不織布20の変形性を高めて柔らかさをより感じ得るものとする観点から、3%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、8%以上が更に好ましい。また、前記空隙割合は、不織布20の全厚みを高荷重下で潰れにくくする観点から、13%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。不織布20は、初期の低荷重加圧潰れに対しては第一繊維層11がソフトに変形することで柔らかいものとなり、次いで潰れによって空隙部8が消滅した後の高荷重においては第一繊維層11と一緒に第二繊維層22も変形することでより潰れにくくなる。この観点から、空隙部8の空隙割合は3%以上13%以下、さらには4%以上10%以下が好ましい。なお、不織布20において、前述の中間凸部(第1中間凸部1A、第2中間凸部5A、第1中間凸部21A、第2中間凸部25A)がある場合は該中間凸部の積層部分には空隙部8が介在しないことが好ましい。
【0074】
上記の空隙割合は、前述の製造工程における噛合い量の制御によって適宜設定することで可能となる。すなわち、上記のような適度な空隙部8を第一繊維層11と第二繊維層22との間に介在せる観点からも、不織布20は、前述の第一繊維層11の最上凸部15における壁部繊維配向度の、第二繊維層22の最上凸部215における壁部繊維配向度に対する比を有することが好ましい。
【0075】
本発明の不織布の製造方法においては、第1実施形態の1種の未融着ウエブ、第2実施形態の2種の未融着ウエブのみを積層する形態に限定されない。例えば、工程(1-2)や(2-2)の後に更に別の未融着ウエブ又は不織布を積層する工程を含んでもよい。この場合、この後に前記(1-3)又は(2-3)の熱処理工程を行うこととなる。これにより、本発明の不織布はフラットな第三繊維層を備えるものとなり、巻かれたときに幅方向に伸びて凸部が潰れることが抑制される。
また、本発明の不織布の製造方法においては、2段の噛合い賦形工程に限定されず、3段以上の噛合い賦形工程を行ってもよい。
【0076】
次に、上記の本発明の不織布の製造方法に用いられる好ましい製造装置の具体例(具体例1、具体例2)について
図17及び
図18を参照しながら説明する。
【0077】
図17に示す具体例1の不織布の製造装置900は、2段の噛合い賦形を行う支持体として、周面が凹凸形状にされたドラム状の支持体110を用いる。この支持体110の周面上に、第一押込み部材120A及び第二押込み部材120Bを噛合い可能に配している。第一押込み部材120A及び第二押込み部材120Bはロール形状にされている。
まず、未融着ウエブ100を支持体110と第一押込み部材120Aとの間に送り込み、支持体110と第一押込み部材120Aとの噛合いにより前述の第一賦形工程を行う。
次いで、支持体110と第二押込み部材120Bとの噛合いにより前述の第二賦形工程を行う。第1実施形態の不織布方法においては、第一賦形工程が施された未融着ウエブ100のみに対して第二賦形工程が施される。第2実施形態の不織布の製造方法においては、支持体110上にて、第一賦形工程が施された未融着ウエブ(第一未融着ウエブ)100に対して第二未融着ウエブ200を積層させてから、第二賦形工程に入る。
【0078】
支持体110における凸状部ないし凹状部は、機械流れ方向(ドラム形状の回転方向)に延在し、更に、機械流れ方向に直交する幅方向(ドラム形状の回転軸方向)にも凸状部ないし凹状部が延在している。支持体110は、周面から内部への負圧を加えていることが好ましい。これにより、支持体110の周面上に沿わせた第一未融着ウエブ100及び第二未融着ウエブ200を吸引して、沿わせた状態をより良好に維持して次の工程に移行することができる。
【0079】
次いで、凹凸にした未融着ウエブ100(第1実施形態)、又は、凹凸にした第一未融着ウエブ100及び第二未融着ウエブ200の積層体(第2実施形態)を支持体110の周面上に保持したまま、熱風吹き付け部140の位置にて熱風W1を吹き付けて、加熱流体による繊維融着を行う(熱処理工程)。又は、第二賦形工程において、賦形と同時に熱風吹き付けによる熱処理工程を行ってもよい。
これにより前述の不織布10又は不織布20が製造される。
【0080】
上記の熱風W1の吹き付けの際、凹凸賦形された未融着ウエブ100又は第一及び第二未融着ウエブの積層体全体をネット130で押さえておくことが好ましい。これにより、熱風W1吹き付け時に繊維が飛散することを防止することができる。また、支持体110のドラム内部において、熱風吹き付け部140と対向する位置に、熱風吸引部141を有することが好ましい。
【0081】
熱風W1の温度は、熱可塑性繊維を熱融着し不織布形状を安定化させる観点から、140℃以上が好ましく、145℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましい。また、熱風W1の温度は、熱可塑性繊維が熱融着しすぎることを抑制し不織布の柔らかさを向上する観点から、180℃以下が好ましく、175℃以下がより好ましく、170℃以下が更に好ましい。
