(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141808
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】腕重量補償機構
(51)【国際特許分類】
B66F 19/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B66F19/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053650
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390000804
【氏名又は名称】白山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 茂男
(57)【要約】
【課題】腕の角度に関わらず、荷重を支えることができる腕重量補償機構を提供すること。
【解決手段】ユーザPの肩部に配置された支点66で回転自在に支持され、一端の吊り下げ点16にユーザPの腕の荷重Wが作用し、他端の補償力作用点72にシリンダ100の牽引力が作用する、直線状のアーム10であって、吊り下げ点16と支点66間の長さと、支点66と補償力作用点72間の長さとの比が一定に保たれるように伸縮可能に構成される、アーム10と;ユーザPに支持されるシリンダ100とを備える、腕重量補償機構1。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの肩部に配置された支点で回転自在に支持され、一端の吊り下げ点に前記ユーザの腕の荷重が作用し、他端の補償力作用点に荷重支持力が作用する、アームであって、前記吊り下げ点と前記支点間の長さと、前記支点と前記補償力作用点間の長さとの比が一定に保たれるように構成される、アームと;
前記ユーザに支持される荷重出力生成装置とを備える;
腕重量補償機構。
【請求項2】
前記アームの軸直交方向を拘束されつつ軸方向に配設され、一端に前記荷重が作用し、前記一端の前記軸方向の変位を比例的に縮小しながら他端側に伝える軸力機構と;
前記アームの前記他端側に配置されるラムダ機構であって、長要素の一端は前記軸力機構に接続され、該長要素の他端は前記支点に支持され、短要素の端部に前記荷重出力生成装置が連結される、ラムダ機構とを備える;
請求項1に記載の腕重量補償機構。
【請求項3】
前記軸力機構は、
前記荷重が連結され、前記軸力機構内をスライドし、内面にラックギア形成されたスライドパイプと;
前記スライドパイプのラックギアと係合して回転する二重歯車の第1ギアと;
前記軸力機構内をスライドするスライド部材であって、前記第1ギアの前記ラックギアと係合する歯車とは異なる歯車と係合する第1ラックギアと、第2ラックギアとが形成された、スライド部材と;
前記スライド部材の第2ラックギアと係合する第2ギアであって、前記軸力機構に形成された固定ラックギアと係合し、前記スライド部材の前記軸力機構内でのスライドによって回転しながら前記アームの軸方向に移動する第2ギアとを備え;
前記ラムダ機構の前記長要素の一端は前記第2ギアに接続される;
請求項2に記載の腕重量補償機構。
【請求項4】
前記軸力機構は、
前記荷重が連結され、前記軸力機構内をスライドし、ワイヤが固定されたスライドパイプと;
前記ワイヤにより片端のプーリが回転する二重プーリ機構であって、中央のプーリが前記アームの軸方向に移動する、二重プーリ機構とを備え;
前記ラムダ機構の前記長要素の一端は前記中央のプーリに接続される;
請求項2に記載の腕重量補償機構。
【請求項5】
前記支点を前記ユーザの肩部に配置するリンクを有し、該リンクは前記荷重出力生成装置と固定連結され、前記シリンダまたは前記リンクをユーザに固定する固定バンドを備える;
請求項3または請求項4に記載の腕重量補償機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腕重量補償機構に関する。特に、簡単な構造で、腕をどのような位置にしても腕重量を支えることができる腕重量補償機構に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接作業のように腕を空間に止めてゆっくり正確に動かすような作業や、果樹園での果樹収穫作業のように腕を空中に伸ばして長く保持するような作業では腕が疲れやすい。また、グラインダなどの重い工具を取り扱う工場での作業の場合には、工具を保持し続けることで、腕や肩に負担がかかる。このような作業を補助するために、従来から種々な装置が考案されている。従来の装置では、肩の部分に位置する回転部材と腕を支える部材を有し、回転部材のモーメントを相殺するようにして補助する機構が主体であった。
