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特開2024-141726細胞培養装置、培養条件決定装置及び培養条件決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141726
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】細胞培養装置、培養条件決定装置及び培養条件決定方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241003BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241003BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/34 D
C12N1/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053523
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】595145050
【氏名又は名称】株式会社日立プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 啓介
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB01
4B029BB11
4B029DF01
4B029DF02
4B029DF03
4B029DF04
4B029DF08
4B029DG10
4B029FA12
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】細胞培養の最適な培養条件を求めるためのパラメータの測定に時間がかかる場合であっても、最適な培養条件を迅速に決定できる細胞培養装置、培養条件決定装置及び培養条件決定方法を提供する。
【解決手段】最適培養条件の探索とは、目的変数が最大もしくは最小となる説明変数の組み合わせ、すなわち、説明変数に基づく最適培養条件を得ることである。説明変数のうち、測定に長時間を要する測定値である説明変数を、短時間測定が可能な測定値である代替値を用いて次の実験条件を決定することで、短時間で代替値に基づく最適培養条件を得る。同時に測定に長時間を要する測定値である説明変数を測定し、代替値との間の相関データベースを構築し、代替値に基づく最適培養条件を変換することで、説明変数に基づく最適培養条件を得る。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養槽及び前記培養槽の内部の細胞を含む培養液を有する細胞培養装置であって、
培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、
前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置と、
最適な培養条件を探索する演算装置と、
を備え、
前記演算装置は、
前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から前記代替パラメータを取得し、
前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、
前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、
前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、計算した前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する、
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞培養装置において、
前記第2測定装置は、前記代替パラメータとして、前記第1代替値を測定する、
ように構成され、
前記演算装置は、
前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から前記代替パラメータとして前記第1代替値を取得し、
前記第2パラメータ及び前記第1代替値に基づいて、前記代替パラメータを用いて表した関数形として、前記第1代替値を説明変数とし、前記第2パラメータを目的変数とする第1関数形を求め、
前記第1パラメータ及び前記第1代替値に基づいて、前記パラメータ相関関係として、前記第1代替値と前記第1パラメータとの第1相関関係を計算し、
前記第1関数形の目的変数が最大又は最小となる前記最適な説明変数を計算し、
計算した前記最適な説明変数を前記第1相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞培養装置において、
前記第2測定装置は、前記代替パラメータとして、前記第1代替値及び前記第2代替値を測定する、
ように構成され、
前記演算装置は、
前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から前記代替パラメータとして前記第1代替値及び前記第2代替値を取得し、
前記第1代替値及び前記第2代替値に基づいて、前記代替パラメータを用いて表した関数形として、前記第1代替値を説明変数とし、前記第2代替値を目的変数とする第2関数形を求め、
前記パラメータ相関関係として、前記第1代替値及び前記第1パラメータに基づいて、前記第1代替値と前記第1パラメータとの第1相関関係を計算し、前記第1代替値、前記第2代替値及び前記第2パラメータに基づいて、前記第1代替値及び前記2代替値と前記第2パラメータとの第2相関関係を計算し、
前記第2関数形の目的変数が最大又は最小となる前記最適な説明変数を計算し、