加えて、熱風W1の風速は、クッション性を良好にし、不織布10及び20の全厚みの保持性を高める観点から、15m/秒以下が好ましく、12m/秒以下がより好ましく、10m/秒以下が更に好ましい。また、熱風W1の風速は、熱可塑性繊維を熱融着し不織布形状を安定化させる観点から、2m/秒以上が好ましく、3m/秒以上がより好ましく、4/秒以上が更に好ましい。
【0082】
また、具体例1の不織布の製造装置900において、熱風W1を吹き付けて得た不織布10及び20が支持体110のドラム外周に沿わされている位置において、冷却ノズルを有する冷却部150と、支持体110のドラム内部の冷却吸引部151とを対向配置させることが好ましい。これにより、前述のとおり、支持体1を一定温度以下に抑えることができ、得られた不織布を、形状を保持したまま剥がすことができ良好なクッション性を保持することができる。
【0083】
熱風W1処理の後、ネット上にてエアースルー処理(熱風処理)を行うことが好ましい。
【0084】
上記の各工程は、種々の条件等で実施することができる。例えば特開2019-112747号の明細書の段落[0010]~[0067]に記載の種々の条件等を適宜採用して実施することができる。
用いられる支持体110並びに押込み部材120A及び120Bについても、種々の形態のものを用いることができる。例えば、支持体は上記文献に記載の
図2に示すものを用いることができる。押込み部材は、上記文献に記載の
図8に示すリング状ロールと、ギアロール又はブレードとの組み合わせとすることができる。前記
図2に示す支持体は凸状部、凹状部及び開孔を周面に有するドラム形式の支持体である。凸状部は、支持体の周面において、回転方向及び回転軸方向に互いに離間して、複数配されている。これにより、凹状部は支持体の回転方向及び回転軸方向に延在している。前記
図8に示す押込み部材は、リングを回転軸方向に複数組み合わせたドラム形状のもので、リングの部分が、回転方向に延出した押し込み部をなしている。
【0085】
更に、具体例1の不織布の製造装置900において、不織布10を支持体110の周面から剥離した後、別の未融着ウエブ又は不織布(ウエブ300)を積層する機構を有してもよい。この場合、この後にも熱処理工程を行う別の機構を有することが好ましい。
【0086】
図18に示す具体例2の不織布の製造装置910は、未融着ウエブ100を供給するウエブ供給部102と、ウエブ供給部102から供給された未融着ウエブ100を搬送するコンベアベルト104と、コンベアベルト104により搬送される未融着ウエブ(又は第一未融着ウエブ)100を加圧するニップローラ106とを備えている。その下流に、未融着ウエブ100に対して第一賦形工程を行う一対のロール(支持体110及び第一押込み部材120A)、支持体110の周面上で、第二賦形工程を行うロール(第二押込み部材120B)を備える。この第二賦形工程は、第1実施形態では未融着ウエブ100のみに対して行う。第2実施形態では、支持体110上にて、第一賦形工程が施された未融着ウエブ(第一未融着ウエブ)100に対して第二未融着ウエブ200を積層させてから、第二賦形工程に入る。
更に下流に、支持体110によって牽引される凹凸にした未融着ウエブ100(第1実施形態)、又は凹凸にした第一未融着ウエブ100及び第二未融着ウエブ200の積層体(第2実施形態)、の凹部の底部の繊維の一部又は全てを融着させるポイント接合手段130を備える。このポイント接合手段130により熱処理工程を行う。あるいは、前述のロール120Bにおいて第二賦形工程を行うと同時にエンボスして熱処理工程を行ってもよい。
更に下流には、ポイント接合手段130により融着された融着部(エンボス部)を冷却させるクーリングロール114を備えている。さらに、クーリングロール114の下流に、加熱流体を吹き付けて繊維交点を融着する、すなわち不織布化する熱流部118を有する。
【0087】
ウエブ供給部102、コンベアベルト104及びニップローラ106は、支持体110及び第一押込み部材120Aに向けて第一未融着ウエブ100を供給及び搬送するよう構成されている。また、クーリングロール114は、ポイント接合手段130によってエンボス部6が形成された第一未融着ウエブ100及び第二未融着ウエブ200の積層体を冷却させながら下流側に向けて搬送するよう構成されている。コンベアベルト104、ニップローラ106、クーリングロール114は適宜使用しない場合もあり得るが、安定的に生産する上でこれらを設けることが好ましい。このようなウエブ供給部102、コンベアベルト104、ニップローラ106及びクーリングロール114としては、通常用い得る種々の構成を採用可能である。
【0088】
以上の構成を備える製造装置910において、まず未融着ウエブ100をウエブ供給部102からコンベアベルト104上に供給し、該未融着ウエブ100をニップローラ106により加圧しつつ、コンベアベルト104により支持体110及び第一押込み部材120A間に搬送する。ここで、ニップローラ106は、強固に繊維を接合させるものではなく、未融着ウエブ100を搬送できる程度に繊維同士を圧着させるものである。この際の圧着部のほとんどは、支持体110及び第一押込み部材120Aの噛合い時の引張張力により剥離する傾向にある。このように、剥離により圧着部が減ることで、繊維の自由度が増し風合いに優れるため好ましい。また、仮に圧着部の一部が残るとしても、当該圧着部は融着部ではないため、引っ掛かりに起因する風合いの低下を引き起こすことはほぼ無い。
