(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141940
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/20 20060101AFI20241003BHJP
B01D 46/00 20220101ALI20241003BHJP
F01N 3/022 20060101ALI20241003BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01D46/00 302
F01N3/022 C
C04B38/00 303Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053828
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】河村 直紀
【テーマコード(参考)】
3G190
4D019
4D058
4G019
【Fターム(参考)】
3G190AA12
3G190BA01
3G190BA02
3G190BA43
3G190CA03
3G190CA13
4D019AA01
4D019BA05
4D019BB06
4D019BD01
4D019BD02
4D019CA01
4D019CB06
4D019CB07
4D058JA32
4D058JA37
4D058JA38
4D058JB06
4D058JB28
4D058SA08
4G019FA12
4G019FA13
(57)【要約】
【課題】 PM捕集性能が低下しにくいハニカムフィルタを提供する。
【解決手段】 排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁を備え、排ガス入口側の端部が開口され、かつ、排ガス出口側の端部が目封止された排ガス導入セルと、排ガス出口側の端部が開口され、かつ、排ガス入口側の端部が目封止された排ガス排出セルと、を備えてなるハニカムフィルタであり、上記セル隔壁はSiC多孔体からなり、上記SiC多孔体を構成するSiC粒子の平均粒子径は10~50μmであり、上記セル隔壁の上記排ガス導入セル側の表面には、平均粒子径が1~5μmのSiC微粒子が焼結付着している、ことを特徴とするハニカムフィルタ。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁を備え、排ガス入口側の端部が開口され、かつ、排ガス出口側の端部が目封止された排ガス導入セルと、排ガス出口側の端部が開口され、かつ、排ガス入口側の端部が目封止された排ガス排出セルと、を備えてなるハニカムフィルタであり、
前記セル隔壁はSiC多孔体からなり、
前記SiC多孔体を構成するSiC粒子の平均粒子径は10~50μmであり、
前記セル隔壁の前記排ガス導入セル側の表面には、平均粒子径が1~5μmのSiC微粒子が焼結付着している、ことを特徴とするハニカムフィルタ。
【請求項2】
前記セル隔壁の前記排ガス導入セル側の表面のうち、10~60%の面積が、前記SiC微粒子により覆われている、請求項1に記載のハニカムフィルタ。
【請求項3】
前記セル隔壁の前記排ガス排出セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量は、前記セル隔壁の前記排ガス導入セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量の1/10以下である、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項4】
前記ハニカムフィルタの平均気孔径は、7~13μmである、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項5】
前記ハニカムフィルタの気孔率は、35~45%である、請求項1又は2に記載のハニカムフィルタ。
【請求項6】
平均粒子径が10~30μmのSiC粒子を含む原料組成物をハニカム形状に押出成形したハニカム成形体を得る工程と、
前記ハニカム成形体を構成する一部のセルの第1端面を封止する第1封止工程と、
前記ハニカム成形体の前記第1端面から、前記ハニカム成形体を構成するセルのうち、前記第1端面を封止していないセルに平均粒子径1~5μmのSiC微粒子を導入する粒子導入工程と、
前記ハニカム成形体を構成するセルのうち、前記第1端面を封止していないセルの前記第1端面とは反対側の第2端面を封止する第2封止工程と、
前記ハニカム成形体を、1600~1900℃で焼成する焼成工程と、を有することを特徴とするハニカムフィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタ及びハニカムフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス規制強化により、DPFには高いPM捕集性能が求められている。
DPFのPM捕集性能を高めるための方法として、例えば、特許文献1には、PM捕集性能を改善する濾過層を設ける方法が開示されている。
また、特許文献2には、SiC微粒子と造孔材により濾過層を形成する方法が開示されている。
【0003】
特許文献1及び2の方法は、いずれも、セル隔壁の表面に濾過層を形成することで、濾過層によるPMの捕集(表層濾過)を行うものであった、同時に、セル隔壁の表面近傍でPMが捕集される深層濾過を防いで、圧力損失の上昇を抑制するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/145323号
