(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014190
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】システム、及び、方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
A61B5/02 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116832
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】720009479
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
(72)【発明者】
【氏名】平田 穂奈美
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA04
4C017BD06
4C017CC02
(57)【要約】
【課題】高い精度で、心音が平常時の心音と異なることを検出する手段を提供すること。
【解決手段】システムは、検査対象の心音データである対象心音データの心拍数に対して所定範囲内の心拍数である心音データに対して機械学習が行われた比較心音モデルと、対象心音データと、を比較する。システムは、比較心音モデルと対象心音データとが一致していない場合、対象心音データが、平常時とは異なると判断する。システムは、対象心音データが、平常時とは異なると判断した場合、対象心音データに基づく波形と比較心音モデルに基づく波形とを表示する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の心音データである対象心音データの心拍数に対して所定範囲内の心拍数である心音データに対して機械学習が行われた比較心音モデルと、対象心音データと、を比較し、
比較心音モデルと対象心音データとが一致していない場合、対象心音データが、平常時とは異なると判断することを特徴とするシステム。
【請求項2】
平常時の心音データを記憶しており、
対象心音データの心拍数の入力を受け付け、
記憶している心音データの中から、入力を受け付けた対象心音データの心拍数から所定範囲内の心拍数であるデータを選択し、
選択したデータの集合である学習データに対して機械学習を行って比較心音モデルとすることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
平常時の複数の心音データを記憶しており、
対象心音データの心拍数の入力を受け付け、
記憶している複数の心音データの中から、入力を受け付けた対象心音データの心拍数に基づいて、心音データを選択し、
選択した心音データの中から、入力を受け付けた対象心音データの心拍数から所定範囲内の心拍数であるデータを選択し、
選択したデータの集合である学習データに対して機械学習を行って比較心音モデルとすることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
学習データから特徴量を抽出し、
抽出した特徴量に対して機械学習を行って比較心音モデルとすることを特徴とする請求項2又は3に記載のシステム。
【請求項5】
平常時の心音データの一拍毎のデータに対して心拍数をラベリングし、
心拍数をラベリングした平常時の心音データを記憶していることを特徴とする請求項2又は3に記載のシステム。
【請求項6】
平常時の複数の心音データに対して各心音データの平均心拍数をラベリングし、
平均心拍数をラベリングした平常時の心音データを記憶していることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
平常時の複数の心音データに対して各心音データの平均心拍数に対する偏差をラベリングし、
平均心拍数と偏差とをラベリングした平常時の心音データを記憶していることを特徴とする請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
記憶している心音データの中から選択するデータの心拍数の所定範囲の入力を受け付けることを特徴とする請求項2に記載のシステム。
【請求項9】
比較心音モデルと、対象心音データと、を比較し、比較心音モデルと対象心音データとの一致度を算出し、
比較心音モデルと対象心音データとの一致度が所定値を超えていない場合、対象心音データが、平常時とは異なると判断することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
対象心音データが、平常時とは異なると判断した場合、心音が平常時の心音と異なることを報知することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
対象心音データが、平常時とは異なると判断した場合、対象心音データに基づく波形と比較心音モデルに基づく波形とを表示することを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