【0089】
また、具体例2の不織布の製造装置910において、ウエブ供給部102は単層の未融着ウエブ100を供給するものとして示しているが、これに限定されない。例えば、ウエブ供給部102が2つ以上の装置を備え、2層以上の厚みのある未融着ウエブ100を供給できるようにしてもよい。第一未融着ウエブ100が2層以上の積層体としてコンベアベルト104上に供給される場合、製造装置910においては支持体110及び第一押込み部材120Aによる凹凸賦形が積層体全体に対してなされる。
【0090】
具体例2の不織布の製造装置910において、前述の具体例1の不織布の製造装置900と同様に、支持体110と第一押込み部材120A及び第二押込み部材120Bとの間での噛合いにより、前述の第一賦形工程及び第二賦形工程を行う。
凹凸にした未融着ウエブ100、又は、凹凸にした第一未融着ウエブ100及び第二未融着ウエブ200の積層体を支持体110との摩擦力や吸引等によって該支持体110の周面に密着させ、支持体110の回転により、凹凸形状が賦形された状態が保持されたままポイント接合手段130の位置へと搬送する。ポイント接合手段130と支持体110の凸状部又は凹状部との挟持により、前記積層体の凹部の底部の繊維がエンボス圧着又はエンボス融着させる。エンボス方法は熱ロールによる加圧や超音波ロールまたは超音ホーンによる加圧を用いることができる。これにより、エンボス部6が所定のパターンで形成される。その後、前記積層体は、クーリングロール114に引き渡されて冷却され、その下流の第2コンベアベルト117で搬送され、熱流部118の位置で繊維交点が融着される(熱処理工程)。
これにより前述の不織布10又は不織布20が製造される。
【0091】
更に、具体例2の不織布の製造装置910は、凹凸にした第一未融着ウエブ100及び第二未融着ウエブ200の積層体を別の未融着ウエブ又は不織布(ウエブ300)と合流させて積層する機構を有してもよい。この場合、前記積層体とウエブ300とが積層した状態で、ポイント接合手段130によってエンボス部を形成することとなる。
【0092】
本発明の不織布の製造方法により得られる不織布は各種用途に用いることができる。
例えば、おむつ、生理用ナプキン、パンティーライナー、尿取りパッド等の吸収性物品に用いることができる。吸収性物品は、典型的には液透過性の表面シート、裏面シート、それらに挟まれた吸収体を有する。本発明の不織布は、その中でも特に表面シートとして好適に使用することができる。さらに、吸収性物品のギャザー部のシート、外装シート、ウイング部のシートとして利用する形態も挙げられる。
また、吸汗シートとして、またアイマスクやマスクの構成部材として用いることができる。
いずれの用途においても、具体例1の不織布の製造装置900および、具体例2の不織布の製造装置910においては、支持体110に接する面側を肌面側とすることが風合いの点で好ましい。
【実施例0093】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。下記表1中における、「-」は、項目に該当する事項又は値を有さないこと等を意味する。
【0094】
(実施例1)
下記に示すように、第一未融着ウエブ100及び第二未融着ウエブ200をそれぞれ準備した。
第一未融着ウエブ100には、繊度1.1dtexの芯鞘型(ポリエチレンテレフタレート(PET)(芯):ポリエチレン(PE)(鞘)=5:5(質量比))の熱可塑性の同芯タイプの複合短繊維を用いた。第二未融着ウエブ200には、繊度3.3dtexの芯鞘型(ポリエチレンテレフタレート(PET)(芯):ポリエチレン(PE)(鞘)=5:5(質量比))の熱可塑性の同芯タイプの複合短繊維を用いた。どちらも親水性油剤が塗布されたものを用いた。
カード機により第一未融着ウエブ100(目付15g/m
2)と第二未融着ウエブ200(目付15g/m
2)を形成した。支持体として
図1に示す凸状部の配置を周面上に有する支持体ロールを用い、第一押込み部材としてリング状ロールを用い、第二押込み部材としてブレードを用いたギアロールを用いた。第一未融着ウエブ100に対して支持体上で、第一押込み部材と支持体との噛合いで第一賦形工程を施した。その後、先に賦形した第一未融着ウエブ100に第二未融着ウエブ200を積層させ、積層ウエブを前記支持体上で第二押込み部材と支持体との噛合いで第二賦形工程を施した。各条件は表1に示す通りとした。
噛合い賦形された積層体を支持体上で、第二未融着ウエブ側から熱風(温度160℃、風速4.3m/s、吹き付け時間1.5秒)を吹きつけ繊維交点融着処理を行った。その後、噛合い賦形を行った積層ウエブを、支持体より剥離させ、コンベアネット上で表面(第一繊維層)側から熱風温度136℃、風速1.5m/s、吹き付け時間6sにて熱風処理を行い繊維交点熱融着部を形成した。これにより、実施例1の不織布試料を作製した。
