IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

特開2024-141833ガスセンサの動作方法および濃度測定装置
<>
  • 特開-ガスセンサの動作方法および濃度測定装置 図1
  • 特開-ガスセンサの動作方法および濃度測定装置 図2
  • 特開-ガスセンサの動作方法および濃度測定装置 図3
  • 特開-ガスセンサの動作方法および濃度測定装置 図4
  • 特開-ガスセンサの動作方法および濃度測定装置 図5
  • 特開-ガスセンサの動作方法および濃度測定装置 図6
  • 特開-ガスセンサの動作方法および濃度測定装置 図7
  • 特開-ガスセンサの動作方法および濃度測定装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141833
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ガスセンサの動作方法および濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20241003BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/41 325Q
G01N27/419 327Q
G01N27/409 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053680
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直哉
(72)【発明者】
【氏名】岳川 一輝
(72)【発明者】
【氏名】平田 翔大
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄介
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BC02
2G004BF19
2G004BF20
2G004BF27
2G004BJ03
2G004BL08
(57)【要約】
【課題】発熱反応を生じ得るガス種が共存する被測定ガスの導入環境下でも好適に使用可能なガスセンサの動作方法を提供する。
【解決手段】ヒータエレメントに対する通電が所定のDuty比にて行われることによりヒータ部にて加熱されるセンサ素子が通常駆動温度にある状態で、ヒータ部におけるDuty比をモニタし、Duty比の駆動温度に対応した通常値からの減少が検知された場合、Duty比をさらに低減させてセンサ素子の温度を所定の保護駆動温度にまで低減させ、所定の保護駆動時間が経過した時点でDuty比を増大させることにより、センサ素子を保護駆動温度から前記通常駆動温度に復帰させ、センサ素子が通常駆動温度に復帰したときのDuty比が通常値よりも小さい場合はDuty比を再び低減させて、センサ素子の温度を保護駆動温度にまで低減させる、ようにした。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された基体部を有しかつ被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたセンサ素子を備える、ガスセンサの動作方法であって、
前記センサ素子が、Duty比に従いヒータエレメントに対し通電が行われることにより前記センサ素子を加熱するヒータ部を備えるものであり、
前記ガスセンサにおいては、前記センサ素子の前記ヒータエレメントが備わる側の端部が、前記被測定ガスが導入される保護カバー内に突出しており、
前記ヒータ部に前記センサ素子を所定の通常駆動温度にまで加熱昇温させるとともに、前記ガスセンサを前記所定ガス成分の測定が可能な駆動状態とするセンサ始動工程と、
前記ヒータ部における前記Duty比をモニタするモニタ工程と、
前記センサ素子の温度と前記モニタ工程において得られる前記Duty比の値とに基づいて前記センサ素子の温度を制御する温度制御工程と、
を備え、
前記温度制御工程においては、
前記センサ素子が前記通常駆動温度にある状態で、前記モニタ工程において前記Duty比の前記通常駆動温度に対応した通常値からの減少が検知された場合、前記Duty比をさらに低減させて前記センサ素子の温度を所定の保護駆動温度にまで低減させ、
前記センサ素子の温度を前記保護駆動温度に低減させてから所定の保護駆動時間が経過した時点で、前記Duty比を増大させることにより、前記センサ素子を前記保護駆動温度から前記通常駆動温度に復帰させ、
前記センサ素子が前記通常駆動温度に復帰したときの前記Duty比が前記通常値よりも小さい場合は前記Duty比を再び低減させて、前記センサ素子の温度を前記保護駆動温度にまで低減させる、
ことを特徴とする、ガスセンサの動作方法。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサの動作方法であって、
前記保護駆動温度が、あらかじめ特定された、前記被測定ガスに含まれる酸素と水素との反応により発生する熱応力により前記センサ素子にクラックが発生しない温度である、
ことを特徴とする、ガスセンサの動作方法。
【請求項3】
請求項2に記載のガスセンサの動作方法であって、
前記通常駆動温度が750℃超~900℃であり、
前記保護駆動温度が750℃以下である、
ことを特徴とする、ガスセンサの動作方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサの動作方法であって、
前記ガスセンサとして限界電流型のガスセンサを用い、
前記センサ素子が、
前記ヒータエレメントが備わる側の端部に設けられた、前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、
拡散律速部を介して前記ガス導入口と連通してなる、測定用内部空所と、
前記測定用内部空所に設けられた測定電極と、前記測定用内部空所以外の箇所に設けられてなる空所外ポンプ電極と、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された測定ポンプセルと、
備えることを特徴とする、ガスセンサの動作方法。
【請求項5】
被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたガスセンサと、制御手段とを備える濃度測定装置であって、
前記ガスセンサが、
酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された基体部を有しかつ被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたセンサ素子と、
前記被測定ガスが導入される保護カバーと、
前記センサ素子の動作を制御するセンサコントローラと、
を備え、
前記センサ素子が、前記制御手段の制御に基づき前記センサコントローラが設定するDuty比に従いヒータエレメントに対し通電されることによって前記センサ素子を加熱する、ヒータ部を備え、
前記センサ素子の前記ヒータエレメントが備わる側の端部が、前記保護カバー内に突出しており、
前記制御手段は、
前記センサコントローラに、前記ヒータ部によって前記センサ素子を所定の通常駆動温度にまで加熱昇温させるとともに、前記ガスセンサを前記所定ガス成分の測定が可能な状態とさせ、
前記センサコントローラが設定する前記ヒータ部における前記Duty比をモニタし、かつ、
前記センサ素子の温度とモニタしている前記Duty比の値とに基づいて前記センサコントローラに前記センサ素子の温度を制御させるように、
構成されており、
前記センサ素子が前記通常駆動温度にある状態で、前記Duty比の前記通常駆動温度に対応した通常値からの減少を検知した場合、前記センサコントローラに前記Duty比をさらに低減させることによって前記センサ素子の温度を所定の保護駆動温度にまで低減させ、
前記センサ素子の温度を前記保護駆動温度に低減させてから所定の保護駆動時間が経過した時点で、前記センサコントローラに前記Duty比を増大させることにより、前記センサ素子を前記保護駆動温度から前記通常駆動温度に復帰させ、
前記センサ素子が前記通常駆動温度に復帰したときの前記Duty比が前記通常値よりも小さい場合は前記センサコントローラに前記Duty比を再び低減させて、前記センサ素子の温度を前記保護駆動温度にまで低減させる、
ことを特徴とする、濃度測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の濃度測定装置であって、
前記保護駆動温度は、前記被測定ガスに含まれる酸素と水素との反応により発生する熱応力により前記センサ素子にクラックが発生しない温度である、
ことを特徴とする、濃度測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の濃度測定装置であって、
前記通常駆動温度が750℃超~900℃であり、
前記保護駆動温度が750℃以下である、
ことを特徴とする、濃度測定装置。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の濃度測定装置であって、
前記ガスセンサが、限界電流型のガスセンサであり、
