(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141944
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】塗料組成物及び塗装体
(51)【国際特許分類】
C09D 133/14 20060101AFI20241003BHJP
C09D 161/26 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D133/14
C09D161/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053832
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山賀 皇記
(72)【発明者】
【氏名】早川 哲平
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038CH121
4J038DA151
4J038DA161
4J038KA06
4J038MA06
4J038MA09
4J038MA13
4J038NA04
4J038NA11
4J038NA27
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】耐擦り傷性、塗膜硬度及び耐薬品性に優れる塗料組成物、及び、その塗料組成物を塗装した塗装体を提供する。
【解決手段】本発明は、数平均分子量当たりの水酸基数が2.0以上6.0以下であるアクリル樹脂(X)、水酸基と反応する架橋剤(Y)、及び有機溶剤(Z)を含み、有機溶剤(Z)の含有量が、600g/L以下である塗料組成物塗料組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量当たりの水酸基数が2.0以上6.0以下であるアクリル樹脂(X)、
水酸基と反応する架橋剤(Y)、及び
有機溶剤(Z)を含み、
前記有機溶剤(Z)の含有量が、600g/L以下である塗料組成物。
【請求項2】
前記水酸基と反応する架橋剤(Y)が、アミノ樹脂を含む請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記アクリル樹脂(X)の第1級水酸基から算出される水酸基価が40mgKOH/g以上130mgKOH/g以下であり、第1級水酸基価と第2級水酸基価の比率が、100:0以上100:60以下である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項4】
基材上に、請求項1から3のいずれか1項に記載の塗料組成物による塗膜を有する塗装体。
【請求項5】
前記塗膜のガラス転移温度Tgが、50℃以上98℃以下である請求項4記載の塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物及び塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車及び自動二輪車用のホイールは、主にアルミニウム合金から作製される。特に、鋳物製は、複雑な形状に加工し易く、様々なデザイン設計、かつ大量生産が可能である。鋳造のアルミニウムホイールは、切削により、光沢処理が施された後、基材保護のために、表面にクリアー塗装が行われる。クリアー塗装は、プライマークリアー塗装、及びトップクリアー塗装を順次行うのが一般的である。
プライマー塗料としては、例えば、特許文献1には、熱硬化性樹脂としてのN-ブトキシメチルアクリルアミドと透明性微粉末シリカ及び/又はアルミナを含むアクリル樹脂塗料が開示されている。また、特許文献2には、防食性を向上させるため、共重合体樹脂、ヒュームドシリカ、及びマグネシウムを含有するリン酸系化合物を含むプライマー塗料組成物が開示されている。さらに、特許文献3には、アルミホイール用熱硬化性液状塗料組成物であって、第2級水酸基含有不飽和単量体を8~40重量%含む単量体混合物を共重合して得られるアクリル樹脂とアミノ樹脂とを含む塗料組成物が開示されている。
【0003】
一方、近年、中国では、低VOC(揮発性有機化合物)塗料、接着剤等に関する強制規格(GB規格)に適合する資材の使用が求められていることから、有機溶剤の含有量を低減した塗料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1-194979号公報
【特許文献2】国際公開第2014/181593号
