(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141766
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】Co基合金材料およびCo基合金製造物
(51)【国際特許分類】
C22C 19/07 20060101AFI20241003BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20241003BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20241003BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241003BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20241003BHJP
B22F 10/28 20210101ALN20241003BHJP
B22F 10/25 20210101ALN20241003BHJP
B22F 10/64 20210101ALN20241003BHJP
【FI】
C22C19/07 H
C22C30/00
C22C1/04 B
C22F1/00 628
C22F1/00 621
C22F1/00 630D
C22F1/00 640A
C22F1/00 640B
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 631A
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/10 J
B22F10/28
B22F10/25
B22F10/64
C22F1/00 630C
C22F1/00 631B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053586
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】太田 敦夫
(72)【発明者】
【氏名】今野 晋也
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA04
4K018AA40
4K018BA20
4K018BB04
4K018EA11
4K018FA08
4K018KA12
4K018KA14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Ni基合金製造物と同等以上の機械的特性を有し、かつAl基金属材料との負の相互作用を抑制できるCo基合金材料及びCo基合金製造物の提供。
【解決手段】Co基合金材料は、0.26~26質量%のGaと3~45質量%のWとを含み、Ga及びWの合計が50質量%未満であり、B、C、Y、La、ミッシュメタルから選ばれる一種以上で合計2%以下の成分と、Cr、Fe、Ni、Mo、Ru、Re、Ir、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taから選ばれる一種以上で合計40質量%以下の成分とを含み、残部がCoと不純物とからなる化学組成を有する。母相γ相結晶粒には、平均サイズが0.15~1.5μmの偏析セルが形成し、偏析セル中には、Co、Ga及びWを含み粒径が0.01~0.5μmのγ’相粒子が分散析出し、偏析セルの境界領域およびγ相結晶粒の粒界上には、Co及びWを含み粒径が0.005~2μmのμ相粒子が分散析出している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co基合金材料であって、
0.26質量%以上26質量%以下のGaと、3質量%以上45質量%以下のWとを含み、前記Gaおよび前記Wの合計が50質量%未満であり、
B、C、Y、La、およびミッシュメタルから選ばれる一種以上で合計2質量%以下のE1成分と、
Cr、Fe、Ni、Mo、Ru、Re、Ir、Ti、Zr、Hf、V、Nb、およびTaから選ばれる一種以上で合計40質量%以下のE2成分と、を含み、
残部がCoと不純物とからなる化学組成を有する、ことを特徴とするCo基合金材料。
【請求項2】
請求項1に記載のCo基合金材料において、
前記化学組成は、
2質量%以上20質量%以下の前記Gaと、
5質量%以上35質量%以下の前記Wと、
40質量%以下の前記Niと、
20質量%以下の前記Crと、
15質量%以下の前記Taと、
1質量%以下の前記Cと、
0.5質量%以下のBと、を含み、
残部が前記Coと前記不純物とからなる、ことを特徴とするCo基合金材料。
【請求項3】
請求項1に記載のCo基合金材料において、
前記化学組成は、
5質量%以上15質量%以下の前記Gaと、
10質量%以上30質量%以下の前記Wと、
15質量%以上35質量%以下の前記Niと、
3質量%以上15質量%以下の前記Crと、
1質量%以上10質量%以下の前記Taと、
0.05質量%以上0.2質量%以下の前記Cと、
0.001質量%以上0.1質量%以下のBと、を含み、
残部が前記Coと前記不純物とからなる、ことを特徴とするCo基合金材料。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のCo基合金材料において、
前記化学組成は、前記不純物として0.05質量%以下のOを含む、ことを特徴とするCo基合金材料。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のCo基合金材料において、
前記Co基合金材料の母相となるγ相結晶粒の中には、平均サイズが0.15μm以上1.5μm以下の偏析セルが形成しており、
前記偏析セルの中には、前記Co、前記Gaおよび前記Wを含み粒径が0.01μm以上0.5μm以下のγ’相粒子が分散析出しており、
前記偏析セルの境界領域および前記γ相結晶粒の粒界の上には、前記Coおよび前記Wを含み粒径が0.005μm以上2μm以下のμ相粒子が分散析出している、ことを特徴とするCo基合金材料。
【請求項6】
Co基合金製造物であって、
前記Co基合金製造物は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のCo基合金材料からなり、
前記Co基合金製造物の母相となるγ相結晶粒の中には、平均サイズが0.15μm以上1.5μm以下の偏析セルが形成しており、
前記偏析セルの中には、前記Co、前記Gaおよび前記Wを含み粒径が0.01μm以上0.5μm以下のγ’相粒子が分散析出しており、