計算した前記最適な説明変数を前記第1相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞培養装置において、
前記第2測定装置は、前記代替パラメータとして、前記第2代替値を測定する、
ように構成され、
前記演算装置は、
前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から前記代替パラメータとして前記第2代替値を取得し、
前記第1パラメータ及び前記第2代替値に基づいて、前記代替パラメータを用いて表した関数形として、前記第1パラメータを説明変数とし、前記第2代替値を目的変数とする第3関数形を求め、
前記第3関数形の目的変数が最大又は最小となる前記最適な説明変数を計算し、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算する、
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項5】
請求項1に記載の細胞培養装置において、
前記演算装置は、
前記目的変数が最大又は最小となるときの関数形を、前記パラメータ相関関係により、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形に変換する、
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項6】
請求項2に記載の細胞培養装置において、
前記第1測定装置は、前記第1パラメータとして所定の測定時間以上で測定可能なパラメータを測定し、前記第2パラメータとして前記所定の測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定する、
ように構成され、
前記第2測定装置は、前記第1代替値として前記所定の測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定する、
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項7】
請求項6に記載の細胞培養装置において、
前記第1測定装置は、前記培養槽の内部に設置され、
前記第2測定装置は、前記培養槽の外部に設置された、
細胞培養装置。
【請求項8】
請求項3に記載の細胞培養装置において、
前記第1測定装置は、前記第1パラメータとして所定の第1測定時間以上で測定可能なパラメータを測定し、前記第2パラメータとして所定の第2測定時間以上で測定可能なパラメータを測定する、
ように構成され、
前記第2測定装置は、前記第1代替値として前記所定の第1測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定し、前記第2代替値として前記所定の第2測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定する、
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項9】
請求項4に記載の細胞培養装置において、
前記第1測定装置は、前記第1パラメータとして所定の測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定し、前記第2パラメータとして前記所定の測定時間以上で測定可能なパラメータを測定する、
ように構成され、
前記第2測定装置は、前記第2代替値として前記所定の測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定する、
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項10】
請求項2に記載の細胞培養装置において、
前記第2パラメータは、前記第1代替値を実験条件として設定した前記培養実験が行われることにより、前記第1代替値を実験条件として設定した前記培養実験の結果から測定されるパラメータであり、
前記演算装置は、
前記第1関数形の目的変数が最大又は最小となる前記最適な説明変数を計算するときに、前記第1関数形の目的変数が最大又は最小となるまで、前記培養実験を繰り返し行って、前記培養実験を1回行う毎に取得された前記第1代替値及び前記第2パラメータにより前記最適な説明変数を探索し、
取得された前記第1代替値、及び、前記第1関数形に基づいて、次回の実験に適した前記第1代替値を計算する、
ように構成された、
細胞培養装置。
【請求項11】
培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置とから前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータを取得し、最適な培養条件を探索する演算装置を備えた培養条件決定装置であって、
前記演算装置は、
前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、
前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する、
ように構成された、
培養条件決定装置。
【請求項12】
培養槽及び前記培養槽の内部の細胞を含む培養液による細胞培養の培養条件決定方法であって、
培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、
前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置と、
最適な培養条件を探索する演算装置と、
を用い、
前記演算装置によって、
前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から前記代替パラメータを取得し、
前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、
