(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141938
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】歯科加工用ブランクの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61C13/00 Z
A61C13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053826
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】永沢 友康
(72)【発明者】
【氏名】山根 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159DD10
4C159SS01
4C159TT10
(57)【要約】
【課題】 型を用いて単層構造のハイブリッドレジン(HR)製被切削部を製造する工程を含むHRミルブランクの製造方法において、流動性の低い硬化性のHR原料ペーストを用いた場合であっても、効率よく、高精度で所期の形状を有する被切削部を作製できるようにする。
【解決手段】 型として、筒状体の柱状空洞部内に可動底板が進退自在に嵌挿された有底型枠を用い、前記筒状体の下方端開口を供給側開口として、該供給側開口を可動底板で塞いだ状態で充填具にセットし、下方より、可動底板を押し上げるようにして所定量のHR原料ペーストを型内に充填する。その後、型を充填具から取り外して、その上下を反転させ、上方となった供給側開口からペーストの露出面が突出した状態とする。次いで、可撓性シートを上方より被せてペーストの露出面と密着させてから型内のペーストを硬化させる。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層構造のハイブリッドレジンからなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法であって、
前記ハイブリッドレジンの原料となる、重合性単量体、無機フィラー及び熱重合開始剤を含有する硬化性組成物からなる流動性ペーストを準備する原料準備工程;
両端に開口を有する筒状体と、該筒状体の空洞部内に充填される流動性ペーストと接触する平坦な接触面を有し、前記柱状空洞部内を進退自在に嵌挿され、前記筒状体の一方の開口側の所定の位置に留まることによって前記接触面からなる底を構成する可動底板と、を有する有底型枠の前記空洞部内に、前記原料準備工程で準備された流動性ペーストを充填する充填工程;
前記有底型枠の他方の開口から露出する、前記充填工程で充填された流動性ペーストの露出表面を可撓性シートで覆うカバー工程:
及び
前記有底型枠内に充填され、その露出表面が前記可撓性シートで覆われた前記流動性ペーストを硬化させる硬化工程;
を含み、
前記充填工程では、
平坦な支持面を上面の一部として有する充填盤と、前記支持面に設けられた開口による充填ノズルと、該充填ノズルの開口に向かって前記充填盤内部に形成されたペースト流路とを有する充填具を用い、
前記充填盤の支持面上の所定の位置に、前記有底型枠を、その可動底板の前記接触面が、前記充填ノズルの開口及びその周囲の支持面と対向するようにして載置してから該有底型枠の筒状体が移動しないように保持した後に前記充填ノズルから前記流動性ペーストを吐出して、前記可動底板を前記筒状体の一方端側の所定の位置まで押し上げながら前記筒状体の空洞部の内部に充填し、
前記カバー工程では、前記流動性ペーストが充填された有底型枠を、前記充填ノズルが存在しない領域まで前記支持面上をスライド移動させてから前記充填具より取り外し、その後、前記有底型枠の他方の開口を上方に向け、該開口から前記流動性ペーストの一部が突出した状態で、上方より可撓性シートを被せて、該可撓性シートと流動性ペーストの露出表面とを密着させる、
ことを特徴とする、
前記歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項2】
ペースト状組成物からなる試料について、半径がR(mm)であるパラレルプレートを用いた回転粘度計により30℃、回転速度m(rpm)で測定して得られる粘度:η(Pa・s)およびトルク:M(Pa・m3)を、夫々、ηmおよびMmとし、
前記Mmに基づいて、
式:τm={4Mm/(3πR3)}×106
によって求められるτmを回転数m(rpm)における断応力(kPa)とし、さらに
m=1における断応力であるτ1とm=10における断応力であるτ10との比:τ10/τ1を、前記ペースト状重合硬化性組成物の「ダイラタンシー性指数」としたときに、
前記充原料準備工程では、m=1における粘度であるη1が500(Pa・s)以上であり、且つダイラタンシー性指数が2~30である1種類の流動性ペーストを準備する、
請求項1に記載の歯科加工用ブランクの製造方法。
【請求項3】
充填された流動性ペーストに内圧が残存するようにして前記流動性ペーストの充填及び前記カバー工程における前記スライド移動を行い、前記取り外しによる前記内圧の解放に伴い、充填された前記流動性ペーストの一部を前記開口から突出させる、請求項2に記載の歯科加工用ブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科加工用ブランの製造方法に関する。具体的には、単層構造のハイブリッドレジンからなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療においては、金属アレルギーの心配がなく審美性に優れる非金属製の歯科用補綴物をCAD/CAMシステムを用いて容易に製造することができるという理由から、非金属材料からなる歯科加工用ブランクの利用が進んでいる。ここで、CAD/CAMシステムとは、特許文献1に開示されているように、口腔内の撮影画像から、コンピュータ支援設計(CAD:Computer Adid Design)及びコンピュータ支援製造(CAM:Computer Aided Manufacturing)技術によるCAD/CAM装置を用いて、切削加工を行うシステムを意味する。また、歯科加工用ブランクとは、CAD/CAMシステムにおける切削加工機に取り付け可能にされた被切削体(ミルブランクとも呼ばれる。)を意味し、通常は、被切削部と、これを切削加工機に取り付け可能にするための保持部と、を有する。
【0003】
