(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141787
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】鋼管継手の設計方法、鋼管継手および構造物
(51)【国際特許分類】
E02D 5/24 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
E02D5/24 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053621
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】久積 和正
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
(72)【発明者】
【氏名】柳 悦孝
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】北濱 雅司
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 辰昭
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA02
2D041BA19
2D041CB06
2D041DB02
2D041DB13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】3次元的な変形を評価することによってより効果的に継手構造の変形を抑制する。
【解決手段】第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、複数の山部を有する複数の内嵌段部と複数の内嵌溝部とが管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、内嵌端部が外嵌端部の内側に嵌合することによって第1鋼管と第2鋼管とを連結する鋼管継手において、外嵌端部または内嵌端部の少なくともいずれかを、基端部管厚t
p、第1鋼管および第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、管軸方向の段部長さL、管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(i)を満たすように設計する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、前記管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の内嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の内嵌溝部とが前記管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、前記内嵌端部が前記外嵌端部の内側に嵌合することによって前記第1鋼管と前記第2鋼管とを連結する鋼管継手の設計方法であって、
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかを、基端部管厚t
p、前記第1鋼管および前記第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、前記管軸方向の段部長さL、前記管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(i)を満たすように設計する、鋼管継手の設計方法。
【請求項2】
第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、前記管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の内嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の内嵌溝部とが前記管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、前記内嵌端部が前記外嵌端部の内側に嵌合することによって前記第1鋼管と前記第2鋼管とを連結する鋼管継手の設計方法であって、
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかを、基端部管厚t
p、前記第1鋼管および前記第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、前記管軸方向の段部長さL、前記管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(ii)を満たすように設計する、鋼管継手の設計方法。
【請求項3】
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかを、さらに応力有効幅係数βについて式(iii),(iv),(v)を満たすように設計する、請求項1または請求項2に記載の鋼管継手の設計方法。
β≦1.0 {125<Dp/t1} ・・・(iii)
β≦3.5-(Dp/t1)/50 {75≦Dp/t1≦125} ・・・(iv)
β≦2.0 {Dp/t1<75} ・・・(v)
【請求項4】