前記偏析セルの前記境界領域および前記γ相結晶粒の粒界の上には、前記Coおよび前記Wを含み粒径が0.005μm以上2μm以下のμ相粒子が分散析出している、ことを特徴とするCo基合金製造物。
【請求項7】
請求項6に記載のCo基合金製造物において、
該Co基合金製造物が摩擦攪拌接合用ツールである、ことを特徴とするCo基合金製造物。
【請求項8】
Co基合金製造物であって、
前記Co基合金製造物は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のCo基合金材料からなり、かつ平均粒径が10μm以上100μm以下のγ相結晶粒の多結晶体からなり、
前記γ相結晶粒の中には、前記Co、前記Gaおよび前記Wを含み粒径が0.01μm以上1μm以下のγ’相粒子が40体積%以上85体積%以下の範囲で分散析出しており、
前記γ相結晶粒の中および粒界の上には、前記Coおよび前記Wを含み粒径が0.005μm以上20μm以下のμ相粒子が0.15μm以上100μm以下の平均粒子間距離で分散析出している、ことを特徴とするCo基合金製造物。
【請求項9】
請求項8に記載のCo基合金製造物において、
該Co基合金製造物が摩擦攪拌接合用ツールである、ことを特徴とするCo基合金製造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Co基合金材料およびCo基合金製造物に関するものであり、特に、Al基金属材料との負の相互作用を抑制できるCo基合金材料および該材料を用いたCo基合金製造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Co(コバルト)基合金材料は、Ni(ニッケル)基合金材料とともに代表的な耐熱合金材料であり、超合金とも称されて高温環境で使用可能な部材(耐熱部材)として広く用いられている。Co基合金は、Ni基合金と比べて耐食性および耐摩耗性に優れるという特性を有する。このため、Co基合金は、従来からガスタービンや蒸気タービンなどのタービン翼、燃焼器部材、摩擦攪拌接合用ツールなどに適用されてきた。
【0003】
摩擦攪拌接合(FSW)は、接合ツールを回転させながら接合したい箇所に挿入して被接合材料を攪拌、材料流動させることによって接合する固相接合である。アーク溶接等に比して入熱量が小さいため、熱影響(例えば、熱変形、機械的強度の低下)が小さい等の特長がある。Al(アルミニウム)基合金材料やCu(銅)基合金材料は、600℃程度の温度で容易に塑性変形するため、接合ツールとして工具鋼が利用可能であり、FSWの実用化が進んでいる。
【0004】
一方、Fe(鉄)基合金材料に対するFSWでは、接合時の温度が900~1200℃まで上昇すると言われており、当該温度環境下における機械的特性(例えば、強さ、靭性、耐摩耗性)が要求されることから、工具鋼製の接合ツールが利用できず、実用化がなかなか進展しないという問題があった。
【0005】
Fe基合金材料に対するFSWの問題に対し、例えば特許文献1(特表2003-532543)が提案されている。
【0006】
一方、特許文献2(特許4996468)のように、γ’相(例えばNi3(Al,Ti)相)で析出強化されたNi基合金材料に匹敵する耐熱性を呈しかつ組織安定性にも優れたCo基合金材料の研究開発も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003-532543号公報
【特許文献2】特許第4996468号公報
【特許文献3】特願2021-142631号
【0008】
特許文献3については後述する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1によると、当該FSW用ツールを用いることによって、MMCs、鉄合金、非鉄合金及び超合金を摩擦攪拌接合することができるとされている。しかしながら、特許文献1のFSW用ツールは、高コストの材料を用いると共に高コストの方法で製造されることから、非常に高価なツールになる。そのため、Fe基合金材料のFSW用ツールの低コスト化が強く求められている。
【0010】
一方、近年では、Fe基合金材料同士のFSWに加えて、Fe基合金材料と他の金属材料とのFSW(例えば、Fe基合金材料とAl基金属材料とのFSWなど)に対して非常に強い要望がある。
【0011】
特許文献2によると、γ相中に適切な粒径のγ’相を適切な量で析出させたCo基合金は、析出強化Ni基合金材料に匹敵する耐熱性を呈しかつ良好な機械的特性(例えば、0.2%耐力、引張強さ、ビッカース硬さ)を示すとされている。このことから、特許文献2のCo基合金は、Fe基合金材料同士のFSW用ツールの材料に適用できる可能性がある。また、当該Co基合金を用いてFSW用ツールを製造すると、特許文献1のFSW用ツールよりも低コスト化が実現できると考えられる。
【0012】
しかしながら、Fe基合金材料と他の金属材料とのFSWとしてFe基合金材料とAl基金属材料との接合を想定した場合、特許文献2のCo基合金を構成するAl成分が、被接合材料のAl基金属材料と負の相互作用を起こすことが危惧される。
【0013】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来のNi基合金製造物と同等以上の機械的特性を有し、かつAl基金属材料との負の相互作用を抑制できるCo基合金材料および該材料を用いたCo基合金製造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(I)本発明の一態様は、Co基合金材料であって、
0.26質量%以上26質量%以下のGa(ガリウム)と、3質量%以上45質量%以下のW(タングステン)とを含み、前記Gaおよび前記Wの合計が50質量%未満であり、
B(ホウ素)、C(炭素)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、およびミッシュメタルから選ばれる一種以上で合計2質量%以下のE1成分と、
Cr(クロム)、Fe、Ni、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Re(レニウム)、Ir(イリジウム)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、およびTa(タンタル)から選ばれる一種以上で合計40質量%以下のE2成分と、を含み、
残部がCoと不純物とからなる化学組成を有する、ことを特徴とするCo基合金材料を提供するものである。