【特許文献2】特開2012-75989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の方法は、いずれも、濾過層が剥がれやすく、濾過層の剥離によってPM捕集性能が低下してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされた発明であり、PM捕集性能が低下しにくいハニカムフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハニカムフィルタは、排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁を備え、排ガス入口側の端部が開口され、かつ、排ガス出口側の端部が目封止された排ガス導入セルと、排ガス出口側の端部が開口され、かつ、排ガス入口側の端部が目封止された排ガス排出セルと、を備えてなるハニカムフィルタであり、上記セル隔壁はSiC多孔体からなり、上記SiC多孔体を構成するSiC粒子の平均粒子径は10~50μmであり、上記セル隔壁の上記排ガス導入セル側の表面には、平均粒子径が1~5μmのSiC微粒子が焼結付着している、ことを特徴とする。
【0008】
本発明のハニカムフィルタでは、SiC多孔体が、平均粒子径が10~50μmのSiC粒子で構成されている。すなわち、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面では、平均粒子径が10~50μmのSiC粒子の表面に、平均粒子径が1~5μmのSiC微粒子が焼結付着している。
SiC微粒子がSiC多孔体の表面に付着することにより、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面にPMが付着しやすくなり、PM捕集性能が向上する。
さらに、SiC微粒子はSiC多孔体に焼結付着しているため、SiC微粒子はSiC多孔体と強固に結合しており、容易に剥がれることがない。
そのため、高いPM捕集性能が低下しにくい。
【0009】
なお、SiC多孔体の表面にSiC微粒子が焼結付着しているかどうかは、セル隔壁の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認することができる。
具体的には、セル隔壁の表面をSEM(加速電圧:5kV、拡大倍率:10000倍)で観察し、SiC多孔体とSiC微粒子との間に明確な境界が存在するかどうか、により判断することができる。
SiC多孔体を構成するSiC粒子とSiC微粒子とが焼結付着していると、SiC微粒子の一部がSiC粒子に取り込まれた状態となり、境界が明確ではなくなる。
一方、SiC多孔体を構成するSiC粒子とSiC微粒子との間に明確な境界が存在している場合、SiC多孔体を構成するSiC粒子とSiC微粒子は焼結付着しているとはいえない。
【0010】
本発明のハニカムフィルタにおいては、上記セル隔壁の上記排ガス導入セル側の表面のうち、10~60%の面積が、上記SiC微粒子により覆われていることが好ましい。
【0011】
本発明のハニカムフィルタでは、SiC微粒子をSiC多孔体の表面に焼結付着させることで、SiC微粒子の量がわずかであってもPMの捕集性能を高めることができる。
そのため、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち10~60%の面積がSiC微粒子により覆われているだけで、高いPM捕集性能を発揮することができる。
【0012】
特許文献1や特許文献2に記載の方法では、濾過層を形成するために多量の粒子を必要とする。しかし、濾過層を構成する多量の粒子によってセルの開口面積が低下したり、セル隔壁中に存在する気孔が閉塞されることによって、PM堆積前の圧力損失が増加してしまうという問題があった。
この点につき、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち10~60%の面積がSiC微粒子により覆われている場合、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のわずかな部分だけがSiC微粒子で覆われているため、特許文献1及び2のような圧力損失の増加がほとんど生じない。
【0013】
セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち、SiC微粒子により覆われている面積の割合は、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面をSEMで観察することにより求めることができる。
具体的には、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面をSEM(加速電圧:15kV、拡大倍率:1000倍)で観察し、当該視野中で焼結付着しているSiC微粒子が占める面積の割合を求める。
この操作を、無作為に選択した5視野で行い、得られた面積割合の平均値を、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち、SiC微粒子により覆われている面積の割合とする。
なお、特許文献1や特許文献2に記載された濾過層は、セル隔壁の表面を「層」として覆うことから、セル隔壁の表面のうちの100%が濾過層を構成する粒子で覆われているといえる。
【0014】
本発明のハニカムフィルタにおいては、上記セル隔壁の上記排ガス排出セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量は、上記セル隔壁の上記排ガス導入セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量の1/10以下であることが好ましい。
セル隔壁の排ガス排出セル側の表面にSiC微粒子が焼結付着していたとしても、PM捕集性能を向上させるという効果には何ら寄与しない。そのため、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量は少ないほど好ましい。
【0015】
