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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141869
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】溶鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/00 20060101AFI20241003BHJP
   C21C 5/52 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C21C7/00 N
C21C7/00 F
C21C5/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053723
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】鶴川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】正木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】浅原 紀史
(72)【発明者】
【氏名】笠原 秀平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直人
【テーマコード(参考)】
4K013
4K014
【Fターム(参考)】
4K013BA11
4K013CA04
4K013CD02
4K013DA05
4K013DA08
4K013EA03
4K013EA12
4K013EA16
4K013EA23
4K013EA24
4K014CB05
(57)【要約】
【課題】アーク炉において溶鋼を製造する場合において、アーク炉内の溶鉄の脱窒を効率的に進行させる方法を開示する。
【解決手段】本開示の溶鋼の製造方法は、アーク炉において溶鋼を製造する方法であって、前記アーク炉内の溶鉄へと酸素噴流を噴射すること、及び、前記酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の内側の位置Pに向けて脱硫剤を供給して、前記位置Pにおける溶存硫黄を低減することで、前記溶鉄の脱窒を進行させること、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク炉において溶鋼を製造する方法であって、
前記アーク炉内の溶鉄へと酸素噴流を噴射すること、及び、
前記酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の内側の位置Pに向けて脱硫剤を供給して、前記位置Pにおける溶存硫黄を低減することで、前記溶鉄の脱窒を進行させること、を含む、
溶鋼の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶鋼の製造方法であって、
前記溶鉄に炭材を供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の溶鋼の製造方法であって、
前記酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の外側の位置Pに向けて前記炭材を供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の溶鋼の製造方法であって、
前記溶鉄に脱酸剤を供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の溶鋼の製造方法であって、
前記酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の内側の位置Pに向けて前記脱酸剤を供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の溶鋼の製造方法であって、
前記脱酸剤の供給量は、前記脱硫剤100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下である、
溶鋼の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載の溶鋼の製造方法であって、
前記脱硫剤を加熱すること、及び、
加熱された前記脱硫剤を前記位置Pに向けて供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の溶鋼の製造方法であって、
前記アーク炉が、送酸手段と、前記送酸手段とは別に脱硫剤供給手段と、を備え、
前記送酸手段から前記アーク炉内の前記溶鉄へと前記酸素噴流が噴射され、
前記脱硫剤供給手段から前記位置Pに向けて前記脱硫剤が供給される、
溶鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、アーク炉を用いて溶鋼を製造する方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
転炉製鋼においては、溶銑に酸素噴流を吹き付けて脱炭反応を生じさせる。このとき、COガスが発生するとともに脱窒が進行する。アーク炉製鋼においても、酸素及び炭材の同時吹込みが実施されCOガスが発生する。しかしながら、アーク炉製鋼においては、
(1)アーク炉に多数の隙間や開口部が存在するため、アーク炉内に窒素を含む外気が取り込まれ易く、炉内雰囲気中の窒素濃度が高くなって、炉内の溶鉄中に窒素が吸収(吸窒)され易いこと
(2)超高温場のアークスポットでは、窒素がイオン化して反応性が高いものとなっており、炉内のアークスポット近傍で溶鉄中に窒素が吸収(吸窒)され易いこと
(3)溶鉄の炭素濃度が低い場合があり、脱炭に伴うCOガスの発生が少なく、脱窒代が小さいこと
などが原因で、脱窒効率が低く、低窒素鋼を溶製することは困難と考えられている。
【0003】
特許文献1には、アーク炉から出鋼後の溶鋼に金属Al及びCaOを添加し、送酸することによって、AlNを形成しつつ脱窒を行う技術が開示されている。しかしながら、アーク炉における溶鉄の脱窒については、十分な検討がなされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/091700号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アーク炉において溶鋼を製造する場合において、炉内の溶鉄の脱窒を効率的に行うための新たな技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、上記課題を解決するための手段の一つとして、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
