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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141636
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】成形用材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 1/08 20060101ALI20241003BHJP
   C08B 3/14 20060101ALI20241003BHJP
   C08B 3/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L1/02
C08L1/08
C08B3/14
C08B3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053393
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】横川 忍
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸太朗
(72)【発明者】
【氏名】保刈 宏文
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】大竹 俊裕
【テーマコード(参考)】
4C090
4J002
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA08
4C090BB64
4C090BB77
4C090BB94
4C090BD11
4C090BD41
4C090CA38
4C090DA31
4J002AB011
4J002AB022
4J002AB032
4J002FA041
4J002GG01
4J002GQ00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】セルロース繊維を所定含有量で含み、かつ強度および耐衝撃性に優れる成形体の製造に好適であり、成形体の製造時の成形性に優れる成形用材料を提供すること。
【解決手段】本発明の成形用材料は、セルロース繊維と、セルロースが有する水酸基を構成する水素原子の一部が下記式(1)の一般式の化学構造で置換されるとともに、前記水素原子の他の一部が下記式(2)の一般式の化学構造で置換された特定セルロース誘導体と、を含み、前記セルロース繊維の含有量が50質量%以上70質量%以下である。(式(2)中のILは、式(3)等で表される基である)



【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維と、セルロースが有する水酸基を構成する水素原子の一部が下記式(1)の一般式の化学構造で置換されるとともに、前記水素原子の他の一部が下記式(2)の一般式の化学構造で置換された特定セルロース誘導体と、を含み、
前記セルロース繊維の含有量が50質量%以上70質量%以下である、成形用材料。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数が1以上6以下のアルキル基である。)
【化2】
(式(2)中、Rは炭素数が3以上6以下のアルキレン基であり、ILは式(3)または式(4)のいずれかである。)
【化3】
(式(3)中、nは1以上5以下の整数である。)
【化4】
(式(4)中、nは1以上8以下の整数である。)
【請求項2】
前記特定セルロース誘導体の含有量が10質量%以上40質量%以下である、請求項1に記載の成形用材料。
【請求項3】
前記成形用材料中における、前記セルロース繊維の含有量をXC[質量%]、前記特定セルロース誘導体の含有量をXD[質量%]としたとき、0.14≦XD/XC≦0.80の関係を満たす、請求項1または2に記載の成形用材料。
【請求項4】
前記成形用材料は、さらに、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートおよび酢酸セルロースよりなる群から選択される少なくとも1種である第2のセルロース誘導体を含むものである、請求項1または2に記載の成形用材料。
【請求項5】
前記第2のセルロース誘導体の含有量が10質量%以上40質量%以下である、請求項4に記載の成形用材料。
【請求項6】
前記特定セルロース誘導体中における、
上記式(1)で示される化学構造のDS値が1.5以上2.7以下であり、
上記式(2)で示される化学構造のDS値が0.05以上0.5以下である、請求項1または2に記載の成形用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
石油枯渇対策や温暖化対策として、従来のプラスチック材料から、植物由来で豊富な天然素材であるセルロースを利用した成形用材料に置き換える試みが検討されている。
【0003】
例えば、堆肥化埋立地で処理することができる不織ウエブまたは複合構造体として、天然セルロース繊維と、酢酸酪酸セルロースや酢酸プロピオン酸セルロースといったセルロースエステルとを含む成形体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005-504184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような成形体は、強度、耐衝撃性に劣り、成形体の製造時の成形性に劣るという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0007】