従って、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量は、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量の1/10以下であることが好ましく、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面には、SiC微粒子が焼結付着していないことがより好ましい。
なお、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量、及び、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量は、それぞれ、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面のうち、SiC微粒子で覆われている面積の割合、及び、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち、SiC微粒子で覆われている面積の割合、とする。
【0016】
本発明のハニカムフィルタにおいて、上記ハニカムフィルタの平均気孔径は、7~13μmであることが好ましい。
ハニカムフィルタの平均気孔径が上記範囲であると、PMの捕集効率を十分に高くすることができる。
【0017】
本発明のハニカムフィルタにおいて、上記ハニカムフィルタの気孔率は、35~45%であることが好ましい。
ハニカムフィルタの気孔率が上記範囲であると、PMの捕集効率を十分に高くすることができる。
【0018】
本発明のハニカムフィルタの製造方法は、平均粒子径が10~30μmのSiC粒子を含む原料組成物をハニカム形状に押出成形したハニカム成形体を得る工程と、上記ハニカム成形体を構成する一部のセルの第1端面を封止する第1封止工程と、上記ハニカム成形体の上記第1端面から、上記ハニカム成形体を構成するセルのうち、上記第1端面を封止していないセルに平均粒子径1~5μmのSiC微粒子を導入する粒子導入工程と、上記ハニカム成形体を構成するセルのうち、上記第1端面を封止していないセルの上記第1端面とは反対側の第2端面を封止する第2封止工程と、上記ハニカム成形体を、1600~1900℃で焼成する焼成工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明のハニカムフィルタの製造方法では、排ガス導入セルとなるセルである、第1端面を封止していないセルに、粒子導入工程によってSiC微粒子を導入し、続く焼成工程によって1600~1900℃という高温で焼成することにより、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面においてSiC微粒子をSiC多孔体の表面に焼結付着させることができ、本発明のハニカムフィルタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、ハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、ハニカム焼成体の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すハニカム焼成体を一方の端面からみた端面図である。
【
図4】
図4は、
図2に示すハニカム焼成体のA-A線断面図である。
【
図6】
図6は、SiC微粒子がSiC多孔体の表面に焼結付着する様子を示すSEM写真である。
【
図7】
図7は、SiC微粒子がSiC多孔体の表面に焼結付着していない様子を示すSEM写真である。
【
図8】
図8は、
図5に示すセル隔壁を、排ガス導入セル側から見た場合の例を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、排ガス導入セル側からみたセル隔壁のSEM写真の一例である。
【
図10】
図10は、
図9に示すSEM写真において、SiC微粒子と判定した粒子を示した画像である。
【
図11】
図11は、
図10に示す画像を二値化し、SiC微粒子に対応する領域を黒色で示した画像である。
【
図12】
図12は、PMの捕集性能測定装置を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0022】
[ハニカムフィルタ]
本発明のハニカムフィルタは、排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁を備え、排ガス入口側の端部が開口され、かつ、排ガス出口側の端部が目封止された排ガス導入セルと、排ガス出口側の端部が開口され、かつ、排ガス入口側の端部が目封止された排ガス排出セルと、を備えてなるハニカムフィルタであり、上記セル隔壁はSiC多孔体からなり、上記SiC多孔体を構成するSiC粒子の平均粒子径は10~50μmであり、上記セル隔壁の上記排ガス導入セル側の表面には、平均粒子径が1~5μmのSiC微粒子が焼結付着している、ことを特徴とする。
【0023】
図1は、ハニカムフィルタの一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、ハニカム焼成体の一例を模式的に示す斜視図である。
図3は、
図2に示すハニカム焼成体を一方の端面からみた端面図である。
【0024】
図1に示すハニカムフィルタ20では、複数個のハニカム焼成体10が接着材層15を介して結束されてセラミックブロック18を構成し、このセラミックブロック18の外周には、排ガスの漏れを防止するための外周コート層16が形成されている。なお、外周コート層16は、必要に応じて形成されていればよい。
【0025】
ハニカムフィルタ20では、複数個のハニカム焼成体10が接着材層15を介して結束されている。そのため、1つのハニカム焼成体10に応力が生じた場合でも、その応力が接着材層15により緩和され、他のハニカム焼成体10に伝わりにくくなる。つまり、ハニカムフィルタ20に生じた応力を緩和させることができる。その結果、ハニカムフィルタ20が損傷することを防ぐことができる。
【0026】
