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特開2024-141664パワートランジスタの接合温度推定回路及びパワートランジスタの接合温度推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141664
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】パワートランジスタの接合温度推定回路及びパワートランジスタの接合温度推定方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20241003BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H02M1/00 R
H02M1/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053444
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】秋山 博則
【テーマコード(参考)】
5H740
【Fターム(参考)】
5H740BA12
5H740BC01
5H740BC02
5H740KK01
5H740MM08
(57)【要約】
【課題】閾値電圧Vthが変動しても、接合温度を正しく推定できるパワートランジスタの温度推定回路を提供する。
【解決手段】記憶部8に、予め取得された複数のゲート駆動電圧に対する端子間電圧Vds_on、電流Id、FET1の接合温度Tj、及びFET1の閾値電圧Vthの変動量Vth_shiftの関係を示すデータを記憶する。温度推定部7は、複数のゲート駆動電圧でFET1のゲートを駆動した際に検出される端子間電圧Vds_onとドレイン電流Idとに応じて、記憶部8に記憶されている各ゲート駆動電圧に対応する変動量Vth_shiftに依存した接合温度Tjを推定し、各ゲート駆動電圧Vgs毎に推定した各接合温度Tjに対し、統計的処理を行うことで得られる最適値を最終的に推定した接合温度Tjとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワートランジスタ(1)のゲートを駆動する電圧が変更可能であるゲート駆動部(2)と、
前記パワートランジスタがオンしている期間中に、導通端子間にかかる端子間電圧を検出する電圧検出部(3)と、
この電圧検出部が電圧を検出するタイミングと同じタイミングで、前記パワートランジスタに流れる電流を検出する電流検出部(4)と、
予め取得された、複数のゲート駆動電圧に対する前記端子間電圧、前記電流、前記パワートランジスタの接合温度、及び前記パワートランジスタの閾値電圧の変動量の関係を示すデータが記憶されている記憶部(8、23)と、
前記電圧検出部により検出される端子間電圧と、前記電流検出部により検出される電流と、前記記憶部に記憶されているデータとを用いて、前記接合温度を推定する温度推定部(7、22)と、を備え、
前記温度推定部は、前記ゲート駆動部が前記複数のゲート駆動電圧で前記ゲートを駆動した際に、前記電圧検出部により検出される端子間電圧と、前記電流検出部により検出される電流とに応じて、各ゲート駆動電圧に対応する前記変動量に依存した前記接合温度を推定し、
複数のゲート駆動電圧毎に推定した各接合温度に対し、統計的処理を行うことで得られる最適値を、最終的に推定した接合温度とするパワートランジスタの接合温度推定回路
【請求項2】
前記電圧検出部により検出される端子間電圧と、前記電流検出部により検出される電流とに応じて、前記パワートランジスタのオン抵抗を演算するオン抵抗演算部(6)を備え、
前記記憶部に記憶されるデータは、前記複数のゲート駆動電圧に応じたオン抵抗、接合温度、及び前記変動量についての特性であり、
前記温度推定部は、前記オン抵抗演算部により演算されたオン抵抗と、前記記憶部に記憶されたデータとを用いて前記接合温度を推定する請求項1記載のパワートランジスタの接合温度推定回路。
【請求項3】
前記記憶部に記憶されるオン抵抗のデータは、各接合温度毎に、基準とする複数のゲート駆動電圧のそれぞれから、前記変動量を含む値を加算又は減算したゲート駆動電圧によって、前記パワートランジスタを動作させた際に取得されたデータである請求項2記載のパワートランジスタの接合温度推定回路。
【請求項4】
前記温度推定部(22)は、所定の推定タイミングで推定した変動量を前記記憶部(23)に記憶させ、