【0015】
本発明は、上記のCo基合金材料(I)において、以下のような改良や変更を自由に組み合わせながら加えることができる。
(i)前記化学組成は、2質量%以上20質量%以下の前記Gaと、5質量%以上35質量%以下の前記Wと、40質量%以下の前記Niと、20質量%以下の前記Crと、15質量%以下の前記Taと、1質量%以下の前記Cと、0.5質量%以下のBと、を含み、
残部が前記Coと前記不純物とからなる。
(ii)前記化学組成は、5質量%以上15質量%以下の前記Gaと、10質量%以上30質量%以下の前記Wと、15質量%以上35質量%以下の前記Niと、3質量%以上15質量%以下の前記Crと、1質量%以上10質量%以下の前記Taと、0.05質量%以上0.2質量%以下の前記Cと、0.001質量%以上0.1質量%以下のBと、を含み、
残部が前記Coと前記不純物とからなる。
(iii)前記化学組成は、前記不純物として0.05質量%以下のO(酸素)を含む。
(iv)前記Co基合金材料の母相となるγ(ガンマ)相結晶粒の中には、平均サイズが0.15μm以上1.5μm以下の偏析セルが形成しており、
前記偏析セルの中には、前記Co、前記Gaおよび前記Wを含み粒径が0.01μm以上0.5μm以下のγ’(ガンマ プライム)相粒子が分散析出しており、
前記偏析セルの境界領域および前記γ相結晶粒の粒界の上には、前記Coおよび前記Wを含み粒径が0.005μm以上2μm以下のμ(ミュー)相粒子が分散析出している。
【0016】
(II)本発明の他の一態様は、Co基合金製造物であって、
該Co基合金製造物は、上記のCo基合金材料からなり、
前記Co基合金製造物の母相となるγ相結晶粒の中には、平均サイズが0.15μm以上1.5μm以下の偏析セルが形成しており、
前記偏析セルの中には、前記Co、前記Gaおよび前記Wを含み粒径が0.01μm以上0.5μm以下のγ’相粒子が分散析出しており、
前記偏析セルの境界領域および前記γ相結晶粒の粒界の上には、前記Coおよび前記Wを含み粒径が0.005μm以上2μm以下のμ相粒子が分散析出している、ことを特徴とするCo基合金製造物を提供するものである。
【0017】
(III)本発明の他の一態様は、Co基合金製造物であって、
該Co基合金製造物は、上記のCo基合金材料からなり、かつ平均粒径が10μm以上100μm以下のγ相結晶粒の多結晶体からなり、
前記γ相結晶粒の中には、前記Co、前記Gaおよび前記Wを含み粒径が0.01μm以上1μm以下のγ’相粒子が40体積%以上85体積%以下の範囲で分散析出しており、
前記γ相結晶粒の中および粒界の上には、前記Coおよび前記Wを含み粒径が0.005μm以上20μm以下のμ相粒子が0.15μm以上100μm以下の平均粒子間距離で分散析出している、ことを特徴とするCo基合金製造物を提供するものである。
【0018】
本発明において、γ相、γ’相、μ相、偏析セルのサイズは、微細組織観察画像に対して画像処理ソフトウェア(例えば、ImageJ、米国National Institutes of Health開発のパブリックドメインソフトウェア)を用いて測定したものとする。ImageJでは、測定対象の形状を円、楕円、長方形等に近似し、サイズを算出する。本発明では、微細組織観察画像内の測定対象ごとに形状近似を行った後に該測定対象の最大長さおよび最小長さを計測し、これらを平均した値を当該測定対象のサイズとみなす。平均サイズは、1つの観察画像内で50個程度の測定対象のサイズを平均した値とする。
【0019】
また、本発明において、μ相の平均粒子間距離は、微細組織観察画像に対して画像処理ソフトウェアを用い、着目したμ相粒子の重心座標を中心に放射状にμ相粒子を検索し、隣り合うμ相粒子の重心間距離を平均したものとする。
【0020】
本発明は、上記のCo基合金製造物(II),(III)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(v)前記Co基合金製造物は、摩擦攪拌接合用ツールである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来のNi基合金製造物と同等以上の機械的特性を有し、かつAl基金属材料との負の相互作用を抑制できるCo基合金材料および該材料を用いたCo基合金製造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係るCo基合金製造物の製造方法の工程例を示すフロー図である。
【
図2】出発材料用意工程で得られるCo基合金粉末の微細組織の一例を示す概略模式図である。
【
図3】時効処理工程で得られるCo基合金製造物の微細組織の一例を示す概略模式図である。
【
図4】本発明に係るCo基合金製造物の一例であり、FSW用ツールを示す斜視模式図である。
【
図5】本発明に係るCo基合金製造物の他の一例であり、耐熱部材としてのタービン静翼を示す斜視模式図である。
【
図6】本発明に係るCo基合金製造物を装備するガスタービンの一例を示す断面模式図である。
【
図7】本発明に係るCo基合金製造物の他の一例であり、耐熱部材としての熱交換器を示す斜視模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[本発明の基本思想]
Co基合金材料は、一般的に、Ni基合金材料と比較して融点が50~100℃程度高く、置換型元素の拡散係数がNi基合金よりも小さいため、高温での使用中に生じる組織変化が少ないという特徴がある。また、Co基合金材料は、Ni基合金材料と比較して延性に富んでいるため、鍛造、圧延、プレス等の塑性加工が容易という特徴がある。さらに、Co基合金材料は、弾性率が220~230 GPa程度あり、Ni基合金材料の約200 GPaと比較して1割以上大きいという特徴がある。これらの特徴から、Co基合金材料は、Ni基合金材料よりも広い用途の展開が期待されている。
【0024】
例えば、Co基合金材料は、耐熱部材の用途に加えて、ゼンマイ、バネ、ワイヤ、ベルト、ケーブルガイド等の高強度、高弾性が必要な用途にも使用可能である。また、Co基合金材料は、硬質でありかつ耐磨耗性に優れていることから、FSW用ツール材料としても好適と考えられる。
【0025】
Co基合金材料では、Ni基合金材料のL12型構造のγ’相(例えば、Ni3Al相)に対応する析出強化相としてCo3Ti相、Co3Ta相、Co3(Al,W)相などが知られている。ただし、Co3Ti相およびCo3Ta相は、母相となるγ相に対する格子定数のミスマッチが1%以上あり、耐クリープ性の観点で不利である。これに対し、Co3(Al,W)相は、γ相とのミスマッチが0.5%程度以下であるため、好適な析出強化相になりえる。