図19は、実施例の上記の製造方法により得られた不織布試料の各断面について、マイクロスコープを用いて観察倍率20倍にて撮像したものである。各断面において第一繊維層11及び第二繊維層22の外縁をサインペンでなぞった。なお、前記撮像は、プレートを用いて「0.5gf/cm
2荷重下」にて行った。
得られた不織布試料は2層の繊維層が厚み方向に積層されたものであって、一方の面側の第一繊維層11と、第一繊維層11に対して他方の面側に厚み方向に隣接する第二繊維層22とはそれぞれ、前述の凸凹形状を有していた。第二繊維層22は、第一繊維層11の最上凸部15の前記他方の面側の内部に進入する最上凸部215を有していた。少なくとも、第一繊維層11の最上凸部15における壁部11Bと第二繊維層22の最上凸部215における壁部22Bとの界面に層間繊維交点熱融着部Pが含まれていた。第一繊維層11の最上凸部15の壁部11Bにおいて、前述の壁部繊維配向度が0.70以上0.99以下であり、第一繊維層11の最上凸部15における壁部繊維配向度の、第二繊維層22の最上凸部215における壁部繊維配向度に対する比(前者/後者)が、1.1以上1.5以下であった。
得られた不織布試料は縦畝部1と横畝部5が明瞭に形成され、第1中間凸部1Aの高さH2が第2中間凸部5Aの高さH3の方よりも高いものとなるが、{|H2-H3|/H1}×100の値は比較例に比べ小さなものとなった。
【0095】
(比較例1)
第一押込み部材としてリング状ロールを用い、第二押込み部材としてリング状ロールを用い、第一押込み部材及び第二押込み部材の噛合い方向及び噛合い量を表1に示すものとし、噛合い量の比を1.1とした以外は実施例1と同様にして、比較例1の不織布試料を作製した。それぞれの熱風処理は実施例1と同条件で行った。
【0096】
(比較例2)
第二賦形工程を施さずに、第二未融着ウエブに対して噛合い賦形を行わずにフラットな形状のまま積層した以外は実施例1と同様にして、比較例2の不織布試料を作製した。それぞれの熱風処理は実施例1と同条件で行った。
【0097】
(比較例3)
実施例1で用いた第一未融着ウエブ及び第二未融着ウエブともに噛合い賦形を行わずに、2段の熱風吹き付けによる賦形を行って比較例3の不織布試料を作製した。前記2段の熱風吹き付けは次のようにして行った。すなわち、第一未融着ウエブ100を、前記支持体上に置き、ウエブ側から温度160℃、風速6m/s、吹き付け時間0.2秒にて熱風を吹きつけ、熱風賦形と繊維交点融着処理を行い第一融着ウエブを得た。その後、この上に第二未融着ウエブ200を積層させ、支持体上に置いた第一融着ウエブと第二未融着ウエブ200との積層体に対して、第二未融着ウエブ200側から温度160℃、風速2m/s、吹き付け時間1.5秒にて熱風を吹きつけ熱風賦形と繊維交点融着処理を行った。その後、熱風賦形した積層ウエブを支持体より剥離させ、コンベアネット上で裏面(第二繊維層)側から熱風温度136℃、風速1.5m/s、吹き付け時間6sにて熱風処理を行い繊維交点熱融着部を形成した。上記以外は実施例1と同様にして、比較例3の不織布試料を作製した。
【0098】
各実施例及び各比較例の不織布試料に対して下記[1]~[6]の試験を行った。
[1]最上凸部15及び215における壁部繊維配向度及び壁部繊維配向角;最上凸部15及び215の繊維密度;不織布の嵩密度
下記の(最上凸部15及び215における壁部繊維配向度及び壁部繊維配向角の測定方法)及び(繊維密度の測定方法)に基づいて測定した。
【0099】
(最上凸部15及び215における壁部繊維配向度及び繊維配向角の測定方法)
第一繊維層11の最上凸部15、第二繊維層22の最上凸部215における壁部繊維配向度及び壁部配向角は次の方法により測定した。
(1)任意の平面方向にサンプルを鋭利なハサミを用いてカットした。カット位置は、サンプルにおける最上凸部15の頂部11Aと最上凸部15に隣接する底部2の中心を通るようにした。サンプルをCD方向に平行な方向にカットした場合はCD方向断面とし、MD方向、斜め方向の場合はそれぞれの方向の断面とした。
(2)サンプルを長方形にカットし1辺あたり、最上凸部15が少なくとも5つ以上含まれるようにして断面サンプルを調製した。対象とする凹凸はサンプル角部のカット位置よりも凹凸1つ分以上内側の部分を観察した。対象とする不織布が他の層と接合している場合は、他の層に接合したまま観察した。
(3)平板上に断面サンプルの最上凸部15(表面側20T)が上になるようにして置き、該断面サンプル上に0.5gf/cm
2となるようにその上に更に平板を置く。断面サンプルの断面が両平板の端面と一致するように置いた。
(4)次いで、断面サンプルの断面を横から観察する。マイクロスコープを用い、観察倍率は100倍~400倍にて、クイック合成(深度UP、クイック合成&3D)を行い、奥から手前にサンプル移動して観察し、画像を撮像する。マイクロスコープの一例として株式会社キーエンス製VHX-6000(商品名)を用いた。
(5)観察して得た画像を用い、次の測定を行った(
図16、
図20及び
図21参照)。
