(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141915
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】表面プラズモン共鳴センサー
(51)【国際特許分類】
G01N 21/41 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N21/41 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053794
(22)【出願日】2023-03-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:令和4年8月26日(抄録公開日7月6日) ウェブサイトのアドレス 講演予稿:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/programpage 抄録:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/subject/23p-C302-10/tables?cryptoId= 〔刊行物等〕 開催日:令和4年9月23日 集会名:第83回応用物理学会 秋季学術講演会
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(72)【発明者】
【氏名】安井 武史
(72)【発明者】
【氏名】是澤 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】南川 丈夫
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059CC15
2G059EE04
2G059FF04
2G059GG01
2G059HH01
2G059HH02
2G059JJ11
2G059JJ12
2G059JJ15
(57)【要約】
【課題】表面プラズモン共鳴センサーにおいて、広い測定範囲と、優れた分解能と、リアルタイム計測のトレードオフを解消することにある。
【解決手段】本発明のセンサーは、ガルバノミラーの角度を変化させることにより表面プラズモン共鳴が発生する角度を計測する角度走査スペクトル計測型表面プラズモン共鳴センサーであって、反復取得した角度スペクトルから光強度の時間的変化を算出し、その算出結果を出力する。さらにはガルバノミラーによりプリズムに対する入射角を変化させた際においても角度分解能が悪化しないように、二枚のレンズを、その焦点距離の和の距離を介して対向させてなるリレーレンズ光学系をさらに備える。上記構成により、広い測定範囲と、優れた分解能と、リアルタイム計測を兼ね備えたセンサーを実現する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームを発生させるレーザー光源と、 前記光ビームを反射するガルバノミラーと、 試料を接触させる金属薄膜と、 前記金属薄膜を一面に設けたプリズムと、 光検出器とを備え、前記ガルバノミラーは前記プリズムと金属薄膜の界面に対する光ビームの入射角を制御し、 前記界面で反射した光ビームの強度を前記光検出器で検出することにより角度スペクトルを取得し、反復取得した角度スペクトルから光強度の時間変化を算出し、その算出結果を出力する表面プラズモン共鳴センサー。
【請求項2】
前記ガルバノミラーと前記プリズムの間には、二枚のレンズを、その焦点距離の和の距離を介して対向させてなるリレーレンズ光学系をさらに備える請求項1記載の表面プラズモン共鳴センサー。
【請求項3】
前記二枚のレンズは、共に平凸レンズであることを特徴とする請求項2記載の表面プラズモン共鳴センサー。
【請求項4】
前記二枚のレンズは、共にシリンドリカルレンズであることを特徴とする請求項2記載の表面プラズモン共鳴センサー。
【請求項5】
前記光ビームは可視光、または近赤外光であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率センシングあるいはバイオセンシングにおいて、測定範囲と測定分解能の双方に優れ、リアルタイム測定が可能な表面プラズモン共鳴センサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属中においては、自由電子が集団的に振動して、プラズマ波と呼ばれる粗密波が生じる。そして、金属表面に生じるこの粗密波を量子化したものは、表面プラズモンと呼ばれている。従来、この表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、試料中の物質を定量分析する表面プラズモン共鳴センサー(以下、SPRセンサーと称す)が種々提案されている。