アーク炉において溶鋼を製造する方法であって、
前記アーク炉内の溶鉄へと酸素噴流を噴射すること、及び、
前記酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の内側の位置Pに向けて脱硫剤を供給して、前記位置Pにおける溶存硫黄を低減することで、前記溶鉄の脱窒を進行させること、を含む、
溶鋼の製造方法。
<態様2>
態様1の溶鋼の製造方法であって、
前記溶鉄に炭材を供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
<態様3>
態様2の溶鋼の製造方法であって、
前記酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の外側の位置Pに向けて前記炭材を供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
<態様4>
態様1~3のいずれかの溶鋼の製造方法であって、
前記溶鉄に脱酸剤を供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
<態様5>
態様4の溶鋼の製造方法であって、
前記酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の内側の位置Pに向けて前記脱酸剤を供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
<態様6>
態様4又は5の溶鋼の製造方法であって、
前記脱酸剤の供給量は、前記脱硫剤100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下である、
溶鋼の製造方法。
<態様7>
態様1~6のいずれかの溶鋼の製造方法であって、
前記脱硫剤を加熱すること、及び、
加熱された前記脱硫剤を前記位置Pに向けて供給すること、を含む、
溶鋼の製造方法。
<態様8>
態様1~7のいずれかの溶鋼の製造方法であって、
前記アーク炉が、送酸手段と、前記送酸手段とは別に脱硫剤供給手段と、を備え、
前記送酸手段から前記アーク炉内の前記溶鉄へと前記酸素噴流が噴射され、
前記脱硫剤供給手段から前記位置Pに向けて前記脱硫剤が供給される、
溶鋼の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の方法によれば、アーク炉において溶鋼を製造する際、炉内の溶鉄の脱窒を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係るアーク炉を上から見た場合の各部材の位置関係の一例を概略的に示している。交流形式のアーク炉が例示されている。
図2】一実施形態に係るアーク炉を横から見た場合の酸素噴流と脱硫剤供給位置Pとの位置関係の一例を概略的に示している。直流形式のアーク炉が例示されている。上部電極等は省略して示している。
図3】酸素噴流と脱硫剤供給位置Pとの位置関係の一例を概略的に示している。
図4】本開示の溶鋼の製造方法による効果について説明するための図である。
図5】酸素噴流と炭材供給位置Pとの位置関係の一例を概略的に示している。
図6】酸素噴流と脱酸剤供給位置Pとの位置関係の一例を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.溶鋼の製造方法
図面を参照しつつ、本開示の溶鋼の製造方法について説明する。ただし、本開示の溶鋼の製造方法は、図示される形態に限定されるものではない。図1~3に示されるように、一実施形態に係る溶鋼の製造方法は、アーク炉100において溶鋼を製造する方法であって、前記アーク炉100内の溶鉄10へと酸素噴流21を噴射すること、及び、前記酸素噴流21と前記溶鉄10との衝突面の内側の位置Pに向けて脱硫剤31を供給して、前記位置Pにおける溶存硫黄を低減することで、前記溶鉄10の脱窒を進行させること、を含む。
【0010】
1.1 溶鉄
溶鉄10は、例えば、アーク炉100において、アークを生じさせて鉄源を溶解させることで得られる。図1には、アークを発生させる手段として、上部電極40のみを用いる交流形式のものを例示したが、アーク炉を発生させる手段はこれに限定されず、図2に示すように上部電極40及び下部電極50を用いた直流形式であってもよい。鉄源は、例えば、スクラップ、還元鉄、型銑及び粒銑等の固体鉄源から選ばれる少なくとも1種を含むものであってよく、他の溶解炉や精錬炉で製造した溶鉄や溶鋼等を用いてもよい。溶鉄10は、鉄以外に様々な元素を含み得る。鉄以外の元素の組成は、鉄源の種類による。例えば、脱硫剤31が供給される前の溶鉄10は、Cを0.02質量%以上3.0質量%以下含むものであってもよく、Nを0.005質量%以上0.030質量%以下含むものであってもよく、Pを0.003質量%以上0.1質量%以下含むものであってもよい。本開示の製造方法において、脱硫剤31に加えて炭材を溶鉄10へと供給する場合、脱硫剤31及び炭材が供給される前の溶鉄10は、Cを0.02質量%以上3.0質量%以下含むものであってもよく、Nを0.005質量%以上0.030質量%以下含むものであってもよく、Pを0.003質量%以上0.1質量%以下含むものであってもよい。或いは、本開示の製造方法は、脱炭反応が平衡論上困難となる極低炭素濃度域での実施を避けることが好ましく、例えば、脱硫剤31が供給される前の溶鉄10は、Cを0.3質量%以上含むことが好ましい。より具体的には、本開示の製造方法において、脱硫剤31を溶鉄10へと供給される前の溶鉄10は、Cを0.3質量%以上3.0質量%以下含むものであってもよく、Nを0.005質量%以上0.030質量%以下含むものであってもよく、Pを0.003質量%以上0.1質量%以下含むものであってもよい。溶鉄10の密度は、例えば、6600kg/m以上7000kg/m以下であってもよい。
【0011】
1.2 酸素噴流
本開示の製造方法においては、溶鉄10へと酸素噴流21が噴射される。図1~3に示されるように、アーク炉100においては、送酸手段20から溶鉄10の表面10xに向かって酸素が上吹きされ得る。アーク炉100に備えられる送酸手段20の数は、特に限定されず、少なくとも1つである。送酸手段20は、ランスであってもよい。一つのランスから噴射される酸素噴流21の数は特に限定されない。例えば、ランスは、図2及び3に示されるような単孔ランスであってもよいし、複数のノズルを備える多孔ランスであってもよい。また、ランスはストレート形状であってもよいし、ラバール構造を有していてもよいし、気体燃料と支燃性ガスが酸素噴流を囲むようにして噴射されるコヒーレントバーナーを備えていてもよい。図1に示されるように、送酸手段20は、アーク炉100の炉蓋から挿入されるランス(いわゆるメインランス)、炉壁に設けられた壁ランス、及び、マニピュレータ等によって位置決めされる可変ランスのうちの少なくとも1つであってもよい。