接着材層15は、無機バインダと無機粒子とを含む接着材ペーストを塗布、乾燥させたものである。接着材層15は、さらに無機繊維及び/又はウィスカを含んでいてもよい。
接着材層15の厚さは、0.5~2.0mmが好ましい。
【0027】
外周コート層16は、内部のセルを機械的に保護する役割を果たす。そのため、ハニカムフィルタ20は、圧縮強度等の機械的特性に優れる。
なお、外周コート層16の材料は、接着材層15の材料と同じであることが好ましい。外周コート層16の厚さは、0.1~3.0mmが好ましい。
【0028】
なお、ハニカム焼成体10は、四角柱形状であるが、
図2及び
図3に示すように、端面における角部が曲線形状となるように面取りが施されており、これにより角部に熱応力が集中し、クラック等の損傷が発生するのを防止している。上記角部は、直線形状となるように面取りされていてもよい。
【0029】
図2に示すハニカム焼成体10は、排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁13を備え、排ガス入口側の端面10a及び排ガス出口側の端面10bを有する。
セル隔壁13により区画形成されるセルは、排ガス入口側の端面10a及び排ガス出口側の端面10bにそれぞれ端部を有しており、排ガス入口側の端部が開口され、かつ、排ガス出口側の端部が目封止された排ガス導入セル11と、排ガス出口側の端部が開口され、かつ、排ガス入口側の端部が目封止された排ガス排出セル12とを備えてなる。
【0030】
なお、本発明のハニカムフィルタでは、排ガス導入セル及び排ガス排出セルを目封じする目封止材14は、ハニカム焼成体と同じ材料であることが好ましい。
【0031】
ハニカム焼成体10は、炭化ケイ素(SiC)からなる。炭化ケイ素からなるハニカム焼成体は耐熱性が高い。
【0032】
ハニカムフィルタ20では、排ガス導入セル11及び排ガス排出セル12の長手方向に垂直方向の断面形状は、目封止部分を除き排ガス入口側の端部から排ガス出口側の端部にかけて、それぞれのセルにおいて同じである。
【0033】
図3に示すように、ハニカム焼成体10では、排ガス導入セル11の断面形状、及び、排ガス排出セル12の断面形状は同じ形状の正方形であり、これらは、交互に市松模様状に配置されている。
【0034】
ここで、ハニカム焼成体10に排ガスが流入してPMが捕集される場合について、
図4を参照して説明する。
図4は、
図2に示すハニカム焼成体のA-A線断面図である。
図4に示すように、排ガス導入セル11に流入した排ガスG(
図4中、排ガスをGで示し、排ガスの流れを矢印で示す)は、排ガス排出セル12と排ガス導入セル11とを隔てるセル隔壁13を通過した後、排ガス排出セル12から流出するようになっている。排ガスGがセル隔壁13を通過する際に、排ガス中のPM等が捕集されるため、セル隔壁13は、フィルタとして機能する。
【0035】
図5は、
図4に破線で示す領域の部分拡大図である。
図5に示すように、セル隔壁13の、排ガス導入セル11側の表面には、SiC微粒子40が焼結付着している。セル隔壁13は、SiC粒子30からなるSiC多孔体で構成されているから、SiC微粒子40は、SiC多孔体を構成するSiC粒子30の表面に焼結付着しているともいえる。
【0036】
セル隔壁の排ガス導入セル側の表面にSiC微粒子が付着していることで、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面にPMが付着しやすくなり、PM捕集効率が向上する。
さらに、SiC微粒子はSiC多孔体に焼結付着しているため、SiC微粒子はSiC多孔体と強固に結合しており、容易に剥がれることがない。そのため、高いPM捕集性能が低下しにくい。
【0037】
焼結付着とは、付着した界面で焼結が進行していることを指す。
本発明のハニカムフィルタにおいては、SiC微粒子がSiC多孔体を構成するSiC粒子の表面に付着した界面で焼結が進行していることを指す。
焼結が進行した界面をSEMで観察した場合、SiC微粒子の一部がSiC粒子に取り込まれた状態となり、境界が明確ではなくぼやけた状態として観察される。
従って、界面が明確であるかどうかを確認することにより、焼結付着の有無を確認することができる。
【0038】
なお、SiC多孔体を構成するSiC粒子に直接焼結付着していないが、「SiC多孔体を構成するSiC粒子に焼結付着するSiC微粒子」に焼結付着するSiC微粒子も、SiC多孔体を構成するSiC粒子に焼結付着するSiC微粒子として扱う。
【0039】
SiC微粒子がSiC多孔体の表面に焼結付着しているかどうかについて、
図6及び
図7を参照して説明する。
【0040】
図6は、SiC微粒子がSiC多孔体の表面に焼結付着する様子を示すSEM写真である。
図7は、SiC微粒子がSiC多孔体の表面に焼結付着していない様子を示すSEM写真である。
図6に示すように、SiC多孔体を構成するSiC粒子30に焼結付着するSiC微粒子40では、SiC粒子30にSiC微粒子40が食い込んでいるように見え、SiC粒子30とSiC微粒子40の界面が明確ではない。
これに対して、
図7では、SiC多孔体を構成するSiC粒子30と、焼結付着していないSiC微粒子40’との間の境界が明確となっている。
【0041】
SiC微粒子は、粒子径が1~5μmのSiCの粒子である。
従って、SiC微粒子の平均粒子径は1~5μmである。
これに対して、セル隔壁を構成するSiC多孔体は、平均粒子径が10~50μmのSiCの粒子からなるため、両者は明確に区別できる。
【0042】
SiC微粒子の平均粒子径は、SEM(加速電圧:15kV、拡大倍率:10000倍)により測定することができる。具体的には、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のSEM画像を撮影し、無作為に抽出した5つのSEM画像から、視野中の全てのSiC微粒子を判定するとともに、各SiC微粒子の投影面積を求める。投影面積相当円の直径を当該SiC微粒子の粒子径とし、その平均値を、SiC微粒子の平均粒子径とする。
