(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141854
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】フィルタ、マルチプレクサおよび積層電子部品
(51)【国際特許分類】
H03H 7/01 20060101AFI20241003BHJP
H03H 7/46 20060101ALI20241003BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20241003BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H03H7/01 A
H03H7/46 A
H01F27/00 S
H01F17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053703
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】北爪 秀紀
【テーマコード(参考)】
5E070
5J024
【Fターム(参考)】
5E070AA05
5E070AB07
5E070CB13
5E070DB08
5J024AA01
5J024CA03
5J024DA04
5J024DA29
5J024DA35
5J024EA01
5J024EA03
5J024KA03
(57)【要約】
【課題】特性の劣化を抑制することが可能なフィルタを提供する。
【解決手段】フィルタは、複数の誘電体層と複数の導電体層とが積層方向に交互に積層された積層体と、複数の導電体層のうち少なくとも1つの導電体層12cから形成された第1導電体パターンを有するインダクタと、積層体内に設けられ、積層体内の他の導電体と接続されておらず、最大幅をX(m)とし、通過帯域の高周波端の周波数をfc(Hz)とし、複数の誘電体層の比誘電率をεrとしたとき、X≦7.5×10
7/(fc×√εr)である第2導電体パターンと、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層と複数の導電体層とが積層方向に交互に積層された積層体と、
前記複数の導電体層のうち少なくとも1つの導電体層から形成された第1導電体パターンを有するインダクタと、
前記積層体内に設けられ、前記積層体内の他の導電体と接続されておらず、最大幅をX(m)とし、通過帯域の高周波端の周波数をfc(Hz)とし、前記複数の誘電体層の比誘電率をεrとしたとき、X≦7.5×107/(fc×√εr)である第2導電体パターンと、
を備えるフィルタ。
【請求項2】
前記第2導電体パターンは、前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層を貫通するビア導電体層により形成される請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記通過帯域の高周波端の周波数は1GHz以上である請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第2導電体パターンは、前記積層方向から見て前記第1導電体パターンと重ならない請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記複数の導電体層と前記第2導電体パターンとは同じ元素を主成分とする請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記複数の導電体層および前記第2導電体パターンは銀を含む請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記第2導電体パターンは、前記第1導電体パターンを挟む隣接する誘電体層のうち少なくとも1つを貫通するビア導電体層により形成される請求項6に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記第2導電体パターンは、前記第1導電体パターンが形成された導電体層、前記導電体層に隣接する誘電体層の前記第1導電体パターンが設けられた面と反対の面に設けられた導電体層の少なくとも1つの導電体層により形成される請求項6に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記フィルタはローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項10】
請求項1または2に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項11】