第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、前記管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の内嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の内嵌溝部とが前記管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、前記内嵌端部が前記外嵌端部の内側に嵌合することによって前記第1鋼管と前記第2鋼管とを連結する鋼管継手であって、
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかが、基端部管厚t
p、前記第1鋼管および前記第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、前記管軸方向の段部長さL、前記管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(i)を満たす鋼管継手。
【請求項5】
第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、前記管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の内嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の内嵌溝部とが前記管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、前記内嵌端部が前記外嵌端部の内側に嵌合することによって前記第1鋼管と前記第2鋼管とを連結する鋼管継手であって、
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかが、基端部管厚t
p、前記第1鋼管および前記第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、前記管軸方向の段部長さL、前記管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(i)および式(ii)を満たす鋼管継手。
【請求項6】
前記第1鋼管と、前記第2鋼管と、請求項4または請求項5に記載の鋼管継手とを含む構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管継手の設計方法、鋼管継手および構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管杭などの鋼管の継手構造では、一方の鋼管の外嵌端部の管周方向に設けられる外嵌段部の山部の管軸方向に沿う長さ寸法と、他方の鋼管の内嵌端部の管周方向に設けられる山部の管軸方向に沿う長さ寸法と、をそれぞれ管軸方向に隣接して離散的に設けられた山部よりも長くする構成のものが知られている(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。また、段部の間に形成される溝部の変形を抑制して引張耐力を満足させるために、外嵌溝部における溝幅と周方向中央の板厚との比、または内嵌溝部における溝幅と周方向中央の板厚との比を所定値以下にする技術も知られている(特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-43936号公報
【特許文献2】特許第6079933号公報
【特許文献3】特開2022-162291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際の継手構造の変形が3次元的に生じるのに対して、上記のような従来の技術は管軸方向または管周方向のいずれかの2次元的な断面変形に着目したものである。2次元的な断面変形に着目した場合にも変形の抑制は可能であるが、3次元的な変形を評価できた方が、より効果的に変形を抑制することができる。
【0005】
そこで、本発明は、3次元的な変形を評価することによってより効果的に継手構造の変形を抑制することができる鋼管継手の設計方法、鋼管継手および構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、前記管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の内嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の内嵌溝部とが前記管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、前記内嵌端部が前記外嵌端部の内側に嵌合することによって前記第1鋼管と前記第2鋼管とを連結する鋼管継手の設計方法であって、
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかを、基端部管厚t
p、前記第1鋼管および前記第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、前記管軸方向の段部長さL、前記管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(i)を満たすように設計する、鋼管継手の設計方法。
