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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141623
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/2483 20160101AFI20241003BHJP
   H01M 8/2465 20160101ALI20241003BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M8/2483
H01M8/2465
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053370
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100081972
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 豊
(72)【発明者】
【氏名】田中 直樹
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA22
5H126AA23
5H126BB06
5H126DD05
5H126EE03
5H126EE06
5H126EE11
(57)【要約】
【課題】複数の発電セルにおける発電量のばらつきを抑える。
【解決手段】燃料電池スタックは、電解質膜を有する複数の発電セルを前後方向に積層して構成されるセル積層体101と、セル積層体101に隣接して配置されたエンドユニット102と、を備える。エンドユニット102には、エンドユニット102を前後方向に貫通して反応ガスが流入するガス流入路PA11が設けられる。セル積層体101には、電解質膜を挟んで左側に、セル積層体101を前後方向に貫通してガス流入路PA11に連通するガス供給路PA1が設けられる。ガス流入路PA11は、ガス流入路PA11の中心を通る軸線CL12が、ガス流入路PA11の出口において、左側を向くように設けられる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜を有する複数の発電セルを第1方向に積層して構成されるセル積層体と、
前記セル積層体に隣接して配置されたエンドユニットと、を備える燃料電池スタックであって、
前記エンドユニットには、前記第1方向に直交する第2方向の一方側および他方側に、前記エンドユニットを前記第1方向に貫通してそれぞれ反応ガスが流入および流出するガス流入路およびガス流出路が設けられ、
前記セル積層体には、前記電解質膜を挟んで前記第2方向の前記一方側および前記他方側に、前記セル積層体を前記第1方向に貫通して前記ガス流入路および前記ガス流出路にそれぞれ連通するガス供給路およびガス排出路が設けられ、
前記ガス流入路は、前記ガス流入路の中心を通る軸線が、前記ガス流入路の出口において、前記第2方向の前記一方側を向くように設けられることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記ガス流入路は、前記ガス流入路の出口において、前記第2方向の前記一方側に向けて斜めに延設されることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池スタックにおいて、
前記エンドユニットは、前記ガス流入路の出口において前記第2方向の前記一方側に突出する突起部を有することを特徴とする燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より多くの人が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギの効率化に貢献する燃料電池に関する技術開発が行われている。