対象心音データは、心音データから特徴量が抽出されたデータであることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
検査対象の心音データである対象心音データの心拍数に対して所定範囲内の心拍数である心音データに対して機械学習が行われた比較心音モデルと、対象心音データと、を比較し、
比較心音モデルと対象心音データとが一致していない場合、対象心音データが、平常時とは異なると判断することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心音が平常時の心音とは異なることを検出するためのシステム、及び、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心音が平常時の心音と異なること(以下、心音が平常時の心音と異なることを「異常」ともいう。)を検出する従来技術として、以下の技術がある。すなわち、被検者の心音波形が採取され、採取された心音波形は、重ね書きされることで、ノイズが低減され、基本的な心音波形が抽出、記録される。そして、基本的な心音波形と測定時の心音波形の位相とが合わされ、基本的な心音波形と測定時の心音波形との差分に基づいて、心音が異常か否かが判断される。
【0003】
特許文献1の要約には、以下の開示がある。
(1)波形抽出手段42(SA3)において、心音信号SHから、一拍毎に発生するII音を含む所定区間の心音波形が抽出波形WEIIとして抽出され、位相合わせ手段58(SA9)においてその抽出波形WEIIの位相が相互に一致するように合わせられ、加算手段60(SA9)においてその位相が合わせられた抽出波形WEIIが加算されることにより、一拍毎に発生する正常な心音および心雑音は重ね合わされ、前記外雑音は平均化される。
(2)そして、代表的抽出波形決定手段62(SA12)では加算手段60(SA9)において加算して得られた波形に基づいて代表的抽出波形WRが決定されるので、その代表的抽出波形WRを用いて心疾患の判断を正確に行なうことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機械学習・深層学習にて心音の異常を検出するための学習データを用意し、この学習データを用いて心音データを分類するためには、位相を合わせるだけでなく、平常時の波形の周期が近しい学習データの特徴量(FFT(fast Fourier transform、高速フーリエ変換)データ等)を用いて学習データを作成し、学習データと測定時の心音データと比較し、心音が異常か否かを検出するほうが、異常検出の精度が高い。
【0006】
本発明の目的は、高い精度で、心音が平常時の心音と異なることを検出する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明のシステムは、検査対象の心音データである対象心音データの心拍数に対して所定範囲内の心拍数である心音データに対して機械学習が行われた比較心音モデルと、対象心音データと、を比較し、比較心音モデルと対象心音データとが一致していない場合、対象心音データが、平常時とは異なると判断することを特徴とする。
【0008】
本発明では、検査対象の心音データである対象心音データの心拍数に対して所定範囲内の心拍数である心音データに対して機械学習が行われた比較心音モデルと、対象心音データと、が比較される。そして、比較心音モデルと対象心音データとが一致していない場合、対象心音データが、平常時とは異なると判断される。このように、心拍数(波形の周期)が近い心音との比較に基づいて、心音が平常時とは異なるか否かが判断されるため、高い精度で、心音が平常時の心音とは異なることを検出することができる。
【0009】
第2の発明のシステムは、第1の発明のシステムにおいて、平常時の心音データを記憶しており、対象心音データの心拍数の入力を受け付け、記憶している心音データの中から、入力を受け付けた対象心音データの心拍数から所定範囲内の心拍数であるデータを選択し、選択したデータの集合である学習データに対して機械学習を行って比較心音モデルとすることを特徴とする。
【0010】
第3の発明のシステムは、第1の発明のシステムにおいて、平常時の複数の心音データを記憶しており、対象心音データの心拍数の入力を受け付け、記憶している複数の心音データの中から、入力を受け付けた対象心音データの心拍数に基づいて、心音データを選択し、選択した心音データの中から、入力を受け付けた対象心音データの心拍数から所定範囲内の心拍数であるデータを選択し、選択したデータの集合である学習データに対して機械学習を行って比較心音モデルとすることを特徴とする。
【0011】
第4の発明のシステムは、第2又は第3の発明のシステムにおいて、学習データから特徴量を抽出し、抽出した特徴量に対して機械学習を行って比較心音モデルとすることを特徴とする。
【0012】
第5の発明のシステムは、第2又は第3の発明のシステムにおいて、平常時の心音データの一拍毎のデータに対して心拍数をラベリングし、心拍数をラベリングした平常時の心音データを記憶していることを特徴とする。
【0013】