[2]第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、前記管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の内嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の内嵌溝部とが前記管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、前記内嵌端部が前記外嵌端部の内側に嵌合することによって前記第1鋼管と前記第2鋼管とを連結する鋼管継手の設計方法であって、
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかを、基端部管厚t
p、前記第1鋼管および前記第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、前記管軸方向の段部長さL、前記管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(ii)を満たすように設計する、鋼管継手の設計方法。
[3]前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかを、さらに応力有効幅係数βについて式(iii),(iv),(v)を満たすように設計する、[1]または[2]に記載の鋼管継手の設計方法。
β≦1.0 {125<D
p/t
1} ・・・(iii)
β≦3.5-(D
p/t
1)/50 {75≦D
p/t
1≦125} ・・・(iv)
β≦2.0 {D
p/t
1<75} ・・・(v)
[4]第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、前記管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の内嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の内嵌溝部とが前記管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、前記内嵌端部が前記外嵌端部の内側に嵌合することによって前記第1鋼管と前記第2鋼管とを連結する鋼管継手であって、
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかが、基端部管厚t
p、前記第1鋼管および前記第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、前記管軸方向の段部長さL、前記管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(i)を満たす鋼管継手。
[5]第1鋼管の一端に設けられ、管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の外嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の外嵌溝部とが管周方向に交互に配列された外嵌端部、および第2鋼管の一端に設けられ、前記管軸方向に配列された複数の山部を有する複数の内嵌段部と前記管軸方向に延びる複数の内嵌溝部とが前記管周方向に交互に配列された内嵌端部を含み、前記内嵌端部が前記外嵌端部の内側に嵌合することによって前記第1鋼管と前記第2鋼管とを連結する鋼管継手であって、
前記外嵌端部または前記内嵌端部の少なくともいずれかが、基端部管厚t
p、前記第1鋼管および前記第2鋼管の材料規格比η、先端山部高さh
g、先端谷部管厚t
1、根元谷部管厚t
n、前記管軸方向の段部長さL、前記管周方向の溝部長さB、および応力有効幅係数βについて式(i)および式(ii)を満たす鋼管継手。
[6]前記第1鋼管と、前記第2鋼管と、[4]または[5]に記載の鋼管継手とを含む構造物。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、鋼管継手の外嵌端部または内嵌端部の断面を模擬した片持ち梁モデルを用いて評価された管端部の面外変形と、継手の溝幅厚比に基づいた周方向断面における溝部の変形とを合わせた3次元的な変形を評価することによって、より効果的に継手構造の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態による鋼管の継手構造を示す縦断面図である。
【
図3】継手構造に含まれる外嵌端部の構成を示す斜視図である。
【
図4】継手構造に含まれる内嵌端部の構成を示す斜視図である。
【
図6】片持ち梁モデルを用いて継手構造の面外変形量を算出する手法について説明するための図である。
【
図7】片持ち梁モデルを用いて継手構造の面外変形量を算出する手法について説明するための図である。
【
図8】継手の溝幅厚比について説明するための図である。
【
図9】周方向断面における溝部の変形を示す図である。
【
図10】本実施形態に係る鋼管継手の設計方法における離脱指標および溝幅厚比の範囲を示すグラフである。
【
図11】本実施形態に係る鋼管継手の設計方法における溝部の応力有効幅係数の設定例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