本発明の適用例に係る成形用材料は、セルロース繊維と、セルロースが有する水酸基を構成する水素原子の一部が下記式(1)の一般式の化学構造で置換されるとともに、前記水素原子の他の一部が下記式(2)の一般式の化学構造で置換された特定セルロース誘導体と、を含み、
前記セルロース繊維の含有量が50質量%以上70質量%以下である。
【0008】
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数が1以上6以下のアルキル基である。)
【0009】
【化2】
(式(2)中、Rは炭素数が3以上6以下のアルキレン基であり、ILは式(3)または式(4)のいずれかである。)
【0010】
【化3】
(式(3)中、nは1以上5以下の整数である。)
【0011】
【化4】
(式(4)中、nは1以上8以下の整数である。)
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、各合成例で合成したセルロース誘導体の条件をまとめて示す表である。
図2図2は、実施例1~13の成形用材料の組成、成形方法、評価結果をまとめて示す表である。
図3図3は、実施例14~20および比較例1~3の成形用材料の組成、成形方法、評価結果をまとめて示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]成形用材料
まず、本発明の成形用材料について説明する。
【0014】
本発明の成形用材料は、セルロース繊維と、セルロースが有する水酸基を構成する水素原子の一部が下記式(1)の一般式の化学構造で置換されるとともに、前記水素原子の他の一部が下記式(2)の一般式の化学構造で置換された特定セルロース誘導体と、を含んでいる。そして、成形用材料中におけるセルロース繊維の含有量が50質量%以上70質量%以下である。
【0015】
【化5】
(式(1)中、Rは炭素数が1以上6以下のアルキル基である。)
【0016】
【化6】
(式(2)中、Rは炭素数が3以上6以下のアルキレン基であり、ILは式(3)または式(4)のいずれかである。)
【0017】
【化7】
(式(3)中、nは1以上5以下の整数である。)
【0018】
【化8】
(式(4)中、nは1以上8以下の整数である。)
【0019】
このような構成により、セルロース繊維を所定の範囲の含有量、すなわち、50質量%以上70質量%以下という十分に高い含有量で含み、かつ、強度および耐衝撃性に優れる成形体の製造に好適に用いることができ、成形体の製造時の成形性に優れる成形用材料を提供することができる。
【0020】
このような優れた効果が得られるのは、以下のような理由によると考えられる。すなわち、理論上の強度が高く、形状の安定性に優れたセルロースとともに、セルロース繊維との相溶性、親和性に優れ、かつ、耐熱性、靭性に優れるとともに、溶融時の流動性に優れた特定セルロース誘導体を含むことにより、これらの成分の機能が相殺してしまうことを防止、抑制して、これらの成分の機能を十分に発揮させることができる。より具体的には、成形用材料を用いた成形体の製造時や、成形用材料を用いて製造される成形体において、セルロース繊維および特定セルロース誘導体の機能を十分に発揮させつつ、セルロース繊維に対する特定セルロース誘導体の濡れ性を高めることができ、成形体を構成する異なる成分間での界面剥離を好適に防止、抑制することができる。その結果、上記のような優れた効果が得られるものと考えられる。
【0021】
また、成形体を構成する異なる成分間での界面剥離を好適に防止、抑制することができるため、発塵等の問題が効果的に防止された成形体を得ることができる。
【0022】
また、植物由来で豊富な天然素材であるセルロース繊維を高い含有量で含むことにより、環境問題や埋蔵資源の節約等に好適に対応することができるとともに、成形用材料やそれを用いて製造される成形体の安定供給、コスト低減等の観点からも有利である。また、セルロース繊維は、例えば、バージンパルプ以外にも、古紙、古布等にも多く含まれる成分であり、資源の有効的な再利用を促進する観点からも有利である。
【0023】
また、特定セルロース誘導体は、上記のようなセルロースを原料として好適に得ることができ、一般に優れた生分解性を有する成分である。これにより、成形用材料全体や成形用材料を用いて製造される成形体全体としても、環境問題等に対して好適に対応することができる。
【0024】
一方、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、セルロース繊維を含んでいても、特定セルロース誘導体を含んでいないと、成形用材料を用いて製造される成形体は、耐衝撃性等が著しく劣ったものとなり、また、成形体の製造時の成形性に劣ったものとなる。
【0025】
また、特定セルロース誘導体の代わりに他のセルロース誘導体を用い、特定セルロース誘導体を含まないと、成形用材料を用いて製造される成形体の強度や耐衝撃性が劣ったものとなったり、成形体の製造時の成形性が劣ったものとなる。
【0026】
例えば、特定セルロース誘導体の代わりに、上記式(1)の一般式の化学構造を有するものの、上記式(2)の一般式の化学構造を有さないセルロース誘導体を用いた場合には、セルロース繊維および他に含まれる材料との相溶性が確保できず、それぞれの材料が相分離して成形特性が担保できない。
【0027】
また、特定セルロース誘導体の代わりに、上記式(2)の一般式の化学構造を有するものの、上記式(1)の一般式の化学構造を有さないセルロース誘導体を用いた場合には、側鎖が高極性であるため、成形体の耐湿性および耐水性が低下する。
【0028】
また、特定セルロース誘導体の代わりに上記式(1)中のRが水素原子である置換基を有するセルロース誘導体を用いた場合には、セルロース繊維もしくは誘導体間の水酸基間の水素結合により、繊維間の相互作用が強く働き、繊維の解繊が進行しない。