複数の誘電体層と複数の導電体層とが積層方向に交互に積層された積層体と、
前記複数の導電体層のうち少なくとも1つの導電体層から形成された第1導電体パターンを有するインダクタと、
前記積層体内に設けられ、前記積層体内の他の導電体と接続されておらず、最大幅をX(m)とし、前記インダクタの自己共振周波数をfs(Hz)とし、前記複数の誘電体層の比誘電率をεrとしたとき、X≦10×107/(fs×√εr)である第2導電体パターンと、
を備える積層電子部品。
【請求項12】
複数の誘電体層と複数の導電体層とが積層方向に交互に積層された積層体と、
前記複数の導電体層のうち少なくとも1つの導電体層から形成された第1導電体パターンを有するインダクタと、
前記積層体内に設けられ、前記積層体内の他の導電体と接続されておらず、前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層を貫通するビア導電体層により形成された第2導電体パターンと、
を備える積層電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ、マルチプレクサおよび積層電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体層と導電体層とを積層させた積層体を用い、キャパシタおよび、インダクタまたはフィルタを形成する積層電子部品が知られている。積層体内にダミー電極などのフローティング導電体層を設けることが知られている(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-47591号公報
【特許文献2】特開2002-313670号公報
【特許文献3】実開平5-57816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フローティング導電体層を形成することで、例えば積層体内の導電体層から誘電体層への銀等の拡散を抑制することができる。しかしながら、フローティング導電体層を設けると、キャパシタおよび、インダクタまたはフィルタ等の特性が劣化してしまうことがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、特性の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の誘電体層と複数の導電体層とが積層方向に交互に積層された積層体と、前記複数の導電体層のうち少なくとも1つの導電体層から形成された第1導電体パターンを有するインダクタと、前記積層体内に設けられ、前記積層体内の他の導電体と接続されておらず、最大幅をX(m)とし、通過帯域の高周波端の周波数をfc(Hz)とし、前記複数の誘電体層の比誘電率をεrとしたとき、X≦7.5×107/(fc×√εr)である第2導電体パターンと、を備えるフィルタである。
【0007】
上記構成において、前記第2導電体パターンは、前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層を貫通するビア導電体層により形成される構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記通過帯域の高周波端の周波数は1GHz以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記第2導電体パターンは、前記積層方向から見て前記第1導電体パターンと重ならない構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数の導電体層と前記第2導電体パターンとは同じ元素を主成分とする構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記複数の導電体層および前記第2導電体パターンは銀を含む構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第2導電体パターンは、前記第1導電体パターンを挟む隣接する誘電体層のうち少なくとも1つを貫通するビア導電体層により形成される構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第2導電体パターンは、前記第1導電体パターンが形成された導電体層、前記導電体層に隣接する誘電体層の前記第1導電体パターンが設けられた面と反対の面に設けられた導電体層の少なくとも1つの導電体層により形成される構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記フィルタはローパスフィルタまたはバンドパスフィルタである構成とすることができる。
