(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141794
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電動車
(51)【国際特許分類】
B60W 20/12 20160101AFI20241003BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20241003BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20241003BHJP
B60W 20/20 20160101ALI20241003BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241003BHJP
B60L 58/25 20190101ALI20241003BHJP
【FI】
B60W20/12
B60K6/46 ZHV
B60W10/26 900
B60W20/20
B60L50/61
B60L58/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053632
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】国政 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】廣江 健太
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB22
3D202BB51
3D202CC22
3D202CC24
3D202DD00
3D202DD19
3D202DD22
3D202DD24
3D202DD46
3D202DD50
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BC19
5H125BD17
5H125CA18
5H125EE55
(57)【要約】
【課題】車両がジオフェンス領域に入る際に、二次電池を電動走行に必要な性能を発揮できる状態にしておく。
【解決手段】電動機13に電力を供給する二次電池12と、二次電池12の温度制御する温調手段26と、温調手段26を制御する制御部20とを備え、制御部20は、前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部21と、排ガスの規制区域の情報を含む地図情報を得る地図情報取得部22と、予定走行ルートを指定するルート指定部23とを有し、二次電池12の温度の許容上限値T
1と許容下限値T
2とを有する第一温度領域Aと、許容上限値T
1よりも低い目標上限値T
3と許容下限値T
2よりも高い目標下限値T
4とを有する第二温度領域Bが設定され、制御部20は、規制区域内では二次電池12の温度が第一温度領域A内となるように制御し、規制区域に隣接して設定された接続領域F内では二次電池12の温度が第二温度領域B内となるように制御される電動車とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪を駆動する電動機と、
前記電動機に電力を供給する二次電池と、
前記二次電池の温度を制御する温調手段と、
前記温調手段を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記車両からの排ガスの排出量を規制する規制区域の情報を含む地図情報を得る地図情報取得部と、
目的地を設定することで前記地図情報における予定走行ルートを指定するルート指定部と、を有し、
前記二次電池の温度の許容上限値と許容下限値とを有する第一温度領域と、前記許容上限値よりも低い目標上限値と前記許容下限値よりも高い目標下限値とを有する第二温度領域が設定され、
前記制御部は、前記予定走行ルートに沿って走行するにあたり、前記規制区域内では前記二次電池の温度が前記第一温度領域内となるように前記温調手段を制御し、前記規制区域の前記目的地とは反対側に隣接して設定された接続領域内では前記二次電池の温度が前記第二温度領域内となるように前記バッテリ温度が制御される電動車。
【請求項2】
前記車両は、エンジンを有するハイブリッド車両であり、
前記接続領域は、前記規制区域に近い側の第一接続領域と、前記規制区域から遠い側の第二接続領域に区分され、
前記第一接続領域では、少なくとも前記エンジンを駆動しつつ走行する請求項1に記載の電動車。
【請求項3】
前記車両は、前記エンジンにより駆動されることで発電するジェネレータを有し、
前記第一接続領域では、前記エンジンにより前記ジェネレータを駆動することで発電された電力によって前記電動機を駆動して走行する請求項2に記載の電動車。