この種の燃料電池に用いられる燃料電池スタックとして、従来より、複数の発電セルに均一に反応ガスが供給されることを目的として、反応ガスが流入するガス供給マニホールドの入口にハニカム部材を配置し、ハニカム部材でガスを整流するようにした技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-147456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載のように、反応ガスを整流してガス供給マニホールドに導いたとしても、ガス供給マニホールドの入口に近い側と遠い側とでは発電セルに対する反応ガスの供給量に差が生じやすく、このため発電量にも差が生じやすい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様である燃料電池スタックは、電解質膜を有する複数の発電セルを第1方向に積層して構成されるセル積層体と、セル積層体に隣接して配置されたエンドユニットと、を備える。エンドユニットには、第1方向に直交する第2方向の一方側および他方側に、エンドユニットを第1方向に貫通してそれぞれ反応ガスが流入および流出するガス流入路およびガス流出路が設けられ、セル積層体には、電解質膜を挟んで第2方向の一方側および他方側に、セル積層体を第1方向に貫通してガス流入路およびガス流出路にそれぞれ連通するガス供給路およびガス排出路が設けられ、ガス流入路は、ガス流入路の中心を通る軸線が、ガス流入路の出口において、第2方向の一方側を向くように設けられる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の発電セルにおける発電量のばらつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの全体構成を概略的に示す斜視図。
図2図1の燃料電池スタックに含まれる電極アッセンブリの概略構成を示す斜視図。
図3図1の燃料電池スタックにおける反応ガスの流れを模式的に示す図。
図4A】燃料ガス供給流路および燃料ガス排出流路におけるセル番号と静圧との関係を示す図。
図4B】セル番号と発電セルに導かれる燃料ガスの流量との関係を示す図。
図5】本発明の実施形態に係る燃料電池スタックの要部構成を示す断面図。
図6図5の燃料電池スタックにより得られるセル番号と発電セルに導かれる燃料ガスの流量との関係を示す図。
図7図5の変形例を示す図。
図8図7の矢視VIII図。
図9図7の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1図9を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る燃料電池スタックは、燃料電池の主たる要素を構成する。燃料電池は、例えば車両に搭載され、車両駆動用の電力を発生することができる。燃料電池は、航空機や船舶等の車両以外の移動体、ロボットの他、各種産業機械に搭載することもできる。まず、燃料電池スタックの全体構成を概略的に説明する。
【0009】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池スタック100の全体構成を概略的に示す斜視図である。以下では、便宜上、図示のように互いに直交する三軸方向を、前後方向、左右方向および上下方向と定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。これらの方向は、車両の前後方向、左右方向および上下方向と同一であるとは限らない。例えば図1の前後方向は、車両の前後方向であってもよく、左右方向であってもよく、上下方向であってもよい。
【0010】
図1に示すように、燃料電池スタック100は、複数の発電セル1を前後方向に積層して構成されたセル積層体101と、セル積層体101の前後両端部に配置されたエンドユニット102とを有し、全体が略直方体形状を呈する。セル積層体101の左右方向の長さは、上下方向の長さよりも長い。図1には、便宜上、単一の発電セル1が示される。発電セル1は、電解質膜と電極とを含む接合体を有する電極アッセンブリ2と、電極アッセンブリ2の前後両側に配置され、電極アッセンブリ2を挟持するセパレータ3,3と、を有する。電極アッセンブリ2とセパレータ3とは、前後方向に交互に配置される。
【0011】