【0015】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【0016】
本発明は、複数の誘電体層と複数の導電体層とが積層方向に交互に積層された積層体と、前記複数の導電体層のうち少なくとも1つの導電体層から形成された第1導電体パターンを有するインダクタと、前記積層体内に設けられ、前記積層体内の他の導電体と接続されておらず、最大幅をX(m)とし、前記インダクタの自己共振周波数をfs(Hz)とし、前記複数の誘電体層の比誘電率をεrとしたとき、X≦10×107/(fs×√εr)である第2導電体パターンと、を備える積層電子部品である。
【0017】
本発明は、複数の誘電体層と複数の導電体層とが積層方向に交互に積層された積層体と、前記複数の導電体層のうち少なくとも1つの導電体層から形成された第1導電体パターンを有するインダクタと、前記積層体内に設けられ、前記積層体内の他の導電体と接続されておらず、前記複数の誘電体層の少なくとも1つの誘電体層を貫通するビア導電体層により形成された第2導電体パターンと、を備える積層電子部品である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
【
図2】
図2は、実施例1に係るフィルタの断面図である。
【
図3】
図3(a)から
図3(d)は、実施例1における誘電体層の平面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(d)は、実施例1における誘電体層の平面図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実施例1における誘電体層の平面図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、比較例1における誘電体層の平面図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、比較例2および実施例1における抵抗値の分布を示す図である。
【
図8】
図8は、導電体層の体積比率に対する抵抗値のCVを示す模式図である。
【
図9】
図9(a)から
図9(c)は、シミュレーション1における実施例1、比較例1および2の通過特性および反射特性を示す図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例1における誘電体層の平面図である。
【
図11】
図11(a)から
図11(c)は、シミュレーション2におけるそれぞれインダクタA~Cの斜視図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、シミュレーション2におけるそれぞれインダクタDおよびEの斜視図である。
【
図13】
図13(a)から
図13(c)は、シミュレーションに2おけるそれぞれインダクタA~Cの通過特性および反射特性を示す図である。
【
図14】
図14(a)および
図14(b)は、シミュレーション2におけるそれぞれインダクタDおよびEの通過特性および反射特性を示す図である。
【
図15】
図15は、実施例3に係るダイプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例0021】
実施例1として、5G(5th Generation Mobile Communication System)通信システムに用いられるローパスフィルタ(LPF)を例に説明する。5Gでは、28GHz帯等のミリ波を用いており、通過帯域を6GHz以下とするフィルタであっても、通過帯域から30GHz付近までの減衰特性を向上させることが求められている。
【0022】
図1は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
図1に示すように、実施例1のフィルタ100は、入力端子Tin、出力端子Tout、グランド端子Tgnd、キャパシタC1~C8、およびインダクタL1~L4を有する。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に並列共振回路R1~R4が直列接続されている。並列共振回路R1とR2との間はノードN1、並列共振回路R2とR3との間はノードN2、並列共振回路R3とR4との間はノードN3である。並列共振回路R1~R4では、キャパシタC1~C4とインダクタL1~L4とがそれぞれ並列接続されている。ノードN1~N3とグランド端子Tgndとの間にキャパシタC5~C7がそれぞれ接続されている。ノードN1とN3との間にキャパシタC8が接続されている。
【0023】