【0026】
しかしながら、Co基合金材料は、合金組成および/または製造プロセスが好適な範囲から外れると、望まない異相(例えば、TCP相[Topologically Close Packed phases]の一種であるμ相)が析出し易く、そのような異相が粗大化すると、合金材料の機械的特性が大きく損なわれることが知られている。
【0027】
特許文献3(特願2021-142631)には、従来と同等以上の機械的特性が得られ、かつ従来よりも製造歩留まりの低下を抑制することを目的として、望まない異相の析出・粗大化を抑制する方法が検討されている。検討の結果、望まない異相の析出を完全に防止することは困難であるが、合金材料の融液を急速凝固させることによって該異相の析出を微細分散させることができ、該異相による負の影響を抑制できることが見出されている。
【0028】
一方、本発明者等は、Co3(Al,W)相を微細分散析出させたCo基合金材料からなるFSW用ツールを用意してFe基合金材料とAl基金属材料とのFSW実験を行った。その結果、接合不良が発生して期待したレベルの接合とはならなかった。
【0029】
なお、Ni3(Al,Ti)相を微細分散析出させたNi基合金材料からなるFSW用ツールを用いた場合も、該Ni基合金材料がAl成分を含有することから上記と同様の結果になった。
【0030】
そこで、Ni基合金材料と同等以上の機械的特性を有しながら、Al成分を含有しないCo基合金材料を鋭意研究した。その結果、Co3(Ga,W)相およびその固溶体相(A3B型化合物のAサイトおよびBサイトの一部が他の元素で置換された相)を微細分散析出させたCo基合金材料およびそれを用いた製造物が所望の特性を満たすことを見出した。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものである。
【0031】
以下、図面を参照しながら、Co基合金製造物の製造手順に沿って本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。例えば、本発明の適用物やその用途は、以下の説明に限定されるものではない。
【0032】
[Co基合金製造物の製造方法]
図1は、本発明に係るCo基合金製造物の製造方法の工程例を示すフロー図である。本発明に係るCo基合金製造物の製造方法は、概略的に、Co基合金製造物の出発材料(すなわちCo基合金材料)を用意する出発材料用意工程S1と、用意した出発材料を用いて所望形状の合金物品を形成する合金物品形成工程S2と、得られた合金物品に対して母相結晶粒の中に所望量の析出強化相粒子を析出させる時効処理を行う時効処理工程S3とを有する。
【0033】
工程S1で得られる出発材料は本発明に係るCo基合金材料の一形態であり、工程S2で得られる合金物品および工程S3で得られる時効処理物品が本発明に係るCo基合金製造物の一形態となる。
【0034】
必要に応じて、工程S3で得られた時効処理物品に対して、表面仕上げをする表面処理工程S4を更に行ってもよい。工程S4は、必須の工程ではないが、Co基合金製造物の形状や使用環境を考慮して行ってもよい。工程S4を経た時効処理物品も、本発明に係るCo基合金製造物の一形態となる。
【0035】
以下、各工程をより詳細に説明する。
【0036】
(出発材料用意工程)
出発材料用意工程S1は、Co基合金材料を用意する工程である。出発材料を用意する方法・手法としては、基本的に従前の合金製造方法・手法を利用できる。例えば、所望の化学組成となるように原料を混合・溶解・鋳造して母合金塊(マスターインゴット)を作製する母合金塊作製素工程S1aを行ってもよいし、該母合金塊から合金粉末を形成するアトマイズ素工程S1bを更に行ってもよい。
【0037】
本発明に係るCo基合金材料は、0.26質量%以上26質量%以下のGaと、3質量%以上45質量%以下のWとを含み、GaおよびWの合計が50質量%未満であり、B、C、Y、La、およびミッシュメタルから選ばれる一種以上で合計2質量%以下のE1成分と、Cr、Fe、Ni、Mo、Ru、Re、Ir、Ti、Zr、Hf、V、Nb、およびTaから選ばれる一種以上で合計40質量%以下のE2成分と、を含み、残部がCoと不純物とからなる化学組成を有する。また、該不純物は、0.05質量%以下のOを含む。
【0038】
上記の化学組成を有することにより、工程S2で得られる合金物品において、母相となるγ相結晶粒の中に、平均サイズが0.15μm以上1.5μm以下の偏析セルが形成し、該偏析セルの中に、粒径が0.01μm以上0.5μm以下でL12型構造のγ’相(Co3(Ga,W)相およびその固溶体相)の粒子が析出強化相として分散析出しており、かつ該偏析セルの境界領域およびγ相結晶粒の粒界の上に、CoおよびWを含み粒径が0.005μm以上2μm以下のμ相の粒子が分散析出している微細組織が得られる。
【0039】
また、上記の化学組成を有することにより、工程S3で得られる時効処理物品において、母相となるγ相結晶粒が10μm以上100μm以下の平均粒径を有し、該γ相結晶粒の中に、粒径が0.01μm以上0.5μm以下で析出強化相としてL12型構造のγ’相(Co3(Ga,W)相およびその固溶体相)の粒子が40体積%以上85体積%以下の範囲で分散析出しており、かつ該γ相結晶粒の中および粒界の上に、CoおよびWを含み粒径が0.005μm以上2μm以下のμ相の粒子が0.15μm以上100μm以下の平均粒子間距離で分散析出している微細組織が得られる。
【0040】
なお、Co3(Ga,W)の固溶体相は、(Co,X)3(Ga,W,Z)と表すことができる。XにはCr、Fe、Ru、Reおよび/またはIrが入り、ZにはMo、Ti、Zr、Hf、V、Nbおよび/またはTaが入り、NiはX、Zの双方に入りえる。
【0041】
Co基合金材料の化学組成について説明する。
【0042】
Ga:0.26質量%以上26質量%以下
Gaは、析出強化相となるγ’相の必須構成成分であり、耐酸化性の向上にも寄与する。Ga含有率は、0.26質量%以上26%質量%以下が好ましく、2質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。Ga含有率が0.26質量%未満では、γ’相の析出量が不十分となって析出強化に寄与しない。一方、Ga含有率が26質量%超では、硬質で脆弱な異相の生成を助長する。
【0043】