セパレータ3は、断面が波板状の前後一対の金属製の薄板を有し、これら薄板の外周同士を接合して一体に構成される。セパレータ3には耐腐食性に優れた導電性の材料が用いられ、例えばチタン、チタン合金、ステンレス等を用いることができる。セパレータ3の内部には、冷却媒体が流れる冷却流路が形成され、冷却媒体の流れにより発電セル1の発電面が冷却される。冷却媒体としては例えば水を用いることができる。電極アッセンブリ2に対向するセパレータ3の表面(前面および後面)は、電極アッセンブリ2の接合体との間にガス流路を形成するようにプレス成形などによって凹凸状に構成される。
【0012】
電極アッセンブリ2の前側のセパレータ3は、例えばアノード側のセパレータ(アノードセパレータ)であり、アノードセパレータ3と電極アッセンブリ2の接合体との間に、燃料ガスが流れるアノード流路が形成される。電極アッセンブリ2の後側のセパレータ3は、例えばカソード側のセパレータ(カソードセパレータ)であり、カソードセパレータ3と電極アッセンブリ2の接合体との間に、酸化剤ガスが流れるカソード流路が形成される。燃料ガスとしては例えば水素ガスを、酸化剤ガスとしては例えば空気を用いることができる。燃料ガスと酸化剤ガスとを区別せずに、これらを反応ガスと呼ぶこともある。
【0013】
図2は、電極アッセンブリ2の概略構成を示す斜視図である。図2に示すように、電極アッセンブリ2は、略矩形状の接合体20と、接合体20を支持するフレーム21と、を有する。接合体20は膜電極接合体(いわゆるMEA;Membrane Electrode Assembly)であり、電解質膜と、電解質膜の前面に設けられたアノード電極と、電解質膜の後面に設けられたカソード電極とを有する。
【0014】
電解質膜は、例えば固体高分子電解質膜であり、水分を含んだパーフルオロスルホン酸の薄膜を用いることができる。フッ素系電解質に限らず、炭化水素系電解質を用いることもできる。
【0015】
アノード電極は、電解質膜の前面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、該電極触媒層の前面には反応ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。カソード電極は、電解質膜の後面に形成され、電極反応の反応場となる電極触媒層であり、該電極触媒層の後面には反応ガスを拡散して供給するガス拡散層が設けられる。電極触媒層には、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素の電気化学反応を促進する触媒金属、プロトン伝導性を有する電解質、および電子伝導性を有するカーボン粒子等が含まれる。ガス拡散層は、ガス透過性を有する導電性部材、例えばカーボン多孔質体により構成される。
【0016】
アノード電極では、アノード流路およびガス拡散層を介して供給された燃料ガス(水素)が、触媒の作用によってイオン化され、電解質膜を通過してカソード電極側へ移動する。このとき生じた電子は、外部回路を通過し、電気エネルギとして取り出される。カソード電極では、カソード流路およびガス拡散層を介して供給された酸化剤ガス(酸素)と、アノード電極から導かれた水素イオンおよびアノード電極から移動した電子とが反応し、水が生成される。生成された水は、電解質膜に適度な湿度を与え、余剰な水は電極アッセンブリ2の外部へ排出される。
【0017】
フレーム21は、略矩形状を呈する薄板であり、絶縁性を有する樹脂やゴム等により構成される。フレーム21の中央部には、略矩形状の開口部21aが設けられ、開口部21aの全体を覆うように接合体20が設けられる。フレーム21の開口部21aの左側には、フレーム21を前後方向に貫通する3つの貫通孔211~213が上下方向に並んで開口され、開口部21aの右側には、フレーム21を前後方向に貫通する3つの貫通孔214~216が上下方向に並んで開口される。
【0018】
図1に示すように、電極アッセンブリ2の前後のセパレータ3には、フレーム21の貫通孔211~216に対応する位置に、セパレータ3を前後方向に貫通する貫通孔311~316がそれぞれ開口される。貫通孔311~316は、フレーム21の貫通孔211~216にそれぞれ連通する。これら互いに連通する貫通孔211~216,311~316の集合により、セル積層体101を貫通して前後方向に延在する流路PA1~PA6(便宜上、矢印で示す)が形成される。流路PA1~PA6は、マニホールドと呼ばれることもある。流路PA1~PA6は、燃料電池スタック100の外部のマニホールドに接続される。
