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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141850
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241003BHJP
   B32B 7/00 20190101ALI20241003BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B7/00
C08J7/04 Z CER
C08J7/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053698
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤木 和人
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA16
4F006AB24
4F006BA14
4F006CA04
4F006EA03
4F100AK15
4F100AK15B
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK51
4F100AK51B
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH46
4F100EH46B
4F100EJ42
4F100EJ52
4F100EJ52B
4F100EJ54
4F100EJ86
4F100GB07
4F100GB32
4F100GB81
4F100HB00
4F100HB00B
4F100JK14
4F100JK14B
4F100JN21
4F100JN21B
(57)【要約】
【課題】艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐擦傷性と三次元成形性に優れた化粧シートを提供することを目的とする。
【解決手段】化粧シート1は、基材2と、基材2の表面上に設けられた表面層3とを備え、表面層3の光沢度が2以下であり、光沢度と、表面層3の表面3aにおける界面展開面積比Sdrとの間に、下記式(1)の関係が成立する。
[数1]
光沢度×(界面展開面積比Sdr+1)≧1.8 (1)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面上に設けられた表面層と
を備え、
前記表面層の光沢度が2以下であり、
前記光沢度と、前記表面層の、前記基材側と反対側の表面における界面展開面積比Sdrとの間に、下記式(1)の関係が成立することを特徴とする化粧シート。
[数1]
光沢度×(界面展開面積比Sdr+1)≧1.8 (1)
【請求項2】
前記表面層がエキシマ照射物であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記表面層が、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートとを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
壁面材、造作材、建具等の建装材、家具等の表面装飾、自動車内装・弱電の表装等の様々な用途において、表面装飾を施して意匠性を高めるために化粧シートが用いられている。この化粧シートとしては、例えば、基材上に低艶化(艶消し)効果を有する層が設けられたものが知られている。
【0003】
例えば、基材上に着色材を含有する化粧層を有し、化粧層上に、コールターカウンター法(AP50μm)により測定される平均粒子径が5μm以下の湿式ゲル法シリカ粒子を含有するクリア層を有する化粧シートが提案されている。そして、このような構成により、無機粒子を含有するクリア層を有している場合であっても着色層の色味を好適に保持し、良好な艶消し表面を有する化粧シートを提供することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、基材上に設けられた塗膜構成体の表面にエキシマランプから照射されたエキシマ光を照射することにより、塗膜構成体の表面における電磁波の照射部分の光沢を、電磁波の照射前よりも低減させた化粧シートが提案されている。そして、このような構成により、艶消感の異なる領域を有する化粧シートを提供することができると記載されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-77691号公報
【特許文献2】特開2018-164901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の化粧シートにおいては、単に、クリア層にシリカ粒子を配合したに過ぎないため、十分な艶消し効果が得られず、低光沢性が発現しにくいという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2に記載の化粧シートにおいては、クリア層にシリカ粒子等が配合されておらず、単に、エキシマ光を照射するに過ぎないため、十分な艶消し効果が得られず、低光沢性が発現しにくいという問題があった。
【0008】