前記センサ素子が、
前記ヒータエレメントが備わる側の端部に設けられた、前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、
拡散律速部を介して前記ガス導入口と連通してなる、測定用内部空所と、
前記測定用内部空所に設けられた測定電極と、前記測定用内部空所以外の箇所に設けられてなる空所外ポンプ電極と、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された測定ポンプセルと、
を備えることを特徴とする、濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気管に設けられてなるガスセンサの動作方法に関し、特に、酸素と水素の共存下で使用されるガスセンサの温度制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン車両における環境性能を確保・維持する観点から、エンジンの排気経路においてTWC(三元触媒)とGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)とを備える触媒部から下流側へと排出されるNOxおよびアンモニア(NH)の排出量を、正確にかつ経時的に把握することが、求められている。TWCの内部がリーン雰囲気である場合にはNOxが排出され、リッチ雰囲気である場合にはNHが排出される。NOxおよびNHの排出量を把握することにより、触媒部の劣化の度合を診断することが可能となる。
【0003】
NOxセンサをガソリンエンジンの排気経路に取り付け、使用する態様は、すでに公知である(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
また、特許文献1および特許文献2に開示されているようなNOxを検出可能なガスセンサにおいて、NHを検出可能であることも、すでに公知である(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-113770号公報
【特許文献2】特開2021-148612号公報
【特許文献3】特開2022-091669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したNOxおよびアンモニアを検出可能なガスセンサを用いたNOxおよびアンモニアの排出量の把握は、水素エンジン車両の排気経路についても望まれている。
【0007】
水素エンジン車両の場合、排気経路において酸素と水素とが共存する状況が生じるところ、酸素と水素とが所定の濃度範囲にある場合、水素爆発が生じることや、水素が大気中で500℃を超える高温になると自然発火することが、広く知られている。
【0008】
特許文献1ないし特許文献3に開示されているようなガスセンサを水素エンジン車両の排気経路に取り付けて使用する場合であれば、ガスセンサの動作条件次第では、ガスセンサの内部で共存する酸素と水素が急激に反応することに伴い生じる熱応力がセンサ素子に作用し、係るセンサ素子にクラックが発生してしまうことが、あり得る。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、例えば酸素と水素など、発熱反応を生じ得るガス種が共存する被測定ガスがガスセンサに導入される環境下であっても、当該ガスセンサを好適に使用可能なガスセンサの動作方法を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された基体部を有しかつ被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたセンサ素子を備える、ガスセンサの動作方法であって、前記センサ素子が、Duty比に従いヒータエレメントに対し通電が行われることにより前記センサ素子を加熱するヒータ部を備えるものであり、前記ガスセンサにおいては、前記センサ素子の前記ヒータエレメントが備わる側の端部が、前記被測定ガスが導入される保護カバー内に突出しており、前記ヒータ部に前記センサ素子を所定の通常駆動温度にまで加熱昇温させるとともに、前記ガスセンサを前記所定ガス成分の測定が可能な駆動状態とするセンサ始動工程と、前記ヒータ部における前記Duty比をモニタするモニタ工程と、前記センサ素子の温度と前記モニタ工程において得られる前記Duty比の値とに基づいて前記センサ素子の温度を制御する温度制御工程と、を備え、前記温度制御工程においては、前記センサ素子が前記通常駆動温度にある状態で、前記モニタ工程において前記Duty比の前記通常駆動温度に対応した通常値からの減少が検知された場合、前記Duty比をさらに低減させて前記センサ素子の温度を所定の保護駆動温度にまで低減させ、前記センサ素子の温度を前記保護駆動温度に低減させてから所定の保護駆動時間が経過した時点で、前記Duty比を増大させることにより、前記センサ素子を前記保護駆動温度から前記通常駆動温度に復帰させ、前記センサ素子が前記通常駆動温度に復帰したときの前記Duty比が前記通常値よりも小さい場合は前記Duty比を再び低減させて、前記センサ素子の温度を前記保護駆動温度にまで低減させる、ことを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサの動作方法であって、前記保護駆動温度が、あらかじめ特定された、前記被測定ガスに含まれる酸素と水素との反応により発生する熱応力により前記センサ素子にクラックが発生しない温度である、ことを特徴とする。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に係るガスセンサの動作方法であって、前記通常駆動温度が750℃超~900℃であり、前記保護駆動温度が750℃以下である、ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るガスセンサの動作方法であって、前記ガスセンサとして限界電流型のガスセンサを用い、前記センサ素子が、前記ヒータエレメントが備わる側の端部に設けられた、前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、拡散律速部を介して前記ガス導入口と連通してなる、測定用内部空所と、前記測定用内部空所に設けられた測定電極と、前記測定用内部空所以外の箇所に設けられてなる空所外ポンプ電極と、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された測定ポンプセルと、備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の第5の態様は、被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたガスセンサと、制御手段とを備える濃度測定装置であって、前記ガスセンサが、酸素イオン伝導性の固体電解質にて構成された基体部を有しかつ被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定可能に構成されたセンサ素子と、前記被測定ガスが導入される保護カバーと、前記センサ素子の動作を制御するセンサコントローラと、を備え、前記センサ素子が、前記制御手段の制御に基づき前記センサコントローラが設定するDuty比に従いヒータエレメントに対し通電されることによって前記センサ素子を加熱する、ヒータ部を備え、前記センサ素子の前記ヒータエレメントが備わる側の端部が、前記保護カバー内に突出しており、前記制御手段は、前記センサコントローラに、前記ヒータ部によって前記センサ素子を所定の通常駆動温度にまで加熱昇温させるとともに、前記ガスセンサを前記所定ガス成分の測定が可能な状態とさせ、前記センサコントローラが設定する前記ヒータ部における前記Duty比をモニタし、かつ、前記センサ素子の温度とモニタしている前記Duty比の値とに基づいて前記センサコントローラに前記センサ素子の温度を制御させるように、構成されており、前記センサ素子が前記通常駆動温度にある状態で、前記Duty比の前記通常駆動温度に対応した通常値からの減少を検知した場合、前記センサコントローラに前記Duty比をさらに低減させることによって前記センサ素子の温度を所定の保護駆動温度にまで低減させ、前記センサ素子の温度を前記保護駆動温度に低減させてから所定の保護駆動時間が経過した時点で、前記センサコントローラに前記Duty比を増大させることにより、前記センサ素子を前記保護駆動温度から前記通常駆動温度に復帰させ、前記センサ素子が前記通常駆動温度に復帰したときの前記Duty比が前記通常値よりも小さい場合は前記センサコントローラに前記Duty比を再び低減させて、前記センサ素子の温度を前記保護駆動温度にまで低減させる、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第6の態様は、第5の態様に係る濃度測定装置であって、前記保護駆動温度は、前記被測定ガスに含まれる酸素と水素との反応により発生する熱応力により前記センサ素子にクラックが発生しない温度である、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第7の態様は、第6の態様に係る濃度測定装置であって、前記通常駆動温度が750℃超~900℃であり、前記保護駆動温度が750℃以下である、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第8の態様は、第5ないし第7の態様のいずれかに係る濃度測定装置であって、前記ガスセンサが、限界電流型のガスセンサであり、前記センサ素子が、前記ヒータエレメントが備わる側の端部に設けられた、前記被測定ガスが導入されるガス導入口と、拡散律速部を介して前記ガス導入口と連通してなる、測定用内部空所と、前記測定用内部空所に設けられた測定電極と、前記測定用内部空所以外の箇所に設けられてなる空所外ポンプ電極と、前記測定電極と前記空所外ポンプ電極との間に存在する前記固体電解質とから構成された測定ポンプセルと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1ないし第8の態様によれば、例えば酸素と水素など、発熱反応を生じ得るガス種が共存する被測定ガスがガスセンサに導入される場合であっても、ガスセンサのセンサ素子における、当該発熱反応に伴い生じる熱応力に起因したクラックの発生を、回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】車両システム1000の要部の構成を模式的に示す図である。