図2は、実施例1に係るフィルタの断面図である。誘電体層11a~11kの積層方向をZ方向、誘電体層11a~11kの平面方向のうち端子14の配列方向をX方向、X方向に直交する方向をY方向とする。
図2に示すように、フィルタ100は、積層体10を有する積層電子部品である。積層体10では、複数の誘電体層11a~11kと複数の導電体層(不図示)とが交互に積層されている。積層体10の下面表面に端子14が設けられている。端子14は、例えば入力端子Tin、出力端子Toutおよびグランド端子Tgndである。積層体10の上面には、導電体層12aにより方向識別マークが設けられている。
【0024】
図3(a)から
図5(b)は、実施例1における誘電体層の平面図である。
図3(a)~
図5(a)は、誘電体層11c~11kの上面における誘電体層11c~11kおよび誘電体層11b~11jを貫通するビア配線をそれぞれ示している。誘電体層11c~11kの上面に図示したビア配線13b~13jは1つ上の誘電体層11b~11jを貫通するビア配線である。
図5(b)は、誘電体層11kを上方から透過した誘電体層11kの下面における端子14およびビア配線13kを示している。
【0025】
例えば、
図3(d)の電極C1aと、
図5(b)の入力端子Tin内の電極C1bと、は、誘電体層11f~11kを挟むキャパシタC1を形成していることを示している。
図3(c)から
図4(a)、
図4(c)、
図4(d)および
図5(b)における電極C2a~C8aとC2b~C8bとについても同様である。また、以下の同様の図についても同様である。
【0026】
誘電体層11aの上面には、
図2のように、方向識別マークを形成する導電体層12aが設けられている。誘電体層11aを貫通するビア配線は設けられていない。誘電体層11bの上面に導電体層は設けられていない。
図3(a)に示すように、誘電体層11bを貫通するビア配線13bが設けられている。ビア配線13bはフローティング導電体層15であり、導電体層12cとは電気的に接続されていない。フローティング導電体層15の平面形状は円形状であり、幅(例えば直径)はD1である。誘電体層11cの上面には、インダクタL1~L4を形成する線路パターンL1a~L4aが設けられている。フローティング導電体層15は、導電体層からの銀等の元素の拡散を抑制するためのパターンである。
【0027】
図3(b)に示すように、誘電体層11dの上面には、導電体層は設けられていない。誘電体層11cを貫通するビア配線13cが設けられている。
図3(c)に示すように、誘電体層11eの上面には、電極C8aを形成する導電体層12eが設けられている。誘電体層11dを貫通するビア配線13dが設けられている。
図3(d)に示すように、誘電体層11fの上面には、電極C1a、C2a、C3a、C4aおよびC8bを形成する導電体層12fが設けられている。誘電体層11eを貫通するビア配線13eが設けられている。
【0028】
図4(a)に示すように、誘電体層11gの上面には、電極C2b、C3bおよびC6aを形成する導電体層12gが設けられている。誘電体層11fを貫通するビア配線13fが設けられている。
図4(b)に示すように、誘電体層11hの上面には、導電体層は設けられていない。誘電体層11gを貫通するビア配線13gが設けられている。
図4(c)に示すように、誘電体層11iの上面には、電極C5aおよびC7aを形成する導電体層12iが設けられている。誘電体層11hを貫通するビア配線13hが設けられている。
図4(d)に示すように、誘電体層11jの上面には、電極C5b,C6bおよびC7bを形成する導電体層12jが設けられている。誘電体層11iを貫通するビア配線13iが設けられている。
【0029】
図5(a)に示すように、誘電体層11kの上面には、誘電体層11jを貫通するビア配線13jが設けられている。ビア配線13jが接続する導電体パターンを形成する導電体層12kが設けられている。
図5(b)に示すように、誘電体層11kの下面には端子14が形成されている。端子14は、入力端子Tin、出力端子Toutおよびグランド端子Tgndを含む。入力端子Tinは、電極C1bを含み、出力端子Toutは電極C4bを含む。
【0030】
誘電体層11a~11kは、セラミック材料からなり、主成分として例えばシリコン(Si)、カリウム(Ca)およびマグネシウム(Mg)の酸化物(例えばディオプサイド結晶であるCaMgSi2O6)を含む。誘電体層11aから11kの主成分は、Si、Caおよび/またはMg以外の酸化物でもよい。さらに、誘電体層11a~11kは、絶縁体材料としてチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびアルミニウム(Al)の少なくとも1つの酸化物を含んでもよい。
【0031】