【0043】
SiC多孔体を構成するSiC粒子の平均粒子径は、SEM(加速電圧:15kV、拡大倍率:1000倍)により測定することができる。具体的には、セル隔壁の表面又は切断面のSEM画像を撮影し、無作為に抽出した5つのSEM画像から、視野中の全てのSiC粒子を判定するとともに、各SiC粒子の投影面積を求める。投影面積相当円の直径を当該SiC粒子の粒子径とし、その平均値を、SiC多孔体を構成するSiC粒子の平均粒子径とする。
【0044】
図8は、
図5に示すセル隔壁を、排ガス導入セル側から見た場合の例を模式的に示す図である。
図8に示すように、セル隔壁13を排ガス導入セル側から見たとき、セル隔壁13の表面の一部が、SiC微粒子40により覆われている。
【0045】
セル隔壁13の排ガス導入セル11側の表面のうちSiC微粒子40で覆われている面積の割合は、10~60%であることが好ましい。
上記面積の割合が10%未満であると、PM捕集効率を向上させる効果が充分でない場合がある。上記面積の割合が60%を超えると、圧力損失が増加する。
【0046】
セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち、SiC微粒子により覆われている面積の割合(以下、被覆面積割合ともいう)は、以下の方法で求めることができる。
被覆面積割合を求める手順を、
図9、
図10及び
図11を参照しながら説明する。
【0047】
図9は、排ガス導入セル側からみたセル隔壁のSEM写真の一例である。
図10は、
図9に示すSEM写真において、SiC微粒子と判定した粒子を示した画像である。
図11は、
図10に示す画像を二値化し、SiC微粒子に対応する領域を黒色で示した画像である。
【0048】
まず、
図9に示すように、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面をSEMで撮影する。このとき、加速電圧は15kV、拡大倍率は1000倍とする。
続いて、セル隔壁の表面に存在し、焼結付着している粒子径が1~5μmのSiCの粒子(SiC微粒子)を判定し、
図10に示すように、所定の色で塗りつぶす。
塗りつぶしに用いる色は、後の二値化処理の際に、当該画像中に最初から存在した色と区別できる色であればよく、例えば、当該画像中で使用された色よりも明度の低い色(黒色に近い色)であればよい。塗りつぶし前の画像は必要に応じて、明度や彩度を調整してもよい。
最後に、
図11に示すように、画像を二値化し、SiC微粒子が占める領域として塗りつぶされた色だけを黒色(又は白色)、その他の領域を白色(又は黒色)とし、当該画像中に占める黒色(白色)の面積割合を求める。二値化した画像からSiC微粒子が占める領域が占める面積を算出する際、市販の画像解析ソフト等を用いてもよい。
この面積割合が、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち、焼結付着したSiC微粒子により覆われている面積の割合となる。
【0049】
上記の処理を、無作為に抽出した5つのSEM画像で行い、その平均値を求めることで、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち、SiC微粒子により覆われている面積の割合(被覆面積割合)を求めることができる。
【0050】
セル隔壁13の排ガス排出セル12側の表面にも、SiC微粒子が焼結付着していてもよい。ただし、その量は、排ガス導入セル11側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量の1/10以下であることが好ましい。
【0051】
すなわち、セル隔壁13の排ガス排出セル12側の表面のうちSiC微粒子で覆われている面積の割合は、セル隔壁13の排ガス導入セル11側の表面のうちSiC微粒子で覆われている面積の1/10以下であることが好ましい。
【0052】
なお、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面のうちSiC微粒子で覆われている面積の割合は、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうちSiC微粒子で覆われている面積の割合を求める方法を、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面に適用することで求めることができる。
【0053】
さらには、セル隔壁13の排ガス排出セル12側の表面に、SiC微粒子が焼結付着していないことがより好ましい。
【0054】
セル隔壁の排ガス排出セル側の表面にSiC微粒子が焼結付着していたとしても、PM捕集性能を向上させるという効果には何ら寄与しない。そのため、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量は少ないほど好ましい。
【0055】
ハニカムフィルタの平均気孔径は、7~13μmであることが好ましい。
ハニカムフィルタの気孔率は、35~45%であることが好ましい。
【0056】
ハニカムフィルタの「平均気孔径」及び「気孔率」は、水銀圧入法で求めることができる。ただし、接触角を130°、表面張力を485mN/mとする。
【0057】
セル隔壁の厚さは、0.1~0.46mmであることが好ましい。
【0058】
ハニカム焼成体の断面におけるセルの単位面積当たりの数は、31~93個/cm2(200~600個/inch2)であることが好ましい。
【0059】
[ハニカムフィルタの製造方法]