図2】ガスセンサ100に備わるセンサ素子101の構成の一例を概略的に示す、素子長手方向に沿った垂直断面図である。
図3】ガスセンサ100の長手方向に沿った要部断面図である。
図4】ガスセンサ100の内部に酸素と水素が共存するガスが流入したときの様子を模式的に示す図である。
図5】酸素と水素の濃度の組み合わせが相異なる複数種類のガス雰囲気下のそれぞれでガスセンサ100を使用したときに、センサ素子101にクラックが生じる頻度を示す図である。
図6】大気雰囲気下および酸素と水素の混合雰囲気下でのヒータエレメント72に対する通電の際のDuty比の時間変化を示す図である。
図7】センサ素子101における酸素と水素の反応に起因したクラックの発生を回避するための、ガスセンサ100の動作フローを示す図である。
図8】ガスセンサ100の内部で酸素と水素の反応が生じる場合の、ヒータ部70による通電加熱の際のDuty比と、センサ素子101の温度との時間変化とを、模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本実施の形態に係る動作方法の実施対象であるガスセンサ100を含む、車両システム1000の要部の構成を、模式的に示す図である。
【0021】
車両システム1000は、ガスセンサ100に加え、図示しない車両(自動車)本体に搭載された、当該車両の動力源たるエンジン200と、エンジン200から排出される排ガスの排気管300と、排気管300の途中に設けられてなる触媒部400と、車両システム1000の動作を制御するECU(電子制御装置)500とを、主として備える。
【0022】
なお、本実施の形態において、エンジン200は、排気管300内において酸素と水素とが共存し得る環境下で使用されるものであるとする。このようなエンジン200としては、ガソリンエンジンおよび水素エンジンが例示される。
【0023】
ガスセンサ100は、排気管300において触媒部400よりも下流側に設けられてなり、エンジン200から排出された後、触媒部400を通過した排ガスにおけるNOxおよびNHを検知し、その濃度を特定するためのものである。ガスセンサ100は、後述するセンサ素子101(図2参照)を備える。ガスセンサ100は、センサコントローラ150を介してECU500に接続されており、時々刻々と測定されるNOxおよびNHの濃度の時間積分値をECU500にて演算することにより、NOxおよびNHの排出量が求められるようになっている。
【0024】
本実施の形態においては、ガスセンサ100と、センサコントローラ150と、ECU500とが、被測定ガスに含まれる所定ガス成分の濃度を特定する濃度測定装置を構成している。
【0025】
触媒部400は、TWC(三元触媒)400aと、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)400bとを備える。図1においては、TWC400aと、GPF400bとが一体となった構成を示しているが、これは一例であり、両者は別体に設けられる場合もある。TWC400aは、エンジン200の排ガスがλ<1のリッチ雰囲気である場合には主に排ガス中のNOxを浄化し、排ガスがλ>1のリーン雰囲気にあるときは主に排ガス中のHC(炭化水素)およびCO(一酸化炭素)を浄化し、λ=1近傍のストイキ雰囲気では排ガス中のNOx、HC、およびCOを全て浄化する。GPF400bは、エンジン200の排ガスに含まれるPM(粒子状物質)を捕集するフィルタである。PM(粒子状物質)の一種として、炭素の微粒子である煤がある。
【0026】
ECU500は、車両の運転全般に係る制御を担う。ECU500は少なくとも1つのプロセッサ(図示せず)およびメモリ(図示せず)を含んでおり、ECU500が有する各機能は、プロセッサがメモリに格納されているソフトウェアを実行することによって実現される。メモリは、例えば、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。
【0027】
センサコントローラ150は、ガスセンサ100に電気的に接続されてなるものであり、ECU500の制御のもと、ガスセンサ100における濃度測定のための種々の駆動動作を制御する。センサコントローラ150も、少なくとも1つのプロセッサ(図示せず)およびメモリ(図示せず)を含んでおり、センサコントローラ150が有する各機能は、プロセッサがメモリに格納されているソフトウェアを実行することによって実現される。メモリは、例えば、不揮発性または揮発性の半導体メモリである。
【0028】
センサコントローラ150は、ガスセンサ100の製造時に、個々のガスセンサ100に固有のものが用意され、接続される。そして、後述するように、個々のガスセンサ100に固有の特性情報が、接続されたセンサコントローラ150のメモリに格納されるようになっている。
【0029】
<センサ素子の概略構成>
図2は、ガスセンサ100に備わるセンサ素子101の構成の一例を概略的に示す、素子長手方向に沿った垂直断面図である。
【0030】
概略的にいえば、センサ素子101においては、内部空所に導入された被検ガスが内部空所内で還元ないしは分解されて酸素イオンが発生する。ガスセンサ100においては、素子内部を流れる酸素イオンの量が被検ガス中における当該ガス成分の濃度に比例することに基づいて、係るガス成分の濃度が求められる。すなわち、ガスセンサ100は、限界電流式のガスセンサである。
【0031】
センサ素子101は、それぞれが酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(ZrO)からなる(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などからなる)、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの固体電解質層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する、平板状の(長尺板状の)セラミックス製の素子体である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。なお、以降においては、図2におけるこれら6つの層のそれぞれの上側の面を単に上面、下側の面を単に下面と称することがある。また、センサ素子101のうち固体電解質からなる部分全体を基体部と総称する。
【0032】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターン(例えば、電極、電極リード、リード絶縁層など)の印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0033】
センサ素子101の第1先端部101a側であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10を兼ねる第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0034】
緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間(領域)である。なお、ガス導入口10についても同様に、第1拡散律速部11とは別に、第1先端部101aにおいてスペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられてなる態様であってもよい。係る場合、第1拡散律速部11がガス導入口10よりも内部に隣接形成されることになる。
【0035】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30と、第4拡散律速部60とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から最奥の内部空所である第3内部空所61に至る部位をガス流通部とも称する。
