(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141721
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 71/08 20060101AFI20241003BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241003BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20241003BHJP
C08G 65/34 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L71/08
C08K3/04
C08K7/06
C08G65/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053516
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】須藤 健
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 洸
(72)【発明者】
【氏名】植松 秀之
(72)【発明者】
【氏名】田上 秀一
(72)【発明者】
【氏名】山根 正睦
(72)【発明者】
【氏名】山口 綾香
【テーマコード(参考)】
4J002
4J005
【Fターム(参考)】
4J002CH091
4J002DA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002GM05
4J005AA21
4J005AA24
4J005BB02
(57)【要約】
【課題】芳香族ポリエーテルと炭素繊維とを含み、芳香族ポリエーテルと炭素繊維との界面における界面せん断強度に優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 25℃におけるラジカル量が4.5×1015~100×1015個/gである芳香族ポリエーテル(A)と、表面処理剤のない炭素繊維(B)とを含む樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃におけるラジカル量が4.5×1015~100×1015個/gである芳香族ポリエーテル(A)と、表面処理剤のない炭素繊維(B)とを含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族ポリエーテル(A)が、ポリアリーレンエーテルケトンである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族ポリエーテル(A)が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及びポリエーテルケトン(PEK)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記芳香族ポリエーテル(A)100質量部に対し、前記表面処理剤のない炭素繊維(B)を0.01~500質量部含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記炭素繊維(B)が、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、熱硬化系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長炭素繊維、及びリサイクル炭素繊維(RCF)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。
具体的には、本発明は、芳香族ポリエーテルと炭素繊維とを含み、芳香族ポリエーテルと炭素繊維との界面における界面せん断強度に優れる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、特定の重合触媒作用を有する成分を反応系中に存在させることにより製造された特定の芳香族ポリエーテルに、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、炭酸塩カルシウム、珪酸カルシウム等の強化材又は充填剤を混合して用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1をはじめとする従来の技術には、芳香族ポリエーテルと炭素繊維との界面における界面せん断強度を向上する観点でさらなる改善の余地が見出された。
【0005】
本発明の目的の1つは、芳香族ポリエーテルと炭素繊維とを含み、芳香族ポリエーテルと炭素繊維との界面における界面せん断強度に優れる樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定の芳香族ポリエーテルと特定の炭素繊維とを含む樹脂組成物が、芳香族ポリエーテルと炭素繊維との界面における界面せん断強度に優れることを見出し、本発明を完成した。
本発明によれば、以下の樹脂組成物を提供できる。
1.25℃におけるラジカル量が4.5×1015~100×1015個/gである芳香族ポリエーテル(A)と、表面処理剤のない炭素繊維(B)とを含む樹脂組成物。
2.前記芳香族ポリエーテル(A)が、ポリアリーレンエーテルケトンである、1に記載の樹脂組成物。
3.前記芳香族ポリエーテル(A)が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及びポリエーテルケトン(PEK)からなる群から選択される1種以上を含む、1又は2に記載の樹脂組成物。
4.前記芳香族ポリエーテル(A)100質量部に対し、前記表面処理剤のない炭素繊維(B)を0.01~500質量部含む、1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
5.前記炭素繊維(B)が、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、熱硬化系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長炭素繊維、及びリサイクル炭素繊維(RCF)からなる群から選択される1種以上を含む、1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、芳香族ポリエーテルと炭素繊維とを含み、芳香族ポリエーテルと炭素繊維との界面における界面せん断強度に優れる樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の樹脂組成物について詳述する。