前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、計算した前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する、
培養条件決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養装置、培養条件決定装置及び培養条件決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に関連する従来技術として特許文献1に記載の技術ある。特許文献1には、「燃料消費率又はその代替値と、前記統計モデル生成手段によって生成された統計モデルと、に基づき前記所定部品の姿勢角の目標値を算出する」ことが記載されている。特許文献1には、「上記の燃料消費率の代替値は、燃料消費量、エンジン回転数、前記船舶の航走速度及びスロットル開度のうち少なくとも一つを含む」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-299529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
計測データとして得られる複数の培養条件(複数のパラメータ)のそれぞれを説明変数とし細胞培養に関する特定の測定値を目的変数とする関数形を求めて、目的変数が最大又は最小となる説明変数(最適な培養条件)を決定することが行われている。
【0005】
例えば、抗体医薬品の製造においては、培養槽に投入した培地を用いて細胞を増殖させ、細胞中で産生した抗体タンパクを精製することで製造される。
【0006】
細胞の増殖速度や産生する抗体タンパクの収率は、細胞培養における培養条件により決定される。考慮すべき培養条件としては、例えば、計測データとして得られる温度、混合性能、ガス交換性能、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃度、pH、せん断応力、などが挙げられる。
【0007】
最適な培養条件を決定する場合、培養における目的変数を最大もしくは最小とする培養条件(複数のパラメータ)の組み合わせを探索する必要がある。
【0008】
しかし、目的変数を最大もしくは最小とする最適な培養条件の探索には試行錯誤的な繰り返し実験が必要であり、実験コストと時間を要するという課題がある。
【0009】
試行錯誤的な繰り返し実験においては、実験中の培養状態および実験終了後の培養結果を測定し、測定結果を基に次の実験条件を決定する必要がある。次の実験条件決定に係る測定すべき項目が、測定に長時間を要する場合、繰り返し実験の総時間が長期に渡るという問題がある。
【0010】
なお、特許文献1においては、代替値を用いて制御を行っているが、代替値の元になった説明変数と、目的変数との関係を表す関数表記を得ることはできない。
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、細胞培養の最適な培養条件を求めるためのパラメータの測定に時間がかかる場合であっても、最適な培養条件を迅速に決定できる細胞培養装置、培養条件決定装置及び培養条件決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の細胞培養装置は、培養槽及び前記培養槽の内部の細胞を含む培養液を有する細胞培養装置であって、培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置と、最適な培養条件を探索する演算装置と、を備え、前記演算装置は、前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から前記代替パラメータを取得し、前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、計算した前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算するように構成されている。
【0013】
本発明の培養条件決定装置は、培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置とから前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータを取得し、最適な培養条件を探索する演算装置を備えた培養条件決定装置であって、前記演算装置は、前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算するように構成されている。
【0014】
本発明の培養条件決定方法は、培養槽及び前記培養槽の内部の細胞を含む培養液による細胞培養の培養条件決定方法であって、培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置と、最適な培養条件を探索する演算装置と、を用い、前記演算装置によって、前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から前記代替パラメータを取得し、前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、計算した前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞培養の最適な培養条件を求めるためのパラメータの測定に時間がかかる場合であっても、最適な培養条件を迅速に決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は従来の最適培養条件探索手順を説明するための図である。
図2図2は本発明の実施形態に係る最適培養条件手順を説明するための図である。
図3図3は数式を示す図である。
図4図4は本発明の実施形態に係る細胞培養装置の構成の一例を説明するための図である。
図5図5は演算装置のハードウェア構成例を説明するための図である。