また、化粧シートにおいては、上述の低光沢性に加えて、耐擦傷性、及び複雑な形状を有する成形品に加工することが可能な三次元成形性が要望されているが、この耐擦傷性と三次元成形性は、相反する性能であるため、両立させることが困難であるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐擦傷性と三次元成形性に優れた化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の化粧シートは、基材と、基材の表面上に設けられた表面層とを備え、表面層の光沢度が2以下であり、光沢度と、表面層の、基材側と反対側の表面における界面展開面積比Sdrとの間に、下記式(1)の関係が成立することを特徴とする。
【0011】
[数1]
光沢度×(界面展開面積比Sdr+1)≧1.8 (1)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれは、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐擦傷性と三次元成形性に優れた化粧シートを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る化粧シートを示す断面図である。
図2】実施例1の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
図3】実施例2の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の化粧シートについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0015】
<化粧シート>
図1に示すように、本発明の化粧シート1は、基材2と、基材2の表面2a上に設けられた表面層3とを備えている。
【0016】
<基材>
基材2は、例えば、熱可塑性樹脂シートからなり、この熱可塑性樹脂シートとしては、化粧シート1における基材に通常用いられるものを使用できる。具体例としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)シート、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)シート、非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂(APET)シート、ポリオレフィンシート(ポリエチレンシート、ポリプロピレンシート等)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)シート、ポリカーボネートシート等が挙げられる。また、基材2に用いられる非晶状態の結晶性ポリエステル樹脂(APET)シートとしては、PETボトルなどを原料としたリサイクルポリエチレンテレフタレート(RPET)シートが挙げられる。
【0017】
なお、熱可塑性樹脂シートとしては、二次曲面加工が容易であり、三次元成形性に優れるとの観点から、グリコール変性ポリエチレンテレフタレートシートが好ましい。このグリコール変性ポリエチレンテレフタレートシートは、ポリエチレンテレフタレートの一種であり、ポリエチレンテレフタレートのグリコール成分がエチレングリコールであるのに対し、グリコール成分として、エチレングリコールの他、エチレングリコール以外のジオール(1,4-シクロヘキサンジメタノール)が含まれている非結晶性ポリエステルである。
【0018】
また、熱可塑性樹脂シートは、延伸シートであってもよく、未延伸シートであってもよい。また、熱可塑性樹脂シートには、必要に応じて、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、滑剤、充填剤等の添加剤が含有されていてもよい。なお、熱可塑性樹脂シートは、意匠性の点から、着色されていることが好ましい。
【0019】
基材2の厚みは、特に限定されないが、50~800μmが好ましく、250~500μmがより好ましい。基材2の厚みが50μm以上であれば、機械強度と隠蔽性を十分に向上させることができる。また、基材2の厚みが800μm以下であれば、三次元成形性がより優れ、また、可撓性と印刷適性を確保し易くなる。
【0020】
<表面層>
表面層3は、ウレタンアクリレートを主成分とする塗料の塗膜である。この表面層3は、塗料を基材2の表面2a上に塗工し、硬化させることにより形成することができ、表面層3は、塗料硬化物により形成されている。また、図1に示すように、表面層3の表面(すなわち、基材2側と反対側の表面)3aにはシワが形成されている。
【0021】