図1から
図5は、本発明の一実施形態に係る鋼管の鋼管継手を示す図である。鋼管継手Tは、鋼管杭などの構造物を構成する鋼管1,2を連結する。以下の説明では、鋼管1,2の中心軸(軸心O)に沿う方向を管軸方向X、軸心Oに直交する方向を管径方向Y、軸心Oから見て軸心O回りに周回する方向を管周方向Zとする。また、管径方向Yについては軸心Oに近づく側を内側、軸心Oから遠ざかる側を外側とする。
【0011】
図3に示されるように、鋼管1は、鋼管本体10と、外嵌端部1Aとを含む。外嵌端部1Aの鋼管本体10側の基端は、鋼管本体10の管軸方向Xの一端に溶接等で接合されている。外嵌端部1Aの内周面1aには、管軸方向Xに配列された複数(ここでは4つ)の山部11Aを有する外嵌段部11と、隣り合う外嵌段部11同士の間に形成され管軸方向Xに延びる外嵌溝部12とが、管周方向Zに交互に配列される。
図5に示されるように、管軸方向Xで山部11A同士の間の位置には谷部11Bが形成される。外嵌端部1Aでは、外径寸法が管軸方向Xについて一定であるのに対して、内径寸法は管軸方向Xで鋼管本体10側の基端から管端1bに向かうに従って拡大している。従って、外嵌端部1Aの厚みは管軸方向Xで鋼管本体10側の基端から管端1bに向かうに従って小さくなる。
【0012】
図4に示されるように、鋼管2は、鋼管本体20と、内嵌端部2Aとを含む。内嵌端部2Aの鋼管本体20側の基端は、鋼管本体20の管軸方向Xの一端に溶接等で接合されている。内嵌端部2Aの外周面2aには、管軸方向Xに配列された複数(ここでは4つ)の山部21Aを有する内嵌段部21と、隣り合う内嵌段部21同士の間に形成され管軸方向Xに延びる内嵌溝部22とが、管周方向Zに交互に配列される。
図5に示されるように、管軸方向Xで山部21A同士の間の位置には谷部21Bが形成される。内嵌端部2Aでは、内径寸法が管軸方向Xについて一定であるのに対して、外径寸法は管軸方向Xで鋼管本体20側の基端から管端2bに向かうに従って縮小している。従って、内嵌端部2Aの厚みは管軸方向Xで鋼管本体20側の基端から管端2bに向かうに従って小さくなる。
【0013】
鋼管1,2は、内嵌端部2Aが外嵌端部1Aの内側に嵌合することによって連結される。より具体的には、外嵌端部1Aの外嵌溝部12に内嵌端部2Aの内嵌段部21を挿入するとともに、内嵌端部2Aの内嵌溝部22に外嵌端部1Aの外嵌段部11を挿入する。続いて、鋼管1,2を軸心O回りに溝部幅分(または段部幅分)だけ管周方向Zに相対的に回転させることによって、外嵌段部11および内嵌段部21の管周方向Zの位置を揃え、外嵌段部11および内嵌段部21の噛み合いによって鋼管1,2の管軸方向Xへの相対移動を規制する。これによって、鋼管1,2が互いに連結される。
【0014】
上述したような鋼管継手Tは、鋼管1,2の連結後に管軸方向Xに作用する圧縮力および引張力を伝達する外嵌端部1Aおよび内嵌端部2Aについて、管軸方向Xで基端側から管端側に向かうに従って厚みが小さくなり、負担する引張力を低下させることによってコストを低減させられる点で合理的な設計である。しかしながら、管端側の部材厚みが小さすぎると剛性が不足し、設計時には想定されていない面外変形によって外嵌段部11および内嵌段部21の噛み合わせが悪化して、所定の耐力に到達する前に継手の離脱破壊につながる可能性がある。以下では、そのような継手の破壊をより確実に防止するための設計方法について説明する。
【0015】
図6および
図7は、鋼管継手の外嵌端部または内嵌端部の管軸方向Xに沿った断面を模擬した片持ち梁モデルを用いて管端部の面外変形量wを算出する手法について説明するための図である。また、片持ち梁モデルで模擬した断面は管軸方向Xに直交する方向(
図6の奥行き方向)に連続する短冊モデルと仮定する。なお、図示された例では外嵌端部1Aが管径方向Yの外側に張り出さない一方で内嵌端部2Aが管径方向Yの内側に張り出しているが、他の例では外嵌端部1Aおよび内嵌端部2Aがそれぞれ管径方向Yの外側および内側に張り出していてもよいし、外嵌端部1Aが管径方向Yの外側に張り出す一方で内嵌端部2Aが管径方向Yの内側に張り出していなくてもよい。面外変形量wが算出できれば、面外変形量wおよび先端山部高さh
gを用いた離脱指標w/h
gと、溝部の周方向長さB、鋼管本体の材料規格比η、基端部管厚t
pおよび溝部の応力有効幅係数βを用いた溝幅厚比B/(ηt
p/β)との関係から段部の離脱が生じない条件を特定することができる。なお、鋼管本体の材料規格比ηは、外嵌端部および内嵌端部が取り付けられた鋼管(上記の例では鋼管1,2)を構成する鋼材の種類ごとに規定される比であり、例えばSKK400の降伏応力を基準として235/235=1.0、SKK490では315/235=1.34、SM570では460/235=1.96である。また、応力有効幅係数βは、継手断面が変形しないことを前提とし、後述するように継手の径厚比に応じて決定される。
【0016】
まず、管端部、すなわち
図7に示す片持ち梁モデルにおける梁先端に作用するSKK400の降伏応力を基準とした荷重Pを式(1)によって算出する。式(1)における係数C
(n)は、段部の数nよって決まる。式(1)に示されるように、短冊モデルにおけるSKK400の降伏応力を基準とした荷重Pは鋼管本体の材料規格比ηおよび基端部管厚t
pに比例する。
P=η×t
p×C
(n) ・・・(1)
