(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141655
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】堆積塵埃量算出装置および堆積塵埃量算出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20241003BHJP
G01N 17/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
G01N5/02 D
G01N5/02 A
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053431
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広崇
(72)【発明者】
【氏名】茶円 豊
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】原口 智
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA04
2G050BA04
2G050BA06
2G050CA01
2G050EA01
2G050EA02
2G050EB02
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、塵埃の吸湿性に鑑みて堆積塵埃の量を計算できる堆積塵埃量算出装置および堆積塵埃量算出方法を提供することである。
【解決手段】堆積塵埃量算出装置は、記憶部と、堆積塵埃量算出部とを持つ。記憶部は、第1水晶振動子の周波数変動と堆積塵埃の量との関係を規定する第1検量線関数を、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとに記憶する。堆積塵埃量算出部は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度に対応する第1検量線関数に基づいて、堆積塵埃の量を算出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1水晶板と前記第1水晶板を挟む第1金属からなる第1電極対を備える第1水晶振動子と、前記第1水晶振動子の共振周波数を出力する第1周波数計測回路と、を備える塵埃センサを用いて堆積塵埃の量を算出する堆積塵埃量算出装置であって、
前記第1水晶振動子の周波数変動と堆積塵埃の量との関係を規定する第1検量線関数を、前記堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとに記憶する記憶部と、
前記堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度に対応する第1検量線関数に基づいて、前記堆積塵埃の量を算出する堆積塵埃量算出部と
を備える堆積塵埃量算出装置。
【請求項2】
前記塵埃センサは、第2水晶板と前記第2水晶板を挟む、前記第1金属よりイオン化傾向が低い第2金属からなる第2電極対を備える第2水晶振動子と、前記第2水晶振動子の共振周波数を出力する第2周波数計測回路とをさらに備え、
前記記憶部は、前記第2水晶振動子の周波数変動と堆積塵埃の量との関係を規定する第2検量線関数を、前記堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとに記憶し、
複数の候補濃度について前記第1検量線関数と前記第2検量線関数とから前記堆積塵埃の量を算出し、前記堆積塵埃の量の差が最も小さい候補濃度を前記堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と推定する濃度推定部を備え、
前記堆積塵埃量算出部は、推定された前記濃度に対応する前記第1検量線関数に基づいて前記堆積塵埃の量を算出する
請求項1に記載の堆積塵埃量算出装置。
【請求項3】
前記堆積塵埃におけるイオン性物質の量を算出するイオン性物質量算出部を備え、
前記濃度推定部は、前記イオン性物質の量と、前記複数の候補濃度ごとに前記第1検量線関数から求めた前記堆積塵埃の量とに基づいて、前記複数の候補濃度を絞り込み、絞り込まれた前記候補濃度から前記堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度を推定する
請求項2に記載の堆積塵埃量算出装置。
【請求項4】
前記イオン性物質量算出部は、前記第1水晶振動子の周波数変動と前記第2水晶振動子の周波数変動の差分とイオン性物質の量との関係を規定する第3検量線関数に基づいて、前記堆積塵埃におけるイオン性物質の量を算出する
請求項3に記載の堆積塵埃量算出装置。
【請求項5】
前記濃度推定部は、前記塵埃センサによる複数の計測結果の散布度に基づいて、前記イオン性物質の濃度を推定する
を備える請求項2から請求項4の何れか1項に記載の堆積塵埃量算出装置。
【請求項6】
第1水晶板と前記第1水晶板を挟む第1金属からなる第1電極対を備える第1水晶振動子と、前記第1水晶振動子の共振周波数を出力する第1周波数計測回路と、を備える塵埃センサを用いた堆積塵埃量算出方法であって、