ウレタンアクリレートとしては、2~10官能のものが使用され、例えば、フェニルグリシジルエーテルアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、及びジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。また、EBECRYL8402、KRM8452、EBECRYL210、EBECRYL220、EBECRYL4500、EBECRYL230、EBECRLY270、EBECRYL4858、EBECRYL8804、EBECRYL8807、EBECRYL9270、EBECRYL4100、EBECRYL4666、EBECRYL4513、EBECRYL8311、EBECRYL8465、EBECRYL9260、EBECRYL8606、EBECRYL8701、KRM8452、KRM8667、EBECRYL4265、EBECRYL4587、EBECRYL4200、EBECRYL8210、EBECRYL1290、EBECRYL5129、EBECRYL8254、EBECRYL8301R、KRM8200、KRM8904、U-6LPA、UA-1100H、U-200PA、及びUA-160TM(いずれも商品名)等の市販品を使用することができる。なお、これらのウレタンアクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、表面層3は、単官能アクリレートを含んでもよい。単官能アクリレートとしては、例えば、エチルカルビトールアクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、β-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンサクシネート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、3-アクリロイルオキシグリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-(メタ)アクリロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパン、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε-カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アッシドホスフェート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、これらの単官能アクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、表面層3におけるウレタンアクリレートと単官能アクリレートとの配合比は、本発明の化粧シート1の特徴を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、質量比で、ウレタンアクリレート:単官能アクリレート=1:0.5~1:4の範囲とすることができる。
【0024】
なお、ウレタンアクリレートは単官能アクリレートに比べて架橋点距離が長いため柔軟性が向上し、シワ形成性や三次元成形性が向上する傾向があるが、ウレタンアクリレートの質量比が大きくなると、耐擦傷性に劣る塗膜になる場合がある。また、単官能アクリレートは架橋点距離が短いため架橋密度が向上し、耐擦傷性が向上するが、単官能アクリレートの質量比が大きくなると、シワ形成性や三次元成形性が低下する場合がある。
【0025】
また、表面層3の厚みは、特に限定されないが、1~10μmが好ましい。表面層3の厚みが10μm以上の場合は、表面層3の表面3aにおける表面粗さが大きくなるため、耐指紋性が向上する反面、触感性が低下する場合があるためである。
【0026】
また、耐擦傷性と三次元成形性を向上させるとの観点から、表面層3の厚みは3~8μmがより好ましい。
【0027】
また、塗料は、発明の効果を損なわない範囲で、ウレタンアクリレート及び単官能アクリレート以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば、多官能アクリレート、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、光重合開始剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、充填剤等が挙げられる。
【0028】
多官能アクリレートとしては、例えば、ジプロピレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、EBECRYL145、EBECRYL150、IRR214K,EBECRYL130、トリメチロールプロパントリアクリレート、EBECRYL160S、OTA480、PETIA、PETRA、EBECRYL40、PETA、EBECRYL140、EBECRL1140、EBECRYL1142、DPHA、EBECRYL895、EBECRYL896、エトキシカビスフェノールAジアクリレート、及びグリセリントリアクリレート等が挙げられる。なお、これらの多官能アクリレートは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、及びカチオン系等の開始剤を使用することができる。
【0030】
<製造方法>
本発明の化粧シート1を製造する際には、まず、例えば、上述の熱可塑性樹脂シートからなる基材2を準備する。この熱可塑性樹脂シートは、市販のものを用いてもよく、カレンダー法、押出成形法等の公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
【0031】