【0003】
SPRセンサーは、簡便かつ高感度という特徴を持つことから、屈折率センサーを始め、抗原抗体反応などを用いたバイオセンサーなど様々な用途に用いられている。SPRセンサーは、大きく分けて角度走査スペクトル計測型、角度固定光強度計測型、波長走査スペクトル計測型に分類できる。
【0004】
角度走査スペクトル計測型SPRセンサーは、単色光を光源に用い、機械的にプリズム入射角を変化させながら光強度を測定することで表面プラズモン共鳴ディップ(以下、角度SPRディップと称す)の角度スペクトルを取得する。角度固定光強度計測型SPRセンサーは、単色光を光源に使い、プリズム入射角を固定し、角度SPRディップの角度スペクトルシフトに伴う光強度変化を測定する。波長走査スペクトル計測型SPRセンサーは、広帯域スペクトル光を用い、入射角を固定して波長ごとの光強度を測定することで表面プラズモン共鳴ディップ(以下、波長SPRディップと称す)の波長スペクトルを取得する。
【0005】
さて角度走査スペクトル計測型SPRセンサーは、広範囲なセンシングが可能であるが、入射角を変化させるためには重量が重く、かつ高い光学的精度が要求されるプリズムを回転させる必要があり、高速リアルタイムでの測定は非常に困難である。一方で、角度固定光強度計測型SPRセンサーは、プリズムを機械的に動かす必要がないことからリアルタイム測定が可能であり、光強度計測による高い測定分解能も可能であるが、角度SPRディップの線形スロープを利用するため、測定範囲が狭い。さらに、波長走査スペクトル計測型SPRセンサーは、機械的に動かす機構がなく、広範囲なスペクトル光を用いるため測定範囲も比較的広くできるが、広帯域光源とマルチチャンネル分光計が高価である。
上記のように、SPRセンサーの複数の形式はそれぞれに特徴があるものの、測定範囲が広く、分解能に優れ、リアルタイム測定が可能な測定装置としては不十分である。
【0006】
前記の課題に鑑みた改善提案として、特許文献1が開示されており、その構成を
図5A(または
図5B)に示す。入射角を変化させるためにガルバノミラー105a(または105b)などの光偏向器を用い、さらに反射された光を光検出器109の受光部の位置に、入射角が変化しても常に1点に光ビーム光ビーム110a(または110b)を収束させる出射光用集光レンズ114を配した構成が開示されている。
図5A(または
図5B)は、ガルバノミラーガルバノミラー105a(または105b)の角度に対応して、光ビーム110a(または110b)の経路が変化する様子を示している。
【0007】
上記の改善提案は、プリズムに対し光ビームが入射する位置が変わっても同じ位置でプラズモン共鳴を励起させるため、集光レンズやシリンドリカルレンズなどの集光光学系を用いている。これは、入射角を高速に変化させるためにプリズムを動かさず光ビームの経路を変化させていることによる。一方で、ガルバノミラー105の個々の角度においてプリズム入射ビームが集光されるということは、入射角度がある分散を有しているということになり、入射角度分解能の低下という課題が新たに発生している
【0008】
近年ではビーム角度走査機構の代わりにビーム位置走査機構を含む光偏向装置として、非特許文献1にはデジタルマイクロミラーデバイスを用いた構成が開示されているが、集光光学系を用いている、という点での課題は同じである。
【0009】
SPRセンサーは入射光学系として一般にレーザー光源を使用しているが、レーザー光源から発生する光ビームは一般に有限の大きさを持っている。有限の大きさを持ったビームを、集光光学系を通すと、回折限界の焦点に光を集めることができるが、この長所は同時に、一定の入射角度幅を持ったビームが同じ点に集まってしまう短所が同時に引き起こされる。言い方を変えると、僅かに角度の異なるビームの集合体、すなわち入射角のバラついたビームが同一焦点位置に入射されることに相当する。従って、この改善提案は、走査角度の高速化と引き換えに、角度分解能を犠牲にしているといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Dongping Wangら著、Optics Express、26巻19号、2018年9月5日発行、p24627―24636