導電体層12a、12c、12e~12g、12i~12k、ビア配線13b~13kおよび端子14の上部は、例えば銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)、金(Au)-パラジウム(Pd)合金または銀(Ag)-白金(Pt)合金を主成分とする金属層であり、一例として銀を含む。端子14の上部は、上記金属材料に加えTiO2、ZrO2またはAl2O3等の不伝導性材料を含んでもよい。端子14の下部は、ニッケル膜および錫(Sn)膜である。
【0032】
[比較例1]
図6(a)および
図6(b)は、比較例1における誘電体層の平面図である。
図6(a)に示すように、比較例1では、誘電体層11bの上面にフローティング導電体層15を形成する導電体層12bが設けられている。フローティング導電体層15の最大長さはD2である。
図6(b)に示すように、誘電体層11cの上面に線路パターンL1a~L4aを形成する導電体層12cが設けられている。誘電体層11bを貫通するビア配線は設けられていない。その他の構成は実施例1と同じである。
【0033】
[比較例2]
比較例2では、フローティング導電体層15を設けていない。その他の構成は実施例1および比較例1と同じである。
【0034】
[比較例2の課題]
導電体層12a、12c、12e~12g、12i~12k、ビア配線13b~13kおよび端子14の上部の主成分が銀の場合、積層体を焼結させるときの熱処理により、銀が誘電体層11a~11k内に拡散することがある。このため、誘電体層、ビア配線および端子内の銀が減少し、誘電体層、ビア配線および端子の抵抗が高くなる。例えば、比較例2において、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の抵抗値の変動係数(CV:Coefficient of Variation)を測定した。測定したフィルタの各誘電体層11a~11kは、CaMgSi2O6が主成分であり、導電体層12a、12c、12e~12g、12i~12kおよびビア配線13b~13kの主成分は銀であり、導電体層12cの厚さは、約15μmである。
【0035】
図7(a)および
図7(b)は、比較例2および実施例1における抵抗値の分布を示す図である。横軸は抵抗値を示し、縦軸は抵抗値の割合を示している。
図7(a)に示すように、比較例2では、抵抗値のばらつきが大きい。比較例2の抵抗値のCVは10.7%であった。抵抗値のCVが大きいとインダクタL1~L4の寄生抵抗がばらついてしまう。
【0036】
比較例2において、積層体10の焼結温度を低くすると、抵抗値のCVが小さくなる。このため、比較例2の抵抗値のCVの増加は主に線路パターンL1a~L4aの銀が誘電体層11bおよび11cに拡散したためと考えられる。
【0037】
図8は、導電体層の体積比率に対する抵抗値のCVを示す模式図である。横軸の体積比率は、積層体10のXY平面の面積に所定の厚さ(例えば10μm~50μm)を乗じた体積に対する線路パターンL1a~L4aの体積の比率を示す。縦軸のCVは、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の抵抗値のCVを示している。
図8は、異なるフィルタについて、体積比率と抵抗値のCVとの関係を調査した結果を模式化した図である。
【0038】
図8に示すように、体積比率が小さくなると、CV値が大きくなる。これは、体積比率が大きい場合、導電体層内の銀のうち誘電体層へ拡散する銀の割合が小さいが、体積比率が小さくなると、導電体層内の銀のうち誘電体層へ拡散する銀の割合が大きくなる。このため、導電体層内に抵抗が高くなる部分が生じるためと考えられる。
【0039】
比較例2では、線路パターンL1a~L4aが細いため、
図8の体積比率が小さくなる。このため、線路パターンL1a~L4aの銀が誘電体層11bおよび11cに拡散しやすくなり、CV値が大きくなったものと考えられる。
【0040】
実施例1および比較例1では、線路パターンL1a~L4aの近傍にフローティング導電体層15を設けている。このため、線路パターンL1a~L4a内の銀が誘電体層11bおよび11cへ拡散することを抑制できる。実施例1において、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の抵抗値のCVを測定した。各部材の材料は比較例2と同じである。フローティング導電体層15の厚さは約25m、フローティング導電体層15の幅D1(直径)は約60μmである。
【0041】
図7(b)に示すように、実施例1では、抵抗値のばらつきが比較例2より小さい。実施例1の抵抗値のCVは、4.9%であった。このように、実施例1および比較例1では、インダクタL1~L4の寄生抵抗のばらつきを小さくできる。