【0003】
例えば特許文献1に開示された装置は、ユーザの身体上で着用されるように構成されるハーネスと、ユーザの腕に力を付与するための腕当てと、ハーネスと腕当てとを回転可能に接続する枢軸と、腕当てに枢軸周りのモーメントを付与する弾性要素と、弾性要素に生ずる弾性力を調整するための機構(ケーブルと二重軌道滑車、ケーブルとカム)を備え、腕の位置に関わらず、腕に作用する荷重を相殺することが意図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような装置では、腕を真上または真下に伸ばした状態では、腕当てにモーメントを働かす必要がなくなる。この状態では、荷重、すなわち腕で支える荷重と腕自体の重量とは、そのまま腕に軸力として作用することになり、ユーザの腕と肩とで支えることになる。すなわち、腕重量を支える機能は果たしていない。
【0006】
そこで、本発明は、腕の角度に関わらず、荷重を支えることができる腕重量補償機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る腕重量補償機構1は、例えば
図2および
図3に示すように、ユーザPの肩部に配置された支点66で回転自在に支持され、一端の吊り下げ点16にユーザPの腕の荷重Wが作用し、他端の補償力作用点72にシリンダ100の牽引力が作用する、直線状のアーム10であって、吊り下げ点16と支点66間の長さと、支点66と補償力作用点72間の長さとの比が一定に保たれるように伸縮可能に構成される、アーム10と、ユーザPに支持されるシリンダ100とを備える。
【0008】
このように構成すると、アームの吊り下げ点に作用する荷重は、長さの比で補償力作用点に作用する牽引力によりバランスする。腕の角度に関わらず、アームが吊り下げ点と支点間の長さと支点と補償力作用点間の長さとの比が一定に保たれるように伸縮するので、すなわち、吊り下げ点の軸方向変位と補償力作用点と支点との間の長さとが比例するように移動するので、アームの先端に作用する荷重も長さの比で補償力作用点に作用する牽引力によりバランスする。よって真上でも真下でも、腕の位置に関わらず荷重を支えることができる、腕重量補償機構となる。本発明の腕重量補償機構において、シリンダ100の牽引力は、荷重支持力とすることができ、シリンダは荷重出力生成装置とすることもできる。このため、本発明の機構において牽引でなく押し出し力を使う構成とすることもできる。また、シリンダ以外の構成としては、その牽引力をハンドルの回転で変えられるようなバネとすることも可能である。さらには、本発明の機構を用いることにより、伸縮型機構ではなく、
図1に記載のような折れ曲がるパンタグラフ機構でアームを構成することも可能である。
【0009】
本発明の第2の態様に係る腕重量補償機構1では、例えば
図2および
図3に示すように、アーム10の軸直交方向を拘束されつつ軸方向に配設され、一端16に荷重Wが作用し、一端16の軸方向の変位を比例的に縮小しながら他端側に伝える軸力機構20と、アーム10の他端18側に配置されるラムダ機構60であって、長要素62の一端64は軸力機構20に接続され、長要素62の他端は支点66に支持され、短要素70の端部72にシリンダ100が連結される、ラムダ機構60とを備える。
【0010】
このように構成すると、アームの一端に荷重が作用し他端側がラムダ機構により回転可能に支持されてシリンダの牽引力を受け、さらに、軸力機構により一端の軸方向変位が比例的に縮小されて他端側のシリンダによる牽引変位に変換される。このアーム先端の変位量とシリンダによる牽引変位の比例関係はアームが水平な姿勢から角度θだけ傾いた時にも成り立つので、アームの一端に働く荷重はシリンダが生成する補償力によってアームの角度θに関わらず常に補償される。そしてこの補償力はアームの軸直交方向の荷重だけでなく軸方向の荷重も相殺する効果を生成し、その効果はアームの姿勢θが±90度までの、腕が真下あるいは真上にした姿勢であっても生成される。
【0011】
本発明の第3の態様に係る腕重量補償機構1では、例えば
図2および