本発明のハニカムフィルタの製造方法は、平均粒子径が10~30μmのSiC粒子を含む原料組成物をハニカム形状に押出成形したハニカム成形体を得る工程と、上記ハニカム成形体を構成する一部のセルの第1端面を封止する第1封止工程と、上記ハニカム成形体の上記第1端面から、上記ハニカム成形体を構成するセルのうち、上記第1端面を封止していないセルに平均粒子径1~5μmのSiC微粒子を導入する粒子導入工程と、上記ハニカム成形体を構成するセルのうち、上記第1端面を封止していないセルの上記第1端面とは反対側の第2端面を封止する第2封止工程と、上記ハニカム成形体を、1600~1900℃で焼成する焼成工程と、を有することを特徴とする。
【0060】
(ハニカム成形体を得る工程)
まず、炭化ケイ素粒子とバインダを含む湿潤混合物を押出成形することによってハニカム成形体を作製する成形工程を行う。
具体的には、まず、平均粒子径が10~30μmの炭化ケイ素粒子と、有機バインダと、液状の可塑剤と、潤滑剤と、水とを混合することにより、ハニカム成形体製造用の湿潤混合物を調製する。
【0061】
上記湿潤混合物には、必要に応じて酸化物系セラミックを成分とする微小中空球体であるバルーンや、球状アクリル粒子、グラファイト等の造孔剤を添加してもよい。
バルーンとしては特に限定されず、例えば、アルミナバルーン、ガラスマイクロバルーン、シラスバルーン、フライアッシュバルーン(FAバルーン)、ムライトバルーン等が挙げられる。これらの中では、アルミナバルーンが好ましい。
【0062】
続いて、湿潤混合物を押出成形機に投入し、押出成形することにより所定の形状のハニカム成形体を作製する。この際、
図2に示すセル構造(セルの形状及びセルの配置)を有する断面形状が作製されるような金型を用いてハニカム成形体を作製する。
【0063】
(第1封止工程)
第1封止工程では、ハニカム成形体を所定の長さに切断し、乾燥させた後、一部のセルの第1端面に封止材となる封止材ペーストを充填してセルを目封止する。
【0064】
封止材ペーストとしては、上記湿潤混合物を用いることができる。
【0065】
(粒子導入工程)
粒子導入工程では、ハニカム成形体の第1端面から、ハニカム成形体を構成するセルのうち、上記第1端面を封止していないセルに、平均粒子径1~5μmのSiC微粒子を導入する。
【0066】
導入された粒子は、ハニカム成形体のセル隔壁となる部分の表面に付着する。
【0067】
SiC微粒子の導入量は、ハニカム成形体1Lに対して0.1~7gであることが好ましい。
【0068】
(第2封止工程)
第2封止工程では、ハニカム成形体を構成するセルのうち、第1端面を封止していないセルの第1端面とは反対側の第2端面に封止材となる封止材ペーストを充填してセルを目封止する。
【0069】
(焼成工程)
焼成工程ではハニカム成形体を1600~1900℃で焼成する。
SiC微粒子を導入したハニカム成形体を1600~1900℃で焼成することにより、セル隔壁となる成形体の表面に付着していたSiC微粒子が焼結し、焼結付着する。
焼成工程よりも前にSiC微粒子を導入することで、セル隔壁の表面だけにSiC微粒子を焼結付着させることができる。
【0070】
焼成に先立って、ハニカム成形体を脱脂する脱脂工程を行ってもよい。脱脂工程は、例えば300~650℃の温度でハニカム成形体を加熱することで行われる。
【0071】
切断、乾燥、目封止、脱脂、焼成の条件は、従来からハニカム焼成体を作製する際に用いられている条件を適用することができる。
【0072】
以上の工程により本発明のハニカムフィルタを構成するハニカム焼成体が得られる。
【0073】
本発明のハニカムフィルタは、1つのハニカム焼成体からなる、いわゆる一体型ハニカムフィルタであってもよいが、後述する、複数のハニカム焼成体が集合して形成された、いわゆる集合型のハニカムフィルタであってもよい。
【0074】
集合型のハニカムフィルタは、例えば以下の工程により得ることができる。
【0075】
(結束工程)
支持台上で複数個のハニカム焼成体を接着材ペーストを介して順次積み上げて結束し、ハニカム焼成体が複数個積み上げられてなるハニカム集合体を作製する。
【0076】
接着材ペーストとしては、無機バインダと有機バインダと無機粒子とからなるものを使用する。また、上記接着材ペーストは、さらに無機繊維及び/又はウィスカを含んでいてもよい。
【0077】
接着材ペーストに含まれる無機粒子としては、例えば、炭化物粒子、窒化物粒子等が挙げられる。具体的には、炭化ケイ素粒子、窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機粒子の中では、熱伝導性に優れる炭化ケイ素粒子が好ましい。
【0078】
接着材ペーストに含まれる無機繊維及び/又はウィスカとしては、例えば、シリカ-アルミナ、ムライト、アルミナ、シリカ等からなる無機繊維及び/又はウィスカ等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機繊維の中では、アルミナファイバが好ましい。また、無機繊維は、生体溶解性ファイバであってもよい。
【0079】
さらに、上記接着材ペーストには、必要に応じて造孔材を添加してもよい。接着材ペーストに添加する造孔材としては、ハニカム成形体を得るために準備される湿潤混合物に添加される造孔材と同じものを用いることができる。
【0080】
次にハニカム集合体を加熱することにより接着材ペーストを加熱固化して接着材層とし、四角柱状のセラミックブロックを作製する。
【0081】
接着材ペーストの固化条件は、従来からハニカムフィルタを作製する際に用いられている条件を適用することができる。
【0082】
続いて、セラミックブロックに切削加工を施す切削加工工程を行い、外周が略円柱形状に加工されたセラミックブロックを作製する。
【0083】
略円柱形状のセラミックブロックの外周面に外周コート材ペーストを塗布し、乾燥固化して外周コート層を形成する外周コート層形成工程を行う。
【0084】
外周コート材ペーストとしては、上記接着材ペーストを使用することができる。なお、外周コート材ペーストとして、上記接着材ペーストと異なる組成のペーストを使用してもよい。
【0085】
なお、外周コート層は必ずしも設ける必要はなく、必要に応じて設ければよい。
【0086】