【請求項4】
前記第二接続領域では、前記電動機の駆動によって消費される電力量を超える発電量となるように、前記エンジンにより前記ジェネレータを駆動することで、前記二次電池を充電しつつ走行する請求項3に記載の電動車。
【請求項5】
前記車両は、エンジンを有するハイブリッド車両であり、
前記接続領域は、前記規制区域に近い側の第一接続領域と、前記規制区域から遠い側の第二接続領域に区分され、
前記接続領域で前記エンジンが所定温度以上の場合、前記第一接続領域では前記エンジンの出力を所定出力未満に抑えたクーリングモードで走行する請求項1に記載の電動車。
【請求項6】
前記車両は、前記エンジンにより駆動されることで発電するジェネレータを有し、
前記クーリングモードは、前記エンジンにより前記ジェネレータを駆動することで発電された電力によって前記電動機を駆動しながら行われる請求項5に記載の電動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動用の動力源として電動機を備えた電動車に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動用の動力源として電動機を備えた車両が普及するとともに、今後は、大気汚染対策としてエンジンの駆動が一部制限される制限区域や、エンジンの駆動が禁止される禁止区域が設定される事態が想定されている。具体的には、例えば、幼稚園や小学校などの周辺区域といった小規模な区域設定から、地方自治体単位の大規模な区域設定、あるいは、国家や州単位での広域な区域設定も今後は考えられる。
【0003】
これらの制限区域や禁止区域を、以下、ジオフェンス領域と称する。ジオフェンス領域では、エンジンの駆動による発電やエンジンの駆動力による走行が制限又は禁止される。このため、これら区域内に入ることが見込まれる場合には、車両は、その後の電動走行に備えておかなければならない。
【0004】
例えば、特許文献1には、車両がジオフェンス領域へ到達する前に車室内の温調を完了することで、快適な車内環境を予め確保しておき、ジオフェンス領域に入った後は少量の電力でもって電動走行できるようにする制御が提案されている。また、特許文献2には、車両がジオフェンス領域へ到達するまでの距離に応じてバッテリの充電量を管理することで、ジオフェンス領域内での電動走行時におけるバッテリ切れを回避する制御が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-98122号公報
【特許文献2】特開2022-70636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2では、車両がジオフェンス領域に到達する前に、車室内の温調を整え、又は、二次電池の充電量を管理することで、ジオフェンス領域に入った後の電力消費を抑える効果があるとされている。しかし、車両がジオフェンス領域に入った際に、二次電池の状態が最良の状態であることは保証できないという問題がある。すなわち、二次電池の性能はバッテリ温度が適正な範囲にあることが前提であり、ジオフェンス領域に入った際にバッテリ温度が高温である場合、ジオフェンス領域内でのバッテリの使用によりバッテリ温度が高温となった場合等、その温度が適正な範囲にない場合は、所定の電力の供給ができない。このため、ジオフェンス領域に入った後の電動走行に支障をきたす可能性がある。
【0007】
そこでこの発明の課題は、車両がジオフェンス領域に入る際に、二次電池を電動走行に必要な性能を発揮できる状態にしておくことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明は、車両の車輪を駆動する電動機と、前記電動機に電力を供給する二次電池と、前記二次電池の温度を制御する温調手段と、前記温調手段を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部と、前記車両からの排ガスの排出量を規制する規制区域の情報を含む地図情報を得る地図情報取得部と、目的地を設定することで前記地図情報における予定走行ルートを指定するルート指定部と、を有し、前記二次電池の温度の許容上限値と許容下限値とを有する第一温度領域と、前記許容上限値よりも低い目標上限値と前記許容下限値よりも高い目標下限値とを有する第二温度領域が設定され、前記制御部は、前記予定走行ルートに沿って走行するにあたり、前記規制区域内では前記二次電池の温度が前記第一温度領域内となるように前記温調手段を制御し、前記規制区域の前記目的地とは反対側に隣接して設定された接続領域内では前記二次電池の温度が前記第二温度領域内となるように前記バッテリ温度が制御される電動車を採用した(構成1)。
【0009】
