(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141635
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】乗員拘束装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/18 20060101AFI20241003BHJP
B60R 22/46 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60R22/18 118
B60R22/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053391
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】大島 航輝
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大角 大
(72)【発明者】
【氏名】三浦 祐平
(72)【発明者】
【氏名】松下 誉
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018CA09
3D018CB01
(57)【要約】
【課題】乗員を効率よく拘束でき、かつ過大な乗員拘束力の発生を防止できる乗員拘束装置を提供する。
【解決手段】乗員Pが座るシート1のシートバック1bの上部に、シートベルト2をその一部がシートバック1bの上方近傍を通る状態で保持するベルトガイド5を設けるとともに、リトラクタ3に組み込まれたプリテンショナが起動した後に、ベルトガイド5によるシートベルト2の保持状態を解除するベルト保持解除機構を設けることにより、衝突初期での乗員拘束力を大きくして、乗員Pを効率よく拘束できるようにし、衝突後期ではシートベルト2がベルトガイド5に保持されていた位置よりも上方を通り、過大な乗員拘束力の発生を防止できるようにした。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部とシートバックとを有するシートに座った乗員を拘束するシートベルトと、
前記シートベルトを引き出し可能に巻き取るリトラクタと、
前記リトラクタに組み込まれ、車両が衝撃を受けたときに前記シートベルトの弛みをなくすようにシートベルトを巻き取るプリテンショナと、
前記シートバックの上部に設けられ、前記シートベルトをその一部がシートバックの上方近傍を通る状態で保持するベルトガイドと、
前記プリテンショナが起動した後に、前記ベルトガイドによる前記シートベルトの保持状態を解除するベルト保持解除機構と、
を備え、
前記ベルト保持解除機構が作動すると、前記シートベルトが前記ベルトガイドに保持されていた位置よりも上方を通るようになる乗員拘束装置。
【請求項2】
前記ベルト保持解除機構は、前記プリテンショナの起動から所定時間経過後に作動する請求項1に記載の乗員拘束装置。
【請求項3】
前記ベルト保持解除機構は、前記シートベルトに所定値を超える荷重が作用したときに作動する請求項1に記載の乗員拘束装置。
【請求項4】
前記リトラクタには、前記シートベルトに作用する荷重が所定値を超えると、その荷重が所定値以下に収まるようにシートベルトの引き出しを許容するロードリミッタがさらに組み込まれており、
前記ベルト保持解除機構は、前記ロードリミッタが起動したときに作動する請求項3に記載の乗員拘束装置。
【請求項5】
前記ベルト保持解除機構は、前記ベルトガイドを前記シートバックから分離させるものである請求項1から3のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【請求項6】
前記シートの幅方向外側の上方で車両に取り付けられ、前記シートベルトが支持されるショルダアンカを備え、
前記シートベルトは、前記リトラクタから上方に引き出されて前記ショルダアンカで折り返された後、前記ベルトガイドに挿通されて前記シートバックの上方近傍を通るように保持される請求項1から3のいずれか1項に記載の乗員拘束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のシートに着座した乗員を拘束するシートベルトを備えた乗員拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両には、シートに座った乗員が車両の衝突時にシートから飛び出して負傷することを防ぐための乗員拘束装置として、乗員を拘束するシートベルトと、シートベルトを引き出し可能に巻き取るリトラクタとを備えた3点式シートベルト装置が装備されている。
【0003】
そして、近年では、上記の3点式シートベルト装置において、衝突時の乗員の負傷リスクをさらに低減するために、車両が衝撃を受けたときにシートベルトの弛みをなくすようにシートベルトを巻き取るプリテンショナをリトラクタに組み込んでいることが多い。また、シートバックの上部にシートベルトが挿通されるベルトガイドを設け、シートベルトをその一部がシートバックの上方近傍を通る状態で保持することにより、車両の衝突時等に高い乗員拘束性能を発揮できるようにすることも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなベルトガイドを備えた3点式シートベルト装置では、ベルトガイドのない従来構造のものに比べて、シートベルトの張力の乗員に対する作用角度(乗員の胸部付近で屈折したシートベルトがなす角度)が小さくなり、シートベルトの張力が同じでも乗員を拘束する力が大きくなるので、乗員を効率よく拘束できる。
