(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141647
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】マイクロストリップアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H01Q13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053412
(22)【出願日】2023-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)「有人エリアIoTシステム利用を目指す準ミリ波帯高効率空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】519416853
【氏名又は名称】株式会社Space Power Technologies
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 実
(72)【発明者】
【氏名】張 鵬
【テーマコード(参考)】
5J045
【Fターム(参考)】
5J045AA07
5J045DA10
(57)【要約】
【課題】複数のアンテナ素子を有するサブアレイアンテナに相当し、かつ高効率な電波の送受信が可能なマイクロストリップアンテナを提供する。
【解決手段】マイクロストリップアンテナは、接地導体と、接地導体に対向するパッチ導体と、接地導体とパッチ導体の間に形成された第1絶縁層とを備える。パッチ導体は、第1方向に並んで列を形成する少なくとも3つの放射導体と、隣接する放射導体の間を接続する少なくとも2つの第1線路導体とを含む。放射導体の列の両端に位置する放射導体はそれぞれスロットを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地導体と、
前記接地導体に対向するパッチ導体と、
前記接地導体と前記パッチ導体の間に形成された第1絶縁層と、を備え、
前記パッチ導体は、
第1方向に並んで列を形成する少なくとも3つの放射導体と、
隣接する前記放射導体の間を接続する少なくとも2つの第1線路導体と、を含み、
前記放射導体の列の両端に位置する前記放射導体はそれぞれスロットを有する、マイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
前記放射導体は、長方形に形成され、前記第1方向に平行な2辺と、前記第1方向に直交する第2方向に平行な2辺とを有し、
前記第1線路導体は前記第1方向に延伸し、
前記放射導体の前記第1方向の寸法は略1/2実効波長に等しく、
前記第1線路導体の前記第1方向の寸法は略1/2実効波長に等しく、
前記放射導体の前記第2方向の寸法は略1/2実効波長以上である、請求項1に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
前記パッチ導体は、前記第1方向に直交する第2方向における前記第1線路導体の両側に配置され、隣接する前記放射導体を接続する第2線路導体を含む、請求項1又は2に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項4】
前記第1線路導体と前記第2線路導体との間の寸法は略1/2実効波長に等しい、請求項3に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項5】
前記第1線路導体に直列に接続され、導体パターンで形成された分布定数フィルタを備え、
前記分布定数フィルタは、基本波を通過させ、不要波を減衰させる、請求項1又は2に記載のマイクロストリップアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機、衛星通信用機器、自動車等の移動体等に用いられるマイクロストリップアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数のマイクロストリップアンテナをアンテナ素子として配列してアレイアンテナを構成することが行われている。1つのアンテナ素子あたりの高周波回路数及び回路面積を低減するために、そのようなアレイアンテナを複数のサブアレイアンテナで構成することが行われている。
【0003】
図9は、従来のサブアレイアンテナの構成例を示す概念図である。サブアレイアンテナは、複数のアンテナ素子32と、複数のアンテナ素子の給電点を1つにまとめる電力合成/分配器33とを備える。
【0004】
サブアレイアンテナには、
図9に示すようなトーナメント型の電力合成/分配器が一般に用いられる。
【0005】
