(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141765
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】サーバーラックの排気気流調整装置
(51)【国際特許分類】
F24F 13/08 20060101AFI20241003BHJP
F24F 3/044 20060101ALI20241003BHJP
G06F 1/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F24F13/08 A
F24F3/044
G06F1/20 C
G06F1/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053585
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390018474
【氏名又は名称】新日本空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】磯 佑輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲平
(72)【発明者】
【氏名】木村 崇
(72)【発明者】
【氏名】馬場 健人
【テーマコード(参考)】
3L053
3L081
【Fターム(参考)】
3L053BB10
3L081AA02
3L081AB06
3L081BA06
(57)【要約】
【課題】サーバーラックの排気が周囲に与える影響を低減するとともにサーバーラックに供給される空気の温度上昇を抑制し、空調空気量の低減による省エネルギー化を図る。
【解決手段】排気気流調整装置20は、サーバーラック4の排気気流を調整するためのものであり、サーバーラック4の背面に対して所定の離隔距離dを空けた位置で対面して配置される気流調整面21を備える。気流調整面21は、サーバーラック背面に対して幅方向中央部を上下方向に沿って凹ませた曲面型、平板からなる平面型、縦長の羽根部材24をサーバーラック背面に対して角度を持たせて幅方向に複数配置した縦羽型のいずれかの形状で形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバー機が上下方向に多段に収容されたサーバーラックが前面及び背面の向きを合わせて複数並べられたサーバーラック列が設けられたサーバールームにおいて、前記サーバーラックの排気気流を調整するための排気気流調整装置であって、
前記排気気流調整装置は、前記サーバーラックの背面に対して所定の離隔距離を空けた位置で対面して配置される気流調整面を備え、
前記気流調整面は、サーバーラック背面に対して幅方向中央部を上下方向に沿って凹ませた曲面型、平板からなる平面型、縦長の羽根部材をサーバーラック背面に対して角度を持たせて幅方向に複数配置した縦羽型のいずれかの形状で形成されていることを特徴とするサーバーラックの排気気流調整装置。
【請求項2】
前記曲面型の気流調整面において、曲面を形成する湾曲板が多数の開孔が形成された多孔板からなる請求項1記載のサーバーラックの排気気流調整装置。
【請求項3】
前記曲面型の気流調整面において、上端が前記サーバーラックから離隔する方向に傾斜して配置されている請求項1記載のサーバーラックの排気気流調整装置。
【請求項4】
前記排気気流調整装置は、前記サーバーラック背面からの離隔距離が300~600mmの位置に配置される請求項1記載のサーバーラックの排気気流調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーバーラックの排気気流を調整するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、データセンターのサーバールームにおける一般的な空調方式の一つに、サーバーラックの排気側の空間を囲い、高温空気を給気と混合させないようにするホットアイルコンテインメント方式がある(例えば、下記特許文献1~3)。
【0003】
この方式は、サーバー機が多段に収容されたサーバーラックを前面及び背面の向きを合わせて複数並べたサーバーラック列を形成し、前記サーバーラック列の背面同士を間隔を空けて向かい合わせて配置した間の空間がホットアイルを形成し、複数のサーバーラックからの高温の排気を同一のホットアイルコンテインメントに集約し、空調機により冷却処理するものである。サーバーラックへの給気は、前記サーバーラック列の前面が対向する空間(コールドアイル)に供給された空調空気(空調機によって冷却された空気)が用いられる。当該コールドアイルとホットアイルとが物理的に離隔されることにより、両空間の異なる温度の空気の混合を抑制し、サーバーラックへ供給する空調空気の温度変動を抑え、効率的な熱処理を可能としている。
【0004】
近年新設されるデータセンターでは、1つのサーバーラックで20~30kW程度の超高負荷ラックが計画されることもあり、局所的な熱だまりの発生が懸念される。このような問題を解決する技術の一つに、サーバーラックの排気気流の風向調整により、サーバーラック周辺の気流を適正化する技術がある。
【0005】
例えば下記特許文献4には、サーバー冷却システム用の床下送風路における冷却用空気の風向を変更する風向変更部材であって、二本の固定脚を備え、二本の前記固定脚の間に、風向変更パネルと、障害回避部とを有するものが開示されている。
【0006】
また、下記特許文献5には、サーバーラックから斜め上方に張り出した傾斜部と、前記傾斜部の側端とサーバーラックとの間に形成された側面部とを有し、前記傾斜部が所定の傾斜角度を有する気流制御板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-55691号公報
【特許文献2】特開2010-72697号公報
