(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141926
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】射出成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/78 20060101AFI20241003BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20241003BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C45/78
C08L45/00
C08J5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053807
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 浩
(72)【発明者】
【氏名】林 祐司
(72)【発明者】
【氏名】河野 孝史
【テーマコード(参考)】
4F071
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA21
4F071AA69
4F071AA86
4F071AB21
4F071AF30Y
4F071AF35Y
4F071BA01
4F071BB05
4F071BC03
4F071BC12
4F206AD02
4F206AH73
4F206AH74
4F206AM32
4F206AR06
4F206JA07
4F206JF01
4F206JF02
4F206JL02
4F206JN43
4F206JP13
4F206JQ81
4F206JQ88
4J002BK001
4J002DE236
4J002FD206
4J002FD310
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】一定範囲の低い面外位相差(Rth)を維持しつつ、面内位相差(Re)およびヘイズが低減された射出成形品を製造する方法を提供する。
【解決手段】アルカリ土類金属炭酸塩とシクロオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物の射出成形品を製造する方法であって、射出成形機の金型温度T(℃)は、下記を満たすことを特徴とする。
T<Tg-30
(ここで、Tgは、前記シクロオレフィン系樹脂のガラス転位温度(℃)である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属炭酸塩とシクロオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物の射出成形品を製造する方法であって、
射出成形機の金型温度T(℃)は、下記を満たすことを特徴とする射出成形品の製造方法。
T<Tg-30
(ここで、Tgは、前記シクロオレフィン系樹脂のガラス転位温度(℃)である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィン系樹脂は、光学物性バランスに優れた非晶性透明樹脂であり、耐熱性にも優れることから、光学部材の製造に好適な光学樹脂である(例えば、非特許文献1参照))。光学部材を屈曲した状態で用いた際の複屈折分布の発生を抑制するために、アルカリ土類金属炭酸塩粉末が配合された光学樹脂を用いて光学部材を成形することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
光学部材の視野角特性を改善するために、面外位相差(Rth)および面内位相差(Re)を低減する必要がある。また、拡散透過光の全光線透過量に対する割合から求められるヘイズが低いほど、濁度が低いので透明性が高い光学部材となる。すなわち。面外位相差(Rth)、面内位相差(Re)およびヘイズのいずれの数値も低いほど、良好な光学部材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本画像学会誌 第55巻 第2号 236-242(2016)