また、特許文献1には、4つのアンテナ素子を有するサブアレイアンテナに相当するH型のマイクロストリップアンテナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のサブアレイアンテナでは、電力合成/分配器に起因する10%以上の伝送損失が発生し、電波が効率的に送受信されない。
【0008】
特許文献1に開示されたマイクロストリップアンテナでも、4つより多いアンテナ素子を有するサブアレイアンテナに相当するものを構成する場合、H型のマイクロストリップアンテナをトーナメント型の電力合成/分配器で接続する必要がある。このため、電力合成/分配器に起因する大きな伝送損失が発生し、電波が効率的に送受信されない。
【0009】
本発明の目的は、複数のアンテナ素子を有するサブアレイアンテナに相当し、かつ高効率な電波の送受信が可能なマイクロストリップアンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマイクロストリップアンテナは、接地導体と、前記接地導体に対向するパッチ導体と、前記接地導体と前記パッチ導体の間に形成された第1絶縁層と、を備え、前記パッチ導体は、第1方向に並んで列を形成する少なくとも3つの放射導体と、隣接する前記放射導体の間を接続する少なくとも2つの第1線路導体と、を含み、前記放射導体の列の両端に位置する前記放射導体はそれぞれスロットを有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のアンテナ素子を有するサブアレイアンテナに相当し、かつ高効率な電波の送受信が可能なマイクロストリップアンテナを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(A)は第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図1(B)は第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナのA-A断面図である。
【
図2】
図2は、典型的なサブアレイアンテナを示す概念図である。
【
図3】
図3(A)は、第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナのE面の指向性を示す図である。
図3(B)は、第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナのH面の指向性を示す図である。
【
図4】
図4(A)は第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図4(B)は第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナのB-B断面図である。
【
図5】
図5(A)は、第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナのE面の指向性を示す図である。
図5(B)は、第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナのH面の指向性を示す図である。
【
図6】
図6(A)は第3実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図6(B)は第3実施形態に係るマイクロストリップアンテナのC-C断面図である。
【
図7】
図7(A)は第4実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図7(B)は第4実施形態に係るマイクロストリップアンテナのD-D断面図である。
【
図8】
図8(A)は第5実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図8(B)はマイクロストリップアンテナのE-E断面図である。
【
図9】
図9は、従来のサブアレイアンテナの構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以降、本発明の複数の実施形態を示す。それぞれの実施形態では、その実施形態以前に説明した点と異なる点を説明する。同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には言及しない。
【0014】
《第1実施形態》
図1(A)は第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図1(B)は第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナのA-A断面図である。マイクロストリップアンテナは、接地導体11、パッチ導体12、及び絶縁層13を備える。
【0015】