【0019】
貫通孔211,311を介して前方に延びる流路PA1(実線矢印)は、燃料ガス供給流路である。貫通孔216,316を介して後方に延びる流路PA6(実線矢印)は、燃料ガス排出流路である。燃料ガス供給流路PA1および燃料ガス排出流路PA6は、接合体20の前面に対向するアノード流路と連通し、実線矢印に示すように、燃料ガス供給流路PA1と燃料ガス排出流路PA6とを介して、アノード流路を左右方向に燃料ガスが流れる。アノード流路と他の流路PA2~PA5との連通は、図示しないシール部を介して遮断される。燃料ガス排出流路PA6を流れる燃料ガスは、アノード電極で一部が使用された後の燃料ガスであり、これを燃料排ガスと呼ぶことがある。
【0020】
貫通孔214,314を介して前方に延びる流路PA4(点線矢印)は、酸化剤ガス供給流路である。貫通孔213,313を介して後方に延びる流路PA3(点線矢印)は、酸化剤ガス排出流路である。酸化剤ガス供給流路PA4および酸化剤ガス排出流路PA3は、接合体20の後面に対向するカソード流路と連通し、点線矢印に示すように、酸化剤ガス供給流路PA4と酸化剤ガス排出流路PA3とを介して、カソード流路を左右方向に酸化剤ガスが流れる。カソード流路と他の流路PA1,PA2,PA5,PA6との連通は、図示しないシール部を介して遮断される。酸化剤ガス排出流路PA3を流れる酸化剤ガスは、カソード電極で一部が使用された後の酸化剤ガスであり、これを酸化剤排ガスと呼ぶことがある。燃料排ガスと酸化剤排ガスとを区別せずに、これらを反応排ガスと呼ぶこともある。
【0021】
貫通孔215,315を介して前方に延びる流路PA5(一点鎖線矢印)は、冷却媒体供給流路である。貫通孔212,312を介して後方に延びる流路PA2(一点鎖線矢印)は、冷却媒体排出流路である。冷却媒体供給流路PA5および冷却媒体排出流路PA2は、セパレータ3の内部の冷却流路と連通しており、冷却媒体供給流路PA5と冷却媒体排出流路PA2とを介して、冷却流路を冷却媒体が流れる。冷却流路と他の流路PA1,PA3,PA4,PA6との連通は、図示しないシール部を介して遮断される。
【0022】
セル積層体101の前後両側に配置されたエンドユニット102は、それぞれターミナルプレート4と、絶縁プレート5と、エンドプレート6とを有する。なお、前側のエンドユニット102をドライ側エンドユニット、後側のエンドユニット102をウェット側エンドユニットと呼ぶこともある。前後一対のターミナルプレート4,4は、セル積層体101を挟んでその前後両側に配置される。前後一対の絶縁プレート5,5は、ターミナルプレート4,4を挟んでその前後両側に配置される。前後一対のエンドプレート6,6は、絶縁プレート5,5を挟んでその前後両側に配置される。
【0023】
ターミナルプレート4は、金属製の略矩形状の板状部材であり、セル積層体101で電気化学反応により生成された電力を取り出すための端子部を有する。絶縁プレート5は、非導電性を有する樹脂製またはゴム製の略矩形状の板状部材であり、ターミナルプレート4とエンドプレート6とを電気的に絶縁する。エンドプレート6は、金属製または高強度に構成された樹脂製の板状部材であり、エンドプレート6には、例えば前後のエンドプレート6,6同士を連結する前後方向細長の連結部材がボルトにより固定される。燃料電池スタック100は、連結部材を介してエンドプレート6,6により前後方向に押圧された状態で、保持される。セル積層体101を包囲する不図示のケースを連結部材として用い、ケースの前端面および後端面にそれぞれエンドプレート6,6が固定されてもよい。
【0024】
後側のエンドユニット102には、エンドユニット102を前後方向に貫通する複数の貫通孔102a~102fが開口される。なお、貫通孔102a~102fは、それぞれターミナルプレート4を貫通する貫通孔、絶縁プレート5を貫通する貫通孔およびエンドプレート6を貫通する貫通孔を含むが、図1では、便宜上、これらをまとめて貫通孔102a~102fとして示す。
【0025】