W:3質量%以上45質量%以下
Wは、γ’相の必須構成成分であると共に、γ相を固溶強化する作用効果も有する。W含有率は、3質量%以上45%質量%以下が好ましく、5質量%以上35質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下が更に好ましい。W含有率が3質量%未満では、γ’相の析出量が不十分となって析出強化に寄与しない。一方、W含有率が45質量%超では、硬質で脆弱な異相の生成を助長する。
【0044】
GaとWとの合計:50質量%未満
上記GaとWとの合計は、50質量%未満が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。AlとWとの合計が50質量%超になると、硬質で脆弱な異相の生成を助長する。
【0045】
E1成分:2質量%以下
E1成分は、B、C、Y、La、およびミッシュメタルから選ばれる一種以上で構成され、合計2質量%以下の範囲で添加できる任意成分である。添加する場合は、合計で0.001質量%以上が好ましい。個々のE1成分について説明する。
【0046】
B:0.5質量%以下
Bは、結晶粒界の接合性の向上(いわゆる粒界強化)に寄与する成分であり、高温強度の向上に寄与する。Bは必須成分ではないが、含有させる場合、0.001質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.002質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。B含有率が0.5質量%超になると、積層造形体形成時に割れが発生し易くなる。
【0047】
C:1質量%以下
Cは、Bと同様に粒界強化に寄与する成分であり、MC型炭化物(Mは遷移金属、Cは炭素)の微粒子を生成し分散析出すると機械的強度の向上に寄与する。Cは必須成分ではないが、含有させる場合、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.2質量%以下が更に好ましい。C含有率が1質量%超になると、MC型炭化物以外の炭化物が過剰析出したり、過度に硬化したりすることで、合金材料の靱性が低下する。
【0048】
Y、La、ミッシュメタル:各1質量%以下
Y、Laおよびミッシュメタルは、いずれも耐酸化性の向上に有効な成分である。Y、Laおよびミッシュメタルは必須成分ではないが、含有させる場合、それぞれ0.01質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がより好ましい。それら成分の含有率が1質量%超になると、組織安定性に悪影響を及ぼしうる。
【0049】
E2成分:40質量%以下
E2成分は、Cr、Fe、Ni、Mo、Ru、Re、Ir、Ti、Zr、Hf、V、Nb、およびTaから選ばれる一種以上で構成され、合計0.1質量%以上40質量%以下の範囲で添加できる任意成分である。添加する場合は、合計で0.1質量%以上が好ましい。個々のE2成分について説明する。
【0050】
E2成分は、γ相とγ’相との両方に固溶できる成分である。γ相に対するγ’相のx元素の分配係数は、「Kxγ’/γ=Cxγ’/Cxγ」(Cxγ’:γ’相中のx元素の原子%濃度、Cxγ:γ相中のx元素の原子%濃度)と表される。「分配係数≧1」はγ’相の安定化元素を意味し、「分配係数<1」はγ相の安定化元素を意味する。例えばMo、Ti、V、Nb、およびTaは「分配係数≧1」の成分であり、γ’相の安定化に寄与する。
【0051】
Cr:20質量%以下
Crは、「分配係数<1」の成分であり、合金製造物の表面に酸化物被膜(Cr2O3)を形成して耐食性と耐酸化性との向上に寄与する。Crは必須成分ではないが、含有させる場合、1質量%以上20%質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下がより好ましく、6質量%以上10質量%以下が更に好ましい。Cr含有率が20質量%超になると、異相の一種であるσ相の生成を助長して機械的特性(靱性、延性、強さ)が低下する。
【0052】
Fe:10質量%以下
Feは、Coと置換することで加工性の向上に寄与する成分である。Feは必須成分ではないが、含有させる場合、1質量%以上10%質量%以下が好ましく、2質量%以上5質量%以下がより好ましい。Fe含有率が10質量%超になると、高温域における組織の不安定化をもたらす原因となる。
【0053】
Ni:40質量%以下
Niは、γ’相を構成するCo、Ga、Wと置換することでγ’相の高温安定度を向上させると共に、合金材の耐熱性および/または耐食性の向上に寄与する成分である。Niは必須成分ではないが、含有させる場合、1質量%以上40%質量%以下が好ましく、10質量%以上38質量%以下がより好ましく、15質量%以上35質量%以下が更に好ましい。Ni含有率が40質量%超になると、Co基合金材料の特徴である耐摩耗性や局所応力への耐性が低下する。
【0054】
Mo:15質量%以下
Moは、「分配係数≧1」の成分であるためγ’相の安定化に寄与すると共に、γ相を固溶強化する作用効果も有する。Moは必須成分ではないが、含有させる場合、1質量%以上15%質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましい。Mo含有率が15質量%超になると、σ相の生成を助長して機械的特性(靱性、延性、強さ)が低下する。
【0055】
Ru、Re:それぞれ10質量%以下
RuおよびReは、耐酸化性の向上に有効な成分である。RuおよびReは必須成分ではないが、含有させる場合、それぞれ0.5質量%以上10%質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。Ru含有率またはRe含有率が10質量%超になると、異相の生成を助長する。
【0056】
Ir:40質量%以下
Irは、γ’相中のCoと置換し易く、耐食性と耐酸化性との向上に寄与する成分である。Irは必須成分ではないが、含有させる場合、1質量%以上40%質量%以下が好ましく、5質量%以上35質量%以下がより好ましい。Ir含有率が50質量%超になると、異相の生成を助長する。
【0057】
Ti、Zr、Hf、V:それぞれ10質量%以下、Nb、Ta:それぞれ20質量%以下