前記第1水晶振動子の周波数変動と堆積塵埃の量との関係を規定する第1検量線関数を、前記堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとに記憶するステップと、
前記堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度に対応する第1検量線関数に基づいて、前記堆積塵埃の量を算出するステップと
を備える堆積塵埃量算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は堆積塵埃量算出装置および堆積塵埃量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備は社会のインフラストラクチャを支える重要な設備であり、長期にわたり安定して稼動できることを求められる。安定稼動のためには、電力設備の劣化状態を把握し、保全・更新を計画的に実施する必要がある。電力設備の導体支持またはバリヤなどに用いられる絶縁材料は、材料自体の経年劣化や、設置環境に浮遊する塵埃または水分の付着などで絶縁特性が低下する。絶縁特性が低下すると放電やトラッキングを生じて設備停止に至る虞もあることから、絶縁材料の状態は電力設備の劣化を診断するためのバロメータになる。
【0003】
絶縁抵抗値を下げる要因である、絶縁材料表面に付着した塵埃や水分を測定する手段として水晶振動子マイクロバランス法(QCM法)が知られている。QCMセンサは、電極表面に物質が付着することによりその質量変化に応じて共振周波数が変化し、周波数の変化量と質量の変化量をSauerbreyの式により換算することできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5951299号公報
【特許文献2】特許第5836904号公報
【特許文献3】特許第5872643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者による実験により、同じ質量の堆積物であっても水晶振動子センサ電極への吸着状態によって、水晶振動子の共振周波数に差が表れることがわかった。具体的には、吸湿性の低い塵埃が堆積している場合、質量当たりの周波数変動が小さく、塩分のように吸湿性の高い塵埃が堆積している場合、質量当たりの周波数変動が大きいことが分かった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、塵埃の吸湿性に鑑みて堆積塵埃の量を計算できる堆積塵埃量算出装置および堆積塵埃量算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の堆積塵埃量算出装置は、塵埃センサを用いて堆積塵埃の量を算出する。塵埃センサは、第1水晶振動子と第1周波数計測回路とを持つ。第1水晶振動子は、第1水晶板と第1水晶板を挟む第1金属からなる第1電極対を持つ。第1周波数計測回路は、第1水晶振動子の共振周波数を出力する。堆積塵埃量算出装置は、記憶部と算出部とを持つ。記憶部は、第1水晶振動子の周波数変動と堆積塵埃の量との関係を規定する第1検量線関数を、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとに記憶する。算出部は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度に対応する第1検量線関数に基づいて、堆積塵埃の量を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る堆積塵埃量計測システムの構成を示す概略図。
【
図2】第1の実施形態に係る塵埃センサの内部構造を示す斜視図。
【
図3】第1の実施形態における、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と、金電極振動子と銅電極振動子の周波数変動差分と、堆積塵埃に含まれるイオン性物質の質量との関係を示す図。
【
図4】第1の実施形態における、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と、金電極振動子の周波数変動と、堆積塵埃の質量との関係を示す図。
【
図5】第1の実施形態に係る堆積塵埃量算出装置の構成を示す概略ブロック図。
【
図6】第1の実施形態に係る第1検量線決定関数と第2検量線決定関数とを示す図。
【
図7】第1の実施形態に係る堆積塵埃量計測システムの動作を示すフローチャート。
【
図8】第1の実施形態に係る差分由来イオン性物質量と金電極由来イオン性物質量との関係の例を示す図。
【
図9】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の堆積塵埃量算出装置および堆積塵埃量算出方法を、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る堆積塵埃量計測システム10の構成を示す概略図である。
