(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141825
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ノイズキャンセルシステム
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20241003BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20241003BHJP
B61L 29/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G10K11/178 100
H04R3/00 310
B61L29/28 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053671
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 侑
(72)【発明者】
【氏名】豊田 明久
(72)【発明者】
【氏名】安藤 勝彦
【テーマコード(参考)】
5D061
5D220
5H161
【Fターム(参考)】
5D061FF02
5D220AA02
5D220AB01
5H161AA01
5H161MM02
5H161MM14
5H161PP06
5H161PP12
(57)【要約】
【課題】踏切の警報音、及び列車の騒音が発生している環境において、踏切の開放を待つ対象者にだけ選択的に警報音が届くように騒音を除去する。
【解決手段】ノイズキャンセルシステム9は、踏切の警報音及び列車の騒音を含む音を収集するマイクロホン3と、収集された音の逆位相音を生成する生成部41と、逆位相音から警報音の逆位相成分を除去した加工音を生成する除去部42と、加工音を踏切の開放を待つ対象者に向けて出力する第1スピーカ1と、逆位相音を対象者以外に向けて出力する第2スピーカ2と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏切の警報音及び列車の騒音を含む音を収集するマイクロホンと、
収集された前記音の逆位相音を生成する生成部と、
前記逆位相音から前記警報音の逆位相成分を除去した加工音を生成する除去部と、
前記加工音を前記踏切の開放を待つ対象者に向けて出力する第1スピーカと、
前記逆位相音を前記対象者以外に向けて出力する第2スピーカと、
を有するノイズキャンセルシステム。
【請求項2】
前記生成部及び前記除去部は、いずれもデジタルシグナルプロセッサである
ことを特徴とする請求項1に記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項3】
前記除去部は、前記逆位相成分に主に含まれる周波数帯成分を除去するバンドパスフィルタである
ことを特徴とする請求項1に記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項4】
前記マイクロホンは、少なくとも前記警報音の出力地点から前記対象者に向かう方向に沿って伝搬する前記騒音を収集し、
前記第1スピーカは、前記方向に沿って前記加工音を出力する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項5】
前記除去部は、前記逆位相音に前記警報音の成分を混合することで前記加工音を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載のノイズキャンセルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の騒音を除去するノイズキャンセルシステムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転技術の開発が進んでいる。自動運転技術を構成するセンシング要素として、カメラ、ミリ波レーダ、LiDAR等が挙げられる。例えば、車両に積載されたプロセッサは、単眼、ステレオ、全天球型等のカメラで撮影された画像を解析して周囲に存在する障害物を認識し、それらの障害物を回避するように車両の運転を制御する。また、この車両に積載されたプロセッサは、ミリ波、近赤外線等の電磁波の反射波をセンサで感知した結果に基づいて自己位置の推定と地図作成とを同時に行い、障害物の位置、及びその運動状態等を把握する。
【0003】
しかし、センシング要素にカメラを利用する場合、暗所、夜間等、光量が不足している状況での感知が困難であり、また、霧等の悪天候にも影響される。この点は、可視光に近い赤外線を用いるLiDARも共通する。ミリ波レーダは、可視光・赤外線よりも波長が長いミリ波を用いるため、比較的、天候の影響を受け難いが、障害物のサイズ、材質によっては感知が困難なものもあり、単独で自動運転に用いるには制約が多いと考えられる。