パッチ導体12は接地導体11に対向するように配置される。これにより、パッチ導体12の全面が接地導体11に対向する。パッチ導体12は、例えばスペーサ(図示せず)によって接地導体11に対して間隔をあけて固定される。絶縁層13は、空気層であり、接地導体11とパッチ導体12の間に形成される。パッチ導体12は放射導体21,22,23及び第1線路導体24,25を含む。放射導体21~23はこの順でx軸方向に並んで列を形成する。x軸方向は本発明の「第1方向」の一例である。第1線路導体24は隣接する放射導体21,22の間を接続する。第1線路導体25は隣接する放射導体22,23の間を接続する。即ち、放射導体21~23は第1線路導体24,25によって直列に接続される。放射導体21~23の列の両端に位置する放射導体21,23はそれぞれスロット26,27を有する。
【0016】
なお、絶縁層13は絶縁体材料で形成されてもよい。また、パッチ導体12は3つより多い放射導体を含んでもよい。
【0017】
放射導体21~23は、長方形に形成され、x軸方向に平行な2辺と、x軸方向に直交するy軸方向に平行な2辺とを有する。y軸方向は本発明の「第2方向」の一例である。第1線路導体24,25は、細長い形状を有し、x軸方向に延伸する。第1線路導体24,25のy軸方向の寸法は放射導体21~23のy軸方向の寸法より短い。第1線路導体24は放射導体21,22のy軸方向の中央部の間を接続する。第1線路導体25は放射導体22,23のy軸方向の中央部の間を接続する。
【0018】
放射導体21~23のx軸方向の寸法は、互いに等しく、
図1(A)においてD1で表され、略λg
1/2に等しい。第1線路導体24,25のx軸方向の寸法は、互いに等しく、
図1(A)においてD2で表され、略λg
2/2に等しい。放射導体21~23のy軸方向の寸法は、互いに等しく、
図1(A)においてD3で表され、略λg
3/2以上である。ここで、λg
1、λg
2、λg
3は、それぞれ、対応する導体内及び対応する方向における実効波長である。
【0019】
図1(A)には、放射導体21~23のy軸方向の寸法が5λg
3/2に等しい場合のマイクロストリップアンテナを示している。
【0020】
放射導体21~23のy軸方向の寸法が略5λg3/2より長くなると、アンテナのQ値の低下が顕著となる。このため、放射導体21~23のy軸方向の寸法は略5λg3/2以下であることが好ましい。
【0021】
本願において、寸法が略xに等しいとの記載は、当該寸法が0.95x以上1.05x以下の範囲にあることを意味する。寸法が略x以上であるとの記載は、当該寸法が0.95x以上の範囲にあることを意味する。寸法が略x以下であるとの記載は、当該寸法が1.05x以下の範囲にあることを意味する。
【0022】
なお、放射導体21~23の配置は、多少、上記のものと異なってもよい。放射導体21~23の形状は、多少、長方形と異なってもよいし、互いに異なってもよい。第1線路導体24,25は、多少、x軸方向と異なる方向に延伸してもよいし、互いに異なる方向に延伸してもよい。第1線路導体24,25のy軸方向の位置は、放射導体21~23のy軸方向の中央からずれていてもよく、互いにずれていてもよい。放射導体21~23の寸法は、多少、上記の値と異なってもよいし、互いに異なってもよい。第1線路導体24,25の寸法は、多少、上記の値と異なってもよいし、互いに異なってもよい。
【0023】
パッチ導体12は給電線14によって給電される。給電点15は、放射導体21~23の列の中央に位置する放射導体22と第1線路導体25との接続箇所に位置する。スロット26は、放射導体21~23の列の一方端に位置する放射導体21に形成され、放射導体21と第1線路導体24との接続箇所に近接する。スロット27は、放射導体21~23の列の他方端に位置する放射導体23に形成され、放射導体23と第1線路導体25との接続箇所に近接する。
【0024】
スロット26,27によって、パッチ導体12における電流分布が調整され、給電点15から見たマイクロストリップアンテナの入力インピーダンスが50Ωとなり、マイクロストリップアンテナが給電線14とインピーダンス整合する。このように、スロット26,27は、インピーダンス整合が給電点15でとられるように設けられる。
【0025】
なお、給電点15の配置を変更して、それに合わせて、インピーダンス整合をとるように、スロットの個数、配置、寸法、又は形状を変更してもよい。
【0026】
給電が行われると、パッチ導体12にx軸方向に電流が流れる。放射導体21~23は、基本波共振し、放射素子として働く。また、第1線路導体24,25に流れる電流は、放射導体21~23に流れる電流と逆の位相を有する。このため、第1線路導体24,25は、メインローブに寄与せず、サイドローブを高めるが、放射導体21~23と比較して線路幅の短い高インピーダンスの第1線路導体24,25は、放射に寄与せず、伝送線路として働く。
【0027】
図2は、典型的なサブアレイアンテナを示す概念図である。
図2に示すサブアレイアンテナは3×3個のアンテナ素子31を備える。アンテナ素子31は、1/2実効波長の寸法を有する正方形のマイクロストリップアンテナである。放射導体21~23のy軸方向の寸法が5λg
