(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141820
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】塩味増強剤及び飲食品の塩味増強方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/40 20160101AFI20241003BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20241003BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20241003BHJP
A23L 27/12 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
A23L27/40
A23L27/00 Z
A23L23/00
A23L27/12
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053664
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】那須 元太郎
(72)【発明者】
【氏名】中谷 大河
(72)【発明者】
【氏名】長野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】上原 澪來
【テーマコード(参考)】
4B036
4B047
【Fターム(参考)】
4B036LC06
4B036LE02
4B036LF01
4B036LG05
4B036LH01
4B036LH05
4B036LH07
4B036LH10
4B036LH14
4B036LK01
4B047LB03
4B047LB08
4B047LB09
4B047LG03
4B047LG04
4B047LG08
4B047LG12
4B047LG15
(57)【要約】
【課題】塩化カリウムを利用しつつこれと組み合わせた新たな塩味増強剤を開発することを課題とした。
【解決手段】塩化カリウムとともに、ペルーバルサム精油を含有させることによって、無理なく飲食品の塩味を増強できることを見出した。さらに、アミノ酸及び/又はその塩酸塩を含有することが好ましい。また、アミノ酸については塩基性のアミノ酸が好ましく、特にアルギニン、リジンが好ましい。さらに、酸味料を含有することも好ましい。また、上記の方法を利用する飲食品の製造方法や塩味増強方法とすることもできる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを有効成分として含有する塩味増強剤。
【請求項2】
さらに、アミノ酸及び/又はその塩酸塩を含有する請求項1に記載の塩味増強剤。
【請求項3】
前記アミノ酸が塩基性アミノ酸である請求項2に記載の塩味増強剤。
【請求項4】
前記塩基性アミノ酸がアルギニン及び/又はリジンである請求項3に記載の塩味増強剤。
【請求項5】
さらに、酸味料を含有する、請求項2に記載の塩味増強剤。
【請求項6】
ペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有する飲食品。
【請求項7】
ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを添加する工程を含む、塩化ナトリウムを含有する飲食品の製造方法。
【請求項8】
ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを利用する、塩化ナトリウムを含有する飲食品に対する塩味増強方法。
【請求項9】
飲食品の喫食時にペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有させる飲食品の塩味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを利用した塩味増強剤及び塩味増強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高血圧症や高血圧による合併症の予防等を目的に、食塩(ナトリウム分)の摂取
量を抑制したいという要求が高まっている。しかし、食塩の量を削減すると、食品が味気ないものとなってしまう場合もあるので、食塩の代わりに塩味を呈する、いわゆる代替塩及び塩味を増強する塩味増強剤が求められている。
【0003】
代替塩としては、塩化カリウムを用いることが最も一般的である。しかし、塩化カリウ
ムは塩味以外に独特のエグ味及び苦味を有し、これのみでは食塩の代わりとして充分な素材とはいえない。
そこで、塩化カリウムを利用しつつ、これ以外の素材との組み合わせによって、塩味を増強するという方法が考えられる。
【0004】