貫通孔102aは、燃料ガス供給流路PA1の延長線上に開口され、燃料ガス供給流路PA1に連通し、燃料ガス流入路PA11を構成する。貫通孔102bは、冷却媒体排出流路PA2の延長線上に開口され、冷却媒体排出流路PA2に連通し、冷却媒体流出路PA12を構成する。貫通孔102cは、酸化剤ガス排出流路PA3の延長線上に開口され、酸化剤ガス排出流路PA3に連通し、酸化剤ガス流出路PA13を構成する。貫通孔102dは、酸化剤ガス供給流路PA4の延長線上に開口され、酸化剤ガス供給流路PA4に連通し、酸化剤ガス流入路PA14を構成する。貫通孔102eは、冷却媒体供給流路PA5の延長線上に開口され、冷却媒体供給流路PA5に連通し、冷却媒体流入路PA15を構成する。貫通孔102fは、燃料ガス排出流路PA6の延長線上に開口され、燃料ガス排出流路PA6に連通し、燃料ガス流出路PA16を構成する。
【0026】
より詳しくは、貫通孔102aには、エジェクタ、インジェクタなどを介して、高圧の燃料ガスが貯留された燃料ガスタンクが接続され、燃料ガスタンク内の燃料ガスが貫通孔102a(燃料ガス流入路PA11)を介して燃料電池スタック100に供給される。貫通孔102fには、気液分離機が接続され、貫通孔102f(燃料ガス流出路PA16)を介して排出された燃料ガス(燃料排ガス)は、気液分離機で燃料ガスと水とに分離される。分離された燃料ガスは、エジェクタを介して吸い込まれ、燃料電池スタック100に再び供給される。分離された水は、ドレン流路を介して外部に排出される。
【0027】
貫通孔102dには、酸化剤ガス供給用のコンプレッサが接続され、コンプレッサで圧縮された酸化剤ガスが貫通孔102d(酸化剤ガス流入路PA14)を介して燃料電池スタック100に供給される。貫通孔102c(酸化剤ガス流出路PA13)からは、酸化剤ガス(酸化剤排ガス)が外部に流出する。
【0028】
貫通孔102eには、冷却媒体供給用のポンプが接続され、貫通孔102e(冷却媒体流入路PA15)を介して燃料電池スタック100に冷却媒体が供給される。貫通孔102b(冷却媒体流出路PA12)からは冷却媒体が排出される。排出された冷却媒体は、ラジエータでの熱交換により冷却され、貫通孔102eを介して再び燃料電池スタック100に供給される。
【0029】
以上が燃料電池スタック100の概略構成である。燃料電池スタック100は、図示しない略ボックス状のケースに収納され、車両に搭載される。
【0030】
図3は、反応ガス(一例として燃料ガス)の流れを模式的に示す図である。なお、酸化剤ガスの流れは、図3に示すものと左右方向反対である。以下では、セル積層体101に含まれる発電セル1の積層数をNとし、各発電セル1に1~Nのセル番号nを付して説明する。後端の発電セル1が1番目セル1_1であり、前端の発電セルがN番目セル1_Nである。セル積層体101の左右方向の中心線CL0が、接合体20(図2)が設けられて発電がおこなわれる領域(発電領域)AR1の中心である。
【0031】
図3に示すように、セル積層体101には、発電領域AR1を挟んで左側に燃料ガス供給流路PA1が設けられ、右側に燃料ガス排出流路PA6が設けられる。また、セル積層体101の後方のエンドユニット102には、左側に、燃料ガス供給流路PA1に連通する燃料ガス流入路PA11が設けられ、右側に、燃料ガス排出流路PA6に連通する燃料ガス流出路PA16が設けられる。図3には、燃料ガス供給流路PA1の中心を通る軸線CL1および燃料ガス流入路PA11の中心を通る軸線CL11が示される。
【0032】
図3では、軸線CL1の延長線上に軸線CL11が存在し、軸線CL11が軸線CL1に一致している。このとき、燃料ガス流入路PA11から燃料ガス供給流路PA1に燃料ガスがまっすぐに流入する。図4Aは、この場合のセル番号nと静圧Pとの関係を示す図である。図中の特性f1は、燃料ガス供給流路PA1における静圧であり、特性f2は、燃料ガス排出流路PA6における静圧である。特性f1と特性f2との差が、発電セル1に沿った燃料ガスの流量に相当する。
【0033】
燃料ガスの流速は、燃料ガス供給流路PA1の入口に近いほど速く、入口から遠いほど流速が遅い。このため、図4Aに示すように、静圧Pは、燃料ガス供給流路PA1の入口に近いほど小さく、入口から遠いほど大きい。この場合、流路PA1,PA6間の静圧差は、燃料ガス供給流路PA1の入口に近いほど大きい。このため、セル番号nと発電セル1に導かれる燃料ガスの流量(ガス流量G)との関係については、図4Bの特性f3に示すように、1番目セル1_1でガス流量Gが最大となり、N番目セル1_Nで最小となる。