【特許文献3】特開2009-140421号公報
【特許文献4】特許第7112144号公報
【特許文献5】特開2014-219862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のホットアイルコンテインメント方式において、各サーバーラックの運転負荷に偏りが生じると、発熱量が大きく排気風量も大きいサーバーラック(以下、「高負荷サーバーラック」という。)の排気が、これと背合わせに対面して配置された発熱量が小さく排気風量も小さいサーバーラック(以下、「低負荷サーバーラック」という。)や非稼働のサーバーラックを通過し、コールドアイルへ到達する現象が発生する。これにより、サーバーラックへの給気温度の上昇や局所的な熱溜まりが発生し、空調効率の低下や温度上昇によるサーバー機への悪影響が問題となる。
【0009】
この対策として、背面同士を向かい合わせたサーバーラック列の離隔距離を長くするか、或いは対面してサーバーラック列を配置しない方法が考えられるが、サーバーラック1台当たりに必要な設置面積が増加し、サーバールームに設置できるサーバーラックの台数が減少することとなり、効率的ではない。
【0010】
上記特許文献4に記載の風向変更部材は、床吹出方式のサーバールームにおいて床下の冷却用の給気気流の風向を変更するものであり、サーバーラックから排出される排気気流を制御することによりサーバーラックへの影響の低減を図るものではない。
【0011】
また、サーバーラックの排気気流の方向を調整する手段として、従来より、上記特許文献5に記載されるようなサーバーラック背面に直接取り付ける気流制御板を上下方向に複数備えたものが知られている。ところが、このような気流制御板をサーバーラック背面に直接取り付けると、空気抵抗が大きくなるため、サーバーラック内を通過する風量が低下し、サーバー機内温度が上昇する傾向がある。サーバー機内を所定温度以下とするためには、空調空気の温度を下げるか、風量を増やす必要があり、いずれも空調に係る消費エネルギーの増大を伴うという問題が生じる。
【0012】
そこで本発明の主たる課題は、サーバーラックの排気が周囲に与える影響を低減するとともにサーバーラックに供給される空気の温度上昇を抑制し、空調空気量の低減による省エネルギー化を図ったサーバーラックの排気気流調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、サーバー機が上下方向に多段に収容されたサーバーラックが前面及び背面の向きを合わせて複数並べられたサーバーラック列が設けられたサーバールームにおいて、前記サーバーラックの排気気流を調整するための排気気流調整装置であって、
前記排気気流調整装置は、前記サーバーラックの背面に対して所定の離隔距離を空けた位置で対面して配置される気流調整面を備え、
前記気流調整面は、サーバーラック背面に対して幅方向中央部を上下方向に沿って凹ませた曲面型、平板からなる平面型、縦長の羽根部材をサーバーラック背面に対して角度を持たせて幅方向に複数配置した縦羽型のいずれかの形状で形成されていることを特徴とするサーバーラックの排気気流調整装置が提供される。
【0014】
上記請求項1記載の発明は、前記サーバーラックからの排気気流を調整する排気気流調整装置に関し、前記排気気流調整装置が、前記サーバーラックの背面に対して所定の離隔距離を空けた位置で対面して配置される気流調整面を備え、この気流調整面が、曲面型、平面型、縦羽型のいずれかの形状で形成されている。このように前記気流調整面を曲面型、平面型、縦羽型のいずれかの形状で形成することにより、後述の実験結果に示されるように、換気流量比(空調機の空調空気量/サーバー機の排気風量の総和から算出される比であり、空調空気量を決定するための無次元数として定義されたもの)の低減効果が高く、当該高負荷サーバーラックへの影響や周囲のサーバーラックへの影響が小さくなる。このため、サーバーラックの排気が周囲に与える影響が低減できるとともに、サーバーラックに供給される空気の温度上昇が抑制でき、空調空気量の低減による省エネルギー化を図ることができる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記曲面型の気流調整面において、曲面を形成する湾曲板が複数の開孔が形成された多孔板からなる請求項1記載のサーバーラックの排気気流調整装置が提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明では、前記曲面型の気流調整面において、曲面を形成する湾曲板として多孔板を用いている。これによって、後述の実験結果から明らかなように、換気流量比の更なる低減効果が得られるとともに、当該高負荷サーバーラックへの影響や周囲のサーバーラックへの影響を小さくできる。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記曲面型の気流調整面において、上端が前記サーバーラックから離隔する方向に傾斜して配置されている請求項1記載のサーバーラックの排気気流調整装置が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明では、前記曲面型の気流調整面をサーバーラックの背面に対して傾斜して配置している。このような傾斜角を持たせた場合でも同様の効果が発揮される。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記排気気流調整装置は、前記サーバーラック背面からの離隔距離が300~600mmの位置に配置される請求項1記載のサーバーラックの排気気流調整装置が提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明では、排気気流調整装置の効果が発揮されるサーバーラック背面からの好適な離隔距離を示している。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、サーバーラックの排気が周囲に与える影響が低減できるとともにサーバーラックに供給される空気の温度上昇が抑制でき、空調空気量の低減による省エネルギー化が図れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る排気気流調整装置20が配置されたデータセンター1の空調システムを示す断面図である。