上記に関連する先行技術としては、例えば、特許文献1が挙げられる。当該特許文献1は、ルイボス又はハニーブッシュを含有することを特徴とする、塩化ナトリウム又は塩化カリウムを含有する食品組成物の塩味増強剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2023-14943号公報 一方、上記の方法以外にも様々な方法の可能性があることが予想される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、塩化カリウムを利用しつつこれと組み合わせた新たな塩味増強剤を開発することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等の鋭意研究の結果、塩化カリウムとともに、ペルーバルサム精油を含有させることによって、無理なく飲食品の塩味を増強できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本願第一の発明は、
“ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを有効成分として含有する塩味増強剤。”、である。
【0008】
次に、請求項1の塩味増強剤においては、アミノ酸を含有することが好ましい。
すなわち、本願第二の発明は、
“さらに、アミノ酸及び/又はその塩酸塩を含有する請求項1に記載の塩味増強剤。”、である。
【0009】
次に、前記アミノ酸については、塩基性のアミノ酸であることが好ましい。
すなわち、本願第三の発明は、
“前記アミノ酸が塩基性アミノ酸である請求項2に記載の塩味増強剤。”、である。
【0010】
次に、前記塩基性アミノ酸のうち、アルギニンやリジンが好ましい。
すなわち、本願第四の発明は、
“前記塩基性アミノ酸がアルギニン及び/又はリジンである請求項3に記載の塩味増強剤。”、である。
【0011】
次に、請求項2に記載の発明においては、さらに酸味料を含有することが好ましい。
すなわち、本願第五の発明は、
“さらに、酸味料を含有する、請求項2に記載の塩味増強剤。”、である。
【0012】
次に、本願出願人は塩味増強を目的として、ペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有する飲食品についても意図している。
すなわち、本願第六の発明は、
“ペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有する飲食品。”、である。
【0013】
次に、本願出願人は塩味増強を目的として、ペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを添加する工程を含む飲食品の製造方法についても意図している。
すなわち、本願第七の発明は、
“ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを添加する工程を含む、塩化ナトリウムを含有する飲食品の製造方法。”、である。
【0014】
次に、本願出願人は塩味増強を目的として、ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを利用して、塩化ナトリウム含有飲食品に対する塩味を増強する方法についても意図している。
すなわち、本願第八の発明は、
“ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを利用する、塩化ナトリウムを含有する飲食品に対する塩味増強方法。”、である・
【0015】
次に、本願出願人は飲食品の喫食時にペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有させることによって、飲食品の塩味を増強する方法についても意図している。
すなわち、本願第九の発明は、“飲食品の喫食時にペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有させる飲食品の塩味増強方法。”、である。
以下に、本発明の内容を詳細に説明する。
【0016】
─ペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)─
本発明でいうペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)とは、ペルーバルサム(マ
メ科の熱帯性高木)の精油の成分をいう。ここで、精油とは、植物の幹、樹脂、花、葉、
つぼみ又は果実等から得られる芳香のある揮発性の成分をいう。主に、テルペン系化合物
、芳香族化合物、エステル類等などから成り,蒸留や圧搾・抽出によって分離される。
本発明におけるペルーバルサム精油とは、一般的には、当該樹木の樹脂から蒸留又は溶媒抽出によって抽出された香料又は精油成分をいう。また、当該樹木の木部又は樹皮から蒸留したものでもよい。
【0017】
但し、抽出方法は上述に限定することなく種々の方法が利用可能である。本発明に利用するペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)については、市販のタイプを入手等することができ飲食品用の香料化合物として使用することができる。