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明で解決しようとする課題は、角度走査スペクトル計測型SPRセンサーが有する広い測定範囲性と、角度固定光強度計測型SPRセンサーが有するリアルタイム性と高分解能性を併せ持つSPRセンサーを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態は、前記課題を解決するためになされたもので、光ビームを発生させるレーザー光源と、前記光ビームを反射するガルバノミラーと、試料を接触させる金属薄膜を一面に設けたプリズムと、光検出器を備える。前記ガルバノミラーは前記プリズムと金属薄膜の界面に対する光ビームの入射角を制御し、前記界面で反射した光ビームの強度を前記光検出器で検出することにより角度スペクトルを取得する。そして反復取得した角度スペクトルから光強度の時間的変化を算出し、その算出結果を出力する。さらにはガルバノミラーにより入射角を変化させた際においても角度分解能が悪化しないように、二枚のレンズを、その焦点距離の和の距離を介して対向させてなるリレーレンズ光学系を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態によれば、平行ビーム入射角度の高速走査を用いて角度スペクトルを反復取得することにより、広い測定角度範囲とリアルタイム測定を同時に兼ね備えることができると共に、集光光学系を用いずに同一部位でビームコリメートを維持したまま表面プラズモン共鳴を励起することができるので入射角度分解能の低化を抑制できる。また、連続的に反復取得した角度スペクトルから、ある角度の光強度データを連続抽出することにより、角度固定光強度計測型SPRセンサーと等価なデータを取得可能となり、リアルタイム性と高分解能性を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本発明の実施形態の表面プラズモン共鳴センサーを示した説明図(入射角θ1の場合)
【
図1B】本発明の実施形態の表面プラズモン共鳴センサーを示した説明図(入射角θ2の場合)
【
図2】本発明の実施形態の表面プラズモン共鳴センサーの測定タイムチャート
【
図3】本発明の実施例1にて入射角を高速スキャンした時の周波数応答を調べた結果のグラフ
【
図4A】本発明の実施例2にて、可視光を用いて角度測定モードで屈折率を測定した結果のグラフ
【
図4B】本発明の実施例3及び4にて、近赤外光を用いて角度測定モードと強度測定モードのそれぞれで屈折率を測定した結果のグラフ
【
図5A】特許文献1における実施形態の表面プラズモン共鳴センサーを示した説明図(入射角θ1の場合)
【
図5B】特許文献1における実施形態の表面プラズモン共鳴センサーを示した説明図(入射角θ2の場合)
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施の形態)
以下、実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施の形態における表面プラズモン共鳴センサーは、連続的に反復取得した角度スペクトルから一定角度の光強度データを抽出し、その算出結果を出力することで広い測定範囲、高い分解能、リアルタイム測定とを両立する。さらには二枚のレンズを、その焦点距離の和の距離を介して対向させてなるリレーレンズ光学系を備えることで、入射角度分解能の低化を抑制した角度SPRセンサーを実現することを目的とする。
【0017】
図1A(または
図1B)に本実施の形態における表面プラズモン共鳴センサーの説明図を示す。図示されるようにこの測定装置は、光ビーム110を発生させるレーザー光源101と、光ビーム110をP偏光とする偏光板104と、光ビーム110a(または110b)を反射するガルバノミラー105a(または105b)と、試料107を接触させる金属薄膜106を一面に設けたプリズム108と、光検出器109を備える。さらにはガルバノミラー105a(または105b)とプリズム108の間には、二枚のレンズをそれぞれの焦点距離(図中でf1、及びf2と表記)の和の距離(図中でf1+f2)を介して対向させてなる第一のリレーレンズ光学系111が備えられている。
【0018】
上記の構成においても本発明の効果が得られるが、さらにはプリズム108と光検出器109の間にも、二枚のレンズをそれぞれの焦点距離(図中でf3、及びf4と表記)の和の距離(図中でf3+f4)を介して対向させてなる第二のリレーレンズ光学系113が備えられていることがより好ましい。
【0019】
次に、
図2に本実施の形態における表面プラズモン共鳴を利用した測定装置のタイムチャート例を示す。この例においては、
図1A(または
