(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141790
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】データ作成プログラム、データ作成装置およびデータ作成方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20241003BHJP
【FI】
G06F30/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053628
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石津 友康
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146EA02
5B146EA18
(57)【要約】
【課題】実形状を正確に反映したジオメトリデータを効率よく作成することができるデータ作成プログラム、データ作成装置およびデータ作成方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るデータ作成プログラムは、コンピュータに、コイルばねの設計値に応じた素線断面形状を表現する形状パラメータである第1の設計変数、および、当該設計値に対して設定される公差範囲における素線断面形状を表現する形状パラメータである第2の設計変数を素線断面ごとに設定するパラメータ設定ステップと、各素線断面について、対象の構造物の三次元スキャンデータと、形状パラメータとを比較して、設計変数を選択する選択ステップと、選択した設計変数に基づいてジオメトリデータを作成するデータ作成ステップと、を実行させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
コイルばねの設計値に応じた素線断面形状を表現する形状パラメータである第1の設計変数、および、当該設計値に対して設定される公差範囲における素線断面形状を表現する形状パラメータである第2の設計変数を素線断面ごとに設定するパラメータ設定ステップと、
各素線断面について、対象の構造物の三次元スキャンデータと、前記形状パラメータとを比較して、設計変数を選択する選択ステップと、
選択した設計変数に基づいてジオメトリデータを作成するデータ作成ステップと、
を実行させることを特徴とするデータ作成プログラム。
【請求項2】
前記パラメータ設定ステップは、公差範囲を所定の条件で分割し、分割した範囲に対してそれぞれ前記第2の設計変数を生成する、
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ作成プログラム。
【請求項3】
前記選択ステップは、前記三次元スキャンデータにおける素線断面の第1の設定点と、前記第1または第2の設計変数に基づく素線断面における第2の設定点との間の距離に基づいて、当該素線断面の設計変数を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ作成プログラム。
【請求項4】
前記素線断面形状を表現する設計変数は、素線断面に対し、当該素線断面の中心位置を原点とする直交座標を用いて設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載のデータ作成プログラム。
【請求項5】
前記素線断面において、該素線断面の外縁と接する円を設定し、
前記素線断面形状を表現する設計変数として、前記円の中心位置の座標、前記円の長軸の長さおよび短軸の長さからなる円径、前記素線断面の外縁と前記円との接点の座標、前記円の向きが設定される、
ことを特徴とする請求項4に記載のデータ作成プログラム。
【請求項6】
コイルばねの設計値に応じた素線断面形状を表現する設計変数を含む第1の形状パラメータ、および、当該設計値に対して設定される公差範囲における素線断面形状を表現する設計変数を含む第2の形状パラメータを素線断面ごとに設定するパラメータ設定部と、
各素線断面について、対象の構造物の三次元スキャンデータと、前記第1および第2の形状パラメータとを比較して、形状パラメータを選択する選択部と、
選択された形状パラメータに基づいてジオメトリデータを作成するジオメトリデータ作成部と、
を備えることを特徴とするデータ作成装置。
【請求項7】
コイルばねのジオメトリデータを作成するデータ作成方法であって、
コイルばねの設計値に応じた素線断面形状を表現する設計変数を含む第1の形状パラメータ、および、当該設計値に対して設定される公差範囲における素線断面形状を表現する設計変数を含む第2の形状パラメータを素線断面ごとに設定するパラメータ設定ステップと、
各素線断面について、対象の構造物の三次元スキャンデータと、前記第1および第2の形状パラメータとを比較して、形状パラメータを選択する選択ステップと、
選択された形状パラメータに基づいてジオメトリデータを作成するデータ作成ステップと、