【0017】
次に、管端部に作用する曲げモーメントMを式(2)によって算出する。式(2)では先端山部高さhgおよび先端谷部管厚t1のそれぞれの力の作用点の距離、すなわち先端山部高さhgおよび先端谷部管厚t1を合わせた長さの半分をアーム長とする曲げモーメントMが管端部に作用することが表されている。
M=P×(hg+t1)/2 ・・・(2)
【0018】
算出された曲げモーメントMから、管端部の面外変形量wを式(3)によって算出する。式(3)では管軸方向Xの段部長さL、鋼材のヤング率Eおよび断面二次モーメントIが用いられる。断面二次モーメントIは、根元谷部管厚tn、すなわち最も基端部寄りの谷部の管厚を用いてI=tn
3/12で求められる。式(3)に式(1),(2)およびI=tn
3/12を代入すると式(4)が得られる。
【0019】
【0020】
上記の式(4)の両辺を先端山部高さhgで割ると、離脱指標w/hgが式(5)のように算出される。式(5)において鋼管本体の材料規格比CG=η、基端部と根元谷部との管厚比Ct=tp/tn、先端部における谷部管厚と山部高さとの比C1=1+t1/hg、および根元谷部管厚と段部長さとの比Cn=(L/tn)2とすると、離脱指標w/hgがこれらの比に比例することを示す式(6)が得られる。
【0021】
【0022】
図8は、継手の溝幅厚比について説明するための図である。図示された例のような外嵌端部(内嵌端部でも同様)において、外嵌段部11の幅をL
B、外嵌段部11の両側の外嵌溝部12を含めた荷重の広がりを考慮できる幅をL
Aとし、溝部の応力有効幅係数βをβ=L
A/L
B(1.0≦β≦2.0)として定義する。なお、幅L
Aは外嵌端部の径厚比に応じて決まる。溝幅厚比B/(ηt
p/β)は、外嵌溝部の幅、すなわち溝部の周方向長さBと、外嵌端部の基端部管厚t
pに鋼管本体の材料規格比ηを乗じて応力有効幅係数βで割った実質的な荷重伝達領域の厚さとの比である。溝幅厚比B/(ηt
p/β)によって、例えば
図9に示すような、周方向断面における溝部の変形を考慮することができる。
【0023】
図10は、本実施形態に係る鋼管継手の設計方法における離脱指標および溝幅厚比の範囲を示すグラフである。本発明者らが、上述した離脱指標w/h
gを与える式C
G×C
t×C
1×C
nおよび溝幅厚比B/(ηt
p/β)を様々に設定した鋼管継手について実験および解析を行ったところ、それぞれの例における所定の耐力到達前の継手の離脱の有無は
図10のグラフに○(離脱なし)および×(離脱あり)で示されるようになった。この結果から、離脱指標および溝幅厚比について以下の式(7)および式(8)のような条件を特定することができる。式(7)は、
図10のグラフにおいて継手の離脱が発生しなかったケースを含む矩形範囲を示す。式(8)は、継手の離脱が発生したケースと発生しなかったケースとの領域の境界にあたる直線によって規定される範囲を示す。
【0024】
【0025】
図11は、本実施形態に係る鋼管継手の設計方法における溝部の応力有効幅係数βの設定例を示すグラフである。上述の通り、本実施形態に係る設計方法では、溝部のうち段部に隣接し荷重の伝達に寄与する部分の大きさを応力有効幅係数β=L
A/L
B、すなわち段部の幅L
Bと荷重の広がり幅L
Aとの比で表す。
図11のグラフに示されるように継手の先端谷部管厚t
1に対して管径D
p(
図9参照)が大きい場合はβ=1.0、すなわち段部以外の溝部は荷重の伝達に寄与しないと考えられる。一方で、先端谷部管厚t
1に対して管径D
pが小さい、つまり管径D
pに対して先端谷部管厚t
1が相対的に大きい場合はβ=2.0、すなわち段部に隣接する溝部で段部幅の約1/2の領域(段部とその両側を合わせて段部幅の約2倍の領域)が荷重の伝達に寄与すると考えられる。段部幅と溝部幅とが同じ場合、β=2.0であれば継手の全周に相当する領域が荷重の伝達に寄与することになる。
図11のグラフは上記の考え方に従って実験および解析の結果を整理したものであり、応力有効幅係数βについて管径D
pおよび先端谷部管厚t
1に応じて以下の式(9)~(11)のように設定している。なお、式(9)~(11)の左辺と右辺が等しいときが無駄のない合理的なβを設定できるが、より安全側に設計する場合は左辺が右辺よりも小さくなるように設定しても良い。
また、継手の素材は、例えば、JIS G3221に規定するSFCM880RおよびSFCM880R-Mなどの鍛造材、JIS G3106に規定するSM400、SM490、SM490Y、SM520およびSM570などの溶接構造用圧延鋼材やJIS G3140に規定するSBHS400およびSBHS500などの橋梁用高性能鋼材を利用した板曲げ材であっても良く、さらに、継手の形状は管径方向の外側および内側に張り出していても良く、逆にフラットであっても良い。
β≦1.0 {125<D
p/t
1} ・・・(9)
β≦3.5-(D
p/t
1)/50 {75≦D
p/t
1≦125} ・・・(10)
β≦2.0 {D
p/t
1<75} ・・・(11)
【符号の説明】
【0026】
1…鋼管、1A…外嵌端部、1a…内周面、1b…管端、2…鋼管、2A…内嵌端部、2a…外周面、2b…管端、10…鋼管本体、11…外嵌段部、11A…山部、11B…谷部、12…外嵌溝部、20…鋼管本体、21…内嵌段部、21A…山部、21B…谷部、22…内嵌溝部。