外周コート層を設けることによって、セラミックブロックの外周の形状を整えて、円柱状のハニカムフィルタとすることができる。
【0087】
本明細書には以下の発明が記載されている。
【0088】
本開示(1)は、排ガスの流路となる複数のセルを区画形成する多孔質のセル隔壁を備え、排ガス入口側の端部が開口され、かつ、排ガス出口側の端部が目封止された排ガス導入セルと、排ガス出口側の端部が開口され、かつ、排ガス入口側の端部が目封止された排ガス排出セルと、を備えてなるハニカムフィルタであり、
前記セル隔壁はSiC多孔体からなり、
前記SiC多孔体を構成するSiC粒子の平均粒子径は10~50μmであり、
前記セル隔壁の前記排ガス導入セル側の表面には、平均粒子径が1~5μmのSiC微粒子が焼結付着している、ことを特徴とするハニカムフィルタである。
【0089】
本開示(2)は、前記セル隔壁の前記排ガス導入セル側の表面のうち、10~60%の面積が、前記SiC微粒子により覆われている、本開示(1)に記載のハニカムフィルタである。
【0090】
本開示(3)は、前記セル隔壁の前記排ガス排出セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量は、前記セル隔壁の前記排ガス導入セル側の表面に焼結付着するSiC微粒子の量の1/10以下である、本開示(1)又は(2)に記載のハニカムフィルタである。
【0091】
本開示(4)は、前記ハニカムフィルタの平均気孔径は、7~13μmである、本開示(1)~(3)のいずれか1項に記載のハニカムフィルタである。
【0092】
本開示(5)は、前記ハニカムフィルタの気孔率は、35~45%である、本開示(1)~(4)のいずれか1項に記載のハニカムフィルタである。
【0093】
本開示(6)は、平均粒子径が10~30μmのSiC粒子を含む原料組成物をハニカム形状に押出成形したハニカム成形体を得る工程と、
前記ハニカム成形体を構成する一部のセルの第1端面を封止する第1封止工程と、
前記ハニカム成形体の前記第1端面から、前記ハニカム成形体を構成するセルのうち、前記第1端面を封止していないセルに平均粒子径1~5μmのSiC微粒子を導入する粒子導入工程と、
前記ハニカム成形体を構成するセルのうち、前記第1端面を封止していないセルの前記第1端面とは反対側の第2端面を封止する第2封止工程と、
前記ハニカム成形体を、1600~1900℃で焼成する焼成工程と、を有することを特徴とするハニカムフィルタの製造方法である。
【0094】
[実施例]
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
平均粒子径が22μmである炭化ケイ素粒子の粗粉末54.6重量%と、平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素の微粉末23.4重量%とを混合し、得られた混合物に対して、有機バインダ(メチルセルロース)4.4重量部、潤滑剤(日油社製 ユニルーブ)2.6重量部、グリセリン1.2重量部、及び、水13.8重量部を加えて混練して湿潤混合物を得た後、押出成形する成形工程を行った。
本工程では、
図2~
図4に示したハニカム焼成体10と同様の形状であって、セルの目封止をしていない生のハニカム成形体を作製した。
【0096】
次いで、マイクロ波乾燥機を用いて上記生のハニカム成形体を乾燥させることにより、ハニカム成形体の乾燥体を作製した。その後、ハニカム成形体の乾燥体の一部のセルの第1端面に封止材となる封止材ペーストを充填してセルの目封止を行った。
具体的には、第1端面が封止されたセルと第1端面が封止されていないセルとが交互に市松模様状に並ぶように、セルの目封止を行った。
【0097】
ハニカム成形体の乾燥体の第1端面から、ハニカム成形体を構成するセルのうち、第1端面を封止していないセルに、平均粒子径1~5μmのSiC微粒子を導入した。
SiC微粒子の量は、ハニカム成形体1Lあたり4.8gとした。
【0098】
続いて、ハニカム成形体の乾燥体を構成するセルのうち、第1端面を封止していないセルの第2端面に封止材となる封止材ペーストを充填してセルの目封止を行った。
【0099】
続いて、セルの目封止及びSiC微粒子の導入を行ったハニカム成形体の乾燥体を400℃で脱脂する脱脂処理を行い、さらに、常圧のアルゴン雰囲気下1800℃、3時間の条件で焼成工程を行った。
これにより、実施例1に係るハニカム焼成体を作製した。
得られた実施例1に係るハニカム焼成体のサイズは、34.3mm×34.3mm×125mmであり、平均気孔径は12μm、気孔率は38%であった。
【0100】
出来上がったハニカム焼成体を、SiC粒子、シリカゾル、アルミナファイバの混合物からなる接着材ペーストを用いて複数個結束させ、外周を加工し、外周に接着材ペーストと同じ材料からなるコート層を設けて、φ143.8mm×125mmの円筒状のハニカムフィルタを作製した。
【0101】
実施例1に係るハニカムフィルタのセル隔壁の厚さは0.17mm、セル密度は300個/inch2であった。
【0102】
(実施例2)
ハニカム成形体の乾燥体の第1端面から、ハニカム成形体を構成するセルのうち、第1端面を封止していないセルに導入する平均粒子径1~5μmのSiC微粒子の量を、ハニカム成形体1Lあたり1.5gに変更して、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面のうち、SiC微粒子により覆われている面積の割合を表1に示すように変更したほかは、実施例1と同様の手順で実施例2に係るハニカムフィルタを作製した。
【0103】
(比較例1)
ハニカム成形体にSiC微粒子を導入する工程を行わなかったほかは、実施例1と同様の手順で比較例1に係るハニカムフィルタを作製した。
【0104】
(比較例2)
ハニカム成形体にSiC微粒子を導入する工程を行わず、代わりに、ハニカム焼成体のセル隔壁の表面に、国際公開第2013/145323号に記載された方法で濾過層を形成した。