【特許文献1】特開2021-47402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、一定範囲の低い面外位相差(Rth)を維持しつつ、面内位相差(Re)およびヘイズが低減された射出成形品を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために検討を行った結果、シクロオレフィン系樹脂の射出成形品を製造する際、アルカリ土類金属炭酸塩を配合するのに加え、射出成形機の金型温度T(℃)を、シクロオレフィン樹脂のガラス転位温度Tg(℃)より低い所定温度、具体的には(Tg-30)℃未満の温度に設定することによって、一定範囲の低い面外位相差(Rth)を維持しつつ、面内位相差(Re)およびヘイズが低減された射出成形品が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、アルカリ土類金属炭酸塩とシクロオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物の射出成形品を製造する方法であって、射出成形機の金型温度T(℃)は、下記を満たすことを特徴とする射出成形品の製造方法である。
T<Tg-30
(ここで、Tgは、前記シクロオレフィン系樹脂のガラス転位温度(℃)である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一定範囲の低い面外位相差(Rth)を維持しつつ、面内位相差(Re)およびヘイズが低減された射出成形品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
本発明の射出成形品の製造方法には、アルカリ土類金属炭酸塩とシクロオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物が用いられる。シクロオレフィン系樹脂の正の固有複屈折率が、アルカリ土類金属炭酸塩の添加により相殺されることから、複屈折率がゼロに近い成形品を製造することができる。
【0011】
(アルカリ土類金属炭酸塩)
アルカリ土類金属炭酸塩は、微粉末の形態でアルカリ土類金属炭酸塩を主成分とする。主成分とはアルカリ土類金属炭酸塩以外に表面処理剤等の補助的な成分を含んでいても良くいことを意味し、アルカリ土類金属炭酸塩を例えば80質量%以上含有することを意味する。以下、アルカリ土類金属炭酸塩を、アルカリ土類金属炭酸塩微粉末ということがある。アルカリ土類金属炭酸塩微粒子は、平均長径が10~100nmの範囲内であり、15~75nmの範囲内が好ましい。平均長径が10nmを下回ると、粒子が小さすぎて凝集しやすくなり、分散性が悪化しやすくなる。一方、平均長径が100nmを上回ると、粒子が大きすぎて樹脂に混合したときに透明性が悪化しやすくなる。
【0012】
アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、アスペクト比(平均長径/平均短径の比)が1.1以上であることが好ましく、1.2以上5.0以下の範囲内にあることがより好ましく、1.3以上4.0以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0013】
アルカリ土類金属炭酸塩微粉末の平均長径および平均短径は、アルカリ土類金属炭酸塩微粉末のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を、目視または自動的に画像処理する方法で測定することができる。アルカリ土類金属炭酸塩微粉末の長径は、アルカリ土類金属炭酸塩粒子を長方形とみなしたときの長手方向の長さ(長辺の長さ)として測定することができる。
【0014】
アルカリ土類金属炭酸塩微粉末の短径は、アルカリ土類金属炭酸塩を長方形と見立てたときの短手方向の長さ(短辺の長さ)として測定することができる。具体的には、画像のアルカリ土類金属炭酸塩粒子に外接する、面積が最少となる長方形を算出し、その長辺と短辺の長さから長径と短径を求める。「平均」とは、統計学上の信頼性のある個数(N数)のアルカリ土類金属炭酸塩粒子の長径と短径を測定して得られた平均値を意味し、その個数としては通常は100個以上、好ましくは300個以上、より好ましくは500個以上である。
【0015】
アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、炭酸マグネシウム微粉末、炭酸カルシウム微粉末、炭酸ストロンチウム微粉末、炭酸バリウム微粉末を含む。これらのアルカリ土類金属炭酸塩微粉末は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、炭酸ストロンチウム微粉末であることが好ましい。
【0016】
アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、さらに、界面活性剤で表面処理されていてもよい。界面活性剤で表面処理したアルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、分散性が向上する。アルカリ土類金属炭酸塩微粉末含有樹脂組成物の製造時において、アルカリ土類金属炭酸塩微粉末の分散処理を機械的に行う場合など、アルカリ土類金属炭酸塩微粉末自体に分散性が要求されない場合には、アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は界面活性剤で表面処理されていなくてもよい。
【0017】
界面活性剤としては、親水性基、若しくは疎水性基のどちらかを有し、好ましくは親水性基と疎水性基とを有し、さらに水中でアニオンを形成する基を有する化合物を用いることができる。この化合物は、親水性基がポリオキシアルキレン基であって、このポリオキシアルキレン基の一方の末端に疎水性基が結合し、他方の末端に水中でアニオンを形成する基が結合している化合物であることが好ましい。疎水性基は、アルキル基またはアリール基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。水中でアニオンを形成する基は、カルボン酸基、硫酸基またはリン酸基であることが好ましい。
【0018】
界面活性剤は、水中でアニオンを形成する基がリン酸基であるリン酸エステルであることが好ましい。リン酸エステルは、カルボン酸エステルや硫酸エステルと比較して耐熱性が高いため、リン酸エステルで表面処理されているアルカリ土類金属炭酸塩微粉末を添加したポリマー組成物は、界面活性剤の熱分解による着色が起こりにくい。リン酸エステルの例としては、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステルやポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルを挙げることができる。
【0019】
アルカリ土類金属炭酸塩微粉末の表面に付着している界面活性剤の量は、アルカリ土類金属炭酸塩微粉末100質量部に対して、一般に1質量部以上40質量部以下の範囲内、好ましくは3質量部以上30質量部以下の範囲内である。界面活性剤の量が少なすぎると、分散性を向上させる効果が得られにくくなるおそれがある。一方、界面活性剤の量が多すぎると、アルカリ土類金属炭酸塩微粉末を含有する樹脂組成物の製造時において、界面活性剤が異物となって、生成した樹脂組成物の可視光透過率が低下したり、ヘイズが高くなるおそれがある。アルカリ土類金属炭酸塩微粉末における界面活性剤の含有量は、例えば、TG-DTA(熱重量示差熱分析装置)によって測定することができる。
【0020】
(アルカリ土類金属炭酸塩の製造方法)
アルカリ土類金属炭酸塩微粉末の製造方法について、以下に説明する。アルカリ土類金属炭酸塩微粉末は、例えば、結晶成長抑制剤の存在下にて、アルカリ土類金属の水酸化物と二酸化炭素を反応させてアルカリ土類金属炭酸塩粒子を生成させる反応工程と、アルカリ土類金属炭酸塩粒子を針状に成長させる熟成工程と、アルカリ土類金属炭酸塩粒子を界面活性剤で処理する表面処理工程と、アルカリ土類金属炭酸塩粒子を乾燥する乾燥工程とを有する方法によって製造することができる。
【0021】
(反応工程)
反応工程では、結晶成長抑制剤とアルカリ土類金属の水酸化物とを含む原料液を撹拌しながら、この原料液に二酸化炭素ガスを導入し、アルカリ土類金属の水酸化物を炭酸化させることによってアルカリ土類金属炭酸塩粒子を生成させることが好ましい。原料液は、アルカリ土類金属の水酸化物が溶解した水溶液であってもよいし、アルカリ土類金属の水化物が分散した水性懸濁液であってもよい。原料液中のアルカリ土類金属の水酸化物の濃度は、特に制限はないが、通常は1質量%以上20質量%以下の範囲内であり、好ましくは2質量%以上18質量%以下の範囲内、より好ましくは3質量%以上15質量%以下の範囲内である。
【0022】
結晶成長抑制剤は、生成したアルカリ土類金属炭酸塩粒子に付着し、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の結晶成長を抑制する水酸基を有するカルボン酸である。結晶成長抑制剤は、カルボキシル基の数が2個で、かつ水酸基とそれらの合計が3~6個の有機酸であることが好ましい。分子内に水酸基を1つ以上含むジカルボン酸又はその無水物がより好ましい。結晶成長抑制剤は、アルカリ土類金属炭酸塩微粉末が添加される光学樹脂の原料となるモノマーであってもよい。原料液の結晶成長抑制剤の含有量は、アルカリ土類金属の水酸化物100質量部に対して一般に0.1質量部以上20質量部以下の範囲内、好ましくは1質量部以上10質量部以下の範囲内である。