【0006】
しかしながら、車両が衝突等による衝撃を受けてプリテンショナが起動した後、乗員の上体が前方に傾いていったときには、シートベルトが乗員を拘束する力がさらに大きくなり、乗員の胸部がシートベルトによって過度に圧迫されるおそれがある。
【0007】
そこで、この発明は、乗員を効率よく拘束でき、かつ過大な乗員拘束力の発生を防止できる乗員拘束装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明の乗員拘束装置は、座部とシートバックとを有するシートに座った乗員を拘束するシートベルトと、前記シートベルトを引き出し可能に巻き取るリトラクタと、前記リトラクタに組み込まれ、車両が衝撃を受けたときに前記シートベルトの弛みをなくすようにシートベルトを巻き取るプリテンショナと、前記シートバックの上部に設けられ、前記シートベルトをその一部がシートバックの上方近傍を通る状態で保持するベルトガイドと、前記プリテンショナが起動した後に、前記ベルトガイドによる前記シートベルトの保持状態を解除するベルト保持解除機構と、を備え、前記ベルト保持解除機構が作動すると、前記シートベルトが前記ベルトガイドに保持されていた位置よりも上方を通るようになる構成(構成1)を採用した。
【0009】
上記構成1において、前記ベルト保持解除機構は、前記プリテンショナの起動から所定時間経過後に作動するものとすることができる(構成2)。
【0010】
あるいは、前記ベルト保持解除機構は、前記シートベルトに所定値を超える荷重が作用したときに作動するものとすることもできる(構成3)。
【0011】
そして、上記構成3を採用した場合、前記リトラクタには、前記シートベルトに作用する荷重が所定値を超えると、その荷重が所定値以下に収まるようにシートベルトの引き出しを許容するロードリミッタがさらに組み込まれており、前記ベルト保持解除機構は、前記ロードリミッタが起動したときに作動する構成とすることができる(構成4)。
【0012】
また、上記構成1乃至4のいずれにおいても、前記ベルト保持解除機構は、前記ベルトガイドを前記シートバックから分離させるものとすることができる(構成5)。
【0013】
また、上記構成1乃至5のいずれにおいても、前記シートの幅方向外側の上方で車両に取り付けられ、前記シートベルトが支持されるショルダアンカを備え、前記シートベルトは、前記リトラクタから上方に引き出されて前記ショルダアンカで折り返された後、前記ベルトガイドに挿通されて前記シートバックの上方近傍を通るように保持される構成を採用することができる(構成6)。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、上記構成の採用により、車両の衝突時等に乗員を効率よく拘束でき、かつ過大な乗員拘束力の発生を防止して、乗員に過度な負荷がかからないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施形態に係る乗員拘束装置の概略構成の説明図
【
図2A】
図1の乗員拘束装置の衝突直後の乗員拘束力の説明図
【
図2B】比較例の乗員拘束装置の衝突直後の乗員拘束力の説明図
【
図3A】
図1の乗員拘束装置の衝突初期状態の説明図
【
図3B】比較例の乗員拘束装置の衝突初期状態の説明図
【
図4A】
図1の乗員拘束装置の衝突後期状態の説明図
【
図4B】比較例の乗員拘束装置の衝突後期状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態の乗員拘束装置は、
図1に示すように、座部1aとシートバック1bとを有するシート1に座った乗員Pを拘束するシートベルト(ウェビング)2と、シート1の幅方向外側に固定され、シートベルト2の一端部が連結されたアンカ(図示省略)と、シートベルト2の他端部を引き出し可能に巻き取るリトラクタ3と、シート1の幅方向外側の上方で車両に取り付けられ、シートベルト2が支持されるDリング状のショルダアンカ4とを備えた3点式シートベルト装置である。
【0017】
シートベルト2は、リトラクタ3から上方に引き出されてショルダアンカ4で折り返された後、シートバック1bの幅方向外側の上部に設けられたベルトガイド5に挿通され、シートベルト2に装着されたタングプレート(図示省略)がシート1の座部1aの幅方向内側に設けられたバックル6に嵌合することにより、乗員Pの一方(シート1の幅方向外側)の肩部から他方(シート1の幅方向内側)の腰部に向かって延びる部位と、乗員Pの腰部に沿って横方向に延びる部位とで乗員Pを拘束するようになっている。
【0018】
リトラクタ3は、ショルダアンカ4よりも下方で車両に取り付けられており、プリテンショナとロードリミッタ(いずれも図示省略)が組み込まれている。プリテンショナは、車両が衝撃を受けたときにシートベルト2の弛みをなくすようにシートベルト2を巻き取るものである。また、ロードリミッタは、プリテンショナ作動後にシートベルト2に作用する荷重が所定値を超えると、その荷重が所定値以下に収まるようにシートベルト2の引き出しを許容するものである。
【0019】
ベルトガイド5は、シートベルト2をその一部がシートバック1bの上方近傍を通る状態で保持するためのものであるが、後述するように所定の条件になるとシートバック1bから分離するようになっている。すなわち、この実施形態では、ベルトガイド5をシートバック1bから分離させて、ベルトガイド5によるシートベルト2の保持状態を解除するベルト保持解除機構が設けられている。
【0020】
この実施形態の乗員拘束装置は、上記の構成であり、次に
図2A~
