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特開2024-141907熱伝達抑制シート及び電池モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141907
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】熱伝達抑制シート及び電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   F16L 59/02 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 10/659 20140101ALI20241003BHJP
【FI】
F16L59/02
H01M10/659
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053780
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】女屋 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥啓
【テーマコード(参考)】
3H036
5H031
【Fターム(参考)】
3H036AA09
3H036AB13
3H036AB18
3H036AB23
3H036AB24
3H036AC03
3H036AE01
3H036AE04
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】多層構造にして断熱効果や防炎効果により優れることに加えて、熱暴走を起こした電池セルからの高熱や火炎を受けた場合にも多層構造を維持できる熱伝達抑制シート、及び上記熱伝達抑制シートを備え、安全性に優れた電池モジュールを提供する。
【解決手段】熱伝達抑制シート1は、断熱材10と、無機シート20とを含む積層体が、無機シート20の無機繊維よりも融点が低く、無機シート20の目開きよりも太い縫糸30で縫合されている。また、電池モジュール100は、蓄電池110を電池ケース120に収容し、かつ、電池ケース120の天蓋、側壁、底壁、並びに蓄電池110の間の少なくとも1つに上記熱伝達抑制シート1を配設している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱材と、無機シートとを含む積層体が、前記無機シートの無機繊維よりも融点が低く、前記無機シートの目開きよりも太い縫糸で縫合されている、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記無機シートが無機繊維クロス又は無機不織布であり、かつ、前記無機シートが前記無機繊維クロスの場合には、前記縫糸が前記無機クロスの目開きよりも太く、また、前記無機シートが前記無機不織布の場合には、前記無機不織布の最大目開きよりも太いことを特徴とする請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記断熱材は、無機粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記無機粒子は、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子及び水酸化アルミニウム粒子のうち少なくとも一種から選ばれることを特徴とする請求項3に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記縫糸は、無機繊維及び有機繊維のうち少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記縫糸は、ガラス繊維、シリカ繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、アラミド繊維及びナイロン繊維のうち少なくとも一種から選ばれることを特徴とする請求項5に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記無機シートは、シリカクロス及びアルミナクロスのうち少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記断熱材と、前記無機シートとが、接着剤層を介して接合されていることを特徴とする請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
蓄電池を電池ケースに収容し、かつ、前記電池ケースの天蓋、側壁、底壁、並びに前記蓄電池の間の少なくとも1つに、請求項1~8のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを配設した、電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝達抑制シート、及び熱伝達抑制シートを備える電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全のために、電気自動車などにリチウムイオン2次電池が用いられている。しかし、リチウムイオン2次電池は、有機電解液を使用しているために、熱暴走時に着火すると火炎が発生してバッテリーパックを損傷するおそれがある。
【0003】
その対策として、無機繊維や無機粒子などを含む断熱材や、複数種の層を積層して断熱効果や防炎効果を高めた熱伝達抑制シートが使用されている。例えば特許文献1では、第1の被覆層と第2の被覆層との間に、少なくとも1つの耐熱繊維層や、アルミニウム箔などの中間層を含む中間材を設けて積層した多層断熱要素を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2021-507483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の多層断熱要素では、被覆層及び中間材は接着により結合されている。そのため、繰り返し行われる充放電に伴って接着剤が劣化して接着力が低下したり、熱暴走を起こした電池セルからの高熱や、場合によっては火炎を受けて接着剤が消失する。また、曲げや捻じれなどの外力を受けた際に、接着剤が剥離するおそれもある。