【0023】
原料液の液温は、5℃以上60℃以下の範囲内にあることが好ましい。また、原料液に導入する二酸化炭素ガスの流量は、アルカリ土類金属の水酸化物1gに対して、一般に0.5mL/分以上200mL/分以下の範囲内、好ましくは0.5mL/分以上100mL/分以下の範囲内である。
【0024】
反応工程にて生成するアルカリ土類金属炭酸塩粒子の粒子形状は、特に制限はなく、粒状であってもよいし、針状であってもよい。アルカリ土類金属炭酸塩粒子の粒子形状やサイズは、原料液の液温、原料液のアルカリ土類金属の水酸化物及びモノマーの濃度、原料液に導入される二酸化炭素ガスの流量などの条件によって調整することができる。なお、反応工程にて生成するアルカリ土類金属炭酸塩粒子が針状である場合は、次の熟成工程は省略してもよい。
【0025】
(熟成工程)
熟成工程では、反応工程で得られたアルカリ土類金属炭酸塩粒子の水性懸濁液を75℃以上115℃以下の範囲内の温度で加熱熟成することによって、アルカリ土類金属炭酸塩粒子を針状に粒成長させることが好ましい。加熱温度が75℃未満であると、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の長径の結晶成長が不十分で平均アスペクト比が低くなる傾向がある。一方、加熱温度が115℃を超えると、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の短径の結晶成長が促進されてアスペクト比が低くなる傾向がある。加熱温度は、好ましくは80℃以上110℃以下の範囲内であり、特に好ましくは85℃以上105℃以下の範囲内である。加熱熟成は、撹拌しながら行うことが好ましい。加熱時間は、特に限定はないが、通常は1時間以上100時間以下の範囲内であり、好ましくは5時間以上50時間以下の範囲内であり、特に好ましくは10時間以上30時間以下の範囲内である。
【0026】
(表面処理工程)
表面処理工程では、熟成工程で得られた針状のアルカリ土類金属炭酸塩粒子のスラリーに界面活性剤を添加して、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の表面を界面活性剤で処理することによって、高分散性針状アルカリ土類金属炭酸塩粒子の水性スラリーを得ることが好ましい。スラリーに界面活性剤を添加した後は、スラリーを撹拌して界面活性剤の濃度を均一にし、次いで、スラリーにせん断力を付与することが好ましい。せん断力を付与して、アルカリ土類金属炭酸塩粒子の凝集粒子を解砕することによって、アルカリ土類金属炭酸塩粒子(一次粒子)の表面を界面活性剤で均一に処理することができる。スラリーに添加する界面活性剤の量は、スラリー中のアルカリ土類金属炭酸塩粒子100質量部に対して、一般に1質量部以上40質量部以下の範囲内、好ましくは3質量部以上30質量部以下の範囲内である。
【0027】
(乾燥工程)
乾燥工程では、上記の表面処理工程で得られた高分散性針状アルカリ土類金属炭酸塩粒子の水性スラリーを乾燥してアルカリ土類金属炭酸塩を得る。乾燥工程は、スプレードライヤおよびドラムドライヤーなどの乾燥機を用いた公知の乾燥方法によって行なうことができる。
【0028】
(シクロオレフィン系樹脂)
シクロオレフィン系樹脂は、その構造単位に脂環式構造を有する重合体である。シクロオレフィン系樹脂は、主鎖に脂環式構造を有する重合体、側鎖に脂環式構造を有する重合体、主鎖および側鎖に脂環式構造を有する重合体、並びに、これらの2つ以上を任意の比率で混合した混合物である。これらの中でも、機械的強度および耐熱性の観点から、主鎖に脂環式構造を有する重合体が好ましい。
【0029】
脂環式構造の例としては、飽和脂環式炭化水素(シクロアルカン)構造、および不飽和脂環式炭化水素(シクロアルケン、シクロアルキン)構造が挙げられる。これらの中でも、機械的強度および耐熱性の観点から、シクロアルカン構造およびシクロアルケン構造が好ましく、シクロアルカン構造が特に好ましい。また、脂環式構造と脂肪族構造を有するシクロオレフィンコポリマーも好適に使用できる。
【0030】
脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり4個以上30以下であることが好ましい。脂環式構造を構成する炭素原子数がこの範囲であると、成形品の機械的強度、耐熱性および成形性のバランスがよい。脂環式構造を構成する炭素原子数は、一つの脂環式構造あたり、より好ましくは5個以上、特に好ましくは6個以上であり、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。
【0031】
シクロオレフィン系樹脂において、脂環式構造を有する構造単位の割合は、50重量%以上であることが好ましい。シクロオレフィン系樹脂における脂環式構造を有する構造単位の割合がこの範囲にあると、成形品の透明性および耐熱性が良好となる。脂環式構造を有する構造単位の割合は、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0032】
シクロオレフィン系樹脂の具体例としては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン重合体、環状共役ジエン重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、およびこれらの水素添加物が挙げられる。これらの中でも、透明性や成形性の観点から、ノルボルネン系重合体およびこれらの水素添加物がより好ましい。
【0033】
ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびその水素化物が挙げられる。ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との開環共重合体が挙げられる。
【0034】
さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる任意の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの重合体としては、例えば、特開2002-321302号公報等に開示されている重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性および軽量性の観点から、特に好適である。
シクロオレフィン系樹脂の具体例としては、JSR株式会社製「アートン」(登録商標);三井化学株式会社製「APEL」(登録商標);TOPAS ADVANCED POLYMERS社製「TOPAS」等が挙げられる。
【0035】
シクロオレフィン系樹脂の数平均分子量は、トルエン溶媒によるGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)法で測定したポリスチレン換算値で、10000~200000、好ましくは15000~100000、より好ましくは20000~50000のものである。また、シクロオレフィン系樹脂は、ガラス転移温度が、好ましくは80℃以上、より好ましくは100~250℃である。
【0036】
上述したようなシクロオレフィン系樹脂とアルカリ土類金属炭酸塩粉末とを混合した樹脂組成物を用いて、射出成形法により成形品を製造する。樹脂組成物全体に対するアルカリ土類金属炭酸塩粉末の含有量は、シクロオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.5~2質量部、好ましくは、0.5~1質量部の範囲内とすることができる。これにより、一定範囲の低い面外位相差(Rth)を維持しつつ、面内位相差(Re)およびヘイズが低減された射出成形品を製造することができる。
【0037】
射出成形品の製造にあたっては、まず、アルカリ土類金属炭酸塩粉末とシクロオレフィン系樹脂とを所定の割合で配合して予備混合し、二軸押出機を用いてストランドを作製する。混練温度は、例えば180~210℃とすることができ、ストランドの径は1~2mmとすることができる。その後、ペレタイザーを用いて、ストランドから2~4mmの長さのペレットを作製する。
【0038】
得られたペレットを射出成形機に投入し、所定の金型温度で射出成形して成形品を得る。本発明においては、射出成形機において樹脂が流れ込む金型表面の温度を金型温度Tと称する。金型温度は、一般的には、射出成形機本体の温度設定によって所定の温度に制御することができる。
【0039】
本発明においては、金型温度Tは、シクロオレフィン系樹脂のガラス転位温度(Tg)より低く、(Tg-30)℃未満に規定される。これにより、面内位相差(Re)およびヘイズの低い成形品を得ることができる。ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により測定される。示差走査熱量測定とは試料温度をプログラムに従って変化させながら、基準物質と試料の温度を測定し、その温度差から熱量を測定するものである。測定で得られたDSC曲線からガラス転移温度が得られる。金型温度Tは、好ましくは80℃以下であり、より好ましくは50℃以下である。