構成1において、前記車両は、エンジンを有するハイブリッド車両であり、前記接続領域は、前記規制区域に近い側の第一接続領域と、前記規制区域から遠い側の第二接続領域に区分され、前記第一接続領域では、少なくとも前記エンジンを駆動しつつ走行する構成を採用できる(構成2)。
【0010】
構成2において、前記車両は、前記エンジンにより駆動されることで発電するジェネレータを有し、前記第一接続領域では、前記エンジンにより前記ジェネレータを駆動することで発電された電力によって前記電動機を駆動して走行する構成を採用できる(構成3)。
【0011】
構成3において、前記第二接続領域では、前記電動機の駆動によって消費される電力量を超える発電量となるように、前記エンジンにより前記ジェネレータを駆動することで、前記二次電池を充電しつつ走行する構成を採用できる(構成4)。
【0012】
また、構成1において、前記車両は、エンジンを有するハイブリッド車両であり、
前記接続領域は、前記規制区域に近い側の第一接続領域と、前記規制区域から遠い側の第二接続領域に区分され、前記接続領域で前記エンジンが所定温度以上の場合、前記第一接続領域では前記エンジンの出力を所定出力未満に抑えたクーリングモードで走行する構成を採用できる(構成5)。この構成5は、構成1に対して構成2を付加した態様、構成1に対して構成2と構成3を付加した態様、構成1に対して構成2と構成3と構成4を付加した態様においても採用できる。
【0013】
さらに、構成5を備えた各態様において、前記車両は、前記エンジンにより駆動されることで発電するジェネレータを有し、前記クーリングモードは、前記エンジンにより前記ジェネレータを駆動することで発電された電力によって前記電動機を駆動しながら行われる構成を採用できる(構成6)。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、車両がジオフェンス領域に入る際に、バッテリを電動走行に必要な性能を発揮できる状態にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の一実施形態の車両の機能を示すブロック図
【
図2】一実施形態の制御における温度変化を示すグラフ図
【
図3A】一実施形態の制御における温度変化を示すグラフ図
【
図3B】一実施形態の制御における温度変化を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この発明は、エンジン11と、走行用の電力を蓄える二次電池12と、これらにより電力が供給されて駆動する電動機(モータ)13とを有する電動車(ハイブリッド車)1である。二次電池12には、エンジン11に付帯する発電機(ジェネレータ)14によって発電される電力が充電される。また、このハイブリッド車1は、二次電池12に対して、外部電源からの外部充電が可能であるように、外部充電インターフェースを備えたプラグインハイブリッド車(PHEV)であってもよい。また、二次電池12は、車両以外の外部へ給電する外部給電機能を備えていてもよい。
【0017】
この発明にかかるハイブリッド車1(以下、車両1と称する)は、エンジン11の駆動力で走行でき、そのエンジン11の駆動力を、二次電池12から供給される電力でモータ13を駆動させてアシストするパラレル走行により走行することができる。さらに、エンジン11を駆動しなくても二次電池12から供給される電力のみでモータ13を駆動させて走行するEV走行により走行することができる。また、エンジン11によりジェネレータ14を駆動させつつモータ13により走行するシリーズ走行により走行することができる。さらに、車両1は、シリーズ走行中に、モータ13に要求される出力に必要な電力と同程度の電力を発電するようにエンジン11でジェネレータ14を駆動させ、二次電池12の現在の充電率を維持するセーブモードと、モータ13に要求される出力に必要な電力を超える電力を発電するようにエンジン11でジェネレータ14を駆動させ、二次電池12の現在の充電率を増加させるチャージモードと、を有する。
【0018】
エンジン11は、燃料を含む混合気を燃焼させることでクランクシャフトを回転させて駆動力を出力するガソリンエンジン又はディーゼルエンジンである。ジェネレータ14には、クランクシャフトの回転が伝達されるようになっている。
【0019】
モータ13は、インバータを介して二次電池12から電力を供給されて駆動され、減速機を介して駆動輪を駆動する。モータ13は、回転軸と一体に回転するロータと、そのロータの外周においてケーシングに固定されたステータを備え、電力の供給によってロータとともに回転軸が軸回り回転する構成となっている。インバータは、二次電池12から供給される直流電流を交流電流に変換する機能を有し、そのインバータの制御によって、モータ13の回転速度、回転方向等を調節できる。