3/2に等しい場合、第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナは、
図2に示すサブアレイアンテナに相当する、即ち、
図2に示すサブアレイアンテナの正面利得(z軸方向の実効利得)に相当する正面利得を有する。
【0028】
放射導体21~23のy軸方向の寸法がλg3/2に等しい場合、第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナは、1×3個のアンテナ素子31を備えるサブアレイアンテナに相当する。放射導体21~23のy軸方向の寸法が3λg3/2に等しい場合、第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナは、2×3個のアンテナ素子31を備えるサブアレイアンテナに相当する。
【0029】
放射導体21~23のy軸方向の寸法を略3λg3/2以上5λg3/2以下に定めることで、6個から9個のアンテナ素子31を備えるサブアレイアンテナの正面利得に相当する正面利得が得られる。
【0030】
図3(A)は、第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナのE面の指向性を示す図である。
図3(B)は、第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナのH面の指向性を示す図である。ここで、放射導体21~23のy軸方向の寸法は5λg
3/2である。使用周波数は5.758GHzである。E面(xz面)において、サイドローブは約-13.6dBであり、ビーム幅は約20.3°である。H面(yz面)において、サイドローブは約-9.9dBであり、ビーム幅は約21.3°である。
【0031】
また、第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナの正面利得は、上記と同じ放射導体21~23の寸法及び使用周波数において、約18.0dBiである。
【0032】
第1実施形態によれば、3つの放射導体21~23がx軸方向に並べられて第1線路導体24,25によって接続される。これにより、複数の、特に6個から9個の正方形のマイクロストリップアンテナを有するサブアレイアンテナの正面利得に相当する正面利得が得られる。
【0033】
図9に示すように、従来のサブアレイアンテナには、トーナメント型の電力合成/分配器が一般に用いられる。
図1(A)に示すように、第1実施形態によれば、第1線路導体24,25が放射導体21~23の間を接続する。給電点15から放射導体21~23までの平均的な線路長は、トーナメント型の電力合成/分配器の入出力端子からそれぞれのアンテナ素子までの線路長より短い。このため、伝送損失が低減され、高効率な電波の送受信が可能となる。
【0034】
また、放射導体21~23の列の両端に位置する放射導体21,23にスロット26,27を形成することで、給電点15でインピーダンス整合をとることができる。
【0035】
《第2実施形態》
図4(A)は第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図4(B)は第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナのB-B断面図である。第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナは第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナと次の点で異なる。即ち、第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナはパッチ導体12に代えてパッチ導体42を備える。パッチ導体42は第2線路導体51,52,53,54を含む。
【0036】
第2線路導体51,52は、y軸方向に第1線路導体24と並び、隣接する放射導体21,22を接続する。第2線路導体51は第1線路導体24の一方側に配置され、第2線路導体52は第1線路導体24の他方側に配置される。同様に、第2線路導体53,54は、y軸方向に第1線路導体25と並び、隣接する放射導体22,23を接続する。第2線路導体53は第1線路導体25の一方側に配置され、第2線路導体54は第1線路導体25の他方側に配置される。第1線路導体24と第2線路導体51,52との間の寸法、及び第1線路導体25と第2線路導体53,54との間の寸法は、互いに等しく、
図4(A)においてD4で表され、略λg
3/2に等しい。
【0037】
なお、第1線路導体24と第2線路導体51,52との間の寸法、及び第1線路導体25と第2線路導体53,54との間の寸法は、多少、上記の値から異なってもよいし、互いに異なってもよい。