【0004】
これらのセンシング要素が環境に影響されると、機械学習を用いた自動運転も影響を受けるため、例えば、踏切における停止信号の見落とし等が懸念される。そこで、自動運転の精度を高めるために、上述したセンシング要素と、周囲の音声を感知する音声センシングとを併用することが考えられる。例えば、踏切遮断機(警報機)が発する警報音を自動運転車両が感知し、その感知結果を上記のセンシング要素の補助として利用することは、自動運転の信頼性を向上させると考えられる。
【0005】
音声は、周囲の騒音に掻き消されることがある。したがって、自動運転のセンシングを補助する目的で音声を利用する場合、感知した音声に混ざる騒音を抑制する技術が必要になる。例えば以下の特許文献1、2は、騒音を抑制するための技術である。
【0006】
特許文献1は、超音波で騒音の逆位相波を生成することによって騒音を軽減した音場領域を実現する騒音軽減装置を開示している。
【0007】
特許文献2は周囲の騒音源からの第1伝搬音波を検出して第1電気信号に変換するマイクロホンと、マイクロホンで変換された第1電気信号を取得し、第1電気信号と逆位相である第1逆相電気信号を生成する信号生成部と、信号生成部で生成された第1逆相電気信号を、第1伝搬音波を打ち消すための第1干渉音波に変換し、所定の空間に向けて出力する第1スピーカと、所定のスピーカからの第2伝搬音波を打ち消すための第2干渉音波をマイクロホンに向けて出力する第2スピーカと、を有するノイズキャンセリング装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-52702号公報
【特許文献2】特許第5737915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、自動運転車両にとって踏切の警報音は周囲の状況を把握するために有用であるが、一般の民家にとっては列車の走行音等と同じく単なる騒音に過ぎない。したがって、例えば、踏切の警報音の音量を単に増加させると自動運転の精度は向上しても、一般の住環境を害することになる。つまり、自動運転車両に対しては、列車の走行音等の騒音を抑制しながら踏切の警報音を届かせる必要がある一方、一般民家に対しては、それらの両方を抑制する必要がある。
【0010】
本発明の目的の一つは、踏切の警報音、及び列車の騒音が発生している環境において、踏切の開放を待つ対象者にだけ選択的に警報音が届くように騒音を除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、踏切の警報音及び列車の騒音を含む音を収集するマイクロホンと、収集された前記音の逆位相音を生成する生成部と、前記逆位相音から前記警報音の逆位相成分を除去した加工音を生成する除去部と、前記加工音を前記踏切の開放を待つ対象者に向けて出力する第1スピーカと、前記逆位相音を前記対象者以外に向けて出力する第2スピーカと、を有するノイズキャンセルシステム、を第1の態様として提供する。第1の態様のノイズキャンセルシステムによれば、踏切の警報音、及び列車の騒音が発生している環境において、踏切の開放を待つ対象者にだけ選択的に警報音が届くように騒音を除去することができる。
【0012】
第1の態様のノイズキャンセルシステムにおいて、前記生成部及び前記除去部は、いずれもデジタルシグナルプロセッサであることを特徴とする、という構成が第2の態様として採用されてもよい。第2の態様のノイズキャンセルシステムによれば、デジタルシグナルプロセッサを用いて、逆位相音、及び加工音を生成することができる。
【0013】
第1の態様のノイズキャンセルシステムにおいて、前記除去部は、前記逆位相成分に主に含まれる周波数帯成分を除去するバンドパスフィルタであることを特徴とする、という構成が第3の態様として採用されてもよい。第3の態様のノイズキャンセルシステムによれば、バンドパスフィルタを用いて加工音を生成することができる。
【0014】
第1から第3のいずれか1の態様のノイズキャンセルシステムにおいて、前記マイクロホンは、少なくとも前記警報音の出力地点から前記対象者に向かう方向に沿って伝搬する前記騒音を収集し、前記第1スピーカは、前記方向に沿って前記加工音を出力することを特徴とする、という構成が第4の態様として採用されてもよい。第4の態様のノイズキャンセルシステムによれば、少なくとも警報音の出力地点から対象者に向かう方向に沿って伝搬する騒音に対して、共通の方向に沿って加工音を重ねて出力してこの騒音を除去することができる。
【0015】