具体的には、耐熱性酸化物前駆体であるベーマイトを3.8mol/Lの濃度で含有する溶液を準備し、この液滴をスプレーによりキャリアガス中に分散させた。キャリアガス流入装置の配管の管壁の温度を200℃に加熱しておき、キャリアガスを流速15.8mm/2secでキャリアガス流入装置の上方(ハニカム焼成体側)に向けて流し、キャリアガス中に分散した液滴中の水分を蒸発させ、球状アルミナ粒子が分散したキャリアガスを得た。球状アルミナ粒子が分散したキャリアガスをハニカム焼成体の第1端面からセルに流入させ、球状アルミナ粒子をセル隔壁の排ガス導入セル側の表面に付着させた。このとき、流入させた球状アルミナ粒子の量は、ハニカム焼成体1Lあたり10gとなるように調整した。
その後、ハニカム焼成体をキャリアガス流入装置から取り出し、焼成炉中で1350℃、3時間、大気雰囲気下で加熱し、比較例2に係るハニカム焼成体を得て、実施例1と同様にしてハニカムフィルタを作製した。
【0105】
(被覆面積割合の測定)
実施例1~2及び比較例2につき、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面をSEMで観察して無作為に5つの画像(領域)を撮影した。当該画像を用いて、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面に粒子が焼結付着しているかどうか、及び、セル隔壁の表面のうち導入した粒子により覆われている面積の割合(被覆面積割合)を求めた。結果を表1に示す。
また、実施例1~2につき、セル隔壁の排ガス排出セル側の表面をSEMで観察したところ、SiC微粒子は付着していなかった。
【0106】
(剥がれ性試験)
実施例1~2及び比較例1~2に係るハニカム焼成体の第1端面にエアブローを行い、吹き出た粉末の有無及びその重量を確認した。エアブローは、ハニカム焼成体の第1端面から、圧力0.5MPa、72m/sの速度で10秒間、空気を吹き込むことにより行った。吹き出た粉末があった場合、セル隔壁の表面に付着した粒子が剥がれたものと判断し、ハニカム焼成体1Lあたりに吹き出た(剥がれた)粉末の量[g/L]を求めた。結果を表1に示す。
【0107】
(PM捕集性能の測定)
実施例1~2及び比較例1に係るハニカム焼成体について、PM捕集性能の測定を行った。
PM捕集性能の測定は、
図12に示すようなPMの捕集性能測定装置を用いて行った。
図12は、PMの捕集性能測定装置を模式的に示す断面図である。
PMの捕集性能測定装置140は、1.6Lのコモンレール式ディーゼルエンジン141の排ガス管142に、排ガス浄化装置130のガス入口側133を配置している。排ガス浄化装置130の排ガス出口側134には、排ガス浄化装置130内を通過した排ガスを外部に排出する排出管が接続される。
排ガス浄化装置130は、ハニカム焼成体110と、ハニカム焼成体110を収容するケーシング131と、ハニカム焼成体110とケーシング131の間に配置され、ハニカム焼成体110をケーシング131内に保持する保持マット132からなる。
さらに、PMの捕集性能測定装置140は、ハニカム焼成体110を流通する前の排ガスをサンプリングするサンプラー143と、ハニカム焼成体110を流通した後の排ガスをサンプリングするサンプラー144と、サンプラー143又は144によりサンプリングされた排ガスを希釈する希釈器145と、希釈された排ガスに含まれるパティキュレートの量を測定するPMカウンタ146(TSI社製、凝集粒子カウンタ3022A-S)とを備えており、走査型モビリティ粒径分析装置(Scanning Mobility Particle Sizer SMPS)として構成されている。
なお、PMの捕集性能の測定は、測定時間が短縮され、また、精度良く測定することができるように、排ガス中のPM含有量が多いディーゼルエンジンを用いて行った。
【0108】
そして、エンジン141の回転数が2500min-1、トルクが40Nmとなるようにエンジン141を運転し、エンジン141からの排ガスをハニカム焼成体110に流通させた。運転開始から5分後のとき、ハニカム焼成体110を通過した後の総PM粒子数を、PMカウンタ146を用いて測定した。総PM粒子数の測定結果を表1に示す。
【0109】
【0110】
表1の結果より、実施例1及び2に係るハニカム焼成体では、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面にSiC微粒子が焼結付着していることを確認した。また、焼結付着したSiC微粒子は、エアブローにより容易に剥離しないことを確認した。さらに、PM捕集性能が高いことを確認した。
これらの結果から、実施例1及び2に係るハニカム焼成体は、高いPM捕集性能を発揮することができ、さらにPM捕集性能が低下しにくいことが推察される。
【0111】
比較例1に係るハニカム焼成体は、実施例1及び2に係るハニカム焼成体と比較して、PM捕集性能が低かった。これは、セル隔壁の排ガス導入セル側の表面にSiC微粒子が導入されていないことによると推察される。
【0112】
比較例2に係るハニカム焼成体は、濾過層を構成するアルミナ粒子の一部がエアブローにより剥がれたことが確認された。
【符号の説明】
【0113】
10 ハニカム焼成体
10a 排ガス入口側の端面
10b 排ガス出口側の端面
11 排ガス導入セル
12 排ガス排出セル
13 セル隔壁
14 目封止材
15 接着材層
16 外周コート層
18 セラミックブロック
20 ハニカムフィルタ
30 SiC多孔体を構成するSiC粒子
40 SiC微粒子
40’ 焼結付着していないSiC微粒子
110 ハニカム焼成体
130 排ガス浄化装置
131 ケーシング
132 保持マット
133 排ガス浄化装置の排ガス入口側
134 排ガス浄化装置の排ガス出口側
140 PM捕集性能測定装置
141 コモンレール式ディーゼルエンジン
142 排ガス管
143、144 サンプラー
145 希釈器
146 PMカウンタ