尚、本明細書において、「x~y」は「x以上、y以下」の数値範囲を表すものとする。数値範囲に関して記載された上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
また、以下において記載される本発明に係る態様の個々の実施形態のうち、互いに相反しないもの同士を2つ以上組み合わせることが可能であり、2つ以上の実施形態を組み合わせた実施形態もまた、本発明に係る態様の実施形態である。
【0009】
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、25℃におけるラジカル量が4.5×1015~100×1015個/gである芳香族ポリエーテル(A)と、表面処理剤のない炭素繊維(B)とを含む。
本態様の樹脂組成物によれば、芳香族ポリエーテル(A)の25℃におけるラジカル量が4.5×1015~100×1015個/gであることにより、表面処理剤のない炭素繊維(B)の表面に対して、優れた接着性(界面せん断強)が発揮される。そのため、樹脂組成物として、強度に優れる効果が発揮される。そのような効果が発揮される理由は必ずしも明らかではないが、芳香族ポリエーテル(A)に豊富に含まれるラジカルが、ベア(bare)な炭素繊維(B)の表面に対して相互作用を及ぼしたり化学結合を形成したりしていること等が推測される。
【0010】
(芳香族ポリエーテル(A))
芳香族ポリエーテル(A)の25℃におけるラジカル量が4.5×1015個/g以上であることにより、芳香族ポリエーテルと炭素繊維との界面における界面せん断強度が向上する。一方、芳香族ポリエーテル(A)の25℃におけるラジカル量が100×1015個/g以下であることにより、ラジカル同士の反応による架橋構造の生成を抑制でき、成形加工性の低下や異物の生成を好適に抑制できる。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、25℃におけるラジカル量が4.5×1015個/g以上、5.0×1015個/g以上、7.0×1015個/g以上、10×1015個/g以上、15×1015個/g以上、20×1015個/g以上、25×1015個/g以上、30×1015個/g以上又は35×1015個/g以上であり、また、100×1015個/g以下、90×1015個/g以下、80×1015個/g以下、70×1015個/g以下、60×1015個/g以下、50×1015個/g以下、45×1015個/g以下又は40×1015個/g以下である。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、25℃におけるラジカル量が5.0×1015~90×1015個/g、10×1015~80×1015個/g、20×1015~70×1015個/g又は30×1015~60×1015個/gである。
芳香族ポリエーテル(A)の25℃におけるラジカル量は、例えば、芳香族ポリエーテル(A)を合成(重合)する際のモノマーとして、反応基として塩素原子を含むモノマー(例えば4,4’-ジクロロベンゾフェノン等)を用いることによって増加させることができる。
尚、芳香族ポリエーテルの25℃におけるラジカル量は、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0011】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、ポリアリーレンエーテルケトンである。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及びポリエーテルケトン(PEK)からなる群から選択される1種以上を含む。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含む。
【0012】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上又は実質的に100質量%が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)及びポリエーテルケトン(PEK)からなる群から選択される1種以上である。
尚、本明細書において「実質的に100質量%」である場合、不可避不純物を含んでもよい。
【0013】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上又は実質的に100質量%が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。
【0014】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、下記式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含む。
【化1】
【0015】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む。
【化2】
【0016】
式(3)で表される構造単位は、式(1)で表される構造単位と式(2)で表される構造単位との連結体である。
【0017】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、式(1)及び式(2)で表される構造単位以外の他の構造を含まない。
【0018】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、式(1)及び式(2)で表される構造単位以外の他の構造を含む。
【0019】
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上又は実質的に100質量%が、式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位であるか、又は、式(3)で表される繰り返し単位である。
【0020】