【0020】
エンジン11、二次電池12、モータ13、その他各部装置の制御は、この車両1が搭載した電子制御ユニット(electronic control unit)が備える制御部20によって行われる。電子制御ユニットは、中央演算処理装置(CPU)、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)等を含んだ構成となっている。制御部20は、ブレーキペダル、アクセルペダル等の操作装置の操作による出力要求を受けて、エンジン11及びモータ13を含む各部装置へ駆動指示や出力指示等の命令を送るとともに、各部位からデータを取得する。
【0021】
制御部20は、GPS等の衛星測位システムに対応したアンテナ27からの情報により、位置情報を取得する位置情報取得部21を有する。
【0022】
制御部20は、排ガスの規制区域であるジオフェンスの情報を含む地図情報を得る地図情報取得部22を有する。ここで規制区域としては、内燃機関の駆動を禁止する禁止区域と、内燃機関の出力に制限を設け排ガスの排出量を抑制する抑制区域とがある。抑制区域には、排ガスの排出量についての数値的な情報が含まれていてもよく、制限の度合いに強弱があってもよい。これらの禁止区域と抑制区域を併せてジオフェンス領域Gと称する。また、そのジオフェンス領域Gに隣接して、後述する接続領域F(排ガスの規制がない、若しくはジオフェンス領域Gより小さい区域)が設定されている。
【0023】
ジオフェンス領域Gは、地図上においてどの住所区分や自治体単位で規制区域であるか否かの属性情報として地図情報に記録されていてもよいし、地図に重なる情報として所定の地点から所定の距離が規制区域であると規定されていてもよいし、地図情報とともに道路上のどこが規制区域にあたるのかを確認できるのであれば形式は特に限定されない。これらの地図情報を取得するための取得元は、車両1が有する地図情報データベース28に記録されたものでもよいし、移動体通信網を介して適宜ダウンロードされるものでもよい。この実施形態では、車両1が有する地図情報データベース28に、ジオフェンスの情報が記録されている形態を主な例として説明するが、この実施形態に限定されるものではない。
【0024】
制御部20は、地図情報における予定走行ルートをドライバーからの入力によって指定するルート指定部23を有する。制御部20はタッチパネルなどの入力装置(図示せず)を介して、ルート検索機能によるルート候補を提示した上での選択や、ドライバーによる手入力などにより、目的地を含む予定走行ルートについての指示を受け取り、予定走行ルートを指定して、メモリに登録する。この予定走行ルートは、上記のジオフェンスの情報と照らし合わせることで、ルート上のどの区間がジオフェンス領域Gであるかを確認できる。
【0025】
制御部20は、位置情報取得部21から取得した現時点での位置情報と、ルート指定部23により指定された予定走行ルートとから、予定走行ルート上における走行位置とその後の予定とを確認できる。そして、予定走行ルート上の現時点での位置(現在地)と、地図情報取得部22により取得されたジオフェンスの情報に基づいて、接続領域Fとジオフェンス領域Gとの境界(以下、単に「境界」と記載する)を越境する越境予定を取得することができる。具体的には、現在地と境界までの道なりの距離が所定の値以下になったときに、境界の越境が近いと判断する。なお、予定走行ルート上の法定速度や混雑状況等の道路交通情報も考慮して、現在地から境界までの予想到達時間が所定の時間内になったときに、境界の越境が近いと判断してもよい。
【0026】
ジオフェンス領域Gへの越境が近いと判断された場合、接続領域Fが設定される。接続領域Fは、ジオフェンス領域Gへの越境が近いと判断された地点を起点とし、ジオフェンス領域Gに入る地点を終点とする。ただし、越境が近くなくとも、ジオフェンス領域Gとの境界から所定の距離(又は所定の時間)だけ外の位置に、接続領域Fの起点を予め設定してもよい。
【0027】
さらに、制御部20は、接続領域Fに侵入した段階で、又は接続領域Fより外で、地図情報におけるジオフェンス領域Gの予定走行ルート上の傾斜・高速道路などの地形条件、気温や天候を含む気象条件等の各情報から、二次電池12のバッテリ温度がジオフェンス領域G内でどのように変化するのかを予測する温度予測部24を有する。
【0028】
また、制御部20は、二次電池12のバッテリ温度、及び二次電池12の充電状態を制御するバッテリ制御部25を有している。
【0029】
