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特開2024-141804ジオフェンス境界通過時にエンジン制御を行うハイブリッド車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141804
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ジオフェンス境界通過時にエンジン制御を行うハイブリッド車
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/16 20160101AFI20241003BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20241003BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241003BHJP
   B60W 20/12 20160101ALI20241003BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20241003BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60W20/16
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W20/12
F02D29/06 F
F02D29/02 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053644
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【弁理士】
【氏名又は名称】地代 信幸
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】国政 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】廣江 健太
【テーマコード(参考)】
3D202
3G093
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB09
3D202CC47
3D202DD18
3D202DD22
3D202DD26
3D202DD45
3D202DD50
3D202EE00
3G093AA01
3G093BA21
3G093CA02
3G093CA03
(57)【要約】
【課題】エンジンと二次電池との両方を搭載するハイブリッド車が排ガスの排出についての抑制区域や禁止区域を通るにあたり、禁止区域内におけるエンジンの駆動を避けながら、排ガスの排出量を効率的に抑制できるようにする。
【解決手段】位置情報を取得する位置情報取得部21と、排ガスの規制区域であるジオフェンスの情報を含む地図情報を得る地図情報取得部22と、地図情報における予定走行ルートを指定するルート指定部23と、を有するハイブリッド車1で予定走行ルートに沿って走行するにあたり、制御部20が、禁止区域から抜け出る越境が予定される段階で、暖機対象30の暖機を開始する越境前準備暖機を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるエンジンと、前記車両の駆動輪を駆動させるモータと、前記モータに給電可能な二次電池と、を有するハイブリッド車両であり、
前記エンジンは、暖機することで前記エンジンの排ガスを良化可能な暖機対象を有し、
前記暖機対象には、前記二次電池からの給電により作動するヒータが設けられており、
前記ヒータを制御する制御部を備え、
前記制御部は、
排ガスの排出を禁止する禁止区域の情報を含む地図情報を得る地図情報取得部と、
前記地図情報における予定走行ルートを指定するルート指定部と、を備え、
前記制御部は、前記予定走行ルートに沿って走行するにあたり、前記禁止区域から抜け出る越境が行われる際に、前記ヒータを作動することで前記暖機対象を暖機する暖機制御を実行する、ハイブリッド車。
【請求項2】
前記暖機対象は複数設けられ、
前記制御部は、前記予定走行ルートに基づき前記越境後の前記ハイブリッド車両の要求出力を推定し、前記要求出力が高い場合には暖機する前記暖機対象の数を多くする、請求項1に記載のハイブリッド車。
【請求項3】