図6図6は第1変形例の最適培養条件手順を説明するための図である。
図7図7は数式を示す図である。
図8図8は第2変形例の最適培養条件手順を説明するための図である。
図9図9は数式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施形態の全図において、同一又は対応する部分には同一の符号を付す場合がある。
【0018】
本発明の実施形態に係る生体細胞の培養装置(「細胞培養装置」とも称呼される。)は、医薬品等の主原料となる物質を生産する細胞を培養する際に適用することができる。
【0019】
本発明の実施形態において、生産対象の物質としては、何ら限定されるものではなく、例えば抗体や酵素等のタンパク質、低分子化合物及び高分子化合物等の生理活性物質を挙げることができる。また、培養対象の細胞としては、何ら限定されるものではなく、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、細菌、酵母、真菌及び藻類等を挙げることができる。特に、生体細胞の培養装置は、抗体や酵素等のタンパク質を生産する動物細胞を培養対象とすることが好ましい。
【0020】
まず本発明の理解を容易にするため、図1を用いて、従来方法に基づく、最適培養条件における説明変数値決定方法について説明する。図1において、目的変数とは、細胞培養において最大もしくは最小にすべき目標値であり、細胞の増殖速度や産生する抗体タンパクの収率などが該当する。説明変数とは、細胞培養における培養条件を指し、温度、混合性能、ガス交換性能、溶存酸素濃度、溶存二酸化炭素濃度、pH、せん断応力、などが挙げられる。従来方法では、複数の培養条件のそれぞれを説明変数として、特定の測定値(細胞の増殖速度や産生する抗体タンパクの収率など)を目的変数とする関数形を求め、目的変数が最大又は最小となる最適な培養条件を決定することが行われている。
【0021】
図1に示すように、従来方法においては、最初に、培養条件である説明変数設定101を行い、実験102を実施する。ここで言う実験102とは、説明変数設定101の設定の下で培養を行うことである。実験102終了後は、目的変数の測定103を行う。
【0022】
1組以上の説明変数設定101と目的変数の測定103の結果を基に、数学的な手法を用いて、説明変数を従属変数とする、目的変数の関数表記を得る。ここでの数学的手法としては、線形回帰、カーネル回帰、ガウス過程回帰など複数の手法が適用できる。
【0023】
上記で取得された目的変数の関数表記を用いて、数学的手法を用いて、最適培養条件候補の説明変数105を決定する、説明変数による最適値探索104を行う。ここでの数学的手法としては、モンテカルロシミュレーション、遺伝的アルゴリズム、焼き鈍し法、ベイズ最適化手法などが適用できる。
【0024】
目的変数の判定106において、目的変数が最大もしくは最小となるまで、説明変数設定101から最適培養条件候補の説明変数105までの手順を繰り返す。目的変数が最大もしくは最小となった説明変数値が、最適培養条件における説明変数値107である。
【0025】
従来方法では、このように最適培養条件を決定していた。しかし、この従来方法では、求めたい培養条件が測定に時間がかかるパラメータ(物理量)を含む場合、最適な培養条件を出すまでに必要な繰り返し実験の総時間が長期にわたってしまう問題があった。
【0026】
そこで、本発明の実施形態に係る細胞培養装置では、以下に述べるような最適培養条件における説明変数値決定方法により、最適な培養条件を決定する。
【0027】
図2を用いて、本発明の実施形態に係る細胞培養装置が行う最適培養条件における説明変数値決定方法について説明する。図2において、目的変数とは、細胞培養において最大もしくは最小にすべき目標値であり、細胞の増殖速度や産生する抗体タンパクの収率などが該当する。説明変数とは、細胞培養における培養条件を指し、温度分布、混合性能、ガス交換性能、溶存酸素濃度分布、溶存二酸化炭素濃度分布、pH分布、せん断応力分布、培養槽中のグルコース濃度などが挙げられる。また、説明変数の代替値とは、温度センサ値、溶存酸素濃度センサ値、溶存二酸化炭素濃度センサ値、pHセンサ値、撹拌翼回転数、添加培地中のグルコース濃度などである。
【0028】
本発明においては、最初に、培養条件である説明変数に代わって、説明変数の代替値設定201を行い、実験102を実施する。ここで言う実験102とは、説明変数の代替値設定201の設定の下で培養を行うことである。実験102終了後は、目的変数の測定103を行う。
【0029】
目的変数の測定103の前後、もしくは同時に、説明変数の測定203を行う。ここでの測定は、生物化学的な測定のみならず、数値流体解析の結果を用いた算出も含まれる。
【0030】
説明変数の代替値設定201と説明変数の測定203の結果との間の相関を計算し、相関データベース300を作成する。相関の計算には、線形重回帰測定、非線形カーネル回帰測定、サポートベクター回帰などの手法が適用できる。複数の代替値を並べたベクトルをX、複数の説明変数を並べたベクトルをxとすると、これらの関係は図3の式(1-1)で表すことができる。
【0031】
1組以上の説明変数の代替値設定201と目的変数の測定103の結果を基に、数学的な手法を用いて、代替値を従属変数とする、目的変数の関数表記を得る、代替値による最適値探索204を行う。ここでの数学的手法としては、線形回帰、カーネル回帰、ガウス過程回帰など複数の手法が適用できる。目的変数yを、複数の代替値を並べたベクトルをXとすると、これらの関係は図3の式(1-2)で表すことができる。
【0032】
上記で取得された関数表記(図3の式(1-2))を用いて、数学的手法を用いて、最適培養条件候補205となる、次回実験の代替値を決定する。ここでの数学的手法としては、モンテカルロシミュレーション、遺伝的アルゴリズム、焼き鈍し法、ベイズ最適化手法などが適用できる。