次に、基材2の表面2a上に、メチルエチルケトン等の溶剤に、例えば、ウレタンアクリレート、単官能アクリレート、多官能アクリレート、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、及び光重合開始剤が添加された塗料を塗布し、基材2の表面2a上に表面層3となる塗膜を形成する。
【0032】
なお、例えば、光重合開始剤を含有する2~10官能のウレタンアクリレートを使用する場合は、単官能アクリレートの使用を省略することができる。
【0033】
また、塗料の塗工方法としては、特に限定されず、例えば、キャスト塗工法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールナイフコート法、リバースロールコート法、ロールコート法、及びコンマコート法等が挙げられる。
【0034】
次に、基材2の表面2a上に形成された塗膜にエキシマ光を照射する。より具体的には、ピーク波長が短い(120~230nmの範囲内にある)エキシマ光を塗膜に照射する。
【0035】
なお、エキシマランプを用いてエキシマ光を照射する場合、エキシマランプに充填されている放電ガスを変更することにより、電磁波のピーク波長を変化させることができる。上記ピーク波長のエキシマ光を照射する放電ガスとしては、例えば、Ar、Kr、Xe等を用いることができる。
【0036】
そして、紫外線(350~450nm)を照射して塗膜を硬化させることにより、図1に示す、基材2の表面上に表面層3が形成され、表面層3の表面3aにシワが形成された化粧シート1が製造される。
【0037】
なお、上記紫外線(350~450nm)の代わりに、再度、ピーク波長が短い(120~230nmの範囲内にある)エキシマ光を塗膜に照射しても、塗膜は完全に硬化しない。
【0038】
そして、塗膜に上述のエキシマ光を照射することにより、塗膜の最表面のみに硬化が生じて、塗膜の表面と内部との間で不均一性が生じ、塗膜内部の未反応部分から塗膜成分が表面に移動するため、塗膜の表面にシワが形成され、結果として、表面層3における光沢度を制御することが可能になる。
【0039】
また、本発明の化粧シート1は、上述のシワによる艶消し効果により、表面層3の表面3aの光沢度が2以下となるため、低光沢性を図ることが可能になる。
【0040】
なお、低光沢性を向上させるとの観点から、表面層3の表面3aの光沢度は、2以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましい。
【0041】
また、ここで言う「光沢度」とは、低艶性の指標であり、JIS Z 8741:1997に準拠した方法で測定される60°光沢度のことを言い、化粧シート1の測定面(表面層3の表面3a)に対して、60°の入射角で光を入射させ、その反射角の方向に設置した光検出器による測定の結果に基づいて算出される光沢度のことを言う。
【0042】
また、本発明の化粧シート1においては、上述のエキシマ光照射によるシワの形成により、上述の光沢度と表面層3の表面3aにおける界面展開面積比Sdrとの間に、下記式(2)の関係が成立するため、相反する性能である耐擦傷性と三次元成形性とを両立させることが可能になり、結果として、耐擦傷性と三次元成形性に優れた化粧シートを得ることが可能になる。
【0043】
[数2]
光沢度×(界面展開面積比Sdr+1)≧1.8 (2)
【0044】
なお、ここで言う「界面展開面積比Sdr」とは、平面方向と高さ方向に着目したパラメータであって、ISO 25178に規定されている「三次元表面性状(表面粗さ)」を評価するためのものであり、定義領域の面積に対して定義領域の展開面積(表面積)が増大している割合を表すものである。例えば、完全に平坦な面の場合、定義領域の面積と定義領域の展開面積(表面積)が同じであるため、界面展開面積比Sdrは0であるが、表面(定義領域)に傾斜がある場合は、定義領域の展開面積(表面積)が増大するため、界面展開面積比Sdrは0よりも大きくなる。
【0045】
また、上述のごとく、界面展開面積比Sdrは、定義領域の面積に対して定義領域の展開面積(表面積)がどれだけ増大しているかを表すものであるため、「界面展開面積比Sdr+1」の値は、定義領域の面積に対する定義領域の展開面積(表面積)全体の割合を示すことになる。例えば、定義領域の面積がS、定義領域の展開面積(表面積)が1.5S(すなわち、定義領域の面積の1.5倍)の場合は、界面展開面積比Sdrは0.5になるとともに、定義領域の面積に対する定義領域の展開面積(表面積)全体の割合(すなわち、界面展開面積比Sdr+1の値)は、1.5になる。
【0046】
そして、光沢度が小さくなると、表面層3の表面3aにおけるシワの数が増大するため、上述の定義領域の展開面積(表面積)が増大して、界面展開面積比Sdrは大きくなるが、光沢度が2以下であって、上記式(2)の関係が成立することにより、低光沢性を図ることができるとともに、相反する性能である耐擦傷性と三次元成形性とを両立させることが可能になる。
【0047】
また、同様に、光沢度が大きくなると、表面層3の表面3aにおけるシワが減少するため、上述の定義領域の展開面積(表面積)が減少して、界面展開面積比Sdrは小さくなるが、光沢度が2以下であって、上記式(2)の関係が成立することにより、低光沢性を図ることができるとともに、相反する性能である耐擦傷性と三次元成形性とを両立させることが可能になる。