第6の発明のシステムは、第2の発明のシステムにおいて、平常時の複数の心音データに対して各心音データの平均心拍数をラベリングし、平均心拍数をラベリングした平常時の心音データを記憶していることを特徴とする。
【0014】
第7の発明のシステムは、第6の発明のシステムにおいて、平常時の複数の心音データに対して各心音データの平均心拍数に対する偏差をラベリングし、平均心拍数と偏差とをラベリングした平常時の心音データを記憶していることを特徴とする。
【0015】
第8の発明のシステムは、第2の発明のシステムにおいて、記憶している心音データの中から選択するデータの心拍数の所定範囲の入力を受け付けることを特徴とする。
【0016】
第9の発明のシステムは、第1の発明のシステムにおいて、比較心音モデルと、対象心音データと、を比較し、比較心音モデルと対象心音データとの一致度を算出し、比較心音モデルと対象心音データとの一致度が所定値を超えていない場合、対象心音データが、平常時とは異なると判断することを特徴とする。
【0017】
第10の発明のシステムは、第1の発明のシステムにおいて、対象心音データが、平常時とは異なると判断した場合、心音が平常時の心音と異なることを報知することを特徴とする。
【0018】
第11の発明のシステムは、第1の発明のシステムにおいて、対象心音データが、平常時とは異なると判断した場合、対象心音データに基づく波形と比較心音モデルに基づく波形とを表示することを特徴とする。
【0019】
第12の発明のシステムは、第1の発明のシステムにおいて、対象心音データは、心音データから特徴量が抽出されたデータであることを特徴とする。
【0020】
第13の発明の方法は、検査対象の心音データである対象心音データの心拍数に対して所定範囲内の心拍数である心音データに対して機械学習が行われた比較心音モデルと、対象心音データと、を比較し、比較心音モデルと対象心音データとが一致していない場合、対象心音データが、平常時とは異なると判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い精度で、心音が平常時の心音とは異なることを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】平均心拍数と偏差とがラベリングされた心音データ等を示す図である。
【
図2】平常時の心音データからのデータの選択等を示す図である。
【
図3】対象心音データと比較心音モデルとの比較等を示す図である。
【
図4】対象心音データと比較心音モデルとを比較する場合のPCの処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係るシステムは、心音が平常時の心音とは異なることを検出する。以下、心音が平常時の心音とは異なることを、「心音の異常」とも表現する。システムは、例えば、パーソナルコンピューター(PC)によって構成される。PCには、例えば、心音の異常を検出するためのアプリケーションプログラムがインストールされ、アプリケーションプログラムが実行されることで、PCが心音の異常を検出するシステムとして機能する。PCには、被検者の心音を録音するためのデジタル聴診器が接続される。デジタル聴診器によって、心音が異常であるか否かが判断される被検者の心音が録音される。
【0024】
システムを構成するPCのハードディスクドライブ等の記憶部には、デジタル聴診器等によって録音された心音のデータである心音データが記憶されている。心音データは、心音が異常であるか否かを検査する被検者毎に記憶されている。心音データとして、平常時の連続した心音の波形データが、複数記憶されている。ここで、「心音データ」は、連続した心音のデータを指す。
【0025】
図1には、心音データとして、ファイル1~10が示されている(平常時 被検者心音データベース)。心音データには、データの採取後、平均心拍数と偏差とがPCによってラベルづけ(ラベリング)されている。例えば、
図1において、ファイル1には、ファイル1に含まれている心音の平均心拍数として「60」、偏差として「±1.0」がラベリングされている。
【0026】
PCは、心音が異常か否かを検出する、被検者の心音データ(検査対象の心音データ)である対象心音データの心拍数の入力を受け付ける。例えば、デジタル聴診器によって録音された心音データの心拍数が、「62」、「80」、「100」(3つの心音データ)であったとする。その中で、心拍数「62」の心音データが異常であるか否かを検出したい場合、利用者は、PCに心拍数として「62」を入力する(
図1参照。)。PCは、入力された「62」を、検査対象の心音データの心拍数として受け付ける。
【0027】
また、PCは、記憶している心音データの中から選択するデータの心拍数の所定範囲(許容範囲)の入力を受け付ける。例えば、異常であるか否かを検出する対象心音データの心拍数が、「62」であり、利用者は、心拍数「62」から「±0」の範囲内のデータが選択されるようにしたい場合、所定範囲(許容範囲)として、「±0」を入力する(
図1参照。)。なお、「心拍数の入力」、「所定範囲(許容範囲)の入力」には、複数の数値から所望の数値が選択されることも含む。
【0028】