そして、非金属製歯科用補綴物非金属材料を製造するためのミルブランクにおいては、レジンマトリックス中無機フィラー(無機充填材)が高密度で分散した複合材料である「ハイブリッドレジン」(以下、「HR」と略記することもある。)からなる被切削部を有するもの(以下、「HRミルブランク」ともいう。)が急速に普及している。
【0004】
上記HRミルブランクの被切削部の製造方法としては、直方体状、円柱状、板状若しくは盤状といった所期の被切削部形状に対応する形状を有する型内で重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤を含む重合硬化性組成物からなるHR原料ペーストを加圧・加熱する等して重合硬化させる方法、及び前記HR原料ペーストの硬化体からなる比較的大きなブロックを切断・研削して所期の被切削部形状に加工する方法が一般的であるが、後者の方法では、切断・研削に伴う材料ロスと、所望サイズに満たない切れ端の部分の破棄によるロスが避けられない。このため、経済性の観点からは被切削部に対応する形状の型を用いる前者の方法が好ましいといえる。
【0005】
このような、型を用いたHRミルブランクの被切削部の製造方法としては、次のような方法が知られている。すなわち、特許文献1には、「歯科用レジンブロックを製造する方法であって、熱可塑性樹脂又はシリコーン樹脂により形成された内外の圧力が等しくなる手段を具備する型に、前記歯科用レジンブロックとなる硬化前の材料を注入する工程と、前記歯科用レジンブロックとなる前記硬化前の材料が注入された前記型ごと全体的に所定の圧力とすることが可能な容器に入れ、前記型及び該型に注入された前記硬化前の材料を1.0MPa以上で加圧する工程と、前記型及び該型に注入された前記硬化前の材料を60℃以上で加熱する工程と、を含む、歯科用レジンブロックの製造方法。」が記載されている。そして、特許文献1によれば、上記方法では、金属製ではない型に硬化前の組成物を入れ、型ごと全体的に所定の圧力とすることが可能な容器に入れて加圧及び加熱をし、型の内外の圧力が等しくなるよう重合させることによりブロック内への気泡発生、及び加工時の割れの発生を抑制できるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、「少なくとも第一層と第二層とを有する多層構造の歯科加工用ブランクの製造方法において、少なくとも一面が開口された型枠ユニットである第一型枠ユニットに、第一層が成形される、硬化性組成物からなり、所望の形状保持性を有する第一の流動性ペーストを充填すると共に、少なくとも一面が開口された型枠ユニットである第二型枠ユニットに、第二層が成形される、硬化性組成物からなり、所望の形状保持性を有する第二の流動性ペーストを充填する充填工程、前記第一型枠ユニットと前記第二型枠ユニットの開口部同士を合わせて前記第一の流動性ペーストと前記第二の流動性ペーストを密着させて接合させて、少なくとも前記第一の流動性ペーストからなる第一層及び第二の流動性ペーストからなる第二層を含む多層構造の積層体を得る積層工程、及び前記多層構造の積層体を硬化させる硬化工程、を含むことを特徴とする多層構造の歯科加工用ブランクの製造方法。」が記載されている。
【0007】
そして、特許文献2によれば、前記充填工程において、型枠ユニットとして、柱状空洞部を有する筒状体からなり、その内部に充填される流動性ペーストと接触する平坦な接触面を有する押出板が、前記柱状空洞部内を進退自在に嵌挿されたものを用いるとともに、射出装置と連結した充填具を用い、流動性ペーストで押出板を下から押し上げるようにして流動性ペーストを充填することにより、通常では型枠に流し入れることが難しい、流動性の低いペースト(硬化性組成物)を用いた場合でも、色調や、組成がそれぞれ異なるペースト同士の界面の乱れや、ペーストの空隙、等といった欠陥の発生を抑制して、複数の色調・組成からなる多層構造の歯科加工用ブランクを作製できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-097854号公報
【特許文献2】特開2020-151339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、HRミルブランクの被切削部については、全体が単一のHRからなる単層構造のものと、異なる色調のHR層が重なった積層構造のものとがあり、患者の要望に応じて使い分けられている。高度な審美修復が望まれる場合には積層構造のものが使用されるが、単層構造のものを用いた場合でも違和感のない審美修復が可能であり、また治療費の面からも単層構造のものに対する需要は高い。
【0010】
特許文献1に記載された方法によれば、型を用いて単層構造のHR製被切削部を製造するに際し、ブロック内への気泡発生、及び加工時の割れの発生を抑制できるとされている。しかしながら、型にHR原料ペーストを隙間なく充填するためには、ペーストを、シリンジ等を用いて静かに注入する必要があった。また、HR原料ペーストとして、物性向上のためにフィラー充填率を高めた流動性の低いものを用いた場合には、HR原料ペーストが型の隅角部に流れ込まずに充填不良等の欠陥が発生することがあり、場合によっては型内への定量充填自体が困難となることもあった。
【0011】
そこで本発明は、型を用いて単層構造のHR製被切削部を製造する工程を含むHRミルブランクの製造方法において、流動性の低いHR原料ペーストを用いた場合であっても、効率よく、高精度で所期の形状を有するHRからなる単層構造の被切削部を作製できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、単層構造のハイブリッドレジンからなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法であって、
前記ハイブリッドレジンの原料となる、重合性単量体、無機フィラー及び熱重合開始剤を含有する硬化性組成物からなる流動性ペーストを準備する原料準備工程;
両端に開口3b,cを有する筒状体3dと、該筒状体3dの空洞部内に充填される流動性ペーストと接触する平坦な接触面を有し、前記柱状空洞部内を進退自在に嵌挿され、前記筒状体の一方の開口3b側の所定の位置に留まることによって前記接触面からなる底を構成する可動底板3aと、を有する有底型枠3の前記空洞部内に、前記原料準備工程で準備された流動性ペーストを充填する充填工程;
前記有底型枠3の他方の開口3cから露出する、前記充填工程で充填された流動性ペーストの露出表面を可撓性シートで覆うカバー工程:
及び