第1の態様のノイズキャンセルシステムにおいて、前記除去部は、前記逆位相音に前記警報音の成分を混合することで前記加工音を生成することを特徴とする、という構成が第5の態様として採用されてもよい。第5の態様のノイズキャンセルシステムによれば、警報音の成分を混合することで逆位相音から警報音の逆位相成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係るノイズキャンセルシステム9の全体構成の例を示す図。
【
図2】信号処理装置4の構成の例を示すブロック図。
【
図3】変形例における信号処理装置4の構成の例を示すブロック図。
【
図4】変形例に係るノイズキャンセルシステム9aの構成の例を示すブロック図。
【
図5】マイクロホン3が複数の騒音発生源S1~S5から発生する騒音を収集する様子を示した概略図。
【
図6】第1スピーカ1、及びマイクロホン3の位置関係の例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態>
<ノイズキャンセルシステムの全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係るノイズキャンセルシステム9の全体構成の例を示す図である。このノイズキャンセルシステム9は、騒音を除去しつつも踏切の開放を待つ対象者へ警報音を届かせるシステムである。このノイズキャンセルシステム9は、第1スピーカ1、第2スピーカ2、マイクロホン3、及び信号処理装置4を有する。
【0018】
第1スピーカ1は、踏切の開放を待つ車両Cに向けて音を出力する出力装置である。したがって車両Cの乗員は、踏切の開放を待つ対象者の例である。第2スピーカ2は、民家Hに向けて音を出力する出力装置である。
【0019】
マイクロホン3は、踏切に備えられた警報機Aに向けられており、この警報機Aから出力される警報音を収集する。また、このマイクロホン3は、列車Tが軌道を走行する際に生じさせる走行音等の騒音を収集する。つまり、このマイクロホン3は、踏切の警報音及び列車の騒音を含む音を収集するマイクロホンの例である。
【0020】
信号処理装置4は、第1スピーカ1、第2スピーカ2、及びマイクロホン3のそれぞれに接続されている。この信号処理装置4は、マイクロホン3が収集した音の情報を取得し、これに基づいて、第1スピーカ1に出力させる加工音と、第2スピーカ2に出力させる逆位相音とを生成する。この信号処理装置4は、機能的構成として生成部41、及び除去部42を有する。
【0021】
<信号処理装置の構成>
図2は、信号処理装置4の構成の例を示すブロック図である。
図2に示す信号処理装置4は、生成部41を構成する要素として、パワーアンプ411、AD変換器412、デジタルシグナルプロセッサ413、DA変換器414、及びマッチングトランス415を有する。また、この信号処理装置4は、除去部42を構成する要素として、パワーアンプ421、AD変換器422、デジタルシグナルプロセッサ423、DA変換器424、及びマッチングトランス425を有する。
【0022】
図2に示すオシレータOは、警報機Aに信号を供給する。この信号は、警報音を示す信号であり、例えば、音の高さを示す周波数が700Hz±15Hzと750Hz±15Hzとの2つの音が合わさった音を示す信号である。また、この信号は、毎分130回±5回の周期で鳴動する音を示している。
【0023】
生成部41は、マイクロホン3によって収集された音を加工して、その音の波形の位相を反転させた音(逆位相音という)を生成する装置群である。つまり、この生成部41は、収集された音の逆位相音を生成する生成部の例である。
【0024】
生成部41のパワーアンプ411は、マイクロホン3から取得した音の信号を増幅して出力する。この音は、上述した通り、踏切に備えられ、オシレータOから信号の供給を受けた警報機Aが、その信号に基づいて発する警報音、及び列車Tの騒音を含む音である。AD変換器412は、パワーアンプ411が出力したアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。デジタルシグナルプロセッサ413は、AD変換器412が出力したデジタル信号を加工して、上述した逆位相音を示す信号を出力する。DA変換器414は、デジタルシグナルプロセッサ413が出力した加工後のデジタル信号をアナログ信号に変換して出力する。マッチングトランス415は、DA変換器414が出力したアナログ信号のインピーダンス特性を、第2スピーカ2のインピーダンス特性に整合させて出力する。
【0025】
これにより第2スピーカ2は、生成部41によって生成された逆位相音を民家Hの居住者に向けて出力する。ここで民家Hの居住者は、踏切待ちの車両Cの乗員ではない。つまり、この第2スピーカ2は、逆位相音を対象者以外に向けて出力する第2スピーカの例である。
【0026】
民家Hの居住者は、警報機Aから出力された警報音と、列車Tが生じさせた走行音(列車Tの騒音)とを含む音の逆位相音を第2スピーカ2から受けるため、これら警報音及び走行音がキャンセルされる。その結果、民家Hの居住環境は、第2スピーカ2がない場合に比べて静寂に近づく。