堆積塵埃量計測システム10は、塵埃センサ20と、堆積塵埃量算出装置30とを有する。なお、第1の実施形態の堆積塵埃量計測システム10では、塵埃センサ20と堆積塵埃量算出装置30が有線で接続している。なお、塵埃センサ20と堆積塵埃量算出装置30とは無線で接続していてもよいし、インターネットなどのネットワークを介して接続していてもよい。塵埃センサ20は、汚損状態を推定する対象物Oの近傍に設置される。堆積塵埃量算出装置30は、塵埃センサ20に付着した塩分量を算出し、対象物Oの汚損状態を推定する。
【0011】
図2は、第1の実施形態に係る塵埃センサ20の内部構造を示す斜視図である。塵埃センサ20は、金電極振動子21と、銅電極振動子22と温湿度センサ23とを備える。金電極振動子21と銅電極振動子22は互いに隣接していて、同一の環境に配置される。
【0012】
金電極振動子21は、第1金電極211と、第2金電極212と、水晶板213と、支持板214と、発振回路215と、周波数計測回路216とを備える。第1金電極211及び第2金電極212は、金で構成される電極である。水晶板213は、第1金電極211と第2金電極212とで挟まれる。第1金電極211の端子と第2金電極212の端子は、支持板214に差し込まれて第1金電極211が上面を向くように支持される。発振回路215は、第1金電極211と第2金電極212との間に電圧を印加する。第1金電極211と第2金電極212との間に電圧が印加されることで、水晶板213が振動し、電気信号を出力する。周波数計測回路216は、金電極振動子21が出力する電気信号の周波数を計測する。
【0013】
銅電極振動子22は、第1銅電極221と、第2銅電極222と、水晶板223と、支持板224と、発振回路225と、周波数計測回路226とを備える。第1銅電極221及び第2銅電極222は、銅で構成される電極である。水晶板223は、第1銅電極221と第2銅電極222とで挟まれる。第1銅電極221の端子と第2銅電極222の端子は、支持板224に差し込まれて第1銅電極221が上面を向くように支持される。発振回路225は、第1銅電極221と第2銅電極222との間に電圧を印加する。第1銅電極221と第2銅電極222との間に電圧が印加されることで、水晶板223が振動し、電気信号を出力する。周波数計測回路226は、銅電極振動子22が出力する電気信号の周波数を計測する。
【0014】
温湿度センサ23は、銅電極振動子22の近傍に設けられ、銅電極振動子22の周囲の温度及び相対湿度を計測する。
【0015】
金電極振動子21および銅電極振動子22は、例えば、QCMセンサである。金電極振動子21および銅電極振動子22は、初期状態において、電極の質量変化が同じである場合、共振周波数の初期状態からの変動が等しくなるように予め校正されている。以下、共振周波数の初期状態からの変動のことを、「周波数変動」ともいう。
【0016】
銅は、金よりもイオン化傾向(標準電極電位)が高い。すなわち、銅は、金と比較して、塩などのイオン性の汚損物質によって腐食が起こりやすい金属である。そのため、金電極振動子21の第1金電極211と、銅電極振動子22の第1銅電極221の両者に塩分が付着したときは、第1銅電極221に腐食生成物が生成されやすい。そして、その腐食生成物の生成量による第1銅電極221の質量の変化に応じて銅電極振動子22の周波数変動が金電極振動子21の周波数変動に比べて大きくなる。第1銅電極221は、イオン性の汚損物質が付着することで、銅電極振動子22の共振周波数を金電極振動子21の周波数変動に比べて大きく変化させる作用を有する。
【0017】
金電極振動子21と銅電極振動子22のそれぞれに非イオン性の塵埃のみが同じ質量だけ付着した場合、金電極振動子21と銅電極振動子22の周波数変動は同程度となる。つまり、金電極振動子21の周波数変動と銅電極振動子22の周波数変動の差分はゼロに近い値となる。以下、金電極振動子21の周波数変動と銅電極振動子22の周波数変動の差分を、「周波数変動差分」ともいう。
【0018】
他方、金電極振動子21と銅電極振動子22のそれぞれにイオン性の塵埃が同じ質量だけ付着した場合、銅電極振動子22に腐食生成物が生成されることで金電極振動子21の周波数変動と比較して銅電極振動子22の周波数変動が大きくなる。つまり、金電極振動子21と銅電極振動子22の周波数変動差分は腐食生成物の量に応じて増加する。
図3は、第1の実施形態における、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と、金電極振動子21と銅電極振動子22の周波数変動差分と、堆積塵埃に含まれるイオン性物質の質量との関係を示す図である。
図3に示すように、周波数変動差分と、堆積塵埃に含まれるイオン性物質の質量との関係は、イオン性物質の濃度によらないことがわかる。このことから、第1実施形態に係る堆積塵埃量算出装置30は、
図4に示す関係を示す検量線関数と周波数変動差分に基づいて対象物Oにおける堆積塵埃におけるイオン性物質の量を計算することができる。
【0019】
金はイオン化傾向(標準電極電位)が小さく、塩などのイオン性物質による腐食が生じにくい金属である。そのため、金電極振動子21に塵埃が堆積した場合、塵埃に含まれるイオン性物質の量によらず、堆積塵埃の質量に従った周波数変動が生じる。このことから、第1の実施形態に係る堆積塵埃量算出装置30は、金電極振動子21の周波数変動に基づいて対象物Oにおける堆積塵埃の量を計算する。