【0033】
目的変数の判定106において、目的変数が最大もしくは最小となるまで、説明変数の代替値設定201から最適培養条件候補205決定までの手順を繰り返す。目的変数が最大もしくは最小となった説明変数値が、最適培養条件における代替値207である。
【0034】
最適培養条件における代替値207を、相関データベース300を用いて変換し、最適培養条件における説明変数値107を得る。同時に図3の式(1-1)及び図3の式(1-2)により、説明変数を従属変数とする、図3の式(1-3)で表される目的変数の関数表記を得る。
【0035】
ここで、本発明の理解を深めるため、本発明における、代替値を用いた最適培養条件決定方法の進歩性について、説明変数である培養槽中のグルコース濃度と、代替値である添加培地中のグルコース濃度を例に挙げて説明する。グルコースは細胞の栄養源であり、グルコースを消費して細胞は活動している。そのため、細胞の活性に影響を与える指標は、培養槽中のグルコース濃度である。しかし、培養槽中のグルコース濃度はリアルタイムに値を測定できず、培養液の一部を適宜抜き出して、培養槽外の測定装置で測定する必要がある。一方、代替値である添加培地中のグルコース濃度は、標準の添加培地に、高濃度のグルコース水溶液を適量添加することで、任意の値に制御することが可能である。代替値を従属変数とする目的変数の関数表記は、図3の式(1-2)のとおりである。この関数は目的変数と代替値の関数関係を表しているため、添加培地中のグルコース濃度等の代替値を入力すると目的変数の値が予測できる。そのため、図3の式(1-2)を用いると、添加培地中のグルコース濃度等の代替値を用いた培養槽の制御が可能となる。
【0036】
一方、培養槽中のグルコース濃度と、代替値である添加培地中のグルコース濃度の相関を表す、相関データベース300を用いると、培養槽中のグルコース濃度等の説明変数を従属変数とする、目的変数の関数表記である図3の式(1-3)を得る。図3の式(1-3)は、細胞活性に係る生物化学的な関係式を表している。なお、将来的に別の実験や学術論文等からの知見を得た場合、当該知見に基づいて、図3の式(1-3)を修正し、相関データベース300(式(1-1))を用いて、修正後の式を、図3の式(1-2)に変換することで、代替値を従属変数とする目的変数の関数表記の精度を向上することもできる。そのため、代替値を用いた培養槽の制御の精度も向上させることができる。
【0037】
本発明の実施形態に係る細胞培養装置の具体例について説明する。図4は細胞培養装置(以下、「培養装置」とも称呼される場合がある。)の構成の一例を説明するための図である。
【0038】
具体例では、図4の培養装置を用いて細胞を培養し、所定の培養期間における抗体濃度を測定した。細胞としてはチャイニーズハムスター卵巣細胞(Chinese hamster ovary cells、CHO細胞)を用いた。この細胞はIgG1抗体を分泌する浮遊系の細胞である。培養にはCELLiST BASAL培地を用いた。培養装置は内径110mm、培養容積2Lのガラス製円筒型培養槽を用いた。加温用ラバーヒータ、マグネット駆動式撹拌翼、温度測定電極、pH電極、DO電極及びこれらを測定して調節する制御装置が接続されている。液中通気用に、平均細孔径100μmの焼結金属製スパージャを組み込んだ。培養液のpHは培養槽気相部に供給する混合ガス(空気、窒素、酸素、炭酸ガス)中の炭酸ガス濃度を増減させて自動で調節した。また培養液の温度は37℃に調節した。培養液が酸性化した場合には濃度2%の水酸化ナトリウム溶液を注入して調節した。また、溶存酸素濃度については、液面気相部および液中に供給するガスの酸素分圧を増減して調節した。撹拌翼を取り付けた駆動軸を直結した駆動モータで回転数は100rpmで回転させた。培養開始から1日に1回の頻度で培養槽内の培養液を無菌的にサンプリングし、IgG1抗体濃度を測定した。IgG1抗体濃度の測定には、Cedex Bio Analyzerを用いた。
【0039】
図4の培養装置の構成は、かん流培養の装置構成である。かん流培養では培養槽500に培地と細胞を投入し、培養液の温度は37℃に調節して、細胞を増殖させる。細胞増殖に必要な栄養分は、投入した培地中に含まれているが、細胞数の増加による不足栄養分は、培地調製槽510で調製された添加培地により補われる。同時に培養槽内の培地の総体積が変化しないよう、細胞濾過膜520を通してポンプ530で培地を抜き出し、排出ライン540より培養槽外部に排出される。このとき、細胞濾過膜520は細胞を透過しない一方、細胞が産生したIgG1抗体や、細胞代謝による老廃物を透過するため、抗体や老廃物を培養槽外に排出することができる。
【0040】
細胞の状態を確認するため、サンプリングライン600から定期的に培養液の一部を抜き出し、培養液中の成分を短時間測定610と、長時間詳細測定620にかける。短時間測定610の結果と、培養槽、培地調製槽、培地調製槽と培養槽の間の配管のいずれかに設置されたインラインセンサ630のデータは、演算装置640に送られる。
【0041】
演算装置640では、既述の数学的手法を用いて、「代替値を従属変数とする、目的変数の関数表記」および次回の実験条件となる「代替値による最適培養条件候補」を探索する。
【0042】
同時に演算装置640では予め設定した目的変数が最大もしくは最小になっているか否かを判定する。本実施例ではIgG1抗体濃度が最大になっているかを判定している。最大になっている場合は、判定時点の培養条件を、「代替値による最適培養条件」と判断する。最大になっていない場合、計算された「最適培養条件候補」は、代替値設定装置650に送られ、次回実験に向けた培養槽500および培地調製槽510の設定値が変更される。
【0043】