【0029】
また、特定セルロース誘導体の代わりに上記式(1)中のRが炭素数が7以上のアルキル基である置換基を有するセルロース誘導体を用いた場合には、誘導体のガラス転移温度および融点が低下して、得られる成形体の耐熱性担保できない。
【0030】
また、特定セルロース誘導体の代わりに上記式(2)中のRが炭素数が2以下のアルキレン基である置換基を有するセルロース誘導体を用いた場合には、上記式(1)の立体障害でセルロース繊維との相溶性が確保できない。
【0031】
また、特定セルロース誘導体の代わりに上記式(2)中のRが炭素数が7以上のアルキレン基である置換基を有するセルロース誘導体を用いた場合には、誘導体のガラス転移温度および融点が低下して、得られる成形体の耐熱性担保できない。
【0032】
また、特定セルロース誘導体の代わりに上記式(2)中のILが上記式(3)、上記式(4)以外の化学構造の原子または原子団に置換されたセルロース誘導体を用いた場合には、ILの構造とセルロース骨格の化学構造との親和性が不十分となり、分子レベルでの複合化が進行しない。
【0033】
また、セルロース繊維および特定セルロース誘導体を含んでいても、成形用材料中におけるセルロース繊維の含有量が前記下限値未満であると、上述したようなセルロース繊維を含むことによる効果が十分に発揮されない。
【0034】
また、セルロース繊維および特定セルロース誘導体を含んでいても、成形用材料中におけるセルロース繊維の含有量が前記上限値を超えると、特定セルロース誘導体の含有量が相対的に低下し、成形体の成形性や成形体の耐衝撃性等が急激に低下する。
【0035】
[1-1]セルロース繊維
本発明の成形用材料は、セルロース繊維を含んでいる。
セルロース繊維は、本発明の成形用材料の主成分であり、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体の形状の保持に大きく寄与するとともに、成形体の強度等の特性に大きな影響を与える成分である。
【0036】
セルロースは、植物由来で豊富な天然素材である。そのため、セルロース繊維を用いることにより、環境問題や埋蔵資源の節約等に好適に対応することができるとともに、成形用材料やそれを用いて製造される成形体の安定供給、コスト低減等の観点からも好ましい。また、セルロース繊維は、各種繊維の中でも、理論上の強度が特に高いものであり、成形体の強度の向上の観点からも有利である。
【0037】
セルロース繊維としては、バージンパルプを用いてもよいし、古紙、古布等を再利用してもよい。
【0038】
セルロース繊維は、通常、主としてセルロースで構成されたものであるが、セルロース以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、ヘミセルロース、リグニン等が挙げられる。
【0039】
また、セルロース繊維としては、漂白等の処理が施されたものを用いてもよい。
セルロース繊維としては、例えば、コットン、麻、レーヨン、キュプラ等が挙げられる。
【0040】
本発明の成形用材料中におけるセルロース繊維の含有量は、前述したように、50質量%以上70質量%以下であればよいが、52質量%以上68質量%以下であるのが好ましく、54質量%以上66質量%以下であるのがより好ましく、56質量%以上64質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0041】
セルロース繊維の平均長さは、特に限定されないが、1μm以上5000μm以下であるのが好ましく、1μm以上400μm以下であるのがより好ましい。
【0042】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体における発塵を、より効果的に防止、抑制することができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体の表面に不本意な凹凸が生じることをより効果的に防止することができる。なお、セルロース繊維の繊維長は、ISO 16065-2:2007に準拠した方法にて求められる。
【0043】
セルロース繊維の平均太さは、特に限定されないが、1μm以上100μm以下であるのが好ましく、1μm以上20μm以下であるのがより好ましい。
【0044】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体の表面に不本意な凹凸が生じることをより効果的に防止することができる。
【0045】
セルロース繊維の平均アスペクト比、すなわち、平均太さに対する平均長さは、特に限定されないが、10以上1000以下であるのが好ましく、15以上100以下であるのがより好ましい。
【0046】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の形状の安定性、強度等をより優れたものとすることができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体における発塵を、より効果的に防止、抑制することができる。また、成形用材料を用いて製造される成形体の表面に不本意な凹凸が生じることをより効果的に防止することができる。
【0047】
[1-2]特定セルロース誘導体
本発明の成形用材料は、特定セルロース誘導体を含んでいる。
【0048】
特定セルロース誘導体は、セルロースが有する水酸基を構成する水素原子の一部が上記式(1)の一般式の化学構造で置換されるとともに、前記水素原子の他の一部が上記式(2)の一般式の化学構造で置換された化合物である。
【0049】