【0036】
また、センサ素子101の第2先端部101b側には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空所43が設けられている。
【0037】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空所43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0038】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空所43につながる大気導入層48が設けられている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内や第2内部空所40内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0039】
ガス流通部において、ガス導入口10(第1拡散律速部11)は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0040】
第1拡散律速部11は、取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0041】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0042】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0043】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0044】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素濃度(酸素分圧)を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0045】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極(主ポンプ電極とも称する)22と、第2固体電解質層6の上面(センサ素子101の一方主面)の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側(空所外)ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0046】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)に形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成されてなる。これら天井電極部22aと底部電極部22bとは、第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0047】
天井電極部22aおよび底部電極部22bは、平面視矩形状に設けられてなる。ただし、天井電極部22aのみ、あるいは、底部電極部22bのみが設けられる態様であってもよい。
【0048】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極として形成される。特に、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力が弱められてなる一方で、NHに対する酸化能力を有する材料を用いて形成される。被測定ガスにNHが含まれている場合、係るNHは内側ポンプ電極22の触媒能により酸化されてNOに変換される。
【0049】
内側ポンプ電極22は、例えば、5%~40%の気孔率を有し、Auを0.6wt~1.4wt%程度含むAu-Pt合金とZrOとのサーメット電極として、5μm~20μmの厚みに形成される。Au-Pt合金とZrOとの重量比率は、Pt:ZrO=7.0:3.0~5.0:5.0程度であればよい。
【0050】
一方、外側ポンプ電極23は、例えばPtあるいはその合金とZrOとのサーメット電極として、平面視矩形状に形成される。
【0051】
なお、図2においては図示を省略しているが、センサ素子101の一方主面側に、外側ポンプ電極23を保護する目的で、外側ポンプ電極23を被覆する電極保護層が備わっていてもよい。
【0052】
主ポンプセル21においては、ECU500による制御のもと、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に可変電源24によって所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向に主ポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。なお、主ポンプセル21において内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に印加されるポンプ電圧Vp0を、主ポンプ電圧Vp0とも称する。
【0053】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセルである主センサセル80が構成されている。
【0054】
主センサセル80における内側ポンプ電極22と基準電極42との電位差である起電力V0を測定することで、第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0055】
さらに、センサコントローラ150が、起電力V0が一定となるように主ポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することで、主ポンプ電流Ip0が制御されている。これにより、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保たれるようになっている。
【0056】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0057】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をさらに調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。第2内部空所40においては、被測定ガスの酸素濃度がさらに高精度に調整される。
【0058】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素濃度(酸素分圧)の調整が行われるようになっている。
【0059】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101と外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0060】
補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様の形態にて、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成されてなり、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成されてなる。これら天井電極部51aと底部電極部51bは、平面視矩形状をなしているとともに、第2内部空所40の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に設けられた導通部にて接続されてなる(図示省略)。
【0061】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。あるいはさらに、NHに対する酸化能力をも有する材料を用いて形成される態様であってもよい。係る場合、仮に第2内部空所40に到達した被測定ガスに第1内部空所20において内側ポンプ電極22の触媒能により酸化されなかったNHが残存している場合であっても、係るNHをより確実に酸化させてNOに変換させることが可能となる。
【0062】
補助ポンプセル50においては、センサコントローラ150による制御のもと、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧(補助ポンプ電圧)Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0063】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセルである補助センサセル81が構成されている。補助センサセル81においては、第2内部空所40内の酸素分圧に応じて補助ポンプ電極51と基準電極42との間に生じる電位差である起電力V1が、検出される。
【0064】
補助ポンプセル50は、この補助センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、ポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にフィードバック制御されるようになっている。
【0065】