図1B)におけるガルバノミラー105a(または105b)はプリズム108と金属薄膜106の界面に対する光ビーム110a(または110b)の入射角をθ1からθ2の範囲で制御している。この制御により、入射角θ1が選択された際(
図1A)にはガルバノミラーは105aの位置に配置され、光ビームは110aの経路を通過する。また入射角θ2が選択された際(
図1B)にはガルバノミラーは105bの位置に配置され、光ビームは110bの経路を通過する。この制御における時間変化の例を
図2(a)に示しており、この例ではθ1からθ2まで増加する際には時間当たりの角度変化を一定とし、θ2からθ1までは瞬時に変化させているが、時間当たりの角度変化の実施形態はこれに制限されるものではない。
【0020】
図1A及び
図1Bの比較において光ビーム110a、及び光ビーム110bの経路は変化しているが、第一のリレーレンズ光学系111の働きにより、プリズム108と金属薄膜106の界面において光ビーム110は同一部位でビームコリメートを維持したまま照射される。照射された光ビーム110は界面で反射された後に再びプリズム108、第二のリレーレンズ光学系113を経由して光検出器109でその強度が検出される。この間における光強度の時間変化の例を示したのが
図2(b)であり、光強度の一時低下挙動、すなわち角度SPRディップが観測される。この例においてはθSPRがその最も強度が低下した角度(共鳴角度)である。この一連の入射角θの変化に対する光強度の関係が角度スペクトルであり、この例では
図2(b)の点線四角囲みとして得られ、さらに算出したθSPRを時間に対してプロットしたのが
図2(d1)である。
【0021】
さらにこの構成において、第一のリレーレンズ光学系111及び第二のリレーレンズ光学系113では、構成するそれぞれ2枚のレンズはそれぞれの焦点距離の和の距離(それぞれf1+f2、f3+f4)を介して対向させているため、ビームに含まれる入射角のばらつきが無くなりビームコリメートが維持される。これにより、前記角度SPRディップの変化はより大きくかつ狭くなることで高い角度分解能を実現している。
【0022】
続いてこの実施形態においては、角度スペクトルを反復して連続取得する。
図2に示した例においては、前述したθ1からθ2までの角度走査を同様に4回反復しており、それにより取得タイミングの異なる4つの角度スペクトルを得ることができる。この複数の角度スペクトルから、同一の入射角を測定した時刻を抜き出したものが
図2(c)であり、さらにこれを時間に対してプロットしたのが
図2(d2)である。この操作により、特定の入射角に対する光強度の時間変化を得ることができる。
【0023】
図2の例では角度SPRディップの中心値、即ち共鳴角度θSPRは4回の連続した測定で殆ど変化していないが、抜き出された入射角における反射率RSPRは角度に対して非常に急峻であり、角度SPRディップの変化(すなわちスペクトルシフト)に伴う光強度変化を高感度に測定することが可能となる。従って、本実施例は高い強度分解能を実現している。
以上が本実施例の全体の構成及びタイムチャートの説明であるが、次に各構成要件について例を挙げて詳細を述べる。
【0024】
レーザー光源101は、例えばレーザーダイオードにより構成される。レーザー光源101に使用される波長は、以下のような要件を満たしていれば原理的には制約がない。即ち、試料107や金属薄膜106の光学特性、サイズや形状に有効なエバネッセント光が発生すること、光検出器109での検出感度が適切であること、偏光板104で適切なP偏光に変換できること、レーザー光源101から光検出器109までの光ビーム110の光路がビームコリメートを維持したまま適切に制御できること、などである。そのような光源としては、例えば波長633nmを有するHe-Neレーザーなどが使用される。
【0025】
またレーザー光源101として、近赤外光を利用することで可視光と比較して角度SPRディップが狭くなり、より高感度な測定ができるため、さらに望ましい。そのような光源としては、例えば波長1550nmを有する単一周波数分布帰還(DFB)ファイバーレーザーなどが使用される。
【0026】
偏光板104は、レーザー光源101で発生した光ビーム110を、表面プラズモン共鳴を高効率に発生させるためにP偏光の光ビーム110に変換する。ここで、レーザー光源101の光ビーム110の大きさを、サンプルサイズに適した大きさに変換するため、光源用コリメーターレンズペア102を使用することができる。この光源用コリメーターレンズペア102は偏光板104の前でも後でも構わないが、レーザー光源101とガルバノミラー105の間でミラーなど光ビーム110の偏光状態に影響を与える光学系が存在する場合には、上記光学系の後に偏光板104を配置する必要がある。
