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  • 特開-形彫放電加工用電極 図1
  • 特開-形彫放電加工用電極 図2
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  • 特開-形彫放電加工用電極 図5
  • 特開-形彫放電加工用電極 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141890
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】形彫放電加工用電極
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/22 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B23H7/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053757
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229173
【氏名又は名称】日本タングステン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松尾 繁
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB01
3C059DA07
(57)【要約】
【課題】ワークにあける穴が非円形や、2以上の場合でも電極の内部に加工液を流す流路を確保して、高い加工速度で放電加工が行える形彫放電加工用電極を得る。
【解決手段】形彫放電加工用電極を、筒状外筒部の内部に筒の長さ方向で一様でない複数の突起部を設けた電極部を設けることで解決した。本形彫放電加工用電極は、電極の長さ方向に加工液を通すことができるために、放電が安定して加工速度が速く、電極を回転させることなくワークの芯が残らない加工が可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状外筒部の内部に、筒の長さ方向で一様でない、複数の突起部を設けた電極部を有する、形彫放電加工用電極。
【請求項2】
前記複数の突起部が、筒の両端部間を平行に結ぶいずれの直線上にも存在する、請求項1に記載の形彫放電加工用電極。
【請求項3】
前記複数の突起部は、筒の端部からもう一方の端部に直線的に光を通す、幅が放電ギャップ以下の貫通確認部を有し、
それ以外の筒の両端部間を平行に結ぶいずれの直線上にも設けられている、請求項1に記載の形彫放電加工用電極。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の電極部を複数有する形彫放電加工用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性の加工対象物(ワーク)に、放電加工にて加工を行うための形彫放電加工用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
形彫放電加工は古くから金属やその他の導電性材料のワークを加工するのに用いられている。
最近では三次元積層造形(いわゆる、3Dプリンタ)で形彫放電加工用電極も製造されている。(例えば、引用文献1)。
また、形彫放電加工において、特に円形の貫通穴をあけたい場合には、パイプ状の電極5が用いられる。パイプ状の電極5は、パイプ内部から加工液(油やイオン水)を流すことができ、加工屑を排出しやすいために、加工速度を上げることが可能である。また、パイプの内部に、同心円状でない長さ方向の「壁」を有する「コアレス」と呼ばれる電極を用いて、電極を回転させながら加工する方法も一般に用いられている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-066844号公報
【特許文献2】実開平01-081225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パイプ状の電極5は、円形の貫通穴をあける場合に用いられる。パイプ状電極の問題点は、図6(a)~(c)に示すように、放電加工が進むとパイプ内部で「芯」と呼ばれるワークの加工残りが発生し、この芯が折れた場合にはパイプのつまりや異常放電を招く点である(c)。

これに対し、先行技術文献2のコアレスと呼ばれるパイプの内径側に「壁」を持つパイプ電極を用い、電極を回転させながら放電加工を行えば、電極内の「壁」で前記の芯に当たる部分を同時に放電加工できるために、芯が残ることによる不具合を回避できる。

ところが、加工したい穴形状が四角形や楕円など、円形でない場合や、2つやそれ以上の穴を同時に加工する場合は、コアレス電極を回転させながらの加工が一括で行えず、加工屑を積極的に排出しながらの放電加工はできない。そのために、これらの場合には、総形の電極を作製し、電極の外部のみに加工液を流しながらの速度の遅く、安定しにくい放電加工しかできない。

本発明では、ワークにあける穴が非円形や、2以上の場合でも電極の内部に加工液を流す流路を確保して、高い加工速度で放電加工が行える形彫放電加工用電極を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、形彫放電加工用を、
筒状外筒部の内部に、筒の長さ方向で一様でない、複数の突起部を設けた電極部を有する、形彫放電加工用電極
とすることで、前記課題を解決した。
この形彫放電加工用電極は、前記複数の突起部が、筒の両端部間を平行に結ぶいずれの直線上にも存在する構成としてもよい。
また、この形彫放電加工用電極は、前記複数の突起部は、筒の端部からもう一方の端部に直線的に光を通す、幅が放電ギャップ以下の貫通確認部を有し、それ以外の筒の両端部間を平行に結ぶいずれの直線上にも設けていてもよい。
また、以上に述べた電極部を複数有していてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の形彫放電加工用電極を用いることで、非円形や、2以上の穴を同時にあける場合に、加工速度の速い放電加工が行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の形彫放電加工用電極の電極部の一形態
図2】コアレス電極の模式図
図3】本発明の形彫放電加工用電極の電極部の一形態
図4】本発明の形彫放電加工用電極の一形態
図5】本発明の形彫放電加工用電極の一形態
図6】パイプ状の電極を用いた形彫放電加工
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の形彫放電加工用電極について説明する。
本発明の形彫放電加工用電極は、
筒状外筒部の内部に、筒の長さ方向で一様でない、複数の突起部を設けた電極部を有する、形彫放電加工用電極
である。

筒状とは、円筒状や角筒状など、様々な形状を取り得るが、筒状になることの意義は、加工機の電極軸が筒の内部から加工液を噴射(あるいは吸引)し、加工屑を積極的に除去できることである。そのために、筒の先端側と、根元側とに加工液が通じる形状であればよい。