を含むことを特徴とするデータ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データ作成プログラム、データ作成装置およびデータ作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製品や構造物の実形状と設計形状とを比較するため、または、実形状を用いたFEM(Finite Element Method)シミュレーションを行うために、リバースモデリングが広く行われている。リバースモデリングにおいては、三次元測定機によって取得したメッシュデータを、専用のデータ処理ソフトウェアを用いて、汎用的なCADソフトウェアで使用できるジオメトリデータへ変換する作業が行われる。ジオメトリデータは、メッシュデータD
M上に複数の曲面パッチD
Pを貼り合わせることで作成される(
図11の(a)参照)。曲面パッチ間の線D
Fはジオメトリデータに残留し、特徴線と呼ばれるものである(
図11の(b)参照)。このとき、線D
Fは、目的によっては特徴線を製品や構造物の形状に沿って形成することが求められる。
【0003】
コイルばねにおいては、自由高さや傾き、コイル径等が発生応力に影響するため、製品の出来栄えによっては、発生応力と設計応力とが異なる場合がある。この差異を把握するためには、上述したリバースモデリングでジオメトリデータを作成し、FEMシミュレーションを実施しなくてはならない。実形状をFEMシミュレーションに反映させる技術として、予めシミュレーションモデルを用意し、計測した実形状と最も近いものを選択することで、精度の良いFEMシミュレーションを行う技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、実形状を間接的に反映する特徴図を用いて、予め用意したFEMシミュレーション結果と、実測した特徴図との比較を行い、その差異からシミュレーションモデルに補正をかける技術が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6740167号公報
【特許文献2】特開2006-232064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の技術は、予め用意したシミュレーションモデルを選択するものであるため、実形状との差異が出ることは避けられない。また、特許文献2に記載の技術は、実形状を直接比較するのではなく、実形状を間接的に反映する特徴図との比較を行うため、こちらも実形状を正確に反映できるとは限らない。
【0006】
また、製品や構造物が、平面で構成されたような比較的単純な形状であれば、データ処理ソフトウェアの自動作成機能でジオメトリデータへ自動的に変換可能であることが多い。しかしながら、複雑な曲面によって構成されていたり、コイルばねのようにらせん形状をなしていたりする場合、自動作成機能では高品質なジオメトリデータを作成することができない。特に、ジオメトリデータをFEMシミュレーションに用いることを目的とすると、特徴線が製品や構造物の形状に沿っていることが望ましいが、自動作成機能では概してそのような結果は得られない。したがって、作業者が手動作成機能を駆使してジオメトリデータを作る必要があり、これには多くの工数が費やされ、ジオメトリデータを効率的に作成することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、実形状を正確に反映したジオメトリデータを効率よく作成することができるデータ作成プログラム、データ作成装置およびデータ作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るデータ作成プログラムは、コンピュータに、コイルばねの設計値に応じた素線断面形状を表現する形状パラメータである第1の設計変数、および、当該設計値に対して設定される公差範囲における素線断面形状を表現する形状パラメータである第2の設計変数を素線断面ごとに設定するパラメータ設定ステップと、各素線断面について、対象の構造物の三次元スキャンデータと、前記形状パラメータとを比較して、設計変数を選択する選択ステップと、選択した設計変数に基づいてジオメトリデータを作成するデータ作成ステップと、を実行させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るデータ作成プログラムは、上記発明において、前記パラメータ設定ステップは、公差範囲を所定の条件で分割し、分割した範囲に対してそれぞれ前記第2の設計変数を生成する、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るデータ作成プログラムは、上記発明において、前記選択ステップは、前記三次元スキャンデータにおける素線断面の第1の設定点と、前記第1または第2の設計変数に基づく素線断面における第2の設定点との間の距離に基づいて、当該素線断面の設計変数を選択する、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るデータ作成プログラムは、上記発明において、前記素線断面形状を表現する設計変数は、素線断面に対し、当該素線断面の中心位置を原点とする直交座標を用いて設定される、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るデータ作成プログラムは、上記発明において、前記素線断面において、該素線断面の外縁と接する円を設定し、前記素線断面形状を表現する設計変数として、前記円の中心位置の座標、前記円の長軸の長さおよび短軸の長さからなる円径、前記素線断面の外縁と前記円との接点の座標、前記円の向きが設定される、