式(1)中のRは、炭素数が1以上6以下のアルキル基であればよいが、炭素数が2以上6以下のアルキル基であるのが好ましく、炭素数が3以上5以下のアルキル基であるのがより好ましい。
【0050】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0051】
特定セルロース誘導体は、分子内に、上記式(1)で示される化学構造として、互いに異なる条件の化学構造を有していてもよい。
【0052】
特定セルロース誘導体中における、上記式(1)で示される化学構造のDS値、すなわち、セルロースが有する全水酸基の水素原子のうち上記式(1)で示される化学構造で置換されたものに対応する個数に対応する値である置換度は、1.5以上2.7以下であるのが好ましく、1.6以上2.5以下であるのがより好ましく、1.7以上2.3以下であるのがさらに好ましい。
【0053】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0054】
上記式(2)中のRは、炭素数が3以上6以下のアルキレン基であればよいが、炭素数が3以上5以下のアルキレン基であるのが好ましく、炭素数が3以上4以下のアルキレン基であるのがより好ましい。
【0055】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0056】
上記式(2)中のILは、上記式(3)または上記式(4)のいずれかであればよいが、式(3)であるのが好ましい。
【0057】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性がより優れたものとなる。
【0058】
上記式(3)中のnは、1以上5以下の整数であればよいが、1以上4以下の整数であるのが好ましく、2以上3以下の整数であるのがより好ましい。
【0059】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0060】
上記式(2)中のILが上記式(3)である場合、特定セルロース誘導体は、上記式(3)中の陽イオンに対応する対イオンを有するものとなる。
【0061】
前記対イオンとしては、例えば、下記式(5)~下記式(11)で示されるもの等が挙げられる。
【0062】
【化9】
【0063】
【化10】
【0064】
【化11】
【0065】
【化12】
【0066】
【化13】
【0067】
【化14】
【0068】
【化15】
【0069】
中でも、前記対イオンとしては、上記式(5)で示されるものであるのが好ましい。
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0070】
上記式(4)中のnは、1以上8以下の整数であればよいが、2以上7以下の整数であるのが好ましく、3以上6以下の整数であるのがより好ましく、3以上5以下の整数であるのがさらに好ましい。
【0071】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0072】
特定セルロース誘導体は、分子内に、上記式(2)で示される化学構造として、互いに異なる条件の化学構造を有していてもよい。
【0073】
特定セルロース誘導体中における、上記式(2)で示される化学構造のDS値、すなわち、セルロースが有する全水酸基の水素原子のうち上記式(2)で示される化学構造で置換されたものに対応する個数に対応する値である置換度は、0.05以上0.5以下であるのが好ましく、0.1以上0.4以下であるのがより好ましく、0.15以上0.35以下であるのがさらに好ましい。
【0074】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0075】
特に、特定セルロース誘導体中における、上記式(1)で示される化学構造のDS値、および、上記式(2)で示される化学構造のDS値が、前述した条件を満たすことにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0076】
特定セルロース誘導体中における、すべての置換基のDS値の合計値、すなわち、セルロースが有する全水酸基の水素原子のうち置換基で置換されたものに対応する個数に対応する値である置換度は、1.6以上3.2以下であるのが好ましく、1.7以上2.9以下であるのがより好ましく、1.9以上2.6以下であるのがさらに好ましい。
【0077】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0078】
特定セルロース誘導体の数平均分子量は、10,000以上400,000以下であるのが好ましく、20,000以上300,000以下であるのがより好ましく、35,000以上200,000以下であるのがさらに好ましい。
【0079】
これにより、特定セルロース誘導体のセルロース繊維に対する親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0080】
特定セルロース誘導体のガラス転移温度は、80℃以上200℃以下であるのが好ましく、90℃以上180℃以下であるのがより好ましく、100℃以上170℃以下であるのがさらに好ましい。
【0081】
これにより、特定セルロース誘導体のセルロース繊維に対する親和性、相溶性をより優れたものとすることができ、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0082】