【0006】
そこで本発明は、多層構造にして断熱効果や防炎効果により優れることに加えて、熱暴走を起こした電池セルからの高熱や火炎を受けた場合にも多層構造を維持できる熱伝達抑制シート、及び前記熱伝達抑制シートを備え、安全性に優れた電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、熱伝達抑制シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0008】
[1] 断熱材と、無機シートとを含む積層体が、前記無機シートの無機繊維よりも融点が低く、前記無機シートの目開きよりも太い縫糸で縫合されている、熱伝達抑制シート。
【0009】
また、熱伝達抑制シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[8]に関する。
【0010】
[2] 前記無機シートが無機繊維クロス又は無機不織布であり、かつ、前記無機シートが前記無機繊維クロスの場合には、前記縫糸が前記無機クロスの目開きよりも太く、また、前記無機シートが前記無機不織布の場合には、前記無機不織布の最大目開きよりも太いことを特徴とする[1]に記載の熱伝達抑制シート。
[3] 前記断熱材は、無機粒子を含むことを特徴とする[1]に記載の熱伝達抑制シート。
[4] 前記無機粒子は、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子及び水酸化アルミニウム粒子のうち少なくとも一種から選ばれることを特徴とする[3]に記載の熱伝達抑制シート。
[5] 前記縫糸は、無機繊維及び有機繊維のうち少なくとも一種であることを特徴とする[1]に記載の熱伝達抑制シート。
[6] 前記縫糸は、ガラス繊維、シリカ繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、アラミド繊維及びナイロン繊維のうち少なくとも一種から選ばれることを特徴とする[5]に記載の熱伝達抑制シート。
[7] 前記無機シートは、シリカクロス及びアルミナクロスのうち少なくとも一種であることを特徴とする[1]に記載の熱伝達抑制シート。
[8] 前記断熱材と、前記無機シートとが、接着剤層を介して接合されていることを特徴とする[1]に記載の熱伝達抑制シート。
【0011】
また、本発明の上記目的は、電池モジュールに係る下記[9]の構成により達成される。
【0012】
[9] 蓄電池を電池ケースに収容し、かつ、前記電池ケースの天蓋、側壁、底壁、並びに前記蓄電池の間の少なくとも1つに、[1]~[8]のいずれか1つに記載の熱伝達抑制シートを配設した、電池モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱伝達抑制シートは、断熱材と無機シートとを含む積層体であり、無機シートが、熱暴走を起こした電池セルからの金属片等の飛散物が断熱材に直接衝突することを防止する。また、積層体を縫合により一体化しているが、縫糸は無機シートの無機繊維よりも融点が低く、無機シートの目開きよりも太いため、熱暴走を起こした電池セルからの高熱や火炎を受けた際に、縫糸の縫目が溶融して無機シートの目開きを塞いで凝固し、この凝固物がストッパーとして機能して積層構造を維持する。
【0014】
また、本発明の電池モジュールは、本発明の熱伝達抑制シートが電池ケースや蓄電池間に配設されているため、熱暴走が起こったとしても、外部への延焼をより確実に防ぐことができ、安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の熱伝達抑制シートの一例を示す分解断面図である。
図2図2は、無機シート側が高熱又は火炎を受けた時の熱伝達抑制シートの断面を模式的に示す断面図である。
図3図3は、無機シート側が火炎を受けた後の無機シートの表面を撮影した図面代用写真である。
図4図4は、本発明の電池モジュールの実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0017】
[熱伝達抑制シート]
図1に分解断面図で示すように、本実施形態の熱伝達抑制シート1は、断熱材10と、無機シート20とを有する積層体を、縫糸30で縫合して一体化したものである。
【0018】
以下に、断熱材10、無機シート20及び縫糸30について詳述する。
【0019】
<断熱材10>
(無機繊維)
断熱材10は、断熱性能に優れることから、無機粒子と、無機粒子を保持するための無機繊維とを含む。無機繊維は、断熱材10に通常使用される無機繊維を用いることができるが、平均繊維径、形状及びガラス転移点から選択された少なくとも1種の性状が互いに異なる第1の無機繊維及び第2の無機繊維を有することが好ましい。性状が互いに異なる2種の無機繊維を含有することにより、断熱材10の機械的強度、並びに無機粒子の保持性を向上させることができる。
【0020】
(平均繊維径及び繊維形状が異なる2種の無機繊維)
2種の無機繊維を含有する場合に、第1の無機繊維の平均繊維径が、第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きく、第1の無機繊維が線状又は針状であり、第2の無機繊維が樹枝状又は縮れ状であることが好ましい。平均繊維径が大きい(太径の)第1の無機繊維は、断熱材10の機械的強度や形状保持性を向上させる効果を有する。2種の無機繊維のうち一方、例えば、第1の無機繊維を第2の無機繊維よりも太径にすることにより、上記効果を得ることができる。熱伝達抑制シート1には、外部からの衝撃が作用することがあるため、断熱材10に第1の無機繊維が含まれることにより、耐衝撃性が高まる。外部からの衝撃としては、例えば電池セルの膨張による押圧力や、電池セルの発火による風圧などである。