尚、本ペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)を飲食品の製造において使用する場合は、液体油脂等の溶剤に溶解させた状態のタイプのものを利用することが好ましい。
【0018】
─アミノ酸及び/又はその塩酸塩─
本発明の塩味増強剤においてはさらに、アミノ酸及び/又はその塩酸塩を併用することが好ましい。
アミノ酸及び/又はその塩酸塩を含有することによって、より塩味増強効果を向上させることができる。
特に本発明においては、アミノ酸のうちアルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸、グルタミン酸又はシトルリンを併用することが好ましい。
尚、これらのアミノ酸は組み合わせて利用してもよいことは勿論である。また、これらのアミノ酸については、概ね、オイルペルーバルサムの原液を1とすると、これに対して1000~50000程度の比であるとよい。また、5000~20000程度の比であるとより好ましい。
また、本発明においてはアミノ酸についてはその塩酸塩であってもよいことは勿論である。
【0019】
─塩味増強─
本発明における塩味増強とは、ペルーバルサム精油を含有することで、塩化カリウムと塩化ナトリウム(食塩)が同時に存在している場合において、当該塩化ナトリウム(食塩)が有している塩味を苦味・えぐみ等の違和感無く増強するという効果をいう。
【0020】
─塩化ナトリウム(食塩)─
本発明における、飲食品においては、塩化ナトリウムを含有していることが必要となる。当該塩化ナトリウムを含有することで、本来の塩化ナトリウムによる塩味を呈するとともに、ペルーバルサム及び塩化カリウムの併用効果によって効果的に当該塩味の増強を実現することができる。尚、塩化ナトリウムについては微量であっても含有していればよく、その濃度は特に限定されない。
【0021】
尚、飲食品中の塩化カリウムと塩化ナトリウムの含有比率については特に限定されるも
のではないが、概ね、塩化カリウム:塩化ナトリウム=1:100~15:7程度である
。また、好ましくは、塩化カリウム:塩化ナトリウム=1:50~3:2程度である。さ
らに、好ましくは、塩化カリウム:塩化ナトリウム=1:20~3:5程度である。
【0022】
─飲食品中の塩化カリウムに対するペルーバルサム精油の濃度─
本発明における、ペルーバルサム精油の塩化カリウムに対する使用濃度は特に限定され
るものではない。
【0023】
但し、概ね、塩化カリウムの濃度に対して、概ね以下のような濃度が好ましい。例えば、喫食時において塩化カリウムが0.1~1.5%程度である場合、使用するペルーバルサム精油の濃度は概ね、喫食時において飲食品中に、1ppb~1ppm程度となるように使用するのが一般的である。また、好ましくは、概ね10~1000ppb程度である。さらに、より好ましくは、50~500ppb程度である。
尚、使用する濃度については、当該ペルーバルサム精油の濃度や使用する飲食品類の種類・状態にも左右される場合もある。
【0024】
─本発明の塩味増強の対象となる飲食品─
本発明の塩味増強の対象となる飲食品は、上述のペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムが喫食時に同時に含有するように調製可能なものであれば、あらゆる形態が可能である。
【0025】
また、上述のペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウム以外の原料として、より具体的には、糖類、増粘剤、各種塩類、動物性タンパク質(牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉等)、植物性タンパク質、炭水化物(穀類、野菜等)、脂質、食物繊維、水分、ミネラル、ビタミン、色素、食品添加物、香料等を含んでいてもよい。
【0026】
具体的な飲食品の例としては、例えば、麺類、ワンタン類、グラタン類、シチュー類、カレー類、調理スープ・ブイヨン類(チキンスープ、コーンスープ、野菜スープ等)、畜肉・野菜等のエキス類、各種調合調味料類、各種つゆ・たれ類、ハム・ソーセージ等の食肉加工品、等々、通常一般の食生活に供される飲食品類が挙げられる。またこれらは、一般市販食料品若しくは業務用食料品又は飲食店における調理・料理品など、特に限定されるものではない。
【0027】
また、本発明に係る塩味増強剤を、市販「減塩調味料」の如く、顆粒状形態や液体状形態等にて製品化すれば、これを家庭内の調理品に対しても簡便に使用・利用することもできる。
【0028】
特に、本発明については、即席食品や健康食品にも好適に用いることができる。具体的な食品名としては、例えば、即席食品(即席カップ麺や即席袋麺等の即席麺、即席カップライス、即席スープ等)が挙げられる。これらの食品にペルーバルサム、塩化カリウム、塩化ナトリウムが喫食時に同時に摂取できるように調整しておけばよい。