前記暖機対象は複数設けられ、
前記制御部は、前記越境直前における前記二次電池の充電率が大きいほど、暖機する前記暖機対象の数を増加させるように制御する、請求項1に記載のハイブリッド車。
【請求項4】
前記地図情報取得部は、排ガスの排出を抑制する抑制区域の情報を含み、
前記制御部は、前記越境後に侵入する前記抑制区域の排ガスの排出の抑制が厳しいほど、前記暖機対象の暖機目標温度を大きくする、請求項1に記載のハイブリッド車。
【請求項5】
前記二次電池からの給電により前記エンジンをモータリング可能なジェネレータを有し、
前記制御部は、前記越境直前における前記二次電池の充電率が大きいほど、前記エンジンのモータリング回転数を増加させる、請求項1に記載のハイブリッド車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンと二次電池とを備えたハイブリッド車が、排ガス規制が異なる区域を通過する際の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染対策として排ガスの排出量を削減するため、特定地域でエンジンの駆動が制限されたり禁止されたりする抑制区域又は禁止区域が設定されることがある。例えば幼稚園や小学校などの周辺区域といった小規模な区域から、地方自治体単位の大規模な区域まである。海外では国家単位で設定されることもありうる。
【0003】
このような抑制区域や禁止区域を通ってハイブリッド車が走行する際には、エンジンによる走行や発電が制限されたり禁止されたりするため、場合によっては電力不足で走行不能に陥るおそれがある。このため、これら地域内ではできる限り電力消費を抑えて走行する必要がある。ただし、抑制区域や禁止区域から抜けてエンジンの再始動を行う際に、エンジン再始動時の排ガスの排出量を抑制する必要があり、触媒の加熱やエンジン暖機など様々な部品に電力が必要となり、抑制区域や禁止区域内においてその電力を確保しておかなければならない。
【0004】
特許文献1では、禁止区域から抜け出る経路での複数の車両がエンジンを始動するタイミングを、車両ごとに分散させ、騒音や排ガスが特定箇所に集中することを防ぐ方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-87614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抑制区域や禁止区域から抜ける際のエンジン再始動時の排ガスの排出量(排ガス状態の悪化)の抑制は、各車両で行った方が排ガス抑制においては効率的である。
【0007】
そこでこの発明の課題は、エンジンと二次電池との両方を搭載するハイブリッド車が、エンジン駆動が制限される抑制区域や禁止される禁止区域を抜けるにあたり、排ガス状態の悪化を効率的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、第一の解決手段として、
車両に搭載されるエンジンと、前記車両の駆動輪を駆動させるモータと、前記モータに給電可能な二次電池と、を有するハイブリッド車両であり、
前記エンジンは、暖機することで前記エンジンの排ガスを良化可能な暖機対象を有し、
前記暖機対象には、前記二次電池からの給電により作動するヒータが設けられており、
前記ヒータを制御する制御部を備え、
前記制御部は、
排ガスの排出を禁止する禁止区域の情報を含む地図情報を得る地図情報取得部と、
前記地図情報における予定走行ルートを指定するルート指定部と、を備え、
前記制御部は、前記予定走行ルートに沿って走行するにあたり、前記禁止区域から抜け出る越境が行われる際に、前記ヒータを作動することで前記暖機対象を暖機する暖機制御を実行する、ハイブリッド車により上記の課題を解決したのである。
【0009】
禁止区域の情報を含む地図情報における予定走行ルートが分かっていると、その予定走行ルートに沿って禁止区域を走行しているとき、禁止区域から抜け出る境界が近づいてくることがわかる。禁止区域から抜け出てから排ガス浄化用触媒などの暖機対象を暖機し始めていたのでは、越境直後は暖機対象が十分に温まっておらず、暖機対象による機能を十分に駆動させることができない。この発明では禁止区域を抜け出る越境の前に、暖機対象の暖機を開始しておくことで、越境してすぐにエンジンを駆動しても、暖機対象の機能を十分に発揮させることができ、排ガス状態の悪化を抑制してのエンジン走行が可能となる。