前記有底型枠内3に充填され、その露出表面が前記可撓性シートで覆われた前記流動性ペーストを硬化させる硬化工程;
を含み、
前記充填工程では、
平坦な支持面5c1を上面の一部として有する充填盤5cと、前記支持面5c1に設けられた開口による充填ノズル5eと、該充填ノズル5eの開口に向かって前記充填盤5c内部に形成されたペースト流路5c2とを有する充填具5を用い、
前記充填盤5cの支持面上の所定の位置に、前記有底型枠3を、その可動底板3aの前記接触面が、前記充填ノズル5eの開口及びその周囲の支持面5c1と対向するようにして載置してから該有底型枠3の筒状体3dが移動しないように保持した後に前記充填ノズル5eから前記流動性ペーストを吐出して、前記可動底板3aを前記筒状体3dの一方端側の所定の位置まで押し上げながら前記筒状体3dの空洞部の内部に充填し、
前記カバー工程では、前記流動性ペーストが充填された有底型枠3を、前記充填ノズル5eが存在しない領域まで前記支持面5c1上をスライド移動させてから前記充填具5より取り外し、その後、前記有底型枠の他方の開口3cを上方に向け、該開口3cから前記流動性ペーストの一部が突出した状態で、上方より可撓性シートを被せて、該可撓性シートと流動性ペーストの露出表面とを密着させる、
ことを特徴とする、前記歯科加工用ブランクの製造方法である。
【0013】
なお、上記形態においては、理解を助けるために各部材等に後述の図面における符号を付して表記している。
【0014】
上記形態の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)においては、ペースト状組成物からなる試料について、半径がR(mm)であるパラレルプレートを用いた回転粘度計により温度:30℃、回転速度m(rpm)で測定して得られる粘度:η(Pa・s)およびトルク:M(Pa・m3)を、夫々、ηmおよびMmとし、前記Mmに基づいて、式:τm={4Mm/(3πR3)}×106 によって求められるτmを回転数m(rpm)における断応力(kPa)とし、さらにm=1における断応力であるτ1とm=10における断応力であるτ10との比:τ10/τ1を、前記ペースト状重合硬化性組成物の「ダイラタンシー性指数」としたときに、
前記充原料準備工程では、m=1における粘度であるη1が500(Pa・s)以上であり、且つダイラタンシー性指数が2~30である1種類の流動性ペーストを準備する、ことが好ましい。
【0015】
また、上記の好適な態様においては、充填された流動性ペーストに内圧が残存するようにして前記充填工程における前記流動性ペーストの充填及び前記カバー工程における前記スライド移動を行い、前記取り外しによる前記内達の解放に伴い、充填された前記流動性ペーストの一部を前記開口3cから突出させる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、流動性の低いHR原料ペーストを用いた場合であっても、材料のロスを抑えて、高効率且つ高精度で所定形状のHRからなる単層構造の被切削部を有するHRミルブランク製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本図は、本発明の製造方法の製造目的物である、単層構造のハイブリッドレジンからなる被切削部を有する歯科加工用ブランク(HRミルブランク)を示す概略の斜視図である。
【
図2】本図は、
図1に示すHRミルブランクをCAD/CAMシステムを用いた切削装置に切削加工して得られた奥歯用の歯科用補綴物の概略を示す斜視図である。
【
図3】本図は、歯科加工用ブランクを成形するために使用する代表的な有底型枠を示す斜視図である。
【
図4】本図は、充填工程で好適に使用される充填具の斜視図である。
【
図5】本図は、充填前の有底型枠を充填具にセットするとき又は充填後の有底型枠を充填具から取り外すときの様子を模式的に示す平面図である。
【
図6】本図は、充填具を使用して流動性ペーストを充填する状態を示す模式図である。
【
図7】本図は、ストッパー片を有する保持板に有底型枠を挿入して{図(A)、図(B)}充填工程を行い{図(C)}、充填後の有底型枠を充填具から取り外し、その上下を反転させた{図(D)}という一連操作を行った時の様子を示す模式図である。
【
図8】本図は、押し上げ装置を用いて、流動性ペーストの露出面(解放面)を凸状に突出される様子を表した図である。
【
図9】本図は、カバー工程において突出した流動性ペーストの露出面上に可撓性シート被せて密着させる様子を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前記特許文献2に記載された製法は、多層構造のHRからなる被切削部を作製するものであるが、押出板を用いた前記型枠ユニットへ前記充填具を用いて流動性ペーストで押出板を下から押し上げるようにして流動性ペーストの充填を行うことにより、短時間で、型の(隅角部に未充填部を残すことなく)隅々まで流動性ペーストを行渡らせるようにして充填することが可能である。そこで、本発明者等は、この技術を応用して単層構造の被切削部を得るべく、1つの型枠ユニットに充填され流動性ペーストを硬化させてみたところ、型枠ユニットの押出板で塞がれていない端部が開口している(解放状態である)ため、硬化前にゴミが付着して、そのままの状態で硬化が行われてしまうことがあるだけでなく、型ユニットの傾き等によって硬化体の形状を所期の形状とすることができないことがあることが判明した。そこで、解放面を(別の)押し出し板で閉塞することを試みたところ、押し出し板が入り込む際のペーストの逃げによる材料ロス発生や、圧入時に反対面の押し出し板がずれること等による形状不良の発生が起こり、これらを抑えることは困難であった。このような状況に鑑み、更に検討を行った結果、型枠ユニットに充填後、前記開口を上に向け、更に該開口から流動性ペーストの一部が突出した状態で、上方より可撓性シートを被せて、該可撓性シートと流動性ペーストの露出表面とを密着させた場合には、空気を噛む(気泡を巻き込む)ことなく、材料ロスを抑え、しかも反対側の押し出し板のズレを起こさずに前記開口を塞ぐことができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0019】
以下、本発明の製造方法で使用する原材料について説明した上で、適宜図面を参照して本発明の製造方法における各工程について説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0020】
1.流動性ペーストの原材料について