【0029】
特に、即席麺(即席カップ麺)や即席カップライスでは、これらのスープ(液体スープや粉末スープ)及び/又は麺、ライス等にペルーバルサム、塩化カリウム、塩化ナトリウムの各成分を含有させることができる。
さらに、塩化ナトリウムと併用する原料として、塩化カリウムを一部に使用した粉末スープや液体スープを使用する場合があるが、本発明はこれらのスープにも好適に適用できる。
また、スープや麺、ライス以外に乾燥具材等にペルーバルサム、塩化カリウム、塩化ナトリウムの各成分を含有させることができる。
【0030】
さらに、各種具材(ハンバーグ、ミンチボール等の畜肉練製品、はんぺん等の魚肉練り製品等)にも好適に適用することができる。また、植物タンパクを利用した疑似肉にも好適に適用することができる。
【0031】
尚、前記の各種具材や疑似肉を構成する他の成分として澱粉等の糖質、動物性タンパク質(牛、豚、鶏等)、塩、醤油及びソース等の調味料並びに香辛料が用いられてもよいことは勿論である。
【0032】
─塩味増強剤─
本発明にいう塩味増強剤とは、同時に存在している塩化ナトリウム(食塩)の塩味を増強する効果を有する物質をいう。また、本発明にいう塩味増強方法とは、同時に存在している塩化ナトリウムの塩味を増強する方法をいう。本発明においては塩化カリウム、ペルーバルサムを含有することを特徴とする。
【0033】
本発明の塩味増強剤の形態としては、上記の塩化ナトリウムを含有する種々の食品に添付する形態が挙げられる。具体的には対象食品が即席麺の場合、通常粉末又は液体の濃縮スープが添付される場合が多いが、当該粉末又は液体の濃縮スープ中にこれらの成分を含有させておく形態が想定される。
【0034】
─ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを有効成分として含有する塩味増強剤─
本発明においては、ペルーバルサム精油及び塩化カリウムを有効成分として含有する塩味増強剤について意図しているが、当該塩味増強剤は、塩化ナトリウムを含む飲食品に対して添加又は含有させるものであれば、あらゆる態様を含むものとする。
また、ペルーバルサム精油以外として、他の化合物や香料や各種添加物、香辛料等の様々な飲食品に利用できる成分について含んでいてもよいことは勿論である。
【0035】
本発明の塩味増強剤は、塩化ナトリウムを含有する飲食品に対して当該塩化ナトリウムの塩味を増強させる効果を得ることができる。
また、本発明の塩味増強剤については、少なくともペルーバルサム精油を含有していればよく、他の成分として各種の油脂、溶媒、香料、調味料等を含んでいてもよいことは勿論である。
【0036】
さらに、塩味増強剤の形態は必ずしも所定の形式の容器等に収納されている場合のみならず、飲食品を製造等する際に、塩味増強のために、少なくともペルーバルサム精油及び塩化カリウムを含む素材(液体状、粉状物、粒状物等の添加用の各種食材)が存在すればよく、当該素材を塩化カリウム含有飲食品の製造の際や喫食時に添加や混合する態様であれば、本発明にいう塩味増強剤に該当するものとする。
次に、本発明においてはペルーバルサム精油、塩化カリウム以外に以下の各成分を含むことが好ましい。
以下に説明する。
【0037】
─アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸、グルタミン酸及びシトルリン─
本発明においては、オイルペルーバルサム(ペルーバルサム精油)とともに、アミノ酸を併用することが好ましい。尚、本発明におけるアミノ酸とは、その塩酸塩を含むことは勿論である。
また、アミノ酸類のうちアルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸か、グルタミン酸又はシトルリンを併用することが好ましい。
また、これらのアミノ酸は組み合わせて利用してもよいことは勿論である。
これらのアミノ酸については、概ね、オイルペルーバルサムの原液を1とすると、これ
に対して1000~50000程度の比であるとよい。また、5000~20000程度
の比であるとより好ましい。
【0038】
─酸味料─
本発明においては、オイルペルーバルサム(ペルーバルサム精油)とともに、クエン酸、乳酸、酒石酸及びリンゴ酸等の酸味料を併用することが好ましい。これらの酸味料については特に限定されるものではないが、概ね、オイルペルーバルサムの原液を1とすると、これに対して1~1000程度の比であるとよい。また、10~200程度の比であるとより好ましい。尚、アミノ酸を併用する場合においては、クエン酸が特に好ましい。
【0039】
─本発明の塩味増強剤を使用する飲食品─
本発明の塩味増強剤は、塩味を呈する飲食品において減塩のために添加して当該飲食品の塩味を増強することができる。例えば、各種飲食品に使用する場合に、これに添加する方法で利用することができる。具体的には、塩味を呈するスープ等の液状飲食品や、ハンバーグやミンチボール等の固形飲食品等の種々に利用することができる。