なお、金型温度の下限は、ガラス転移温度Tgによって決定され、一般的には、(Tg-15~Tg-3)℃である。
【0040】
例えば、ガラス転位温度Tgが135℃のシクロオレフィン系樹脂を用いる場合には、射出成形機の金型温度Tは、105℃未満に設定される。この場合の金型温度Tは、40~100℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、50~80℃さらに好ましく、50~60℃が特に好ましい。
【0041】
射出成形の際の金型に導入される前の樹脂温度は特に規定されず、例えば260~300℃とすることができる。また、成形品としては、例えば、長さ20~30mm×幅20~30mm×厚さ1~2mmの樹脂板が挙げられる。
【0042】
本発明においては、アルカリ土類金属炭酸塩粉末とシクロオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物の射出成形品を製造する際、射出成形機の金型温度Tを、シクロオレフィン系樹脂のガラス転位温度Tgより低い温度に設定し、温度差を30℃より大きくしたので、一定範囲の低い面外位相差(Rth)を維持しつつ、面内位相差(Re)およびヘイズが低減された射出成形品を製造することが可能となる。
【0043】
本発明の方法により製造された射出成形品は、例えば、光学樹脂レンズ、スマートフォン用カメラモジュール、車載ディスプレイ用カバーシート等の光学部材として有効に用いることができる。
【0044】
上述した本発明の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0045】
<1>
アルカリ土類金属炭酸塩とシクロオレフィン系樹脂とを含有する樹脂組成物の射出成形品を製造する方法であって、
射出成形機の金型温度Tは、シクロオレフィン系樹脂のガラス転位温度(Tg)-30℃未満であって、50~100℃である射出成形品の製造方法。
<2>
前記金型温度Tは、50~80℃である前記<1>記載の射出成形品の製造方法。
<3>
アルカリ土類金属炭酸塩の含有量は、シクロオレフィン系樹脂100質量部に対して0.5~2質量部である前記<1>または<2>記載の射出成形品の製造方法。
<4>
アルカリ土類金属炭酸塩は、炭酸ストロンチウムを含む前記<1>~<3>のいずれか記載の射出成形品の製造方法。
<5>
前記シクロオレフィン系樹脂は、シクロオレフィンコポリマーである前記<1>~<4>のいずれか記載の射出成形品の製造方法。
<6>
前記射出形品は、光学部材である前記<1>~<5>のいずれか記載の射出加工品の製造方法。
<7>
射出成形機の金型温度がシクロオレフィン系樹脂のガラス転位温度(Tg)-30℃未満で射出成形して得られる射出成形品の製造に用いられる樹脂組成物であって、
樹脂組成物は、アルカリ土類金属炭酸塩とシクロオレフィン系樹脂とを含有し、アルカリ土類金属炭酸塩の含有量は、シクロオレフィン系樹脂100質量部に対して0.5~2質量部であることを特徴とする樹脂組成物。
【実施例0046】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0047】
アルカリ土類金属炭酸塩粉末として、炭酸ストロンチウム微粉末を準備した。
(炭酸ストロンチウム微粉末の製造)
(a)反応工程
水温10℃の純水20Lに水酸化ストロンチウム八水和物(特級試薬、純度:96%以上)2440gを投入し、混合して濃度5.6質量%の水酸化ストロンチウム水性懸濁液を調製した。この水酸化ストロンチウム水性懸濁液に、DL-酒石酸(特級試薬、純度:99%以上)を加えて撹拌して水性懸濁液中に溶解させた。ついで水酸化ストロンチウム水性懸濁液の液温を10℃に維持しつつ、撹拌を続けながら、水性懸濁液に二酸化炭素ガスを3.3L/分の流量(水酸化ストロンチウム1gに対して3mL/分の流量)にて、水性懸濁液のpHが7になるまで吹き込み、炭酸ストロンチウム粒子を生成させた。その後、さらに30分間撹拌を続け、炭酸ストロンチウム粒子水性懸濁液を得た。
【0048】
(b)熟成工程
得られた炭酸ストロンチウム粒子水性懸濁液をステンレスタンクに入れ、80℃の温度にて24時間加熱処理して炭酸ストロンチウム粒子を針状に成長させた。その後、室温まで放冷して、炭酸ストロンチウム粒子水性スラリーを製造した。