本発明の製造方法では、単層構造の被切削部を構成するハイブリッドレジン(HR)の原料として、重合性単量体、無機フィラー及び熱重合開始剤を含有する硬化性組成物からなる流動性ペーストを使用する。以下に、これら成分について説明する。
【0021】
<重合性単量体>
重合性単量体としては、(メタ)アクリル化合物などのラジカル重合性単量体、エポキシ化合物やオキセタン化合物等のカチオン重合性単量体等の中から適宜選択して用いることができるが、(メタ)アクリレート系重合性単量体を使用することが好ましい。(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、単官能重合性単量体、多官能重合性単量体の何れであってもよく、また、分子内に酸性基や水酸基を有するものであってもよく、更に芳香族系のものであっても脂肪族系のものであってもよい。歯科用重合性硬化物用に好適に使用できる(メタ)アクリレート系重合性単量体を例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0022】
これらの(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0023】
<無機フィラー>
無機フィラーとしては、非晶質シリカ、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア、石英、アルミナ、ガラスなどのなどの無機粒子及びこれらの無機粒子を用いた有機無機複合フィラーが好適に使用できる。たとえば、歯科用重合硬化性組成物を得るためには、シリカとジルコニア、またはシリカと酸化バリウムとを主な構成成分とする複合無機酸化物の粒子、例えば、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニアの粒子が、高いX線造影性を有するため好ましく使用される。なお、無機粒子の形状は特に限定されないが、球状のものを用いた場合には、得られるペースト状重合硬化性組成物の硬化体が耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れたものとなる。有機無機複合フィラーの例としては、前述の無機粒子と重合性単量体を混合した後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合フィラーが挙げられる。
【0024】
上記無機粒子は、機械的強度や耐水性を向上させるために、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理されていてもよい。
【0025】
歯科用重合硬化性組成物を得るためには、無機粒子の平均1次粒子径が、0.001μm以上3μm以下であることが好ましく、0.1μm以上1.0μm以下であることが、前記硬化体の耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点より好ましい。また、前記粉体原料以外に平均1次粒子径が0.1~1.0μmである微細無機粒子を含むことが好ましく、(有機無機複合フィラーの形態の物を含めて)無機充填材の全質量100質量部に対して20質量部以上含むことが好ましく、30質量部以上含むことがより好ましい。また、上記微細無機粒子は球状微細無機粒子であることがより好ましい。
【0026】
なお、このような平均1次粒子径は、走査型電子顕微鏡を用いて求める。走査型電子顕微鏡で粒子を観察し、その単位視野内の粒子30個以上を無作為に選び、それぞれの一次粒子径(最大径)を計測する。その一次粒子径の合計を選択した粒子の数で徐して得られる値を平均1次粒子径とする。
【0027】
これらの無機充填材の配合量は、硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、流動性が低く、一般的には重合性単量体100質量部に対して300質量部以上740質量部以下、好ましくは360質量部以上560質量部以下の範囲で用いられる。
【0028】
<熱重合開始剤>
熱重合開始剤としては、前記重合性単量体を熱で重合硬化させる機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p-フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が好適に使用できる。これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。また、重合方法の異なる複数の開始剤を組み合わせることも可能である。
【0029】
重合開始剤の配合量は種類に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体100質量部に対して通常0.01~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1~5質量部の割合で使用される。
【0030】
<その他成分>
さらに、目的とするブランクの性質を達成するために、例えば、顔料等の着色剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤抗菌剤、X線造影剤などの、HRミルブランクのHR用添加材として使用されるものを適宜配合することができる。
【0031】
2.本発明の製造方法
本発明の製造方法は、単層構造のハイブリッドレジンからなる被切削部を有する歯科加工用ブランクを製造する方法であって、原料準備工程;充填工程;カバー工程:及び硬化工程;を含む。以下に、製造目的物であるHRミルブランク及び上記各工程について適宜図面を参照して説明する。
【0032】
(1)製造目的物であるHRミルブランクについて
本発明の製造方法の製造目的物である、単層構造のハイブリッドレジンからなる被切削部1aを有する歯科加工用ブランク(HRミルブランク)1の概略を示す斜視図を
図1に示す。
図1に示されるように、被切削部1aには、ブランク保持ピン2が接合されており、これを用いてHRミルブランク1をCAD/CAMシステムを用いた切削装置に固定して切削加工することにより、例えば
図2に示すような奥歯用の歯科用補綴物10を製造することができる。
【0033】
(2)原料準備工程について