【0027】
除去部42は、マイクロホン3によって収集された音を加工して、その音の逆位相音を生成し、さらに警報機Aが出力する警報音の音声波形の位相を反転させた成分(逆位相成分という)をその逆位相音から除去する加工を行って加工音を生成する装置群である。つまり、この除去部42は、逆位相音から警報音の逆位相成分を除去した加工音を生成する除去部の例である。
【0028】
除去部42を構成するパワーアンプ421、AD変換器422、DA変換器424、及びマッチングトランス425は、それぞれ、生成部41を構成するパワーアンプ411、AD変換器412、DA変換器414、及びマッチングトランス415と共通の機能を有する。
【0029】
除去部42のデジタルシグナルプロセッサ423は、オシレータOが警報機Aに供給する信号の特性(すなわち、この信号が示す音の周波数、鳴動周期等)を予め記憶しており、この特性に基づいて上記の警報音の逆位相成分を生成する。そして、このデジタルシグナルプロセッサ423は、マイクロホン3によって収集された音から生成した逆位相音から、警報音の逆位相成分を除去する加工処理を行う。この加工処理によってデジタルシグナルプロセッサ423は、加工音を生成し、これを下流のDA変換器424に出力する。生成されたこの加工音は、DA変換器424、及びマッチングトランス425を経由して第1スピーカ1に出力される。
【0030】
これにより第1スピーカ1は、除去部42によって生成された加工音を踏切待ちの車両Cの乗員に向けて出力する。つまり、この第1スピーカ1は、加工音を踏切の開放を待つ対象者に向けて出力する第1スピーカの例である。
【0031】
そして、第1スピーカ1によって出力されるこの加工音は、警報音と列車Tの騒音とを含む音の逆位相音から、警報音の逆位相成分が除去された音である。つまり、この加工音は、列車Tの騒音の逆位相成分を有しているが、警報音の逆位相成分を有していない。そのため、この加工音は、騒音発生源Sから伝搬する列車Tの騒音をキャンセルするが、警報機Aから伝搬する警報音をキャンセルしない。
【0032】
車両Cの乗員は、第1スピーカ1から上記の加工音を受ける。その結果、車両Cの乗員は、加工音によってキャンセルされた列車Tの騒音に比べて、キャンセルされていない警報音を明確に聞くことができる。また、車両Cに搭載された図示しない音響センサは、列車Tの騒音が選択的に除去された警報音を感知するため、ノイズキャンセルシステム9がない場合に比べて、車両Cの自動運転を制御するプロセッサは、警報機Aが発する警報音を認識し易くなる。
【0033】
なお、一般に音は、例えば壁、道路等に反射し、その進行方向を様々に変える性質を有する。そのため、列車Tの走行音に由来する騒音の発生地点、マイクロホン3の設置点、警報機Aの設置点、及び車両Cのそれぞれの配置に制限はない。すなわち、第1スピーカ1は、いずれかの方向から届いた騒音を結果的にキャンセルし、警報機Aから出力される警報音を相対的に強調する加工音を対象者(車両Cの乗員)に向けて出力すればよい。
【0034】
以上に示した通り、このノイズキャンセルシステム9は、踏切の警報音、及び列車の騒音が発生している環境において、民家Hに対しては、警報音、及び列車の騒音のいずれもキャンセルする逆位相音を出力するため、民家Hの居住者は列車の騒音のみならず警報音も聞こえ難くなる。一方、このノイズキャンセルシステム9は、車両Cに対しては、列車の騒音のみをキャンセルし、警報音をキャンセルしない加工音を出力するため、車両Cの乗員は、列車の騒音にかき消されることなく警報音を聞くことができる。すなわち、このノイズキャンセルシステム9は、踏切の開放を待つ対象者にだけ選択的に警報音が届くように騒音を除去することができる。
【0035】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさ及び配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。したがって、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0036】
<変形例>
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例は組み合わされてもよい。
【0037】
<1>
信号処理装置4の機能的構成である生成部41は、デジタルシグナルプロセッサ413のみでもよい。また、信号処理装置4の機能的構成である除去部42は、デジタルシグナルプロセッサ423のみでもよい。この場合、このノイズキャンセルシステム9は、生成部及び除去部が、いずれもデジタルシグナルプロセッサであることを特徴とするノイズキャンセルシステムの例である。