図3に示すように、軸力機構20は、荷重Wが連結され軸力機構20内をスライドし、内面にラックギア24が形成されたスライドパイプ22と、スライドパイプ22のラックギア24と係合して回転する二重歯車の第1ギア30と、軸力機構20内をスライドするスライド部材40であって、第1ギア30のラックギア24と係合する歯車32とは異なる歯車34と係合する第1ラックギア42と、第2ラックギア44とが形成された、スライド部材40と、スライド部材40の第2ラックギア44と係合する第2ギア50であって、軸力機構20に形成された固定ラックギア48と係合し、スライド部材40の軸力機構20内でのスライドによって回転しながらアーム10の軸方向に移動する第2ギア50とを備え、ラムダ機構60の長要素62の一端64は第2ギア50に接続される。
【0012】
このように構成すると、アーム先端の軸方向変位であるスライドパイプの軸方向変位は、二重歯車で減少し、減少した変位がスライド部材から第2ギアに伝えられ、第2ギアは、固定ラックと係合してアームの軸方向に移動するので、移動量はさらに半減し、その動きがラムダ機構に伝えられるためラムダ機構の変位量が減少する。そしてこの縮小比は、アームの水平からの傾きが変動しても変動しない。アーム先端に働く荷重とシリンダが牽引する牽引力とは縮小比の逆数の関係となり、縮小比と牽引力を調整することで、アームの姿勢に関わらず荷重を支えることができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る腕重量補償機構2では、例えば
図2、
図4および
図5に示すように、軸力機構は、荷重Wが連結され、軸力機構内をスライドし、ワイヤ142が固定124されたスライドパイプ122と、ワイヤ142により片端のプーリ130が回転する二重プーリ機構120であって、中央のプーリ150がアーム10の軸方向に移動する、二重プーリ機構120とを備え、ラムダ機構60の長要素62の一端64は中央のプーリ150に接続される。
【0014】
このように構成すると、アーム先端の軸方向変位は、二重プーリ機構で比例的に縮小され、その移動量がラムダ機構の長要素の一端に伝えられる。この縮小比は、アームの水平からの傾きが変動しても変動しない。アーム先端に働く荷重とシリンダが牽引する牽引力とは縮小比の逆数の関係となり、縮小比と牽引力を調整することで、アームの姿勢に関わらず荷重を支えることができる。
【0015】
本発明の第5の態様に係る腕重量補償機構1、2では、例えば
図2に示すように、支点66をユーザPの肩部に配置するリンク80を有し、リンク80はシリンダ100と固定連結され、シリンダ100またはリンク80をユーザPに固定する固定バンド110を備える。このように構成すると、支点を配置するリンクまたはリンクと固定連結されたシリンダを固定バンドでユーザに固定するので、腕重量補償機構はユーザにしっかりと支持される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、腕重量補償機構は、腕の荷重を擦り下げる吊り下げ点と支点間の長さと支点と補償力作用点間の長さとの比が一定に保たれるように伸縮するので、軸直交方向の荷重だけでなく軸方向の荷重も相殺することが可能であり、腕の角度に関わらず荷重を支えることができる腕重量補償機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の原理を説明するためのパンタグラフ型機構を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態としての腕重量補償機構をユーザに装着した模式図であり、(a)は、腕を水平方向に伸ばしたところ、(b)は腕を下げたところを示す。
【
図3】軸力機構として、ギアとラックギアを用いた一例を説明する模式図である。
【
図4】軸力機構として、二重プーリ機構を用いた一例を説明する模式図である。
【
図5】二重プーリ機構の機能を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、
図1を参照して、本発明の基本的な原理をパンタグラフ型機構500を用いて説明する。パンタグラフ型機構500は、リンクの長さの比がaである2つのパンタグラフ540、550が支点530で回転自在に支持されている機構である。図中の上下方向の荷重が端点510に作用すると、反対側の端点520ではa倍の力でバランスする。この効果は、このように両端部510と520が水平に近い姿勢で荷重の方向とほぼ直交するような動作状態では、いわゆる梃子の原理と同じと言える。しかし、このパンタグラフ機構では、図中の上下方向だけではなく、水平方向の力が端点510に作用する場合も、反対側の端点520では、同様にa倍の力でバランスする。すなわち、パンタグラフ型機構500では、両端部510と520に働く軸方向(図中の水平方向)に直交する方向の力だけでなく、軸方向の力もバランスすることができ、このような効果は梃子では実現できないものである。本発明は、パンタグラフ型機構500のような機構を用いることで、腕の角度に関わらず、荷重を支えることができる腕重量補償機構を提供する。