原料準備工程では、ハイブリッドレジンの原料となる前記各材料、すなわち、重合性単量体、無機フィラー、熱重合開始剤及び必要に応じて配合される任意成分を夫々所定量計り取り、これら成分を混練することにより流動性ペーストを調製する。なお、調製に際しては、混練後に得られた流動性ペーストを真空下に供して脱気して気泡を除去することが好ましい。流動性ペーストの無機フィラーの充填率{流動性ペーストに含まれる重層性単量体と無機フィラーとの総質量に対する無機フィラー質量の割合(質量%)。以下、単に「無機充填率」ともいう。}としては、優れた物性をもつ歯科補綴物を製造することができるという理由から、72~99質量%が好ましく、75~95質量%であることがより好ましく、78~90質量%であることが最も好ましい。無機充填率を72%以上とすることで流動性が非常に低下し、シリンジ等を用いて片側開口の型枠内に流し込むことは困難となるが、本発明の製造方法によれば短時間で効率よく良好な充填を行うことができる。
【0034】
このような本発明の製造方法における効果のメリットが大きいという観点から、前記流動性ペーストは、次の様な粘度を有するものであることが好ましい。すなわち、パラレルプレートを用いた回転粘度計の試料台の温度を30℃に調節し、試料0.7gをペーストの厚みが1mmとなるように、φ20mmのパラレルプレートで圧接した状態で1分間静置した後、剪断速度を毎分1回転で走査して、測定される粘度:η1が500Pa・s以上であることが好ましい。
【0035】
また、充填工程において、特別な治具等を用いることなく、充填時における圧力負荷とその解除を行うだけで、有底型枠の他方の開口を上方に向けたときに自然に該開口から流動性ペーストの一部が突出するようになることから、ダイラタンシー性指数が2~30であることが好ましく、3~28、特に4~25であることがより好ましい。
【0036】
ここで、ダイラタンシー性指数とは、ペースト状組成物からなる試料について、半径がR(mm)であるパラレルプレートを用いた回転粘度計により30℃、回転速度m(rpm)で測定して得られるトルク:M(Pa・m3)をMmとし、該Mmに基づいて、
式:τm={4Mm/(3πR3)}×106
によって求められるτmを回転数m(rpm)における断応力(kPa)としたときにおいて、τ1とτ10との比:τ10/τ1の値として定義されるものである。なお、ダイラタンシー性指数の値が1を越える場合には、試料となるペースト状組成物ダイラタンシー性を有し、その数値が大きいほどダイラタンシー性が強いことを意味する。
【0037】
流動性ペーストの粘度及びダイラタンシー性指数は、配合する無機フィラーの含有量(無機充填率)や無機フィラーの組成により制御することが可能である。例えばη1が500Pa・s以上でダイラタンシー性指数が2~30とするためには、無機充填率を70質量%以上とし、かつ、平均一次粒子径が0.1μm~1μmである球状微細無機粒子を、無機充填材の全質量100質量部に対して20質量部以上含有するようにすればよい。粒径が単一に近いほどダイラタンシー性が高まる傾向がある。
【0038】
(3)充填工程について
充填工程では、両端に開口を有する筒状体と、該筒状体の空洞部内に充填される流動性ペーストと接触する平坦な接触面を有し、前記柱状空洞部内を進退自在に嵌挿され、前記筒状体の一方の開口側の所定の位置に留まることによって前記接触面からなる底を構成する可動底板と、を有する有底型枠の前記空洞部内に、前記原料準備工程で準備された流動性ペーストを充填する有底型枠の内部に前記原料準備工程で準備された流動性ペーストを充填する。
【0039】
(3-1)有底型枠
まず、流動性ペーストを充填後の有底型枠の状態を示す
図3(但し流動性ペーストは図示していない。)参照して前記有底型枠について説明すると、有底型枠3は、特許文献2における型枠ユニットに相当するものであり、型枠本体となる筒状体3dと、底となる可動底板3a(特許文献2における型枠ユニットにおける押出板に相当するものである。)とからなる。筒状体3dは、両端に開口、すなわち閉鎖側開口3bと供給側開口3cとを有し、充填後の状態において閉鎖側開口3bには、筒状体3dの軸方向に動自在とされた平坦な接触面3a1を有する可動底板3aが、接触面を3a1筒状体3dの空洞部側(
図3における図面下側)に向けて収容されている。後述の
図7(B)~(D)にも示されるように、充填開始前には、可動底板3aは閉鎖側開口3bとは反対側の供給側開口3cを塞ぐように配置されており{
図7(B)}、流動性ペーストが供給されて充填されるに従い流動性ペーストにより押し上げられて閉鎖側開口3を閉塞し{
図7(C)}、充填後に有底型枠3の上下を反転させたときに、前記接触面からなる底を構成するようになっている{
図7(D)}。
図3は、
図7(C)の状態における有底型枠3のみを抜き出して表したものであるともいえる。可動底板3aがスムースに押し上げられ且つ可動底板3aと筒状体3dとの隙間から流動性ペーストが漏れ出ないようにするため、可動底板3a(主表面の)形状は、筒状体3d空洞の横断面形状と実質的に同一で僅かに小さい(例えば上記隙間が0.2mm以下となるような大きさ)ことが好ましい。
【0040】
(3-2)充填具及び充填方法
本発明の製造方法では、充填工程において特定の構成を有する充填具を使用する。すなわち、平坦な支持面を上面の一部として有する充填盤と、前記支持面に設けられた開口による充填ノズルと、該充填ノズルの開口に向かって前記充填盤内部に形成されたペースト流路とを有する充填具を使用する。そして、前記充填盤の支持面上の所定の位置、具体的には、前記有底型枠の可動底板の前記接触面が、前記充填ノズルの開口及びその周囲の支持面と対向するような位置に前記有底型枠を載置すると共に該有底型枠の筒状体が移動しないように保持した後に前記充填ノズルから流動性ペーストを吐出して、前記可動底板を前記筒状体の一方端側の所定の位置まで押し上げながら前記筒状体の空洞部の内部に充填する。
【0041】
以下、
図4~6を参照して、好適に使用される上記充填具5を用いて充填工程を行う場合について説明する。
図4に示される充填具5は、平坦な支持面5c1を上面の一部として有する充填盤5cと、前記支持面5c1に設けられた開口による充填ノズル5eと有している。充填ノズル5eは(前記充填盤5c内部に形成された)ペースト流路5c2を介して図示しない射出装置や押出機などのペースト供給装置と繋がっており、ペースト供給装置から筒状体3dの空洞部内に向けて流動性ペーストPを供給できるようになっている。また、
図4に示す充填具5は、有底型枠3を保持する保持板5aと、この保持板5aを収容させて位置決めするほぼU字形の位置決めブロック5bを有しており、この位置決めブロック5bは、保持板5aに保持された有底型枠3を前記所定の位置に保持できるようにして平坦な支持面5c1上に取り付けられている。すなわち、