成形用材料中における特定セルロース誘導体の含有量は、10質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、13質量%以上30質量%以下であるのがより好ましく、15質量%以上25質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0083】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0084】
成形用材料中における、セルロース繊維の含有量をXC[質量%]、特定セルロース誘導体の含有量をXD[質量%]としたとき、0.14≦XD/XC≦0.80の関係を満たすのが好ましく、0.19≦XD/XC≦0.60の関係を満たすのがより好ましく、0.22≦XD/XC≦0.50の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0085】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0086】
[1-3]第2のセルロース誘導体
本発明の成形用材料は、前述したセルロース繊維および特定セルロース誘導体に加えて、さらに、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートおよび酢酸セルロースよりなる群から選択される少なくとも1種である第2のセルロース誘導体を含んでいてもよい。
【0087】
これらの第2のセルロース誘導体は、前述した特定セルロース誘導体との親和性、相溶性に優れており、このような第2のセルロース誘導体を含むことにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0088】
成形用材料中における第2のセルロース誘導体の含有量は、10質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、12質量%以上36質量%以下であるのがより好ましく、14質量%以上32質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0089】
これにより、成形用材料を用いて製造される成形体の強度、耐衝撃性をより優れたものとし、成形体の製造時の成形性をより優れたものとすることができる。
【0090】
[1-4]難燃剤
本発明の成形用材料は、さらに、難燃剤を含んでいてもよい。
これにより、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体の難燃性を向上させることができる。
【0091】
難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。
【0092】
これらの中でも、他の成分との混合・混練時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0093】
リン含有難燃剤としては、例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩等の有機リン系化合物が挙げられる。
【0094】
リン酸エステルとしては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル等が挙げられる。
【0095】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6-キシリル)ホスフェートおよびこれらの縮合物等の芳香族リン酸縮合エステル等が挙げられる。
【0096】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族~14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩としては、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩等、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩等が挙げられ、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0097】
また、上記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート等の含ハロゲンリン酸エステルや、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミド等を挙げることができる。
【0098】
ケイ素含有難燃剤としては、例えば、二次元または三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、またはポリジメチルシロキサンの側鎖または末端のメチル基が、水素原子、置換または非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換または修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、または変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0099】
置換または非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、トリフロロメチル基等が挙げられる。
【0100】
また、前記リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一スズ、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。
【0101】
成形用材料が難燃剤を含む場合、難燃剤の含有量は、セルロース繊維および特定セルロース誘導体の合計の含有量を100質量部としたとき、1質量部以上30質量部以下とすることができる。
【0102】