二次電池12はリチウムイオン電池等で構成され、複数の電池セルを並列して構成された電池モジュールを備えている。二次電池12には、その二次電池12の充電状態を検出する充電状態検出手段と、二次電池12の温度状態を検出するバッテリ温度検出手段が備えられている。充電状態検出手段は、例えば電圧センサで構成され、電池モジュールに取り付けられる。バッテリ温度検出手段は、例えば温度センサで構成され、二次電池12の本体を覆うバッテリケース等に取り付けられる。充電状態検出手段からの充電状態の情報、バッテリ温度検出手段からのバッテリ温度の情報、その他この車両1が備える各種センサ類からの情報は、制御部20に伝達される。さらに、二次電池12には、二次電池12の温度を調整する温調手段26が設けられている。温調手段26は、例えば、二次電池12に冷却水や冷却風を供給することで二次電池12を冷却する冷却装置である。また、温調手段26は、冷却装置とは別に、ヒータやエンジン11の冷却水を二次電池12に供給することで二次電池12を暖機する暖機装置を有していてもよい。
【0030】
充電状態検出手段によって検出される充電状態の情報には、二次電池12が蓄電可能な電力の満容量に対する残容量の比率(残容量/満容量)が含まれ、以下、この充電状態の情報をState Of Charge(SOC)と称する。
【0031】
車両1の制御について説明する。
【0032】
二次電池12のバッテリ温度には、許容上限値T1と許容下限値T2とを有する第一温度領域Aと、許容上限値T1よりも低い目標上限値T3と許容下限値T2よりも高い目標下限値T4とを有する第二温度領域Bが設定されている。この実施形態では、バッテリ温度は、0~35℃の温度範囲内での使用が推奨され、0~35℃の範囲を外れるとバッテリの性能(入出力可能な電力)が低下する。このため、許容上限値T1=35℃、許容下限値T2=0℃を第一温度領域Aの設定温度とする。また、第二温度領域Bは目標上限値T3=25℃、目標下限値T4=15℃としている。
【0033】
制御部20に入力された走行開始地点と走行終了地点(目的地)を結ぶ車両1の通行ラインが、予定走行ルートである。予定走行ルートは、ジオフェンス領域Gを通過する。また、予定走行ルートは、ジオフェンス領域G外からジオフェンス領域Gへ入り込む前段で、必ず接続領域Fを通過する。
【0034】
また、接続領域Fは、ジオフェンス領域Gに近い側の第一接続領域F1と、ジオフェンス領域Gから遠い側の第二接続領域F2に区分される。第一接続領域F1と第二接続領域F2との境界線は、例えば、接続領域F内の予定走行ルートにおける距離上の中間地点、又は、接続領域Fの走破にかかる時間の半分の時間が経過した時点で車両1が位置すると予想される地点に設定するとよい。
【0035】
バッテリ制御部25は、温度予測部24で予測した温度変化に基づいて、接続領域Fにおいて温調手段26を制御してバッテリ温度を調整する。この制御の目的は、車両1がジオフェンス領域G内に侵入するまでに、バッテリ温度を適切な状態にし、ジオフェンス領域G内で二次電池12がその性能を発揮できるようにすることである。
【0036】
温度予測部24は、ジオフェンス領域G内の気温や、ジオフェンス領域G内の予定走行ルートの経路情報(路面勾配や法定速度等)に基づいてジオフェンス領域G内での二次電池12の温度変化を予測する。例えば、経路情報が登坂路であり、ジオフェンス領域G内の気温が高い場合は、モータ13の出力が高い上に外気温によって二次電池12が冷却され難いため、バッテリ温度が上昇すると予想される。逆に、経路情報が平坦路であり、ジオフェンス領域G内の気温が低い場合は、モータ13の出力が低く外気温によって二次電池12が冷却され易いため、バッテリ温度が低下すると予想される。
【0037】
車両1が予定走行ルートを走行するにあたり、制御部20は、ジオフェンス領域G内では第一温度領域A内となるようにバッテリ温度を制御し、接続領域F内では第二温度領域B内となるようにバッテリ温度が制御される。接続領域F内において、バッテリ温度が第一温度領域Aよりも厳しい第二温度領域B内に制御されることで、その後のジオフェンス領域G内におけるバッテリ温度の変化の許容範囲を大きく確保できる。これにより、ジオフェンス領域G内でバッテリ温度が許容上限値T1又は許容下限値T2に至るまでに余裕があるため、二次電池12の冷却又は暖機のために消費される電力を抑えることができる。以下、ジオフェンス領域G内においてエンジン11の駆動が制限又は禁止される制御をジオフェンス領域内制御と称し、接続領域F内での制御を接続領域内制御と称する。実施形態では、ジオフェンス領域内制御はエンジン11の駆動を完全に禁止し、モータ13の駆動力のみでEV走行する制御としている。
【0038】
接続領域内制御では、温度予測部24で予測したジオフェンス領域G内での二次電池12の温度変化に応じて、以下の2つの事前温調制御から対応するものを選択する。
降温制御:パラレル運転モードを主として採用することで、二次電池12の充放電を少なくし、バッテリ温度の低下を促す。