【0038】
<2>
上述した実施形態において、除去部42のデジタルシグナルプロセッサ423は、生成部41のデジタルシグナルプロセッサ413と並行して、マイクロホン3が収集した音の逆位相音を独立に生成していたが、デジタルシグナルプロセッサ413が生成した逆位相音の信号を取得してもよい。
【0039】
<3>
上述した実施形態において、除去部42のデジタルシグナルプロセッサ423は、オシレータOが警報機Aに供給する信号の特性を予め記憶していたが、この信号を直接、オシレータOから取得してもよい。
【0040】
図3は、この変形例における信号処理装置4の構成の例を示すブロック図である。
図3に示すデジタルシグナルプロセッサ423は、マイクロホン3によって収集された音からその逆位相音を生成する点において、生成部41のデジタルシグナルプロセッサ413と共通であるが、オシレータOから警報音を示す信号を受ける点が異なっている。ここで、
図3に示すオシレータOは、警報機A、及び信号処理装置4にそれぞれ共通の信号を供給する。
【0041】
除去部42のデジタルシグナルプロセッサ423は、オシレータOから直接、警報音を示す信号を受けると、その信号から上記の警報音の逆位相成分を生成する。そして、このデジタルシグナルプロセッサ423は、マイクロホン3によって収集された音から生成した逆位相音から、警報音の逆位相成分を除去する加工処理を行えばよい。
【0042】
なお、上述したこの変形例において、除去部42のデジタルシグナルプロセッサ423は、オシレータOから直接、警報音を示す信号を受けていたが、実施形態に示す通り、警報機Aが出力する警報音との同期が取れるのであれば、オシレータOからの信号を受けなくてもよい。例えば、デジタルシグナルプロセッサ423と、警報機Aのプロセッサとは、いずれも共通の外部発振器から信号を受けて同期してもよい。この場合、デジタルシグナルプロセッサ423は、警報音を模擬した信号を自ら生成し、この信号が示す警報音の逆位相成分を、マイクロホン3が収集した音の逆位相音から除去すればよい。
【0043】
<4>
上述した実施形態において、除去部42は、デジタルシグナルプロセッサ423によって警報音の逆位相成分を逆位相音から除去していたが、他の構成により、この除去を行ってもよい。例えば、警報音の逆位相成分のうち、主要な成分が予め決められた周波数帯にある場合、除去部42は、バンドパスフィルタを用いて、マイクロホン3が収集した音の逆位相音からその周波数帯の音を除去してもよい。
【0044】
図4は、変形例に係るノイズキャンセルシステム9aの構成の例を示すブロック図である。このノイズキャンセルシステム9aは、信号処理装置4に代えて信号処理装置4aを有する。そして、この信号処理装置4aは、除去部42に代えて除去部42aを有する。
【0045】
除去部42aは、バンドパスフィルタ426とマッチングトランス425とを有する。バンドパスフィルタ426は、生成部41のDA変換器414から分岐して出力されたアナログ信号を取得し、上述した周波数帯に属する逆位相成分を除去することにより加工音を示すアナログ信号を生成して出力する。マッチングトランス425は、バンドパスフィルタ426から出力されたアナログ信号のインピーダンス特性を、第1スピーカ1のインピーダンス特性に整合させて出力する。
【0046】
これにより、第1スピーカ1は、上述した加工音を出力する。この加工音は、警報音の逆位相成分のうち、主要な成分が除去されているため、この警報音を含む音に重畳されても、この警報音をキャンセルし難い。この構成によっても、車両Cの乗員は、加工音によってキャンセルされた列車Tの騒音に比べて、キャンセルされていない警報音を明確に聞くことができる。
【0047】
なお、除去部42は、上述したバンドパスフィルタ426のみからなり、マッチングトランス425を含まなくてもよい。すなわちこの場合の除去部42は、警報音の逆位相成分に主に含まれる周波数帯成分を除去するバンドパスフィルタである除去部の例である。
【0048】
<5>
上述した実施形態において、信号処理装置4は、デジタルシグナルプロセッサ413、又はデジタルシグナルプロセッサ423を用いていたが、これらは、他のプロセッサに代替されてもよい。他のプロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)であってもよい。また、他のプロセッサは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)であってもよいし、FPGAを含んでもよい。また、他のプロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又は他のプログラマブル論理デバイスを有したものでもよい。
【0049】