【0019】
続いて図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
図2を用いて、腕重量補償機構1、2の概要を説明する。なお後述するように、腕重量補償機構1は軸力機構20としてギアとラックギアを用いたもので、腕重量補償機構2は軸力機構120として二重プーリ機構を用いたものである。
【0020】
腕重量補償機構1、2は、バンド12でユーザPの腕を保持し、バンド12を支持するためのロープ14を先端から吊下するアーム10を有する。アーム10を支点66回りに回転可能に支持するラムダ機構60をユーザPの肩側に有し、ラムダ機構60は、リンク80を介してユーザPの肩に載置される。またシリンダ100をユーザPの背中側に配置し、シリンダ100のピストン(不図示)からピストンワイヤ90でラムダ機構60を引くことにより荷重を支える。
【0021】
図2(a)のように、腕を水平方向に伸ばした状態では、バンド12で支持する荷重がアーム10の一端16に作用し、アーム10にはリンク80での回転可能な支点66回りにモーメントが発生し、このモーメントをラムダ機構60を介して、シリンダ100からピストンワイヤ90を通じてバランスすることにより、腕の荷重を支える腕重量補償機構1、2となる。
【0022】
シリンダ100が、固定バンド110でユーザPに固定される。そして、リンク80は、鉛直軸回りに回動自在に支持される。ユーザPの腕が前から横方向に回動したとしても、アーム10は、その動きに追従して常に腕の上に位置する。リンク80およびシリンダ100の何れかが、あるいは、両方が、固定バンド110でユーザPに固定され、リンク80がユーザPの肩に載置され、腕重量補償機構1、2がユーザPと一体となり、荷重WをユーザPの身体で支持できる。
【0023】
図2(b)のように、腕を下げ、アーム10が下に角度θだけ傾けられた場合には、支点66から腕の荷重を支える端部16までの水平距離がcosθ分だけ短くなるため、腕を持ち上げる補償力も減少させる必要がある。このような傾き角度θに対して、腕重量補償機構1、2では、ラムダ機構60も同じ角度θだけ傾斜するので、
図3を参照して後述するように、シリンダ100の牽引力を伝えるピストンワイヤ90からラムダ機構60の支点66までの距離もcosθ分だけ減少することで対応できる。このため、腕からの荷重Wは、アーム10が真下から真上に至るすべての角度θの範囲で、常にシリンダ100の牽引力で補償することができる。
【0024】
図3に腕重量補償機構1の軸力機構20とラムダ機構60を説明する断面概念図を示す。腕重量補償機構1は、直線状のアーム10の先端16に腕吊りロープ14が連結され、その先にバンド12が連結される。バンド12でユーザPの腕を拘束することにより、腕重量補償機構1に腕からの荷重Wが作用する。アーム10では軸力機構20の内側で軸方向にスライドするラックギア24が形成されている。ラックギア24には、二重歯車である第1ギア30の大径歯車32が係合する。第1ギア30の小径歯車34には、スライド部材40の第1ラックギア42が係合する。
【0025】
スライド部材40は、軸力機構20内をスライドする部材であって、先端16寄りに第1ラックギア42が、アーム10の他端18寄りに第2ラックギア44が形成される。第2ラックギア44には、第2ギア50が係合する。すなわち、第1ギア30の回転により、スライド部材40が軸力機構20内をスライドすることにより第2ギア50が第2ラックギア44により回転する。
【0026】
第2ギア50は、第2ラックギア44と反対側でアーム10に形成された固定ラックギア48と係合する。すなわち、第2ラックギア44のスライドにより回転すると、第2ギア50は固定ラックギア48との間で、アーム10の軸方向に移動する。この移動を確実にするため、アーム10には軸方向の溝54が形成され、第2ギア50の軸心52は、溝54を貫通し、溝54に沿って移動するように構成される。
【0027】