同時に、長時間詳細測定620の結果は、短時間測定610の結果と、インラインセンサ630、631のデータと合わせて、相関データベース700に送られる。ここでインラインセンサ630のセンサ値は、培養槽内の値を示すため、説明変数となる。一方、インラインセンサ631のセンサ値は、培養槽内の培地成分濃度を間接的に変動させる値を示すため、本発明で言うところの代替値である。相関データベース700には、相関関係演算装置710が付随しており、既述の数学的手法により、相関データベース700に蓄積されたデータ間の相関関係(図3の式(1-1))を計算し、情報として蓄積(記憶、保持)する。
【0044】
演算装置640で「代替値を従属変数とする、目的変数の関数表記」および「代替値による最適培養条件」が得られた後、相関データベース700に蓄積されたデータの相関関係(図3の式(1-1))を用いて、図3の式(1-3)を用いた変数変換演算装置720により、「説明変数を従属変数とする、目的変数の関数表記」および「説明変数による最適培養条件」を得る。
【0045】
図4の培養装置の例は、かん流培養の装置構成であるが、本発明の実施形態に係る培養装置は、かん流培養の装置に限定されるものではない。本発明の実施形態に係る培養装置は、回分培養、流加培養、連続培養等、どのような培養形態の装置にも適用できるものである。
【0046】
図5は演算装置のハードウェア構成の一例を示す概略構成図である。演算装置640、相関関係演算装置710及び変数変換演算装置720のそれぞれは、図5に示す演算装置5000により構成可能である。図5に示すように、演算装置5000は、CPU5011、ROM5012、RAM5013、データの読み出し及び書き込み可能な不揮発性の記憶装置(HDD)5014、ネットワークインタフェース5015及び入出力インタフェース5016等を含む。これらは、バス5017を介して互いに通信可能に接続されている。なお、演算装置5000は、複数のサーバで構成されてもよく、クラウド上の仮想的なサーバであってもよい。
【0047】
CPU5011はROM5012及び/又はHDD5014に格納された図示しない各種プログラムをRAM5013にロードし、RAM5013にロードされたプログラムを実行することによって、各種機能を実現する。RAM5013には、上述したようにCPU5011が実行する各種プログラムがロードされ、CPU5011が各種プログラムを実行する際に使用するデータが一時的に記憶される。ROM5012及び/又はHDD5014は、不揮発性の記憶媒体であり、各種プログラムが記憶されている。ネットワークインタフェース5015は、演算装置5000がネットワークに接続されるためのインタフェースである。入出力インタフェース5016は、キーボード、マウス等の操作装置及びディスプレイ(表示装置)に接続されるためのインタフェースである。なお、CPU5011がプログラムを実行して行う処理の少なくとも一部を、例えば、ASIC、FPGA等のハードウェアで実行してもよい。
【0048】
なお、演算装置640、相関関係演算装置710及び変数変換演算装置720は、これらのそれぞれの機能を全て有する一つの演算装置5000で構成されていてもよい。
【0049】
相関データベース700は、データの読み出し及び書き込み可能な不揮発性のストレージ装置(不図示)に格納される。相関関係演算装置710は、ストレージ装置に格納された相関データべース700にアクセス可能に接続される。代替値設定装置650は、代替値などを調整(設定)するためのコントローラ(制御装置)を含む。コントローラは、図5に示した構成と同様の構成を有するマイクロコンピュータを含む。
【0050】
<効果>
以上説明した通り、本発明の実施形態に係る細胞培養装置は、求めたい培養条件が測定に時間がかかるパラメータ(物理量)を含む場合であっても、最適な培養条件を迅速に決定できる。
【0051】
本発明において、最適培養条件の探索とは、特定の測定値を目的変数とし、複数の培養条件の各々を説明変数として、目的変数を、説明変数を従属変数とする関数と考え、数学的手法を用いて、目的変数が最大もしくは最小となる説明変数の組み合わせ、すなわち、説明変数に基づく最適培養条件を得ることである。
【0052】
説明変数のうち、測定に長時間を要する測定値である説明変数を、短時間測定が可能な測定値である代替値で代替し、説明変数に代わりにこの代替値を用いて次の実験条件を決定する。実験条件の決定と、決定された実験条件での実験を繰り返すことで、目的変数を最大もしくは最小とする代替値の組み合わせを求めることで、代替値に基づく最適培養条件を得る。ここで、短時間とは例えば1時間以内を指し、長時間とは例えば1時間より長い時間を指す。
【0053】
上記最適培養条件の決定後、もしくは決定作業と並行して、測定に長時間を要する測定値である説明変数を測定し、測定された説明変数と上記代替値との間の相関データベースを構築する。
【0054】
上記最適培養条件を上記相関データベース(相関関係)で変換することで、説明変数に基づく最適培養条件を得ることができる。上記最適培養条件探索において、同時に、代替値を従属変数とする、目的変数の関数表記を得ることができる。上記代替値を従属変数とする目的変数の関数表記と、上記説明変数と代替値との間の相関データベースにより、説明変数を従属変数とする、目的変数の関数表記を得ることができる。なお、上記特許文献1においては、代替値を用いて制御を行っているが、代替値の元になった説明変数と、目的変数との関係を表す関数表記を得ることはできない。
【0055】
<<変形例>>
本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明の範囲内であれば、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本発明の範囲内であれば、ある実施形態の構成の一部を他の変形例の一部の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の変形例の構成を加えることも可能である。また、本発明の範囲内であれば、実施形態に係る装置の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0056】