また、これとともに、その補助ポンプ電流Ip1が、主センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、補助ポンプ電流Ip1は、制御信号として主センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0066】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。
【0067】
第3内部空所61は、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物の濃度の測定に係る処理を行うための空間(測定用内部空所)として設けられている。ここで、窒素酸化物には、もとより被測定ガスに含まれていたNOxと、被測定ガスに含まれていたNHが酸化されることにより生じたNOとが含まれる。窒素酸化物濃度の測定は、第3内部空所61において、測定ポンプセル41が動作することによりなされる。第3内部空所61には、第2内部空所40において酸素濃度が高精度に調整された被測定ガスが導入されるため、ガスセンサ100においては精度の高い窒素酸化物濃度測定が可能となる。
【0068】
測定ポンプセル41は、第3内部空所61内に導入された被測定ガスの窒素酸化物濃度を測定するためのものである。測定ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面であって第3拡散律速部30から離間した位置に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0069】
測定電極44は、貴金属と固体電解質との多孔質サーメット電極である。例えばPtあるいはPtとRhなどの他の貴金属との合金と、センサ素子101の構成材料たるZrOとのサーメット電極として形成される。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在する窒素酸化物を還元する窒素酸化物還元触媒としても機能する。
【0070】
測定ポンプセル41においては、センサコントローラ150による制御のもと、第3内部空所61内の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流(測定ポンプ電流)Ip2として検出することができる。
【0071】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって、電気化学的なセンサセルである測定センサセル82が構成されている。測定センサセル82にて検出される、第3内部空所61内の酸素分圧に応じて測定電極44と基準電極42との間に生じる電位差である起電力V2に基づいて、可変電源46がフィードバック制御される。なお、測定ポンプセル41は、起電力V2の設定によっては外部より酸素を汲み入れることも可能とされてなる。
【0072】
第3内部空所61内に導かれた被測定ガス中の窒素酸化物は測定電極44により還元され、酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧(測定ポンプ電圧)Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定ポンプセル41におけるポンプ電流(測定ポンプ電流)Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0073】
ただし、係る態様にて窒素酸化物濃度を算出するだけでは、その値がリーン雰囲気の被測定ガスに含まれていたNOxの濃度に該当するのか、あるいはリッチ雰囲気の被測定ガスに含まれていたNHが酸化されることにより生じたNOの濃度に該当するのか、不明である。NOxとNHの排出量をそれぞれに把握するためには、濃度値の算出対象となっているガス成分が、NOxとNHのいずれであるかを判別する必要がある。
【0074】
本実施の形態に係る車両システム1000においては、係る判別を、NOxおよびNHを直接に検出することによって行うのではなく、センサ素子101に備わる雰囲気判定セル83を用いて行うようになっている。
【0075】
雰囲気判定セル83は、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから構成される電気化学的なセンサセルである。この雰囲気判定セル83によって得られる起電力Vrefは、センサ素子101の周囲の雰囲気中の酸素分圧、つまりは酸素の多少に応じた値となる。
【0076】
そこで、車両システム1000においては、被測定ガスがリーン雰囲気であるときの起電力Vrefの値(範囲)とリッチ雰囲気であるときの起電力Vrefの値(範囲)とをあらかじめ特定しておき、センサコントローラ150の図示しないメモリに記憶させておくようにする。ガスセンサ100による測定の実行時、センサコントローラ150は、測定ポンプ電流Ip2の値を示す信号と起電力Vrefの値を示す信号とをセットで取得する。そして、起電力Vrefの値に基づいて、測定ポンプ電流Ip2に基づいて演算される窒素酸化物の濃度値を、NOxによるものかNHによるものかを判別し、該当するガス種の濃度値として記録または出力する。
【0077】
センサ素子101は、さらに、基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。
【0078】
ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータエレメント72と、ヒータリード72aと、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、図2においては図示を省略するヒータ抵抗検出リードとを、主として備えている。また、ヒータ部70は、ヒータ電極71を除いて、センサ素子101の基体部に埋設されてなる。
【0079】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面(センサ素子101の他方主面)に接する態様にて形成されてなる電極である。
【0080】
ヒータエレメント72は、第2基板層2と第3基板層3との間に設けられた抵抗発熱体である。ヒータエレメント72は、図2においては図示を省略する、センサ素子101の外部に備わる図示しないヒータ電源から、通電経路であるヒータ電極71、スルーホール73、およびヒータリード72aを通じて給電されることより、発熱する。ヒータエレメント72は、Ptにて、あるいはPtを主成分として、形成されてなる。ヒータエレメント72は、センサ素子101のガス流通部が備わる側の所定範囲に、素子厚み方向においてガス流通部と対向するように埋設されている。ヒータエレメント72は、10μm~30μm程度の厚みを有するように設けられる。
【0081】
センサ素子101においては、センサコントローラ150による制御のもと、ヒータ電極71を通じてヒータエレメント72に電流を流すことにより、ヒータエレメント72を発熱させることで、センサ素子101の各部を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。
【0082】
なお、本実施の形態において、ヒータエレメント72に対する通電は、周期的にON/OFFを繰り返すことによって行う。このときのON/OFFの1周期に対するONの割合(実際に通電されている時間の割合)をDuty比と称し、係るDuty比を調整することにより、ヒータ部70による加熱状態を調整する。基本的には、Duty比を大きくするほどヒータエレメント72に対する通電量が増大し、センサ素子101がより加熱される。
【0083】
具体的には、センサ素子101は、ガス流通部付近の固体電解質および電極の温度が750℃超~900℃程度になるように加熱される。係る加熱によって、センサ素子101において基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。なお、ガスセンサ100が使用される際の(センサ素子101が駆動される際の)ヒータエレメント72による加熱温度を、素子駆動温度と称する。
【0084】
ヒータエレメント72による発熱の程度(ヒータ温度)は、ヒータエレメント72の抵抗値の大きさ(ヒータ抵抗)によって把握される。ヒータ抵抗の値は、センサコントローラ150さらにはECU500へと与えられる。ECU500は、係るヒータ抵抗の値に基づき、センサコントローラ150にDuty比を調整させることにより、センサ素子101の温度を制御する。
【0085】
なお、センサ素子101の表面の、第1先端部101aから長手方向における所定の範囲は、図示しない保護膜で被覆されてよい。保護膜は、内部空所や電極等が設けられてなるセンサ素子101の第1先端部101a近傍を被水などによる熱的な衝撃から保護するために設けられ、耐熱衝撃保護層とも称される。保護膜は、例えばAl3などからなる、厚みが10μm~2000μm程度の多孔質膜として設けられるのが好ましく、その目的に照らして、50N程度までの力に耐え得るように形成されるのが好ましい。
【0086】