【0021】
また、断熱材10の機械的強度や形状保持性を向上させるためには、第1の無機繊維が線状又は針状であることが特に好ましい。なお、線状又は針状の繊維とは、後述の捲縮度が例えば10%未満、好ましくは5%以下である繊維をいう。
【0022】
より具体的には、第1の無機繊維の平均繊維径は1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。第1の無機繊維が太すぎると、成形性や加工性が低下するおそれがあるため、第1の無機繊維の平均繊維径は20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。
【0023】
なお、第1の無機繊維は長すぎても成形性や加工性が低下するおそれがあるため、繊維長を100mm以下とすることが好ましい。さらに、第1の無機繊維は短すぎても形状保持性や機械的強度が低下するため、繊維長を0.1mm以上とすることが好ましい。
【0024】
一方、平均繊維径が細い(細径の)第2の無機繊維は、保持性を向上させるとともに、断熱材10の柔軟性を高める効果を有する。したがって、第2の無機繊維を第1の無機繊維よりも細径にすることが好ましい。
【0025】
より具体的に、保持性を向上させるためには、第2の無機繊維は変形が容易で、柔軟性を有することが好ましい。したがって、細径である第2の無機繊維は、平均繊維径が1μm未満であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。ただし、細すぎると破断しやすく、保持能力が低下する。また、繊維が絡み合ったままで断熱材10中に存在する割合が多くなり、保持能力の低下に加えて、成形性や形状保持性にも劣るようになる。そのため、第2の無機繊維の平均繊維径は1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
【0026】
なお、第2の無機繊維は、長くなりすぎると成形性や形状保持性が低下するため、第2の無機繊維の繊維長は0.1mm以下であることが好ましい。さらに、第2の無機繊維は、短すぎても形状保持性や機械的強度が低下するため、繊維長を1μm以上とすることが好ましい。
【0027】
また、第2の無機繊維は、樹枝状又は縮れ状であることが好ましい。第2の無機繊維がこのような形状であると、無機粒子と良好に絡み合い、保持能力が向上する。また、断熱材10が押圧力や風圧を受けた際に、第2の無機繊維が滑って移動することが抑制され、このことにより、特に外部からの押圧力や衝撃に抗する機械的強度が向上する。
【0028】
なお、樹枝状とは、2次元的又は3次元的に枝分かれした構造であり、例えば羽毛状、テトラポット形状、放射線状、立体網目状である。
【0029】
第2の無機繊維が樹枝状である場合に、その平均繊維径は、SEMによって幹部及び枝部の径を数点測定し、これらの平均値を算出することにより得ることができる。
【0030】
また、縮れ状とは、繊維が様々な方向に屈曲した構造である。縮れ形態を定量化する方法の一つとして、電子顕微鏡写真からその捲縮度を算出することが知られており、例えば下記式から算出することができる。
捲縮度(%)=(繊維長さ-繊維末端間距離)/(繊維長さ)×100
ここで、繊維長さ、繊維末端間距離ともに電子顕微鏡写真上での測定値である。すなわち、2次元平面上へ投影された繊維長、繊維末端間距離であり、現実の値よりも短くなっている。この式に基づき、第2の無機繊維の捲縮度は10%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。捲縮度が小さいと、保持能力が低下し、第2の無機繊維同士、第1の無機繊維と第2の無機繊維との絡み合い(ネットワーク)が形成されにくくなる。
【0031】
(ガラス転移点が互いに異なる2種の無機繊維)
2種の無機繊維を含有する場合に、第1の無機繊維は非晶質の繊維であり、第2の無機繊維は、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種の繊維であることが好ましい。
【0032】
結晶質の無機繊維の融点は、通常非晶質の無機繊維のガラス転移点より高い。そのため、第1の無機繊維は、高熱に晒されると、その表面が第2の無機繊維より先に軟化して、無機粒子を結着する。したがって、第1の無機繊維を含有させることにより、断熱材10の機械的強度を向上させることができる。
【0033】
第1の無機繊維としては、具体的には、融点が700℃未満である無機繊維が好ましく、多くの非晶質の無機繊維を用いることができる。中でも、SiOを含む繊維であることが好ましく、安価で、入手も容易で、取扱い性等に優れることから、ガラス繊維であることがより好ましい。
【0034】
第2の無機繊維は、上述のとおり、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維である。第2の無機繊維としては、多くの結晶性の無機繊維を用いることができる。
【0035】
第2の無機繊維が結晶質の繊維からなるものであるか、又は第1の無機繊維よりもガラス転移点が高いものであると、高熱にさらされたときに、第1の無機繊維が軟化しても、第2の無機繊維は溶融又は軟化しない。したがって、例えば電池モジュールに適用した場合、熱暴走が起こっても形状を維持する。
【0036】
また、第2の無機繊維が溶融又は軟化しないと、粒子間、無機粒子と繊維との間、及び各繊維間における微小な空間が維持されるため、空気による断熱効果が発揮される。
【0037】
第2の無機繊維が結晶質である場合に、具体的には、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維、カーボンファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミックファイバ、エアロゲル複合材、マグネシウムシリケート繊維、アルカリアースシリケート繊維、チタン酸カリウム繊維等のセラミックス系繊維、ガラス繊維、グラスウール等のガラス系繊維、ロックウール、バサルトファイバ、上記以外の鉱物系繊維として、ウォラストナイト等の天然鉱物系繊維等を使用することができる。