【0010】
また、この発明は、第一の解決手段に加えて、
前記暖機対象は複数設けられ、
前記制御部は、前記予定走行ルートに基づき前記越境後の前記ハイブリッド車両の要求出力を推定し、前記要求出力が高い場合には暖機する前記暖機対象の数を多くする、第二の解決手段を採用できる。高速運転や登坂など高出力が必要な場合には、多くの暖機対象が十分に温まっていることが望ましいためである。
【0011】
さらに、この発明は第一又は第二の解決手段に加えて、
前記暖機対象は複数設けられ、
前記制御部は、前記越境直前における前記二次電池の充電率が大きいほど、暖機する前記暖機対象の数を増加させるように制御する、第三の解決手段を採用できる。充電率に余裕があるのであれば、その分多くの暖機対象を暖機しておく方が、排ガス状態の悪化をより抑制できるからである。
【0012】
さらにまた、この発明は第一から第三のいずれかの解決手段に加えて、
前記地図情報取得部は、排ガスの排出を抑制する抑制区域の情報を含み、
前記制御部は、前記越境後に侵入する前記抑制区域の排ガスの排出の抑制が厳しいほど、前記暖機対象の暖機目標温度を大きくする、第四の解決手段を採用できる。禁止区域から出ても、その先が排ガスの排出に制限のある抑制区域である場合は、排ガス状態が悪化しやすいが、十分に暖機しておくことで、これに対応できるようになる。
【0013】
さらにまた、この発明は第一から第四のいずれかの解決手段に加えて、
前記二次電池からの給電により前記エンジンをモータリング可能なジェネレータを有し、
前記制御部は、前記越境直前における前記二次電池の充電率が大きいほど、前記エンジンのモータリング回転数を増加させる、第五の解決手段を採用できる。
目標温度にまで加熱する際に、モータリングにより加熱した空気を流すことになるが、充電率に余裕がある場合にはこのモータリングに用いる電力量を上げることで、効率的な暖機が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
この発明にかかるハイブリッド車では、排ガスの排出規制が異なる地域を跨いで走行するにあたり、禁止区域から抜け出る前にエンジン始動に向けた事前暖機を行うことで、排ガス状態の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明にかかるハイブリッド車の実施形態例の機能ブロック図
図2】禁止区域を通る予定走行ルートとその際のステップを示す例図
図3】この発明にかかるハイブリッド車が図2のルートを通る際の処理フロー例図
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を図1に示すハイブリッド車1の機能ブロック図の例を用いて説明する。この発明は、エンジン11と二次電池12と、エンジン11により駆動されて発電するジェネレータ14と、これらにより給電されて駆動し車両の駆動輪を駆動させるモータ13とを有する、ハイブリッド車1である。二次電池12にはエンジン11によりジェネレータ14を動かして発電される電力によって充電される他に、外部電源からの外部充電が可能であるプラグインハイブリッド車(PHEV)であってもよい。また、図示しないものの、二次電池12は外部へ給電する外部給電も可能であってもよい。
【0017】
この発明にかかるハイブリッド車1は、二次電池12からの給電のみでモータ13を駆動させ、エンジン11を駆動させないEV走行モードや、エンジン11の出力により駆動されたジェネレータ14の発電電力をモータ13に給電しモータ13を駆動させるシリーズ走行モード、二次電池12からの給電とともにエンジン11を駆動させるパラレル走行モードを有する。
【0018】
エンジン11は、各種の暖機対象30を有している。暖機対象30は、例として、エンジン11の排気通路に設けられ排ガス浄化に用いられる触媒31、エンジン11の排気濃度を検出するセンサ32(排気空燃比を取得するLAFSや、排気の酸素濃度を取得するO2センサ)、エンジン11の冷却水33及びオイル34などが挙げられる。本実施形態の暖機対象30とは、排ガスに影響を与えるものである。これらの暖機対象30の付近には、ヒータ35が設けられる。例として、ヒータ35は、排気通路の触媒31より上流側、排気通路のセンサ32より上流側、エンジン11のシリンダブロックに設けられる。ヒータ35は、二次電池12からの給電により駆動する。