【0012】
酸素噴流21の形状は、送酸手段20の傾きや送酸手段20の噴射孔の形状等による。送酸手段20から噴射される酸素噴流21の向きは、鉛直方向と一致していてもよいし、鉛直方向に対して傾斜していてもよい。例えば、図3に示されるように、送酸手段20から噴射される酸素噴流21の向きは、鉛直方向に対して角度θだけ傾けられていてもよい(角度θ>0°であってもよい)し、傾けられていなくてもよい(角度θ=0°であってもよい)。角度θは、送酸手段20の中心軸と鉛直方向に平行な線とのなす角度として特定され得る。角度θは、例えば、0°以上30°以下であってもよく、5°以上30°以下であってもよい。また、図3に示されるように、酸素噴流21は、送酸手段20の噴射孔から一定の広がり角度αを有して溶鉄10へと噴射されてもよい。広がり角度αは、送酸手段20の噴射孔の形状等による。広がり角度αは、例えば、10°以上13°以下であってもよい。また、図3に示されるように、送酸手段20の噴射孔から溶鉄10の表面10xまでに一定の高さhが設けられていてもよい。尚、送酸手段20が鉛直方向に対して傾けられている場合、高さhは、送酸手段20の噴射孔の上端から溶鉄10の表面10xまでの距離をいうものとする。高さhは、例えば、0.2m以上0.8m以下であってもよい。また、図3に示されるように、送酸手段20は、孔径dの噴射孔を有するものであってよい。尚、孔径dは、噴射孔の円相当直径をいう。孔径dは、例えば、20mm以上100mm以下であってもよい。
【0013】
一つの送酸手段20から噴射される酸素噴流21の流量は、特に限定されるものではなく、例えば、1000Nm/h以上4000Nm/h以下であってもよい。また、送酸手段20から噴射される酸素噴流21の流速(送酸手段20の噴射孔における流速であって、中心軸における流速)は、特に限定されるものではなく、例えば、10m/s以上300m/s以下であってもよい。
【0014】
1.3 脱硫剤
本開示の製造方法においては、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側の位置Pに向けて脱硫剤31が供給される。図1及び2に示されるように、アーク炉100においては、脱硫剤供給手段30から脱硫剤31が供給され得る。アーク炉100に備えられる脱硫剤供給手段30の数は、特に限定されず、少なくとも1つである。脱硫剤31は、例えば、アーク炉100に設けられた供給口を介して、炉内へと供給され得る。供給口は、炉のどの部分に設けられていてもよい。例えば、供給口は、炉内壁(側壁)に設けられた孔であってもよく、炉蓋に設けられた孔であってもよい。図2に示されるように、供給口は、溶鉄10の表面10xよりも上方に設置され得る。供給口の数は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0015】
脱硫剤供給手段30による脱硫剤31の供給方式に特に制限はない。例えば、図2(A)に示されるような炉内壁に設けられた孔を介して脱硫剤31を供給する方式、及び、図2(B)に示されるような炉蓋に設けられた孔を介して脱硫剤31を供給する方式等が挙げられる。炉内壁又は炉蓋に設けられた孔と溶鉄10の表面10xにおける脱硫剤31の供給位置Pとの位置関係等に応じて、適宜、ランスや投入シュート等が採用されてもよい。投入シュートとしては公知のものが採用されればよい。脱硫剤供給手段30としてランスが採用される場合、脱硫剤31は上吹きガスとともに溶鉄10へと供給され得る。ここで、上述の送酸手段20としてのランスと、脱硫剤供給手段30としてのランスとは、互いに同じものであってもよい。すなわち、送酸手段20が脱硫剤供給手段30としても機能し、酸素噴流21とともに脱硫剤31が供給されてもよい。或いは、上述の送酸手段20としてのランスと、脱硫剤供給手段30としてのランスとは、互いに別のものであってもよい。この場合、脱硫剤供給手段30としてのランスからの上吹きガスは、溶鉄10の表面において火点を生じさせないものが採用されてもよいし、火点を生じさせるものが採用されてもよい。例えば、脱硫剤供給手段30としてのランスからの上吹きガスは、純酸素、Arガス及びCOガスなどから選ばれる少なくとも1種であってもよい。脱硫剤供給手段30から脱硫剤31を吹き付ける場合、上吹きガスは製造条件に応じて選んでよく、これら操業制約の範囲内で少なくとも2種類以上のガスを所定の割合で混合したものであってもよい。
【0016】
脱硫剤31は、溶鉄10に対して、鉛直下向きに供給されてもよいし、斜め下向きに供給されてもよい。いずれにしても、脱硫剤31は、所定の位置Pに向けて供給される。ここで、「位置Pに向けて」とは、脱硫剤31を供給する狙い位置が位置Pであることを意味し、脱硫剤31の一部が拡散等によって位置P以外の部分に供給されてもよい。例えば、脱硫剤31の一部が、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の外側に供給されてもよい。本開示の製造方法においては、脱硫剤31の大部分、例えば50質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上が、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側の位置Pに供給されるとよい。
【0017】
脱硫剤31の供給量に特に制限はない。後述の通り、本開示の製造方法においては、火点内に存在する界面活性元素としての[S]([]はメタル中又はメタルと気相との境界相(界面)の成分であることを意味する。)を低減できればよく、脱硫剤31の供給量が少なくても高い効果が得られる。例えば、一つの脱硫剤供給手段30から溶鉄10へと供給される脱硫剤31の溶鉄1tあたりの供給速度は、0.01kg/(min・t)以上1.0kg/(min・t)以下であってもよい。また、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側(火点内)に供給される脱硫剤31の溶鉄1t当たりの供給速度は、0.01kg/(min・t)以上1.0kg/(min・t)以下であってもよいし、0.01kg/(min・t)以上0.5kg/(min・t)以下であってもよい。