昇温制御:シリーズ運転モードを主として採用することで、二次電池12の充放電を多くし、バッテリ温度を上昇させる。なお、降温制御において冷却装置も駆動させることでバッテリ温度の低下をより促進させてもよいし、昇温制御において暖機装置も駆動させることでバッテリ温度の上昇をより促進させてもよい。
【0039】
ここで、ジオフェンス領域G内でバッテリ温度が上昇することが予測された場合には、降温制御が選択される。降温制御を行った際のバッテリ温度の変化を、
図3Aに例示する。接続領域F内ではバッテリ温度は、第二温度領域B内、すなわち、目標上限値T
3よりも低く、且つ、目標下限値T
4よりも高い範囲で維持される。降温制御では、バッテリ温度は、ジオフェンス領域Gに入る際に第二温度領域Bの目標下限値T
4付近になるように調整される。また、ジオフェンス領域Gに入った後は、二次電池12からの電力によりモータ13が駆動され、バッテリ温度は徐々に上昇する傾向となるが、そのバッテリ温度は第一温度領域A内、すなわち、許容上限値T
1よりも低くなるように、温調の制御が成される。
【0040】
なお、降温制御では、セーブモードを使用することにより降温効果がより期待できる。また、摩擦ブレーキを多用することにより、回生電力を発生させない(回生制動の作用を控える)ようにしてもよい。この降温制御は、接続領域Fの全域で行ってもよいが、少なくともジオフェンス領域Gに近い側の第一接続領域F1で行うことが好ましい。
【0041】
降温制御を第一接続領域F1で行う場合、第二接続領域F2では、チャージモードを設定するとよい。第二接続領域F2は、ジオフェンス領域Gの境界まである程度の距離があるので、第一接続領域F1での降温制御、及び、その後のジオフェンス領域内制御に備えて、第二接続領域F2内で少しでもSOCを高めておくことが有効である。
【0042】
また、ジオフェンス領域Gでバッテリ温度が低下することが予測された場合には、昇温制御が選択される。昇温制御を行った際のバッテリ温度の変化を、
図3Bに例示する。接続領域F内では、バッテリ温度は第二温度領域B内で維持される。昇温制御では、バッテリ温度は、ジオフェンス領域Gに入る際に第二温度領域Bの目標上限値T
3付近になるように調整される。また、ジオフェンス領域Gに入った後は、二次電池12からの電力によりモータ13が駆動されるものの、周囲の気温が非常に低い状態であったり、二次電池12の充放電量が少ない(モータ13への要求出力が小さい等)といったことから、バッテリ温度は徐々に下降する傾向となる。
【0043】
昇温制御では、回生制動を多用して(摩擦ブレーキの使用を控えることで)二次電池12への充電量を増やすことでバッテリ温度を上昇させてもよい。
【0044】
なお、ジオフェンス領域G内でのバッテリ温度の変化が所定の変化量未満であることが予測され、温調制御が不要と判断された場合は、接続領域F内では第二温度領域Bの範囲を維持する通常制御が選択される。
【0045】
接続領域Fにおいてエンジン11が所定温度以上の高温状態である場合は、第一接続領域F1ではクーリングモードが実施されることが望ましい。クーリングモードは、エンジン11の出力を所定出力未満に抑えて運転することにより、エンジン11の排熱を抑制し、エンジン11の周辺の機器や排気通路に介在する触媒等の温度を低下させるモードである。クーリングモードは、エンジン11を停止する前に所定時間行われる。ジオフェンス領域Gに入った際に、高温状態にあるエンジン11をそのまま駆動停止するよりも、徐々に冷却してから駆動停止する方が、機器の保全に有効だからである。クーリングモードは、シリーズ走行によって行われるのが好ましい。シリーズ運転モードであれば、エンジン11と駆動輪との間のクラッチが切断されているので、エンジン11の出力をある程度自由に設定できるからである。
【0046】
図2は、接続領域内制御を行った場合のバッテリ温度の変化と、接続領域内制御を行わなかった場合のバッテリ温度の変化を比較するグラフ図である。図中のa地点から車両1が右方向へ走行し、途中の上り勾配区間を通過しながらバッテリ温度は徐々に上昇している。そして、下り勾配途中のb地点で接続領域Fに入る。
【0047】
接続領域内制御を行わないグラフT0では、接続領域F内で坂道を下る際の回生電力の二次電池12への充電でバッテリ温度は上昇し、地点cを通過した後は、ジオフェンス領域G内でのEV走行での二次電池12の電力使用により、バッテリ温度はさらに上昇していく。これに対して、接続領域内制御を行ったグラフTGでは、接続領域Fでは坂道を下る際の回生制動を控え摩擦ブレーキを多用する、又は、セーブモードによりモータ13の駆動にエンジン11の駆動によって発電された電力を用いることで、二次電池12の使用を抑えてバッテリ温度の上昇を抑制する。これにより、比較的低いバッテリ温度を維持しながら、地点cでジオフェンス領域G内へ入ることができる。