【0038】
また、融点が1000℃を超えるものであると、電池セルの熱暴走が発生しても、第2の無機繊維は溶融又は軟化せず、その形状を維持することができるため、好適に使用することができる。上記第2の無機繊維として挙げられた繊維のうち、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維及びアルミナシリケート繊維等のセラミックス系繊維、並びに天然鉱物系繊維を使用することがより好ましく、この中でも融点が1000℃を超えるものを使用することが更に好ましい。
【0039】
また、第2の無機繊維が非晶質である場合であっても、第1の無機繊維よりもガラス転移点が高い繊維であれば、使用することができる。例えば、第1の無機繊維よりガラス転移点が高いガラス繊維を第2の無機繊維として用いてもよい。
【0040】
なお、第2の無機繊維としては、例示した種々の無機繊維を単独で使用してもよいし、2種以上を混合使用してもよい。
【0041】
上記のとおり、第1の無機繊維は第2の無機繊維よりもガラス転移点が低く、高熱にさらされたときに、第1の無機繊維が先に軟化するため、第1の無機繊維で無機粒子を結着することができる。しかし、例えば、第2の無機繊維が非晶質であって、その繊維径が第1の無機繊維の繊維径よりも細い場合に、第1の無機繊維と第2の無機繊維とのガラス転移点が接近していると、第2の無機繊維が先に軟化するおそれがある。したがって、第2の無機繊維が非晶質の繊維である場合に、第2の無機繊維のガラス転移点は、第1の無機繊維のガラス転移点よりも100℃以上高いことが好ましく、300℃以上高いことがより好ましい。
【0042】
なお、第1の無機繊維の繊維長は、100mm以下であることが好ましく、0.1mm以上とすることが好ましい。第2の無機繊維の繊維長は、0.1mm以下であることが好ましい。これらの理由については、上記したとおりである。
【0043】
(ガラス転移点及び平均繊維径が互いに異なる2種の無機繊維)
2種の無機繊維を含有する場合に、第1の無機繊維は非晶質の繊維であり、第2の無機繊維は、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び、結晶質の繊維から選択される少なくとも1種の繊維であり、第1の無機繊維の平均繊維径が、第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きいことが好ましい。
【0044】
上述のとおり、第1の無機繊維の平均繊維径が、第2の無機繊維よりも大きいことが好ましい。また、太径の第1の無機繊維が非晶質の繊維であり、細径の第2の無機繊維が、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維であることが好ましい。これにより、第1の無機繊維のガラス転移点が低く、早く軟化するため、温度の上昇に伴って膜状となって硬くなる。一方、細径である第2の無機繊維が、第1の無機繊維よりガラス転移点が高い非晶質の繊維、及び結晶質の繊維から選択される少なくとも1種からなる繊維であると、温度が上昇しても細径の第2の無機繊維が繊維の形状で残存するため、断熱材10の構造を保持し、粉落ちを防止することができる。
【0045】
なお、この場合であっても、第1の無機繊維の繊維長は、100mm以下であることが好ましく、0.1mm以上とすることが好ましい。第2の無機繊維の繊維長は、0.1mm以下であることが好ましい。これらの理由については、上記したとおりである。
【0046】
(第1の無機繊維及び第2の無機繊維の各含有量)
2種の無機繊維を含有する場合に、第1の無機繊維の含有量は、断熱材10の全質量に対して3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、第2の無機繊維の含有量は、断熱材10の全質量に対して3質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0047】
また、第1の無機繊維の含有量は、断熱材10の全質量に対して、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、第2の無機繊維の含有量は、断熱材10の全質量に対して、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。このような含有量にすることにより、第1の無機繊維による形状保持性や押圧力耐性、抗風圧性、及び第2の無機繊維による無機粒子の保持能力がバランスよく発現される。
【0048】
(無機粒子)
無機粒子は、平均二次粒子径が0.01μm以上であると、入手しやすく、製造コストの上昇を抑制することができる。また、200μm以下であると、所望の断熱効果を得ることができる。したがって、無機粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0049】
無機粒子として、単一の無機粒子を使用してもよいし、2種以上の無機粒子(第1の無機粒子及び第2の無機粒子)を組み合わせて使用してもよい。第1の無機粒子及び第2の無機粒子としては、熱伝達抑制効果の観点から、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子を使用することが好ましく、酸化物粒子を使用することがより好ましい。また、第1の無機粒子及び第2の無機粒子の形状についても特に限定されないが、ナノ粒子、中空粒子及び多孔質粒子から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、具体的には、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することもできる。
【0050】