【0018】
脱硫剤31は、溶鉄10の硫黄濃度を低減可能なものであればよい。脱硫剤31は、例えば、Ca含有材(石灰、炭化カルシウム等)、Mg含有材(マグネシア等)、Na含有材(NaO)などから選ばれる少なくとも1種を含むものであってもよい。脱硫剤31の形状は、脱硫剤供給手段30から溶鉄10へと適切に供給可能な形状であればよく、粉体状、顆粒状、塊状等の種々の形状であってよい。また、脱硫剤31は加圧成形品であってもよい。また、複数種類の脱硫剤31を混合したものでもよい。脱硫剤31は、例えば、0.1mm以上5mm以下の粒径を有するものであってよい。脱硫剤31が大きい場合、一般的な製鋼設備が備える粉体の搬送系統を閉塞させ易くなるうえ、比表面積が小さくなるために伝熱性が悪化し、未溶解のまま溶鉄10上に滞留する時間が長くなり得る。一方で、脱硫剤31が小さい場合、炉内での飛散性が高く、排ガス系統へ吸い込まれ易くなり、歩留まりで劣位となり得る。
【0019】
1.4 位置P
本開示の製造方法においては、脱硫剤31が所定の位置Pに向けて供給される。図2及び3に示されるように、位置Pは、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側となる位置である。「酸素噴流21と溶鉄10との衝突面」は、上述の傾斜角度θ、広がり角度α、高さh、孔径dから幾何学的に特定され得る。例えば、図3に示されるように、送酸手段20の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oから、衝突面の外縁Xまでの距離zは、z=(tan(θ+α)-tanθ)h+d/(2cosθ)として特定され得る。図3に示されるように、酸素噴流21の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oから位置Pまでの距離rが、上記の距離zよりも小さければ、位置Pが酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側となり得る。すなわち、本開示の製造方法において、酸素噴流21の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oから位置Pまでの距離rは、r<(tan(θ+α)-tanθ)h+d/(2cosθ)なる関係を満たすものであってもよい。尚、図3においては、酸素噴流21の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oに対して、当該中心軸と表面10xとのなす気相側の角度が広角となる側(図3の紙面右側)に位置Pが存在する形態を例示したが、位置Pは、図3の紙面左側に存在していてもよい。この場合も、酸素噴流21の形状等から、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側となる位置Pが幾何学的に特定され得る。
【0020】
本開示の製造方法においては、脱硫剤31が所定の位置Pに向けて供給されることで、位置Pの近傍における溶存硫黄が低減され、溶鉄10の脱窒が効率的に進行する。火点における溶鉄10の脱窒は、溶鉄と境界相との間の窒素濃度差や境界相と気相との間の窒素濃度差を駆動力として進行する。具体的には、
(1)液相中における窒素原子の移動
(2)液相側境界相における窒素原子の移動
(3)気液界面における窒素分子の生成([N]+[N]=N
(4)気相側境界相における窒素分子の移動
(5)気相中における窒素分子の移動
の段階を経て、脱窒が進行し得る。ここで、例えば、液相(溶鉄)と気相との界面には、界面活性元素としての[S]が存在する。界面活性元素としての[S]が多いと、図4に模式的に示されるように、界面の吸着サイトが[S]で占有されるため上記の(3)の過程が律速となり、全体としての脱窒速度が低下してしまう。これに対し、本開示の製造方法においては、所定の位置Pに脱硫剤31が供給されることで、界面の吸着サイトに存在する[S]を低減することができる。結果として、上記の(3)の過程における窒素分子の生成が促進されるため、全体としての脱窒速度を向上させることができる。
【0021】
1.5 炭材
本開示の製造方法は、前記溶鉄10に炭材を供給すること、を含んでいてもよい。アーク炉100において溶鋼を製造する場合、溶鉄10として炭素濃度が低いものを用いる場合がある。この場合、溶鉄10へと酸素噴流21を噴射して火点を生じさせたとしても、脱炭に伴うCOガスの発生が少なく、脱窒が遅くなる可能性がある。溶鉄10に炭材を供給することで、溶鉄10の炭素濃度を高めることができ、火点におけるCOガスの発生を増加させることができ、脱窒速度を一層向上させることができる。
【0022】
本開示の製造方法においては、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側となる位置に向けて炭材が供給されてもよいし、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の外側となる位置に向けて炭材が供給されてもよい。炭材が当該衝突面の内側に供給される場合、炭素供給速度が向上し、脱酸に有利に働く可能性がある。一方、炭材が当該衝突面の外側に供給される場合、炭材の燃焼ロス回避及び火点温度の低下回避といった有利な効果が期待できる。特に、図5に示されるように、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の外側となる位置Pに向けて炭材が供給されることが好ましい。「位置Pに向けて」とは、炭材を供給する狙い位置が位置Pであることを意味し、炭材の一部が拡散等によって位置P以外の部分に供給されてもよい。より好ましくは、炭材は、酸素噴流21を横切ることなく、位置Pに供給される(言い換えれば、炭材が炭材供給手段から溶鉄10に至るまでの間に酸素噴流21が存在しないことが好ましい)。図5に示されるように、酸素噴流21の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oから位置Pまでの距離rが、上記の距離zよりも大きければ、位置Pが酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の外側となり得る。すなわち、本開示の製造方法において、酸素噴流21の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oから位置Pまでの距離rは、r>(tan(θ+α)-tanθ)h+d/(2cosθ)なる関係を満たすものであってもよい。炭材が位置Pに向けて供給されることで、火点の温度低下を抑制することができ、目的とする脱窒反応等を一層効率的に生じさせることができる。また、酸素噴流21中で炭材が燃焼することによる歩留まりの低下が抑制される。さらに、溶鉄10への炭材の着炭率が向上し得る。