【
図3】曲面型の排気気流調整装置20を示す斜視図である。
【
図4】曲面型の排気気流調整装置20を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図である。
【
図5】平面型の排気気流調整装置20を示す斜視図である。
【
図6】平面型の排気気流調整装置20を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図である。
【
図7】縦羽型の排気気流調整装置20を示す斜視図である。
【
図8】縦羽型の排気気流調整装置20を示す、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図である。
【
図10】実験室の断面図(
図9のX-X線矢視図)である。
【
図11】換気流量比κとコールドアイル上昇温度ΔTの関係を示すグラフである。
【
図12】換気流量比κと高負荷サーバーラック4bの給排気温度差ΔT
Hを示すグラフである。
【
図13】換気流量比κと低負荷サーバーラック4aの給排気温度差ΔT
Lを示すグラフである。
【
図14】既製品のガイド部材50を示す平面図である。
【
図17】実験に用いた排気気流調整装置を示す斜視図である。
【
図19】縦羽型の排気気流調整装置20の横断面図(
図17(B)のXIX-XIX線矢視図)である。
【
図21】曲面型の排気気流調整装置20の上面図である。
【
図22】曲面型の排気気流調整装置20を示す側面図である。
【
図24】多孔曲面型の実験結果を示すグラフである。
【
図25】横羽型の排気気流調整装置51を示す縦断面図(
図17(D)のXXV-XXV線矢視図)である。
【
図27】V字型の排気気流調整装置51の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0024】
本発明に係るサーバーラックの排気気流調整装置20は、データセンターのサーバールーム1に配備された複数のサーバー機3から排気される排気気流を調整するための装置である。
【0025】
前記サーバールーム1には、
図1及び
図2に示されるように、サーバー機3が上下方向に多段に収容されたサーバーラック4を、前面及び背面の向きを合わせて複数並べたサーバーラック列5が設けられている。前記サーバーラック列5の背面同士を間隔を空けて向かい合わせて配置した間の空間は、複数のサーバー機3の稼働によって排出された排気によって暖められたホットアイルHAを形成している。また、前記サーバーラック列5の前面が対向する空間は、空調機2からの空調空気が供給されてコールドアイルCAを形成している。
【0026】
前記サーバー機3は、エンクロージャ内に少なくとも電源装置やCPU、メモリを備えた電子機器であり、稼働により発熱するため、エンクロージャ内の熱を背側に向けて排気する排気ファンが内部に備えられるとともに、前面に外部の空気をエンクロージャ内に導入する給気口が備えられている。
【0027】
前記サーバーラック4は、上下方向に複数段の棚が形成された筐体であり、各棚に1台又は複数台のサーバー機3が収容できるように構成されている。
【0028】
前記サーバーラック列5は、前記サーバーラック4の前面及び背面の向きを合わせて横方向に一列に複数台並べたものである。サーバールーム1には、背合わせに対向して配置された2列のサーバーラック列5、5を組として、1組又は複数組のサーバーラック列5が配置されている。
【0029】
前記ホットアイルHAは、前記サーバーラック列5の背面同士が間隔を空けて向かい合わせて配置された間の空間であって、その空間の両端部(サーバーラック列5の配列方向の両端部)がサーバールーム1の床面から天井面まで延びる仕切板6で仕切られるとともに、サーバーラック列5の上部がサーバーラック列5の上面からサーバールーム1の天井面まで延びる仕切板6で仕切られることによって、コールドアイルCAの空気が、サーバーラック4を通過してホットアイルHAに流れ込むようになっており、それ以外からコールドアイルCAの空気がホットアイルHA内に侵入できないようになっている。
【0030】
前記ホットアイルHAには、ホットアイルHA内の空気を排気する排気口7が設けられている。前記排気口7は、ホットアイルHAの天井面や壁面、床面などに設けられている。前記排気口7から排気された空気は、天井裏などに敷設されたダクトなどを通じて空調機2に送られる。
【0031】
前記コールドアイルCAは、前記サーバーラック列5及び前記仕切板6で仕切られた外側のサーバールーム1内の空間である。前記コールドアイルCA内には、空調機2で冷却された空調空気を供給する給気口8が設けられている。前記給気口8は、コールドアイルCAの壁面や床面、天井面などに設けられている。一般的な例として、前記給気口8は、
図2に示されるように、サーバーラック列5の配列方向と直交する壁面のうちの一方の壁面であって、サーバールーム1内に吹き出された空調空気がサーバーラック列5の前面が対向する通路をそれぞれサーバーラック列5の配列方向に沿って流れるような位置に設けられている。
【0032】
前記給気口8を通じてコールドアイルCAに供給された空調空気は、前記サーバーラック4を通過してホットアイルHAに流れ込み、前記排気口7を通じて空調機2に還る空気循環系統で循環している。
【0033】