<6>
列車Tの騒音の発生地点(騒音発生源ともいう)の数は2以上であってもよい。
図5は、マイクロホン3が複数の騒音発生源S1~S5から発生する騒音を収集する様子を示した概略図である。この場合、マイクロホン3は、5つの騒音発生源S1~S5からそれぞれ発生する騒音を収集する。信号処理装置4は、マイクロホン3が収集した音を加工して、その逆位相音を生成する。そして、第1スピーカ1は、信号処理装置4が生成した逆位相音を車両Cに向けて出力する。
【0050】
なお、ノイズキャンセルシステム9は、車両C、及び騒音発生源Sの各位置を観測する位置観測装置を有してもよい。この位置観測装置は、これらの各位置を観測するために、例えば、ステレオカメラによって撮像された画像を解析してもよいし、LiDAR(Light Detection And Ranging)を用いてもよい。信号処理装置4は、観測した各位置に基づいて、逆位相音の位相、すなわち第1スピーカ1による出力タイミングを調整してもよい。また、第1スピーカ1は、観測された車両Cの位置に応じて音の出力方向を調整してもよい。この場合、第1スピーカ1は、例えば、ラインアレイスピーカ、平面波スピーカ、超音波を用いたパラメトリックスピーカ等でもよい。
【0051】
<7>
上述した実施形態において、列車Tの走行音に由来する騒音の発生地点、マイクロホン3、警報機A、第1スピーカ1、及び車両Cのそれぞれの配置は、特に制限されないものとしたが、第1スピーカ1は、警報機Aから車両Cに向かう方向に沿って加工音を出力してもよい。これにより、第1スピーカ1は、少なくともマイクロホンが収集した、警報機Aから車両Cに向かう方向に沿って伝搬する騒音をキャンセルする。
【0052】
図6は、第1スピーカ1、及びマイクロホン3の位置関係の例を示す概略図である。
図6において騒音発生源Sは、主に列車Tの走行音に由来する騒音の発生地点であり、例えば、列車Tの車輪と軌道との接点等である。
【0053】
図6に示す通り、騒音発生源S、マイクロホン3、警報機A、第1スピーカ1、及び車両Cは、直線上に並んでいる。第1スピーカ1は、警報機Aにおける警報音の出力地点から車両Cの乗員(すなわち、対象者)に向かう方向D1に沿って、上述した加工音を出力する。つまり、この第1スピーカ1は、警報音の出力地点から対象者に向かう方向に沿って加工音を出力する第1スピーカの例である。
【0054】
また、騒音発生源Sからマイクロホン3へ向かう方向D2は、上記の方向D1と共通の直線上にある。そして、このマイクロホン3は、少なくともこの方向D2に沿って伝搬する騒音を収集する。したがって、このマイクロホン3は、少なくとも警報音の出力地点から対象者に向かう方向に沿って伝搬する騒音を収集するマイクロホンの例である。
【0055】
方向D1と方向D2とは共通の直線上にある。そのため、これらの方向の下流に位置する車両Cは、方向D2に沿って伝搬する騒音と、方向D1に沿って伝搬する加工音とが重畳された音を受ける。
【0056】
そして、第1スピーカ1によって出力されるこの加工音は、警報音と列車Tの騒音とを含む音の逆位相音から、警報音の逆位相成分が除去された音である。車両Cの乗員は、第1スピーカ1から上記の加工音を受ける。その結果、車両Cの乗員は、加工音によってキャンセルされた列車Tの騒音に比べて、キャンセルされていない警報音を明確に聞くことができる。また、この場合であっても、車両Cに搭載された図示しない音響センサは、列車Tの騒音が選択的に除去された警報音を感知するため、ノイズキャンセルシステム9がない場合に比べて、車両Cの自動運転を制御するプロセッサは、警報機Aが発する警報音を認識し易くなる。
【0057】
<8>
上述した実施形態において、除去部42は、逆位相音から警報音の逆位相成分を除去することによって加工音を生成していたが、加工音の生成には、警報音の逆位相成分を生成しなくてもよい。例えば、除去部42は、マイクロホン3が収集した音の逆位相音に、ミキサ等を用いて警報音の成分そのものを混合することによって、この逆位相音から警報音の逆位相成分を除去してもよい。つまり、この除去部42は、逆位相音に警報音の成分を混合することで加工音を生成する除去部の例である。
【符号の説明】
【0058】
1…第1スピーカ、2…第2スピーカ、3…マイクロホン、4、4a…信号処理装置、41…生成部、411…パワーアンプ、412…AD変換器、413…デジタルシグナルプロセッサ、414…DA変換器、415…マッチングトランス、42、42a…除去部、421…パワーアンプ、422…AD変換器、423…デジタルシグナルプロセッサ、424…DA変換器、425…マッチングトランス、426…バンドパスフィルタ、9、9a…ノイズキャンセルシステム、A…警報機、C…車両、H…民家、O…オシレータ、S、S1、S2、S3、S4、S5…騒音発生源、T…列車。