特に、当該スープや各種飲食品が塩化ナトリウムを有する場合に、その一部を塩化カリウムに置換する場合に有効に利用することができる。
【0040】
また、特に、加工食品である即席麺(即席カップ麺、即席袋めん)、即席スープ、即席
カップライス等の即席食品に好適に利用することができる。これらの即席食品の添付スー
プ(粉末スープ、液体スープ)や添付の乾燥具材等に好適に利用することができる。さら
に、麺(熱風乾燥麺、フライ処理麺)等にも利用することも可能である。
【0041】
─ペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有する飲食品─
本発明においては、ペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)、塩化カリウム及び塩化ナトリウム含有する飲食品についても意図している。ここで、当該飲食品がペルーバルサム精油を含有するとは、まず、塩化カリウム含有飲食品の製造過程のいずれかにおいて、ペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを添加する場合が挙げられる。
【0042】
また、例えば、即席麺や即席ライス等の加工食品等で喫食時に添付フレーバーとして、喫食者が付属のスープパック等を開封して加える場合には、当該スープパック等に含有しているものでもよく、また、麺や米に添加しておくことも可能である。喫食時に塩化カリウム含有飲食品とペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)及び塩化ナトリウムが同時に含有する態様であれば、あらゆる態様を含むものとする。
【0043】
さらに、添加されるペルーバルサム精油は必ずしも精製されたものである必要はなく、ペルーバルサム精油をその一部の成分として含む、香料、食品素材、各種食品等であれば、あらゆる態様を含むことは勿論である。
【0044】
本発明においては、塩化ナトリウムの塩味増強を目的として、飲食品の製造工程においてペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)、塩化カリウムを含有させる工程を含む飲食品の製造方法も意図している。すなわち、当該飲食品の製造過程のいずれかの工程でペルーバルサム精油(オイルペルーバルサム)、塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有させる工程を含む工程が存在すればよく、また、その使用量については限定されないが、概ね喫食時のペルーバルサムの濃度が1ppb~1ppmとなるように調製するのが一般的である。また、好ましくは10~1000ppb程度である。
さらに好ましくは、50~500ppb程度である。
【0045】
─ペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化カリウムを含有させることによる飲食品の塩味増強方法─
本発明においては、塩味増強を目的として、ペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化カリウムを含有させることによる飲食品の塩味増強方法についても意図している。
固形状食品又は流動状食品、又はスープ等の液状食品等のいずれの形態によるかを問わず、需要者が当該飲食品を喫食した際にペルーバルサム精油、塩化カリウム及び塩化カリウムが存在する態様であればよい。
【実施例0046】
以下に本願発明の実施例について記載する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[試験例1]塩化カリウム、塩化ナトリウムを含有する水に対するペルーバルサム精油の
添加による塩味増強効果
塩化カリウム及び塩化ナトリウムを含有する水溶液に対して、ペルーバルサム精油の希釈液を添加することによって塩味増強が可能かどうかを試験した。
【0048】
ペルーバルサム精油(オイルバルサムペルー)は市販のものを利用した。次に1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表1に記載のようにオイルバルサムペルー(原液)を、エタノールを溶剤として希釈し、0.01重量%及び0.001重量%の2通りの希釈液を作成した。当該希釈液の前記の1重量%を塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(100g)にそれぞれを表1に記載の重量を添加した。このようにして
試験区1-1~試験区1-8の各試験溶液を調製した。
【0049】
次に、当該各試験区の各試験水溶液について官能評価した。
─官能評価手法─
官能評価は熟練の技術者5名によって実施した。評価対象である塩味増強効果は“塩味の強さ”及び“苦味・えぐみの無さ”の2点を主要観点としてその効果の評価を行った。
評価は9段階で実施し、塩味増強効果の程度によって、9段階:1(無添加と同等)⇔9(塩味増強効果高い)で評価した。評価結果を表1に示す。