また、前記サーバールーム1には、コールドアイルCAの温度(サーバーラック4への供給温度)を測定する温度検出器10と、ホットアイルHAの温度(サーバーラック4通過後の温度)を測定する温度検出器11と、サーバーラック4の瞬時電力を測定する電力測定部12とが設けられている。更に、前記空調機2には、空調空気の供給風量を検出する風量検出部(図示せず)と、空調機2の運転を制御する制御機器13とが備えられている。
【0034】
前記温度検出器10、11によってサーバーラック4通過前後の各温度を測定することにより、サーバーラック4通過前後の温度差を確認することが可能であり、サーバーラック4が低負荷運転となった場合において、サーバーラック4の通過風量が適正であるかを確認することができる。
【0035】
前記電力測定部12は、各サーバーラック4に収容された複数のサーバー機3の合計の電力を測定する機器であり、サーバー機3の運用時に常時計測して、その計測結果を前記制御機器13に送信している。一般のサーバールームでは、サーバー機に電力を分配するための分電盤(Power Distribution Unit、以降PDU)が設置され、このPDUに電力計を設置することにより、各サーバーラック4に供給される瞬時電力を計測することが可能となる。ここで、前記電力測定部12としては、常時監視が可能であり、かつ空調機2を制御する前記制御機器13に送信可能な信号が出力可能なものが用いられている。
【0036】
空調機2に備えられる前記風量検出部としては、空調機2の給気風量を常時監視可能な風量計や熱線式風速計などの測定器を用いることができるが、測定器の常設が難しい場合、空調機2の電動機の出力等を検出することによって代用してもよい。電動機の出力を検出することによって風量を推定する場合、前記電動機に電動機の出力値が調整可能なインバータ装置を備えておき、試運転調整時に電動機の出力値と給気風量との関係を得ておく必要がある。
【0037】
以上の構成からなるサーバールーム1において、前記ホットアイルHAに本発明に係るサーバーラックの排気気流調整装置20を配置することにより、前記サーバーラック4の排気気流の調整を行うとともに、排気の風向制御を行っている。
【0038】
前記排気気流調整装置20は、
図1及び
図2に示されるように、サーバーラック4の背面に対して所定の離隔距離dを空けた位置で対面して配置され、
図3~
図8に示されるように、枠体23に固定された気流調整面21と、前記枠体23を支持する脚部22とで構成された衝立のような外観を有するものである。
【0039】
前記排気気流調整装置20は、高負荷サーバーラック(周囲のサーバーラックより発熱量が大きく排気風量が大きい高負荷運転を行うサーバーラック)の背面に配置され、この高負荷サーバーラックからの排気を遮断又は所定の方向に変更して気流の勢いを軽減する。これにより、当該高負荷サーバーラックをはじめ、対面する低負荷サーバーラック(前記高負荷サーバーラックより発熱量が小さく排気風量が小さい運転を行うサーバーラック)や周囲の低負荷サーバーラックへ及ぼす影響を抑えるとともに、コールドアイルCAの温度上昇も抑制しつつ、高負荷サーバーラックからの排気がホットアイルHA内に排出されるようになる。更に、周囲のサーバーラック4やコールドアイルCAへの影響が抑えられるため、空調空気量の低減による省エネルギー化も図られる。
【0040】
また、前記排気気流調整装置20は、特定のサーバーラック4の背面に配置するだけで、その効果が発揮されるため、電気、ガス、圧縮空気等の動力源が不要であり、可搬性を有するため、任意の位置への移動や設置が容易である。
【0041】
前記気流調整面21は、サーバーラック4からの排気気流の調整が適正に行われるように特定の形状で形成されている。この気流調整面21の形状については、後段で詳しく説明する。前記気流調整面21は、サーバーラック4に対して少なくともサーバー機3が配置された領域の全面に対面する大きさで形成されている。前記気流調整面21は、樹脂、金属、木、紙、ガラス等の非通気性の素材からなる薄板で構成してもよいし、これらに多数の開孔が形成された多孔板や織布、不織布等の通気性の素材からなる薄板状のもので構成してもよい。
【0042】
前記気流調整面21が固定される枠体23は、金属製又は樹脂製の角形のパイプなどによって少なくとも外周が枠組みされた縦長の長方形に形成されたものであり、この枠内に必要に応じて横桟や縦桟が設けられている。前記枠体23は、前記気流調整面21とほぼ同じ高さで形成されている。前記枠体23によって囲まれた空間の平面は、床面に対してほぼ垂直、すなわちサーバーラック4の背面とほぼ平行に対面して配置されるか、上端がサーバーラック4から離隔する方向に傾斜して配置される。
【0043】
前記枠体23を支持する脚部22は、前記枠体23及びこれに固定された気流調整面21が自立できるように構成されるものであればどのような形状でもよく、図示例のように固定式でもよいし、ストッパー付のキャスターなどを取り付けて容易に移動できるようにしてもよい。また、枠体23をサーバーラック4の背面に対してほぼ平行に対面させた状態と、枠体23の上端をサーバーラック4から離隔する方向に任意の傾斜角で傾斜させた状態とで切り換え可能にすることが好ましい。
【0044】
以下、前記気流調整面21について詳細に説明する。前記気流調整面21は、後述の実験の結果から、特に性能が優れる曲面型、平面型、縦羽型のいずれかが用いられる。
【0045】
前記曲面型の気流調整面21は、
図3及び
図4に示されるように、サーバーラック4の背面に対して幅方向中央部を上下方向に沿って凹ませた湾曲板で構成されたものであり、この湾曲板(気流調整面21)の幅方向両端が枠体23の両側部に固定されることにより、枠体23の両側部から前記湾曲板が後方に曲面形状で突出するように配置されている。前記気流調整面21の湾曲形状(断面形状)は上下方向の全長に亘ってほぼ同一であり、上下方向の両端は枠体23に固定されずに開放されている。これによって、前記曲面型の気流調整面21に向けて流れるサーバーラック4からの排気気流は、前記気流調整面21に衝突して一時的に遮断され、その後気流調整面21を上下方向に沿って流れるとともに、幅方向にも流出することにより、気流の勢いが軽減する。