次回の推定タイミングで推定した変動量を前記記憶部に記憶させるまでは、前記ゲート駆動部に一定の電圧で前記ゲートを駆動させ、
前記記憶部より、前記一定の電圧についての変動量に対応するオン抵抗、接合温度データを読み出し、読み出したデータより前記接合温度を推定する請求項2記載のパワートランジスタの接合温度推定回路。
【請求項5】
前記複数のゲート駆動電圧は、オン抵抗の温度依存性が、前記パワートランジスタの定格温度、定格電流内において常に正となる範囲内で決定する請求項1から4の何れか一項に記載のパワートランジスタの接合温度推定回路。
【請求項6】
複数のゲート駆動電圧に対するパワートランジスタの端子間電圧、前記パワートランジスタに流れる電流、前記パワートランジスタの接合温度、及び前記パワートランジスタの閾値電圧の変動量の関係を示すデータを予め取得して記憶しておき、
前記複数のゲート駆動電圧で前記パワートランジスを駆動した際に、導通端子間にかかる端子間電圧と、前記パワートランジスタに流れる電流とを検出し、
検出した端子間電圧と、検出した電流と、予め記憶したデータとを用いて、前記接合温度を推定する際に、複数のゲート駆動電圧毎に推定した各接合温度に対し、統計的処理を行うことで得られる最適値を、最終的に推定した接合温度とするパワートランジスタの接合温度推定方法。
【請求項7】
検出した端子間電圧と、検出した電流とに応じて、前記パワートランジスタのオン抵抗を演算し、
予め記憶するデータは、前記複数のゲート駆動電圧に応じたオン抵抗、接合温度、及び前記変動量についての特性であり、
演算されたオン抵抗と、予め記憶したデータとを用いて前記接合温度を推定する請求項6記載のパワートランジスタの接合温度推定方法。
【請求項8】
前記記憶するオン抵抗のデータは、各接合温度毎に、基準とする複数のゲート駆動電圧のそれぞれから、前記変動量を含む値を加算又は減算したゲート駆動電圧によって、前記パワートランジスタを動作させた際に取得されたデータである請求項7記載のパワートランジスタの接合温度推定方法。
【請求項9】
所定の推定タイミングで推定した変動量を記憶し、
次回の推定タイミングで推定した変動量を新たに記憶するまでは、一定の電圧で前記パワートランジスタを駆動させ、
前記一定の電圧について記憶した変動量に対応するオン抵抗、接合温度データを読み出し、読み出したデータより前記接合温度を推定する請求項7記載のパワートランジスタの接合温度推定方法。
【請求項10】
前記複数のゲート駆動電圧は、オン抵抗の温度依存性が、前記パワートランジスタの定格温度、定格電流内において常に正となる範囲内で決定する請求項6から9の何れか一項に記載のパワートランジスタの接合温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートランジスタの接合温度を推定する回路及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ等で用いられるパワートランジスタについては、過電流等による異常発熱を検知するため、トランジスタのジャンクション温度を検出する回路が設けられる。検出する温度が所定の温度に達した場合は、インバータの出力に制限をかけることでパワートランジスタを含むシステムの保護が図れる。この温度検出の精度を高めれば、パワートランジスタの熱設計に対する要求マージンを小さくできるため、コストの低減等が図れる。
【0003】
ジャンクション温度を検出する技術として、例えば特許文献1、2に開示されているように、パワートランジスタのオン電圧Vds_onと素子電流Idとからパワーデバイスのオン抵抗Ronを推定し、その温度特性を利用してジャンクション温度Tjを推定する方法が提案されている。
【0004】
ここで、高耐圧縦型パワーデバイスのオン抵抗Ronは(1)式に示す4つの抵抗要素からなり、このうち、チャネル抵抗Rchとドリフト抵抗Rdとが大部分を占めている。
Ron≒Rch+Rd+Rsub+ Rpackage …(1)
Rsub:サブストレート抵抗、Rpackage:実装部品の抵抗
チャネル抵抗Rch、ドリフト抵抗Rdは、それぞれ式(2)、式(3)で表現される。
【0005】
【数1】
【0006】