前記画像における観察対象の最上凸部15、215の壁部11B、22Bにおいて、各繊維層の実厚みの方向(壁部における各繊維層の延出方向Vに直交する方向)Sの中間位置L1、かつ、各底部2、2Bの表面側20Tの最も低い地点E3、E4と各最上凸部15、215の裏面側20Bの最も高い地点E1、E2との間の厚み方向Zの長さHB1、HB2の中間高さ位置(M1、M2)にて正方形Eを付した。正方形Eのサイズは実厚みよりも小さく、正方形の中に繊維が5本以上入るサイズとした。正方形Eの大きさは第一繊維層11と第二繊維層22とでサイズが異なってもよい。各繊維層内の延出方向V(実厚みと垂直な方向)に一辺が平行になるように正方形Eを傾けた。
正方形E内の繊維をなぞり、辺から辺に渡る繊維を抽出した。このとき、1辺のみ交差して、途中で途切れた繊維は除外した。
正方形Eにおいて繊維層の延出方向Vに垂直な辺EAに交わる繊維数A(2辺分を足す)、繊維層の延出方向Vに平行な辺EBに交わる繊維数B(2辺分を足す)から、A/(A+B)を算出した。この値を各繊維層の最上凸部における壁部繊維配向度とした。壁部繊維配向度が高いほど、繊維層の延出方向Vに繊維がより配向していることを意味する。
また、不織布の平面に垂直な方向(全厚みの方向)を90度、平面方向を0度として、正方形Eにおいて繊維層内の延出方向Vに平行な辺EBの傾き角を求めた。この値を壁部11B、22Bにおける各繊維層の配向角(以下、壁部繊維配向角ともいう)とした。
各値は、異なるサンプル辺を用い、5カ所の平均値とした。
(6)尚、積層された第一繊維層11及び第二繊維層22の境界は、層構造の違い、例えば繊維径の違い、繊維配向度の違い、繊維断面形状の違い、層と層との間に介在する空隙、繊維密度の違い、単位面積当たりの繊維本数の違い、目付の違いなどによって把握することができる。
(7)不織布の全厚みT0は以下によって求めた。
サンプル断面における、サンプルの上側平板と下側平板とのサンプル面側の2つの直線を求めた。この2つの直線による間隔について、不織布の厚み方向の平均間隔を求め、これを不織布の全厚みT0とした。
【0100】
(最上凸部15及び215の繊維密度の測定方法)
走査電子顕微鏡(SEM)を用い、サンプルに必要最低限の金スパッタ蒸着を行う。観察倍率は100倍~700倍で行った。
下記(空隙割合の測定方法)にて調製する断面において、各層の実厚みの中心位置で、かつ、各繊維層の最上凸部位置において、繊維の切断された端面数を数えた。測定する範囲は、1辺を各層の実厚みの50%~80%とする正方形とした。繊維の断面を正方形の面積で割り繊維密度(本/mm2)を求めた。
各値は、異なるサンプル辺を用い5カ所の平均値とした。
【0101】
(不織布の嵩密度(不織布全体の繊維密度)の測定方法)
不織布の嵩密度は見かけ上の繊維密度を意味し、中空部(後述の空隙部8)を含んだ密度として求めた。具体的には測定対象の不織布を250mm×250mmに裁断し、その質量を測定した。サンプル面積がそれよりも小さい場合は、適宜可能なサイズで測定する。その質量をサンプルの裁断面積で割ることで目付(g/m2)を求めた。測定数nを3として、平均値を測定対象の不織布の目付とした。この目付(g/m2)を前記の0.5gf/cm2荷重下における不織布の全厚み(m)で割ることで、不織布の嵩密度(g/m3)を求めた。該嵩密度が不織布の嵩高さの程度を示す。
【0102】
不織布において、前記嵩密度が適度に小さいことで、嵩高く柔らかなクッション性のものとなる。不織布の嵩密度は、好ましくは0.003g/m3以上、0.006g/m3以下、より好ましくは0.0035g/m3以上、0.005g/m3以下であることが良好な風合いとなる点で好ましい。
【0103】
[2]層間繊維交点熱融着部P
0.5gf/cm
2荷重下の各不織布の厚み方向Zの断面において、
図16に示すように、第一繊維層11の最上凸部15の裏面側20Bの最も高い地点E1と第二繊維層22の底部2Bの表面側20Tの最も低い地点E4との間の厚み方向Zの長さをFとした。繊維同士が接合する層間繊維交点熱融着部Pの存在する各層間の界面の厚み方向Zの長さをG(地点E5-E4間の厚み方向の長さ)とした。これらの値は後述する空隙割合(空隙部8の面積割合)の測定方法と同様の方法によって求めた。
【0104】
[3]第一繊維層及び第二繊維層それぞれの各凸部の高さ
前述の(最上凸部15、第1中間凸部1A及び第2中間凸部5Aそれぞれの高さH1、H2、H3の測定方法)に基づいて測定した。
【0105】
[4]積層最上凸部4を含む断面における隙間18、第一繊維層11、空隙部8、第二繊維層22及び隙間28の面積割合
下記(空隙割合の測定方法)に基づいて測定した。
【0106】
(空隙割合の測定方法)
(1)測定対象の各不織布を非荷重状態にて第一繊維層11の最上凸部15が上になるように置き、温度23±2℃、湿度65±5%RHにて48時間以上72時間以下保存した。なお、測定対象の不織布が他の部材と接合している場合(例えば吸収性物品の構成部材として組み込まれている場合)は、他の部材と接合したままサンプリングすることができる。
(2)上記のサンプリングしたものを長方形状に最上凸部15ピッチの5倍(カット線1側)×最上凸部15ピッチの5倍の長さの大きさに調製した。このとき、不織布の平面視において、一辺は観察対象とする最上凸部15の中心(最上凸部15の頂部11Aの中心)と該最上凸部15に隣接する底部2の中心を含む線上で、鋭利なハサミなどで最上凸部15を中央として厚み方向にカット(カット線1)した。カット線1の方向は、MD方向、CD方向、あるいは斜め方向を取り得る。カット線1の断面をマジック等で着色させた。