【0023】
炭材が、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の外側となる位置Pに向けて供給される場合において、上記の距離rの上限に特に制限はない。ただし、本開示の製造方法においては、距離rを溶鉄10の重量に基づいて計算される代表長よりも短くすることで、火点までの炭材の移動が遅滞し難くなり、火点近傍の炭素濃度が向上し、脱炭によるCOガスの発生量を増加させることができるものと考えられる。すなわち、酸素噴流21によって溶鉄10からの脱炭が進行して、溶鉄10の炭素濃度が、脱炭反応による溶鉄10中の炭素の消費速度が反応サイトへの溶存炭素の供給速度を上回る臨界炭素濃度を下回ると、送酸によって供給される酸素のうち脱炭に寄与する比率(脱炭酸素効率)が漸減し、火点におけるCOガス発生速度が低下して、脱窒において不利な状態となり得る。また、溶鉄10中のFeが過剰酸化されて、鉄歩留まりが低下したり、スラグ中のFeO濃度が上昇して、アーク炉100の耐火物を損耗させる虞もある。これに対し、距離rを溶鉄10の重量に基づいて計算される代表長よりも短くして、火点近傍の溶存炭素濃度を高めることで、溶存[N]の活量が上昇し、脱窒効率が一層向上し、さらには、Feの過剰酸化等も抑制されるものと考えられる。
【0024】
以上の観点から、炭材を供給する位置Pは、各チャージにおける溶鉄10の重量から求められる鉄浴の代表長と、攪拌動力密度の値とを参照して決定されてもよい。例えば、公知文献である「浅井ら:鉄と鋼、68(1982)、vol.3、pp.426-434」によれば、流体の慣性支配域における代表流速は攪拌動力密度の1/3乗に比例するため、交点Oから位置Pまでの距離rがこの代表流速に対して十分に短ければ、火点への炭素の供給の遅滞が緩和され、脱炭反応によるCOガス発生速度が高く維持され、脱窒に有利となる。すなわち、例えば、上吹きと底吹きの攪拌が支配的な炉に対して、以下の関係を満たすように距離rの上限を定めることができる。
【0025】
【数1】
ここで、L:代表長(m)、ε:合計攪拌動力密度(W/t)、W:溶鉄の重量(t)、ρ:溶鉄の密度(t/m)、ε:上吹き攪拌動力密度(W/t)、ε:底吹き攪拌動力密度(W/t)である。
【0026】
尚、攪拌動力密度は、上吹きや底吹きなどについて、例えば公知文献である「甲斐ら:鉄と鋼、69(1983)、vol.2、pp.228-237」や「森ら:鉄と鋼、67(1981)、vol.6、pp.672-695」等を参照し、線形和した値を採用すればよい。ここで攪拌を与える手段についてはガス供給によるものに限定されず、任意の手段について同様の取り扱いをすれば良いし、位置や原理が異なる攪拌手段の攪拌動力密度については、線形和でなくてもよく、各々独立した寄与率があるものとして扱ってもよい。
【0027】
本発明者の知見によれば、本開示の製造方法において、以下の関係(1)が満たされることで、火点までの炭材の移動が遅滞し難くなり、火点近傍の炭素濃度が向上し、目的とする反応をより効率的に生じさせ易くなる。
【0028】
【数2】
ここで、
は、酸素噴流21の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oから、上記の位置Pまでの距離(m)であり、
は、溶鉄10の重量(t)である。
【0029】
アーク炉100においては、炭材供給手段から炭材が供給され得る。アーク炉100に備えられる炭材供給手段の数は、特に限定されず、少なくとも1つである。炭材は、例えば、アーク炉100に設けられた供給口を介して、炉内へと供給され得る。供給口は、炉のどの部分に設けられていてもよい。供給口は、溶鉄10の表面10xよりも上方に設置され得る。供給口の数は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0030】
炭材供給手段による炭材の供給方式に特に制限はない。例えば、炉内壁に設けられた孔を介して炭材を供給する方式、及び、炉蓋に設けられた孔を介して炭材を供給する方式等が挙げられる。炉内壁又は炉蓋に設けられた孔と溶鉄10の表面10xにおける炭材の供給位置Pとの位置関係等に応じて、適宜、ランスや投入シュート等が採用されてもよい。投入シュートとしては公知のものが採用されればよい。炭材供給手段としては、副原料として脱硫剤に替えて炭材を用いることを除き、上述の脱硫剤供給手段30と同様の構成を有するものが採用され得る。例えば、炭材供給手段としてランスが採用される場合、炭材は上吹きガスとともに溶鉄10へと供給され得る。この場合の上吹きガスは、溶鉄10の表面において火点を生じさせないものが採用されてもよいし、火点を生じさせるものが採用されてもよい。溶鉄10へ到達する前に空中で炭材が消費されることを避けるためには、より反応性の低いArガス及びCOガスのうちの一方又は両方を採用することが好ましい。
【0031】
炭材の供給量に特に制限はない。例えば、一つの炭材供給手段から溶鉄へと供給される炭材の溶鉄1tあたりの供給速度は、0.1kg/(min・t)以上2.0kg/(min・t)以下であってもよい。
【0032】
炭材の形状は、炭材供給手段から溶鉄10へと適切に供給可能な形状であればよく、粉体状、顆粒状、塊状等の種々の形状であってよい。炭材としては、例えば瀝青炭や無煙炭、粉コークス、ピッチコークス、バイオマス系炭材などの任意の炭材を用いてよい。また、炭材は加圧成形品であってもよい。また、複数種類の炭材を混合したものでもよい。炭材は、例えば、0.1mm以上5mm以下の粒径を有するものであってよい。炭材が大きい場合、一般的な製鋼設備が備える粉体の搬送系統を閉塞させ易くなるうえ、比表面積が小さくなるために伝熱性が悪化し、未溶解のまま溶鉄10上に滞留する時間が長くなり得る。一方で、炭材が小さい場合、炉内での飛散性が高く、排ガス系統へ吸い込まれ易くなり、歩留まりで劣位となり得る。
【0033】
1.6 脱酸剤
本開示の製造方法は、前記溶鉄10に脱酸剤を供給すること、を含んでいてもよい。溶鉄10に脱酸剤を供給して脱酸を行うことで、脱窒反応が阻害され難くなる。
【0034】