【0027】
ガルバノミラー105a(または105b)は、レーザー光源101から発生し偏光板104でP偏光に変換した光ビーム110を反射させるが、その角度を変化させることにより、試料107と金属薄膜106の界面への光の入射角θを任意に変化させることができるようになっている。なお、ガルバノミラー105a(または105b)の角度を制御するには、一般には以下のような構成が必要である。即ち、ガルバノミラー105を駆動させるためのガルバノモーター(図示せず)、ガルバノモーターにより駆動されたガルバノミラー105の実際の角度を検出する角度センサー(図示せず)、ガルバノモーターへの駆動電圧を供給するとともに、角度センサーからの位置信号を検出して設定された角度と、実際の角度が同じになるようにガルバノモーターへの駆動電圧へフィードバックを行うドライバ(図示せず)、表面プラズモン共鳴センサーを利用する測定を行うにあたり測定者が指定した走査する入射角の範囲をドライバに伝えるコントローラー(図示せず)、などである。
【0028】
プリズム108は、ガラスや樹脂等透明誘電体材料により作成されている。表面プラズモン共鳴を利用するうえでのプリズム108の形状については、底面と入射面、出射面があれば原理的には三角プリズムである必要はなく、半球プリズムや半円柱プリズムなども選択可能である。
【0029】
金属薄膜106は、プリズム108の底面に設けられており、例えば金、銀、アルミニウム等の表面プラズモン共鳴を生じる金属により作成され、波長に依存して選択する。金属薄膜106の厚みが厚すぎると光浸透性が低下するため望ましくない。そのため厚みは一般的には1μm以下であり、好ましくは200nm以下である。金属薄膜106は例えば蒸着等の物理的成膜方法や化学的成膜方法で形成される。また、金属薄膜106のプリズム108と接触している反対側の面には、表面プラズモン共鳴を利用して定量分析される試料107が配置されている。
【0030】
光検出器109は、表面プラズモン共鳴によって発生した光強度の変化を検出する。これには例えばフォトダイオードなどの光電変換素子が、光強度の時間変化を電気的信号に変えることにより高速・高感度・高分解能に処理することができるという点において好適である。光電変換素子においては複数の画素を有し、異なる角度からの光強度を同時に検出するものもあるが、光強度ダイナミックレンジの制限や素子間の感度不均一性があるため望ましくない。
【0031】
第一のリレーレンズ光学系111は、二枚のレンズを、その焦点距離の和の距離を介して対向することで構成される。この系において、第一のリレーレンズ光学系111の入射側から焦点距離離れた位置からの光学的情報は、第一のリレーレンズ光学系111の出射側から焦点距離だけ離れた位置に転写される。これは一般に4f光学系として知られており、レーザー走査型顕微鏡や光パルス整形器などに使用される系と同じである。この系を有効に活用するため、第一のリレーレンズ光学系111の入射側から焦点距離離れた位置にガルバノミラー105a(または105b)が、第一のリレーレンズ光学系111の出射側から焦点距離だけ離れた位置にプリズム108と金属薄膜106の界面が配置されるのが最も望ましい。但し、上記距離はあくまでも屈折率が一様な系の状態であり、実施形態においてプリズム108内部は屈折率が大きいため、それを考慮した配置にすることが必要である。但し、
図1中では、全て同程度の焦点距離で作図している。
【0032】
第一のリレーレンズ光学系111を構成する二枚のレンズは、平凸レンズがより好ましい。平凸レンズとは、入射側及び出射側の片側が凸レンズ形状で、もう片側が平面になっているものである。また、プリズム108と金属薄膜106の界面において、入射角の方向とは垂直に複数の試料107を配置することで、同時に複数の試料107を計測することができる。その場合においては第一のリレーレンズ光学系111を構成する二枚のレンズは入射角の方向にのみ湾曲しているシリンドリカルレンズを用いることができる。但しこの場合、ビームコリメートは若干低下する可能性があることに注意する必要がある。またさらに、シリンドリカルレンズを用いた場合には、光検出器109としてフォトダイオードアレイなど複数の画素を有し、異なる角度からの光強度を同時に検出するものを用いる必要があるため、光強度ダイナミックレンジの制限や素子間の感度不均一性があることにも注意する必要がある。
【0033】