【0020】
一方で、発明者は、金電極振動子21と堆積塵埃との密着性によって周波数変動が異なるという知見を見出した。イオン性物質は非イオン性物質と比較して吸湿性が高いため、金電極振動子21の堆積塵埃におけるイオン性物質の割合が多いほど、堆積塵埃の量に対する周波数変動が大きくなる。
図4は、第1の実施形態における、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と、金電極振動子21の周波数変動と、堆積塵埃の質量との関係を示す図である。
図4に示すように、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度が高いほど、金電極振動子21の周波数変動から堆積塵埃の質量を求めるための検量線関数の傾きが大きくなる。そこで、第1の実施形態に係る堆積塵埃量算出装置30は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度から特定される検量線関数と金電極振動子21の周波数変動とに基づいて対象物Oにおける堆積塵埃の量を計算する。
【0021】
また、金電極振動子21および銅電極振動子22の共振周波数は環境の温度の影響を受ける。これは、水晶振動子が温度特性を有するためである。そのため、予め水晶振動子の温度特性を特定しておき、堆積塵埃量算出装置30がこれを用いて金電極振動子21および銅電極振動子22の共振周波数を補正する。なお、銅電極振動子22の温度特性として、公知のATカット水晶の温度特性(温度と周波数偏差との関係)を用いてもよい。一般的なATカット水晶の温度特性は、25℃に変曲点を持つ三次関数で表される。
【0022】
図5は、第1の実施形態に係る堆積塵埃量算出装置30の構成を示す概略ブロック図である。
堆積塵埃量算出装置30は、データベース31、データ取得部32、補正部33、イオン性物質量算出部34、堆積塵埃量算出部35、濃度推定部36、履歴記憶部37、報知部38を有する。
【0023】
データベース31には、金電極振動子21および銅電極振動子22の初期周波数、金電極振動子21および銅電極振動子22の温度特性関数と、第1検量線決定関数と、第2検量線決定関数と、第3検量線関数とが記録される。
【0024】
図6は、第1の実施形態に係る第1検量線決定関数g
Au(x)と第2検量線決定関数g
Cu(x)とを示す図である。
第1検量線決定関数g
Au(x)は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と第1検量線関数の傾きとの関係を示す関数である。第1検量線関数は、
図4に示すような金電極振動子21の周波数変動から堆積塵埃の質量を求めるための検量線関数である。第1検量線決定関数g
Au(x)を記憶することは、第1検量線関数を、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとに記憶することと等価である。
【0025】
第2検量線決定関数gCu(x)は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と第2検量線関数の傾きとの関係を示す関数である。第2検量線関数は、銅電極振動子22の周波数変動から堆積塵埃の質量を求めるための検量線関数である。銅電極振動子22はイオン性物質によって腐食するため、第2検量線関数の傾きは、第1検量線関数の傾きより大きくなる。第2検量線決定関数gCu(x)を記憶することは、第2検量線関数を、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとに記憶することと等価である。
【0026】
第3検量線関数は、
図3に示す金電極振動子21と銅電極振動子22の周波数変動差分から堆積塵埃におけるイオン性物質の質量を求めるための検量線関数である。
【0027】
データ取得部32は、塵埃センサ20から計測データを一定の時間ステップで読み出す。時間ステップは、特に制限はないが、例えば1分である。具体的には、データ取得部32は、周波数計測回路216が計測した金電極振動子21の共振周波数、周波数計測回路226が計測した銅電極振動子22の共振周波数、並びに温湿度センサ23が計測した温度および相対湿度を取得する。
【0028】
補正部33は、データ取得部32が取得した温度の計測データと、データベース31に記録された温度特性関数とに基づいて、データ取得部32が取得した金電極振動子21および銅電極振動子22の共振周波数を補正する。具体的には、補正部33は、温度特性関数に温度を代入することで周波数偏差を求め、共振周波数を基準温度(例えば25℃)の共振周波数に補正する。
また補正部33は、金電極振動子21および銅電極振動子22の周波数変動、ならびに周波数変動差分を算出する。具体的には、補正部33は、以下の手順で計算を行う。まず補正部33は、補正された金電極振動子21の共振周波数と、データベース31に記憶された金電極振動子21の初期周波数との差を、金電極振動子21の周波数変動として求める。また補正部33は、補正された銅電極振動子22の共振周波数と、データベース31に記憶された銅電極振動子22の初期周波数との差を、銅電極振動子22の周波数変動として求める。補正部33は、金電極振動子21の周波数変動と銅電極振動子22の周波数変動の差を周波数変動差分として求める。