本開示の製造方法においては、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側となる位置に向けて脱酸剤が供給されてもよいし、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の外側となる位置に向けて脱酸剤が供給されてもよい。特に、図6に示されるように、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側の位置Pに向けて脱酸剤が供給されることが好ましい。位置Pに向けて脱酸剤が供給されることで、脱酸により界面活性元素濃度がさらに低下し、脱窒速度が向上するものと考えられる。また、酸素ポテンシャル低下によって脱硫も促進されるものと考えられる。加えて、脱酸反応は、通常、発熱反応であることから、火点の温度を上昇させることができ、脱硫・脱窒速度がさらに向上するものと考えられる。「位置Pに向けて」とは、脱酸剤を供給する狙い位置が位置Pであることを意味し、脱酸剤の一部が拡散等によって位置P以外の部分に供給されてもよい。図6に示されるように、酸素噴流21の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oから位置Pまでの距離rが、上記の距離zよりも小さければ、位置Pが酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側となり得る。すなわち、本開示の製造方法において、酸素噴流21の中心軸と溶鉄10の表面10xとの交点Oから位置Pまでの距離rは、r<(tan(θ+α)-tanθ)h+d/(2cosθ)なる関係を満たすものであってもよい。脱酸剤が位置Pに向けて供給されることで、火点において効率的に脱酸が進行し、上記の脱窒反応がより阻害され難くなる。尚、位置Pは、上記の位置Pと同じ位置であっても異なる位置であってもよい。
【0035】
アーク炉100においては、脱酸剤供給手段から脱酸剤が供給され得る。アーク炉100に備えられる脱酸剤供給手段の数は、特に限定されず、少なくとも1つである。脱酸剤は、例えば、アーク炉100に設けられた供給口を介して、炉内へと供給され得る。供給口は、炉のどの部分に設けられていてもよい。供給口は、溶鉄10の表面10xよりも上方に設置され得る。供給口の数は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0036】
脱酸剤供給手段による脱酸剤の供給方式に特に制限はない。例えば、炉内壁に設けられた孔を介して脱酸剤を供給する方式、及び、炉蓋に設けられた孔を介して脱酸剤を供給する方式等が挙げられる。炉内壁又は炉蓋に設けられた孔と溶鉄10の表面10xにおける脱酸剤の供給位置Pとの位置関係等に応じて、適宜、ランスや投入シュート等が採用されてもよい。投入シュートとしては公知のものが採用されればよい。脱酸剤供給手段としては、副原料の種類が脱硫剤から脱酸剤に変わることを除き、上述の脱硫剤供給手段30と同様の構成を有するものが採用され得る。例えば、脱酸剤供給手段としてランスが採用される場合、脱酸剤は上吹きガスとともに溶鉄10へと供給され得る。この場合の上吹きガスは、溶鉄10の表面において火点を生じさせないものが採用されてもよいし、火点を生じさせるものが採用されてもよい。鉄浴へ到達する前に空中で脱酸剤が消費されることを避けるためには、より反応性の低いArガス及びCOガスのうちの一方又は両方を採用することが好ましい。
【0037】
脱酸剤の供給量に特に制限はない。例えば、一つの脱酸剤供給手段から供給される脱酸剤の溶鉄1tあたりの供給速度は、0.0005kg/(min・t)以上0.2kg/(min・t)以下であってもよい。また、酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側となる位置Pに向けて脱酸剤が供給される場合において、当該脱酸剤の供給量は、上記の脱硫剤31を基準(100質量部)として、5質量部以上20質量部以下であってもよい。
【0038】
脱酸剤は、溶鉄10の脱酸が可能な公知の材料であればよい。脱酸剤は、例えば、Al、Mg、Ca、Si、Mn、Zr、REMなどから選ばれる少なくとも1種を含む金属又はこれらを含む合金であってよい。脱酸剤の形状は、脱酸剤供給手段から溶鉄10へと適切に供給可能な形状であればよく、粉体状、顆粒状、塊状等の種々の形状であってよい。また、脱酸剤は加圧成形品であってもよい。また、複数種類の脱酸剤を混合したものでもよい。脱酸剤は、例えば、0.1mm以上5mm以下の粒径を有するものであってよい。脱酸剤が大きい場合、一般的な製鋼設備が備える粉体の搬送系統を閉塞させ易くなるうえ、比表面積が小さくなるために伝熱性が悪化し、未溶解のまま溶鉄10上に滞留する時間が長くなり得る。一方で、脱酸剤が小さい場合、炉内での飛散性が高く、排ガス系統へ吸い込まれ易くなり、歩留まりで劣位となり得る。
【0039】
1.7 副原料(脱硫剤、炭材、脱酸剤等)についてのその他の事項
上述の通り、本開示の製造方法においては、脱硫剤31が火点の内側の位置Pに向けて供給される。ここで、低温の脱硫剤31が火点の内側に供給されると、火点の温度が低下する。これに対し、加熱された高温の脱硫剤31を火点に供給することで、火点の温度低下が抑えられ、上述の脱窒反応をより効率的に進行させることができるものと考えられる。また、脱硫剤31の滓化が促進されるものと考えられる。この点、本開示の製造方法は、前記脱硫剤を加熱すること、及び、加熱された前記脱硫剤を前記位置Pに向けて供給すること、を含んでいてもよい。脱硫剤を加熱する手段については、特に限定されるものではない。脱硫剤は、例えば、バーナー火炎によって加熱されてもよい。
【0040】
上述の通り、本開示の製造方法においては、アーク炉100が、送酸手段20と、前記送酸手段20とは別に脱硫剤供給手段30と、を備えていてもよく、この場合、前記送酸手段20から前記アーク炉100内の前記溶鉄10へと前記酸素噴流21が噴射され、前記脱硫剤供給手段30から前記位置Pに向けて前記脱硫剤31が供給され得る。この場合、例えば、送酸手段20が水冷等によって冷却される一方で、脱硫剤供給手段30の少なくとも一部が加熱されること、或いは、脱硫剤供給手段30の近傍が加熱されること、などによって、脱硫剤供給手段30から供給される脱硫剤31が効率的に加熱され得る。
【0041】
脱硫剤31は、上記の炭材とともに供給されてもよいし、炭材とは別に供給されてもよい。特に、上述の通り、所定の位置Pに脱硫剤31を供給するとともに、所定の位置Pに炭材を供給する場合、脱硫剤31は炭材とは別に供給されることとなる。
【0042】