【0046】
また、前記平面型の気流調整面21は、
図5及び
図6に示されるように、平板で構成されており、この平板が枠体23の枠内空間を塞ぐように前記枠体23に固定されている。これによって、平面型の気流調整面21に向けて流れるサーバーラック4からの排気気流は、前記気流調整面21に衝突して遮断され、周囲に拡散することにより気流の勢いが軽減する。前記平板は、枠体23の枠内空間を塞ぐように外周部が枠体23に固定されるものであれば特に限定されず、全面に亘って表面が平坦な平板を用いてもよいし、凹凸が設けられた波板状のものや、中間部や外周部などに補強材などが設けられたものなどを用いてもよい。
【0047】
次いで、前記縦羽型の気流調整面21は、
図7及び
図8に示されるように、縦長の羽根部材24を、サーバーラック4の背面に対して角度を持たせて幅方向に複数配置することによって構成されている。このため、幅方向に隣り合う羽根部材24、24の間には、表裏を貫通する上下方向に細長い間隙部が形成され、この間隙部を通って空気が裏側に通過できるようになっている。
【0048】
前記羽根部材24は、気流調整面21の幅方向中央を境に、その両側に配置されたもので傾斜方向が逆向きに配置されている。つまり、
図8(C)に示されるように、幅方向の両側に配置されたものはそれぞれ、幅方向中央側の側端がサーバーラック4から離隔する方向に傾斜して配置されている。幅方向中央の直ぐ両側に配置された羽根部材24、24は、互いに側端同士が連結されて一体化されており、平面視でV字形を成すように形成さることにより、幅方向中央部からは気流が通過できないようになっている。縦羽型の気流調整面21に向けて流れるサーバーラック4からの排気気流は、隣り合う羽根部材24、24間の間隙部を通って気流調整面21の裏側に通過するとともに、この間隙部を通過する過程で、幅方向中央方向に気流の向きが変更され、排気気流調整装置20の裏側で両側からの気流同士がぶつかり合い、気流の勢いが軽減される。
【0049】
なお、前記羽根部材24は、幅方向外側の側端がサーバーラック4から離隔する方向に傾斜して配置してもよい。また、全ての羽根部材24が同じ方向に傾斜するように配置してもよい。
【0050】
前記羽根部材24は、枠体23の上下方向の全長に亘って一体に延びるように配置してもよいし、枠体23を上下方向に複数に仕切る1又は複数の横桟23aを設け、この横桟23aによって仕切られた部分に分割して配置してもよい。
【0051】
以上の構成からなる排気気流調整装置20は、気流調整面21を枠体23に対して着脱可能とするか、気流調整面21が取り付けられた枠体23を脚部22に対して着脱可能とすることにより、曲面型、平面型、縦羽型の任意の気流調整面21に簡単に交換できるようにしてもよい。
【実施例0052】
次に、本発明に係る排気気流調整装置20の効果を検証する実験について説明する。
【0053】
実験で使用したサーバールーム1の平面図及び立面図を
図9及び
図10に示す。サーバールーム1における空気の流れは、サーバールーム1の壁面に設けられた給気口8よりコールドアイルCAに吹き出された空調空気が、サーバーラックを通過してホットアイルHAに流れ込み、ホットアイルHAの天井面に設けられた排気口7から空調機2に還る空気循環系統を形成している。
【0054】
実験では、空調機2から供給される空調空気の温度は一定とし、空調機2の空調空気量V(空気風量)を変更したときの各地点の温度を測定した。なお、各空調空気量Vに対して前記サーバーラック4a~4fの運転条件は一定条件とした。
【0055】
コールドアイルCAの温度測定点は、Pa~Pfの6地点とし、
図10に示されるように、各地点の床上400[mm]から上部に300[mm]ピッチで垂直温度分布を測定した。これにより、コールドアイルCAの温度測定点は合計6×6=36点となる。また、ホットアイルHAの温度測定点は、サーバーラック4背面側のサーバーラック4近傍の排気気流の温度を測定した。
【0056】
各サーバーラック4a~4fの運転条件は、
図9に示されるように、サーバーラック4bのみ30kWの高負荷運転とし、他のサーバーラック4a、4c~4fは6kWの低負荷運転とした。従って、4bは高負荷サーバーラックであり、4a、4c~4fは低負荷サーバーラックである。なお、その他の符号がないサーバーラックは非稼働とし、空調空気や排気が通過しないようにラック全面を閉止板により閉止した。
【0057】
(1)対策を講じない場合
最初に何も対策を講じない場合、すなわちサーバーラック4の背面に何も設置しない場合について説明する。各サーバーラック4a~4fを上記の運転条件で運転している条件下で、空調機2の空調空気量Vを変化させたときの各地点の温度を測定した。その結果を
図11に示す。
【0058】
ここで、横軸の換気流量比κは、次式(1)により求められる無次元数である。
【数1】
【0059】
この換気流量比κは、換気流量比κを一定としたとき、サーバー機3の排気風量の総和ΣQsが変化すると、一定の割合で空調空気量Vも変化する。即ち、サーバー機3の排気風量の総和ΣQsが大きい高負荷運転の場合は空調機2の空調空気量Vも大きくなり、サーバー機3の排気風量の総和ΣQsが小さい低負荷運転の場合は空調機2の空調空気量Vも小さくなるため、空調空気量が過大となりにくい特徴がある。また、高負荷運転をしていたサーバー機3の稼働率が下がり低負荷運転となった場合においても、換気流量比κを一定とした条件の下で、空調機2の空調空気量Vを決定することで、過剰な能力による運転を低減することが可能となる。
【0060】
また、縦軸のコールドアイル上昇温度ΔT[℃]は、次式(2)で定義される。