【0042】
[シミュレーション1]
実施例1、比較例1および2について、有限要素法を用い3次元電磁界シミュレーションを行い、フィルタの通過特性および反射特性をシミュレーションした。
【0043】
各誘電体層11a~11kは、CaMgSi
2O
6が主成分であり比誘電率は約10とした。フィルタ100の扱う周波数が1GHz~40GHzと高いため、フィルタ100は、分布定数回路的に機能する。このため、キャパシタC1~C8のキャパシタンスおよびインダクタL1~L4のインダクタンスは定まらないが、実施例1、比較例1および2のキャパシタC1~C8のキャパシタンスおよびインダクタL1~L4のインダクタンスの概略値を表1に示す。
【表1】
【0044】
実施例1のフローティング導電体層15の幅D1は60μm、厚さは25μmである。比較例1のフローティング導電体層15の最大長さD2は1750μm、厚さは15μmである。
【0045】
図9(a)から
図9(c)は、シミュレーション1における実施例1、比較例1および2の通過特性および反射特性を示す図である。SパラメータのS21の絶対値は通過特性を示し、S11の絶対値は反射特性を示す。
【0046】
図9(a)に示すように、実施例1のように、S21が-3dBとなる周波数を遮断周波数fc(すなわち通過帯域の高周波数端)とすると、遮断周波数fcは約5.7GHzである。遮断周波数fcより低い周波数では、S21はほぼ0dBであり、S11は-15dB以下である。遮断周波数fcより高い周波数では、40GHz付近まで、S21は-20dB以下であり、S11はほぼ0dBである。通過帯域は遮断周波数fc以下の帯域であり、減衰帯域は遮断周波数fcから40GHz程度まである。減衰帯域には、4つの減衰極が形成されている。これらの減衰極は、並列共振回路R1~R4により主に形成される。30GHz付近において良好な減衰特性が得られている。
【0047】
図9(b)に示すように、比較例1では、遮断周波数fcは実施例1と同程度である。破線38のように、29GHz付近において、S11が大きくなり、S21が小さくなる。このように、30GHz付近において減衰特性が劣化している。
【0048】
図9(c)に示すように、比較例2では、比較例1のような29GHz付近の減衰特性の劣化は観察されない。遮断周波数fcは実施例1と同程度である。30GHz付近において良好な減衰特性が得られている。以上のように、比較例1では、29GHz付近の減衰特性の劣化が生じている。減衰特性の劣化は、比較例1のフローティング導電体層15に関連していると考えられる。
【0049】
比較例1において、29GHz付近において減衰特性が劣化する原因について考察する。
図6(a)におけるフローティング導電体層15の最大長さD2は1750μmである。フローティング導電体層15の両端は開放されているため、長さD2が高周波信号の波長λの1/2のとき、フローティング導電体層15により共振が生じる。そこで、長さD2がλ/2となる周波数を算出する。積層体10の比誘電率をεrとすると、D2=λ/2となる波長λはλ=2×D2×√εr=2×1.75×10
-3m×√10≒1.1×10
-2m=11mmである。光速cをc≒3×10
8m/sとすると、波長がλとなる周波数fsは、fs=c/λ≒27GHzである。このように、フローティング導電体層15をλ/2線路として共振する周波数は、比較例1において減衰特性が劣化する29GHzに近い数値となる。
【0050】
比較例2において、フローティング導電体層15の幅D1は60μmである。D1=λ/2となる波長λはλ=2×D1×√εr=2×0.06×10-3×√10≒0.38×10-3m=0.38mmであり、周波数fsはfs=c/λ≒790GHzである。このように、実施例1のフローティング導電体層15は、フィルタの特性にほとんど影響しない。
【0051】
ローパスフィルタおよびバンドパスフィルタでは、通過帯域の高周波数端である遮断周波数fcと少なくともfcの2倍程度の間の範囲において減衰特性の劣化の抑制が求められている。そこで、フローティング導電体層15の最大幅をX(m)とし、遮断周波数をfc(Hz)とし、複数の誘電体層11a~11hの比誘電率をεrとしたとき、フローティング導電体層15のλ/2の共振周波数frは、fr=c/(2×X×√εr)である。fr≧2×fcとするためには、c/(2×X×√εr)≧2×fcよって、X≦c/(2×2×fc×√εr)=7.5×107/(fc×√εr)[m]が好ましい。
【0052】