筒の長さ方向に一様ではないとは、電極断面の特定の位置から、電極長さ方向に平行に位置をずらした場合に、ある箇所では電極があり、ある位置では電極がない状態を示す(例として、図2に示すように、市販のコアレス電極6は長さ方向に一様である)。この構成とすることで、放電加工が進み、電極が一定の深さまで入った時点で、突起がなければ芯として残るワークの部分も放電加工されることになるために、加工液を通しながらも芯が残りにくくなる(図2)。突起部2は、例えば図1(a)、(b)に示すように段差を有していてもよいし、(c)に示すように段差なく電極の中心方向に向かって隆起していてもよい。

以上の電極を得るためには、例えばパイプ電極中に複数の棒状の電極材料を挿入して固定したり、3Dプリンタにて突起部分を形成したパイプ状電極を形成すればよい。この場合、例えば、電極の中央に向かって図3に示すように互い違いの突起部3を設けることが好ましい。

突起は、必ずしも筒の全長にわたって設ける必要はなく、先端部から一定範囲のみであってもよい。突起の形状は、特に限定するものではない。例えば図1(a)~(c)に示すように、扇形の形状、球形の一部の形状、三角錐形の形状や直方体でも構わないし、複数形状の組み合わせでもよい。

本発明の形彫放電加工用電極は前記構成に加えて、前記複数の突起部が、筒の両端部間を平行に結ぶいずれの直線上にも存在する構成としてよい。この構成とすることで、放電加工が進み、電極が一定の深さまで入った時点で、電極輪郭内のすべての位置のワークが放電加工されることになるために、加工液を通しながらも芯が残らなくなる。
また本発明の形彫放電加工用電極は、筒状外筒部の内部に、筒の長さ方向で一様でない、複数の突起部を設けた電極部を有するが、前記複数の突起部は、筒の端部からもう一方の端部に直線的に光を通す、幅が放電ギャップ以下の貫通確認部8を有し、それ以外の筒の両端部間を平行に結ぶいずれの直線上にも設けられた構造としてもよい。この貫通確認部8を有する構成とすることで、電極部を破壊検査や液体、気体等を流しての検査をすることなく、目視にて加工液を通す隙間が確保できているかをチェックができる。この構成は、穴が複数の場合や液体や気体などが通りにくい形状の場合に、電極の反対端部側から光を当てることにより、手間をかけることなく簡単に確認ができる。特に積層造形で電極部を製造する際には、筒内に造形残りの粉末が残っていないかの確認に有効である。形状の例を図4に示す。この例では、半円盤状の突起部3の円の中心に当たる部分に切り欠き部4を有し、図面上方から図面下方に向かって、細い光が通る。この光が通る部分が貫通確認部8である。

貫通確認部8は電極部の長さ方向と平行に設けてもよいし、そうでなくてもよい。平行に設けた場合には、その部分に該当するワークについては放電加工が行えないことになるが、貫通確認部8を放電ギャップの幅以下とすることにより、使用前に目視確認はでき、かつ、芯が残らないように放電加工が可能である。なお、貫通確認部8を長さ方向と平行に設けない場合は、放電ギャップの幅に関わらず芯は残らない加工が可能である。
放電ギャップは電極、ワーク、加工条件により幅があるが、一般には0.01~0.2mmである。そのために、貫通確認部8の電極部断面方向の大きさもこの幅以下とすることが好ましい。
【実施例0009】
(実施例1)
電極部として、長さ30mm、外寸2×2mm、内寸1.5mm×1.5mmの銅の四角パイプを準備した。別に長さ3mm、一辺1mmの複数の銅四角棒を準備し、表面に塗布タイプのハンダを塗った上で前記銅四角パイプ内径側のランダムな位置に複数付着させ、そのままハンダ付けを行った。図5に電極部の模式図を示す。
ハンダ付け後に観察したところ、四角パイプの端部から反対側には端部のどの点からも光が通らなかった。また、端部からエアブローをしたところ、反対側からもエアーの出が確認できた。そのためこの電極は、筒状外筒部の内部に、筒の長さ方向で一様でない、複数の突起部2を設けた構成である。
この電極部をそのまま放電加工機にセットし、内径側から加工液を噴射しながら超硬合金を加工したところ、筒内を加工液は問題なく流れ、長さ30mm、2×2mmの四角棒を用いて同様の加工を行った場合の2.5倍程度の速度で加工できた。また加工中、加工後にワークの芯は発生しなかった。
【0010】
(実施例2)
電極部として、長さ30mm、外径2mm、内径1mmの銅パイブ内径側に、直径1mmの半円形状の突起を長さ方向に互い違いに設けた形状の電極を3Dプリンタで形成した。半円形状の突起の、円の中心には、それぞれ0.05mmの半円切り欠き部4を設けている(図4)。この部分が貫通確認部8であり、電極の端部から反対側には貫通確認部8を通して細い光が通ることが簡単に確認できた。この電極部を2部有する一体型の形彫放電加工用電極1を作製した。この形彫放電加工用電極1を放電加工機にセットし、内径側から加工液を吸引しながら超硬合金を加工したところ、問題なく加工液はパイプ内を通り、一般的なコアレス電極6と同等の速度で2穴を同時に加工できた。また、加工中、加工後にワークの芯は発生しなかった。
【符号の説明】
【0011】
1 形彫放電加工用電極
2 突起部
3 半円盤状の突起部
4 切り欠き部
5 パイプ状の電極
6 コアレス電極
7 接合面
8 貫通確認部
図1
図2
図3
図4
図5
図6