【0048】
図4に、接続領域Fとして第二接続領域F
2及び第一接続領域F
1を通過し、その後、ジオフェンス領域Gに侵入するルートを走行する車両1の制御の例を示す。
【0049】
ここで、接続領域内制御として、以下の(1)から(4)の4つのパターンを想定している。
(1)エンジン11をメインに使用し走行するパラレル走行(第一パラレル走行)
(2)モータ13をメインに使用し走行するパラレル走行(第二パラレル走行)
(3)モータ13の出力が小さいシリーズ運転モード(第一シリーズ走行)
(4)エンジン11の出力が大きいシリーズ運転モード(第二シリーズ走行)
【0050】
(運転条件1:接続領域F内での要求出力が大きく、ジオフェンス領域G内の温度上昇が予測される場合)
運転条件1のように、接続領域Fでの要求出力が大きく(接続領域Fが登坂路や高速道路等)、且つ、ジオフェンス領域G内でバッテリ温度の上昇が予測される場合は、第二接続領域F2で第一パラレル走行を行う。これにより、モータ13の使用が抑制されるため、バッテリ温度の上昇が抑制される。また、パラレル走行を行うため、接続領域Fでの大きい要求出力に対応することができる。そして、第一接続領域F1で降温制御が実施され、二次電池12が第二温度領域Bの目標下限値T4付近まで冷却される。ジオフェンス領域Gに入ると、エンジン11が停止されEV走行が開始される。
【0051】
(運転条件2:接続領域F内での要求出力が小さく、ジオフェンス領域G内の温度上昇が予測される場合)
運転条件2は、接続領域Fでの要求出力が小さい(平地での低~中速走行等)点で、運転条件1と異なっている。運転条件2では、第二接続領域F2で第一シリーズ走行を行う。これにより、モータ13の出力が抑制されるため、バッテリ温度の上昇が抑制される。なお、接続領域Fでの要求出力は小さいため、第一シリーズ走行を行うことができる。シリーズ走行を行うので、接続領域Fでの燃費向上や排ガス抑制効果が期待できる。第一接続領域F1及びジオフェンス領域Gでの制御は運転条件1と同様であるため省略する。
【0052】
(運転条件3:接続領域F内での要求出力が大きく、ジオフェンス領域G内の温度低下が予測される場合)
運転条件3は、ジオフェンス領域G内でバッテリ温度の低下が予測される点で、運転条件1,2と異なっている。運転条件3では、第二接続領域F2で第二パラレル走行を行う。これにより、モータ13の使用が促進されるため、バッテリ温度の上昇が促進される。また、パラレル走行を行えるため、接続領域Fでの大きい要求出力に対応することができる。そして、第一接続領域F1で昇温制御が実施され、二次電池12が第二温度領域Bの目標上限値T3付近まで昇温される。ジオフェンス領域Gに入ると、エンジン11が停止されEV走行が開始される。
【0053】
(運転条件4:接続領域F内での要求出力が小さく、ジオフェンス領域G内の温度低下が予測される場合)
運転条件4は、接続領域Fでの要求出力が小さい(平地での低~中速走行等)点で、運転条件3と異なっている。運転条件4では、第二接続領域F2で第二シリーズ走行を行う。これにより、エンジン11の出力が上昇(ジェネレータ14の発電量が上昇)されるため、二次電池12への充電電流が増加し、バッテリ温度の上昇が促進される。なお、接続領域Fでの要求出力は小さいため、第二シリーズ走行を行うことができる。第二シリーズ走行では、ジェネレータ14の発電量がモータ13の消費電力量を上回るため、ジェネレータ14の発電電力の一部が二次電池12に充電される。すなわち、第二シリーズ走行はチャージモードと同様の制御である。第一接続領域F1及びジオフェンス領域Gでの制御は運転条件3と同様であるため省略する。
【0054】
なお、第二接続領域F2での二次電池12の充電率が小さい場合、接続領域F内での要求出力やジオフェンス領域G内での予測温度変化によらず、第二接続領域F2でチャージモードを実行してもよい。また、第二接続領域F2から第一接続領域F1へと進入した際にエンジン11が所定温度以上の高温状態にある場合は、第一接続領域F1の後半で(1)~(4)の制御を終了しクーリングモードを実行してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 車両(ハイブリッド車)
11 エンジン
12 二次電池
13 電動機(モータ)
14 発電機(ジェネレータ)
20 制御部
21 位置情報取得部
22 地図情報取得部
23 ルート指定部
24 温度予測部
25 バッテリ制御部
26 温調手段
27 アンテナ
28 地図情報データベース
G ジオフェンス領域(規制区域)
F 接続領域
F1 第一接続領域
F2 第二接続領域