【0029】
イオン性物質量算出部34は、金電極振動子21と銅電極振動子22との周波数変動差分と、第3検量線関数とに基づいて、堆積塵埃におけるイオン性物質の質量を計算する。
【0030】
堆積塵埃量算出部35は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と第1検量線決定関数とから第1検量線関数を求め、金電極振動子21の周波数変動と第1検量線関数とに基づいて、堆積塵埃の質量を計算する。また堆積塵埃量算出部35は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と第2検量線決定関数とから第2検量線関数を求め、銅電極振動子22の周波数変動と第2検量線関数とに基づいて、堆積塵埃の質量を計算する。
【0031】
濃度推定部36は、イオン性物質量算出部34および堆積塵埃量算出部35の計算結果に基づいて堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度を推定する。
履歴記憶部37は、第1検量線関数の推定履歴を記憶する。
【0032】
報知部38は、堆積塵埃量算出部35が計算した堆積塵埃の質量が所定の閾値を超えた場合に、塵埃センサ20の清掃を促すアラームを出力する。また、報知部38は、イオン性物質量算出部34によって算出されたイオン性物質の堆積量に応じたアラームを出力してもよい。アラームは、ディスプレイへの出力によってなされてもよいし、音声によって出力されてもよいし、他の端末への通信によってなされてもよい。
【0033】
図7は、第1の実施形態に係る堆積塵埃量計測システム10の動作を示すフローチャートである。
まず、データ取得部32は、塵埃センサ20から金電極振動子21の共振周波数、銅電極振動子22の共振周波数および温度の計測データを読み出す(ステップS1)。補正部33は、ステップS1で取得した温度の計測データと、データベース31に記録された温度特性関数とに基づいて、金電極振動子21および銅電極振動子22の共振周波数を補正する(ステップS2)。次に、補正部33は、補正された金電極振動子21および銅電極振動子22の共振周波数を用いて、金電極振動子21および銅電極振動子22の周波数変動、ならびに周波数変動差分を算出する(ステップS3)。
【0034】
イオン性物質量算出部34は、ステップS3で算出した周波数変動差分と、データベース31に記録された第3検量線関数とに基づいて、堆積塵埃におけるイオン性物質の質量を計算する(ステップS4)。以下、周波数変動差分に基づいて算出したイオン性物質の質量を差分由来イオン性物質量という。
【0035】
次に、堆積塵埃量算出部35は、0%から100%までの複数のイオン性物質の候補濃度を1つずつ選択し(ステップS5)、候補濃度毎に以下のステップS5からステップS7の計算を行う。堆積塵埃量算出部35は、ステップS5で選択した候補濃度とデータベース31が記憶する第1検量線決定関数とから第1検量線関数の傾きを求めることで、第1検量線関数を決定する(ステップS6)。堆積塵埃量算出部35は、金電極振動子21の周波数変動と第1検量線関数とに基づいて、堆積塵埃の質量を計算する(ステップS7)。以下、金電極振動子21の周波数変動に基づいて算出した堆積塵埃の質量を金電極由来塵埃質量という。そして堆積塵埃量算出部35は、ステップS7で算出した金電極由来塵埃質量にステップS5で選択した候補濃度を乗算することで、堆積塵埃におけるイオン性物質の質量を計算する(ステップS8)。以下、金電極振動子21の周波数変動に基づいて算出したイオン性物質の質量を金電極由来イオン性物質量という。
【0036】
堆積塵埃量算出部35が候補濃度ごとの金電極由来イオン性物質量を求めると、濃度推定部36は、ステップS4で算出した差分由来イオン性物質量との差が所定の閾値より低い金電極由来イオン性物質量に係る候補濃度を特定する(ステップS9)。
図8は、第1の実施形態に係る差分由来イオン性物質量と金電極由来イオン性物質量との関係の例を示す図である。
図8に示すように、候補濃度と金電極由来イオン性物質量との関係は単調関数ではなく、2つの極値を有する関数となる。そのため、差分由来イオン性物質量と金電極由来イオン性物質量との差がゼロとなる候補濃度が最大で3つ存在し得る。
【0037】
濃度推定部36は、ステップS9で絞り込んだ候補濃度が複数存在するか否かを判定する(ステップS10)。絞り込んだ候補濃度が複数存在する場合(ステップS10:YES)、堆積塵埃量算出部35は、絞り込んだ候補濃度を1つずつ選択し(ステップS11)、候補濃度毎に以下のステップS12からステップS13の計算を行う。堆積塵埃量算出部35は、ステップS11で選択した候補濃度とデータベース31が記憶する第2検量線決定関数とから第2検量線関数の傾きを求めることで、第2検量線関数を決定する(ステップS12)。堆積塵埃量算出部35は、銅電極振動子22の周波数変動と第2検量線関数とに基づいて、堆積塵埃の質量を計算する(ステップS13)。以下、銅電極振動子22の周波数変動に基づいて算出した堆積塵埃の質量を銅電極由来塵埃質量という。