図5に示すように有底型枠3を保持した有底型枠収容部5dを、支持面5c1上をスライド移動させてブロック5b内に収容することにより、充填ノズル5eが可動底板3aの接触面のほぼ中央をとなるような(流動性ペーストP充填のための)所定の位置にセットできるようになっている。このようにセットすることにより、有底型枠3の筒状体3dが移動しないように保持することができる。
【0042】
そして、
図6に示すように、前記充填ノズル5eから前記流動性ペーストPを吐出して、前記可動底板3aを前記筒状体3dの一方端側の所定の位置まで押し上げながら前記筒状体3dの空洞部内部に流動性ペーストPが充填される。
【0043】
以上、
図4~6を参照して、充填工程について説明したが、本発明の製造方法はこれら図に示されるや異様に限定されるものでは無く、充填具の構成等は目的を達成できるものであれば適宜変更できる。たとえば、図に示した態様では、保持板に単一の有底型枠収容部が形成された構造について説明したが、位置決めブロック5bの形状等は有保持板5aの離脱と固定が容易なように、U字形に限らず、V字型とすることやレール等のスライド部材を用いることもできる。また、位置決めブロック5bを分割させた一対とした構造とすることもでき、この位置決めブロック5bの充填盤5cに対する取付位置を変更して、保持板5aの保持状態を調整することができるようにしてもよい。また、位置決めブロック5bを充填盤5cに直接固定する必用は無く、保持板5aの位置が固定可能となるような、別の固定具を用意することでも対応できる。さらに、一つの保持板5aに複有底型枠3が収容できるようにすることもできる。
【0044】
また、保持板や有底型枠収容部についても、具体的な、充填方法、位置決め方法、前後工程実施方法等を考慮して、これらに適した形状や構造に適宜変更できる。たとえば、保持板5aは、可動底板3aが所定量の流動性ペーストPが充填されたときに押し上げられる高さを超えて上昇しないようにするストッパー機構を有することが好ましい。ストッパー機構を有することにより、充填された流動ペーストPに内圧をかけることが可能となり、後述するカバー工程において、容易に供給側開口3cから流動性ペーストPが露出している状態とすることができるようになる。ストッパー機構としては、例えば、保持板5aにおいて有底型枠収容部5dの周囲を囲う側壁の上端から有底型枠収容部5dの内側に向かって張り出した庇状のストッパー片が採用できる。
図7は、このようなストッパー片5a1又は5a2を有する保持板5aに有底型枠3を挿入して充填工程を行い、充填後の有底型枠3を充填具5から取り外し、その上下を反転させた時の様子を模式的に示したものである。
図7(A)および(B)に示されるように、可動底板3aが供給側開口3cを塞ぐように配置された状態の有底型枠3の上方から保持板5aを被せるようにして有底型枠収容部5dの内部に有底型枠3を収容し、その後
図7(C)に示されるように供給側開口3cから流動性ペーストPを、可動底板3aがストッパー片5a1、5a2に当接するまでの量(当該量が所定の充填量となる。)充填される。その後、後述のカバー工程に進む際に、
図7(D)に示されるように保持板5aごと、填具5から取り外し、その上下を反転させればよい。
【0045】
(4)カバー工程について
カバー工程では、先ず、
図5に示すようして、前記流動性ペーストが充填された有底型枠を、前記充填ノズルが存在しない領域まで前記支持面5c1上をスライド移動させてから前記充填具5より取り外す。次いで、充填後に有底型枠3の上下を反転させて、
図7(D)に模式的に示されるように、前記有底型枠の他方の開口(供給側開口3c)を上方に向け、可動底板3aを底板とする有底型枠3の内部に流動性ペーストが充填され、供給側開口3cから流動性ペーストPが突出している状態とする。このとき、取り外しに際して一時的に有底型枠3の供給側開口3cから露出する流動性ペーストPの露出面Paが下を向いて解放された状態となるが、流動性ペーストPの充填率が例えば65%以上と高い場合には、粘度が非常に高いため、短時間このような状態となっても型内でペーストの移動は実質的に起こらない(起こっても後の操作に影響は与えない)。
【0046】
その後、該供給側開口3cから前記流動性ペーストPの一部が突出した状態で、上方より可撓性シートを被せて、該可撓性シートと流動性ペーストの露出表面とを密着させる。
【0047】
供給側開口3cから前記流動性ペーストPの一部が突出した状態とせずに上方より可撓性シートを被せた場合には、被覆時に空気を噛む(気泡を巻き込む)ことが多く、所期の形状の被切削部を得ることが困難となり、硬化工程後に研磨工程が必須となるばかりでなく、研磨工程での研磨量や研磨に要する時間が多くなってしまう。
【0048】
(4-1)流動性ペーストPを突出させる方法
有底型枠3の供給側開口3cから露出する流動性ペーストPの露出面(解放面)Paを凸状に突出した状態とする方法としては、特殊な装置を用いる必要がないという理由から、充填工程において流動性ペーストPに内圧(大気圧より若干高い圧力)をかけて、流動性ペーストPがわずかに圧縮された状態にし、充填具5より取り外ことにより内圧を解放して、大気圧下で流動性ペーストPがわずかに膨張する現象を利用することが好ましい。このよう方法で、流動性ペーストPの露出面(解放面)Paを可撓性シートによる被覆に好適な突出状態とすることができるという理由から、前記充填工程では、流動性ペーストPとして、粘度:η1が500Pa・s以上で、ダイラタンシー性指数:τ10/τ1が2~30である1種類の流動性ペーストを使用し、射出装置や押出機などのペースト供給装置を用いて0.01~10.0(単位MPa)程度の吐出圧力をかけて充填を行うことが好ましい。高粘度であればあるほど、充填時の圧損が大きくなることに起因して高圧になる傾向があるが、ペースト性状と吐出の状態に応じて適宜決定すればよい。
【0049】
また、流動性ペーストが充填された有底型枠3の底板となっている可動底板3aを下から押し上げことができる押し上げ装置を使用してもよい。たとえば、
図8に示すように、内部を押上ロッド6b1が進退可能に挿入される貫通孔6a2を有する保持板6aと押上ロッド6b1が立設され図示しない昇降装置により上下方向に昇降する押上板6bを有する押し上げ装置6の貫通孔6a2上に流動性ペーストが充填された有底型枠3を載置、保持して押上板6bを所定の高さ上昇させて押上ロッド6b1により可動底板3aを押し上げることにより、上昇高さに応じて露出面(解放面)Paを凸状に突出させることができる。