軸心52には、ラムダ機構60の長要素の一端64が回転自在に結合される。ラムダ機構60とは、Evans機構とも呼ばれるもので、他端(支点)66が固定部に回転自在に支持された長要素62の途中68に回転自在に結合された短要素70を有し、長要素62と短要素70との他の端部64、72がアーム10に回転可能に接続されるように、長要素62と短要素70とを組み合わせた機構である。
【0028】
ラムダ機構60では、長要素62の他端が支点66としてリンク80上の固定部に回転可能に支持される。すなわち、上下左右方向の動きは拘束され、回転は可能な状態とされる。また、ラムダ機構60の短要素70の他端72には、ピストンワイヤ90が連結される。
図2に示すように、ピストンワイヤ90は、シリンダ100のピストンに結合される。ピストンワイヤ90の動きを滑らかにするために、例えばリンク80にローラ82を設けてもよい。軸力機構20には、ラックギア24を有するスライドパイプ22、ラックギア42とラックギア44を有するスライド部材40がスライド可能に保持され、第1ギア30、第2ギア50が回転自在に支持されている。
図3に示すように、スライドパイプ22の動きを滑らかにするためのローラ26等、動きを補助するための構成をさらに有していてもよい。
【0029】
上記のような構成を有する軸力機構20を備える腕重量補償機構1の作用について説明する。腕重量補償機構1では、軸力機構20内をスライドするスライドパイプ22の先端(一端16)に腕からの荷重Wを支持する腕吊りロープ14が連結される。荷重を支えるためのバンド12の位置を変化させることができるので、腕を伸ばしたり縮めたりして腕重量補償機構1を用いることができる。荷重Wのアーム10の長手直交方向に作用する力により生ずるモーメントは、ラムダ機構60の支点66回りに生ずることになる。そこで、シリンダ100からピストンワイヤ90を介して短要素70の端部72に作用する力で、支点66周りのモーメントを生じさせることでバランスさせることができる。ここで、ユーザPが腕を伸ばしたり縮めたりして軸力機構20の長さが変わっても、支点66と先端16間の長さと支点66と端部72間との長さの比が一定に保たれることにより、バランスも保たれる。ここで、支点66と先端16間の長さとは、アーム10の軸方向の長さであり、および、支点66と端部72間の長さとは端部に作用するシリンダ100からピストンワイヤ90を介して作用する力の方向に直交方向での支点66と端部との間の長さである。また、支点66と先端16間の長さと支点66と端部72間との長さの比が一定に保たれるとは、双方の長さの比がバランスが保たれる程度に実質的に一定であればよく、厳密に一定でなくてもよい。
【0030】
詳細には、荷重Wにアーム10の腕吊りロープが連結される位置16からラムダ機構60の他端66までの長手方向での距離Lを乗じて求められるモーメントと、ラムダ機構60の他端66からピストンワイヤ90あるいはその延長線上に引いた垂線の長さlにシリンダ100からピストンワイヤ90を介して短要素70の端部72に作用する力を乗じて求められるモーメントとをバランスさせる。すなわち、シリンダ100からの力は、(長手方向の距離L)/(直交方向の長さl)倍だけ荷重Wより大きくなる。
【0031】
アーム10に作用する荷重Wの長手方向成分の力は、軸力機構20を介して、ラムダ機構60の一端64に作用し、ラムダ機構60にてシリンダ100からピストンワイヤ90を介して短要素70の端部72に作用する力でバランスさせられる。すなわち、軸力機構20の第2ギア50が溝54に沿って移動する力がラムダ機構60の長要素62の一端64に作用し、他端66回りのモーメントを生じさせ、このモーメントをシリンダ100からピストンワイヤ90を介して短要素70の端部72に作用する力でバランスさせることができる。このモーメントをバランスさせる機構は、アーム10と直交する方向に働く荷重を支えるモーメントをバランスさせるものと同様である。よって、アーム10に作用する軸直交方向の力も軸方向の力も、シリンダ100からの力でバランスさせることができる。
【0032】
軸力機構20では、スライドパイプ22が距離xだけ軸方向に縮むと、その動きはラックギア24の軸方向(
図3で左方向)の動きとなり、第1ギア30の大径歯車32の歯数と小径歯車34の歯数の比(p1とする)で減少して、スライド部材40に伝えられる。スライド部材40の第2ラックギア44は、軸力機構20で回転自在に支持される第2ギア50を介して、軸力機構20で固定されているラックギア48と係合している。そのため第2ギア50の軸心52の動きは半減する。よって、軸力機構20では、スライドパイプ22の軸方向の移動量xは、p1×0.5の比で減じられて、ラムダ機構60の一端64の動き(