なお、2種以上の熱伝達抑制効果が互いに異なる無機粒子を併用すると、多段に冷却することができ、吸熱作用をより広い温度範囲で発現できる。具体的には、大径粒子と小径粒子とを混合使用することが好ましい。例えば、一方の無機粒子として、ナノ粒子を使用する場合に、他方の無機粒子として、金属酸化物からなる無機粒子を含むことが好ましい。以下、小径の無機粒子を第1の無機粒子、大径の無機粒子を第2の無機粒子として、無機粒子についてさらに詳細に説明する。
【0051】
(第1の無機粒子)
(酸化物粒子)
第1の無機粒子として、酸化物粒子が好ましい。酸化物粒子は屈折率が高く、光を乱反射させる効果が強いため、特に異常発熱などの高熱度領域において輻射伝熱を抑制することができる。酸化物粒子としては、シリカ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子、チタン酸バリウム粒子、酸化亜鉛粒子及びアルミナ粒子から選択された少なくとも1種の粒子を使用することができる。特に、シリカは断熱性が高い成分であり、チタニアは他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であって、500℃以上の高熱度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、酸化物粒子としてシリカ及びチタニアを用いることが最も好ましい。
【0052】
酸化物粒子の粒子径は、輻射熱を反射する効果に影響を与えることがあるため、平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。すなわち、酸化物粒子の平均一次粒子径が0.001μm以上であると、加熱に寄与する光の波長よりも十分に大きく、光を効率よく乱反射させるため、500℃以上の高熱度領域において熱伝達抑制シート内における熱の輻射伝熱が抑制され、より一層断熱性を向上させることができる。一方、酸化物粒子の平均一次粒子径が50μm以下であると、圧縮されても粒子間の接点や数が増えず、伝導伝熱のパスを形成しにくいため、特に伝導伝熱が支配的な通常温度域の断熱性への影響を小さくすることができる。
【0053】
なお、本実施形態において平均一次粒子径は、顕微鏡で粒子を観察し、標準スケールと比較し、任意の粒子10個の平均をとることにより求めることができる。
【0054】
(ナノ粒子)
第1の無機粒子としてナノ粒子が好ましく、ナノ粒子は低密度であるため伝導伝熱を抑制し、更に空隙が細かく分散するため、対流伝熱を抑制する優れた断熱性を得ることができる。このため、通常の常温域の電池使用時において、隣接するナノ粒子間の熱の伝導を抑制することができる点で、ナノ粒子を使用することが好ましい。
【0055】
なお、ナノ粒子とは、球形又は球形に近い平均一次粒子径が1μm未満のナノメートルオーダーの粒子を表す。
【0056】
また、酸化物粒子として、平均一次粒子径が小さいナノ粒子を使用すると、電池セルの熱暴走に伴う膨張によって断熱材の内部密度が上がった場合であっても、断熱材の伝導伝熱の上昇を抑制することができる。これは、ナノ粒子が静電気による反発力で粒子間に細かな空隙ができやすく、かさ密度が低いため、クッション性があるように粒子が充填されるからであると考えられる。
【0057】
なお、第1の無機粒子としてナノ粒子を使用する場合に、上記ナノ粒子の定義に沿ったものであれば、材質について特に限定されない。例えば、シリカナノ粒子は、断熱性が高い材料であることに加えて、粒子同士の接点が小さいため、シリカナノ粒子により伝導される熱量は、粒子径が大きいシリカ粒子を使用した場合と比較して小さくなる。また、一般的に入手されるシリカナノ粒子は、かさ密度が0.1(g/cm)程度であるため、例えば、断熱材に対して大きな圧縮応力が加わった場合であっても、シリカナノ粒子同士の接点の大きさ(面積)や数が著しく大きくなることはなく、断熱性を維持することができる。したがって、ナノ粒子としてはシリカナノ粒子を使用することが好ましい。シリカナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ及びエアロゲル等を使用することができる。
【0058】
ナノ粒子の平均一次粒子径を所定の範囲に限定すると、より一層高い断熱性を得ることができる。すなわち、ナノ粒子の平均一次粒子径を1nm以上100nm以下とすると、特に500℃未満の温度領域において、断熱材10内における熱の対流伝熱及び伝導伝熱を抑制することができ、断熱性をより一層向上させることができる。また、圧縮応力が印加された場合であっても、ナノ粒子間に残った空隙と、多くの粒子間の接点が伝導伝熱を抑制し、断熱性を維持することができる。また、ナノ粒子の平均一次粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることが更に好ましい。一方、ナノ粒子の平均一次粒子径は、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0059】
(無機水和物粒子)
無機水和物粒子は、熱暴走を起こした電池セル等の熱源からの高熱を受けて熱分解開始温度以上になると熱分解し、自身が持つ結晶水を放出して熱源及びその周囲の温度を下げる、所謂「吸熱作用」を発現する。また、結晶水を放出した後は多孔質体となり、無数の空気孔により断熱作用を発現する。
【0060】
無機水和物の具体例として、水酸化アルミニウム(Al(OH))、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH))、水酸化亜鉛(Zn(OH))、水酸化鉄(Fe(OH))、水酸化マンガン(Mn(OH))、水酸化ジルコニウム(Zr(OH))、水酸化ガリウム(Ga(OH))等が挙げられる。
【0061】
例えば、水酸化アルミニウムは約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解して結晶水を放出して吸熱作用を発現する。そして、結晶水を放出した後は多孔質体であるアルミナ(Al)となり、断熱材として機能する。