【0034】
ここで、必要な発電量を得るためのガス流量Gを必要ガス流量G1と定義すると、特性f3では、セル番号nが所定番号以上になった場合に、ガス流量Gが必要ガス流量G1を下回る。その結果、発電不安定を引き起こすおそれがある。また、燃料ガス供給流路PA1の上流には、配管内での結露等により水が溜まることがあり、溜まった水は、燃料ガスの流れに沿って燃料ガス供給流路PA1に流入する。この場合、燃料ガス供給流路PA1の入口に近い発電セル1ほど、つまりセル番号nが小さい発電セル1ほど、水が浸入しやすく、過剰な水の浸入により発電不安定を引き起こすおそれがある。
【0035】
このようなガス流量のばらつきによる発電不安定および過剰な水の浸入による発電不安定の発生は、抑制する必要がある。そこで、本実施形態では、エンドユニット102に設けられるガス流入路(燃料ガス流入路PA11、酸化剤ガス流入路PA14)を以下のように構成する。
【0036】
図5は、本実施形態に係る燃料電池スタック100の要部構成を示す断面図であり、主に燃料ガス流入路PA11の構成を示す。なお、図示は省略するが、中心線CL0に関して図5を対称(線対称)に移動すると、酸化剤ガス流入路PA14の構成となる。図5に示すように、後側のエンドユニット102を構成するターミナルプレート4、絶縁プレート5およびエンドプレート6には、これらプレート4~6を前後方向に貫通する貫通孔41,51,61がそれぞれ穿設される。
【0037】
絶縁プレート5には、エンドプレート6の前端面よりも後方に突出した突出部50が設けられる。突出部50の後端面5aとエンドプレート6の後端面6aとは略同一面上に位置する。突出部50は、全体が略円筒形状を呈し、突出部50の外周面にエンドプレート6の貫通孔61が嵌合される。貫通孔51の前端はターミナルプレート4の貫通孔41に連通する。したがって、貫通孔41,51により燃料ガス流入路PA11が構成される。但し、ターミナルプレート4の板厚は薄いため、流路PA11は主に絶縁プレート5の貫通孔51により構成される。なお、ターミナルプレート4の貫通孔41は、軸線CL1を中心とした円形である。
【0038】
貫通孔51の内部には、絶縁プレート5の後端面5aから所定距離L1の位置であり、前端面5bからは所定距離L2の位置に、屈曲部52が設けられる。所定距離L1は、突出部50の長さと同一ないしほぼ同一であり、所定距離L2よりも短い。なお、L1がL2と等しくてもよく、L2より長くてもよい。
【0039】
貫通孔51は、屈曲部52よりも後側の後貫通孔511と、前側の前貫通孔512とにより構成される。後貫通孔511は、前後方向に延在する軸線CL11を中心とした円形断面を有し、後貫通孔511の径は軸線CL11に沿って一定である。前貫通孔512は、前後方向に斜めに延在する軸線CL12を中心とした円形断面を有し、前貫通孔512の径は軸線CL12に沿って一定である。後貫通孔511と前貫通孔512の径は互いに等しく、エンドプレートの貫通孔41の径とも等しい。したがって、燃料ガス流入路PA11の断面積は、全長にわたって一定である。
【0040】
後貫通孔511の軸線CL11は、燃料ガス供給流路PA1の軸線CL1と略平行に延在する。但し、軸線CL11は、軸線CL1と同一線上になく、軸線CL1よりも所定量右方にオフセットした位置にある。したがって、前貫通孔512は、後貫通孔511とターミナルプレート4の貫通孔41とを接続するように斜めに延設される。すなわち、燃料ガスの流れ方向に沿って見ると、前貫通孔512の軸線CL12は、セル積層体101の中心線CL0よりも外側の左方に向けて斜めに延在する。
【0041】
このように本実施形態では、燃料ガス流入路PA11の出口側が、中心線CL0の反対側(左側)に向けて斜めに形成される。このため、燃料ガス流入路PA11を通過した燃料ガスは、燃料ガス供給流路PA1の入口付近では、発電領域AR1の反対方向(発電領域AR1から離れる方向)の速度成分をもつようになる。したがって、燃料ガス供給流路PA1の入口に近いほど、すなわち、セル番号nが小さいほど、燃料ガスは右側の発電領域AR1に流れにくくなる。その結果、燃料ガス供給流路PA1の入口から遠い発電セル1に、より多くの燃料ガスが流れるようになる。