【特許文献3】国際公開第2004/094545号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機溶剤量を低減した塗料を調製するには、樹脂の粘度を低く設計する必要がある。しかしながら、樹脂の分子量を下げることによる塗料の低粘度化のみでは、得られる塗膜の物性が低下する傾向にある。特にアルミニウムホイールは、作製後に酸性の洗浄液で洗浄されるが、その洗浄液に対する耐性が劣る傾向にある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐擦り傷性、塗膜硬度及び耐薬品性に優れる塗料組成物、及び、その塗料組成物を塗装した塗装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、数平均分子量当たりの水酸基数が2.0以上6.0以下であるアクリル樹脂(X)、水酸基と反応する架橋剤(Y)、及び有機溶剤(Z)を含み、有機溶剤(Z)の含有量が、600g/L以下である塗料組成物である。
【0007】
水酸基と反応する架橋剤(Y)は、アミノ樹脂を含むことが好ましい。
【0008】
アクリル樹脂(X)の第1級水酸基から算出される水酸基価が40mgKOH/g以上130mgKOH/g以下であり、第1級水酸基価と第2級水酸基価の比率が、100:0以上100:60以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の塗装体は、基材上に、本発明の塗料組成物による塗膜を有する。
【0010】
塗膜のガラス転移温度Tgは、50℃以上98℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐擦り傷性、塗膜硬度及び耐薬品性に優れる塗料組成物及びその塗料組成物を塗装した塗装体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
[塗料組成物]
本発明の塗料組成物は、数平均分子量当たりの水酸基数が2.0以上6.0以下であるアクリル樹脂(X)、水酸基と反応する架橋剤(Y)(以下、単に架橋剤(Y)と記載する場合がある。)、及び有機溶剤(Z)を含み、有機溶剤(Z)の含有量が、600g/L以下である塗料組成物である。
以下、各成分の詳細について説明する。
【0014】
<アクリル樹脂(X)>
アクリル樹脂(X)を構成する重合性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、並びに、それらのエステル、アミド、及びニトリルから選択されるアクリル成分の1種又は複数種;スチレン、ビニル基含有エステル化合物(アクリル成分を除く)等の重合性不飽和モノマーが挙げられる。
【0015】
(アクリル成分)
アクリル成分としては、以下の(a1)から(a5)の化合物が挙げられる。
【0016】
-(メタ)アクリル酸と炭素数1~24のアルコールとのエステル(a1)-
(メタ)アクリル酸と炭素数1~24のアルコールとのエステル(a1)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、2-イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
-カルボキシル基含有モノマー(a2)-
カルボキシル基含有モノマー(a2)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0018】
-水酸基含有モノマー(a3)-
水酸基含有モノマー(a3)としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と2価アルコールとのモノエステル化物や、分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
-エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a4)-
エポキシ基含有重合性不飽和モノマー(a4)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
-アミノアルキル(メタ)アクリレート(a5)-
アミノアルキル(メタ)アクリレート(a5)としては、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
(重合性不飽和モノマー(a6))
アクリル成分以外の重合性モノマーとして、以下の重合性不飽和モノマー(a6)が挙げられる。
重合性不飽和モノマー(a6)としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等のビニル基含有芳香族化合物や、酢酸ビニル等のビニル基含有化合物等が挙げられる。
【0022】
以下、アクリル樹脂(X)が有する特性について説明する。
【0023】
(数平均分子量Mn)