Ti、Zr、Hf、V、NbおよびTaは、「分配係数≧1」の成分であるためγ’相の安定化に寄与し、機械的特性の向上に貢献する。Ti、Zr、Hf、V、NbおよびTaは必須成分ではないが、Tiを含有させる場合、0.5質量%以上10%質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。Zrを含有させる場合、1質量%以上10%質量%以下が好ましく、2質量%以上7質量%以下がより好ましい。Hfを含有させる場合、1質量%以上10%質量%以下が好ましく、2質量%以上7質量%以下がより好ましい。Vを含有させる場合、0.5質量%以上10%質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。Nbを含有させる場合、1質量%以上20%質量%以下が好ましく、2質量%以上15質量%以下がより好ましく、3質量%以上8質量%以下が更に好ましい。Taを含有させる場合、1質量%以上20%質量%以下が好ましく、1.5質量%以上15質量%以下がより好ましく、2質量%以上10質量%以下が更に好ましい。Taは他の成分よりもγ’相安定化の作用効果が高いので、Taを含有させることは特に好ましい。
【0058】
O:0.05質量%以下
合金材料において通常Oは不純物成分であるが、本発明のCo基合金材料においては、微細組織制御(例えば、γ相結晶粒の粗大化抑制)の観点から0.05質量%以下の範囲で許容される成分である。O成分を意図的に含有させる場合、O含有率は、0.007質量%(70 ppm)以上0.05%質量%(500 ppm)以下が好ましく、0.009質量%以上0.04質量%以下がより好ましく、0.011質量%以上0.03質量%以下が更に好ましい。γ相結晶粒の粗大化抑制を化学組成制御以外の方法で行う場合は、O含有率が0.007質量%未満であってもよい。一方、O含有率が0.05質量%超では、酸化物の粗大粒子を形成して機械的特性の低下要因になる。
【0059】
O成分を意図的に含有させる場合、O含有率の制御はアトマイズ素工程S1bで行うことが好ましい。アトマイズ方法は、Co基合金材料のO含有率を制御する以外は従前の方法・手法を利用できる。例えば、アトマイズ雰囲気中の酸素量(O2分圧)を制御しながらのガスアトマイズ法や遠心力アトマイズ法を好ましく用いることができる。素工程S1bにより、ほぼ球状粒子の合金粉末が得られる。
【0060】
工程S1で得られる合金粉末は、化学組成としてO成分を従来のCo基合金材料よりも多く含有している(O成分を多く含有するように制御される)。このことから、本発明に係るCo基合金粉末では、合金融液が粉末粒子に固化する際に、含有するO原子が合金の金属原子と化合して局所的に極小酸化物を形成すると考えられる。そして、酸化物生成に起因する異種界面は、合金融液の凝固の基点(γ相結晶の核生成サイト)になり易い。その結果、合金粉末の各粒子は、基本的に1粒子がγ相微細結晶の多結晶体となり、該γ相微細結晶の平均結晶粒径は、5~50μm程度となる。なお、本発明は、合金粉末にγ相結晶の単結晶体からなる粒子が混在することを否定するものではない。
【0061】
ここで、合金粉末の粒度は、次工程の合金物品形成工程S2におけるハンドリング性や合金物品の形状精度の観点から、0.3μm以上90μm以下が好ましく、1μm以上70μm以下がより好ましく、5μm以上50μm以下が更に好ましい。合金粉末の粒度が0.3μm未満になると、次工程S2において合金粉末の流動性が低下して、合金物品の成形性が低下する要因となる。一方、合金粉末の粒度が90μm超になると、次工程S2において合金物品の表面粗さが増加したり形状精度が低下したりする要因となる。
【0062】
上記のことから、Co基合金材料を粉末とする場合は、該粉末の粒度を0.3μm以上90μm以下の範囲に分級する合金粉末分級素工程S1cを行うことは、好ましい。本発明においては、得られた合金粉末の粒度分布をレーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置で測定した結果、所望の範囲内にあることを確認した場合も、本素工程S1cを行ったものと見なす。
【0063】
なお、本発明における粒度範囲0.3~90μmとは、合金粉末量の90質量%以上が粒度0.3μm以上90μm以下の範囲にあることと定義する。また、分級した粉末の粒度15μm以上45μm以下の粉末50 gに対して、JIS Z 2502:2012に準拠して金属粉-流動度測定(ホールフロー試験)を行った場合に、流動度(粉末が所定のオリフィスから流出するのに要する時間)が15秒以上30秒以下であることは好ましい。
【0064】
(Co基合金粉末の微細組織)
図2は、出発材料用意工程S1で得られるCo基合金粉末の微細組織の一例を示す概略模式図である。
図2の概略模式図は、合金粉末粒子の断面を走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)によって観察した様子を描いたものである。微細組織観察から、合金粉末粒子は、平均結晶粒径が5μm以上50μm以下のγ相微細結晶の多結晶体であり、該多結晶体の微細結晶粒内には、平均サイズが0.15μm以上1.5μm以下の極小セルが形成していることが確認された。
【0065】
なお、当該極小セルの内部と、セル間の境界領域(極小セルの外周領域、セル壁のような領域)とは、SEMの反射電子像において明暗に差異があることが確認された。これは、セル内部の平均組成と境界領域の平均組成とに差異があることを意味する(例えば、ある成分が境界領域に偏在し、他の成分がセル内部に偏在することを意味する)。このように合金成分がセル内部や境界領域に偏在した極小セルを、本発明では「偏析セル」と称する。
【0066】
また、偏析セルの内部には、粒径が0.01μm以上0.5μm以下のγ’相粒子(Co3(Ga,W)をベースとする粒子)が分散析出していることが確認され、偏析セルの境界領域上およびγ相微細結晶の粒界上には、粒径が0.005μm以上2μm以下のμ相粒子(Co3W2をベースとする粒子)が分散析出していることが確認された。
【0067】
得られた電子顕微鏡観察像に対して画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いた画像解析によりγ’相粒子の析出量を算出したところ、40体積%未満であり、合金組成から推定される析出量よりも少ないものであった。これは、合金粉末粒子が急速凝固により形成されたものであること、および偏析セルの境界領域上にγ’相を構成する成分が偏析していること、に起因すると考えられる。
【0068】
(合金物品形成工程)