【0050】
すなわち、オイルバルサムペルーを添加しないか、添加しても塩味増強効果を奏しない
場合については評価1とし、何らかの塩味増強効果を有する場合を評価2以上とした。さらに、塩味増強効果が向上するに従って、評価の数値を上げていく評価とした。結果を表1の下欄に示す。
【0051】
【表1】
オイルバルサムペルー、塩化カリウムと塩化ナトリウムを併存させることで塩味増強の効果を奏することができることを見出した。
【0052】
[試験例2]アミノ酸を添加した場合の検討
オイルバルサムペルー+塩化カリウム+アミノ酸の組み合わせを添加することによって塩味を増強する効果があるかを調べた。
アミノ酸としては、グリシン、アラニン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、シスチン、グルタミン、グルタミン酸、バリン、ヒスチジン、チロシン、トレオニン、プロリン、トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、オルニチン、シトルリンの各種アミノ酸を用いた(試験2-1~2-21)。
【0053】
また、オイルバルサムペルー(原液)を、エタノールを溶剤として希釈し、0.01重量%のオイルペルーバルサムを調製した。
次に、1重量%の塩化ナトリウム・塩化カリウム水溶液(0.3重量%塩化ナトリウム+0.7重量%塩化カリウム)を100g準備し、当該水溶液に対して、表2-1及び表2-2に記載のようにオイルバルサムペルー及び各アミノ酸を添加して、官能評価した。添加したオイルバルサムペルー溶液の重量及び各アミノ酸溶液の重量を表2-1、表2―2に示す。また、官能評価の結果を表2-1及び表2―2の下欄に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
[試験例3]L-アルギニンと他のアミノを併用して添加した場合の検討
試験例2でオイルバルサムペルー+塩化カリウム+アミノ酸の組み合わせで塩味増強効果を向上させることを見出した。次に、これらのアミノ酸についてその2種類を組み合わせることで塩味増強効果を向上させることができるかを試験した。
まず、L-アルギニンと他のアミノ酸を併用して添加した場合について検討した。L-アルギニンとともに、L-リジン塩酸塩、L-ヒスチジン、L-シトルリン、L-オルニチン塩酸塩、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸の各アミノ酸を使用して試験例1の場合と同様に官能評価した(試験区3-1~3-7)。結果を表3に示す。
【0057】
【表3】
L-アルギニンとL-リジン塩酸塩の組み合わせが特に好適であることを見出した。また、L-アルギニンとL-ヒスチジン又はL-シトルリンも好適であった。
【0058】
[試験例4]L-リジンと他のアミノを併用して添加した場合の検討
次に、L-リジンと他のアミノ酸を併用して添加した場合について検討した。L-リジン塩酸塩とともに、L-ヒスチジン、L-シトルリン、L-オルニチン塩酸塩、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸の各アミノ酸を使用して試験例1の場合と同様に官能評価した(試験区4-1~4-6)。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
L-リジンとL-ヒスチジン又はL-シトルリンの組み合わせが好適であることを見出した。
【0060】
[試験例5]
試験例3において特にL-アルギニンとL-リジン塩酸塩の組み合わせが特に好適であり、L-リジンについてその添加量を変えた場合の効果について調べた(試験区5-1~5-6)。結果を表5に示す。
【0061】
【表5】
L-アルギニンについて添加量を変えたがいずれも効果が見られた。
【0062】
[試験例6]
試験例3において特にL-アルギニンとL-リジン塩酸塩の組み合わせが特に好適であり、L-リジンについてその添加量を変えた場合の効果について調べた(試験区6-1~6-6)。結果を表6に示す。
【0063】
【表6】
L-リジン塩酸塩について添加量を変えたがいずれも効果が見られた。
【0064】
[試験例7]
実際のスープにおいて本願発明の効果を調べた。和風系のスープを以下の表7の配合組成となるように調製した。尚、以下において“L-アルギニン”は“Arg”、“L-リジン”は“Lys”、“塩化カリウム”は“KCl”と記載する場合がある。また、“%”は“重量%”とする。
【0065】
和風系のスープ風味をベースとして通常量の塩化ナトリウムを使用したもの(試験区7-1:コントロール)、試験区7-1における塩化ナトリウムの量を減らしてその代わりに塩化カリウムを添加したもの(試験区7-2)、試験区7-2にさらにペルーバルサム(0.01%)、L-アルギニン、L-リジンを添加したもの(試験区7-3)、試験区7-3にさらにクエン酸を添加したもの(試験区7-4)を準備した。