脱硫剤31は、上記の脱酸剤とともに供給されてもよいし、脱酸剤とは別に供給されてもよい。特に、上述の通り、所定の位置Pに脱硫剤31を供給するとともに、所定の位置Pに脱酸剤を供給する場合、位置P及び位置Pがともに酸素噴流21と溶鉄10との衝突面の内側の位置であることから、脱硫剤31は、上記の脱酸剤とともに供給され得る。この場合、脱硫剤31と脱酸剤とは、溶鉄10へと供給される前に事前に混合されてもよい。例えば、一のランスからキャリアガスとともに脱硫剤31と脱酸剤との混合剤を噴射してもよい。或いは、脱硫剤31と脱酸剤とは、溶鉄10への供給時に合流してもよい。例えば、一のランスからキャリアガスとともに脱硫剤31を噴射し、他のランスからキャリアガスとともに脱酸剤を噴射し、かつ、噴流同士を合流させることで、脱硫剤31とともに脱酸剤を溶鉄10へと供給することができる。
【0043】
本開示の製造方法においては、目的とする溶鋼組成等に応じて、上記の脱硫剤31、炭材、脱酸剤以外の副原料が溶鉄10へと供給されてもよい。
【0044】
1.8 アーク炉におけるその他の構成
アーク炉100は、上述の通り、鉄源を溶解させる溶解炉を有する。溶解炉は、炉蓋、炉内壁及び炉底によって画定され得る部分である。溶解炉の平面形状は、図1に示されるような円形部を有するものであるとよい。溶解炉は一定の浴深さや一定の炉直径を有するものであってよい。溶解炉の浴深さや炉直径は、特に限定されるものではない。
【0045】
図1には、上述の通り、アークを発生させる手段として、上部電極40のみを用いる交流形式のものを例示したが、アーク炉を発生させる手段はこれに限定されず、図2に示すように上部電極40及び下部電極50を用いた直流形式であってもよい直流形式である場合、上部電極40が陰極、下部電極50が陽極となり得る。上部電極40は、炉蓋を通して炉内に挿し込まれるように設置される。また、下部電極50は、炉底に設置される。直流形式である場合、上部電極40及び下部電極50の数は、各々、少なくとも1つである。上部電極40及び下部電極50の位置は、特に限定されるものではない。例えば、溶解炉における湯面形状が上面視(平面視)で略円形である場合、当該円形の中心位置が、1つの上部電極40や1つの下部電極50の中心軸と一致するようにしてもよい。或いは、上面視において、当該円形の中心位置の周囲に複数の上部電極40や複数の下部電極50が配置されるようにしてもよい。アーク炉100においては、不図示の電力供給部から上部電極40及び下部電極50へと電力が供給されて、上部電極40及び下部電極50の間にアークを生じさせる。電力供給部は、上部電極40及び下部電極50へ電力を供給するものとして一般的なものが採用されればよい。電力供給部から電極へと供給される電力は、電極間にアークを生じさせることができる限り、特に限定されるものではない。
【0046】
図1に示されるように、アーク炉100は、溶解炉内へと鉄源を装入するための、鉄源装入手段60を備えていてもよい。また、アーク炉100は、溶鉄10の表面に生成したスラグ等を除滓するための、除滓扉70を備えていてもよい。さらに、アーク炉100は、溶鉄10又は溶鋼を出湯するための、偏心炉底出湯口80を備えていてもよい。これらはいずれも公知の構成が採用されればよい。
【0047】
アーク炉100は、各種の制御部を備え得る。制御部は、例えば、送酸手段20から溶鉄10へと噴射される酸素噴流21の位置に応じて、脱硫剤供給手段30から溶鉄10へと供給される脱硫剤31の供給位置Pを制御するものであってもよいし、或いは、脱硫剤供給手段30から溶鉄10へと供給される脱硫剤31の供給位置Pに応じて、送酸手段20から溶鉄10へと噴射される酸素噴流21の位置を制御するものであってもよいし、或いは、送酸手段20から溶鉄10へと噴射される酸素噴流21の位置と、脱硫剤供給手段30から溶鉄10へと供給される脱硫剤31の供給位置Pとの双方を制御するものであってもよい。制御部は、上記の制御を実行可能なものであればよく、当該制御を実行可能するための公知の構成を備え得る。例えば、制御部は、CPU、RAM、ROM等を備えるものであってよい。
【0048】
1.9 溶鋼
本開示の方法によって製造される溶鋼の組成は、特に限定されるものではない。本開示の製造方法においては、上述の通り、溶鉄10に対して、酸素噴流21が噴射されるとともに、所定の位置Pに脱硫剤31が供給されることで、脱窒反応が進行する。本開示の方法によって製造される溶鋼は、例えば、Cを0.01質量%以上3.0質量%以下含むものであってもよく、Nを0.002質量%以上0.030質量%以下含むものであってもよく、Pを0.003質量%以上0.1質量%以下含むものであってもよい。溶鉄10に対して脱硫剤31を供給する前の窒素濃度と、脱硫剤31を供給した後の窒素濃度との差は、例えば、20ppm以上であってもよい。当該アーク炉100内の溶鋼は、例えば、上述の偏心炉底出湯口80を介して出鋼され得る。出鋼された溶鋼は、さらに精錬されてもよいし、或いは、そのまま連続鋳造等に供されてもよい。
【0049】
2.アーク炉
本開示の技術は、上記のような溶鋼の製造方法としての側面のほか、アーク炉としての側面も有する。すなわち、図1~3に示されるように、一実施形態に係るアーク炉100は、溶鉄10を処理するものであって、少なくとも1つの送酸手段20と、少なくとも1つの脱硫剤供給手段30とを備える。ここで、前記送酸手段20は、前記アーク炉100内の前記溶鉄10の表面10xに向かって酸素噴流21を噴射するように構成されている。また、前記脱硫剤供給手段30は、前記アーク炉100内の前記溶鉄10の表面10xの位置Pに向けて脱硫剤31を供給するように構成され、且つ、前記位置Pが前記酸素噴流21と前記溶鉄10との衝突面の内側の位置となるように構成されている。送酸手段20や脱硫剤供給手段30の詳細については上述の通りである。送酸手段20や脱硫剤供給手段30は、例えば、上述の制御部によって制御されてもよい。すなわち、一実施形態に係るアーク炉100は、さらに制御部を備え、前記制御部は、前記送酸手段20が、前記アーク炉100内の溶鉄10へと酸素噴流21を噴射し、且つ、前記脱硫剤供給手段30が、前記溶鉄10の表面の所定の位置Pに向けて脱硫剤31を供給するように、前記送酸手段20及び前記脱硫剤供給手段30のうちの一方又は両方を制御するものであってもよい。
【0050】
3.効果
一般的な送酸脱炭時の吸脱窒速度を支配する因子には、少なくとも、
(1)火点におけるCO発生速度
(2)火点におけるC-O反応サイトの温度
(3)CO気泡と溶鉄との間の気液反応界面積
(4)酸素噴流が巻き込む空気(ソフトブローで火点への連行量増大)
(5)溶鉄中の界面活性元素(例えば[S]が高いと反応速度低下)