【0042】
これにより、図6の特性f4(点線)に示すように、発電セル1ごとのガス流量Gのばらつきが抑えられ、全ての発電セル1においてガス流量Gが所定の必要ガス流量G1以上となる。このため、発電不安定の発生を抑えることができ、燃料電池スタック100の良好な発電性能を得ることができる。
【0043】
また、燃料ガス流入路PA11を介して燃料ガス供給流路PA1に水が浸入した場合、水は発電領域AR1の反対側(左側)に吹き付けられる。このため、流路PA1の入口側の発電セル1に水が浸入しにくく、各発電セル1に水が均等に浸入するようになる。その結果、発電セル1への過剰な水の浸入を防ぐことができ、水の浸入による発電不安定の発生も抑えることができる。以上の作用効果は、酸化剤ガス供給流路PA4についても同様である。
【0044】
図7は、図5の変形例である。図7の例でも、屈曲部52を境にして、絶縁プレート5の貫通孔51が後貫通孔511と前貫通孔512とに分けられる。但し、後貫通孔511は、燃料ガス供給流路PA1に対しオフセットされず、軸線CL11は軸線CL1と同一線上に位置する。一方、絶縁プレート5の前端面5bには、左方に突出する突起部53が設けられる。突起部53は、屈曲部52から前端面5bにかけて傾斜して延在する。このため、前貫通孔512の中心を通る軸線CL12も斜めに延在する。
【0045】
また、図7の矢視VIII図である図8に示すように、絶縁プレート5の前端面5bにおける前貫通孔512の縁部(突起部53の左端)は上下方向に延在する。これにより、前貫通孔512の軸線CL12は、絶縁プレート5の前端面5bにおいて、軸線CL1よりも左方に位置する。
【0046】
これにより、燃料ガス流入路PA11を通過した燃料ガスは、発電領域AR1の反対側(左側)に向かって斜めに流れるようになる。このため、図5と同様、燃料ガス供給流路PA1の入口に近いほど、燃料ガスは発電領域AR1に流れにくく、入口から遠いほど、発電領域AR1に流れやすい。このため、発電セル1に供給される燃料ガスのばらつきが抑えられ、発電不安定の発生を抑制することができる。また、流路PA1の入口側の発電セル1に燃料ガス流入路PA11から過剰に水が浸入することも抑えることができ、水の浸入による発電不安定の発生も抑制することができる。
【0047】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)燃料電池スタック100は、電解質膜を有する複数の発電セル1を前後方向(第1方向)に積層して構成されるセル積層体101と、セル積層体101に隣接して配置されたエンドユニット102と、を備える(図1)。エンドユニット102には、左側および右側に、エンドユニット102を前後方向に貫通し、反応ガス(燃料ガス、酸化剤ガス)が流入および流出するガス流入路(燃料ガス流入路PA11,酸化剤ガス流入路PA14)およびガス流出路(燃料ガス流出路PA16,酸化剤ガス流出路PA113)がそれぞれ設けられる(図1)。セル積層体101には、電解質膜を挟んで左側および右側に、セル積層体101を前後方向に貫通してガス流入路PA11,PA14およびガス流出路PA16,PA13にそれぞれ連通するガス供給路(燃料ガス供給流路PA1,酸化剤ガス供給流路PA4)およびガス排出路(燃料ガス排出流路PA6,酸化剤ガス排出流路PA3)が設けられる(図1)。ガス流入路(例えば燃料ガス流入路PA11)は、燃料ガス流入路PA11の中心を通る軸線CL12が、燃料ガス流入路PA11の出口において、発電領域AR1の反対側である左側を向くように設けられる(図5図7)。
【0048】
これにより、燃料ガス流入路PA11を通過した燃料ガスは、発電領域AR1の反対側に向かって斜めに流れるようになるため、燃料ガスは燃料ガス供給流路PA1の入口に近いほど、発電領域AR1に流れにくく、入口から遠いほど流れやすくなる。したがって、各発電セル1に供給される燃料ガスのばらつきが抑えられ、発電不安定の発生を抑制することができる。また、燃料ガス供給流路PA1の入口側の発電セル1に過剰に水が浸入することも抑えることができ、水の浸入による発電不安定の発生も抑制することができる。