(3)カット線1における断面サンプルから凹凸の断面の観察を行う。平坦な平板上に、最上凸部15を上にして断面サンプルを置き、その上に荷重0.5gf/cm
2となるように平板の重りを載せた。このとき、サンプル断面と各平板の端面の位置を一致させた。
(4)マイクロスコープ(例えば株式会社キーエンス製VHX-6000(商品名))により、サンプル断面を横から観察した。サンプルのうちカット線1に沿って並ぶ中央側に位置する3つの積層最上凸部4と4つの底部2及び2Bを対象とし、50倍以上300倍以下にて観察した。
(5)観察画像を用いて、前記着色部を目安にして第一繊維層11、第二繊維層22のそれぞれの境界を描いた。各繊維層の判別が困難な場合は前述の(壁部繊維配向度及び壁部繊維配向角の測定法)に記載の方法によって境界線を求めた。
(6)観察画像において各繊維層の境界内を黒色で塗りつぶし、それ以外の部分は白色にした。画像解析ソフト(例えば、画像解析ソフトとしてImage-Pro Plus(バージョン:6.2.0.424))を用いて、観察画像幅内における上の平板(プレート)と下の平板(ステージ)の間の面積A(観察範囲)を求める。画像解析ソフトの分解能は300ピクセル/インチとし、面積Aが10万~20万ピクセル
2となるように上記観察画像の大きさを調整した。
(7)前記面積Aとなる断面領域において、同様にして、第一繊維層11の裏面側境界線と第二繊維層22の表面側境界線の間にできた空隙部8、第一繊維層11、第二繊維層22、第一繊維層11の表面側境界線と上のプレートの間にできた隙間18、第二繊維層22の裏面側境界線とステージとの間にできた隙間28について、それぞれの面積を求めた(例えば
図21参照)。
(8)空隙割合(空隙部8の面積割合)は「空隙部8の面積/面積A×100(%)」として求めた。同様にして隙間18、第一繊維層11、第二繊維層22、隙間28についても面積割合を求めた。
(9)各値は、異なるサンプル辺を用い、5カ所の平均値とした。
【0107】
[5]摩擦特性、粗さ特性及び圧縮特性
下記(摩擦特性の測定方法)、(粗さ特性の測定方法)、(圧縮特性の測定方法)、(0.5gf/cm2荷重下の不織布の全厚みの測定方法)に基づいて測定した。これらの特性が下記の範囲にあることで、後述の風合いの向上に寄与するものとなる。
【0108】
(摩擦特性の測定方法)
平均摩擦係数(MIU)及び表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)は、以下の方法により測定した。すなわち、自動表面試験機(カトーテック株式会社製のKES FB4-AUTO-A)を用いて、直径0.5mmのSTEELピアノ線を用いた測定子により、測定子面積1cm2、荷重50gf/cm2、速度1mm/sにて、30mm長を往復移動させたときの摩擦力を測定した。解析距離は両端の5mmのデータをカットして20mm長とした。表面摩擦係数をMIU、表面摩擦係数の平均偏差値をMMDとして求めた。測定面は表面側が測定子側となるようにし、測定方向は前記X方向とY方向として、その測定値を平均した。初期のサンプル張力は10gf/cmとした。それぞれの測定値はシートを5点測定して、その平均値とした。
【0109】
不織布において、平均摩擦係数(MIU)が適度な範囲にあることで感触が良いと感じさせことができる。この観点から、平均摩擦係数(MIU)は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。これにより、フィルムのようなつるつるした感触ではなく、繊維の柔らかい感触を得ることができる。また、皮膚に貼り付くような感触がなく、皮膚を傷めないようにする観点から、平均摩擦係数(MIU)は、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。
不織布において、平均摩擦係数(MIU)が前記の適度な範囲にあり、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)が小さいと適度な滑らかさを感じる傾向にある。適度な滑らかさを有すると感触が良いと感じさせることができる。この観点から、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)は、0.001以上が好ましく、0.002以上がより好ましい。また、摩擦が小さいほど、表面に凹凸があっても引っ掛かり等がなく、摩擦係数の変動が小さく滑らかと感じさせることができる。この観点から、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)は、0.01以下が好ましく、0.008以下がより好ましい。
【0110】
(粗さ特性の測定方法)
表面粗さの平均偏差値(SMD)は、以下の方法により測定した。すなわち、上述の自動表面試験機を用いて、直径0.5mmのSTEELピアノ線1本からなる幅5mmの測定子により、荷重10gf/cm2、速度1mm/sの条件下にて、30mm長を往復移動させたときの粗さを測定した。摩擦特性と同様に解析距離内について表面粗さの平均偏差値をSMDとして求めた。測定面は表面側が測定子側となるようにし、測定方向はMD方向とCD方向として、その測定値を平均する。初期のサンプル張力は10gf/cmとした。それぞれの測定値はシートを5点測定して、その平均値とした。