図4Bに基づいて車両衝突時の作用について説明する。その作用の説明にあたっては、上記構成の乗員拘束装置を実施例(
図2A、
図3A、
図4A)、従来構造の乗員拘束装置を比較例(
図2B、
図3B、
図4B)として、両者の作用の相違について述べる。実施例と比較例の構造上の相違点は、上記のベルトガイド5の有無のみである。
【0021】
車両が衝突したときには、まず、
図2Aおよび
図2Bに示すように、実施例(
図2A)と比較例(
図2B)のいずれにおいても、図示省略したセンサからリトラクタ3に信号が送られてプリテンショナが作動し、シートベルト2が弛みがなくなるようにリトラクタ3に巻き取られる。これにより、乗員Pがシートバック1bに押し付けられた状態となる。
【0022】
このとき、実施例では、シートベルト2がベルトガイド5によってシートバック1bの上方近傍を通る状態で保持されているので、シートベルト2がより上方を通る比較例に比べて、シートベルト2の張力の乗員Pに対する作用角度(乗員Pの胸部の付近で屈折したシートベルト2がなす角度)が小さくなり、シートベルト2の張力が同じでも、張力の合力すなわち乗員Pの胸部付近を拘束する力(乗員拘束力)Fが大きくなる。
【0023】
このため、衝突初期には、
図3Aおよび
図3Bに示すように、実施例(
図3A)の方が、比較例(
図3B)よりも慣性力を受けた乗員Pの上体の前方への傾きが少なくなり、実施例での乗員Pの頭部の先端位置a1は比較例の乗員Pの頭部の先端位置b1よりも後方側に留まる。
【0024】
そして、衝突初期の乗員Pの前方への移動および上体の傾きによってシートベルト2に作用する荷重が大きくなっていき、その荷重が所定値を超えるとリトラクタ3のロードリミッタが起動する。このロードリミッタの起動後の時間帯を衝突後期と称する。
【0025】
衝突後期に入ると、実施例では、
図4Aに示すように、ロードリミッタが起動したときに前記ベルト保持解除機構が作動してベルトガイド5がシートバック1bから分離し、ベルトガイド5によるシートベルト2の保持状態が解除されて、シートベルト2がベルトガイド5に保持されていた位置よりも上方を通るようになる。
【0026】
これにより、衝突後期では、
図4Aおよび
図4Bに示すように、実施例(
図4A)でもシートベルト2の張力の乗員Pに対する作用角度が比較例(
図4B)と同程度になる。そして、実施例と比較例のいずれも、ロードリミッタの作用によってシートベルト2がリトラクタ3から引き出される分、乗員Pの上体の前方への傾きが大きくなっていくが、実施例での乗員Pの頭部の先端位置a2は、比較例の乗員Pの頭部の先端位置b2よりも後方側に留まる。その頭部先端位置の差(b2-a2)は衝突初期の頭部先端位置の差(b1-a1)とほぼ同じになる。
【0027】
すなわち、実施例の乗員拘束装置では、衝突後期の乗員拘束力は比較例と同じであるが、衝突初期の乗員拘束力が比較例よりも大きいので、最終的に乗員Pの上体の傾き(車両に対する上体の変位)を比較例よりも効果的に抑えることができる。したがって、比較例よりも確実に乗員Pの頭部の車内部材(ダッシュボード等)への接触を防止できる。
【0028】
しかも、シートベルト2に作用する荷重が大きくなる衝突後期には、乗員拘束性能を高めるベルトガイド5がシートバック1bから分離するので、過大な乗員拘束力の発生を防止できる。具体的には、乗員Pの胸部付近を拘束する力が比較例と同程度になるので、乗員Pの胸部がシートベルト2によって過度に圧迫されることがなく、乗員Pにかかる負荷を比較例と同等に抑えることができる。
【0029】
ここで、ベルト保持解除機構は、例えば、ベルトガイド5をシートバック1bに固定した状態でロックするロック装置と、エアバッグ制御装置からの信号を受けてロック装置のロックを解除するアクチュエータとで構成することができる。アクチュエータがベルトガイド5のロック状態を解除すれば、シートベルト2の張力によってベルトガイド5が引き上げられてシートバック1bから分離し、シートベルト2の保持状態も解除される。
【0030】
また、ベルト保持解除機構は、実施例のようにベルトガイドをシートバックから分離させるものに限らず、シートベルトがベルトガイドから外れるような構成としてもよい。例えば、シートベルトに所定値を超える荷重が作用すると、ベルトガイドが破断する構成等を採用することができる。
【0031】
そして、上述した実施例ではロードリミッタが起動したときにベルト保持解除機構が作動するようにしたが、ベルト保持解除機構の作動タイミングは、プリテンショナ起動後の適宜なタイミングに設定することができ、例えば、プリテンショナの起動から所定時間(0.05~0.07sec程度)経過後としてもよいし、シートベルトに所定値を超える荷重が作用したときとしてもよい。
【0032】
また、上述した実施例では、比較例に比べて衝突初期の乗員拘束力を大きくすることにより、最終的な乗員の上体の変位が小さくなるようにしたが、衝突初期の乗員拘束力が大きくなる効果に相当する分だけ、ロードリミッタが作動するシートベルト荷重の設定値を低くして、乗員の上体の変位を比較例と同程度に抑えながら、乗員にかかる負荷を比較例よりも小さくするという使用方法も考えられる。
【0033】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、この発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0034】
1 シート
1a 座部
1b シートバック
2 シートベルト
3 リトラクタ
4 ショルダアンカ
5 ベルトガイド
6 バックル
P 乗員