アクリル樹脂(X)の数平均分子量Mnは、1500以上7500以下である。1500以上であることにより、架橋時に耐擦り傷性及び塗膜硬度が良好な塗膜を得ることができる。7500以下であることにより、有機溶剤量が600g/L以下の塗料組成物を得ることができる。アクリル樹脂(X)の数平均分子量Mnは、2000以上6000以下であることが好ましい。
本明細書において、アクリル樹脂(X)の数平均分子量Mnの測定は、後述の実施例で示す測定方法によって測定されるものとする。
本発明の塗料組成物は、アクリル樹脂(X)の数平均分子量を上記のように比較的低くすることによって、有機溶剤(Z)の含有量を低減することが可能となっている。
【0024】
(第1級水酸基から算出される水酸基価)
アクリル樹脂(X)において、第1級水酸基から算出される水酸基価は、40mgKOH/g以上130mgKOH/g以下であることが好ましく、60mgKOH/g以上120mgKOH/g以下であることがより好ましい。アクリル樹脂(X)の第1級水酸基から算出される水酸基価が、40mgKOH/g以上であることにより、良好な塗膜性能を示すのに十分な硬化性を確保することができ、耐擦り傷性及び塗膜硬度を確保できる。また、アクリル樹脂(X)の第1級水酸基から算出される水酸基価が、130mgKOH/g以下であることにより、未反応の水酸基を低減でき、耐薬品性に優れる。
【0025】
(第2級水酸基から算出される水酸基価)
アクリル樹脂(X)において、第2級水酸基から算出される水酸基価は、40mgKOH/g以下であることが好ましく、25mgKOH/g以下であることがより好ましく、10mgKOH/g以下であることが更により好ましい。第2級水酸基から算出される水酸基価が40mgKOH/g以下であることにより、耐薬品性、耐擦り傷性及び塗膜硬度に優れる塗膜を得ることができる。
【0026】
ここで、アクリル樹脂(X)の総水酸基価は、樹脂1g中の水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、アセチル化により発生した遊離酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数である。
【0027】
(第1級水酸基価と第2級水酸基価の比率)
第2級水酸基は第1級水酸基より反応性が低いため、アクリル樹脂(X)と架橋剤(Y)との反応、及び、架橋剤(Y)同士の反応のバランスが悪くなり、得られた塗膜の、耐薬品性、耐擦り傷性及び塗膜硬度に劣る傾向にある。このことから、アクリル樹脂(X)における、第1級水酸基価と第2級水酸基価の比率は、100:0以上100:60以下であることが好ましく、100:0以上100:35以下であることがより好ましい。
【0028】
(酸価)
アクリル樹脂(X)の酸価は、10mgKОH/g以上50mgKОH/g以下であることが好ましい。10mgKОH/g以上であることにより、アミノ樹脂との反応における触媒として作用しやすくなり、耐擦り傷性及び塗膜硬度が良好な塗膜を得ることができる。50mgKОH/g以下であることにより、残存酸基が少なく、耐薬品性が良好な塗膜を得ることができる。
本発明において、アクリル樹脂(X)の酸価は、JIS-K-5601-2-1:1999に準じて求めた値とする。
【0029】
(数平均分子量当たりの総水酸基数)
数平均分子量当たりの総水酸基数は、2.0以上6.0以下であることが好ましく、2.5以上5.5以下であることがより好ましい。数平均分子量当たりの総水酸基数が2.0以上であることにより、架橋剤(Y)との架橋点が多くなり、硬化が良好に進み、塗膜硬度と耐擦り傷性に優れる塗膜を得ることができる。また、数平均分子量当たりの総水酸基数が、6.0以下であることにより、残存水酸基が少なく、耐薬品性に優れる塗膜を得ることができる。
数平均分子量当たりの総水酸基数は、後述の実施例に記載の方法によって求めるものとする。
【0030】
(重量平均分子量Mw)
アクリル樹脂(X)の重量平均分子量Mwは、3000以上18000以下であることが好ましい。3000以上であることにより、架橋時に耐擦り傷性及び塗膜硬度が良好な塗膜を得ることができる。18000以下であることにより、有機溶剤量が600g/L以下の塗料組成物を得ることができる。アクリル樹脂(X)の重量平均分子量Mwは、5000以上14000以下であることがより好ましい。
本明細書において、アクリル樹脂(X)の重量平均分子量Mwの測定は、後述の実施例で示す測定方法によって測定されるものとする。
【0031】
(重量平均分子量当たりの総水酸基数)
重量平均分子量当たりの総水酸基数は、4.0以上11.0以下であることが好ましい。重量平均分子量当たりの総水酸基数が4.0以上であることにより、架橋剤(Y)との架橋点が多くなり、硬化が良好に進み、耐擦り傷性及び塗膜硬度が良好な塗膜を得ることができる。重量平均分子量当たりの総水酸基数が11.0以下であることにより、残存水酸基が少なく、耐薬品性が良好な塗膜を得ることができる。