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るデータ作成装置は、コイルばねの設計値に応じた素線断面形状を表現する設計変数を含む第1の形状パラメータ、および、当該設計値に対して設定される公差範囲における素線断面形状を表現する設計変数を含む第2の形状パラメータを素線断面ごとに設定するパラメータ設定部と、各素線断面について、対象の構造物の三次元スキャンデータと、前記第1および第2の形状パラメータとを比較して、形状パラメータを選択する選択部と、選択された形状パラメータに基づいてジオメトリデータを作成するジオメトリデータ作成部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るデータ作成方法は、コイルばねのジオメトリデータを作成するデータ作成方法であって、コイルばねの設計値に応じた素線断面形状を表現する設計変数を含む第1の形状パラメータ、および、当該設計値に対して設定される公差範囲における素線断面形状を表現する設計変数を含む第2の形状パラメータを素線断面ごとに設定するパラメータ設定ステップと、各素線断面について、対象の構造物の三次元スキャンデータと、前記第1および第2の形状パラメータとを比較して、形状パラメータを選択する選択ステップと、選択された形状パラメータに基づいてジオメトリデータを作成するデータ作成ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、素線の断面やピッチによらず、要求を満たすコイルばねの設計を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るジオメトリデータ作成装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態において、コイルばねの基本形状の定義について説明するための図(その1)である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態において、コイルばねの基本形状の定義について説明するための図(その2)である。
【
図4】
図4は、コイルばねの一例を示す図(その1)である。
【
図5】
図5は、コイルばねの一例を示す図(その2)である。
【
図6】
図6は、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータについて説明するための図(その1)である。
【
図7】
図7は、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータについて説明するための図(その2)である。
【
図8】
図8は、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータについて説明するための図(その3)である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施の形態に係るジオメトリデータ作成装置が行うジオメトリデータ作成方法の概要を説明するためのフローチャートである。
【
図10】
図10は、本発明の一実施の形態に係るジオメトリデータ作成装置が行う設計変数の選択について説明するための図である。
【
図11】
図11は、従来のジオメトリデータの作成について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0018】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係るジオメトリデータ作成装置の概略構成を示すブロック図である。
図1に示すジオメトリデータ作成装置1は、コイルばねの形状に関する情報から最適な形状パラメータを選択してジオメトリデータを作成するものであり、このジオメトリデータに基づいてコンピュータ上で仮想的にモデリングされる製品に解析やシミュレーションを実行することにより製品の設計や開発を支援するCAE(Computer Aided Engineering)の機能を提供する装置である。ジオメトリデータ作成装置1は、入力部11と、パラメータ設定部12と、選択部13と、ジオメトリデータ作成部14と、出力部15と、記憶部16と、制御部17とを有する。
【0019】
入力部11は、ジオメトリデータ作成装置1の動作に関する各種信号の入力を受け付ける。入力部11は、キーボード、マウス、スイッチ、タッチパネル等を用いて構成される。
【0020】
パラメータ設定部12は、ジオメトリデータを作成する対象の構造物のメッシュデータについて、コイルばねの形状を表現する形状パラメータを設定する。この形状パラメータは、素線の断面形状や、コイルばねのピッチ等、コイルばねの設計に必要な設計値や設計変数を含む。一つのコイルばねを設計するために必要な複数の設計変数が素線断面に対応させて組をなしており、この組をなす設計変数によって形状パラメータが構成される。また、メッシュデータは、3Dスキャナや、3Dデジタイザ等を用いて生成されるデータであり、平面要素によって構造物の表面形状を表現するデータである。
【0021】
ここで、コイルばねにおける形状パラメータおよび設計変数について、
図2~
図8を参照して説明する。まず、コイルばねの基本形状の定義について説明する。
図2および