【0019】
この発明にかかるハイブリッド車1は、ハイブリッド車1の機能について電子的な制御を行う制御部20を有する。これらは半導体演算装置とメモリとを有し、アクセル等の操作装置の操作による出力要求を受けて、エンジン11とモータ13とを含む各部位へ駆動指示や出力指示等の命令を送るとともに、各部位からデータを取得する。制御部20は記憶されたプログラムの実行によって実現する機能や、専用の回路による機能として、下記の各部を有する。
【0020】
制御部20は、GPS等の衛星測位システムに対応したアンテナ27からの情報により、位置情報を取得する位置情報取得部21を有する。
【0021】
制御部20は、排ガスの排出を抑制又は禁止する規制区域であるジオフェンスの情報を含む地図情報を得る地図情報取得部22を有する。ここで規制区域としては、内燃機関の駆動を禁止する禁止区域と、内燃機関の出力に制限を設け排ガスの排出量を抑制する抑制区域とがある。抑制区域には、排ガスの排出量についての数値的な情報が含まれていてもよく、制限の度合いに強弱があってもよい。これらの規制区域は、地図上においてどの住所区分や自治体単位で規制区域であるか否かの属性情報として地図情報に記録されていてもよいし、地図に重なる情報として所定の地点から所定の距離が規制区域であると規定されていてもよい。すなわち、地図情報とともに道路上のどこが規制区域にあたるのかを確認できるのであれば、形式は特に限定されない。これらの地図情報を取得するための取得元は、ハイブリッド車1が有する地図情報データベース28に記録されたものでもよいし、移動体通信網を介して適宜ダウンロードされるものでもよい。以下の説明ではハイブリッド車1が有する地図情報データベース28に、ジオフェンスの情報が記録されている形態を主な例として説明するが、これに限定されるものではない。
【0022】
制御部20は、前記地図情報における予定走行ルートをドライバーからの入力によって指定するルート指定部23を有する。制御部20は、タッチパネルなどの入力装置(図示せず)を介して、ルート検索機能によるルート候補を提示した上での選択や、ドライバーによる手入力などにより、目的地までの予定走行ルートについての指示を受け取り、予定走行ルートを指定して、メモリに登録する。この予定走行ルートは、上記のジオフェンスの情報と照らし合わせることで、ルート上のどの区間が禁止区域又は抑制区域であるかを確認できる。
【0023】
さらに、制御部20は、予定走行ルートの傾斜・高速道路などの条件・渋滞情報などの情報から越境(規制区域の区域外から区域内に入る瞬間、ある規制区域から異なる規制区域に入る瞬間)直後の要求出力を推定する要求出力推定部25を有すると好ましい。
【0024】
制御部20は、センサ32からの情報を参照してエンジン11を制御する。すなわち、排気濃度に基づき燃料噴射量や吸入空気量を制御して空燃比制御を行う。また、制御部20は、二次電池12の充電率を取得する。二次電池12の充電率は、二次電池12の電圧から充電率を推定すればよい。さらに、制御部20は、アクセル操作量等に基づく要求出力や二次電池12の充電率を参照してハイブリッド車1の走行モード(EV走行モード、シリーズ走行モード、パラレル走行モード)を選択する。
【0025】
次に、この発明にかかるハイブリッド車1が走行時に行う制御について説明する。予定走行ルートとして、図2に示す図中左端から走行開始し図中右端へ抜ける矢印αを例として想定する。走行開始地点と走行終了地点(目的地)は、排ガスの排出量に関する規制が緩い抑制区域(抑制区域:緩)であるジオフェンスCである。予定走行ルートは、途中でジオフェンスCより排ガスの排出量に関する規制がより厳しい抑制区域(抑制区域:厳)であるジオフェンスBを通過する。さらに、予定走行ルートはその途中(ジオフェンスBを通過した後で)で、排ガスの排出を禁止する禁止区域であるジオフェンスAを通過する。この発明では特に、ジオフェンスAから抜け出る越境が予定される段階(越境以前)での制御を特徴とする。
【0026】
このルートを走行する際の処理例を図3のフローチャートとともに説明する。
まず、走行開始にあたってドライバーが入力装置を介して目的地を制御部20に入力し、ルート指定部23により走行ルートが決定される(S101)。
【0027】