【0111】
不織布において、最上凸部15の頂部11Aに適度な表面粗さがあることによって手で触った時の凹凸感を感じて繊維の柔らかい感触を感じることができる。この観点から、表面粗さの平均偏差値(SMD)は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましく、0.3μm以上が更に好ましい。また、表面粗さが小さいほど、肌に優しい接触を維持することができる。この観点から、表面粗さの平均偏差値(SMD)は、4μm以下が好ましく、3.5μm以下がより好ましく、3.0μm以下であることが更に好ましい。
【0112】
(圧縮特性の測定方法)
圧縮特性は、以下の方法により測定した。すなわち、上述の自動圧縮試験機を用い、速度0.05mm/s、測定子面積2cm2にて、圧縮荷重0.5gf/cm2以上50gf/cm2以下の範囲において、測定子によりシートを圧縮し、最大荷重を加えた後にただちに回復方向に移動させたときの厚みとその時の荷重を測定した。荷重が0.5gf/cm2荷重下での不織布厚みをT0とし、50gf/cm2荷重下での不織布厚みをTMとした。圧縮特性の線形性をLC、圧縮エネルギーをWC、回復エネルギーをWC’、圧縮のレジリエンスをRC(WC’/WC×100)、変形量を「T0-TM」として求めた。測定面は表面側が測定子側となるようにした。それぞれの測定値はシートを5点測定して、その平均値とした。
そして、これら圧縮エネルギー(WC)及び回復エネルギー(WC’)から、圧縮のレジリエンスRC(WC’/WC×100)を求めた。
なお、測定対象の不織布が製品に組み込まれている場合は、コールドスプレー等の冷却手段で接着剤等の接着力を弱め、製品から不織布を取り出して上記の測定を行う。この不織布を取り出す方法は、本明細書中の他の測定においても同様に適用される。各測定において特に指定のない場合は、無作為に選んだ箇所を測定する。
【0113】
不織布において、最上凸部15における圧縮特性の線形性(LC)が大きいほど押圧時の厚みが残りやすく手等の肌で押した際の戻りの反発性、すなわちクッション性がよいと感じ得る。この観点から、最上凸部15における圧縮特性の線形性(LC)は、0.3以上が好ましく、0.4以上がより好ましい。また、初期はソフトな力で変形し、圧縮量が増すにつれ反発力が高くなるものが良いと感じる傾向にあることから、最上凸部15における圧縮特性の線形性(LC)は、0.5以下が好ましく、0.45以下がより好ましい。
【0114】
不織布においては、最上凸部15における圧縮エネルギー(WC)が高すぎず低すぎないことで、手で押した際の変形量に対する抵抗力が適度になりふんわりした風合いのものとなる。この観点から、最上凸部15における圧縮エネルギー(WC)は、4.5gfcm/cm2以上が好ましく、5.0gfcm/cm2以上がより好ましい。また、反発力を抑えて適度な風合いを維持する観点から、凸部における圧縮エネルギー(WC)は、8gfcm/cm2以下が好ましく、7gfcm/cm2以下であることがより好ましい。
【0115】
さらに、不織布において、最上凸部15における回復エネルギー(WC’)が大きいと、手等の肌で押した際の戻りの反発性、すなわちクッション性が適度になり風合いに優れるものとなる。この観点から、最上凸部15における回復エネルギー(WC’)は、1.7gfcm/cm2以上が好ましく、2gfcm/cm2以上がより好ましい。また、反発力を抑えて適度な風合いを維持する観点から、凸部における回復エネルギー(WC’)は、10gfcm/cm2以下が好ましく、8gfcm/cm2以下であることがより好ましい。
【0116】
不織布において、上記の変形量が多い場合、RC値が大きいほど、圧縮と回復の弾性応力においてヒステリシスが小さくクッション性が良いと感じ、適度な弾性を有する。すなわち、前記不織布の圧縮時の塑性変形(へたり)が少ないと感じ得る。この観点から、RC値は、42%以上が好ましく、44%以上がより好ましい。また、RC値は、100%に近い方ほど弾性が良い。この観点から、RC値は、100%以下が好ましく、100%であることがより好ましい。
【0117】
(0.5gf/cm2荷重下における不織布の全厚みの測定方法)
測定対象の不織布を10cm×10cmに裁断し、測定試料を作製した。レーザー厚さ計(オムロン株式会社製、高精度変位センサZS-LD80(商品名)。)を使用し、前記測定試料に対して、平板を用いて0.5gf/cm2荷重(0.05kPaの荷重)を第1面側に加え、その状態で厚さを測定する。3箇所測定し、平均値を測定対象の不織布の全厚みとした。前記「0.5gf/cm2荷重」は、不織布表面の毛羽立ちなどを抑える程度の荷重を意味し、不織布の表裏面間の全厚みを適正に測定するために必要な軽微な荷重(不織布の厚みを潰すような圧縮力に値しない軽微な荷重)である。
測定対象の不織布として10cm×10cmの大きさを取り出せない場合には、なるべく大きいサイズで取り出す。