【0049】
(2)ガス流入路(例えば燃料ガス流入路PA11)は、燃料ガス流入路PA11の出口において、発電領域AR1の反対側である左側に向けて斜めに延設される(図5)。これにより、燃料ガス流入路PA11が滑らかな形状であるため、燃料ガスが流路PA11に沿ってスムーズに流れ、発電領域AR1に燃料ガスを効率よく導くことができる。
【0050】
(3)絶縁プレート5は、ガス流入路(例えば燃料ガス流入路PA11)の出口において、発電領域AR1の反対側である左側に突出する突起部53を有する(図7)。これにより、燃料ガス流入路PA11の軸線CL11を燃料ガス供給流路PA1の軸線CL1に対しオフセットする必要がないため、構成が容易である。
【0051】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。上記実施形態(図7)では、絶縁プレート5に突起部53を設けるようにした。すなわち、絶縁プレート自体が突起部53を有するように絶縁プレート5を構成したが、絶縁プレート5とは別に突起部を設けるようにしてもよい。図9は、その一例を示す図である。図9では、貫通孔51の右側の絶縁プレート5の前端面5bに凹部54が設けられ、凹部54にプレート55が配置される。プレート55は、絶縁プレート5とターミナルプレート4との間に挟持され、凹部54から左方に向けて突設される。これによりセル番号nが小さい発電セル1に燃料ガスの流れにくくなり、発電量のばらつきを抑えることができる。図9の構成では、絶縁プレート5に凹部54を加工するだけでよく、絶縁プレート5の構成を簡素化できる。
【0052】
上記実施形態(図5)では、軸線CL11を軸線CL1に対しオフセットして絶縁プレート5に斜めに、つまりセル積層体101の中心線CL0の反対方向に向けて斜めに燃料ガス流入路PA11を設けた。また、上記実施形態(図7)では、絶縁プレート5の前端部に、中心線CL0の反対方向に向けて突起部53を設けるようにした。しかしながら、ガス流入路の中心を通る軸線が、ガス流入路の出口において電解質膜の反対側を向くように設けられるのであれば、ガス流入路の構成は上述したものに限らない。ガス流入路を、ガス流入路の出口において電解質膜の反対側に向けて斜めに延設し、かつ、電解質膜の反対側に突起部を突設するようにしてもよい。
【0053】
上記実施形態では、絶縁プレート5によりガス流入路(燃料ガス流入路PA11、酸化剤ガス流入路PA14)を形成したが、エンドユニットに構成されるのであれば、絶縁プレート以外にガス流入路が形成されてもよい。上記実施形態では、電解質膜と電極とを含む膜電極接合体としての電極アッセンブリ2とセパレータ3とを前後方向(第1方向)に交互に積層してセル積層体101を構成したが、第1方向は前後方向に限らず上下方向であってもよい。したがって、ガス流入路(燃料ガス流入路PA11、酸化剤ガス流入路PA14)およびガス供給路(燃料ガス供給流路PA1、酸化剤ガス供給流路PA4)が設けられる第2方向の一方側と、ガス流出路(燃料ガス流出路PA16、酸化剤ガス流出路PA13)とガス排出路(燃料ガス排出流路PA6、酸化剤ガス排出流路PA3)が設けられる第2方向の他方側は、左側や右側でなくてもよい。
【0054】
以上では、燃料電池スタック100を有する燃料電池を車両に搭載する例を説明したが、燃料電池スタックは、航空機や船舶等の車両以外の移動体、ロボットの他、各種産業機械に搭載することができる。
【0055】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。
【0056】
1 発電セル、5 絶縁プレート、51 貫通孔、52 屈曲部、53 突起部、100 燃料電池スタック、101 セル積層体、102 エンドユニット、511 後貫通孔、512 前貫通孔、CL1,CL12 軸線、PA1 燃料ガス供給流路、PA3 酸化剤ガス排出流路、PA4 酸化剤ガス供給流路、PA6 燃料ガス排出流路、PA11 燃料ガス流入路、PA13 酸化剤ガス流出路、PA14 酸化剤ガス流入路、PA16 燃料ガス流出路
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9