重量平均分子量当たりの総水酸基数は、後述の実施例に記載の方法によって求めるものとする。
【0032】
<水酸基と反応する架橋剤(Y)>
水酸基と反応する架橋剤(Y)としては、アミノ樹脂を含むことが好ましく、アミノ樹脂としては、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。
【0033】
(アクリル樹脂(X)/水酸基と反応する架橋剤(Y)の質量比)
アクリル樹脂(X)と、水酸基と反応する架橋剤(Y)との質量比である、「アクリル樹脂(X)/水酸基と反応する架橋剤(Y)」は、60/40以上75/25以下であることが好ましく、60/40以上70/30以下であることがより好ましい。
アクリル樹脂(X)/水酸基と反応する架橋剤(Y)を上記の範囲に調整することにより、塗膜硬度、耐擦り傷性及び耐薬品性が良好な塗膜を得ることができる。
【0034】
<有機溶剤(Z)>
有機溶剤(Z)としては、例えば、酢酸ブチル、キシレン、エチレングリコールモノ-ノルマルプロピルエーテル、トルエン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、ブタノール、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、3-エトキシプロピオン酸エチル、芳香族系溶剤(例えば、ソルベッソ150、トルエン、キシレン)等が挙げられる。これらの溶剤としては、公知の市販品を使用できる。
【0035】
本発明の塗料組成物における有機溶剤(Z)の含有量は、600g/L以下である。本発明の塗料組成物では、有機溶剤(Z)の含有量は、更に550g/L以下、また更に450g/L以下にすることが可能である。有機溶剤(Z)の含有量が600g/L以下であると、塗装組成物を希釈すること無く、塗装が可能である。
また、本発明では、有機溶剤(Z)の含有量が430g/L以下と更に少ない塗料組成物を調製した後、塗装直前に塗装に適した粘度になるように希釈しても、塗装時の塗料組成物の有機溶剤(Z)の含有量を600g/L以下にすることが可能である。したがって、本発明の塗料組成物は、環境に配慮された塗料組成物である。また、本発明の塗料組成物は、有機溶剤(Z)の含有量が上記のように低くても、硬化性が良好であり、耐擦り傷性、塗膜硬度及び耐薬品性に優れる。
【0036】
本発明の塗料組成物中の有機溶剤(Z)の濃度は、塗布性及び環境に配慮する観点から、35質量%以上55質量%以下であることが好ましい。
【0037】
<その他の成分>
本発明の塗料組成物は、塗料組成物として必要な添加剤を適宜使用することができる。例えば、顔料、顔料分散剤、消泡剤、タレ防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防黴剤等のような、通常、当業界において、公知慣用のものとなっているような、種々の塗料用添加剤類を、慣用量使用することができる。
また、本発明の塗料組成物は、本発明の効果に影響のない範囲で性能を改良するという目的で、その他の樹脂類、たとえば、アクリル変性アルキド樹脂類、アルキド樹脂類、シリコーン樹脂類、フッ素樹脂類、又はエポキシ樹脂類などを、適宜、併用することもできる。
【0038】
<全光線透過率>
本発明の塗料組成物は、意匠性の高い被塗物への塗布に用いる観点から、クリアー塗料であることが好ましい。本明細書において、クリアー塗料とは、透明な塗膜を形成する塗料であり、厚さ30μmである場合に透過率が80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上である塗膜を形成する塗料である。
本明細書において、透過率は、可視領域(360nm~750nm)における全光線透過率を意味し、JIS K 7375:2008に準拠して測定できる。
【0039】
[塗膜の性質]
以下、上記本発明の塗料組成物を用いて形成した塗膜の性質について説明する。
【0040】
<塗膜の水の接触角>
乾燥膜厚30μmになるように塗布して得られた塗膜の水の接触角は、80°以上であることが好ましい。
塗膜表面における水の接触角が80°以上であると、塗膜への親水性成分の浸透が抑制されやすくなる。
【0041】
<塗膜の架橋密度>
塗膜の架橋密度は、0.00050mol/cc以上0.00180mol/cc以下であることが好ましく、0.00077mol/cc以上0.00125mol/cc以下であることがより好ましい。塗膜の架橋密度を上記の範囲に調整することにより、塗膜硬度、耐擦り傷性及び耐薬品性が良好な塗膜を得ることができる。
【0042】
<塗膜の架橋間分子量(1/架橋密度)>