予定走行ルートに沿って走行開始する(S102)。当初はジオフェンスC内を走行しており、「抑制区域:緩」であるためエンジン11の出力制限は少ない。ジオフェンスCからジオフェンスBへ侵入する越境が予定される段階(ジオフェンスC内)で、エンジン11によりジェネレータ14を駆動させて発電しつつジェネレータ14の発電電力未満の電力でモータ13を駆動させることで、二次電池12を充電するとともに走行する発電蓄電を行う(S11:S111)。ジオフェンスCからジオフェンスBへ侵入すると、エンジン11の出力制限が大きくなるため二次電池12の充電率が低下しやすくなる。そのため、ジオフェンスC内において予め二次電池12の充電率を増加させる。越境の予定は、予定走行ルート上におけるジオフェンス情報と、位置情報取得部21による現在位置情報から判断すればよい。発電蓄電を開始するタイミングは、ジオフェンスBまでの距離が所定距離以下となった場合や、ジオフェンスBへ侵入するまでの走行予定時間が所定時間以下となった場合とすればよいが、二次電池12の現在の充電率が低いほど発電蓄電を開始するタイミングを早めるなど適宜調整してもよい。ジオフェンスを越境し、ジオフェンスCからジオフェンスBに侵入したら(S112)、制御部20は、以降は排ガス状態の悪化を抑制するようにエンジン11の出力を制御する(S113)。
【0028】
続いて、ジオフェンスB内を予定走行ルートに沿って運転していき、ジオフェンスBからジオフェンスAへ侵入する越境が予定される段階(ジオフェンスB内)で、エンジン11の停止準備を行う(S12:S121)。具体的には、エンジン11の燃料噴射を停止し、二次電池12からジェネレータ14に給電することによってエンジン11をモータリングし、排気通路内の排ガス掃気を行う。ジオフェンスBからジオフェンスAに侵入したら(S122)、以降はエンジン11を駆動させずにモータ13で走行する(S123)。
【0029】
ジオフェンスA内に給電スポットがある場合であって、二次電池12の充電率がジオフェンスAから抜け出るまでに必要と想定される電力と、後述する暖機制御とに必要な電力との合計値より小さいときは、給電スポットでの充電をユーザに促す(S13:S131)。
【0030】
その後、ジオフェンスA内を走行するにあたり、ジオフェンスAからジオフェンスBへと、禁止区域から抜け出る越境が予定されている段階で、二次電池12からヒータ35に給電して暖機対象30の暖機を開始する暖機制御を実行する(S14:S141)。暖機には電力を必要とするため、どのような場合でも暖機対象30のすべてを暖機することは現実的ではない。そのため、状況に応じて複数の暖機対象30のうちどれを暖機するのかを変更することが望ましい。どのような状況に応じて、どの暖機対象30を、どれだけ暖機するか、の詳細は後述する。暖機制御の後、ジオフェンスAからジオフェンスBへと抜け出ると(S142)、エンジンを駆動させる(S143)。暖機制御を行っておくことにより、越境した後にエンジン11を駆動させた際の、排ガス状態の悪化を抑制することができる。その後、さらにジオフェンスBからジオフェンスCへと抜け出ると(S15:S151)、エンジン11の出力制限が緩み、エンジン11の駆動条件が緩和されて自由度の高い制御が可能となる(S152)。目的地がジオフェンスC内にある場合にはそのまま進行して到着となる(S191)。一方、再びジオフェンスAに侵入する場合は、上記のS111~S152のような工程を繰り返す。なお、暖機制御は、暖機対象30が後述する目標温度に達したら終了する。また、エンジン11が始動したら暖機制御を終了してもよい。
【0031】
この発明にかかるハイブリッド車において、制御部20は、暖機制御を行う対象と目標とについて、条件に応じた調整を行うことが望ましい。図1に記載した暖機対象30の触媒31、センサ32、冷却水33、オイル34のそれぞれについて、目標温度、暖機に必要となる電力、優先度は下記の表1のように分類される。
【0032】
【表1】
【0033】