ここで、デバイスの構造にもよるが、一般的には閾値電圧Vthとチャンネルでの電子移動度μn_chは共に負の温度特性を有し、実用範囲として例えば20Vのゲート駆動電圧Vgsでは、閾値電圧Vthよりも電子移動度μn_chの温度特性の方が影響が大きくなる。したがって、チャネル抵抗Rchは正の温度特性を持つ。一方、ドリフト層での電子移動度μn_dも負の温度特性を持つため、ドリフト抵抗Rdも正の温度特性を持つ。以上から、従来技術では、オン抵抗Ronが温度依存性を持つことに着目し、オン抵抗Ronを検出してジャンクション温度Tjを推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6522232号公報
【特許文献2】特許第6885862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、パワーデバイスとして近年実用化が進んでいるSiC(シリコンカーバイド)MOSFETは、ゲート酸化膜界面の電荷のトラップ現象によって、使用中に閾値電圧Vthが変動するという問題がある。この変動を原因として、式(2)に従いチャネル抵抗Rchが変動すると、オン抵抗Ronの温度特性も変動する。この変動を考慮すると、従来技術のように単にオン抵抗Ronを検出するだけでは、ジャンクション温度Tjを正しく推定することは困難である。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、閾値電圧Vthが変動しても、接合温度を正しく推定できるパワートランジスタの温度推定回路及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載のパワートランジスタの温度推定回路によれば、電圧検出部(3)は、パワートランジスタ(1)がオンしている期間中に導通端子間にかかる端子間電圧を検出し、電流検出部(4)は、電圧検出部が電圧を検出するタイミングと同じタイミングで、パワートランジスタに流れる電流を検出する。尚、パワートランジスタとは、比較的大きな電力に対してスイッチングを行うためのトランジスタであり、例えばパワーMOSFETやSiC_MOSFET、IGBT等の総称である。記憶部(8,23)には、予め取得された、複数のゲート駆動電圧に対する端子間電圧、電流、パワートランジスタの接合温度、及びパワートランジスタの閾値電圧の変動量の関係を示すデータが記憶されている。
【0011】
温度推定部(7,22)は、ゲート駆動部が複数のゲート駆動電圧でパワートランジスタのゲートを駆動した際に、電圧検出部により検出される端子間電圧と、電流検出部により検出される電流とに応じて、記憶部に記憶されている、各ゲート駆動電圧に対応する変動量に依存した接合温度を推定し、複数のゲート駆動電圧毎に推定した各接合温度に対し、統計的処理を行うことで得られる最適値を最終的に推定した接合温度とする。
【0012】
このように構成すれば、複数のゲート駆動電圧でパワートランジスタのゲートを駆動した際に、各ゲート駆動電圧について得られる端子電圧及び電流に対応する、パワートランジスタの閾値電圧の変動量を示すデータを記憶部より取得できる。閾値電圧の変動は、接合温度の変動に影響を与えるので、各ゲート駆動電圧について得られる閾値電圧の変動量に応じた接合温度のデータ群が得られる。各データ群の内で、互いに最も近い値となるデータを選択することで推定し、それらに対し統計的処理を行うことで得られる最適値を最終的な推定結果の接合温度とする。したがって、パワートランジスタを使用している間に閾値電圧が変動しても、接合温度を高い精度で推定できる。
【0013】
請求項2記載のパワートランジスタの温度推定回路によれば、オン抵抗演算部(6)は、電圧検出部により検出される端子間電圧と、電流検出部により検出される電流とに応じてパワートランジスタのオン抵抗を演算する。記憶部に記憶されるデータは、複数のゲート駆動電圧に応じたオン抵抗、接合温度、及び前記変動量についての特性であり、温度推定部は、オン抵抗演算部により演算されたオン抵抗と記憶部に記憶されたデータとを用いて接合温度を推定する。閾値電圧の変動は、オン抵抗の変動に影響を与えることにより接合温度の変動に影響を与えるので、各ゲート駆動電圧について得られるオン抵抗に対して、閾値電圧の変動量に応じた接合温度を推定できる。そして、記憶部に記憶させるデータのパラメータを1つ減らすことができる。
【0014】
請求項3記載のパワートランジスタの温度推定回路によれば、記憶部に記憶されるオン抵抗のデータは、各接合温度毎に、基準とする複数のゲート駆動電圧のそれぞれから、前記変動量を含む値を加算又は減算したゲート駆動電圧によって、パワートランジスタを動作させた際に取得されたデータとする。これにより、市場で使用される前で特性の劣化がない状態のパワートランジスタについて予め取得したデータに基づいて、接合温度を高い精度で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態において、接合温度推定回路の構成を示す機能ブロック図