塗膜の架橋間分子量(1/架橋密度)は、550cc/mol以上2000cc/mol以下であることが好ましく、800cc/mol以上1300cc/mol以下であることがより好ましい。塗膜の架橋間分子量(1/架橋密度)を上記の範囲に調整することにより、塗膜硬度、耐擦り傷性及び耐薬品性が良好な塗膜を得ることができる。
【0043】
<塗膜のガラス転移温度Tg>
乾燥膜厚30μmになるように塗布して得られた塗膜のガラス転移温度Tgは、50℃以上98℃以下であることが好ましく、65℃以上95℃以下であることがより好ましい。塗膜のガラス転移温度Tgが、50℃以上であることにより、耐擦り傷性及び塗膜硬度に優れる塗膜を得ることができる。98℃以下であることにより、耐薬品性が良好な塗膜を得ることができる。
【0044】
<塗膜硬度>
塗膜は、JIS K5600 5-3:1999 引っかき硬度(鉛筆法)に準じて測定する硬度が、2B以上であることが好ましく、HB以上であることがより好ましい。このような塗膜硬度であれば、金属基材(例えば、自動車のアルミホイール等)に使用しても、長期にわたりデザインを維持できるので、高い品質を提供することができる。
【0045】
[塗装方法]
本発明の塗装方法は、基材に、本発明の塗料組成物を塗装するものである。塗装手段としては、例えば、ディッピング法、静電塗装法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ブレードコート法。エアーナイフコート法等が挙げられる。これらの中でも、膜厚の制御が容易であるとの観点から、スプレーコート法及びロールコート法が好ましい。
【0046】
塗料組成物を塗装して形成された塗膜は、塗膜形成時にはまだ反応は完全には終了しておらず、塗膜を形成した後、硬化反応させる焼付け(加熱乾燥)を行うことによって乾燥及び硬化反応が終結される。焼付条件については、80~180℃で5~90分加熱乾燥することが好ましい。
【0047】
<基材>
本発明における、基材としては、特に限定されるものではないが、その形状は、例えば板状、シート状、箔状等である。また、金属基材であれば、鉄鋼、亜鉛めっき鋼、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられ、中でも、アルミニウム合金が好ましい。上記金属基材は、各種表面処理、例えば酸化処理が施されてもよい。一例として、アルマイト処理、リン酸塩処理、クロメート処理、ノンクロメート処理等の方法でアルミニウムに酸化処理を施した基材を用いることができる。また、電着塗膜やプライマーが塗布された金属基材であってもよいし、加飾層が形成された金属基材にも本発明の塗料組成物を塗装できる。加飾層は、塗料、インク、蒸着法等を用いて形成することができ、金属調の加飾層であってもよい。また、加飾層形成に使用される塗料、インクは、溶剤系、水系、無溶剤系を問わず使用でき、熱又は活性エネルギー線を用いて硬化する塗料、インクを使用することもできる。
本発明の塗料組成物は、金属基材用のトップクリアー塗料として有用であり、形成された塗膜は、耐擦り傷性、塗膜硬度及び耐薬品性に優れるものとなる。
【0048】
[塗装体]
本発明の塗装体は、基材上に、本発明の塗料組成物による塗膜を有するものである。上記塗膜は、上記塗装方法により形成することができる。
本発明の塗装体は、上記塗料組成物による塗膜を有するため、耐擦り傷性、塗膜硬度及び耐薬品性に優れる。
さらに、本発明の塗装体は、塗膜上に、更に、耐汚染性などを有する表面保護層を有するものであってもよい。
【実施例0049】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
[アクリル樹脂溶液の調製]
まず、実施例及び比較例に使用するアクリル樹脂(X)を含む樹脂溶液を調製する。
[樹脂溶液T1]
下記の手順に沿って、アクリル樹脂(X)を含む樹脂溶液T1を調製した。表1に、樹脂の調製に必要なモノマー、及び、溶剤、並びにアクリル樹脂(X)の特性を示す。
キシレン30.0質量部、スチレン31.0質量部、2-エチルヘキシルアクリレート12.0質量部、2-エチルヘキシルメタクリレート43.0質量部、アクリル酸2.0質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート12質量部、2-2‘-アゾビス-2-メチルブチロニトリル4.0質量部を窒素ガス下で100℃において8時間反応させた。その後、キシレン32.7質量部で希釈することにより、加熱残分60質量%のアクリル樹脂溶液T1を得た。
【0051】
アクリル樹脂溶液T1に含まれるアクリル樹脂(X)については、水酸基価45mgKOH/g、酸価11mgKOH/g、数平均分子量3,500、重量平均分子量6,000であった。
【0052】
[樹脂溶液T2からT21]
表1から表3に示す化合物及び配合に変更したこと以外は、樹脂溶液T1と同様に、樹脂溶液T2からT21を調製した。