これにより、前述した本発明による効果をより効果的に発揮させつつ、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体の難燃性をより優れたものとすることができる。
【0103】
[1-5]酸化防止剤
本発明の成形用材料は、さらに、酸化防止剤を含んでいてもよい。
これにより、混練や成型プロセスでの加熱に対して樹脂の安定性が向上する。
【0104】
酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(例えば、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、「イルガノックス3114」、住友化学社製「スミライザーGP」等が挙げられる。
【0105】
成形用材料が酸化防止剤を含む場合、酸化防止剤の含有量は、セルロース繊維および特定セルロース誘導体の合計の含有量を100質量部としたとき、0.05質量部以上2.0質量部以下とすることができる。
【0106】
これにより、特定のセルロース誘導体が有する耐衝撃性、成形性、剛性、曲げ強度、耐熱性等の低下をより好適に抑制しつつ、耐傷性および防汚性をより好適に向上させることができる。
【0107】
[1-6]その他の成分
本発明の成形用材料は、上記以外の成分を含んでいてもよい。以下、この項目内において、このような成分を「その他の成分」とも言う。
【0108】
その他の成分としては、例えば、着色剤、防虫剤、防カビ剤、抗菌剤、帯電防止剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、凝集抑制剤、離型剤、加工助剤、ドリップ防止剤、上記以外のセルロース誘導体、樹脂材料、可塑剤等が挙げられる。
【0109】
ただし、本発明の成形用材料中におけるその他の成分の含有量は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0110】
[2]成形用材料の製造方法
次に、本発明の成形用材料の製造方法について説明する。
本発明の成形用材料は、例えば、上述した各成分を混合することにより、製造することができる。この場合、各成分を混合するタイミングは同一であってもよいし、異なるタイミングであってもよい。
【0111】
本発明の成形用材料は、例えば、上述した成分を混錬して製造してもよい。各成分の混練は、例えば、一軸混錬機や二軸混錬機、多軸混練機、ミキサー、ロールバンバリー機を用いることができる。
【0112】
混練により得られたストランド状の成形用材料は、例えば、ストランド方式やウォータリングホットカット方式等のペレタイザーを用いてペレタイズ加工を施してペレット状の成形用材料としてもよい。
【0113】
また、成形用材料の製造方法として以下の方法を適用してもよい。すなわち、上述した成分の混練物をシート状に成形し、その後、例えば、シュレッダー装置を用いて、所望の形状に裁断して、ペレット状の成形用材料としてもよい。混練物をシート状に成形する方法は、特に限定されないが、例えば、まず、混錬物を空気中にて堆積させてシート状の堆積物とし、当該堆積物をカレンダー装置にて圧縮して空気を排除して密度を高め、次に、加熱炉を用いて非接触にて加熱し、その後、ヒートプレス装置にて加熱プレスする方法等が挙げられる。裁断により得られるペレットの形状、大きさは、特に限定されないが、例えば、一片の長さが2mm以上5mm以下の略直方体とすることができる。
【0114】
本発明の成形用材料の製造に用いるセルロース繊維は、予め、解繊処理が施されたものであってもよい。特に、古紙等のセルロース繊維を含むセルロース繊維源を解繊したものを用いてもよい。
【0115】
[3]成形体
次に、本発明の成形用材料を用いて製造される成形体について説明する。
本発明に係る成形体は、セルロース繊維と、特定セルロース誘導体とを含み、前記セルロース繊維の含有量が50質量%以上70質量%以下である。
【0116】
本発明に係る成形体は、前述した成形用材料を用いて製造することができる。
これにより、セルロース繊維を所定の範囲の含有量、すなわち、50質量%以上70質量%以下という十分に高い含有量で含み、かつ、強度および耐衝撃性に優れる成形体を提供することができる。
【0117】
また、植物由来で豊富な天然素材であるセルロース繊維を高い含有量で含むことにより、環境問題や埋蔵資源の節約等に好適に対応することができるとともに、成形体の安定供給、コスト低減等の観点からも有利である。また、セルロース繊維は、例えば、バージンパルプ以外にも、古紙、古布等にも多く含まれる成分であり、資源の有効的な再利用を促進する観点からも有利である。
【0118】
また、特定セルロース誘導体は、上記のようなセルロースを原料として好適に得ることができ、一般に優れた生分解性を有する成分である。これにより、成形体全体としても、環境問題等に対して好適に対応することができる。
【0119】
成形体を構成する各成分は、上記[1-1]~[1-6]で述べた条件を満たすものであるのが好ましい。
【0120】
成形体の形状は、特に限定されず、例えば、シート状、ブロック状、球状、三次元立体形状等、いかなるものであってもよい。
【0121】
成形体は、いかなる用途のものであってもよいが、例えば、プリンターの筐体等の各種筐体、インクカートリッジ、各種容器等が挙げられる。
【0122】
特に、本発明に係る成形体は、セルロース繊維と特定セルロース誘導体との親和性が高く、発塵が効果的に防止されているため、発塵の発生が特に問題となるインクカートリッジ等に好適に適用することができる。
【0123】