【0048】
以上に説明したように、本発明においては、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐擦傷性と三次元成形性に優れた化粧シートを提供することが可能になる。
【0049】
なお、表面の濡れ性は、界面展開面積比Sdrと相関しており、界面展開面積比Sdrが高いほど濡れ性は高い。また、濡れ性が高いことで汚れが付着しやすくなる。従って、表面の濡れ性を低くすることにより、耐汚染性を向上させるとの観点から、表面層3の表面3aにおける界面展開面積比Sdrは、10以下が好ましく、2以下がより好ましく、1以下がさらに好ましい。
【実施例0050】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0051】
化粧シートの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)ウレタンアクリレート-1:2官能ウレタンアクリレート(三菱ケミカル(株)製、商品名:UV-6630B)
(2)ウレタンアクリレート-2:2官能ウレタンアクリレート(三菱ケミカル(株)製、商品名:UV-6640B)
(3)ウレタンアクリレート-3:2官能ウレタンアクリレート(三菱ケミカル(株)製、商品名:UV-3300B)
(4)ウレタンアクリレート-4:4官能ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:EBECRYL8606)
(5)ウレタンアクリレート-5:9官能ウレタンアクリレート(三菱ケミカル(株)製、商品名:UV-7620EA)
(6)ウレタンアクリレート-6:10官能ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:KRM8452)
(7)多官能アクリレート-1:3官能アクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA))
(8)多官能アクリレート-2:4官能アクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:EBECRYL140)
(9)多官能アクリレート-3:6官能アクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA))
(10)単官能アクリレート:テトラヒドロフルフリルアクリレート(共栄社化学社製、商品名:ライトアクリレートTHF-A)
(11)塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体:(日信化学工業(株)製、商品名:ソルバインCL)
(12)開始剤:アルキルフェノン系光重合開始剤(IGM Resins B.V.製、商品名:Omnirad1173)
【0052】
(実施例1)
<化粧シートの作製>
まず、基材として、厚みが350μmであるPVCを準備した。次に、表1に示す各材料を配合して、表1に示す組成(質量部)を有する実施例1の塗料を準備し、この塗料を、バーコーターを用いて基材の表面上に塗布して、基材の表面上に表面層となる塗膜を形成した。
【0053】
次に、上述の塗膜を、熱風乾燥機を用いて、50℃の温度で、20秒間、乾燥させた。
【0054】
次に、エキシマ照射装置(ウシオ電機(株)製、商品名:172nm Ligth Emission Unit、型式:SUS1000)を用いて、窒素雰囲気下において、Xeを放電ガスとして用いたエキシマ光(ピーク波長:172nm)を塗膜に照射した。なお、積算光量が11mJ/cm、照射光度が25mW/cmとなるように照射した。
【0055】
そして、紫外線照射装置(アイグラフィックス(株)製、紫外硬化用高圧水銀ランプ4kW(ECS-401GX))を用いて、塗膜に紫外線(主波長:365nm)を照射して、塗膜を光硬化させることにより、基材の表面上に、表面層を形成し、化粧シートを作製した。なお、紫外線の照射距離が150cm、ランプ移動速度が7.8m/分の条件下で紫外線照射(照度:170mW/cm)を行い、照射量(積算光量)を200mJ/cmとした。
【0056】
また、表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真を図2に示す。図2に示すように、表面層となる塗膜にエキシマ光を照射することにより、表面層の表面に多数のシワが形成されることが分かる。
【0057】
<厚みの測定>
次に、作製した化粧シートの表面層(塗膜)の厚みを、デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、商品名:VHX-5000)、もしくは電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)((株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:S-4800)を用いて測定した。
【0058】