このように、利用者は、心音が異常か否かを検出する、被検者の心音データ(検査対象の心音データ)である対象心音データの心拍数と、記憶されている心音データの中から選択されるデータの心拍数の所定範囲(許容範囲)と、を設定することができる。そして、PCは、心拍数及び許容範囲(以下、これらをあわせて、「照合心拍数」ともいう。)の設定を受け付ける。
【0029】
PCは、記憶している複数の心音データの中から、入力を受け付けた対象心音データの心拍数から所定範囲内の心拍数である心音データを選択する。言い換えれば、PCは、記憶している複数の心音データの中から、照合心拍数が含まれる可能性が高い心音データを参照する。例えば、PCは、心拍数として「62」、所定範囲(許容範囲)として「±0」の入力を受け付けた場合、
図1に示すように、記憶している複数の心音データ(ファイル1~10)の中から、平均心拍数「60」、偏差「±3.0」であるファイル2、平均心拍数「60」、偏差「±2.0」であるファイル4、平均心拍数「60」、偏差「±5.0」であるファイル7を選択する。
【0030】
図2には、選択したファイル7の内容が示されている。ファイルには、平常時の連続した心音の波形データが含まれており、一拍毎に、心拍数がラベリングされている。
図2においては、心拍数として、一拍毎に、「60」、「62」、「62」・・・がラベリングされている。PCは、選択した心音データの中から、入力を受け付けた対象心音データの心拍数から所定範囲内の心拍数であるデータを選択する。具体的には、PCは、平常時の心拍データから許容範囲内のデータを一拍ずつ、複数収集する。例えば、PCは、
図2に示すように、心拍データの中から、心拍数「62」のデータを選択する。
【0031】
PCは、
図3に示すように、選択したデータの集合である学習データから特徴量を抽出する。特徴量の抽出には、FFT(fast Fourier transform、高速フーリエ変換)等が用いられる。PCは、抽出した特徴量に対して機械学習を行って、対象心音データと比較するための比較心音モデルとする。一方で、PCは、デジタル聴診器等によって録音された被検者の心音データから、FFT等によって特徴量を抽出し、抽出した特徴量を、被検者の心音データ(検査対象の心音データ)である対象心音データ(抽出データ)とする。
【0032】
PCは、対象心音データ(抽出データ)と比較心音モデルとを比較する。PCは、対象心音データと比較心音モデルとが一致していない場合、対象心音データが、異常である(平常時とは異なる)と判断する。具体的には、PCは、比較心音モデルと、対象心音データと、を比較し、比較心音データと対象心音データとの一致度を算出する。PCは、比較心音モデルと対象心音データとの一致度が所定値を超えていない場合、対象心音データが、異常であると判断する。
【0033】
ここで、比較心音モデルの作成、比較心音モデルと対象心音データとの比較には、異常検出アルゴリズムが用いられる。異常検出アルゴリズムとしては、例えば、オートエンコーダによる異常検出が挙げられる。
【0034】
PCは、対象心音データが、異常であると判断した場合、心音が異常であることを報知する。例えば、PCは、心音が異常であること示すアラート(警告)をディスプレイに表示する。また、PCは、対象心音データが、異常であると判断した場合、対象心音データに基づく波形と比較心音データに基づく波形とを比較表示する。
【0035】
図4は、対象心音データと比較心音モデルとを比較する場合のPCの処理動作を示すフローチャートである。PCは、対象心音データと比較心音モデルとの一致度が0.9(所定値)を超えているか否かを判断する(S1)。PCは、対象心音データと比較心音モデルとの一致度が0.9を超えていると判断した場合(S1:Yes)、心音が異常である旨のアラート(警告)を表示する(S2)。次に、PCは、対象心音データに基づく波形(検査波形)と比較心音モデルに基づく波形(学習波形)とを比較表示する(S3)。PCは、対象心音データと比較心音モデルとの一致度が0.9を超えていないと判断した場合(S1:No)、処理を終了する。なお、対象心音データが異常であるか否かを判断するための数値0.9(所定値)は、適宜変更可能である。また、最終的な確定診断は、医師によって実施される。
【0036】
以上説明したように、本実施形態では、検査対象の心音データである対象心音データの心拍数に対して所定範囲内の心拍数である心音データに対して機械学習が行われた比較心音モデルと、対象心音データと、が比較される。そして、比較心音モデルと対象心音データとが一致していない場合、対象心音データが、異常である(平常時とは異なる)と判断される。このように、心拍数(波形の周期)が近い心音との比較に基づいて、心音が平常時とは異なるか否かが判断されるため、高い精度で、心音が平常時の心音とは異なることを検出することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上述の実施形態には限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、心音が平常時の心音とは異なることを検出するためのシステム、及び、方法に好適に採用され得る。