合金物品形成工程S2は、工程S1で用意したCo基合金材料を用いて所望形状の合金物品を形成する工程である。合金物品の形成方法に特段の限定はなく、例えば、合金粉末を用いて付加製造(AM)法により合金物品を形成するAM素工程S2a、合金粉末を用いて熱間等方圧プレス(HIP)法により合金物品を形成するHIP素工程S2b、または合金塊を用いて鍛造法により合金物品を形成する鍛造素工程S2cなどを好適に利用できる。AM法としては、粉末床溶融結合(PBF)法および指向性エネルギー堆積(DED)法を好適に利用できる。
【0069】
(合金物品の微細組織)
工程S2においてPBF法によって得られた合金物品の微細組織を、SEM-EDXを用いて観察した。図示は省略するが、
図2とほぼ同じ微細組織が観察された。この結果は、PBF法による付加製造が合金粉末床の局所溶融・急速凝固によるものであることに起因する。
【0070】
本発明は、最終的なCo基合金製造物で望ましい微細組織を得るために、工程S2において該製造物の前駆体となる合金物品の微細組織を制御するものであり、当該合金物品の微細組織を制御するために、工程S1においてCo基合金材料の化学組成と微細組織とを制御するものである。
【0071】
(時効処理工程)
時効処理工程S3は、工程S2で得られた合金物品に対してγ相結晶粒の中に所望量のγ’相粒子析出させる時効処理を行う工程である。時効処理の温度は、500℃以上1100℃未満が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましく、500℃以上900℃以下が更に好ましい。
【0072】
時効処理は、当該温度範囲内において、1種類の温度で行う1段熱処理であってもよいし、複数種類の温度で行う多段熱処理であってもよい。例えば、500℃以上700℃以下の温度範囲内で第1時効処理を行った後に、600℃以上800℃以下の温度範囲内でかつ第1時効処理の温度よりも高い温度で第2時効処理を行うスケジュールは、好ましい。熱処理の保持時間は、被熱処理物の熱容量を考慮して適宜設定すればよい。工程S3により、本発明に係るCo基合金製造物が得られる。
【0073】
(Co基合金製造物の微細組織)
図3は、時効処理工程S3で得られるCo基合金製造物の微細組織の一例を示す概略模式図である。
図3の概略模式図は、
図2と同様に、合金製造物の断面をSEM-EDXによって観察した様子を描いたものである。微細組織観察から、合金製造物は、平均粒径が10μm以上100μm以下のγ相結晶粒の多結晶体からなり、γ相結晶粒の中には粒径が0.01μm以上1μm以下のγ’相粒子が分散析出しており、該γ相結晶粒の中および粒界の上には粒径が0.005μm以上20μm以下のμ相粒子が0.15μm以上100μm以下の平均粒子間距離で分散析出していることが確認された。また、
図2に示したような偏析セルの境界領域は視認できなかった。
【0074】
得られた電子顕微鏡観察像に対してImageJを用いた画像解析によりγ’相粒子の析出量を算出したところ、40体積%以上あり、合金組成から推定される析出量と合致するものであった。この要因は、工程S3の時効熱処理によって、偏析セルの境界領域に存在した成分が該境界領域に沿って拡散しながらγ’相粒子を形成したこと、原子の再配列(γ相の再結晶)が生じてγ相結晶粒が成長したこと、熱処理温度がγ’相の固溶温度未満であることからμ相粒子の成長が抑制されたこと、が複合的に関連している。
【0075】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、本発明のCo基合金製造物およびその製造方法は、γ相結晶粒の中にγ’相粒子が微細分散析出していることから、従来技術と同等の機械的特性が得られると言える。また、機械的特性や製造歩留まりを阻害するμ相を粗大化させることなく微細分散させていることから、従来技術よりも製造歩留まりを向上させることができる。
【0076】
[Co基合金製造物]
図4は、本発明に係るCo基合金製造物の一例であり、FSW用ツールを示す斜視模式図である。FSW用ツール100は、本発明のCo基合金材料を用いることによって、Co基合金が有する優れた耐熱性、高強度、硬さ、耐摩耗性という利点を十分に享受できることに加えて、Al基金属材料との負の相互作用を抑制できる。
【0077】
本発明に係るCo基合金製造物は、FSW用ツールに限定されるものではなく、高温環境で使用される部材(耐熱部材)にも適用することができる。
【0078】
例えば、
図5は、本発明に係るCo基合金製造物の他の一例であり、耐熱部材としてのタービン静翼を示す斜視模式図である。タービン静翼200は、概略的に、内輪側エンドウォール220と翼部210と外輪側エンドウォール230とから構成される。翼部の内部には、しばしば冷却構造が形成される。本発明のCo基合金製造物は、タービン動翼として用いてもよい。
【0079】
図6は、本発明に係るCo基合金製造物を装備するガスタービンの一例を示す断面模式図である。ガスタービン300は、概略的に、吸気を圧縮する圧縮機部310と燃料の燃焼ガスをタービン翼に吹き付けて回転動力を得るタービン部320とから構成される。本発明の耐熱部材は、タービン部320内のタービンノズル321やタービン静翼200やタービン動翼322として好適に用いることができる。本発明の耐熱部材は、ガスタービン用途に限定されるものではなく、他のタービン用途(例えば、蒸気タービン用途)であってもよいし、他の機械/装置における高温環境下で使用される部材であってもよい。
【0080】
図7は、本発明に係るCo基合金製造物の他の一例であり、耐熱部材としての熱交換器を示す斜視模式図である。熱交換器400は、プレートフィン型熱交換器の例であり、基本的にセパレート層410とフィン層420とが交互に積層された構造を有している。フィン層420の流路幅方向の両端は、サイドバー部430で封じられている。隣接するフィン層420に高温流体と低温流体とを交互に流通させることにより、高温流体と低温流体との間で熱交換がなされる。
【0081】
熱交換器400を付加製造法で製造した場合、従来の熱交換器における構成部品(例えば、セパレートプレート、コルゲートフィン、サイドバー)をろう付け接合や溶接接合することなしに一体形成されることから、熱交換器400は、従来の熱交換器よりも耐熱化や軽量化することができる。また、流路表面に適切な凹凸形状を形成することにより、流体を乱流化して熱伝達効率を向上させることができる。熱伝達効率の向上は、熱交換器の小型化につながる。
【実施例0082】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0083】
[実験1]