また、上記の高荷重下(50gf/cm2荷重下)における全厚みは、上記の測定方法において荷重を0.5gf/cm2から50gf/cm2(5kPa)に代えることで測定できる。
【0118】
不織布において、押圧前の初期状態(0.5gf/cm2荷重下)における全厚み(T0)が大きいほど、押圧時の変形量を大きくすることが可能となり、より柔らかい感触を感じ得る。この観点から、押圧前の初期厚み(0.5gf/cm2荷重時)(T0)は、1mm以上が好ましく、4mm以上がより好ましい。また、凸部1における繊維本数が少なくなりすぎないようにする観点から、押圧前の初期厚み(0.5gf/cm2荷重時)(T0)は、12mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましい。
【0119】
不織布において、高荷重下(50gf/cm2押圧下)における全厚み(TM)が大きいほど、高荷重時でも潰れてしまうことが抑えられ、塑性変形(へたり)が少ないと感じ得る。この観点から、50gf/cm2押圧時の厚み(TM)は、0.35mm以上が好ましく、0.6mm以上がより好ましい。また、特に上限はないが坪量が100g/m2以下の場合、変形量が小さい方が繊維間の距離が広くなりすぎることを防ぎ、クッション性や強度を優れたものとする観点から、50gf/cm2押圧時の厚み(TM)は、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。
【0120】
不織布において、厚みの変形量(T0-TM)が大きいほど、より柔らかい感触を有するものとなる。この観点から、厚みの変形量(T0-TM)は、0.5mm以上が好ましく、2.5mm以上がより好ましく、3.5mm以上であることが更に好ましい。また、厚みの変形量(T0-TM)は、特に上限はないが目付が100g/m2以下の場合、変形量が小さい方が繊維間の距離が広くなりすぎることを防ぎ、クッション性や強度に優れたものとする観点から、10mm以下が好ましく、7mm以下であることがより好ましく、5mm以下であることが更に好ましい。荷重を加えたときの変形量は、その値が大きいほど、柔らかいと感じる。
【0121】
[6]風合い
クッション性、手で押したときの変形量及び滑らかさ等の複合的な要因による官能評価により、比較例1の不織布を1点、花王株式会社製メリーズテープ型おむつMサイズ(2019年日本製造品)から表面材を剥離した立体賦形不織布を3点とし、点数が高いものほど風合いが良いとして5段階で評価した。評価は男性3名、女性3名の研究員により、ブラインド式で行った。得られた値は平均値の小数点以下を四捨五入した値とした。
なお、手で押したときの変形量は、その値が大きいほど、柔らかいと感じる傾向にある。変形量が多い場合、圧縮のレジリエンス(RC)が大きいほど、圧縮と回復の弾性応力においてヒステリシスが小さく、クッション性が良いと感じる傾向にある。さらに、滑らかさは、平均摩擦係数(MIU)が前記の適度な範囲にあり、表面摩擦係数の平均偏差値(MMD)が小さいと適度な滑らかさを感じる傾向にあり、表面に凹凸があっても引っ掛かり等がなく、摩擦係数の変動が小さく滑らかと感じる傾向にある。
【0122】
上記各評価結果は下記表1及び2に示す通りであった。また、実施例1及び比較例1~3の不織布試料の「0.5gf/cm
2荷重下における全厚み」の測定時に観察された繊維層の状態は、
図22に示す通りであった。なお
図22は、不織布試料の凹凸形状の最上凸部15におけるCD方向断面を示している。
【0123】
【0124】
【0125】
表1及び2並びに
図22に示すように、比較例2の製造方法によって得られた不織布は、第一繊維層の過度の伸長により空隙部が多すぎ潰れやすいものとなっていた。比較例1の製造方法により得られた不織布は、厚みが厚く変形量が大きくなるが、空隙が小さく第一繊維層の最上凸部15の繊維密度が高いために、圧縮エネルギーが高くなり過ぎて硬いと感じられるものとなっていた。比較例3の製造方法により得られた不織布試料は、空隙が小さく、厚みが薄いため変形量が小さくなり、硬いものと感じられた。
これに対し、実施例1の製造方法により得られた不織布は、空隙が比較例2のように大き過ぎず、比較例1及び3のように小さすぎずに適度であったため、変形初期の低荷重では空隙部が潰れることで柔らかく変形し、高荷重では下層が寄与して潰れ難いものとなっていた。さらにそのため、実施例1の製造方法で得られた不織布は、比較例1とほぼ同等の嵩高さと厚みを有するものとなっていたにも係わらず、実施例1の不織布は、縦畝部1の第1中間凸部1Aにおける高さH2の、最上凸部15の高さH1に対する割合({H2/H1}×100)と横畝部5の第2中間凸部5Aにおける高さH3の、最上凸部15の高さH1に対する割合({H3/H1}×100)が適度な値を有することで、最上凸部15がMD方向およびCD方向共に倒れにくくなることにより、適度な圧縮エネルギーを有し、風合いの評価が「4」と比較例1の2倍の評価となっていた。したがって、本発明の不織布の製造方法によれば、嵩高で厚みがある構造でありながら、適度な圧縮エネルギーを有し、風合いに優れる不織布を好適に製造することができることが分かった。