【0053】
(加熱残分)
1.0gの樹脂溶液をアルミカップに精秤し、これを150℃オーブンで30分乾燥させた。乾燥後、残留物の質量を精秤し、元の質量に対する残留物の質量の割合を加熱残分(質量%)として求めた。
【0054】
(水酸基価)
アクリル樹脂(X)1g中の水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、アセチル化により発生した遊離酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数を定量し、その値をアクリル樹脂(X)の水酸基価とした。
【0055】
(酸価)
アクリル樹脂(X)の酸価は、JIS-K-5601-2-1:1999に準じて求めた。
【0056】
(数平均分子量Mn)
アクリル樹脂(X)の数平均分子量Mnの測定は、TSKgelカラム SuperMultiporeHZ-M(東ソー(株)社製)を用い、示差屈折率(RI)検出器を装備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー、商品名「HLC-8420GPC」、東ソー株式会社製)により求めた。SECの条件として、展開溶媒にテトラヒドロフランを用い、流速0.35ml/分、温度40℃にて測定を行った。なお、TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)を標準物質として用いた。
【0057】
(重量平均分子量Mw)
アクリル樹脂(X)の重量平均分子量Mwの測定は、TSKgelカラム SuperMultiporeHZ-M(東ソー(株)社製)を用い、示差屈折率(RI)検出器を装備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー、商品名「HLC-8420GPC」、東ソー株式会社製)により求めた。SECの条件として、展開溶媒にテトラヒドロフランを用い、流速0.35ml/分、温度40℃にて測定を行った。なお、TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)を標準物質として用いた。
【0058】
(アクリル樹脂(X)のガラス転移温度Tg)
アクリル樹脂(X)のガラス転移温度Tgは、フォックスの式により、算出した。
【0059】
(アクリル樹脂(X)の数平均分子量Mn当たりの総水酸基数)
アクリル樹脂(X)の数平均分子量Mn当たりの総水酸基数は、数平均分子量Mnの測定結果と水酸基価の値から下記の式(1)により算出した。
「数平均分子量Mn当たりの総水酸基数」=
アクリル樹脂の数平均分子量×(アクリル樹脂の水酸基価(mgKOH/g)/56100)・・・(1)
【0060】
(アクリル樹脂(X)の重量平均分子量Mw当たりの総水酸基数)
アクリル樹脂(X)の重量平均分子量Mw当たりの総水酸基数は、重量平均分子量Mwの測定結果と水酸基価の値から下記の式(2)により算出した。
「重量平均分子量Mw当たりの総水酸基数」=
アクリル樹脂の重量平均分子量×(アクリル樹脂の水酸基価(mgKOH/g)/56100)・・・(2)
【0061】
(第1級水酸基価と第2級水酸基価の比率)
アクリル樹脂(X)の第1級水酸基価と第2級水酸基価の比率は理論第1級水酸基価と理論第2級水酸基価をそれぞれ算出し、その比を取ることで算出した。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
次に、上記樹脂溶液を用いて、実施例及び比較例の塗料組成物及びその塗料組成物を塗布して硬化させた塗膜を備えた塗装体を作製した。塗料組成物に用いる各成分とその配合を表4から表6に示す。表4から表6中、各成分の使用量は、質量部で表される。
【0066】
[実施例1]
(塗料組成物の調製)
アクリル樹脂(X)として、樹脂溶液T1 61.7質量部、水酸基と反応する架橋剤(Y)として、メラミン樹脂溶液(n-ブチル化メラミン樹脂のキシレン・n-ブタノール混合溶液(加熱残分60質量%)、商品名:AMIDIR L-117-60、DIC社製)26.5質量部、有機溶剤(Z)として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート3.0質量部、酢酸ブチル1.0質量部及びソルベッソ150(JX日鉱日石エネルギー社製)2.8質量部、紫外線吸収剤としてヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(商品名:TINUVIN400、BASF社製)1.0質量部、光安定剤としてヒンダードアミン系光安定剤(商品名:EVERSORB93、EVERLIGHT CHEMICAL社製)1.0質量部、脱水剤としてオルソ酢酸メチル(商品名:MOA、日宝化学社製)3.0質量部を混合した後、ディスパー攪拌をして、実施例1の塗料組成物を調製した。