5G通信システムでは、6GHz以下の信号と28GHzの信号を用いる。そこで、フローティング導電体層15の共振周波数frを遮断周波数fcの5倍以上とすることが好ましい。よって、X≦c/(5×2×fc×√εr)=3×107/(fc×√εr)[m]がより好ましい。さらに、フローティング導電体層15の共振周波数frを遮断周波数fcの10倍以上とするため、X≦c/(10×2×fc×√εr)=1.5×107/(fc×√εr)[m]がより好ましい。
【0053】
[実施例1の変形例1]
図10(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例1における誘電体層の平面図である。
【0054】
図10(a)に示すように、誘電体層11bの上面に、フローティング導電体層15を形成する導電体層12bが設けられている。
図10(b)に示すように、誘電体層11cの上面に、線路パターンL1a~L4aおよびフローティング導電体層15を形成する導電体層12cが設けられている。誘電体層11bを貫通するビア配線13bにより形成されたフローティング導電体層は設けられていない。
図10(c)に示すように、誘電体層11dの上面に、フローティング導電体層15を形成する導電体層12dが設けられている。フローティング導電体層15の平面形状として矩形を例に説明したが、フローティング導電体層15の平面形状は円形状、楕円形状または多角形状など任意である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0055】
実施例1およびその変形例1によれば、インダクタL1~L4は、複数の導電体層のうち少なくとも1つの導電体層12cから形成された線路パターンL1a~L4a(第1導電体パターン)を有する。フローティング導電体層15(第2導電体パターン)は、積層体10内に設けられ、積層体10内の他の導電体(例えば導電体層およびビア配線)と電気的に接続されていない。フローティング導電体層15の電位はフローティングである。フローティング導電体層15の平面方向における最大幅をX(m)(D1に相当)とし、通過帯域の高周波端の遮断周波数をfc(Hz)とし、複数の誘電体層の比誘電率をεrとしたとき、X≦7.5×107/(fc×√εr)である。これにより、遮断周波数fcから2fcまでの減衰帯域において、フローティング導電体層15のλ/2の共振に起因した減衰特性の劣化を抑制できる。
【0056】
実施例1のように、フローティング導電体層15は、複数の誘電体層11a~11kの少なくとも1つの誘電体層11bを貫通するビア配線13b(ビア導電体層)により形成される。これにより、フローティング導電体層15の幅D1を小さくできる。また、誘電体層11bを厚くすることで、ビア配線13bを厚くできる。例えば、フローティング導電体層15の厚さを線路パターンL1a~L4aの厚さより大きくできる。このため、フローティング導電体層15の体積を大きくできる。よって、線路パターンL1a~L4aからの銀の拡散を抑制できる。
【0057】
フローティング導電体層15が貫通する誘電体層は、誘電体層11a~11kのうち少なくとも1つに設けられていてもよい。線路パターンL1a~L4aからの銀の拡散を抑制する観点から、フローティング導電体層15は、線路パターンL1a~L4aの近くに設けることが好ましい。よって、フローティング導電体層15が貫通する誘電体層は、線路パターンL1a~L4aを挟む隣接する誘電体層11bおよび11cの少なくとも1つの誘電体層であることが好ましい。誘電体層11bおよび11cの両方を貫通するフローティング導電体層15を設けてもよい。これにより、フローティング導電体層15の体積を大きくでき、銀の拡散をより抑制できる。
【0058】
実施例1の変形例1のように、フローティング導電体層15は、導電体層の少なくとも1つの導電体層により形成されていてもよい。線路パターンL1a~L4aからの銀の拡散を抑制する観点から、フローティング導電体層15は、導電体層12b~12dの少なくとも1つの導電体層により形成されることが好ましい。ここで、導電体層12cは線路パターンL1a~L4aが形成された導電体層であり、導電体層12bおよび12dは、導電体層12cに隣接する誘電体層11bおよび11cの線路パターンL1a~L4aが設けられた面と反対の面に設けられた導電体層である。フローティング導電体層15を導電体層12b~12dにより形成する。これにより、フローティング導電体層15の体積を大きくでき、銀の拡散をより抑制できる。
【0059】
フローティング導電体層15は、ビア配線と導電体層の両方から形成してもよい。例えば、導電体層12b~12dにより形成されたフローティング導電体層15を誘電体層11bおよび11cを貫通するフローティング導電体層15を介し接続してもよい。これにより、フローティング導電体層15の体積を大きくでき、銀の拡散をより抑制できる。
【0060】