図3では右方向)となる。そしてラムダ機構60では
図3に示す様な、端部72から一端64までと他端66までとの距離がほぼ等しい姿勢では、端部72から一端64の距離が延びると、端部72から他端66までの距離はほぼ同じ量だけ縮む。その結果、端部72から他端66までの距離はほぼp1×0.5×xだけ短くなる。
【0033】
モーメントをバランスさせる際には、シリンダ100の力は、荷重Wの(長手方向の距離L)/(直交方向の長さl)倍であったので、この比率と同様あるいは近似した比率となることが好ましい。すなわち、軸力機構20での軸方向の移動量の比率は、一定に保たれる支点66と先端16間の長さと支点66と端部72間との長さの比と同等あるいは近似した比率とする。例えば、第1ギア30の大径歯車32の歯数と小径歯車34の端数の比p1を1/2とした場合、ラムダ機構60の端部72から他端66までの距離の変化とアーム10の先端16の変位の1:4の比率となる。すなわち、腕重量補償機構1では、荷重とシリンダで発生する力との比率は、1:4となる。なお、この比率は、適宜変更可能である。
【0034】
このように、軸力機構20を備え、さらに軸力機構20にはラムダ機構60が備えられているので、シリンダ100の力により軸方向力も相殺することが可能となり、腕の角度に関わらず荷重を支えることができる腕重量補償機構1となる。
【0035】
図4に腕重量補償機構2と二重プーリ機構120を用いた軸力機構を説明する断面概念図を示す。軸力機構は、軸力機構内を軸方向にスライドするスライドパイプ122を備え、スライドパイプ122の先端16で腕吊りロープ14の先にバンド12が連結される(
図2参照)。この場合にも、アーム10の先端16と称することもあるのは、腕重量補償機構1と同様である。腕重量補償機構2は、軸力機構として二重プーリ機構120を備える点で、腕重量補償機構1と異なる。そこで、重複した説明は省略して、二重プーリ機構120について説明する。
図5に二重プーリ機構120の機能を説明する概略図を示す。二重プーリ機構120はプーリ160とプーリ130の間にある二重プーリ150の大きな半径r
1のプーリ152に左右のプーリ160、130から張られる上側のワイヤ172、142が巻かれて固定され、小さい半径r
2のプーリ154には左右のプーリ160、130から張られる下側のワイヤ174、144が巻かれて固定されたものである。
【0036】
二重プーリ機構120において、アーム先端16が
図5で右にΔLだけ動くとワイヤ固定点124で固定されたワイヤ142が一緒に動くことにより、二重プーリの大径プーリ152は時計回りに回転するが、大径プーリ152から手繰り出される上側のワイヤ142の量より小径プーリ154が巻き込む下側のワイヤ144の巻き込み量の方が少なく、同時に、この二重プーリ150の時計回りの回転で、ワイヤ172は大口径プーリ152にワイヤ142が手繰り出された分だけ巻かれ、ワイヤ174はワイヤ144が巻き込まれただけ手繰り出るので、二重プーリ150は左に移動する。その移動量をxとし、二重プーリ150が回転する回転角をθxとすると、
r
1・θ
x=ΔL+x (1)
r
2・θ
x=ΔL-x (2)
であり(1)+(2)から
(r
1+r
2)θ
x=2ΔL
∴θ
x={2/(r
1+r
2)}ΔL (3)
また、(1)/(2)から
r
1(ΔL-x)=r
2(ΔL+x) (4)
(r
1+r
2)x=(r
1-r
2)ΔL (5)
∴x={(r
1-r
2)/(r
1+r
2)}ΔL (6)
である。
【0037】
さらに、二重プーリ150の軸心156にはラムダ機構60の長辺の一端64が繋がっているため、二重プーリ150の軸心156が左にx動くとき、ラムダ機構60が
図5の様に長辺62と短辺70がほぼ直交する姿勢にあるときは、ラムダ機構60の下端の支点66は下側にほぼ同じ量xだけ動こうとする。なお、実際には、支点66はラック80に支持されているため、その分だけ他端64、72が上方に動く。このため、アーム端部16のΔLの動きと、ラムダ機構60の支点66の動きΔlには
Δl/ΔL={(r
1-r
2)/(r
1+r
2)}=ξ (7)
の関係が成り立つ。このように、この動きの比率を以降、縮小比ξと呼ぶ。
【0038】
ここで、二重プーリ150の半径比r2/r1=aと縮小比ξの関係は(7)式から