図3は、本発明の一実施の形態において、コイルばねの基本形状の定義について説明するための図である。
図4および
図5は、コイルばねの一例を示す図である。
図3~
図5では、コイルばねを形成する線材(素線)の断面の形状が円である例を示している。
【0022】
図2に示すように、コイルばね100は、素線を螺旋状に巻回してなる。この際、素線の中心に沿って延びる線を中心線、この中心線に対して直交する平面を切断面とする断面を素線断面とする。具体的には、コイルばね100では、
図3に示すように、素線において、所定の長さ間隔で位置する複数の中心111を通過し、当該素線の各中心111に沿って延びる中心線110と、例えば素線の端部における、該素線の中心線110と直交する平面を切断面とする素線断面120とを設定する。ここで、中心線110が周回方向に一周することを一巻とし、周回回数に応じた数を巻目として計数する。例えば、一端部から素線(中心線)が3回周回した位置を3巻目とする。コイルばねの基本形状は、巻目に、中心線座標および素線断面形状(形状パラメータ)をそれぞれ対応付けることによって、定義される。
【0023】
素線断面が円の場合のコイルばねでは、基本形状の定義のほか、巻き数、素線の直径(線径)、コイルの平均径および中心線間の距離(ピッチ)が定義付けされる。例えば、
図4に示すコイルばね101は、設計値として、巻き数が5、線径が3.2、コイル平均径が24、中心線間の距離が5.2に設定される。また、
図5に示すコイルばね102は、設計値として、巻き数が10、線径が2.2、コイル平均径が20、中心線間の距離が2.7に設定される。なお、素線の直径(線径)は、円以外の形状の場合は、例えば、当該素線断面に外接する外接円の直径として設定される。
【0024】
ここで、素線断面形状を表現するパラメータについて、
図6~
図8を参照して説明する。
図6~
図8は、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータについて説明するための図である。まず、
図6に示すように、素線断面に対し、該素線断面の中心(重心)位置P0を原点とし、互いに直交するX方向およびY方向からなる直交座標を設定する。また、素線断面において、該素線断面の外縁と接する円(楕円や真円、長円(オーバル)を含む)を設定する。例えば、
図6に示すような、組をなす互いに平行な二つの直線部を、互いに直交するように配置した二組(四つ)の直線部と、異なる組の直線部同士をそれぞれ連結する四つの曲線部とからなる外縁のうち、曲線部の端部とそれぞれ接する円を設定する。各円の中心位置をPc1~Pc4、円と素線断面とが接する位置(接点)をP1~P8とする。例えば、中心位置Pc1の円の接点は、位置P1およびP2である。また、中心位置Pc1の座標を(Xc1,Yc1)とする。位置P1の座標は、(X1,Y1)とする。また、この円の径(以下、単に「円径」という)は、長軸の長さと短軸の長さとで表現でき、ここでは(Rx1,Ry1)とする。さらに、X方向と長軸とがなす角度をθ1とし、この角度θ1を円の向きとする。同様に、中心位置Pc2~Pc4の円についても、同様に座標、円径、円の向きが設定される。各中心位置において各種設計変数をそれぞれ設定することによって、素線断面を表現する形状パラメータが設定される。この形状パラメータを素線断面ごとに設定することによって、各素線断面位置における形状を設定することができる。
【0025】
例えば、素線断面が円であり、直径D1が4に設定される場合(
図7参照)、各設計変数は、以下のように表現される。
中心位置:Pc1~Pc4=(0,0)
円の向き:θ1~θ4=0°
円径:(Rx1,Ry1)~(Rx4,Ry4)=(2,2)
接点:(X1,Y1)=(X8,Y8)=(2,0)
(X2,Y2)=(X3,Y3)=(0,-2)
(X4,Y4)=(X5,Y5)=(-2,0)
(X6,Y6)=(X7,Y7)=(0,2)
【0026】
また、素線断面が、素線端部に形成される座巻部のような円の一部を切欠いた形状であり、外縁に沿って形成される仮想円の直径D1が4、断面の径方向の長さD2が1に設定される場合(
図8参照)、各設計変数は、以下のように表現される。
中心位置:(Xc1,Yc1)=(√2,1)
(Xc2,Yc2)=(-√2,1)
(Xc3,Yc3)=(Xc4,Yc4)=(0,0)
円の向き:θ1~θ4=0°
円径:(Rx1,Ry1)=(Rx2,Ry2)=(0,0)
(Rx3,Ry3)=(Rx4,Ry4)=(2,2)
接点:(X1,Y1)=(X2,Y2)=(X8,Y8)=(√2,1)
(X3,Y3)=(X4,Y4)=(X5,Y5)=(-√2,1)
(X6,Y6)=(X7,Y7)=(0,2)
【0027】
上述した形状のほか、楕円、長円(オーバル)、矩形や、その他の形状であっても、上記の形状パラメータで素線断面形状を表現することができる。その他の形状とは、例えば、組をなす二つの直線部であって、互いに非平行で向かい合う二つの直線部を、互いに異なる方向に向くように配置した二組(四つ)の直線部と、異なる組の直線部同士をそれぞれ連結する四つの曲線部とからなる外縁をなす形状や、互いに異なる曲率半径を有して延びる複数の湾曲部を繋げてなる形状等が挙げられる。
【0028】