が含まれるものと考えられる。本開示の溶鋼の製造方法においては、脱硫剤31が所定の位置Pに向けて供給されることで、火点における溶存硫黄(界面活性元素としての[S])が低減される。例えば、脱硫剤31としてCaOを主体とするものが採用された場合、下記反応式の通り脱硫反応が進行し、上記(5)の界面活性元素としての[S]を低減することができる。その結果、溶鉄10と気相との界面における[N]の吸着が進行し易くなり、溶鉄全体としての脱窒速度が向上し得る。また、脱硫剤31を高温場かつ(FeO)の生成サイトである火点へ供給することは、滓化を促進させてスラグ-メタル間の反応効率を高める観点からもメリットがある。
(CaO)+[S]→(CaS)+[O]
ここで、()はスラグ成分、[]はメタル成分であることを示す。
【実施例0051】
以下、実施例を示しつつ本発明についてさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいては、種々の条件を採用可能とするものである。
【0052】
本実施例においては、下記の構成(1)~(4)を有するアーク炉において、冷鉄源としてスクラップを使用して溶鋼の溶製を行った。
(1)溶解炉の炉殻径が7mである。
(2)一度に処理可能な最大溶鉄量が200tである。
(3)3本の上部黒鉛電極を用いる三相交流式である。
(4)送酸ランスと、送炭ランスと、送粉ランスと、シュートと、バーナーとを備える。
【0053】
本実施例においては、常法の電気炉操業方法を採用した。送酸と副原料の供給とは、それぞれ1か所ずつから実施し、各供給量は1000~4000Nm/h、10~100kg/minであり、使用するランスや副原料の供給位置、供給量のレンジを適宜変更した。また、一部の水準では、副原料の供給を炉蓋に設けられた副原料シュートにより投下することで行った。また、一部の水準では、副原料としての脱酸剤をバーナーで予熱してから供給するものとした。
【0054】
具体的には、各チャージにおいて、装入した冷鉄源がすべて溶解したことを炉体側部の除滓口より目視で確認したのちに、炉内壁に設置された固定式の送酸ランスより酸素ジェットを鉄浴に向けて噴射し、除滓口より炉内へと挿入した可動式の送粉ランスから脱硫剤(及び脱酸剤)を供給するか、又は、シュートから脱硫剤(及び脱酸剤)を供給し、さらに、可動式の送炭ランスから炭材を供給した。酸素ジェットと鉄浴との衝突面である火点の範囲は図3に示される関係から幾何学的に求め、送酸ランスの中心軸と鉄浴の交点Oから副原料の供給位置P、P、Pまでの水平距離r、r、rが所定の値となるように、可動式の送酸ランスの装入位置と吹込み角度とを調整した。送酸と副原料の供給とは10分間実施し、開始前後にサンプリングを実施して溶鉄・溶鋼の化学分析を行い、分析により得られた同一チャージ内の窒素濃度変化量Δ[N]から、各水準の優劣評価を行った。
【0055】
実施例及び比較例の各々の試験条件並びにΔ[N]については、下記表1に示される通りである。また、Δ[N]の評価基準は以下の通りである。
◎:Δ[N]≦-30ppm
○:-30ppm<Δ[N]≦-20ppm
△:-20ppm<Δ[N]≦0ppm
×:0ppm<Δ[N]
【0056】
下記表1に、各実施例と比較例の試験条件とΔ[N]に係る評価結果とを示す。尚、下記表1において、[S]とは、送酸及び脱硫を行う前の溶鉄に含まれる硫黄含有量であり、Δr=r-z=r-z(図3及び6参照)であり、Δr=r-z(図5参照)である。Δrがマイナスである場合、脱硫剤や脱酸剤が、酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の内側の位置に向けて供給されたことを意味する。Δrがプラスである場合、炭材が、酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の外側の位置に向けて供給されたことを意味する。
【0057】
【表1】
【0058】
尚、本実施例及び比較例においては、固定式の壁ランスから送酸し、除滓口から挿入した可動式ランスからキャリアガスとともに副原料を噴射するか、又は、シュートによって副原料を投入するものとしたが、各水準について、例えば、壁ランスから副原料を供給し、可動式ランスから送酸した場合であっても、Δ[N]に有意な差は認められず、表1に示されるものと同様の結果であった。すなわち、送酸手段や副原料投入手段の種類に特に制限はないことが分かった。また、本実施例及び比較例においては、脱酸剤を脱硫剤とともに供給するものとしたが、脱酸剤の供給と脱硫剤の供給とは互いに独立していてもよい。また、本実施例及び比較例において、アーク炉内に装入する冷鉄源の量を調整することで溶鉄量が変化した場合も、送酸ランスと湯面との幾何学的位置関係などが変化しないように、耐火物の配置を変更して調整した。
【0059】
また、各水準では、初回サンプリングの結果が[%C]=0.48~0.52であり、2回目のサンプリングの結果が[%C]=0.04~0.06であり、鉄浴由来の脱炭量は概ね同等であった。[N]については初回サンプリングの結果が[N]=70~75ppmであった。溶鉄に対して副原料としての炭材を吹き付ける場合は、炭材が溶鉄外部より連続的に供給されるため、鉄浴由来の炭素量にかかわらず所望の効果が発現することが分かった。
【0060】
また、本実施例及び比較例においては、脱硫剤として石灰(CaO)を主成分とするものを使用したが、マグネシア系(MgO)やカーバイド系(CaC)、ソーダ系(NaO)などから少なくとも1種類を含むものを用いてもよい。脱酸材としては金属Alを使用したが、金属Mg、金属Ca、金属Si、金属Mn、金属Zr、REMなどから選ばれる少なくとも1種の金属又は合金を用いてもよい。また、本実施例及び比較例においては、脱硫剤と脱酸剤とを、予め混合して混合物としたうえで、同一の供給手段によって炉内の同一位置(P=P)へと供給したが、上記脱硫剤と脱酸剤とは、互いに独立して供給されてもよいし、互いに並列して供給されてもよいし、上述の通り、混合物として供給されてもよい。
【0061】
表1に示される結果から、アーク炉において溶鋼を製造する場合は、以下の(1)及び(2)の要件が満たされることで、炉内の溶鉄の脱窒速度を向上させることができるものと言える。
(1)前記アーク炉内の溶鉄へと酸素噴流を噴射する。
(2)前記酸素噴流と前記溶鉄との衝突面の内側の位置Pに向けて脱硫剤を供給して、前記位置Pにおける溶存硫黄を低減することで、前記溶鉄の脱窒を進行させる。
【符号の説明】
【0062】
100 アーク炉
10 溶鉄
10x 溶鉄の表面(湯面)
20 送酸手段
21 酸素噴流
30 脱硫剤供給手段
31 脱硫剤
40 上部電極
50 下部電極
60 鉄源装入手段
70 除滓扉
80 偏心炉底出湯口
図1
図2
図3
図4
図5
図6