以上のような構成を有するガスセンサ100においてNOxあるいはNHの濃度が測定される際には、センサコントローラ150が主ポンプセル21さらには補助ポンプセル50を作動させることによって、第1内部空所20さらには第2内部空所40において酸素濃度が一定とされるフィードバック制御が実行され、酸素濃度一定とされた被測定ガスが、第3内部空所61へと導入され、測定電極44に到達する。被測定ガスがNHを含んでいる場合には、NHは第1内部空所20あるいは第2内部空所40において酸化され、NOに変換される。
【0087】
そして、測定電極44においては、到達した被測定ガス中の窒素酸化物が還元されることによって、酸素が発生する。係る酸素は、測定ポンプセル41より汲み出されるが、係る汲み出しの際に流れる測定ポンプ電流Ip2は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度と一定の関数関係(以下、感度特性と称する)を有する。
【0088】
係る感度特性は、ガスセンサ100を実使用するに先立ってあらかじめ、窒素酸化物濃度が既知の複数種類のモデルガスを用いて特定され、そのデータがセンサコントローラ150のメモリに記憶される。また、上述のように、メモリには、センサ素子101の周囲の被測定ガスがリーン雰囲気である場合とリッチ雰囲気である場合のそれぞれに対応する、雰囲気判定セル83に生じる起電力Vrefの値(範囲)も、あらかじめ記憶されている。
【0089】
そして、ガスセンサ100の実使用時、つまりは車両システム1000を備える車両の運転時には、被測定ガスにおける窒素酸化物濃度に応じて流れる測定ポンプ電流Ip2の値を表す信号と、被測定ガスの雰囲気に応じた値となる起電力Vrefを示す信号とが、センサコントローラ150に時々刻々と与えられる。これらの信号は、センサコントローラ150からECU500へと与えられ、ECU500においては、測定ポンプ電流Ip2の値と特定した感度特性とに基づいて、窒素酸化物濃度が次々と演算される。また、起電力Vrefの値に基づいて、被測定ガスがどのような雰囲気にあるかが判定される。被測定ガスがリーン雰囲気であると判定された場合には、演算された窒素酸化物濃度はNOxの濃度を示すものとして取り扱われ、被測定ガスがリッチ雰囲気であると判定された場合には、演算された窒素酸化物濃度はNHの濃度を示すものとして取り扱われる。
【0090】
これにより、ガスセンサ100を備える車両システム1000においては、被測定ガス中のNOxおよびNHの濃度をほぼリアルタイムで把握することができるようになっている。
【0091】
<ガスセンサの要部の構成>
図3は、ガスセンサ100の長手方向に沿った要部断面図である。具体的には、センサ素子101の第1先端部101aの近傍におけるガスセンサ100の断面図である。図3においては、鉛直方向をz軸方向として示しており、ガスセンサ100の長手方向はz軸方向と一致している。また、センサ素子101は、素子厚み方向において平面視した状態にて図示されている。
【0092】
ガスセンサ100は、センサ素子101と、その第1先端部101aの近傍を保護する保護カバー102と、センサ素子101の周囲に環装されてなる環装部品120と、環装部品120の周囲にさらに環装され、該環装部品120を収容してなる筒状体130とを、主として備える。
【0093】
換言すれば、ガスセンサ100においては、概略、センサ素子101が筒状体130の内部の軸中心位置において軸方向に貫通し、環装部品120が、筒状体130の内部においてセンサ素子101に環装された構成を有する。
【0094】
センサ素子101は、筒状体130の長手方向に沿った中心軸上に配置されてなる。以降、筒状体130の長手方向と一致する中心軸の延在方向を軸線方向とも称する。図3において、軸線方向はz軸方向と一致している。
【0095】
保護カバー102は、センサ素子101のうち、使用時に被検ガスに直接に接触する部分である第1先端部101aを保護する、略円筒状の外装部材である。保護カバー102は、筒状体130の図面視下側(z軸方向負側)の外周端部に、溶接固定されてなる。
【0096】
図3に示す場合においては、保護カバー102は、外側カバー102aと内側カバー102bとの2層構造となっている。外側カバー102aと内側カバー102bには、それぞれ、気体が通過可能な複数の貫通孔H1、H2、およびH3と、H4、H5、およびH6とが設けられてなる。なお、図3に示す貫通孔の種類、配置個数、配置位置、形状などあくまで例示であって、保護カバー102の内部への被測定ガスの流入態様を考慮して適宜に定められてよい。
【0097】
なお、以降においては、センサ素子101の第1先端部101aと内側カバー102bとの間の空間を第1空間SP1と称し、センサ素子101の軸線方向に延在する4つの側面の周りの、内側カバー102bに囲繞された空間を、第2空間SP2と称する。
【0098】
環装部品120は、セラミックス製の碍子である複数のセラミックサポータと、タルクなどのセラミックス粉末を成型したうえでセラミックサポータの間に介在させられてなる、少なくとも1つの圧粉体とからなる。図3においては図示の都合上、環装部品120として一のセラミックサポータ121のみを示しているが、圧粉体をなすセラミックス粒子は、セラミックサポータと筒状体130とに囲繞され、かつ、センサ素子101が貫通する空間に、密に圧縮充填されてなる。ガスセンサ100においては、係る圧粉体の圧縮充填により、センサ素子101の第1先端部101a側と、第2先端部101b側との間の気密封止が、実現されてなる。
【0099】
筒状体130は、主体金具とも称される金属製の筒状部材である。筒状体130の内部には、センサ素子101と環装部品120とが収容され、固定されてなる。換言すれば、筒状体130は、センサ素子101の周りに環装された環装部品120の周囲に、さらに環装されてなる。ただし、図3においては図示の都合上、筒状体130を部分的にのみ示している。
【0100】
また、図3においては図示を省略するが、筒状体130の一部の外周部分は、ねじ切りされたボルト部となっている。係るボルト部は、ガスセンサ100を排気管300などの測定位置に固定する際に用いられる。
【0101】
さらに、筒状体130の上側(z軸方向正側)の外周端部には図示を省略する外筒が溶接固定されてなる。外筒の内部にはセンサ素子101と外部とを電気的に接続するためのコネクタが配されている。また、外筒上端には、シール(封止)部材が嵌め込まれている。これにより、ガスセンサ100においては、筒状体130とシール部材との間において、外筒に囲繞されてなる空間が、センサ素子101の第2先端部101bが突出してなる基準ガス空間となっている。係る基準ガス空間には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。そして、係る基準ガス空間からセンサ素子101の基準ガス導入空所43に、基準ガスが導入される。
【0102】
<酸素と水素の共存下での使用>
次に、上述のような構成を有するガスセンサ100が、酸素と水素の共存下で使用される場合の動作について説明する。より詳細には、ヒータエレメント72が備わる側のセンサ素子101の端部(第1先端部101a)が、被測定ガスが導入される保護カバー102内に突出した構成を有するガスセンサ100が、酸素と水素の共存し得る被測定ガスを測定対象とする場合の、センサ素子101の温度制御態様について、説明する。
【0103】
ガスセンサ100が使用される場合、センサ素子101がヒータ部70にて加熱されることにより、センサ素子101の近傍に到達する被測定ガスも高温に熱せられる。そのため、被測定ガスにおいて酸素と水素が共存する場合、条件次第では両者の反応が起こり得る。
【0104】
図4は、図3に示した構成を有するガスセンサ100の内部に酸素と水素が共存するガスが流入したときの様子を模式的に示す図である。図4においては、酸素と水素が共存するガスが外側カバー102aの貫通孔H1およびH2から流入し、さらには貫通孔H5を通じて内側カバー102bの内部(特に第1空間SP1)へと流入し、貫通孔H6さらには外側カバー102aの貫通孔H3あるいはH4から流出する場合を示している。なお、センサ素子101内部から汲み出される酸素も、内側カバー102b内の第2空間SP2に向けて排出される。
【0105】
ヒータ部70のヒータエレメント72は、第1内部空所20、第2内部空所40、第3内部空所61などからなるガス流通部が存在する、第1先端部101a側の所定範囲に設けられているため、ガスセンサ100が動作する際、内側カバー102b内においては第1先端部101aの近傍がもっとも高温となっている。よって、内側カバー102bの内部に流入した酸素と水素との反応は、第1空間SPの第1先端部101aの近傍において最も生じやすいと考えられる。
【0106】
しかも、係る反応は、発生する水蒸気1モルあたり284kJの発熱を伴う発熱反応であるため、酸素と水素とが急激に反応すると、これに伴い生じる熱応力にて、センサ素子101にクラックが発生してしまう場合が起こり得る。なお、本実施の形態において、センサ素子101におけるクラックの発生とは、第1先端部101aの周囲に設けられる図示しない保護膜におけるクラックの発生も含むものとする。
【0107】