【0038】
第2線路導体51~54のy軸方向の寸法は、アンテナの指向性が向上するように定められ、
図4(A)に示すように第1線路導体24,25のy軸方向の寸法より長く定められてもよい。
【0039】
図5(A)は、第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナのE面の指向性を示す図である。
図5(B)は、第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナのH面の指向性を示す図である。ここで、放射導体21~23のy軸方向の寸法は5λg
3/2である。使用周波数は5.752GHzである。E面において、サイドローブは約-10.3dBであり、ビーム幅は約18.0°である。H面において、サイドローブは約-15.5dBであり、ビーム幅は約22.8°である。
【0040】
また、第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナの正面利得は、上記と同じ放射導体21~23の寸法及び使用周波数において、約18.4dBiである。
【0041】
第2実施形態によれば、放射導体21~23と第2線路導体51~54との接続箇所において、マイクロストリップアンテナの開口の両端が接続され、マイクロストリップアンテナの開口での電界分布が均一化される。このため、電界、従って磁流の基本モードではない成分が抑制される。それ故、第2実施形態では、第1実施形態に比較して、H面のサイドローブが低減され、正面利得も向上する。
【0042】
なお、第1実施形態では、第2実施形態に比較して、E面のサイドローブが低減される。このため、仕様、用途等に応じて、第1実施形態と第2実施形態に係るマイクロストリップアンテナを使い分けることが考えられる。
【0043】
《第3実施形態》
図6(A)は第3実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図6(B)は第3実施形態に係るマイクロストリップアンテナのC-C断面図である。第3実施形態に係るマイクロストリップアンテナは第1実施形態に係るマイクロストリップアンテナと次の点で異なる。即ち、第3実施形態に係るマイクロストリップアンテナは、パッチ導体12に代えてパッチ導体62を備え、その結果、分布定数フィルタ71,72を備える。
【0044】
分布定数フィルタ71は、第1線路導体24に直列に接続され、基本波を通過させ、2次高調波を減衰させる。分布定数フィルタ72は、第1線路導体25に直列に接続され、基本波を通過させ、3次高調波を減衰させる。基本波は放射導体21~23の基本共振周波数に等しい周波数を有する。分布定数フィルタ71,72は、それぞれ、2次及び3次高調波の実効波長の1/4の長さを有する開放スタブで構成され、帯域阻止フィルタに相当する。
【0045】
なお、3次高調波より高次の高調波を減衰させてもよいし、高調波以外のスプリアスを減衰させてもよい。また、必要に応じて、帯域通過フィルタ、低域通過フィルタ、又は高域通過フィルタを設けてもよい。
【0046】
第3実施形態によれば、分布定数フィルタ71,72が、放射に寄与せず、伝送線路として働く第1線路導体24,25に接続される。このため、アンテナからの放射は分布定数フィルタ71,72の影響を受けず、かつ共振器としてのパッチ導体62の全体において第2及び第3高調波が減衰される。それ故、放射効率が低下せず、かつアンテナのフィルタ機能が向上する。
【0047】
《第4実施形態》
図7(A)は第4実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図7(B)は第4実施形態に係るマイクロストリップアンテナのD-D断面図である。第4実施形態に係るマイクロストリップアンテナは第3実施形態に係るマイクロストリップアンテナと次の点で異なる。即ち、第4実施形態に係るマイクロストリップアンテナは、パッチ導体62に代えてパッチ導体82を備え、絶縁層13に代えて絶縁層83を備える。
【0048】
第1線路導体24,25及び分布定数フィルタ71,72のスタブに面する絶縁層83の厚みh1は、放射導体21~23に面する絶縁層83の厚みh2より薄い。換言すれば、第1線路導体24,25及び分布定数フィルタ71,72のスタブと接地導体11との間の距離は、放射導体21~23と接地導体11との間の距離より短い。
【0049】
パッチ導体82は、例えば、板金加工等によって導体板を折り曲げることで製作される。
【0050】
第4実施形態によれば、分布定数フィルタ71,72の形成された箇所において、絶縁層83が薄く設定される。このため、共振器としての分布定数フィルタ71,72の無負荷Qが高くなる。それ故、分布定数フィルタ71,72は、より急峻な共振特性、即ちより急峻なフィルタ特性を有する。従って、より大きいフィルタの減衰量が得られる。
【0051】
《第5実施形態》