図2】電圧検出部の構成を示す回路図
図3】差動アンプの各入力端子に印加される電圧を示す波形図
図4】メイン処理を示すフローチャート
図5】Tj,Vth_shift検出処理を示すフローチャート
図6】記憶部に記憶されるVgs=20Vにおける3次元データマップのイメージ図
図7】同Vgs=18Vにおける3次元データマップのイメージ図
図8】ステップS14に対応する処理イメージを示す図
図9】ステップS18に対応する処理イメージを示す図
図10】ステップS19に対応する処理イメージを示す図
図11図6に対応するデータテーブルを示す図
図12図7に対応するデータテーブルを示す図
図13】ステップS14で抽出されたデータ群を示す図
図14】ステップS18で抽出されたデータ群を示す図
図15】ステップS19の処理を説明する図
図16】ゲート駆動電圧Vgsの基準を5種類に設定した場合のデータテーブルを示す図
図17】5種類の基準ゲート駆動電圧Vgsに対するオン抵抗Ronを、接合温度Tj=-50℃~200℃の範囲を10℃刻みで示す図
図18図17に示すデータをプロットして示す図
図19】第2実施形態において、接合温度推定回路の構成を示す機能ブロック図
図20】メイン処理を示すフローチャート
図21】Tj検出処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の接合温度推定回路は、パワートランジスタである例えばSiC(シリコンカーバイド)_MOSFET1の接合温度Tjを推定する。FET1のゲートを駆動するゲート駆動部2には、図示しないPWM信号生成部により生成されたPWM信号と、Vgs指令とが入力されている。ゲート駆動部2は、入力されるVgs指令に応じて、FET1のゲートに印加する電圧を変更可能に構成されている。
【0017】
FET1の導通端子であるドレイン、ソースは、電圧検出部3の各入力端子に接続されている。FET1のソースには、シャント抵抗4が接続されており、シャント抵抗4の両端は、電流検出部5の各入力端子に接続されている。電圧検出部3は、FET1のオン電圧Vds_onを検出し、電流検出部5は、FET1のドレイン電流Idを検出する。これらのオン電圧Vds_on及びドレイン電流Idは、Ron推定部6に入力されている。
【0018】
図2は、電圧検出部3の具体構成例である。差動アンプ11の入力端子INP,INMは、それぞれダイオード12P、12Mを介してFET1のドレイン、ソースに接続されている。また、電源VCCと入力端子INP,INMとの間には、それぞれ電流源13P、13Mが接続されている。これにより、入力端子INP,INMに高い電圧が印加されることを防ぎつつ、図3に示すように、差動アンプ11によりオン電圧Vds_onを検出することができる。
【0019】
オン抵抗演算部であるRon推定部6は、入力されたオン電圧Vds_on及びドレイン電流IdよりFET1のオン抵抗Ronを推定し、温度推定部7に出力する。温度推定部7は、推定されたオン抵抗Ronと、不揮発性メモリである記憶部8に記憶されたRon-Tj-Vth_shiftデータとに基づいて、FET1の接合温度Tjを推定する。記憶部8には、以下のようにして予め取得されたRon-Tj-Vth_shiftデータが記憶されている。
【0020】
式(1)に式(2)及び式(3)を代入すると、式(4)となる。
【0021】
【数2】
【0022】
A=Lch/(Wch×Cox),B=Ld/(q×Nd×Ad),
C=Rsub+Rpackage,であり、これらの係数A~Cは接合温度Tjに依存しない。
【0023】
閾値電圧Vthが変動した場合のオン抵抗Ron’は、式(4)に
変動量Vth_shiftを考量した式(5)となる。
【0024】
【数3】
【0025】
式(5)に示すように、ある変動量Vth_shiftが発生したときにあるゲート駆動電圧Vgsを印加した際のオン抵抗Ron’と、実際の変動量Vth_shift=0Vの状態で、あるゲート駆動電圧Vgsよりある変動量Vth_shiftを減じて印加した際のオン抵抗Ron’とは等しくなる。
【0026】