【0050】
なお、被覆に好適な突出状態とは、可動底板3aの接触面3a1の位置を基準として、露出面(解放面)Paの最高点の高さから有底型枠3の供給側開口3cの高さを引いた突出高さhが0.3~3mm、特に0.5~2mmとなるような状態を意味する。
【0051】
(4-2)可撓性シート及び被覆方法
流動性ペーストPの凸状の露出面(解放面)Paに上方より被せる可撓性シートとしては、たとえば主表面形状が縦150mm、横10mmの長方形に切り出したシートにおいて、空中で両横を同じ高さに保持してその間隔を10mm~5mmの範囲で狭めてからは戻したときに下に凸となるように屈曲して撓んでから元に戻るような可撓性(柔軟性)を有し、主表面が平滑で且つ硬化工程における重合温度以上の耐熱性を有するシートであればその材質等は特に限定されない。たとえば、PP(ポリプロピレン)や、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のポリエステル、PVE(ポリ塩化ビニル)、ポリイミド、ポリウレタン、セロハン、ナイロン、HDPE(高密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン、といった樹脂製シート、これらに金属箔をラミネートしたシート、シリコーンゴムやフッ素ゴムなどのゴム製シートなどが使用できる。取り扱い性や、熱耐久性の観点から、PPやポリイミド、PET、ポリエステル製のものが特に好適に使用できる。シートの厚さは、可撓性(柔軟性)を有するものであれば特に限定されないが折り目が付き難く取り扱いやすいという理由から0.015mm~0.2mmの範囲内であることが好ましい。
【0052】
凸状の露出面(解放面)Paに可撓性シートを上方より被せる方法としては、
図9に示すように、余裕をもって有底型枠3の供給側開口3cを被覆できるような形状および面積の主要面を有する可撓性シート4を用い、これを下に凸状に撓ませた状態で、その最下点と、水平台FBa上に載置された有底型枠3に充填された流動性ペーストPの凸状露出面Paの頂点とが接触するまで上方よりゆっくり下降させ、接触後は、接触領域がその周囲に徐々に広がるように撓みを解消させて覆って行くことが好ましい。このような方法をとることにより、空気を噛む(気泡を巻き込む)ことなく被覆を行うことができる。被覆終了後は、可撓性シート4の背面(流動性ペーストPと接触しない面)4aに平滑な表面を有する押さえ板FBbをのせて押すことによってシートとペースト状熱硬化性組成物とを密着させるとともに流動性ペーストPの被覆面を平滑化すればよい。このとき、凸出分の流動性ペーストPが溢れて有底型枠3の外側に付着するが、その量は極めて僅かであり、また、そのまま硬化工程を行っても型及び型内の硬化体と簡単に分離できる。
【0053】
上記したような方法で良好な被覆が行い易いという理由から、可撓性シートは、その柔軟性の指標であって、次のようにして決定される「撓み幅」が、3~50mmであることが好まく、5~45mmであることがより好ましい。
【0054】
「撓み幅」の決定方法: 長辺が150mmで短辺が10mmの長方形の試料シートの両端の短辺を持って持ち上げ、両短辺及びその周辺(幅5mm程度の領域)が密着するようにして空中に保持して、一方の長辺側から見たときに当該長辺が所謂、雫形(落下する水滴の形状)の縦断面形状を形成するように試料シートが屈曲しない(折れ曲がらない)ように自然に撓ませる。このような状態で、上記雫形の縦断面形状の最大幅(mm)を測定し、その値を「撓み幅」とする。「撓み幅」が小さいほど柔軟性が大きいと言える。
【0055】
なお、
図9では、有底型枠3は、保持板5aから取り外された状態で水平台FBa上に載置されているが、保持板5aに保持された状態で載置してカバー工程を行うことも勿論可能である。
【0056】
(5)硬化工程について
硬化工程では、前記有底型枠3内に充填され、その露出表面Paが前記可撓性シート4で覆われた流動性ペーストPを硬化させる。硬化方法は、流動性ペーストPに配合されている熱重合開始剤の種類に応じて、所定に時間所定の温度に加熱することにより行われる。この時、可撓性シート4で覆われた有底型枠内3(保持板5aに保持された状態であってもよい。)ごと、所定の圧力とすることが可能な容器に入れて加圧を行ってもよい。
【0057】
硬化終了後は、流動性ペーストPの硬化体を型枠ユニット3から取り出し、必要に応じてバリ等の除去や、表面を滑らかにするための研磨処理、面だし、印字、熱処理などの後処理を行うことにより、歯科加工用ブランク1の(単層構造のHRからなる)被切削部1aが製造される。
【0058】
そして、製造された被切削部1aに、ブランク保持ピン2を接着剤等で接着させることにより歯科加工用ブランク1が得ることができる。ブランク保持ピンは、切削加工機にブランクを固定できるような形状のものであれば特に制限はなく、ブランクの形状と加工機の要求によっては具備されなくともよい。ブランク保持ピンの材質は、ステンレス、真鍮、アルミニウムなどが使用される。ブランク保持ピンの歯科切削加工用レジン材料への固定方法は前記の接着によらず、はめ込み、ネジ止め等の方法でよく、上記接着方法についても特に制限はなく、イソシアネート系、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系等の各種市販の接着材を使用することができる。
【0059】
以上、図面を参照して本発明の製造方法について説明したが、有底型枠、充填具等は、図に示されるものに限定されず、その目的を達成し得るものであれば、材質、形状等は適宜変更することができる。また、カバー工程や硬化工程については、流動性ペーストPが充填された有底型枠3を複数まとめ処理することも可能である。たとえば、カバー工程において流動性ペーストPが充填された有底型枠3を1列に並べ、1枚の可撓性シート4で覆い、これを1セットとして、複数のセットを同時に硬化させることもできる。
【実施例0060】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0061】
ペースト状重合硬化性組成物の原料として使用した化合物とその略号を以下に示す。
・UDMA: 1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・TEGDMA: トリエチレングリコールジメタアクリレート
・BPO: ベンゾイルパーオキサイド。
【0062】
[重合性単量体混合液]