触媒31を暖機することで、排気浄化効率が向上しエンジン11駆動時の排ガス状態の悪化を抑制することができる。なお、触媒31には、触媒31の活性が開始され排気浄化能力がある程度確保される活性開始温度と、触媒31の活性が完了し排気浄化能力が最大となる昇温完了温度とを有する。また、センサ32を暖機することで、排気濃度の検出精度が向上し空燃比制御の精度が向上するため排ガス状態の悪化を抑制することができる。センサ32には、排気濃度が計測可能となる計測可能温度と、排気濃度の計測精度が最大となる精度保証温度とを有する。また、冷却水33、オイル34を暖機することで、エンジン11駆動時のフリクションが低下するとともに、エンジン11の気筒内の燃料が気化しやすくなるため、排ガス状態の悪化を抑制することができる。冷却水33、オイル34は、エンジン11の気筒内の燃焼効率が良い状態となる暖機完了温度(例えば60℃)と、エンジン11駆動時の十分なオイル循環とフリクションの低下が期待できる完全暖機温度(例えば80℃)とを、冷却水33とオイル34とでそれぞれ有する。
【0034】
これらのうち、特にセンサ32を最優先で暖機することが望ましい。他の暖機対象30に比べて必要とする電力が少ないため、小さい電力で暖機の効果が得られるからである。次に優先して暖機されるのは触媒31である。優先順位が最も低いのは冷却水33やオイル34である。冷却水33やオイル34は、昇温に必要な電力量が大きく、二次電池12の充電率が低下しやすいためEV走行の航続距離が低下する。
【0035】
また、複数の暖機対象30のうちどの暖機対象30を暖機するかや、暖機対象30をどの程度まで暖機するかという目標温度を、二次電池12の充電率や、越境後のジオフェンスの規制の程度、越境直後に推定される要求出力によって変更してもよい。
【0036】
具体的には、制御部20は、越境時(暖機制御開始時)の二次電池12の充電率が低いほど、暖機する暖機対象30を少なくするように制御するとよい。暖機制御では二次電池12の電力を消費するため、二次電池12の充電率が低い場合は暖機対象30を少なくし、暖機制御による電力消費を抑制してEV走行の航続距離を確保する。
【0037】
また、制御部20は、禁止区域から抜け出る越境直後に推定される要求出力に応じて、要求出力が高い場合には暖機する暖機対象30を多く、要求出力が低い場合には暖機する暖機対象30を少なくするように制御するとよい。越境直後に推定される要求出力は、(1)予定走行ルートに沿った越境後の道路が高速道路である場合は要求出力が高い、(2)予定走行ルートに沿った越境直後の道路が登坂である場合は要求出力が高い、と判断し、要求出力が高いほど暖機対象30を増やす(優先順位の低い暖機対象30まで暖機する)、要求出力が高いほど目標温度を高くする(表1の最高目標温度を目標温度とする)こととしてもよい。すなわち、要求出力が高いほどエンジン11駆動時の排ガス状態が悪化するため、暖機対象30を増やしたり、暖機対象30の目標温度を高くすることで、エンジン11駆動時の排ガス状態の悪化をより抑制する。
【0038】
なお、越境直後に推定される要求出力に応じ、越境直後の走行モードも変化する。要求出力が高い場合はパラレル走行モードとなり、要求出力が低い場合はシリーズ走行モードとなる。すなわち、制御部20は、禁止区域から抜け出る越境直後のハイブリッド車1の走行モードに応じて複数の暖機対象30のうちどの暖機対象30を暖機するかや、暖機対象30をどの程度まで暖機するかという目標温度を変更する。
【0039】
また、制御部20は、越境後のジオフェンスの排ガス規制の規制量(エンジン11の出力制限量)に応じて、複数の暖機対象30のうちどの暖機対象30を暖機するかや、暖機対象30をどの程度まで暖機するかという目標温度を変更してもよい。図2における矢印αではジオフェンスA(禁止区域)からジオフェンスB(抑制区域:厳)へ抜け出ており(S14)、図2における矢印βではジオフェンスA(禁止区域)からジオフェンスC(抑制区域:緩)へ抜け出ている(S14a)。すなわち、矢印αのルートに対し矢印βのルートの方が、越境後のジオフェンスの排ガス規制の規制量が小さくなる。越境後のジオフェンスの排ガス規制の規制量が小さいほど暖機対象30を減らす(優先順位の低い暖機対象30から順に暖機をカットする)、越境後のジオフェンスの排ガス規制の規制量が小さいほど目標温度を低くする(表1の最低目標温度を目標温度とする)こととしてもよい。すなわち、越境後のジオフェンスの排ガス規制の規制量が小さいほど、エンジン11駆動時の排ガス状態が多少悪くなることも許容されるため、暖機対象30を減らしたり、暖機対象30の目標温度を低くすることで、暖機制御にかかる電力消費量を抑制し、ジオフェンスA(禁止区域)内でのEV走行の航続距離を延ばす。
【0040】
以下、予定走行ルートの具体例を提示し、より詳細に説明する。