堆積塵埃量算出部35が候補濃度ごとの銅電極由来塵埃質量を求めると、濃度推定部36は、絞り込んだ候補濃度のうち、金電極由来塵埃質量と銅電極由来塵埃質量との差が最も小さい候補濃度を特定する(ステップS14)。
【0038】
濃度推定部36は、ステップS9で特定された唯一の候補濃度、またはステップS14で特定された1つの候補濃度に対応する第1検量線関数を特定し、これを履歴記憶部37に記録する(ステップS15)。濃度推定部36は、履歴記憶部37に記録された複数の第1検量線関数の散布度が小さくなるように、第1検量線関数を決定する(ステップS16)。例えば、濃度推定部36は、履歴記憶部37に記録された複数の第1検量線関数の傾きの平均値や中央値により第1検量線決定関数を決定してよい。
【0039】
堆積塵埃量算出部35は、ステップS16で決定した第1検量線関数に基づいて、ステップS3で算出した金電極振動子21の周波数変動から堆積塵埃の質量を算出する(ステップS17)。報知部38は、ステップS17で計算した堆積塵埃の質量が所定の閾値を超えるか否かを判定する(ステップS18)。堆積塵埃の質量が閾値を超える場合(ステップS18:YES)、報知部38は塵埃センサ20の清掃を促すアラームを出力する(ステップS19)。他方、堆積塵埃の質量が閾値を超えない場合(ステップS18:NO)、報知部38はアラームを出力しない。
【0040】
このように、第1の実施形態によれば、堆積塵埃量算出装置30のデータベース31は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとの、金電極振動子21の周波数変動と堆積塵埃の量との関係を規定する第1検量線関数を、第1検量線決定関数として記憶する。堆積塵埃量算出部35は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度に対応する第1検量線関数に基づいて、堆積塵埃の量を算出する。これにより、堆積塵埃量算出装置30は、堆積塵埃におけるイオン性物質に起因する塵埃の金電極振動子21への吸着の度合いによらずに、堆積塵埃の量を算出することができる。
【0041】
また、第1の実施形態によれば、データベース31は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとの、銅電極振動子22の周波数変動と堆積塵埃の量との関係を規定する第2検量線関数を、第2検量線決定関数として記憶する。濃度推定部36は、複数の候補濃度について第1検量線関数と第2検量線関数とから金電極由来塵埃量および銅電極由来塵埃量をそれぞれ算出し、金電極由来塵埃量と銅電極由来塵埃量の差が最も小さくなる候補濃度を堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度と推定する。堆積塵埃量算出部35は、推定された濃度に対応する第1検量線関数に基づいて堆積塵埃の量を算出する。これにより、堆積塵埃量算出装置30は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度が未知である場合に、イオン性物質の濃度を推定し、堆積塵埃の量を算出することができる。
【0042】
なお、他の実施形態においては、これに限られず、例えば対象物Oの雰囲気における塵埃の成分が既知または計測可能である場合、堆積塵埃量算出装置30は当該成分に応じたイオン性物質の濃度から第1検量線関数を決定してもよい。
【0043】
また、第1の実施形態によれば、イオン性物質量算出部34は、堆積塵埃におけるイオン性物質の量を算出する。具体的には、イオン性物質量算出部34は、金電極振動子21の周波数変動と銅電極振動子22の周波数変動差分とイオン性物質の量との関係を規定する第3検量線関数に基づいて、堆積塵埃におけるイオン性物質の量(差分由来イオン性物質量)を算出する。濃度推定部36は、差分由来イオン性物質量と、複数の候補濃度ごとの金電極由来イオン性物質量とに基づいて、複数の候補濃度を絞り込み、絞り込まれた候補濃度から堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度を推定する。これにより、堆積塵埃量算出装置30は濃度の推定の計算量を抑えることができる。
【0044】
なお、他の実施形態においては、これに限られず、例えばイオン性物質量算出部34は、銅電極振動子22の周波数変動に基づいて堆積塵埃におけるイオン性物質の量を求めてもよい。また他の実施形態においては、イオン性物質量算出部34は、周波数変動差分の変化量に基づいて堆積塵埃におけるイオン性物質の量を求めてもよい。
【0045】
また、他の実施形態においては、堆積塵埃量算出部35が全ての候補濃度について金電極由来塵埃量と銅電極由来塵埃量を求め、濃度推定部36がその差が最も小さい候補濃度を特定することで、イオン性物質の質量を求めずに濃度を推定してもよい。ただし、第1の実施形態の手法の方が濃度の推定に係る計算量は小さい。