線路パターンL1a~L4aが複数設けられている場合には、最も長い線路パターンL2aおよびL3aに隣接する誘電体層に貫通するフローティング導電体層を設けることが好ましい。また、最も長い線路パターンL2aおよびL3aが設けられた導電体層12cおよび隣接する導電体層12bおよび12dによりフローティング導電体層15を形成することが好ましい。
【0061】
複数の導電体層12a、12c、12e~12g、12i~12kおよびフローティング導電体層15は、同じ元素を主成分とする。例えば、複数の導電体層12a、12c、12e~12g、および12i~12kが銀を含む場合、誘電体層11a~11kへの銀の拡散が問題となる。よって、銀を含むフローティング導電体層15を設けることが好ましい。複数の導電体層12a、12c、12e~12g、12i~12kおよびフローティング導電体層15は、例えば銀を主成分とする。ここで、導電体層およびフローティング導電体層がある元素(例えば銀)を主成分とするとは、導電体層およびフローティング導電体層に意図的または意図せずに不純物が含まれることを許容する。導電体層およびフローティング導電体層におけるある元素(例えば銀)の濃度は、例えば50原子%以上であり、80原子%以上である。
【0062】
遮断周波数fcが低い場合には、フローティング導電体層15の幅D1を線路パターンL1a~L4aの長さ程度としても、フローティング導電体層15のλ/2の共振周波数は遮断周波数fcより十分高くなり、λ/2の共振が課題となることはあまりない。よって、遮断周波数fcが1GHz以上の場合、より典型的には2GHz以上、さらに典型的には5GHz以上の場合に、フローティング導電体層15を小さくすることが好ましい。
【0063】
フィルタはローパスフィルタに限られないが、通過帯域の高周波端を有する観点から、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタに小さいフローティング導電体層15を設けることが好ましい。
【0064】
フィルタ100の回路構成は、
図1に限られない。入力端子Tinと出力端子Toutとの間は、直流的に導通されており、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の直流経路にインダクタが設けられている場合、直流経路のインダクタの抵抗はフィルタの挿入損出となる。よって、直流経路にインダクタが設けられている場合に、フローティング導電体層15を設けることが好ましい。
シミュレーション2のように、フローティング導電体層15が大きいと、フローティング導電体層15のλ/2の共振に起因しインダクタの高周波特性が劣化する。フローティング導電体層15のλ/2の共振にともない減衰特性が劣化する周波数がインダクタの自己共振周波数fsの1.5倍以上であることが好ましい。そこで、フローティング導電体層15の最大幅をX(m)とし、自己共振周波数をfs(Hz)とし、複数の誘電体層11a~11hの比誘電率をεrとしたとき、λ/2の共振周波数frは、fr=c/(2×X×√εr)である。fr≧1.5×fsとするためには、c/(2×X×√εr)≧1.5×fcよって、X≦c/(1.5×2×fs×√εr)=10×107/(fs×√εr)[m]が好ましい。λ/2の周波数を遮断周波数fcの2倍以上とすると、X≦c/(2×2×fc×√εr)=7.5×107/(fs×√εr)[m]がより好ましい。λ/2の周波数を遮断周波数fcの5倍以上とすると、X≦c/(5×2×fc×√εr)=3×107/(fs×√εr)[m]がより好ましい。
実施例2によれば、フローティング導電体層15(第2導電体パターン)の最大幅をX(m)(D1に相当)とし、インダクタの自己共振周波数をfs(Hz)とし、複数の誘電体層の比誘電率をεrとしたとき、X≦10×107/(fs×√εr)である。これにより、インダクタの自己共振周波数付近におけるフローティング導電体層15のλ/2の共振の影響を抑制できる。
フローティング導電体層15に起因して、インダクタの寄生キャパシタンスが増加し、インダクタの自己共振数が低くなるなどインダクタの高周波特性が変化してしまう。この観点から、フローティング導電体層15は、Z方向から見て線路パターンLと重ならないことが好ましい。実施例1およびその変形例1のフィルタにおいても、フローティング導電体層15は、Z方向から見て線路パターンL1a~L4aと重ならないことが好ましい。
実施例1および2では、積層電子部品として、フィルタとインダクタの例を説明したが、その他の積層電子部品でもよい。また、フローティング導電体層15として、銀の拡散を抑制するためのフローティング導電体層の例を説明したが、他の用途のフローティング導電体層でもよい。