(1)予定走行ルートが矢印αであり、越境後の道路が高速道路、若しくは登坂である場合
ジオフェンスB(抑制区域:厳)でのエンジン11駆動時の排ガス状態が悪く、ジオフェンスB(抑制区域:厳)での排ガス規制量を大きく上回ることが考えられるので、全ての暖機対象30を最高温度まで暖機する。これにより、暖機制御の電力消費量が大きくなるので、必要に応じジオフェンスA(禁止区域)内の給電スポットでの給電を促す。
【0041】
(2)予定走行ルートが矢印αであり、越境後の道路が一般道路の平地である場合
ジオフェンスB(抑制区域:厳)での排ガス規制量が厳しいが、ジオフェンスB(抑制区域:厳)でのエンジン11駆動時の排ガス状態はそれほど悪化しないと考えられるので、(1)に比べて、暖機を行う暖機対象30を減らす、目標温度を下げる、の少なくとも一方を実施する。本実施形態では、暖機対象30のうちセンサ32及び触媒31を暖機し、冷却水33とオイル34は暖機しない。また、センサ32と触媒31の暖機目標温度を最低目標温度に設定する。
【0042】
(3)予定走行ルートが矢印βであり、越境後の道路が高速道路、若しくは登坂である場合
ジオフェンスC(抑制区域:緩)でのエンジン11駆動時の排ガス状態は悪いが、ジオフェンスC(抑制区域:緩)での排ガス規制量は緩いため、(2)同様、暖機を行う暖機対象30を減らす、目標温度を下げる、の少なくとも一方を実施する。本実施形態では、暖機対象30のうちセンサ32及び触媒31を暖機し、冷却水33とオイル34は暖機しない。また、センサ32と触媒31の暖機目標温度を最低目標温度に設定する。すなわち、(3)ではエンジン11駆動時の排ガス状態とジオフェンス内の排ガス規制量との関係(排ガス状態と排ガス規制量との差)が(2)と同様であるため、(2)と同様の暖機制御が行われる。
【0043】
(4)予定走行ルートが矢印βであり、越境後の道路が一般道路の平地である場合
ジオフェンスC(抑制区域:緩)でのエンジン11駆動時の排ガス状態はそれほど悪化せず、ジオフェンスC(抑制区域:緩)での排ガス規制量も緩いため、最小限の暖機制御とする。本実施形態では、暖機対象30のうちセンサ32のみを暖機し、センサ32の暖機目標温度を最低目標温度に設定する。
【0044】
なお、暖機制御において、ヒータ35を用いて暖機対象30を暖機するには、空気の流れ(冷却水33とオイル34の場合には、冷却水33、オイル34自身の流れ)を発生させた方が効率的である。そのため、本実施形態では、暖機制御中はジェネレータ14によりエンジン11をモータリングすることで空気の流れ(冷却水33、オイル34自身の流れ)を発生させる。ただし、モータリングを行うには二次電池12からジェネレータ14に給電を行う必要があり、暖機制御にかかる電力消費量が増加する。そこで、本実施形態では、モータリングの回転数や回転時間を、越境時(暖機制御開始時)の二次電池12の充電率に応じて制御する。具体的には、二次電池12の充電率が大きい場合は、暖機制御の効果を高めるためにモータリングの回転数を大きくするとともに回転時間を長くし、二次電池12の充電率が小さいほど、暖機制御にかかる電力消費量を抑制するためモータリングの回転数を小さくするとともに回転時間を短くする。なお、モータリングの回転数は変更せず回転時間のみを制御してもよいし、モータリングの回転時間は変更せず回転数のみを制御してもよい。
【0045】
上記は抑制区域の制限度合いがジオフェンスBとジオフェンスCとの二段階である場合を例に説明しているが、設定される抑制区域の条件はこれに限られるものではなく、さらに細かく分類した制限度合いに応じて、制御部20が暖機制御の内容を調整するようにしてもよい。例えば、目標温度が3段階以上設けられていてもよく、制限度合いに応じて目標温度が変更されてもよい。また、排ガス状態と排ガス規制量との差に応じて、暖機制御の内容を変化(差が大きいほど暖機対象30を増やし、目標温度を高くする)させてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 ハイブリッド車
11 エンジン
12 二次電池
13 モータ
14 ジェネレータ
20 制御部
21 位置情報取得部
22 地図情報取得部
23 ルート指定部
25 要求出力推定部
27 アンテナ
28 地図情報データベース
30 暖機対象
31 触媒
32 センサ
33 冷却水
34 オイル
35 ヒータ
図1
図2
図3