一実施形態において、芳香族ポリエーテルにおいて、式(1)で表される構造単位と、式(2)で表される構造単位とのmol比(式(1)で表される構造単位:式(2)で表される構造単位)は、47.5:52.5~52.5:47.5、48.0:52.0~52.0:48.0、48.5:51.5~51.5:48.5、49.0:51.0~51.0:49.0又は49.5:50.5~50.5:49.5である。
式(1)で表される構造単位のmol数は、式(2)で表される構造単位のmol数より大きくても、小さくても、同じでもよい。
【0021】
芳香族ポリエーテル(A)の主鎖の末端構造は格別限定されない。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)の主鎖の1以上の末端に、式(1)で表される構造単位が配置される。この場合、該構造単位に結合する末端構造はハロゲン原子であり得る。ハロゲン原子は、例えば、塩素原子(Cl)又はフッ素原子(F)であり得る。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)の主鎖の1以上の末端に、式(2)で表される構造単位が配置される。この場合、該構造単位に結合する末端構造は例えば水素原子(H)等であり得る(末端構造が水素原子(H)であるとき、該構造単位中の酸素原子(O)と共に水酸基が形成される。)。
芳香族ポリエーテル(A)の末端構造は、例えば、上述したハロゲン原子や水酸基が水素原子(H)等に置き換わった構造等であってもよい。尚、末端構造として、以上に例示したもの以外の構造を有してもよい。
【0022】
芳香族ポリエーテル(A)のメルトフローレートは格別限定されない。
一実施形態において、芳香族ポリエーテル(A)のメルトフローレートは、1500g/10min以下、1000g/10min以下、500g/10min以下、300g/10min以下、200g/10min以下、100g/10min以下、80g/10min以下又は60g/10min以下であり、また、0.0001g/10min以上、0.0005g/10min以上又は0.001g/10min以上である。
また、芳香族ポリエーテル(A)のメルトフローレートは、例えば0.0001~1500g/10min、好ましくは0.0005~500g/10min、より好ましくは0.001~100g/10minである。
尚、芳香族ポリエーテル(A)のメルトフローレートは実施例に記載の方法により測定される値である。
【0023】
(表面処理剤のない炭素繊維(B))
従来、樹脂を強化するために配合される炭素繊維としては、表面処理剤で被覆された炭素繊維を用いるのが通常である。表面処理剤としては、例えば、サイジング剤や、炭素繊維の樹脂中への分散を促進するための樹脂等が挙げられる。これに対して、本発明では、表面処理剤のない炭素繊維(B)を用いる。これにより、芳香族ポリエーテル(A)に豊富に含まれるラジカルが、ベア(bare)な炭素繊維(B)の表面に対して相互作用を及ぼしたり化学結合を形成したりすることができ、優れた接着性(界面せん断強度)が発揮される。
【0024】
炭素繊維(B)は、表面処理剤のないものであれば格別限定されない。尚、「表面処理剤のない」炭素繊維(B)とは、炭素繊維本来の炭素表面が表面処理剤により被覆されていないことを意味する。
一実施形態において、炭素繊維(B)は、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、熱硬化系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長炭素繊維、及びリサイクル炭素繊維(RCF)からなる群から選択される1種以上を含む。
【0025】
一実施形態において、炭素繊維(B)の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上又は実質的に100質量%が、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、熱硬化系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長炭素繊維、及びリサイクル炭素繊維(RCF)からなる群から選択される1種以上である。
【0026】
(他の成分)
一実施形態において、樹脂組成物は、芳香族ポリエーテル(A)及び表面処理剤のない炭素繊維(B)以外の他の成分を含む。
他の成分は格別限定されず、例えば、芳香族ポリエーテル(A)ではない他の樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等が挙げられる。他の成分として、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
一実施形態において、樹脂組成物は、芳香族ポリエーテル(A)及び表面処理剤のない炭素繊維(B)以外の他の成分を含まない。
【0027】
(配合)
樹脂組成物において、芳香族ポリエーテル(A)及び表面処理剤のない炭素繊維(B)のそれぞれの含有量は格別限定されず、樹脂組成物の用途等に応じて適宜設定できる。これらの各含有量に依らず、樹脂組成物において、芳香族ポリエーテル(A)と、表面処理剤のない炭素繊維(B)とが少なくとも接触していれば、当該接触部において優れた接着性(界面せん断強度)が発揮され、本発明の効果が発揮される。
一実施形態において、樹脂組成物は、芳香族ポリエーテル(A)100質量部に対し、表面処理剤のない炭素繊維(B)を0.01~500質量部含む。
また、芳香族ポリエーテル(A)100質量部に対する表面処理剤のない炭素繊維(B)の量は、例えば1~400質量部、好ましくは10~300質量部、より好ましくは20~200質量部である。
【0028】
一実施形態において、樹脂組成物の50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上又は実質的に100質量%が、
芳香族ポリエーテル(A)及び表面処理剤のない炭素繊維(B)であるか、
芳香族ポリエーテル(A)、表面処理剤のない炭素繊維(B)及び上述した他の成分である。
【0029】
(樹脂組成物の製造方法)
一実施形態において、樹脂組成物は、芳香族ポリエーテル(A)と、表面処理剤のない炭素繊維(B)とを混合することによって製造される。混合方法は格別限定されず、芳香族ポリエーテル(A)と、表面処理剤のない炭素繊維(B)とを少なくとも接触させるものであればよい。混合方法の具体例として、例えば、芳香族ポリエーテル(A)と、表面処理剤のない炭素繊維(B)とを混練する方法、表面処理剤のない炭素繊維(B)の集合体に芳香族ポリエーテル(A)を含浸させる方法等が挙げられる。