ここで、ゲート駆動電圧の基準として、例えば2種類の電圧20V、18Vを選択する。また、シフト電圧であるVth_shiftの刻みを0.1Vとする。そして、基準電圧に対して±1Vの範囲でFET1のゲート駆動電圧Vgsを変化させると共に、FET1の接合温度Tjを例えば0℃~200℃の間において20℃刻みで変化させて、各測定パラメータにおけるFET1のオン抵抗Ronを測定する。各測定パラメータに対するオン抵抗Ronの測定結果を、Ron-Tj-Vth_shiftデータとして記憶部8に記憶させる。記憶させたデータは、ゲート駆動電圧Vgsとして20V、18Vを印加した場合の、Vth_shift=1V~-1Vについて、オン抵抗Ronの接合温度Tjへの依存性を示すデータとなる。以上が接合温度推定回路9を構成している。
【0027】
図6及び図7は、それぞれゲート駆動電圧Vgs=20V、18Vに対応する
Ron-Tj-Vth_shiftデータの3次元データマップのイメージであり、図11及び図12は、各データ値を示すテーブルである。
【0028】
次に、本実施形態の作用に対いて説明する。図4に示すように、システムに電源が投入され、温度推定部7に対して接合温度Tjの検出開始指令が入力されると(S1;YES)、図5に示すTj,Vth_shift検出処理が実行される(S2)。接合温度Tjの検出終了指令が入力されると(S3;YES)処理を終了する。
【0029】
図5に示すように、ゲート駆動部2は、PWM信号に従い、ゲート駆動電圧Vgs=20Vに設定する(S11)。電圧検出部3、電流検出部4は、FET1がオンしている期間中に、それぞれオン電圧Vds_on、ドレイン電流Idを検出する(S12)。Ron推定部6は、入力されたオン電圧Vds_onをドレイン電流Idにより除算して、FET1のオン抵抗Ronを計算する(S13)。
【0030】
続いて、記憶部8より取得した、Vgs=20V時のRon-Tj-Vth_shiftデータより、ステップS13で計算したオン抵抗Ronに対応するTj-Vth_shiftデータを抽出する(S14)。次に、ゲート駆動電圧Vgs=18Vに設定して(S15)、そのゲート駆動電圧VgsについてステップS12~S14と同様の処理を行う(S16~S18)。図8及び図9は、Vgs=20V印加時のオン抵抗Ron=9.86mΩ、Vgs=18V印加時のオン抵抗Ron=10.47mΩであった場合の処理イメージであり、図13及び図14は、ステップS14,S18で抽出したデータを示す。
【0031】
そして、ステップS14,S18で抽出したデータより、両者の接合温度Tjが最も近くなる値を2つ選択して、統計的処理を行う(S19)。「統計的処理」とは、例えば両者の平均値であり、ゲート駆動電圧Vgsの基準を3種類以上設定した場合には、3つ以上の値の中央値や最頻値でも良い。ここでは平均値を用いている。図15では、図13及び図14のデータを上下に並べて配列し、接合温度Tjの差分が最も小さくなるVth_shift=-0.5Vの場合のTj=112℃として、一致する値を選択することになる。図10は、対応する処理イメージである。
【0032】
別の例として、図16では、ゲート駆動電圧Vgsの基準を5種類に設定して、12V、14V、16Vのデータを加えた場合を示す。この時、接合温度Tjの最大/最小の差分が最も小さくなるものは、やはりVth_shift=-0.5Vの場合であるが、Vgs=16VではTj=114℃、Vgs=12VではTj=116℃と異なる値になる。この場合は
平均値:113.2℃
中央値:112℃
最頻値:112℃
となる。中央値、最頻値では演算負荷は軽くなるが、最適値としては平均値:113.2℃を選択するのが望ましい。
【0033】
尚、ステップS19では、シフト電圧Vth_shiftについても、最も近い2つの値を統計的に処理して求めているが、本実施形態では使用せず、シフト電圧Vth_shiftについては第2実施形態で使用する。
【0034】
また、図17及び図18は、図16に示すようにゲート駆動電圧Vgsの基準を5種類に設定した際に、各ゲート駆動電圧Vgsに対するオン抵抗Ronを、接合温度Tj=-50℃~200℃の範囲を10℃刻みで示している。例えば定格温度が0℃~150℃であれば、この温度範囲においてオン抵抗Ronの温度特性が正を示すもの、すなわち16Vより高い電圧をゲート駆動電圧Vgsの基準として選択することが望ましい。定格電流の範囲についても同様である。これにより、基準とするゲート駆動電圧Vgsの数をオン抵抗Ronの値がより近似するものに限定でき、記憶部8の容量を削減できる。
【0035】