図5は、酸素と水素の濃度の組み合わせが相異なる複数種類のガスを用意し、それぞれのガス雰囲気下でガスセンサ100を使用したときに、センサ素子101にクラックが生じる頻度を示す図である。具体的には、図5においては、各ガス種に対し8個あるいは12個のガスセンサ100を用意し、それぞれを駆動させたときの、各ガス種の雰囲気下でのセンサ素子101におけるクラックの発生比率を、横軸を酸素(O)濃度とし、縦軸を水素(H)濃度としてプロットしている。なお、それぞれのガスの残余はNとし、素子駆動温度は840℃とした。
【0108】
図5からは、曲線C1より上の濃度範囲ではクラックが発生したセンサ素子101が存在する一方で、曲線C2よりも下の濃度範囲ではクラックが発生したセンサ素子101が存在しなかったことがわかる。これはすなわち、酸素と水素との共存する状況下でのガスセンサ100の使用であっても、酸素と水素の濃度が曲線C2よりも下側の濃度範囲内にある限りにおいては、酸素と水素の反応に起因したクラックの発生を防ぐことが可能であることを示唆している。
【0109】
また、表1は、雰囲気温度とセンサ素子101のクラックの発生のしやすさとの関係を示している。雰囲気温度は、500℃、600℃、700℃、750℃、800℃、および840℃の6水準に違えた。表1には、それぞれの雰囲気温度において、酸素を5%含み水素を1.8%含み、残余がNであるガス雰囲気に8個のガスセンサ100を100sec曝したときの、センサ素子101にクラックが発生しなかったガスセンサ100の個数と、センサ素子101にクラックが発生したガスセンサ100の個数とを、一覧にして示している。なお、使用したガス雰囲気は、図5に示したクラックの発生比率のプロット結果において、曲線C1よりも上方に位置する雰囲気である。
【0110】
【表1】
【0111】
表1に示すように、雰囲気温度を800℃以上とした場合にはセンサ素子101においてクラックが発生したのに対し、雰囲気温度を750℃以下とした場合には、センサ素子101においてクラックは発生しなかった。
【0112】
このことは、センサ素子101が所定の素子駆動温度に保たれている状態では係るセンサ素子101に酸素と水素の反応に起因したクラックが発生し得るガスセンサであっても、ヒータ部70によるセンサ素子101の加熱温度を低下させて雰囲気温度の上昇を抑制した場合には、クラックの発生を防ぐことができることを意味している。
【0113】
しかしながら、ガスセンサ100が実際に使用される状況では、被測定ガスにおける酸素と水素の濃度は時々刻々と変化し得る。すなわち、第1空間SPに流入する被測定ガスにおいて酸素と水素が共存している場合の両者の反応の起こりやすさは、ガスセンサ100が動作している間、常に変化する。一方で、ガスセンサ100の動作途中でセンサ素子101の温度を必要以上に低下させることは、測定不能時間の発生あるいは測定精度の低下に繋がる。
【0114】
それゆえ、酸素と水素の反応に起因した、センサ素子101におけるクラックの発生を回避するには、係る反応の発生を早期に検知し、これに適切に対応することが求められる。
【0115】
図6は、素子駆動温度(ヒータエレメント72による設定加熱温度)を840℃に保ちつつガスセンサ100を大気雰囲気で駆動させたとき、および、酸素を0.1%含み、水素を3.2%含み、残余がNである第1のガス雰囲気下での駆動の途中で一時的に、係る第1のガス雰囲気から、酸素を5%含み、水素を1.8%含み、残余がNである第2のガス雰囲気に変更したときの、ヒータ部70におけるヒータエレメント72に対する通電の際のDuty比の時間変化を、対比させて示す図である。なお、第1のガス雰囲気は、図5において曲線C1よりも下方に位置する雰囲気であり、第2のガス雰囲気は、曲線C1よりも上方に位置する雰囲気である。
【0116】
図6に示すように、大気中での駆動の場合、Duty比はほぼ一定であるのに対し、第1のガス雰囲気から一時的に第2のガス雰囲気へと変更された場合には、係る変更に呼応するタイミングでDuty比が一時的に1.5%低下している。
【0117】
素子駆動温度が一定に保たれている場合は通常、Duty比はある一定の値に維持されるはずである。にもかかわらず、ガス雰囲気の変更に伴いDuty比が一時的に低下したということは、係る変更に伴い、素子駆動温度の維持に寄与する発熱がヒータ部70における加熱以外に生じたことにより、ヒータ部70による通電加熱の際のDuty比をガス雰囲気の変更前より低下させても素子駆動温度を一定に保つことができたということを意味する。そして、係る発熱は、酸素と水素との反応に起因しているものと推察される。
【0118】
そこで、本実施の形態においては、このような、酸素と水素の発熱反応とセンサ素子101をヒータ部70にて通電加熱する際のDuty比との対応関係を、係る反応に起因してセンサ素子101に生じるクラックの回避に利用する。
【0119】
概略的にいえば、素子駆動温度に加熱されたセンサ素子101のDuty比をECU500においてモニタし、Duty比の減少が検知された場合には、酸素と水素との反応に起因したクラックの発生を回避するべく、センサ素子101の温度を一時的に、通常の素子駆動温度(通常駆動温度)から、被測定ガスにおいて共存する酸素と水素が反応してもセンサ素子101にクラックが生じない温度(保護駆動温度)へと低下させるようにする。保護駆動温度は、ガスセンサ100の使用に先立って実験的に特定すればよい。例えば、750℃以下とすることが例示される。工業的に量産されるガスセンサ100の場合であれば、例えば表1を得たときと同様に、酸素と水素とが共存する所定のガス雰囲気に、雰囲気温度を違えつつガスセンサを曝したときのクラックの発生頻度と雰囲気温度との関係に基づいて、保護駆動温度を特定するなどの手法にて、特定すればよい。
【0120】
図7は、センサ素子101における酸素と水素の反応に起因したクラックの発生を回避するための、ガスセンサ100の動作フローを示す図である。図8は、係る動作フローに従い動作するガスセンサ100の内部で酸素と水素の反応が生じる場合の、ヒータ部70による通電加熱の際のDuty比と、センサ素子101の温度との時間変化とを、模式的に示す図である。図8においては、通常駆動温度をT0とし、保護駆動温度をT1としている。
【0121】
まず、ガスセンサ100が始動され、通常駆動温度での動作が開始される(ステップS1)。具体的には、ECU500がセンサコントローラ150に、センサ素子101の駆動とヒータ部70による加熱昇温とを開始させ、センサ素子101が通常駆動温度に到達した時点で、ガスセンサ100に測定を開始させる。その際、ECU500は上述のように、ヒータ抵抗の値に基づいてセンサ素子101の温度を把握する。ガスセンサ100は、ECU500およびセンサコントローラ150の制御のもと、排気管300においてガスセンサ100に到達した被測定ガスに含まれるNOxおよびNHの濃度を特定するための動作を開始する。なお、通常は、車両システム1000の始動時に、ガスセンサ100も併せて駆動される。
【0122】
ガスセンサ100が通常駆動温度にて動作を開始すると、ECU500は、センサコントローラ150がセンサ素子101を通常駆動温度に維持するべく調整している、ヒータ部70のヒータエレメント72に対する通電のDuty比のモニタを開始(ステップS2)する。そして、係るDuty比が、酸素と水素とが反応していない状況のもとで通常駆動温度を維持するための値(以下、通常値)から減少した場合に、それを検知する(ステップS3)。
【0123】
ECU500が、モニタしているDuty比の通常値からの減少を検知しない(ステップS3でNO)限りは、センサ素子101は通常駆動温度に維持され、通常の測定動作が継続される。Duty比の減少が検知されない状況が継続されるということは、ガスセンサ100において酸素と水素との反応が生じていないことを意味する。
【0124】
図8に示す場合においては、センサコントローラ150がDuty比を通常値D0に保つことで、センサ素子101の温度が通常駆動温度T0に保たれている。
【0125】
一方、水素を含む被測定ガスがガスセンサ100に導入されることにより、酸素と水素の反応が生じると、センサコントローラ150は、係る反応による発熱が生じている状況のもとでセンサ素子101を通常駆動温度T0を保つべく、Duty比を減少させる。図8に示す場合であれば、センサコントローラ150が、時刻taにおいて矢印AR1にて示すようにDuty比を値D1へと減少させつつも、センサ素子101は依然として通常駆動温度T0は保たれている。
【0126】
モニタしているDuty比の減少を検知した場合(ステップS3でYES)、ECU500は、センサコントローラ150に対し、センサ素子101の温度を保護駆動温度にまで低減させる制御指示を与える。センサコントローラ150は、係る制御指示に応答して、酸素と水素との発熱反応の発生に伴い減少させていたDuty比をさらに減少させる。これにより、センサ素子101の温度が保護駆動温度にまで低減される(ステップS4)。
【0127】
図8に示す場合であれば、センサコントローラ150が時刻tbにおいてDuty比を値D1から値D2に減少させることにより、矢印AR2にて示すようにセンサ素子101の温度が通常駆動温度T0から保護駆動温度T1まで低減される。