【数2】
【0061】
前記コールドアイル最大温度Tcmaxは、所定の換気流量比κで運転したときに温度測定点Pa~Pfで計測されたコールドアイルCAの温度のうち最大のものである。徐々に換気流量比κを下げていき温度計測を行う際、サーバーラック4の近傍から温度上昇しやすいと想定できるので、コールドアイルCAの温度測定点は、サーバーラック4の近傍(100[mm]以内)に設置する。高さ方向については、サーバーラック4のどの高さ位置から温度上昇しやすいかは想定が難しいため、高さ方向に対して所定の間隔を空けて複数点、好ましくは3点以上、より好ましくは3~10点設置するのがよい。
【0062】
前記コールドアイル給気温度T
cは、コールドアイルCAに供給する空調空気の温度であり、ホットアイルHAからコールドアイルCAに漏れ出た空気の影響を受けにくいサーバーラック4からある程度離れた地点のコールドアイルCAの温度とするのがよい。この温度測定点としては、
図1及び
図2に示されるようにサーバールーム1の壁面又はその近傍に設置した温度検出器10や、給気口8又はその近傍(給気ダクト内を含む。)に設置した温度検出器などが挙げられる。このコールドアイル給気温度T
cは、運用時も常時監視する必要が多いため、極力常設の温度計による計測値を基準とするのが望ましい。ただし、コールドアイル給気温度T
cと各サーバーラック4への給気温度に乖離が生じる場合を想定し、コールドアイルCA内の代表点と、このコールドアイル給気温度T
cの測定点とで同時に測定し、これらの温度差を把握しておくことが望ましい。なお、本発明では、前記コールドアイル給気温度T
cは、サーバールーム1を規定の温度状態に保持するとともにサーバー機3の結露が生じない範囲でほぼ一定としており、空調機2の空調空気量Vを調整することでサーバールーム1を所定の温度範囲に保持している。
【0063】
図11の換気流量比κとコールドアイル上昇温度ΔTとの関係から、コールドアイル上昇温度がΔTのときの換気流量比κを求めることができる。このΔTのときの換気流量比κは、サーバーラックの熱負荷が所定の条件においてコールドアイルCAの温度上昇が許容される範囲(コールドアイル上昇温度ΔT)をΔT以下に抑えるために、空調機2が最低限確保すべき空調空気量Vを示すものであり、
図11のグラフにおいて、ΔTのときのκによって読み取ることができる。前記コールドアイル上昇温度ΔTの具体的な数値範囲としては、サーバーラック4の最大熱負荷や設置台数、設定温度、室の容積などによって変化するが、サーバーラック4に収容されたサーバー機3が確実に冷却され、サーバー機3の温度上昇による悪影響が確実に防止でき、安定した制御が可能となる範囲として、好ましくは3[℃]以下、より好ましくは1[℃]以下である。本実施例では、より厳しい1[℃]以下を採用する。すなわち、前記コールドアイル上昇温度ΔTが1[℃]を超えた場合にホットアイルHAの空気がコールドアイルCAに漏れて、コールドアイルCAの温度上昇が発生したものと推定する。
【0064】
コールドアイル上昇温度ΔTが1[℃]となる換気流量比κをκ
1とすると、何も対策を講じない場合のκ
1は、
図11より、κ
1=2.03である。これは、κがκ
1より小さいときにΔTが1[℃]より大きくなるということであり、コールドアイル上昇温度ΔTを1[℃]以下に抑えるには、空調機2の空調空気量Vがサーバー機3の総排気量の2.03倍以上必要であることを意味する。
【0065】
続いて、高負荷サーバーラック及び低負荷サーバーラックについて、コールドアイルCAから供給される給気と、サーバーラック4の背面から排出される排気との温度差ΔTH、ΔTLをそれぞれ求めた。高負荷サーバーラックは4bであり、低負荷サーバーラックは代表値として4aを用いた。
【0066】
高負荷サーバーラック4bの給排気温度差ΔT
H及び低負荷サーバーラック4aの給排気温度差ΔT
Lは、それぞれ次式(3)、(4)で表される。
【数3】
【0067】
【0068】
これを換気流量比κに対するグラフに表したものを
図12及び
図13に示す。換気流量比κがκ
1(=2.03)のときの高負荷サーバーラック4bの給排気温度差ΔT
H1は、
図12より、17.2[℃]となる。同様に、換気流量比κがκ
1(=2.03)のときの低負荷サーバーラック4aの給排気温度差ΔT
L1は、
図13より、15.0[℃]となる。
【0069】
(2)既製品の場合
次に、上記特許文献5に開示されるようなサーバーラック背面に斜め上方に向けて傾斜する気流制御板を上下方向に等間隔で複数配置した既製品を設けて対策を行った場合について説明する。この既製品は、
図14に示されるガイド部材50を、
図15に示されるようにサーバーラック背面の内側に斜め上方に向けて傾斜して配置した既製品1と、
図16に示されるようにサーバーラック背面から斜め上方に突出するように配置した既製品2とを用意した。
【0070】
はじめに既製品1について説明すると、ガイド部材50の寸法は、
図14に示される幅W
Aが80mm、長さL
Aが500mmである。また、ガイド部材50の傾斜角度θ
Aは60°とした。
【0071】
この既製品1による対策を施した上で、上記と同様の実験を行った結果、コールドアイル上昇温度ΔT=1[℃]となる換気流量比κ1を求めると、κ1=1.31となった。
【0072】
ここで、対策による換気流量比κ
1の低減効果を評価するため、次式(5)で表される低減係数αを定義する。
【数5】
【0073】
既製品1による対策の結果、低減係数αは1.31/2.03=0.65であった。これは、既製品1を設置することによって、空調機の風量を35%削減しても同等の空調環境が維持でき、空調機の負荷が0.65倍に低減されたことを意味している。
【0074】
同様に、換気流量比がκ1のときの高負荷サーバーラック4bの給排気温度差ΔTH1及び換気流量比がκ1のときの低負荷サーバーラック4aの給排気温度差ΔTL1を求めると、それぞれΔTH1=21.4[℃]、ΔTL1=16.9[℃]であった。