プリズム108から出射した光ビーム110は光検出器109で光強度を測定し、表面プラズモン共鳴により反射光強度が低下する共鳴角度θSPRが検出される。ここで、プリズム108から出射した光ビーム110と光検出器109の間には、さらに第二のリレーレンズ光学系113を配置するのが望ましい。この場合は、第二のリレーレンズ光学系113の入射側から焦点距離(f3)離れた位置にプリズム108と金属薄膜106の界面が、第二のリレーレンズ光学系113の出射側から焦点距離(f4)だけ離れた位置に光検出器109が配置されるのが最も望ましい。第二のリレーレンズ光学系113においても、構成する二枚のレンズは第一のリレーレンズ光学系111と同様の構成で良いが、2つの光学系の焦点距離f1とf3、f2とf4はそれぞれ同じでも異なっても構わない。
【0034】
上記のように、本実施の形態における表面プラズモン共鳴を利用した測定装置は、連続的に反復取得した角度スペクトルから一定角度の光強度データを抽出し、その算出結果を出力することで広い測定範囲、高い分解能、リアルタイム測定とを両立する。さらには二枚のレンズを、その焦点距離の和の距離を介して対向させてなるリレーレンズ光学系を備えることで、入射角度分解能の低化を抑制した角度SPRセンサーを実現することを目的とする。
【実施例0035】
以下、本発明の実施形態に係る分析装置を用いた実施例について詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
P偏光に変換された光ビーム110をガルバノミラー105a(または105b、GVSM001―JP/M、Thorlabs社製、光学走査角度範囲±20°、分解能0.0008°、三角波帯域幅175Hz)、第一のリレーレンズ光学系111(焦点距離100mm、直径40mmのレンズ2枚を対向)を用いて入射角度を変更できるようにした。
次にプリズム108(ガラス直角プリズムRPB-30-2L、Thorlabs社製、ガラス材BK7、長さ30mm、未コーティング)上にクロム薄膜(厚さ5nm以下)を接着剤層(図示せず)として用いて金属薄膜106(金Au、厚さ50nm)を形成した。これにより、プリズム108と金属薄膜106の界面の固定位置で、選択した入射角の範囲内でコリメートされた光ビーム110を高速でスキャンすることができるようになった。
界面で反射された光ビーム110は第二のリレーレンズ光学系113(焦点距離100mm、直径40mmのレンズ2枚を対向)を通過し、光検出器109(PDA36A-EC,Thorlabs社製、波長350~1100nm、帯域幅DC~10MHz、アクティブエリア3.6mm×3.6mm)に入射させるようにした。
さらに、光検出器109からの出力電圧信号と、ガルバノミラーの角度情報は、データ収録ボード(USB-6361、ナショナルインスツルメンツ社製、ADC分解能16ビット、最大サンプリング2,000,000/秒)によって収録した。
なお、ガルバノミラー105の角度分解能0.0008°は、レーザー光のプリズム108内への屈折を考慮すると0.0005°に相当する。またプリズム108内のビーム走査角度の全範囲は空気では6°、水溶液試料では3.2°となっており、これを角度サンプリングポイント数である10,000で割ると、それぞれの角度分解能が空気中で0.0006°、水溶液試料中で0.00032°と求められる。
プリズム(ガラス直角プリズム、ガラス材BK7)上には金属薄膜(金Au、厚さ50nm)が形成された。なお、プリズムと金属薄膜を接続するために、屈折率整合オイルが使用された。
界面で反射された光は出射光用シリンドリカルレンズ(焦点距離50mm)、出射光用集光レンズ(焦点距離100mm)を通過し、光検出器(OPT101、テキサスインスツルメンツ社製、モノリシックフォトダイオード及び単一電源トランスインピーダンスアンプ、アクティブエリア2.29mm×2.29mm)に入射された。
さらに、光検出器、S偏光用光検出器、及びDMDはArduinoボード及びMATLAB(登録商標)を使用したソフトウェアにより制御、解析された。1回のDMDの走査の間、Arduinoボードは光検出器、及びS偏光用光検出器より10個のデータポイントの光強度を電圧値として読み込み、これは10個平均として計算された。パターンの露光時間は10msecであり、全部で45段階の角度情報があるため450msecで読みだされる。従って角度分解能は走査角度幅6°を45で除した0.13°であり、1回のDMDの走査のサンプリング周波数は読み取り時間450msecの逆数である2.2Hzであった。
これにより、スキャンレートが100Hzに設定されているにもかかわらず、SPRスペクトルで優れた角度分解能(角度サンプリング間隔)が達成できていることを確認できた。