本発明に係る成形体は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、例えば、前述したような本発明の成形用材料を用いた射出成形、プレス成形等により、好適に製造することができる。
【0124】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【実施例0125】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[4]セルロース誘導体の合成
【0126】
(合成例1)
1-メチルイミダゾール(東京化成製)12.3g(150mmol)と4-クロロブタン酸(東京化成製)12.5g(100mmol)の混合物を撹拌しながら70℃で一晩加熱した。完了したら、エーテルを加えた。固形油をエーテル(100mL×3)で洗浄した。わずかに黄色の粘着性油を真空下で一晩乾燥させた。
【0127】
得られた1-(4-カルボキシルブチル)イミダゾリウムクロリド2.23g(50mmol)と塩化チオニル47.6g(200mmol)の混合物を80℃で3時間還流した。過剰の塩化チオニルを減圧で除き、蒸留をして、1H-イミダゾリウム、3- (4-クロロ-4-オキソブチル) - 1-メチル-クロリドを得ることができた。
【0128】
200mL 三口フラスコにセルロース(日本製紙KCフロックW50) (1.90g, 11.76mmol)を入れて、溶媒としてN-メチル―2-ピロリジノン(関東化学社製) (25.4mL) ピリジン(関東化学社製) (3.3mL ) を加えて 300 rpmで 4 時間機械攪拌した。内温を -4 ℃まで冷却し、上記1H-イミダゾリウム、3- (4-クロロ-4-オキソブチル) - 1-メチル-クロリド ( 1.31 g、5.88mmol)およびプロピオン酸クロリド(関東化学社製) (3.26g、35.27 mmol ) を 滴下して、内温90℃で12時間反応させた。その後内温を65℃まで冷却し、メタノール ( 50mL) を加えて反応を停止した。純水 (10mL) を加えて減圧濾過後、残渣をメタノール (25mL) 中に分散・攪拌し減圧濾過を行った。この操作を 5回繰り返し、12時間真空乾燥させた。
【0129】
得られた固形物とホスホン酸水素メチル(BOC SCIENCES社製)8.8mlとを室温下で混合し、100℃で4時間反応させた。
【0130】
反応液を大量のテトラヒドロフラン(和光純薬工業社製)中へ投入し、5分間程度激しく攪拌した後、静置した。2層に分離した上層をデカンテーションにより除去した。この操作をさらに2回繰り返した後、残留した下層について攪拌下100℃で1時間の加熱真空乾燥を行い、室温(25℃、以下同様)でワイン色を呈した液体状のセルロース誘導体16.45gを得た。
【0131】
(合成例2~11)
原料としてのセルロースとの反応成分の種類、使用量を変更することにより、セルロース誘導体の構成を図1に示すようにした以外は、前記合成例1と同様にしてセルロース誘導体を合成した。
【0132】
(合成例12)
4-(1-イミダゾリル)ブタン酸(BOC SCIENCES社製)(150mmol)と3-クロロプロポキシホスフィン酸(Chmazon社製)(100mmol)の混合物を撹拌しながら70℃で一晩加熱した。室温にまで冷却し、エーテルを加えた。固形油をエーテル(100mL×3)で洗浄した。わずかに黄色の粘着性油を真空下で一晩乾燥させた。
【0133】
得られたベタインカルボン酸誘導体34.6(50mmol)と塩化チオニル47.6g(200mmol)の混合物を80℃で3時間還流した。過剰の塩化チオニルを減圧で除き、蒸留をして、ベタイン酸クロリド誘導体を得ることができた。
【0134】
200mL 三口フラスコにセルロース(日本製紙KCフロックW50) (1.90g, 11.76mmol)を入れて、溶媒としてN-メチル―2-ピロリジノン(関東化学社製) (25.4mL) ピリジン(関東化学社製) (3.3mL ) を加えて 300 rpmで 4 時間機械攪拌した。内温を -4 ℃まで冷却し、上記ベタイン酸クロリド誘導体( 1.83 g、5.88mmol)およびプロピオン酸クロリド(関東化学社製) (3.26g、35.27 mmol ) を 滴下して、内温 90 ℃で 12 時間反応させた。その後内温を 65 ℃まで冷却し、メタノール ( 50mL) を加えて反応を停止した。純水 (10mL) を加えて減圧濾過後、残渣をメタノール (25mL) 中に分散・攪拌し減圧濾過を行った。この操作を 5 回繰り返し、12 時間真空乾燥させて、セルロース誘導体を得た。
【0135】
(合成例13、14)
原料としてのセルロースとの反応成分の種類を変更することにより、セルロース誘導体の構成を図1に示すようにした以外は、前記合成例12と同様にしてセルロース誘導体を合成した。
各合成例で合成したセルロース誘導体の条件を、図1にまとめて示す。
【0136】
[5]成形用材料の調製
(実施例1)
セルロース繊維(CMPC社製、Guaiba BEKP):60質量部、合成例1で合成したセルロース誘導体:20質量部、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、CAP-482-20):20質量部を秤量した。その後、これらを、二軸混錬機(テクノベル社製、KZW15TW-45MG)に投入して混錬した。混錬条件は、最高加熱温度を180℃とし、押出吐出量を1kg/hrとした。次に、ストランド状に加工してから、ペレタイザーにてペレット状の成形用材料とした。
【0137】
(実施例2~20)
混練に供する成分の種類、各成分の配合比率を図2図3に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてペレット状の成形用材料を調製した。