(発明合金材料IA-1および比較合金材料CA-1の用意)
発明合金材料IA-1および比較合金材料CA-1の作製にあたって、まずCo基合金の原料を混合・溶解・鋳造してマスターインゴット(100 kg)を用意した。溶解は真空誘導加熱溶解法により行った。つぎに、得られたマスターインゴットを再溶解し、アトマイズ雰囲気中のO2分圧を制御しながらのガスアトマイズ法により合金粉末を作製した。
【0084】
IA-1の化学組成は、Ga:8.8質量%(9.0原子%)、W:20.4質量%(7.9原子%)、Ni:25.6質量%(30.9原子%)、Cr:7.5質量%(10.3原子%)、Ta:5.1質量%(2.0原子%)、C:0.10質量%(0.62原子%)、B:0.009質量%(0.062原子%)、O:0.014質量%(0.060原子%)、残部:Crおよび他の不純物、とした。CA-1の化学組成は、Al:3.6質量%、W:21.5質量%、Ni:27.0質量%、Cr:8.0質量%、Ta:5.4質量%、C:0.11質量%、B:0.010質量%、O:0.014質量%、残部:Crおよび他の不純物、とした。なお、CA-1は、特許文献3に係る合金材料であり、IA-1およびCA-1の化学組成は、原子%換算した場合に、AlとGaとを入れ替えた以外は同じ比率になる。
【0085】
作製したIA-1粉末およびCA-1粉末の粒度を、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、SYNC)を用いて測定し、それぞれの粒度が0.3μm以上90μm以下の範囲に入っていることを確認した。また、IA-1粉末およびCA-1粉末の一部を粒度15μm以上45μm以下の範囲に分級し、該分級したIA-1粉末50 gおよびCA-1粉末50 gに対して、JIS Z 2502:2012に準拠してホールフロー試験を行い、流動度が15秒以上30秒以下の範囲に入っていることを確認した。
【0086】
[実験2]
(発明合金製造物IP-1および比較合金製造物CP-1の用意)
実験1で用意したIA-1およびCA-1を用いてPBF法によりFSW用ツールの形状(
図4参照)に造形した合金物品を作製した。PBFの条件は、合金粉末床の厚さhを100μmとし、レーザ光の出力Pを100 Wとし、レーザ光の走査速度S(mm/s)を種々変更することによって局所入熱量P/S(単位:W・S/mm=J/mm)を制御して、γ相結晶粒の平均粒径が10μm以上100μm以下の範囲に入るように調整した。局所入熱量の制御は、冷却速度の制御に相当する。
【0087】
つぎに、用意した合金物品に対して、650℃で24時間保持する第1時効処理と760℃で16時間保持する第2時効処理とを行って、発明合金製造物IP-1および比較合金製造物CP-1を作製した。
【0088】
[実験3]
(比較合金材料CA-2および比較合金製造物CP-2の用意)
市販のNi基合金材料(仏国Aubert & Duval社製、Pearl(R) Micro ABD(R)-900AM)を用意し、当該Ni基合金材料に適した条件でPBF法によりFSW用ツールの形状(
図4参照)に造形した合金物品を作製した。また、用意した合金物品に対して、当該Ni基合金材料に適した条件で溶体化-時効処理を行って比較合金製造物CP-2を作製した。
【0089】
[実験4]
(微細組織観察および機械的特性試験)
発明合金材料IA-1、IA-1を用いた合金物品、発明合金製造物IP-1、および比較合金製造物CP-1~CP-2の微細組織を観察した。
【0090】
IA-1およびそれを用いた合金物品では、
図2で説明したように、平均結晶粒径が5μm以上50μm以下のγ相微細結晶の多結晶体であり、該多結晶体の微細結晶粒内には、平均サイズが0.15μm以上1.5μm以下の極小セルが形成されていることが確認された。
【0091】
また、IP-1では、
図3で説明したように、平均粒径が10μm以上100μm以下のγ相結晶粒の多結晶体からなり、γ相結晶粒の中には粒径が0.01μm以上1μm以下のγ’相粒子が分散析出しており、該γ相結晶粒の中および粒界の上には粒径が0.005μm以上20μm以下のμ相粒子が0.15μm以上100μm以下の平均粒子間距離で分散析出していることが確認された。
【0092】
図示は省略するが、CP-1では、IP-1と同様の微細組織(
図3参照)が確認された。言い換えると、IP-1は、特許文献3と同様に、望まない異相の析出を微細分散させることができており、該異相による負の影響を抑制できる。CP-2では、Ni基合金製造物における従来技術どおりの微細組織が確認された。
【0093】
機械的特性を確認するために、IP-1およびCP-2に対してクリープ試験を行った。試験条件は、750℃の温度環境で600 MPaの応力を負荷する試験と、840℃の温度環境で200 MPaの応力を負荷する試験とを行い、それぞれ破断時間を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
【0095】
表1に示したように、発明合金製造物IP-1は、比較合金製造物CP-2に比して同等以上の機械的特性を有することが確認される。
【0096】
[実験5]
(FSW試験)
被接合材試料として市販の高張力鋼板(H-SA700A)とAl基金属板(A1050)とを用意し(それぞれ厚さ3 mm)、実験2~3で用意した製造物IP-1およびCP-1~CP-2を用いてFSWで突き合わせ接合する試験を行った。FSW条件は、ツール回転速度1000 rpm、ツール送り速度400 mm/min、接合長さ1000 mmとした。
【0097】
FSW試験を行った後、接合部分の様子を目視で観察した。良好な接合ができていると判断できるものを「合格」と判定し、不接合箇所やバリ発生などの接合不良が生じているものを「不合格」と判定した。
【0098】
その結果、製造物IP-1を用いたFSWは、接合長さ全てに亘って良好な接合ができており、「合格」と判定した。一方、製造物CP-1~CP-2を用いたFSWは、ところどころでバリが発生しており、「不合格」と判定した。FSW試験後の製造物CP-1~CP-2を確認したところ、Al基金属板の小片が固着しており、合金材料CA-1~CA-2中のAl成分と被接合材のAl基金属板とが負の相互作用を起こしたと考えられる。
【0099】
以上示したように、微細組織観察、機械的特性試験、およびFSW試験の結果から、本発明に係るCo基合金材料を用いたCo基合金製造物は、従来のNi基合金製造物と同等以上の機械的特性を有することに加えて、Al基金属材料との負の相互作用を抑制できることが確認された。