上記実施形態において、代替値は、一つのパラメータを一つのパラメータにより代替したものであってもよく、一つのパラメータを複数のパラメータにより代替したものであってもよく、複数のパラメータを一つのパラメータにより代替したものであってもよい。
【0057】
<第1変形例>
上記実施形態に係る細胞培養装置の第1変形例は、最適培養条件における説明変数値決定方法を次のように行ってもよい。図6を用いて、第1変形例が行う最適培養条件における説明変数値決定方法について説明する。
【0058】
第1変形例においては、最初に、培養条件である説明変数に代わって、説明変数の代替値設定201を行い、実験102を実施する。ここで言う実験102とは、説明変数の代替値設定201の設定の下で培養を行うことである。実験102終了後は、目的変数の代替値の測定1103及び目的変数の測定1204を行う。
【0059】
目的変数の代替値の測定1103の前後、もしくは同時に、説明変数の測定203及び目的変数の測定1204を行う。ここでの測定は、生物化学的な測定のみならず、数値流体解析の結果を用いた算出も含まれる。
【0060】
「説明変数の代替値設定201」と「説明変数の測定203の結果」との間の相関、並びに、「説明変数の代替値設定201及び目的変数の代替値の測定1103の結果」と「目的変数の測定1204の結果」との間の相関を計算し、相関データベース300を作成する。相関の計算には、線形重回帰測定、非線形カーネル回帰測定、サポートベクター回帰などの手法が適用できる。複数の説明変数を並べたベクトルをxとし、複数の説明変数の代替値を並べたベクトルをXとし、目的変数の代替値をYとし、目的変数をyとすると、これらの関係は、図7の式(1-1)及び図7の式(2-1)で表すことができる。
【0061】
1組以上の説明変数の代替値設定201と目的変数の代替値の測定1103の結果を基に、数学的な手法を用いて、説明変数の代替値を従属変数とする、目的変数の代替値の関数表記を得る、代替値(説明変数の代替値)による最適値探索204を行う。ここでの数学的手法としては、線形回帰、カーネル回帰、ガウス過程回帰など複数の手法が適用できる。目的変数yを、複数の説明変数の代替値を並べたベクトルをXとし、目的変数の代替値をYとすると、これらの関係は図7の式(2-2)で表すことができる。
【0062】
上記で取得された関数表記(図7の式(2-2))を用いて、数学的手法を用いて、最適培養条件候補205となる、次回実験の代替値を決定する。ここでの数学的手法としては、モンテカルロシミュレーション、遺伝的アルゴリズム、焼き鈍し法、ベイズ最適化手法などが適用できる。
【0063】
目的変数の判定106において、目的変数の代替値が最大もしくは最小となるまで、説明変数の代替値設定201から最適培養条件候補205決定までの手順を繰り返す。目的変数の代替値が最大もしくは最小となった説明変数値が、最適培養条件における代替値207である。
【0064】
最適培養条件における代替値207を、相関データベース300に基づく図7の式(1-1)を用いて変換し、最適培養条件における説明変数値107を得る。同時に図7の式(1-1)、式(2-1)及び図7の式(2-2)により、説明変数を従属変数とする、図7の式(3-3)で表される目的変数の関数表記を得る。
【0065】
第1変形例によれば、求めたい培養条件が測定に時間がかかるパラメータ(物理量)であり、実験後に測定する目的変数が測定に時間がかかるパラメータを含む場合であっても、最適な培養条件を迅速に決定できる。
【0066】
<第2変形例>
上記実施形態に係る細胞培養装置の第2変形例は、最適培養条件における説明変数値決定方法を次のように行ってもよい。図8を用いて、第2変形例が行う適培養条件における説明変数値決定方法について説明する。
【0067】
第2変形例においては、培養条件である説明変数の設定2201を行い、実験102を実施する。ここで言う実験102とは、説明変数の培養条件の下で培養を行うことである。実験102終了後は、目的変数の代替値の測定1103を行う。
【0068】
目的変数の代替値の測定1103の前後、もしくは同時に、目的変数の測定1204を行う。ここでの測定は、生物化学的な測定のみならず、数値流体解析の結果を用いた算出も含まれる。
【0069】
目的変数の代替値の測定1103の結果と目的変数の測定1204の結果との間の相関を計算し、相関データベース300を作成する。相関の計算には、線形重回帰測定、非線形カーネル回帰測定、サポートベクター回帰などの手法が適用できる。目的変数をyとし、目的変数の代替値をYとし、複数の説明変数を並べたベクトルをxとすると、これらの関係は図9の式(3-1)で表すことができる。
【0070】
1組以上の説明変数と目的変数の代替値の測定1103の結果を基に、数学的な手法を用いて、説明変数を従属変数とする、目的変数の代替値の関数表記を得る、説明変数による最適値探索2204を行う。ここでの数学的手法としては、線形回帰、カーネル回帰、ガウス過程回帰など複数の手法が適用できる。目的変数の代替値をYとし、複数の説明変数を並べたベクトルをxとすると、これらの関係は図9の式(3-2)で表すことができる。
【0071】
上記で取得された関数表記(図9の式(3-2))を用いて、数学的手法を用いて、最適培養条件候補205となる、次回実験の説明変数(培養条件)を決定する。ここでの数学的手法としては、モンテカルロシミュレーション、遺伝的アルゴリズム、焼き鈍し法、ベイズ最適化手法などが適用できる。
【0072】
目的変数の代替値の判定106において、目的変数の代替値が最大もしくは最小となるまで、説明変数の設定2201から最適培養条件候補205決定までの手順を繰り返す。目的変数の代替値が最大もしくは最小となった説明変数値が、最適培養条件として計算され、最適培養条件における説明変数値107を得る。同時に相関データベース300に基づく図9の式(3-1)及び図9の式(3-2)により、説明変数を従属変数とする、図9の式(3-3)で表される目的変数の関数表記を得る。