ξ=(1-a)/(1+a) (8)
であり、以下の式も誘導できる。
a=(1-ξ)/(1+ξ) (9)
【0039】
このことから、本装置の二重プーリ構造120の設計は、腕を支えるアーム先端16までの距離Lと、ラムダ機構60の長さlの比が求まったら、この比に合わせて縮小比ξを、
l/L=Δl/ΔL=ξ (10)
と誘導し、これを(9)式に代入して、二重プーリ150の半径比r2/r1=aを求めれば良いことが分かる。
【0040】
たとえば、支点66からアーム先端16までの長さLと、支点66からシリンダ100で牽引するワイヤ90の作用点であるラムダ機構60の短辺70の端部72までの長さlの縮小比をξ=1/10としたい場合は、二重プーリ150の半径比r2/r1=aは(9)式から、
a=0.9/1.1=0.82 (11)
と導ける。
【0041】
このように構成することにより、腕重量補償機構2は、腕を伸ばしたり縮めたりして用いることができる。荷重Wのアーム10の長手直交方向に作用する力により生ずるモーメントは、ラムダ機構60の支点66回りに生ずることになるが、シリンダ100からピストンワイヤ90を介して短要素70の端部72に作用する力でバランスさせることができる。また、二重プーリ機構120の軸力機構での軸方向力も、ラムダ機構60を介してバランスすることが可能となり、腕の角度に関わらず荷重を支えることができる腕重量補償機構2となる。
【0042】
本発明における機構としては、例えば、
図6に示すような連通管型機構700を用いてもよい。連通管型機構700は、小径のシリンダ720と大径のシリンダ730が剛に接続された本体710にそれぞれピストン750および760が挿入される。小径のシリンダ720と大径のシリンダ730とは直接は接続せず、たとえば
図6に示すようにシリンダ800側に流体が充填されて、バイパス管740を介して小径シリンダ720の810と接続される。また大径シリンダの820はバイパス管830を介して小径シリンダ810と接続される。シリンダ720とシリンダ730とは、任意の角度で接続されている。このように構成するとピストン760の変位は、ピストン750に対し、シリンダ760とシリンダ750の断面積比で縮小される。
図6で小シリンダと大シリンダの面積比が1:aとしているので、ピストン750の動きは、(1/a)に縮小されてピストン760の動きになる。
【0043】
本発明による機構としては、これまで説明した機構以外の機構を用いてもよい。また、
図3、4、5に示した軸力機構は、典型例を示したものである。例えば、
図3に示す軸力機構20の第1ギア30を二重歯車にしなくてもよい等、直交方向および軸方向の荷重を伝達できるようにしつつ改変することは可能であり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に従い定まる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本願は発明の腕重量補償機構によれば、腕の角度に関わらず荷重を支えることができる腕重量補償機構を提供することができ、溶接作業のように腕を空間に止めてゆっくり正確に動かすような作業、果樹園での果樹収穫作業のように腕を空中に伸ばして長く保持するような作業、グラインダなどの重い工具を取り扱う工場での作業等の従来は作業者に大きな負担の掛かった作業において、作業者の負担を軽減でき、作業の効率と安全性を高めることができる。
【符号の説明】
【0045】
1、2 腕重量補償機構
10 アーム
12 バンド
14 腕吊りロープ
16 (アームの)一端
18 (アームの)他端
20 軸力機構
22 スライドパイプ
24 ラックギア
28 軸力機構カバー
30 第1ギア
32 大径歯車
34 小径歯車
40 スライド部材
42 第1ラックギア
44 第2ラックギア
48 固定ラックギア
50 第2ギア
52 軸心
54 溝
60 ラムダ機構
62 長要素
64 (長要素の)一端
66 支点(長要素の他端)
68 (長要素と短要素と)結合点
70 短要素
72 (短要素の)端部
80 リンク
82 ローラ
90 ピストンワイヤ
100 シリンダ
102 カバー
110 固定バンド
120 二重プーリ機構
124 ワイヤ固定点
130 片端のプーリ
142、144 ワイヤ
150 中央のプーリ(二重プーリ)
152 大径プーリ
154 小径プーリ
172、174 ワイヤ
500 パンタグラフ型機構
700 連通管型機構
P ユーザ
W 荷重