【0049】
(c)表面処理・乾燥工程
炭酸ストロンチウム粒子水性スラリー(濃度:5.8質量%)3500gをホモミキサー(プライミクス株式会社製、T.K.ホモミキサーMarkII)に投入し、ホモミキサーの撹拌羽根を7.85m/秒の周速で回転させて撹拌しながら、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステルを水性スラリーに56.8g(炭酸ストロンチウム粒子100質量部に対して28質量部)添加して溶解させた。その後1時間撹拌混合を続けた。撹拌混合後の水性スラリーを乾燥して、表面処理炭酸ストロンチウム微粉末(A-1)を得た。得られた炭酸ストロンチウム微粉末を電子顕微鏡で観察した結果、針状粒子(平均長径:60nm)の微粉末であることが確認された。
【0050】
シクロオレフィン系樹脂としては、シクロオレフィンコポリマー樹脂(三井化学製シクロオレフィンコポリマー APL5014CL)を準備した。ここで用いたシクロオレフィン系樹脂のガラス転位温度Tgは、135℃である。
【0051】
(実施例1)
1質量部の炭酸ストロンチウム粉末と、100質量部のシクロオレフィンコポリマー樹脂とを含有する樹脂組成物を調製し、これを用いて射出成形により成形品を製造した。
具体的には、まず、炭酸ストロンチウム粉末100gとシクロオレフィンコポリマー樹脂(APL5014CL)10000gとを予備混合し、二軸押出機(ベルストルフ社製)を用いて、195℃の混練温度で2mm径のストランドを作製した。その後、ペレタイザーを用いて、このストランドから長さ3mmのペレットを作製した。
【0052】
得られたペレットを(株)メイホー製射出成形機に投入し、樹脂温度260℃、金型温度50℃の条件で射出成形して、実施例1の射出成形品(長さ30mm×幅30mm×厚さ1mmの樹脂板)を製造した。金型温度は、射出成形機において樹脂が流れ込む金型表面の温度であり、射出成形機本体の温度設定により所定温度に制御した。
本実施例においては、金型温度T(℃)は、(T<Tg-30)を満たしている。
【0053】
(実施例2)
シクロオレフィン系樹脂の配合量は変えずに、炭酸ストロンチウム粉末の配合量を2質量部に変更した以外は、実施例1と同様の手法により、実施例2の射出成形品を得た。本実施例においては、金型温度T(℃)は、(T<Tg-30)を満たしている。
【0054】
(実施例3)
射出成形機の金型温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様の手法により、実施例3の射出成形品を得た。
【0055】
(実施例4)
射出成形機の金型温度を80℃に変更した以外は実施例2と同様の手法により、実施例4の射出成形品を得た。
【0056】
(比較例1)
射出成形機の金型温度を120℃に変更した以外は実施例1と同様の手法により、比較例1の射出成形品を得た。金型温度T(℃)は、(T≧Tg-30)である。
【0057】
実施例および比較例の射出成形品について、以下のように物性を調べた。
ヘイズ:分光光度計(日本電色工業社製、NDH4000)を用いて測定した。
複屈折(ΔNxy、ΔP):位相測定装置(王子計測機器株式会社製 KOBRA-WR)を用いて、面内位相差(レターデーション)Re、および面外位相差(厚み方向の位相差/厚み方向のレターデーション)Rthを測定した。
【0058】
上記の位相測定装置は、測定対象物(プレート)に垂直入射した光によって測定した面内位相差(レターデーション)R0と、測定対象物に入射角40°で入射した光によって測定した位相差(レターデーション)Rθと、測定対象物の厚みd(入力値)と、測定対象物の平均屈折率Navr(入力値)とから、面外位相差Rthを算出する。ここで、本明細書に記載の実施例及び比較例では、面外位相差Rthは、587.3nmの波長を有する光に対する値によって規定される。値が小さいほど、複屈折が低いことを示す。
【0059】
得られた結果を、樹脂組成物の組成、および射出条件とともに、下記表にまとめる。
【0060】
【0061】
上記表に示されるように、射出成形機の金型温度T(℃)が(T<Tg-30)を満たす場合には、一定範囲の低い面外位相差(Rth)を維持しつつ、面内位相差(Re)およびヘイズも低い成形品が得られている。
これに対し、射出成形機の金型温度T(℃)が(T≧Tg-30)の場合には、面外位相差(Rth)が-2.69であるものの、面内位相差(Re)およびヘイズの低い成形品を得ることはできない。