【0073】
第2変形例によれば、実験後に測定する目的変数が測定に時間がかかるパラメータを含む場合であっても、最適な培養条件を迅速に決定できる。
【0074】
本発明は以下の構成を採ることもできる。
【0075】
[1]
培養槽及び前記培養槽の内部の細胞を含む培養液を有する細胞培養装置であって、
培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、
前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置と、
最適な培養条件を探索する演算装置と、
を備え、
前記演算装置は、
前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から代替パラメータを取得し、
前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、
前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、計算した前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する、
ように構成された、
細胞培養装置。
【0076】
[2]
前記第1測定装置は、前記第1パラメータとして所定の測定時間以上で測定可能なパラメータを測定し、前記第2パラメータとして前記所定の測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定し、前記第2測定装置は、前記第1代替値として前記所定の測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定してもよい。
【0077】
前記第1測定装置は、前記第1パラメータとして所定の第1測定時間以上で測定可能なパラメータを測定し、前記第2パラメータとして所定の第2測定時間以上で測定可能なパラメータを測定し、
前記第2測定装置は、前記第1代替値として前記所定の第1測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定し、前記第2代替値として前記所定の第2測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定してもよい。
【0078】
前記第1測定装置は、前記第1パラメータとして所定の測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定し、前記第2パラメータとして前記所定の測定時間以上で測定可能なパラメータを測定し、
前記第2測定装置は、前記第2代替値として前記所定の測定時間より短い測定時間で測定可能なパラメータを測定してもよい。
【0079】
[3]
培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置とから前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータを取得し、最適な培養条件を探索する演算装置を備えた培養条件決定装置であって、
前記演算装置は、
前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、
前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する、
ように構成された、
培養条件決定装置。
【0080】
[4]
培養槽及び前記培養槽の内部の細胞を含む培養液による細胞培養の培養条件決定方法であって、
培養条件である第1パラメータ及び培養実験の結果に関する第2パラメータを測定する第1測定装置と、
前記第1パラメータの第1代替値及び前記第2パラメータの第2代替値のうちの少なくとも一つである代替パラメータを測定する第2測定装置と、
最適な培養条件を探索する演算装置と、
を用い、
前記演算装置によって、
前記第1測定装置から前記第1パラメータ及び前記第2パラメータを取得し、前記第2測定装置から代替パラメータを取得し、
前記第1パラメータ、前記第2パラメータ及び前記代替パラメータに基づいて、前記第1パラメータを説明変数とし前記第2パラメータを目的変数とする関数形を、前記代替パラメータを用いて表した関数形を求め、
前記代替パラメータと当該代替パラメータにより代替された前記第1パラメータ及び前記第2パラメータの少なくとも一つとのパラメータ相関関係を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形の目的変数が最大又は最小となる最適な説明変数を計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、前記第1代替値を用いて表した関数形ではない場合、計算した前記最適な説明変数を最適な培養条件として計算し、
前記代替パラメータを用いて表した関数形が、少なくとも前記第1代替値を用いて表した関数形である場合、計算した前記最適な説明変数を前記パラメータ相関関係により、最適な第1パラメータに変換し、前記最適な第1パラメータを最適な培養条件として計算する、
培養条件決定方法。
【符号の説明】
【0081】
500…培養槽、510…培地調製槽、520…細胞濾過膜、530…ポンプ、540…排出ライン、600…サンプリングライン、610…短時間測定、620…長時間詳細測定、630,631…インラインセンサ、640…演算装置、650…代替値設定装置、700…相関データベース、710…相関関係演算装置、720…変数変換演算装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9