表7に記載の配合のスープに対して熱湯100gを添加して溶解させて各スープ溶液を調製した。
【0066】
【0067】
コントロール配合(試験区7-1)、減塩+KClタイプ配合(試験区7-2)について100mlの熱湯で溶解したスープの塩濃度を定量したところ、それぞれ1.10%、0.60%であった。このことから減塩スープ配合はコントロールスープ配合を55%減塩したものであるといえる。
【0068】
試験区7-1~試験区7-4について熱湯100gを添加して溶解させて各スープ溶液を調製したものを官能評価した。
【0069】
─官能評価手法─
官能評価は熟練の技術者5名によって実施した。評価対象である塩味増強効果は“塩味の強さ”及び“苦味・えぐみの無さ”の2点を主要観点としてその効果の評価を行った。
評価は5段階で実施し、1:(効果が小さい)⇔5:(効果が大きい)の5段階の評価とした。評価結果を表8に示す。
【0070】
【表8】
結果として、塩化カリウムを添加した状態でペルーバルサム、L-アルギニン、L-リジンを添加することで塩味増強効果が大きくなった。さらに、クエン酸を加えることでその効果が向上した。
【0071】
[試験例8] 試験区7-3においてArg、Lysの量を固定して、ペルーバルサムの量を変更した場合
試験区7-3(減塩+KClタイプ+ペルーバルサム+Arg,Lys)においてArg、Lysの量を固定して、ペルーバルサムの量を変更した場合について調べた。
ペルーバルサムの量を表9に記載するように、ペルーバルサムの量を無し(試験区8-1)、0.025%(試験区8-2)、0.050%(試験区8-3)、0.075%(試験区8-4)、0.100%(試験区8-5)、0.125%(試験区8-6)、0.150%(試験区8-7)に変更した。
官能評価の基準等は試験例7の場合と同様にした。結果を表9に示す。
【0072】
【表9】
[試験例9] 試験区7-4においてArg、Lys、クエン酸の量を固定して、ペルーバルサムの量を変更した場合
試験区7-4(減塩+KClタイプ+ペルーバルサム+Arg,Lys,クエン酸)においてArg,Lys,クエン酸の量を固定して、ペルーバルサムの量を変更した場合について調べた。
ペルーバルサムの量を表11に記載するように、ペルーバルサムの量を無し(試験区9-1)、0.025%(試験区9-2)、0.050%(試験区9-3)、0.075%(試験区9-4)、0.100%(試験区9-5)、0.125%(試験区9-6)、0.150%(試験区9-7)とした。
官能評価の基準等は試験例7の場合と同様にした。結果を表10に示す。
【0073】
【0074】
[試験例10] 試験区7-3においてペルーバルサムの量を固定して、Arg、Lysの量を変更した場合
試験区3-4(減塩+KClタイプ+ペルーバルサム+Arg,Lys)においてペルーバルサムの量を固定して、Arg,Lysの量を変更した場合について調べた。
Arg,Lysの量を表12に記載するように、Arg,Lysの量を0.021%(試験区10-1)、0.063%
(試験区10-2)、0.105%(試験区10-3)、0.147%(試験区10-4)、0.210%(試験区10-5)、0.316%(試験区10-6)、0.421%(試験区10-7)とした。
官能評価の基準等は試験例7の場合と同様にした。結果を表11に示す。
【0075】
【0076】
[試験例11]試験区7-4においてペルーバルサムの量を固定して、Arg、Lys,クエン酸の量を変更した場合
試験区7-4(減塩+KClタイプ+ペルーバルサム+Arg,Lys,クエン酸)においてペルーバルサムの量を固定して、Arg,Lys,クエン酸の量を変更した場合について調べた。
ペルーバルサムの量を表13に記載するように、Arg,Lys0.021%,クエン酸0.008%(試験区11-1)、Arg,Lys 0.063%,クエン酸0.024%(試験区11-2)、Arg,Lys 0.105%,クエン酸0.040%(試験区11-3)、Arg,Lys 0.147%,クエン酸0.055%(試験区11-4)、Arg,Lys 0.210%,クエン酸0.079%(試験区11-5)、Arg,Lys 0.316%,クエン酸0.119%(試験区11-6)、Arg,Lys 0.421%,クエン酸0.1584%(試験区11-7)とした。
官能評価の基準等は試験例7の場合と同様にした。結果を表12に示す。
【0077】
【表12】
L-アルギニン、L-リジンに加えてクエン酸を利用することで塩味増強効果が向上した。
【0078】
[試験例12]
中華系スープを以下の表13の組成となるように調製した。尚、使用食塩量は、試験例7の和風系スープの減塩の場合(試験例7-2)の食塩含量と同一とした。
表13に記載の配合のスープに対して熱湯100gを添加して溶解させて各スープ溶液を調製し、試験例7の場合と同様に官能評価を実施した。結果を表13に示す。
【0079】
【表13】
結果として、上記の中華系スープにおいても好適な塩味増強効果が得られた。