以上のように本実施形態によれば、温度推定回路9において、電圧検出部3は、FET1がオンしている期間中にドレイン、ソース間にかかる端子間電圧Vds_onを検出し、電流検出部4は、電圧検出部3が電圧を検出するタイミングと同じタイミングで、FET1に流れるドレイン電流Idを検出する。記憶部8には、予め取得された、複数のゲート駆動電圧に対する端子間電圧Vds_on、電流Id、FET1の接合温度Tj、及びFET1の閾値電圧Vthの変動量Vth_shiftの関係を示すデータを記憶する。
【0036】
温度推定部7は、ゲート駆動部2が複数のゲート駆動電圧でFET1のゲートを駆動した際に検出される端子間電圧Vds_onとドレイン電流Idとに応じて、記憶部8に記憶されている、各ゲート駆動電圧に対応する変動量Vth_shiftに依存した接合温度Tjを推定し、各ゲート駆動電圧Vgs毎に推定した各接合温度Tjに対し、統計的処理を行うことで得られる最適値を最終的に推定した接合温度Tjとする。これにより、FET1を使用している間に閾値電圧Vthが変動しても、接合温度Tjを高い精度で推定できる。
【0037】
また、Ron推定部6は、端子間電圧Vds_onとドレイン電流Idとに応じてFET1のオン抵抗Ronを演算する。記憶部8に記憶されるデータは、複数のゲート駆動電圧に応じたオン抵抗Ron、接合温度Tj、及び変動量Vth_shiftについての特性であり、温度推定部7は、Ron推定部6により演算されたオン抵抗Ronと記憶部8に記憶されたデータとを用いて接合温度Tjを推定する。これにより、記憶部8に記憶させるデータのパラメータを1つ減らすことができる。
【0038】
更に、記憶部8に記憶されるオン抵抗Ronのデータを、各接合温度毎Tjに、基準とする複数のゲート駆動電圧Vgsのそれぞれから、変動量Vth_shiftを含む値を加算又は減算したゲート駆動電圧によって、FET1を動作させた際に取得されたデータとする。これにより、市場で使用される前で特性の劣化がない状態のFET1について予め取得したデータに基づいて、接合温度Tjを高い精度で推定できる。加えて、複数のゲート駆動電圧を、オン抵抗Ronの温度依存性が、FET1の定格温度、定格電流内において常に正となる範囲内で決定するので、基準とするゲート駆動電圧Vgsの数をオン抵抗Ronの値がより近似するものに限定でき、記憶部8の容量を削減できる。
【0039】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。図19に示すように、第2実施形態の接合温度推定回路21は、温度推定部7及び記憶部8に替わる温度推定部22及び記憶部23を備えている。
【0040】
次に、第2実施形態の作用について説明する。図20に示すように、ステップS1及びS2を実行すると、温度推定部22は、ステップS2で得られたシフト電圧Vth_shiftのデータを記憶部23に記憶させる(S21)。また、記憶部23より取得した、Vgs=20V時のRon-Tj-Vth_shiftデータより、ステップS21で記憶させたシフト電圧Vth_shiftに対応するRon―Tjデータを作成し、これも記憶部23に記憶させる(S22)。それから、Tj検出処理を行うと(S23)ステップS3に移行する。
【0041】
図21に示すTj検出処理では、ステップS11~S13と同様の処理を実行すると(S31~S33)、ステップS22で記憶させたRon―TjデータとステップS33で求めたオン抵抗Ronから、接合温度Tjを算出する(S34)。
【0042】
以上のように第2実施形態によれば、温度推定部22は、所定の推定タイミングで推定した変動量Vth_shift及び接合温度Tjを記憶部23に記憶させ、次回の推定タイミングで推定した変動量Vth_shift及び接合温度Tjを記憶部8に記憶させるまでは、ゲート駆動部2に一定の電圧で前記ゲートを駆動させる。そして、記憶部8より、一定の電圧についての変動量Vth_shiftに対応するオン抵抗Ron、接合温度Tjのデータを読み出し、読み出したデータより接合温度Tjを推定する。これにより、FET1で発生する損失を増加させることなく接合温度Tjを推定できる。
【0043】
(その他の実施形態)
電圧検出部の構成は、図2に示したものに限らない。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0044】
図面中、1はSiC_MOSFET、2はゲート駆動部、3は電圧検出部、4は電流検出部、6はRon推定部、7は温度推定部、8は記憶部、9は接合温度推定回路を示す。
図1
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図20
図21