【0075】
ここで、対策による給排気温度差への影響を評価するため、次式(6)、(7)で表される影響係数β
H、β
Lを定義する。
【数6】
【数7】
【0076】
前記影響係数βH、βLは1を境界として、1より大きな値では、対策を講じたことによって給排気温度差が大きくなったことを意味しており、この給排気温度差が大きくなったということは、サーバーラック4の発熱量が一定であるため、サーバーラック4を通過する風量が低下したことを意味している。従って、影響係数βH、βLが1より大きいと、対策を講じたことによって、サーバーラック4を通過する風量が低下したと判断できる。冷却に必要な風量の低下によりサーバー機の処理能力の低下や故障の原因となるおそれがある。
【0077】
既製品1による対策の結果、高負荷サーバーラック4bの影響係数βHは21.4/17.2=1.24であり、低負荷サーバーラック4aの影響係数βLは16.9/15.0=1.13となり、いずれも1を超えている。
【0078】
次いで既製品2について説明すると、この既製品2は、既製品1と比較して、ガイド部材50の幅WA’を250mmに変更し、ガイド部材50をサーバーラック4の背面から突出して配置した以外は、既製品1と同様である。
【0079】
この既製品2による対策を施した上で、上記と同様の実験を行った。その結果を表1にまとめる。既製品2についても上記既製品1と同様の傾向が見られた。
【表1】
【0080】
以上の結果から、コールドアイルCAの温度上昇対策として留意すべき事項として、(a)換気流量比κ1の低減効果、(b)当該高負荷サーバーラック4bへの影響、(c)周囲の低負荷サーバーラックへの影響の3点が挙げられる。
【0081】
上記(a)について、前記低減効果αは空調機2の給気風量の削減効果を示す指標であり、その値が小さいほど効果が高くなることを表しているが、αが1を下回れば対策なしと比較して空調機の給気風量の削減効果が見込めるため、αが1より小さいことを目標値とする。
【0082】
また、上記(b)、(c)について、影響係数βH、βLはサーバーラックの背面に何らかの対策を施すことによってサーバーラックの通過風量に影響を与えるのを回避するのは難しいが、その影響が既製品1及び既製品2より小さいことが望ましいことから、両者のうち小さい方の値を採用し、βHは1.24以下、βLは1.13以下を目標値とする。
【0083】
(3)排気気流調整装置の場合
次に、高負荷サーバーラック4bの背面のホットアイルHA内に排気気流調整装置を設置して対策を施した場合について説明する。
【0084】
排気気流調整装置は、
図17に示されるように、実施例として本発明に係る排気気流調整装置20(平面型、縦羽型、曲面型の気流調整面21を備えたもの)を用い、比較例として横羽型、V字型の気流調整面52を備えた排気気流調整装置51を用いて実験を行った。
【0085】
(3-1)平面型(実施例)
本発明に係る排気気流調整装置20として、
図17(A)に示される平面型の気流調整面21を備えた排気気流調整装置20を、サーバーラック4との離隔距離d=600mmの位置に設置し、上記と同様に実験を行った。
【0086】
【0087】
平面型では、κ1=1.40であり低減係数αは0.69となり、対策なしと比較して31%の空調機2の給気風量の削減効果が見込める。また、βHは1.06、βLは1.07といずれも既製品よりも低く、目標値以内となり、サーバーラック4を通過する風量の低下は小さくなる。よって、平面型の気流調整面21を備えた排気気流調整装置20は、高負荷サーバーラック4bの排気が周囲に与える影響を低減できるとともに、コールドアイルCAの温度上昇が抑制でき、空調空気量Vの低減による省エネルギー化を図ることができる。
【0088】
(3-2)縦羽型(実施例)
本発明に係る排気気流調整装置20として、
図17(B)及び
図19に示される縦羽型の気流調整面21を備えた排気気流調整装置20を、サーバーラック4との離隔距離dの位置を変更して設置し、上記と同様に実験を行った。
【0089】
【0090】
縦羽型では、結果に差が見られ、低減係数αは0.67~0.77となり、対策なしと比較して23~33%の空調機2の給気風量の削減効果が見込める。また、影響係数βH、βLはいずれも1以下となり、対策なしの場合よりサーバーラック4を通過する風量の増加が見込める。よって、縦羽型の気流調整面21を備えた排気気流調整装置20は、高負荷サーバーラック4bの排気が周囲に与える影響を低減できるとともに、コールドアイルCAの温度上昇が抑制でき、空調空気量Vの低減による省エネルギー化を図ることができる。
【0091】
(3-3)曲面型(実施例)
本発明に係る排気気流調整装置20として、
図17(C)及び
図21に示される曲面型の気流調整面21を備えた排気気流調整装置20を、気流調整面21の弧に沿った長さである弧長W
B及び傾斜角θ
Bを変更し、サーバーラック4との離隔距離dの位置に設置し、上記と同様に実験を行った。
【0092】
【0093】
曲面型では、離隔距離dが600mmにおいて、傾斜角θBが0~10°の範囲で5°が最もκ1が小さくなり、影響係数βH、βLはいずれも既製品1、2の結果以下となった。離隔距離dを小さくすると(520mm)κ1が若干大きくなる。傾斜角θBが5°の場合、弧長WBが650mmでは低減係数αが0.65であるのに対し、弧長WBが600mmでは低減係数αが0.67となった。よって、曲面型の気流調整面21を備えた排気気流調整装置20は、高負荷サーバーラック4bの排気が周囲に与える影響を低減できるとともに、コールドアイルCAの温度上昇が抑制でき、空調空気量Vの低減による省エネルギー化を図ることができる。
【0094】
次に、曲面型の変形例として、曲面型の気流調整面21を多孔板に変更し、多孔板の孔径(開口率)、傾斜角度θB、離隔距離dをパラメータとして上記と同様に実験を行った。