パラメータ設定部12は、上述したようにして設定されるパラメータに加え、コイルばねの設計において設定される公差範囲に応じたパラメータを生成する。すなわち、パラメータ設定部12は、設計図面に対応して、各素線断面の位置ごとの設計変数と、公差範囲に応じて設定される設計変数とを含むパラメータを設定する。ここで、公差範囲は、製造する構造物の設計値に対して、製品として許容される寸法に応じて設定される数値範囲である。
【0029】
パラメータ設定部12は、公差範囲を所定の条件で分割、例えば、均等な範囲で10分割し、それぞれの公差において設計変数を設定する。具体的には、角度θ1~θ4が公差範囲として±10°が設定され、この公差範囲(設計値を中央値とする20°の範囲)を10分割して、それぞれの分割範囲の中央値の素線断面の設計変数を生成する。例えば、分割後の中央値に対応させて、中心位置(例えば(Xc1,Yc1))を変更する。これにより、各素線断面において、設計図面に相当する設計変数による第1の形状パラメータと、公差範囲に応じた複数組(10分割の場合は10組)の設計変数(バリエーション)による第2の形状パラメータとが設定される。なお、公差範囲による設計変数のバリエーションの設定として、例えば、長軸の長さと短軸の長さと比に基づく設計変数の生成をしてもよい。長軸の長さと短軸の長さと比の場合、例えば、比の±3%を公差範囲とする。
なお、分割は、上述した角度の分割に限らず、他のパラメータを分割することが可能である。また、他の分割例として、製造実績に鑑みて、公差範囲のうち実現される可能性の高い範囲を細かく分割し、実現の可能性の低い範囲は粗く分割することが挙げられる。
【0030】
図1に戻り、選択部13は、メッシュデータと、パラメータ設定部12が設定したパラメータ(設計変数)とを比較して、該メッシュデータの再現性が高くなる設計変数を選択する。
【0031】
ジオメトリデータ作成部14は、選択部13が各素線断面位置において選択したパラメータによって構成されるジオメトリデータを作成する。
【0032】
出力部15は、制御部17の制御のもと、画像を表示させたり、音や光を出力させたりする。出力部15は、ディスプレイや、スピーカー、光源等を用いて構成される。
【0033】
記憶部16は、制御部17が各種動作を実行するためのプログラム(例えば後述するジオメトリデータ作成プログラム)等を記憶する。また、記憶部16は、設計変数を記憶する設計変数記憶部161を有する。設計変数記憶部161は、各素線断面と対応付いた各種設計変数を記憶する。記憶部16は、揮発性メモリや不揮発性メモリを用いて構成されるか、またはそれらを組み合わせて構成される。例えば、記憶部16は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を用いて構成される。
【0034】
制御部17は、ジオメトリデータ作成装置1の各構成部品の動作処理を制御する。制御部17は、例えば、入力部11を介してジオメトリデータの作成処理を開始する指示入力があると、各部に処理を実行させる。また、制御部17は、例えば、ジオメトリデータ作成部14が作成したジオメトリデータまたは、その形状に関する情報を、出力部15に出力させる。
【0035】
パラメータ設定部12、選択部13、ジオメトリデータ作成部14および制御部17は、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の機能を実行する各種演算回路等のプロセッサを用いて構成される。
【0036】
続いて、ジオメトリデータ作成処理について、
図9を参照して説明する。
図9は、本発明の一実施の形態に係るジオメトリデータ作成装置が行う最適設計案の選択方法の概要を説明するためのフローチャートである。制御部17は、例えば、入力部11を介してジオメトリデータ作成処理を開始する指示入力があると、各部に処理を実行させる。
【0037】
まず、制御部17は、メッシュデータを取得する(ステップS101)。制御部17は、ジオメトリデータを作成する対象の構造物のメッシュデータを取得する。
【0038】
その後、パラメータ設定部12は、メッシュデータの中心線を取得する(ステップS102)。パラメータ設定部12は、メッシュデータにおける各中心に沿って延びる線を中心線として設定する。この際、パラメータ設定部12は、この中心線に対して直交する平面を切断面とする断面を素線断面として設定する。なお、メッシュデータから設定される各素線断面には、互いに異なる番号n(1~nMAX:nMAXは例えば素線断面の総数に相当)が付されるものとして説明する。
【0039】
パラメータ設定部12は、素線断面の番号nをn=1に設定する(ステップS103)。
【0040】
その後、パラメータ設定部12は、n番目の素線断面について、設計値に基づく第1の設計変数からなる形状パラメータを設定する(ステップS104)。また、パラメータ設定部12は、公差範囲に応じた第2の設計変数を生成し、当該第2の設計変数を含む形状パラメータを設定する。これにより、第1および第2の設計変数によってそれぞれ構成され、素線断面の形状を表現する複数組の形状パラメータが作成される。
【0041】
パラメータ設定後、選択部13は、メッシュデータと各形状パラメータとを比較して、設計変数を選択する(ステップS105)。
図10は、本発明の一実施の形態に係るジオメトリデータ作成装置が行う設計変数の選択について説明するための図である。選択部13は、メッシュデータのある素線断面S
Mにおける第1の設定点S
M1、S
M2、S
M3、S