2Al(OH)→Al+3H
【0062】
なお、熱暴走を起こした電池セルでは、200℃を超える温度に急上昇し、700℃付近まで温度上昇を続ける。したがって、無機粒子としては熱分解開始温度が200℃以上である無機水和物からなることが好ましい。
【0063】
上記に挙げた無機水和物の熱分解開始温度は、水酸化アルミニウムは約200℃、水酸化マグネシウムは約330℃、水酸化カルシウムは約580℃、水酸化亜鉛は約200℃、水酸化鉄は約350℃、水酸化マンガンは約300℃、水酸化ジルコニウムは約300℃、水酸化ガリウムは約300℃であり、いずれも熱暴走を起こした電池セルの急激な昇温の温度範囲とほぼ重なり、温度上昇を効率よく抑えることができることから、好ましい無機水和物であるといえる。
【0064】
また、無機水和物粒子の平均粒子径が大きすぎると、断熱材10の中心付近にある無機水和物粒子が、その熱分解温度に達するまでにある程度の時間を要するため、断熱材10の中心付近の無機水和物粒子が熱分解しきれない場合がある。このため、無機水和物粒子の平均二次粒子径は、0.01μm以上200μm以下であることが好ましく、0.05μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0065】
(熱膨張性無機材料からなる粒子)
熱膨張性無機材料としては、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライト等を挙げることができる。
【0066】
(含水多孔質体からなる粒子)
含水多孔質体の具体例としては、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲル、マイカ、バーミキュライト等が挙げられる。
【0067】
(無機バルーン)
無機バルーンが含まれると、500℃未満の温度領域において、断熱材10内における熱の対流伝熱又は伝導伝熱を抑制することができ、断熱材10の断熱性をより一層向上させることができる。
【0068】
無機バルーンとしては、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、バーライトバルーン、及びガラスバルーンから選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0069】
無機バルーンの含有量としては、断熱材10の全質量に対し、60質量%以下が好ましい。
【0070】
また、無機バルーンの平均粒子径としては、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0071】
(第2の無機粒子)
第2の無機粒子は、第1の無機粒子と材質や粒子径等が異なっていれば特に限定されない。第2の無機粒子としては、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子、無機水和物粒子、シリカナノ粒子、金属酸化物粒子、マイクロポーラス粒子や中空シリカ粒子等の無機バルーン、熱膨張性無機材料からなる粒子、含水多孔質体からなる粒子等を使用することができ、これらの詳細については、上述のとおりである。
【0072】
なお、ナノ粒子は伝導伝熱が極めて小さいとともに、断熱材10に圧縮応力が加わった場合であっても、優れた断熱性を維持することができる。また、チタニア等の金属酸化物粒子は、輻射熱を遮る効果が高い。さらに、大径の無機粒子と小径の無機粒子とを使用すると、大径の無機粒子同士の隙間に小径の無機粒子が入り込むことにより、より緻密な構造となり、熱伝達抑制効果を向上させることができる。したがって、上記第1の無機粒子として、ナノ粒子を使用した場合に、さらに、第2の無機粒子として、第1の無機粒子よりも大径である金属酸化物からなる粒子を、断熱材10に含有させることが好ましい。
【0073】
金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、酸化亜鉛、ジルコン、酸化ジルコニウム等を挙げることができる。特に、酸化チタン(チタニア)は他の金属酸化物と比較して屈折率が高い成分であり、500℃以上の高熱度領域において光を乱反射させ輻射熱を遮る効果が高いため、チタニアを用いることが最も好ましい。
【0074】
第2の無機粒子の平均一次粒子径は、1μm以上50μm以下であると、500℃以上の高熱度領域で効率よく輻射伝熱を抑制することができる。第2の無機粒子の平均一次粒子径は、5μm以上30μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。
【0075】
(その他の配合材料)
断熱材10には、上記第1の無機繊維及び第2の無機繊維の他に、異なる無機繊維が含まれていてもよい。また、有機バインダや有機繊維、無機粒子を含んでもよい。
【0076】
(樹脂バインダ)
上記無機繊維は、樹脂バインダにより結着することもできる。樹脂バインダとしては、後述する有機繊維のガラス転移点よりも低いガラス転移点を有するものであれば、特に限定されない。例えば、スチレン-ブタジエン樹脂、アクリル樹脂、シリコン-アクリル樹脂及びスチレン樹脂から選択された少なくとも1種を含む樹脂バインダ9を使用することができる。
【0077】
樹脂バインダのガラス転移点は特に規定しないが、-10℃以上であることが好ましい。なお、樹脂バインダ9のガラス転移点が室温以上であると、樹脂バインダを有する断熱材が室温で使用された場合に、断熱材10の強度をより一層向上させることができる。したがって、樹脂バインダのガラス転移点は、例えば20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、50℃以上であることがさらにより好ましく、60℃以上であることが特に好ましい。
【0078】
樹脂バインダの含有量は、断熱材10の全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0079】