【0095】
【0096】
多孔曲面型では、条件により差があるが、低減係数αが0.60~0.65と非常に小さい値となった。対策なしと比べて最大で40%の給気風量の削減効果がある。また、開口率(孔径)が大きいほど低減係数αは小さくなる傾向にあり、離隔距離dが小さくなるほど低減係数αが小さくなる傾向にある。影響係数βH、βLはいずれも既製品1、2の結果以下となった。よって、多孔曲面型の気流調整面21を備えた排気気流調整装置20は、高負荷サーバーラック4bの排気が周囲に与える影響を低減できるとともに、コールドアイルCAの温度上昇が抑制でき、空調空気量Vの低減による省エネルギー化を図ることができる。
【0097】
(3-4)横羽型(比較例)
比較例として、
図17(D)及び
図25に示される横羽型の気流調整面52を備えた排気気流調整装置51を、羽根部材の幅W
C、傾斜角度θ
C、離隔距離dを変更して所定位置に設置し、上記と同様に実験を行った。
【0098】
前記横羽型の気流調整面52を備えた排気気流調整装置51は、本発明に係る排気気流調整装置20の気流調整面21を、
図25に示されるように、横長の羽根部材53の上端をサーバーラック4から離れる方向に傾斜させた状態で、上下方向に等間隔で複数配置したものである。このため、上下方向に隣り合う羽根部材53、53の間には、幅方向に細長い空隙部が形成され、この空隙部を通過する過程で、羽根部材53の傾斜角度θ
Cに応じた方向に気流が変更されるようになる。
【0099】
横羽型の実験結果を表6及び
図26に示す。表中の太線枠は、低負荷サーバーラックの影響係数β
Lが前述の目標値(1.13)を超過したものを示している。
【表6】
【0100】
横羽型では、条件により差があるが、低減係数αが0.65~0.83となり、対策なしと比較すると17~35%の低減となった。羽根部材53の幅WCが400mmでは6条件のうち4条件で影響係数βLの目標値を超えることから、羽根部材53の幅WCが大きいと影響係数βLが大きくなる傾向があるといえる。また、離隔距離dが50mm及び300mmでは5条件のうち3条件で影響係数βLの目標値を超えることから、離隔距離dが小さいと影響係数βLが大きくなる傾向があるといえる。したがって、横羽型の気流調整面52を備えた排気気流調整装置51は、低負荷サーバーラック4aに与える影響が大きくなる場合がある。
【0101】
(3-5)V字型(比較例)
比較例として、
図17(E)及び
図27に示されるV字型の気流調整面52を備えた排気気流調整装置51を、羽根部材53の傾斜角度θ
D及び離隔距離dを変更して所定位置に設置し、上記と同様に実験を行った。
【0102】
前記V字型の気流調整面52を備えた排気気流調整装置51は、本発明に係る排気気流調整装置20の気流調整面21を、
図27に示されるように、上下方向の全長に亘る2枚の羽根部材53を幅方向中央部でサーバーラック4から離れる方向に突出するように突き合わせて平面視V字型に配置したものである。この気流調整面52の断面形状は上下方向の全長に亘ってほぼ同一であり、上下方向の両端は開放されている。これによって、前記気流調整面52に向けて流れるサーバーラック4からの排気気流は、前記気流調整面52に衝突して一時的に遮断され、その後気流調整面52を上下方向に沿って流れるとともに、幅方向にも流出することにより、気流の勢いが軽減する。
【0103】
V字型の実験結果を表7及び
図28に示す。表中の太線枠は、低負荷サーバーラックの影響係数β
Lが前述の目標値(1.13)を超過したものを示している。
【表7】
【0104】
V字型では、低減係数αが0.67~0.68、高負荷サーバーラックの影響係数βHが1.17~1.29と目標値(αは1、βHは1.24)を下回ったが、低負荷サーバーラックの影響係数βLが1.17~1.29と目標値(1.13)を上回る結果となった。したがって、V字型の気流調整面52を備えた排気気流調整装置51は、低負荷サーバーラック4aに与える影響が大きくなる。
【0105】
(まとめ)
上記結果の換気流量比κ
1、給排気温度差ΔT
H1、ΔT
L1、低減係数α、影響係数β
H、β
Lについて、換気流量比κ
1の昇順に並べて記載したものを表8に示す。影響係数β
H、β
Lについては、それぞれの目標値(β
Hは1.24、β
Lは1.13)を超えたものを太線枠としている。
【表8】
【0106】
(1)平面型は、簡素な構造でα=0.69であり、βH及びβLが1.1より小さくなり、性能が高い。
【0107】
(2)縦羽型は、羽根部材24の幅を85mm、傾斜角度30°で構成し、離隔距離d=300~600mmの位置に設置することで、βH、βLがいずれも1.0より小さくなる。αは0.67~0.77となる。
【0108】
(3)曲面型は、離隔距離dが600mm程度の適度な離隔距離を確保し、弧長WBを600~650mmとすることで、αが0.65~0.68となり、βH、βLも目標値以内となる。
【0109】
また、気流調整面21を構成する湾曲板として多孔板を用いた場合、開口率36%程度までの範囲で、α=0.60~0.65、βH=1.07~1.10、βL=0.95~1.09となり、全ての値が既製品より小さくなる。
【0110】
〔他の形態例〕
(1)本発明は、コールドアイルCA及びホットアイルHAが形成されたサーバールーム1に限定して適用されるものではなく、サーバーラックが配置されたサーバールームにおいて、特定の高負荷ラックからの排気が他のサーバーラックに与える影響を抑制することにも適用することができる。
1…サーバールーム、2…空調機、3…サーバー機、4…サーバーラック、5…サーバーラック列、6…仕切板、7…排気口、8…給気口、10・11…温度検出器、12…電力測定部、13…制御機器、20排気気流調整装置、21…気流調整面、22…脚部、23…枠体、24…羽根部材