M4、・・・と、選択された設計変数に基づいて生成される素線断面S
Sにおける第2の設定点S
S1、S
S2、S
S3、S
S4、・・・とについて、対応する設定点同士(例えば、設定点S
M1およびS
S1)の間の距離を算出し、各対応設定点間の距離の和が最も小さくなる設計変数の組み合わせを選択する。なお、第2の設定点は、第1の設定点との距離が最も近い点が対応付けられる。
【0042】
図9に戻り、制御部17は、nを1だけ増加させる(ステップS106)。その後、制御部17は、nがn
MAXよりも大きいか否かを判断する(ステップS107)。制御部17は、nがn
MAX以下であると判断した場合(ステップS107:No)、ステップS104に移行し、増加後のn番目について、上述した処理を繰り返す。一方、制御部17は、nがn
MAXより大きいと判断した場合(ステップS107:Yes)、ステップS108に移行する。
【0043】
ステップS108において、ジオメトリデータ作成部14は、各素線断面において選択された設計変数を用いて、ジオメトリデータを作成する。ジオメトリデータ作成部14は、コイルばねの解析モデルを作成するプログラムを用いて、ジオメトリデータを作成する。このコイルばねの解析モデルを作成するプログラムは、公知のプログラムを用いることができる。
【0044】
ジオメトリデータ作成後、制御部17は、例えば、作成したジオメトリデータを、出力部15に表示等させてもよいし、記憶部16に記憶させてもよい。
【0045】
以上説明した本実施の形態では、設計値に対応する素線断面の設計変数と、設計値に対する公差範囲に対応する素線断面の設計変数とを用いて、スキャンデータに対応する断面形状を選択し、各断面において選択された形状パラメータに応じてジオメトリデータを作成する。本実施の形態によれば、公差範囲で断面の形状パラメータのパリエーションを作成し、その形状パラメータのなかからスキャンデータに適した形状パラメータが断面ごとに選択されるため、実形状を正確に反映したジオメトリデータを効率よく作成することができる。この際、公差範囲の設計変数が多い(例えば分割数が大きい)ほど、実形状に対する制度を向上させることができる。
【0046】
また、本実施の形態によれば、上述したジオメトリデータの作成が、コンピュータによって実行されるため、効率的かつ比較的短時間でジオメトリデータを作成することができる。
【0047】
また、本実施の形態において、上述した方法によって作成されたジオメトリデータは、FEM(Finite Element Method)解析に用いることが可能である。このため、本実施の形態によれば、ジオメトリデータの作成から、当該ジオメトリデータのシミュレーションまでをシームレスに実施することができる。
【0048】
また、本実施の形態によれば、巻目ごとの断面形状(形状パラメータ)を変更することが可能であり、巻目によって断面形状が異なるコイルばねであっても、実形状を正確に反映したジオメトリデータを作成することができる。
【0049】
なお、本実施の形態では、断面ごとに形状パラメータを選択する例について説明したが、予め各断面に対して形状パラメータを設定した仮の形状モデル(仮モデル)を複数作成しておき、当該複数の仮モデルから、メッシュデータに最も近いモデルを選択するようにしてもよい。この際、選択部13は、例えば、メッシュデータと、仮モデルとの設定点間の距離の総和を算出し、この総和が最も小さい仮モデルを選択する。なお、メッシュデータと、仮モデルとの設定点間の距離の総和に限らず、積算値や最頻値、平均値等、他の統計値を用いるようにしてもよい。
【0050】
また、本態に係るジオメトリデータ作成装置に実行させるプログラムは、例えば、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルデータでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)、USB媒体、フラッシュメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0051】
また、本実施の形態に係るジオメトリデータ作成装置に実行させるプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成されてもよい。
【0052】
また、本実施の形態に係るジオメトリデータ作成装置は、サーバ装置として機能し、ネットワークを介して接続される外部端末との間で情報を送受信する構成とすることができる。
【0053】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
【0054】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0055】
以上説明したように、本発明に係るデータ作成プログラム、データ作成装置およびデータ作成方法は、実形状を正確に反映したジオメトリデータを効率よく作成するのに好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 ジオメトリデータ作成装置
11 入力部
12 パラメータ設定部
13 選択部
14 ジオメトリデータ作成部
15 出力部
16 記憶部
17 制御部
100、101、102 コイルばね
110 中心線
111 中心
120 素線断面
161 設計変数記憶部