(有機繊維)
上記無機繊維の他に、有機繊維を含有してもよい。有機繊維としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維及びエチレン-ビニルアルコール共重合体繊維から選択された少なくとも1種を使用することができる。
【0080】
なお、断熱材の製造は抄造法にて行うことができるが、その際に加熱温度を250℃よりも高くすることは困難であるため、有機繊維のガラス転移点は、250℃以下とすることが好ましく、200℃以下とすることがより好ましい。
【0081】
有機繊維のガラス転移点の下限値も特に限定されないが、上記樹脂バインダのガラス転移点との差が10℃以上であれば、製造時の冷却工程において、半溶融状態であった有機繊維が完全に固化した後に、樹脂バインダが固化するため、樹脂バインダによる骨格の補強効果を十分に得ることができる。したがって、樹脂バインダのガラス転移点と、有機繊維のガラス転移点との差は、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。
【0082】
一方、両者のガラス転移点の差が130℃以下であると、有機繊維が完全に固化してから、樹脂バインダが固化し始めるまでの時間を適切に調整することができ、樹脂バインダが良好な分散状態のまま固化するため、より一層骨格の補強効果を得ることができる。したがって、樹脂バインダのガラス転移点と、有機繊維のガラス転移点との差は、130℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましく、80℃以下であることがさらにより好ましく、70℃以下であることが特に好ましい。
【0083】
また、2種類以上の有機繊維を含むこともできるが、その場合に、少なくとも1種の有機繊維が骨格として作用する有機繊維、すなわち、樹脂バインダのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する有機繊維であればよい。なお、樹脂バインダのガラス転移点と、少なくとも1種の有機繊維のガラス転移点との差は、上記と同様に、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、130℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましく、80℃以下であることがさらにより好ましく、70℃以下であることが特に好ましい。
【0084】
有機繊維及び樹脂バインダの含有量が適切に制御されていると、有機繊維による骨格としての機能を十分に得ることができるとともに、樹脂バインダによる骨格の補強効果を十分に得ることができる。有機繊維の含有量は、断熱材10の全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、12質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。なお、樹脂バインダのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有する複数の有機繊維を含む場合に、これら複数の有機繊維の合計量が、上記有機繊維の含有量の範囲内であることが好ましい。
【0085】
上述のとおり、2種類以上の有機繊維を含む場合に、少なくとも1種の有機繊維が、樹脂バインダのガラス転移点よりも高いガラス転移点を有するものであればよいが、その他の有機繊維として、ガラス転移点を有さない結晶状態の有機繊維を含有することがより好ましい。
【0086】
ガラス転移点を有さない結晶状態の有機繊維を含有することもできるが、この結晶状態の有機繊維は軟化点を持たないため、骨格となる有機繊維が軟化するような高熱に晒された場合であっても、断熱材10の全体としての強度を維持することができる。また、結晶状態の有機繊維を含有することにより、常温において、この有機繊維も断熱材10の骨格として作用する。したがって、断熱材10の柔軟性や取り扱い性を向上させることができる。
【0087】
なお、結晶状態の有機繊維としては、ポリエステル(PET)繊維が挙げられる。
【0088】
また、断熱材10の製造において抄造法を行う際に、分散液として水を使用することが好ましいが、有機繊維は水への溶解度が低いことが好ましい。水への溶解度を示す指標として「水中溶解温度」を使用できるが、有機繊維の水中溶解温度は60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。
【0089】
有機繊維の繊維長についても特に限定されないが、成形性や加工性を確保する観点から、平均繊維長は10mm以下とすることが好ましい。一方、有機繊維を骨格として機能させ、断熱材の圧縮強度を確保する観点から、平均繊維長は0.5mm以上とすることが好ましい。
【0090】
これら有機繊維も、無機粒子と同様に、上記した無機繊維により良好に保持される。
【0091】
(製造方法)
断熱材10の形成材料は上記のとおりであるが、断熱材10を製造するには、抄造法を行うことができる。すなわち、断熱材10の形成材料である無機粒子や無機繊維、他の配合材料を水に分散させ、その分散液を脱水、成形、乾燥して製造する。
【0092】
また、乾式法で製造することもできる。すなわち、断熱材10の形成材料である無機粒子や無機繊維、他の配合材料を適当な混合機に投入し、十分に分散させ、プレス成形して製造する。
【0093】
<無機シート20>
無機シート20として、無機繊維クロスや無機不織布を用いることができる。無機シート20の無機繊維には制限はなく、上記した断熱材10に使用される無機繊維を用いることもできる。中でも、安価で、取扱性に優れ、高い耐熱性を有することなどから、シリカ繊維やアルミナ繊維、ガラス繊維及び金属繊維が好ましく、縫合のし易さから、シリカクロス及びアルミナクロスのうち少なくとも一種がより好ましい。
【0094】