より具体的には、シートを割断することにより断面を露出させ、デジタルマイクロスコープ(測定倍率:500倍)、もしくは電界放出型走査電子顕微鏡(測定倍率:1000倍)で断面を観察した際の、塗膜高さの高い部分と低い部分を5か所選択して、厚みを測定し、平均値を算出した。なお、上記測定を3回行い、3回分の塗膜高さの平均値を算出し、表面層の厚みとした。以上の結果を表1に示す。
【0059】
<光沢度の測定>
次に、上述の作製した化粧シートの表面層の表面における60°光沢度を、JIS Z 8741:1997に準拠して、光沢計((株)堀場製作所製、商品名:グロスチェッカーIG-320)を用いて測定した。なお、上記測定を5回行い、5回分の光沢度の平均値を算出し、表面層における表面の光沢度とした。以上の結果を表1に示す。
【0060】
<三次元成形性の評価>
次に、MDF基材(幅:100mm、長さ:150mm、厚さ:15mmの略四角柱形状を有する基板、全ての角部において半径2mmの面取り加工がされたもの)を用意し、上述の作製した化粧シートをMDF基材上に載置し、真空成型機((株)セイブ製、商品名:STN-40-600-800)を用いて、加熱温度が110℃の条件下で、MDF基板の上面および4つの側面の計5面を化粧シートにより被覆し、MDF基板の上面および4つの側面の計5面に対して、化粧シートがMDF基板に追従するように真空成形を行い、MDF基材の上面および4つの側面の計5面に化粧シートを密着させた。そして、MDF基板の上面、側面、及び角部を被覆した化粧シートの表面層の状態を、肉眼および10倍拡大ルーペを用いて目視により確認し、以下の評価基準に基づいて、三次元成形性の評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0061】
化粧シートがMDF基材に沿って成形されており、化粧シートの表面層においてクラックや光沢変化がない:◎
化粧シートがMDF基材に沿って成形されているが、化粧シートの表面層において、ルーペ観察で確認される細かなクラックがある、または肉眼で確認される光沢変化がある:〇
化粧シートの表面層において、肉眼で確認されるクラックがある:×
【0062】
<耐擦傷性(耐爪スクラッチ性)の評価>
次に、上述の作製した化粧シートをガラス板の上に置き、化粧シートの表面層に対して人差し指の爪を約90°の角度にして、300mm/sec程度の速度にて、5回、化粧シートの表面層を擦った(すなわち、化粧シートの表面層における異なる5か所の部分を1回ずつ擦った)。そして、化粧シートの表面層の状態を、目視により確認し、以下の評価基準に基づいて、耐擦傷性の評価を行った。以上の結果を表1に示す。
【0063】
化粧シートの表面層において、傷が確認できない:◎
化粧シートの表面層を観察する角度によって、確認できる薄い傷がある:〇
化粧シートの表面層を観察する角度によらず、確認できる薄い傷がある:△
化粧シートの表面層において、はっきりと認識可能な大きな傷がある:×
【0064】
<界面展開面積比Sdrの測定>
次に、作製した化粧シートの表面層の界面展開面積比Sdrを、ISO 25178に準拠して、形状解析レーザー顕微鏡((株)キーエンス製、商品名:VK-X1050)を用いて測定した。なお、レーザー種として661nm半導体レーザーを用い、表面形状モード(高速モード)において、標準対物レンズ50倍を利用して、1024ピクセル×768ピクセルの測定範囲(測定領域(定義領域)の面積:57567μm)において、定義領域の展開面積(表面積)を測定し、界面展開面積比Sdrを測定した。また、化粧シートの表面層の表面の任意の位置(6ヶ所)において、上述の測定を行い、6回分の界面展開面積比Sdrの平均値を算出し、表面層における界面展開面積比Sdrとした。以上の結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2~7、比較例1~8)
塗料成分の組成を表1に示す組成(質量部)に変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0066】
そして、上述の実施例1と同様にして、厚みの測定、光沢度の測定、三次元成形性の評価、耐擦傷性(耐爪スクラッチ性)の評価、及び界面展開面積比Sdrの測定を行った。以上の結果を表1~表2に示す。
【0067】
また、実施例2の化粧シートにおける表面層の表面の状態を示すレーザー顕微鏡写真を図3に示す。図3に示すように、表面層となる塗膜にエキシマ光を照射することにより、表面層の表面に多数のシワが形成されることが分かる。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1に示すように、表面層の光沢度が2以下である実施例1~7の化粧シートにおいては、艶消し効果による低光沢性を有することが分かる。また、実施例1~7の化粧シートにおいては、光沢度と、表面層の表面における界面展開面積比Sdrとの間に、上記式(2)の関係が成立するため、相反する性能である耐擦傷性と三次元成形性とを両立させることができ、耐擦傷性と三次元成形性に優れた化粧シートを得ることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明は、化粧シートに適している。
【符号の説明】
【0072】
1 化粧シート
2 基材
2a 基材の表面
3 表面層
3a 表面層の表面
図1
図2
図3