【0128】
センサ素子101の温度が保護駆動温度に保たれることにより、被測定ガスに含まれる酸素と水素とがガスセンサ100の内部で反応する状況でありながら、センサ素子101にクラックは発生しない。
【0129】
なお、測定不能時間を発生させないという観点からは、保護駆動温度は、センサ素子101におけるNOxおよびNHの濃度を特定するための動作が依然として可能な程度に、センサ素子101の基体部を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が維持される温度として、設定されることが好ましい。ただし、クラックを確実に発生させないことを優先する観点からは、そのような温度よりもさらに低い温度に、保護駆動温度が設定される態様であってもよい。前者の場合、ガスセンサ100における測定は継続されるが、後者の場合は、センサ素子101の温度が通常駆動温度に復帰するまで、ガスセンサ100におけるNOxおよびNHの濃度の測定は一時的に中断される。
【0130】
ECU500は、センサ素子101の温度が保護駆動温度に低減されたタイミングから、あらかじめ設定された所定の時間(保護駆動時間)が経過したかどうかを監視する(ステップS5)。保護駆動時間は、その終了までに酸素と水素の反応が終結することが期待される長さに設定される。例えば、保護駆動時間は、5分以上30分以下の範囲で設定される。保護駆動時間が経過するまでの間(ステップS5でNO)は、センサ素子101は保護駆動温度に維持される。
【0131】
保護駆動時間が経過すると(ステップS5でYES)、ECU500は、センサコントローラ150に対し、センサ素子101の温度を通常駆動温度に復帰させる制御指示を与える。センサコントローラ150は、係る制御指示に応答して、センサ素子101を保護駆動温度に維持するべく減少させていたDuty比を増大させる。これにより、センサ素子101の温度は通常駆動温度に復帰する(ステップS6)。その後は、ステップS3以降の動作が繰り返される。
【0132】
図8に示す場合であれば、Duty比が値D2となった時刻tbから保護駆動時間Δtが経過した時刻tcにおいて、矢印AR3にて示すようにセンサ素子101の温度が保護駆動温度T1から通常駆動温度T0に復帰している。
【0133】
保護駆動時間が経過した時点で酸素と水素の反応が生じていない場合、通常駆動温度への復帰は、センサコントローラ150がDuty比を増大させ、通常値に戻すことによって実現される。図8に示す場合であれば、矢印AR4aがこれを示している。
【0134】
しかしながら、保護駆動時間が経過した時点において酸素と水素の反応が生じている場合、当該反応の反応熱が生じているために、センサコントローラ150がDuty比を通常値に戻さずとも、センサ素子101の温度は通常駆動温度T0へと復帰する。換言すれば、通常駆動温度T0への復帰に際し、センサコントローラ150がDuty比を通常値にまで戻す必要がない。図8に示す場合であれば、矢印AR4bがこれを示している。
【0135】
このような場合は、Duty比が本来の値よりも減少したままである(ステップS3でYES)ことを検知したECU500が、センサコントローラ150に対し再び、センサ素子101の温度を保護駆動温度にまで低減させる制御指示を与えることになる。
【0136】
図8に示す場合であれば、センサ素子101の温度を通常駆動温度へと復帰させる時刻tcのタイミングで、センサコントローラ150は矢印AR4bにて示すように、Duty比を通常値よりも小さい値D1までしか戻していない。そして、これを検知したECU500が時刻tdにおいて、センサコントローラ150に対し、矢印AR5にて示すようにセンサ素子101の温度を通常駆動温度T0から保護駆動温度T1に低減させる制御指示を与えている。センサコントローラ150は係る制御指示に応答し、Duty比を値D1から値D2に減少させている。その結果、センサ素子101の温度は保護駆動温度T1に低減される。
【0137】
以降は、保護駆動時間Δtが経過したタイミングで改めて、通常駆動温度T0への復帰と、その際のDuty比が通常値から減少したままであるかの判断とが、繰り返される。
【0138】
このように、酸素と水素の反応に起因したDuty比の減少が検知される都度、センサ素子101の温度を保護駆動温度T1に低減させることで、ガスセンサ100においては、酸素と水素とが共存する被測定ガスが導入されたとしても、両者の反応に伴い生じる熱応力に起因して、センサ素子101にクラックが発生することが、好適に回避される。
【0139】
以上、説明したように、本実施の形態に係るガスセンサにおいては、酸素と水素とが共存する被測定ガスが導入された場合において、センサ素子を通電加熱し素子駆動温度に維持するためのヒータ部における通電のON/OFFの比率を示すDuty比の値が、酸素と水素の発熱反応の発生に伴い低下することを、当該発熱反応に伴い生じる熱応力に起因したセンサ素子におけるクラック発生の回避に、利用している。
【0140】
すなわち、センサ素子の駆動温度が変化しない状況でDuty比の減少が生じた場合に、センサ素子の温度を、通常の駆動温度よりも低く、クラックの発生が生じないことが確認されている保護駆動温度へと低減させるようにしている。これにより、酸素と水素が共存する被測定ガスが測定対象である場合であっても、センサ素子にクラックを生じさせることなく、ガスセンサを使用することができる。
【0141】
<変形例>
上述の実施の形態においては、酸素イオン伝導性固体電解質からなる基体部を有するセンサ素子101の内部に被測定ガスを導入し、測定電極において分解された窒素酸化物に由来する酸素を当該センサ素子101に備わる電気化学的ポンプセルにて外部へと汲み出す際の酸素ポンプ電流の大きさに基づいて、窒素酸化物の濃度を特定する、限界電流型のガスセンサが、酸素と水素の共存下で使用される場合を対象としている。
【0142】
しかしながら、ヒータエレメントが備わる側のセンサ素子の端部が、被測定ガスが導入される保護カバー内に突出した構成を有し、かつ、被測定ガスにおいて酸素と水素が共存し得るガスセンサであれば、センサ素子の内部構成が上述の実施の形態とは異なっていても、上述の実施の形態に係るガスセンサの動作態様を適用することが可能である。
【0143】
例えば、同様の構成を有するものであれば、酸素イオン伝導性固体電解質からなる基体部を有するセンサ素子の当該基体部の表面に設けた検知電極と内部に設けた基準電極との電位差に基づいて被測定ガスに含まれる検知対象ガス成分の濃度を特定するという、混成電位型のガスセンサについても、適用が可能である。
【0144】
また、上述の実施の形態においては、発熱反応である酸素と水素の反応に起因した熱応力によりセンサ素子にクラックが発生することを回避するようになっているが、被測定ガスに含まれる他のガス種の反応により同様の発熱反応が生じ得る場合にも、上述の実施の形態に係る動作方法を適用可能である。
【符号の説明】
【0145】
10 ガス導入口
11 第1拡散律速部
12 緩衝空間
13 第2拡散律速部
20 第1内部空所
21 主ポンプセル
22 内側ポンプ電極
23 外側ポンプ電極
30 第3拡散律速部
40 第2内部空所
41 測定ポンプセル
42 基準電極
43 基準ガス導入空所
44 測定電極
50 補助ポンプセル
51 補助ポンプ電極
61 第3内部空所
70 ヒータ部
72 ヒータエレメント
80 主センサセル
81 補助センサセル
82 測定センサセル
83 雰囲気判定セル
100 ガスセンサ
101 センサ素子
102 保護カバー
120 環装部品
121 セラミックサポータ
130 筒状体
1000 車両システム
H1~H6 貫通孔
SP1 第1空間
SP2 第2空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0096
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0096】
図3に示す場合においては、保護カバー102は、外側カバー102aと内側カバー102bとの2層構造となっている。外側カバー102aと内側カバー102bには、それぞれ、気体が通過可能な複数の貫通孔H1、H2、H3、およびH4、H5およびH6とが設けられてなる。なお、図3に示す貫通孔の種類、配置個数、配置位置、形状などあくまで例示であって、保護カバー102の内部への被測定ガスの流入態様を考慮して適宜に定められてよい。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0105
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0105】
ヒータ部70のヒータエレメント72は、第1内部空所20、第2内部空所40、第3内部空所61などからなるガス流通部が存在する、第1先端部101a側の所定範囲に設けられているため、ガスセンサ100が動作する際、内側カバー102b内においては第1先端部101aの近傍がもっとも高温となっている。よって、内側カバー102bの内部に流入した酸素と水素との反応は、第1空間SPの第1先端部101aの近傍において最も生じやすいと考えられる。