無機繊維クロスは、これら無機繊維を布状に織ったものであれば、繊維径など形状的な制限はない。また、無機不織布は、これら無繊繊維の抄造体である。なお、熱暴走を起こした電池セルからの飛散物の衝突を防止することを考慮すると、これらの目開きは小さい方が好ましい。無機不織布の目開きは、無機不織布を光学顕微鏡にセットして、モニターにその画像を映し出し、画像上で大きさを読み取ることができる。
【0095】
<縫糸30>
縫糸30を用いて、断熱材10と無機シート20とを縫合する。縫糸30は、無機シート20の無機繊維よりも融点が低く、無機シート20の目開きよりも太い繊維からなる。すなわち、無機繊維クロスでは目開きがほぼ一定であり、それよりも太い縫糸30を用い、無機不織布では目開きが一定ではないものの、最大目開きよりも太い縫糸30を用いる。無機シート20の無機繊維は柔軟で、容易に変形できるため、縫糸30が無機シート20の目開きよりも少々太くても、縫合に支障は無い。なお、縫糸30の太さの上限は、縫合できる範囲であれば、制限はないが、無機繊維クロス又は無機不織布を構成する繊維を破壊しない程度の太さであることが好ましい。
【0096】
図1に示すように、縫糸30の縫い目30aが、無機シート20の電池セルなどの熱源側の表面20aに露出している。縫糸30は、無機シート20の無機繊維よりも融点が低いため、熱暴走を起こした電池セル等の熱源からの高熱や火炎を受けた際に、縫糸30の縫い目30aが溶融する。なお、熱源側(図1中、下側)の被覆材40は高熱や火炎により焼失する。また、縫糸30は無機シート20の目開きよりも太いため、溶融後に凝固した際に、図2に示すように、凝固物35が無機シート20の目開きよりも大きな塊(略球状の塊)となって無機シート20の表面20aから露出して点在する。そして、凝固物35が、ストッパーとして作用し、断熱材10と無機シート20との積層構造を維持する。
【0097】
なお、図2では、凝固物35が球状になっているが、熱源である電池セルが火炎を発するような場合は、高熱とともに爆風が発生することがあるため、縫糸30の縫い目30agの溶融液は強い風圧を受け、凝固物35は球状とはならずに扁平するなどして不定形となる。また、縫糸30の縫い目30aが長いほど、溶融液の量が多くなり、凝固物35も大きくなる。そのため、縫糸30の縫い目30aの長さで凝固物35の大きさを制御することもできる。
【0098】
縫糸30の材質としては、無機シート20の無機繊維よりも低融点であれば無機繊維でも有機繊維でもよく、無機繊維及び有機繊維のうち少なくとも一種であることが好ましい。なお、縫糸30も耐熱性を有することが好ましいことから、ガラス繊維、シリカ繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、アラミド繊維及びナイロン繊維のうち少なくとも一種から選ばれることが好ましい。また、炭化するなどして、それ以上燃焼しない「自己消化性」を有する繊維を用いることも好ましい。
【0099】
<その他の層>
(被覆材40)
断熱材10は無機粒子や短繊維を含むため、これらの粉落ちを防止したり、湿気や電池セルから液漏れした電解液の吸収を防止するために、図1に示すように、積層体の全体を被覆材40で包囲してもよい。被覆材40としては、各種の樹脂フィルムや金属箔などを使用できるが、密着性の高さから、PVC(ポリ塩化ビニル)やPS(ポリスチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)等の熱収縮フィルムが好ましい。
【0100】
(接着剤層50)
断熱材10と無機シート20とをより強固に接合するために、図1に示すように、接着剤層50を介在させることもできる。
【0101】
また、接着剤層50は、図2に示すように、熱暴走を起こした電池セルからの高熱や火炎を受けた際に揮発し、空気層60が新たに形成される。その結果、空気層60による断熱効果が加味されるため、熱伝達抑制シート1は断熱性能により優れたものとなる。例えば、図4に示す電池モジュール100では、電池ケース120の天蓋に、熱伝達抑制シート1の熱源とは反対側(図中の上側)の被覆材40を接着して使用される。そして、接着剤層50が焼失すると、無機シート20は断熱材10から剥離し、自重により垂れ下がるが、凝固物35により無機シート20は垂れ下がった状態を維持し、空気層60が形成されて熱伝達抑制シート1としての断熱性能が高まり、電池ケース120の天蓋への延焼を防ぐことができる。
【実施例0102】
熱伝達抑制シート1として、シリカ粒子を含む断熱材10と、無機シート20としてシリカクロスとを積層し、縫糸30としてガラス繊維を用いて縫合したものを用意した。そして、バーナーから約1000℃の火炎をシリカクロスの表面に当て、自然冷却した後にシリカクロスの表面を観察した。
【0103】
図3は、火炎を当てた後のシリカクロスの表面を撮影した図面代用写真であるが、ガラス繊維の縫目に由来し、シリカクロスの目開きよりも大きな略球状の凝固物35が在しているのがわかる。なお、図3中の左上の白い部分が、火炎を当てた部分であり、凝固物35は火炎を当てた部分では略全面にわたり点在しており、火炎を当てた部分の外側にも幾つか点在している。
【0104】
[電池モジュール]
図4に示すように、電池モジュール100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、本実施形態では、上記の熱伝達抑制シート1を、無機シート20が電池セル110と対向する面となるように、電池ケース120の天蓋や側壁、底壁の少なくとも1つ(同図ではこれら全面)に配設されている。あるいは、電池セル(蓄電池)110間に配設してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 熱伝達抑制シート
10 断熱材
20 無機シート(無機繊維クロス又は無機不織布)
20a 表面
30 縫糸
30a 縫い目
35 凝固物
40 被覆材
50 接着剤層
60 空気層
100 電池モジュール
110 電池セル(蓄電池)
120 電池ケース
図1
図2
図3
図4