芳香族ポリエーテル(A)は、例えば、ハイドロキノンと4,4’-ジクロロベンゾフェノンとを重合することによって製造することができる。
表面処理剤のない炭素繊維(B)としては、表面に表面処理剤が付着していない炭素繊維を用いてもよいし、表面に付着した表面処理剤を洗浄等により除去した炭素繊維を用いてもよい。
【0030】
(用途)
本態様の樹脂組成物の用途は格別限定されず、例えば強度が求められる各種用途に広く適用できる。樹脂組成物は、例えば、金属代替材料として、特に耐熱性、耐溶剤性、耐久性が必要な用途等に好適である。より具体的には、例えば、軸受、ガスケット、構造材等に好適である。
【実施例0031】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0032】
(実施例1)
300mlセパラブルフラスコに、モノマーとして、ハイドロキノンを0.1600mol、4,4’-ジクロロベンゾフェノンを0.1622mol投入した。また、4-フェノキシフェノールを0.0003202mol投入した。このセパラブルフラスコに、塩基として炭酸カリウム(K2CO3)を0.1860mol投入し、溶媒としてジフェニルスルホンを140g投入した。
セパラブルフラスコの上部にリボンヒーターを巻き付け、その上にガラスウールを巻き付けることで保温した。また、セパラブルフラスコの下部全体をマントルヒーターで包んだ。窒素下(流量:0.1L/min)で、セパラブルフラスコ内の反応混合物を、メカニカルスターラーを使用して加熱撹拌した。リボンヒーターを150℃、マントルヒーターを165℃に設定し、100rpmの撹拌速度で撹拌しながら30分加熱した後、撹拌速度を210rpmに変更し、30分かけて反応混合物を200℃まで昇温した。
昇温後、200℃で1時間温度を保持し、再び30分かけて250℃まで昇温した。
250℃で1時間温度を保持した後、撹拌速度を250rpmに変更し、300℃まで30分かけて昇温した。
昇温後、300℃で2時間温度を保持した後、反応を終了し、母液を取り出した。回収した生成物を粉砕したのちアセトンと水で洗浄し、重合体(芳香族ポリエーテル(A))を得た。
【0033】
<評価方法>
メルトフローレート測定
得られた芳香族ポリエーテル(A)について、JIS K 7210-1:2014(ISO 1133-1:2011)に準拠しメルトフローレート測定を行った。結果を表1に示す。
[メルトフローレート測定条件]
・装置:メルトインデクサ(立山科学工業(株) L-220)
・測定温度:380℃
・測定荷重(ピストン質量を含む):2.16kg
・シリンダ内径:9.550mm
・ダイ内径:2.095mm
・ダイ長さ:8.000mm
・ピストンヘッドの長さ:6.35mm
・ピストンヘッドの直径:9.474mm
・(ピストン質量:110.0g)
操作:試料は事前に150℃で2時間以上乾燥した。試料をシリンダに投入し、ピストンを差し込み6分間予熱した。荷重を加え、ピストンガイドを外してダイから溶融した試料を押し出した。ピストン移動の所定範囲および所定時間(t[s])で試料を切り取り、質量を測定した(m[g])。
次式からMIを求めた。
MI[g/10min]=600/t×m
【0034】
ラジカル量の測定
芳香族ポリエーテル単位重量当たりのラジカル量は、ESR(電子スピン共鳴)法により、下記の条件と手順で測定した。
[ESR測定条件]
・ESR装置:ブルカージャパン(株)製「ESR5000」
・ESR試料管径:5mm
・MicrowavePower:0.5mW
・Modulation:0.1mT
・Modulation Frequency:100kHz
・SweepTime:60秒
・B Range:330~345mT
・測定温度:室温(25℃)
・積算回数:4回
[手順]
まずスピン量が既知であるCuSO4・5H2OのESR測定を行い、ピークの積分値を算出した。その後、実試料(芳香族ポリエーテル)のESR測定を行い、実試料のピークの積分値を算出した。CuSO4・5H2Oのスピン量とピーク積分値、実試料のピーク積分値を用いて、実試料の単位重量当たりのラジカル量を算出した。
【0035】
界面せん断強度の測定(マイクロドロップレット法)
芳香族ポリエーテルと、炭素繊維との界面せん断強度を評価するために、以下のマイクロドロップレット法による試験を行った。
「マイクロドロップレット法」は、単繊維に樹脂粒(ドロップレット)を付着させ、ドロップレットを固定した後、ドロップレットからの単繊維の引き抜き試験を行うことにより、単繊維と樹脂との界面接着性を評価する方法である。マイクロドロップレット法においては、下記式から界面せん断強度が算出される。
τ=F/(πDL)
式中、τは界面せん断強度[MPa]、Fは最大引き抜き荷重[mN]、Lはドロップレットに埋め込まれた部分の単繊維の長さ[μm]、Dは繊維径[μm]である。
本実施例では、東栄産業社製「MODEL HM410」を用いて、窒素雰囲気中、作製温度370℃でドロップレットを作製後、室温(25℃)まで降温し、引き抜き速度0.12mm/分、ロードセル最大荷重1Nで実施した。炭素繊維としては、表面処理剤がないHxcel社製「IM7」(繊維径5.2μm、ノンサイズ品)を用いた。試験は20回行い、その平均値から界面せん断強度[MPa]を求めた。
【0036】
(比較例1)
市販の芳香族ポリエーテル(Victrex plc社製「151G」)について、実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0037】
(比較例2)
市販の芳香族ポリエーテル(Solvay S.A.社製「KT880FP」)について、実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0038】
(比較例3)
市販の芳香族ポリエーテル(Evonik Industries AG社製「2000P」)について、実施例1と同様に評価した結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
<評価>
表1より、芳香族ポリエーテルの単位質量あたりのラジカル量が4.5×1015~100×1015個/gであることで、優れた炭素繊維との接着性、即ち界面せん断強度を発現できることがわかった。