図8(A)は第5実施形態に係るマイクロストリップアンテナの平面図である。
図8(B)はマイクロストリップアンテナのE-E断面図である。第5実施形態に係るマイクロストリップアンテナは第4実施形態に係るマイクロストリップアンテナと次の点で異なる。即ち、第5実施形態に係るマイクロストリップアンテナは、パッチ導体82に代えてパッチ導体92を備え、さらに、導体パターン55、絶縁体基板56、及び空気層57を備える。その結果、第5実施形態に係るマイクロストリップアンテナは、絶縁層83に代えて絶縁層93を備え、分布定数フィルタ71,72に代えて分布定数フィルタ73を備える。
【0052】
接地導体11は絶縁体基板56の一方面に形成される。導体パターン55は絶縁体基板56の他方面に形成される。導体パターン55は、例えば、エッチング技術によってプリント基板上の銅箔をパターニングすることで形成される。第1線路導体24は、導体パターン55上に配置され、半田付け等によって導体パターン55に接続される。分布定数フィルタ73は、第1線路導体24に直列に接続され、互いに接続された第1線路導体24の一部と導体パターン55とによって、Stepped Impedance型の低域通過フィルタとして構成される。分布定数フィルタ73は、基本波を通過させ、高帯域のスプリアスを減衰させる。
【0053】
第1線路導体24及び導体パターン55で構成される部分に面する絶縁層93は、絶縁体基板56で構成される。放射導体21~23及び第1線路導体25に面する絶縁層93は絶縁体基板56及び空気層57で構成される。空気層57の厚みh4は絶縁体基板56の厚みh3と同等以上である。
【0054】
使用周波数帯がマイクロ波帯のような高周波数帯である場合、分布定数フィルタの導体パターンが微細となるため、その導体パターンをパッチ導体に一体的に形成することが困難となる。第5実施形態によれば、導体パターン55は絶縁体基板56上に形成される。このため、エッチング技術によって導体パターン55を微細に形成できる。それ故、使用周波数帯が高周波数帯である場合でも、分布定数フィルタ73を容易に制作できる。
【0055】
また、放射素子として働く放射導体21~23の形成された箇所おいて、絶縁層93は、絶縁体基板56と、絶縁体基板56と同等以上の厚みの空気層57とで構成される。このため、分布定数フィルタ73の導体パターン55を絶縁体基板56に形成しても、放射効率を高く設定できる。
【0056】
従って、使用周波数帯が高周波数帯である場合でも、優れたフィルタ機能を有するマイクロストリップアンテナを実現できる。
【0057】
また、パッチ導体92は半田付け等によって導体パターン55に固定される。このため、スペーサのようなパッチ導体92の保持構造は不要である。
【0058】
なお、上記のそれぞれの実施形態で示した構成は適宜に置換し又は組み合わせてもよい。
【0059】
<付記>
(1) 接地導体と、
前記接地導体に対向するパッチ導体と、
前記接地導体と前記パッチ導体の間に形成された第1絶縁層と、を備え、
前記パッチ導体は、
第1方向に並んで列を形成する少なくとも3つの放射導体と、
隣接する前記放射導体の間を接続する少なくとも2つの第1線路導体と、を含み、
前記放射導体の列の両端に位置する前記放射導体はそれぞれスロットを有する、マイクロストリップアンテナ。
【0060】
(2) 前記放射導体は、長方形に形成され、前記第1方向に平行な2辺と、前記第1方向に直交する第2方向に平行な2辺とを有し、
前記第1線路導体は前記第1方向に延伸し、
前記放射導体の前記第1方向の寸法は略1/2実効波長に等しく、
前記第1線路導体の前記第1方向の寸法は略1/2実効波長に等しく、
前記放射導体の前記第2方向の寸法は略1/2実効波長以上である、(1)に記載のマイクロストリップアンテナ。
【0061】
(3) 前記パッチ導体は、前記第1方向に直交する第2方向における前記第1線路導体の両側に配置され、隣接する前記放射導体を接続する第2線路導体を含む、(1)又は(2)に記載のマイクロストリップアンテナ。
【0062】
(4) 前記第1線路導体と前記第2線路導体との間の寸法は略1/2実効波長に等しい、(3)に記載のマイクロストリップアンテナ。
【0063】
(5) 前記第1線路導体に直列に接続され、導体パターンで形成された分布定数フィルタを備え、
前記分布定数フィルタは、基本波を通過させ、不要波を減衰させる、(1)から(4)の何れかに記載のマイクロストリップアンテナ。
【符号の説明】
【0064】
11:接地導体
12,42,62,82,92:パッチ導体
13,83,93:絶縁層
14:給電線
15:給電点
21,22,23:放射導体
24,25:第1線路導体
26,27:スロット
31,32:アンテナ素子
33:電力合成/分配器
51,52,53,54:第2線路導体
55:導体パターン
56:絶縁体基板
57:空気層
71,72,73:分布定数フィルタ