【0067】
(塗装体(基材:アルミニウム)の作製)
材質アルミニウム、厚み0.8mm、及び大きさ150mm×70mmの基材上に、上記塗料組成物を、乾燥膜厚30μmとなるようにエアスプレー塗装した後、塗料組成物を140℃で20分乾燥させ、塗膜を形成し、塗装体(基材:アルミニウム)を作製した。この塗装体は、耐薬品性、耐擦り傷性、塗膜硬度の評価に使用した。
【0068】
(塗装体(基材:ポリプロピレン)の作製)
材質ポリプロピレン、厚み3.0mm、及び大きさ100mm×100mmの基材上に、上記塗料組成物を、乾燥膜厚30μmとなるようにエアスプレー塗装した後、塗料組成物を140℃で20分乾燥させ、塗膜を形成し、塗装体(基材:ポリプロピレン)を作製した。
この塗装体は、塗膜のガラス転移温度Tg、架橋間分子量、架橋密度の測定に使用した。
【0069】
[実施例2から実施例14、比較例1から比較例10]
アクリル樹脂(X)を含む樹脂溶液を表4から表6に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に塗料組成物を調製した。
【0070】
[評価]
上記実施例及び比較例の塗装体について、以下の評価を行った。評価結果を表4から表6に示す。
【0071】
(塗装時のフォートカップの粘度秒数)
塗装時の塗料組成物について、JIS K5600-2-2:1999に準拠した方法にて、フォードカップ#4を使用して、20℃で測定したときの流出時間を測定した。
【0072】
(塗膜のガラス転移温度Tg)
実施例1から14及び比較例1から10の塗膜を、ポリプロピレン樹脂板より剥離した後、試料長50mm、幅8mmに切断し、測定用試料を作製した。試料を動的粘弾性測定装置RSA G2(TA Instruments社製)を用いて、測定長さ24mm、周波数1Hz、昇温速度5℃/minにおいて測定される動的粘弾性測定において、tanδ(損失弾性率/貯蔵弾性率)の最大値を示す温度として測定される動的ガラス転移温度をガラス転移温度とした。
【0073】
(塗膜の架橋間分子量、架橋密度)
架橋間の樹脂の分子量を架橋間分子量といい、架橋密度の逆数で表され、架橋密度が大きくなるほどこの値は小さくなる。
本発明の硬化塗膜の架橋間分子量は、上記硬化塗膜のガラス転移温度測定の際に得られた貯蔵弾性率の極小値を下記ゴム粘弾性理論式にあてはめて求めた理論計算値である。
式1:n=E’/3RT
ここで、
n :架橋密度(mol/cc)
1/n :架橋間分子量(cc/mol)
R :気体定数(8.314J/K/mol)
T :貯蔵弾性率がE’の時の絶対温度(K)
E’ :貯蔵弾性率の極小値(Pa)
【0074】
(耐薬品性)
実施例1から14及び比較例1から10の塗膜の表面に、フッ酸水溶液(フッ酸10%)を1ml滴下し、その後、強制対流のない試験槽に23℃の温度にて2時間放置し、薬品処理を行った。その後、水洗してフッ酸水溶液を除去し、薬品処理後の塗膜の外観を以下の評価基準にて目視で判定した。
-評価基準-
AA:塗膜外観に変化が全くない。
A:塗膜のツヤがわずかに低下する。
C:塗膜のツヤが顕著に低下する。
【0075】
(塗膜硬度)
実施例1から14及び比較例1から10の塗膜について、「JIS K5600-5-4:1999 引っかき硬度(鉛筆法)」により測定し、以下の評価基準で評価を行った。
-評価基準-
AA:鉛筆硬度がHB以上
A:鉛筆硬度が2B以上B以下
C:鉛筆硬度が3B以下
【0076】
(耐擦り傷性)
摩擦堅牢度試験機(DAIEI KAGAKU SEIKI社製)を用いて、JIS L 0849に準拠した染色堅牢度試験用添付白布を用い、塗装体の塗膜表面に1kgの荷重をかけて、10回往復させた。10回往復後、塗面を流水で洗浄し、自然乾燥後、塗膜のツヤを目視にて観察し、以下の評価基準で評価した。
AA:ツヤに変化なし
A:極わずかにツヤビケ
C:著しいツヤビケ
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
表4から6に示すように、本発明の塗料組成物を用いた実施例1から実施例14の塗膜は、耐擦り傷性、塗膜硬度及び耐薬品性に優れるものであった。
数平均分子量当たりの総水酸基数が、1.1から1.4の範囲である樹脂溶液T13、T14を用いた比較例1、2は、耐擦り傷性と塗膜硬度の両方に劣った。
数平均分子量当たりの総水酸基数が、6.4から7.5の範囲である樹脂溶液T15からT20を用いた比較例3から8は、耐薬品性に劣った。
また、数平均分子当たりの総水酸基数が0である樹脂溶液T21を用いた比較例9は、耐擦り傷性と塗膜硬度の両方で劣った。
さらに、架橋剤であるメラミン樹脂を含有しない比較例10は、耐薬品性、耐擦り傷性及び塗膜硬度で劣った。