【0138】
(比較例1~3)
混練に供する成分の種類、各成分の配合比率を図3に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にしてペレット状の成形用材料を調製した。
【0139】
[6]成形体の製造
前記実施例1~20および前記比較例2、3の各成形用材料について、それぞれ、射出成形機(日精樹脂工業社製、THX40-5V)を用いて、射出成形を行い、後述する曲げ弾性率評価用の成形体、曲げ強さ評価用の成形体、シャルピー衝撃強さ評価用の成形体を製造した。射出成形時における成形用材料の加熱温度は、200℃とした。曲げ弾性率評価用の成形体、曲げ強さ評価用の成形体は、長辺80mm±2mm、短辺10.0mm±0.2mm、厚さ4.0mm±0.2mmの長方形の板状の成形体とし、シャルピー衝撃強さ評価用の成形体は、長辺80mm±2mm、短辺4.0mm±0.2mm、厚さ10.0mm±0.2mmの長方形の板状の成形体とした。
【0140】
また、前記比較例1の成形用材料について、プレス加工装置(東和精機社製、油圧プレス PHKS-40ABS)を用いて、プレス成形を行い、後述する曲げ弾性率評価用の成形体、曲げ強さ評価用の成形体、シャルピー衝撃強さ評価用の成形体を製造した。プレス成形時における成形用材料の加熱温度は、200℃とした。曲げ弾性率評価用の成形体、曲げ強さ評価用の成形体は、長辺80mm±2mm、短辺10.0mm±0.2mm、厚さ4.0mm±0.2mmの長方形の板状の成形体とし、シャルピー衝撃強さ評価用の成形体は、長辺80mm±2mm、短辺4.0mm±0.2mm、厚さ10.0mm±0.2mmの長方形の板状の成形体とした。
【0141】
[7]評価
前記各実施例および各比較例に係る成形体について、以下の評価を行った。
【0142】
[7-1]曲げ弾性率
上記[6]で説明したようにして製造した、前記各実施例および各比較例に係る曲げ弾性率評価用の成形体について、それぞれ、インストロン社製の68TM-30を用いて、ISO 178(JIS K7171)に準拠して、曲げ弾性率の測定を行い、以下の基準に従い評価した。曲げ弾性率の測定では、支点間距離を64mmとした。
【0143】
A:曲げ弾性率が2.0GPa以上である。
B:曲げ弾性率が1.5GPa以上2.0GPa未満である。
C:曲げ弾性率が1.0GPa以上1.5GPa未満である。
D:曲げ弾性率が1.0GPa未満である。
【0144】
[7-2]曲げ強さ
上記[6]で説明したようにして製造した、前記各実施例および各比較例に係る曲げ強さ評価用の成形体について、それぞれ、インストロン社製の68TM-30を用いて、ISO 178(JIS K7171)に準拠して、曲げ強さの測定を行い、以下の基準に従い評価した。曲げ強さの測定では、支点間距離を64mmとした。
【0145】
A:曲げ強さが60MPa以上である。
B:曲げ強さが40MPa以上60MPa未満である。
C:曲げ強さが20MPa以上40MPa未満である。
D:曲げ強さが20MPa未満である。
【0146】
[7-3]シャルピー衝撃強さ
上記[6]で説明したようにして製造した、前記各実施例および各比較例に係るシャルピー衝撃強さ評価用の成形体について、それぞれ、東洋精機製作所社製のインパクトテスタITを用いて、ISO 179(JIS K7111)に準拠して、シャルピー衝撃強さの測定を行い、以下の基準に従い評価した。シャルピー衝撃強さの測定では、ハンマー重量を4J(WR2.14N/m)、持上角度を150°、ノッチ残り幅を8.0mm±0.2mm、ノッチ角度を45°とした。
【0147】
A:シャルピー衝撃強さが10kJ/m以上である。
B:シャルピー衝撃強さが8kJ/m以上10kJ/m未満である。
C:シャルピー衝撃強さが6kJ/m以上8kJ/m未満である。
D:シャルピー衝撃強さが6kJ/m未満である。
【0148】
[7-4]メルトフローレート
前記各実施例および各比較例の成形用材料について、ISO1133に基づき、190℃、21.2N加重の条件で測定を行うことにより、各成形用材料のメルトフローレートを求め、以下の基準に従い評価した。メルトフローレートの値が大きいほど、成形性に優れているといえる。
【0149】
A:メルトフローレートが20g/10min以上である。
B:メルトフローレートが10g/10min以上20g/10min未満である。
C:メルトフローレートが5g/10min以上10g/10min未満である。
D:メルトフローレートが5g/10min未満である。
【0150】
これらの結果を、前記各実施例および各比較例で得られた成形用材料の組成、成形用材料を用いた成形体の成形方法とともに、図2図3にまとめて示す。
【0151】
なお、図2図3中、セルロース繊維(CMPC社製、Guaiba BEKP)を「セルロース繊維」、セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、CAP-482-20)を「CAP」、セルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社製、CAB-381-20)を「CAB」、酢酸セルロース(ダイセルミライズ社製、DAC:L-70)を「DAC」、トリフェニルホスフェートを「難燃剤」、イルガノックス(商標登録)1010を「酸化防止剤」、メルトフローレートを「MFR」と示した。なお、図2図3中の各成分についての数値は、含有量を質量%の単位で示すものである。
【0152】
図2図3から明らかなように、前記各実施例では優れた結果が得られた。これに対し、前記各比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
図1
図2
図3