【0046】
また、第1の実施形態によれば、濃度推定部36は、塵埃センサ20による複数の計測結果の散布度に基づいて、イオン性物質の濃度を推定する。具体的には、濃度推定部36は、過去の第1検量線関数の傾きの平均によって、第1検量線関数の傾き、すなわちイオン性物質の濃度を決定する。これにより、堆積塵埃量算出装置30は、第1検量線関数の決定における計測の誤差の影響を小さくすることができる。
【0047】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、堆積塵埃量算出装置は、記憶部と、堆積塵埃量算出部とを持つ。記憶部は、第1水晶振動子の周波数変動と堆積塵埃の量との関係を規定する第1検量線関数を、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度ごとに記憶する。堆積塵埃量算出部は、堆積塵埃におけるイオン性物質の濃度に対応する第1検量線関数に基づいて、堆積塵埃の量を算出する。これにより、塵埃の吸湿性に鑑みて堆積塵埃の量を計算することができる。
【0048】
図9は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ50は、プロセッサ51、メインメモリ53、ストレージ55、インタフェース57を備える。
上述の堆積塵埃量算出装置30は、コンピュータ50に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ55に記憶されている。プロセッサ51は、プログラムをストレージ55から読み出してメインメモリ53に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ51は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ53に確保する。プロセッサ51の例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0049】
プログラムは、コンピュータ50に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータ50は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ51によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。また、他の実施形態においては、コンピュータ50は、1または複数のコンピュータ上で仮想化されたものであってもよい。
【0050】
ストレージ55の例としては、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ55は、コンピュータ50のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース57または通信回線を介してコンピュータ50に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ50に配信される場合、配信を受けたコンピュータ50が当該プログラムをメインメモリ53に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ55は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0051】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ55に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0053】
例えば、第1水晶振動子である金電極振動子21の電極は金であり、第2水晶振動子である銅電極振動子22の電極は銅であるが、これに限られない。第2水晶振動子の電極は、第1水晶振動子の電極よりもイオン化傾向(標準電極電位)が大きい金属であればよい。すなわち、第2水晶振動子の電極は、第1水晶振動子の電極と比較して、イオン性の汚損物質によって腐食が起こりやすい金属であることが好ましい。
【0054】
例えば、第1水晶振動子の電極は、銀(標準電極電位:+0.799V)又は白金(標準電極電位:+1.188V)であってよい。第2水晶振動子の電極は、アルミニウム(標準電極電位:-1.68V)であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…堆積塵埃量計測システム 20…塵埃センサ 21…金電極振動子 211…第1金電極 212…第2金電極 213…水晶板 214…支持板 215…発振回路 216…周波数計測回路 22…銅電極振動子 221…第1銅電極 222…第2銅電極 223…水晶板 224…支持板 225…発振回路 226…周波数計測回路 23…温湿度センサ 30…堆積塵埃量算出装置 31…データベース 32…データ取得部 33…補正部 34…イオン性物質量算出部 35…堆積塵埃量算出部 36…濃度推定部 37…履歴記憶部 38…報知部 50…コンピュータ 51…プロセッサ 53…メインメモリ 55…ストレージ 57…インタフェース O…対象物