重合性単量体混合液として、下記組成のように混合して使用した。
・UDMA:70質量部、TEGDMA:30質量部、及びBPO:1.0質量部。
【0063】
[無機充填材]
無機充填材として、下記のものを使用した。
・平均粒径0.2μm、屈折率1.54の球状シリカジルコニア(γ-メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシランを用いて表面処理を行ったもの)。
【0064】
[可撓性シート]
使用したシートとその略号を以下に示す。
・PP: 厚さ0.01、0.016、0.1、0.2、0.3mm
のポリプロピレン製シート
・PET: 厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレート製シート
・ポリイミド 厚さ0.1mmのポリイミド製シート。
【0065】
上記各可撓性シートを表1に示すように番号付けしすると共に、各シートNo.の可撓性シートから、長辺が150mmで短辺が10mmの長方形の試料シートを切り出し、該試験シートについて(4-2)項で説明した方法により測定した「撓み幅」を表1に示す。
【0066】
【0067】
[押さえ板]
・幅12mm、奥行18mm、厚み1mmのPP製板状体。
【0068】
実施例1
(1)原料準備工程
重合性単量体混100質量部に対する無機充填材の配合量が230質量部となるようにして重合性単量体混合液と無機充填材とを、プラネタリーミキサーを用いて均一になるまで混合した後に真空下で脱泡して、充填率が70質量%である流動性ペースト(ペースト1)を調製した。
【0069】
調製された上記流動性ペースト記性組成物の粘度:η1およびダイラタンシー性指数を以下の方法により測定したところ、η1は423Pa・sであり、ダイラタンシー性指数は1.1であった。
【0070】
<粘度測定>
パラレルプレートを用いた回転粘度計であるModular Compact Rheometer MCR302(Anton Paar製)を用いて、次のようにして温度:30℃、回転速度:1rpmの条件で測定される粘度:η1(単位:Pa・s)を測定した。すなわち、先ずアルミ製ディスポーザブル試料台を装置本体に設置後、試料台の温度を30℃に調節した。試料台の温度が安定した後、試料台に試料となるペースト状重合硬化性組成物0.7gを試料台にとり、ペーストの厚みが1mmとなるように、装置本体に接続したパラレルプレート(φ20mm、R=10mm)で圧接する。この状態で1分間静置した後、測定ソフトウェアRheoCompass(Anton Paar製)を用いて、剪断速度を毎分1回転で走査して、熱重合硬化性組成物のペースト粘度η1(Pa・s)を得た。
【0071】
<ダイラタンシー性指数測定>
上記と同様にして試料をパラレルプレート(φ20mm、R=10mm)で圧してから1分間静置した後に、測定ソフトウェアRheoCompass(Anton Paar製)を用いて、剪断速度を毎分1回転と毎分10回転の走査を行い、1rpmで測定されるトルク:M1(単位:Pa・m3)及び10rpmで測定されるトルク(単位:Pa・m3):M10から下記式(III)
τm={4Mm/(3πR3)}×106 ・・・(III)
により、それぞれ対応する断応力(単位:kPa)τ1及びτ10をそれぞれ求め、得られた値に基づきτ10/τ1で定義されるダイラタンシー性指数を求めた。
【0072】
(2)充填工程
次いで、
図3に示す形状、具体的には、両端開口の形状が縦12.0mmm、横18.0mmの矩形であり高さが16.0mmの内部空洞を有するPP製筒状体と縦11.8mm、横17.8mm、厚さ2.0mmのPP製可動底板を有する有底型枠(流動性ペーストが充填される空洞部の高さは、16.0mmとなる)と、
図4に示すものと同様の構造を有する充填具(但し、保持板は
図7に示すストッパー片5a1を有すものを使用した。)を用い、押出機によって押し出されたペースト1を充填ノズルから有底型枠の内部に供給し、可動底板がストッパー片に当接するまで充填した。
【0073】
(3)カバー工程及び硬化工程
その後、
図5に示すように有底型枠をスライドさせて充填具から離脱させた後、上下反転させたところ、突出高さh;1mmでペースト解放面が凸出していた。
ペースト解放面が凸出した有底型枠を水平台上におき、
図9に示すようにして厚さ0.1mmのPP製シートを上方よりペースト解放面に被せてからシートの上面に「押さえ板」を乗せることでシートとペーストを密着させたところ、気泡の混入は見られなかった。
このように得られた押さえ板を乗せた状態の(ペースト1が充填された)有底型枠を100℃2時間加熱硬化させた後、硬化体型から抜き出すことで、単層構造のHRからなる被切削部となる硬化体を得た。
【0074】
(4)硬化体の評価
同様にして硬化体20個作製し、得られた20個の硬化体について、高さ方向の寸法測定を行った。高さ14.0±0.5mm以内でかつ、4隅の高さ(4隅の縦稜線の長さ)の寸法差が0.2mm以内のものを合格品、それ以外を不良として良品率を算出した。寸法に加え、エアの残存についてもその有無を評価し、残存したものを不合格と判定したその結果、良品率は100%であった。
【0075】
実施例2~14
実施例1において、原料準備工程で使用する重合性単量体組成物と無機充填材の比率を表2に示すように変えて各ペーストNo.の流動性ペーストを調製し、そのη1及びダイラタンシー性指数の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0076】
【0077】
次いで、原料準備工程で調製されたペーストを用い、カバー工程で使用する可撓性シートを表3に示すものに変更する以外は、実施例1と同様にして硬化体を作成し、評価を行った。評価結果を表3に示す。表3に示されるように、何れの実施例においても良品率は高かく、特に、「撓み幅」が5~45の(可撓性)シートを用いた場合の良品率は100%であった。
【0078】
【0079】
比較例1~8
流動性ペーストとして表4に示すペーストNo.のペーストを用い、更に、カバー工程において可撓性シートを用いることなく、上方よりペースト解放面上に「押さえ板」を直接乗せた後に、実施例1と同様にして硬化を行い、得られた硬化体の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0080】
【0081】
表4に示されるように、可撓性を有さない「押さえ板」で直接カバーした場合には、良品率が著しく低下している。